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1961-05-27 第38回国会 衆議院 法務委員会 第17号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十六年五月二十七日(土曜日)     午前十時四十六分開議  出席委員    委員長 池田 清志君    理事 田中伊三次君 理事 長谷川 峻君    理事 林   博君 理事 牧野 寛索君    理事 井伊 誠一君 理事 坂本 泰良君    理事 坪野 米男君       井村 重雄君    宇野 宗佑君       唐澤 俊樹君    仮谷 忠男君       菅  太郎君    岸本 義廣君       小島 徹三君    佐々木義武君       田澤 吉郎君    富田 健治君       早川  崇君    藤井 勝志君       米山 恒治君    阿部 五郎君       飛鳥田一雄君    猪俣 浩三君       畑   和君    春日 一幸君       志賀 義雄君  出席国務大臣         法 務 大 臣 植木庚子郎君  出席政府委員         検     事         (刑事局長)  竹内 寿平君         公安調査庁次               長 関   之君  委員外出席者         議     員 富田 健治君         議     員 早川  崇君         議     員 田中幾三郎君         衆  議  院         法制局参事         (第二部長)  川口 頼好君         警  視  監         (警察庁警備局         参事官)    曾我 力三君         検     事         (刑事局公         安課長)    川井 英良君         専  門  員 小木 貞一君     ————————————— 五月二十七日  委員上村千一郎君、浦野幸男君、加藤鐐五郎君  及び楢橋渡辞任につき、その補欠として田澤  吉郎君、仮谷忠男君、宇野宗佑君及び米山恒治  君が議長指名委員に選任された。 同日  委員宇野宗佑君、仮谷忠男君、田澤吉郎君及び  米山恒治辞任につき、その補欠として加藤鐐  五郎君、浦野幸男君、上村千一郎君及び楢橋渡  君が議長指名委員に選仕された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  政治テロ行為処罰法案坪野米男君外八名提出、  衆法第一六号)  政治的暴力行為防止法案早川崇君外七名提出、  衆法第三九号)      ————◇—————
  2. 池田清志

    池田委員長 これより会議を開きます。  坪野米男君外八名提出政治テロ行為処罰法案早川崇君外七名提出政治的暴力行為防止法案、並びに春日一幸君外一名提出政治的暴力行為防止法案に対する修正案一括議題といたします。  質疑を許します。坪野米男君。
  3. 坪野米男

    坪野委員 昨日に続いて提案者の方に質問を続けたいと思います。昨日春日一幸氏外一名から政治的暴力行為防止法案の一部修正提案説明があったわけでございますが、私は、その修正に至った経緯また修正をしなければならない理由等についての質問は他の委員質問に譲りたいと思うわけでありまして、その点についての質問は省略いたします。  ただ問題は、この政治的暴力行為防止法案、いわゆる治安立法は、国民基本的人権に関する重要な法案であるということは、提案者も十分御認識になっておることと思うわけでありまして、さればこそ参考人意見を率直に聞いて一部の修正を提案されたことだと考えるのでありますが、ただ、私たちは、一部の修正案は示されましたけれども、まだここに残っておるその他の条項についても、参考人意見を聞いて、また社会党のわれわれの質疑を通して率直に修正の必要をお認めになれば、修正案提案者の方からさらに追加していただく、あるいはまたわれわれの方から修正案を出すという、形はいずれにいたしましても、論議を尽くした上で修正すべきは修正するという基本的な態度を、自民、民社両党の提案者はお持ちであるか、あるいは昨日提案された修正点以外についてはもう検討考慮の余地がない、修正の必要を認めないという態度で今後の審議をお進めになろうというお考えであるのか、その点を最初お尋ねしたいと思います。
  4. 早川崇

    早川議員 提案者自身といたしましては、修正する意思はございませんが、修正する線は委員会自身の御決定によるものと思います。
  5. 坪野米男

  6. 田中幾三郎

    田中(幾)議員 同様でございます。
  7. 坪野米男

    坪野委員 提案者としてはこれ以上の修正意思はない、委員会審議修正すべき点があれば修正してもよい、こういう御意見のようでございますから、昨日続いて一つ私、問題点、また疑問に思っている点をお尋ねをしていきたいと思うわけであります。この防止法案は、政治的暴力行為を行なったもの、それは左右を問わず政治的暴力を行なったものを刑罰をもって規制する法律であると同時に、政治的暴力団体を行政的に規制する法律だ、このように提案説明の中から私たち理解をしておるわけでありまして、提案者説明によれば、この法律は決して労働組合の正当な活動、また大衆団体の正当な大衆運動を制限し、あるいは弾圧する意図は毛頭ない、こういう御説明を承っておるわけであります。私たちは、この法律適用される場合に、労働運動あるいは大衆運動から派生して生ずる若干の違法行為、そういった行為にこれが拡張解釈して乱用されて適用されるおそれがあるという立場から反対をしておるわけでありますが、そういう乱用のおそれは毛頭ないという御見解でありますので、私は乱用のおそれがあるのではないかという立場から、一つ具体的にお尋ねをしてみたいと思うわけであります。  順序を逆にいたしまして、まず団体規制の部分、第七条から第十三条にわたって団体規制規定があるようでございますが、この団体規制規定の中で私が疑問と思う点をお尋ねしたいと思うわけでございます。第七条でありますが、「団体役職員又は構成員」とありまして、「当該団体活動に関し、又は当該団体目的実現に資するため、」云々ということになっておりまするが、当該団体活動に関し、あるいは目的実現に資するためというこの規定は、具体的にどのように解釈すればいいのか、拡張解釈いたしますと、ほとんどのたとえば政党構成員社会党なら社会党員が行なう政治活動が、その団体活動に関して、あるいは目的実現に資するためにということにほとんど包括されてしまうのではないかと考えるのでありますが、この二つの要件について厳格に乱用のおそれのない解釈をするとすればどのように理解すればいいのか、その点一つ提案者に御説明願いたいと思います。
  8. 早川崇

    早川議員 これは、団体活動というのは、おのずからそのときそのときに具体的に現われるわけでありまして、また団体趣意書目的綱領というもので尽きるわけでありまして、その活動に関連した場合、またその目的とするところの実現に具体的に貢献するためというしぼりをしておるわけでありまして、純粋にこれとは無関係に、個人的な殺人とか、あるいは暴力行為をやりましても、たといそれが政治目的のためという冠がありましても、関係がないものと理解をしております。
  9. 坪野米男

    坪野委員 よくわからないのですが、第七条の第一項だけについて、もう少し具体的にお尋ねしたいのです。「団体活動に関し、又は当該団体目的実現に資するため、」 そういう目的を持って、あるいはそれに関連して、「第四条第一項第一号」といいますから、殺人ですか、政治殺人テロ殺人、「若しくは第七号に規定する行為」というのは、殺人正当性必要性主張でございますね、そういう殺人及び殺人正当性必要性主張を行なう、あるいはその政治殺人予備陰謀教唆扇動を行なう、また政治殺人未遂の場合、こういった場合に、当該団体に対しての一つ禁止規定がなされているわけです。今の「当該団体活動」という定義は、第四条の第四項にございますが、今の、厳密に解釈して、その規定解釈上、行為は、団体役職員または構成員が、殺人行為その他の行為を行なうわけですね。それが団体活動に関して行なう、あるいは団体目的実現に資するために殺人をするわけですね。あるいは殺人教唆扇動をするわけですね。そこで、私のお尋ねしたいのは当該団体活動に関して、政活殺人をやるというその政治殺人をやる団体員は、その当該団体がそういった政治殺人主義主張に掲げておることを要するのか。団体自体は、他の政治目的、もっともらしい政治目的主義綱領に掲げておって、その団体活動に関連して不心得者政治殺人をやるという場合にも、この第七条の第一項の規定適用を受けるのかどうか。その「当該団体活動に関し、」 というのは、この第一項に具体的に当てはめた場合に、政治殺人を行なう構成員、これはわかりますが、その団体活動の中には、そういった政治殺人目的とする、あるいはそういったことを団体活動として行なう方針等規定が必要なのかどうか、その点をお尋ねしたいと思います。
  10. 早川崇

    早川議員 殺人団体目的としておる団体はおそらくないのではないか。従って、団体目的殺人以外でありましても、その目的実現するために殺人行為を行なったら、当然ひっかかると思います。
  11. 坪野米男

    坪野委員 そうすると、この「当該団体活動に関し、」というのは、たとえば政治団体政党であれば政党右翼政党であろうと、左翼政党であろうと、犯罪行為主義綱領に掲げておる政治団体はおそらくなかろうと思うわけでありまするが、そうしますと、政党なり政治団体の正当な活動に関連して、構成員が違法な政治殺人を行なう場合にこの規定適用になる、こう理解してよろしいですか。
  12. 早川崇

    早川議員 その団体目的なり活動に関連して、手段として政治的暴力行為あるいは殺人を行ないますと、当然これにひっかかるわけです。
  13. 坪野米男

    坪野委員 この「に関し、」ということがよくわからないのです。たとえば一つ政治団体スパイがもぐり込んで、その団体に関してというその意味がよくわかりません。何かの団体が、かりに演説会なら演説会を開催する。そういう場合に、その構成員スパイにもぐり込んで、その集会の席上政治殺人をやるというような場合には、その団体に関してということはなるのかどうか、その点を一つ伺いたい。
  14. 早川崇

    早川議員 それはこれとは関係ないと思います。これはその反対団体にもちろん反対のためによそからスパイとして入っているわけですから、そのスパイを出した方の団体が今度は活動制限にひっかかるというように理解していいんじゃないかと思います。
  15. 坪野米男

    坪野委員 スパイでなくても、団体の一員で非常に矯激な思想、行動の持ち主がある場合に、団体自体意思としては、そのような実力行動に出ることを目的ともしないし、また望んでおらない。そういう場合でも団体員であるということだけで、その団体活動に関した行動になるという解釈を受けるのかどうか、その点を一つ伺いたい。
  16. 早川崇

    早川議員 今のお尋ねの問題は、われわれといたしましては、団体活動と無関係に、ただスパイのようなものがもぐっておってというようなものは、もちろんそれをさした方の団体役職員としての活動制限を受ける、こういうように理解いたしておるわけであります。
  17. 坪野米男

    坪野委員 スパイといいましても、構成員でない、ただもぐり込んだというだけの場合は、もちろん問題ございませんが、仮想として、その政党政治団体構成員に所属しておるという場合があり得ると思うわけです。第七条の場合は幾らかその本人行為禁止されるわけですから、むしろ第八条以下に問題になってくるかと思うのですが、ただ「団体活動に関し、」という規定が非常に抽象的で、乱用のおそれがある。構成員だけじゃございません。役職員の場合でありますから特に——役職員として実にりっぱな、団体のためにはなくてはならない役員もおるわけであります。一方、その役員が非常に不心得から、こういった政治殺人実行あるいは予備陰謀教唆扇動をやったという場合に刑罰制裁を受けること、これは当然でありますが、そのほかにそういった役員に対して、政治団体であれば政治活動禁止をする、これも本人に関する限りでありますが、その団体にとっては「当該団体活動に関し」でありまして、また「目的実現に資するため」に役職員がやったが、団体自身にこれは責任のない問題であろうと思うが、その団体がそういった活動家を失わなければならないとすれば、団体に対する連座的な制裁規定にもなるという意味団体に対する弾圧のおそれがあるということでわれわれが問題にしているわけであります。そこで、この「団体活動に関し、」あるいは「目的実現に資するため」という非常に抽象的な広範な概念規定でこの種の団体規制にするということは、非常に危険ではないかということでお尋ねしているわけなんであります。法制局当局が見えたらもう少し明快な御説明を願いたいと思うわけです。  その同じ第七条の二項になりますと、今度は殺人以外の政治的暴力行為に対する規定と同じく「活動に関し、」あるいは「目的実現に資するため」ということになっておりますが、第四条第一項第二号から六号までということになりますと、傷害逮捕監禁強要暴力行為、それから国会への乱入という二号から六号までの行為を行なう、また傷害あるいは国会乱入教唆扇動——国会乱入教唆扇動は削られたようでありますが、結局傷害教唆扇動ということになりますね。そういう行為構成員のだれかがやる。それから第四号もしくは第六号でありますから、強要罪未遂国会乱入未遂、こういった行為を行なった場合に、同じく四カ月間の行為禁止規定であります。この中の特に傷害教唆扇動という規定でありますが、これは具体的にいうと、どういう場合に該当になるのか、ちょっとお尋ねしたいと思います。   〔委員長退席林委員長代理着席
  18. 早川崇

    早川議員 具体的には政治目的が違うからとか、あるいは政治目的のためにあの人を傷つけろとかいう教唆扇動は憎むべき政治的暴力行為でございます。従って、この二項におきましては、そういうことをやる人には、最小限その団体目的に関連いたしました場合には、四カ月をこえないという短期間でありまするが、活動がでないということを行政的にやることによりまして、そういう不心得政治暴力というものを日本からなくしていく、こういう趣旨でございます。
  19. 坪野米男

    坪野委員 この政治的傷害教唆扇動ですね。これはもっとわかりやすく言いますと、自分と政治的な考えが違うから、平たく言いまして、あの野郎けがさせろという教唆扇動——けがという言葉ならわかるのですが、あの野郎ぶんなぐれというような教唆扇動をした場合には、この傷害教唆扇動に入るのか。大体規行刑法傷害罪というものは、未遂罪あるいは教唆扇動——教唆はもちろん総則にありますが、扇動というような概念は、現行刑法にないわけです。また現行法令にないわけですが、今の、あのやろう、ぶんなぐれというような行為傷害扇動になるのかどうか。これは幾らでも起こってくると思います。
  20. 早川崇

    早川議員 おそらくそれは暴行ということだと思います。傷害というやつは、あるいは傷つけろ、足を折れというような、もっと程度の高いものを傷害刑法でいっておりますが、傷害に至らないものは暴行という規定になっておりますから、今の御指摘のケースは、暴行扇動ということになるのではないかと思います。
  21. 坪野米男

    坪野委員 現行刑法傷害罪規定、これは刑法の教科書にも説明がありますし、また判例もいろいろあるのですけれども、非常に概念が広いわけで、われわれ常識的に傷害というと何か刃物で刃傷ざたに及ぶ、あるいはげんこつでなぐっても、少し鼻血が出るくらいを傷害だと考えるのですけれども刑法学上は傷害といえば身体完全性を棄損するとかなんとかむずかしいことがあります。要するにげんこつでなぐって内出血で青ずんでも、これを傷害というような解釈もあるわけです。早川議員のおっしゃるように、傷害規定はそう厳格に解釈されてないわけなんです。特に現行法傷害罪は、傷害意思は必要ない、暴行意思さえあれば、結果的に傷害が発生すれば、それは傷害罪になるんだというのが通説になっていると思うのです。ぶんなぐった結果ひっくり返ってけがをしたら、それでりっぱに傷害になるので、初めからけがをさせようという意思を持ってなぐらなくても、傷害罪はりっぱに成立するのです。この場合どうなんでしょうか。政治的目的を持って、あのやろうぶんなぐれと言ってぶんなぐった結果、ひっくり返って大けがをするという結果が発生するということは幾らもあるのです。この傷害扇動ということは、あいつをやっつけろ——やっつけろという言葉はいろいろありますが、なぐってやれ、あるいはなぐらなくてもネクタイで首を絞めて、ゆさぶってひっくり返ってけがをするということもあり得るわけで、因果関係さえあれば、これも傷害になると思うのです。傷害扇動というものは、現行刑法体系にもないので、これはどうしても削ってもらいたい条項ですが、非常に乱用のおそれがあると思う。そういう場合に、この場合だけは、なぐってけがをさせろということまで言葉に発しなければ傷害扇動にならないのか。あのやろうぶんなぐれと言って——もちろん扇動要件はありますけれども、その要件が全部かなっている場合に、あのやろうぶんなぐれという暴行扇動だけで足りるのか、ぶんなぐってけがをさせろというところまで言わなければ傷害扇動にならないのか、そこのところをはっきりしておいていただかないと、政治をやる人はみなのぼせ性が多いようですから、のぼせ上がってもみ合いする場合に、実行行為としても、軽微な傷害事件は、日本じゅう至るところで起こっているわけです。政治活動に関してもそういうように突発的に起こり得ると思うわけですが、その点どういうように理解したらいいか、ちょっとはっきりしておいてもらいたい。
  22. 早川崇

    早川議員 立法者立法にいたしました意図は、坪野さんのいうような軽度な——そのことも、刑法でも暴行も二年以下の懲役ですから、悪いのですけれども最初個人的なそういう軽微な暴行というものは入っておりましたが、削ったのは、今言ったような前者のことは入らない。やはり傷害という程度の高い、あいつを傷つけてかたわにしてやれとか、足を折ってやれとかいうようなものを考えておるわけでございまして、なお技術的に刑法上の問題は法制局からお答えいたします。
  23. 坪野米男

    坪野委員 傷害という言葉刑法にあるりっぱな法律用語でございます。それを刑法特別法として本法に盛り込む以上は、立法者意図がどうあろうとも、法律適用、運用する者は、最終的には良識のある法律専門家である裁判官でありましょう、その前には検察官がある。ここまでは法律家ですからよろしゅうございます。しかしその以前に現場警察官、またこれを指揮する警察首脳があるわけでありまして、この法律を運用する者はむしろ第一線警察官であるということを考えるときに、刑法通説となっておる傷害概念と、今ここで使われようとする傷害教唆扇動という場合の傷害概念が二分されてはならないと思うので、その点はやはり解釈を統一しておかなくちゃいけないと思うのです。これでいいのかどうか、一つ専門家の御意見をお伺いしたいと思います。
  24. 猪俣浩三

    猪俣委員 関連して——これは御存じのように議員立法で、お互いに質問する者も答弁する者も議員同士です。これは差しつかえないと思うのだ。立法府なんだから、これはまた議員立法することが常道でなければならぬ。しかし執行するものは行政機関なんだから、警察なりあるいは検察庁なり、つまり法務省警察庁関係が執行の任に当たる。その間に解釈の食い違いがありますと、早川君が今こういう意味だと解釈しても、検事は違った解釈をやると、どんどん違った方向に使われてしまう。そこでこういう重要法案の場合に、法務省の次官なり局長なりが来ていないというのは不当だと思う。来ているのは公安調査庁ばかりだ。刑事局課長が一人来ているが、これは遺憾しごくだ。大臣以下政府当局を呼び出しなさい。そうでないと、こんな国民基本的人権に重大な関係のある法案について、ただ議員同士質疑応答——これはいいのですよ。いいけれども、それだけではやはり解釈は一定しない。執行官を呼び出さなければいかぬ。
  25. 川井英良

    川井説明員 刑事局長が今予算委員会に出ておりますので、かわって私がお答えいたします。  今の御質問につきましても、私ども解釈といたしましては、本法は御承知の通り教唆扇動のいわゆる独立犯として規定されているわけでございますので、結果の発生を待たずして本法犯罪が成立する、こういうことになると思いますので、傷害教唆扇動独立犯というものの解釈といたしましては、ただなぐってこいというだけの教唆では——なぐってこいという言葉の中にその結果けがをさせてもかまわないんだというような、私ども言葉でいういわゆる認容程度まで入っていればまた解釈は別問題になりましょうけれどもけがをさせない程度にぶんなぐってこい、こういうような趣旨であるというふうに解しますれば、それは先ほどお答えになりましたように暴行教唆扇動にとどまるものでありまして、傷害教唆扇動になるとは解釈できないと思います。やはり傷害という罪の独立教唆扇動を設けた以上は、腕を一本落としてこいとか、足を一本折ってこいという程度の、明白に身体傷害を生ずるような結果を期待しての教唆扇動ということになりませんと、本法にいうところの傷害教唆扇動ということにはならないだろう、そういうふうに私ども解釈いたしております。
  26. 坪野米男

    坪野委員 われわれははたして法を運用する現場警察官なりあるいは第一線におる各検事がそういう解釈で法を運用するかどうかということをおそれるがゆえに、厳格に質問しているわけなんです。これはなるほど傷害教唆扇動独立犯にする。従って正犯の実行行為の有無を問わないということになりますが、実行した場合ももちろん含むわけです。教唆の場合は刑法総則規定がありますが、扇動の結果実行しない場合もありましょうし、実行する場合もあり得るわけなんです。そこでその実行するしないにかかわらず、最初教唆あるいは扇動具体的行為の態様は言葉及び態度で示すわけですが、ぶんなぐってこいという言葉の結果、ぶんなぐってひっくり返ってけがをしたという場合も発生するわけです。そういう場合に、今の課長説明ですと、ただなぐってこいと言っただけでは傷害教唆にならないという解釈を原則的にはされましたが、そのあとの説明で、なぐってこい、だけれどもけがをさせなくてもいいんだという趣旨にとれる場合には傷害扇動じゃないんだ、しかしなぐってけがをさせろとはっきり言っても、あるいはそこまで言わなくても、少なくともそういう結果が発生した場合には、往々にしてそういう趣旨にとられると思うのです。それをわれわれはおそれるのです。そういう場合には傷害扇動したのだというように認定されるおそれは十分あると思うのです。刑法解釈が、元来傷害には暴行意思があれば足るということになっておりますから、通常そういう手段暴行を加えれば、程度の差は問わず傷害が発生するであろうという予見、認識、そういったものがあれば、そのなぐってこいと言った言葉の中に、結果を予見して暴行からひいては傷害の今言われた認容行為が含まれておるという解釈のもとに、やっつけろあるいはなぐれと言った言葉の中に十分今の傷害教唆扇動という認定を受けるおそれがあると思うのです。ですから私はやはりこの傷害教唆扇動という場合には、もう少しはっきりした定義をしなければ、解釈だけでは割り切れないと思うわけです。大体こういう傷害教唆扇動という、少なくとも扇動というものを独立罪に盛り込むということが、立法的に、それはどんなことだって国会でやろうと思えばできるでありましょうけれども傷害教唆扇動というものを立法技術的に十分検討もせずに、ただ今まである既成の概念をそのままくっつけて、殺人教唆扇動ならいざ知らず、非常に疑義のある傷害教唆扇動という規定を盛り込むということは、法律専門家である法務省としてはこれが適当だというお考えを持っておるのかどうか、何とでも理屈をつけて弁護する法解釈はできるでありましょうけれども、専門的立場からこういう立法が妥当な立法かどうかということについて検討になったかどうか、責任者でないかもしれませんが、あなたしかおらないから、一つその点御答弁願いたいと思う。
  27. 田中幾三郎

    田中(幾)議員 ちょっと……実はこの点は十分研究いたしまして、最初傷害の次に暴行も加えてあった。けれども暴行まで教唆扇動とすることは、暴行を罰することはどうであろうかという、非常にここを研究いたしまして、特に暴行はこの原案から省いたわけです。坪野委員のような非常にこまかい議論がありました。あるいは暴行を入れておいた方が、そういう範囲としての疑問がなかったかもしれないけれども暴行を特に入れるということは、暴行まで罰するのはどうかということで省いたわけなんです。解釈論としては、法務当局の解釈でいいのではないかとわれわれは法律的に考えるのでありまして、しからば具体的に事件が起こったときにどう適用するかということは、われわれ法律を作成する者にとりましては、具体的な問題まで判断をするということは、仮定の問題ですから、これは解釈論としてはそれでいいのではないかと思うのでございます。
  28. 坪野米男

    坪野委員 田中議員の今の御説明、これは法律家としては聞き捨てならない暴言だと思うのです。立法府で立法する法律がどのように運用されるかということを予想して立法するのは、立法者の責任であろうと思うのでありまして、そういうこまかいことまで考えずに立法するということは、もう無責任きわまる、いかにこの法案がずさんであるかということをみずから自白されたものだと思うのです。暴行まで加えようかどうか検討したとおっしゃいますが、まさに暴言でありまして、単純暴行の今の刑法で十分規制できるものを教唆扇動まで罰するという考え方の底に、私たちはもうテロというものに対する認識ではなしに、何か政治暴力と称して集団行動に対する規制のみを考えておられるということが、はしなくも出ていると思うのであります。今の傷害教唆扇動を、ただわれわれ社会党が意識をしてはずしたところを、何か社会党に対する対案を出そうとして漏れたところを刑法の条文から拾い上げてくっつけられて、暴行だけをはずされたというように受け取れますが、やはりこの傷害教唆扇動というものを、具体的にどういうことになるのかということを十分検討した上でなければ、立法すべきでないと思うのです。ですから今の田中議員の御答弁はちょっと不可解千万だと思うのです。そこまで考えずにわれわれやるのだ、専門家にまかすのだということは、専門家といっても法律を運用するのは裁判官ばかりではない、あるいは検察官ばかりではない、警察官、司法警察第一線においてこれを運用する。その場合に疑義のあることは非常に困ると思うのであります。ですから、今のあのやろうやつちまえ、ぶんなぐつちまえと言った言葉の結果、ただ言葉だけで不発に終われば比較的問題は簡単かもしれませんが、結果が、その教唆扇動に従って実行した、ぶんなぐった、ひっくり返ってけがをしたという場合に、そのやっちまえと言った言葉の中に、本人は単に暴行——刃物を用いて刺してこいとまで言ってないので、あのやろう、ちょっとしゃくにさわるからやつちまえと言った程度にしたとしても、受けた人がなぐった、それもげんこでなぐったにすぎないにしても、その結果傷害が発生するのです。そういう傷害が発生した場合に、正犯は傷害罪でやられるでしょう。それが政治的傷害になるか、単純傷害になるか、いずれにいたしましても、傷害の既遂で処罰を受けるでしょうが、教唆扇動した人が、私は暴行教唆扇動をしたのだという弁解をしても、結果は傷害の結果が出ておるのです。そういう場合に、明らかに暴行——やっちまえという言葉はちょっとあいまいですが、いろいろな周囲の状況から判断して、まず単純暴行教唆にすぎないのだというような認定を受ける場合はいいでしょうけれども、結果が現実に傷害が発生しておる場合に、正犯が傷害罪でやられておる場合に、この傷害教唆扇動を規制する必要があるとして規制する場合には、その言葉の中に具体的に傷害意思が認定できるところまでの教唆をしなければ、この傷害教唆扇動にならないのだということが解釈上疑いなしに読みとれるような規定にしなければ、今言いましたように、その認定をするのは警察官であり、検察官であり、あるいは裁判官でありますから、傷害意思まであったかなかったかという認定結果が発生した場合には、特に関係してくると思うのです。特に扇動罪はないわけですから、本法で初めて傷害扇動というものが実行行為が行なわれた後においても生じてくるわけですから、そういう意味で今の課長説明だけで解釈を使い分けるということが、法解釈上必ずしも私は明確でないと思うのです。ですから、この傷害教唆扇動というものをもう少し、これは厳格に明確にしておかなければ、まさに乱用のおそれがある。日常茶飯事に行なわれるような、のぼせ症の人間の行なう、そういった軽微な暴行から傷害に発展するという事案にこれがすべて適用されてくる。しかも今のところ法では教唆扇動まではここに問題にしておらない、放任しておる行為をここで規制しょうというわけでありますから、基本的人権の関連において、私はこれは重大な規定だと思うのです。この点についてもう少し明快な回答を一つ刑事局長なり専門家から伺いたいと思いますが、この規定について修正意思がないのかどうか、これも一つ聞きたい。
  29. 坂本泰良

    ○坂本委員 議事進行——先ほど猪俣委員も申しましたように、ただいま坪野委員質問は、この法律ができたならばどういうふうにして運用されるか、その運用の当面のものは警察官であり、検事である。従って最高責任者である法務大臣または刑事局長警察庁長官、こういうやはり政府の、この法ができたならば、これを運用するところの責任者が出て来て、明快な答弁を聞いて、そうしてそれをはっきりした上でやはり議事を進めなければならぬと思うのです。従って、定足数も、われわれ社会党が退席すると足らぬようですが、責任者が来るまで休憩をお願いします。
  30. 林博

    ○林委員長代理 法務大臣並びに刑事局長は今予算委員会に出席中だそうでございます。
  31. 早川崇

    早川議員 ただいまの坪野君のお話でありまするが、修正する意思はございません。ただ立法者として坪野君と若干意見を異にするのは、私は徹底した平和主義立場に立ちまして、いやしくも社会党が暴力——たとい傷害であろうと、民主主義、平和主義の観点からいって、立法者として一切の政治暴力は許せぬという立場に立っているわけです。従ってちょっと人を傷害する、ちょっと暴力に出るのぼせたやつがあるという御発言は、社会党の絶対平和主義から申しますと、私はお聞きしまして、逆に遺憾に思います。ただその暴力者をかばうような規定はわれわれはできないわけです。従ってはっきり傷害という——暴行といいますと、先ほど申したように、たわいの安い暴行がありますから、これも私は憎みますけれども、先ほど公安課長が言いましたように、解釈といたしましては、扇動独立罪である以上、傷害意思がなくても、成立するわけですから、傷害というものはただなぐってこいではいけない、傷つけたり刃物を持ってやれとかいうことの解釈、これは立法者といたしましても明快な解釈をいたしまして、どうか平和主義をモットーにされております社会党の方も、一切の暴力を憎むという立場一つ御了解願いたいと私は思います。
  32. 坪野米男

    坪野委員 先輩の早川さんですが、まあ法律のしろうと論として私聞き流せばそれでいいかと思いますが、殺人からどろぼうまでいろいろ世の中に悪がございます。しかし刑法は何のためにあるかということをお考えいただきたい。これは大先生がおりますから、私が講義する必要はないと思いますが、犯人のマグナカルタであるとリストが言っておること、これは何も犯人を守るということじやなしに、被疑者の人権、ひいては国民の人権を守る、一人の冤罪に泣く者をなくそうという考え方から、罪刑法主義考え方その他のきびしい原則があるわけです。悪人全部みな殺しにせよという単純な正義感から発すれば、殺人もあるいはどろぼうもみんな罰してしまえとなる。それでは政治にはならないわけです。ですから刑法の基本原則から考えて、殺人教唆扇動を罰する必要があるかどうかということも、今までの刑法体系の中からずいぶん大ぜいの学者が研究を重ねた結果、教唆は従属犯としては罰する必要があろうが、独立犯としては罰する必要がない、扇動まで罰することはどうかということで、現行刑法ができておるのであります。条文は短い二百数十条ですけれども、そういった膨大な刑法体系の中の重要部分を今修正しようという、立法者の意欲はともかくとして、悪人を憎むあるいは犯罪を憎むからといって、そういった行為に対して野放しに、あるいは無制限に刑罰をただ設けるということでは私は通らぬと思うのです。なるほど暴行傷害よりも軽い、しかし傷害殺人よりも軽い。あるいはその他の暴力事犯もあるでありましょう。しかも傷害も既遂と未遂教唆扇動それぞれの行為の態様、帰階において軽重があるわけであります。また一方人権擁護とのかね合いにおいて、どの程度までを法が強制的に規制する必要があるかどうかという、ここが政治の判断であり、また立法の問題であると思うのでありまして、早川さんのようにただ単純に政治暴力はすべて憎むべきである、平和主義立場からそういった犯罪、暴力犯に対しては、すべて重く規制しなければならないという単純な論理で、この法案の立案をされたということは、私は非常に軽率ではないかと思うのであります。少なくともわれわれがここで質問する段階では、あなた方立法者意図とは別個にこれが法律として成立した場合に、客観的な立場がどのような解釈のもとでどのように運営されるであろうかという終着駅、あるいは将来のことをあらゆる角度から予想して今討議しておるわけですから、社会党は平和主義だから、暴力は軽微だ、軽微だといって、軽微な暴力を見のがすことは、社会党の平和主義に反するということは論理の飛躍ではないか。われわれはそれが罰するのに値すれば、暴力は今の刑法で処罰すればけっこうです。けれどもこの法律はそういうことではないので、いろいろな刑罰の均衡その他から論じておるのですから、教唆扇動を罰する必要あるかどうかという解釈論として単純暴行教唆扇動だけで傷害が生じたときに、傷害教唆扇動をしたというような解釈を受けるおそれがあるかないかをお尋ねをしておるわけですが、ちょっと今の御説明は困るのです。
  33. 早川崇

    早川議員 坪野さんの今のお話を承りまして、私も誤解しておりまして、お聞きするといかにも政治的暴力というものをかばうような印象を受けましたので私の所見を申し述べたので、その点は十分御了解を得たいと思います。  結果として傷害になったというケースは傷害扇動にはならないとはっきり公安課長も言っておりますから、なお大臣、局長が来られましたらそれをフォローしていただくことといたしまして、立法者といたしましても公安課長の明快な解釈を支持いたします。
  34. 坪野米男

    坪野委員 明快な解釈になっていないと思うのですが、今の公安課長のそういう解釈は、どこへいっても通用する解釈でしょうか。学者なりあるいは法律家のすべてがそのように解釈するかどうかという点を、一つ自信をもってお答え願いたいと思います。
  35. 川井英良

    川井説明員 一つ先ほど申し上げませんでしたが、政治的な目的を持ってなぐってこいという暴行教唆をしましたところが、教唆を受けた者が現実に犯罪実行に着手をいたしまして、その結果暴行にとどまらないで傷害の結果を生じたというふうな場合に、一体どういう犯罪が成立するのだということを、一応割り切って議論をしていかなければならないと思うわけでありますが、私どもは、その場合には、先ほど申し上げましたように、なぐってこいというのが文字通り暴行だけの教唆であるというふうに考え、前提といたしました場合においては、政治的の暴行教唆政治的でない現行刑法の第二百四条に規定しております。いわゆる単純傷害罪刑法総則の従属犯としての教唆犯が成立する、こういうふうに解釈せざるを得ないと思います。そしてその場合に、今申し上げました政治目的による単なる暴行教唆  というのは、本罪にはその類型が規定されておりませんので、それは罪にならないことになりますので、結論といたしましては、単純なる刑法第二百四条の傷害罪の従属犯としての教唆罪のみが成立する、こういう結果になるのではないかと解釈いたしております。従いまして、先ほど申し上げました通り、本法傷害教唆というのは、やはり明確にけがをさせてこい、こういう意思が十分に表われ、またその言動の中に十分にそれが表われておるという場合だけに限って本法傷害教唆罪というものが初めて成立するのだ、こういうふうに割り切るのが通常の法律解釈である、こういうふうに考えております。
  36. 坪野米男

    坪野委員 今の課長の設問はちょっとおかしいのです。教唆を言われるからいけないので、教唆をはずして扇動だけでものを考えましょう。刑法にない扇動教唆というから従属犯と独立犯と混同してきて、今の説明も私は承服しませんが、扇動だけを考えてみた場合に、刑法にないわけでしょう。ですから、なぐってこいという政治的目的を持って、あのやろう一つなぐつちまえというって盛んに扇動する。そして扇動の効果をおさめるわけですね。そういう場合に、なぐつちまえという言葉は、あなたは単純暴行だと簡単に解釈されますが、なぐるという行為は単純暴行とは限りませんよ。なぐった結果傷害を生ずる場合もあるのだから、なぐる場所にもよりますし、から手の名人が当て身を食らわせば、これは単なる暴行じゃないと思う。暴行の一種といえるか、傷害の一種といえるか、そういう事態はわからないと思うのです。だから法律用語ではなしに、普通通俗的な言葉でなぐるという言葉があるでしょう。そのなぐるという言葉は、法律家解釈すれば傷害意思もあり得るし、単純暴行意思もあり得るわけです。そこで教唆された通り、なぐれという言葉通りになぐった結果が発生した場合——ですから教唆犯をはずしましょう。理論が混乱する。あなた自身も混乱されるし、私も混乱しますから、扇動の場合でいいです。そういう扇動の結果なぐって軽微な傷害が生じた。その正犯は傷害の既遂に問われるわけですが、その場合になぐれというだけの言葉は、単純暴行扇動にすぎませんという弁解をその扇動者はするでしょう。しかし結果が出ている場合に、なぐれと言うた言葉は、単純暴行せよといって扇動をしたと言うならば、それは明快でございますと言う法律家はあまりないと思う。普通なぐれといって扇動する。ただ一つ言葉です。ほかにもたくさんあるでしょう。一つの例をとって、なぐれといってぽんとなぐって、結果が単純暴行にとどまっておる場合は、なるほど単純暴行教唆を含めて扇動だったのだ、乱用さえしなければ、こういう認定を受ける可能性が多いでしょう。ですけれども、単純暴行の結果、ひっくり返ってけがをしている。あるいはひっくり返らなくても、力一ぱいなぐって、あるいは急所をなぐって相当の傷害を与えておる場合に、なぐれといった言葉がやはり傷害扇動をしたのだという解釈を受ける場合もあり得るわけです。結果から結局なぐれという言葉扇動の態様自体をいろいろ判定を受けるわけですから、あなたが、明快に、なぐれという言葉ぐらいじゃ単純暴行扇動にすぎないのだ、そんなものは結果がどうあろうとも傷害扇動という認定を受けるおそれがないというお考えであるとすれば、あなたはあまり偉くなられたから、第一線の御事情をよく知らないのかもしれませんが、第一線検事あるいは第一線の司法警察の幹部どころになれば、そういう心理過程というものは、大体結果から動機その他を判定するという場合が多いと思うのです。ですから、私は単純暴行意思でもって教唆扇動する場合と、傷害意思と、事実上認定が非常に困難になる。結果からすべてが判定されてくるというおそれが十分あるということをおそれるわけです。ですから、傷害をさせる意思を持って傷害扇動をさしたのであって、単純暴行扇動だけではだめだということをはっきりさせる規定でないと、ここに書いてあるようなただ政治的傷害教唆扇動というだけでは乱用のおそれがあるのではないかということをお尋ねしておるのです。
  37. 竹内寿平

    ○竹内政府委員 ほかの委員会に出席いたしておりまして、大へん失礼いたしました。  ただいまの問題でございますが、なぐってこいという扇動をした場合、なぐるという意味の内容が傷害意味までも含んでおるか、単純なる暴行程度にとどまるかということは、事実問題でございまして、事実の認定によってケース・バイ・ケースできめる問題だと思います。しかしながら、理論的に申しますならば、これはきわめてはっきりしておりのであって、独立犯としての傷害扇動罪を認めた場合には、独立犯でありますために、傷害をしてこいという趣旨のそそのかし、あおりをいたさなければ、単純なる暴行意思でなぐってこいと言った結果において傷害の結果が発生したというような場合には、理論的にそういうものは傷害扇動罪にはならないということは、理論的にはっきりいたしております。問題は、あとになってから、傷害が出ておるのだからということで、逆算的に運用されるおそれはないかという点でございますが、この点は独立犯でございますから、結果の発生しました場合には、その結果そのものによって、傷害罪によって処罰されることは当然でございますが、その背後におりましたものは、客観的に見て傷害扇動したか、あるいは暴行程度であったかということは、事案によってきめていかなければならない問題で、検察庁といたしましては、そういうふうな場合に遭遇しましたときには、慎重な態度で客観的に証拠をもってそれを立証することになるわけでございますから、そういう点の理論的にはっきりしておることでございますので、その点の御懸念はないかと思っておるわけであります。
  38. 坪野米男

    坪野委員 理論的にはっきりしておらないと思います。大体今までの刑法その他の現行法体系の中で、殺人教唆扇動独立犯規定が破防法の中にございますね。ところが傷害教唆扇動罪はどこかにございますか。専門家お尋ねします。
  39. 竹内寿平

    ○竹内政府委員 それは現行法のもとではないわけでございます。
  40. 坪野米男

    坪野委員 外国にありますか。
  41. 竹内寿平

    ○竹内政府委員 外国の例はまた調査いたしましてお答えしますが……。
  42. 坪野米男

    坪野委員 調査して御回答願います。理論的にはっりきしておると、専門家ではありましょけれども、おっしゃいましたが、私は学者じゃございませんから、外国の例は知りません。しかし少なくとも日本の現行法体系の中には、殺人教唆扇動独立犯、これは破防法の中にあるようですが、傷害教唆扇動独立犯はないわけであります。そしてこういう立法が今まで企てられたということも、私は寡聞にして知りませんが、今回こういう立法が出てきているわけですが、理論的にはっきりしているというのは、あなたのお考えでそうおっしゃっているのか、あるいは学界でこれが論争になって通説としてそうなっておるのか、そこの点をちょっとお尋ねします。
  43. 竹内寿平

    ○竹内政府委員 この法案が提案されましてまだ間もないので、法律雑誌その他に権威者の法律家意見の発表がまだないわけでございますけれども、私ども法律の仕事をしております一端におりまして、判例その他刑法規定を全体的に常に見ておる者の一人でございますが、そういうものの立場からいたしまして、この点の解釈はさらに一点の疑いを入れない、理論的にはっきり言い切れる案件だと思います。
  44. 坪野米男

    坪野委員 刑事局長の論理的な法解釈からそのように解釈される、それは一応筋が通ってそのようにも私は解釈ができると思います。しかしそういう解釈が確定しておって、一点の疑いの余地をいれないかどうかということは、後に起こってくる事実認定の問題と関係してくるわけです。特に傷害暴行とは紙一重でありますから、殺人のように明快でないわけです。殺人教唆扇動独立罪で罰する場合に、これは殺人意思傷害意思との事実認定だけであります。ここにも問題がありますが、一応今の刑法解釈から、問題は少ないわけですが、傷害意思という事実認定は暴行と紙一重であるだけに、抽象的に、傷害意思がなければ、教唆扇動しても、単純暴行意思だけでは、問題にならないのだという解釈は一応成り立ちますが、事実認定の面で、傷害との間に混乱が生じてくるということは十分あるわけであります。また、理論的にそのように解釈される立場がありましても、結果が発生しないときには、やはり単純暴行にとどまっている、あるいはそれにも及ばない、ただ扇動は成功したけれども実行が全然なされておらないという場合には、比較的その解釈は単純明快になってくると思うのですが、事実認定であるといいながらも、なぐってこいその他の教唆扇動の結果、傷害に及んでいる場合に、刑法上の傷害罪は、暴行の結果、結果的に傷害があればいいわけです。認識の問題もありますけれども……。ですから、結果が発生している場合に、教唆は別として、扇動なら扇動規定の場合に、その傷害までの認識が必要なのか、あるいは暴行認識——暴行認識といっても、その認識の中に一つの当然予見される、そういう形態で暴行すれば必然的にそういう傷害が生ずるであろうというような認識、予見程度があれば、それはもう暴行認識じゃなしに、傷害認識があったのだというような非常に微妙なところの認定一を受けるおそれが十分あるわけですから、私はそういう意味で、理論的にそう割り切った解釈が、確定的にすべての警察官——一番おそれるのは、司法警察第一線に従事する警察官が、どの程度法律認識法律知識を持っているかということをおそれるわけなのです。ですから、第一線検事あるいは察警官が、はたしてそういうように解釈するかどうかということになると、傷害教唆扇動というものを立法することは非常に不適当だ、その必要はもちろんない、そこまでやる必要はないから、教唆扇動ははずすべきだという意見がそこにあるので、専門家に、乱用のおそれなきやいなや、解釈上疑義が生じてきはしないかということを繰り返しお尋ねしているわけです。今の刑事局長の御答弁だけでは、ここでは必ずしもそれが確定的な解釈として通用するかどうかも疑義がありますし、同時に、実際これが運用される場合に、暴行の結果傷害が生じた場合に傷害教唆扇動だという認定を受ける場合が非常に多いということをおそれるがゆえに、その乱用がないかどうかを繰り返しお尋ねしているわけなのです。この点について、一つ法務大臣に御見解を伺いたいと思います。
  45. 植木庚子郎

    ○植木国務大臣 傷害について、いわゆる教唆扇動規定が置いてあるが、これについて乱用のおそれがないかというお尋ねでございます。私の考えますところでは、この問題については、今も御意見の中にもありましたように、事実認定の問題と、そして理論の問題と、やはり二つに分けて考えられると思います。理論的な問題としましては、ただいま刑事局長が申し上げましたように、はっきり割り切って何ら間違いがない、乱用のおそれがないと一応いえると思うのであります。しかし、事実認定の問題になりますと、その点につきましては相当戒慎を加えて、用心をしてその運用をはかりませんと、間違いの場合も絶無とはいえない、こう思うのです。と申しますのは、あえてこの条文だけに限らず、どの問題にいたしましても、法の乱用の問題は慎まなければならぬことは申すまでもないのであります。やっつけてしまえというような言葉は、一体それはなぐってこいというのか、引き倒してしまえというのか、殺してしまえというのか、いろいろにとられる場合もございます。従って、この法の乱用の問題は、慎まなければならぬことは申すまでもありません。従ってこの問題についても、事実認定の問題にからまって、十分用心をして運用をはかるべき必要があるだろうと考えるのであります。しかも、それはあえてこの条文だけに限らず、一般的に、今申した殺人の問題におきましても、やっつけてしまえという言葉が、殺してこいというような意味にもなる場合があるのでありますから、だからその点においては、私はそれぞれの事実認定の具体的な場合に、十分戒慎を加えて適用すべきものである、かように考える次第であります。
  46. 早川崇

    早川議員 ちょっと補足させていただきます。実はわれわれは政治家でありますが、なぜこういうものを立法したかと申しますと、岸さんを刺した荒巻というのがおりましたし、河上さんを刺した少年がおりましたが、これはいわゆる傷害ということであります。しかし傷害というものは、悪くすると傷害致死になる。ですから傷害殺人より軽いですけれども、これはやはり最も悪質なテロ行為なんです。従ってこれに対する教唆扇動というものを、坪野君はマイナスの乱用の面をおそれて慎重にと言われるのは私もわかりますが、積極的な意味は、今申しましたような二つのケースを、政治家として、また立法者として取り上げて、これを重視しておるわけでありますから、解釈においては、法務省の明快な解釈というものが出ておりますから、そう御心配しないで、プラスの面の方がはるかに多いということを、一つ理解願いたいと思います。
  47. 坪野米男

    坪野委員 瀕死の重傷を負わせるおそれのあるような傷害は、テロ殺人と同等にこれは重視しなければいけないというのであれば、社会党案のように示凶器傷害その凶器も限定してやれば、私が一面おそれているような乱用は防げるのじゃないか、そういう観点から今論議しておるので、傷害罪殺人より軽いから問題でないということを私は言っているわけじゃないのです。いわんやこの傷害教唆扇動というのは、外国の立法例にあるかどうか、一つ法務省で御研究を願って、次会に御答弁いただきたいと思いますが、私は傷害教唆扇動というものは、今の暴行意思で足りるのかどうかというような疑義が若干出てきます。あなたのように優秀な法律家ならいいですが、裁判官でもお粗末で、全国何千人おる裁判官の中で、法律を知らない裁判官があるということを、私も十四、五年弁護士をやって、実際この目で見てきております。ですから、幾ら大学の教科書に問題がないと書いてあっても、われわれ弁護士も不勉強ですが、裁判官でさえも法解釈がまちまちで、間違った解釈をし、適用する場合もあり得るわけです。ですから、一般的にそういった乱用の可能性があることは、立法者としては慎むべきだということで、傷害教唆扇動まで立法することが、政治的考慮は別として、立法なり法務当局専門家立場からいって、これは賢明な策だ、妥当な策だというようにお考えになるかどうか、私はそれも聞きたかったのです。小野博士に対しても、あまり時間が長くなったから、それはお聞きしなかったのですが、あなた方も同様の専門家として——私は別に学者だけを専門家と思いませんから、そういう意味で、こういう立法がはたして世界の笑いものになりはしないかということを、法律家の一人として私はおそれるのです。幾らお手盛りで立法できるといっても、もっと謙虚でなくちゃいけないと思います。われわれも幾らでも反省します。ですけれども、自民党のこの法案の中に、法律家の批判にたえない部分があったら、面子にこだわらずに修正すべきじゃないかということを今言っているので、一つ法務当局はこの点について、そういった外国の立法例はともかくとしまして、今までの皆さんの経験からして、傷害教唆扇動罪を設けることを、専門的な立場から妥当であるというお考えか、政治的考慮を別にして御意見を承りたいと思います。
  48. 竹内寿平

    ○竹内政府委員 今まで現われたテロ事件等を捜査いたしまして、その結果私どもが感じておりますことは、背後関係を究明してその原因を絶つというこの検察の大きな目的に沿うのには、手続の面におきましても実体法の面におきましても、現行法のもとで欠けるところがあるということは痛感をいたしておるのでございます。傷害になるか殺人未遂になるか——暴行は別としまして、この区別というものは、坪野委員も御承知のように、非常にデリケートでございまして、証拠をもって立証しなければならない事項でございます。非常にむずかしいのでございますが、今までの経験によりますると、ある程度の客観的なものが自然証拠の面で現われてくるのでございまして、そういう点から申しますと、運用の面においての疑義の面もさることながら、この事態に対処しますものとしまして、あるいは今のような時期に限って考えるというような考え方ももちろんあると思いますけれども、現状におきましては、殺人だけでなく、傷害につきましても、これは殺人とすぐ紙一重の重大結果を発生するおそれのある危険行為でございますので、法律上疑義がないならばこういう規定を設けた方が、私ども実務に携わる者の立場からいたしましても、適切だというふうに考えておる次第でございます。
  49. 坪野米男

    坪野委員 そうすると、今の御意見は、法律家としての御意見というよりも、検察の実務家の立場から傷害教唆扇動があった方が取り締まりがしやすいという御意見に承ってよいかと思います。私の聞いておったのは、法律家として教唆扇動を盛り込むことがどうかという質問をしたわけですが、その点について答弁がむずかしいようであれば、私としてはあえてお尋ねしないことにいたしますが、今のかりに瀕死の重傷を負わせるような傷害もあれば非常に軽微な、それこそ治療三日間あるいは治療一日で済むようなかすり傷の傷害もあるわけですから、そういった軽微な方の傷害犯、特に暴行と紙一重のような傷害犯についての教唆扇動というところまで現行刑法以上に規制する必要があるかどうか、特に一般の町の暴力団の暴力と区別して、政治的暴力についてのみ、そういった軽微な事案の教唆扇動にまで及ばす必要があるかどうかということは、良心のある法律家、学者を含めての法律家はこれは十分考え直さなくちゃいけない。いずれにしましても、結論は、これは十分慎重に考慮しなければいけないことだと思うのです。ただ政策的に悪いやつは全部くくるんだという考え方では、私はこういう立法は許されないと思うわけで、そういう点で今の御答弁では非常に不満であります。また非常に乱用のおそれのある条項であるから傷害教唆扇動ということは、自民党さんの名誉のためにも、これは思いとどまっていただきたい規定だと思うのです。一つ外国の立法例を早急にお調べいただいて、こういう傷害罪教唆扇動というものを独立に処罰するような規定があるかどうか、この点をぜひ次会までお教えを、願いたいと思います。  もう一つ重要なことで法務大臣と法務当局にお尋ねいたします。私は非常に重要法案だということを認識しておりますがゆえに、この法案については慎重審議しなければならないということをかねがね主張しておるわけです。特に普通の政策立法と違いまして、刑罰法規であるから、一字一句をゆるがせにせず、逐条的にこれは検討を加える必要がある。いかに議員立法であるとは言いながら、お粗末な、ただ形式的な質問の回数、人数、時間数だけでこういった法案をあげてしまうということは、これは私は立法府の名誉のためにもとるべきでないという考えをもって、今一つ傷害未遂罪、これは私の法律論が間違っておるかもしれません。しかし私は私なりに疑問に思っておる法律論を一つ展開しただけなんです。しかし三十何カ条の条文の中にこうした問題になる個所が幾つもあるわけなんです。幾つもある点についてやはりここで逐条的に十分検討を加えていく必要があると私は考えておるのですが、そういう必要のない法律案であるか、相当各個所について法律上論議の起こる法律案であるかということについて、その点一つ法務大臣のお答えをいただきたいし、また法務当局もこの法律案というものの重大性といいますか、意味するもの、今私のお尋ねしておるような点についてお答えを願いたいと思います。
  50. 植木庚子郎

    ○植木国務大臣 ただいまの御質問に対しましては、私といたしましては、この法案が非常に大事な、また重要な法案であるということについては全く同感でございます。しかし法案についてはどれが大事でどれが大事でないとか、これはあまり大事じゃないから審議が不十分でいいのだというようなことは、私は言わるべき筋のものではないと思います。それぞれいかなる法案につきましても議のあるところは十分に練っていただいて、お互いに慎重審議をするということは、特にこの法律だからどう、他の法律だからどうということではない、私はさように考える次第でございます。
  51. 竹内寿平

    ○竹内政府委員 将来この法律を運用します立場にありますので、国会においてあらゆる角度から御質問、答弁等がありますれば、それらはすべて運用の面において参考になるわけでございますので、十分御審議を尽くされますことを私どもとしてもお願いする次第であります。
  52. 坪野米男

    坪野委員 法務大臣のただいまの御答弁でありますが、この法案が重要であり、他の法案は重要でないというようなことはない、その通りであります。私のお尋ねしておるのは、そういう意味ではなしに、この法案問題点が他の法案に比べて今度の国会において多いのではないか、その意味で他の法案に比べて審議に時間をかける必要のある法案だとお考えにならないかどうかという具体的にお尋ねしておるわけなんです。重要な法案は、すべて政府が必要ありと認められる以上は、重要な——段階はあるかもしれない、ないかもしれませんが、私は今度の国会に出ておる法案の中で、この法案は重要な法案ではないか、そういう意味お尋ねしておるわけであります。
  53. 植木庚子郎

    ○植木国務大臣 国民の権利義務に関係するところも大きい問題がございますし、あるいはまたこの問題が刑罰法規の特別なる規定を含んでおりますことは申すまでもありません。それだけに十分議を尽くしていただいて、そうしてその法案の意のあるところを明らかにしていただくことは必要があると思います。
  54. 林博

    ○林委員長代理 本日はこの程度にとどめ、次会は来たる三十日午前十時より理事会、午前十時三十分より委員会を開会いたします。  本日はこれにて散会いたします。    午後零時十一分散会