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井出参考人 ただいまの御質問にお答えを申し上げます。
お話のように、
漁業制度の
調査上最も力点を置きましたのは、
沿岸漁業の根幹をなします
漁業権制度の再
検討をしてみるということであります。
これは、御
承知のように、戦後
現行漁業法に切りかわった際に大
改正がございましたので、それにつきまして、まず第一の問題は、
沿岸漁業権の大
部分は
沿岸漁業者をもって組織される
一つの共同体の管理のもとに、その組成員である
沿岸漁業者に利用させていくという体系、これが
漁業権のほとんど大
部分をなしておると思います。すなわち共同
漁業権と申しますのがそれでございます。それから、養殖に関しまする区画
漁業権の相当
部分もこれに該当すると思います。それから、これと対照的な
関係にあります
漁業権としては、
漁業を営む者が直接にその
漁業権の免許を受けているもの、営業といいますか、
経営者に免許をするというもの、これが
一つ一方にございます。その代表的なものは、
現行制度におきまして大型定置
漁業、それからもう
一つは真珠養殖
漁業、これは一種の区画
漁業でございます。この
二つが一方において対照的なものでございます。また、この中間に、
経営的なものでありまた漁村共同
経営体の管理的なものにも行き得るというふうなものが、ある程度区画
漁業権等にございますわけで、そんなふうな
情勢になっておるわけであります。
それで、その第一点の
沿岸漁業者のために
漁業権を管理しこれを
漁業者に使わせしめるという主体の問題について当初に論議が起こされました。これは、御
承知のように、
漁業協同組合がほとんど専属的に免許を受けて、共同
漁業権になっております。この
漁業権を協同組合に持たせていいかという点について、内部でいろいろ議論がございました。と申しますのは、
漁業協同組合を、一方において少なくとも現在の合併前の旧市町村程度単位の広い組合にして、
経済活動を
中心にしてやらせなければならぬじゃないか、今後
漁業者の
経営の安定あるいは
構造の
改善をします上において、この協同組合を通じてやらなければならぬ、それには
経済団体として徹底していく必要がある、ところが、地方の住民である
漁業者のために総括的に
漁業権を持ってそれを使わせるということとは相矛盾する場合がありはしないかということが論議されたのでありますが、しかし、これがためにもう
一つ特別な団体を作るということは、結果的にはほとんどその地区
漁業協同組合とうらはらのものができるという
結論になりますので、それらの点も考えて、これは
両者を持たせていくことが、
漁業協同組合の
経済団体としての
発展にも支障を来たすようなことがないのみでなく、場合によっては
沿岸漁業者がいろいろの利用
関係その他を進めていく上において有効であるというようなことで、この
両者は従来通りに
一つの地区協同組合に持たせていくことがよろしいという点が第一の論点でございます。それから、共同
漁業権につきましては、できるだけこれを従来のような協同組合にしっかり持たせて管理をしていきますとともに、
内容的に整理をする必要があるものは整理をしていくというこまかい点はありますが、大体現在の
制度を確認して参る。
それから、もう
一つ問題になりましたのは、営業的
漁業権であります定置
漁業権、御
承知のように、これは
漁業協同組合がかなり持つわけであります。持つというのは、
法律の建前上は、
漁業協同組合が
漁業自営をする、定置
漁業の自営をするということにおいて優先的に免許せられることになっております。この
漁業協同組合による自営というものについて、過去約十年ほどの経験等から見まして、功罪
二つのいろいろやかましい論議がございました。
結論的には、
沿岸漁業者にできるだけ定置
漁業の地元の漁利を直接均霑させる作用としては、やはり
漁業協同組合へ自営をせしめるということで免許をする必要があるのではないか。ただ、過去の経験によりますと、
一つは、協同組合が自営をするとして仮装的な
経営をしているというふうなものもあり、それから、もう
一つは、
経営はしたのであるけれども、
経営の仕方その他にもう少し足りない点があるために、協同組合自体の
経済的の地位を危うくしたという例もある。それらの過去の経験なり教訓を見まして、これは従来のように自由にやらせることについては考えものではなかろうか、適当な行政庁においてチェックをして、また監督をして自営をやらせるならやらせる、それで参らない場合におきましては、
漁業協同組合以外の、できるだけ地元に即した
漁業者の集団あるいは共同体というふうなものに免許していくということは、これはできるだけ指導いたさなければならぬというようなことが
最終的な
結論になったわけであります。
それから、もう
一つ、これに
関連して、この「まえがき」にもありますように、
最後まで
二つの説が立ちましてきまらずに、少数説として
紹介しておきましたのは、この
漁業協同組合の持ちます定置
漁業権というものは、今のように自営主義を厳格に今後監督して守らしていくということになりますと、場合によって事情に即さない場合が出はしないか。
漁業協同組合が何かの一時的な事情によってそれを他に貸し付けてやった方がいいという場合がある。そういうような場合は一時貸付を認めたらどうか。これは、御
承知のように、従来
漁業権の貸付ということは新法以来一切禁止されておる。この点も論議されましたが、これは、やはり、新たな地主と申しますか、こういう営業
漁業権についての地主の出ることをおそれるがゆえに、やはり貸付は禁止しておくのはいいが、ただ、
漁業協同組合が自営のために持ったのであるが、一時的の事情で貸付をしなければならぬという場合においては貸付
制度を認めたらいいじゃないか、これを認めないとなると結局休業しているということになる、あるいはそうでなければ何か抜け道の仮装
経営をするということになるから、むしろこういう場合においては貸付を表向きから許可していった方がいいのじゃないかという論議がありました。しかし、これは少数説でございまして、論議は相当時間を費やしましたが、いれられない点の
一つでございました。
それから、もう
一つ、同じく
経営者主義の
漁業権でありまする真珠養殖
漁業の免許につきましては、これは非常な議論がございました。と申しますのは、こういう種類の区画
漁業権は、御
承知のように、新法以前におきまして、つまり明治時代から終戦直後のこの
法律の
改正になりますまでの問におきましては、区画
漁業権としてこれは
漁業協同組合も免許を受けられるし、それから営業者も、つまり真珠を養殖する営業者も免許を受けられるという、どっちでもよかったのであります。それで、地区協同組合は区画
漁業権の免許を受けて真珠養殖をやって、場合によってはさらにそれを組合員の各自に
行使規程によって貸付をして営ませるというような
制度がありましたが、この点が、新法におきましては、一切相ならぬ、これはやはり全部直接真珠養殖業を営む者でなければ免許をしないということになりまして、その結果、
漁業協同組合のこの真珠養殖の区画
漁業権の免許を受ける余地がなくなったのであります。ごく例外的に自営をしてやるというものがあっただけであります。これが非常な問題になりまして、その中をとりまして、この権利は今後
改正する場合においては中間的の性質を与えてもらいたい、これは一方において
経営者主義的な付与の
制度もいいが、同時に
一般の区画
漁業権と同じように
漁業協同組合による管理
漁業権の範疇にも入れて免許の道を広げる方がよろしいのじゃなかろうかということで、その
両者の調整等についてだいぶ長く議論がありましたが、ここにありますような
結論に相なったというふうな点等が大きな問題でありまして、その他は
漁業権制度につきましてはあまり大きな問題はありません。
もう
一つ、この点は
結論として抜けましたが、一部の要請としては、昔のように共同
漁業権を——つまり、昔専用
漁業権の中に
沖合い・
遠洋が入っておりました。この共同
漁業権によって海面の全面を
沿岸漁業者のために
沖合い・
遠洋まで含めた総括的の共同
漁業権を与えて、そこを閉鎮したらどうだ、こういう論議が出ました。しかし、これはどうも体制上、
沖合い・
遠洋につきましても
漁業形態というものをそういう地元に閉鎖したものにするということは、どこもみな中途半端なものになる、むしろこれは
漁業権からはずして許可
制度の十分なる運用によって進出きせるべきである、こういうことによって初めて漁船
漁業による
沖合い・
遠洋の浮き魚
漁業に
沿岸漁業者を進出させる、
沿岸漁業といい、
沖合い漁業といい、今のような考え方でちょん切らずに、
沿岸漁業者即
沖合い漁業者に持っていくというような政策にする
意味においても、この
沖合い・
遠洋を昔の専用
漁業権のごときもので
沖合いを閉鎖するということはまずいのじゃなかろうかということで、これは
現行制度を是認するというような考えを持ちました。これもしかし相当の論議の末にさような
結論に達したわけであります。
大体そんなような点がおもな点でございます。