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湯山勇君 私は、
日本社会党を
代表いたしまして、ただいま
議題となりました二つの
法案に
反対の
討論をいたします。
もともと、
市町村有林というような
公有林は、条件の悪い、
生産性の低いところが多いのでございまして、
財政力の弱い
市町村がこれに木を植え、これを維持管理するということは、とうていできないことでございます。そこで、これらの
市町村有林や
部落有林等の
公有林は、国がこれに
造林を行なって、その上がった
収益は国と
市町村が半々に分ける、こういう分収の
制度を設けておったのでございます。国はこれによって
国土保全をはかり、分収によって
市町村や
部落を潤す、こういう
制度でございますから、
市町村にとっては大きな魅力でございますし、後には、この
官行造林の
制度は
民有林にまで拡大されて参ったのでございます。大正九年に
官行造林が実施されてからすでに四十年の歴史を持っておりまして、その間、三十四万
町歩の
造林が行なわれ、今後なお
昭和四十四年までの九年間に二十三万
町歩余の
造林を行なう計画を立て、すでに国が
契約をしておる
面積も三万
町歩に及んでいるのでございます。ところが、今回、突然、国が行なう
官行造林をやめて、これを
森林開発公団に移そうというのでございまして、以下、数点にわたって
反対の
理由を申し述べたいと思います。
その第一は、この
法律の立案の動機がきわめて不純であって、民意に反するものであるという点でございます。
官行造林の
廃止に
反対の
請願やあるいは署名はすでに十万をこえておるのでございますけれども、
官行造林を
廃止してもらいたいという
請願は、いまだ
国会に一件も出ていないのでございます。(
拍手)その
反対の
意見というのは、すべて山を愛し、森を愛する、そういう至情に出ておることは申すまでもないのでございますけれども、その
内容とするところは、第一は、
官行造林が
廃止されて
公団と
契約することになれば、今までよりも不利になるのではないか、第二は、長年にわたって親しみ、しかも、
信頼をしてきた
官行造林を、
土木事業専門の
森林開発公団に安心してまかすことができない、こういうことでございます。そもそも、
森林開発公団というのは、
奥地林道を開発する、これがおもな
仕事でございまして、
昭和三十一年から、約五十億の
費用を使って、
土木事業を
専門に行なってきたのでございます。しかも、この五十億の大
事業を、人員がわずか百三十八名、そして、五十億の大きな
仕事をするのに、持っている道具はわずかにダンプカー一台というのでございますから、まことに驚くべき
公団でございます。従って、この
公団のやった
事業についてもいろいろな批判があるのでございまして、この
公団にまかし切れないという
国民の声は決して無視できないと思うのでございます。(
拍手)さらに、心配の第三は、
官行造林の
廃止によって、長年
山林とともに生きてきた
人たちが山を追われ、生活を脅かされる、こういうことでございます。こういう
国民の間に不安があるだけではございません。自治体の間にも、あるいは
政府部内でも、幾らか
実情を知っておる
自治省は、
官行造林の
廃止に大きな不安を持っておるのでございます。
法案が提案される前、一カ月にわたって
自治省と農林省とが折衝を重ねましたが、その最後の二月の二十一日に、
林野庁は、
市町村にとって不利にならないように
森林開発公団を指導監督することを基本的な
方針として、従来
通りに、
市町村の取り分、すなわち、分
収率を五〇%を標準とすること、さらに、
市町村等の
公有林野については勝手なことをさせない、こういう立場から、
林野庁は
自治省に
十分連絡協議をする、こういうことを
内容とした
了解事項を
公文書で約束して、しぶしぶ了承したことになっているのでございます。つまり、
政府提案の
法律に、
政府部内でこれだけ心配しなければならないという事実は、この
法律がどんなによくない
法律であるか、これを
政府みずからが証明しておるものといわなければなりません。(
拍手)
思うに、この
法律のねらいは、
国土の
保全や
山村の
人たちのためのものではなくて、予定の
事業がもう終わってしまって、当然
廃止さるべき
森林開発公団の延命の策である、さらにまた、これは、将来退職した
高級公務員が、ここへ退職後の身を引き受けてもらう、そういう場所を作るためのものでしかないと私どもは考えざるを得ないのでございます。(
拍手)おそらく、
与党の
皆さんの中でも、
官行造林をどうしても
廃止しなければならない、こういうふうに考えておられる方はほとんどおられないのではないでしょうか。
国民が希望していないで、このように不安を感じている
法律が、一部の者の策動によって、しかも、この
法律が特殊な
法律であるために多くの人が関心が薄いままに、それに乗じて手続が進められ、そして、
政府提案となり、
政府提案だからというので
与党の
皆さんが多数でこれを
議決する、こういうことになれば、一体、議会の権威はどこにあるのでしょうか。さらに、こういうことは
民主主義の原則にも反することだと思います。(
拍手)
反対の第二の
理由は、
官行造林の
廃止は
国民の国に対する
信頼を失墜させるということでございます。
官行造林の
契約は、
法律によって、国と
市町村あるいは国と
部落、国と個人の間で結ばれております。すでに、今後
官行造林をやってもらうという
契約を完了している
面積も三万
町歩に達しておりますし、さらに、今後九年間にわたって
契約できることを期待して用意をしている
山林面積は約二十万
町歩に達しております。しかも、昨年の十月には、
農林大臣は、
官行造林法施行四十周年記念の
全国大会に出席いたしまして、
全国の
代表に、
官行造林の
成果を大いにたたえまして、さらに、この
事業が
国土保全と
水資源確保に輝かしい
成果をおさめ、ひいては、わが国の繁栄に大きな貢献をもたらすよう、これを契機に一そうの御
協力を賜わりますよう衷心からお願い申し上げます、こういうあいさつをしておるのでございます。その舌の根もかわかないうちに、しかも、何らの事前の
了解もなく、突然、
法律改正によって、この
契約を解消しようというのでありますから、
関係者にとっては全く青天のへきれきであります。(
拍手)本来、国が
契約を結ぶ場合には、国は
契約違反をしない、そういうことが立法の前提でございます。そういう
信頼があればこそ、
山村の
人たちは、この
事業に
協力もするし、
契約も結んできたのでありますが、これを一方的に
法律によって
廃止しようとするのでありますから、これは、
国民の
契約によって生じた権利、利益を一方的に侵害することになって、
憲法違反のおそれもあるのでございます。(
拍手)
そこで、
官行造林を
廃止する
法律では、その
附則の中に「この
法律の
施行前に
公有林野等官行造林法に基づき締結された
契約については、同法は、なおその効力を有する。」こういう
規定を入れております。しかし、忠実にこの
規定を守るかというと、
政府の
説明によれば、
契約者と話し合いをして、その
了解を得て、これを
公団にやらせる、どうしても
了解のつかないものについてのみ従来
通りの
官行造林を国でやっていく、こういう答弁をいたしておるのでございますけれども、さて、これを裏づけるための
予算は、三十六年度の
予算には一文も組まれていないのでございます。つまり、
予算の裏づけを全然持たないで
事業をやるということは、これは全くほんとうの空文の見本のようなものでございます。
思うに、これは、おそらく、
法律が
施行されたならば、この
法律をたてにとって、権力を振りかざして、そうして、
契約解消を強要する。こういうことしか考えられません。これは、明らかに、
民主政治の破壊であるし、ファッショへの道に通ずるものと思うわけでございます。(
拍手)現に、今日、ただいまの段階で、植林の非常にいい好機を迎えまして、東京の町にも、あちらこちら
植木の市が立っております。その
植木市も、もう終わろうとしております。そうして、
山村では、その
官行造林に備えて、せっかくこの春に備えて用意しておった丹精の苗木が、今、腐れかかっております。にもかかわらず、国は約束をしておりながら、一本も植えてくれていないというのが今日の状態でございまして、この事実だけでも、明らかにこれは
契約違反、
法律違反だと断ぜざるを得ません。(
拍手)絶対に
法律、
契約は破らない、こう信じておったその国が、約束を守らないで、生きた苗を殺してしまう、そういうことをしたのでは、これは、国の
信頼を傷つけるばかりではなく、純朴な
山村の人々の怒りを買うことになるのであって、このような無責任な態度は、私どもはとうてい容認できないのでございます。(
拍手)
反対の第三番目の
理由は、
山村の人人や山で働く人々の生活を脅かすということでございます。
公団が今回の
造林に出す金十億円は、国有林野の特別
会計から
公団に出されることになっております。従来ならば、
林野庁から直接その現場にいっておった金が、今度は
公団を通ることになり、中間機関を通って、そこで幾らかの利潤を取って、それが
公団の運営に使われるというのでございますから、直接
事業にいく金が少なくなることは、これはもう当然であります。
そこで、
予算の単価を見ましても、三十五年度の
官行造林では一
町歩当たり約十万円を見ておりましたのが、今度の
公団の
造林では、その半分の、一
町歩当たり五万円しか見ておりません。これについて、
政府の
説明では、昨年の場合は、植えかえ、枯れたものの補植等を含んでいるから単価が高いのだ、今年度の場合と同じ条件で比べれば約一〇%多く見ているというのでございます。その一〇%の
内容は、大体、今度の場合は、奥地、不便なところ、そういうところが対象になるから、自然それだけの
費用が必要だというのでございますけれども、そうだとしても、鉄道運賃の値上がり、ガソリンの値上がり、その他物価の値上がりに対する分は全然見込まれておりません。こういうことになってくると、奥地で不便なところは見ておりますけれども、物価の値上がりの分を見ておりませんから、当然、単価の切り下げになって参ります。そのしわ寄せは、結局、その中で一番大きい比重を占める
人件費にしわ寄せしてくるのでございまして、働く人の賃金を下げるか、あるいは下請代金をうんと値切って、結局働く人を苦しめていく、こういうことになる以外に方法はないと思うのでございます。所得倍増の中で、ほんとうに苦労している山の
人たちだけが所得が切り下げられる、こういうことになってしまうのでございます。さらに、こういうふうに
予算が切り詰められておりますから、実際に計画
通りの
造林ができないかもしれない。しかし、
公団は、やらなければもうかりませんから、無理をしてやっていくことになると思います。その場合には、これは、水源涵養林とか、いろいろな条件がかりにつけられるといたしましても、従来の
官行造林法によって
市町村有林が優先する、こういう
規定があったのが、今度なくなりますから、
公団は、そういう条件の中でやりやすいところ、つまり、大
山林地主の私有林に手をつけていくことになることは、これは当然でございます。ことに、私有林の場合は、分取率、つまり、
公団の取り分も普通の
市町村有林よりも約一〇%方多いことになっておりますから、結局、もうけ主義の
公団がそういうことにいくことは、これはもう当然でございます。こういうことになって参りますと、大
山林地主は喜ぶかもしれませんけれども、
山村の人や山で働く人の生活はだんだん苦しくなってくる。それだけじゃなくて、今日まで長い間
官行造林で働いていた
人たちは失業の心配も出て参ります。
政府は、これについて、
官行造林で働いていた
人たちを全部国有林に吸収する、こういうことを申しておりまして、だから失業の心配はない、こう言明しておりますけれども、地元の労務者、こういう
人たちは、国有林へ移るために生活根拠地を変えなくてはならない、こういう人もたくさんございます。あるいは、それによって、従来木を植える
仕事をしていた人が、木を切るという別な
仕事にかわらなければならない、こういう人も出て参ります。さらに、婦人の労務者とか、あるいは農業と兼業しておる
人たちは、とうてい遠方の国有林まで働きにいくことはできません。幾ら
政府が首を切らないといっても、結局やめなければならない、やめさせられることになってしまうのでございまして、農民の首切りということでいろいろ批判を受けている池田
内閣の政策は、ここに山の人の切り捨ても行なう、こういうことになってしまうわけでございます。(
拍手)これが、一体、山に生き山を愛してきた人を遇する道でしょうか。
最後に指摘したい点は、
公団の
事業は、何といっても、企業性が優先いたします。もうけることを考えていかなければなりません。このことは、近きに例を求めるならば、公営住宅と
公団住宅を比べてみるときに、
公団住宅の評判が悪いことは、
皆さんよく御存じのことであります。もうけるためには、治山治水上の最も必要なところをあと回しにして、もうかる方を先にやっていく、こういうことも決してないとはいえません。そして、そのために、水害、河川の堤防の決壊とか、はんらんとか、そういうことが起こることは絶対ないと、だれが一体保障するでしょうか。こうなって参りますと、
森林開発公団は、ひょっとすると、
災害誘発
公団にもなりかねないのでございます。(
拍手)
どうか、自民党の
皆さんも、民社党の
皆さんも、
国会の権威と議員の良識を守る意味において、さらに慎重な御検討をいただいて、この二
法案に
反対の立場をとられんことを切望して、私の
反対討論を終わります。(
拍手)