○田中啓一君 第三班の長野県における
農業基本法案に関する
調査の結果について申し上げます。
第三班は私のほか仲原
委員、北村
委員、棚橋
委員及び森
委員の計五名でありまして、
会議は婦人会館で五月二十二日午前九時から行ないました。あらかじめ当
委員会において御指名になっておりました十人の
陳述人より
意見を聴取し
質疑を行なったのでありまして、以下これらの
陳述人の
陳述及び
質疑によって明らかにされた
意見を、
発言順に概略申し上げます。
まず今井清君、これは
農協の常務を勤める
兼業農家でありますが、同君は、
農業基本法に
各党がいずれも熱心であることに敬意を表するが、衆議院における
審議の
あり方には煮え切らないものを感ずる。
農民の三案に対する理解はいまだ不十分なことでもあり、
農民のための
法案を
制定していただきたいと述べられた後、内容的な事項に入り、土産については、
政府案では
選択的拡大、野
党案では
生産計画ということがうたわれ、
農民も自己の立場から
拡大に努めているが、
価格面の十分な裏づけを用意すべきである。
価格政策については、野党二案の方針は、
生産費及び
所得補償方式をとることを明らかにしているが、
政府案も諸条件を勘案して定めるということでなく、もっと明確にする必要がある。
構造改善における
社会党案の
考え方は、
農民心理の上から問題があると思う。
教育については、各案とも一応強調しているが、習得した技術等に対し資格を付与する等の措置を織り込まれたい。また、
基本法の裏づけたる財政措置については、
農村が望む
予算を十分確保するとともに、村財政の現状からいって、
地方交付税の算定基準に近代
農業育成に伴う経費増を反映させるべきである。さらに
関連法案の
あり方が重要であるが、
農民や
農業団体の要望を十分取り入れていただきたいとの
意見を述べられました。
次に、中沢善賢君、これは
共同経営を推進している
果樹の専業
農家でありますが、まず、
農業基本法案の提案により将来に希望を感じているが、何かもの足りなさを感ずると述べた後、主として
政府案を問題として、第一に、
農民の立場が今のままでよいのか悪いのか明らかでない。
構造改善においても、自立
家族経営を本旨とすることで他
産業並みの所得を確保できるか疑問である。
次に、
農業近代化の手段として協業が取り上げられており、この点はわれわれ
農民としても
関心が深いし、またそうあるべきだと考えている。しかし、協業の従事者は本質的にサラリーマンであり労働者であって、
自立経営の
経営者とは異なるものであるから、
自立経営を本旨としながら協業が成り立つものかどうか、もっと
考え方をすっきりさせるべきである。
また、
生産基盤の拡充が
法案にうたわれているが、これは他
産業従事者の所得と均衡させる目標からいって不可欠の問題であるから、ほんとうに思い切った財政投融資を行なうべきである。
価格問題は、
法案にうたわれているけれども、従来の
米価審議会の
あり方や生糸の経験から非常な不安があり、過去の轍を踏まぬよう措置されたい。また、西独流の思想が入っているようだが、
予算の裏づけについても、西独が
基本法制定後二倍以上の
予算を計上しているといっても、彼我の間における
農業の比重が違うから、十分な財政的裏づけが確保されるかという不安が残る。
結論的にいって、法人化や
共同化の芽ばえが出ている現在、一刻も早く
農業の憲法を
制定することが「土の声」だと考える。しかし、以上に述べたようにいろいろ不安があるから善処されたい。
また、
農政審議会の
委員にはぜひ
農民代表を加えられたい。なお、
農業団体の現状には問題があり、再編成せよとまで言わないけれども、互いの関係をすっきりさせるべきだと考えるとの
意見が述べられました。
次に、坂下和三君、これは
果樹が
主体の
自立経営農家でありますが、まず、
昭和三十年に派米実習生として渡米して、アメリカの進んだ
農業に驚嘆するとともに、
わが国農業の地位が低く、その自然的社会的条件の劣悪さを痛感したと述べた後、
農業は一国だけの
範囲で考えるべきでなく、世界的な国際競争場裡に立たされているものである。しかも、
日本農業は現状のままではやがて脱落するおそれがあり、このようなときに
基本法案が立法されることは発展の糸口をつけるものとして意義があると考える。しかし、先進国より立法化がおくれたことは、農政軽視の証左であろう。
基本法は国に義務を課するとともに農政の基調となるべき方針を宣明しようとするものであると考えるが、これをどう
運営するか、また
基本法に基づいて具体的な
政策がどう
整備されるかが大きな問題である、と述べ、続いて、
政府案を
中心として、前文は
農業の使命、近代化への契機及びその向かうべき道を示しており、三案は
考え方はそれぞれ異なるけれども、趣旨は同じだと考えられるし、その趣旨に異存はない。しかし、
農業の発展と
農民の地位の向上が国の発展をはかる上に不可欠の条件であることを第一に掲げるべきだと思う。
次に、一番の問題は
選択的拡大である。成長
農産物たる
果樹や
畜産に転換するという
考え方はよいが、現状においても非常な勢いで転換されており、私の村でも十年後には
果樹、リンゴが五−六倍、長野県全体でも五倍に達すると見込まれていて、
価格暴落の不安が強い。成長部門を発展させるといっても流通及び
価格面のしっかりした裏づけが望まれる。なお、果実の流通問題としては、
中間マージンが大き過ぎること、バナナ等の
輸入品との競合、園芸連と経済連との二本立の解消等の問題がある。次に、
価格政策においては、野
党案はその方針が明確であるが、
政府案はあまりにばく然としているから、
農民が自信をもって転換できるよう具体的な方針を明らかにすべきだ。
構造改善については、具体的な
考え方を明らかにすべきである。
自立経営の
育成は協業や
集団化で簡単に解決できないと考えられるし、
政府が重視する
農業人口の流出も、経済好況が終わったときの対策が明らかでない。また、
家族経営と
協業化の間には大きい矛盾が内在しており、協業は
家族経営の特色を否定するものである。また、
自立経営達成のためには
長期低利の
土地購入
資金と施設
資金を要し、諸外国の例から見ても、せいぜい三、四分のものが望ましい。しかも、融資を受ける
農家は、これから自立しようとする不安定な者こそ必要なのであって、今までのありきたりのものでなく、思い切った投融資でなければならない。
また、
相続の問題は、憲法の
規定から見て重大な問題があるが、次、
三男対策その他社会的にも問題だと考えられる。
次に、人口問題であるが、これは問題の核心であるにもかかわらず、
法案に全然触れられていない。国は積極的に海外移住を推進すべきである。また、人材の問題であるが、私の村の一番の問題は優秀な
青年が離村することである。
法案には
教育の充実がうたわれているが、思い切った人材養成のための具体的な財政措置を希望する。
最後に、
基本法は
農民の利益のための法律であるから、
農民の理解と信頼がなければならない。桑の例のように、今までの農改は
農民にとって裏切られた感じがあるので、慎重に討議し、
農民の納得の上で真によいものを立法化されたいとの
意見が述べられました。
次に、大槻正芳君、これは町
農業委員や
農協理事を兼ね、著書もあるインテリの
兼業農家でありますが、同君からは、もしほんとうに立法するのであれば、難解な言葉が多く、
農民に理解しがたいこと、
価格政策における方針が不明確であること、自立
家族経営という経済合理性だけを重視した目標に不安を感ずること、
選択的拡大の方向たる
果樹や
畜産が
家族経営で可能かという疑問があること等の問題が考えられるという
意見が述べられました。
次は、山口文
彦君、耕種の専業
農家でありますが、まず最近の
農村の実情として、
青年が多く転出していて、村に残った
青年の間には、
農業に真剣に取り組む気力に乏しく、手っ取り早い日当かせぎに出ている。そうして農繁期には手不足に悩み、
農業労賃は値上がり気味である。一方、
農家は一種のブームにかられて、競争で
機械を導入したため、負債が増大し、しかも
農産物価格は値下がり気味であって、
農家はかような現状に不安と悩みを抱いていると述べられた後、
法案の内容の問題として、
選択的拡大がうたわれているが、
経営内容の転換は容易でない。たとえば、麦の転換でも反当二千五百円の
補助金だけでは困難であって、適切な指導が必要である。また、
構造改善のためには
経営規模の
拡大を要するけれども、
農村においては日ごとに
兼業が増加し、周囲の羨望すら浴びているほど恵まれているが、
土地を手放そうとする傾向が見られず、加うるに地価は又当三十万円もしていてこれを買い入れても採算上も大きい問題である。
また、流通面では、牛乳の例が端的に示しているように、矛盾が大きいから、その
合理化対策を進めるべきであり、
価格対策の一つとして
生産調整や貯蔵保管もあわせ考えられなければならない。また、
農業機械等もメーカーにより
価格の幅が大きいから、規格を統一してその
価格の安定をはかるべきである。
次に、
経営の
共同化は困難であっても、これを目標に置き、部分共同から全体共同にもっていくよう国と
農民が協力し、個人主義を払拭することが必要である。そうして地域の条件や
農家の特殊技術をも考慮した上で、計画的に林野を開発し、
資金の手当を行ない、
共同化のためのモデル施設を設けるべきである。
生産及び需要の
長期見通しは重要であるが、これに基づく
価格安定対策及び
資金等の措置が伴わなければならない。
次に、
農業労働の面においては、特に婦女子に過酷であるから、他
産業並みのゆとりのあるものとするよう農政全体からの配慮が必要である。
価格安定については、主要
農産物は
生産費及び
所得補償方式とし、
農民代表が参画して決定すべきである。
農政審議会の設置は妥当であるが、その
意見を尊重するとともに、
農民代表を入れるべきである。
結論的にいって、問題は容易でなく、三案にも一長一短があるから、超党派的に十分な
審議を尽くされることを希望する。なお、近代化
資金の設定や
農業法人の法制化などにとらわれて、
早期成立を望むことには反対であって、真に
農民のための
基本法を
制定していただきたい、という旨の
意見が述べられました。
次に小山主君、
農協の
組合長であり、
果樹の専業
農家でありますが、同暦からは、
農産物価格が頭打ちの傾向にあるに反し、資材その他の値上がりで支出が増加して、
農業の将来に対し一般に非常な不安を感じている。これは主食の消費内容の変化を
中心とする
食糧の消費
構造の変化という事態や貿易
自由化の問題とも関連しているが、
農産物については、国際競争力が十分になるまで
自由化すべきでない。
市場及び流通については、たとえば、リンゴのごときは、
生産価格一個十五円ないし二十円に対し、
消費者価格は四十円ないし五十円に達しているし、ビール麦も
価格が低過ぎる。またガソリン税のごときも、
法案第一条の所得の均衡の趣旨に沿っていない。
生産費を確保し、流通の
合理化がはかられるべきである。
農業従事者についても、その老令化と減少が憂えられる。たとえば
青年は村に残ることを欲せず、嫁に来ようという人は少ない。
農村に残った人の多くは中年以上であり、これらの人は近代
農業のにない手としての適格性に乏しい。
選択的拡大の問題については、百八十度の
経営転換に賛成できないから、麦の買入れ制限の方針を撤回すべきであり、
畜産物についても
価格に問題が多い。
自立
家族経営と
共同化については、具体策が明示されていないが、今後貿易
自由化の進展に伴い、
自立経営の
育成が不可能になるおそれがある。また、近代化
資金は
利子が七分五厘では、
農産物価格の保障がない限り借入れ困難であって、さらに
長期低利の
資金が望ましい。
共同化には所得の配分方法、グループの長の決定方法、構成員の融和等種々の問題があるけれども、方向を示すことは必要であろう。
共同化は一般に成長部門で進んできたが、後進部門にも最近及んできた。今年は私のところでは労力の関係で、農繁期の
水田作業の共同を行なうことにしているが、
水田共同化の
あり方としては、現在の耕転機では経済性も少なく、労力関係からも二十ヘクタールくらいの規模が必要であろう。いずれにしても、
共同化は部門別に進める必要があり、二・五ヘクタールの
自立経営は過小規模である。
法案第六条の
国会に対する年次
報告は一つの前進であるが、
農政審議会の役割が大きいから、
農民代表で
委員を構成すべきである。
また、第十条の信託においては、その
価格が
農地を購入する
農家にとって問題であり、貸付の場合は、その方式が問題であろう。さらに
価格支持は
農業が曲がりかどを曲がりきるまで維持すべきである。
最後に、
基本法案は早く
成立させよということでなく、
十分審議を尽くされることを希望する、との
意見が述べられました。
次に、福沢一郎君は、
果樹が
主体の専業
農家でありますが、同君は
政府案を
中心として、まず、前文には
農業の立ちおくれの原因が指摘されているが、第二次、第三次
産業の戦後の発展は、国の
援助に由来するところが大きいのに対し、農政は零細
経営の維持にその基調を置き、MSA協定による余剰
農産物の受け入れがこれに拍車をかけ、貿易の
自由化がこれに続くおそれがあるという事情が指摘されていない。
次に、
農業人口については、
青年が流出して手不足を来たしたため、
機械化や
共同化が進んでいるといっても、老人や子供の労働強化を招来しているが、その対策が明らかにされていない。
次に
価格問題であるが、リンゴは現在年一人当たり十八キログラムの消費であるに対し、十年後は四十一キログラムの消費がなければ
生産過剰に陥る計算である。しかし、この十年後の消費量は現在のアメリカと同じ水準であって、これが可能かどうか、また
価格が保障されるかどうか問題である。また、果実の国際比価には非常に差がある。さらに、最近の実績では、
生産の増加につれ、
価格のジリ安という傾向が顕著であるが、現在
果樹の栽培面積は飛躍的に増加しているから、今後もこの傾向が続くものと思われる。今後このような状況の中で
生産政策がとられるわけであるが、はたして
生産の倍増が所得の倍増をもたらすかどうか疑問であり、
経営の不安定が予想される。
畜産についても牛乳
価格の下落や大資本の進出という不安がある。
また所得
政策においては、所得均衡の相手方は、町村の勤労者と書かれており、これでは
農業者の
経営者としての側面を無視することになる。
さらに、
構造政策においては一・五町未満の
零細農の解消を予定しているが、勤労所得だけでは不十分ということで
兼業している者が多いのであって、これから
農地を吸収することはできないし、従って
自立経営の
育成は困難である。また未解放部落は特に貧しく問題が多い。
結論的に言えば、九%の高度成長に依存する
政府案は、この同慶成長が終われば根本的にくつがえされることになる。大
産業の近代化、
合理化の
農業版という感じが強いが、ムードだけの案には反対である。真に
農民中心の
農業基本法を
制定していただきたい。なお、
果樹の災害補償制度を確立されたい、
農業災害補償制度において三反未満層を別扱いにすることは問題であり、やはり社会保障としての性格を強める方向に
改善すべきである、という
意見が述べられました。
次に、
兼業農家の
農村婦人として市川しげき君は、私のところは長野市内の旧大豆島村であるが、八百戸の
農家のうち専業はわずか五十戸であり、
農民は
農業に安定感を持っていない。
価格安定が必要であるが米や麦にしても所得格差を考慮した
農民の納得できる
価格にされたい、また酪農は不安定であり、桑を抜いたあとのリンゴも
価格に問題がある、結局
兼業が大部分を占めるに至り、主婦
農業という形が免れてきたが、これは主婦の内職であり、勤労所得が低いことに由来する。
政府は大農
経営を考え、信託制度を設けようとしているが、地価が高く採算上問題があるし、一方婦人の職場も確保されなくてはならない。その方法として、区画整理を実施し、婦人による
共同経営を行なうことが考えられる。
農業基本法については、婦人は政治に無
関心であるし、一般にも難解すぎて十分理解されていない、しかし他
産業並みの所得が確保されればよいのであって、三案ということでなく、わかりやすいものを超党派的に一日も早く
制定されたい、という
意見が述べられました。
次に
開拓組合長を兼ねる耕種専業の杉山雪雄君は、
農業基本法案に対する
国会の態度に賛意と敬意を払うが、
農民は家庭における婦人のように従順であるから、超党派的に
農村問題を
審議し解決していただきたい。
法案の内容は全体としてわれわれの気持に合っているが、
選択的拡大は計画的に行なうべきであり、また三百万ヘクタールの開発には何か不安を感ずる。
興業の近代化は、
経営の
共同化が
中心であるべきだが、これには種々の困難があり、国は
自立経営の
育成をはかりながら
共同化を真剣に考え、計画的に実施すべきである、要は所得の均衡にあるのであるから、
家族経営のまま向上し得るものはこれを伸ばし、
共同化を要するものはこれを進めるということである。
価格については、国が全面的に補償することは困難であろうから、現状に適した最低補償
価格を決定し、この
価格に基づいてこれに適した
経営規模や
経営形態が定められてくると考えられる。イデオロギーを離れ、現状を
中心として
生産費の引き下げをはかることとし、国は
土地その他の
生産条件を
整備し、
農民は
経営に専心するという方向をとり、その上で
農協が
市場価格の問題を処理できるよう、その充実をはかるべきである、人口削減問題は、所得の向上ということから起こったもので、三案ともその点は同様であるし、五割以上の流出がなければ、目標の達成は不可能だと考えられる。そこで、転職補填、社会保障及び最低賃金制を充実し、中年者を雇用する会社に
補助金を交付し、工場の
地方分散をはかるべきである。
なお、僻地
農業は最も困っているから、その実態に即した特別措置が必要である、また、
政府案の
土地と水の有効利用は重要であるが、開拓地の現況は容易でないから、開発は慎重にすべきである、とり
意見を述べられたのであります。
最後に、酪農の
共同経営を行なっている
小林甲子男君は、
生産の
拡大や
土地の開発は、交通条件や自然条件を勘案して行なうとともに、
山間部における
機械化や
経営規模の
拡大についてもその方法を検討されたい、私は
開拓者の二代目であるが、私の代でようやく人並みになった、こういう点から戦後の開拓は誤りであり、今後の
土地開発においても既往の轍を踏まないようよく考えて実施すべきである。
私は昨年六月酪農の
共同経営を始めたけれども、また新
農村建設事業として補助を受けたが、
農業法人が認められないため融資を受けることができず、つなぎ融資に依存しているような
状態であって、
経営上の大問題である、従って
農業基本法案及び
関連法案が一日も早く
成立することを希望している、との
意見を述べられました。
以上が
陳述人の
意見の概要であります。
会議はきわめて平穏に進められ、
計画通り三時三十分に散会したのであります。この機会に、
会議万端でお世話になりました
県当局の御尽力に対し深甚の謝意を表しまして、第三班の
報告を終わります。