○猪俣
委員 私どもも集団的デモの行き過ぎ、これが決していいものだと思いません。これを何らかの形で
規制することにしいて反対するものではないのです。しかし現在浅沼テロ事件によって天下を聳動し、世界的にこれが宣伝をされました大事件、そして諸般の空気がまた終戦前の血盟団事件を思わせるような雰囲気が出てきた際に、民主社会を防衛するためには、その原因を突きとめて、これを根絶する確固たる決意を持たなければならぬ、そういう
意味において私どもは
政治テロ防止法案を出した。ただ
浅沼事件がぼっと出るとにわかに起こってきたのなら、それほど心配いたしません。しかしあなたがおっしゃったように、
日本の右翼の中に、いわゆる天誅思想、独善的な一人よがりの思想があって、人の命をとることを何とも思わない。何とも思わないだけではありません。あなたもお聞きになったであろうと思いますが、浅沼が刺殺されました翌日、霞山会館に集まりました右翼
団体の諸君がどういうことを言っておったか。これがちゃんとニュースで放送されている。驚くべきことです。よくよく
自民党の諸君も
考えていただきたいと思う。一体山口の所属しておった赤尾敏は何と言っおったか。テロの原因が決してデモの行き過ぎではないということは幾多の例証があるわけであります。赤尾はこう言っている。「このままほっといたら、四、五年のうちに、共産
主義の革命に転落するかもしれない。だからわれわれは力がないから、全力を挙げて、社会の刺激力となるように、
国民は目を覚すように、惰眠を覚すように、ワサビの役をしているわけだ。自らを犠牲にしてですよ。」「個人的な国を思ってやったテロなんてものはね、稚気愛すべきものなんだ。素朴、純真、むしろ推賞すべきなんだ。こういう人がおればこそ、
日本の社会はもっていくんですよ。」そういうことを堂々とニュース放送しておるのであります。
自民党の諸君は大いにかっさいするかもしれないが、これはとんでもない
考え方であります。なお霞山会館における懇談会において何と言っておるか。「昨日は
社会党の浅沼稲次郎君が、日比谷の公会堂で、天誅の刃に倒れたのであります、あの精神、あの
行為は、実にりっぱな国士の態度であろうと思うのであります」「マスコミは右翼
暴力といって、このかれんなる少年愛国者である山口君の行動を、ふくろだたきにしておるのであります。私は、山口さんのおやりになったことは、これはりっぱなことであると、
日本民族の血の叫びであり、
日本生命の発露であり、天地正大の気時によって反撥するという、
一つのあらわれだと思います。」これはテレビ放送でやっているんですよ。右翼懇談会なるものは浅沼の刺殺せられたその翌日です。それからなお驚くべきことは、これは
憲法改正思想につながっておる。
憲法学者と称する人物、名前は大ていわかりますが省略しまするけれども、「第二、第三の山口氏を出さないですむような世の中にすることが、われわれの山口氏のやられたことを生かす道であると思うておるのであります。どうすればよいか。それは治安の確立をすることであります。治安確立ができない原因がどこにあるか。それは帝国
憲法を置き去りにしているからであります。帝国
憲法というものは、われわれの大御親であらせられる天子様が、われわれのことをお
考えになって、われわれのために自由人権を尊重しておつくりになった、世界一の民主
主義憲法であります。私は
憲法学者であるから申上げます。まず山口氏の美挙を意義あらしめるために、われわれはすぐ
憲法を復活させる運動に努力していただくことを、願うてやまないのであります。」こう言っておる。これは
憲法学者らしい。こういうとほうもないことを相当の
憲法学者が言っております。有名な
憲法学者です。
自民党の
憲法調査会にも入って、いつも活躍しておる人物であります。こういうとんでもない
考え方、私どもがテロ
賛美の言論に対して
規制する気持になったというのも、御同情いただけると思う。かようなことが野放しになっていいかどうかということが問題になってくる。私どもはだから
立法する際に何が一体原因であるか、かような民主
政治の基盤を破壊するようなこういう一人一殺的なテロ
行為の病源はどこにあるか、極端なる反共宣伝であります。そうしてすべて
社会党、労働党みんなこれは反共の手先、岸信介氏は内閣声明で、安保反対なんということは国際共産
主義の
扇動に基づいてやっている、自分は証拠があると言っている。証拠は何だと言ったら、中国の安保反対闘争
委員会から
日本の総評の国際部長にきた指令書なるものがこれだ、こう言うらしいのでありますが、これはまっかなにせものであったということは当法務
委員会で明らかになった。そしてそれを鬼の首をとったように政府の諸君は宣伝をなさる。これを愛国党その他の右翼
団体は信じ込んでいるかもしれません。ですから愛国党のごときは、売国政党
社会党というビラを全市に張り渡している。一国の二大政党の一大政党を売国政党とは何を言うのですか。こういうところの偏狭な教育を受けて、この反共精神の発露として浅沼はやられておる。ですから、現状における一人一殺のテロを根絶する問題は、極端なる反共を振りまいて、わが国の治安を腐乱しておる。しかもこういうにせ分子には国際謀略機関が
関係している疑いが十二分にある。私は当法務
委員会に、徹底的に国政調査権に基づいて調査を要求しておりますけれども、
自民党の諸君が賛成しませんために今日できない。どうもこれには深い謀略がひそんでいるように私は思います。こういうふうな反共を看板にした謀略的な治安撹乱工作、こういうものによって山口二矢はそれを確信しておったかもしれません。浅沼を倒さなければ
日本の国は危うい。その証拠には、朝日新聞の愛国党の青年と
日本社会党の青年との対談があります。この中で興味ある一問一答をやっておる。その中で愛国党の青年がいわく、浅沼を倒したのは正当防衛だと言う。どうして正当防衛かと言ったら、
社会党みたいなものを大きくすると
日本はついに共産
主義になってしまう。共産
主義の国になってしまえばわれわれはみんな首をちょん切られる。そこで自分の生命のために正当防衛をやったのだ。こういう
議論をやっておる。こういうのが人を刺すのです。そういうふうに信じ込ませるような宣伝をまたやるものがある。私はおそるべきことだと思う。そこで私どもは、こういうテロの中心課題がどこにあるかということを、今
政治学者としてのあなたの御感想を聞いているわけなんです。こういう反共的な精神、反共的な態度というものが、
日本の現在の右翼テロの大きな動機になっているのじゃなかろうか、これに対するあなたの御
所見を承りたい。