○河野正君 私は、日本社会党を代表いたしまして、ただいま
議題となりました
政府提出、
国民年金法の一部を
改正する
法律案外四件について、反対の討論を行なわんとするものであります。(
拍手)
今日の日本の政治の実態は、経済が成長し、国民の所得が増大すれば、国民の間の所得格差がだんだん縮小していくという、池田総理の施政構想に基礎を置く模様であります。しかしながら、それはものの一面であって、ものの両面を見る正しい構想ではないのであります。特にわが国の労働力の流動は、きわめて困難であります。終身雇用制、年功序列型の賃金制度、特殊な退職手当制度、企業別の労働組合、世界無比の大きな賃金格差、その上に、かてて加えて
住宅難等々、流動をはばむあらゆる悪条件が重なっておるのであります。しかるに、そういった悪条件というものを打ち破ろうとする努力というものが全く行なわれておらないのが今日の実情であります。一方におきましては、極貧層に近いボーダー・ライン層、すなわち、準要保護世帯に属します人々というものは、厚生省の
調査によりましても決して減少をしておらないのであります。従って、池田
内閣がこのような半面と積極的に取り組まない限り、いわゆる所得倍増計画も貧乏の追放には何ら役立つものではないのであります。御承知のごとく、池田総理は、口を開けば社会保障の最優先を強調して参られました。このことは、かつての、貧乏人は麦飯を食えと言った、いわゆる麦飯論と対照的であった言葉だけに、国民は非常に大きな期待を持ったのであります。しかるに、所得倍増計画が進展するにつれて、その一枚看板の社会保障はだんだんと精彩を欠き、大きく後退をして、国民に大きな失望を与えて参りましたことも御案内の通りであります。(
拍手)すなわち、池田総理は、「私はうそは言いません」といううそを言ったわけであります。
昭和三十四年第三十一回
国会において成立を見ました
さきの福祉
年金は、きわめて不十分で、給付条件に相当の不合理や欠陥はあったといたしましても、今まで
年金制度に
関係のなかった老人や母子家庭、あるいは障害者にそれぞれ
年金が支給され、これらの暗い谷間の生活の人々に明るい光明を与えたことは、一つの前進であったと思います。と同時に、このことは、自民党
内閣より先に
国民年金法を
国会に
提出し、今日生まれた無
拠出年金制度の発足の推進力となったわが社会党の功を多としなければならぬと思います。(
拍手)これに反して、
拠出年金制度たる
現行法は、はなはだしく不十分であるのみならず、その組み立てにきわめて大きな不合理を持っておるのであります。すなわち、文字通り社会保障の形態をとったわが社会党案との対比の中でも、数多くの欠陥と矛盾と不合理を暴露するものであったのであります。従って、社会保障と呼ぶにはおよそ縁遠く、むしろ、市井の営利保険的な性格を強く暴露しておったのであります。(
拍手)すなわち、今回の
改正案は、
現行法の持つ本質的欠陥の
改善には全く目をおおい、こそく的手段を講ずることによって国民の不平と不満を糊塗しようとするものであって、これは偽善もはなはだしいといわなければならぬのであります。御承知のごとく、憲法第二十五条でも、健康で文化的な生活を保障し、真の社会保障制度を推進する義務を国に与えておるのであります。従って、老人や身体障害者や母子家庭等々の生活上の苦痛をなくし、また、国民の将来の不安を一掃することは、近代国家の政治の信条でなければならぬと思うのであります。
以下、今回の
政府案の中で問題となって参りまする若干の点につきまして論及を試みて参りたいと考えます。
その問題点の第一は、
保険料が貧富の差にかかわりなく一定額であるという点であります。このことは、社会保障の重要な側面である所得再配分の思想に欠くるものとわれわれは断ぜざるを得ないのであります。(
拍手)
第二の問題点は、
年金支給額が全般的にはなはだ少額に失するという点であります。このことは、
さきにも申し上げた憲法第二十五条の精神に合致しないことももちろんであります。国民は、四十年間の長期にわたり
保険料を納め、四十五年後に、現在生活保護を受けている人々と同じ意味の生活が保障されるわけでありまして、全く所得保障の名に値しないことは、これまた論を待たないところであります。(
拍手)経済成長九%を豪語する池田
内閣が、後日、
年金額を改定するというごとき逃げ口上は、われわれの断じて許しがたい点であります。(
拍手)
第三の点といたしましては、受給資格の取得期間がきわめて長く、
老齢年金の開始時期がおそ過ぎるという点であります。特に、生活困窮者で苦労の多い人々こそ、生理的、肉体的にも早く年をとることは皆さん方も御承知の通りであります。しかも、各産業における企業の合理化、オートメーション化が進むにつれて、
生産年令の若年化が必至でございますることも御案内の通りであります。従って、完全な老齢保障を確立するためにも、
老齢年金開始の時期は繰り上げるべきものと私どもは強く主張するのであります。
第四の問題点といたしましては、
現行法の免除制度が
対象者にとってほとんど実効がないという点であります。
政府は、国民の批判に対して隠れみのを使っているのでありますが、この免除は全く無意味のものであります。すなわち、元来免除の持つ意義は、
保険料を納めた場合と同様な効果を持つものでなければならぬのであります。しかるに、
現行法の免除はその効果を持たず、単に
保険料の強制徴収を免除されるという意味を持つのみであります。さらにひどいことは、この免除期間には国庫支出が伴わないという点であります。
保険料の実際納入可能な中間層以上の人々には三分の一の国庫補助があるわけでございまするが、最もこれを必要とする階層の人々には、国庫支出分のこの三分の一の負担というものが全然考慮されておらぬ点であります。社会保障の一つの大きな支柱である
年金に対する国庫支出というものは、所得再配分の性格を持つべきであるにもかかわりませず、これらの事実は、その精神を著しくじゅうりんするものと断ぜざるを得ないのであります。(
拍手)
次に、第五の問題点といたしましては、積立金運用の
規定が明確を欠き、さらに貨幣価値の変動に対しまする処置、すなわち、スライド
規定がきわめてあいまいであるという点であります。特に、戦後インフレの苦い経験を持つ国民は、
現行法のごときあいまいなスライド
規定のもとでは安心をして
拠出年金制に協力できないということは、むしろ私は当然だといわざるを得ないのであります。なお、積立金の被保険者
団体に対しまする還元がきわめて少なく、
資金の大部分が依然として大資本、特に軍需に向けられることは、国民を愚弄するもはなはだしいと断ぜざるを得ないのであります。(
拍手)
最後に、いま一点指摘を申し上げておきたいと思いまする点は、通算制の問題であります。すなわち、
政府は、今回、通算
年金通則法、
通算年金制度を創設するための
関係法律の一部を
改正する
法律案を
提出してこの問題の解決をはからんと企図いたしておりまするが、しかしながら、この
改正点も、途中職業転換を余儀なくせしめられました人々には、はなはだしく不利を招いておる点を私どもは見のがしてはならぬのであります。自民党は、
さきに、「国民はすべて二等列車で」と公約をいたしました。国民はこのことを喜び、大いに期待し、二等切符で二等車に乗車したのでありますが、乗ってみれば、あにはからんや、二等列車とは名のみでありまして、依然として、看板を塗りかえただけの三等列車であったのであります。国民を欺くこと、とれ自民党
政府の常套手段とも私は断ぜざるを得ないのであります。(
拍手)
およそ、社会保障を一度でも口にする政党政治家というものは、現状を打開し、その飛躍的な前進をはからなければ政治を担当する資格がないものと私は考えます。
政府は、世の中の批判に押され、また、功を急ぐのあまり、国民の納得を得ぬまま
本法を強引に押し切らんとするならば、今後、さらに強大な国民の批判をこうむるであろうということを、私は特に申し添えたいと思います。国民は決して盲目ではないからであります。真の社会保障たる
年金制度は、真に国民のためのものであり、国民を欺瞞し、瞞着し、あるいは選挙目当ての
年金であっては断じてならぬのであります。
以上のごとく、私は、ここに問題の数点を強く御指摘申し上げ、同時に、強く
政府の反省を促し、私の反対討論といたす次第であります。(
拍手)