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1961-01-30 第38回国会 衆議院 本会議 第3号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十六年一月三十日(月曜日)     —————————————  議事日程 第二号   昭和三十六年一月三十日    午前十時三十分開議  一 国務大臣演説  二 国務大臣演説に対する質疑     ————————————— ○本日の会議に付した案件  公職選挙法改正に関する調査をなすため委員二   十五人よりなる特別委員会を設置するの件(   議長発議)  池田内閣総理大臣施政方針に関する演説  小坂外務大臣外交に関する演説  水田大蔵大臣財政に関する演説  迫水国務大臣経済に関する演説  国務大臣演説に対する質疑    午前十一時二十四分開議
  2. 清瀬一郎

    議長清瀬一郎君) これより会議を開きます。      ————◇—————  公職選挙法改正に関する調査をなすため委員二十五人よりなる特別委員会を設置するの件(議長発議
  3. 清瀬一郎

    議長清瀬一郎君) まず、特別委員会の設置につきお諮りいたします。  公職選挙法改正に関する調査をなすため委員二十五名よりなる特別委員会を設置いたしたいと思います。これに御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  4. 清瀬一郎

    議長清瀬一郎君) 御異議なしと認めます。よって、その通り決しました。  ただいま議決せられました特別委員会委員は追って指名いたします。      ————◇—————  国務大臣演説
  5. 清瀬一郎

    議長清瀬一郎君) 内閣総理大臣から施政方針に関する演説外務大臣から外交に関する演説大蔵大臣から財政に関する演説迫水国務大臣から経済に関する演説のため発言を求められております。よって、順次これを許します。内閣総理大臣池田勇人君。   〔国務大臣池田勇人登壇
  6. 池田勇人

    国務大臣池田勇人君) 第三十八回国会の再開に臨み、私は、当面する内外の諸情勢についての見解と、これに対処する所信を明らかにいたしたいと思います。  私は、就任以来、政府みずからその姿勢を正し、政治行政の運営を正常化し、さらに、政治経済社会の各分野において、いかなる紛議があっても、寛容と忍耐をもって、話し合いを通じて解決するという、正しい民主主義の慣行が確立されるよう努力して参りました。幸いにして、国民各位の共鳴を得て、特に昨年来一部に見られたような異常な社会的緊張も次第に緩和の方向に向かい、人心の安定と社会秩序の平穏が取り戻されつつあることは、まことに喜ばしいことでございます。(拍手)  憎しみと戦いとは破壊への道であり、和親と協力こそ繁栄の基礎であると信じます。(拍手)私は、ここにさらに決意を新たにして、この秩序と平和を確立することに努力を重ねたいと思います。この意味において、国会の円滑な運営のためには、諸君とともに、格段の努力をいたしたいと存じます。すなわち、相互の良識と寛容の精神をもって、審議の委曲を尽くして堂々と事を決するという、議会主義の慣行を打ち立てることによって、国民の厳粛な信託にこたえたいと思います。(拍手)  私は、至誠をもって事に当たり、慎重に職責を尽くして、清潔な政治、明るい社会、幸福な家庭、平和な世界の建設のために奉仕する決意であります。(拍手)  今や世界は大きな転機に差しかかっていると思います。今日まで諸国民緊張緩和のため払ってきた幾多の努力にもかかわらず、昨年五月の巨頭会談の流会、コンゴ、キューバ、ラオス等の紛争に見るごとく、世界恒久平和への前途はなお多難であります。これは、二つの体制の根本的な対立が、政治経済、軍事の現象面のみにとどまらず、政治的、社会的な信条はもちろん、個人の世界観にまで深く根をおろしてしまっているからにほかなりません。しかし、一方、新兵器の異常な発達により、全面戦争はほとんど不可能になりつつあり、諸国民の平和に対する願望は、日とともに強くなって参りました。従って、東西双方を引き離すよりは、むしろ双方を結びつける方向により多くの関心を払うべきときと考えられます。  わが国外交の根本は、この新しい局面に処し、平和と繁栄の増進のために、わが国が何をなし得るかということをはっきりとつかんで、国連憲章に基づく安全保障体制を堅持しつつ、わが国の安全と平和を確保し、経済繁栄国民生活向上に資する国際的環境を整備し、もって世界平和の創造に寄与することにあると確信いたします。わが国の誠実さと善意が、すべての国々によって信頼されるようになることを私は強く希望し、善意と理解が平和と繁栄の根底であることを確信するものであります。(拍手)  わが国が、平和と繁栄を確保するためには、自由諸国との緊密な関係をますます増進して参ることは申すまでもありません。米国においてはケネディ政府の発足を見、英国においては一昨年の総選挙以後保守党の政権がいよいよその地歩を固め、フランス及びドイツにおいても現政権は国民の強い支持を受けております。かくて、新しい年を迎えた自由主義諸国家は、世界平和確立のため安定した国内的基盤に立って、一そう有効な協力関係を推進することができるものと予想されます。わが国としても、相互繁栄発展のために、自由諸国との協力関係をあらゆる分野において強化すべく、積極的な施策を講じて参りたいと思います。  一方、ソ連を初めとする共産圏諸国との友好関係の増進、なかんずく、日中関係改善をはかることもきわめて重要であります。中国大陸との関係改善、特に貿易の増進は、わが国としても歓迎するところであり、本年はこの問題への接近がわれわれの一つの課題であると思います。しかし、中国大陸の問題は、単に日中間関係としてのみ処理し得るものではなく、広く東西間の関係調整という視野から取り扱わなければなりません。(拍手)私は、日中双方が、かかる共通の認識に立って、相互の立場を尊重しつつ、与えられた条件のもとにおいて可能なる友好関係の樹立に努め、極東の平和と繁栄の確保をはかるべきものと考えます。(拍手)  昨年、アフリカにおいて多数の国が独立し、アジアアフリカ諸国国連加盟国中の半数にも達しようとするに至りました。アジアの一員たるわが国にとりましても、喜びにたえないところであります。これら諸国の動向、特に多数決を原則とする国連におけるその去就が、世界的注視の的になってきたことは当然であります。これら諸国国連における表決は、その意味において、国連を動かすに足る大きな力となってきたことはいなめません。従って、すべての国の利益に奉仕する国連の機能を十分に発揮するためには、わが国としては、アジアアフリカ諸国間との連携を強化し、国連を舞台とする責任ある活動が、世界の平和のため一そう重要の度を加えて参りました。今後における国連外交の推進は、一そう慎重かつ積極的であらねばならぬと考え、私は、わが国国連における外交陣容を強化していく方針であります。(拍手)  なお、東西間の問題とともに、いわゆる南北間の問題、すなわち、経済的先進国から開発途上諸国への経済協力必要性重要性が広く認識されるに至っております。わが国は、アジア地域における工業国として、これら双方の立場を十分に理解できる地位にあります。従って、これら諸国に対しては、通商航海条約の締結を促進する等の措置を講じて、経済的、技術的協力を一段と推進する方針であります。  わが国経済は、国民の能力・勤勉・創造的意欲に配するに、世界の平和と経済の自由という環境にささえられて、われわれの予想以上に急速な拡大を示しつつあり、国民総生産は、本年度十四兆二千三百億円に達するものと思われます。しかも、卸売物価は安定を保ち、国際収支も依然として黒字基調を維持し、外貨準備高は年度末には約二十億ドルに達する見込みであります。また、雇用情勢も一段と改善を見、国民生活も著しく充実向上して参りました。これは、わが国経済が歴史的な勃興期を迎え、構造的変化を遂げつつあることを物語るものであり、この成長発展世界の驚異となっておるのであります。(拍手)  わが国経済のこの安定的成長を今後長きにわたって確保し、現在見られるような各種の所得格差を解消しつつ、完全雇用福祉国家の実現をはかるためには、長期的観点から各種の施策を総合的に推進する必要があります。そのため、政府は、従来の新長期経済計画にかえて、今回、国民所得倍増計画国民所得倍増計画の構想を政府長期にわたる経済運営の指針として採択いたしました。この計画は、今後おおむね十カ年間に国民所得を倍増することを目標とし、これを達成するため必要とされる諸施策基本的方向とその構造を示したものでございます。特に、農業と非農業間、大企業と中小企業間及び地域相互間に存在する所得格差を是正し、もってわが国経済の底辺を引き上げ、その構造と体質の改善をはかろうとするものであります。(拍手)同時に、この計画は今後十年間、において新たに生産年令に達する青少年に、それぞれ適当な職場を用意する国家的責任にこたえるものでございます。(拍手)  右の長期経済計画の実施にあたっては、昭和三十六年度から昭和三十八年度までの三年間は、新規生産年令人口の急増に応じて、年平均九%の経済成長を遂げることを目標として、あらゆる施策を講ずることを明らかにいたしております。すなわち、昭和三十六年度予算及び財政投融資計画は、このような展望と期待のもとに、当面の国際経済の動向に即応し、通貨価値の安定と国際収支の均衡を保持しつつ、本計画の第一年度をになうものとして編成されたのであります。この予算の最重点は、申すまでもなく、減税、社会保障及び公共投資であり、平年度千百三十八億円に上る所得税法人税を中心とする国税の軽減を初め、低所得層中心社会保障費六百三十六億円、公共事業費六百八十九億円をそれぞれ増加計上しましたが、これはわが国財政史上空前のことでございます。(拍手)さらに、文教の刷新充実科学技術の振興に努め、貿易の振興と対外経済協力の推進をはかり、中小企業及び農林漁業近代化と振興に特に配慮いたしました。地方行政水準向上後進地域の開発については、地方の財政力向上をもって足れりとせず、政府におきましても積極的な助成の道を開いたのであります。(拍手)これにより、政府活動は、その全分野にわたって画期的な改善と前進を見ることは明らかであり、経済成長予算を通して国民に何をもたらすものであるかを如実に示すものであると思います。(拍手)しかも、本予算のもたらすものは、長期経済計画のほんの序幕にすぎず、この種の努力年々歳々しんぼう強く積み重ねることによって、わが国福祉国家としての内容はいよいよ豊かさと明るさを加え、先進諸国の水準に迫る日の遠くないことを確信するものでございます。(拍手)  私は、わが国福祉国家へのたくましい前進にあたって、いわゆる低所得層に属する不幸不運な人々に対する配慮に力点を置きつつ、ようやく体系を整え始めた社会保障制度合理的発展と充実に思い切った努力をいたしました。しかし、社会保障に関しまして、国家をサンタクロースのごときものと考えることは間違いであるといわれておりますように、私は、生活保護を必要とする状態に陥ることを防ぐとともに、この状態から自主的に立ち上がる機会を豊かに作り出すことを、われわれの長期経済計画の大きい使命の一つであると考えておるのであります。(拍手)  雇用の状態は、近時著しく好転し、職種においてはもとより、地域によっても求人難を訴える向きもあります。しかし、わが国には、昭和三十七年より向こう三年間に五百万人に及ぶ大量の生産年令人口の増加が見込まれるとともに、不完全就労の状態にあえぐ多数の労働人口がございます。われわれの長期経済計画は、各人の能力に応ずるりっぱな職場を豊かに作り出すとともに、産業構造の変革に応ずる労働力の適正な配置をはからなければならぬ役割を持っておるのであります。(拍手)われわれがもくろんでおります経済成長率は、その新規就労人口に見合って定められたものであり、従って、技術者技能者の養成、職業訓練の拡充、雇用流動化促進等は、本予算の策定について特に意を用いたところであります。このことが、勤労人口、特に青少年に明るい希望と誇りとをもたらすことになると信じておるのであります。(拍手)  所得倍増計画の使命は、申すまでもなく、地域的、構造的所得格差の解消を期することであります。われわれは、この計画の実行によって産業構造高度化を実現するとともに、雇用流動化を促進し、もって所得格差解消への条件の整備を急がなければなりません。さきに述べた社会保障の拡充と中小企業農業近代化は、後進地域の開発とともに、われわれが特に力を置かなければならぬ課題であります。なかんずく、農業近代化は、難事中の難事であって、われわれが最も精力を傾注しなければならない問題であります。(拍手)  わが国農業は、その置かれている自然的、経済的諸条件とも関連して、他産業に比べて生産性生活水準が低いばかりでなく、このままに推移せんか、との不均衡はますます拡大するおそれなしとしないのであります。しかし、経済高度成長の過程において、最近、農業生産性向上とその近代化を推進するに足る必要な条件が成熟しつつあります。  その一つは、経済成長に伴って高度化する食糧需要の変化であり、その二つは、他産業の旺盛な労働力需要の増大であります。このような傾向に即応して、私は、従来の労働集約的な零細農業経営を漸次脱却して、その近代化を促進するため、農政、財政、金融、労働、産業教育、工場の地方分散その他各般の施策を展開することが、農業二者に他産業従事者に劣らない社会的、経済的地位を確保する道であると信じ、予算の編成上特段の努力を払うとともに、農業基本法を中核とする一連の施策を慎重に進めて参る考えであります。(拍手)  かくて、本予算の規模は、昭和三十五年度に比し相当の増額を示しておりますが、予算規模国民所得との比率は、例年に比して決して過大ではなく、昭和三十六年度において予想される経済成長におおむね見合った規模であると確信いたします。(拍手)  さらに、私は、本予算を基軸とする経済の運営にあたっては、国際経済の動向に特に注意を怠らないつもりであります。昨年来、米国の景気停滞西欧経済上昇鈍化に加えて、米国のドル防衛措置が日程に上って参りました。政府としては、このことのわが国貿易ないしは国際収支に及ぼす影響を決して軽視するものではありませんが、国民とともに、かかる試練を克服する努力こそが政府の責務であると考えます。すなわち、外に向かっては、一そうの輸出の伸長と海外経済協力の推進に努めるとともに、内においては、長期経済計画の着実な実行を通じて、産業体質改善国際競争力の培養に前向きの姿勢で努力する決意であります。(拍手)  また、物価の動向も、われわれにとっては重大な関心事であります。しかし、われわれの経済成長政策は、本来、生産性向上供給力の増大を通じて品質とサービス内容向上をはかり、物価水準一般的下落をもたらすものであります。一時上昇傾向が注目されていた食料品を中心とする消費者物価は、すでに落ちつきを取り戻しており、卸売物価も、高い生産性と豊かな生産力にささえられて、おおむね安定した動きを示しております。ただ、サービス関係等人件費の上昇を生産性向上によっては吸収することのできない一部の物価と料金については、若干上昇の傾向が見られます。これは・他の部門の生産性向上所得の増加に対するサービス料金調整過程であると考えられます。所得格差の是正の上からも、また、先進諸国のそれとの比較においても、ある程度やむを得ないところであります。(拍手)しかし、合理性のない便乗的値上げについては、国民的監視と並行して、政府としても消費者行政上適切な措置を講ずる方針であります。  政府は、来年度より国鉄運賃郵便料金等を若干引き上げることとしております。これは、他の物資の価格水準に比べ、相当期間にわたって低位のままに据え置かれてきたため、これをそのまま放置すれば、経営の圧迫となり、設備の朽廃、サービスの低下を通じて経済発展の隘路ともなることが憂慮せられたからであります。(拍手)しかも、もしかかる料金改定を怠ると、その欠陥は国民一般よりの租税収入により補てんするか、あるいは借入金によってまかなわざるを得ず、合理的な独立採算性を無視するか、あるいは将来に重い負担を残す結果となり、政府としてかかる弥縫策はとるべきではないと考えたのであります。(拍手)しかしながら、他面、これが急激な上昇の国民生活に与える影響にかんがみ、政府としては、極力これを最小限度にとどめるべく努力いたしました。今後とも、物価水準の安定のためには一そうの努力を傾注し、インフレなき経済成長を推進して参る決意であります。  以上、当面の諸問題につき、私の所信と施策の方向を明らかにしたのでありますが、すべての施策の前提としては、国民祖国愛と良識に基づく共同生活秩序を重んずることと、政治の姿勢と法秩序が正しく維持されることが重要であります。(拍手文教政策の眼目もまたここにあると思います。  文教の基本は、わが民族と国土と文化を愛し、高い人格と良識を持ち、国際的にも信頼と尊敬を受ける国民を育成することにあります。(拍手)わけても、青少年がその持てる能力を十分に発揮し、国家社会の建設にその情熱を傾けるに足る条件と環境を整えると同時に、真に健全で民主的な新しい時代に処する倫理をつちかうことが重要であると思います。(拍手)このため、政府は、教育上の施設や設備を積極的に充実整備し、教職員の研修等による資質の向上に努め、もって教育水準向上をはかって参る方針であります。なお、育英奨学の拡充を行ない、教育機会の充実と勤労青少年教育体制の整備をはかり、青少年の能力の育成に一そう努めたいと思います。(拍手)  最近における選挙の実情及び世論の動向にかんがみ、選挙公明化を期することは緊急の要務であると考えます。そのためには、国民政治に対する関心をさらに高めることが必須の条件でありますので、積極的な選挙公明化運動を展開するとともに、選挙制度の改正のための調査審議を急ぎ、すみやかにその成案を得るよう努力する所存であります。(拍手)  法秩序の維持は、申すまでもなく、国民の福祉と繁栄の基本であり、自由の保障も民主主義発展も、この基礎の上においてのみ成り立つものであると信じます。政府は、法秩序の維持につき、みずからの姿勢と決意を固めるとともに、国民に対しても理解と協力を求めて参る所存であります。ただ、最近、青少年犯罪暴力事犯並びに交通事故が漸増の傾向にあることは、憂慮にたえないことであります。この種の犯罪防止については、一般に共同生活秩序を重んずる教育の徹底と、順法意識の高揚に努めるとともに、国民の信頼にこたえ得るよう所要の措置を講ずる決意であります。  なお、政府は、昨秋来、公務員の給与改定と同時に、努めて行政運営簡素化能率化をはかって参りました。今回、さらに広く国民の立場に立って行政の画期的な体質改善を行ない、国民へのサービス向上に寄与すべく、各界各層の知能を結集して、権威の高い行政診断機関を設けることとし、近く関係法案を提出して御審議をわずらわすことにしております。  なお、ILO第八十七号条約の批准については、これに関係する国内法の整備につき慎重検討を要するものと認めますが、自由にして民主的な労働運動発展を期する見地から、右関係法案とともに今国会に提案すべく準備を進めております。  以上、所信の一端を述べ、国民諸君の一段の御理解と建設的協力を切望してやまない次第でございます。(拍手
  7. 清瀬一郎

  8. 小坂善太郎

    国務大臣小坂善太郎君) 政府外交方針に関する所信を申し上げたいと存じます。  昨年の世界情勢におきまして特に注目されますことは、申すまでもなく、東西首脳会談が不調に終わったことであります。その後の情勢は、国際間の相互不信が渦巻き、緊張が続き、和解の場であるべき第十五回国連総会も宣伝と非難の場と化しましたことは、御承知の通りであります。一九六〇年は国際緊張緩和の年とはならず、われわれの期待は裏切られたと申すほかはありません。年は改まりましたが、これからの世界動きには、なお多くの不安が残されております。国際緊張緩和とか相互理解とか口にずることはたやすいのでありますが、現実国際政治において、われわれの求める安定した平和の世界実現させることは、決して容易ではないのであります。(拍手)しかしながら、われわれは、幾たびか失望し、また、味わった、この苦い経験を試練といたしまして、これを乗り越えて平和の確保に邁進いたすべきものと考えます。(拍手)本年こそは、その第一歩を踏み固めるべき年といたしたいと存ずるのでございます。  平和を望む者は、与えられた能力を活用して、平和確保の方途を発見しなければなりません。自由世界共産世界と、それぞれの政治の仕組みや社会のあり方は異なっておりましても、一つ国際社会に生活いたしまする以上、平和のうちに、ともに生きるための具体的な道筋を見出すべきであります。東西いずれを問わず、われわれは、戦争を防止し、平和を維持する人類共通の崇高な責任を分かち合っていると考えます。この精神に従って、国際緊張の主たる原因となっております東西関係改善のため、双方があらためて真剣に努力を傾けるときになっていると考えます。  どれが実現のために、私は、次の三つの原則を守る必要があると考えます。  まず第一に、国際間におきまして、すべての問題は話し合いによって解決するという原則を再確認することが必要であります。しかも、その話し合いは、相手国に自国の主張を一方的に押しつけて、これがいれられない場合には一切の話し合いを拒否するというのではなくて、解決のできることから一つ一つ地道に積み上げていく現実的な考え方になることであります。  第二は、直接あるいは間接に他国の政治及び社会経済体制に干渉をしないこと、すなわち、内政干渉をしないということであります。(拍手)  第三は、東西対立圏以外の地域において起こり、あるいは起こるべき紛争東西対立の争いに引き込まないということであります。  この三原則の上に、東西間における人と文化の交流を促進し、相互理解信頼感増進しつつ、対立をやわらげることが必要であると考えるのであります。  東西関係改善には長期かつ困難な交渉が必要でありまするが、この交渉にあたりまして、共産側が団結と力をもって臨むのに対しまして、自由世界もまた結束協力を強める必要があります。このことが共産側との交渉において現実的解決を見出すゆえんでもあると考えるのであります。(拍手)アメリカのケネディ大統領は、その就任演説におきまして、自由諸国結束を強調するとともに、平和探求への努力を呼びかけております、多大の共感を禁じ得ないところであります。同大統領就任は、現下の国際政治に新風を吹き込むものと確信いたすものであります。  東西関係におきましてまず取り上げられてくる問題は、軍縮問題であります。全面戦争はもはやできないということは、だれしも異論のないところでありまするが、しかも、何ゆえに軍縮が容易に達成されないかといいますれば、それは東西間における信頼感の欠除が最も大きな原因であると考えるのであります。従いまして、われわれは、まず、現在管理可能である軍縮措置から実施して、国際間の信頼を回復しつつ、全面軍縮目標に向かって、漸次その範囲を拡大していくべきものであります。(拍手軍縮交渉の経緯より見ますれば、軍縮のとびらを開き得る現実可能性一つは、核実験停止協定の成立であります。政府といたしましては、わが国が従来から主張しておりまするこの核実験停止協定が、今年こそは実現を見まするように積極的に寄与して参りたい所存であります。(拍手)  次に、アジア諸国との協力と中共問題について申し上げます。  アジアにおきまする平和の問題は、まず、アジアの国々において十分考えなければならないことであります。アジア諸国との関係は、その繁栄と平和を確保いたしまするために、相互の人的交流を活発にしながら、各国間の理解を深めていきたいと考えます。幸いにいたしまして、わが国経済も、戦後の荒廃から国民努力によって急速に回復、安定いたしました。高い工業力を持ったアジアの国日本の地位は認められつつあるのでありますから、この機会に、アジアの国としてのわが国地位立場をかみしめ、進んでアジア繁栄と平和に貢献したいと考えるものでございます。(拍手)  わが国と最も近い間柄にあります韓国との関係につきましては、目下行なわれております両国間の会談におきまして諸懸案の解決をはかり、なるべく近い将来に同国との国交を正常化し得るよう、大局的見地に立って努力して参りたいと考えております。(拍手)  中共との問題につきましては、わが国は中共とは隣合わせの関係にあり、その関係の調整を考えることは当然であります。しかし、その際重要なことは、わが国としては、自由世界の一員として世界平和に貢献するどの基本立場を常に堅持し、かつ、内政不干渉の原則の尊重を求める態度を明らかにすることであると考えるのであります。(拍手)また中共問題は、最近は、国際間においても、国連代表権問題あるいは軍縮問題等とも関連いたしまして、新たなる注目を集めつつあります。中共が、いかなるときに、また、いかなる方法によって国際社会に参加できるかの問題は、複雑な要素を含んでいるのでありますから、政府は、中共の動向とこれをめぐる国際情勢の推移を慎重に見きわめて参る所存であります。しかしながら、中共との政治関係の調整は、広く国際政治上の問題として考えられねばならないのであります。わが国の、世界、特にアジアにおいて占める地位にもかんがみ、わが国動き国際的に多大の影響を及ぼすことを十分考慮しなければならないと思うのであります。すなわち、わが国だけの問題にとどまらず、世界全体の利益、特に世界の平和と安定のためにはどうしたらよいかという見地から、高度の政治的考慮を必要としているのであります。従いまして、わが国はもちろん、中共の側におきましても、慎重な考慮と着実な努力を重ねるべきものであると考えるのであります。中共との貿易問題につきましては、われわれは、双方国民経済が互いに必要とする物資について、これが支障なく拡大されることを希望いたしております。  次に国連外交推進について申し上げます。  昨年アフリカ新興諸国の加盟に伴いまして、国連がますます普遍的な国際機構に発展いたしましたことは、御同慶に存じます。  この際特に申し上げたいのは、国連世界における唯一最高の平和維持の機関でありますが、これとても全知全能ではない、国連をささえるものは実にわれわれ構成国であるということであります。国連が超国家的な存在でない以上、その平和維持の機能は、加盟国それぞれの協力によってのみ果たされるのでありまして、また、それによってのみ発展するということであります。昨年の国連総会の模様等にもかんがみまして、最近、世界には国連の権威や機能について危惧する声があります。しかしながら、もし現在国連がなかりせばという事態を想像いたしますならば、国連の存在意義はたれの目にも明らかであります。国連を現在の試練から救い、そのあるべき姿に強化するためには、加盟国のそれぞれがこの際あらためて国連憲章精神に徹し、国連を盛り立てる決意を新たにすることが肝要であります。(拍手政府といたしましては、このような基本立場に立って、国連国際社会良識と理性の場として成長させることを念願し、そのために努力を続けているのでありまするが、今後とも広く加盟各国との協力関係推進いたしまして、国際平和維持機関としての国連の権威と機能の強化のため積極的努力を傾け、冷静な、しかも筋の通った建設的な行動をしたいと思うのであります。(拍手)  次に、経済外交推進について申し上げます。  最近の世界経済の特徴として見られますことは、わが国及び西ヨーロッパ諸国経済力が充実いたしました結果、自由諸国内の経済相互依存関係がますます緊密化し、各国の経済政策や貿易政策の面におきまして、国際間の調整及び協力が著しく進められていることであります。主要自由諸国は、今後、この線に沿って貿易・為替の自由化、経済援助、ドル防衛などの問題について活発に協力することになりましょうから、わが国といたしましても、経済外交の心がまえといたしまして、他国に対する正当な要求はあくまで強くこれを打ち出すと同時に、他国からの正しい要求についてはこれを受け入れる国際的な心がまえが特に必要であると思います。(拍手)  次に、わが国は、近年急速な経済成長を遂げつつあるのでありますが、その成長を継続し、国民生活繁栄増進するためには、貿易の拡大が必要であります。このための条件を整えるため、政府といたしましては、日本品に対する差別待遇の撤廃等、貿易条件改善に一段と意を用いる考えであります。さらに、通商関係を安定した基礎の上に置き、経済協力推進いたしまするために、政府は、昨年マラヤ、フィリピン及びパキスタン等との間に通商航海条約を締結いたしましたが、本年も、各国、特にインドネシアその他の東南アジア諸国との通商航海条約の締結に努力いたしたい所存であります。このため、国会はもとより、経済界、労働界その他各界の一致した御協力、御支援を期待いたしたいと存ずる次第でございます。  アジアといわず、アフリカといわず、新たに独立を達成した諸国には、いまだに多くの貧困と疾病が巣くっているのでありますが、その経済発展社会福祉向上は、世界の平和と繁栄のために不可欠の要件であり、これを解決することは、今や世紀の課題となっているのであります。主要自由諸国の間におきましては、昨年発足した開発援助グループの動きに見られますように、相協力してこの課題の解決に当たろうという機運が盛り上がっているのであります。わが国といたしましても、まず、みずからを富ます努力をいたしますとともに、遠い将来を考え、発展途上にある国々に対し、経済、技術面の協力について特段の工夫を加えてその推進をはかることはもとより、医療及び公衆衛生その他の分野においても、国民各位の御協力を得られる限りの援助を行ないたいと考えるのでございます。(拍手)  以上申し述べましたように、私は、わが国のため、世界のために平和を確保し、また、わが同胞の繁栄と豊かな生活を確保することをもって外交基本目標と考え、世界情勢の間に処して、自主的な、しかも責任のある態度で弾力的な外交を展開いたしたいと念願いたしておるのでありまするが、その成否はかかって国民各位の支持にあるのであります。御理解と御支援を期待いたすものでございます。(拍手
  9. 清瀬一郎

    議長清瀬一郎君) 大蔵大臣水田三喜男君。   〔国務大臣水田三喜男君登壇
  10. 水田三喜男

    国務大臣(水田三喜男君) ここに、昭和三十六年度予算を提出するにあたりまして、わが国財政経済政策に関する所信を申し述べ、あわせて、予算の大要を御説明いたします。  わが国経済は、昭和三十三年秋上昇に転じまして以来、二年有余にわたり目ざましい発展を続けて参りましたが、今後におきましても、自由な通商のもとに、先進諸国に伍して日本経済の真の繁栄を達成し、国民生活の均衡ある向上を実現していくことが必要であります。このため、政府におきましては、経済成長の原動力である国民の自由な創意と活動に期待し、十年以内に国民総生産を倍増することを目途に総合的な施策の展開をはかることといたしたのであります。  その重点は、まず、国民の租税負担の軽減をはかることであり、今後とも、国民生活の安定向上と民間企業の体質強化に資するよう、極力減税を実施する所存であります。  また、経済が順調な拡大を続けて参りますためには、何よりも環境の整備が必要であります。このため、公共諸施設の充実を期しますとともに、文教及び科学技術の振興を通じて、国民能力の一そうの向上をはかって参りたいと存じます。  さらに、国民各層を通ずる均衡のとれた生活の向上をはかることは、福祉国家としての当然の責務であります。この意味におきまして、産業間、地域間、階層間等に見られるいわゆる所得格差の縮小をはかることが必要であり、政府といたしましては、農業及び中小企業近代化後進地域の開発並びに社会保障施策の充実等に一そうの努力をいたす所存であります。  これらの財政経済政策を進めるにあたりまして、私は、経済成長が内外にわたって安定したものでなければならないことを強調いたしたいと存じます。特に、今後、貿易・為替自由化の一そうの推進が必要とされる環境の中にありましては、通貨価値の安定と国際収支の均衡を確保することが、結局は長期にわたる経済発展を可能にするゆえんであり、引き続き経済の均衡保持につきましては、細心の考慮を払って参りたいと存じます。  昭和三十五年度のわが国経済は、実質一一%に及ぶ成長を達成するものと見込まれておりますが、昭和三十六年度におきましても、引き続き実質九%以上の成長を期待し得るものと考えます。  他面、最近の世界経済情勢を見ますと、アメリカ経済は昨年半ばごろよりやや停滞を示し、西欧諸国経済にも上昇鈍化傾向が認められます。また、先般来、アメリカ政府の発表いたしましたいわゆるドル防衛対策による影響等を考慮すれば、わが国をめぐる国際環境には必ずしも楽観を許さないものがあります。しかしながら、欧米諸国がいずれも内外にわたる着実な経済の拡大に真剣な努力を続けていることを考えますと、本年の世界貿易規模は引き続き増大するものと予想されるのであります。従って、一そうの努力を重ねることにより、昭和三十六年度におきましても相当の輸出増加を期待し得るのでありまして、国際収支の均衡は保持し得る見込みであります。  このような内外の経済情勢を前提とし、昭和三十六年度予算の編成にあたりましては、通貨価値の安定と国際収支の均衡に留意しつつ、経済の適正な成長に資することを基本方針といたしたのであります。歳入面におきましては、経済規模の拡大に応じて増加が予想される租税その他の普通歳入を計上し、これをもって国民所得倍増計画の初年度において必要とされる諸施策を積極的に推進することといたしました。すなわち、減税、社会保障及び公共投資に重点を置き、さらに、経済構造高度化とこれに即応する労働力移動の円滑化、人的能力向上及び輸出振興等を推進し、将来における日本経済発展を可能とする基礎条件の整備をはかるとともに、その成果を国民各層に及ぼすことによって、国民生活の均衡ある向上を期することといたした次第であります。  このような方針をもって編成いたしました昭和三十六年度一般会計予算及び財政投融資の規模は、いずれも昭和三十五年度に比し相当の増加を見ておりますが、国民総生産に対するこれらの比率は、前年度とほぼ同様でありまして、おおむね経済全体の成長に見合ったものと考えます。  政府は、昨年六月、貿易・為替自由化計画大綱を決定し、以来その線に沿って自由化を実施して参りました。貿易・為替の自由化がすでに世界の大勢であることは今さら申すまでもありませんが、さらに、最近、英仏等の西欧諸国が一せいに経常取引面における為替制限を撤廃する動きを見せておりますので、このような動向を背景として、自由化促進をわが国に要望する声はますます強くなるものと思われます。  もとより、自由化の推進は、外部からの要請を待つまでもなく、わが国経済国際競争場裏にあって真の成長を達成していくために不可欠のものであります。私は、世界経済動向に注目しつつ、かつ、自由化の国内経済に及ぼす影響に対しては、関税による合理的な調整をはかる等、慎重な配慮を加えながら、引き続き自由化を推し進めて参りたい所存であります。  また、いわゆる低開発国の援助は、わが国にとりましても、国際社会の一員としての責務でありますと同時に、輸出市場開拓のためにも大きな意義を有するものであります。政府は、従来から各種国際機関へ参加するほか、二国間の取りきめによる援助の推進にも努めて参ったのであります。最近におきましても、国際開発協会への加盟、海外経済協力基金の設置等の措置を講じたのでありまして、今後も国力に応じ積極的に努力して参りたいと存じます。  金融政策におきましては、あくまで通貨価値の安定を確保し、その基礎の上に経済成長を進める方針を堅持いたしたいと存じます。政府は、この方針のもとに、常に金融政策の弾力的運用に留意し、金利体系の整備、公社債市場の育成等、金融正常化のための施策をさらに推進する考えであります。  特に、今後、自由化の進展に伴い、国際競争力を強化いたしますため、国際的に割高なわが国の金利水準を国際水準にさや寄せすることが重要となってくるのであります。政府は、このような要請にこたえるため、資本の蓄積、外資の導入等、環境の整備に努め、漸進的に金利水準の低下を誘導して参りたいと考えております。幸いにしまして、最近、金利水準低下の機運が醸成され、漸次その実現の方向に進みつつありますことは、まことに喜ばしい次第であります。産業界、金融界、証券界等、民間各界におかれましても、金利水準引き下げの大局的意義を十分に理解せられ、過剰投資、過当投機の弊に陥ることなく、わが国経済が正常化の歩を進め、国際的な自由化の趨勢に伍しつつ、順調にして着実な成長を遂げ得るよう、格段の御協力を要望する次第であります。  次に、昭和三十六年度予算の概要を御説明いたします。  一般会計予算の総額は、歳入歳出とも一兆九千五百二十七億円でありまして、昭和三十五年度当初予算に対し三千八百三十一億円、すでに成立いたしました補正予算を加えた予算額に対し二千三百十六億円の増加となっております。また、財政投融資計画の総額は七千二百九十二億円でありまして、昭和三十五年度当初計画に対し一千三百五十一億円、改定計画に対し九百九十億円の増加となっております。  以下、政府が特に重点を置きました重要施策について、その概略を申し述べます。  まず、中央・地方を通ずる減税を中心とする税制の改正であります。  国民の租税負担の現状から見まして、その負担軽減をはかることが必要であり、今後とも極力減税の実施に努力する所存でありますが、昭和三十六年度におきましては、所得税及び法人税を中心として、国税、地方税を通じ、平年度約一千四百三十億円の減税を行なうことといたしております。  すなわち、所得税におきましては、中小所得者の負担軽減と税制の合理化とを目的として、配偶者控除の引き上げ、専従者控除の拡充、給与所得控除の改正、中小所得者に適用される税率の緩和、退職所得の特別控除の限度額の撤廃等を行なうことといたしました。この結果、たとえば夫婦及び子供三人の給与所得者の場合をとりますと、所得税を課されない限度が、現在の約三十三万円から約三十九万円に引き上げられることとなり、また、百万円以下の中小所得者の所得税の負担は著しく軽減されることとなるのであります。  また、法人税におきましては、企業の経営基盤の強化に資するよう、技術革新に即応する耐用年数の改定、企業の株式資本充実に資するための配当課税の改正、中小同族会社の留保所得課税の軽減等を行なうことといたしております。なお、間接税の改正につきましては、今後税制調査会において十分検討を続けていきたい所存でありますが、昭和三十六年度におきましても、二等寝台料金に対する通行税を廃止する等、当面緊要な改正を行なうことといたしました。  このような減税を行ないます反面、税負担の公平をはかるため、最近の情勢に応じ、租税特別措置の整理、合理化を行なうことといたし、また、新道路整備計画の財源に充てるため、揮発油税及び地方道路税の引き上げ等に関する改正を行なうことにいたしております。  なお、地方税につきましては、地方税制の自主性を強化するため、国税改正の影響が自動的に地方税に及ぶことのないように、住民税の課税方式等の改正を行ないますとともに、国税の減税に対応して、住民税、事業税その他についてできる限りの軽減を行ない、また、地方の道路財源の充実のため、軽油引取税の引き上げを行なうことにいたしております。  関税につきましては、わが国の現行輸入税表は、昭和二十六年の全面改正以来、基本的にはほとんどそのままこれを踏襲して現在に至っておりますが、その間、産業、貿易の構造も大きく変わってきております上に、最近におきましては、貿易の自由化と産業構造の一そうの高度化という新しい事態に直面しております。このような経済発展に対処し、新たなな時代の要請に応ずるため、輸入税表の全面改正を行なうことにいたしました。  なお、自由化との関連等を考慮いたしまして、輸入税表の敏正とあわせて、緊急関税、関税割当制度の採用等、関税制度につきましても所要の改正を行なうことといたしております。  次に、社会保障の拡充をはかったことであります。  最近のわが国経済の目ざましい発展により、国民生活向上には見るべきものがありますが、これを国民各層に広く及ぼすため、社会保障関係施策の画期的拡充改善をはかることといたしました。すなわち生活保護基準の大幅な改善、児童扶養手当の創設等を行ないますとともに、結核、精神衛生対策の強化を中心として医療保障の充実をはかることといたしております。また、国民年金におきましても、拠出制年金に所要の改善を加え、これを予定通り発足させますほか、福祉年金につきましても、母子年金の支給範囲拡大等の措置を講ずることといたしております。  雇用対策に関しましては、産業構造高度化に即応して労働の流動性を増大し、雇用の拡大に資するため、雇用促進事業団の設置、職業訓練の拡充、広域職業紹介の強化等、各般の措置を講じ、また、一般賃金の上昇に対応して失業対策事業の賃金を合理的に改定することといたしました。  以上、社会保障関係費の総額は二千四百六十六億円に達し、前年度当初予算に比し六百三十六億円の大幅な増加となっております。  また、住宅対策におきましては、建設戸数の増加と質の向上に格段の配意を加えましたほか、上下水道等の環境衛生施設の整備を促進して生活環境の改善をはかり、社会保障施策の拡充とあわせて、明るい国民生活の実現を期することといたしました。  次は、公共投資の拡大であります。  道路整備につきましては、新五カ年計画を策定し、昭和三十六年度以降五カ年間に総額二兆一千億円の資金を投入して、自動車交通の増大に対処することといたしました。  港湾につきましても、新たに昭和三十六年度を初年度とする総投資額二千五百億円の五カ年計画を策定し、その整備を推進することといたしましたほか、国鉄及び電信電話施設につきましても、その計画的拡充のため、所要資金の確保をはかっております。  また、産業発展に対処するため、産業用地及び用水の確保をはかる必要がありますので、一般会計及び財政投融資を通じて、所要の措置を講ずることといたしております。  治山治水対策につきましては、既定の計画を達成するため必要な予算を計上し、災害復旧の推進と相待って、国土の保全に努めることといたしました。  後進地域の開発につきましても、公共事業費全般の配分を通じて配慮いたしましたほか、国庫負担の特例措置を定める等、その推進に努めることといたしました。なお財政投融資計画におきましても、地域開発融資の拡大をはかることといたしております。  以上、公共事業関係費の総額は三千五百七十八億円に達し、前年度当初予算に比し六百八十九億円の大幅な増加となっております。  文教及び科学技術の振興につきましては、まず中学校生徒の増加等に対応して文教施設の整備に一段と努めますとともに、英才の育成確保をはかるため、育英奨学制度の大幅な拡充を行なうことといたしました。  また、大学における理工科学生の増募、教育施設の画期的な充実により、技術革新の大勢に応ずる人材の養成を期することといたしております。高等学校教育につきましても、工業高等学校の施設に対する助成等、理工系教育の充実をはかるほか、高等学校生徒の急増に計画的に対処することといたしました。また、私立学校教育の振興をはかることに留意いたしております。さらに、試験研究機関の研究費を増額し、特別研究の推進に努めますとともに、新技術開発のための機関を設置することとしております。  以上、文教及び科学技術関係費の総額は二千五百六十四億円となり、前年度当初予算に対して四百七十八億円の大幅な増加となっております。  貿易振興及び対外経済協力の推進につきましては、引き続き、市場調査、技術協力等の事業を強化するとともに、日本輸出入銀行に対する財政資金を大幅に増額して、輸出の振興を図ることといたしました。また、海外経済協力基金に五十億円の追加出資を行ない、主として東南アジアとの経済協力の積極的な前進をはかることといたしております。  農林漁業につきましては、需要構造の変化に留意しつつ、生産基盤の拡充強化をはかり、農林漁業の合理化、近代化と経営規模の適正化とを促進して、その経営の安定向上を期することといたしました。特に、農業経営の近代化を推進するため、農業系統資金の積極的な活用をはかることといたし、新たに農業近代化助成資金を設置することといたしましたほか、需給の実情に即して、麦類の作付転換及び生産の合理化を推進することといたしました。なお、大豆輸入の自由化に対処して、国産大豆価格の安定をはかるため、所要の措置を講ずることといたしております。  中小企業につきましては、その合理化、近代化をはかるため、中小企業近代化促進費を大幅に増額し、また、小規模事業対策の推進をはかることといたしました。さらに、財政投融資におきまして一国民金融公庫、中小企業金融公庫、商工組合中央金庫等の貸付規模の拡大に必要な資金措置を講じ、中小企業信用保険公庫に対する出資を増額して、中小企業金融の拡充、円滑化に資することといたしております。  地方財政につきましては、近時著しい改善を見るに至っております。昭和三十六年度におきましては、国の減税とあわせて地方税の減税もある程度予定いたしておりますが、経済の拡大に伴う地方税の増収も相当に期待されますほか、地方交付税交付金等において、前年度当初予算に対し七百一億円の増加となり、財政の健全性は十分保持されるものと確信している次第であります。また、今後における公共事業の推進に伴う後進地域の負担の増加に対処して、これらの事業にかかる国の負担割合を引き上げる特例措置を設けましたことは、さきに申し述べたところであります。さらに、地方団体の起債につきましても、上下水道等、公営事業関係の地方債に重点を置いて、これを拡大することといたしております。  これによって、地方公共団体の行政水準と住民の福祉は一そうの向上を見るものと存じます。地方公共団体におきましては、この際、さらに経費の効率化をはかり、財政の健全化の努力を続けられるよう希望するものであります。  財政投融資につきましては、以上それぞれの項目において御説明いたしたところでありますが、計画の策定にあたりましては、国民生活の安定向上に資するよう重点的に資金を供給するとともに、産業基盤の整備、輸出振興のための資金の確保に特段の配慮をいたしております。なお、拠出制国民年金の発足する機会に、その資金の使途が明確になるよう配慮いたす所存であります。  次に、昭和三十五年度予算補正について一言申し上げます。  今回の補正予算の総額は、歳入歳出とも約四百四十億円でありまして、その歳出は、産業投資特別会計の資金への繰り入れ及び地方交付税交付金等の増額を内容としております。産業投資特別会計の資金への繰り入れは、わが国経済の体質の改善を推進すること等のための出資需要が将来にわたって増大するものと予想されるに至りましたので、これに対処するため三百五十億円を計上し、このうち百五十億円は昭和三十六年度財政投融資の原資として使用することといたしております。また、地方交付税交付金等は、歳入において計上いたしました所得税及び法人税に対応いたしまして所要の額を追加計上したものであります。  この結果、昭和三十五年度一般会計予算の総額は、歳入歳出ともそれぞれ約一兆七千六百五十一億円に達することとなります。  以上、当面の経済情勢とこれに対処すべき財政経済政策の基本的な考え方を申し述べ、予算の大綱について御説明いたしました。  昭和三十六年度は国民所得倍増計画の初年度でありまして、ここに提案いたしました予算は、きわめて重要な意義を有するものであります。私は、この予算を中軸とする財政経済施策の着実な展開が、国民生活の希望に満ちた、明るい将来を約束するものと確信いたします。国民各位も、政府の意のあるところを了とせられ、一そうの御協力を賜わるよう切望する次第であります。(拍手)     —————————————
  11. 清瀬一郎

    議長清瀬一郎君) 国務大臣迫水久常君。   〔国務大臣迫水久常君登壇
  12. 迫水久常

    国務大臣(迫水久常君) 私は、内閣総理大臣並びに大蔵大臣演説と関連を持ちつつ、経済の問題に関して若干の見解を申し上げ、国民各位の御理解と御協力を得たいと存じます。  昭和三十五年度わが国経済は、当初は、あるいは過熱が心配されたり、また、一部には下期後退説もあったのでありますが、事実は、昭和三十四年度高度成長に引き続き、予想以上に高度かつ安定的な成長を遂げつつあるのでありまして、国民一人当たり所得は、前年度に比し実質一一%以上の増加となると見込まれるのであります。これは、設備投資、個人消費、輸出等の最終需要がいずれも予想をはるかに上回って増加したことによるものであります。根本的に申しますと、わが国産業の合理化、近代化が技術革新等によって一そう進み、国際競争力も強力せられ、一方、国民生活の内容も充実高度化するなど、わが国経済構造的にも進化しつつあることに基づくものであります。このような進化は今後もなお継続するものと考えられるのでありまして、わが国経済が将来もきわめて成長の要因に富んでいると考え得る根拠は、実にこの点にあるのであります。  このような経済発展は、欧米諸国にもあまりその例を見ないところでありまして、国際的にも高く評価されているのであります。しかし、わが国経済全般の近代化高度化の進み工合は、欧米諸国に比較してまだまだ低く、しかも、社会資本の充実がおくれていること、地域間、産業間、階層間の所得格差がなお相当に著しいこと、個人生活の内容がもっと充実しなければならないこと、雇用条件及び体制をさらに整備しなければならないことなど、幾多構造上の欠陥を蔵しておりますことは、これを率直に認めざるを得ないのであります。今後の経済政策の要点は、実にこのような欠陥を一そう改善しつつ、高度成長を達成することにあるのであります。政府がさきに国民所得倍増計画及び国民所得倍増計画の構想をもって今後における政府、民間を通じての道しるべとすることに決定いたしましたのもこれがためでありまして、昭和三十六年度はその第一年度に当たりますので、予算の編成もこれにふさわしいものたることを心がけたのであります。  政府は、昭和三十六年度において、わが国経済は、昭和三十五年度国民総生産を十四兆二千三百億円と想定いたしまして、これから実質九・二%の成長を遂げ、国民総生産は十五兆六千二百億円に達するものと計算をいたしております。これは、昨年秋新政策を発表した当時に想定した昭和三十五年度国民総生産十三兆六千億円に対比いたしますれば、実に一五%に近い成長に当たるのであります。  従来、経済の見通しを作成するにあたりましては、わが国経済体質が弱く、底が浅いという面に留意し過ぎた傾きがありましたため、とかく控え目となりまして、勢い政府が有すべき財政力を十分に活用することができなかった面もあったのでありますが、今回の見通しにおきましては、過度に慎重に偏することなく、わが国経済の実力を十分評価するよう留意いたしたのであります。これは、政府国民経済成長におくれないように施策実行すべきであるという池田内閣の根本方針に照応するものでありまして、この見通しに基づいて編成された今回の予算は、まさにわが国経済の実勢に即応した健全財政というべきものであると考えるのであります。(拍手)  以下、今後の経済運営上特に留意すべきものと考える若干の点について申し上げたいと思います。  第一は、今後の成長をささえる主要なる要因についてであります。  わが国経済成長をささえて参りました特徴的な要因は、昭和三十四年度におきましては在庫投資、三十五年度におきましては設備投資であったのであります。しかし、設備投資は、ここ数年来の伸びが著しく大きかった結果、その規模はかなり高い水準に達しておりまして、企業の側におきましても、将来の健全な経営に対する配慮が行なわれるでありましょうし、また、政府としても、設備投資は将来の生産力増加意味するものでありますから、将来の需給の均衡を考えて、これが適切に行なわれるよう民間の慎重な投資態度を期待しているのであります。従って、今後同じような大きな率で伸びていくとは考えられません。今後需要の要因として期待すべきものは、消費需要、特に個人消費支出の増加であると思います。今回の予算におきまして、減税、社会保障拡充各種所得格差の是正、国民生活充実等について特段の配慮を払いましたことは、この面にも寄与するところが大きいと存ずるのでございます。経済企画庁におきましても、国民生活充実をはかる見地から、今回新たに予算措置を講じ、消費者の立場からする行政の総合調整に一そうの努力を傾注すると同時に、地域所得格差是正につきましても、工業の地方分散を促進する見地から、有効な措置を講ぜんとしているのであります。  第二は、農業及び中小企業についてであります。  現在進行しつつある経済高度成長は、技術革新等による生産性向上雇用の拡大とを中核とするものでありまして、申さば、産業にとって一つの変革ともいうべきものであります。この変革に対して最も力の弱いものは農業中小企業でありますから、政府におきましては、特にこれらのものが高度成長に取り残されないよう助力いたす考えでありまして、今回の予算においても特段の配慮をいたしたのであります。これらの部面に属せられる方々も、よく事態の実情を認識して、みずからも十分に努力せられることを期待いたします。  第三は、国際収支についてであります。  来年度国際収支の黒字幅は、本年度より縮小いたすといたしましても、依然として黒字基調維持できるものと考えますが、国際収支に関連して、米国景気の停滞、西ヨーロッパ景気の上昇鈍化をどう見るか、特に、米国のいわゆるドル防衛政策の影響をどう見るかということは、きわめて重要な問題であります。この点は、率直に申して、ケネディ大統領の国内及び国際経済政策いかんにもかかるところでありますが、全般として世界経済動向については、いたずらに悲観する必要はないと判断をいたしておるのであります。しかしながら、今後、各国の輸出競争が一そう激化いたしますことは当然予想しておかなければなりませんので、世界の大勢に即応しながら貿易自由化の体制整備しつつ、政府、民間を通じて、輸出の振興海外経済協力の促進に一そうの努力を払うことは、きわめて肝要なことであると考えております。今回の予算におきましても、政府はかかる観点から十分配慮いたしたつもりでありますが、民間においても、これに即応して国際競争力を強化し、輸出振興につき十分の努力を一そう積極的に払われるよう切望するものであります。なお、経済企画庁におきましても、新たに設置される海外経済協力基金の積極的な活用につきまして万全を期する所存であります。  第四は、物価についてであります。  わが国経済の現状におきましては、総体的に見て需要が供給を超過するような事態は考えられないのみならず、今回の予算も健全財政のワクを堅持しておりますので、インフレーションによる物価騰貴の起こるおそれの絶対にないことは、識者のみなこれを認めるところと思います。(拍手)かりに、一時的または局部的の需給のふつり合いが生じましても、これを調節することは、相当な額の外貨を保有していることでもありますから、困難なことではありません。もちろん、今後、経済発展に即応して労務費が上昇することは当然でありますが、これも、技術革新、産業の合理化の一そうの進展による生産性向上によって吸収し得る余地が大きいのであります。従って、卸売物価については、総体としては弱含み横ばいに推移するものと考えておるのであります。  問題は、消費者物価であります。消費者物価上昇しないことが望ましいことはもちろんでありますが、卸売物価とはやや趣を異にしておりまして、消費者物価という中には、商品の小売価格のほかにサービス等の料金及び公共料金が含まれておりますので、これを分析して申し上げたいと思います。  まず、商品の小売価格につきましては、ただいま申しましたように、卸売物価が安定しております以上、小売面における労務の対価の上昇を能率の増進等によって吸収し得ない場合のほかは、上がることはないのであります。もし卸売価格が生産性向上等によりまして低落する場合におきましては、小売物価も低下し得るはずでありまして、今後、工業製品の中にはこのように指導していき得るものも多くあると考えております。しかし、労務の対価の上昇を吸収し得ない場合には、勢い小売物価の値上がりとならざるを得ないのでありますが、これは、小売業に従事する者に対する、他との均衡を得た所得増加意味するものでありまして、ひいては雇用状態改善にも資するところでありますので、合理的な範囲においてはこれを許容すべきものと考えるのであります。(拍手)ただ、この場合、小売物価構成上、労務の対価の占める割合は通常さほど大きなものではありませんから、その値上がりの程度はおのずから限定されるものと申さなければなりません。  次に、サービス等の料金でありますが、この部面における労務の対価の上昇は、商品の場合よりも、能率の増進等によってこれを吸収し得る余地は少ないといわざるを得ないのであります。従って、今後ある程度の上昇は避け得ないところでありますが、とれまた、この部面に属する人々の所得増加のために、小売価格について申し述べましたところと同様の意味において、容認すべきところであると考えます。  以上のほか、商品の質の向上またはサービス等の内容の向上のために、価格または料金が上がるものもありますが、このようなものが、本質的に申して、値上がりと観念すべきものでないことは申すまでもございません。  次に、公共料金でございますが、これは努めて抑制する方針であります。今回の予算に関連して値上げが決定されました国鉄運賃と郵便料金は、従来、政府の関与によって相当長期間低い位置に据え置かれ、一般価格水準よりも著しく低位にあり、事業の運営上、ことに今後の経済成長のため必要な施設を整備する上から見て支障となるので、この際これを引き上げることが、国民経済の全般から見て必要と認めた結果にほかならないのであります。もちろん、その引き上げの程度は必要の最小限度にとどめたのであります。  要するに、消費者物価は、卸売物価と異なりまして、経済成長国民所得増加に伴って逐次上昇する傾向にあることはやむを得ないところであります。欧米諸国の実例を見ましても、たとえば、昭和三十年を基準として三十四年までの四カ年の期間をとって見ますと、米国におきましては、国民所得の伸び率二一%に対して消費者物価上昇率は八・八%、イギリスにおきましては、前者二三%に対しまして後者一二・六%、わが国経済成長を競いました西ドイツにおきましても、前者四〇%に対して後者九・九%となっております。この期間におけるわが国の場合を申し上げますと、国民所得の伸び率四九%に対しまして消費者物価上昇率は四・一%程度で、最も低位にあるのであります。(拍手)  しかし、警戒すべきは便乗的な値上げであります。経済がきわめて好調であり、個人消費も旺盛になりますと、おのずから安易な物価値上げの風潮が生じてくるのであります。これがいわゆる値上げムードと称すべきものと思いますが、このような風潮が生じて参りますと、合理的な値上げの理由のないものまで値上げしようとする傾向が生じてくるのであります。今回、政府が、国鉄、郵便等の公共料金の値上げにつきまして、その幅を極力小さくするよう努力いたしましたのも、一面、国民生活に急激な影響を与えることを避けるとともに、このような風潮に対する刺激となることに対して配慮したからにほかならないのであります。政府といたしましては、今後、この便乗的な値上げにつきましては、国民各位の御協力を得つつ、厳にこれを抑制していく方針であります。(拍手)  以上申しましたところによりまして、国民所得上昇に比して、物価上昇の割合はきわめて低いのでありますから、世上の一部に存する所得倍増よりも物価倍増になるという説のごときは全くの杞憂であることが御了解願えると思うのであります。(拍手政府におきましては、今後とも、消費者物価の安定について格段の努力をいたす所存でありますから、国民各位も十分協力せられんことをお願いするものであります。  これを要しまするに、わが国経済は、政府においても、民間においても、それぞれ施策し、また、配慮すべき事項は幾多存在するのでありますが、お互いに協力努力するならば、その前途はまさに長きにわたって洋々たるものがあることを確信いたします。ただ一点、私は、経済成長に対する信頼が大きければ大きいほど、経済発展に先ばしって過度の思惑が発生することを心配するものであります。わが国経済の堂々たる進展をはばむ原因がもしありとすれば、ただ一つこの点であると思います。政府といたしましては、諸般の政策の機動的運営に努めまして、かかる事態が生じないよう格段の留意をいたす所存でありますが、国民各位におかれましても、十分の理解のもとに、節度ある歩調をもって、高度の経済成長の達成と充実した国民生活実現に向かって邁進せられんことを切望してやまない次第でございます。(拍手)      ————◇—————
  13. 清瀬一郎

    議長清瀬一郎君) この際、暫時休憩いたします。    午後一時十五分休憩      ————◇—————    午後四時四十五分開議
  14. 久保田鶴松

    ○副議長(久保田鶴松君) 休憩前に引き続き会議を開きます。      ————◇—————  国務大臣演説に対する質疑
  15. 久保田鶴松

    ○副議長(久保田鶴松君) これより国務大臣演説に対する質疑に入ります。加藤勘十君。  〔加藤勘十君登壇
  16. 加藤勘十

    ○加藤勘十君 私は、日本社会党を代表して、池田総理並びに関係閣僚に対して、主として外交上の問題について質問をいたしたいと存じます。(拍手)  先ほど、総理並びに外務、大蔵両大臣、経済企画庁長官から、それぞれ施政方針についての御演説を聞きました。これらの御演説は、国民の琴線に触れる何ものもなく、顧みて他を言うか、あるいは、くつを隔ててかゆきをかくというがごときもので、そこには一片の指導精神の現われたるものなく、物足りないことおびただしいものがあります。(拍手)先日の新聞に出ていた話でありますが、一高校生が、「十年後に自民党とい今政党がまだあるかしらん」こういう疑問を発したことを聞いて、総理はがく然とされたということでありますが、この少年の言葉こそ、天に口なし人をして言わしめるものではないでしょうか。(拍手)とかく、支配的地位にある保守派の諸君は、きのうという過去に幻想を抱き、今日という現実に執着して、明日という理想を語るを欲しない傾向があります。しかし、保守派の諸君がどのように考えておろうとも、時はいっときの休みもなく進歩の歩みを続けていくのであります。(拍手)私たちは新鮮な時代感覚を持って、現実と未来を貫くその連なりと取り組み、前向きの政治を考えなければならないと存じます。(拍手)  以下、私の質問に対し、政府当局の御答弁も、日本の置かれたる国際現実とその将来の指針となるべきものを国民に訴える心がまえをもって率直にお答えを願いたいのであります。  その第一点は、日本の外交の重要課題一つとしての中国と国連関係についてであります。  国連が結成されてすでに十有五年を経過しましたが、この間、イデオロギーの対立や利害の不一致のために、国連はその機能を十分に果たすことができなかったのであります。しかし、昨年末には参加国は九十九を数えるに至り、日本が加盟した当時とはだいぶん様相が変わってきております。米ソいずれの陣営にも傾かない中立、中正の機能を発揮し得るようになったのであります。こうした傾向が顕著に現われたのは、アフリカのコンゴ国の内紛問題や植民地主義排除に関する決議案、並びに経済社会理事会の理事選任にあたり、五大国の一つとして特権的にその地歩を占めてきた中華民国が、その地位を失ったことなどに現われておるのであります。今日、国連に中華民国の名で正式に代表権を持っておるのは台湾政府であります。台湾政府は、もはや、現実には中国を代表する資格を失っておるのであります。(拍手)中華民国は、国連結成の当時は、米、ソ、英、仏と並んで、五大国の一つとして、安全保障理事会に常任理事国としての優位を占めていました。その後、中国の内戦によって、中華民国の南京政府は台湾に本拠を置く一地方政権に転落し、今日の北京政府は、国名も中華人民共和国と改め、事実上中国大陸を統治し、その六億の民を代表する政府となっておるのであります。(拍手現実の事態は、北京政府こそ中国を代表する正統政府であることを否定することはできないのであります。(拍手国連における加盟国の政治的あるいはイデオロギー的複雑な理由のもとに、中華人民共和国の国連加盟はいまだに拒否されておることは、皆さんの御承知の通りであります。しかし、昨年アフリカ大陸から十六カ国が新たに加盟するに至りまして、従来のバランスが破れ、中立派の勢力が著しく増大し、中華人民共和国加盟の問題も、破れはいたしましたが、わずか数票の差に迫ったのであります。ことに、私たちが重視しなければならないことは、東南アジアにおいて厳然として中立を保持しているインド、ビルマ、インドネシアはもとより、セイロン、ネパール、ラオス、カンボジア、マラヤの国々及びSEATOの加盟国であるオーストラリア、ニュージーランド等が中国の国連加盟を支持しているということであります。また、いわゆる反共国家としてSEATOに加盟しているタイ及びパキスタンが、最近、軍事的ひもつきでない経済援助をソ連に求める交渉を開始したということも、中立化の傾向として見のがすことができない事実であると思います。こうした国連における情勢から推して、本年の国連総会に中国加盟の問題が具体化する可能性は十分うかがえるのであります。このようなとき、池田内閣は、どのような態度をおとりになるのか。昨年同様、拒否の態度をおとりになるというのか、あるいは、そのときの情勢次第というような逃げ口上で明確な御答弁ができないのか、いずれか、この点をはっきりお答えを願いたいのであります。(拍手)  この問題に対するわが国の態度は、当然に北京政府との関係につながってきます。わが党は、中華人民共和国の現実状態から、この国との国交を正常に回復し、経済文化の交流は心とより、ソ連とともに一日も早く平和条約を締結して、アジアにおける平和と繁栄をもたらすべきことを主張してきたのであります。もちろん、こうしたわが党の主張に反対する論者も少なくないことを知っております。これらの反対論者は、第一には、台湾の存在をいかにするか、第二に、共産主義勢力の侵入をいかにするか、第三に、わが国の将来の安全保障をいかにするか、これらの諸点を問題としているのであります。いかにも、との三つの問題は、中国との国交回復にあたって十分考慮に値する大きな問題であることは、その通りであります。  第一の、台湾政府は、現在アメリカの強力なる軍事的、経済的支援によって一国の体をなしているとはいえ、わが国立場から見れば、台湾という島は、サンフランシスコ条約によって放棄し、中国に返還したもので、その帰属が中国にあることは、議論の余地はないのであります。中華人民共和国側が、台湾問題は中国の国内問題であって、他国の干渉を受くべき筋合いのものでないと主張するのは当然であります。われわれとしては、情において忍びがたきものがあっても、大義、大道に従って、台湾問題は中国国内問題として平和的に処理されるようまかすべきではないか。(拍手)現に、北京政府は、台湾は必ず解放するが、武力による解放は行なわない、と、しばしば声明しておるのであります。  第二の、共産主義勢力の侵入云々に対し、保守派の諸君は一種の恐怖病に冒されておるということができます。共産主義の思想が、かりに侵入を試みられようとしても、わが国社会情勢に共産主義思想を受け入れ、あるいはこれを育成する温床があるかないかが問題でありまして、思想戦には思想をもって武器として対抗する以外に方法はないのである。再軍備に多大の予算を取り、いたずらに万里の長城を築きましても、内に金がものを言う買収選挙が横行し、社会保障完備への熱意は財界への人気取り策とすりかえられて影をひそめ、清潔な政治、大衆の生活安定感という共産主義侵入の防御策は捨てて顧みられない。この政治の貧困こそ共産主義侵入への危険信号と、政府は大いに反省すべきではないか。(拍手)  第三の、わが国の安全保障の問題については、わが党は、かねてより、日米安全保障条約、中ソの軍事条約、この両体制対立を、それぞれ条約を無効にせしむる努力によってこれが達せられた後に、中立を守る日本独自の立場から、国連方式による集団安全保障の道か、あるいは太平洋集団安全保障の道か、そのいずれかの道を決すべきであると主張しております。中国の国連加盟、中国との国交回復の問題は、わが国に課せられたる本年度の重要課題一つとして、これが解決を迫られていることは、火を見るよりも明らかであります。総理は、国民に対し明確にお答えを願いたいのであります。(拍手)  さらに続いて、私は、中国との貿易再開の問題について政府所信をお伺いしたいのであります。  日中国交の正常なる回復への道として、両国間の貿易を欲する声は、保守、革新を問わず、今や国民世論として盛り上がって参っております。かの長崎における不幸なる国旗事件のため中断した日中間貿易は、諸般の新情勢の展開によって、これ以上放任しておくととは許されぬ事情となったのではありますまいか。すなわち、戦後、軍事的に経済的にアメリカに依存し、従属してきたわが国は、勤勉にして能力ある国民努力によることはもとよりでありますが、弱小企業労働者、農漁民の犠牲の上に、金融資本による資本の集中、企業の合理化を行ない、みごとな経済成長を遂げ、独占形態を確立するに至りました。今や、日本の資本主義も、貿易の自由化とアメリカのドル防衛策に直面して、大きな危険に立たされるに至ったのであります。日本の経済は、今や、米国への依存といろ温室を離れ、独自の力によって国際市場に立たざるを得なくなった以上、利害に鋭敏な経済界は、早晩日中関係が何らかの形で打開されなければならないとの見通しのもとに、日中経済友好使節団の派遣とか、中国側から廖承志氏とか南漢宸氏らを招待し、両国間の友好を増進しようとする準備が進められておるというが、これらの企ては政府とは無関係で進められておるのか、それとも、政府と了解のもとに進められておるというのか。もし了解のもとに進められておるとすれば、いかなる了解が与えられておるのか、この点、はっきりお答えを願いたいのであります。池田内閣としては、できれば民間協定で日中貿易推進したいと考えているかもしれないが、中国側は、はっきり三つの原則を承認の上での政府間の協定でなければ再開に応じないという態度を明らかにしております。中国側の主張する三つの原則は、一、中国敵視政策をやめる、二、二つの中国を作る陰謀に加わらない、三、日中復交を妨害しないというのであって、政府政府とが誠意を持って貿易協定を結ぼうとする以上は当然のことである。日本側にいろいろ言いたいこともあろうが、国際信義を守る限り認められない問題は一つもないはずだと思われるが、これが認められない理由が他にあるか、あれば、それを国民が納得するように明らかに知らしてもらいたい。(拍手)  第二は、ラオスの事態と日米新安保条約との関係についてであります。  去る十八日、小坂外相は、ラオス問題について申し入れしたわが党の成田政審会長に対し、ラオスに対して在日米軍は出動をしていない、従って、事前協議の申し出の事実はない旨を答えております。私がお聞きしたいのは、そうした単なる手続上の問題ではなくて、ラオスの内戦がアメリカの干渉によって本格化し、戦禍が東南アジアの一角に広がったとした場合、新安保条約下のわが国はどうなるかということであります。在日米軍がかりに出動するようなことがあるとしたなら、すでにソ連からわが国に対して警告が発せられておるところであるが、わが国は、国民の意思に関係なく、直接何らの利害関係もない近隣の一地域紛争に自然に巻き込まれて、あるいは拡大するかもしれない戦禍の中に投じられてしまうのである。こんなおそろしいことがあろうか。国民は不安にかられておるのであります。  私は、このラオスを取り巻く危機について、ここに、ある評論家の言葉を引用してみたいと思います。  彼いわく、「アメリカは韓国やトルコで犯したあやまちを、またもやラオスで繰り返そうとしている。民衆に根のない独裁者にドルと武器を与えて、しゃにむに反共のとりでを構築する努力は、各国で試験済みの通り永続しないばかりでなく、逆に反米感情となってはね返ってくることを悟らねばならない。なぜアメリカは年々四、五十億ドルにも上る莫大な援助を振りまきながら、世界の至るところできらわれるのか。アメリカのためにも世界のためにも、今日はこの点の反省が必要なときである。ラオス政策のごときは、一つ間違うと戦争の危険さえあるのだから、近隣の国として見過ごすわけにいかないし、特にアメリカの与国日本は、利害の複雑と距離の近い関係上、深甚な考慮を求めなければならない。率直にいえば、アメリカの選ぶ相手は、反共でさえあればだれでもよいのである。この場合、アメリカの出先官憲が清潔であり、アメリカの国策に忠実第一であればまだ救いはあるが、不幸にして、彼らの多くは独裁者に欺かれるか、それをかばって、見て見ぬふりしており、はなはだしいのは、腐敗の分け前にあずかって、腐敗を助長しているものさえある。アメリカが容共派とするコン・レ大尉はもちろん、パテト・ラオすらも本来は容共派ではなかった。それを共産側に追いやったのは、むしろアメリカのサナニコン政権援助政策にある。プーマ政府が各派連合の中立政権を企てたとき、アメリカはノサバンにドルと武器を与えて反抗させた。ハンガリーに対するソ連の行動を非難したアメリカが、中立を求めるプーマ打倒を援助する矛盾は弁護の余地はない。アメリカがいつも民衆を敵に回し、独裁者を仲間としているのに対して、共産側は常に民衆を味方とし、手足とするやり方をとっている。これがアメリカが世界じゅうで鼻をつままれ、失敗している原因である。反共に異議はないが、いま少し民心をとらえる上策があろうではないか。今やアメリカの授助に比例して共産側の行動も積極化し、ノサバン軍と容共連合軍の内戦は、アメリカ対中ソの代理戦争的色彩を次第に明瞭化してきた。もしこの状態改善されぬとしたなら、戦いはラオス一国にとどまらず、南北ベトナムからカンボジア、タイにまで波及して、朝鮮戦争以上の危険は必至である。われわれはそれをおそれる。第七艦隊を南シナ海に出動させ、沖繩の部隊を動かそうとするアメリカの態度を見ては、日本として、もはや傍観しているわけにはいかない。第七艦隊は横須賀を補助基地として使用しているし、万一、在日部隊が沖繩に向かって移動するようなことにでもなれば、当然新安保条約付属文書による事前協議が行なわれねばならぬ。政府も事態を憂慮して、伊関アジア局長を現地に特派して調査するという異例の処置をとっている。万政府が間接的にもラオス紛争に介入することを認めでもしては、安保条約に賛成した国民も、おそらくはあげて反対するであろう。」これは、一月二十四日付のある新聞に、保守的だといわれておる政治評論家の某氏が寄稿した時評の一部であります。(拍手、発言する者多し)  皆さん、名前が聞きたいのですか。名前が聞きたければ言いましょう。新聞は読売新聞、評論家の名前は御手洗辰雄氏であります。(拍手)どうです。内外の諸情勢に十分通暁しておる保守派の評論家でも、この場合に、このような憂いと不安を抱いておる。(拍手一般国民が、もし現実に事前協議を必要とするような事態に直面した場合、どんなに驚き、どんなに不安を感ずるであろう。(拍手)安保条約の締結に精魂を傾けて反対したわれわれの気持に対し、国民は、当然十分に理解してくれることを信ずるのであります。わが党が今日といえども新安保条約に強硬に反対しているのは、日本国民をしてこのような事態に絶対に直面せしめないためであることを、私は、ここに重ねて強調するのであります。(拍手)  なお、ラオスを取り巻く紛争について、米国は、強気一方で、国際監視委員会の復活設置に反対的態度を示してきたが、海外通信によれば、ケネディ氏の大統領就任とともに幾分弾力性を帯びてきて、ラオスの中立化、国際監視委員会の設置に積極性を示してきたように見られるが、現実の事態はどのようであるのか、また、日本のとるべき態度はいかにあるべきかについて、外務大臣から率直にして正直な御答弁をお願いいたしたい。(拍手)  なお、この際、私は、池田総理にお伺いしたいが、それは、ラオスの内戦は、このように中立を保持する以外に解決の道なしとさえいわれておるとき、総理は、昨年の総選挙のころ、わが党の主張する中立政策を評して幻想であると冷笑されたが、今日でもなおそのように考えておるのか、もう一度、ラオスの事態をはっきり見直して、日本民族の安全のために、あやま  ちを改むるにはばかることなく、率直  な答弁をしていただきたいのでありま  す。(拍手)   さらに、いま一言つけ加えて申し上  げますが、日本の外交国際的に国連中心方針をとっておることは保守党政権の一貫した考え方であると思うが、その国連加盟国のある国は、アメ  リカを中心とするいわゆる自由主義圏に属し、あるものはソ連圏に属してい  るとはいえ、アフリカ、ラテン・アメリカ、アジアの多くの国々のうち、その大部分は、いずれの陣営にも属さない中立の立場をとっておることは、厳然たる事実であります。米ソ等の大国といえども、これらの中立国の向背を無視しては、もはや国際政局を自由に動かすことはできなくなってきたのであります。米ソの対立緩和し、世界平和を維持するのは、実にこれらの中立国の動きに待つところ大きいのであります。わが党は、アジアにおけるわが国立場を真剣に考慮して、中立主義こそ日本の進むべき必至の道であるとの確信を持つものであり、池田総理のこの点に対する所信をお伺いします。(拍手)  次は、ガリオア、エロアの問題についてであります。  最近、新聞紙の報ずるところによりますると、日本政府は、アメリカ政府に対し、ガリオア、エロアを債務であるという前提のもとに、その金額、支払い方法などについて具体的な交渉を始めるように伝えられておりまするが、それはほんとうでありましょうか。一体、ガリオア、エロアが何を根拠として債務というのでありまするか。政府は、従来、しばしば、債務と心得る、と不得要領な表現を用いてきましたが、債務と言い切ってはいなかった。しかるに、これを確定債務として、その支払い方法を協議することは、明らかに憲法八十五条の規定に違反すると思うが、政府はどのようにお考えですか。(拍手)  政府は、アメリカの対日援助費は、平和条約第十四条(b)項に規定する直接軍事費でないから、アメリカに請求権があるという観点と、いま一つは、昭和二十四年四月六日の国会において行なった阿波丸事件の対米賠償請求権放棄の決議に基づいて日米両国政府で協定を結んだ節、吉田総理大臣とシーボルト氏との間に書簡が交換され、その交換書簡の中に、占領費並びに日本国の降伏のときから米国政府によって日本国に供与された借款及び信用は、日本国が米国政府に負っている有効なる債務であり、これらの債務は米国政府の決定によってのみ減額し得ると書いてある点との二つの事柄をとらえて、ガリオア、エロアの債務説を主張するのでしょうか。平和条約第十四条(b)項に規定された直接軍事費云々の件は、ガリオア、エロアの性格及びその使い道を検討すれば、明瞭に軍事的目的に使用されていることがわかります6すなわち、一、ガリオア、エロアの資金はアメリカ陸軍予算として議会の承認を受け、物資の買付はアメリカ陸軍省で行なって、日本政府は何らの権限を持たない。二、この使用者はアメリカ軍であって、日本政府ではない。三、ガリオアは、アメリカでは軍の民生品供給計画と呼ばれている。四、その使用目的は、軍事的関心から、補給線と兵站線の治安を守り、これを統制するため、秩序の回復と維持を必要とし、政治的には、解放者として廃墟の土地に臨み、米軍軍隊を病気と民間の不安から守るため、占領地の民生品の供給は必要であった。これだけ見ただけでも、ガリオア、エロアが普通の借款でないことは明瞭であります。(拍手)また、二十四年四月、見返り資金特別会計が設定されるまでは、物資の金額は無記入であります。数量は不明瞭であります。どこの国に債権債務の対象となる物資の金額、数量を明記しないで債権債務を設定するものがありましょうか。(拍手)ガリオア、エロアが普通の債権債務でない何よりの証拠であります。外務大臣は、これらの点を調べて、どのように考えられまするか。この点もまた、はっきりお答えを願いたい。(拍手)ガリオア、エロアを債務として確認するようなものは、以上のほかには何もない。それとも、政府の方には何か隠れたる材料でもあるとおっしゃるならば、お示しを願いたい。これに反し、債務でないとする証拠は、今まで申し上げたことによって明瞭であります。  日本国民は、アメリカの好意による贈与と思えばこそ、鳥のえさにしかならないようなくず豆でも、ありがたく適正代価を払っておるのであります。(拍手)また、国会の感謝決議に共感の拍手を送ったのも、その現われであります。(拍手)また、阿波丸の賠償請求権の放棄も、こうした国民的感情を映し出したものにほかならないのであります。それを、今になって、あれは貸してやったものだから代金を返せと言われたのでは、代金の二重払いという  経済的負担もさることながら、国民的感情を踏みにじるものとして、とうて  いがまんのならないものであります。(拍手政府は、こうした国民的感情を何と思われまするか。  ガリオア、エロアの物資がアメリカから送られたと思い込んでいた人は、現に今の政府部内にもあるのであります。昭和二十八年七月十日の衆議院決算委員会で、時の岡野通産大臣は、「私は、その当時、これをちょうだいしたと思っておったものでありますから」、こう答えております。また、今大臣席におる水田大蔵大臣も、昨秋の特別国会の大蔵委員会において、私の質問に答えて、「私もその当時はもらったものと思っておりました」、はっきりそう言っておるのであります。小坂外務大臣はどうですか。  このように債務と見るべき根拠はほとんどないにもかかわらず、債務である、債務であると、押しつけるように、債務と心得るを反復繰り返しておるのは、元の総理吉田茂氏であり、岸信介氏であり、今の総理大臣池田勇人氏であります。池田さんは、昭和二十六年九月十四日、サンフランシスコ会議の調印を済まして帰朝するや、新聞記者会見において、「援助費が債務であることはドッジ氏やダレス氏やアメリカ政府当局との話し合いで確認された」、こう語っております。ところが、昭和二十九年五月七日の参議院本会議において、時の副総理の緒方竹虎氏は、「対日援助を債務と心得る法的根拠はどこにあるのかとの御質問ですが、この援助は債務と確定したものではないのでありまして、政府としては、初めから道義的にこれは債務的なものと心得て参ったものであります。平和条約締結の際、この問題について話し合いの対象となったことはございません」、はっきり池田さんの話とは食い違った答弁を緒方さんはしておるのであります。緒方さんは今はなき人でありますから、私は、池田さんとの食い違いを責めようとはいたしません。道義的に債務と心得るというものを、あたかも法的に当然の債務であるかのごとくにすりかえて、国民に多額の負担をしょわせることは、断じて承服できないのであります。(拍手政府国民をして納得せしめるに足る十分なる根拠を示してもらいたいのであります。  一部には、アメリカは今ドルの流出に困り、その防止にやっきとなっておるのであるから、ドル防衛に協力する意味でも、支払いの話し合いを進めたらとの意見もあるようですが、ガリオア、エロアの解決とドル防衛問題とは全然別個の問題であります。(拍手)これをからませることは明らかに不当、不法であります。ガリオア、エロアの問題は、あくまでも国民が納得するよう筋道を立てて解決すべきもので、ドル防衛に協力するというなら、それは別個の方策を考えるべきであると思います。この点について池田総理大臣のお考えをお伺いいたしたいのであります。(拍手)  また、一部には、同じような条件にあったドイツがすでに支払いを開始しているのであるから、日本もドイツ方式にならって話を進めたらとの、もっともらしい意見も聞かれるのでありますが、ドイツと日本とは事情が著しく違っておるのであります。ドイツに対しては、ヨーロッパ第一主義の立場から、最初から計画的で、一定の目標を立てて援助が行なわれたのでありまするが、日本の場合は、さきにも述べましたように、占領軍の軍事目的を第一としたものである。従って、その内容も食糧を主としたもので、援助物資の中に占める高率な食糧の割合を見れば明瞭であります。  さらに、私は、現在問題となっておる日韓会談の問題についてお伺いをいたします。  現在日韓予備会談が催されているというが、日本側は、この会談にどのような心がまえをもって臨んでおるのか。朝鮮は、不幸にも、三十八度線を境として南北に分断され、一つの民族が二つ国家に分かれて、互いに不信と不安と貧困に脅かされている実情であります。われわれとしては、一日もすみやかに南北の平和的統一が行なわれ、一民族一国家実現せんことを切望してやまないのであります。朝鮮の問題に大きな政治責任を有する隣国の日本国民としては当然ではありますまいか。しかるに、現在の予備会談は、その運び方いかんによっては、逆に南北の分断を恒久化し、固定化し、朝鮮民族の将来の幸福についての配慮が欠けておるものと思われるが、池田総理はどういう意図をもって日韓予備会談を推進しようとしておるのか、そのお考えを聞きたいのであります。  韓国の統治権は、明らかに三十八度線以南にしか及んでおりません。その以北は北朝鮮政府の統治下にある。韓国は、国連決議で合法政府と規定されたものであるとはいえ、全朝鮮を統治するものとして認められたものではなく、朝鮮の部分におけるこの種の唯一の合法政府として認められておるにすぎないのであります。三十八度線を境に南北に二つ政府が実在することは、朝鮮民族にとってこの上もない不幸なことであります。長い間李承晩政権のもとに自由を奪われ、貧困に苦しんできた南鮮の大衆は、李承晩を追って自由を取り戻しはしたものの、アメリカから武器を幾ら多く供給されても、武器では生活はできません。大衆の生活本能は、必然的に貧困から脱却する方途を考え出さずにはおかないのであります。それは、南北朝鮮の間に文化の交流を行ない、それを通じて南北朝鮮の統一への道を開かんとする運動が起こってきたことであります。  最近に至って、韓国社会党は、一、南北朝鮮の視察団の交換、二、文化の交流、三、郵便の交換、四、北朝鮮の電力と韓国の穀物とのバーター取引の問題、これらを提唱しております。また、新民党の一部では、北朝鮮の文化経済交流の真意を探るために経済使節団の派遣を、また、同党の金度演副委員長もジャーナリストの即時交換を提唱し、さらに、呂運弘参議院議員は、朝鮮統一の方式について討議するために、北朝鮮に四、五人の代表を京城に送るよう求めることを参議院の次期会期に上程すると言っております。張勉首相は、これまで数回にわたって北朝鮮政府から呼びかけてきた文化経済の交流の問題については、単なる北朝鮮側の宣伝にすぎないと拒否してきたのでありまするが、盛り上がる要望を押え切ることができなくなって、政府内に、統一問題研究のために二十五名の専門家からなる機関の新設を計画するとともに、外務省にも統一問題を担当する新しい部門を設けようとさえしております。郭尚勲民議院議長も、各種の交流、統一提案を検討するため、超党派委員会を結成する準備を進めておるというのであります。  このように、韓国側において南北朝鮮の統一に対する機運が高まりかけてきたときに、南北朝鮮の分割を固定化するおそれのある日韓会談ではなく、朝鮮民族全体の将来を考慮に入れての会談でなければならないと思うが、政府の見解はいかがですか、これまた、はっきりお伺いをいたしたい。(拍手)もちろん、日本と朝鮮との間には、戦後処理の問題、李ラインの問題、竹島の問題、漁業権の問題等、解決しなければならない問題がたくさんあることは認めまするが、朝鮮民族の永遠の幸福のために、朝鮮の平和的統一を妨げるおそれのある会談を避け、むしろ、南北両政府と日本との間に文化、人事の交流に努め、そして、地理的にも文化的にも最も親しみを感ずる日本が、一衣帯水の朝鮮に、イデオロギーの相反する二つの大きな陣営のいずれにも従属しない、平和な純中立国の出現を待望する態度をとることは、当然ではありますまいか。池田総理の所信とともに、みずから韓国に渡って今回の予備会談を推進したかに思われる小坂外務大臣のお考えをお聞かせ願いたいのであります。  以上、私は、両国の中心問題について政府所信をお伺いいたしたのでございまするから、どうか、冒頭にも申し上げましたように、この議場を通じて全国民理解せしむるように、はっきりとお答え願いたいことを希望いたしまして、私の質問を終わる次第であります。(拍手)   〔国務大臣池田勇人登壇
  17. 池田勇人

    国務大臣池田勇人君) お答え申し上げます。  まず第一点は、中共政府国連代表権ありとして認めるかいなかの問題でございます。これは、私が本日施政演説で申し述べました通り、私は、世界情勢を見ながら弾力的考え方によって行動をきめたいと思います。なお、御参考までに申し上げておきまするが、北京政府を認めております英国におきましても、昨年の暮れ、北京政府国連に代表権を持つことについて論議がかわされました。採決の結果、現政府の考えは、これは認めるべきではないという結論に達したのが、昨年の暮れでございます。(拍手)私は、世界の状況を見まして、今年の国際連合におきましての態度につきましては十分検討をいたしまして、自主的にきめていきたいと考えておりますので、今結論を出すことはかえってわが国のためによくないと考えておるのであります。(拍手)  次に、中共との貿易再開の問題でございまするが、けさほど申し述べましたごとく、私は、貿易再開と拡大を念願しておりまする第一人者でございます。しこうして、要人との交流につきましては、ただいま私は関知いたしておりません。  第三の、ラオスの紛争に関しまして、私は、現状においては御心配のようなことはないと認めております。イギリス初め米国におきましても、これが平和的解決に非常な努力を続けております。私は、成功することをを期待し、御心配のような点はないと、ただいまのところ考えております。(拍手)  また、私の中立主義排除の考え方は今も変わっておりません。(拍手)日本の置かれた地理的関係、また、日本の政治的、経済的の力、そして、日本民族の将来の発展を考えるときには、私は、日本としては、他の——国はいかんともしようとも、日本としては絶対に中立主義をとらぬことを重ねて申し上げおきます。(「——国とは何だ」と呼び、その他発言する者あり)  なお、ガリオアの問題でございますが、私がたびたび申し上げておりますごとく、ガリオアは債務と心得ております。これは数年あるいはそれ以上も前からの私の考えでございまして、これには変わりはございません。しかし、日本の債務と確定する場合におきましては、国会の承認を受けることは当然でございます。また、ガリオアの内容につきましては、お話の点もありまするが、私は、わが国の民生安定、経済の復興に相当使われたことを知っております。なお、ドル防衛との関係はないことは、お話の通りでございます。  日韓会談につきましての御質問でございまするが、お話のように、一九四八年十月の国際連合の決議によりまして、韓国は正統な政府と認められておるのであります。私は、日本と一衣帯水の間にあります韓国との国交を正常化することは、われわれとして当然やるべき外交措置と考えております。しこうして、三十八度線によりまして朝鮮が二つに分かれておるという不幸な事実は、私もよく知っております。これを頭に入れて交渉をなしておるのであります。(拍手
  18. 久保田鶴松

    ○副議長(久保田鶴松君) 外務大臣小坂善太郎君。   〔「——国とは何だ、取り消せ」と呼び、その他発言する者多し〕   〔国務大臣小坂善太郎登壇
  19. 小坂善太郎

    国務大臣小坂善太郎君) お答えを申し上げます。(発言する者多し)  ただいま総理大臣からお答えがあった通りでありますが、ラオスの問題に関しましては、この態勢を一日も早く終息せしめるように関係国間に努力が行なわれておりますので、私どもも、正常の外交ルートを通しまして、この方向努力をいたさねばならぬ。この努力によってこの態勢を終息することを期待いたしております。また、在日米軍は、ラオスに対してこの種の行動をとっておりません。従って、事前協議の問題は、現在問題になっておりません。将来もさようなことはないと考えております。(発言する者多し)  また、ガリオア、エロアの問題でございますが、これは、一九四五年降伏後におけるアメリカの初期の対日方針、また、一九四七年六月の……(発言する者多く、聴取不能)さらに、昭和二十九年、公式会議において日米がガリオアの問題を取り上げようということになり、さらに、三十年八月、当時の重光外務大臣が、共同声明におきまして、早期に東京における交渉でこのガリオア、エロアの返済の問題のけりをつけたいということを声明しておるのであります。従って、われわれも債務と心得ておるわけでありまするが、このうちのいかほどが一体心得ている債務の額であるかということを、諸種の証拠書類によって固めなければなりません。そして、これを固めたことによって、憲法八十五条における債務の額というものがきまるわけでありまして、われわれが援助を受けたものをすべて債務と考えているわけではもちろんない。心得ている債務は幾らかということをきめて、両国間のこの交渉をする、このことが必要であろうということであります。これは、何も、アメリカから一方的に押しつけられて、われわれがこれに応ずるというようなことではいけないのでありまして、本来払うべきものは、われわれが自主的に払う、それが私は日米対等の立場になると思うのであります。  また、ドル防衛の問題に関連してと仰せられましたが、これは、今お話のように、すでに昭和三十年八月に重光外務大臣が答えておられるのであります。共同声明で約束しておられるのでありまして、これはドル防衛の問題が始まるより以前の問題でございますから、この両者は関係ございません。  以上をもってお答えといたします。(拍手
  20. 久保田鶴松

    ○副議長(久保田鶴松君) 加藤君から再質疑の申し出があります。これを許します。加藤勘十君。   〔加藤勘十君登壇
  21. 加藤勘十

    ○加藤勘十君 私は、こういう問題で再質問に立たなければならなくなったことを、むしろ国民の一人としては悲しみに思います。(拍手、発言する者多し)  ただいまの総理大臣のお答えの中に、——国はいざ知らず、と、こういうことがありました。そうすると、中立主義をとっておる国々は、すべて——国と見ておいでになるのかどうか。(拍手)東南アジアにおいて、インド、ビルマ、インドネシア、これらはいずれも厳然たる中立主義をとっております。(「独立国だ」と呼ぶ者あり)これらの国々を含めて——国と言い得るのかどうか、そういうことで日本の外交ができるのでありますかどうか。私は、国の名前をあげれば、九十九の国連加盟国の中で、少なくとも、はっきりと、あるいはアメリカに隷属し、あるいはソビエトに隷属しておる以外の国は五十数カ国を数えるのであります。これらの国は、言うまでもなく、中立主義の国である。日本がこれらの中立主義と歩を合わせ、世界平和に貢献しようというのに対し、アメリカ、中国を強調するのあまり、こういう態度をとっておる国々を——国とは一体何事か。(拍手、発言する者多し)こういう感覚で、一体、国の外交ができるか。私は、明瞭なる池田総理大臣のお答えをお聞きしたいのであります。(拍手)   〔国務大臣池田勇人登壇
  22. 池田勇人

    国務大臣池田勇人君) 私の言葉が悪くて御非難を受けたようでございますが、私は、——国とは、特定の国をさしたのではないのでございます。一般的に、概念的に私は申し上げたのでございます。どこの国がどうこうというのではございません。(拍手
  23. 久保田鶴松

    ○副議長(久保田鶴松君) 加藤君から、さらに再質疑の申し出がありますから、これを許します。加藤勘十君。   〔加藤勘十君登壇
  24. 加藤勘十

    ○加藤勘十君 私は、ただいまの池田総理の御弁明をお伺いいたしましたが、どうか、願わくば、池田さんにお願いをしたい。こういう言葉がどんなに国際的に大きな反響を呼ぶか。(拍手)また、こういうことでは、国連に行っても、日本の立場がどんなになるかということは、賢明な池田総理が御存じないはずはない。だから、あっさりと、それは失言であったとお取り消しになったらどうかと思います。(拍手)   〔国務大臣池田勇人登壇
  25. 池田勇人

    国務大臣池田勇人君) 御注意の点、まことにありがとうございます。私は、ただいまお答えした通りでございまして、——国とは、特定の国をさしたのではなくて、一般的、抽象的のことでございます。しかし、皆さんにおきまして、そのことが国際的に非常に害があるとお考えになるのならば、私もこれは遺憾と申し上げてもよろしゅうございます。      ————◇—————
  26. 田邉國男

    ○田邉國男君 この際国務大臣演説に対する残余の質疑は延期し、明三十一日定刻より本会議を開きこれを継続することとし、本日はこれにて散会せられんことを望みます。
  27. 久保田鶴松

    ○副議長(久保田鶴松君) 田邉國男君の動議に御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  28. 久保田鶴松

    ○副議長(久保田鶴松君) 御異議なしと認めます。よって、動議のごとく決しました。  本日は、これにて散会いたします。    午後五時五十九分散会      ————◇—————  出席国務大臣         内閣総理大臣  池田 勇人君         法 務 大 臣 植木庚子郎君         外 務 大 臣 小阪善太郎君         大 蔵 大 臣 水田三喜男君         文 部 大 臣 荒木萬壽夫君         厚 生 大 臣 古井 喜實君         農 林 大 臣 周東 英雄君         運 輸 大 臣 小暮武太夫君         郵 政 大 臣 小金 義照君         労 働 大 臣 石田 博英君         建 設 大 臣 中村 梅吉君         自 治 大 臣 安井  謙君         国 務 大 臣 池田正之助君         国 務 大 臣 小澤佐重喜君         国 務 大 臣 迫水 久常君         国 務 大 臣 西村 直己君  出席政府委員         内閣官房長官  大平 正芳君         法制局長官   林  修三君         総理府総務長官 藤枝 泉介君      ————◇—————