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田島参考人 ただいま紹介されました
田島でございます。
放射能の
問題一般について意見を申し述べます。
まず、現在
放射能が、
ソ連の
核爆発再開によりまして、どういう
影響をもたらすであろうかということから
お話をいたします。
放射能の問題を取り扱いますのに、われわれが普通取り扱っておりますのは、一体、
核爆発を起こしましてどのくらいの
降下量があるだろうかということが第一の
推定になりまして、それが
人体にどのくらいの
放射線量を与えるだろうかということを第二番目に
推定いたしまして、それがどのくらいの
人体的な
影響をもたらすだろうかということで全体の
推定量を推量するわけでありますが、
何分にもこの方面の学問は、進歩の段階にありまして、わからないところがたくさんあります。ことに、この
核爆発によって、われわれの受けます
放射線量、個々の個人が受けます
線量がきわめて
——きわめてと申しますか、
医療用その他のものに比較しまして非常に低い、しかも、
放射線を受ける数が非常に多いというような場合に、これをいかに
障害の
程度を
推定するかということは、はなはだ困難な問題であります。
第二番目といたしまして、現在どのくらいの
放射性降下物をわれわれは覚悟しなければいけないだろうかという点であります。これから申しますことは、非常に
仮定の多い話でありますので、その限りにおいて
結論が非常にあいまいでありますけれども、それにもかかわらず、われわれはその
研究の結果を待っているわけにいかないという事情があります。というのは、現在われわれが上から
放射性降下物を受けておりますので、これを完全な
研究ができてから
推定その他をするということは、非常に時期を失するおそれがありますので、あるいは科学的な
立場からいいますと、承認できないといいますか、確かでないような
仮定でも、あえてしなければいけないという苦しい
立場にあります。そのことを十分御承知の上で、私の
お話を聞いていただければ大へんありがたいと思っております。
一九五八年に
核爆発実験を一時的に停止しましたときの
状況を申し上げますと、大体全体で
——その前に、これから
お話しします最も重要な、
核爆発によって
降下いたします
放射性物質は、種々雑多、たくさんございますが、その種々雑多の
一つずつの
核種についてすべてを
推定するということは繁雑でありますので、実際の
障害の
立場から、ジェネラリティと申しますかを失わないで、
幾つかの
核種を取り出して
推定するのがわれわれの常識になっております。その
一つは、
ストロンチウム九〇という点がいろいろな
意味で重要であります。その
理由というのは、
核爆発するときにできる量が非常に多いということ、それから
半減期が、人の
寿命と比較いたしまして、ちょうどわれわれに
工合が悪い。要するに、人の
寿命の
何分の
幾つということになっておりますので、一たんこれを取り入れますと、極端な話をいたしますと、われわれの
からだの中へ取り入れた
放射性ストロンチウム九〇が
放射線を出すのをやめるころわれわれが死ぬというような、ちょうど
工合が悪いような
状況になっております。非常に早い
半減期のものでありますと、これはわれわれの方の
寿命が長ければ比較的には安全でありますが、また、
放射性半減期が非常に長いと、崩壊して
放射線を出す率が少なくなりますので、これまた安全ということになりますので、ちょうど悪い
工合になりますのが
ストロンチウム九〇であります。これが第二の
理由。
第三番目の
理由といたしますと、
ストロンチウム九〇が、
からだの中へ入りまして骨に沈着いたしますので、骨の中の非常に重要な器官を
照射するという
意味で厄介なしろものであります。従って、これは、
障害として注目すべきものは
白血病がその
対象になります。あるいは
骨腫瘍その他骨の病気が
対象になります。
次に問題になりますのは
セシウム一三七でありますが、これは
人間、
生物の中に滞在している
期間は短いものであります。しかし、軟組織に入りまして、遺伝的な
障害を起こすというふうなこともあります。その他もう
一つはプルトニウムが問題になるし、あるいは
降下する時期が早いと、短い
期間の
半減期のものが問題になります。
そこで、
ストロンチウム九〇についてだけ、まず現在の
状況を
お話ししたいと思います。先ほど話しかけましたような一九五八年の
核爆発停止のときまでに、どのくらいの
ストロンチウム九〇を作ったかと申しますと、大体九
メガキューリー——メガというのは百万でありますから、九百万
キューリーといいますか、九
メガキューリーくらい作りまして、そのうち三
メガキューリーが、その
実験場のすぐそばに落ちてしまったと
推定されております。従って、
成層圏及び
対流圏、おもに
成層圏でありますが、四・五
メガキューリーくらいのものが打ち上げられまして、一九六一年のところでは、そのうちの大体四・五
メガキューリーくらいが
地上に
蓄積しております。これは、
世界じゅうの土地の中にあります
ストロンチウム九〇の量をはかりまして
推定したのが四・五
メガキューリー、従って、五八年の終わりまで、
リザンプションを行なうまでに
成層圏中に入りましたものが、
成層圏中に一・五
メガキューリー現在残っております。従って、
ソ連が
爆発をやらないでも、われわれはなお幾分かの
ストロンチウム九〇の
降下を受けておったわけであります。ところが、今回
ソ連が
爆発をいたしまして、その総トン数が、TNTで換算いたしまして、これは幾らと
推定するかよくわかりませんが、
気象庁あるいはこれは全くの
新聞報道でありますが、朝日の社説などに出ておるところを見ますと、おそらく百四十メガトンくらい現在までにやっているだろう、こういうわけであります。ところで、この百四十メガトンから、一体どのくらいの
ストロンチウム九〇がさらに加わったかということを
推定いたしますためには、爆弾の性能及びその打ち上げ方に大いによるのでありまするが、これがわからない以上、正確な
数字は出てこないのであります。それで、かりに従来の、五八年前までの
仮定と同じ
仮定を使って計算いたしてみます。ただし、今度の
新聞報道によりますと、かなり
上空でやったという記録がありますので、悪い側に
仮定を置きまして、その
実験場近くに落ちる分は全然なかった、全部
成層圏に打ち上げられたというふうに
仮定いたしますと、
成層圏あるいは
対流圏とか、われわれの
世界じゅうに振りまかれる分の
ストロンチウム九〇は、七
メガキューリーくらいにふえているのではないかと思います。これは先ほど申しましたように危うい
仮定の上に立っておりますので、その点は十分御承知いただきたいと思います。従って、その
仮定が許されるといたしますと、現在、
成層圏並びにわれわれが将来受けるであろうところの
ストロンチウム九〇の量が、大気圏中に八・五
メガキューリーくらい残っているということになります。これが徐々に落ちてくるわけですが、従って、これから
あとは若干その
仮定で計算いたしますと、その
仮定に、さらに、すぐに落ちて参りませんから、
成層圏にとどまっている年数を約一年ぐらいと
仮定いたします。これは半年と言う人もありますし、二、三年と言う人もありますので、これも明らかでない。それは一応
平均の値として一年くらいと
仮定いたしますと、全体として、現在の
地上における
ストロンチウム九〇の量が約二・五倍になります。その二・五倍になりますのは、おそらく二年くらい
あと、一九六一年か六二年、あるいはその
半減期のとり方によって、来年あたりぐっと上がるかもしれませんが、今の
仮定が正しいとしますと、おそらく二、三年の間に、現在あります
地上における
ストロンチウムの
蓄積量の二・五倍くらいになると思います。現在どのくらいあるかということは、これは
気象庁の三宅さんの
データによりますと、多分一平方キロメートル当たり二十七ミリ
キューリー、大体三十
ミリキューリー程度だと思います。従って、われわれは、その値の二・五倍くらいまでは、あるいは最悪の場合に覚悟しなければいけないのではないかというふうに考えております。
この
ストロンチウム九〇が、植物に入り、あるいは食物を通してわれわれの
からだの中に入って、結局は骨の中に沈積するのであります。現在、どのくらい
人間の
からだの中に入っているかということがまた問題になるわけですが、これは、現在
数字をあげてそのまま比例するかということになりますと、これまた問題であります。というのは、われわれの
からだと
環境とが、現在
平衡状態になっているかいないかという問題もあります。それにもかかわらず、
日本人の骨の中の
ストロンチウム九〇の
データを拝見しますと、サンプルの数が非常に少ないので、的確な代表的な
データは残念ながら今のところございませんですが、最大で三・四
ストロンチウム単位ぐらいで、
平均が一前後ではないかと思っております。これがだんだん大きくなっていくと、それによってわれわれの骨髄は、ちょうどスイッチのない
レントゲン器械を背中にしょったような
工合で、いつになっても、死ぬまで
照射を受ける、ごくわずかでありますが、
照射はふえていくわけです。
大体その
照射の
程度はどのくらいか。誤りを起こさないために、どのくらいの
照射の量を受けるかという大体の大筋の
判断を
お話ししておきますと、英国の
報告によりますと、一九五八年までのところですが、一年間一〇ミリ
レム、
レントゲンと同じように百分の一
レムぐらい毎年受けております。この量はどのくらいの量かと申しますと、
皆さんが
レントゲン写真をとるときに
からだにいやでも受けますが、その量から比べますと、はるかに小さいものであります。はるかに小さいから、従ってそれは安心かというと、私は安心のところを強調しているのではないのであります。なぜかといえば、
レントゲンの
診断、
治療を受ける数は非常に制限されている人の数でありますが、一方、
生殖腺に対する
照射の数は、きわめて多数の
世界人類で、
日本人について言っても、だれかれの区別なく受けるという点に問題があるのであると思います。それからもう
一つ、ついでに申しますと、お医者さんから受けます
レントゲンと比較して、評価の
材料として
レントゲンの
医療用に使います
放射線は、それによってわれわれが
からだを
診断してもらい、それによってわれわれの
からだがなおっていくという
プラスの面が非常に多々あることを、われわれは忘れてはならないのであります。しかるに、この
生殖腺に対する
線量は、微量であるといえども、われわれの
からだに
プラスになる面は全然なく、マイナスの面だけしか残っていないという点にもう
一つの問題があります。その点は、この
線量を評価する、エヴァリュエーションする上に非常に重要なポイントであると思います。
どこまで
お話ししてよいかちょっとわかりませんが、時間はどのくらいありますか。