○
政府委員(
中野正一君) 今の御質問の、最近の
経済の
発展ぶりがどうも
政府の方で
見通しを立てておったものよりも少し
行き過ぎておるのじゃないかということを、各
方面で御
心配をされておるわけであります。それで、最近の
情勢を申し上げますと、まず三十五
年度の——これはすでに終わっておるわけなんですが、われわれが一月に
見通しを立てましたところから見ますと、幾分やはり
食い違いが出てきております。その
一つは、
世間でも問題になっております、やはり
設備投資が
行き過ぎつつあるのじゃないかという点が一点。それから、もう一点は、
国際収支の
見通しが少し甘過ぎたといいますか、最近の
情勢から見て少し違っているのじゃないか。それから、もう一点は、やはり
物価の
関係でございますが、これは御
承知のように、
卸売物価と
消費者物価の
両面を見なければいけませんが、この
両面とも
政府の
見通しよりも少し上がっているのじゃないか、この点だろうと存じます。
で、全般的に見ますと、三十五年の
経済というのは非常に順調な
拡大を続けまして、まず
数字的に少し申し上げますと、
鉱工業生産面に一番端的に
数字が現われるわけですが、これを見ますと、三十五
年度の
鉱工業生産は、われわれが一月の時の
見通しで前
年度に比べまして二二・六%、二割ちょっとくらい大体上がるのではないかというふうに見ておったのでありますが、これはまだ三月の速報が出て
確定数字ではありませんが、今言いましたように二二・六%くらい三十四
年度に比べて三十五
年度はふえるのじゃないかと見ておったのが、
実績は二三・三%、これは〇・七%
程度の差でございまして、大体、
生産はわれわれが見ておったよりもちょっと上向いておるということでございます。ただこれも、たとえば最近の三月の
数字は、昨年の三月に比べると大体二割
アップくらいの
数字になっておるわけです。ところが、その前は大体二五%
アップというようなことに上半期の方は行っておりまして、従って二五%から二〇%というふうに
生産も順調には伸びておりますか、
上昇のカーブは下降しておるというふうにわれわれは見ておるわけでございます。
それから、
設備投資でございますが、これは三十五
年度は、御
承知のように、
民間の
設備投資で二兆八千五百億の
設備投資があると見ておったのでありますが、これを大体今まで、十二月までの
実績数字が出つつありますが、十二月までの
数字と、それから一−三月のいろいろな諸指標を勘案して見ますと、これも
世間で言われておりますように、大体三兆の線に近づいておるのじゃないか、こういう
実績になってくるのじゃないか。そこに二兆八千五百億と見ておったものが三兆になったわけですから、千五百億ほど
設備投資がふえた、こういう
数字が出るのじゃないかというふうに見ております。
それから、もう
一つの
主要要因でありまする
在庫投資でありますが、これは三十五
年度中に七千五百億ほど
在庫投資の
積み増しがあるのじゃないかというふうに見ておったのですが、これは最近の
経済の
動きが、三十五
年度については非常に落ちついた
動きを示しておりまして、
在庫投資の
積み増しというのは、
見通しの線を大体二千億
程度下回る、七千五百億といっておったのが千五百億ないし二千億
程度下回るというふうになっております。これはどういう
傾向かといいますと、要するに
経済の
上昇に対しまして
在庫の
積み増しというものがほとんど
影響しなくなったということがいえるのじゃないかと
考えております。それは
需要の面からいいますと
マイナス面でございます。
設備投資がふえたということは
プラス面、
在庫投資が減りつつあるのじゃないかということは
マイナス面でございます。
それから次に、
輸出入の
関係でございますが、これは御
承知のように、一億二千万ドル
程度経常収支で
黒字が出るのじゃないかというふうに見ておったのでありますが、これは締めてみますと、三月末で御
承知のように
経常収支で七千万ドルの
赤字。しかし、
総合収支では、われわれは六億ドル
程度の
黒字と見ておったのが、六億七百万ドルの
黒字ということになって、これは
総合では
見通しは変わらなかったわけでございますが、
経常収支では
マイナスになってきた。これは結局、
需要要因としてはやはり
マイナス要因になってくるわけであります。
そういうことで、一月の
見通しでは、十四兆二千三百億ぐらいの
国民総生産になるのじゃないかという
見通しを立てておったのでありますが、今言った
プラス要因、
マイナス要因等を
総合してみますと、大体十四兆二千三百億を少し上回る、二、三百億
程度上回る
程度におさまるのじゃないかというふうに
考えておりまして、
経済の
成長率も、大体一月の
見通しとそう
狂いはないというふうに見ておるわけでございます。
それから、次に、
物価の問題でございますが、これも
卸売物価が大体〇・八%三十五
年度は上がると見ておりましたのが、
実績は一・八%上がりました。これは主として、そのうちの七、八割は、
木材価格が非常に三十五
年度一ぱい高騰したということが、非常な主たる原因であります。それから三月になりまして、御
承知のように、
鉄鋼の
価格が、これはもういわゆる
公開販売価格という、いわゆる八割から九割
程度のものが
公開販売で、まあ一種の
建値制のようなことで
取引されております。これは全然上がっておりません。ただ、それ以外の
市中の
問屋同士で
取引される
仲間相場というものが上がったために、これは
日銀の
卸売物価指数で、その要するに一、二割の
市中物の
値段と、それから八、九割の
公開販売制度に乗っておる大
部分の
取引のものと、これを
指数的には半々に見ておるわけでございます。従って、
市中の
相場が上がりますと、それが五〇%
卸売物価に響く、こういう
計算をしておりまして、そういう
関係で、三月になりまして
鉄鋼の
価格が上がった。
繊維がやや持ち直したというようなことから、三月には、二月に比べまして一・二%
程度卸売物価が上がったために、
相当これはやはり
警戒をせなければいかぬということを
考えまして、これはさっそく
通産省におきまして
鉄鋼業界と話をいたしまして、一番
不足ぎみでございます
中型形鋼、あるいは
厚板、
銑材、こういうようなものについて
増産の勧告をいたしました。
業界の方でも、大体従来の数量よりも二割
程度の
増産の
態勢を作りまして、四月に入っては大体
値段は
落ちつきつつある。また、
木材につきましても、御
承知のように、
輸入の
木材をふやす、あるいは
国有林の伐採を
相当ふやすというような手を打ちまして、これは非常に林野庁でも協力していただきまして、ようやく
木材の
価格も最近になると落ちついてきたわけです。しかし、三十五
年度中に非常に
値上がりしたために、それが
指数に響いて、
卸売物価にはそういう
狂いが来た。
それから、
消費者物価でございますが、これは大体約三・二%ぐらい上がるんじゃないかというふうに見ておったのでありますが、これは三月末で締めてみますると、四%上がった。この四%
消費者物価が上がったということは、ここ数年来なかった
現象でありまして、大体ここ数年来は一・二%
程度平均しまして
消費者物価というものは上がってきたわけでありますが、それが三十五
年度中に四%上がった。これは非常に
家計にも御
承知のように響いたわけでありまして、われわれの方は
物価白書を出しまして
説明をしておりますが、大体昨年一ぱいで、全
家計で平均をしてみまして、昨年中に各
家計でふえた
支出のうちで四割は
物価の
値上がり、今のいわゆる四%の
物価の
値上がりで消されてしまった。従って、実質的には、
支出がふえたうちの六割しか
消費内容がよくならなかった。半分近く、
物価の騰貴でこれが帳消しされたということは、
相当なこれは
家計にとっては
影響じゃないかというふうに見ております。ただ、その中身を見ますというと、大体半分以上が、六割近くが肉、魚、
野菜等の
食料費の
値上がりで、これもいろいろ季節的な
要因、あるいは豚肉が非常に、数年前に
値段が下がったためにみな豚を殺してしまったというような、一時的な
要因もございまして、これに対してはいろいろ
緊急輸入あるいは
増産の
態勢、
流通機構の
整備等、いろいろこれは農林省で手を打ちまして、最近は御
承知のように肉も非常に落ちついております。
野菜も、最近はどっちかというと、地方によっては下落をして困るという声もございまして、だいぶ落ちついてきておりますが、大体五、六割は
食料品の
値上がり。それから
あと二割
程度がいわゆる
サービス料金。これはいわゆる
散髪屋さんだとか、パーマネントとか、そういうふうなような、これは
人件費が
コストのうちの
相当部分を占めて、
所得倍増の過程におきましてある
程度値上がりを、
コストが上がってきて上げざるを得ないというものでございますが、そういう
サービス料金関係が二割。それから
食料関係が大体五割以上、これが大体
影響しておりますので、まあ
政府でも、いろいろ
消費者物価対策について手を打っておりまして、三十六
年度はぜひ一%
程度にこの
値上がりを押えたい。これは
相当無理じゃないかという御
議論もございますが、
政府としてもぜひそういうところに押えたいというふうに今鋭意努力してやっておるわけでございます。まあそういうところが少し食い違ってきた。
それから、
国際収支には、先ほど申し上げましたようにある
程度の
食い違いがありましたが、
総合収支では大体六億以上の一もちろんその大
部分が
短期資本じゃないかということで、
議論はございますが、そういうことになってきた。結局、今後の
見通しでございますが、先ほど申し上げましたように、三十五
年度の
経済自身がわれわれの
見通しよりもやや上に行っております。特に
輸入は、最近の
経済の
拡大テンポに見合って、われわれの
予想よりも、三十五
年度で約九千万ドル
程度−一億ドル近く、
予想よりも
輸入が多かったわけです。それから、
輸出の方が
予想よりも少し少なかった。大体三千万ドル
程度少なかった。で、この
傾向が三十六
年度中ずっと続いていくと、むしろそれが
輸出の方は立ち直るといっても、そう明るくないのじゃないか。
輸入は、なるほど
政府が言っておるように、
思惑輸入あるいは投機的な
輸入というものはこれはございません。大体
輸入のふえたものを見ましても、
鉱工業生産の
拡大に見合う原燃料でございますね。それから、最近
繊維原料が
相当ふえております。それから、畜産がふえたために、
飼料が足りなくなったというようなことで、
食料関係が
相当ふえておりますが、これは
飼料の
輸入がふえておる。これも非常にいいことでございまして、従って、大体
経済の
拡大に見合って
輸入は行なわれていくのでありますから、その点では、三十二年のような思惑的なものはございませんので、その点は
心配しておりませんが、ただ、
成長が少し早過ぎた。
輸入がだんだんふえていく。
政府が言っておるように、これが落ちついて、
在庫の補填が落ちついて、一巡をしてだんだん減っていく、ということよりは、そのふえ方が減っていくということになるかどうか。それから、
輸出がアメリカの景気が二月を底にいたしまして上向いております。これは
U字型の
上昇か、
V字型の
上昇かという、いろいろ
議論はありますが、最近の
収支を見ますと、
相当急
上昇を続けておるのじゃないか。で、これが
日本の
輸出にどの
程度いい
影響を与えるかについては、いろいろ問題がありますが、ここらについても問題があるので、結局その
政府の
見通しをしました
経常収支で、三十六
年度一千万ドルの黒、それから
資本取引で一億九千万ドルの黒、合わせて二億ドルの
黒字が出るというふうに見ておったんでありますが、これはちょっとなかなかそうはいかないんじゃないかと。従って、
輸出について、もう少し
輸出がやはり
輸入の増大に見合ってふえていくということにならなきゃいかぬのじゃないかということで、先般来
輸出振興ということについて
政府も力を入れており、
民間の方でも力を入れていきたいという
空気になっておって、この
国際収支の点がやはりポイントになっておりまして、結局、突き詰めると、そのもとはやはり
民間の
設備投資が
行き過ぎつつあるのじゃないかということが言われておるわけです。
これは、また
あとで
関係のところから御
説明があるかと思いますが、まあわれわれが出した
数字は、大体二兆八千五百億の三十五
年度に対して、約一割
程度増の三十六
年度は三兆一千四百億ぐらいであろうというふうに
数字を出したわけであります。これは三十四年、三十五年と大体前
年度と比べて三割以上ずっと
設備投資がふえてきておるわけですね。二年間もそういう高いレベルの
設備投資が行なわれたんであるから、もうそろそろここらで
落ちつきを取り戻すんじゃないか。また、
落ちつきを取り戻すように
政府も、あるいは
民間の方もそういうふうにやってもらいたい。これは
見通しのときにつけました
政府の
経済運営の
基本的態度にそういうふうに書いてあったわけです。ところが、どうもその後の
数字を見ますというと、
そこらが少し食い違っている。先ほど申しましたように、三十五
年度自身が三兆円ということに大体なりそうなんです。従って、この三兆円からかりに一割ふえるとすると三兆三千億ということになるわけでありまして、ただ、最近
通産省の
調査あるいは
経済企画庁で
投資予測調査というものを発表しておりますが、そういうものの
数字から見るというと、
世間では三兆六千ぐらいに、二割
アップでございますね、それぐらいになるのじゃないか。これもそう確たる
計算に基づいてやっておるわけじゃありませんが、まあいろいろの
数字を加えましてやっておりまして、この今の
設備投資の勢いというものをある
程度これを鎮静をさせるといいますか、もっと落ちついた足取りに持っていきたいということを
日銀あたりでは言っておられるわけでありまして、また、
民間におきましてもだんだんそういう
空気ができまして、特に
所得倍増計画が昨年発表されまして、安易な
成長ムードというものに踊らされて各
企業が甘い
考えで
投資をやるというようなことはこれはいけない、またいたずらにいわゆる
シェア確保といいますか、
シェア獲得といいますか、そういう意味のいわゆるむだな過剰な競争というものはやめるべきであるということで、これはもちろん各
業種につきましていろいろ
事情が違いますが、全般的にわれわれが見ておるところでは、現在いろいろな
計画に出ておりまする
数字というものは、これは一応の各
企業の希望的なこういうふうにしたいという
数字でございまして、これがそのまま実現されるとはわれわれ見ておりません。が、全般的に見ますというと、これは
貿易自由化に備えての
合理化なり
近代化あるいは
技術革新というようなものに備えての
投資、あるいは
産業基盤の拡充のための
投資というものが大
部分でございまして、その点については、
投資の
内容そのものはこれは実は
通産省の方で現在
産業合理化審議会で各
業種ごとにこまかく
検討されておりますので、そういうところにおきまする
調整というものを待ちましてわれわれの方はもう少し今の
投資が
行き過ぎかどうかということは
検討を加えたいと。今直ちにこれが
行き過ぎである、どれとどれが
行き過ぎであるというようなことは、まだわれわれの方は
結論を出しておらない状況でございます。まあ
設備投資が
行き過ぎておるんじゃないかというようなことが
物価問題あるいは
国際収支の
問題等でいろいろ
議論されておるわけでありますが、
そこらの点については今後さらに
検討を続けていきたいというふうに
考えております。