○關(之)
政府委員 破壊活動防止法は今日まで八年になりますが、私
どもの実施の経験と対比いたしまして、この
法案が人権の保障という
観点からどうなるかという問題について私見を申し上げてみたいと思うのであります。
大体の構成といたしましては、第二条、第三条として、これは
破防法にもあるのでありまして、この種の
規定は単なる倫理
規定で、何にもならぬじゃないかというお
言葉でございますが、さて実際の法の運用ということになりますと、この二条、三条という
規定がやはり私
どもの非常に順守すべき
規定なのであります。私
どもが勝手にできるわけではないのでありまして、特に
国会などでいろいろの点において国政調査という
観点から御叱責をいただき、お調べをいただくという点からいいますと、常に二条、三条にかんがみてみて、われわれの行動ははたして申し開きが立つかという
観点が、実は私
どもの運用の
一つの基準になると思います。従って、
本法において第二条と三条とをこのように設けられるということは、この
法案がかりに成立いたしまして実施いたすと相なりますと、これは私はやはり非常にきいてくるものと実は思うのであります。
次の問題といたしましては、第四条の
規定の仕方で、ただいま
菅委員は拡張、乱用されはせぬかというお
言葉でありましたが、私はこの点につきましては
破防法と同じような工夫がここにこらされてある、こう申し上げたいのであります。それはどういうことかと申しますと、
破防法におきましては、要するに第四条の
暴力主義的な破壊
活動に刑法の各
条項を援用しておるわけであります。刑法第何条の罪、第何条の罪、第何条の罪と、こういうふうに援用してあるわけであります。このことはどういう配慮かと申しますと、要するに刑法と申しますのはすでに判例がある。さらに学説によって不動のものとなって、私
どもが勝手な解釈によって拡張ができない、こういう規範に相なっておるわけであります。その
観点からいろいろ苦心いたしまして、刑法の各条文の援用というところに私
どももようやくたどりついて、ああいう条文をあげたのであります。
さてそこで、本
法案の第四条は
破防法第四条に対すると全く同じ
考え方でありまして、第一号の「人を殺すこと。」と申しましても、これは刑法の
規定をあげなかったというだけのことであって、刑法に
規定があることであります。二号の「人の身体を
傷害すること。」これも刑法の
規定上、人を
傷害することはどういうことであるかということがきまっておるわけであります。また、問題になりますところの六の
規定も、今日から申しますとこれは住居
侵入罪になるわけでありまして、それ以上にこれが拡張されるということはとうてい考えられないわけであります。そういう点におきまして、刑法のがっちりした
規定というものを基礎に置きまして、それにさらに教唆、扇動、予備、陰謀というものを若干包含したということが、第四条の全体の取り上げ方でございます。従ってこれが、最高裁判所の判例の示す
範囲以上に不当に拡張せられるということは、とうてい考えられないということを私は申し上げたいのであります。また私
ども破防法八年間の運用の結果から見ましても、判例できまり、また学説でほとんどきまっている問題につきまして、われわれが勝手に拡張することはできない。今
お話になりました、かつての治安維持法は、刑法と異なった概念を使っておるのであります。国体を変革し、または私有財産を否認する、またその
目的遂行の
行為をする者等の
規定があったわけであります。その
規定は刑法のいずれの
規定にも当たらない
規定でありますが、実はこの
規定が拡張されたのであります。そこで、その
規定の拡張乱用をいかにして防止するかという
最後のわれわれのよりどころは、刑法の条文を援用するに限る、実はこういう結論に相なったわけであります。そこで、そのような
考え方で本
法案をおとりになっておるのでありまして、私は、これが実際の
法案となってこれを見ますと、実施の責任は私
どもの方にあるように拝見しますが、
規定も、刑法ないしは判例、学説等できまっているので、それ以上に勝手に私
どもが、
犯罪でないものを
犯罪とするようなことはとうてい不可能である、こういうふうにこれは御了解いただいてけっこうだと思います。
それから次の問題といたしまして、ただいま
早川さんから御
説明があったように、
規制の条件が全体として
破防法以上に厳格である、
破防法の一応の
考え方としては、そういうことをやることが一応
性格になったということで、思いつきで一回やったというようなことは
破防法の
対象にはならないのであります。しかし、
本法については、継続反復性ある
団体が、さらに継続反復するということになりますと、いわばこういうことをやることが常習性ともなるというふうに考えられる
団体と相なると考えられるのであります。そういたしますと、たとえばこの
規定のあれが、どんどん刀を振り回して、
団体に対しまして制限処分ないしは解散ができるかというと、私はどうも
破防法八年の経験から見て、ただ常習性的に暫時反復し、さらに反復累行するというような立証はなかなか困難なものであり、そしてその
意味において、そう御心配のような点はないのではないかというふうに私は考えるのであります。
なおそのほかに、この
法案全体は、
破防法の手続
規定を御援用になっているようでありまして、この点もそうやみくもなことができないような
規定になっている。
破防法におきましては、
団体規制は、
公安調査庁において調査してから公安審査
委員会に
規制処分の請求をいたす、こういう
考え方に相なっているのであります。従来の
わが国の過去の例あるいは外国の例からいいまして、調査する機関が自己のところで処分ができるということになると、右手で調査し左手で処分するということになりまして、一人の人がやるわけでありますから、そこに専断が行なわれる。これはかって、過去の日本にあった例でありまして、それをどこで防止するかというと、権限を分かつに限る。すなわち調査する機関と処分する機関と
二つに分けてしまうに限るという
考え方であったのであります。
そこでこの法安も、その点をとってこられまして、私
どもが公安審査
委員会に送り込みますと、公安審査
委員会は準裁判官的な
独立性を持って自用
独立に、いかなるものにも拘束されずに審理をいたす。この審査
委員会は、いわば準裁判官的な身分の保障がありまして、また構成員は政党所属について制限がありまして、一党の系統の人は勤めることができないような組織になっておるわけであります。そういうふうに権限が分かれておりまして、私
どもはこの審査
委員会に解散処分の請求をするだけで、あとのことは何もできない。あとは審査
委員の皆さんが自由
独立におやりになる、こういう
考え方になっておるわけであります。
それから、実はこれを拝見いたしますと、
公安調査庁の私
どもに調査権をお認めになっておらないようでありまして、これは
破防法のときにおいても、この
法案の
性格にかんがみて、強固な調査権は調査庁にはやれないというのが
国会の御意思でございました。今度のも、これを一度拝見いたしますと、全く任意の調査が原則のようであります。それでさてこの
法案が実際に成立して、そうして私
どものところに参りまして、さあ実施いたすといたしましても、相当しぼりがあっちこっちにかかっておりまして、その
意味において人権の尊重ということは、そうむやみ勝手に、戦前の各種の
法律のごときことはやれない。やはり刑法の解釈その他の厳重な制限によって行なわれるというように私
どもは考えざるを得ないのであります。御
参考までに申し上げました。