○
参考人(
尾関将玄君) それでは、
関税定率法の一部を
改正する
法律案と
関税暫定措置法の一部を
改正する
法律案につきまして、この
改正だ至った
経過、それからその法の
内容等につきまして、申し上げたいと存じます。
貿易・
為替が
自由化することになりますと、
外国から
日本に入ってくるその
輸入を直接統制する
措置、直接の
方法によって統制する
措置がとり得なくなるわけであります。
日本の
産業を保護するためには、プライス・メカニズムによる
関税によるよりほか
方法がない。
関税によって間接的に
輸入を調整するよりほか
方法がないということになってくると思います。それでは、
日本の
関税は
貿易自由化した場合に十分に役割を果たし得るようになっておるかどうかということが問題であると存じます。
そこで、
日本の今の
関税について見ますると、今の
関税の率は
昭和二十六年にアメリカの
占領下において策定せられたものであります。自来十年を
経過しております。ところが、
日本の
産業構造は著しく変化しました。軽
工業から重
工業へ、それからさらに
石油化学工業へと、
世界が瞠目するほど
——目を見張るほど伸展をいたしました。非常な変化を来たしておると存じます。また、
日本の
関税をかけるのには
日本の
関税定率法というものがございまするが、これはどうであるかと申しますると、
明治四十三年に作ったものであって、今すでに五十年を
経過しております。実に古びたものであります。その
関税定率法において、
定率表において
日本の
税目はと申しますると、九百四十三しかございません。
世界の
先進工業国では二千ないし六千に、あるいは六千以上に及んでおります。それがたった九百四十三しかない。しかも一
日本の現在の九百四十三の
税目の中には、ここ十年来ほとんど
輸入したものがないという
税目もあるわけであります。また反対に、この現在の
一つの
税目を今の
世界先進工業国の
分類に従うといたしましたならば、一
税目が約百四、五十
税目に分けないと十分でないというようなものもあるのであります。従って、この五十年来使用した
税表によって
自由化となってきた後の
日本の
産業を保護しようとしても、それは大きな
支障を来たすことになると存じます。
こういうようなことからであろうと存じまするが、
大蔵省におきましては、昨年の四月の十九日に
関税率審議委員会を招集いたしまして、
日本の
関税は
昭和二十六年にこしらえた、
産業は非常に変わった、
自由化はまさにやらなければならぬようになってきておる。で、こういう状態に対処するために、
関税率及びこれに関する
制度について根本的に検討する必要があると思うがどうしたらいいかという
諮問があったわけであります。今申し上げましたように、五十年の
経過を経ておる
関税表、それから十年を過ぎておる
関税率というものを
改正するといたしますると、少なくとも三年、四年という準備を要するのが普通であります。しかし同時に、
自由化はそんなのんきなことは言っておられない、目睫の間に迫っております。で、
改正法律案は直近の
通常国会に提出する必要があると、こういうふうに
大蔵省でも言っておったわけなんであります。そこで、
関税率審議委員会は速急に
答申をせねばならないことになっておったのであります。ところが、
関税率審議委員というのは全国にわたって四十四名おりまして、これが速急なる
答申をするということはなかなかむずかしい。そこで、十八名の小
委員とでもいうようなものを任命しまして、これが
調査部会として発足することになりました。これが昨年の五月の十六日でありました。で、この
部会が十六日から発足いたしまして、毎週末みんなが研究したところによりまして会を開いて、会を重ねること二十五回、十二月三日に
答申案を作って、十二月五日に全部の
委員の
総会にかけまして、六日に
諮問にこたえる
答申といたしまして報告をいたしました。これが大体の
経過であります。
で、この
法案は、その後
政府の方でこの
答申によって作られ、さらに一月に至りましてまた
調査部会と、それから
総会とに諮られて正式なものになって、ここに
法律案として出たと聞いております。そうしてここに出た
法律案はわれわれが
答申したものと字句は多少違うかもしれないが、
内容は全部そのままと、いってもいいというように聞いております。従って、私は
法律案については実は入手しておりません。けれども、われわれが
答申した
そのものと変わりがないということなのでありまするので、そのわれわれが
答申したものについて
一つこれから申し上げることにいたします。これはまた現在の
法律案そのものについて申し上げるのと、おそらく何の変わりもないと思うからでございます。
この
法律案の
内容から申し上げますると、
法律案は、まず第一に、前に申し上げました
関税定率表そのものについて非常なる変更を加えているわけであります。これは
明治四十三年に作ったものと非常に変わっておりまして、
ブラッセルの
関税表によることになっております。
ブラッセルの
関税表は、これは第一次
世界大戦後、
各国が統一した
関税表を採用したいというので、ジュネーブの
関税表というものを作成しましたが、それが十分に
各国に採用されないうちに第二次
世界大戦になった。そこで、この第二次
世界大戦後
ブラッセルに創立せられました
欧州関税同盟研究団によって
各国共通のものを作りたいというので、一九五〇年に草案ができ、五五年から
各国が採用するものができて、現在におきましてはおそらく、二、三十カ国、二十数カ国が採用していると存じます。従って、
日本がこれによるということは、
ガットの
交渉等におきましても
共通の
税表でありまするがゆえに、非常に便利である。それから、その
分類はきわめて科学的である。恣意を許さない、自分勝手の
解釈を許さない。ちゃんと
注釈書があって、それによって
分類をしていくのであって、きわめて公平である、こういうような長所があるのでございます。
そして、その
分類は、
大分類が二十一、その次の中
分類が九十九、その次の小
分類が千九十六に分かれておりまして、そこまでは、この千九十九までは、
世界各国はもう同じようなものを採用する。
そのものを採用する。その千九十六の下に、今度は
税目を小さく分けていく。それは
各国が自分の国の都合によってしかるべく
分類していい、こういうことになっております。その
分類が、前申しました、
先進工業国では二千ないし六千に分かれておると申し上げましたそれなのであります。
そこで、それでは
日本の方はどうしたかと申しますると、その
分類によりまして分けましたのが二千二百三十三でございました。
日本は九百四十三が二千二百三十三となりました。まず
先進工業国と大体同じ程度になってきたと申し上げていいのだと存じます。そう二千二百三十三となったのでありますが、それと前の
税率とを比べたならばどういう結果になっておるかと申しますると、
税率の上がったものが二百五十一、下がったものが三百八十六、据え置きが千五百九十六でございます。
それでは、その上がった二百五十一というものについてはどういうものなのかと申しますると、それは大体
二つありまして、
産業政策上、今後これから後育成すべき
産業である、こう認めるものにつきまして引き上げをいたしました。
バター、
チーズ等、あるいは
化学薬品、
工作機械の一部というようなものであります。それから、
自由化になりますると、前にも申し上げましたように、
外国からたくさん入ってくるかもわからない。そのために、非常に
衝撃を受ける
産業、今のままではこれは
日本の
産業として立っていきにくいというようなもの、そういうものについて、その
外国からの
衝撃を緩和するというようなものにつきましても、引き上げたものがございます。大豆であるとか、
非鉄金属の一部であるとかがそれであります。
それでは、
税率を引き下げたものはどうか。どんなものを引き下げたのかと申しますると、これは、
昭和二十六年の当時は
相当に保護をする必要があった、しかし今はもう十分だ、
国際貿易の
競争場裏においても十分にやっていけるというようなもの、そういうものに対して引き下げたものがございます。これは、たとえば双眼鏡であるとか、あるいは陶磁器であるとかいうようなものを引き下げました。いま
一つは、
奢侈品について引き上げました。
奢侈品というものにつきましては、ずっと前は十割−一〇〇%の
関税をかけておったのでありまするが、
昭和二十六年にはこれを五〇%ないし四〇%というものに引き下げておりました。それが
現行の
税率なのであります。しかし、今はこれは少し下げてもいいじゃないかということで、この五〇%ないし四〇%を、一〇%くらいずつ引き下げまして、四〇%ないし三〇%というものにいたしました。これは貴石であるとか、貴金属あるいはミンクなんかの毛皮というようなものでございます。それから、いま
一つは、国内に
生産のないもの、これも引き下げました。たとえば
ココア豆のごときものであります。
その他のもの、千五百九十六の非常にたくさんの
品目になっておりまするが、
そのものはどうであるか。これも
二つに分けることができます。
一つは、各
方面から調査いたしまして、その
調査審議の結果、現状のままがいいんだというものが
一つであります。そしてそれが千五百九十六の大
部分でありまして、みんな
相当に
審議を加えた結果、これでいいのだというのが大
部分なのであります。いま
一つは、調査して今きめようと思っても、きめるのが適当でないというものなのであります。
関税できめるよりも、もう少し先行した
政策が必要であると考えられるものなのであります。これは米だとか小麦だとかいうような主食、あるいは砂糖であるとかあるいは
非鉄金属の一部である銅だ、鉛だ、亜鉛だというようなものとか、石炭、
石油というようなものがそれなのであります。大体大きく
分類するとこの
二つがあると存じます。
こういうように、まあ大ざっぱに分けると分けることができると存じまするが、それでは、その結果として、
税率を全体として見たらどうかと申しますると、二千二百三十三のうちに、無税のものが二百八十、それから一〇%までのものが二百三十六、一五%までのものが五百五十四、二〇%までのものが五百八十九、二五%までのものが百八十三、三〇%までのものが百十五、さらにずっと上の方になって、たばこになりますと三五五%、
——二〇〇%のもあるし、それから三五五%のものまでありまするが、これはむしろ専売に関するもので
例外であります。まずそういうようなものが主たるものでありまして、その中で、今申し上げた数字からごらん願いましても、一五%のものと二〇%のものを合わせますと、これが千百五十四になりまして、五割一分、この
二つで半ばをこえておるというわけであります。すなわち一五%、二〇%のものが一本の
税率では最も多いのだということであります。それにその次の一〇%のものを加えますと、これは六割二分、全体の六割二分で、六割以上になるというのでありまして、まあ一五%、二〇%、逆に見ますと、二〇%が一番多くて、一五%、これで半分、それからさらに一〇%を加えて六割をこえるというのが、大体の
分布図であります。
こういうような
内容になっておると存じまするか、時間もあまりありませんので、
一つ税率の
内容はこのくらいにいたしまして、さらに
制度のことについて、一言申し上げたいと存じます。
今度新たに作られた、今度の
法案に作られた、今
法案になっておる新たなもの、今までの
法律と違っておるものに、
緊急関税とタリフ・クオータとがございます。
緊急関税につきましては、業界各
方面が非常にこの成立を要望しておったものであります。
緊急関税というのは、これはあまりくどく申し上げるのもいかがかと存じまするが、新たな
制度でありまするので、
一言説明を加えたいと存じます。
日本の
租税は、これはもう釈迦に説法のようになると存じまするが、の八十四条によって
租税法定主義、必ず
法律によらなければならない。すなわち、この
国会の議決を得なければならないということになっております。これは旧
憲法にも二十四条に同じような文句がありました条文がありました。とにかく昔から、従ってずっと前から、
租税は必ず
法律によらなければならないということになっておりました。ところが、
貿易・
為替が
自由化になると、
外国の
品物がどっと入ってくるおそれがある。そのために
日本の
産業が非常に脅かされる、
日本の
産業が非常な
危害をこうむるという場合が、十分に想像できるわけであります。そうしてその場合に、
国会の一々
審議を待っているといたしますると、
産業上あるいは
国民経済上
支障を来たすおそれがある、こういう場合に
政府限りで
一つ、
租税法定主義というけれども、その
税率そのものを全部
国会の議を経ることなしに、
政府限りでこれを動かし得るように
法律で
委任してもらいたい、
法律から
委任を受けたいというのが、その趣旨であります。そうしてこれが今の
憲法上でも、
相当の制限を付するならば、
関税に関する限り
違反ではない、こういう
解釈を下しているのであります。
もっとも、このことにつきましては、今さらこの
関税が、
憲法八十四条のいう
租税法定主義で、すべてを
法律できめなければならないのだということの
例外をなすということは、すでにこの
国会で認めているところでありまして、現在の
関税法を見ましても、
関税定率法等関税に関する
法律を見ましても、たくさんありまして、今さら始まった問題でなしに、
関税が
委任命令によるというものはたくさんあります。ありますから、
緊急関税のみが
委任命令によることはできない、どういう条件をやったところでそれは
租税法定主義の
違反になる、というような
議論はできないわけでありまして、旧
憲法の場合にも、二十四条に現在の八十四条と同じ
規定がありましたが、この場合にも、
関税に限って、
租税であっても
委任命令のものがたくさんありました。現在においてもあります。従って、これがいかなる場合にも、
緊急関税は、そういうような
委任による場合は
憲法の
違反であるというような
議論は、これはかえっておかしなものであると存じます。ただ、その
要件であると、あるいはその
範囲であると、どの
範囲でやれるかということのみが、
憲法の
違反であるかどうかという問題になってくるのであると存じます。
それでは、今度の
緊急関税というものはどういう
要件を備えた場合に発し得るかという問題になってくると思います。そこで、今の
緊急関税というのは、まず第一に、特定の
生産品が海外で、
日本以外の
外国で
価格が低落するなどの理由によって、わが国に
相当に多量に入ってくるという場合、こういう
要件が
一つなければならない。その次は、その入ってくる
当該輸入品と同種の
日本生産品またはその類似の
日本の
生産品が、
産業として非常な
危害をこうむる、または非常な
危害をこうむるおそれがあるということが、その次の
要件であります。もう
一つは、
国民経済全体の立場から見て、そういう
委任命令を出すことが緊急やむを得ないのだと認められる場合と、この三つの
要件のすべてを備えないと発動することができないと、こういうように縛られております。そうして、その
限度はと申しますると、その
外国から入ってくる
品物に普通の現在今ある
関税をかけるといたしまして、正確にいえば
関税相当額を加えて、そうして
日本の正常なる市場の
価格と比べて、その
差額、
日本の結局
生産品より幾ら安く入ってくるかということを比べて、その安く入ってくる
差額の
範囲内に限ってかけ得る、こういうことを
委任する。
範囲がここに局限されておるのであります。しかも、そういうものが
相当期間続いたならば、これは
法律に直さなければいけない、
委任命令のままではいけないと、こういうようになっておるのでありまして、非常なきびしい制約があるのであります。
で、いま
一つは、
ガットの
譲許税率を撤回しまたは修正することができる。その場合に、
ガットの
税率を撤回したりまたは修正するために、
外国はそのままでは黙っておらないと思われますので、その代償として新たな
品目に対して
税率を譲許しなければらない。今の
法律できめた
税率を引き下げてやる場合もある。そういうことも
委任命令でやり得る、こういうようになっておるのであります。これが
緊急関税であります。
それから、もう
一つは、
タリフ・クォータであります。
タリフ・クォータは
法律でちゃんと
税率も
二つまたは
二つ以上の
税率をきめておきまして、ある
数量までは低い
税率にし、その
数量をこえたならば高い
税率にする、こういうようなのが
タリフ・クォータでありまして、その具体的の
数量、それからその
決定方法というのは
政令によってきめる、
政令に
委任する、こういうのであります。
ニッケルとか
高速度鋼であるとかにこれを適用することになっております。
これが
関税定率法の一部を
改正する
法律案に対し私の御
説明申し上げることの大要でございます。
その次に、
関税暫定措置法の一部を
改正する
法律案について一言申し上げます。
これは、
関税暫定措置法と申しまするのは、私が申し上げるのはいかがと思うのでありまして、毎年々々この
国会に出て、一年を
限度といたしまして減免しておるのでありまして、毎年出ておりまするので、これについてあまり申し上げるのはいかがかと存じます。ただ、今回これに加わったものがありまするので、そのことだけを申し上げますると、今度新たに
ガス事業用の
原油が
免税になったということと、それから、今回もう
一つ加わったものに、
暫定増税、
暫定減税というものがあります。この
暫定増税、
暫定減税というものは、前申し上げました
関税定率法の一部を
改正する
法律案と密接なる関係がございます。前申し上げましたように、
関税定率法を
改正いたしまするが、これは今の
自由化とかみ合わせまして、そうして
生産者、
消費者、あらゆる
方面を考えると、
改正したものをそっくりそのまま今すぐ施行してそのままを実施することは穏当を欠くというようなものがある。こういうものについて、暫定的に増税しておく、あるいは暫定的に減税しておくというものであります。暫定的に増税するというものの中には、
ニッケル等がございます。もう一ぺんいえば、
ニッケルの方うからいいますると、
ニッケルは、
タリフ・クォータという新しい
制度と、今度の
暫定増税という新しい
制度と申しまするか、まあこれは
制度といっていいと思いまするが、それとをかみ合わしました
一つの考え方なのであります。今度、新たに考えられたというか、
外国には
タリフ・クォータというのはずっと前からありまするが、
日本に採用されたものなのであります。
暫定減税というのにつきましては、
法律では高くきめておくけれども、それを今すぐ
自由化になる前に施行したならば
消費者にいろいろな影響を及ぼすというので、
自由化するまでは減税しておく、
自由化になって初めて
定率法にきめたようなものを適用するというがごときものでありまして、
バターであるとか
チーズであるとかいうようなものがございます。これが今度の
関税暫定措置法の一部を
改正する
法律案の中の最も特徴あるものであると存じます。
あらかじめ与えられました時間が大体来ましたようなので、私の
説明を一応終わることにいたします。