○川村継義君 私は、ただいま提案の
理由の
趣旨説明がありました
災害対策基本法案につきまして、日本
社会党を代表いたしまして若干の
質疑をいたしたいと思います。
国土の保全をはかり、
国民の
生命、身体及び財産を
災害から保護することは、言うまでもなく、国政の使命であり、
責任であろうと思います。しかし、これまでの
災害対策のあり方を見るとき、歴代の内閣は真に政治の
責任と使命を遂行してきておるとは思えないのであります。現に数多くの
災害関連法が
実施されていますが、何ら抜本的な
対策はついに見られないで今日にきているのであります。
防災に対する
政府の
財政施策の
欠陥、熱意の欠除が、現在、
災害による
被害の減少どころか、年々新しい態様の人為的
災害として、その
被害度と
被害額を増大させているのであります。近年の
災害の特色をなしているといわれておりますダム
災害、地盤沈下による高潮
災害、地すべり
災害は、すべてこのことを如実に物語っております。わが党が、ダム洪水の
被害を防止するために強力な管理規制の必要と、もし不幸にして
発生したその
被害に対しては賠償の
責任を明らかにするように要求しても、あるいはビル用水、工業用水の規制
措置を含む地盤沈下防止
法案を提出しても、何ら一顧だに与えなかった自民党
政府の
災害対策に対する怠慢がこの結果をもたらしているのであります。(
拍手)これは
政府の
責任であります。
総理はこの事実をどうお考えになっているのか、まず、その
所見を聞きたいと思うのであります。
私が、第二に重点としてお伺いしたいことは、
防災の
責任はだれであるか、
施策の
責任はだれがとるべきかということであります。
災害を
未然に防止し、不幸、
災害の
発生を見たときは、
被害の拡大を防ぎ、
災害の復旧をはかることはもちろん、
国家機関、
地域団体及び住民それぞれの分担において、有機的に一体となってその責務を遂行せねばならないことは当然であろうかと思うのでありますが、暴風、豪雨等の異常なる自然
災害は、個人のあやまちや一つの
地域団体の過失によるものではありません。従って、一切の
防災施策、それに必要な
財政措置は、国がその全
責任を負うて、
国土の保全、民生の安定をはかるべきであろうかと思うのであります。それこそ近代政治の使命なりと考えるのでありますが、
総理の
見解いかがでありましょうか。「
国民の富や生活が
台風によって、毎年きまって破壊されておるとすれば、
台風こそ日本
国民の今日の外敵だと見ることができるだろう。
国民の税金も、
国民の知識も技術も、その労働も、
台風や
地震その他あらゆる自然の脅威との戦いにつぎ込んでいくのが立国の建前だといっても少しも差しつかえはあるまい。」これは三十四年の八月十六日、「
台風という外敵への備え」という朝日の社説の要点であります。また、同年の九月三十日に産経は、「
台風禍は政治の貧困——選挙と切り離して真剣に取り組め」と、次のようにその社説において警告いたしております。「金がないで済ませることだろうか。またほんとうに金がないのか。問題は金に帰着するが、それだけにかえって活路は見出しやすいのではないか。
災害にあたって初めてわかる
治山治水のありがたみは選挙民の心をとらえにくいというような
理由で
抜本的対策を怠っているとすれば、罪はあげて政治家にある。」このように、われわれは、大
災害のたびに、
災害に対する政治のあり方、その
対策について真剣な世論を聞いてきておりますが、政治ははたしてこれにこたえているでありましょうか。
この
基本法によりますと、国政の負うべき
責任がまことに希薄であります。特に、
財政負担においてそのことが指摘されねばなりません。第三条(国の責務)、第一項に、「
災害に係る
経費負担の適正化を図る責務を有する。」と述べているだけで、
現行制度の
負担区分を一段と前進させ、国の
責任を十分にしようとする考えは全く見受けられないのであります。
基本法たるの建前からするならば、最も重要な位置づけをせねばならないと思われる
災害復旧を初め、各般の
防災政策について、
財政上の国庫
負担をぼかしていることであります。たとえば、
災害復旧事業費の
決定にあたっては、再度
災害の防止のため、復旧
事業とあわせて施行することが必要な新設または改良
事業費の
決定は、当然、国は必要にして十分な
事業費を基礎としてきめねばならないのであります。きめるべきであります。これは連年の
災害が教えているところであります、それなのに、「
配慮をしなければならない。」と、まことに態度あいまい、無
責任な
制定をしようといたしているのであります。また、
災害応急対策として
実施される
市町村の
応急措置が、府県知事の指示によって
実施に移された場合、そのときに要した
経費であって、
市町村に
負担させることが不適当なものについては、「
都道府県がその全部又は一部を
負担する。」と、これは明確にいたしているのでありますが、
非常災害対策本部長の指示、または
緊急災害対策本部長の指示によって
実施された
災害応急対策あるいは
応急措置のために要した
経費については、たとえ
地方公共団体に
負担きせることが不適当であっても、「国が
負担する」と明確にすることを避けて、「補助することができる。」と、その
財政負担の
責任を回避しているのであります。これは一体どういうことか、その
見解を明らかにしてもらいたいと思います。
その他、国の
財政的無
責任さは、法文の各所に露呈いたしております。すなわち、当然「国が
負担する」「補助する」と明記すべきことを、「
負担することができる」とか、「補助することができる」とか、「努力せねばならない」「努めねばならない」「十分な
配慮をするものとする」といった態度であります。これは、従来と何ら変わらない
責任回避に終始する思想であって、言うならば、この
法案は、その
制定の
根本においてすでに
基本法たるの価値を喪失しているといわねばなりません。(
拍手)
総理が、もしこの
基本法案にして、
現行制度と比べ抜本的にすぐれている、改善され、進歩している、これこれの
責任はとるのだと指摘できるものがありましたら、
現行法と比較例をあげて、明確にお示し願いたいのであります。(
拍手)
さらに、
地方公共団体に対しては、
災害対策に要する臨時的
経費に充てるため、「
災害対策基金を積み立てなければならない。」と
義務づけようといたしているのでありますが、国は、
災害の
発生に対処するため、一体いかなる
財政措置をとろうとするのか、従来
通り予算補正の
方法を踏襲するのか、あるいは
基本法制定を機として、
財政法上何らか別途の
措置を考えているのかどうか、明確にお答えいただきたい。
次に伺いたいのは、過去幾多の
激甚災害によって、その
地域住民個々に受けた直接間接の
被害ははかり知れないものがあります。
被災者個々に対する国の救済、援護の
措置は、
現行制度上はまことに手薄であります。たび重なる
天災を経験する
国民が、個人
被害に対する国の援護
施策を強く要望していることは、とくと御承知の
通りであります。わが党は、弔慰金、見舞金の
制度、医療費の国庫
負担、
災害立ち上がり資金援助等を
内容とする
罹災者援護
法案を用意して、その実現をはかっているのでありますが、これについて
政府はいかなる
見解を持っておられるのか、国の
財政負担はまかりならぬというのであるか、その
見解をお聞きしたい。提案されているこの
法案には、ほんの一言、特別の助成
措置を講ずるものとするとうたっているが、真にその
施策の用意があるのかどうか、あるとするならば、いかなる
内容のものなのか、お答え願いたい。
以上、第二の問題の
諸点については、大蔵
大臣の答弁もあわせてお願いいたしたいと思います。
お伺いいたしたい第三の問題は、
法案の性格についてであります。
法案は、
総理府に
中央防災会議、
地方には
地方防災会議を設置し、
災害発生時には、
災害対策本部、
中央に
非常災害対策本部を設ける等の
組織といたしております。その
組織、運営は有機的に組み立てられているかに見えます。また、所管事務も一応整理されているようでありますが、これをもって
災害対策基本法だと称するには、おこがましい限りではないかと思うのであります。これをもって
災害対策成れりと考えるならば、
国民の待望する抜本的
災害対策を全くごまかしているといわねばなりません。この程度のことなら、
政府の熱意によって
現行法の
運用徹底そのよろしきを得れば、この
基本法の
制定必ずしも必要としないでありましょう。この
基本法案は、あえて言うならば、各
関係所管
各省の顔色をうかがいながら、
現行法を体裁よく寄せ集めてみたにすぎないと言えるからであります。
防災活動の
組織、運営の
規定整備だけで
災害対策の推進が期せられるものとはならないでありましょう。率直に言うならば、第三十五条にいう
防災業務計画、
地域防災計画の
重点事項として列記しているもの、その
事項について
計画の
内容となるべき基準を示して、初めて
基本法たるに値するのではないでしょうか。
以上に対する御
見解をお聞きしたいのであります。(
拍手)
災害復旧対策について見ても、
昭和二十八年災、狩野川
台風、
伊勢湾台風等相次ぐ
激甚災害については、そのつど臨時法を
制定し、
災害復旧に対処したのでありますが、そのような
措置は、復旧の時期をおくらせ、
被害地
被災者を救済援護する目的を失う結果に陥りかねないものであります。従って、それら
災害の復旧に対しては、臨時
立法にかえて恒久法とすべきであるとは、すでに世論となっております。それらの
措置について、必要最高の基準、
財政支出等を
規定することこそが、また
基本法の重要な
内容をなすものでなければならないと思うのでありますが、忘却されております。第九十八条の
規定はその価値を認めることができません。一体
政府は何と考えているのか、
激甚災害に対処するに恒久法を
制定する決意があるのかどうか、はっきりしてもらいたいのであります。
この
基本法案は、
災害対策の
組織、運営の調整を唯一のものとして立案したにすぎません。しかも、その運営
計画は、著しく
中央の監督、指示のもとにやらせようといたしております。裏返しに考えるならば、
防災の
責任は
地方住民で持て、
地方公共団体で持て、しかし、
計画は
中央の指示に従うべし、
防災活動は
中央の命に従うべしとする官僚支配の理念によって、最もあくどい官僚性の上に立案されているのであります。その
根本理念には
責任を回避しているのであります。いかに美辞をもってつづられた
災害対策でも、全く住民の意思を無視し、官僚機構の中で運営するものは、
防災の実効を上げることはできません。この
法案は、そのほとんどの条章が、
組織、運営の
規定によって埋められております。
基本法たるの
内容、性格は、すでに指摘いたしましたように、それでいいのか疑わざるを得ません。私は、この
法案は、
防災対策の
組織及び運営に関する
法律案とでも名称を変更することが、最も妥当な
内容、性格であると考えるのであります。基本性格を取り違えてしまった
災害基本法であると思うのであります。(
拍手)
以上の
諸点について、
総理並びに
自治大臣の
見解を承っておきたいと思うのであります。
池田
総理は、さきに米大統領ケネディ氏と会談をされた際に、今秋予想される国際危機説を十分拝聴されたそうであります。その会談の成果に基づいて国内政治
体制の強化方針となり、世にいう自民党内実力者内閣が組閣されたと評価されているのでありますが、池田内閣の
経済政策も黒星が大きいし、表面はともかく、
総理も自信のほどが動揺しているかに見受けられます。生活
物資の値上がりによる生活の不安をはだに感じている
国民大衆は、国際情勢緊迫の中に、池田内閣の外交、内政に大きな不満と危惧を抱いております。この際、せめて
災害対策なりと抜本的に善政を施してもらいたいと希望する者は、私だけではないだろうと思います。
そこで確かめておきたいことは、第二条に定義する
災害の爆発とは、具体的に何をさすかということであります。火山、火薬工場等の爆発事故のほか、大気圏から投下され得る物質による爆発も想定しているのか。国際緊張緩和の見通しが立たない世界情勢の中に、
わが国は新安保条約の締約国であります。もし不幸にして平和の願いをじゅうりんする非常識な力の激突が起こった場合、
わが国の置かれる
立場は戦慄を覚ゆるものがあります。しかし、池田内閣は、あえてそのときに対処するための臨戦
体制の
整備を用意しようとしているのではないかという杞憂をあちこちに生んでいるからであります。なぜならば、本
基本法案には、戦時中の
国家総動員
体制の姿が浮かび上がってくるからであります。すなわち、総則にいう
防災責務の
規定、上級
防災会議から下級
防災会議への
指示権、
非常災害対策本部長の
指示権、
災害対策本部長たる知事が公安
委員会を差しおいての直接府県警察に対する
指示権など、警察法も
教育委員会法も無視して、一糸乱れざるがごとく、
中央から
地方へ、上から下へ統制力を強化した
規定を持っているからであります。特に、第八章
災害緊急事態の
措置、その他
防災訓練の
義務規定、住民に対する罰則の
制定等、数多く例示することができます。
国民が一体となって
災害に対処する
体制、そのことは否定いたしませんが、治安
立法的行き過ぎは厳に戒めねばなりません。治安
維持的政策が強化され、それが先行すれば、
国民の不安をかき立てるだけで、
災害立法としては百害あって一利なしといわねばなりません。(
拍手)真意はそこまであるのかどうか、爆発による
災害とは何か、明確な答えを賜わりたいのであります。
最後に要望したいことは、この
基本法案を撤回し、さらにその
内容、性格に良識を集めて再検討し、次の
国会に提出するお考えはないかということであります。すでに指摘いたしましたように、
防災対策の
組織、運営を
整備強化するだけでは、
災害対策基本法に値しないと思います。
国土の保全をはかり、
国民の
生命と身体、財産を守るために、積極的に
財政的政治
責任を明確にし、
基本法規としての
内容、性格でなければならないと考えるものであります。
私は、以上二、三点をお尋ねいたしましたが、誠意を持って
政府の再考を要求して、私の
質問を終わります。(
拍手)
〔
国務大臣池田勇人君
登壇〕