○
吉川参考人 今回の
改正案の実質的な
改正部分は、大きく分けまして
三つに要約することができるかと思います。
その第一は、第二条
関係において飛び出し
ナイフの
範囲を
現行法よりも広げる、刃渡り五・五センチメートルという
制限をはずすということ。それから第二十二条
関係におきまして、従来「あいくち
類似の
刃物の
携帯の
禁止」となっておりましたのを、「
刃体の長さが六センチメートルをこえる
刃物の
携帯の
禁止」というふうに、
本法の
取り締まりの対象となる
刀剣類の
範囲を広げるというのが第一の点かと存じます。次に、第五条
関係におきまして、
所持の
許可の
基準を厳格化する、
同居の
親族の間に人の
生命、
財産、
公共の安全を害するおそれがある者がある場合には
許可しない、この
改正。もう
一つは、二十四条の二という
条文を設けまして、
刀剣類による
犯罪を
未然に防止するために
警察官の職権をある
程度強化する。こういう
三つに要約することができるかと存じます。
そのうちの第一点につきましては、実は私飛び出し
ナイフなるものを見たこともございませんような状態で、この第一点につきましては特段の
専門的意見を申し上げる
立場にございません。
第二点につきましては、
本人以外の者の事情を
理由として
所持の
許可をしない
処分ができる。この点につきましては、先ほど
田上先生もお話しになりましたように、その
親族が
同居しているかどうかについての
調査の問題はどうなのか、
相当問題点をはらむと思いますが、同様な
規定といたしましては、すでに
現行法におきましても、
古物営業法の第四条ですか、あるいは
質屋営業法の第三条の
許可の
基準として
類似の
規定が入っておりますので、ここでこれも特にしいて反対するほどの気持は私は持っておりません。
私が主として問題にいたしたいのは、この二十四条の二として「
銃砲刀剣類等の一時
保管等」という
条文で新設されようとしておる
規定でございます。率直に申しまして、この
規定は去る
昭和三十三年秋における
警職法の
改正案のうちに含まれていた若干の
規定——もちろん全部ではございません、そのうちのごく一部の
規定でございますが、それがある
程度形を改めてここに現われてきたという感じを免がれないのであります。すなわち同条第一項、第二項は、当時の
警職法改正案の第二条第三項に含まれておる
趣旨に近い
規定でございますし、それから同条の第三項以下は、同じく
警職法改正案の第八条に一時
保管として新設しようとされた
規定に先例を見出すことができるかと考えます。申すまでもなく
警職法の
改正案と申しますものは、当時
国民の
相当多数の反対によって結局廃案となったものでございますので、その後若干
暴力犯罪の増加というような新たな
事態が生じましたとはいえ、これに類した
改正をする場合には、
相当慎重でなければならないかと存じます。
そこで、以下主として
警職法改正案当時に、
当該条文の
乱用ということがおそれられましたその
乱用という点に関して、今回の
法案は
乱用防止のために万全であるかという観点から私の
意見を申し上げたいと存じます。
まず、一番問題と考えられますのは、二十四条第一項にございます
提示の
要求あるいは
開示の
要求でございます。これはこの
条文では明記されておりませんが、おそらく
警職法第二条の
職務質問に伴って行なわれることが多いのではないか。本来ならば、
警職法の問題をこの際にこういう形で
警察官の
権限の
範囲を広げる場合には、
警職法の
改正という道でいくのが本筋ではないかというふうに考えますが、この際その問題に触れることを差し控えます。
それで第一項の
提示させる、あるいは
開示させるという
言葉、あるいは第二項の
提出させるという
言葉、これがはたして
強制という
意味を含むものか。
警職法におきましても、その第二条におきまして、
職務質問に際して「兇器その
他人の
生命又は
身体に
危害を加えることのできる
物件を
所持しているときは、」「
提出させることができ、又、これを
所持していると疑うに足りる
相当な
理由があると認められるときは、」「
提示させて調べることができる。」あるいは第八条では、
提出させた物の一時
保管というものを
規定しておりましたが、
警職法の
改正案のときには、第四項といたしまして、「前三項に
規定する者は、
刑事訴訟に関する
法律の
規定によらない限り、身柄を拘束され、又はその意に反して
警察署に連行され、答弁を
強要され、又は差押若しくは
捜索をされることはない。」これはおそらく
注意規定で、当然のことを念のために明らかにしたものだと考えられますが、こういう
趣旨の
規定が設けられております。もっともこの点につきましても、一時
保管と差し押えということは概念を異にするから、差し押えをしないという保証があっても、一時
保管が
強制的に行なわれないとは言い切れないのではないかという議論が当時ございましたが、ともかく差し押えもしくは
捜索をされないのだというふうな明示がございます。この点、今回の
法案にはそういう
条文がございませんが、やはりこれはあくまでも当然
任意処分でなければならない。もし
強制処分であるとするならば、これは
憲法第三十五条の
建前からして、
憲法違反の問題ということが起こってくる。しかもこれは
行政処分とは申しますものの、
刑事手続と非常に密接した
規定だというふうに私は考えます。と申しますのは、場合によっては、こういう
刀剣類等を
所持していること自体、これは
本法第三十二条の
違反という
犯罪を当然構成する。それがまたここに
規定されている特に
生命に
危害を及ぼすおそれがあるような
刀剣を持っておれば、これは少なくとも
刑法における
殺人予備あるいは場合によっては
強盗予備というような罪名にも触れる事柄でございますので、たとえば非常の際に
他人の
住居に立ち入るというような純粋の
行政処分とはやや性格を異にしているのではないか。従って、これがいささかでも
強制の、つまり
刑事訴訟法上の差し押えとか、あるいは
捜索とかいうものに類したような機能を営むものであれば、これは
憲法三十五条との関連において、
憲法違反の問題が生じてくるというふうに解せざるを得ない。従いまして、少なくとも法の
建前といたしましては、
警職法改正案の第二条第四項のような
規定があるとないとにかかわらず、あくまでもこの
提示や
開示というものは
任意処分である。従って、
提示や
開示を拒否されたならば、その意に反して
強制的にこれを
提示させたり
開示させたりすることは不可能である。これが今回の
法案の
建前であろうと考えます。そういたしますと、本来的な
意味での非常に凶悪な犯人、これからやろうとしている
人間、この刀で
犯罪を犯してやろうという
人間が、はたして最終的に
強制権の裏づけのないこのような
開示要求、
提示要求に応ずるかどうか、おそらくそういう
人間は拒否するのではないか。御送付いただきました
国家公安委員会の
本法の
改正を必要とする資料の三十ページに、こういう例が
幾つかあげられております。そのうちの
幾つかのものは、
警職法当時にもたしか例としてあげられておったと記憶いたします。たとえば三十ページの例の一で、「何もない、ふところのものを出して見せる
義務はないはずだと開き直られたので、
目的を達しなかった。」今回の
法案でこういう者に開き直られないためのという
目的を達しようとするならば、
相手方に、つまり疑われている者に
義務を認めなければ、この一の
事例はやはり解決しないのではないか。そういたしますと、こういう
事例の解決のためにこの
改正案が出て参りましたということは、やはり何らかの形で
提示あるいは
開示の
義務を認める、少なくも
義務があるかのような印象を利手に与えることを
目的にしているのではないか。そういたしますと、
任意提示あるいは
任意開示と申しながらも、これは純粋の
任意ではなく、
相当程度事実上の
強要が加えられることになりはしないかという点を私は憂えるのであります。こう申しますと、はなはだ
警察当局に対して憶測をするようで失礼かと存じますが、私も全然根拠なしにこういうことを申し上げているわけではございませんで、
現行法の
職務質問において
相当程度、事実上の
強要が行なわれている向きがあるのではないか。私、それをつぶさに存じているわけではございませんが、たまたま
刑法学を勉強しております
関法上、
職務質問に抵抗して
公務執行妨害罪として問題になった
判例を
幾つか集めたことがございます。御
承知のように、
現行警職法では、第二条の一項では、「停止させて
質問することができる。」二項では「同行することを求めることができる。」、このようなことで警官の
職務権限が明記されております。ここでこの第一項の「停止させて」と書いてあるのは、二項の「同行することを求める」という
言葉との対比上、ある
程度実力を加えてもいいんだ。この点につきましては、私は必ずしもそういうふうに解さなければならぬかどうか、疑問に思っておりますが、
判例は、少なくも肩に手をかけて立ち去ろうとするのを引きとめるというようなことはやれるんだ。しかも、たとえば
現行法では全然書いてない
提示を求めることもいいんだ、たとえば東京高裁の
昭和二十九年五月十八日の
判例を見ますと、警官に内容について
提示を求められるや、にわかに歩き始めた、これは異常な態度なんだからこれをとどめるのは当然だというような判決がございます。それからまた「停止させて」という
言葉に比べて、
任意性の度がより強いといわれる同行を求めるという
言葉でさえも、事実上は意に反して
警察署に連行しようとする態度が
幾つか見られる。たとえば、この同行
要求には、言うまでもなく、その場で
質問することが
本人に不利である、交通の妨げになるという場合でなければできないことになっておりますが、たとえばこの場合も、やはり
所持品の
提示を求めて、見せるのがいやならばともかく派出所に来てくれ、これは名古屋の公園の中で夜の九時ころ行なわれた。従って交通の妨害になるというような
事例も全然ない。それを振り切って行こうとするのを追いかけてつかまえようとした、それに抵抗した者を
公務執行妨害に問うたのであります。名古屋の地方
裁判所はこれは無罪だといたしましたが、第二審ではこれを破棄して、結局有罪になった。こういうような
判例から見ますと、この
開示させるとか、あるいは
提示させるというような
言葉にいたしましても、
相当程度の
強制が加えられることが予想されます。しかもそれはさっきも申しましたように、事実上危険な
人間に対してはそう有効とは考えられない。本来の凶悪犯に対しては、拒否されればしまいだ。究極的にはそうならざるを得ないと思いますので、
取り締まり目的の上から決定的に有効とは考えられない。むしろ、いわゆる善良な市民というものを
提示要求等によって
相当程度不安に陥れるという可能性の方が強いんじゃないか。先ほど申しました
判例は、いずれも共産党
関係の人に対する
職務質問でございまして、徹底的に最後まで争ったというような
事例でございますが、現在、そうでない場合には
相当程度の
職務質問、それに伴う同行
要求等でプライバシーその他の権利が
侵害されても泣き寝入りに終わるというのが実情じゃないか。もちろんこの
改正案には「異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して」云々という文句がございます。
現行警職法の第二条にも「異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの
犯罪を犯し、」云々というような
要件がございます。しかし、この
要件の認定ということはやはり
相当ルーズじゃないか。この
職務質問というものが
犯罪検挙の端緒として非常に有効であるということは私も
承知いたしておりますが、そういう面から見ますと、数撃てば当たるというような調子で、
相当気軽にやられるんじゃないか。実は私自身も
職務質問を二、三回やられたことがありますが、私どもの場合ですと、大体名刺を出しますと、けっこうですと言われるのが常でございますが、こういう調子で見ますと、この「異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断」、これは
警察官にとっては合理的な判断でございましょうが、その合理的な判断というものがはたして客観性を持ち得るか、またその客観性をどうして担保するかと申しますと、
相当疑問だと思います。もっとも
警職法に比べますと、はるかに進歩している点もございます。たとえば
警職法のときは凶器その
他人の
生命、
身体に
危害を加えることのできる
物件となっておりました。
危害を加えることのできる
物件というのがどこまで及ぶのか、この点に拡張のおそれがある、
乱用のおそれがあるという批判が強かったわけでございますが、今回は、この銃砲
刀剣の定義がはっきりしておりますので、この点は
警職法よりもすぐれている。この点に関する限り
警職法よりはいいと思います。ただしかし、今回の
改正案で見ますと、
相当小さいもの、飛び出し
ナイフですと五センチ半以下のものでもこれに含まれる。そういたしますと、これを持っているあるいは運搬しているという疑うに足りる
相当の
理由という判定はどういうふうにしてつくのか、大きな鉄砲とかあるいは日本刀というものであれば、これは運搬していると疑うに足ることは比較的容易に判明するかもわかりませんが、
相当小さなものをカバンの中に入れているという場合に、それが運搬しているというふうに疑われる
理由があるということになりますと、これまた
警察官の主観的な判断によって
相当程度この
提示要求がなされる場合が広がってくるんじゃないか。客観的にはその
範囲ははっきりしているにしても、その疑う、運搬しているかどうかということについての疑いを抱く段階においては、やはり
警職法のときに問題にされたと同じような憂いがあるんじゃないか、こういうふうに考えられます。
次に、そういう観点から申しますと、第一項、第二項というものは、ほんとうに
任意であれば
取り締まり目的は達成できない。もしこれが
強制ということになりますと、
憲法違反との
関係がある。しかもこれはその中ごろ、事実上の
強制をねらうという限りにおいて、やはり
人権上
相当問題である。従って私は、第二十四条の二の
規定の新設には反対の
意見を持っております。
第三項以下は一時
保管を
規定しております。これは
警職法の第八条のときは
相当ずさんな
規定であるというので非難が高まったのでありますが、この
規定を見ますと、
警職法の
規定に比べると、はるかに整備されている、改善されているようにうかがわれます。たとえば
警職法のときには、
警察官の独自の判断で返還の
処分をしていたのが、今度は
警察署長に返還の
処分をさせる。あるいは第五項によって、返還しない場合の事後
手続が
警職法については何ら
規定されていなかったのが、今度は十一条六項、七項というものを準用している。また
警職法で認められていた公告もしないでする廃棄
処分というものは認めないというような点から、
警職法に比べますと
相当の配慮がなされていることは十分認められます。ただ第四項で、「
親族又はこれに代わるべき者」というこの「代わるべき者」とは何か、この点が
相当あいまいで、どういう人を予定しているのか、私はちょっとわかりかねますが、問題をはらむ
規定ではないか。
それから返還しないという性質、もっともこれは
原則として現物を返還しないけれども、換価した金は返還するということに、十一条六項、七項の準用でなったようでございますが、これの性質、つまり
財産権自体は
警察署長の裁量で現物を返さないという
処分、これの性質がどういうものであるか、この点についても若干疑問があると考えます。特にこの第三項以下が当然第一項、第二項を前提としているという限りにおいて、やはりこの
規定自体は
警職法の八条よりは整備されているとはいえ、一項、二項と合わせて、私は二十四条の二という
規定の新設には非常に疑問があり、この
条文に関する限りは反対の
意見であるということを申し上げます。
御
質問がございましたらあとでお答えいたします。(拍手)