○小林進君 公労委に対する仲裁請求並びにILO批准等、一連の労働問題に関しまして、
政府に御質問をいたしたいと存じます。
終戦後十六年の歳月を
経過いたし、ここで幾多の
法案、条約を
審議いたして参りました中で、今でも私のどうしてもふに落ちない点が二つございます。その一つは、ガリオア、エロアの返済の問題であり、その二つは、公共企業体等労働
関係法に含まれている仲裁裁定の問題でございます。私どもは、この二つに対しては、これくらい巧みに国民をだました事案はないと、今でも不可解な気持にとらわれておるのでございます。(
拍手)占領中は、何回も、ここで、われわれは感謝決議を上程いたして、そして、みんなで、ただもらったものと思っておりましたそのものが、今になって、これはくれたのではない、貸したのだというがごときは、まことに不可解千万といわなければならないのでございます。その点はしばらくおくといたしまして、次の仲裁裁定に関する問題でございまするが、公共企業体等労働
関係法は、皆様御承知の
通り、占領行政下におけるマッカーサーの命令で、超憲法的立場から制定されたのでございます。
そもそも、戦争に負けた日本に対し、極東
委員会は、日本の労働運動推進の原則を確定し、それに基づいて、労働組合法、労働
関係調整法及び労働基準法などが相次いで制定をされ、これら労働三法は、
国家公務員にも、地方公務員にも、民間における労働者と同様に適用されることを建前としておったのでございます。従って、
国家公務員も、三公社五現業も、労働組合員も、いずれも、憲法第二十八条の原則に基づき、労働三権たる団結権、団体交渉権、争議権の三つの自由権を持っておったのでございます。しかるに、その後に至り、マッカーサーの極東政策の転換により、政令二百一号が発せられ、公務員の争議行為及び労働協約の
締結を目的とする団体交渉を禁止することになり、ここに、公共企業体等労働
関係法案が初めて
国会に
提出せらるるに至ったのでございます。これは憲法を制限し、労働者の基本権を剥奪するものであるがゆえに、当時、世論はあげてこれに反対をいたしたことは、皆様御承知の
通りであります。
当時、
政府は、この
提案理由を左のごとく説明いたしておるのでございます。すなわち、公共企業体の
職員は、団体交渉権は、労働組合法の定めるところにより、完全に保有するのであります。しかるに、公共企業体の
職員には、
国家公務員に認められるその地位に関する特別の保障もございませんので、これにかえて、一、完全なる団体交渉、二、適正迅速なる調停、三、厳正なる仲裁制度の確立をすることにより
職員の生活の安定を保障する必要があるのでありまして、これに関する法制的処置を講ずるを必要としたのでございます。云々と言っておるのであります。繰り返して言うごとく、憲法に定められた労働者のただ一つの権利である争議権をとらんとする、ストライキ権を剥奪せんとするのでありまするがゆえに、国民はこの点に最も強く関心を寄せ、激しい論争を繰り返したのでありますが、これに対し、
政府は、断じて
職員の生活の安定は保障する、そのために完全なる団体交渉、迅速適正なる調停、厳正なる仲裁制度を確立して、これに従うということを公約いたしておるのでございます。
この
法律は、かくして、
昭和二十四年六月施行せられ、自来十余年の歳月を
経過いたして参りました。しかして、この間において、
政府は、このみずからの公約を、はたして完全に実行したかどうか、われわれは、まずこの点を振り返ってみなければならぬのでございます。今年二月末まで、仲裁件数九十件、その中の賃金改定六十三件、わずかの予算上、資金上可能の分はこれを
承認しながらも、実質的に労働者の願望する重大なる要求は、いずれも予算上、資金上不可能分として
国会に
提出をせられ、それは二十八件に及んでおるのであります。そのうち、賃金改定分で、
国会へ出たまま、じんぜん歳月の
経過にまかせておき、いつか支出可能として消滅したもの十七件、実施日を全くおくらせて
承認し、その効果を失わせたもの十件、金額を限定して
承認したもの一件、
承認しなかったもの一件という状態であります。そのいずれもが欺瞞もはなはだしい不完全実施であって、このために、この十年間、公共企業体労働者八十万の失った額は、実に驚くなかれ、七百億円以上に及んでおるのでございます。(
拍手)この七百億円は、公共企業体に働いている労働者の、人間として生きる最低の生活を潤す金でございます。愛する子供をいたわり、疲れたる妻を慰め、家庭を潤し、教育のために費やす、とうとい金なのでございます。これを、
政府は、仲裁裁定を実質上ボイコットすることによって、労働者から奪い去ってしまったのでございます。(
拍手)労働者のスト権奪還の要求は、まことに当然であるといわなければならないのでございます。(
拍手)これを首相及び
関係大臣はいかに解せられるや、私は承りたい。ここで、だまされた労働者が、われわれはもうだまされない、スト権を返せと要求すること、はたして
政府の側にも責任がないかどうか、スト権奪還を叫ぶ組合のみにその責任を転嫁せんとする卑怯な行為は
政府みずから反省する余地があるかないかを、私はお伺いいたしたいのであります。(
拍手)
第二の公約として、
政府は、厳正公正なる仲裁裁定を確立し、その決定に服することを公約いたしました。しこうして、今日ある仲裁裁定は、はたして厳正にして中立なりやいなや、われわれは非常に疑わざるを得ぬのであります。少なくとも、その一方の利害
関係人である
職員側からの信頼を受けておらぬことは事実であります。その第一は、公労委の中にある公益委員は
政府の一方的任命によってきめられておること、しかも、そのメンバーの中には、少し前までは、労働官僚が公益委員をも兼務いたしておったことも事実であります。前公労委会長が
政府代表として国際
会議に出席したことなど、全く
政府の御用機関に落ちておると思われる点が多々あったのでございます。現公益委員においても、五名中に二名、かつての労働省の官僚と大蔵省の官僚が含まれておることは、天下周知の事実であります。こうした疑点に立つ公労委が、従来
政府の圧力に屈してゼロ調停を出したり、また、まことに不可解な仲裁を出してきたこと等の実績に照らして、この公労委から公正なる裁定を期待することができぬという公共企業体
職員側の主張は、最も正しい理由あるものと考えられるが、
政府側の所見はいかがでございましょう。この際、厳正中立なる機関の決定に服するという
政府の謙虚なる態度を中外に表明する意味においても、公益委員を解任し、新たに民主的な方法で選び直す考えがないかどうか、総理大臣並びに
関係大臣に承りたいのでございます。
近来、物価の値上がりはまことにものすごいものがございます。言わずもがな、所得倍増などという、ありがたや、ありがたやの池田ムードによって、国民は名実ともに塗炭の苦しみに落ちておることは、先刻わが党平岡
議員の論述した
通りでございます。その反面、公共料金の値上げを大幅に実施するというのでありまするが、わずか六百億円の減税をして、四百余億円の公共料金の増収をはかるということは、高級所得者のみに税金の恩典を与え、その見返りに労働者、一般庶民の涙の金を吸い上げるというのでございまして、これはまことに残酷、非道な政治であるといわなければなりません。公共企業体労働者等、一般庶民や働く人々の賃金は、すでに実質上二、三割も低下いたしておるのであります。企画庁長官の言う、本年度の消費物価の値上がりは大体一・一%程度にすぎぬなどという説明に対して、国民は嘲笑をいたしております。大臣は、今でも、まじめにこれをお考えになっておるかどうか、承りたいのであります。庶民の生活に縁遠いそんなことより、現実に、二十円のとうふが二十五円に値上がりをしておる、五円のがんもどきが七円になっておる。一カ月の食事代として月給の中からきちんと分けておくその予定の金が、今では半月持たずに飛んでいってしまうというのが、家庭を守る婦人の悲鳴でありまするが、総理大臣にはこの声が一体聞こえますかどうか、承りたいと思うのであります。
この庶民の毎日遭遇しておる値上がりへの恐怖が感知できないような間延びした大臣がこの国にいらっしゃるところに問題があるのでありまして、このたびの春闘の理由も、生存権まで脅かされておる勤労大衆の生きんとする最後の反撃にほかならないのであります。そうした生活の苦難の中に歩みながら、今、三公社五現業の労働者が、それぞれの格差はあるが、平均五千円の賃金要求をしておることは、私は当然の要求だと思います。それに対して、各企業庁の回答は、あるいは千円であったり、あるいはゼロ回答であったり、第三者から見ても誠意ある回答とは受け取れぬ様相を呈しておるのであるが、予算上、資金上の処置は別として、この要求自体は決して不当なものでないと信ずるが、首相及び
関係大臣のそれぞれ担当している業態の中において、これが不当であるかどうか、誠実ある答弁を一人々々の大臣からお伺いいたしたいと思うのでございます。
政府は、しばしば、この本
会議場において、ILO八十七号を批准することを公約いたして参りました。岸首相しかり。倉石元労相においては、特に、現職の当時、わざわざジュネーブの国際労働機関まで出向いて、その約束を世界に公約いたして参りました。しかるに、その後、諸多の理由に籍口して、じんぜん日を延ばしてきた結果、ついに、ILO自由
委員会、ひいては理事会の正式決定に基づいて、五月中にこれを批准すべきことの希望、要望を寄せられるに至ったのでございます。ここまで追い詰められるまで日を延ばし、国際的信用を失うに至った
政府の責任は、まことに重大であると思う。日本の労働者に対する公約違反のみにあらず、世界におけるILO
関係各国に対して重大なる違約を犯したものにほかならぬからでございます。
今日、ここまで追い詰められてきた
政府は、いまだその最終的態度を決定し得ず、右顧左眄しているとき、今朝新聞紙の伝えるところによれば、ついに自民党内反動勢力の要望に屈服したということが報ぜられておるのであります。すなわち、ILO八十七号を批准するためには、国内法たる公労法四条三項、地公労法五条三項を削除さえすればよいのであるにもかかわらず、この際公務員の政治活動制限を強化することに方針がきまったというのであります。すなわち、公務員の政治活動制限を大幅に強化するために、人事院規則一四、一五を
法律化して、
政府が人事院にかわってその運用に当たるとともに、各省の人事管理の面をも強化して、閣議できまった案件に反対しても処罰するという、警察的権力を強化しようということに方針がきまったというのでありますが、これはまことに重大な問題であるといわなければならぬのでございます。(
拍手)
公務員は政党の従属物でなく、行政官として行政の中立性を守るのが本来の性格でございます。いかなる
内閣が生じようと、彼らは常に国民への奉仕者として厳正中立にその行政の面を担当していかなければならぬのが、三権分立の正しい民主政治のあり方であります。しかるに、近来の行政各庁のあり方はどうでありましょうか。課長以上の高級官僚は、全く与党自民党の出先であり、手先化しつつあるのであります。与党の何々部会というものに出勤するのが彼ら高級役人の正常の勤めだというふうに思っている。実力者の大臣のいない各省の長官は官僚から問題にされず、局長みずからが党の実力者とともに予算の折衝をしているという状況であります。政党あるを知って
政府あるを知らず、政党と政党のボスの鼻下に奉仕する官僚のあり方は、まさに行政の中立性が失われ、憲法の基本がそこなわれているといわなければならないのであります。(
拍手)もし、人事院規則を改め、綱紀を粛正する必要があるとすれば、この高級官僚と政党ボスとの野合をこそ徹底的に粛正しなければならぬのであります。(
拍手)この本質のおそるべき誤りを見落として、働く
職員の人間としての行動を弾劾せんとするがごときは、本末転倒もはなはだしい暴挙といわなければならないのであります。(
拍手)
一般の公務員は、公務員であるとともに労働組合員であり、そしてまた、人間であります。職場において正当に行政事務に従事している限り、その自分の自由の時間に労働者として行動し、人間として
発言することは、十分許されていいはずであります。長谷川君の言うがごとく、もし公務員が自民党の
農業基本法に反対したからけしからぬというのであれば、高級官僚が、わが
社会党の
農業基本法に反発し、攻撃することは、一体どういうことになるのでございましょうか。(
拍手)これを許し、あれを許さぬというがごときは、まことに自分勝手の妄言といわなければならないのであります。(
拍手)
この際、特に各省大臣にお伺いをいたしたい。省内特定の
法案に反対する自由は公務員に許されておらぬのかどうか、明確にお答えを願いたいと思うのであります。また、
政府は、今日の行政高級官僚のあり方が行政本来の中立性を犯しておらぬと考えておるかどうか、これでよろしいと思うかどうか、政党に隷属しておる今日のこのあり方は日本の立憲政治を根本的に危険ならしめる重大なる行為と考えるが、
政府の所見いかん、
関係大臣の所見を承りたいと思うのであります。
こういう状態の中に、労働組合員のみに厳重なる法
改正を行なって、これを取り締まらんとすることは、いやしくも民主政治に名をかりた独裁政治であり、自派に不利なものをことごとく葬り去らんとするヒトラー的思想といわなければならないのであります。(
拍手)いたずらに事態を混乱に陥れることのないよう、総理の善処をお願いいたしたいのでございます。もし
改正を行なわんとするならば、まず、この高級官僚と各省のあり方を根本的に是正すべきであると思うが、再びこの点に対する明確なる御答弁をお願いいたします。
ILOは、言うまでもなく、国際的平和機構であります。人類の平和を維持し、その進歩を祈念するためには、労働者への圧迫と、弾圧と、取り締まりと、警察権力的な強権を排除して、その利益と生活を十二分に守らなければならぬことを崇高なる理念としてできた機関であります。その中の八十七号は、この立場に立って、労働者の団結する権利と役員選出の自由を守らなければならぬことを
規定いたしておるのであります。そうして、日本の
政府が、この公共企業体の労組に対して、
職員にあらざる者は組合員になることができないという国内法を定め、役員選出の自由を奪っておること、団結の自由を弾圧しておることが世界的に非難を受け、これを改めるべきであることの勧告を受けておるのが、すなわちこの批准問題にほかならないのであります。
こうした経緯の中にあって、今、
政府が、八十七号批准に際し、公務員圧迫の法
改正を強化し、人事院という第三者機関から人事管理権を
内閣に移し、いやしくもその
内閣の意に沿わざる者は断じて処罰するというがごときは、薬を変じて毒となすものであるといわなければならないのであります。(
拍手)
こうした暴政を行なわんとする
政府に対して、どうして労働者は信頼することができましょう。かくのごとき刑罰付、条件付態度でILO批准を行なわんとしても、それがすなおに
承認されぬことは、火を見るよりも明らかなる事実であります。舞台は日本からやがてジュネーブに移り、国際舞台において、世界から池田
内閣が嘲笑されることを、われわれは心からおそれるものでございます。池田首相は、仲裁裁定請求をした今日、こうした思い上がった態度はこれを改め、ILO八十七号を正しく批准するという姿勢に戻って、国内の労働行政を正常に戻す端緒とする考えはないかどうかを承りたいと思うのでございます。
今や、事態は徐々に悪化の方向に走っております。このままの態勢が進んでいけば、昨年春の安保条約批准以上の険悪、逼迫せる事態が国内に巻き起こりてくることは必然であります。池田首相の善処を深く要望いたしまして、私の質問を終わることにいたします。(
拍手)
〔国務大臣池田勇人君
登壇〕