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阿部委員 どうも実に驚いた御
答弁でございます。こういうことではわれわれは納得ができないのでありますが、時間もあまりございませんから、せっかく大臣がおいでになっておるのでありますから、私が個人としての疑問なんでありますが、この点を伺って御意見を聞いておきたいと思うのでございます。
それは何かといいますと、この
法律の第一条並びに第二条であります。これは読んでごらんの
通りに「政治上の主義若しくは施策又は思想的信条を推進し、支持し、又はこれに反対する目的をもってする
暴力行為を防止する」これが
趣旨であります。一方の目的であります。ところがその防止するのは何がゆえに防止するかといえば、「もってわが国の民主主義の擁護に資することを目的とする。」こういうのであります。これは一見当然のことの
ように思えるのですが、わが国の民主主義、こういいますと、これは最初にこの
法律は「政治上の主義若しくは」とこういっておる。この主義とやはり同じものになってくるわけであります。すなわち政治上の主義はいろいろだくさんありまして、日本は民主主義を採用しております。それは疑いの余地はありません。しかし政治上の主義はいろいろあるのであって、民主主義といっても民主主義もまた人によって理解が違っております。そこでそのうちの民主主義の擁護のために、ほかの主義の
もとに
暴力行為をすることを弾圧する、
刑罰法規をもって弾圧する、こういう定め方をするということは、これはいたずらに政治上の主義の争いを激化させるおそれがあるのではないか、こういう
心配なんであります。しかもその第二条には、「この
法律は、前条の目的を達成するためにのみ
適用すべきものであって、これを拡張して
解釈する
ようなことがあってはならない。」こうなっております。そうすると、民主主義にはいろいろありまして、たとえば、アメリカにおいて二、三年前にはマッカーシズムという
ようなものがあって、どれもこれも民主主義に反する、こういう主張の
もとに糾弾を行なったという事実もあるのであります。そこで何かのことがあったならば、
国民の一部では、この
行為は民主主義に反するものではなくて、民主主義をかえって擁護するためのものであるから、これは
処罰してはならないものである、この
政治的暴力行為防止法を
適用してはならないのである、こういう
ような主張が当然起こってくるものと思わなければなりません。現にこの
法律案が国会で審議されておるという事実の
もとに、反対の民衆運動が起こりつつあります。いたずらに政界に紛争を持ち込む種になるのではないか、こういう危惧の念を抱かざるを得ないのであります。しかもこれが政治上の争いか具体的な施策の争いという
ようなことであれば明確でありますけれども、観念上の主義の争いということになってきますと、ほとんど底止するところを知りません。かつてソ連においてはスターリン主義というのがしょうけつをきわめて、どれもこれも自分の気に入らぬものはスターリン主義に反するというので弾圧する、アメリカにおいてはマッカーシズムという、これも民主主義かは知りませんけれども、民主主義の一種の特別なもの、そしてそれの気に入らぬものはどれもこれも民主主義に反するというのでやっつける、こういう風潮が政界に起こりましたならば、非常に苛酷な、寛容ならざる政治に堕するおそれがあると思います。そして、この民主主義というのは、かりに民主主義以外に、民主主義に反する、たとえば全体主義とか共産主義とかいうものでも、それが
国民の安全を脅かさない限りは、それすら包容していくという非常に腹の大きな寛大な性格を持っておるものであるはずだと思うのでありますが、それを民主主義擁護のためにはほかの主義をやっつけるのだ、こういう形を
法律の上にまで表わしてくるということはどうかと思うのであります。同じ性質を持っております
破防法でさえ、そんな
文句は使っておらない。公共の安全を保持するためにという
ような
文句で表わしております。私はその方が妥当なのではないかと思うのでありますが、大臣の御意見はどうでございますか。