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1961-04-19 第38回国会 衆議院 農林水産委員会公聴会 第1号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十六年四月十九日(水曜日)    午前十時二十四分開議  出席委員    委員長 坂田 英一君    理事 秋山 利恭君 理事 大野 市郎君    理事 田口長治郎君 理事 丹羽 兵助君    理事 石田 宥全君 理事 角屋堅次郎君    理事 芳賀  貢君       安倍晋太郎君    飯塚 定輔君       金子 岩三君    亀岡 高夫君       川村善八郎君    小枝 一雄君       田邉 國雄君    谷垣 專一君       綱島 正興君    寺島隆太郎君       中山 榮一君    野原 正勝君       福永 一臣君    藤田 義光君       本名  武君    松浦 東介君       森田重次郎君    八木 徹雄君       米山 恒治君    足鹿  覺君       片島  港君    北山 愛郎君       東海林 稔君    中澤 茂一君       楢崎弥之助君    西村 関一君       山田 長司君    湯山  勇君       稲富 稜人君  出席政府委員         農林政務次官  八田 貞義君         農林事務官         (大臣官房審議         官)      大澤  融君  出席公述人         全国農業会議所         事務局長    大坪 藤市君         法政大学教授  大島  清君         読売新聞経済部         長       田中  宏君         埼玉大学教授  秦  玄竜君         全国農業協同組         合中央会常務理         事       一楽 照雄君         全日本農民組合         連合会中央常任         委員主任書記  中村  迪君         東京大学教授  川野 重任君         全国農民連盟委         員長      小林 慧文君  委員外出席者         専  門  員 岩隈  博君     ————————————— 四月十九日  委員中馬辰猪君、福永一臣君及び湯山勇辞任  につき、その補欠として綱島正興君、亀岡高夫  君及び足鹿覺君が議長指名委員に選任され  た。 同日  委員綱島正興君及び足鹿覺辞任につき、その  補欠として中馬辰猪君及び湯山勇君が議長の指  名で委員に選任された。     ————————————— 本日の公聴会意見を聞いた案件  農業基本法案内閣提出第四四号)  農業基本法案北山愛郎君外十一名提出衆法  第二号)      ————◇—————
  2. 坂田英一

    坂田委員長 これより会議を開きます。  内閣提出農業基本法案及び北山愛郎君外十一名提出農業基本法案について公聴会に入ります。  この際公述人各位に一言ごあいさつ申し上げます。  本日は御多忙中にもかかわらず公述人として御出席を賜わり、まことにありがとうございました。農業問題につきまして深い御識見と御経験を有せられる公述人各位より、それぞれのお立場から忌憚のない御意見を承り、もって両案審査の貴重な参考に供したいと存ずる次第でございます。  なお、公述人各位には、最初委員長指名順に一人約二十五分程度お述べいただき、あとで委員質疑に応じていただきたいと存じます。  なお、大坪大島田中の三公述人の方は、午前中に御意見をお述べいただき、質疑も行なうことといたしたいと存じます。また、他の公述人は午後に御意見をお述べ願い、質疑を行なうことにいたしますので、御了承願います。  なお、公述人各位委員に対し質疑を行なうことはできないことになっておりますので、さよう御了承願います。また、公述人各位に申し上げますが、御発言の際は、委員長と呼び、委員長の許可を得て御発言下さるようお願いいたします。  それでは、公述人大坪藤市君よりお願いいたします。大坪藤市君。
  3. 大坪藤市

    大坪公述人 私は、ただいま委員長より御紹介を受けました全国農業会議所大坪でございます。本日ここに農業基本法案に関しまして公聴会が開催されるにあたりまして、公述人として意見を申し述べる機会を得さしていただきましたことにつきまして、委員長並びに委員の各先生に対しまして衷心より感謝申し上げる次第でございます。  ことに、全国農業会議所といたしましては、今日まで足かけおよそ四年間にわたりまして、農業基本法制定促進努力をして参ったのでございます。今、少しくその経過を申し上げますれば、今を過ぎまする四年前、すなわち昭和三十三年の十一月には、全国都道府県会長会議並びに全国農業会議所の総会の決議をもちまして、農業基本法制定促進要望決議いたしたのでございます。越えまして十二月に開催されました農業委員大会におきましても、同様の決議をいたしまして、政府農業基本法制定方を陳情して参ったのでございます。また、昨年の三月になりましてからは、一面におきましては、農業基本法が現在の農業にとりましてきわめて必要であるというゆえんを農民にPRしまするかたがた、一方には、農業基本法制定前提といたしまして、農業基本法制定さるる場合におきましていかなる事項農民要望として基本法に織り込むべきかということを、系統機関を通じまして末端の各農業委員会要望事項提出を願ったのでございます。それを、全国農業会議所といたしましては、全国的な立場から取りまとめをいたしまして、政府並びに国会に陳情して参ったような次第でございます。越えまして昨年の夏になりまして、政府がいよいよ農業基本法制定を決意されましてからは、われわれといたしましては精力的にこれが促進に関しまして運動をして参ったような次第でございます。かような経過をたどっておりますので、今日農業基本法制定を目前にいたしまして、われわれといたしましてはまことに感慨深いものがあるのでございます。  かような次第でございますので、今日の段階におきまして、われわれ全国農業会議所といたしまして当委員会に対しまして御要望申し上げますることは、ただの一点に尽きると申し上げて差しつかえないのであります。すなわち、必ず農業基本法を通してもらいたいということと、もう一つは、今国会において農業基本法制定していただきたいということに尽きるのでございます。私どもが今日まで農業基本法制定を執拗なまでに政府並びに国会に対しまして陳情して参りました理由は、今回内閣より提案をされておりまする農業基本法の前文に余すところなく表現をされておるのでございます。従いまして、私どもが今日まで運動を展開して参りました理由というものをこの際あらためて申し上げる必要は毛頭なかろうかと思うのでございます。  御承知のように、わが国農業が曲がりかどに来ているとかあるいは激動期に際会している、こういうような言葉が使われ出しましてから、もうすでに久しい年月を経過しておるのでございます。この困難なる農業を克服いたしまして、農業生産性向上し、農家生活水準向上させまするために、農業に関しまする基本的対策の確立というものが、農業関係方面はもちろんのことといたしまして、各方面から強く要望されておるのでございまして、この点にかんがみられまして、社会党におかれましても、この両三年以来研究研究を重ねられまして、社会党独自の基本法案を御提案に相なっておるのでございます。私ども社会党のこの御努力に対しまして衷心より感謝を申し上げる次第でございます。  今国会が、いわゆる農政国会の名のもとに、農業の問題が広く深くこの基本法中心といたしまして掘り下げられまして、今後農政の問題がさらに一段と伸長するという機会が増したことは、まことにありがたい次第でございまするが、反面、翻って考えてみまする場合に、ここにはしなくも政府提案農業基本法社会党提案農業基本法が対立の形になり、ややともいたしますれば理論の上に理論の花が咲いて結局は実を結ばないという結果を招来するおそれはないかということを深く憂えておる次第であるのでございます。  今日まで、社会党提案農業基本法内閣提案基本法につきましては、言論界はもとよりといたしまして、学者その他の方面より、いろいろとその類似点並び相違点を指摘せられておるのでございます。その相違点の最も特徴の点といたしまして、いわゆる自立経営というものと協業経営というものが対比されまして論議をされているように見受けられるのでございますが、御承知のように、政府提案農業基本法におきましても、いわゆる自立経営というものを中核体といたしまして、それをさらに発展いたさせまするために協業経営の助長をはかるという立場に立っておるのでございます。従って、われわれ農業団体が今日まで農業基本法と同様に強く要望して参りました農業法人問題を解決いたしまするために、農業協同組合法の一部改正に関する法律並びに農地法の一部改正に関する法律同時提案を見ておるのでございます。また、社会党におかれましても、わが国農業零細経営の現状にかんがみまして、農業生産性所得向上をはかりまするために、理想的な形態としてはいわゆる協業組織、(「共同だ」「協業とは迷惑だ」と呼ぶ者あり)生産組合システムというような考え方のもとに、これが推進をはかるという観点に立脚されまして御提案になっておられまするが、社会党提案におかれましても、共同組織の物的あるいは人的な基盤のない場合に共同組織を無理に押しつけるということは困難であるという立場のもとに、あくまで農民の自由な意思、自主的な意思前提とするということを繰り返し繰り返し強調されておるのでございます。従いまして、観念的な見方からいたしますれば、社会党提案あるいは内閣提案の今後の農業改善の方向の問題につきましては相当の隔たりがあろうかと思うのでございまするが、現実の政策、政治として考えました場合におきましては、おのずからこれは物事は解決をするだろうと、かように私は考えるのでございます。協同組織なりあるいは協業の問題がどの程度今後推進されるかという問題につきましては、一に政府が、協業あるいは協同の人的な基盤といたしまして、農民教育なりあるいは協業についての必要性なり、こういうような問題につきましてどの程度いわゆる人的な基盤を造成して参るかということと、もう一つは、協同組織なり協業なりの物的な基盤といたしまして、農業生産基盤拡大はもちろんといたしまして、協業をやって参りまする場合に最も必要でありまする農地条件整備、つまり農地集団化あるいは機械の導入あるいは技術普及、こういうような物的な指導あるいは助成、援助というものをどの程度政府が強力に実行するかということによって、この問題はおのずからその進路が解決されるのじゃなかろうか、私はかように考えるのでございます。  次に、いわゆる生産消費に関してでございまするが、社会党提案農業基本法におきましては、いわゆる自給度の問題を表面から規定をされておるのでございまするが、政府提案におきましてはこれを側面から規定をしているというふうに考えても差しつかえなかろうかと思うのでございます。すなわち、内閣提案基本法におきましては、農業生産性向上と総生産拡大というものをテーマにいたしておりまして、生産性なり総生産拡大すれば、おのずからそこに外国農産物との競争力も強化して参る、その結果おのずから自給度向上する、こういうような立場に立っておるというふうに考えるのでございます。  次に、農産物の価格問題についてでございまするが、内閣提案農業基本法におきましては、農業基本法に基づきまして、重要な農作物につきましてはすべて価格政策の対象にするということと、もう一つは、この価格政策生産性向上とにらみ合わせまして農家所得の確保という観点から総合的に施策すべきものであるという立場に立っておるのでございます。私はこの際特に本委員会の諸先生方お願いを申し上げたいと思いますることは、今後生産の増加が急速に期待され、従って、農業所得におきましても今後相当ウエートが重くなって参ると考えられます畜産物なり果樹なりその他園芸作物につきまして精力的な価格政策を実行していただきたいということと、もう一つは、今日なおわが国農業所得の過半数を占めております米の問題につきましては、政府がしばしば言明しております通り、現行制度を堅持していただきたいということでございます。  なお、この際特につけ加えておきたいと思いますることは、大・はだか麦生産管理に関する問題でございまして、これと農業基本法との関連に関する問題でございます。なるほど大・はだか麦は今日は食糧としての消費構造が急激に変化をして参りましたので、農業基本法精神にのっとりまして、この大・はだか麦生産転換、いわゆる選択的拡大という考え方のもとに、畜産なり果樹なりあるいはてん菜糖なり、その他有利な作物の方へ大・はだか麦転換をするということにつきましては、これは農業基本法精神と全く一致するというふうに考えるのでございまして、政府の手厚い転換についての助成政策と相待ちましてこれが政策を実行して参らなくちゃならないというように考えるのでございますが、同時に、食糧管理法第四条の二の規定、つまり無制限買い入れ規定の問題と、それから価格形成要素の変更の問題があります。これは農業基本法考え方であります総合的な価格政策の一環として検討すべき問題でございますので、必ずしも前の生産転換という問題とうらはらの問題とは言いがたい。必ずしも関連する問題ではない。従って、この食糧管理法第四条の二の問題は、生産転換とは別の観点で慎重御審議お願いいたしたいと思うのでございます。  そのほか、社会党提案のものと内閣提案のものとにつきましては、いわゆる流通機構整備の問題、あるいは農業用資材生産、配給の問題、あるいは農業技術の振興の問題、あるいは農業技術普及の問題、あるいは農業の今後のにない手としての教育の問題、あるいは環境整備問題等につきまして、いろいろ類似点あるいは相違点が指摘せられておるのでございまするが、いずれにいたしましても、社会党提案農業基本法案内閣提案農業基本法案も、現在の農業のきわめて困難なる実情にかんがみられまして、わが国農業と他産業との所得均衡生活水準均衡をはかるということを目的といたしまして、明るい文化的な農村を建設するという最終の目標につきましては、ごうまつの差異もなかろうと私は考えるのでございます。従いまして、私は、この際農民本来の立場に立脚せられまして、小異を捨てて大同につくという大乗的な見地から、農業基本法を今国会において成立させていただきたい、かように考えるのでございます。  この際、私は、農業基本法を本国会においてぜひ成立させていただきたいという理由につきまして二、三申し上げてみたいと思うのでございます。  御承知のように、農業基本法と同時に、関連立法といたしまして、農業協同組合法の一部改正法律案、あるいは農地法の一部改正に関する法律案、あるいは農業経営近代化資金法案、あるいは畜産物価格安定等に関する法律案、その他多数の重要なる法案が本国会提案をされておるのでございます。従いまして、農業基本法制定が危ぶまれるということになりますと、これらの法案も場合によりましては同時に討ち死にをするという危険な点を非常に憂うるのでございます。そうなって参りますると、ここに少なくとも一年足らずは農政についてのブランクの状態を招来をする。われわれは今日まで農業法人の問題につきましては強く国会に対しましても要望をして参ったのでございまするが、万一そういうようなことに相なりますれば、せっかく農民期待をいたしておりましたいわゆる法人問題の解決の糸口も閉ざされるようなことになりまして、農民期待を裏切るもはなはだしい結果を招来しやしないかということをおそれるのでございます。  次に、私どもが申し上げますまでもなく、国会が明けますと、政府は直ちに昭和三十七年度予算編成の準備にとりかかるのでございます。三十六年度予算はともかくといたしまして、少なくとも三十七年度の予算はぜひ農業基本法をもととして編成していただきたいということをお願い申し上げるのでございます。今日農村より多くの労働力が都市に移動いたしております。また、特に次代を背負う青少年が他産業移動をいたしておるのでございまするが、この農業労働力流動の問題は、一面におきましては残りました者につきましての農業所得増大機会を与えることには相なるのでございまするが、このことは、ただ単に農業労働力移動の反射的な効果が農業所得増大にはならないということを特に私は承知をいたしておきたいと思うのでございます。農業労働力の減少というものを農業近代化によって置きかえる、農業生産基盤拡大し、農地条件整備いたしまして、機械を導入し、農業装備を強化いたしまして、農業近代化をはかって、労働力の節約をはかる、これによって初めて生産性も上がり、総生産量拡大をし、農業所得の他産業との均衡期待される。これらの施策を強力に実施しない場合におけるただ単なる農業労働力流動は、農村荒廃に導く以外の何ものでもない。生産性向上所得向上はおろか、農村荒廃に導く以外の何ものでもないということを強調申し上げたいと思うのでございます。そういう意味からいたしまして、今日の農業労働力流動状態はまことに激しい状況にあるのでございまして、一日おくれればそれだけ農業農業外所得の格差が開いて参る、かような格好に相なって参りますので、政府はいわゆるこれらの構造改善事業というものに精力的な力を投入すべきであるということをかたく信ずるのでございます。そういう意味合いから、三十七年度予算編成につきましては、十分政府農業基本法精神を体し、その条項の命ずるところに従って総合的に予算編成するようにお願いをいたしたい。そのために、まずもって農業基本法を今国会において成立させていただきたい、かようにお願いを申し上げる次第でございます。  理由の第三点といたしましては、御承知のように、農業基本法農業政策につきましての総合化を強く期待をいたしております。これは、しかも、農業政策ばかりではなしに、財政の問題、金融の問題、あるいは労働の問題、あるいは教育の問題、これら農業外施策につきましても、これを総合的に実施すべきであるということを規定をいたしておるのでございますが、御承知のように、現在の農業関係行政機構は必ずしもこれらの要求に合致いたしていないうらみがあるのでございます。従いまして、まず農業政策を基本的に実行して参らなければなりません農林省におきまして、まず農林省行政機構というものを基本法政策を実行し得るようにこれを整備拡張しますと同時に、他の行政所管に関する事項との連絡調整に関する機構もこれを拡充をして参らなければならないのであります。そういう意味合いから、これらの事項を実行して参りますためには、どうしてもそこに三十七年度予算においてそういうようなことを盛り込んで参らなければならないということに実は相なって参るのであります。そういう意味合いからいたしましても、ぜひ本国会において農業基本法を成立させていただきたい、かように考えるのでございます。  最後に、農業基本法の第六条、あるいは第七条におきましては、農業に関しまする各般の動向についての政府の報告、これに基づきまする国会審議権というものが農業基本法の大きな柱の一つとして規定をせられておるのでございます。従いまして、農業管理者といたしましては、次の国会におきましてはこの規定を大いに活用していただきまして、政府におきましては農業基本法の命じておりまする各種の具体的政策を忠実に実行すると同時に、国会におかれましては、その政策を批判され、さらにこれを発展せしめるような具体的な政策論議を強く展開をしていただきたい、かように考えるのでございます。くれぐれも本国会におきまして農業基本法が成立いたしますように衷心よりお願いを申し上げ、御期待を申し上げまして、簡単でございますが、公述人としての意見といたす次第でございます。(拍手)
  4. 坂田英一

    坂田委員長 ありがとうございました。  次は、大島清君にお願いします。
  5. 大島清

    大島公述人 私、大島清でありますが、本日農業基本法案についての私の意見をごく簡単でありますが述べてみたいと思うのです。ただ、最初にお断わり申し上げておきますけれども、この基本法案は読んだところ、非常に抽象的で、しかも一般的な法案でありまして、そういう点から言いますと、一体この法律に基づいて具体的にどういうふうな措置がとられるのかということを十分学問的に実証的に批評するということは困難でありまして、そういう点におきまして、私は、この法案だけを相手にして十分私の気持を表わすことができないと思うのであります。そういう点を御承知置き願って、ただこの法案に現われている考え方なり施策欠陥なりについて述べたいと思うのです。時間がありませんから、私は主として政府提出基本法案欠陥ないし不備と思われる点を二、三指摘しておきます。いろいろ議論がありまして、これを全部やっておりますと大へんでありますから、そういう点を中心にして若干社会党についても触れてみたいと思います。  私は、この法案には非常に重大な欠陥といいますか不備がある、この問題を解決せずに基本法案を通すとか通さぬとかいうような議論をすること自体が、もうすでに間違っておるのだということを考えております。というと非常に大げさですけれども、大したことじゃないのです。それは、第一に土地問題です。基本法案で非常に重要な中心問題になっております自立経営を育成していくという場合に、その自立経営ないし自立農家が達成されるに必要な土地を一体どうやって手に入れるか、こういう問題なのです。政府案では、一応二ヘクタール前後の自立経営を育成していくのに、あらためてここで土地造成未墾地を開墾するというようなことは特別には考えられておらないというふうに私は読みました。おそらく、これは、現在すでにあるところの既耕地を再配分することにより自立農家に多くの土地を与えるということによって、この自立農家の育成ということを考えておるのだというふうに思います。それは、たとえば、農地信託制度あるいは農地最高保有制限の廃止というような考え方法案というものを見てもわかりますように、おそらくこれは既耕地を再配分することによって自立農家を育成しようというふうに考えていると見て差しつかえないと思うのです。そこで、私はここに非常に簡単な算術の計算をしてみたわけでありますけれども、現在日本の農村においては、二ヘクタール、二町歩以上の農家というものは約三十八万戸ございますが、十カ年で農家所得を倍にするという政府所得倍増計画の案によりますと、大体自立経営農家というものを百万戸にふやしていこう、こういう計画承知しております。そういたしますと、私の計算によりますと、約百五十万ヘクタール、百五十万町歩前後の土地を新しく自立農家に与えなければいけない、こういうことになります。たとえば、現在、一反歩、十アールの農地価格というのは、農村によってずいぶん違いますけれども平均十五万円から二十万円はいたします。かりにこれを平均二十万円といたしますと、一町歩二百万円に相当いたしますから、百五十万町歩では三兆円という金高になります。もしもこれが三十万円といたしますと、四兆五千億という金高になります。こういう土地購入資金に対して、一体政府はどういう用意をしておるのか。政府は、自立農家を積極的に育成するというのでありますならば、十年間にしろ、この相当巨額に上る資金というものに対して、どういうふうにしてその資金を捻出する成算がおありになるのか。あるいはまた、政府は一切その資金のめんどうは見ない、それは農家が自分で土地を買えばいいじゃないかとおっしゃる方があるかもしれない。しかしながら、土地のために一反歩二十万円とかあるいは三十万円、五十万円というお金を投資するということは、それだけ肥料や農機具や農薬などの生産的投資に対するマイナスなんです。農業近代化する、合理化すると言いながら、土地のためにそれだけの多くのお金を農家が出すということは、それだけ日本の農業を貧しくすることでありまして、そういう点から言いましても、この土地資金の問題、土地問題を十分に考え、裏づけのある政策なくして、この自立農家の育成というふうなことをおっしゃることは、大へんどうも納得のいかない問題であります。しかも、この土地価格というのは、市街地におきましても、農村におきましても、ますます価格が上がっていく。場合によっては暴騰と言っていいくらいにどんどん値段が上がっていく傾向にあります。特に、法案が予定している零細な兼業農家というのは都市の近郊に住んでいる人が多いのでありまして、こういうところでは、一反歩三十万円はおろか百万円にもなるかもしれません。あるいはもっとそれ以上になっているかもしれません。こういうふうな高い土地価格というものを、一体政府、この法案提出者はどう考えて、この自立農家の育成ということをおっしゃっておるのか、私はそういう点について非常な疑問を感ずるわけであります。特に、この土地購入のために、——おそらく現在農業を離れて都会に出たいという零細な農家も、ごくわずかでありますがあるでしょう。そういう人々もこの法案が通ったらおそらくまた土地を購入したいでしょうし、いろいろ土地購入についてのブームが起こるだろう。そういうことから土地価格がどんどん上がっていきますと、それがインフレーションを起こす動因になってくるのであります。一方において土地の造成はしない、他方において今度は自立農家を育成してたくさんの土地を与えなければいけないというふうなことを言いますと、そのことのために農地の価格のブームが起こりまして、価格が上がっていく。インフレが進行する。結局これでは所得倍増計画というものが台なしになるおそれがありはせぬか。私は、この基本法の問題というもの、この自立農家の育成ということを考える場合に、非常にその点を心配するのであります。  また、この土地問題についてもう少し意見を述べたいことがあるのです。が、そういうことについて話をすると時間もありませんから、ただ、土地資金の問題、それから、どういう工合にしてその土地を配分するかという具体的なわれわれに納得のいく計画を示し、それを議論の対象にした上で、この法案を通すか通さぬかというふうなことを審議していただきたいというふうに私は希望するものであります。  そういう点で、私は、これは農業基本法案というものの非常な落とし穴といいますか、隠された欠陥一つではなかろうかというふうに考えるわけであります。  もっとも、私はさっき、百万戸の自立農家ができる場合にはこれぐらいの金が要るというふうに申しましたけれども、おそらくその計画それ自身は相当に困難で、よほどの経済的な好条件あるいは政府の手厚い保護、助成というものがあれば、ある程度それに近づくことができるかもしれませんけれども、大体従来の日本の政府のやってきた農業政策の実績から見ますと、これは相当困難だ。大体この十年間に農家人口はなるほど三百五十万人ぐらい、一カ年にして約三十五万人ぐらい減少しておりますけれども、肝心な農家そのものの数というものは、この十カ年間にわずか二・五%ぐらいしか減っておらない。零細な兼業農家農業を離れて、そして都会の工場や会社に勤めるといたしましても、何しろ勤めるところは日本では中小企業とか、あるいは大工場に勤めても臨時工というふうな職場が多いのでありまして、そういう点から言うと、自立した勤労者の家庭というものが非常に築きにくい条件にあります。日本経済の二重構造というその底辺に中小企業や農家が置かれているのでありまして、そういう農家が簡単に家を放し土地を手放して都会に全部移り住むというようなことは相当困難であります。そういう点から申しますと、土地造成ということを無視して既耕地の再配分によって自立農家を育成するという考え方、そういうプランには相当に難点がある、またその達成には困難があるということを、私はまず申し上げておきたい。  社会党案は、この点については三百万町歩農地を造成するというふうに出しております。これにはもちろんいろいろ問題があるわけです。私は社会党の推薦の公述人ですけれども社会党の御用学者でもないのですから、別に社会党案に全部賛成するというのじゃありません。三百万町歩農地を造成するためにはどれだけの費用が必要であるか、その三百万町歩農地を造成してどれだけの生産物の価値を生み出せるのか、この比較をやって経済的な農地造成をやらなければ、納税者としての国民は納得するわけはありません。そういう点について、具体的な経済的な基礎づけというものについては社会党の方ではまだ十分でないというふうに私は思います。しかしながら、現在なお残っている未墾地、特に国有未墾地の開墾をやって、牧野とかあるいは飼料畑を作って、そういうことによって成長産業と言われている酪農とかあるいは果樹生産というものを伸ばしていくということがこの際非常に重要なことではないか。そういう点について、私は、とにかく経済的な採算の合うものならどしどし農地を造成して、日本の農業生産力を高める、農家所得を高めるというふうにした方がより現実的であり、よりすぐれた案ではなかろうかというふうに思います。あと何分でしょうか。   〔「五分」と呼び、「十分」と呼ぶ者あり〕
  6. 坂田英一

    坂田委員長 約十分です。
  7. 大島清

    大島公述人 それでは、第二の点について申し上げます。  それは、政府提出農業基本法案におきましては、生産性向上ということと農家所得の引き上げということが目標として掲げられております。生産性向上によって農家所得増大させる、これは一見したところ非常にもっともらしいことのように聞こえますけれども、学問的な立場から見ますと、必ずしも生産性向上ということは所得増大ということに結びつかない。実際問題といたしましても、生産性が上がっても所得というものは必ずしも上がらない例がたくさんあります。なぜかといいますと、物がたくさん作られれば供給がふえていく。場合によっては、供給が過剰になり、その農産物の商品の価格が下がる。商品の価格が下がりますから、幾らたくさん作っても、場合によっては農家所得としてはそうふえない。場合によっては減る場合もあり得るわけであります。生産性向上イコール所得増大というふうなことを単純に考えるほどわれわれは素朴であってはいけないというふうに思うのです。それでは、われわれはどういう工合にして生産性を引き上げるか、同時に所得増大をはかるか。もちろん、生産性増大というのは所得増大のための一つの重要な措置なのでありますから、別に私は生産性増大をしてはいかぬというふうなことを申しておるわけではありません。誤解のないように言っておきますけれども生産性増大イコール所得増大にはならぬということを申しておるわけであります。それでは、生産性増大によってさらにその所得の増加という最終の目的を達成するためにはどうしたらいいかと言えば、農産物の価格というものは、これを放置しておきますと、とかく低下する傾向がある。私はそういう経済原論の話をお話しする場合ではありませんから、そんな理屈は申しませんけれども農産物の価格は、特に日本のような農家が作っている農産物の価格というものは非常に低下する傾向があります。少し物をよけい作ると低下する。牛乳の値段にしろ、あるいはサツマイモの値段にしろ、最近では麦、米の値段にしろ、とにかく少しばかりよけい作ると急激に価格が下落する。その結果は農家所得が低下するということになっておるわけであります。それがつまり日本農業の曲がりかどと言われている現象なのでありますけれども生産性増大と同時に農家所得をふやすためには、これはどうしてもわれわれは農産物の価格に対する何らかの特別な措置をしなければいけない。農家農産物の販売によって得るのは、これは利潤ではありません。肥料会社や農機具会社が生産物を販売すれば、その生産費の中には利潤が含まれている。利潤が計算されて原価計算が行なわれますからそれでいいのでありますが、農家の場合には、利潤を含めた生産費というものは計算いたしません。農林省生産費の計算におきましてもさようでございます。従って、農産物の価格については、特にこれから伸ばさなければいかぬとおっしゃる果樹やあるいは畜産につきましては、やはり、どうしても、生産費を補償する、農家の自家労賃である労働所得というものを一定の水準で補償するような明確な規定がなければならないというふうに私は考えます。そういう点につきまして、単に経済事情を参酌するとか物価その他の事情を参酌して価格を安定させるというのは、これは非常に流通自在な、政府としてはやりよいことかもしれませんけれども、私は、これはあくまでも農家の自家労働の費用というものを補償して、そうしてこのことによって農家と一般勤労者の所得というものを均衡させるというふうにすべきだと思います。そういう点で、政府提出基本法案については、この点についてもきわめて重要な欠陥というものがあるのではなかろうか、こういう点を私は痛感しております。  まだ一分半くらい残っているようでありますけれども、先ほど五分という意見と十分という意見とがありましたので、その中間をとりましてこの辺でやめておきます。どうも失礼いたしました。(拍手)
  8. 坂田英一

    坂田委員長 ありがとうございました。  次は、田中宏君。
  9. 田中宏

    田中公述人 田中宏でございます。  私は、今度の農業基本法案政府並びに社会党からこの国会提出されていることを非常に喜んでいる次第でございます。なぜなれば、現在の日本の農業の現状というものを考えました場合、率直に申し上げまして、これまでの農業政策では救いがたいいろいろな問題を蔵しておりますので、少なくとも政策転換というものが一日も早く行なわれるということをこれまで常に希望していた次第でございます。また、過般農林漁業基本問題調査会にも参画いたしまして、日本の農業の方向というものを一緒に検討さしていただきましたので、特に今国会でこの基本法案が上程されましたことを心から喜んでいる次第でございます。  ただ、政府並びに社会党の二つの農業基本法案を拝見いたしまして、率直に申しまして両法案ともにまだ不備な点がございます。しかし、二つの法案を並べまして見ました場合には、私は、政府提案法律案に賛成の立場をとる次第でございます。  と申しますのは、社会党の御提出になりました法案にはきわめて重大な欠陥があるということを指摘したいと思います。それは、ほかでもありませんが、農業基本法の目的とするところは一体何かということでございますが、その農業基本法が目ざしておりますところのものは、やはり、現在の日本の農業が置かれておりますその背景にあるいろいろな条件の変化というものを正しく把握しているかどうかという点で、政府提案法案社会党の御提出になりました法案とに大きな相違があるのではないかと考えるからでございます。両法案とも目的とするところは同一でございますが、しかし、その手段と方法につきましては根本的に違いがあるというふうに私は理解しております。その違いの最も特徴的なことは、簡単に申し上げますと、はたして、社会党のお考えになっております基本法の内容が、現在の日本の農業を取り巻いておりますところのいろいろな変化に対応する政策であるかどうかという点でございます。それには、まず、現在の農業の現状、そうしてそれを打開する方途につきまして、いささか私の意見を述べさせていただきたいと思います。  皆さんもすでに御承知と思いますが、日本の農業の現状というもの、その考え方におきまして政府提案はきわめて現状認識というものを現実的に考えております。しかしながら、社会党法案を通読いたしますと、やはり、現状と申しますより、過去の日本農業の置かれてきました歴史的な事柄に問題の重点を置き過ぎているのではないかというふうに考えるわけでございます。これまで政府並びに社会党基本法提出されるにあたりまして検討されました当時と今とでは、農業の背景にあるもの、農業を取り巻く条件というものは急速に変化しております。その変化の内容をここで一々申し上げる時間はございませんが、しかし、言えることは、経済が非常な早さで成長の段階にあるということでございます。この経済の成長ということは、農業並びに国民生活全体にとりましてきわめていろいろな問題を生じておるわけでございます。たとえば貿易自由化の問題、さらには所得向上によります食生活の変化等々、きわめて多岐にわたりまして農業を取り巻いておりますところの情勢の変化というものが特徴的に出てきております。従いまして、農業基本法を考えます場合は、やはりこの変化というものをまず第一に念頭に置かなければならない。しかも、この変化を念頭に置きまして基本法の方向づけをしなければならないということでないかと私は考えておる次第でございます。  まず、両法案を比較しまして、私が先ほど申しました社会党案の重大な欠陥ということについて申し上げてみたいと思います。  私が考えますところでは、農業基本法は、もちろんその目標とするところは、農家の収入を高めその生活水準を他の産業並みに近づけるということでございますが、しかしながら、はたして社会党の御提出になりました法案がその目的を達成するための農業近代化促進し得るものかどうかという点をいま一度考えていただきたいと思うのでございます。  その第一は、いわゆる現在の農業生産の構造、つまり、米や麦を中心にいたしました生産の構造並びに現在とられておりますところの価格政策、これはひいては二つの法案に盛られております価格政策の方向とも関連するものでございますが、社会党のお出しになっているいわゆる所得維持的な、もしくは農業保護的な支持価格制度というものが、はたして農業の構造を改善することと両立するかどうかという点でございます。その点におきましては、私は、政府案の一般経済情勢の推移の中で新しい価格の安定制度をとっていきたいという方に賛成するわけでございます。価格問題につきましては、これは日本の農業の体質を改善し、農業構造を変革し得るかどうかというきわめて重要な政策ではないかと思われます。しかしながら、現在とられております農産物に対する価格政策は、どちらかと言いますと、いわゆる農業経営そのものにとられておりますところの価格安定政策ではございません。一言で申しますならば、いわゆる農業で食べていけない農民の生活権を保護するための価格政策ではないかと思います。しかしながら、日本の農業並びに日本の経済が単にアウタルキー的なそういう面だけの問題であって、国際的な環境、国際的な動きの中から離れてひとりでやっていける状態ならば、価格政策としてそういうものを盛り込むことも必要かと思いますが、しかし、現在の情勢から言って、国際的な影響もしくは国際的な交流というものを無視して日本の経済が成り立ち、もしくは日本の経済が成長し得るかということを考えますと、これはやはりこの際根本的に価格政策の変更が必要ではないかというふうに考えるわけでございます。たとえば、現在の米や麦の政策にいたしましても、はたしてこれがいつまで続くものかどうか、また、現在のような政策を今後ともおとりになって、それで農業の体質改善ができるかどうか、そういう点をいま一度よくお考えになっていただきたいと思うのでございます。もちろん、現在の日本農業の現状と申しますものは、きわめて複雑な問題ないしは困難な問題を内包しております。特に、農業人口が多く、農地が狭く、その経営の規模がきわめて小さいという段階では、これはいかに農業生産を上げましても、農家所得向上生活水準を引き上げる上においては限界がございます。従いまして、そういった点にメスを入れて農業基本法というものが考えられましたことはまことにけっこうなのでございますが、しかしながら、その基本法の内容が、現状維持、これまでの農業政策とあまりにも変わらなすぎるような内容であっては、私は日本の農業の発展的な解決にはならないと思うのでございます。  また、今度の両農業基本法案の対立点になっておりますところの経営形態の問題でございますが、これを見ましても、やはり、共同化がはたして現実の問題として進み得るかどうか。確かに、成長産業と言われておりますところの畜産果樹、そういうものにつきましては共同化の芽ばえはすでにできております。また、農業自体の方が先行している面もございますが、日本農業のいわゆる根幹とされておりますところの米の生産形態、生産構造を見ました場合、はたして共同化がうまくいくかどうかという点を、やはり現実的にいま一度考え直さなければならないのではないかと思う次第でございます。たとえば、共同化することによってすべて問題が片づくというふうに農民にある種の幻想を与えるということは、非常に危険なことではないかと思います。たとえば、五反歩の農家が五軒一緒になれば二町五反の経営規模になりますが、しかしながら、その収益を五軒の農家へ分ければ、やはり一戸当たり農家の収入は五反歩の収入しかない。その間、経営規模が多少同一経営によって拡大することによる利益というものはありましょうが、しかしながら、これも根本の解決にはなりません。むしろ、やはり、日本農業の現状から言いましても、いわゆる家族経営を中心にしました自立経営というものをまず第一に推し進めることが肝要ではないかというふうに考えられております。自立経営という言葉を私は申し上げましたが、自立経営というものは私はこう解釈しております。たとえば、今後需要の伸びるものについては生産拡大していく、その反面、需要が減少しつつあるものについては生産を調整する。さらに、貿易自由化に向かいまして国際的に競合を必要とする農作物につきましては、その生産方式を徹底的に合理化する。それが自立経営という言葉の中の意味ではないかと思います。従いまして、共同化する上におきましても、やはり自立経営というものをまず先行させなければならない。  さらに、現状から申し上げまして、共同化ということを社会党の案ではお使いになっておりますが、現在の段階では、共同化というものは、これを直ちに共同経営に結びつけることには問題があるのではないかと思います。むしろ共同作業というふうに共同化を考えた方が段階的には実現性があり、より現実的な方向ではないかというふうに私は考えているわけでございます。たとえて申しますならば、日本の現在の農業というものは、先ほど申し上げましたようないろいろな条件の変化によりまして、きわめて重大な、病気にたとえまするならば重病な患者の状態にあるのではないかと思います。従いまして、これを根本的に病気の治療をするということになりますと、やはり、ここで手術をしなければならない。私は、政府提出農業基本法はある面では不満もございますが、しかし、日本農業の病患というものにメスを加えよう、手術をしようという考え方に基づいているのだと思います。しかしながら、社会党提出されております法案の内容は、この重病患者に単にカンフルを打つ、カンフル注射で余命をささえていくというふうな面が多分に感じられるわけでございます。  繰り返して申しますが、生産と価格というものがやはり農業経営の上におきましてきわめて重要な事柄でございますが、その重要な事柄につきまして、これまでのように所得維持的もしくは現状維持的な価格支持政策をとっていくということは、単に農業の困難な病患に対してカンフルを打つというにすぎません。むしろ、これは、やはりここで徹底的にメスを加えまして、その病根をえぐり出さない限り、たとえ基本法が通りましても、私は、農業というものの現状は一歩も前進しない、極言すればそのように言えるのではないかというふうに考えております。  特に注意を要することは、農業基本法が通れば農業に対して今以上に手厚い保護政策がとられるのじゃないかというようないわゆる幻想を農民に与え過ぎているのではないかという点を憂えるわけでございます。もちろん、今後の発展する農業のにない手は農民でございます。しかしながら、その発展の方向に導くものはやはり国の施策であり農業政策でなくてはならないかと私は思います。しかしながら、現在の農業政策は、言ってみれば、子供に買って与えた洋服がその成長につれてだんだん小さくなっていく、そういうような状態政策自体が立ちおくれておったのでございますから、むしろ、農業の新しい方向というものを農民にもっと実際的にお示しになる必要があるのではないか。また、最近におきます政府提案農業基本法並びに社会党農業基本法の全国的な周知徹底という点におきましては、どちらかというと、そのよって立つ思想的な立場に片寄り過ぎており、その論争点がきわめて枝葉末節に過ぎるという感を私たちは感ずるわけでございます。これでは農業基本法に対する農民または国民全般の理解すら誤らせるというおそれがあるわけでございまして、私は、ここでいま少しく日本農業の現状というものを正しく把握された上で、農業基本法の両法案の内容につきましても皆さん方の御努力を重ねてお願いしたいと思うわけでございます。  まだ問題はいろいろございます。最後にただ一点申し上げたいことは、これまでの農業政策はきわめて保護政策でありました。先ほどもお話がありましたように、現在の状態農業生産を上げるということだけでは農業は救われないということでございますが、これは私も同感でございます。ただ、農業生産増大農家所得に結びつかないという点については、私はいささか異論がございます。と申しますのは、農業生産増大というものは、農業状態を現状のままにおきまして生産増大するということは、確かに農民にとりましてもまた日本の経済にとりましてもきわめて大きな損失でございます。たとえば、現在の麦の状況を見ましても、これは端的に現われておるのではないかと思います。そうした矛盾と申しますか、そういうマイナス面がなぜ出てくるかということは、やはり価格政策にかかっておるからでございます。もちろん、農業生産というものは、やはりその反面においては価格政策を重視しなければなりませんが、しかし、その価格政策が単に価格を支持するということであってはならないわけでございます。また、農業生産というものは、単に生産性を引き上げるのではなく、労働面における生産性増大でなければ所得向上には結びつかないわけでございます。その点において、やはり、政府のお考えになっておる法案最初前提条件としてうたわれております農業人口の減少ということは、今後の農業状態を改善していく上において当然避けられない、もしくはむしろ積極的に行なわなければならない施策ではないかというふうに考えるわけでございます。  さらに、農業生産並びに価格ということがやはり構造を改善する上において一番重要なかぎでありますが、その場合、たとえば全農家のうち自立可能な農家がたとい一割しかないといたしましても、その価格政策はあくまでもその一割の自立可能な農家の経営の中から割り出した農作物価格というものを取り上げなければ、日本の農業というものはいつまでたってもひとり立ちはできません。また、農業近代化も行なえないのではないかというふうに考えます。ただし、その場合、残されました自立不可能な農家のいわゆる生活権というものは、単なる価格政策のような経済政策としてではなく、別途な方策が必要なわけでございます。これを価格政策と混同いたしますと、現在のような矛盾と困難をさらに増大するのみでございます。ですから、私はあえて申し上げますが、農業人口の削減というものは決して貧農切り捨てではございません。むしろ限界生産費の価格まで補償するような価格政策をとること自体が、富農を益し、貧農をいたずらに貧農としてとどめさせる政策ではないかと思います。その点十分お考えになりまして、現在出されております農業基本法の内容につきましてもいま一度御検討願いたい。私はあえて政府案に賛成の意を表するものでございますが、この政府案におきましても、やはり価格の面におきましては多分に後退の様相があるのではないか。特に農業基本法制定する上におきまして、当面問題となっておりますところの現在の食糧管理制度というものに何ら手を加えようとしておらないことにつきましては、私は政府案についても非常に不満を持つ者でございます。現在の食糧管理制度自体も、農業近代化の足を引っぱっている重大な制度ではないかと思われます。  さらに、いま一つは、いわゆる農業に対する資金の問題でございます。農業近代化すると申しましても、現在の土地労働力だけで農業がはたして近代化されるかどうか。やはりこれには資本というものがかかります。ところが、両法案ともに、農業に対する資金という面では考え方がきわめて薄いというふうに感じ取れるわけでございます。ただ、社会党の案では、いわゆる価格政策農業を生かしていこうという考え方が強いわけでございますが、価格政策に要する国の財政支出をもっと別の面から農業の資本拡充という方向に使われた場合、この効果ははたしてどちらが大であるかということは、これはおのずから比較すればわかることではないかと思います。従いまして、私は、いわゆる農民に迎合的な農業基本法、これはむしろ政府案よりも社会党案の方がきわめて迎合的であるということを申し上げたいと思います。  あまり時間もありませんから、この辺で打ち切りたいと思いますが、ただ一つ最初に申し上げましたように、現在農業が置かれております状態というものは、もうきわめて差し迫った問題でございます。政策転換というものは一日も急がなければならない。従いまして、この農業基本法をこの国会で通すということは、やはり国会議員の皆さん方の大きな使命の一つではないか、そのように考える次第でございます。(拍手)
  10. 坂田英一

    坂田委員長 では、ありがとうございました。  三公述人に対する質疑の通告があります。これを許します。  なお、大島公述人は都合により午前中しか御出席になれませんので、大島公述人に対する質疑を先に行なわれるようにお願いいたします。大体十二時ということでお願いします。  なお、この質疑の通告が七名ありまするが、一時まで一つお願いするといたしましても、平均しまして十分ちょっとになりますので、そのおつもりで御質疑お願いいたしたいと思います。  綱島正興君。
  11. 綱島正興

    綱島委員 私は、時間の都合上大島教授が先にお帰りになるといいますから、大島教授にお尋ねいたします。  なるほど、土地のむやみの造成は金はうんとかかって農業近代化に反する面も起こり得るという御意見はごもっともですが、これは程度の問題でございます。三百万町歩も作るというようなことになると、ごもっともだと存じます。ただ、土地は御承知の通り毎年つぶれて参ります。これを補うだけのものはどうしても造成しなくちゃならぬということは御了承願います。  次に、私ども政府提案生産性向上所得の確保という点について、生産性をむやみに向上していくことは、所得がかえって逓減するおそれがあるという、それはそういうことはございますが、この法案においては、第二条第一項の一号に、選択的拡大ということで、需要のふえるものはふやそう、需要が減っていくものはこれを転換をせねばしようがない、外国産と競合するものについてはこれをできるだけ合理化していく、こういうことでございますから、政府提案のうちの所得向上ということは選択的拡大の線に沿うてのことでございます。同一法文でございますから、この増産、向上ということは、選択的拡大前提として、そういう内容を持って書かれておることでございますが、先ほどは何かばらばらなもののように御意見を伺いましたが、御見解を重ねて伺っておきます。
  12. 大島清

    大島公述人 それでは、今二点御質問がありましたから、簡単に申し上げます。  第一点は、土地の造成の問題でございますが、私が申しましたのは、壊廃地の方をふやすというのは当然のことであります。もちろん、生産力がうんと上がりますと、少ない土地でたくさんの生産物がとれますから、それでけっこうなんですが、私が疑問を提出しましたのは、土地造成を積極的にやるということを言わないでおいて、他方自立農家を育成するということになりますと、どうしてもそこに土地移動が起こらなければいけないわけであります。土地の所有権ないし使用権の移動が起こらなければいけない。ところが、土地の価格は御承知のようにどんどん上がっていく現状にある。従って、そういう点をお考えになって自立農家ということを考えなければいけない、そういうことを私は申し上げたのであります。  それから、第二点でありますが、私の言ったことが何か生産性向上ということと所得増大ということをばらばらに言っておるように、そうおとりになったというお話でありますけれども、私は、生産性向上ということは、これは、もちろん、国民経済の立場から見ましても、また農家立場から見ましても、生産性増大をしなければ所得増大は起きない。これはもう当然なことなんですね。これはわかっているのでございますが、ただ、生産性向上をやっておいて、ほかに価格とか所得補償というふうな手当をしないと、農家というのは一般の大メーカーと違いまして、ただ働いて物を売って、自分の労働所得を得ているだけなんでありますから、そういう点で特別の配慮がないといけない。選択的拡大で、牛乳がどんどん売れているから増産すれば所得は上がるかといいますと、なかなかそうはいかないですね。御承知のように、牛乳を作っている酪農家というのは、一日当たりの労働所得にしますとわずか二百円から三百円です。そういうふうに非常に少ない労働所得しかできない。ただ需要が伸びたからそのものをどんどん作れば所得が伸びるというわけにはいかないのであります。そこに私はやはり労働所得補償ということを考えてもらった方がいいんじゃないか、こういうふうに申し上げたわけであります。
  13. 綱島正興

    綱島委員 実は、大体法文は読んでいらっしゃるものと思って質問をしておりますから、私も法文を読んで質問をしておるんですから、何も知らずに別なことを言っておるようなお話はちょっと閉口するのですが、この法文の中には第二条の……(「自分が読んでないんじゃないか」と呼ぶ者あり)よけいなことを言うな。第二条の一項の第四号の中に、流通の合理化、加工及び需要の増進ということをあげております。よろしゅうございますか。さらに、第五号の中に、交易条件の補正と価格の安定、所得の確保ということをあわせて行なうようにしております。との基本法は、御承知の通り、これは基本法でございますから、この基本法の目的としておることを具体的に経済効果をあらしめ社会効果を発生せしめるためには、他の多くの法案が必要でございます。それには具体的なものをみな織り込んでおる。たとえば、農林委員会にかからない小都会造成のようなものも考えておる。各府県に中都市を作る。あなたのお話によると、自営農を作るのにはどうしても土地を統合しなければいかぬというが、必ずしもそういう必要はございません。しいてやる必要はございません。それは、自営農家であるもの、もしくはそれになることのためによい条件を持っておって、たまたまそうなれるようなものは、それはそれをなるべく好ましき形として維持しようということを書いてございますが、さてそれではどうして自営農家を作り上げるかということで、他の土地を取り上げるとか、そういうことは一つもございません。(「どうするのだ」と呼ぶ者あり)よけいなことを言うな。
  14. 坂田英一

    坂田委員長 静粛に願います。——静粛に願います。
  15. 綱島正興

    綱島委員 何もそんなことは書いてない。(「自分の法律を読んでないんじゃないか」と呼ぶ者あり)よけいなことを言うな。法律にはそんなことは少しも書いてない。自営農家を育成するようにと書いてある。   〔「政府案を読んでみろ」と呼び、その他発言する者あり〕
  16. 坂田英一

    坂田委員長 静粛に願います。
  17. 綱島正興

    綱島委員 そういうようなわけでございますから、他のいろいろな施策とあわせてこれを行なうのであります。基本の方針を明らかにしておるだけでございます。自営農家だというて、二町歩農家というものを百万戸作る、こうする方がいいという意見は、なるほど審議会か何かで出たようでございますが、この法案の中にはございません。また、用意しておる法案の中にもございません。それは当然の流れに従って流すだけのものであって、決して早急にこういうことを作ろうというのではございません。たとえば干拓をするというようなものについては基準的にきめて参りましょう。すでに人が所有しておるものをどうして取り上げるなんということをいたしましょう。そういうことでございますから、この点に対しては誤解のないようにしておいていただきたい。どうも、私ども聞いておるというと、ことさらに言われたような気がするんですよ。(発言する者あり)どうもことさらに何か言われたような気がするのです。倍増計画というものは、必ずしもこれとは不可分のものじゃない。  それと、もう一つ申し上げたい。この基本法というものは、わが党が倍増計画を作ったから農業をこうするのだということではございません。それは当然なことで、農業というものは当然ここで一かどの作り方をしなければならぬことになったから、基本法ができている。基本的にはこういうものだという法律を作ったので、倍増計画の付属法ではございませんから、倍増計画に出ておること、もしくは審議会の意見であったというようなことをもってこの法案の骨子を決定づけてのお話は、少し私は受け取りがたいのであります。この法案はこの法案として、私ども審議をして参るのであります。それに対する御意見をちょっと伺っておきます。
  18. 大島清

    大島公述人 いろいろ御説を承りまして、ありがとうございました。その最後の点から最初に申し上げますと、この法案所得倍増計画の付属法案ではないから、お前の言っているのは見当違いではなかろうかというお話でありますが、それは、もちろん、倍増計画とこの基本法案が不可分一体のもの、全く同じものとは思っておりませんけれども、少なくとも責任のある政府所得倍増計画農業近代化委員会で発表して、しかもその解説本まで政府の役人が書いておる。その内容をよく調べまして私の意見を述べたまででありまして、また、その百万戸ふやすという倍増計画を私は批判したのではないのでありまして、耕地の移動ということが行なわれる場合には、どうしてもそこに土地問題というのが起こるから、そのことをよくよく検討した上で審議をなすって下さいというふうに私は申し上げたわけであります。(綱島委員「そんなことはわかっております」と呼ぶ)そんなことはわかっておられれば、ちっとも差しつかえないわけであります。
  19. 坂田英一

    坂田委員長 藤田義光君。
  20. 藤田義光

    ○藤田委員 時間がございませんから、一、二点だけお伺いいたします。  まず第一点、農業問題を論ずるにあたっては、どうしても土地という問題を離れては考えられぬ、全く御同感です。ところが、両党案を比較いたしまして、自民党には新しい開墾、未墾地の開発等の問題に関しましてあまり積極的な配慮がないじゃないかという意味の御発言がありましたが、学問的に検討しまして、第二条の第一項の第二号、土地及び水の有効利用及び開発という表現は、これは新規開墾を予定しておる規定とわれわれははっきり解釈いたしておるわけです。この点に関しまして、比較的な問題はございましょうが、政府案の中にもそういう予定があるということを大島先生御理解願いたい。御意見があればお伺いしたいと思います。  次に、社会党がこの四月三日に出した一番新しい「池田内閣と対決する社会党農業政策」というもの、これは出たばかりで、社会党の一番新しい資料ですから、これと先生の御発言と関連してお伺いしますが、社会党は、大体農業——第一次産業と第二次産業を将来三分の一ずつにするということをはっきり公約しております。そうしますと、農業人口というものが、大体われわれが予定しておる線に落ちつく。数字的には全く同じ結果になるわけです。これを池田内閣がやれば貧農切り捨てであり、社会党がやれば貧農救済になるという結果になっておるということも御理解願いたい。ただ、私は、新規開墾三百万町歩という問題も、方向としては一応理解しますが、この中に予定している財政金融措置を見ますと、三百万ヘクタールの農地造成に対しまして十年間に二兆億円、それから土地改良に対しまして十年間に七割を終わる、そのために一兆億円、合計三兆億円を使うのだ、そのほかに、農林漁業資金として二兆億円、それから、農業協同組合の系統資金から十年間に二兆億円、合計して七兆億円を出すということを言っているのです。そうすると、年間平均にしますと、一年間に七千億円を農業資金の全部じゃない一部に投ずるという計画になっております。今日の国民所得からしまして、こういう痴人の夢みたような財政計画社会党基本法を出されておるということに相当冒険があるのではないか。大島先生の新しい開墾の必要性を私も一応納得はしますが、社会党はそういう財政的な裏づけをしてこの案を用意しておるということを御承知かどうか、この二点をまずお伺いしたい。
  21. 大島清

    大島公述人 第一点は、つまり、政府案の方でも土地造成を積極的にやられるという、そういう意味を含めておるのだというお話でしたね。それならば、そういうふうにはっきりと、実農家の育成のためには、たとえば国有未墾地を百万町歩なら百万町歩開放して、これをそういうふうな土地拡大に充てるとか、あるいはそういう、少なくとも付帯法案にでもそういうものがない限り、ただ抽象的に土地利用の増進だとかそういうふうなことだけでは、とうてい一般の人には、少なくとも私のようにあまり国会の内容に通じない者には十分にくみ取れなかったわけでありまして、そういう点について、私が申し上げたように、そういう意向があるものでしたら、むしろそれを積極的に具体的に書いてもらいたい、こういうふうに申し上げたわけであります。  それから、もう一つの、社会党の最近の。パンフレットのことでありますが、私まだそれを読んでおりません。どうも社会党の方には相済みませんけれども、実は読んでおりませんので、どれだけの財政計画をやっているのかということはわかりませんです。ただ、その場合に、金額の問題をともかくといたしまして、私は、一般論としてはこういうふうに考えておるのです。それは、土地造成の必要があるということは、現在の日本の農家農業の現状からして、これはどうしても必要である。それから、土地造成をするからには、その土地造成に伴うところの費用というものと、それを農家が利用して、そうしてそれによって生産される農産物の価格というものを比べまして、経済的に国土開発ができるように計画を立てるべきだ、こういうふうに考えております。もしも二兆の費用をかけて、それによって三兆、五兆の生産物ができるならば、その計画はけっこうであります。また、それを十年間に二兆、一年間に二千億、あるいはそれをもっと引き延ばしてこれを利用していくのもけっこうでありますが、問題は、その金額ということよりも、私は、これを経済的に土地の開発を行なう、土地造成を行なうことが基本問題であると存じております。
  22. 藤田義光

    ○藤田委員 その第一点は、社会党法案にも具体的に何もうたっていないのです。この基本法に基づく農用地の拡大という表現を抽象的に使っておるのでありまして、三百万ヘクタールという数字的な表現はないわけです。その点は大体同工異曲であるということを御了解願いたい。  第二点に対しましては、現在の自衛隊を平和国土建設隊にして三百万ヘクタールをやる、また、土地改良を十年間に七割やるという計画でございまして、この自衛隊を平和国土建設隊にする問題等を見ましても、なかなか現実的でない。野党の気安さから立案されておるということもやはり御理解願いたい。  それから、最後にお伺いしたいのは、これは大島先生の公述にはございませんでしたが、社会党案の一つの軸心になっている問題は第九条でございます。農地はこれを耕作する者の所有に所属させる、しかし自主的に共同的保有に移行させるように指導するという表現がある。この前段と後段は、矛盾しておるじゃないかということに対しまして、この耕作する者の中には農業生産組合を含んでおるということになりますと、社会党の第九条は、仮面をぬげば、大前提としてほとんど全部を共同化する、共同所有させるという原則です。ところが、社会主義の一番根本の農地集団化というのが世界各国で大失敗しておる。そういうときに、この提案者代表の北山君、こういうりっぱな勉強家が、世界の趨勢に逆行した、非常な失敗したこういう所有形態の法案を出したということに対しまして、先生に何かお考えがあれば、この機会にわれわれの勉強のためにお聞きしておきたい。
  23. 大島清

    大島公述人 それでは、私は実は時間がもうないのでありますから、今の点について簡単に私の考えを言っておきます。  社会党案の中で、土地の個人有とそれから共同保有ということは矛盾せぬかというお話でおりますが、私は、この共同経営とかあるいは集団経営といいましても、これにはいろいろな段階というものがあると思います。非常に初歩的な、田植えを共同にするというふうな共同作業から、あるいは今愛知県で行なわれている共同栽培、これは非常に成功しておりますけれども共同栽培とか、そして、さらに進んでいって、土地を今度はお互いに出し合って、経営までは一緒にしないけれども共同に作業をするという問題もありますし、これは、おそらく、社会党提案した方々でも、一挙に共同所有というふうなところまで持っていくというふうな空想的なことはお考えになっておらないのだと私は想像しておるのであります。そうでないと、実際は現実的には共同経営ということは成功いたしませんから、そういう点で、私は、一口に共同経営といいましても、いろいろな種類と形態と段階があるのでありますから、そういう点は政治家の方で十分に具体案をお練りになった方がいいのではないかというふうに考えておるわけであります。
  24. 坂田英一

    坂田委員長 大野市郎君。
  25. 大野市郎

    ○大野(市)委員 今のお話を承っておりますと、土地の造成をしないのであるとか、あるいは、政府所得倍増計画が発表されたので、これがお話のもとになっておることとか、あるいは、農地増大をやるならその計画法案に示すべきであるとか、あるいは、もう一つ生産性向上所得増加はイコールでないとか、承っておりますと、大へんその辺が弾力性がなくて、もうすでにおきめになってものを論じておられるように私も印象を受けましたのですが、特に問題は、所得倍増計画の閣議決定の問題が委員会でも問題になりましたのですが、これはあの別紙をお読みになっておられましょうか。
  26. 大島清

    大島公述人 私はまだ読んでおりませんですけれども……。
  27. 大野市郎

    ○大野(市)委員 そういう重要な別紙をつけまして、われわれは、所得倍増計画に対しましても、その審議会の答申は答申としましても、われわれ国会農政の行き方に対して独立した権限で進めるのでございますから、あなたの前提になさった、土地の造成をしないとか、所得倍増計画に基づくとか、あるいは生産性向上所得倍増の増加の方程式とかいう問題に対しましては、ぜひ、そういう固定的でなく、一つ弾力性を持って、この基本法を進めたいという農民諸君の熱望を御理解をいただきたいと思います。  お時間がないそうでありますから、これだけ一応伺っておきます。
  28. 大島清

    大島公述人 簡単に私御返事いたしますけれども、私の言ったことが、何か初めから結論を出してそれに縛られて、非常にぎこちなく、身動きのできないような議論をしたように受け取れますけれども、私もこれで学者の端くれですから、やはり、そのためには法案も読みますし、ゆっくり考えてみたわけであります。その考えた結果を、私ははっきりとした形で結論を述べたのが、——それは明確な結論ほどいいのでありまして、その点を私が申し上げたのが、何か意見が違うので、どうもお前の頭は少し初めからきめてかかっておるのではないかというふうにおっしゃるのは、私は少し心外であります。われわれは、いろいろな材料を集めてそれから結論を出す。  それから、内閣決定の何かの文書というふうなことがありましたけれども、私らの方はそれがなかなか手に入らない実情でありまして、そういうものがありましたら、どうぞこれから送っていただければ、いろいろと参考にしてみたいと思っております。
  29. 坂田英一

    坂田委員長 次は、芳賀貢君。
  30. 芳賀貢

    ○芳賀委員 最初大坪公述人にお尋ねしますが、われわれは、大坪さんが農業会議所の事務局長であるという判断が非常に強いので、先ほどの御意見事務局長として述べられた部面も相当あると理解しておるのです。それで、まずお伺いしたい点は、農業会議所はわざわざ全国の会議所の会長会議を開いて、政府案をうのみにして無条件で政府案を即時成立さすべきであるという決議なるものが行なわれたのですが、これはちょっと軽率に失するのじゃないかというふうに率直に考えておるわけです。もちろん、会議所は政府から補助金をもらって補助金だけで暮らしておるのですから、時の政府からかてをもらえば忠実に協力しなければならぬと思うことは情義的にはわかるが、しかし、このような農業の憲法とも言うべき重大な法案が、しかも政府並びに社会党から相当質問にも内容の違ったものが出ておる。しかし、決して全国の農民政府案だけを百パーセント支持しておるということではないのであります。従って、農業会議所の下部の構成も両論にわかれるということはやはり常識的な判断であります。従って、この際無条件で御用機関的に何が何でもこの国会で通してもらいたいという根拠はどこにあるのか、その点をまずお伺いしたい。
  31. 大坪藤市

    大坪公述人 ただいま、全国農業会議所はなぜ会長会議において政府案を基本として慎重審議の上農業基本法を今国会において成立させてほしいという決議をしたか、こういう御意見のようでございまするが、先ほど申し上げましたように、全国農業会議所といたしましては、今日まで四年間にわたりまして農業基本法制定促進運動を展開して参ったのでございます。その結果、われわれの要望しておりまする事項につきましては多くの事柄について政府案において取り上げた。しかも、今日の農業の情勢に照らし合わせまして、農業の基本的な目標を一刻も早く確立してもらいたいという念願から、そういうような趣旨でわれわれの要望も相当取り入れておるのでございますので、この際ぜひこの国会において成立さしてほしいという決議を実はいたしたのでございます。これは何も農業会議所が政府から補助金をもらっておるから御用であるというようなことでは毛頭ないのでございます。これは、全国農民の——もちろん、たくさんの農民がおりますから、その中には多少意見の違った方もおられるということは当然でございますが、多くの農民が一致して農業基本法制定というものを要望しておると私は確信をいたしておるのであります。そういう意味合いから、本国会において成立さしてほしいという念願のあまり、決議をいたしたような次第であります。
  32. 芳賀貢

    ○芳賀委員 農業会議所はとにかく三十七年度以降の予算を取るために基本法が必要であるという非常に割り切った考え方に立っておるわけです。それで、先ほどもそういうふうに述べられましたが、それでは、たとえば三十七年度の国の予算編成の場合、われわれは政府案がそのまま通るとは思っておらぬが、かりに基本法が両案いずれかで通った場合、会議所はこれをただ予算獲得の道具に使うと割り切っておられるわけです。そういうはっきりした態度であれば、一体、国の総予算の中で農業予算というものは大まかに言って総体の何十%ぐらいを占めるのか、この基本法ができた期待効果があるかということは大体見当をつけておると思うのです。今年度の場合にはわずか全体の九%弱ですが、この程度では何もならぬわけです。われわれ社会党としては、大まかに言えば、国の総予算の大体二〇%程度農業発展のための施策に向けるべきである、これがわれわれの一つの目標であります。  もう一つ、これにあわせて申し上げたいことは、これは田中公述人にもお伺いしたいが、価格政策以外にむしろこの財政投融資的な金融政策的な面において配慮が欠けておると言いましたが、それでは、収益性の非常に低い農業に対して特に制度金融を通じて国が金融的な施策をやる場合には、当然利子が安くなければならぬ。収益性が少ないから返済については長期のものでなければならぬ。これはいわゆる長期低利というものが原則にならなければ農業金融というものは期待した効果をあげることができぬことはおわかりの通りであります。われわれは、少なくとも長期低利金融というものは、金利についてはその中心を三分五厘程度に置く、その中で最も高い場合でも五分以上であってはならぬ、中心は三分五厘に置くということを基準として、長期資金の場合には一番短かい年限であっても三十年以上でなければならぬ、こういうような基本的な金融に対する態度をきめておるわけです。しかも、今日、御承知の通り、たとえば郵便貯金にしても簡易保険にしても、あるいはことしから実施に入っておる国民年金等についても、これらの国の資金の蓄積というものは、その大半が、零細ではありますけれども地方の農村から吸収されたその内容を持っておることは当然であります。それが今日国の財政投融資計画の中において全体の一割程度しか農林金融に配分されておらない。ここに大きな矛盾と欠陥というものが金融構造政策の中にも現われておるわけであります。従って、われわれとしては、この農民が国の制度の中に蓄積した資金については、今後の農業政策を強力に進めるために、農業発展のために、これは当然農村に還流さすべきであるという原則をきめておるわけです。従いまして、この際、国家総予算の中で農林関係の予算というものは、これは大まかな話になりますが、大体目標としてはどのくらいのパーセントを占むべきであるかという点と、それから、農業関係の制度的な金融については、長期低利資金は利子が大体どのくらいで、年限がどのくらいであるべきかということ、農民が蓄積した資金についてはこれを原則的に農業発展のため還流すべきであるという基本的な考えに対しては両参考人はどういうお考えでありますか。
  33. 坂田英一

    坂田委員長 ちょっと申し上げますが、時間の都合がございますので、質問もお答えも両方とも簡潔にお願いいたします。
  34. 大坪藤市

    大坪公述人 ただいま芳賀先生から、農業会議所は何か予算を取るために農業基本法制定を望むものだというふうな御趣旨の御意見があったのでございますが、われわれはもちろん予算を取るためにのみ農業基本法の成立を期待するのじゃ毛頭ございません。御承知のように、農業基本法精神としておりますものは、現下の困難なる農業情勢に対処いたしまして、国の農業政策の基本を確立するということでございます。その基本に基づいて、具体的施策としてもろもろの農業政策実行上の法律制定したい、あるいはこれに必要なる予算を計上したい、実はこういうようなことでございまして、われわれは、各般の農業政策を総合的・全般的に実行して参るための基本としての農業基本法制定してほしい、こういうようなことでございます。  なお、今の農業経営の近代化資金の御意見につきましては、私どもといたしましても、農村におきまするいわゆる系統資金の末端までの逆流と申しますか、還元ということにつきましては、今後各先生方の非常な御努力によりましてそういうことができまするように御期待を申し上げたいと思うのでございます。  なお、農林予算が国の予算の中に占める割合についてどう考えるかということでございますが、これは、農業政策というものが国の全般の政策の上において重要度を占めるに従いまして、この予算というものはおのずから漸次増額をされて参ると思うのでございます。私が申し上げるまでもございませんが、ドイツにおきまして農業基本法昭和三十年に制定されまして以来、今日におきましてはすでに倍額の予算になったということを聞き及んでおるのでございますが、農業政策が重点化して参りますれば参りますほど、これに必要な資金は当然増額に相なるものだろうと私は考えておるのでございます。  なお、金利の点につきましては、農業の特質から考えまして、できるだけ長期でかつ低利の資金でなければならないということは、私どもが申し上げるまでもないことでございます。
  35. 田中宏

    田中公述人 国の予算農業予算との関係でございますが、これは、農業の国民経済の中における比率、並びに今後農業を国民経済の中でどう位置づけしていくかということにおいてきまるものと私は思います。  さらに、ただいまの農業資金農業融資の問題でございますが、私が先ほど申し上げましたことは、経営の貧困な、零細な規模の農家の経営を助成するという意味では、いわゆる価格政策でその価格を支持することよりも、やはり、経営を合理化し生産増大する意味での融資と申しますか、そういう経営を助成していくための融資方式をより多くとった方が好ましいということでございます。そして、その場合、農業融資につきましては、やはり、私も、長期であり、特に利子は低利であること。また、現在とられておりますような、たとえば麦を例に引きましても、価格を支持することにおきまして、いわゆる需要のない生産を刺激するような価格政策は一日も早く改める。それに要する国家の財政資金というものは、農業の基本を拡充する、経営を合理化するという意味でお使いになった方が得策ではないかということでございます。
  36. 芳賀貢

    ○芳賀委員 時間の関係で、お伺いしたい点だけを数点述べますから、両公述人に共通の問題については御両人からお答え願いたいと思います。  先ほど、田中公述人から、特に明らかに、社会党案は日本の経済構造の背景的なものを忘れておるというお話がありましたが、この点は非常に大事であります。それで、問題は、むしろ、一体基本法の中における農業の国民経済的位置づけというものは政府案なり社会党案の中でどのように行なわれておるかということを十分読んでいただかないと、この発言は出てこないわけです。自民党案によると、明らかには述べておりませんが、その前文の規定等によりますと、農業というものは国民経済的に見た場合には国民経済に従属すべきものであるというような判断が行なわれておるわけです。これが田中公述人の背景が違うと言われた御意見に通ずる点であります。もちろん、われわれは、この国民経済の中で農業の持つ後進性、こういうものは十分認めておる点でありますが、農業が国民経済の中の基礎的な産業であるということは、われわれは強く主張したい点であります。この主張点が違うことによって、従属であるか基礎産業であるかという点において、その全体の構成の中における、また背景との関係における相違点が現われてくるわけであります。ここに政府案があくまでも農業を従属的な立場に置いて、他産業に負担のかからない、迷惑をかけないような農業に仕立てるというところに、いわゆる農民六割首切り、−最近総理は切り捨てとか切り上げとか言っておりますが、とにかく、自立農業に適しない農家というものを削減する、切り捨てるということは、これは間違いのない点であります。ですから、こういう思想的な根拠の上に立って基本法を作るということになると、やはり両案の相違点が明らかになっているので、この国民経済的位置づけについて、田中公述人並びに大坪公述人はどのような判断をとられているかという点が第一の点であります。  第二の点は、先ほど田中公述人は、この際農業に対する保護政策というものを全面的に捨てなければ、農業が資本主義経済の中におけるいわゆる企業として、利潤のあがる企業農業として成り立つことはできないと、まことに端的な、自民党としてはわが意を得たような御意見がありましたが、そういうことにするならば、何も基本法の必要はないのです。むしろ農業廃止法とか貧農切り捨て法でも出した方が意に沿うわけであります。一体、基本法のねらい、あるいは所得倍増計画のねらいが、農民と他産業に従事する人たちとの所得均衡生活水準均衡をはかるということが目的であるとするならば、少なくとも、現在対象になる農民所得農業の経営を通じて向上し、生活水準が高まるということが、やはり具体的な施策でなければならぬと考えるわけであります。われわれとしては、農業の経営を通じて、農民が他産業に従事する人たちと所得の面においても生活水準においても同一水準にこれを向上させるというところに法律のねらいを置いているわけですが、一体、所得向上をはかる場合にいろいろ方法はありますが、価格政策を全然取り除いて所得向上をはかるということは具体的にはできないと思う。生産力の増強の問題であるとか、あるいは価格政策の問題であるとか、消流対策の問題であるとか、いろいろその任務はありますが、少なくとも、その価格政策の面については、これは重要な要素であるというふうにわれわれは考えているわけです。しかも、価格政策を通じてわれわれの企図するものは、農民の自家労働に対しては経営の利潤までもこれを計算することはできないが、しかし、この自家労働の賃金報酬なるものは、農業と同一の熟練と強度のもとに働いている他産業の従事者との間において共通の所得算定方式によって農家所得が確保されるような道を開くというところに、いわゆる社会党基本法にうたっている生産費・所得補償方式の基本があるわけです。従って、自家労働と他産業労働報酬との均衡というものは、やはり同一労働・同一賃金のこの原則を採用する以外にいい方法はないとわれわれは考えているわけであって、こういう明確な価格支持の原則を基本法にうたってこそ基本法の価値があるのでありますが、政府案のように、単に生産事情、需給事情あるいは物価並びに経済事情を勘案してきめるというような、こういう主体性のない価格政策というものは、今日よりむしろ後退するということが指摘できると思いますが、このような価格政策に対する両公述人の御意見、しかも、保護政策は要らない、価格政策も強力に行なうべきでないという田中公述人に対する大坪公述人の御意見をもあわせてお伺いしたいのであります。  最後に、もう一つ大事な点はこういう点であります。
  37. 坂田英一

    坂田委員長 芳賀委員に申しますが、簡潔に願います。
  38. 芳賀貢

    ○芳賀委員 もう一点申し上げたい点は、これは非常に日本の農業発展の上に大事な点であります。自民党の案によりますと、農業生産選択的拡大ということがうたわれておりますが、この点は、特に自民党の場合には農産物の輸入自由化というものを前提にしておることは御存じの通りであります。ですから、国際的には農産物が自由化の形で入ってくると、国内的には米麦の生産を抑圧するという政策をとるわけです。ですから、国の内部と外部からの農業事情という中において、非常にきびしい圧迫の中で農業選択的拡大というものをどういう形で行なうかということは、非常に実現性のない問題であります。袋小路に追い詰めるような選択的拡大というものは、むしろ縮小政策と言っても差しつかえないわけであります。
  39. 坂田英一

    坂田委員長 芳賀委員に申し上げます。時間の都合上簡潔に願います。
  40. 芳賀貢

    ○芳賀委員 その点に対する御意見と、もう一つは、社会党の方は、農業生産拡大の方向は、一つ農業地の積極的な拡大と、もう一つは、国民大衆の消費構造の改善によって消費拡大を増進して、それにこたえ得る自給度向上、需要にこたえるために農業生産拡大方向をそこに向けるという、この二つの積極的な政策を講ずることによって初めて長期的な日本農業の発展と農民所得向上をはかることができるという確信の上に立っておるわけでありますが、この農業発展の方向に対するこのような具体的な確実性のある政策に対しまして、どのようなお考えを持っておられるか、この点に対する御意見を聞きたいのであります。  委員長の御注意がありましたから、もう一言だけ申し上げますが、共同か自立か、これは大事な点ですよ。自民党案によりますと、農業経営の発展の段階というものを、自立農業といいまして、家族農業経営が最終の到達点であって、これに到達できないものについては協業の道を与える、こういう順序でありますが、この行き詰まった自作農主義を今後発展させるためには、自作農であるいわゆる家族農業経営がさらに歴史的に発展する段階というものは、科学的に見ても学説的に見ても、やはりその高度の発展というものは当然家族農業経営よりも共同化方式に必然的に移行発展するということは否定することのできない点であると思います。この点に対する御意見を伺いたいわけでございます。
  41. 田中宏

    田中公述人 簡単にお答えいたします。  質問が四つあったと思いますが、最初の国民経済の中で農業をどういう位置づけで考えておられるかという御質問でありますが、社会党の案が、私は、歴史的な過程から出発して、今度の基本法案を考えているその思想がそういう点に流れておるという点を申し上げたわけでございまして、事実、社会党案の前文を拝見いたしましても、現在の農業を取り巻いておりますところの諸情勢の変化というものの指摘に欠けているのではないか。もちろん、農業というものは、国の経済の中で、特に日本の経済の中で非常に大きなウエートは占めております。が、しかし、戦前と戦後、さらに最近におきますところの一般経済情勢の中では、やはり農業部門というものは国民経済の中で漸次縮小されつつある、また、国全体の経済、国民経済をさらに高度に発展させる上においてはできるだけ縮小の過程において考えなければならないのではないかという現実的な傾向を私は申し上げたわけでございます。  さらに、第二点の価格政策所得でございますが、私は、農業価格政策を全部取り去れと言っておるのではございません。今のような支持価格制度は間違っておるということを申し上げておるのであります。と申しますのは、やはり、農業の中にも、最近のようにいわゆる商品生産が進行する過程におきましては、価格政策というものはきわめて重要でございます。特に、農業生産の構造を改善いたしまして、これまでのような八百屋さん的な農業経営から、むしろもっと単一的な農業経営というものに進んで参りますと、価格というものはこれまで以上に重要な影響を農業経営に及ぼすのではないかということは言えるわけでございます。しかし、その場合、社会党のお考えになっておりますようないわゆる限界生産所得補償方式的な価格政策をとるということは、やはり農業全体の方向を誤らしめる、さらには国民経済全体にとっても重大な影響を及ぼすということを申し上げておるのでございまして、むしろ、私は、価格政策は時々の経済変動に対応するいわゆる安定的な価格政策、いわゆる価格安定制度と申しますか、そういった方向に価格政策の方向を切りかえて、単なる支持価格制度はおやめになった方がよろしいということを申し上げたわけでございます。  さらに、自立農家共同化の問題でございますが、先ほども申し上げましたように、政府案でもやはり協業という言葉を使いまして、いわゆる共同化の方向を出しておりますが、しかし、社会党案では、共同化すれば農家経営の現在の困難な状態がそれで解決するというふうな誤解を農民に与え過ぎておるのではないかということを申し上げたわけでございまして、事実、畑作経営その他果樹畜産におきましては、比較的農業自体の方が政策よりも共同化の方向としては一歩進んでやつております。しかし、現在の水田農業というものを見ました場合、共同化は日本におきましてもこれまでの過程で失敗している例が非常に多い。これは、やはり、共同化するにおいては、共同化の技術というものが先行して確立しなければ、共同化もしくは共同経営というものは非常に困難である。ですから、現実的に、段階として、今の段階では、共同化というものはいわゆる共同経営に直接結びつけないで、これを共同作業という点で考えた方がいいのではないかというふうに私は申し上げたわけでございます。
  42. 坂田英一

    坂田委員長 大坪公述人、簡潔に願います。
  43. 大坪藤市

    大坪公述人 第一点の、農業が国民経済に従属しているような、内閣提案法律案はそういうような考え方ではないかという御意見のようでございますが、私はそういうふうには少しも考えていないのでございます。と申し上げますのは、農業わが国における産業の重要な構成要素の一つであるからこそ、農業を発展させまして、農業所得というものを他産業所得均衡させ、同時に生活水準というものを他産業均衡させる、そのために、政府として、農業についての自然的・経済的・社会的な不利な条件を政府が責任を持ってこれを除去して参る、こういう立場をとっておりますのは、農業わが国の国民経済の重要な一環としてきわめて大切であり、今後も大切であるからという基本的な観念に立っておる、私はかように考えるのでございます。  次に、価格政策の問題でございますが、私は、わが国農業のきわめて非能率的な生産性、また零細性というようなもの、また農産物がそれ自体の中に持っておりますいわゆる自然的な経済的な不利な条件、こういうようなものを考え合わせました場合には、何としても価格政策は強力に実行してもらわなければならない、かように考えておるのでございます。もちろん、これは、農業生産性向上あるいは需給というものもにらみ合わせなければなりませんが、いずれにいたしましても、価格政策を放置するというようなことは、これは所得均衡なり生活水準均衡を最大の目標としております農業基本法精神から見ましても考えられないことでありまして、価格政策の弾力的な強力な実施こそは、農業基本政策として最も重要な政策の一環であると考えておるのでございます。
  44. 坂田英一

    坂田委員長 簡潔にお願いいたします。
  45. 大坪藤市

    大坪公述人 次に、貿易の問題でございまするが、これは、少なくとも外国の農産物に十分耐え得るような、日本の農業生産性がそういう段階に到達をいたしますまでは、いわゆる貿易の自由化を軽々に農産物についてやってもらいたくない、かように考えておるのでございます。  なお、共同化の問題につきましては、自民党の政府案におきましても、いわゆる自立経営農家の法人化なり共同化なりというものを決して押えるということではない。自立経営をさらに発展する経済政策自立経営そのものを共同化することについて政府が助長して参るという方針をとっておる、私はかように考えておるわけでございます。
  46. 坂田英一

    坂田委員長 石田宥全君。
  47. 石田宥全

    ○石田(宥)委員 時間の関係から、きわめて簡潔に伺いたいと思います。  大坪公述人にお伺いいたしますが、政府提案基本法によりますと、いわゆる選択的拡大という表現が用いられておりますが、これは七百万トンに及ぶ外国農産物の輸入を前提としておることは言うまでもございませんし、また、閣議決定の所得倍増計画の四十一ページには、為替の自由化という表現を使っておりますけれども、貿易の自由化を意味していることはこれは間違いないのであります。そういう観点に立ちますと、膨大な外国の農産物の輸入を前提とする。その場合、外国の農産物価格というものはおよそ二割ないし三割五分程度、ものによっては国内価格の半分くらいの値段の農産物もある。それを前提とし、さらに貿易自由化を前提とするということになると、この点だけでも、政府提案基本法考え方というものは、今田中公述人がはっきりおっしゃったのでありますが、農業の保護政策をだんだんやめていって、結局日本農業を規制する、こういう法案であると私どもは理解をしておるわけであります。また、価格の点も、あるいは農業用資材等の点にことごとく制約されるわけでありますが、そういうふうなわが国農業を規制するような基本法であっても、この法案の早期成立を希望されるのであるかどうか、これをまず一つ伺いたい。
  48. 大坪藤市

    大坪公述人 ただいま農産物選択的拡大関連して質問があったわけでございますが、これは具体的に申し上げますれば麦の問題について申し上げるのが一番手っ取り早いのじゃないかと思うのでございます。  麦の問題といたしましては、いわゆる小麦と大・はだか麦の問題がもるのでございますが、小麦はなお外国から輸入をいたさなければならぬ。従って、これの生産を縮小するということは、いわゆる選択的拡大ということにならない。大いに小麦の品種を改良し、その生産性向上いたしましてその増産をはかるべきである。しかしながら、大・はだか麦につきましては、すでに外国から輸入を全部禁止いたしまして、その上でなおかつ国内のものだけで、今日の段階においては消費構造が大幅に変更して参りましたので、消費がない。国内において消費のないものにつきましては、これが輸出がききますれば別問題でございますが、ほとんど消費のない段階になっておるものにつきましては、いわゆる国民経済全般の立場からいたしましても、農家それ自身の所得向上からいたしましても、より生産性の高い、また需要の伸びる畜産なり果樹なりあるいはてん菜糖なり、そういう方面転換するということが骨子であろうと思うのでございます。つまり、そういうような趣旨から選択的拡大をはかるについて、総生産量増大をはかるということが内閣提出農業基本法案精神ではないかと思うのであります。  なお、自由化の問題につきましては、先ほど申しましたが、現在の段階におきましては、いわゆる為替管理法の運用によりまして農産物の輸入を制限しておりますが、万一これがなくなりましても、農業基本法によりまして、輸入を制限し、あるいは関税を引き上げる等の措置ができるように、そういう規定を捜入していただいておるのでございます。貿易の自由化につきましては、わが国農業の進展の度合いとあわせまして慎重にやっていただきたい、かように考えるのでございます。
  49. 石田宥全

    ○石田(宥)委員 これは理解の仕方もありますけれども、総理以下農林大臣等の答弁から受けておるわれわれの理解の仕方は、日本農業に対する規制法である。この点は田中公述人はずばりと言っておられます。保護政策をやめて、農業人口の削減をはっきり出しておる、こう言っておられる。総理大臣もそれと同じことを言っておるのです。農業人口を削減しなければ農民所得向上しないと言っている。それから、農業の保護政策をどんどん後退させておるのはどういうことかというと、かわいい子供には旅をさせるのだと言っておる。田中公述人の陳述と一致しておるのです。だから、われわれはこれを規制法だと言っておるのです。そういう規制法であっても、これを早期に成立させなければならないというお考えであるのかどうかということをお尋ねしておるのです。これは時間の関係がありますからあとでお聞きいたします。  次に、田中公述人農産物の価格の問題についてお尋ねするわけですが、生産費及び所得補償方式というこの支持価格制度は行き過ぎではないかという御意見のように伺ったわけです。いろいろ議論があると思うのでありますが、特に、田中公述人は、二・五ヘクタール程度自立経営農家の規模における標準価格を定めるべきだと言っておられる。現在行なっておる生産費及び所得補償方式は、御承知のように、生産費はオール生産費を見ておる。所得農民の自家労賃を適正に評価しておるのです。これは規模によっていないのです。現在行なっておる生産費及び所得補償方式でこのまま参りますと、農業経営が機械化し、近代化し、合理化していきますと、実は生産費はどんどん下がっていくのです。おわかりでしょう。そうすると、今までのような算定方式を維持存続いたしましても、農民所得が総体的に大幅に減っていくことになるのです。これは、たとえば勤労階級は一年間に二百八十日ほど労働するけれども農民の一年間の勤労日数は百八十日程度しかやっておらない。そういう面において都市の労働賃金とバランスした賃金で計算して参りましても、そこに非常に農業の弱さがあるのです。ですから、その政策だけを続けていくとすれば、農業というものは立ち行かない状態になるのです。それでもなおもっと立ち行かないようにしなければならないという御意見のように実は伺うのでありますが、その点はどのようにお考えになっておりますか。
  50. 田中宏

    田中公述人 最初の御質問と次の御質問は関連を持っておりますので、一緒にお答えしたいと思います。  私は、農業を規制するというふうには申し上げていないわけであります。農業近代化するための、やはり国民経済の中での農業の位置づけというものを考えてほしいという点を申し上げたのであります。それに関連しまして現在の価格政策の点について触れたわけでございます。  私が価格政策で申し上げますことは、くどくなりますが、現在の農業所得というもの並びに価格というものは、やはり、生産状態との関連において考えなければならないのではないか。たとえば、自立経営がどの程度の規模の農家であるかということは、現在でも、一町歩農家でもペイしているところもありますし、二町歩以上の農家でも赤字を出しているところもございます。従いまして、その価格をどこできめるか。私は、少し極端に申し上げましたが、いわゆる限界生産地の農家経営の生産費方式で価格を割り出すということは、少なくともこの際改めなければならない。それで、その経営規模がいかなる程度の規模になるのが好ましいかということは、いろいろ異論もございますが、いわゆる自立経営の可能な農家生産費というものを基準にいたしました価格が農作物の価格そのものに、たとえば安定的な価格安定制度をしくにいたしましても、いわゆる自立可能な農家生産費を基準にして価格水準というものが考えられなければならないというふうに考えているわけでございます。農業の保護政策、もちろん、現在では、日本の農家経営の中では農業だけでは食べていけない農家がたくさんございます。最近の傾向としては兼業化もどんどん進んでおりますが、しかし、価格政策をその限界生産地的な、どうしても生産費のペイしないところに価格水準を置くのでなしに、かりにそういう農家の保護ということになりますと、これはその経営を保護することではなくて、農民の生活権を保護することでございますから、価格政策でなく別途の政策が必要ではないかというわけでございます。たとえば社会保障的な政策も、そうした貧困な零細な、そういう価格政策の面では救い上げられない面の農家に対しては、そういった別途の政策で人権的な救済をするというようにはっきりと分けていただきたい。保護政策そのものが悪いとは私は申しません。保護政策価格政策の中で全部取り上げるということについての意見を申し上げたわけでございます。
  51. 石田宥全

    ○石田(宥)委員 大坪公述人に、先ほど答弁を保留してありますので、もう一つの点を具体的な例をあげて申し上げたいと思います。  政府基本法の中では、農産物価格を安定すると言っているけれども、どこへ安定してどういうふうにというのでなく、算定方式も何もなくて、ただ安定する、こう言っている。その前段に、生産事情需給事情と言っている。需給均衡価格を意味するものがあそこに相当入っているわけです。ところが、私がさっき指摘したように、外国との貿易の関係から見た場合に、たとえば乳製品がことしの夏場は相当逼迫するだろう、品不足を告げるだろう、暴騰するおそれがある、そこで政府は千五百トンほどの乳製品の輸入の手はずをしているわけです。そういうことになりますと、一体需給均衡価格と言っておりながら、国内の事情ならば当然暴騰しなければならないのだけれども、暴騰するおそれがあるからといって前もってぽんと輸入をされておいて値段を抑制する。こういう措置がとられていくということになると、一体政府の需給均衡価格を意味する基本法ではわれわれやはり納得がいかないのです。そこで、その見解はございましょうけれども、私どもは、少なくとも、現在よりも悪くなる面はあるけれども、よくなる基本法ではないと、こう判断せざるを得ないのです。そういう疑問点もたくさんお持ちでありながらなお早期に成立を希望されるかどうか、これを簡潔に一つ伺いたい。
  52. 大坪藤市

    大坪公述人 石田先生の御質問でございますけれども、いろいろの事情を十分御存じの上の御質問でございますから、簡単にお答え申し上げたいと思うのでございます。  まだ第一に、農業生産の縮小再生産になりはしないかというような話でございまするが、内閣提案農業基本法におきましても、生産性向上、——もちろん農業人口それ自体は今後減少をして参りましょうが、一人当たりの、また時間当たりの生産性というものをできるだけ引き上げる、そのことによって総生産増大していこうというのが農業基本法の趣旨でありまして、決して縮小再生産というものを所期しているものではないということは、もう御存じの通りと思うのでございます。  次に、価格の問題についてでございまするが、なるほど、外国農産物と競合関係にあるものにつきまして需給均衡を大きな要素として取り上げるということにつきましては、今先生のお話しの通りのような現象が起きて参るおそれがあるわけでございます。ところが、基本法におきましては、いわゆる農業所得の確保を目的といたしまして、価格については自然的な経済的な条件というものを補正するという根本思想のもとに、価格の総合的な安定政策をとるという精神がもとに立っておるものでありますから、外国の農産物の輸入の問題について、これは国内の需給上十分に具体的政策の場合に一つ慎重にやってもらわなければならないと、かように私は考えておるのでございます。一にかかって具体的政策の実行にあるかと思うのでございます。
  53. 石田宥全

    ○石田(宥)委員 それでもなおかつ早期成立を希望されるかどうか。
  54. 大坪藤市

    大坪公述人 従いまして、今申し上げましたような趣旨でございまするから、今国会においてぜひとも本法案が成立するように御努力下さるようにお願い申し上げる次第であります。
  55. 坂田英一

  56. 角屋堅次郎

    ○角屋委員 自民党の方から推薦をされました大坪公述人と、もう一人、田中公述人でしたかの御意見を聞いておりますと、同じ自民党の推薦でございまするけれども、いろいろな面で対照的な点が出ておるかと思うのであります。たとえば、価格政策の面、あるいはまた、農業政策基本に関する面、あるいは食管制度等の面、いろいろな面で、基盤がだいぶ違った見解が述べられておるというように私は受け取っておるわけであります。そこで、数点についてお伺いをいたしたいと思うのですが、これは食管制度の問題であります。過般池田総理に緊急の出席を求めて、私の方から、所得倍増計画の中にある、米の直接統制を廃止をして間接統制に切りかえる、こういうふうに所得倍増計画の価格決定の中で明文として書かれておる問題を取り上げて池田総理に追及したことがございます。この際特に田中公述人にお伺いしたいのですが、食管制度の問題については、早晩これは廃止すべきものである、こういうふうにお考えであるのか、あるいはまた、米の今日の直接統制の問題については、所得倍増計画の中で明らかになっておるように、これを廃止して間接統制にすみやかな機会に切りかえるべきものである、こういう見解をお持ちであるか、この点を一つ明らかにしてもらいたいと思います。
  57. 田中宏

    田中公述人 私は個人としての意見を申し上げておるのでございますので、その点どうぞお含みおき願いたいと思います。  食管制度について先ほど触れましたが、現在農業基本法をなぜ制定しなければならないかという点にこれはかかってきているものと思います。と申しますのは、現在までとられてきました農業政策のいわゆる柱と申しますか、支えと申しますのは、食糧管理制度と、さらに、戦後の農地改革に基づきますところの農地法による自作農維持主義と申しますか、この二つが、現在の日本の農業政策の大きな柱ではないかと思います。この柱、この政策があながち間違っているとは申しませんが、時間の経過と、並びに農業を取り巻きますところの国内外の諸情勢の変化ということを考えました場合には、やはり何らかの改善是正を行なわなければならない。このままの、かつてのままの政策、制度をそのままおとりになるということは、やはり、新しい情勢に対応したところの新しい農業政策を打ち出す上においての大きな障害になるのではないかというふうに考えているわけでございます。特に農地法につきましては、今度の基本法との関連法案におきましてもこれの改正が出ますが、しかし、食管法については、私の知り得る限りでは、何らこれに対する改善の方策は示されておりません。その点私はいささか遺憾に感ずるわけでございます。  私の意見を申しますと、なぜ食管制度が悪いのか、と言うとまたこれは極端なことになりますが、食管制度が悪いというのではなくて、現在の農業基本法が目的とするところの農業生産構造を改めていく上において、現在食管法に基づいてとられておりますところの価格政策その他のやり方が、いわゆる農業生産構造を改善する上の障害になっているというふうに考えているために、これの改廃なり是正を私は希望しているわけでございます。特に、これは、米麦を例にいたしまして、麦の場合にはっきり現われておりますが、さらに、米につきましても、やがては麦に近い状態が私は現出すると思うのでございます。もちろん食糧の需給の将来の見方というものはいろいろございますが、しかし、われわれ年代以上の食生活、さらに新しい時代の人たちの食生活というものは、内容においてずいぶん変わってきております。今後の国民の増加から言いましても、やはり、現在米についてとられておりますいわゆる食管制度というものは、私は、直接米の過剰生産につながるだろうと思います。その意味において、食管制度は何らかの形で早晩改善してほしい。さらに、構造改善との関連においては、食管制度にとられております国の財政資金なり政策の重点を、今後成長すべき農作物の方に移してほしい。そういう意味で食管制度の改廃について希望を申し上げたわけでございます。
  58. 角屋堅次郎

    ○角屋委員 構造改善の政策関連しての問題でありますが、先ほど大島公述人から意見の出ておった問題でありますけれども自立農家をこれから十年間に百万戸程度を作ろうという、そういう場合の農地の問題がどうか、あるいは農地造成との関連がどうかという問題が提起されておったわけでありますが、今度の政府農業基本法の構想からいくならば、当然経済の高度成長ということに依存をしながら、いわゆる農業から他産業への人口移動というものに大きな期待を寄せつつ自立農家の達成をやろうというわけですけれども、最近のアメリカのドル防衛の問題や今後の国際経済の推移、あるいは日本経済のこれからの成長の度合い、こういうようなものを十分にらまないと、今言った自立経営の問題にいたしましても、これが所期する方向へいくかどうか。ことに、農地移動そのものについては、耕地を手放すということについての農家の潜在的な今までの根強い諸問題等も十分考えていかなければならぬわけですが、これらの自立農家の達成の場合について、いわゆる農地造成との関連も含めてどういうふうに考えておられるかという点を、特に田中公述人からお伺いいたしたい。
  59. 田中宏

    田中公述人 農地造成の点でございますが、現在農基法がねらっておりますところの構造政策が進めば、現在の農業の耕地というものは、現在よりそれほど拡大する必要はないと思います。それは、現在の日本の農業生産力を現在程度前提にしてお考えになった場合に、単に所得を経営規模の拡大によって増大するという面から農地増大というお考えが出てきたのではないかと思います。また、農業基本法の目的が単に所得増大させるというふうに最終目的に飛躍し過ぎたお考えをおとりになっているので、端的に経営面積の拡大農地増大というものが結びついて出てきているのではないかと思います。しかしながら、基本法の目的とするところは、もちろん、所得増大均衡、他産業所得均衡させるということが最大の目標ではございますが、その段階としては、やはり生産性を引き上げ、一人当たりの労働生産性を高めて、しかして所得増大させるという方向に向かいませんと、先ほども申し上げましたようなカンフル的ないわゆる保護政策的な考えが強く基本法の中に織り込まれてくるおそれがあるというふうに私は考えております。たとえばこれは技術の問題との関連もありますが、現在の農業生産力を高めるということを単に農地の造成、農地拡大のみに片寄って考えるということに対しての私の考えは違うわけでございまして、むしろ単位当たり面積の生産量増大、さらには単位当たり面積の農業、いわゆる労働生産性向上、そういう面から究極の目的であるいわゆる農業所得増大という方向に結びつけて考えているわけでございます。
  60. 坂田英一

    坂田委員長 角屋君にちょっと申し上げますが、時間もなんですから、簡潔にお願いいたします。
  61. 角屋堅次郎

    ○角屋委員 総選挙の際の自民党の打ち出した所得倍増の問題でありますけれども、特にこれが農業部面でどうかというふうな問題については、かねて衆議院の予算委員会やあるいは本農林水産委員会でもいろいろ論議されたわけでありますが、第一産業における経済の成長というものはせいぜい年率二・八%ないし二・九%。こういう形でいけば、大体十年間に一三三程度にしか増大をしない。そこで、農業人口の大幅な減少ということを見込んでも、十カ年間に二倍までいかなくて、せいぜい五割をちょっと増す程度だというふうに、この点については所得倍増ということは農民の場合には期待し得ないということをはっきり政府自身も認めているわけです。田中公述人意見というのは、今のような農地造成その他の問題も積極的に考えない、また、所得政策については、いわゆる自立農家中心を置いた、そこで出てくる政策等にもとを置いた価格決定、いわゆる経済合理主義というものを農業の場合に貫いていこうという、そういう基調に立っていると思う。そういう場合に、いわゆる農業と他産業との所得格差がますます拡大をしていっておるということが農政上の大きな問題になっているが、この問題をどういうふうに打開をしていく道を求めるのか、これが一つの問題だと思います。  さらに、所得倍増計画の中でもう一つ問題になった点は、例の十六兆一千三百億の行政投資の計画の中で、農林水産関係の行政投資はわずかに一兆円しか予定してない。この問題が非常に問題の一つの点になったわけですけれども、この点については、政府は、これは単なる参考であるとか指針であると言って逃げましたが、しからば具体的なプランがあるのかということについては、何も答えない。こういう実態にあるわけですが、今後の農林予算なりあるいは特に行政投資面についてどういう考え方に立っていこうというのか、その辺のところを一つ明らかにしていただきたいと思います。
  62. 田中宏

    田中公述人 簡単に申し上げます。  最初の質問の趣旨がちょっとわかりかねる点もあるのですけれども、私はこう思います。農業生産拡大する、いわゆる所得の問題でございますが、倍増計画の中では、十年後経済成長率を二倍と踏んだ場合に、複利計算しまして七・二%という数字が出てきております。しかし、私たちがやりました農林漁業基本問題調査会では、農業の面ではやはり年率二・九もしくは三%というのが限度でございまして、これは、現在の農業生産といいますか、農業全体の構造を現状のままにしまして考えました場合でも、私は、所得均衡ということは、はっきり申し上げて均衡しないというふうに考えております。これをできるだけそれに近づけるということが私は目的ではないかと思います。これは、私は政府委員でもございませんから、私個人の意見ですから、そのおつもりでお聞き願いたいと思いますが、欧米におきましても、世界の先進国もしくは中進国の農業に対する考え方を見ましても、農業所得とそれから他産業所得均衡するということは絶対にあり得ないというのは世界の常識でございます。ただ、日本の場合、いかにしてその問題を、社会正義的な観点から、国民全般のそういう生活水準をひとしく向上させるかということは、やはりこれは一つ政策ではないかと思います。従いまして、農業の場合は、できるだけ他産業農業を吸収していく。他産業の部門でこの所得向上させるように吸収していく。単に農業の中だけで所得均衡させるということは、私自身も、個人の考えでは、不可能ではないかというふうに考えております。ですから、さらにその点でもう一点、もしこれを政策的に必要とするならば、これは農業政策ではないわけです。社会保障政策で単にその差額を農民に支払う、——支払うと言っては語弊がありますが、財政支出をするということしか方法はないと思います。これはもちろん極論でございますが、そういうふうに考えるわけでございます。  第二の御質問でございますが、私が再三申し上げておりますのは、それじゃ農業に経済合理性を貫いたらどうして悪いのかということを一言お尋ねしたいと思います。もちろん、全面的に経済の合理性を農業に貫くということは、現在の日本の農業の現状からして不可能ではございますが、しかし、少なくとも政策としては、やはり合理性はいかなる部門においてもこれは持ち込まなければならないものと思います。単に農業ばかりではございません。中小企業は、農業と同様な状態に置かれながら、直接大企業との競合の面においてやはり敢然としてその経済の合理性と戦っているわけでございます。ひとり農業だけがそういう保護措置を必要とするということこそ、むしろ私は社会正義の上においても片手落ちな面が出てくるのではないかと思います。ただ、問題は、おっしゃるように、経済の合理性を貫く場合、もしくは構造政策を推進する場合におけるショックがございます。このショックはやはり他の方法でおとりになった方が国民経済全体としてはスムーズに行くのではないかというふうに考えているわけでございます。
  63. 角屋堅次郎

    ○角屋委員 田中公述人農業保護政策の放棄的な見解については、さらに追及したい点もいろいろありますけれども、時間の関係もございますから、最後に大坪公述人にお伺いしたいのです。  御承知のように、これから貿易の自由化等による国際的のいわば農業との競合の問題も出て参りますし、同時に、日本の場合には、農業外の資本力の農業部門への進出という、いわゆる水産資本のと陸作戦その他で宣伝されておりますような農業外資本力の農業への進出、特に成長産業と言われる畜産部門、あるいは場合によっては将来果樹部門ということにも相なってくるかもわかりませんけれども、いずれにしても、これからの成長産業部門に対する農業外資本力というものの進出という問題があるわけです。そういう状態の中で、農業を営む者が、農業の利益というものをみずから手取りするのではなくて、農業外資本力に吸収される、そういう部面も十分出てくる危険性がある。これらの問題についてどう対処すべきであるというふうにお考えであるか。あるいはまた、政府原案は、この問題についてはいわば放置の状態だというふうに思うのですが、これらの問題に対する大坪公述人の見解をお伺いしたいと思います。
  64. 大坪藤市

    大坪公述人 貿易の自由化の問題でございますが、これは、再々申し上げました通り、農産物につきましては、わが国農業生産性の低さから見まして、今直ちにこの自由化の線に沿うていくということにつきましては、これは非常に慎重に考慮を要すべき問題である、かように私は考えているわけであります。  次に、農業外の資本の進出の問題でございまするが、これは、まず農業内部におきましてこれに対抗し得るような措置を強力にとって参ることが何といたしましても基本的な要件であろうと思うのでございます。このために、いわゆる系統資金を末端のそういう施設の方に流してもらう、あるいは農業協同組合等がこれらの資本といわゆる有機的に結合いたしまして、農家がそれに対して不利な立場にならないような方策を講じますとか、あるいは、これは今後研究の必要があろうかと思うのでございまするが、一定の分野につきましては、特別の措置によりまして、ある程度のそういうような制限的な措置を考慮してもらう、こういういろいろな対策があろうかと思うのでございます。この問題につきましては、御意見の通り、われわれといたしましても、今後いかにこれに対処していくかというようなことをいろいろ研究はしている次第であるわけでございます。
  65. 坂田英一

    坂田委員長 大坪田中公述人には長時間貴重な御意見をお述べいただきまして、ありがとうございました。なお、お昼からのときにもお加わりを願えればなおけっこうと存じますが、大へんありがとうございました。厚くお礼を申し上げます。  午後二時十分より再開することとし、暫時休憩いたします。    午後一時十六分休憩      ————◇—————    午後二時三十四分開議
  66. 坂田英一

    坂田委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  農業基本法案について公述人よりの意見聴取を続行いたします。  なお、公述人の発言はお一人約二十五分程度お願いいたしたいと存じます。  なお、五人の方からお聞きするのでありますが、一通り御意見を承りましてから質問を続行することにいたしたいと存じます。  秦玄竜君。
  67. 秦玄竜

    ○秦公述人 私、秦と申します。私は、きょうは主として政府案を対象にして私の意見を述べたいと思います。  最初にちょっとお断わりしておかねばなりませんのは、私が言いたいと思っていたことが若干午前中に話題になりまして、そのために部分的にダブって私の意見を申さなくちゃならない点が出てくるかと思いますが、そういう点は私の意見としてごかんべん願ってお聞き願いたいと思います。  現在日本でどうして農業基本法というのが法案として提出されるようになったか、これは私があらためて説明するまでもないことかと思いますが、私はこういうふうに考えております。長い歴史的な過去を持っております日本の農業、これは主として非常に零細な農業であります。そういった零細な農業が、ことに家族経営を中心とした零細経営というものが、いろいろな意味で一つの限界点に来ているんじゃないか。たまたま貿易の自由化というようなことも日程に上って参りまして、この零細経営、しかも家族労働力中心としたこういった零細経営というものが、何か根本的に考え直さなくちゃならない、日本の農業にとって非常に重要な問題を提供してきている、こういう工合に考えられると思います。私、限界点に達していると考えます一つ理由は、たとえば経済成長というような点から考えてみましても、工業の成長率というようなものは、昭和三十年から三十五年あたりまでの平均をとってみますと、大体一五・六%ぐらいの非常に急速な伸びを示しているのでありますが、翻って農業生産力というものを見てみますと、わずか三・〇%というような程度であります。終戦後日本の農業はずいぶん急速に生産力が発展したと言われておりますが、農業自体としては確かに伸びてはおりますが、これを工業生産力の発展と比較してみますと、むしろこれは停滞的だとさえ言えるほどの伸びであります。そういう点からも、日本農業というものが一つの曲がり角に差しかかっている、四囲の経済的な諸条件の急速な変化というものとあわせて考えてみましても、確かに曲がり角に来たということが言えると思います。そういうことが、おそらく農業基本法というものを私たちが考えていく場合にまず前提として考えておかなくちゃならない点であろうかと存じます。  ところで、この農業基本法の中に出てきている問題点を条章に従って全部拾っていると、これは大へんな時間がかかるだろうと思いますので、私はそのうちで幾つかの点を特に取り上げて問題にしたいと思います。  その一点は、午前中にも問題になりました自立経営農家の問題であります。これは私もやはりちょっとここで私の意見を述べさしていただきたいと思う点であります。  この自立経営農家の育成ということ、これは、説明書なんかを読んでみますと、大体家族労働力二、三人程度、おそらく二ヘクタール前後の農家というものが自立経営農家という概念だと思います。ところで、こういった自立経営農家というものが、よく言われています企業的な農家として考え得る規模の農家であるかどうかということがまず一つの点であります。私は、私見を述べますならば、これはあくまでもまだ零細な家族経営の範疇であると思います。少なくともこれが企業的な農業経営を行なう規模だとは私は考えられないのであります。  私が説明するまでもなく、少し諸外国の例を見てみましても、たとえば西ドイツあたりは非常に零細規模だと言われていますが、それでも七・五ヘクタールの経営規模であります。フランスでは十一ヘクタールという工合に、ヨーロッパで比較的零細経営と言われている国々ですら、およそ二ヘクタールというものとは比較にならないほどの大きな規模を持っております。それから、西ドイツなんかで将来自立できる経営規模として現在考えられていますのは、大体十ヘクタール以上、中心的には二十ヘクタールないし五十ヘクタールぐらいを自立経営農家として考えているのであります。そういうことから考えましても、日本の農業生産力が非常に低いとか、外国と比べて労働生産性がきわめて低い、あるいは企業的な農業になっていないとよく言われますが、今度農業基本法によって考えられている、少なくともある程度企業的だと考えられている自立経営農家というものも、そういう外国の自立経営農家と比べると、まだまだこれはほとんど零細な家族経営農家であるということが言えるのであります。  およそ、企業的な農業経営の場合には、経営者に対しては一定の利潤というものが確保されなくてはならないでしょうし、投下資本に対しては利子、労働に対しては適当な労働賃金、こういうものが当然保障される、そういう経営が企業的な近代的な経営だと言うことができると私は思います。日本の二ヘクタール農家を企業的農家であるとした場合に、一体そういうものが正当に保障し得るかどうかということが私ははなはだ心配であります。  この点は、同じくこの基本法案の中に、農業近代化とあわせてまっ先に経営規模の拡大ということがうたってありますが、日本の現状の中でこの経営規模の拡大、ことに自立農家中心として経営規模の拡大がはたして可能なるやいなや。これも午前中相当論じられた問題でありますが、私は若干午前中と違った別の観点から述べてみたいと思います。  それは、まず第一に、最近よく論じられていますが、農村人口というものが最近急速に非農業部門に流出をしているということが言われています。これは確かにその通りでありまして、三十四年に比べて三十五年度は五・九%というように流出の率がふえているわけであります。しかしながら、反対に、農家戸数が減っているかどうかと申しますと、確かに減ってはおりますが、〇・三%というような減り方であります。この〇・何がしという減り方は、ほとんど減っていないのと同じと言えるかもしれない非常に微小な減り方であります。この農業人口、農村人口が流出をしているにかかわらず農家がなぜ減らないか。これはもう皆さんよく御承知のことと思いますが、結局、これは、農業だけでは食えない農家、概して零細な農家でありますが、こういう農家が兼業労働に出ていく場合に、労働賃金が非常に安いということであります。この労働賃金が非常に安いというのは、こういう人たちが兼業労働として出ていく場合の出ていく先が中小企業がかなり多いということ、それから若年労働であるということ、こういうこともありますが、もう一つ基本的な問題は何かと申しますと、日本の労働賃金の構造がいわゆる二重構造を形成しているということであります。一つの例をあげますならば、たとえば千人以下の工場の労働賃金を一〇〇といたしますならば、百人以下ではこれがおそらく五〇%前後であります。ほとんど半分近い労働賃金、そういった経営の規模別にかなり激しい二重構造を持っているばかりでなく、資本規模別にも、地域別にも、男女間別にも、また本工と臨時工との間にも、はなはだしい労働賃金の格差を持っているのであります。従って、農村から流れ出ていく労働人口のほとんど大部分はこういった格差の底辺部分に就労する場合がかなり多いのでありますが、この人たちが独立の生計を保てるような労働賃金を確保できない。そこで、兼業労働者は、ほとんど大部分が家計補充的な労働に従事しているのであります。従って、こういった労働力が出ていく場合には、常に家屋と農地というものを確保しております。経営規模を拡大するためにはいろんな方法があるかと思いますが、新しい農地の造成ということももちろん一つの方法であるでありましょう。それから、現在こういった兼業農業に従事している人が挙家離村をどんどんしていけば、そういった農地を専業農家に集中して集団化していくということも可能でしょう。あるいは、もう少し考えられますことは、農地の造成のほかに、いわゆる経営の共同化、この点はあとでまた触れますが、経営の共同化というようなことも行なわれるかと思います。ともあれ、現在可能な点を考えてみますと、かりに日本の賃金構造が二重構造になっている点がまず根本的に改められるならば、おそらく兼業労働に従事している人は挙家離村が可能になってくると思います。  ドイツなんかの例をとってみますと、五百人以上の工場の労働者の賃金を一〇〇といたしますと、百人以下の工場では八七・八という数字を持っております。これは一九五五年の数字でありますが、この賃金格差が大規模工場と中小企業工場との間で非常に接近しているのであります。ドイツの場合には地域的にもかなり接近をしております。そのことが、ドイツなんかの場合には、農業労働が工業労働へ流出していることを非常に容易にして、それと同時に挙家離村もある程度伴って、専業農家の耕地の拡大あるいは集団化ということを可能ならしめているのでありますが、日本の場合にはその条件が西ドイツなんかの場合と根本的に違っております。  そこで、この法案の中にうたってあります経営規模の拡大ということを、実は賃金構造だけに限定して申しますならば、それが根本的に改められないと、おそらくそこから出てくる土地を信託して専業農家に持っていくというような工作は不可能であると私は思うのであります。土地移動というものが将来どうなるかはっきりわかりませんが、少なくとも今のような状態では、賃金構造なんかが根本的に改められない限りは、土地拡大、耕地の拡大はそう容易にできるわざではない、こういう工合に考えております。  ところで、一方では自立農家というのでありますが、将来かりに自由貿易というものが農産物についても考えられるとするならば、現在のような自立農家というものをもし育成していくならば、私は、国際競争力はおそらく、農業に関する限りは日本側の負けになるだろうと思います。そういう点から申しましても、現在考えられている企業としての自立農家というものは、ほんとに企業として育成しようと思うならば、もう少し根本的に考え直していただかなくてはなるまいかと存じております。よく、耕耘機なんか、一馬力で一ヘクタールが最も効率的な耕耘機の導入の仕方だということを言われますが、外国の農業生産技術なんかでは、大体どこの国でも、現在入っています耕耘機は十馬力、二十馬力というものが中心になっております。そういうのから考えますと、二、三馬力のメリーティラーというようなのを駆使している日本農業は、いわばマニュファクチュアの段階だと言うことができるのではないでしょうか。私はそういう工合に考えるわけであります。  もう一つ、兼業農家がなかなか土地を捨てたがらないというのは、やはり、意識の上で先祖代々の土地をそう簡単には捨てられないということのほかに、経済的にたとえば低賃金で農村を離れて自立できないという問題のほかに、社会保障の問題があると思います。社会保障が不十分な場合には、老後の心配をだれも保障してくれないとすれば、当然に老後の落ちつく場所として家と土地を確保していくということが生存のための理由になるわけであります。この点も、やはり、西ドイツなんかの場合には、非常に社会保障が行き届いており、ことに農村の老齢者に対しての年金の支給の仕方というものが確立をしております。その点、日本の場合に、単に賃金問題だけじゃなくして、社会保障の確立という前提がなくして、こういう自立経営の育成に重点を置くというところに若干の矛盾があるんじゃないかと私は考えます。  時間があまりありませんので、あれこれ申し上げることができませんが、それと、もう一つ、私これはお願いしておきたい点でありますが、ちょっと問題が今申しましたことと若干別な問題になって参りますが、農業における長期低利金融の確立が、こういった農業の飛躍的な法案を作るためにはぜひ必要であると思います。近代化資金法律によりますと、利子補給をして七分五厘で十年間の融資をするということがありますが、この七分五厘というのは、外国に比べますとべらぼうに高い利子であります。大体、こういう経営改善あるいは農業構造の改善というようなことのために貸し付けられている融資の率は、外国は三分程度であります。安いところは二分という金利もありますが、三分で二十年という長期低利融資が行なわれているのであります。農業を、この法案に盛られている程度の飛躍的な改革をしようと思う場合に、七分五厘の近代化資金、しかも十年年賦、こういったものが一体ほんとうに近代化資金として有効であり、所期の目的を達し得るような融資であるかどうかというのに、私は非常に疑問を抱きます。農業の場合には、説明するまでもなく、果実を獲得するためには長い期間を必要とするし、それから、ことに、構造改善というような農業生産基盤を画期的に前進させようというような場合には、これはおそらく相当低利の長期の融資を行なわなくては目的は達せられないということであります。その点、私は、こういう基本法にふさわしくない融資の仕方だと思います。この融資に関連しまして、これはおそらく同じ金を借りる場合でも中農層以上はかなり信用もありますので比較的借りいいでしょうが、貧しい農家の場合にはこの近代化資金がなかなか借りられない、そういう声がすでに起こっております。これは県連の信用の付与によってやるんだということはつけ加えてはありますけれども、事実は、県連の信用付与があるにしましても、担保力の弱い貧しい農家の場合には、せっかくのこの近代化資金というものがそうやすやすと借りられない。かりに借りられたとしましても、七分五厘の利子では、せっかく芽を出した近代化の方向というものも、利払いのためにまたつぶれざるを得ないという結果が出てくるのであります。こういう点も、よほど考えて、農業基本法を作られる場合に十分織り込んでいただきたい点であります。  それと同時に、私先ほど自立農家としてのこの二ヘクタール前後の農家というものについて若干述べましたが、現在考えられているそういった自立農家というものが、今後何年かのうちにはおそらくまたこれが零細な自立農家ということになりかねないのであります。と申しますのは、経済の成長力というものが非常に急速に伸びております現在の段階では、これがあるいはかりに自立的な農家と考えられていても、何年かの後にはすでに零細企業に落ちてしまう、こういう可能性があります。従って、自立農家育成というのは零細家族経営の再生産だと言われても、はっきりそうではないと言えない点があるのじゃないか。これも、日本的なこういう零細家族経営が行き詰まった現在、考えられている法案としてはもう少し根本的な点を考えていただかなくてはならない点かと思います。  そういう点から考えてみますと、ことに、経済の成長率というようなものを農業と非農業とで比較してみますと、所得均衡ということがはたして期し得るかどうか、現在考えられているようなそういう農業経営の規模で所得均衡というのが実現し得る可能性があるのかどうか、これに私は当然に疑問を抱かざるを得ません。まかり間違えば、これは逆に所得の格差がますます開きかねない可能性さえはらんでいると私は思います。この点、経営規模の拡大とかあるいは企業的農業を考える場合、想定されているそういう基準的な農家の規模あるいは経営の規程というものをどういう工合に考えておられるのか、私には不明であります。  その点、若干社会党法案に触れますと、社会党では共同経営ということにかなり重点を置いておられます。これは、単に経営規模という点から申しますと、確かにこの共同経営というのは経営規模を拡大する一つの有力な手段であり、拠点であります。もし耕地の新しい造成というものが莫大な資金を要し、急速にはできないとしますと、これはおそらく日本では共同経営というものが有力な耕地拡大の拠点にならざるを得ないだろう。私は、日本の場合には、これははなはだ不確かな言葉かもわかりませんが、大体少なくとも五町歩、標準的には十町歩くらいを経営の基盤にしなくては、おそらく、いわゆる外国の農業と競争できるような農業は不可能ではないかと思うのでありますが、そうしますと、先ほどから申しましたような理由で、そういう自立農家を作るためには、どうしても共同経営的な……
  68. 坂田英一

    坂田委員長 秦さん、大へんお気の毒ですけれども、時間の都合で、なるべく……。
  69. 秦玄竜

    ○秦公述人 手段をとる必要が出てくるのじゃないか。もちろん、私は、共同経営というのは、土地の所有権を初めからやめてしまえとか、あるいは完全共同経営をやれとか、そういうことを申すのでなくして、共同経営にもいろんな段階、いろんな方法、形態というものがあります。あるいは地域に応じてやり方があるわけでありますが、ともあれ、それぞれの地域なり経営形態、そういうものに応じて可能なそういう共同経営というのは、相当強力に今後は推し進められないと、所得均衡だとか、あるいは生活水準均衡ということはなかなか容易には達成できないだろう、こういう工合に考えるのであります。先ほどから申しました零細経営の行き詰まりというのは、農業技術の面からも行き詰まっているわけで、小さな耕地で適用し得る農業技術というのは、やはり非常にせせこましい農業技術しか適用できない。かりにコスト・ダウンをするとしましても、非常に少ない率のコスト・ダウンしか実現しない。そういう意味から申しましても、経営規模の拡大というものは今後当然に行なわれなくちゃならないわけであります。  もう時間がやや過ぎましたので、結論を急ぎますが、これは、先ほどから私幾つか申しました前提と申しますか、たとえばこれは一つ前提でありますが、賃金構造を基本的に改める必要があるということだとか、あるいは共同経営に対して、今まではおそらくこういった必要に応じ切れるような技術体系というものが日本にはなかったと思います。そのことがまた過去の共同経営をしばしば失敗に帰した大きな原因であると思います。そういう技術体系の確立、あるいは、さらには地域的な賃金の格差、あるいは社会保障、こういう問題が並行的に、あるいは前提として今後しっかり確立をされていかないと、農業基本法にうたわれているようなこと自体がなかなか実現しないことになるだろうと思います。私は、そういう点から、どうも今私が述べたようなことが十分にこの基本法の中に盛り込まれていないような気がするのであります。  これで私の話を終わります。(拍手)
  70. 坂田英一

    坂田委員長 どうもありがとうございました。  次は、一楽照雄君。
  71. 一楽照雄

    ○一楽公述人 私は全国農協中央会の常務理事をしております。本来なら荷見会長が参上いたしてお礼を申し上げ、またお願いをさせていただくわけでございますが、ただいまだいぶ快方に向かっておりますけれども、まだ入院中でございますので、私に出てこい、また、行けということで、参上したような次第でございます。  もはや戦後ではない、岩戸景気、神武景気、そういう言葉が使われるような時期になりまして、その反面、農村においては、だんだんとやみ米の値段も下がるというような情勢になって参りましたので、私どもにおきましても、つとに、このままで放置しますれば、せっかく農地解放によって明るくなりかけた農村において、また、都市の商工業の経済力の破壊せられたこととの相対的関係において農民の地位が比較的に高まっておった戦後に比べて、また戦前のように、もとのようにみじめな農村になるのではないかということの心配から、私どもは、農業に対する基本的政策、基本的態度というものを、国策として、長期のものとしてこれを確立していただきたいという要望をかねてから持っておった次第でございます。われわれの方の催しであります農協大会等におきましても、そういう意味から、農業の基本性格を、国民経済における農業の地位をいかように評価し、いかように位置づけるかということを長期的な基本的な国策として定めていただきたいというような決議をし続けてきたわけでございます。  最近のものは、昨年の十二月九日に開きました農協大会におきまして、これは決議であります。ちょっと失礼でございますが読まさせていただきますと、農業の特異性にかんがみ、「農業と他産業との所得均衡をはかるには、国策として農業保護を基調とする基本方針の確立を必要とし、農業基本法制定にあたっても、これを明確にして適切な措置を講ずるよう要請する。農業基本政策の確立に関しては、下記事項について適切な措置を講ずるよう要請する。一、農業生産基盤の拡充整備をはかること。二、農産物需要の増大をはかるとともに、系統農協の自主的活動の助長を基調とした流通の合理化をはかること。三、農産物特に畜産、青果の価格安定につき特段の措置を講ずること。四、輸入農産物が国内農業の発展に影響を及ぼさないよう適切な措置を講ずること。五、農村生活環境の整備及び農山漁民の社会保障制度の充実強化をはかること。六、農業構造改善の施策は、農業者の理解と積極的意欲に基づくものであるべきこと。七、農業に関する試験研究を充実強化するとともに、これが活用をはかること。八、農業基本政策の実施に関する行政機構整備をはかること。」、こういうようなお願い決議として、これは最近のものとしてやったわけでございます。  なお、政府におかれましても、基本問題調査会をわざわざお作りになって御研究をされ、それに引き続き法案の立法に入られましたので、機会のあるたびになおいろいろ具体的なことについてお願いをいたし続けて今日に至っているわけでございます。自民党並びに政府におかれましても、農業基本法の名のもとに、今日御提案になりましたような具体的態度をおきめになろうとせらるる段階にまでこられました。ここに御列席いただいております諸先生方が、党内におかれましてこの問題をここまで持ってこられる上に非常な推進をされ、ここまで仕上げられることについての御苦心も想像いたされまして、お礼を申し上げ、敬意を表する次第であります。また、社会党におかれましても、とかく組織労働者の方に力が行って、農民の方はもう少しやっていただきたいという感じを強くしておりましたが、今回これも自民党に負けず具体的法案提出されて今日に至りました。これもここに御列席の皆様方の非常な御努力が党内において払われたことだろうと思いまして、これまた敬意を表する次第でございます。なお、幸いなことに、この法案の御審議にあたりましては、両者の御意見はあわせ審議をされるという、議会運営上あまり例のないことまでおやりになったことは、しろうとでわかりませんけれども、そういうふうに伺っておりまして、これも非常に敬意を表する次第であります。  しかしながら、問題はやはり内容でございますので、内容につきましても、今おあげしましたことは、要するに、農業に対しては、国策として、保護という言葉は古い言葉で、もっと気のきいた言葉があるかもしれませんけれども、要するに経済合理主義の、そのなすがままにいくのではない、経済の法則に対して、政治としての制肘といいますか、是正をする、これが農業の保護という意味でやられるということが、このように農業以外の産業が発達すればするほど必要になり、また、これを実行する財政力その他の力も国にできてくる。これは諸外国の先進国においても同様のことであります。先進国においては保護政策はないのだ、保護はしないのが近代的なものであるかのごとき言説に対しては、われわれは同意しかねる。経済の成長度に比例し、農業に対する手厚い保護が必要になってくる。そういう意味で、この保護政策観点を国策として長期的に確立していただいて、しかも、これは加速度的に、経済の成長が伸びれば伸びるほど手厚い保護をしなければならぬ性質のものであるという考え方でございます。それに対しまして、ただいま御提案になっておられます内閣提案基本法におかれましても、その序文において、説明のところは抜きにして前文の眼目だけを読んでみますと、「このような事態に対処して、農業の自然的経済的社会的制約による不利を補正し、農業従事者の自由な意志と創意工夫を尊重しつつ、農業近代化と合理化を図って、農業従事者が他の国民各層と均衡する健康で文化的な生活を営むことができるようにすることは、農業及び農業従事者の使命にこたえるゆえんのものであるとともに、公共の福祉を念願するわれら国民の責務に属するものである。」、こういうようにうたっていただいております。その点、また、社会党の案におかれましても、同じく説明のところを抜いて眼目だけを言いますと、「農業発展の支障となる自然的社会経済的諸原因を除去し、農民所得と生活を豊かにし、都市と農村の文化的格差を解消することは、国の政治の最も重大な責務であると確信する。」、そうして、社会党案には、第一条に同じような趣旨のことがうたわれております。この序文の眼目、中心点につきましては、私どもが求めておったところにそっくり両者ともおこたえをいただいておることでありまして、この精神を今日以後における具体的政策の中にいかに貫いて、これがぼやかされないで実現していけるかというところに、絶大なる期待と同時に関心を持つわけでございます。  各条文についての意見になりますと、これはやはり抽象的でございます。善意に読むのと悪意に読むのとで相当な差が出てきます。私どもは、この両者の序文の眼目の点を中心にしまして、善意に、——おそらく大多数の日本の農民というものは、ひがんでおる点もありまするけれども、事大思想も強いわけでございますので、おそらく善意に解釈する人が大多数だと思います。どうかその善意にこたえられるように、今後の施策の具体化に、ここにいらっしゃいまする先生方に特に格段の御努力と御尽力をお願いいたしたいと思います。  私ども、全国中央会に職を置いておりまするもので、大体中央会の立場を御紹介するのが役目だと思いまするが、どうしても個人的意見も若干入るかと思いますので、あしからずその点もお含みおき願いたいのですが、問題は、私どもが気のつくことはもうほとんど網羅的にそれぞれ列挙されております。これの具体化、それぞれの問題点での意図するところもわかるわけでございます。ところが、非常に広範な問題で為り、農民の数が非常に多いし、また、地理的条件、社会的条件、が千差万別——万別じゃない、六百万別の状態があるわけでございまするから、他の経済政策と違って具体的施策というものに相当のむずかしさがある。画一的なお役所的な考え方でやられますると、せっかくの意図が効果を表わさない。そういう意味で、私は、目的と手段の関係、意図とその効果の関係について、今後この基本法に基づいての御施策をなさいまするにあたって、議会において十分御審議を願います。また、これの立案に当たられる行政庁におかれましても、単なる観念論、単なるイデオロギーというものでなくして、実際実地についての経験者、また、農民、その代表というような人の意見も十分に取り入れ、参酌された上で立案され、また審議されませんと、意図はいい、目的はいいけれども、手段が十分でないと効果もまずい。その点が農業政策については多分にあり得ると思いますので、そういう点の取り運び方等についてもできるだけ御工夫を願って、御考慮を願いたいと思います。と言いますのは、抽象的に申し上げては何でございますが、一つの例をとって申し上げますると、たとえば共同化という問題にしましても、これは両党の間でずいぶん御論議にはなっておられまするけれども、私どもが御両者の方とお話しますと、話がいつも一致しておるのでございます。何と申しましても、日本の農業は、共同化とか協業とか今さらおっしゃいまするのがどうかと思うくらいでございますので、農業そのものがすでに相当部分はこれは共同化され、ことに水田のごときは、用水は共同化される、共同防除、また技術的にもいろいろ同じようなことをやっておる。ことに、農産物の処理、販売というようなことになりますと、ある程度の市場形成をやらなければならない。流通過程の共同化、生産前提農業基盤共同化というようなものも行なわれておるわけでございますが、しかし、新しい技術を取り入れ、新しい投資をする場合には、できるだけ過剰投資にならないように、合理的に取り入れるということのためには、共同化ということがさらに度合いが強まってくるということであろうと思うのです。それの極限として、共同経営というようなこともまず部分的に発生し、そしてまた例外的には全面的にもあり得るだろうと思う。そういう共同化を受け入れる体制として農業生産法人が政府からも出ておられますし、社会党からも出ておられます。私どもは、それぞれ大同小異、けっこうだと思うのでございますが、私どもが実務者として私どもの経験から申し上げておりますことは、それもいいのですよ、それもいいのですけれども、この農村農民がそういう頭から共同経営をするということで入り込むのではなくして、いろんな、共同購買、共同販売、施設の共同利用というようなことは今すでに相当やっておる。これをますます強化していく。個別経営を拡充するための共同化は、現に行なわれており、今後ますます必要になってくる。その場合に、移住する農家ができた、その土地をお互い一人々々が値をつり上げて奪い合うということは、ばかくさいことではないか。また、河川敷とか山間部の荒れ地を共同で開墾する、そういうようなものは、個別経営は今まで通りやりながら、プラス・アルファの部分は、それは共同でできるだけやっていこうじゃないかというようなことは、相当実際的なことであって、また、奨励すべきではないか。けさほどお話が出ました土地価格の暴騰、騰貴というようなことを防ぐ意味においても必要ではないか。そういう面にこそ実際的共同化推進の余地が多分にある。そうだとすれば、これが今日の農地法においては許されないが、そういう共同化を進めたいというのであれば、今政府並びに社会党から出しておられますように、農家が個別経営をやめてそうして共同経営をするのだ、経営者は法人だけになって、農民はその従業員になるのだ、そういうようなこと、あるいはまた、単にそういう一反なり五反なりわずかの土地共同耕作、その部面だけのことをするために法人を作るというような、そういうのにふさわしい制度にのみとどまらないで、もっと融通性のある、私どもが主張しておりますように、ある意味においては農協の下部組織としての活動をし、そして平生は流通過程あるいは生産の部分的共同化を推し進めていく、そういういわば以前にあった農事実行組合的な組織、農事実行組合として部落できめたああいう運営に限る必要はないわけですけれども、簡易に自由に作れる、行政庁の認可等は必要としない、登記だけすればいいというような法人を認めて、この法人にも農業経営を認めるべきではないか。政府におかれましては、商法上の法人にまで認めるということまでお考えになっているようでございますが、われわれの考えるような法人にこそ優先的に農業経営をまかすべきではないか。そうして、共同化しましても、先ほど来お話がありましたように、そこに新しい技術、従って相当な共同投資が伴わなければ、共同経営は意味があまりないわけでございますから、そこには資金が入りやすくするということがねらいとして重点にならなければならない。そうすると、その組織が金を借りやすくしなければならぬ。そうだとすると、お互いが自分に使う金でございますから、その借りた金には組合員が無限の責任を負うということにすれば非常に金が借りやすくなりますけれども、今政府並びに社会党から出しておられますように有限責任として出資の範囲内においてしか責任を持たないというのであれば、それは実際問題として組合員全員が金を借りるつど連帯保証の判こを押さなければならないという不便が出てきますから、これは私が発明したのではありません、昔からあった農事実行組合の例にならって、これらの法人が農協から金を借りた場合には組合員が無限責任を持つということにしておいた方が、法人を作った意味が出てくるのである。もちろん、農協以外の商業資本その他からあまり金を借りるのに便利にする必要はないから、その方は有限にやっておいた、これが農事実行組合の例であって、われわれが提唱しておるわけではない。どうも新しく学窓を出た方々は、お役所等の方々では、その農事実行組合、負債整理組合、また当時の蚕糸業組合法による組織、養蚕実行組合、そういう実例を十分御存じなくて、何だか私どもが奇異なことを申しておるようでございますけれども、すでに過去の日本の行政において作られたりっぱな実例が制度的にあったわけですから、そういう点をこの際取り入れていただくべきである。これは一例を申し上げたのでございますが、こういうように、意図はよろしく、また同じようなことを考えておられましても、手段、方法についてはよくそれぞれのその道の人たちの意見、経験者の意見等もお聞きになって進めていかれたいということを希望申し上げたい。  まだ三分ほどありますが、時間がありませんので詳細申し上げられませんが、農民の地位を向上さす、できるだけ他の産業の人との均衡を保つためには、農業所得の面だけでなくて、自給面、自給によって生活程度を高めるということによって、この所得がなかなか均衡を得ないのを補っていくという面も無視できない問題ではないか。私は自給自足主義を唱えておるわけではないのです。日本の農民ほど過度に商品経済に行き過ぎておる例はないのじゃないか。外国のどこの農家に行っても、家庭に行ってまず差し出されるのは、自分の家庭で作ったお酒を差し出されるわけです。日本の農民においては、多少どぶろくを作っておられる方があるかもしれませんけれども、めったな人にはこれは出せないというような状況になっておるわけでございます。そういう面、それからまた、農業の保護について、たとえば食管制度で三百億も四百億も負担をして、いかにもそれが不合理なことのように言われる向きも言論界その他にはあるようでございますけれども、これは食管経費の事務費まで含めてのことである。国が統制する事務費の大部分まで特別会計に入れておる。また、農民はどうこうとすぐおっしゃいますけれども、今日のように、農民だけが自分で作ったものの値段を他からきめられる。農民だけというのは何ですけれども、公共料金が上がる、それから運賃が上がって資材が上がったからといって、売る方、また料金をもらう方の人が掲示を出せば大体それで値がきまっているのだけれども農民だけは、野菜、くだものをはるばると九州から秋葉原まで送ってきまして運賃を払いましても、それは相手方で値段をきめられるというように、そういう状態でございまするから、私どもも、農業といえどもできるだけ生産性向上をはかり近代化することはもちろん必要でございまするけれども、いかに農民近代化をし、合理化をし、企業精神を発揮し、そしてまたそこに低利資金をいかに供給されましても、今日のこの系列化され、いわゆる寡占とか独占とか言われる経済において、農民が農作物の値段を自分の方から掲示を出すというようなことは考えられない。だれがこの農民を保護するか。この価格をある程度ささえ、農民の利益を守るのは国の価格政策ではないか。そういうように、他の方面に対する国の保護、援助、施策というものと相対的に比べた場合に、あまりに農民だけ農業保護政策を卑下したり遠慮する必要はないのではないか。現に軍人恩給だけで千数百億円の負担をしております。租税特別法で何百億と言われております。また、鉄道運賃にいたしましても、新聞社の新聞はえらい安い値段で全国均一でやっておられるはずでございます。そういうようなことがあるわけで、これはみな非難しているんじゃないんで、それもけっこうだし、農民に対しても同様にお考えを願いたいということでございます。  この法案は非常に抽象的なものでございます。問題は具体的な点にありますのですから、今後において具体的なものについてわれわれの期待に十分こたえていただけるように、今後とも一そう御努力お願いしたいと思います。(拍手)
  72. 坂田英一

    坂田委員長 次は、中村迪君。
  73. 中村迪

    ○中村公述人 中村であります。  内閣提出農業基本法案社会党提出されております農業基本法案について意見を申し上げるわけでありますが、両法案に対して意見を申し述べます前に、最初に私の態度を明確にしておいた方がよろしいかと思います。私は、内閣提出農業基本法案には反対でございます。社会党農業基本法案を支持いたします。  時間があまりないので、詳しいことに立ち至って申し上げられないのを非常に残念に思いますが、かいつまんで申し上げることにいたします。  政府提案基本法を拝見いたしますと、その中で大きな柱になっておりますのは、やはり自立経営を育成していくことである、こういうように受け取られたのです。その第十五条に、「国は、家族農業経営を近代化してその健全な発展を図るとともに、できるだけ多くの家族農業経営が自立経営になるように育成するため必要な施策を講ずる」ということが書かれてあります。この自立経営農家の規模がどれくらいのものであるかということは、諸説紛々といたしまして、私ども外におる者にはわからないのでありまして、いろいろ述べられておること、いろいろ書かれておることから、おおむねこの程度ではないかと想定せざるを得ないのであります。所得倍増計画内閣提出基本法案と一体のものではないということは午前中お伺いいたしたところでありますが、例の農業基本問題に関する答申を読みまして、また、所得倍増計画の中などを読んでみますと、やはり、この自立経営の規模は、おおむね二町程度のところに想定されているのではないかと考えられるわけであります。この想定にいたしてもし誤りなしといたしますと、どういうことになるかと申しますと、すでに御承知のように、一九六〇年の世界農林業センサスで拝見いたしますと、昭和三十五年度における日本の農家は全部で約六百五万六千戸ということになっておりますが、二町以下の農家になりますと、その中で九三%、戸数にいたしまして五百六十四万という膨大な数の農家が二町以下となるわけであります。そういたしすまと、自立経営農家たり得ないものが九三%ほどおるのでありまして、これは、失礼かもしれませんが、いかに政府が御努力なさっても、この膨大な数に上る農家自立経営規模にまで引き上げることはほとんど不可能と言ってもいいのではないかと思います。さればこそ、第十五条には、できるだけ多くの農家自立経営に育成するのだというように言っておるのであろうと私は考えるわけであります。できるだけ多くの農家というのでありますから、それからはずれるものも出てこざるを得ないと、私はこの文章から推測してはばからないところであろうと思います。そこで、自立経営農家になるものと、なりがたいものとが、この線で出てくるのではないかということが考えられるわけでありますが、しかし、政府におかれましても、自立経営農家にならないものは捨てるのだということは積極的にはどこでも申しておりません。私どももまた、一人でも多くの農家が大きな規模の農家になって、農業で一生懸命働いて、それに応ずる所得と生活の向上がなされることを望んでおるわけでありますが、施策の内容から判断いたしますと、どうもその点に重大な疑問が出てくると私は考えるわけであります。午前の公述人の御意見や、また御質問の中にも、農家所得農業所得を確保することは、価格政策だけではきわめて徹底しないのであって、その足りないところは社会保障政策等によって補完すべきであるという意見が出されております。これはなるほどある面ではそうではありましょうけれども農民が一個の生きた人間として農業に従事し、農業によって生活をしていきたいと望んでおる限りにおきましては、やはり農産物の価格が農業所得の形成におきまして重要な柱になるということは、これは絶対に否定することはできないと思います。そういうように考えますと、やはり、この自立経営農家たらしむる努力の重要な一環として、農産物価格政策というものは大きな地位を占めるべきではないかと私は考えます。  しからば、この重要な意義を持つべき農産物価格政策について、内閣提出農業基本法案はどのような規定をいたしておるかという点を見てみますと、これも再々御論議されましたように、かいつまんで申し上げますと、需給関係とか経済事情とか物価事情その他を勘案して農産物の価格の安定をはかるということでございます。要するに、価格の安定をはかって、兼ねて農業所得を確保するという趣旨であろうと私は理解しておるわけであります。ところが、御承知のように、この農業基本法に盛られました価格政策の視点というものを現在の食糧管理法に定められました価格政策の視点と比較いたしてみますと、政府案基本法に盛られました価格政策の視点は大きく後退していると私は考えます。と申し上げますのは、私が申し上げるまでもなく、現在の食糧管理法の第三条第二項には次のように書かれておるわけであります。読んでみますと、「政府ノ買入ノ価格ハ政令ノ定ムル所二依リ生産費及物価其ノ他ノ経済事情ヲ参酌シ米穀ノ再生産ヲ確保スルコトヲ旨トシテ之ヲ定ム」と書いてございます。農民は、特に米作農民は、この食管法の第三条第二項にうたわれております生産費と米の再生産を保障して米価をきめるというこの一点に、米作りのいわば命をかけておるわけであります。この生産費及び再生産を確保するということは、これは、需給均衡価格とかあるいは選択的拡大生産というようなことをいかに言いましても、それらによってきまる価格が、少なくともそれぞれの農産物生産に要した生産費を回収し、そうして再びまた来年も再生産ができるという価格であることは、これはどんな事情のもとに置かれましても政策上欠くべからざる必要事項でございます。ところが、この点が、政府提案農業基本法案には、単なる安定としか書いてございません。これは非常に私は重大な問題であろうかと思います。  もう一つ自立経営農家の問題に関連して申し上げたいことは、かりに二町歩だとその規模を想定いたしますと、その二町歩農家とそうでない農家との間に価格政策上どういうギャップが出てくるのかという、この具体的な農民のじかの問題をやはり深く検討しなければ、価格政策のおもむくべき方向をはっきりと具体的に確定することはできないと思います。単なる安定とか単なる支持ということでは不十分であろうと思うわけであります。先ほど私がかりに想定して申し上げましたように、二町歩自立経営農家であるといたした場合にどうなるかということでございますが、これについては、政府の御提案の中にも、また提案理由の説明の中にも、自立経営農家価格政策との関係には具体的には触れておりませんので、私はわかりませんけれども、ただ、もしも例の農業基本問題に関するあの答申がいまだに生きておるとすると、具体的には政府施策を講ずる際にはあれからいろいろの取捨選択が行なわれるのでありましょうが、かりにあの中に規定されている問題を引き出してこの自立経営農家との関係づけを行なってみますと、非常に危険な点が現われてくるわけでございます。と申しますのは、あの基本政策の中で、かりに政府の行政価格を生産費によってきめるようなことがある場合には、その生産費は自立経営農家生産費を基準としてとることが適当である、こういうようなことを言っております。もしもこのような観点に立ちまして米価が決定されるといたしますと、非常に機械的な引例ではございますが、先ほど申し上げましたように六〇年のセンサスで拝見して言うならば、九三%の農家に対しては生産費を保障されない米価が公然として行政価格として決定されてくるわけであります。そういたしますと、ここで機械的にただ申し上げてみますれば、いわゆる自立経営農家の創設を中心とする基本法は、六割農民の首切りどころか、九割以上の農民を米価政策面で切っていくということが、機械的な推論でございますが出てくるわけであります。こういたしますと、自立経営農家たりがたい農家自立経営の規模まで引き上げるという努力は、価格政策の中にはほとんどと言ってもいいほど盛り込まれてないのではないか、こう考えるわけであります。  では、その次に、価格政策では不十分ではあるが、他の政策、方法によってできるだけ多くの農家が没落しないように引き上げていくためにどういう施策が用意されているかということを調べてみる必要があるのではないかと思います。その点をいろいろ読んで模索したわけでございますが、一つには、非常に大切なことは、例の選択的拡大生産ということであろうと思います。この選択的拡大生産につきましては、もう国民が消費することがなくなったというような農産物まで作れとか、そういう農産物まで政府が価格を支持して買えというようなことは、これは消費の実情から考えまして不適当なことではございますが、ただ、その選択的拡大生産の方向というものがどのような工合にどういう階層との関係で現われてくるかという点は、やはり実証上の問題として十分検討してみる必要があると思います。最近非常な問題になっております大麦、はだか麦政府制限買い入れの問題を取り上げてみますが、この麦類を作っている農家が全農家の中でどういう割合を占めておるかということを、たとえば農家農産物の現金販売の収入割合などで取ってみますと、やはり、麦作の現金収入が比較的多い農家は下層の農家に多いのでございます。また、その他価格支持政策で問題になっておりますカンショだとかバレイショとかいうものも、比較的経営規模の小さい農家の方がたくさん現金収入を得ておるという状態になっております。とのような状態のもとにおきまして、十分な転換政策が行なわれないで、たとえば大・はだか麦に現われましたように、かつての強権供出による方法を裏返ししまして、政府が上から市町村を通じて農家に対して買入量を制限していく、こういう強制的なやり方では、農民の自由意思に基づく自由な農業の発展方法を願う作付転換ということは、ほとんど不可能ではないかと思います。しかも、その際、私ども言うのでございますが、一反歩二千五百円で麦作から追放されていくということでは、それでは農民は安んじて政府基本法に対して期待を抱くことは非常に困難であろう、こう考えるわけであります。  次に、やはり、自立経営農家になるためには、午前中の公述人の御意見にもありましたように、農地を取得する資金あるいは農業の装備を高度化する資金が必要なのでありますが、自立経営農家たりがたい下の方の農家にとりましては、規模を大きくするとかあるいは機械を導入するとかいう前に、まず何よりも自分の農民としての生活を維持していくということこそがまさに重大な問題なのでございます。そういった関係から、政府で行なってきました融資制度の中から一つの問題を取り上げてみますと、自作農維持創設資金というのがございます。御承知のように、この自作農維持創設資金は、零細な農民が病気や災害やその他生活上の困難に出会った際に、生活維持資金として借り、そして苦境を幾らかでもやわらげるという作用を今までこの資金制度は果たして参ったわけでございます。この資金の中で占める生活維持のための資金の貸付割合は、御承知のように、約七割で、土地取得等に、つまり経営拡大等のために貸し付けられた資金の額は約三割というのが、今までのおおよその実績でございました。しかし、三十六年度の農林予算を作るにあたりましては、資金のワクはなるほどふやされましたが、今までのその貸付実績を逆転させまして、土地取得の方に七割を貸す、生活維持の方は三割であるということになったわけでございますが、この問題一つを見ましても、いかに下の方の農家が困難にあい、上の方の比較的いい農家が上に引き上げられていくという政策が具体的に実行されているかということが指摘されるわけであります。  なお、もう一つ、この基本法関連法律として見のがしてならないのは、農業近代化資金制度の問題でございます。この資金が、国が利子補給しまして、実際に農民は七分五厘で借りられるというような、そういう問題点については、先ほど秦さんが公述されましたので省略いたしますが、いずれにしても、この資金を借りられる農家ははたしてどの程度の層の農家であるかということを考えてみますと、やはり、自立経営たりがたい下の方の階層の農民には非常に借りにくい資金であると私どもは考えます。特に、農協がこれを貸す際に、限度一ぱい二百万円貸すというようなことは、ほとんどあり得ないと思います。かりに百万円を借りたといたしましても、それに七分五厘の利子をつけて十年間で払えるだけの経済余剰を持つ農家が全階層の中で一体どのくらいあるかということは、これは農家経済調査を調べましてもほぼ想定がつくことでありまして、私の大ざっぱな見方によりますと、大体三町歩程度以下の農家は、この資金を返すだけの経済余剰は持っていないのではないか、こう考えられるわけであります。  このように、下の方の階層の農家にはなかなか自立経営にはい上がっていく政策が具体的には用意されていないと見られるわけでありますが、そこで、このような自立経営たりがたい農家はどういう方向へ持っていかれようとしているのかということを政府の御提案の中で拝見いたしますと、その提案理由の説明の中に、自立経営になりがたい経営につきましては協業によって初めてその発展の可能性が生まれるのであります、というように書かれておりますように、自立経営たりがたい農家は、協業化することによって自分の農業を守り、そうして所得を高めていくことが期待されているのではないかと思うわけであります。  そこで、しからば、協業に入っていくこういう零細な農民は、協業の中でどのような地位に立つかということを考えてみる必要があると思います。私が申し上げるまでもなく、生産組合におきまして、それに参加する個々の組合員の権利は、その生産組合の事業に従事する権利、つまり、事業従事権が平等であって、この事業従事権に従って報酬を受けるのが生産組合の原則でございます。この報酬は、その生産組合があげました余剰、——利益でありますが、利潤が配当されるわけでありますが、その配当の中には、利潤部分として出資に応じて配当されるものと、事業に従事した報酬、すなわち労賃部分が含まれるわけであります。ところが、農業生産法人に関連した法律、たとえば農地法の一部を改正する法律を拝見いたしますと、その法人に利益がある場合には、まず出資に応じて配当し、なお余剰があった場合にはその従事量に応じて配当すべしという規定が盛り込まれております。これは農協法の改正の中にも書いてございますが、生産法人に参加して、その出資の額に応じて配当を受けるとなりますと、やはり、零細な者は零細な出資しか行なえない、大きい者は大きい出資を行なうということで、その出資配分の中にすでに零細な農民とそうでない農民との判然とした区別が出てきまして、零細農は、生産法人に参加するにあたりましても、すでにその零細であるということが前提になって低い地位に置かれざるを得なくなるわけであります。しかも、余剰があった場合、労賃部分に相当する剰余が配当されるわけでありますが、ここで私どもが注意いたしたいのは、それではそのような生産法人に参加した零細な農民にどのような賃金が保障されるのかということが問題になると思います。農業基本法案の中にはこの点は触れられておりませんが、たとえば、例の基本対策、あるいは農林省基本法に関する第一次案を見ますと、生産法人に参加する農民の賃金は、その農民が居住する近傍の賃金水準を与えることが適切であるということがうたわれております。そういたしますと、生産法人で働く農民の賃金は、現在の非常に安い農村の日雇い賃金並みの低い賃金しか保障されないということになりまして、ここからも、生産法人に参加する零細農民所得の保障、ましてや所得向上ということは期待できないのではないかと考えられるわけであります。  なお、この生産法人の問題に関連してぜひともわれわれが注意いたさなければならないことは、御承知のように、農繁期近くになりますと、農村では、農業委員会農業協同組合が協定して、農業の日雇い賃金をできるだけ安くきめるという慣行が最近行なわれております。そういう客観的な背景をもって考えてみますと、生産法人ができた場合、そこで働く農民の賃金につきましては、いわゆる業者間協定による最低賃金というものが広く現われてくるのではないか、こういうように、私たちは非常に危険に感ずるわけであります。従って、この生産法人に参加する農民の労賃を保障するためにも、やはり、全国一律の、たとえば八千円というような最低賃金制を政府において確立し、そうして農民労働所得を保障するという政策が用意されなければならないのではないかと考えます。  時間が参りましたので、あと一つだけ申し上げます。  以上のように、自立経営農家たりがたい農家が発展していくべき具体的な方策につきましては、何ら具体的なものが用意されていないどころか、解釈によっては、私が今申し上げたような政策方向すら打ち出される危険があるわけでありますが、さらに全体の農民にとって重大な関心は、農産物の価格の保障だけではなくて、農民が買う肥料とか農機具とかいう生産資材についての問題も重大なことになるわけであります。それにつきましては、政府提案の中には、農産物の取引の近代化とかあるいは関連産業の発達ということだけが言われておるのでありまして、具体的に、たとえば明治、森永、雪印というような三大乳業会社を相手にして苦しんでおる農民に対して、こういう取引関係を農民のためにどのように有利に発達させていくかというようなことは何ら触れておりません。ましてや、肥料問題におきましては、御承知のように、三十五肥料年度における硫安価格すら、肥料メーカーの言い分によって、現在まで、暫定価格・暫定価格ということで、価格が決定されないままに放置されております。こういうような点を排除する、すなわち、社会的・経済的な悪条件を排除するのでなければ、やはり農民の地位、そして農業の発展ということも保障されないのではないかと思います。  なお、牛乳については、畜産物価格安定等に関する法律が用意されておりますが、これすらも製品価格の支持でありまして、具体的には、農民が毎朝しぼる一合々々の牛乳の価格を支持する法律にはなっておりません。ましてや、聞くところによりますと、この法律を用意するために、農林省畜産局が予算折衝の過程で大蔵省とかわした黙約があるそうでございますが、真偽は私存じませんが、それによりますと、たとえば、バターは二百円から二百三十円とするというような黙契がかわされたそうでございます。もしこの二百円ないし二百三十円から集荷費を引きますと、牛乳一升は四十円あるいは三十五円ぐらいに下がるのではないかと考えられます。そういたしますと、牛乳の生産費は五十五円から六十円ぐらいでございますから、これだけを見ましても、この畜産物の価格安定のための法律ができても、やはり、農民は明治、森永あるいは雪印などから乳価を安く買いたたかれるという事態を防止することはとうていできないのではないかと思います。こういう取引上の非近代的な関係は、専売制度になっておりますたばこについても、そういうことは言われます。  その他、いろいろな特殊農産物についてこういう非近代的な取引が行なわれているのでありますから、これをぜひとも農民の手に奪い返して、農民が価格決定について発言権を持つような取引制度の確立がぜひとも必要であろうと思います。その点では、やはり、私は、社会党案におけるように、農民に団結権を保障し、そういう価格交渉の中で団体交渉、そして団体契約ができるような、そういった農民の基本権利を保障する、そういう法律案こそまさに望ましいものではないかと存じます。  言い足りない点はございますが、私の公述を終わります。(拍手)
  74. 坂田英一

    坂田委員長 次は、川野重任君。時間がありませんので、二十五分程度お願いいたします。
  75. 川野重任

    ○川野公述人 なるべく簡単に申し上げます。  初めにお断わりしておきたいのでありますが、私は自民党の推薦ということで本日まかり出ておりますけれども、内容的には賛成のみしておるわけではございません。坂田委員長から出席についてのお話がございましたときに、いずれの党でもなしにみずからまかり出て意見を述べるという形もあるがどうかというお話がございましたが、私といたしましては、ほかの機会に私見は申し上げておりますし、しいて私みずからまかり出て意見を申し上げるというほどの気持もなかったものでありますから、むしろ事態をすなおに受け取りまして、自民党推薦けっこうでございます、こういうように申し上げたわけでございます。呼ばれれば、社会党であろうと自民党であろうと、意見は申し上げさせていただきたいと思っておるわけでございます。あらかじめ御了承いただきたいと思います。  本日の意見の開陳の対象といたしましては、主として内閣提出農業基本法案の方を対象といたしますが、私の見るところでは、これは農業基本法案となっておりますけれども、中身を分けてみますと、実は農業流動法案というものと農業保護法案というものとの二つが合体したものである、こういうふうに考えるわけでございます。  農業流動法案と申しますのは、御存じの通り、急速な経済成長に伴いまして、農業の国際的あるいは国内的な地位というのが変わりつつありますが、それをささえる制度・政策というものが非常に固定化する傾向が、これは日本だけではございませんが、世界的に強い。それが国民経済全体の成長を促進するについては障害になるということから、そういう障害になる条件を経済成長に即して漸次直していくというととろに流動化を必要とする意味がある、こういうように考えるわけであります。この法案一つのねらいは、そのように、農業の体制を制度的に政策的に各方面におきまして流動化するところにその焦点があるのではなかろうか、こんな感じがいたすわけであります。そういたしまして、その点につきましては私は賛成でございます。  この法案の中には、他産業との間における生産性の格差の是正というようなことで現われておるかと思いますが、私は、それはまさに流動法案の本質を示すものではないか、こう思っております。そうしまして、これに対する規定のいたし方といたしましては、何よりも、他産業との間の生産性の格差をなくするという点に具体的な目標を置く。それから、それを実現する基準といたしましては、制度というもの、あるいは政策というものを毎年もしくは定期的に反省していくという体制を用意しておられるということ、言いかえれば、毎年の農業情勢報告で、昨年度の政策はこれこれでこういうふうな成果をもたらした、来年度はこれこれしかじかの観点からこういうふうにしたいという報告が国会でなされまして検討される由でありますが、それはいわば制度の固定化を防ぐという意味におきまして、私は非常に貴重なことではないかと思っております。  さらに、価格政策につきましては、第十一条でありましたか、これまた定期的にその総合的な検討を行なうということになっておりますが、これまた同じ趣旨だと思います。  そういう意味で、農業の体制を流動化する、それによりまして農業生産力も高め、同時に国民経済全体の生産の水準を高めるということをねらったものかと考えますが、その点では、私は従来どこの国におきましても当面しております問題を解決する法的な体制を準備するものとして、賛成をしたいと思うのであります。  それから、農業保護法案と申しましたのは、これにあわせまして、目的のところで、他産業との間における所得並びに生活水準均衡の維持ということをうたっておりますが、これはまさに農業保護法案にほかならないと思うのであります。そうしまして、これはまさに革命的な立法ではないかというふうな感じすら私は持っております。それと申しますのは、もし生産性を高め、他産業との間の格差をなくいたしますと、同時に所得生活水準のバランスがとれるような感じを一見受けるのであります。これは、農業と非農業との間で財産所有の関係その他が全く同じであるならば、私はそういうことになると思うのでありますが、御存じのような社会環境のもとにおきましては、前者を実現すること必ずしも後者を保障しないという感じがするわけであります。従いまして、この法律も、前者を条件として後者を実現するというふうに読むのか、あるいは、両者を並行して、並べて読むのかということで、読み方によって差が出て参りますけれども、もしばらばらに読むならば、この二つのものはむしろ異なった観点に立っている法律である、こういうふうに考えてしかるべきかと思います。  しこうして、農業保護法案としてこれを見ました場合に、これも私は賛成なのでありますが、保護の基準、あるいは農業に対する助長政策の基準というものは、他産業との間における所得のバランスを維持するということで明確にその基準を示しております。ただし、その方法はということになりますと、毎年の農業年次報告というものによって国会で検討されるということで、これまた具体的な場に即してその方法というものを検討しようという態度をとっておられるかと考えます。これにつきましても私は賛成でございますが、賛成というゆえんのものは、目標がはっきりいたしておりますれば、その目標実現のための手段というものは、その時々の、あるいは技術の条件、あるいは景気変動その他の情勢の条件というものによりまして、かなり弾力的に変えて考えなければ、一時的にこの方法でやれば必ず所得均衡が得られるという特徴のある具体的な政策はないのではないか。そういう意味におきまして、その検討の場をこれまた法律において用意されていることはけっこうなことだと思うのであります。  ところが、問題はそれからであります。そういう目標の設定におきましては、個々に考えますると、いずれも現に問題になっている問題を取り上げたわけでありますから、非常にけっこうなことだと思うのでありますが、それを実現する手段というのは、先ほど申し上げましたように、その時々の情勢によってかなり違って参ります。ところが、あるいはこれは私の読み違いかと思いますが、この法案の中にその目的実現のための手段と思われるようなものが、二、三出ておりますけれども、この具体的手段がこの法案の中にうたわれるとなりますと、第一の流動政策中心にした政策というものと、第二の保護政策を基準にいたしました政策というものは、どうしても食い違いが出てくると思うのであります。その食い違いをなるべく避けながらこの規定が考えられておるとは思いますけれども、こまかく言いますると、どうもそこのところがしっくりしないのではないか、こういうふうな感じを持つ点が若干あるわけであります。従いまして、私の個人的な感じといたしましては、こういう具体的な措置につきましての規定というものは、むしろ個別の法律に譲りまして、そこで個々に処理をされる、それで個々に処理したものの総合がこの法律にありまする年次報告において十分にこれを検討されるということになれば、私のような疑問が出てこなくて済むのではなかろうか、こんな感じがするわけです。  これが法案についての私の所見でございますが、運用上一、二特にどういうふうになるだろうという疑問と申しますか、さらに具体化の段階で考えていただいたらと思う点がございます。  それは、第一には、所得均衡ということをうたっているのでありますが、具体的に所得均衡が得られているかどうかということの判断をどのようにしてやるかということで、たとえば所得指数というふうなものでも作るのかどうか。作りまして、その所得指数のたとえばギャップがある場合にどこか手を打たなければいかぬと思うのでありますが、その手を打つ具体的な手段というものはやはり考えておいてしかるべきではなかろうかという感じがいたします。これはごく一般的なことであります。  その次には、第一の観点を強調する場合におきましては、結局、需要のない農産物はあまり作らない、賃金格差があればむしろ人間はそこへ流れていくということで、全体としては生産性が高まるのではないか、こういう考え方がどうしても出てくるわけでありますが、その場合、労働力流動の阻害条件になるものを除くことがどの程度までできるかということであります。つまり、教育をすれば農民技術教育を身につけまして工業の方にどんどん移っていく、それによって過剰人口がなくなりまして所得均衡が得られるということになるかどうか。私の一番の問題点は、経済の成長が比較的緩慢でそれほど急速に労働力の再配分を必要としないという場合におきましては、まあまあ問題ないかと思います。たとえば、御存じの通り、フランスのごときは、比較的に農工業間に所得の格差がないとされておりますが、それをもたらしている条件の一つは、やはり、経済の全体としての成長率が低いということ。むろん、これには、農産物の価格の維持、あるいは国内農業の関税による保護、あるいは農村の人口の増加率の低さというもの等、いろいろと条件がございまするけれども、やはり、一つには経済成長のテンポがおそいということでそのような事態が実現しておるわけであります。日本のように経済成長の率が高い場合におきまして、下手をいたしますると、いわば中年の農業者も転業を余儀なくされるほどの所得格差というものが場合によっては出てこないこともない。つまり、ほうっておけば出てこないこともない。その場合に、むろん、第二の所得均衡という規定がありまするから、これによって是正されるとは思いまするが、その点について具体的にどのような措置を考えるかということ。これは法律の問題ではありませんが、そのあとにすぐ続く具体的な政策の問題としてやはり考えられてしかるべきではないかという感じがいたします。  その他、農地相続における自由相続制的なものも考えられておるやに法文の中では拝見するわけでありますが、これは一つにはこういう問題をあえてこの法律の中に織り込む必要があるのかどうか。つまり、自立経営をうたうにいたしましても、それを実現する手段というものは、そのときどきによって私はずいぶん違ってくるんじゃないかと思います。そうなれば、これはむしろ個別の法律に必要ならば譲る。たとえば、どんどん人が出ていく、残った農場の整備をしなければいかぬという場合におきましては、その農場を相続するという特別の措置というものはあってしかるべきかと思います。そのようなものでこれを考えていいんじゃないかというふうな感じがいたしますが、根本は所得均衡を言うがゆえに、いわば均分相続の体制を部分的ながら変えましてこのような措置を考えることについては、残った者はどうするのだろうというような質問すら出かねないのであります。だいぶ無理があるんじゃないだろうか、こんな感じがするわけであります。  社会党の案も拝見いたしたのでありますが、せっかくの機会でございますから一言申し上げさしていただきます。  社会党の案についての私の感じは、先ほど申しましたように、法律の眼目といたしましては、私は両者相共通していると思います。ただ、実現する手段につきまして意見が異なる。その異なったものが法案として織り込まれているというところに対立点が非常にあらわになっているような感じがするのでありますが、しかし、詰めてみますと、それほどの差もないのではないかと思います。しかしまた、それをもう一歩突っ込んで考えてみますと、私は、そもそも政党の立場が違えばこれは違うことは当然だというふうな感じがいたします。そういう意味で考えますならば、まず、目的の一致というところで、つまり、争点のあるところを除きまして、まずこの憲法を作る、それからあと、先ほど申しましたように具体的な法律におきまして具体的な措置がなされるわけでありますが、その場その場において問題が争われ、検討されるということで、せっかくここまで来た法律——私は、さっき申しましたような趣旨で、非常に革新的革命的な法律とすら考えてもよろしいかと思うのでありますが、そういうものは、やはり、機会を大事に利用するというか、生かすことがやはり国民としては望ましいのではないか、こんな感じがいたします。(拍手)
  76. 坂田英一

    坂田委員長 次は、小林慧文君。
  77. 小林慧文

    ○小林公述人 私、小林慧文であります。私はきょうは社会党の方の推薦で意見を申し述べよということでございますが、実は、私は、産業組合青年連盟当時から二十年にわたって労政運動を続けておりますけれども、きょうまで不偏不党の立場で組織運動を続けて参りましたから、あながち社会党案をほめるということではなくて、真実、あの法案を拝見いたしまして、熟読いたしますと、眼目は、やはり、各弁士が申し述べられたように、大差ないように思います。しかしながら、具体性と申しますと、やはり社会党案の方が一歩進んだ感じで、おそらく農民諸君が読んだ場合におきましては、アピールは社会党案の方が受けるのではないかという感じを私は端的に強調して申し上げるのであります。従って、私は、きょう政府案社会党案を比較検討して意見を申し述べるということは差し控えまして、眼目になるところの流れる目的と申しますか、そういう点において、ほんとうに農民立場から諸先生意見を申し上げてお願いを申し上げたい、こういう気持であります。  そこで、私は、声なき声を聞いて、日の当たらないところに日の当たる政治を行なうという慈悲心を持った農政というものがおそらく農民を心から動かすのではないかということを感ずるのであります。諸先生が、その意味を体しまして、やはり曲がりかどに来た日本の農政を建て直す意味において御苦心なさった点においては、組織として感謝申し上げなければならぬと思います。  ただ、ここで、いわゆる都市と農村所得均衡の点について、ほんとうに農民立場から考えた場合、たとえば二町という限度にして所得を倍にできるかどうか、自立経営になった農家がはたしてその所得において都市と農村均衡のとれるような増加ができるかという点につきまして、これは農業近代化あるいは生産性向上ということでできないとは言えないと思いますけれども、どなたであったか申し上げたように、生産性向上のために、量を増大したためにむしろ価格が下がって所得が減るじゃないかというような御意見も拝聴したのでありますけれども、私は、農村農産物がまさにその通りだというふうに考えます。三重におきましても、農産物は一割増産すると半値になる、二割増産したらただになるという言葉が昔からはやっておりますけれども、全くただになった例はたくさんあるわけであります。これは、もちろん、基本法の中に、構造の改善とかあるいは需給のバランスの点、価格の点等に触れて総合的に出てはおりますけれども、そこで所得倍増を二町ではとうていできない。米麦作を中心とした農家では、これは自立農家もあやぶまれるという点も申し上げなければならないのであります。  そこで、貧農切り捨てというような言葉が、社会党の方のお話、あるいはまた新聞でもちょいちょい見ますけれども、私は、今度の案でいきますと、貧農切り捨てではなくて、中農切り捨てになるのではないかということを心配するのであります。それはどういうことかというと、二町以上作っておるところの農家はやや安定はいたしておりますけれども、一番不安定なのは七反ないし一町二、三反になるところの農家でありますが、この農家が大体三分の一を占めております。この三分の一の農家は、ほとんど借金で生活を営み、また生産にも従事しておるわけでありますが、だから、農業協同組合の貸付の対象を見てみますと、貧農々々と言われるところの六反未満とかいうような方たちは決して借金をしてない。むしろ預金をしてもらっておるお客さんになっておるわけですね。それは、主人がたまたま工場に働き、あるいは官庁に勤め、家内に百姓をさしておりますから、食べるだけはあるし、さらにまた多少売るものも出てきますから、月給なり日給がそのまま小づかいになっておりますから、だから、私の組合の例をとって申し上げますと一番よくわかりますけれども、五百五十戸の部落でありますけれども、このいわゆる農業収入と他の収入を比較してみますと、農業収入が約七千五百万円、それから月給等によるところの収入が七千五百万円、ですから、大体半々の比率を占めております。従って、その約一億五千万円の収入のうち、貯金として一千万ないし一千五百万ずつ増加して参りますけれども、その増加していく対象が、やはり六反未満程度の月給取りの飯米百姓の人たちで、この方がむしろ楽に、しかも文化的な人間的な生活を営んでおるのであります。だから、耕地の少ないという点からいきますれば、貧農切り捨てじゃなくて、先ほども申し上げたように、八反以上一町二、三反の農家の人たちが約五千万円からの借金をしておるのでありますけれども、この借金を背負っておるのに、農業近代化をするためには資金の問題も出て参りますし、長期低利の融資等の問題も出て参りますけれども、これらの農家はすでに農協の貸し出しの対象から脱落しておるのであります。そこで、近代化資金が貸し出されて参りますけれども、これも、そういう個人の共同化のために貸し出す場合におきましては、すでに限度超過になっておりますから、その組合員を対象として貸し出すことは非常に不安を感ずるような状態になって参ります。私は、この農業構造、生産構造の改善と申しますか、そういう点につきましては、むしろ中農の方たちをいかにして救うかというところに基本法の重点が置かれなければならぬ、こういうふうに思うのであります。従って、これらの人たちが、二町と申しますか、そういう目標で自立農家を創設するという場合におきまして、田を一町しかないからあともう一町買わなければならぬという方たちは、はたしてあと一町歩農地を購入する資金が得られるかどうかということに非常に疑問を持つのであります。また、資本を投下する場合におきまして、私どもでも、ほんとうに純農家でいきますと、むしろ土地の取り手がないということになる。買い手がなくなるということです。それはなぜかと申しますと、買わなくても、人に所有をさして、反当千五百円の小作料を納めておった方がどれだけ収入になるかということを考えますときに、一反で二十万円も資本を投下して買うよりも、むしろ千五百円の年貢を払って作っておった方がどれだけ利益になるかということになります。税務署の査定におきましても、一反の収入というものが、表作が二万円、裏作が五千円、二万五千円になるのです。二万五千円ということになれば、二十万円資本を投下する場合、むしろ証券かあるいは株式に投資しておいた方が、一割配当があるので、だから働かずして利益が得られる。その二万五千円というものは、自分の労働の報酬として出てくるのでありますから、何を好んで二十万円というような莫大な資本投下をして、原始産業・原始産業と言われておる農業に投資をして、はたして近代的な企業として成り立つような経営ができるかということになると、私はできないと断言せざるを得ぬのであります。従って、私は、今度の農業近代化の進め方につきまして、二町程度自立農家を創設されるということはけっこうでありますけれども、しかし、所得増大につきまして、二町作っておる農家が、それじゃはたして年間五万なら十万なりの所得増大をすることができるかといいますと、現状では不可能です。なぜなれば、米価におきましても、あるいは他の農作物におきましても、決して値が上がっていない。米価のごときは、昨年は、確かに一石で七十何円上がりました。その前は五十銭一石で上がっておりますが、これだけの値上がりで、二町の米作をしておる農家所得増大していくということは考えられない。それじゃ畜産に転向したらどうかと言いますけれども、二町を作っておっては他のものに従事することは不可能であり、労働力からいきましても、それに回ることは不可能に思います。こういう意味から、農業近代化を進めるについては非常に問題点が残っておるということを、意見として申し上げ、これらの中農をいかにして救うかという点が、今後の付随法案等が出て参りましょうが、やはり、これらの対象を、負債整理組合法とかそういうような法律のもとに、まず負債を整理してやった後に、二町なら二町の自立農家を創設していくというふうに持っていかなければ、もう限度を超過して、貸し出しの対象にならない農家になっている。これを救っていただくように何とか考えていただきたいということが、一つの申し上げておきたい意見であります。  それから、次に、農産物の価格安定の問題でありますけれども、午前中にも、生産費及び所得補償方式でというようなお話がございましたけれども、これは当然農民の要求として出てくるわけであります。従来の米価の決定をめぐりまして、われわれ大会を開き、また組織を代表して再三陳情申し上げておったのは、やはり、生産費並びに所得が補償されるような方式で価格を決定していただきたいということを頼んでおったのでありますが、今度も価格の安定ということが書かれておるようでありますが、しかし、私は、ここで御指摘申し上げたいのは、それでは過去には農産物価格安定法がなかったかといいますと、現在あるのです。しかも私が苦い経験をなめておるのはサツマイモの場合であります。間接ではありますけれども、澱粉を買い上げる場合におきましては、たしか二十二円四十銭と記憶しますけれども、これこれの値段で買ったサツマイモで澱粉を作った場合に政府が買い上げるということですから、間接的に価格は支持されておるけれども、何ぼ政府に陳情し、また運動いたしましても、昨年、一昨年を通じましても、十五、六円、あるいは高く食料用で売れても二十二、三円でしか売れなかったというのが現状でありますし、また、たしか昭和二十三年と記憶しておりますけれども、菜種が農産物価格安定法の対象にしてもらったのを覚えておりますけれども、その場合、政府の買上価格はたしか三千百円か三千三十円と覚えておりますけれども、それも下がった。それで、全販を通じて政府に陳情申し上げたところが、予算がないから買えない、全販でそれを買って貯蔵しておけというようなことで、一向進捗しなかったのでありますけれども、過去に、こういう農産物価格安定法という法律で保護されておりながら、そういう恩典に浴しなかったという例があるわけでありますから、今後決定されるところのいわゆる農産物価格の安定をさせる場合、自由価格の安定といいますか、そういう場合におきましては、もっと適切な、ほんとうに農民のきめた値段で十分買い上げてもらうような制度にしていただきたい。聞くところによりますと、西ドイツにおきましても、アメリカにおきましてすらも、そういう制度が農業基本法の中に盛り込まれておるということを、私は直接聞いたのではありませんけれども、視察に参った人の話を聞きますと出ておるようでありますから、価格の支持制度というものに対しましては、どうか一つ農民期待を裏切らないような制度にしていただきたいということで、この点をお願い申し上げたいと思うのであります。  さらに、農地信託制度を設けるということがありますけれども、これは私は従来から反対を続けてきたのであります。すでに私はにがい経験をなめてきておるわけです。つまり、私の組合員で一町五反作っておるじいさんですが、ばあさんが寝てしまったものですから、その農地を手離したくないし、それかといって小作にやらしてしまえばもう返ってこないのだから、農協で責任を持ってこれを作ってもらいたいという申し入れを受けたのでありますけれども、これは法律の示すところでできない。従って、新たな人たちに頼んで作ってもらうように話をしたのでありますけれども、その場合も、農協にたとえば反当十五万円なら十五万円というもので買い上げてくれ、農協だったらよそに売らぬのだから、もし病気がなおったら返してもらいたいということを申し入れてきましたが、そうすると一万五千円金利がかかるであります。しかし、農協がこの土地を信託されて他に作らした場合におきましては、法定の小作料はきまっておりますから、それを上回って貸すことはできませんから、やむなく親戚の方たちを頼んで、どうか一つ年寄りの人たちを食わすと思って、千五百円の小作料であるけれども、食べるだけの食糧を補給してやるという約束で管理してくれぬかということを頼み込んだのでありますけれども、もし今度信託制度ができた場合、具体的に信託をさせるということは書いてありますけれども、もし信託されて離農していく方に十五万円なり二十万円の価格のものを立てかえて払った場合、農協は結局二万円という金利をもらわなければなりません。しかしながら、それを頼んで農家の方たちに作ってもらった場合、二万円の金利に該当するところの小作料が取れるか取れないかというところに疑問があるのであります。おそらく千五百円の法定によるところの小作料しかもらえないということになりますと、二万円というものに対しましてはほんとうにスズメの涙ほどの金利にしか該当しませんから、こういう信託制度ができた場合、付随の法律は出てこようと思いますけれども、そういうような具体性に欠けておるのではないか。具体的にそれが信託制度をやった場合におきましては、農協にこれだけの信託料といいますか、そういうものを支払うことをきめておられなければ、安心して信託を続けることはできないのであります。  それと、生産性向上の問題ですが、機械化等の導入ということがありまするけれども、私は、この機械化につきましては、二町を作っているものを対象としての機械化なれば、これはできるかもしれませんけれども、山間僻地あるいは海岸線——三重県は海岸線もありあるいは山間も多いわけでありますけれども、そういうところで機械化なんということはおそらく考えられない。近代化ということは考えられない。なぜならば、一反の田が五十枚も六十枚にも分かれておる。そういうところに一台機械を据えてバタバタやってはまた移す、こういうような機械化は考えられません。だから、農山漁村の僻地の近代化をどうするかということについても触れてみえられない。近代化はするけれども、どうやってやるということは示されていませんから、これらに非常に不安を持っているわけです。だから、農民としては、今、期待をしておる階層と、あまり期待をしてない階層と、二つに分かれております。私たちはあまり期待をしない方の階層になっておるのですけれども、この基本法は、金科玉条の読本ができたから直ちに農民は救われるということには考えておらない。ところが先ほど申しました一町前後の、借金をして苦しんで苦しんで苦しみ抜いている方々は、この基本法ができたら立ちどころにわれわれの苦しみは解消するのではないかというような待望の気持を持ってみえるのであります。そういう階層は、おそらくこれが具体化されて参りましたときには非常に失望するのではないか。先ほど申し上げました農産物価格安定法の問題をとりましても、それから、中村迪さんの触れられた畜産物価格の安定にしても、これは私たちもあれの要綱を見せてもらいました。また、農民大会で私も農林省に陳情に行きましたけれども、確かに乳の価格は四円に満たない。これは北海道が対象だというふうに言ってみえたけれども、北海道は自給飼料問題が解決されておりますから安価にできましょう。しかし、内地では自給飼料は非常に少ない。わずか一割ないし二割しか自給飼料を使っておりません。養鶏のごときは一割にもならない。それだけの自給飼料しか使っていないのですから、購入飼料にほとんど依存をしているのであります。その購入飼料たるや、飼料の需給価格安定法ですか、そういうものがあるそうでありますけれども、需給価格安定法に従って審議会ができて審議されておりますけれども、決して安い飼料というものはわれわれの手に入ったことはない。ますます高騰してくるばかりです。私も鶏を飼っておりますけれども、たしか三月の末には成鶏の配合飼料が一袋七百円で買えていたが、一日違いで七百三十円に上がっております。まだ上がる傾向にあります。また、ふすまのごときも、御承知の松阪牛の飼料として作っております。その本拠が私どもの地方でありますけれども、これとても、飼料が高いために、何ら肉の価格の安定、また畜産の振興というものは考えられないのでありますから、所得をふやすためには米作あるいは麦作では困るから果樹畜産で伸ばしていくのだというようなことも聞かされておりますけれども畜産を農協として振興すれば、直ちに飼料の値が上がって参ります。また、子豚の値が上がって参ります。私どもも、共同化のために、すでにこれができる前に共同化を進めております。五戸で六百頭の養豚をやらしておりますけれども、これも振興させるために進めて参りましたけれども、多頭飼育でやりましたが、結局子豚が一万円、一万二千円という価格に高騰してしまったために、現在出荷をしておりますけれども、結局は一頭につきまして飼料代を差し引いて二千円赤字になっております。しかも、畜産物の価格安定法の肉の価格を見てみますと、キロ当たりがたしか二百十六円と聞いております。現在三百三十円あるいは三百四十円キロ当たり価格がしておりますけれども畜産物価格安定法の点では、先ほど中村迪さんがおっしゃったように、大蔵省に折衝をした過去三カ年の肉の平均値段はキロ当たり二百十六円だ、こういうふうに私も農林省から聞いておりますけれども、これじゃとうてい畜産振興などは考えられない。これだったら、私たちは、むしろ、何か食べる猛獣でもおったらただで食わしてやったらいいというような感じを持ちます。従って、ほんとうに農民が安心して畜産所得をふやすための畜産の振興ということを言います場合に、飼料の価格を安定させる、そして最低の肉の価格の保障をして、これならば農民が安心してほんとうに所得をふやし近代化を進めるのだ、こういうような具体的な指示を一つしていただき、具体的な法律を作っていただきたい。  この農業基本法はおそらく私は骨だと思っております。これに肉をつけ、あるいは枝をつけるということには、今後の立法に期待をしなければなりませんけれども、しかし、その立法につきましても、先ほどの例に引きましたように、価格安定法がありましても何ら安定に役立たないという点を一つ御留意いただきまして、先ほど申し上げたように、日の当たらないところに日を当ててやろうというような、こういうあたたかい気持で皆さんが基本法を作っていただくということについては心から感謝を申し上げておるのでありますから、全く日の当たるような法案を作って、そしてりっぱな親切な農政を進めていただくことを望んでおります。私は法案そのものについて批判は差し控えますけれども、具体的な問題を二、三取り上げまして意見を申し上げたのでありますけれども、それじゃ本国会で直ちにこれを通していただいて具体化してもらいたいという意見を申す段階ではないと思います。なぜなれば、もっと具体的に、ほんとうに農民が安心できるような法案を、いわゆる肉をつけて、そうして、これなれば君たちも安心できるだろうというような安心感を与えた上においてこの法の実施を私は望んでおります。従って、十分一つ先生のうんちくを傾けられまして、もちろん皆さんの力量はわれわれ崇拝しておる方たちばかりでありますので、そういう期待を裏切らないようにお進めいただくことを最後にお願い申し上げ、さらにもう一点申し上げておきますけれども、災害補償の問題は、確かに農林漁業基本問題調査会の答申には災害補償についても答申がなされておりますけれども、この法案にはまだ具体的に出ていないように思いますから、これも私は災害補償制度審議会の委員としていろいろ意見も申し上げましたし、また、衆知を傾けて答申もされておるのにもかかわらず、この基本立法、農業基本法の中にそういう点に触れてない点を一言だけ申し添えて、これも早くされることをお願い申し上げまして、簡単ではありましたけれども、私の意見を申し上げました。(拍手)
  78. 坂田英一

    坂田委員長 これより公述人に対する質疑を行ないます。  質疑の通告があります。これを許します。  なお、念のため、六時まで御勉強を願うこととすれば、約八十分でございますので、質疑の通告からみますと、一人当り十三分程度になりますので、御了承願いたいと存じます。  湯山勇君。
  79. 湯山勇

    湯山委員 委員長の御注意もございますので、質問を全部最初に申し上げまして御答弁をいただき、なお重ねて質問のある点はそのあとで明らかにいたしたいと思います。  最初川野公述人にお尋ねいたします。  きょうの御公述で非常に明確になりましたことは、政府基本法流動、保護、つまり生産性向上所得均衡、この二つのものを並立しておる、こういう明確な御指摘がございました。従来、けさほどの公述あるいは質疑の中でも、この二つが混同されて、生産性向上すれば当然所得均衡が達成されるんだというような議論が相当あったわけでございますけれども、この点が非常に明確になった点は大へんありがたいことだと思います。そうなって参りますと、具体的な政策を進めていく上において両者が必ずしも一致しない、つまり、矛盾して参る場合があると思います。そういう場合には、どうしても、政策、方法というものが一つということになれば、流動に対応する政策中心になって進められていく場合には、所得均衡、つまり生活面が犠牲になる。そういう場合も政府案の中ではあるということが考えられるわけですが、この辺のことをどういうふうにお考えでしょうか。政府案全体を見て、いずれに重点がかかっておるか、そして、その重点の置き場によっては、今あとで申しましたように、生産性向上ということ、つまり、先生のお言葉で言えば、流動化の面が重視される結果、後者の方が犠牲になる、そういう場合もあるんじゃないか。  なお、これに関連して、一つ先生は学者ですからお尋ねいたしたいと思うのですが、農業生産性というものの厳密な定義をお教え願いたいと思います。これは、従来非常にわかったようにして使っておりますけれども、そういうことを立ち入って考えていけばいくほどわからなくなってくる面が多うございまして、なかなかこれはむずかしいものじゃないかと思いまして、私も私なりにいろいろ考えておるのですけれども、学者である先生に、一つ農業生産性とはいかなるものかという明確な定義をお教え願いたいと思います。  それから、一楽公述人にお尋ねいたしたいと思います。  一楽公述人の御公述を聞いておりますと、両案とも一つすみやかに成立さしてもらいたいというような御意見じゃないかというような印象を受けまして、私どももその点では大へん意を強くしておるわけです。そしてまた、公述になられた要旨につきましても同感でございます。その御趣旨は、一つは、国策として国の責任において強力なしかも長期にわたる政策をやってもらいたい、それから、第二は、農業というものの特殊な立場農民の特殊な立場、そういうものを考えた場合には、やはり保護政策をやってもらわなければならない、こういう二つの点についてお伺いしたいと思うわけです。公述人は、最初まず国の責任あるいは国策として両案とも同じように御把握になっておられるようでしたけれども、前文を御指摘になりましたが、その前文の中では、公述人がお読みになった中でもはっきり区別がついておるわけです。政府案の方では、公述人がお読みになった最後のところは、「われら国民の責務に属するものである。」、こうこうすることは国民の責務である、こういうふうに書いてございます。これに対して、社会党案の方では、公述人がお読みになった締めくくりは、「国の政治の最も重大な責務であると確信する。」、こう書いてありまして、一方は国民の責任、一方は国の政治の責任、つまり、公述人がおっしゃった国策として国の責任においてやるべきだという点においては、はっきり区別がついております。具体的な面につきましても、政府が第二条、第三条に掲げておる国の施策というものについては、これも公述人はよくお読みになっておられるように、決して政府が積極的にこれらの施策をやっていこうというのではなくて、明らかに、第五条に書いてありますように、「国及び地方公共団体は、第二条第一項又は第三条の施策を講ずるにあたっては、農業従事者又は農業に関する団体がする自主的な努力を助長することを旨とするものとする。」、つまり、政府は主体的に責任を持って強力に進めていこうというのじゃなくて、農業従事者、あるいは公述人が属しておられるような農業団体がやっていく自主的にやることについて国はそれを助長するような方向でやっていくんだというように、間接的な施策という表現がしてございます。これに対して、社会党案では、はっきり、そういうことじゃなくて、国はこうしなければならないと、端的に国の責任を明確にしております。さらに、政府施策等につきましても、一方は単に国会提出するだけです。ところが、私どもの場合には、提出するだけじゃなくて、はっきり、国会の承認を得る、こういうふうに、行政機関だけじゃなくて、国会という議決機関もこれを承認をして、そういう強力な国の責任を明確にしておる。こういうことを考えてみますと、公述人がおあげになった国策として国の責任においてやるべきだという点においては、決して両案が同じではなくて、一方は今申しましたようにこの点が明確になっておりますし、一方はこの点が明確になっていないと思いますが、この点について公述人はどのようにお考えになっておられるか。  第二点は、保護政策でございますが、保護政策につきましても、今川野公述人も保護政策の面についてお触れになりまして、はっきり保護政策の面もこの中には出ております。しかしながら、その点についてはかなり違いがありまして、先ほど、基本問題調査会の委員であった田中公述人は、この点について、社会党の案は保護政策が重視され過ぎておる、もっと端的に言えば、そういう点では社会党の案は農民に迎合的である、こういう意味において田中公述人政府案の方を支持するのだということを大へん明確におっしゃっておられます。このように、見て参りますと、決して保護政策においても両者は同じじゃなくて、その間には、この両案に対する賛否を決定するその条件になるほど大きな違いがあるということを見て参りますと、公述人は両案とも保護政策というものが盛られておってけっこうだとおっしゃいますけれども、これもまた相当の差があるということになると思います。そこで、公述人はやはり何といっても農民の団体の代表でございますから、農民立場に立っていろいろ御公述になられたのだと思います。最後に両案について早く通せというふうにとれる御公述でございましたので、ここで一つはっきりそういう点での結論を述べていただきたい。これが私の質問の全部でございます。
  80. 川野重任

    ○川野公述人 お尋ねの二点でございますが、まず第一点は、政府案に見られる二原則が全体としてはどういうバランスを与えられているか、どういう地位を与えられているかというお尋ねかと思いますが、私の見るところでは、政府案には、両方とも入っていると言うほかないのですが、考え方としましては、第一の条件の実現を通じまして、第二の条件の保障確保を期するということではないか。しかしながら、生産性の格差を是正し、もってというふうになっていないところ見ますと、おそらく、それがつながらない場合におきましては、第二のやつは第二のやっとしてまた考えるということじゃないか、こう思っております。言いかえれば、前者を条件とのみしないというふうに読み取れる個所をあげてみますると、たとえば、農業生産性向上ということにあわせましては、農業生産拡大ですか、増大ですか、そういう言葉を使って、そのような規定をあげておりまするし、農産物の価格安定に続きましては、農業所得の維持という言葉を入れております。さらに、先ほどあげました経営の相続に際しましての細分化の防止ということ等も、私は必ずしも第一の条件の実現のために考えられた措置ではない、むしろ第二の点に重点を置いたものではないか。さらに、自立経営ということにつきまして、法案の中にはもちろんございませんが、二町歩とかいうふうな数字等も出ておりますが、これもやはり第二の観点を重視したものではなかろうかというふうな感じがいたします。  それから、第二の、農業生産性の問題でありますが、これはなかなかめんどうな話で、どういうふうにお答えしていいかちょっと戸惑いますが、まず、理想的な姿と申しますか、これは結局他の産業との間に生産性の格差はないということが一番理想的かと思いますが、その場合の格差のない姿というのはどういうことかと申しますると、働いた時間なら働いた時間一時間というものの労働賃金が同じである、その人の能力が同じならば同じであるというのが、私は農業生産性の実現の基準とすべきものではなかろうか、つまり、もうそれ以上どこへ移しましても、それ以上の賃金は得られないということになるわけです。しかしながら、その場合の水準自体を高める方法といたしましては、むろん技術水準が高まるということが必要だと思いますが、横との比較ということでもって、一応その生産性の高さの基準をそこに求めるということができるのではなかろうか、これが一点。その場合に、そのよって得られる農業所得の源泉たる農産物の価格なんでありますが、やはり、かかった経費でもって売って、全部が売れるというのが国民経済的にはむだがないということではないか、こんなふうな感じを持っております。  以上、二点、簡単でございますが、お答えといたします。
  81. 一楽照雄

    ○一楽公述人 私が両方通すように申したようなお話でありますが、そういうことは無理じゃないかと私は思います。そういうことを申し上げたつもりではありません。私が申し上げましたのは、前文の中の説明のところの説明の仕方等は相当違いますけれども、核心の結論のところは、両方とも私どもお願いしている趣旨と同じに理解できるということであります。やはり、今お話がありましたので、もう一度読み直して念を入れて見ましたのですけれども、片一方の方の最後は、「公共の福祉を念願するわれら国民の責務に属するものである。」、片一方は、「国の政治の最も重大な責務であると確信する。」、国の政治といいますと、今は主権在民でございまするから、やはり国民の最も重大な責務である。この点において趣旨は変わりはない。字句からいきますと、これは千差万別で、私は、字句の点まで私の好みで申し上げても仕方がないし、農民多数でございますので、この趣旨については、私は、互いに善意をもってやっていただく。ただ、両方通すというわけにはもちろんいかないと思います。しかし、この両方のどっちを通しても この趣旨は通るように運用されると思う。先ほど申し上げましたように、私は、自由党とせられましては、ここまで持ってこられるのに非常に御努力があったと想像いたしまするし、社会党の内部においても 従来の社会党のいろいろの経過から見ますると、相当御議論をせられてこられたものだと思います。私は、この席においての皆さんのけさほど来のいろいろの御議論の上での対立も、相当言葉としてはわれわれとしてもびっくりするくらいのお言葉がかわされておりまするけれども、しかしながら、皆さんお互いに従来農村のために御努力苦心さんたんされてこられたわけでございます。いかにも仲のよい兄弟の言い争いのような気がしておるわけでございますので、どうか、お互いに、その点については、この法律の問題は、今きめる字句の問題ではなくして、今後における運用の問題でございまするので、こういう審議の過程を通じて、今後の運用において、この党派どうこうということを越えて、一つほんとうに、長い間社会の下積みに置いてこられて、いかにも恩恵を受けておるかのごとくに言われてきておった農民に、もう少し明るい立場、もっと人間らしい立場を認めるように、お互いの皆さんの違った立場もそれをお互いに利用し合って、一つうまくやっていただきたいということをお願いいたします。(拍手)
  82. 湯山勇

    湯山委員 もう一回だけ。  川野先生、今おっしゃったように、別な角度から、かりに生産性向上のために所得均衡の方があと回しになった場合でも、他の方面でこれを救済する条項があるというような意味の御答弁でございましたけれども、そういうのでなくして、たとえば価格政策をどうするか、統制撤廃をどうするかという具体的なものになったときには、これはやはり二者択一という場合があると思うわけです。そういう場合には、先生のお考えは、どちらをとるべきだ、あるいは、この法案では一体どちらをとることがこの趣旨から言えば妥当だろう、そういう具体的な例ですから工合が悪いかもしれませんけれども、そういう意味のことをお尋ねしたいと思うのです。
  83. 川野重任

    ○川野公述人 先ほど申しましたように、第二の原則の救済の条件といたしましては、幾つかの施策をあげておるというお話だったのですが、私は必ずしもそれをその救済のための施策と思っておりませんが、基本的には、さっき申しましたように、やはり第一の原則が貫かれることによって第二の原則の実現ができるという面もあるわけです。ただ、問題は、常に必ず第一の原則の徹底が第二の原則の実現になるかというと、その保障はないことがある。にもかかわらず、法律がこれをうたっている以上は、どこかでその保障をしておるのだろうと、こう私は思います。保障する場合といたしましては、年次報告を出し、その年次報告につきましては、その法律の目的に照らしまして、これこれしかじかのことでやった、昨年はこうであったというようなことをやることになっておりますから、まさにこれは皆さんの間でそういう論議をされるのではなかろうか、そう思っております。どっちがいいかということはちょっと申し上げかねますが、目的におきましては、私はおっしゃる通りと思います。
  84. 湯山勇

    湯山委員 今の御答弁、非常に含みのある御答弁なので、これ以上この問題についてお尋ねしようとも思いません。ただ、お願いしたいのは、中央会の方で、上の方でいろいろおきめになったようですけれども、私ども、各県あるいは中央会の幹部の方々にも会っていろいろお話ししました。その御意見は必ずしも政府案に賛成ではありません。むしろいろいろな心配をしている向きが多いのです。上部の方だけで勝手にきめられるということについては、かなり末端段階では心配しておる向きもありますので、私も具体的なことは申しません。保護政策についても、もうお聞きしないことにして、十分一つ御配慮願いたいと思います。  以上で終わります。
  85. 坂田英一

    坂田委員長 次は、大野市郎君。
  86. 大野市郎

    ○大野(市)委員 時間の関係もございますので、いろいろお名指しして承りたいと思います。  最初に秦公述人お願いをいたしますが、承りますと、賃金の二重構造がすっきりしないと、この基本法が生まれても、うまくいかないだろう、こういうふうな形に今私ども受け取りましたが、それから、なお、そのほか、この問題に対しては、御承知のように、農政に対する国家保護の法律を作ろうというわけでございますので、国政はいろいろの場面を持っております。総合的な産業政策、総合的な社会保障政策、いろいろな政策があるわけでございます。そういう意味で、農政中心にしての法律でございますので、賃金の二重構造の改善ということは、その意味で産業政策の中で当然取り上げられねばならぬと思っておりますから、この問題と関連はあるでしょうけれども、法制そのものの価値においては、この法律の中でその部分が抜けておっても差しつかえないものじゃないかと思うのですが、いかがでございますか。
  87. 秦玄竜

    ○秦公述人 御質問は、私ども賃金構造の問題を強調しましたが、この賃金構造の改革ということがこの農業基本法の中に明文化されていないということであります。そういう工合に私が言っているがどうだということでありますが、私は、農業基本法の中にかりに労働政策あるいは賃金政策というものが明確にうたわれていなくても、場合によってはいいと思います。ただし、私が知っている限りでは、たとえば経済白書を読んでみましても、賃金構造について今後は二重構造を急速に改めるというような政府の方針は、少なくとも私はっきり見たことはないのであります。たとえば、今後の自由貿易について、日本で伸びていく産業はどういうものかというようなことを書いてあるところを見ましても、繊維産業だとか、あるいは雑貨だとか、あるいはトランジスターのような、非常に労働集約的なものを中心にして日本の貿易は伸びていくのだ、ということは、今私があげましたようなものはかなり低賃金労働が多いのでありますが、そういった低賃金労働に乗っかって自由貿易というものを今後伸ばすのだということが経済白書の中に明確に書いてありますが、もしそうだとしますと、これは、日本では、少なくとも現在の段階で日本の低賃金労働というものを改善していく、そういう何かはっきりしたものが私には感じられないのであります。そうだとしますと、おそらく、今後も、農村におけるそういう労働力流動というものが、私が希望しているような方向では実現しないのではなかろうか、こういうことを感ずるわけであります。そういう点が、何らかの形で、関連立法でもけっこうですが、明確に打ち出されているならば、私は安心しますが、私が知る限りでは、少なくともそういうことはないようでありますので、申し上げたわけであります。
  88. 大野市郎

    ○大野(市)委員 この基本法の問題につきまして私が申し述べたので、今の労働政策の問題で低賃金がだんだんなくなることを望むのは、所得倍増をうたっておりまするわが政府としましては当然考えておると思いますので、この点は一応それだけにいたしておきます。  その次に、秦さんと小林さんに承りたいのでありますが、自立経営農家の条件に伴いまして、また、そのほか予算の問題とかその他の畜産などの今まで政府のとり来たった実際のミスもございました。そういうことではなはだ不満であるので、それらをコンクリートにしたいという御説に拝聴しました。特にその後段の方はあとにいたしまして、自立経営農家の条件の問題につきましても、いろいろな説は流れておりますけれども、この法律の中の十七条にもございますように、実は、その場所によって自立経営の規模というような問題がいろいろあり得るわけであります。従って、二町五反とか、そういう固定したもので自立農家を固めてしまおうという意図はないのでございますので、そういう前提自立経営農家が零細農に転落するであろうというお疑いは、御意見としては承りますけれども政府提案、またわれわれの理解するところでは、もっと弾力性のあるもので自立経営農家の内容を考えておりますので、この点は見解が違うのかもしれませんけれども、この点に対して、お二人にもう一回、簡単でようございますが、私どもはそういう考えを持っておりますが、それではいかがでありましょうか。
  89. 小林慧文

    ○小林公述人 お答えします。  私は自立経営農家の定義というものは二町歩と聞いておるのです。しかしながら、大野先生おっしゃる通り、二町歩と定義してもだめだということだけははっきりしております。従って、自立経営農家の創設にあたりましては、綱島先生も強制するのじゃないということをおっしゃってみえましたですね。強制するのじゃないというお言葉であるならば、それはできないですね。私はできぬと思います。つまり、農地改革をやりましても、あれは一つ法律でもって強制的にやったからできた。今度のこの基本法農業改革だと思います。農地改革に対して農業改革であり、いわば革命なんですね。大げさに言えば農業革命だというのがわれわれの考え方で、そういうときに、自由意思にまかして自立経営農家を作っていくのだということでは、これは私はできないと思います。従って、私がお話しするのは、政府としては強制するならするでけっこうです。その場合に、ほんとうに先ほど申しましたただ一町歩前後の農家が一番苦しんでおります。そういう人の負債整理をしてやる。同時に、土地は買えません。これは私ははっきり申しますが、買えません。都市近郊の値上りをいわゆる山師的に考えてやれば別でありまするけれども、純心な農民の気持でやろうと思ったら、十万とか二十万の資本投下はできません。時間がありませんから申し上げませんけれども、結局長期低利の融資、これは付随しています。さらにまた、政府のいわゆる国有林、そういうものの払い下げをして、国家の事業——私はこういうことを言うのです。農民連盟の中央委員会へもよく出るのですが、あの富士山麓を開墾すれば二百万町歩ある。ところが、あれを個々に渡して開墾さしてはだめなんです。だから、用水公団は各所にできておりますね。たとえば私の隣県では愛知用水公団というものができておりますから、私は、土地開発公団というものを政府が作って、そうして富士山の七合目くらいのところへさく泉をして、水さえあれば、あれは火山灰でもありますので、畜産振興に役立つのですから、そういう土地を造成して、二百万町歩の広い原野を、これは放牧地として提供してくれさえすれば、農民は喜んで入植もしましょうし、ついていける。そういうことで、低利長期の融資、これと、それから開墾事業で土地を造成して、政府がある程度援助してやる、こういう制度でなければ、私は、二町と定義されましても、自発的に君らは一つやれと言われてもできません、こういうことを申し上げたのでありまして、まさに関連のことを申し上げなかったので、誤解を受けたのですけれども、長期低利の融資、たとえば今近代化資金助成法でいきますと、七分五厘になっています。団体の場合は八分五厘、それから個人は七分五厘といたしまして、それに対して一分とか二分の利子補給をすることになっておりますね。しかし、あれとて、七分五厘の金を借りて土地を購入するということは、農民はやりません。その点だけははっきりしております。同時に、私は、今、五百羽養鶏をやらそうと思って、養鶏場を建てまして、目下育成をやっておりますけれども、これとても、鶏舎から何から建てますと、約七十万円の資金がかかる。最小限度見積もっても五十万円かかる。その五十万円の金を農協で借りたって、七分五厘ないし八分というようなこういう高利の金じゃ、養鶏だってできないと思いますから、その点、二つを言い落としておりましたので、申し上げたのであります。
  90. 秦玄竜

    ○秦公述人 自立経営農家政府案では別に二ヘクタール前後とかそういうところに固定的に考えているのじゃないのだ、幅を持って弾力性があるのだということでありますが、私も、かりに自立経営農家というものを考えるとしますと、これはやはり、それの農業経営形態とか、あるいは地域別、そういうことによって、自立し得るそういう面積というものは幾らかやはり幅がなくてはならないと思います、ただ、私申し上げたいのは、その場合に現在考えられている自立経営というのを一体どういう概念で考えておられるのか、こういうことなんであります。この自立経営ということが、日本的な自立、——日本的と言ってはおかしいのですが、非常に零細経営と言いますが、自作農主義、そういうのを前提として自立経営というものを考えておられるとすれば、これは、私先ほど申しましたように、早晩やはりまた同じような転落の問題が起こってくるのじゃないかということであります。それと、これはやはり自立経営を一個の企業として考えるならば、私は今言ったような形で自立経営というものを考えておられるとすれば、これは企業になり得ないと私は考えます。従って、これを企業化そうというのは、非常に無理であります。これはあくまでもやはり零細な家族経営の域を出ない自立農家だと私は考えておるわけであります。そういう意味で、若干の幅はありましても、将来、おそらく、非常に大きな資本の側の成長のテンポの早いのに比べて、そういった程度自立農家である場合には、生産力の格差というものは、幾らかでも縮小するというのではなくて、場合によっては現在よりもさらに開くのじゃないだろうか。それから、所得均衡と申しましても、これは均衡というのが一体どういうことなのか、私、はっきりいたしませんが、この所得均衡にいたしましても、それが縮まる可能性が非常に薄い。文字通り、均衡はおろか、縮まっていく可能性さえ薄いのじゃないかという気がします。そういう点から、私、将来転落の可能性があるということを申したわけであります。
  91. 大野市郎

    ○大野(市)委員 明らかになりましたのは、小林さんのお考えは、強制的でなければできないという御意見でございますので、これは私どもと見解が相違するので、御意見として承っておきます。  なお、自立経営農家が零細であるというお話でございますが、花卉の栽培などを専業にしておる人たちは、わずか数反の農地においても数百万円の粗収入をあげておる実例も知っております。あるいはまた、多角経営で、一町五反ぐらいでも反当十万円をあげている実例もわれわれの農村で知っておりますので、いろいろの場合がありますことをつけ加えまして、これは議論になりますので、これで次に移ります。  しからば、この社会党も自民党もともにこいねがっております農村所得向上の問題に対して、どういう方法が一番妥当な方法かということなると思いますが、たとえば、農地の所有制度の問題に対しまして、これは当然分配の問題に関連をいたします。この点に対してどんなふうにお考えでありましょうか。念のために、社会党さんの案は、すでに御存じの通りに、いわゆる共同的保有に移行するようにこれを持っていくのだ、全額を国庫負担で土地改良、農地造成はやるが、その前側に、いわゆる共同的な、正確な言葉で言えば、国は農業経営共同化を促進するためという条件付で、全額の国庫負担をやろうという思想でございますから、従って、いわゆる農地所有制度は、個人の所有を離れて出資の形に移る。それらの出資の加入脱退にあたって、脱退をいたすときには農地は戻らない形でございますので、そういうような農地の所有形態が基本的に変わる可能性があるのでございます。こういうことを前提といたしまして、今の農地の所有制度並びに分配制度に対して、農民の反応はどんなものか、まず秦先生にお聞きしたいと思います。
  92. 秦玄竜

    ○秦公述人 農地の所有・分配に対して農家がどういう反応を示しているかということでありますが、私、社会党案でも土地の私有権というのを初めから否定してかかってはいないと思うのであります。そういうことはないだろうと思います。共同経営化という問題は、これは完全な社会主義国か共産主義国にならなければ、おそらくそういう私有権の否定という段階はあり得ないわけであります。まさか、将来十カ年を一応とりまして、その段階ですぐそこに飛んでいけるとはとうていだれでも考えないことであります。そういう非現実的なことではないと私は思うのであります。  共同経営化という問題は、先ほども私申しましたように、その形態、段階、こういうものが非常にいろいろありまして、それぞれの地域に応じて、あるいは作っている作物に応じて、最も効果的なことから、ある面には部分的な共同経営になりましょうし、あるいは生産手段だけの共同になりますでしょうし、そういう方法をできるだけ促進をしていく、こういうことがまず何といっても最終のやり方だと考えております。もちろん、農家自体が積極的に、自分たちはもう土地の所有権を放棄して、五町なら五町の一画の土地にしたいのだ、それを法人なら法人で持ちたいのだという積極的な意欲がある場合には、それをもちろん積極的に取り上げなくちゃいけない、こういう工合に考えるし、国としてはそういうのをできるだけ促進してやるという方法を講ずべきだと私は思うのであります。  御質問の、そういうやり方に対して農民がどういう反応を示しているかということは、これは共同経営に対しては非常に強い関心を持っているということは事実であります。私たち農村に行きまして、じかにそういうことを感じます。なぜそういう工合に関心を寄せるかというと、農民自身が現在のような零細規模ではもうどうにも逃げ口がないんだということを身につまされて感じていると思うのであります。その脱出の仕方として、共同経営というのが非常に強い関心を呼んできている。そのことがやはり私たちは相当強く心にとめておかなくちゃならない問題じゃないかと私は考えております。
  93. 大野市郎

    ○大野(市)委員 ほかの方にもお聞きしますけれども、時間の都合もありますので、秦さんに重ねて……。  ただいまのお話の中で、農地の所有制度の問題を申し上げたので、協業組織の問題には私御質問いたさなかったのであります。協業組織はわれわれも十七条で取り上げておるのであります。共同所有の問題をお聞きしたのでございますが、その共同経営の中で、いわゆる農地の個人所有を放棄してというお話が先ほどありました。農民が自己の農地を放棄することを望むならば、これをやはり取り入れて施策をすべきものであるというお話を今いただきました。そういうことでございますと、いわゆる集団所有という形にそれは変わると思います。法人会社の形式でなくて、あなたの、農地を放棄してということであると、集団所有の形態に変わることをおっしゃったと思いますが、私、聞きたいのは、そういう形態に変わったときにどうかということを、分配の問題にちなんで非常に心配しますので、確かめたいのであります。いかがでございますか。
  94. 秦玄竜

    ○秦公述人 私の言葉が少し足りなかったかと思いますが、これは、つまり、農民自身が、自分の五反なら五反の所有地だけではどうにもならない、隣の人は七反持っている、その隣の人は六反持っている、これを個々別々にあぜをちゃんと切って別々に経営をしていたら、これはどうにもならない、まああぜも、一応耕耘機でも入れるならば、なるたけ狭い地域にあるあぜを取って、もっと能率的にやろうじゃないか、こういうことになれば、これはもちろん法律上の所有権を放棄するというところまでいかなくても、やはり集団的な共同経営といいますか、そういうものを促進できるように助成してやるべきだ、こういうことを申したのであります。農家自体が個々の所有権を放棄して何人かの所有権にしようじゃないか、まあ共同所有でありますが、こういう共同所有ということを農民自身が希望するならば、——共同所有はつまり別な言葉で言えばあるいは場合によっては法人というような形態をとるかもわからないと思いますが、そういう場合にはやはり法人として認めてやって、ちゃんとやれるようにしてやったらいいじゃないか、こういう趣旨であったのであります。
  95. 大野市郎

    ○大野(市)委員 そういう場合に、分配の問題で心配がございませんでしょうか。
  96. 秦玄竜

    ○秦公述人 分配と申しますのは、やはり、法人にしますれば、出資に応じて、あるいは労働力の提供に応じて、おそらくこれは事前に厳密な計算がなされ得るはずだと思います。これは、私が知っている共同化の例なんかでも、一つ共同化を行なうために、三年くらいの計画を家族も含めて練りに練って、その上で、所得をいかに分配するか、こういうことまで非常に綿密な計算を立ててやっております。それでもなかなかすぐそのまま成功するかということは、一がいには言えないわけであります。非常にむずかしい問題が分配関係にはあるだろうと思いますが、そういう面に関して、やはり、できるだけそういう零細経営の人が共同経営によって食べていけるように国家の政策で保護助長するということが望ましいと思います。
  97. 大野市郎

    ○大野(市)委員 あなたも、先ほど、社会主義の政権でもできなければまあ、というお話がございましたが、私どもは、社会党も大いに成長されていろいろな形で動かれるのはいいことだと思いますが、そういう遠きおもんばかりをいたしませんと、実は、私が心配いたしますのは、あなたの言われた限りの、たんぼのあぜだけの形で一緒にしようという程度の、所有権を保有しながらの場合、個人の私有の場合で、土地を出資させていったとき、非常な混乱で、八カ月かしか続かなかった実例がございます。これは、いわゆる中共の……   〔発言する者多し〕
  98. 坂田英一

    坂田委員長 集団的独語をつつしんで下さい。
  99. 大野市郎

    ○大野(市)委員 中共の一九五五年の八月から一九五六年の六月に至りますまでの、五五年の八月には初等生産合作社ができましたが、そのときの形は、社会党のこの提案の形と同じであります。個人の私有で土地を出資させたのであります。ところが、八カ月、十カ月たたないうちに高級合作社模範定款に切りかえたのでございましたが、そのときは、土地の私有制を、農民の自発的な願望によるという世間に対する発表でありますが、これを無償で土地の提供をなさしめまして、集団所有制に農地がなったのであります。これが高級合作社であります。八カ月か十カ月たたないのであります。私は、将来においてどういう政権ができるか知りませんが、社会党政権、社会主義政権の使い分けをせらるる社会党の本年度の方針というものなどを見ますと、農民諸君が、ちょっと迎合的な全額国庫で土地改良をするなどといううまげなえさにかかって、万一そういう間違いになって、土地の執着性というものをわれわれは農民の本質だと思っておるのに、ふたをあけたらがんじがらめで、集団所有制になってしまうのではないかということを心配しておるのでございます。このときに起こったのは、初級合作社から高級合作社に切りかえるときの契機が分配問題なんです。いわゆる労働土地の分配比率の問題、分配の問題でけんかが起きたのを契機にいたしたのであります。この点に対するあなたの御見解はいかがでございましょうか。
  100. 坂田英一

    坂田委員長 時間もなんですから、両方とも簡潔に願います。
  101. 秦玄竜

    ○秦公述人 ちょっと質問の趣旨を確かめてよろしゅうございますか。
  102. 坂田英一

    坂田委員長 簡単にやって下さい。
  103. 秦玄竜

    ○秦公述人 質問の趣旨はこういうことだと思うのです。つまり、共同経営化ということになってくると、農家はいきなり土地の所有権というものを否定されて集団所有、共同所有というようなことに移行するという工合に受け取って心配しているのじゃないか、こういうことでありますでしょうか。
  104. 大野市郎

    ○大野(市)委員 社会主義政権の天下のときはいざ知らずというあなたのお言葉があったものですから、そういう形の実例がありますので、そういう実例において分配の問題で争いが起きたのでありますが、あなたはどんなふうにお考えになりましょうか。
  105. 秦玄竜

    ○秦公述人 社会主義政権の場合にどうなるか、共産主義の政権の場合にどうなるかということは、私が少しばかり勉強しました例でも、やはり今おっしゃったような事例もありますし、それから、うまく移行していった例ももちろんあるわけであります。社会主義政権になったから必ずそういう分配についていざこざが起こって、中級から高級へ移る場合にうまくいかないんだ、そういう問題をめぐってうまくいかないんだとは必ずしも私は言えないと思うのであります。これはもちろんうまくいかない場合も事例としては出てくると思いますが、いく場合の事例もより多く出てくると思います。その点一がいにどうだということは言えないと思っております。これはやはりそういうプリンシプルに従って政策を実際に行なうその行ない方いかんにかかってくると思います。それから、少しその問題から——今申しました現在問題になっています共同経営の場合でも、もちろん、今おっしゃいましたように、共同経営を一たんやってまた失敗した例がたくさんあげれば出てきます。また、成功した例も同じようにあげることができるわけであります。しかしながら、私が先ほどから繰り返し申していますように、経営規模を少しでも拡大し、あるいは企業として成り立ち得るような農業を育成しようと思うならば、共同経営というものが一つのそういう目的のための重要な拠点になり得る、これに対してやはり国家が助成し、促進しなければいけないということを私は特に希望するわけであります。
  106. 大野市郎

    ○大野(市)委員 時間もありませんから、これでやめます。やはり見解の相違でございますので、この点は私も保留いたします。  時間が来たようでありますから、最後に一言だけ。小林さんは、いろいろ農民諸君がこの問題にちゅうちょしておるというお話でございますが、私どもの調査いたしました単位農協あるいは農業会議所、これらの大勢は、いずれも、ぜひ通せ、社会党の案があっても、これはいつ通るやらわからぬのだから、待ち切れないから、早く自民党の案を通せという声をたくさん聞いたのでございますが、あなたの所属せられる団体ではそうではございませんのでし、ようか。
  107. 小林慧文

    ○小林公述人 私どもは通すなと言うのじゃないのですよ。もっと具体化して、農民が安心するようにしてから一つ通して下さいというのであって、決して要らぬとは申しません。ほしいことは手の出るほどほしいけれども、十分審議されて、不備欠陥がありますから、それを是正して、農民のほんとうに好むような法案にしてから通して下さい、こう願っておるわけでありますから、その点は決して否定しないのです。願っておるというのは、十分手を合わして拝んでおりますから、どうぞその点を……。
  108. 大野市郎

    ○大野(市)委員 一言だけ小林さんに申し添えたいのでございますが、この基本法のような考え方が通らないために、毎回予算措置のときに非常に難儀するのであります。そこで、この法律を通していただいて予算措置も含めて早くやりたいというのが非常に強い願望であることを申し添えて、終わります。
  109. 坂田英一

    坂田委員長 次には、楢崎弥之助君。
  110. 楢崎弥之助

    ○楢崎委員 午前中からいろいろとお話を承っておりますが、政府基本法は、御承知の通り、答申案から農林省案ができ、そしてそれに自民党の基本問題調査委員会からの意見が出、そして政府案が出た。午前中のお話でも、政府案を支持される先生方の中でも、田中さんあるいは大坪さんとやはり若干の意見の相違があったような気がするのです。というのは、やはり、経済合理主義的な考えと保護政策的な考えが政府の案の中に同居しております。田中さんのような案と大坪さんのような案が同居しておる。そしてまた、国家に引き戻しますと、池田さんのような経済主義的な考え方と、同じ与党の中でも農政議員団の保護政策的な考え方とが政府案に混同しておるから、非常に一貫性がないし、具体性が欠けてくる、こういうようになってくると思うのです。しかし一この政府案の発想の基礎は、農業の立ちおくれなり農業そのものを経済の成長政策の中で解決していく、言うならば、基幹産業と申しますか、重化学工業を中心とした成長政策の中で農業を従属的に解決していくのだということに変わりはないと私は思うのですが、その点について秦先生と川野先生のお考えを、イエスかノーかどちらでも簡単でよろしゅうございますが……。
  111. 川野重任

    ○川野公述人 発想法としてどうかというお尋ねでございますが、先ほど申し上げましたように、これは私の推測ですが、基本的には、やはり、まず第一原則の実現により第二原則の保障を期するという考え方でじゃないかと思います。お尋ねの焦点はそこにあったと思いますが、個人的にはそう考えております。ただ、繰り返しになりますが、生産性向上によるとか、あるいは向上をはかりですか、もってという二字がないということはなかなか含みがあるのじゃないか、そんな感じがいたします。
  112. 秦玄竜

    ○秦公述人 政府案社会党案の中で発想の違いがあるかどうかという御質問でありますが、私はあると思います。  これは、つまり、社会党の場合には、おそらくこういう発想の仕方をしておられると思います。これは私の推測ですから、間違ったら訂正します。社会党の場合には、おそらく、日本の農民が今後さらにその農業を発展させて、農民自身の生活を確保し、そして文化的な、あるいは非農業所得というものと均衡したようなそういう生活を確保するためにはどうしたらいいか、それは単に国内の農業だけの問題でなくして、世界農業とか、あるいは世界経済だとか、日本の国内の経済的な変化とか、そういうことももちろん前提にされているかと思いますが、そういう観点からこの法案を作られたのじゃないか。もっとも、私、社会党の案でも個々の点について若干文句がありますが、それはここでの質問の外でありますからおきまして、そういう工合に私は受け取りました。  それから、政府案の場合には、これは、日本の現在の農業の中に、経済合理主義といいますか、それを貫くためにはどうしたらいいか、これが発想の基本になっていると私は思考いたします。  御質問にその点だけお答えいたします。
  113. 楢崎弥之助

    ○楢崎委員 そこで、私は、政府案の基礎は、成長政策の中で農業の立ちおくれを回復していく、つまり、成長政策に従属的に農業を解放していく、言うならば、神頼みと申しますか、他力本願と申しますか、そういう発想であると思うわけです。そこで、この政府案のねらいは、生産性を高めて所得均衡をはかるということであると思うのです。そこで、農業所得均衡政策を成長政策の中で解決していく。そうすると、均衡政策中心は、簡単に言うと、人口移動の問題であるし、農業の構造改善の問題である。その二つを成長政策の中で解決していく。もしその二つを成長政策の中で解決していくとするならば、私は、成長政策は次の二つのことを解決しなければならないと思うのです。その一つには、一体人口移動から考えて労働行政がどうなっておるか、二つには、農業近代化基盤整備の問題がどうなるか、この二つを同時に成長政策解決しなくては、この政府の案というものは、私どもが言う貧農の切り捨てということにつながってくると思う。ところが、労働行政がどうであるかというと、もうすでに何回も言われておるように、成長政策が現実において農民にとって安定した職場を保障していない。これは、すでに、失業者が何人おるか、潜在失業者が何人おるか、あるいは社会保障制度がどうなっておるか、そういう問題を考えると、これははっきりする問題である。それから、近代化基盤の問題にしても、先ほどから言われておりますように、倍増計画の中で十年間の経過を見ても、十六兆のうちの約一兆、約六〇%という行政投資しか見ていない。これでは、成長政策の中に農業を繰り入れるといっても、農業政策を放棄することになるし、たとい農業政策であっても、農民のいない農業政策だと言われる点はここにあると思うのです。そういう労働行政なりあるいは近代化基盤の現在の政府案考え方であまりに政策効果だけ急ぐということになると貧農の切り捨てになるし、これは農業の立ちおくれをほんとうに全体的に解決しないと私どもは思うわけですが、この点について中村さんと川野さんの御意見を承りたいと思います。
  114. 中村迪

    ○中村公述人 ただいま御指摘された問題点、特に労働行政の問題は、政府基本法関連しまして私ども非常に重要視しております。結論だけ申しますと、その面の裏打ちがない基本法というものは、やはり農民を人間として扱わない、つまり、一人前の働く農民として扱わない性格のものではないか。特に、先ほども公述に申し上げましたように、農村でも、今、日雇い賃金の問題、出かせぎの賃金の問題と、非常に普通の労働者と共通した重要な日常の問題にぶつかっておりますので、この辺の労働行政、特に繰り返して申し上げますが、最賃制の確立は農民にとっても火急に迫った問題であると私どもは確信しております。
  115. 川野重任

    ○川野公述人 私も先ほど申し上げました通り、この法律の運用において特にわれわれが問題として考える点はこれこれしかじかということを申し上げたわけでありますが、まさにその点についての言及かと了解いたします。  一つ落としましたけれども、特にこの場合重要な問題の一つは、所得格差の率が、地域格差であるという率が非常に強いということです。これを一つ申し上げまして、特に地域格差是正の措置というものは、いわばこの法律のあとに続くものとして考えられることが終始首尾一貫するゆえんではないか、このように考えます。
  116. 楢崎弥之助

    ○楢崎委員 最後に一点だけお伺いします。一楽先生は、いろいろいい意見を取り入れて十分国会論議をしてやって下さい、小林先生も、農民が十分に納得のいく、ほんとうに立ち直りのできるりっぱな案にして通して下さいという御意見だと思うのですが、今実際農民の方がどの程度までこの農業基本法を理解しているか。政府案なり社会党案なり、各政党とも一生懸命やっておりますけれども、どの程度下部に浸透しておるか。こういう内容がわからずに、ただ基本法さえ通ればいいのだというような考えが割とあると私どもは思うのです。内容がどの程度までほんとうに農民に理解されておるか。私どもは、そういう点では、十分農民に理解させるまでこの論議を深めて、いやしくもこれがただ単に基本法を通せばいいのだというようなことでこの国会で無理やり通すというようなことではいかぬと思うのですが、その点、農民の理解の程度関連させて御意見を最後にお伺いをいたしたい。
  117. 一楽照雄

    ○一楽公述人 農民がどの程度理解しておるかということは、これは非常に言葉で言うのはむずかしいと思うのです。ほんとうに程度問題ですので。ですから、私たちの見るところでは、政府においても自民党においても、さらによく徹底さすべく今大わらわでやっておられるように聞いております。社会党の方におかれましても同様でございまするので、まあ、あしたになればそれが完全になるのか、あさってになれば完全になるのか、そこらの点は先生方で適当に御判断していただきませんと、私どもの方で申し上げるのは僣越であるし、また、非常にその程度が困難で、事実きょう、こういう状態でございますので、大へんむずかしい問題で、はなはだ責任のがれのようなことでございますけれども、相当な関心を持っておるということも事実でございまするし、それから、この点は、私ども先ほど申し上げましたように、基本政策なり、国の基本的態度の決定が大事だというときに、両方とも基本法基本法という固有名詞を早く出されましたので、名前は相当普及しておると思うのですが、中身の方は私ども自身もつかんだのは最近のことでございます。私どもは、極端に言えば、名前は末端法でもいいから、内容において、先ほど言いましたように、ほんとうに国の態度を早く確定していただきたい。しかし、やはり形から実が出てくるので、基本法ということを唱えられた結果ここまで持ってこられたそれぞれの関係者に敬意を表する次第であります。
  118. 小林慧文

    ○小林公述人 私たちは、組織を通じて、相当政府案もそれから社会党案も下へは流しております。しかしながら、今一楽常務が申されたように、実際法案の内容を一条からずっと検討して、そうして自分の将来がどうなるのかということを検討されておるのは、おそらく一割程度と私は思っております。しかも、農業基本問題調査会の答申、これについては再三私ども講演会を開きまして、相当専門家を連れて参りまして説明をしたこともございます。しかしながら、今度法案国会提案されましたが、その内容については、先ほど申しましたように、あまり知っていないのではないか。どちらかと申しますと、私も、実際は、この法案の内容をほんとうに一条々々検討したのは、公述人に呼び出されることになってから、それでこれは一つ一条一条やらなければいかぬわいというようなことで、にわか勉強して来たようなことであります。だがしかし、検討してみますと、答申案で検討は大体三つに分けて検討しておるから知ったわけでありますけれども、そこで、農民諸君がほんとうに自分の将来とにらみ合わせてこの法案がどうなるのかという検討をする機会を与えてやっていただくことが私は大切であろうと思っております。
  119. 楢崎弥之助

    ○楢崎委員 終わります。
  120. 坂田英一

    坂田委員長 八木徹雄君。
  121. 八木徹雄

    ○八木(徹)委員 時間が切迫いたしておりますので、簡単にお伺いいたしたいと思います。  朝来社会党の御推薦の公述人先生方のお話を聞いておりますと、主として述べるところは構造論であり、また価格体系論である。この二つにしぼられておるという感じを受けるのであります。極端に言うならば、この二つを除く政府案に対しては御賛成をいただけるのではなかろうかと思えるほど、それほどこの二つにしぼって御意見が多かったと思うのであります。  そこで、秦さんに最初に伺いたいと思うのでございますが、秦さんの御見解を聞いておりますと、政府案自立経営農家の育成ということは、それはいわゆる企業的農家とは考えられない零細農の範疇に依然として入るものである、あるいはまた、この貿易自由化の方向の中で、この自立農家のようなものでは国際競争に敗ける、端的な理由として、外国の十馬力、二十馬力の耕耘機とメリーティラーとの比較においてそれが端的に現われておる、こういうような御意見であって、それがために、社会党が唱える農地の造成並びに経営の共同化以外には救済はないんだというような意味の御発言があったと思うのであります。しかし、ここで一つお伺いいたしたいと思うのでございますが、基本法でわれわれが指向しなければならぬものは、もちろん日本の農業の持っておる一つの弱点をいかにしてカバーするかということが大事であります。そういう意味で、日本農業の最大の弱点である零細性というものをいかにして脱却するかということが一方において明らかにならなければなりません。しかし、いま一つ大事なことは、日本農業の特徴というものをさらに高めていくということが一方において必要でないか、こう思うのであります。日本農業の特徴というのは、申すまでもなく、技術の優秀性ということにかかって参ると思うのでございますが、ただ作付計算的に各国と比べて、いわゆる二ヘクダールあるいは二・五ヘクタールという数字では小さ過ぎるではないかということだけでは片がつかぬと思います。もちろん、先生の立論の中には、二・五あるいは二ヘクタールにするにしても、それが実際問題としては土地造成をやらなければできぬではないかという意味のことがございました。そこで、特に最初にお伺いいたしたいと思いますことは、社会党が提唱しておる三百万ヘクタールというものの土地造成をする、それを国家の手によって農民に分配するという形に持っていった場合、それは現在の経営規模の一・五倍になるということを意味するわけですが、そのこと自体によって、日本農業が世界農業と拮抗できるような基盤ができるというようにお考えになられるかどうか。それから、もう一つ、経営の共同化をやりさえすれば、たとえば非常に卑近な話を申し上げますが、あなたは十馬力、二十馬力の耕耘機でも買えるかのごときそういうお話をなさった。ところが、小林さんは、日本の土地条件からそういうものは現実的にはできぬというお話でございました。そういう意味で、経営の共同化と、それから社会党の三百万ヘクタールの土地造成ということだけで、あなたは、大丈夫だ、そういうふうにお考えになられるかどうか、まず第一にその点を伺いたいと思います。
  122. 秦玄竜

    ○秦公述人 私の考えは、社会党案の中で言われている三百万ヘクタールが、はたして実現するのかしないのか、実現の可能性があるのかないのか、この点もう少し私はこまかな検討の必要があるかと思います。  それから、私が、共同経営化等をやりさえすれば日本の農業はすべてうまくいくんだ、こういう工合に言っているとおっしゃいましたが、私が申し上げていますのは、共同経営というのは、農業の、ことに日本のような零細な農業経営の場合には、いわゆる企業的な農業とか、あるいはもっと労働生産性の高い農業に持っていくための重要な拠点だと申しているのであります。それさえやれば万事オーケーだという工合には申していないのであります。それから、自立経営、かりに二ヘクタールといたしまして、それでは企業として成り立ち得ないと、私は確かに申しているのであります。私は自立経営自体を否定しているのではないのであります。現在考えられている程度のそういう規模での自立経営については、私は、企業的性格という点では非常に欠ける点があるのじゃないか、同じ自立経営を作るならば、さらに五ヘクタールだとかあるいは七ヘクタールだとか、そういう規模での自立経営というのが、農業近代化という場合に、あるいは労働生産性を飛躍的に高めるという場合には、よりいいんだということを申しているのであります。しかしながら、先ほどから私申しましたように、そういう工合に経営規模を拡大しようとすれば、反面に、先ほどるる説明しましたように、阻害条件というものがあまりに現在未解決のまま置かれているのであります。それが解決されないままに現在考えられている自立経営というものに重点を置くとしますと、今申しました程度の零細な自立経営では、労働生産性を高め、所得均衡させるというそういう所期の目的はなかなか達しがたいんじゃないか、こういう工合に申しているのであります。
  123. 八木徹雄

    ○八木(徹)委員 重ねてお伺いいたしますが、いわゆる農民の数というものを他の産業に原則的に移動しないという建前に立って、そうして農業経営を他の産業均衡するようにしていく、その手段として、社会党は、三百万ヘクタールの土地造成あるいはいわゆる共同経営、こういうことによって達成できるかのごとく言っておられるのでございますけれども、しかし、絶対数の多い日本の農民というものを中心にして考えた場合に、その程度土地造成なり、あるいは少ない反別の人が共同しても、それに従事する人間が依然として同じような人間が従事するということであれば、少々の生産性は上がっても、分配においては多くは望めないことになろうと思うのでありますが、そういう点について社会党案に対する考え方をどのようにお持ちになっておられるか、伺いたいと思います。
  124. 秦玄竜

    ○秦公述人 私は、社会党の方々でも、これから経済がどんどん発展していく過程で農村人口なり農業人口が減らないとはお考えになっていない、現状維持だという工合にはおそらく考えておられないのじゃないか。先ほどから私が説明しましたが、過去の日本の例で見ると、農業人口はなるほど五・九%という工合にかなり大きな幅で減っているけれども農家戸数は減っていない。ここに問題があるということを私は申したわけであります。今社会党案はどういう工合に考えるかというような御質問でありますが、私は、社会党案の中には、農業人口は経済の発展につれて減っていくということを前提にしていると考えております。
  125. 八木徹雄

    ○八木(徹)委員 それでは、その問題には触れませんが、次に中村さんにお伺いいたしたいと思います。  これはあなたが述べたことには関連してないと思いますけれども、あなたは、社会党案に対して原則的に全面承認だ、こういうことでございますので、そこで一つ第十五条についての見解をただしたいと思うのでございます。  社会党案は、十五条において、「国は、勤労階層の所得水準を高め、及び国民食生活の改善を指導する等により、食糧消費構造を高度化して農畜産物の国内需要を拡大するように努めなければならない。」、こういうふうにうたっております。言うならば、いわゆる勤労階層の方々の所得水準を上げる、その上げることによってそれが農産物の需要にはね返ってくる、その農産物の購買にはね返ってくる、そのはね返ってきたものによって農産物価格というものを上げていく、あるいは農業所得を上げるということを示唆いたしておると思うのでございます。あなたは全日農の常任委員になっていらっしゃるわけでございますが、われわれは、この農民所得というものを他の産業労働者の所得均衡さしていこうということをいたしているわけでありますが、追随とは申していないのであります。これは考え方には農業所得を勤労所得に追随するということを端的に意味いたしていると思うのでございます。そこで、勤労者の所得水準が上がった場合に、上がったうちどの程度のものが農産物の購買力にはね返り、価格の上にどのようにはね上がってくるという認識を持っておられるか。また、実際にこの考え方そのものを組合自体としてはお認めになれるかどうか、これを一つ伺いたいと思います。
  126. 中村迪

    ○中村公述人 お答えいたします。  この第十五条に書かれてありますことは、私どもこの字句の通り理解しております。と申しますのは、勤労者の所得が高まれば、これに応じて食生活も高度化し、それに応じて国内の農産物の市場も増大していくだろう、そうして、そういう過程を通じまして、非農業の勤労者も、それから農民も、ともに相携えてその生活を向上させていくことができるようになるのである、こういうように文字通り理解しております。  御質問の点は、その問題に関連いたしまして、それでは、そういう考えならば、農民所得は都市勤労者の所得に追従して上がっていくということになるのではないかという御質問でございますが、私はそうは考えません。と申しますのは、その一方では、農民所得を形成するためには、やはり価格の問題を抜きにしては考えられないと思います。従って、農民所得を、われわれが主張しておりますように、生産費及び所得補償という観点に立って動労階級と同じ所得水準で引き上げていくという、一方における価格保障が行なわれることによって、農民も非農業の勤労者も同じ歩調でその所得を高め、食生活を高めていくようにしていただきたい、こういう考えであります。
  127. 八木徹雄

    ○八木(徹)委員 重ねて伺いますけれども農民所得のいわゆる生産費・所得補償といいますか、価格保障というものを前提にするから心配はない、こういうお話でございますけれども、それなら、いわゆる農産物の大半というものをそういうふうに価格保障をするということが前提でなければ、そういう御意見にはならぬと思うのですが、その対象というものをどの程度まで広げられるお心組みでいらっしゃるのか、そのことによって御満足しておられるのか、伺いたいと思います。
  128. 中村迪

    ○中村公述人 それにはいろいろ考え方はあるかと思いますが、米を初めといたしまして、農家の販売収入の中におきまして重要な地位を占める農産物については、政府が米のように直接価格支持をする方法をとる、あるいは、現在不十分ではありますが行なわれております価格安定法による農産物の支持価格というようなものをもっと拡充していって、主要な農産物を通じて所得を維持し向上させていきたい、こう考えております。
  129. 八木徹雄

    ○八木(徹)委員 それでは、最後に川野さんに一つお伺いいたしたいと思います。先ほどのお話の中で、所得均衡という一つの目標というものがしっかりしておるならば、それに達する手段というものはそのときの情勢によって弾力性を持たすことがよろしい、しかし、この法律案の中には、それにもかかわらず部分的に二、三の点においてあまりにも具体的に法案が作られておる節がある、このことは逆に弾力性を失う結果になりはしないかという意味の御発言があったと思うのであります。私も基本的な方針としてはこの川野さんのお説に賛成をするものでございますけれども、端的に事務的にお伺いするわけですが、この法律案の中で川野さんが指摘するいわゆる弾力性を失わしめるおそれがあると思われる点というものはどれとどれを指しておられるのか、伺いたいと思います。
  130. 川野重任

    ○川野公述人 私は例示的に申し上げましたので、必ずしも具体的に詰めて考えておりませんが、たとえば、先ほどちょっとあげました相続に際しましての経営の細分化の防止というごときがそうじゃなかろうかという感じですね。それから、これは農協の方にあるいはおしかりを受けるかもしれませんが、農地信託のごときも、具体的な措置というものがあまりにもはっきりし過ぎていやしないだろうか。それから、第三に、共同施設につきましては、一般的な共同施設なのか、あるいは農業協同組合の施設に限るのか、ちょっと読み取れないような節もありますが、この辺が、具体的と言えば具体的ですが、もっと広い視野で考えるということも可能なのではないかという感じがいたします。
  131. 坂田英一

    坂田委員長 東海林稔君。
  132. 東海林稔

    ○東海林委員 一楽公述人に二つばかりお伺いしたいのであります。きわめて簡潔にお尋ねいたしますので、率直な御答弁をお願いいたしたいと思います。  まず第一点は、公述人は、日本の農業は今後においても強力な政府の保護政策が必要であるということで、強くそのことを要望されたわけです。それで、政府案並びに社会党の両案の目標として掲げておる点を考えると、自分としてはあまり差がないように思う、——実は、この点は、私どもとしては、その目標にも相当差があり、さらにそれを実現する責任においても相当差があるというふうにはっきり考えておるわけでありますが、その点は一応おきまして、私どもは、政府の案を見ますと、目標も非常に大事であるが、やはり、これを具体的に実現する政策農民にとっては非常に大事じゃないか。そこで、お尋ねしたいことは、政府のこの法案を検討されて、一楽公述人の希望である保護政策というものがその中に相当強く方向として出されておるというふうに御自分で考えられるかどうか、その点だけをまず一点としてお伺いいたします。  第二点でございますが、一楽公述人の属しておられる全中のこれまでのこの農業基本法案に対する要望の点、いろいろと出ておりますその中で一番強く主張されておったと私が理解しておるのは、二月十三日の全中情報にも出ておるわけでありますが、農産物の国内自給度向上を基本とする、こういう点だと思います。御承知のように、社会党法案の中におきましては、第一条の目的のところにその点をきわめて明確に書いてありますし、また、具体的な政策につきましてもその線に沿っていろいろと政策が立てられておるわけであります。ところで、政府案を見ますと、どこにもこういう表現は出ておらないばかりでなしに、先ほど楢崎委員からもお話がありましたように、今後の農民の生きていく道は、他産業の発展に期待してその方に相当の人間が出ていくんだから、残った大農と目されるようないわゆる自立農家、一部に協業をやって、そこで農家所得向上していくのだという点と、もう一つは、貿易自由化とも関連して、外国からの安い農産物の輸入にもある程度期待する、こういう点が出ておるわけです。政府計画を見ましても、現在の外国農産物の輸入額年二千七百億程度が、十年後においてはかえってこれが増大して三千三百億程度になるというような数字が出ておる点から見ましても、そういう考え方がはっきり出ているとわれわれは理解するわけなんです。一楽公述人は、政府のこの案を見まして、全中の強い要望であります農産物の国内自給度向上という点を考えることができるのかどうか、政府案の中にそういう考えが入っているというふうにお認めになっているのかどうか、この点を第二点としてお伺いいたしたいと思います。
  133. 一楽照雄

    ○一楽公述人 今後の具体策が問題であり、非常に重要であるというお話を承りましたが、これは私も同感で、先ほど申し上げた通りでございます。その方向としてそれが期待できるかどうかというお話でございますが、これはまさに方向として期待をいたしたいのでございます。現に、この農業基本問題調査会で答申の最終案を作る過程にも、われわれはチャンスがある限りその訂正を申し入れたりしております。もちろん全部は入らないにしも、部分的に採用され、また、法案政府決定になる過程におきましてもいろいろお願い申してきておるわけです。世間では、でき上がった今の法案に対して、圧力団体の力で弱化したとか骨抜きになったとか、いわゆる経済合理主義一点張りで農村問題を処理していこうという考え方、こういう勢力が日本には相当強いと思うのでございますが、そういう方々から見ますと、今日でき上がった法案が相当堕落した法案のごとくに言われております。私どもから言いますと、それは進歩である。たとえば、この成案からわれわれが承知する限りにおきましても、最初は案文だけが世に出ましたけれども、前文をつけていただきました。私どもの方としては、前文のしかも先ほども読み上げたようなところに核心を置いて尊重しておるし、そういう過去の傾向から見ましても、今後とも実施面がよくなる可能性があるということは言えると思うわけでございます。そのためには、この農林委員会等にお集まりの皆さん方が党派を越えて大いにやっていただくことによって、また、相提携し相切磋琢磨してやっていただくことによって、大いにその可能性が実現する、そういうように、私はこの経過から見て実際的に時間的に考えるわけでございまして、この文章を、きょう一日の、きょうの瞬間においていいか悪いかということは、これは卒業論文ではなくて、実際に生きた社会の政策でありますから、そういうように時間的に考えて、どうかいい方向に一そうお骨折りをしていただきたいと願っておるわけであります。  自給度の問題に関しましても、現に立案の途中でお願いに上がりましたときに申し上げました。これに対しても、表現から見ますと、取り上げなかったわけではないので、あそこで、選択的拡大のところに総生産量の増加という言葉をわれわれの要望によって入れているわけです。そうして、自民党の御説明によりますと、意味は同じだということでございます。と言いますのは、自給度々々々と言うと、お互いに言葉を意地悪く取ると切りがないので、自給度向上と言うと、選択的拡大の中に、要らぬものでも何でも無限に作るのか、どんな安いものがあっても、不適作物も作るのかということにもなるし、まあ私どもとしては、これは自給度拡大というふうに表現していただいて差しつかえないのではなかろうかと思いましたけれども、しかし、そうわざわざ言わなくとも、面子も何も言わないで総生産量増大ということでやっていただきましたから、物事はそれぞれお立場なりいきさつもありますので、今申し上げましたように要求する方も遠慮なくいたしますが、入れる方もどうぞせいぜいいきさつや面子にとらわれないで、いいと思えばできるだけ入れていただいて、実際の政治でございますので、そういうようにやっていただきたいと思うのです。自給度の点は、自給ということが国としても大事でございます。さらに、私が最初に申し上げましたように、個々の農家経営においてすら日本の場合は自給面を尊重しなければならないと思っておるわけです。農産物が安いものがあれば日本で作らなくても買ったらいいではないか、これはもう、そうすれば日本の農業をやめてしまってということになって、それでは、これは何も農民があわれだからとか何とかいうのではなくて、日本の経済全体が、そうやって原材料でない消費してしまうものを輸入すれば、日本の輸入能力が減ってほかのものが買えなくなる。それで工業自体が成り立ちますか、こう言いたい。私は、何も農民があわれながために自給の向上を言うのではなくて、日本のこの資源のない国において、しかもこの狭い日本の土地をできる限り活用し、そうして日本の勤勉なる農民がその土地との関係において物を生産していくということを考える場合に、そこに投資した金にしても、私経済的に見ますと、投資した金が七分なり八分なりの複利で回っていかなければ損でしょう、しかし、国民経済的に見ますると、無利息であってもそれが三十年、四十年かかってでも元金が取れるような投資ができるわけであります。これがまた必要なわけでございまするので、そういう意味において、経済の合理性を主張する場合に、私経済的ないわゆる営利主義的考え方を国策にまで及ぼそうという考えから農業の自給面の拡張について反対する考え方には、私は同意しかねるわけであります。
  134. 東海林稔

    ○東海林委員 私が簡潔に質問しましたために、あるいは公述人において私の質問の趣旨が十分お受け取り願えなかったのではないかと思いますので、まことに恐縮でありますが、重ねて今の二点をもう一度お願いいたします。  私が第一点としてお尋ねしたことは、目標がかりにけっこうであっても、それを実現する具体的な政策というものがそれにふさわしいものでなければ結局意味がないではないか。また、農民大衆が非常に期待して関心を持っているのはそこが問題だと思うのです。そこで、お尋ねしたいのは、過去のいきさつとかなんとかでなしに、ここに出て示されております政府案農業基本法案の中に、そういう保護政策をやってくれるという期待が皆さんとして読み取れるかどうか、そのあなたの読んだ受け取り方をお尋ねしているわけです。  第二点は、自給度向上ということが必要かどうかということを伺っているのではなしに——われわれは必要と考えているわけです。ところが、政府は、われわれの理解するところでは、必要と考えておらないように理解しているわけです。そこで、一楽さんは、この政府法案の中で、われわれと同じように理解されるか、それとも、違って、この政府の案でも、文字には書いてないが、政策その他を見ると自給度向上ということをはっきり期待できるというふうにこの文字の上から理解できるかどうか、その点をどういうふうに理解しているかという点を伺っているわけです。必要度云々のことを伺っているわけではないのですから、重ねてお伺いいたします。
  135. 一楽照雄

    ○一楽公述人 どうもわかりが悪くて、はなはだ恐縮でしたが、そういう点を、今私が申し上げましたように、平面的にこの文章だけを卒業論文のように見るのではなくして、先ほど申し上げましたように、私どももこの立案について注文を申し上げてきて、まだ十分通らない点もあるし、若干通る点もある。そうして、実際問題として当事者的な、議員ではないですけれども、やはり農政に関する当事者的な立場で言っておりますので、この点はちょっと大学の先生のような答弁にいかないわけです。
  136. 東海林稔

    ○東海林委員 どうも立場上明確にお答えができないようでありますから、あるいは無理かもしれませんので、これで終わります。
  137. 坂田英一

    坂田委員長 藤田義光君。
  138. 藤田義光

    ○藤田委員 大体質問の延べ時間五分間にいたしますから、答弁も五分間でお願いしたい。  まず第一点は、私は、日本の農業基本法は、一九四九年にできましたスイスの基本法以来のヨーロッパ各国の基本法の類型からすれば、ドイツの基本法に一番類似していると考えております。そのドイツの現地におかれまして勉強して帰ってこられた秦先生の公述、非常に参考になりました。ただ、秦先生の結論としまして、自立経営の規模を五町から十町にしないとなかなかこれはうまくいかぬということを言われた。ドイツにおいては七・五町くらいにいっているのだというような御報告もございましたが、そういう自立経営の規模にもっていくための具体的な措置について、結論的に先生のお考えを聞きたい。目標はわかりました。
  139. 秦玄竜

    ○秦公述人 私は先ほどからある程度御質問に答えるようなお話を申し上げたと思うのでありますが、一つの点は、現在流出している農村人口というものが、安心して流出して、そこで自立できるような条件が必要だということであります。それは、私、いろいろな例をあげて、現在はそれの阻害条件が根本的にあるのだ、これを解決してもらわないで、自立経営自立経営と言われても困るのだという点であります。それと、もう一つは、やはり、どうしても農地の造成ということも積極的に必要であります。現在、その気持になりさえすれば造成できるような土地はかなりあると私は思います。これをほとんどそのままにしておくということでなくて、これは積極的に取り組まなくちゃならぬ問題であります。私は、現在その二点が積極的に解決されるならば、ある程度簡単にそこまでいく、まだ計算はしておりませんが、可能な問題だと存じております。
  140. 藤田義光

    ○藤田委員 ドイツにおきましては、男女の労働類型が截然としております。都市に農村人口吸収の可能性が、日本とは格段の相違で、非常に強いという特殊事情があります。現に、農村人口は全人口の二〇%、比率が日本の半分という状態でありますので、われわれはそのままドイツ方式を採用するわけにはいきませんが、ただ、社会党が既存の六百万ヘクタールに三百万加える、それを八十万の生産組合に分けるということになりますと、大体一組合が十ヘクタールないし十二ヘクタールになります。そうしますと、六百万の農家のうち一つ生産組合に七戸くらいが入るわけであります。それを一戸当たりの平均土地に換算してみますと、土地だけを見ました場合、政府案による一戸当たりの自立経営の規模と大体大同小異なんです。それで、私は、社会党の案からいきましても、この農業生産組合によっても先生の御指摘のような農村対策を完成することは非常に困難じゃないかと思うのですが、これは数字的に割り出しまして両方の案に対して農民の素朴な疑問が起きてくると思います。御見解をお伺いしたいと存じます。
  141. 秦玄竜

    ○秦公述人 その点、まだしさいな計算はやっておりませんので、現実にどうなるかということが今ここではっきりいたしませんが、ただ、生産組合というものを七戸で作ってみた場合を考えてみますと、たとえば五反の農家が戸別に経営をしておる場合と、それから、七戸で三町五反を経営している場合では、もう、私が説明するまでもなく、量の生産性はもちろん違いますし、それから生産コストの点でもかなり大きな差が出てくると思うのであります。今御説明になりました一戸当たりに直してみたらこれくらいだということは、確かにそれくらいであるかもわからないけれども、たとえば五反で経営しておる場合と三町五反で経営している場合とでは、かなり問題が違ってくると思うのであります。
  142. 藤田義光

    ○藤田委員 政府案の、二町くらいが自立農家の基準じゃないかという見解は、今から五、六年前に参議院の田中啓一氏が農業近代化法にそういう希望をうたっておりましたことが今日土地の広さに対する規模をこの程度にしておるのじゃないか、そういう誤解が政府案に対してあると私は思うのです。私は、これはやはり、営農類型を作り、地域の格差を考え、自立経営の規模というものはきわめて流動的に機動的に考えて基準を作るべきである、これは基準法成立後の問題である、こういうふうに考えておるのでございますが、まあこの点に関しましては先生の御答弁を私は御遠慮申し上げたいと思います。  次に、川野先生に簡単にお伺いいたしたいのは、第一条は、率直に申しまして、政府案の表現はうまくないと思うのです。生産性向上すること及び生活の均衡をはかるとと、これは対立的な規定でありますから、常識的な立法技術からすれば、やはり、農業流動化、保護というものを並行的に考えておるという誤解を受けます。私の三十カ条を通覧しての印象としましては、前段の生産性向上というものはやはり後段の形容詞的な表現であるというふうに見たいのでございます。これはどの法律であったか私記憶ありませんが、ほかにもやはりそういう解釈を法制家がやっておる法律もあると思うのです。だから、表現をそのままあまり正直に読まないで、やはり、後段の保護に中心があって、前段はその形容詞である、このように読む必要はないかどうか。それを申し上げますのは、第十五条の「自立経営」のデフィニションがカッコしてあります中では、正常な構成の家族の農業従事者が正常な能率でほぼ完全に就業し得る家族農業経営で、とあるのです。これを形容詞的に、そのあとに、ほかの産業従事者と均衡のとれた生活ができるような所得を確保させるとある。この自立経営の定義を見ますると、やはり、第一条をここで修正しておる、奇しくも立法者の意思が第十五条の自立経営の定義で修正されているというふうに、これはやや強弁になりますが、私は思うのです。専門家の川野先生の御見解をちょっとお伺いしておきたいと思います。
  143. 川野重任

    ○川野公述人 今の、そういう御説明をいただく機会がなかったものですから、私なりに考えたわけでありますが、これは、そういう御意図ならば、そういうふうに承っておく以外にないと思います。
  144. 藤田義光

    ○藤田委員 もう時間が参りましたから、これで打ち切りますが、最後に一つ、一楽さんと中村先生に伺います。  私は、政府案も理想的なものではない、欠点は多々包蔵されておる、これは率直に認めます。しかし、この基本法だけでなくて、この関連法を集大成して新しい農政の方向ができるわけでありますから、基本法で足らざる点は関連法律で修正するという方法もあると思うのです。社会党関連法律を見ますと、たとえば農村近代化法とかあるいは農業経営近代化促進法あるいは農業加工振興法、牛乳法、農業生産組合法等、十一の新しい法律のほかに、現存の法律を九つ改正していこうというわけです。この社会党が新しく計画しておる十一の法律を見ますと、いずれも膨大な財政資金を要する法律なんです。私たちが現在出しております関連法律を見ますと、きわめて現実的で、現在の政権を担当する政府としての良識ある関連法を用意しておるわけであります。  それで、お聞きしたいことは、一楽さん、どうでしょうか。この基本法でもやはり、継続審議という御意見もさっき中村さんからもありましたけれども、何はさておいても通してもらいたいということが一楽さんの真意であると確信します。それから、中村さんも、この政府案は欠点はあるが、やはりこれでもないよりはベターだという感覚じゃないかと思うのです。これが通らなければ現状維持なんですから。一つこの機会に、こちらの立場を忘れてお話しを願いたい。
  145. 一楽照雄

    ○一楽公述人 お答えいたします。十分の審議を尽くされて、すみやかに御決定いただきたい。
  146. 中村迪

    ○中村公述人 御質問ですが、私ども、実は、農業基本法そのものと同時に、関連法案が非常に大切なものだと思っております。その意味で私先ほどから公述申し上げておるつもりでありますが、ただいまの政府提案基本法のままで、現在出ております関連法案、それを抱き合わせて考えますと、たとえば一番農民が関心の強い価格の問題ですね。あの辺が非常に危険性をはらんでおる。このまま政府基本法案がかりに通過いたした場合は、この法案の具体面における運用にあたっては、やはり、今までのいろいろの法律が、運用の際に政府のそのときどきの都合ある意思によって左右されて、末端の住民には非常に期待に反した結果が現われるということもございますので、私は、基本法の中では、大切な点、特に価格のような点については、社会党の御提案のように価格決定の具体的な基準を御明記下さらなければ、とても納得をしないと思います。
  147. 坂田英一

    坂田委員長 これにて公述人各位に対する質疑は終了いたしました。  公述人各位に一言ごあいさつ申し上げます。本日は御多用中のところ御出席をいただき、長時間にわたってきわめて貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。厚くお礼を申し上げます。(拍手)  明日午前十時より開会することとし、本日はこれにて散会いたします。    午後六時三十四分散会