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田畑金光君 私は、民主
社会党を代表し、ただいま
議題となりました
防衛二
法案に対し、反対の
意見を述べるものであります。
反対の第一の理由は、憲法上の疑義についてであります。今回の改正は、第一次
防衛力整備
計画の補完作用であり、第二次
防衛力整備
計画とは無
関係なりというのが
政府の態度であります。陸上自衛隊について、現在の六管区、四混成団を十三個師団に改編するがごときは、重要な軍の編成組織の改編であり、第二次
計画の土台をなすものであります。われわれは、いわゆる無防備無抵抗主義の上に立つ逃避的孤立主義者でもなければ、また、中立の名において、巧みに共産主義陣営の世界侵略の一環に利用されるえせ中立主義の立場に立つものでもありません。独立国として自衛権を持つことは当然の理であると考えます。従って、主権国家が自衛のための最小限の措置をとることは避け得ざることだと考えます。しかし、それはわが国の憲法の特殊性と精神にもとるものであってはなりません。われわれは、従来、保守党の
防衛政策は平和憲法をはるかに逸脱していることをしばしば糾弾して参りましたが、さらに驚くことは、去る五月二十九日、自民党の国防部会で発表された
防衛基本方針の
内容と構想についてであります。自民党の基本方針によれば、
政府の第二次
計画はなまぬるいとして退け、世界冷戦の激化を前提として、コンゴ、ラオス、キューバ、韓国等に見られる局地的紛争、革命、クーデターにいたく刺激され、直接、間接侵略に対処し得る自衛隊の強化を急ぎはかるべしという思想であります。日米軍事同盟を薄めるのでなく、ますます強化しようとするものであり、最近の韓国との接近に見られるように、NEATO結成への危険すらうかがわれます。ことに
防衛基盤の確立のために、国民の
防衛意識の高揚を取り上げたり、安全保障の相互体制を確立するための国家安全保障会議を設けたり、また、暗い悲惨な時代を回想させる防牒法の制定を提唱しておりますが、これらの構想を一貫するものは、自衛隊の量的拡大をはかるだけでなく、質的転換を
意味し、高度国防
建設の方向に突っ走る危険性を内包するものであります。御
承知のように、内閣に設けられた憲法
調査会は、この八月以降、憲法の具体的条章について改正の是非を論議する段階に入っていると聞いておりますが、自民党の憲法
調査会は、本年十月末を目標に、憲法改正案をまとめ上げるため鋭意作業中であり、同
調査会のまとめた憲法改正の基本構想は、新しい憲法創設であり、抽象的な理想国家の姿を規律するものでなく、
日本民族の歴史、精神に根をおろしたものということであり、また、立案にあたっては、敗戦に際しての国民の反省を加味するが、その後の政治思想の変化を貴重な事実として取り入れるというとであります。これに関連して思い起こすことは、昭和二十九年十一月五日、時の自由党憲法
調査会のまとめた
日本国憲法改正案要綱案であります。これによれば、国の安全と
防衛に関する一章を設けること、第九条を書き改めて、軍の最高指揮権は、内閣を代表して
内閣総理大臣に置く、国防会議、軍の編成、維持、戦争並びに非常事態の宣言、軍事特別裁判所、軍人の政治不関与並びに権利義務の特例等、軍事に関する最小限の規定を設けること、また、国防に協力する国民の義務並びに戦争または非常事態下における国民の権利義務の特例についても別途
考慮すること等をうたっておりますが、今回与党の発表された国防基本方針は、憲法改正への道を歩むものであります。憲法を守り、憲法の逸脱を許さずという立場から、私は本改正案に反対するものであります。
第二の反対の理由は、先刻もちょっと触れましたが、本改正
法案は、日米軍事同盟を薄めるものでなく、ますますこれを強化する方向にあるという観点からであります。昭和三十二年夏、時の岸
総理が渡米にあたり、同年四月、国防会議は第一次
防衛力整備
計画を発表し、岸訪米の最大の政治的資産を携行いたしました。本年六月下旬、
池田総理渡米に際し、
池田・ケネディ会談では、
防衛問題は
議題にせずというのが
池田総理、
西村防衛庁長官のがんこな答弁でありますが、なぜにもっと率直に国民に真実を語ってくれないのか、どうして秘密主義に終始しようとするのか、
政府に強く反省を求めたいと思います。いかに
総理が事実を隠蔽しようとされても、現に第二次
防衛力整備
計画は、
総理渡米前、おそらく
国会の会期終了と同時に確定案となるでありましょう。さらに
政府の第二次
防衛力整備
計画を補完し、いな、量的、質的に飛躍的拡大を試みようとする自民党案が、
池田総理の渡米を前にして、内外に宣明されたということであります。先ごろ帰朝された朝海大使は、
池田・ケネディ会談の重要な
内容の
一つが極東問題であり、極東の軍事同盟の一環として
日本の
防衛問題に及ぶであろうことを伝えております。
政府が明らかにしたように、本
年度以降アメリカの軍事援助は、ドル
防衛、
日本経済の高度発展から原因して、
予定額より減少するといっておりますが、なおかつ五年間を通じ、一千億以上の無償援助を期待されております。この一事から見ましても、
防衛問題が重要な日米会談の対象になることは当然でありましょう。ことに今回の
池田総理渡米は、新安保条約成立後の最初の訪問であるということであります。新安保条約第三条は、言うまでもなく、バンデンバーク
決議の精神に基づくものであり、わが国は自助及び相互援助の精神に基づき、口先だけでなく、具体的事実をもって
防衛力増強の実をアメリカに示さなければなりません。新安保条約第三条がMSA協定八条を受けて成立している経緯を見れば、右のことは一そう明らかな現実でありましょう。にもかかわらず、万事秘密主義に終始し、国民に語ろうとしない
政府の態度は、口には国民に親しみやすい自衛隊を作るといいながら、逆に国民から遊離する自衛隊に追い込むものであります。極東における緊張状態の継続、ことにラオス、ベトナム、台湾海峡の動き、南鮮のクーデターの背景を見るとき、このような情勢下において日米安保体制の強化をはかることは、かえって
日本の平和と安全に危険であると考えます。わが党は、安保条約の再改定、
防衛協定の段階的解消を主張するものであります。
政府与党の立場はその逆であります。本改正案は、かかる緊張を強める方向の一環をなすものであるという立場から、私は強く反対をいたします。
反対の最後の点は、シヴィル・コントロールの点について、すなわち政治の軍事に対する優先確保についての慎重な配慮が立法面、運営面において不十分、不完全であるという点であります。今回の改正により、統合幕僚会議
議長の権限強化がはかられております。他方、陸上自衛隊については、従来の六管区、四混成団が十三個師団に再編され、いわば小型化し、わが国土、地形、道路の実情に即する作戦基本単位に切りかえられたということでございます。
人員は減少したが、火力装備、機動力は従前の水準を確保しておると申しております。
これを要するに、今回の
政府のとった一連の編成がえは、明らかに国内治安の確保に重点を置き、間接侵略を重視して参ったことは明白でありまして、杉田幕僚長は次のことを強調しております。将来の戦争様式を展望すると、ミサイル戦争は、米ソ二大国の力の均衡によって、今後絶対に起こらないだろう。また、第二次大戦型の直接侵略方式も、今後はめったに起こるまい。むしろ今後の戦争は、国内の赤い勢力がデモや叛乱を行ない、これをきっかけに外国勢力が軍事援助をするという、いわゆる間接侵略方式が重要な部分を占めるだろう。
政府の
防衛の重点を巧みに表現しておると思います。この思想は、つまり陸上兵力中心の間接侵略重点の局地戦能力さえ備えておけば、今後の
日本防衛は大丈夫、あとは安保条約によって米軍に依存すればよろしい、こういう考え方であろうと考えます。赤城構想においては、陸上の十三個師団再編のねらいは、将来の原子力戦争に備えて、分散と集中を敏速にするため、師団の小型化と機甲化をはかるということにあったが、いわばアメリカ陸軍のペントミック師団を基本にしたものであったが、今日は性格を一新し、国内の暴動鎮圧をねらう治安部隊に生まれかわろうとしております。過般本院
予算委員会で問題になりました治安行動草案は、端的にその間の
事情を語るものであります。
自衛隊の
任務は、
自衛隊法に明らかなごとく、侵略に対し、国を
防衛することであります。治安の維持は第二義的使命であります。それだけに、今後の自衛隊の出動を予想するとき、外部からの武力攻撃、いわゆる直接侵略の場合はほとんどあり得ないことであり、間接侵略その他の緊急事態に際しての治安出動こそ、自衛隊行動の中心になると判断されます。それゆえにこそ、治安行動の際においても、
総理大臣が治安出動を命ずるにあたっては、あらかじめ
国会の意思を聞くべきであり、
国会、すなわち国民の意思により、自衛隊の行動にコントロールを加えることが基本的に大事であると考えます。遺憾ながらこの
意味の配慮が欠けております。また、準備もないようであります。隣邦韓国におけるクーデターは、われわれに多くの教訓を与えるものであります。御
承知の
通り、韓国の軍隊は、大統領、国防長官、すなわち文官の指揮監督下に置かれております。また、一九五〇年七月十五日、時の李承晩とマッカーサー司令官の交換書簡により、韓国軍の指揮権は国連軍司令官の手にあります。また、多くのアメリカの軍事顧問が韓国軍隊の要所に配置されております。言うならば、韓国軍は二重のコントロールのもとに置かれているはずであります。それにもかかわらず、軍事革命が勃発したのであります。クーデターには、それを引き起こす国内の諸条件があったでありましょう。われわれは、これを単に他山の石とするだけでなく、十分教訓をくみ取るべきでありましょう。ケネディは国防
予算特別教書において、軍事力は文官が統制すべきことを強く進言いたしております。このことは、単に
防衛庁内局の文官対制服の
関係という形式の問題ではありません。戦争の開始、核兵器の使用、戦争の拡大等、政戦両略の
決定はすべて文民の権限であり、最終的には大統領の
決定であるということです。アメリカ軍は世界各国に駐留し、紛争の可能性ある地域において広範に接触しておる。ポラリス潜水艦は常時戦略展開を行ない、実戦の配備についております。戦略爆撃機の一部は空中に待機しております。警戒体制の強化は、先制攻撃を抑制する役割を果たし得ますと同時に、偶発事故発生の危険性に伴います核、ミサイル時代の報復反撃は一分一秒を争う。それだけに、軍事に対する政治の優先は、幾ら強調しても強調し過ぎることはあり得ません。これは単にアメリカの問題ではなくて、同時にわが国の立場でなければならないと考えます。私は、
政府のシヴィリアン・コントロールに対する措置、具体的施策が欠けている点を遺憾に思います。これが反対の第三の理由であります。
以上私は反対の理由を述べて参りましたが、
政府は野党の
意見をも十分にくまれ、反省すべきは反省し、いれるべきは大胆に施策に反映されるよう強く訴えて、私の反対討論を終わることにいたします。