○多賀谷
委員 私は、
産炭地域振興臨時措置法案について、日本社会党を代表し、賛成の討論をせんとするものであります。
今、
わが国の政治の最大の課題は、
雇用の問題であります。
雇用の問題は、二つの面があります。
一つは質の問題であり、他の
一つは量の問題であります。質の問題は、高度成長の今日なお、世帯主が働いていても
生活保護法の適用を受けなければならないほどの低
賃金の問題であります。量の問題は、近年、異常な経済成長の伸びと技術革新による
雇用構造の変化によって、若い
労働者が不足し、ことに新期中学卒には三倍の求人があり、高校卒には二倍の求人がありますが、
中高年層の
就職はきわめて至難であります。また、労働市場における地域的な殺到率、すなわち求職者数と求人数との
関係を見ると、
昭和三十六年一月、九州全体として三・五倍、東北三・〇倍、ところが京浜
需要地は〇・四五、近畿
需要地は同じく〇・四五、東海
需要地は〇・二三でありまして、地域的な
雇用状態のアンバランスの是正が最も緊要であります。
今日における量の
雇用問題は、
中高年層の
就職問題と部分的、局地的な労働力過剰地域の解消の問題であります。最近、経済企画庁の発表によりますと、失業者が多数発生し、慢性不況地域と
考えられておるものは、北からあげますと、夕張地区、函館地区、常磐、横須賀、舞鶴、御坊、呉、宇部小野田、北九州、大牟田荒尾、佐賀、佐世保松浦、鹿児島の十三地区であります。鹿児局の未開発地域を除けば、他はみなすでに開発された地域であります。その大部分はかつて軍港として栄え、戦後駐留軍がいて、それが引き揚げた地区
石炭のみに依存していた、いわゆる産炭地域であります。そこには鉄道、電鉄が敷設され、水道があり、病院があり、
住宅があり、町はりっぱに形成しておるけれども、歩いている人々の多くが失業者であるという地域であります。この地域は、未開発地域の、白い地図に新しく塗るような開発とは異なり、古い地図を新しく塗りかえるような再開発でありまして、きわめて困難な作業であり、しかも
現実に多数の失業者がいるのでありますから、きわめて緊急を要する問題であります。
西ヨーロッパ並びにアメリカにおいても、第二次世界大戦後の失業問題の最重点は、この局地的失業問題すなわち慢性的労働力過剰地域の
対策ありました。英国は一九三〇年代に
石炭、造船、鉄鋼が不況に悩んだとき、単一
産業地帯を多角的
産業地域に編成するために、一九三四年、特別地域開発及び改善法を制定し、一九三六年に特別地域再建協定法が制定され、さらに第二次世界大戦後、一九四五年の工業配置法、一九四七年の都市農村計画法、一九五〇年には一九三七年法の改正等の一連の立法で再開発が進められ、そして一九四五年から五〇年までに設立された新工場の過半数は、開発指定地域において行なわれておるのであります。
炭鉱離職者の多い地域には二十年計画で広大なニュー・タウンが建設せられ、ニューキャッスルに近いピーターレーの例では、これらに吸収される
炭鉱労働者は、
家族の婦人
労働者にも職業の機会が与えられ、世帯当たりの所得が、失業前の収入より一・五割から三割高の所得水準が保障されているのであります。
フランスにおいては、同国の三分の一の経済力がパリに集中しており、
政府は、地方に工業力を持たす
関係上、地方分散計画を
考え、この
産業転換計画の
中心を
石炭再編成に置き、閉鎖
炭鉱の多い中央部、南部の工業造成を積極的に行なっておるのであります。
ベルギーにおいても、閉鎖した南部炭田に
政府が土地を賢い、運河を開いて、アルミ、ビール、医薬品等の
産業誘致を進めているのであります。
西
ドイツでは、労働力過剰地域を救済地域と指定し、開発の努力をしているのであります。
また、アメリカにおいては、慢性的失業地域が非常に問題になり、御存じのように、慢性不況地域件開発法が制定され、ニュー・フロンティア精神を標榜するケネディ大統領は、この慢性不況地域再開発に対し大幅な
財政措置を講ずることを公約しているのであります。
私たちがこの慢性不況地域再開発のための立法と
財政措置を
政府に
要求してから、すでに七、八年
経過いたすのであります。私は、産炭地域振興法は、慢性不況地域再開発ともいうべき大きな目標と使命を持って、また、将来慢性
石炭不況地域再開発法ともいうべきものに吸収されるものとして、その最初のモデル・ケース的な立法であると理解するものであります。しかし、それには
政府案はあまりに内容がお粗末であって、全く長い閥渇望していた産炭地域住民に失望を与えるものであります。しかも予算はわずかに三千万円、
政府は、一体この
程度の法案と予算でこのきわめて困難な再開発ができると実際お
考えになってるかどうか。死の谷、飢餓の谷、地獄谷といわれる地域が真に救済されると
考えられておるか。この案は、率直にに言うならば、事務当局にまかせて、今まで政治家が無関心であったという証左である。これは
政府並びに与党は十分反省をする必要があると思うのであります。羊頭を掲げて狗肉を売るというのは、この法律のことであります。
低開発地域振興法案にしても、しかりであります。各国の地域経済
政策が、所得の地域格差の是正を唱え、集中から工場分散計画を行なっておるとき、ひとり
わが国のみが古典的な自由資本主義に固執し、やがて動脈硬化の経済体制に追いやろうとしております。工場は原料地生産から
需要地生産に変わり、大
需要地に
現実に集まりつつある。ことに石油、鉄鉱石、原料炭等の原料を遠く外国から求めることになれば、輸送費はどこの地点でも変わりません。工場は自然消費地に建設されることになるのであります。ここに、国として工場配置の計画と強力な
財政措置が
要求されるゆえんがあるのであります。
英国の立法を見てごらんなさい。工業配置法にしても、地方犀川法にしても、ともに不況地域に工場を建設しようとする者に対し、工業用地は
政府において確保し、無償または減額して貸付または譲渡しておるのであります。しかも、建物の建築まで補助金を出しており、工業用不動産経営公団を作ってその振興をはかっておるのであります。
フランスにおいて現在提案されておるのは、
産業の再編成について
産業転換開発事務局を設け、難業基金を運用し、地域開発に役立つ工場に対して資本参加をするというのであります。すなわち、
産業転換開発事務局が出資をして、利子の要らない金を会社に使わし、会社が国の援助を必要としなくなったときは、その持ち分の株をその投資会社に売却することにしておるのであります。かような強力な援助がなければ地域開発は困難であります。
わが国においても、東北振興のために東北振興株式会社が設立され、今日までみずから二十数工場を経営し、九十九の会社に投資をしておるのであります。私は、この
制度を集中的に行なうならば、非常な成果を期待することができると
考えるのであります。また、特定
産業育成のためには、
政府はしばしばその例をとっておるのであります。石油資源開発株式会社、電源開発株式会社はもちろん、日本合成ゴム株式会社におきましても、合成ゴムが天然ゴムに対抗するために、量産体制のできるまで
政府は出資し、量産体制が確立し、コストが低下し、採算がとれると
政府株を放出する
方式で運営されておるのであります。ゆえに、産炭地域の振興につきましても、産炭地域振興公団または事業団を設けて、土地の確保、関連施設の整備、また、みずから犀川を拡大する事業を経営し、または各企業に投資し助成する等の
措置を講ずる機関を確立しなければ、たとえ地方税の減免、減価償却の特例
措置を行なっても、単なる
審議会の調査法案に堕し、単なるぺ-パー・プランに終わることを私は憂慮するものであります。
政府が真に産炭地域の振興をはからんとするならば、可能性は十分あると私は信じ、次のことを提唱いたしたい。たとえば、現在最も悲惨な状態にある筑豊炭田における再開発について述べるならば、第一に、筑豊炭田は御承知のように、日本一の製鉄所が近接しておるのであります。その鋼材を利用し、最も
雇用吸収度の高い、しかも成長率の商い機械
産業の振興を最重点的に行なう。それには、現在直方の鉄工場を
炭鉱機械
中心から鉄鋼機械、化学機械、輸送機械に
転換を行なうならば、できる。第二に、産炭地発冠の建設、これはすでに御存じのように、非常に問題になっておるのでありますが、やはり超高圧線によって
需要地に供給するという
方式がとらるべきでありましょう。さらに、新しい
産業を誘致いたしましても、その
産業に必要な
労働者と過剰
労働者とが必ずしも合致しないことは、御存じの
通りであります。そこで、
炭鉱離職者を多く吸収するためには、この地域における
炭鉱の深部開発が必要であります。その深部開発をするためには、前提条件として鉱区の統合整理が必要であり、かつ、
政府の積極的な財政投融資が必要であります。第四には、工場の誘致には工業用水が必要であります。現在、筑後川の上流においては二十五億トン、下流において三十七億トンの水量が、わずか一割しか利用されていないのであって、水資源の総合的な
施策が行なわれるならば、これもまた工業用水の確保ができると思います。かくすることによって初めて新しい町作りができ、失業地帯の解消ができるのであって、アメリカのTVAのごとき熱血と構想をもって行うべきであると思うのであります。
今日、各党においても、
石炭対策確立のためにおのおの機関が設けられ、本院においても
石炭対笹竹別
委員会が設置され
政府においても
石炭関係閣僚会議が設けられ、しかも、先般、
通産大臣、
労働大臣、大蔵大臣の三大臣が現地に派遣せられ、自治大臣も近く筑豊に行かれることになっておりますが、
政府も与野党も、国民の要望にこたえるために、今真剣に
炭鉱労働者の
雇用安定、総合エネルギー
対策の確立、産炭地域の振興に取っ組んでおるのでありまして、私は、この
対策が樹立されるならば、産炭地域振興法案も、次期通常
国会においては、想を新たにした画期的な法案に改正されることを望んでやまない次第であります。本法案が将来真に実を結ぶ法案に成長いたしますよう祈念をて本法案に対して賛成の討論を行なうものであります。(拍手)