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鈴木義男君 私は、民主社会党を代表して、同じく今回の
事件について、
政府に対し
緊急質問を行なうものであります。
今回の
嶋中邸刺
殺傷事件も、古くは安保反対
デモの際にふるわれた
右翼団体の数々の暴行、河上氏、岸氏等に傷害を与え、ついに
浅沼氏を倒した、いわゆる
右翼テロと同一水脈に属するものであることは明らかであります。(
拍手)昨年十月二十四日、わが衆議院は、大衆
政治家浅沼稲次郎君を失った深い悲しみと憤りのうちに、満場一致、
暴力排除に関する
決議を通過せしめたことは記憶に新たなるところでありまするが、その後、
政府は、
右翼テロの防止に対して
具体的にどういう手を打たれたのでありましょうか。何もなすところがなかったというのが
真相ではありますまいか。
浅沼事件のとき、
池田総理は、山崎国務相を辞任させ、その
政治的責任を明らかにしたようでありまするが、実は、それで事足れりとして、
右翼テロに対する実際的な
対策を怠ったのであります。その証拠には、今回の
嶋中夫人を刺し、女中を殺した
右翼の
少年は、
浅沼氏を刺殺した
人物と、その
背後関係においても、その年令、傾向においても、さらに、その
団体を擬装脱退している点、あいくちやナイフなどを持って人を刺殺することについて相当練習をしていると目される点等、全く同一に近い
人物だということであります。また、山口二矢を英雄にする
運動が公然行なわれていたこと、
右翼の間では山口に続けということが、一つの合
言葉になっているということも、公知の事実であります。
浅沼事件は、いわば
政治の自由に対する挑戦であり
嶋中事件は、
言論の自由に対する挑戦であります。
民主主義社会は、
民主主義を是認する人たちにとっては、自由であり寛大であることは当然でありまするが、
民主主義に挑戦する者に対しては峻厳な態度をもって臨むことが必要であり、これこそが
民主主義社会の
原則であります。いわゆる
右翼団体と呼ばれるものの多くは、
民主主義社会を破壊に導かんとする
団体であり、これは一部の敵ではなくして、日本
国民全体の敵であると断言しても過言ではないと存ずるのであります。(
拍手)
政府は
浅沼事件以後、いゆわる
右翼に対しどういう態度をとったか。昨年の地方行政、法務両
委員会の連合審査会におきまして、時の公安委員長周東
国務大臣は、われわれは今後重ねてこのような
不祥事件が起こることのないよう新たなる
決意をもちまして
治安の万全を期する所存であります、と、はっきり言い切っておるのであります。その
通りやられましたか。わずかに数カ月を出ずして再びこの憎むべき
事件が起こったのであります。今度は、問題の小説とは何の
関係もない、また、無抵抗な婦人に対して、狂暴きわまる挙に出たのであります。被害者から見れば、
通り魔というか、まるで狂犬にかまれたようなものであります。今度は、私の知る限り、この無分別な
テロ行為に対して怒り心頭に発しない者は一人もないのであります。
政府は、
浅沼事件以後、こういう
右翼テロの防止策について何をしたというのであるか、
総理並びに公安委員長の
責任ある回答を承りたいのであります。
あるいは、今回のことは、突発的で、どうにも仕方がなかったというようなことを言われるかもしれませんが、そうは言わせないのであります。すでに、先日、あるところにおいて、別の
右翼の一派が、中央公論撲滅
国民大会なるものを開催して、すこぶる派手にやった。これに対して、別派は、心平らかならざるものがあって、ひそかに動いておるということは、われわれの耳にも
情報は入っておったのであります。本件の起こる数日前から、
中央公論社に対しても、また、
嶋中氏私邸に対しても、ひんぱんと、いやがらせや
脅迫の来客や電話が連日かかってきていたということでありまして、
連絡によって
警察もこのことは知っていたのであります。しかるに、何の手も打っておらない。また、われわれの得ておる
情報によると、犯人小森とともに、なお数人の党員がこの日脱党をしていたということであります。ちゃんと予鈴が鳴り、続いて本鈴がなったのでありまして、偶発とか突発だというようなことは言わせないのであります。(
拍手)しかるに、何のなすところもなかったということは、驚くべき
警察の怠慢であります。
少年に刃物を持たすなという
運動が展開されて、だいぶ善良な
少年の刃物は取り上げたようでありまするが、最も取り上げなければならないはずの者からは取り上げていないのであります。(
拍手)
また、予想しなかったと言うが、本件が起こって、
警察は、写真帳を持ってきて、暴行を働いたのはこのうちのだれであるかと聞いているのであります。
嶋中家の尋常六年の女の子が、直ちに小森を指さして、この男だと申しておるのであります。これだけの予備知識がありながら
未然に防止できなかったということは、驚くべき怠慢といわなければならぬのであります。(
拍手)
浅沼氏の場合にも公安委員長は
責任をとって辞職したのでありまするが、今回は、なお一そう強い
意味において、公安委員長以下全委員が
国民の前にその
責任を明らかにすべき場合と信ずるのであります。(
拍手)法と秩序とを主張する
政府としては、この無
警察状態に対して深く恥じなければならないはずであります。少なくとも
国会に対して直接
責任を負う公安委員長たる安井自治大臣は、その責めを明らかにすべきものと存じまするが、その用意があられるかどうか、お伺いをいたすものであります。(
拍手)
また、
国家公安委員会、東京都公安
委員会、そのもとに
警察運営の任に当たっている
警察庁長官以下の
警察公務員、警視総監以下の
警察官の
責任問題であります。
警察中立の
原則に基づきまして、これらの
警察官が
国会に対して
政治上の
責任を負うものでないことは了といたしまするが、といって、どんなに怠慢があり、職務の懈怠があっても、行政上の
責任も負わないでよろしいというものではないはずであります。
国家並びに東京都公安
委員会は、すべからくこれらの
責任を明らかにすべき責務があると信ずるのであります。
浅沼事件のとき、公安委員長だけの引責辞職でケリをつけたのでありまするが、それは
警察中立の
原則のはき違いであります。現業員たる
警察職員は、公務員として、別にその職務の怠慢、過誤等に対して行政上の
責任があることは、理の当然であります。これを不問に付する公安
委員会は、
国民から強く指弾せらるべきであります。
元来、左翼にはきびしく
右翼には弱いというのが、わが国行
政府並びに
警察の伝統であります。真に民主社会を建設しようとするならば、あらゆる種類の
暴力に反対するのはもちろん、
左右の全体主義に対しても、断固として、きぜんたる態度をとらなければならないのであります。しかるに、わが
警察は、
右翼に甘いだけでなく、かえってこれを懐柔し、これを利用するために、これに乗ぜられておるというのが
真相であります。猪俣君が指摘いたしました、有名な維新
行動隊長石井一昌は、東京地方裁判所の法廷で、明らかに、昨年六月十五日の安保反対
デモを混乱に陥れ、
警察干渉の口実を作るために利用された、すなわち、
警察官は、その前の晩一緒に酒を飲んでおる、そして、当日は、あそこへ突っ込め、こっちへ突っ込めということを指図されてやっておったということを告白しておるのであります。(
拍手)
右翼の人々と警官が一緒に弁当を食べておるのを見たという報告もあるのであります。今回問題となっている大日本愛国党の党首赤尾敏氏らは、取り調べのあと、
警察側がいろいろな
情報を教えてもらうという恩恵もあるのでありましょうか、署長や次長は玄関まで送って出てくるという事実もあるそうであります。このような
右翼に対する甘い態度こそが
右翼テロを続発させる真の
原因であると存ずるのでありまするが、
政府はどうお考えになっておるのであるか、承りたいのであります。(
拍手)
また、
右翼団体は、
右翼的
思想のつながりだけから成立するものではありません。
右翼団体に資金を供給するものがあって
右翼団体の存続が可能となるのであります。従来、この点についてお尋ねをいたしても、明確なお答えがない。取り調べ中とばかりお答えになっておるのであります。何年かかったら取り調べが終了するのでありまするか。思うに、取り調べが不可能なのではなくして、あえて言うことをはばかるもののようであります。世間では、自民党の一部にも
右翼と密接な
関係があるということを広く信じているのであります。(
拍手)こういう点をはっきりさせなければ、自民党の近代化などということも、百年河清を待つごとく、砂上の楼閣にすぎないと存ずるのであります。(
拍手)われわれは、
右翼に資金を供給している背後の勢力を明らかにしなければならないと信ずるものでありますが、公安委員長は、こういう
背後関係をどういうふうに認識し、どういう
方法で
調査し、どうしてこれを絶縁させようとしておるのであるか、この点をはっきりお述べ願いたいのであります。
私
どもの得ている
情報によれば、いわゆる「
風流夢譚」掲載後、執拗に
中央公論社になされたいやがらせは、結局金の要求であったということであります。世故に通じている人々は、幾らかの金を出して円満解決をはかってはどうかと勧めたようでありますが、
嶋中氏の正義観は、こういう妥協をいさぎよしとせず、正道を踏んだために、今回の奇禍を招いたようであります。社会進歩のための一つのとうとい犠牲であるのでございますから、われわれは、この犠牲をむなしくすべきではないと存ずるのであります。
私
どもは、問題となった小説「
風流夢譚」に必ずしも高い価値を置くものではありません。これは見る人によって異なるでありましょうし、毀誉すでに半ばしているのであります。これを軽べつする者は遠慮なく批判すればよろしい。すでに多くの新聞、雑誌の上でそれはなされているのであります。しかし、文章は文章をもって攻撃すればよろしいことであります。いな、筆は筆をもって争うのが民主社会であります。
思想、
言論、
出版の自由は、言うまでもなく、
憲法に保障されたわれわれの基本的権利であります。これらの自由を保障することは、いわゆる所得倍増よりももっと緊要なことと申さねばなりません。われわれ
政治に携わる者は、常に個人の尊厳と自由とをより拡大する方向に努めなければならないと信ずるものであります。
そこで、最後に、
総理並びに法務大臣、公安委員長にそれぞれお尋ねをいたしたいのは、今後
右翼テロを絶滅するための方策いかんということであります。
第一は、防犯政策という点であります。世界的に見ても、この
通り魔的
テロに従事する者は、十七、八才くらいの激動期の
少年に圧倒的に多いのであります。山口二矢しかり、小森何がししかりであります。これは
犯罪心理学の問題であり、また、
犯罪社会学の問題であります。
政府は、
一般非行少年に対するものとは別に、根本的に掘り下げてその
対策を立てなければならないと存じます。この点の
所見いかんというのであります。
第二は、犯人そのものよりも、公然、
テロはやむを得ない、正しい手段だと公言するような
団体に対して、公共の福祉の見地からこれを
取り締まり、いやしくも法治国であるならば、そういう黒い
団体の存在は許さるべきはずはないのであります。
憲法は、いかに寛大であっても、そういう黒手組のようなものの存在をも、
言論、結社の自由の名のもとに、その存在を許すほど寛大ではないのであります。破防法は、元来、左翼にだけ向けられた
法律でありますが、これを最大限度まで
右翼にも活用さるべきことは当然であります。しかし、法の解釈はおのずから限度がありますから、こういう
団体の
取り締まりについては別個の
法律を制定する必要があるのではないか、こういう今後の
対策について、
政府はどういう
所見を持っておられるのか、承りたいのであります。
モンテスキューは、
民主主義政治の要諦は、
国民がすべて、平静な心、トランキュリテ・デスプリを持って、すなわち、安心して生活ができる
環境を作ることだ、と喝破したのでありますが、これは千古不磨の鉄則であります。
生命、身体の安全の保障のない国は、われわれは、これを法治国とはいわないのであります。
政府はこの根本問題に対してどういう
対策を持っておられるか、この点についての
責任ある
答弁を期待して、私の
質問を終わるものであります。(
拍手)
〔
国務大臣池田勇人君
登壇〕