○小林
公述人 私、小林慧文であります。私はきょうは
社会党の方の推薦で
意見を申し述べよということでございますが、実は、私は、
産業組合青年連盟当時から二十年にわたって労政
運動を続けておりますけれ
ども、きょうまで不偏不党の
立場で組織
運動を続けて参りましたから、あながち
社会党案をほめるということではなくて、真実、あの
法案を拝見いたしまして、熟読いたしますと、眼目は、やはり、各弁士が申し述べられたように、大差ないように思います。しかしながら、具体性と申しますと、やはり
社会党案の方が一歩進んだ感じで、おそらく
農民諸君が読んだ場合におきましては、アピールは
社会党案の方が受けるのではないかという感じを私は端的に強調して申し上げるのであります。従って、私は、きょう
政府案と
社会党案を比較検討して
意見を申し述べるということは差し控えまして、眼目になるところの流れる目的と申しますか、そういう点において、ほんとうに
農民の
立場から諸
先生に
意見を申し上げて
お願いを申し上げたい、こういう気持であります。
そこで、私は、声なき声を聞いて、日の当たらないところに日の当たる政治を行なうという慈悲心を持った
農政というものがおそらく
農民を心から動かすのではないかということを感ずるのであります。諸
先生が、その意味を体しまして、やはり曲がりかどに来た日本の
農政を建て直す意味において御苦心なさった点においては、組織として感謝申し上げなければならぬと思います。
ただ、ここで、いわゆる都市と
農村の
所得の
均衡の点について、ほんとうに
農民の
立場から考えた場合、たとえば二町という限度にして
所得を倍にできるかどうか、
自立経営になった
農家がはたしてその
所得において都市と
農村と
均衡のとれるような増加ができるかという点につきまして、これは
農業の
近代化あるいは
生産性の
向上ということでできないとは言えないと思いますけれ
ども、どなたであったか申し上げたように、
生産性の
向上のために、量を
増大したためにむしろ価格が下がって
所得が減るじゃないかというような御
意見も拝聴したのでありますけれ
ども、私は、
農村の
農産物がまさにその通りだというふうに考えます。三重におきましても、
農産物は一割増産すると半値になる、二割増産したらただになるという言葉が昔からはやっておりますけれ
ども、全くただになった例はたくさんあるわけであります。これは、もちろん、
基本法の中に、構造の改善とかあるいは需給のバランスの点、価格の点等に触れて総合的に出てはおりますけれ
ども、そこで
所得倍増を二町ではとうていできない。米麦作を
中心とした
農家では、これは
自立農家もあやぶまれるという点も申し上げなければならないのであります。
そこで、貧農切り捨てというような言葉が、
社会党の方のお話、あるいはまた新聞でもちょいちょい見ますけれ
ども、私は、今度の案でいきますと、貧農切り捨てではなくて、中農切り捨てになるのではないかということを心配するのであります。それはどういうことかというと、二町以上作っておるところの
農家はやや安定はいたしておりますけれ
ども、一番不安定なのは七反ないし一町二、三反になるところの
農家でありますが、この
農家が大体三分の一を占めております。この三分の一の
農家は、ほとんど借金で生活を営み、また
生産にも従事しておるわけでありますが、だから、
農業協同組合の貸付の対象を見てみますと、貧農々々と言われるところの六反未満とかいうような方たちは決して借金をしてない。むしろ預金をしてもらっておるお客さんになっておるわけですね。それは、主人がたまたま工場に働き、あるいは官庁に勤め、家内に百姓をさしておりますから、食べるだけはあるし、さらにまた多少売るものも出てきますから、月給なり日給がそのまま小づかいになっておりますから、だから、私の組合の例をとって申し上げますと一番よくわかりますけれ
ども、五百五十戸の部落でありますけれ
ども、このいわゆる
農業収入と他の収入を比較してみますと、
農業収入が約七千五百万円、それから月給等によるところの収入が七千五百万円、ですから、大体半々の比率を占めております。従って、その約一億五千万円の収入のうち、貯金として一千万ないし一千五百万ずつ増加して参りますけれ
ども、その増加していく対象が、やはり六反未満
程度の月給取りの飯米百姓の人たちで、この方がむしろ楽に、しかも文化的な人間的な生活を営んでおるのであります。だから、耕地の少ないという点からいきますれば、貧農切り捨てじゃなくて、先ほ
ども申し上げたように、八反以上一町二、三反の
農家の人たちが約五千万円からの借金をしておるのでありますけれ
ども、この借金を背負っておるのに、
農業の
近代化をするためには
資金の問題も出て参りますし、長期低利の融資等の問題も出て参りますけれ
ども、これらの
農家はすでに農協の貸し出しの対象から脱落しておるのであります。そこで、
近代化の
資金が貸し出されて参りますけれ
ども、これも、そういう個人の
共同化のために貸し出す場合におきましては、すでに限度超過になっておりますから、その組合員を対象として貸し出すことは非常に不安を感ずるような
状態になって参ります。私は、この
農業構造、
生産構造の改善と申しますか、そういう点につきましては、むしろ中農の方たちをいかにして救うかというところに
基本法の重点が置かれなければならぬ、こういうふうに思うのであります。従って、これらの人たちが、二町と申しますか、そういう目標で
自立農家を創設するという場合におきまして、田を一町しかないからあともう一町買わなければならぬという方たちは、はたしてあと一
町歩の
農地を購入する
資金が得られるかどうかということに非常に疑問を持つのであります。また、資本を投下する場合におきまして、私
どもでも、ほんとうに純
農家でいきますと、むしろ
土地の取り手がないということになる。買い手がなくなるということです。それはなぜかと申しますと、買わなくても、人に所有をさして、反当千五百円の小作料を納めておった方がどれだけ収入になるかということを考えますときに、一反で二十万円も資本を投下して買うよりも、むしろ千五百円の年貢を払って作っておった方がどれだけ利益になるかということになります。税務署の査定におきましても、一反の収入というものが、表作が二万円、裏作が五千円、二万五千円になるのです。二万五千円ということになれば、二十万円資本を投下する場合、むしろ証券かあるいは株式に投資しておいた方が、一割配当があるので、だから働かずして利益が得られる。その二万五千円というものは、自分の
労働の報酬として出てくるのでありますから、何を好んで二十万円というような莫大な資本投下をして、原始
産業・原始
産業と言われておる
農業に投資をして、はたして近代的な企業として成り立つような経営ができるかということになると、私はできないと断言せざるを得ぬのであります。従って、私は、今度の
農業の
近代化の進め方につきまして、二町
程度の
自立農家を創設されるということはけっこうでありますけれ
ども、しかし、
所得の
増大につきまして、二町作っておる
農家が、それじゃはたして年間五万なら十万なりの
所得の
増大をすることができるかといいますと、現状では不可能です。なぜなれば、米価におきましても、あるいは他の農
作物におきましても、決して値が上がっていない。米価のごときは、昨年は、確かに一石で七十何円上がりました。その前は五十銭一石で上がっておりますが、これだけの値上がりで、二町の米作をしておる
農家が
所得が
増大していくということは考えられない。それじゃ
畜産に転向したらどうかと言いますけれ
ども、二町を作っておっては他のものに従事することは不可能であり、
労働力からいきましても、それに回ることは不可能に思います。こういう意味から、
農業の
近代化を進めるについては非常に問題点が残っておるということを、
意見として申し上げ、これらの中農をいかにして救うかという点が、今後の付随
法案等が出て参りましょうが、やはり、これらの対象を、負債整理組合法とかそういうような
法律のもとに、まず負債を整理してやった後に、二町なら二町の
自立農家を創設していくというふうに持っていかなければ、もう限度を超過して、貸し出しの対象にならない
農家になっている。これを救っていただくように何とか考えていただきたいということが、
一つの申し上げておきたい
意見であります。
それから、次に、
農産物の価格安定の問題でありますけれ
ども、午前中にも、
生産費及び
所得補償方式でというようなお話がございましたけれ
ども、これは当然
農民の要求として出てくるわけであります。従来の米価の決定をめぐりまして、われわれ大会を開き、また組織を代表して再三陳情申し上げておったのは、やはり、
生産費並びに
所得が補償されるような方式で価格を決定していただきたいということを頼んでおったのでありますが、今度も価格の安定ということが書かれておるようでありますが、しかし、私は、ここで御指摘申し上げたいのは、それでは過去には
農産物価格安定法がなかったかといいますと、現在あるのです。しかも私が苦い経験をなめておるのはサツマイモの場合であります。間接ではありますけれ
ども、澱粉を買い上げる場合におきましては、たしか二十二円四十銭と記憶しますけれ
ども、これこれの値段で買ったサツマイモで澱粉を作った場合に
政府が買い上げるということですから、間接的に価格は支持されておるけれ
ども、何ぼ
政府に陳情し、また
運動いたしましても、昨年、一昨年を通じましても、十五、六円、あるいは高く食料用で売れても二十二、三円でしか売れなかったというのが現状でありますし、また、たしか
昭和二十三年と記憶しておりますけれ
ども、菜種が
農産物価格安定法の対象にしてもらったのを覚えておりますけれ
ども、その場合、
政府の買上価格はたしか三千百円か三千三十円と覚えておりますけれ
ども、それも下がった。それで、全販を通じて
政府に陳情申し上げたところが、
予算がないから買えない、全販でそれを買って貯蔵しておけというようなことで、一向進捗しなかったのでありますけれ
ども、過去に、こういう
農産物価格安定法という
法律で保護されておりながら、そういう恩典に浴しなかったという例があるわけでありますから、今後決定されるところのいわゆる
農産物価格の安定をさせる場合、自由価格の安定といいますか、そういう場合におきましては、もっと適切な、ほんとうに
農民のきめた値段で十分買い上げてもらうような制度にしていただきたい。聞くところによりますと、西ドイツにおきましても、アメリカにおきましてすらも、そういう制度が
農業の
基本法の中に盛り込まれておるということを、私は直接聞いたのではありませんけれ
ども、視察に参った人の話を聞きますと出ておるようでありますから、価格の支持制度というものに対しましては、どうか
一つ農民の
期待を裏切らないような制度にしていただきたいということで、この点を
お願い申し上げたいと思うのであります。
さらに、
農地の
信託制度を設けるということがありますけれ
ども、これは私は従来から反対を続けてきたのであります。すでに私はにがい経験をなめてきておるわけです。つまり、私の組合員で一町五反作っておるじいさんですが、ばあさんが寝てしまったものですから、その
農地を手離したくないし、それかといって小作にやらしてしまえばもう返ってこないのだから、農協で責任を持ってこれを作ってもらいたいという申し入れを受けたのでありますけれ
ども、これは
法律の示すところでできない。従って、新たな人たちに頼んで作ってもらうように話をしたのでありますけれ
ども、その場合も、農協にたとえば反当十五万円なら十五万円というもので買い上げてくれ、農協だったらよそに売らぬのだから、もし病気がなおったら返してもらいたいということを申し入れてきましたが、そうすると一万五千円金利がかかるであります。しかし、農協がこの
土地を信託されて他に作らした場合におきましては、法定の小作料はきまっておりますから、それを上回って貸すことはできませんから、やむなく親戚の方たちを頼んで、どうか
一つ年寄りの人たちを食わすと思って、千五百円の小作料であるけれ
ども、食べるだけの
食糧を補給してやるという約束で
管理してくれぬかということを頼み込んだのでありますけれ
ども、もし今度
信託制度ができた場合、具体的に信託をさせるということは書いてありますけれ
ども、もし信託されて離農していく方に十五万円なり二十万円の価格のものを立てかえて払った場合、農協は結局二万円という金利をもらわなければなりません。しかしながら、それを頼んで
農家の方たちに作ってもらった場合、二万円の金利に該当するところの小作料が取れるか取れないかというところに疑問があるのであります。おそらく千五百円の法定によるところの小作料しかもらえないということになりますと、二万円というものに対しましてはほんとうにスズメの涙ほどの金利にしか該当しませんから、こういう
信託制度ができた場合、付随の
法律は出てこようと思いますけれ
ども、そういうような具体性に欠けておるのではないか。具体的にそれが
信託制度をやった場合におきましては、農協にこれだけの信託料といいますか、そういうものを支払うことをきめておられなければ、安心して信託を続けることはできないのであります。
それと、
生産性の
向上の問題ですが、
機械化等の導入ということがありまするけれ
ども、私は、この
機械化につきましては、二町を作っているものを対象としての
機械化なれば、これはできるかもしれませんけれ
ども、山間僻地あるいは海岸線——三重県は海岸線もありあるいは山間も多いわけでありますけれ
ども、そういうところで
機械化なんということはおそらく考えられない。
近代化ということは考えられない。なぜならば、一反の田が五十枚も六十枚にも分かれておる。そういうところに一台
機械を据えてバタバタやってはまた移す、こういうような
機械化は考えられません。だから、農山漁村の僻地の
近代化をどうするかということについても触れてみえられない。
近代化はするけれ
ども、どうやってやるということは示されていませんから、これらに非常に不安を持っているわけです。だから、
農民としては、今、
期待をしておる階層と、あまり
期待をしてない階層と、二つに分かれております。私たちはあまり
期待をしない方の階層になっておるのですけれ
ども、この
基本法は、金科玉条の読本ができたから直ちに
農民は救われるということには考えておらない。ところが先ほど申しました一町前後の、借金をして苦しんで苦しんで苦しみ抜いている方々は、この
基本法ができたら立ちどころにわれわれの苦しみは解消するのではないかというような待望の気持を持ってみえるのであります。そういう階層は、おそらくこれが具体化されて参りましたときには非常に失望するのではないか。先ほど申し上げました
農産物価格安定法の問題をとりましても、それから、中村迪さんの触れられた
畜産物価格の安定にしても、これは私たちもあれの要綱を見せてもらいました。また、
農民大会で私も
農林省に陳情に行きましたけれ
ども、確かに乳の価格は四円に満たない。これは北海道が対象だというふうに言ってみえたけれ
ども、北海道は自給飼料問題が
解決されておりますから安価にできましょう。しかし、内地では自給飼料は非常に少ない。わずか一割ないし二割しか自給飼料を使っておりません。養鶏のごときは一割にもならない。それだけの自給飼料しか使っていないのですから、購入飼料にほとんど依存をしているのであります。その購入飼料たるや、飼料の需給価格安定法ですか、そういうものがあるそうでありますけれ
ども、需給価格安定法に従って
審議会ができて
審議されておりますけれ
ども、決して安い飼料というものはわれわれの手に入ったことはない。ますます高騰してくるばかりです。私も鶏を飼っておりますけれ
ども、たしか三月の末には成鶏の配合飼料が一袋七百円で買えていたが、一日違いで七百三十円に上がっております。まだ上がる傾向にあります。また、ふすまのごときも、御
承知の松阪牛の飼料として作っております。その本拠が私
どもの地方でありますけれ
ども、これとても、飼料が高いために、何ら肉の価格の安定、また
畜産の振興というものは考えられないのでありますから、
所得をふやすためには米作あるいは麦作では困るから
果樹や
畜産で伸ばしていくのだというようなことも聞かされておりますけれ
ども、
畜産を農協として振興すれば、直ちに飼料の値が上がって参ります。また、子豚の値が上がって参ります。私
どもも、
共同化のために、すでにこれができる前に
共同化を進めております。五戸で六百頭の養豚をやらしておりますけれ
ども、これも振興させるために進めて参りましたけれ
ども、多頭飼育でやりましたが、結局子豚が一万円、一万二千円という価格に高騰してしまったために、現在出荷をしておりますけれ
ども、結局は一頭につきまして飼料代を差し引いて二千円赤字になっております。しかも、
畜産物の価格安定法の肉の価格を見てみますと、キロ当たりがたしか二百十六円と聞いております。現在三百三十円あるいは三百四十円キロ当たり価格がしておりますけれ
ども、
畜産物価格安定法の点では、先ほど中村迪さんがおっしゃったように、大蔵省に折衝をした過去三カ年の肉の
平均値段はキロ当たり二百十六円だ、こういうふうに私も
農林省から聞いておりますけれ
ども、これじゃとうてい
畜産振興などは考えられない。これだったら、私たちは、むしろ、何か食べる猛獣でもおったらただで食わしてやったらいいというような感じを持ちます。従って、ほんとうに
農民が安心して
畜産で
所得をふやすための
畜産の振興ということを言います場合に、飼料の価格を安定させる、そして最低の肉の価格の保障をして、これならば
農民が安心してほんとうに
所得をふやし
近代化を進めるのだ、こういうような具体的な指示を
一つしていただき、具体的な
法律を作っていただきたい。
この
農業基本法はおそらく私は骨だと思っております。これに肉をつけ、あるいは枝をつけるということには、今後の立法に
期待をしなければなりませんけれ
ども、しかし、その立法につきましても、先ほどの例に引きましたように、価格安定法がありましても何ら安定に役立たないという点を
一つ御留意いただきまして、先ほど申し上げたように、日の当たらないところに日を当ててやろうというような、こういうあたたかい気持で皆さんが
基本法を作っていただくということについては心から感謝を申し上げておるのでありますから、全く日の当たるような
法案を作って、そしてりっぱな親切な
農政を進めていただくことを望んでおります。私は
法案そのものについて批判は差し控えますけれ
ども、具体的な問題を二、三取り上げまして
意見を申し上げたのでありますけれ
ども、それじゃ本
国会で直ちにこれを通していただいて具体化してもらいたいという
意見を申す段階ではないと思います。なぜなれば、もっと具体的に、ほんとうに
農民が安心できるような
法案を、いわゆる肉をつけて、そうして、これなれば君たちも安心できるだろうというような安心感を与えた上においてこの法の実施を私は望んでおります。従って、十分
一つ諸
先生のうんちくを傾けられまして、もちろん皆さんの力量はわれわれ崇拝しておる方たちばかりでありますので、そういう
期待を裏切らないようにお進めいただくことを最後に
お願い申し上げ、さらにもう一点申し上げておきますけれ
ども、災害補償の問題は、確かに農林漁業基本問題調査会の答申には災害補償についても答申がなされておりますけれ
ども、この
法案にはまだ具体的に出ていないように思いますから、これも私は災害補償制度
審議会の
委員としていろいろ
意見も申し上げましたし、また、衆知を傾けて答申もされておるのにもかかわらず、この基本立法、
農業基本法の中にそういう点に触れてない点を一言だけ申し添えて、これも早くされることを
お願い申し上げまして、簡単ではありましたけれ
ども、私の
意見を申し上げました。(拍手)