○太田垣
参考人 電気事業連合会の太田垣でございます。
今日、
石炭対策の問題が、重要な
自由化を前にいたしまして、あらためて大きく取り上げられて、
政府御当局並びに議会になどにおきまして
石炭産業の
合理化なり、その保護
政策につきましていろいろと
対策が研究せられておるわけでございますが、この際、われわれといたしましてまずお願いしておきたいことは、
石炭対策が
検討される場合には、
石炭は
電力、
石油など、他の
エネルギーと相互に関連するところがきわめて密接でございますので、この問題を、ひとり
石炭対策としてだけではなく、広く
エネルギー政策の一環として、総合的な見地から取り上げていただきたいということでございます。そしてまた、
対策の樹立にあたりましては、単に一時的な見通しや問題の所在によって左右されるようなことなく、相当の長期にわたる見通しの上に立って、
国民経済上最も合理的な
石炭産業の
あり方とその発展をはかり得るような、長い、いわゆる百年の大計としていただきたい、こう
考えるのでございます。
私
ども電気事業者は、最近の非常な
電力需要の増加に対処いたしまして、電源開発計画を繰り上げ、極力
供給力の確保に努めておりますが、その開発に伴いまして、御存じのように、火力発電用の燃料の
石炭や
重油の
消費量も逐年大きく増加しておる現状でございます。従いまして、われわれは、
電力原価を引き
下げます
一つの大きな手段といたしまして、原価の中に現在でも二〇%を占め、将来さらに飛躍的に増加すると予想されます燃料費の節減のために・この発電用燃料
消費の
経済性を高めるということにいろいろと
努力をいたしておるのでございますが、何と申しましても、発電用燃料としては、目下
重油の力が
石炭に比べて
価格も安く、また発電所の建設費や運転費の点でも約二割も
経済的であるのでございます。従いまして、現在でも相当量の
重油を使用いたしておりますし、今後も
重油専焼火力を積極的に建設する計画でおります。このように、安い
重油を使いたいというのは、電気事業が私
企業としてその
経済性をさらに高めたいと思うからにほかならないのでありまして、また、このような能率経営によってこそ、電気事業が
エネルギー・コストの低下を通じて
国民経済の発展に寄与し得るものであると、われわれは確信しておる次第でございます。
しかしながら、これに対しまして、
エネルギー資源の
供給の安定性あるいはセキュリティというような意味から、
石油が安いからといって急激に発電用燃料を
石炭から
石油に切りかえていった場合、将来、もし事ある際には、
石油の輸入が途絶して
電力供給に支障を来たすのではないか、この面からも、
国内資源である
石炭の使用を考慮すべであるというようなことがいわれておりますが、この京につきましては、現在電気事業では、その発電量の八割近くは
国内資源である水力と
石炭によってまかなわれておりまして、十年後においても、その割合は約六割にしかならない見通しでございます。このように、電気事業では、海外資源の依存度は他
産業に比べて低いものでありまして、その
程度の依存度であれば、さほど問題ではないと
考えておりますし、また、将来は
石油にのみ依存するのではなくて、原子力発電の開発というものも真剣に目下計画し、その準備を進めておるのでございます。しかしながら、一方、貴重な
国内資源であります
石炭産業の将来を
考え、また、大きく国家的の見地に立って今後の
わが国経済の合理的な発展を
考えますならば、電気事業といたしましても、
経済的には多少の犠牲を払っても
石炭対策に協力を惜しんではならないと思っております。この趣旨から、去る六月、経団連のごあっせんによりまして、
石炭業界との間に長期安定取引の申し合わせをいたしたのであります。
御
承知のように、この申し合わせば、三十八年までに炭価の千二百円引き
下げを
前提といたしまして、電気事業といたしましては、三十八
年度千八百万トン、四十二
年度に二千万トンの
石炭を引き取ることを約束いたしたのであります。これに対して、
石炭業界は責任を持って
供給を確保するとともに、三十八
年度における
重油ボイラー規制法の廃止、低廉な
石油の使用については両
業界は協力するということになっておるのでございます。この長期取引契約は、ひとえに国内炭の
需要を長期的に安定させ、当面の
石炭産業か
合理化の促進を待とうとするのが眼目でございまして、われわれは、
石炭の
需要確保
対策あるいは資金助成策など、いろいろと
考えられる
石炭対策というものは、すべて
エネルギー消費の自由選択、ひいては
産業界全体における
経済原則を貫徹させるための準備的あるいは過渡的
措置であるべきだと
考えておるのでございます。
石炭対策といたしましては、あくまでも
重油に対抗し得る
石炭価格を目標として
石炭産業の
合理化を徹底的に推し進めるのが本筋でございまして、このためには、現在
考えられておりますビルド・アンド・スクラップの強化、離職者の救済、運賃補助などの
合理化対策は大いに推進していただきたいと思うのでございます。そして、このような
合理化によりまして将来炭価がさらに引き
下げられ、
経済べースに乗るようになれば、われわれといたしましても、長期取引で申し合わせた数量以上に
石炭を使用するに決してやぶさかなものではないのでございます。
以上のように、われわれは
石炭の
需要確保について自主的に協力して参ったのでございまするが、先般
エネルギー懇談会の中間報告が発表されまして、これによりますと、
石油の
自由化が繰り上げられたことに伴って
石炭の
需要が減退し、昭和三十九
年度において北
九州に三百万トンの過剰炭が発生するという見通しから、その消化策といたしまして、いわゆる産
炭地発電を行なって、その
電力を超高圧電線によって遠隔の
消費地に長距離送電するというA案と、さらに一方、産
炭地ではなしに、揚地である阪神地区に
石炭発電所を建設するというB案の二つの
対策が、二者択一の形で取りしげられたのでありますが、現在の
情勢ではA案につきましては、その
経済性から見て実際性に乏しいとして、むしろB案の
考え方が
現実的であると
考えられておるようであります。これらにつきましては、電気事業としての
考えをさらに申し上げてみたいと存じます。
まず、過剰炭が発生するという
前提についてでございまするが、これにつきましては、先に申し上げました長期取引契約によりまして、
電力のほか、鉄鋼、ガス、セメントの
石炭大口
消費産業の引取量を合わせますと、全
需要の約七割が確保されたことになっており、
自由化が繰り上げられたからといって、その他の
需要が急激に減少するとは
考えられないのであります。また、過剰炭の発生ということが、かりに五千五百万トン・ベース以上の増産を
考えた上での話であれば、これはもちろん論外であります。むしろ、今日のところでは
石炭需給は相当逼迫しておりまして、数十万トンの
石炭輸入が必要であるとさえ
考えられているのが
実情でございます。事実
電力会社におきましても、今
年度の上期におきましては、
石炭の納入量は契約量に比べまして約一割毛不足する状況でありまして、各社とも
石炭確保に奔走しているのが現状でございます。この状態はまだ当分続くのではなかろうかと
考えております。このような
石炭不足の
原因は、おもに
炭鉱のスト、
閉山、倒産などによるものでありまするが、
石炭合理化の進展と今後の
石炭労働
情勢などからして、このようなことは今後と毛あり得ないことではないと思うのであります。いずれにいたしましても、今日のこのような状況から見まして、わずか数年後において
石炭の
供給が過剰になるという
前提を立てることは、相当
考えなければならないのではなかろうかと存じます。ここ一、二年の
石炭需要の推移を見てから
対策を立てても、決しておそくはなかろうと
考えるのでございます。また、
九州地区の
石炭需要を見ましても、
電力用炭だけでも今後毎年数十万トンの増加が予想されるほか、産
炭地周辺の他の一般
産業にあっても、鉄鋼その他、今後とも
石炭需要がふえることも
考えられまするので、かりに過剰炭が発生するといたしましても、それは一時的な現象にすぎず、将来とも
需要不足であるということは、簡単には予測できないのではなかろうかと存じます。
一方、ひるがえりまして、将来の
石炭の
供給力を
考えました場合、
石炭の人員
整理が進捗していく過程で、最近すでに中堅労働者の減少が目立っており、機械化や技術進歩があっても、人員の面から、将来五千百万トンの出炭予定量を確保することが困難になるのではないかという不安を私
どもは感じておるのでございます。
われわれといたしましては、
石炭需要の見通しについては以上のように
考えているわけでございまするが、かりに、一瞬的にしろ過剰炭が発生するものといたしまして、その
対策を
考えまする場合、さきのA案、すなわち産
炭地発電、長距離送電の方法は、われわれが
検討いたしました範囲におきましても、決して
経済的な方法でないことは明らかなのでございます。そこで、揚地発電所の建設はどうかということになるのでございまするが、まず、一時的な過剰炭を消化するために多顧の国家資金を投入して、少なくとも二十年というような耐用年数の長い
石炭発電所を百万キロワットも建設するということは決して得策ではなく、むしろ
電力会社の現有発電所の稼働率をさらに上げて運転したり、
重油の混焼率をさらに
下げるという方法によって
石炭の
消費量を増加させることを
考える方がむしろ
現実的ではなかろうかと存ずるのでございます。私
どもは、先に申し上げました長期取引の線に沿って、揚地においても
石炭を引き続き使用する見込みであって、これに必要な設備は今後とも保有して参るつもりでおりますし、場合によりましては、若干の新設をも考慮いたしておるのでございます。さきに申し上げましたように、私
どもは、
経済ベースに乗る限りは、現在約束しておる以上の
石炭を使うことも決して
考えないのではございません。まして、それが
国民経済上プラスであるならばなおさらのことでありまして、このように
考えますると、
石炭業界といたしましては、炭価の引き
下げに最重点を置かれて、みずから
需要確保をはかっていただくのが第一ではなかろうかと存じます。また、ある期間それが間に合わなければ、炭価の補助金として国家資金を投入していただく方が、飛電所建設に投入するよりも、
国民経済的に見て合理的であると
考えるのでございます。また、この場合の資金投入額は、私
どもの試算では、発電所建設に比べまして炭価補助金の方が非常に少額で済むということでございます。たとえば、百万キロの発電所の建設費は約五百七十億円でございまするが、炭価補助金は、トン
当たり五百円といたしましても、五年間で七十五億で、財政支出という観点からも有利ではないかと私
どもは
考えております。
以上のように、過剰炭の発生は一時的なものであること、現有設備によって過剰炭を消化することが可能であること、国家資金投入の方法としても、発電所建設よりも炭価補助の方が有利であること、これらの点から、今直ちに揚地発電所を建設することは、
石炭対策といたしましては、決して適切な方法ではないと
考えられるのでございます。さらにまた、もし揚地発電所が雄
炭地振興
事業団の手によって建設され、
運営されるということになりますと、これは
一つの
電力会社の管内に一挙に大規模な発電設備を生ずることになって、
電力系統
運営の円滑化を阻害いたしまして、
電力供給の秩序を乱すことにもなり得るのでございます。
最後に、
重油に対する関税、
消費税について
一言申し上げたいと存じます。
最近、
石炭対策に関連いたしまして、
石油との
価格調整策、あるいは
石炭対策の所要財源といたしまして、特に亜油関税の引き上げや、
消費税の
徴収などについて
考えられている向きもあるようでございますが、私
どもといたしましては、さきの
石炭業界との長期取引の話し合いの際にも、税金のかからない安い
重油を使用するということを
条件とし、二千万トンの
石炭を引き取ることを約束したのでございまして、かような
政策があるとすれば、
業界の意向はすこぶる無視されたものでなかろうかと思うのでございます。かりに
石油に課税いたしましても、従来の例から見まして、実際にはそれがそのまま
石油価格の高騰とはならないということも
考えられますし、まして、この税金を財源として揚地発電所の建設に充てられるようなことがありますれば、それは
価格調整の効果も上からない税金を取って、
エネルギー対策としても不
経済な方法に投資するという
ことになりまして、
国民経済上まことに不合理な財政
政策といわなければならない、こう
考えておるのでございます。
以上、簡単でありますが、電気事業者といたしまして以上、の
意見を申し述べたのでありますが、最後に、私、一
経済人として申し上げたいと思いますことは、今度の
石炭問題というものを
経済全体の立場から
考えてみますると、これは
日本経済にたまたま発生した、いわゆる病気で申しますれば、ガンというほどのものではなくても、相当悪費な腫瘍であるのであります。これは、じんぜん日をむなしくすると、他の
産業にいろいろと波及いたしまして、
日本経済全体の体力を弱めるような結果になりかねないと存ずるのであります。なおかつ、現在のようにああでもなかろう、こうでもなかろうで日を送りますと、おそらく私は自由
経済の本質に汚点を残すようなことがないとも限らないと
考えますので、今日の
段階では、私は、もうこれはよほど思い切って
石炭産業そのものずばりに相当な政治的な御考慮をお願いして、救助の手をお差し伸べになっていただくということが、
経済全体として最も肝要なことではなかろうかと雇えまして、愚見を申し上げた次第であります。
以上、で私の
意見を終わらせていただきます。