○上林山
委員 私は、自由民主党を
代表して、ただいま
議題となりました
昭和三十六年度
一般会計予算外二件に対し賛成し、
日本社会党並びに民主社会党
提案の予算組みかえ案に反対の討論を行なうものであります。
まず、私が本案に賛成いたします最も大きな
理由は、わが自由民主党が、昨年の総選挙において
国民諸君に公約しました多くの重要
政策が、本予算案においてことごとく実現を見ているということであります。
総選挙における公約の中心的課題は、一言にしていえば、
国民所得の倍増を目ざす新しい
経済成長の
政策であります。
この計画は、申すまでもなく、十年以内に
国民総生産を倍増し、完全雇用を実現し、生活水準を大幅に引き
上げようとするものでありますが、わが党の構想は、あくまでも自由
経済の
原則の上に立つもので、産業を国営にしたり国家管理にしたりして、
国民の自主性と自由な
経済活動を縛るようなことは
考えないのであります。計画を実現する原動力は、あくまでも
国民であります。
政府としての任務は、
国民経済の持つ潜在的な成長力を正しく評価しながら、成長の要因を積極的に培養し、また成長を阻害するいろいろの要因を排除して、
国民の創意が十分に発揮できるように、また職を求むる何人にも、適当な所得で、その希望を満たし得る環境を作り、必要な
条件を整えて
経済成長を促進しようとするものであります。わが党の
財政政策は、この意味におきまして、まことに重大な役割をになうものであります。しかも今日特に必要なことは、農業と非農業との間、大企業と中小企業との間、地域
相互間並びに所得階層間に存在する生活上及び所得上の格差の是正に努めなければならないことであります。
かくして、
国民経済と
国民生活との
均衡のある発展を期するのがわれわれの責任であります。
この予算の編成にあたり、
政府が減税、社会保障、公共投資を三本の主柱とし、中小企業、農林漁業の近代化、後進地域の開発促進、
貿易の振興、文教の拡大充実を特に重要な事項として、最大限の予算措置を講じておるのは、わが党の右申し述べました基本構想にのっとるものであり、政党
内閣としての躍進を示すもので、
政府の所得倍増に対する意欲と熱意が十分くみ取れると同時に、予算編成のかまえ方が理論的にも正しいと信ずるものであります。
これが私の本予算案に賛成する基本的な
態度であります。
以下、少しくこれらの重要施策の諸点に触れてみたいと思うのであります。
第一に、減税であります。わが党の公約による減税額は、国税、地方税を合わせて平年度一千億以上でありますが、本予算案においては、国税のみでも平年度一千百三十八億に達し、所得税において、特に課税所得七十万円以下の中小所得者の負担の軽減をはかることを初め、妻を扶養家族扱いする現在の建前を改めて、新たに配偶者控除を設け、所得税における妻の座を高めたことは、
世界にも例の少ないことであり、また中小企業者の体質改善と経営の安定に資するため、所得税、個人事業税における専従者控除の拡大、法人税等における耐用年数の改定、特別償却の拡充、同族会社留保所得課税の軽減等をはかっておることは、特筆されてよいと
考えるのであります。
減税の規模が一部縮小したかに見えるのは、租税特別措置の合理化でありますが、これはかねてより社会党の諸君も強くその整理を主張されているところであります。また揮発油税、軽油引取税等の税の引き
上げによる料金への影響は、〇・八ないし一・七%程度であって、道路整備が、公約
通り画期的に促進されるのでありますから、大局的に見て、
国民に好結果を招来するものと信ずるものであります。
第二は、社会保障についてであります。福祉国家の建設を目ざす今回の新
政策において、社会保障そのものが同時に
経済成長
政策の一翼でもあり、またまさに所得格差を是正するものであります。本予算案における社会保障
関係費総額三千四百六十七億円は、前年度当初予算に対し六百三十六億円、約三五%の大幅な増加であり、各省所管予算中、低所得者層対策の経費を合算すれば、昨年度に比し七百八十億円という飛躍的増加を見たのであります。特に生活扶助基準を一八%という大幅な割合で引き
上げたごときは、最近の改定が常に三%程度であったことを顧みますならば、いかに画期的なものであるかは、社会党推薦の公述人も賛意を表したごとく、特に強調に値するものと思うのであります。また結核及び精神衛生対策においても、三十五年度に倍する予算措置を講じておりますが、生活保護層への転落の原因の過半が、傷病、なかんずくこれら長期療養を要する疾患となっている実情を見るとき、またカード階級の結核被病率が一般の十三倍であることを思うとき、今回の施策は、まさに貧乏と病気の悪循環を断ち切る防貧対策に巨歩を踏み出したものと信ずるものであります。
以上のほか、本予算は、生別母子世帯の児童扶養手当制度の創設等各種目にわたって、この種事業に必要なきめのこまかい施策を充実しており、たくましく成長する
経済のらち外にある不幸な人々に安定した明るい生活を約束し、福祉国家建設に画期的
前進を示しているのでありまして、率直に賛意を表する次第であります。
第三は、公共投資についてであります。道路、輸送施設、治山治水、用水施設、産業立地
条件の整備等、いわゆる社会資本の充足は、所得倍増計画達成のため
政府のなすべき重要なる役割であります。三十六年度においては、予算及び
財政投融資を通じて、これら公共投資の飛躍的な拡充をはかり、民間設備に比較してはなはだしく立ちおくれぎみにあります公共施設の整備充実により、産業の
均衡的発展をはからんとしているのであります。特に道路、港湾等については、三十六年度を起点としてそれぞれ新五カ年計画を策定し、道路二兆一千億円、港湾二千五百億円の巨額の行政投資を行なうほか、今後の産業の拡大に対処するため、産業用地の造成と工業用水の確保についても、予算及び
財政投融資を通じ顕著な
前進を示し、後進地域の開発については、公共投資全般を通じて格段の配慮を加えるとともに、補助率等についても特別の措置を講ぜんとしておりますことは、後進地域の所得の格差是正に対して多大の貢献となるものであります。
次に、人間能力の向上と科学技術の振興は
経済成長の不可欠の要件であり、また産業構造の高度化に対応し、労働の質の向上とその流動化が強く要請されることとなるのでありますが、本予算においては文教
関係費において、前年度当初予算に対し、科学技術教育を中心に約四百四十四億円、二四%の飛躍的な増額をはかるほか、雇用促進事業団を新設し、職業訓練、職業紹介等の施策を強化拡充し、
経済の成長、産業構造の高度化に対処しておることは、まことに時宜に適した措置と申さなければなりません。
次に、農業部門においては、麦の作付転換対策費、畜産物事業団、農地信託制度、農協資金の活用による農業経営近代化資金の創設等は、農林漁業の体質改善と近代化へ大きく踏み出したもので、農業基本法の制定と相待って、農山漁村に明るい希望を与えるもので、ともに喜ばざるを得ないのであります。
中小企業の近代化、
貿易の振興、海外
経済協力等の諸施策についても、それぞれ適宜な措置が講ぜられておることは申すまでもありません。
予算と表裏一体の
関係をなす
財政投融資について一言申し
上げますならば、
財政投融資のあり方は、公共的性格の強い部門に比重を置くべきが本来の姿でありまして、三十六年度の計画におきましては、総額七千二百九十二億円中、その八〇%以上は生活環境の整備や厚生福祉施設、中小企業、農林漁業、国土保全、地域開発等、
国民生活の安定向上をはかる部門へ配分せられ、従来より著しく改善の跡を見ておること、また三十六年度より発足する拠出制
国民年金等、長期の社会保険資金は一括して郵便貯金と区分し、年金資金として新規増加の四分の三強の金額は、
国民生活の安定に直結した部門に配分しておることは、まさに当を得た措置と思われるのであります。
さて、私は以上申し述べましたような内容の予算案が、その規模において適正なりや、その
経済的性格が妥当なりやの点に論及いたしたいと存じます。
まず、その規模でありますが、私は
結論として、本予算案は
財政の健全性を確保し、しかも
わが国経済の成長に見合った適正な規模で編成されているものと信じます。すなわち、一般会計は歳入歳出とも一兆九千五百二十七億円でありますが、歳出の一切が租税その他の普通歳入によってまかなわれ、赤字公債の発行ないしは過去の蓄積を食いつぶすがごとき措置はとられておらず、収支
均衡を得た健全な予算であると断ずるものであります。
なるほど、三十五年度当初予算に比べて三千八百三十一億円、約二四%の大幅な増加となっていることは事実でありますが、三十五年度補正後の規模に比べますならば、一〇・六%の増加でありまして、この予算規模を三十六年度
国民総生産見込額に対比してみれば一二・五%であって、三十五年度当初予算の一二・四%とほぼ同様であり、三十四年度の一三・二%よりは逆に低いのであります。また
国民所得と対比しましても、三十五年度とほぼ同程度で、過去数年の実績とも大差はないのであります。さらに、
政府の財貨サービス購入の
国民総支出に対する比率も一九・三%であり、三十五年度とほぼ同じく、三十四年度よりは低く、
国民経済に対する
財政の比重として妥当なものであります。また三十六年度
経済においては、消費支出の増加は名目で一〇・七%と見込んでおり、この程度の増加が可能かどうかは九・八%の成長の成否にかかっておりますが、本予算は前述のような編成でありますから、消費支出の増加をバック・アップするものといえましょう。
また、
財政投融資の規模についても、一般会計と同様のことが言えるのみならず、設備投資としては前年に比べ三割増でありましても、需要効果が大きく、生産力効果は間接的であるものが多いので、過剰生産をもたらす危険はないのであります。従いまして、この予算規模は適度であり、また
経済的効果も適度であると認められるのであります。従ってインフレを招くがごとき懸念はないものと信ずるものであります。これらの点は、客観的な学者の
立場に立つ与野党推薦の公述人諸君も、
原則としてひとしく認めておることは意を強くしたところであります。
以上述べて参りましたごとく、本予算三案は、その規模において、内容において、
わが国経済の現状にかんがみ、所得倍増計画を達成する第一年度として適切な予算であり、
国民諸君に対して
国民所得の倍増を約束し得る希望に満ちた予算であることを確信いたします。
しかしながら、私は本予算案を検討いたしまして、いささか懸念される面もなしとしないのであります。すなわち、行政面におきましては、その運営の能率化、公共投資につきましては、その運用の効率化、また
経済金融面におきましては、
政府の目ざす
経済成長率に見合う民間設備投資のあり方、ないしは消費者物価の動向等に関するものでありますが、私は特に消者者物価につき一言いたしておきたいと思います。
今次の予算におきまして、国鉄運賃等一部公共料金の値
上げが認められ、また民間におきましても、サービス部門の一部料金の値
上げ等が行なわれております。これらの事実を見て、所得が倍増される以前に物価の方が倍増されるなどという批評のごときは、きわめて短見で、もとより当を得たものではありません。私は、従来不当に長く押えられてきた国鉄運賃のこの程度の合理的改定は、
経済成長
政策達成上むしろ当然と
考えます。また、生産性の向上によって賃金の上昇を吸収し得ない、たとえばサービス部門における手間賃等の適正な値
上げは、これらの職業に従事する人々の所得の増加という点からも、これを容認するにやぶさかではありません。しかしながらこの種の値
上げに便乗するがごとき物価の値上がりがあるといたしましたならば、これに対しては重大な関心を払わざるを得ないのでありまして、公聴会においてもきわめてまじめな意見や希望が開陳せられたのであります。ゆえに
政府としましては、物価に対する基本的
考え方を一そう明らかにするとともに、その動向については十分意を用い、
国民の納得の上に健全な対策を用意される必要もあるものと思われるので、慎重な考慮を望むものであります。
なお
政府に要望いたしたいことは、
国際経済の動きに深く注意されたいことであります。特に米国のドル防衛に対しては、ドルが自由主義国全体の基礎通貨であること、
わが国経済の立ち直りに多大の寄与を惜しまなかった通貨であること、さらには
わが国のドルの手持ちが現に多額になっておること等を十分
考え、これをわがこととして遺憾のない措置を講ぜられたいのであります。一方
貿易の振興については、現に一月の
国際収支が、総合収支は黒字であるが、九千九百万ドルの赤字であることにも顧み、格段の留意を払うべきであります。
私は、意欲的な倍増計画第一年度の本予算案の成立を目前にするこの機会において、最後に
所見を述べさしていただきたいことは、一言にして言えば、
日本人はすべてにもっと自信を持つことだと存じます。そして建設的意欲を持って
前進することだと思います。
日本はすでにして
経済力は驚異的な伸び方を示しているのであるから、私はこの際倍増計画が
国民の良識ある協力によって成果を
上げることを心から望むものであります。そして
わが国民がまず
経済の充実から新しい国作りに自信と誇りを持ち、西欧
諸国と同じような自信と力とを背景にした
国際社会に対する発言力と説得力とを十分に発揮するようにしたいと思うのであります。
池田総理は、そうした意欲を作り
上げるため、倍増計画の推進に一段の力を注がれるとともに、寛容と忍耐にとどまらず、積極的に
国民を説得してリーダーシップをとり、
国民全体が正しい
姿勢がとれるよう努力を新たにされることを期待をするものであります。
次に、社会党の組みかえ動議について意見を申し
上げます。
まず、案そのものの内容を批判する前に、はなはだ理解に苦しむのは、三十六年度予算に対する社会党の
態度であります。御
承知の
通り、社会党はさきに約二百億円のワクの修正案を示してわが党と折衝をされたのでありますが、修正という以上、修正する部分以外は大体において賛成するということでなければ筋が通らないのであります。ところが党の
態度を一たんそうきめておきながら、修正
交渉が整わざるや、今度は
政府案を上回る二兆五百七十四億円の予算規模で、しかも修正
交渉のときに数倍する大幅のはなはだ非
現実的な組みかえ要求であります。こんなやり方はあまりにも見えすいた便宜主義的な
態度ではないかと思います。もしそれ修正
交渉の
態度と内容が真に正しいと思うならば、堂々とその内容と同一の修正案をここに出すのが本筋ではないかと思うし、またそうしなかったことは、社会党の成長のためにも惜しまれてなりません。
さて組みかえ案の歳入歳出を見てみますと、歳出をふやす面では、いろいろ詳しい事情を知らない人々を喜ばせるようなけっこうな項目が並べられておりますが、問題はその財源であります。まず
防衛費の削減八百五十八億円でありますが、どういうやり方で自衛隊をつぶそうとしているのかはともかくとして、これはわれわれの自衛のための防衛
政策とまっこうから
対立するもので、もちろん容認できるものではありません。このような削減が国内的及び
国際的にどのような影響を与えるものか、社会党も
現実的に冷静にもう一度お
考え直しを希望しておきたいと思います。
次に、軍人恩給の削源六百五億円はどんな内容を持つものか、つまびらかではないが、いずれにいたしましても、大きな
現実的な社会不安を引き起こさざるを得ないことは火を見るより明らかであります。また歳出の削減のうち、事業量を減ずることなく公共事業費を一千三十五億円も削減するというがごときは、事業の重要性に理解のないばかりか、このやりくりは全くの手品というほかはないと言わざるを得ません。
次に歳入の面を見ますと、税収の見積もりがはなはだずさんで、自分に都合のいい無理な見積もりをしているようであります。たとえば所得五百万円以上の法人の税率、現行の三八%を四〇%に引き
上げるということによって四百五十億円の増収を見込んでおります。これは時間の都合で説明を省きますが、約二百億円の水増しがあるようであります。しかしこの際そういう計算上の誤りはさておき、問題は社会党の税制に対する基本的
態度であります。社会党は現行の税制を大資本擁護の税制であると独断的にきめておられるようでありますが、いや、これは税制だけでなく、わが党の
財政経済政策全般に対する攻撃でありますが、しかしこれはあまりにも木を見て森を見ない
議論ではありますまいか。終戦後のあのみじめな状態からいかに
経済が立ち直ったか、いかに
国民大衆の生活水準が上がったか、そして特にここ二、三年来の
経済成長がいかに国内に繁栄と幸福をもたらしつつあるか、この辺を公平に冷静に見ていただけば、結局はわれわれの
政策がいかに
国民全体の利益になっているかということが明瞭であろうと思うのであります。
経済の成長を促進することによって、低所得層を含めた
国民全体の生活を向上させる、これが
国民政党たるわれわれの
政策であります。鶏を育て太らせることによって金の卵を産ませる、これが
経済成長の
政策であります。社会党のやり方は、鶏をいじめ細らせようというのです。これでは金の卵を産むどころか、やがて鶏そのものまで殺して、
国民は食うに困るようになることは明瞭であります。このような
理由から私は社会党の組みかえ動議に反対するものであります。
最後に、民主社会党の組みかえ案でありますが、
防衛費の削減その他の面で社会党案とは相当異なった
現実的な点が認められますが、社会党案に対して述べたのとほぼ同様な趣旨において反対するものであります。
以上をもって私の討論を終わります。(拍手)