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1961-03-15 第38回国会 衆議院 大蔵委員会 第15号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十六年三月十五日(水曜日)     午前十時十九分開議  出席委員    委員長 足立 篤郎君    理事 鴨田 宗一君 理事 黒金 泰美君    理事 細田 義安君 理事 毛利 松平君    理事 山中 貞則君 理事 辻原 弘市君    理事 平岡忠次郎君 理事 横山 利秋君       伊藤 五郎君    岡田 修一君       金子 一平君    川村善八郎君       簡牛 凡夫君    田澤 吉郎君       高田 富與君    永田 亮一君       西村 英一君    藤井 勝志君       米山 恒治君    有馬 輝武君       佐藤觀次郎君    田原 春次君       広瀬 秀吉君    藤原豊次郎君       堀  昌雄君    武藤 山治君       安井 吉典君    春日 一幸君  委員外出席者         大蔵事務官         (大臣官房財務         調査官)    泉 美之松君         参  考  人         (税制調査会会         長)      中山伊知郎君         参  考  人         (大映株式会社         社長)     永田 雅一君         参  考  人         (東宝株式会社         常務取締役)  菊田 数男君         専  門  員 抜井 光三君     ――――――――――――― 三月十四日  一般国民年金税法案八木一男君外十四名提出  、衆法第六号)  労働者年金税法案八木一男君外十四名提出、  衆法第七号)  国民年金特別会計法案八木一男君外十四名提  出、衆法第八号)  国民年金特別会計法案内閣提出第九五号) は本委員会に付託された。     ――――――――――――― 三月十四日  農業協同組合に対する法人税課税免除等に関す  る陳情書  (第四三九号)  一時恩給受給者年金支給に関する陳情書  (第四六二号)  揮発油税等引上げ反対に関する陳情書  (第五二四号)  葉たばこ収納価格引上げ等に関する陳情書  (第五二五号) は本委員会に参考送付された。     ――――――――――――― 本日の会議に付した案件  税制に関する件      ――――◇―――――
  2. 足立篤郎

    足立委員長 これより会議を開きます。  税制に関する件について調査を進めます。  本日は、税制改正に関する諸問題について、参考人より御意見を聴取することといたします。  参考人には御多用中のところわざわざ御出席をいただきまして、ありがとうございます。  まず、一般問題について、税制調査会会長一橋大学教授中山伊知郎君より御意見を聴取することといたします。中山参考人
  3. 中山伊知郎

    中山参考人 御指名によりまして、税制調査会立場から、今回の税制改正に関する意見を申し上げたいと思います。  調査会自体意見といたしましては、皆さんのすでに御承知の、昨年十二月に出しました当面実施すべき税制改正に関する答申及びその審議内容と経過の説明という非常に大部のものがございまして、この中に調査会審議過程並びにその結論が全部出ておりますので、それを御承知願ったものといたしまして、前提として、私のごく簡単な意見を申し上げたいと思います。私に与えられました時間が十五分間くらいということでございますので、そのような範囲で申し上げますので、あとは御質問にお答えを申し上げたいと思います。  まず第一に、答申案骨子と申しますか、一番の重点はどこにあるかと申しますと、全体を通じまして、国民所得に対する税負担率をおよそ二〇%というところに置いたというところに重点がございます。なぜそれが重点になるかと申しますと、今回あるいはさかのぼって数年来の減税のおもなる動機と申しますのが、御承知のように自然増収ということでございます。自然増収がなぜ減税の最大のきっかけ動機になるかと申しますのは、御承知のように、累進税率のとられておりますところでは、経済成長率よりも税収増収率の方が大きくなります。これを直接税と間接税二つに分けて考えますと、最近のところでは、経済成長率に対する税収弾力性、つまり一なら一だけ成長がありました場合には、税収の方にはどのくらいの幅で増収があるか。これを弾力性と申しますが、それが直接税関係だけでは一・七一、それから間接税でございますと一・二一という数字が、昭和三十五年のところで出ております。従いまして、平均いたしましておよそ一・五とお考えになってけっこうだと思いますが、自然成長率というものがかりに一〇%でございますと、税収の方は一五%の増収になる、こういう勘定になりますので、成長の非常にすみやかなところで税率をそのまま据え置いて参りますと、ことに累進税がそのまま置かれておりますと、税収の方がだんだんに大きくなりまして、そして負担率が多くなって参ります。従って、自然増収のあるところでは、どうしてもそのときどきに税率を訂正しながら、負担率適正率を維持していくということが必要になって参ります。  それでは、よく言われますように、自然増収のある場合には必ず減税をしなければならないか。この点は、今申しましたような負担率一定にするという観点から申しますと、確かに減税が必至であります。しかしながら、逆に申しまして、国民所得に対する税負担率一定にするということが、どの程度必要であるか、これは別個の問題であります。たとえば、御承知のように、日本税負担率は、税制調査会答申のように、今二〇%前後ということになっておりますが、アメリカの税負担率は二八%、ドイツの税負担率は大体三一%から三二%、このように国によって違う。またもう一つほかの例を申しますと、インドはわずかに六%というような国民所得に対する税負担率でございまして、この点を日本でなぜ二〇%にするかという点には、別個に問題があるわけであります。  先ほどの問題に立ち返りまして、自然増収は必ず減税しなければならないかと申しますと、これは経費の内容と効率によるのであります。具体的に申しますと、もしも社会保障というようなところでうんと金を使うということでございますれば、必ずしも二〇%に押えていく必要はございません。また、これは政府をうんと信用いたしまして、税金の使い方は民間よりも効率的であるという場合でございますれば、負担率が二一%になりましょうとも、あるいは二五%になりましょうとも、これまた問題はございません。そこで、現在の問題としては、なぜ日本現状では二〇%というようなところがいいか、こういう問題に押し詰まって参ります。この点では、まず第一には、戦前に比較しまして二〇%といえども若干高いのではないか。御承知のように戦前負担率は二%というところでございました。今日二〇%前後になっているというのは、どうしても  これは高いのではないか、これが一つ。それから、もう一つの問題は、納税者の数が非常に増加いたしまして、戦前昭和十四年ごろでございますが、その時分の納税者人員はこれまた御承知のように二百万人程度でございましたが、今日は千百八十万人、およそ千二亘万人に近くなっております。これはどうしても全体としての税負担が重いという感じを、理屈でなしに実際の感覚の上から取り去ることができないような状態になっておりますので、それで日本自然増収があった場合には、せめてある程度税負担率を頭に置いて減税をしていくのが、現在のところでは適当ではないか、このようなところで二〇%という線を出したのでございます。ただし、それでは二〇%が絶対に正しい数字か、これは一歩も動かないのかということになりますと、調査会の内部でも非常に議論があったのでございますが、一つは、今までの経験率からいたしまして、戦後の十年間を見ますと、ことにシャウプ税制改革以後の、あれは二十五年以後でありますが、二十五年以後の約十年間をながめますと、二七%近くになったこともございますが、しかし、現在の三、四年のところ々見ますと、やはり経験率からいって二〇%という線を維持するのがいいのではないか。この辺が結論の出ましたところなので、実際を申しますと、三十五年度の第二次補正予算までを入れ欲した数字では、たしか一二%になっております。それから三十六年度の予算数字では二〇・七%になっております。従いまして、このところを〇・五、〇・七というくらいの数字の狂いというのはどうもこれはやむを得ませんので、われわれの答申案の線といたしましては、大体二〇%に押えるというようなところが骨子になっていることを申し添えておきたいと存じます。これが骨子の点。  次に、そのような形で減税というものを考えました場合に、基本方針をどこにおくか、これが問題でございます。今度の税制調査会では、基本方針の最も重要なもの——いろいろございますが、最も重要なものを税負担公平化均等化というところに置きました。その結果出てきました問題が、大体大きなもので五つぐらいございますので、それを一つずつ簡単に申し上げます。  第一は、公平という点から申しますと、何といっても一番問題になりますのは把握の問題であります。所得把握という問題でございますが、これが非常にむずかしい問題で、実は、そんなにむずかしい問題をほうっておいて、公平化というのができるかという根本問題になりますと、どうもできないのでありますけれども、これは言い抜けをいたしますれば、日本だけの問題ではございませんので、その中で何とかしなければならないということなんです。そこで、この把握上の困難という問題との関係公平化の一番大きな問題になりますのは、御承知のように給与所得者税金でございます。これはペイ・ロールから源泉でもって徴収される。これははっきりしている。そこでどうしても給与所得者税金というものが重いのではないかという感じにならざるを得ないのであります。給与所得者税金に対して、他の税金は、御承知のように、いろいろな、あるいは資産所得者であるとか、あるいは営業所得者であるとか、自由所得者であるとか、それからちょっと問題がございますけれども農業所得者もこれはなかなか所得把握がむずかしいのでございまして、そういう点に比べますと、給与所得者だけが非常にはっきり税金の対象となる所得がつかめる。そこで、何とかそのような感覚にこたえて公平化というのをはからなければならないのではないだろうかというので措置しましたことは、これは答申案通り税制改革案でも措置されておりますが、措置しましたことは、わずかにと言うと悪いのですけれども、一万円の給与所得に対する定額控除という制度を作ったということ、その他いろいろなことがございますけれども、一番中心になった点は、その点と、それからたびたび問題になっております現物給与の問題、この点についてはしばらく手をつけない方がよかろうという結論を出した。この二つ給与所得の、何といいますか、負担の不均衡感、これは所得把握の困難ということからくるわけですが、その不均衡感に対する措置でございまして、これはまだ足りない点があると思ますけれども税制調査会結論といたしましては、そんなところに落ちついたというのが事実でございます。  それから、第二の点は、やはり負担均衡化という点から申しますと、中小、ことに小所得者税率を緩和するということが必要になって参ります。そこで、税制調査会としては、百八十万円以下の所得者に対する税率緩和というものを勧告いたしました。ところが、これが一番大きな政府案との相違なんでございますが、政府案においては、七十万円以下のところにその税率緩和という措置を押えてしまいました。その理由は、七十万円以下の所得者人員における比率が、納税者全体の——これは所得税ですが、納税者全体の九七%を占めている、こういう数字から一番ここに重点があるのだから、その点だけを押えれば、百八十万円まで持っていかなくてもいいだろうという、これは政府考えであったらしいのです。私どもは、現在の所得水準から見まして、もう少し幅を広げた方がいいのではなかろうかというので、百八十万円まで持っていったのでございますけれども、おそらく、これは政府には悪いかもしれませんが、もう一つ隠れた理由は、減収になるということが七十万円に押えた理由一つであったのではないかと思います。たしか全体で、こういたしますと約二百五十億ぐらいの金額が違ってくるかと思います。  それから、第三の点は、負担均衡という点から申しまして、非常に大きな問題になっておりますのは、法人企業個人企業との間の負担バランスでございます。これは皆さんが御承知法人成りというような傾向がございまして、個人業でやっているよりも、法人という形をとった方が税金が安い、こういう形で非常に無理な法人形成が行なわれているようなこともございますし、もしそういうことでありますならば、法人税負担個人企業の程負担を、もっと均衡化しなければならないのではないか。この点に注意をいたしました。現在法人は一般的には三八%の税率、それに地方税が、事業税とかいろいろなものがかかりますので、それを合わせますと、実効税率は四九・二%ということになります。ところが、一方所得税の方は、これは個人業種にかかる所得税でございますが、御承知のように、最低一〇%から最高八一%まで非常な開きがございます。そこで、どうしてもます個人所得法人所得との間のバランスをとるという問題が、非常にむずかしい問題になるのでございますが、このバランスをとっている税制は、今日のところでは西ドイツだけでありまして、西ドイツは、個人最高も大体五〇%、法人実効税率も大体五〇%、最高のところでそろえまして、そして大体のバランスをとっておりますが、英米その他の国は、大体日本と同様に、所得税では非常に格差が大きい、そして法人税では、大体均等的な、やや低い税率を持っているというのが現実でございます。  そこで、個人所得法人所得とを一挙にならすというような仕事はとてもできませんので、その中の部分的な問題を取り上げました。部分的な問題の第一は、法人の中の大法人中小法人との税負担均衡でございますが、どうも中小法人の方が重いという声が非常に多く、調査の結果もそういうことが出て参りましたので、せめて同族会社留保所得課税については一〇%の控除をしようじゃないかというような措置をとりました。これはそのまま法案になっております。それから、もう一つ中小法人個人業者との間のアンバランス、不均衡を是正するために、特に個人業者につきましては、専従者控除というようなことを創設いたしました。これを創設いたしますと、中小法人との負担相違というのは、相当に軽減されるはずであります。この二つ措置でもってただいまの問題を処理したのが調査会答申案で、それは大体そのままこの法案の中に盛られております。  第四番目は、租税特別措置改正問題であります。この問題はいろいろな観点から議論がされておりますが、われわれのここで取り上げました一番大きな観点、視点というものは、それはあくまでも税制全体の立場から負担の公平という点に重点を置いたのであります。そうなりますと、御承知のように、租税特別措置恩典を受けておりますのは、言うまでもなく大法人でありますので、その大法人恩典を受けている租税特別措置、これをだんだんに少なくしていくことによりまして、これは、逆に申しますれば、大法人負担がそれだけ大きくなる。そのことは、よくいわれておりますように、いろいろな理由がありましょうけれども租税特別措置でもって何か非常に不当な利益を得ているようにいわれておる大法人利益と申しますか、そういうところ押えるのにある程度役に立つのではないだろうかということで、たとえば利子所得課税特別措置、それからいろんな準備金貸し倒れ準備金とか、その他いろんな準備金引当金に対する特別措置技術振興に対する特別指揮産業助成関係特別措置、そんなものを全部洗ったのでありますが、はっきり申しますと、残念ながら、この点についてのわれわれの検討も不十分であったかもしれませんが、実に利害関係が複雑しておりまして、整理がなかなかはかどりません。結果を申しますと、今度の三十六年度の税制改革におきまして、この租税特別措置関係税収増加になるもの、つまりその措置をだんだんに縮小していった効果というのは、金額にいたしましてわずかに百八十億、現在の租税特別措置の全体の金額というのは、これも御承知のように千四百五十億になっておりますので、それは残っている金額ですが、それに対応しまして節約し得た金額というのは百十八億でございます。この百十八億は確かに大法人負担になるので、その意味において均衡化という点には一歩前進はいたしましたけれども、期待されましたような効果がなかなかここには出て参りませんでした。これはもう正直に告白申し上げる方がいいと思います。たとえば、その中の一つ預金利子利子所得課税に関する特別措置、これはもう三年前にさんざん議論しました結果、もう特例措置はやめようということになったのでありますけれども、さて今度これをやってみますと、金利引き下げ傾向のときだから困るとか、いきなりやられたのでは、ことにそれに対応して配当控除制度までいじられるのは困るとか、いろんなことがございまして、結局一年見送りということになりました。一年見送りということになったのは、このほかに二、三ございますけれども、まだ検討中でありますから、全体の成果はそれて見ていただいた上で御批判をいただきたいと思いますけれども、正直に申しまして、今のところ大した成果を上げることができなかったということは、私は個人として非常に残念だと思っております。  それから、第五番目ですが、五番目は間接税の問題でございます。もし税制改革の基本的な方針を、先ほどから申しておりますように、税負担公平化という点に置きますといたしますと、どうしても直接税と間接税の問題に触れざるを得ません。これも経過的に事情を説明いたしますと、現在のところ、比率は、国税だけで見ますと、間接税は四七・九%、それから地方税を合わせますと、これは間接税の分が減りますので、比率は四〇・九%に落ちます。しかし、戦前から比べますと、この間接税比率は小さいのです。戦前は、御承知のように、国税だけで六五・二%間接税、それから地方税を合わせまして四五・一%、いずれも戦後の今日の方が減っておるのでございますが、しかし、シャウプ勧告による新しい税制の出ました昭和二十五年から見ますと、一時三十数%に減ったものがだんだんにまた復活して参りまして、間接比率が若干高くなっているというのが現状でございます。  そこで、なぜそうなったかということを考えますと、今まで、直接税、ことに所得税ですが、所得税中心減税がもうほとんど毎年ある規模でもって行なわれて参りました。ところが、間接税の方はそのような措置が行なわれなかったばかりか、昭和三十年、昭和三十二年、それぞれのちょうど今日の税制調査会に当たりますような調査会の、一々の名前は忘れましたが、そういう調査会答申案が、むしろ直接税の減収間接税の増徴で若干埋めても、決して不公平ではないだろうというような答申案が出ておりましたので、そういう関係もあって、間接税比率が実は増加して参りました。これは、物価関係やその他いろいろございますので、計算が正確ではございませんけれども、大ざっぱに、昭和二十五年以後行なわれました直接税関係減税規模数字で見ますと、七千二百七十億になります。七千二百七十億だけずっと直接税関係では減税を重ねて参りました。ところが、間接税関係減税は、これは何かしょうちゅうのある種類とか、いろんなものをやったのでありますが、その間接税関係物品税その他がございますが、それは七百四十億であります。つまり直接税に対してわずか一割程度減税しか今までやっていない。そのことが重なりまして、直接税と間接税比率において、間接税の比重をいささか——戦前よりは非常に低いのでありますけれども、いささか増加させている傾向にある。そこで、もし税負担の公平という問題から申しますと、どうしても間接税関係に手をつけざるを得ない、非常にむずかしいのですが。というのは、一体高いか安いか。戦前に比べますと、まだ比率はずっと低い。それから、世界の他の国に比べましても、必ずしも間接税比率日本だけが高いというわけではない。日本税制その他をずっと見まして、これがはたして大衆課税になっているか。一番重要な点は均等課税なんですね。もし累進税でありますと、間接税の中に累進税が取り入れてありますと、幾らか大衆課税というのを免れながら税収を上げることがあり得るのでありますが、これはもう全部均等税なものですから、どうしても大衆課税的な色彩を強く持たざるを得ない。そこで、これはどうしたらいいかという問題につきまして、税制調査会は目下検討中と申し上げるよりほかございません。と申しますのは、これまた言いわけになるようでございますけれども、この税制調査会のできた一つきっかけは、先ほど申しましたように、自然増収による減税ということなんでございますが、それと同町に、一つ大きな問題になりましたのは、例の企業課税の問題、資本蓄積のためにどのようにあの配当非課税というような問題を取り上げるかということであったのです。従って、どうしても初めから直接税中心議論が集中しまして、間接税を取り上げる余裕が少しなかった。三年計画の調査会でございますので、その前半にわれわれは直接税を取り上げたということになるのでございますが、しかし、税負担の公平という点から見ますと、明らかにわれわれが間接税を取り上げなかったことは一つのマイナスだと思っております。これは、どうしても、結論はどうなるといたしましても、われわれは責任を持ってこういうところでお話のできるだけの検討をすべきであったと思いますので、この四月以降税制調査会が再開されます場合には、間接税を取り上げながら、あとの一年をぜひ大きな意味での税負担公平化の問題に向けていきたいと存じます。  これだけが私の税制調査会立場として申し上げることでございますが、あわせて、今回の税制改正に関する限り、答申がどのように政府において取り上げられたかという関係を申しますと、これはすでに皆さん答申案改革案との相違という表で十分御存じでございますが、大きな点が一つございます。それは税率の点です。百八十万円というところまで持っていった累進税改正を、政府案では七十万のところで押さえた。この以外の点につきましては——実はわれわれがあまりはっきり制度の点まで煮詰めなかった問題は、ガソリン税の問題でございますが、この問題を除きましては、私どもは、税制調査会答申がほとんどその筋を曲げないで採用されているということに満足しております。  その点だけを申し添えまして、私の第一次答弁を終わります。     —————————————
  4. 足立篤郎

    足立委員長 続いて中山参考人に対する質疑を行ないます。  通告があります。これを許します。安井吉典君。
  5. 安井吉典

    安井(吉)委員 ただいま御説明をいただきました税制調査会のこれまでの作業の結果につきまして、ごく大まかな点で二、三お尋ねを申し上げたいと思います。  初めに、私ども社会党立場も、配偶者控除だとか専従者控除の白色への拡大というふうな問題について、従来主張しておりましたのが、今度取り入れられておりますわけですが、その中井はもう私どもの主張とはだいぶ違って、不満はきわめて多いのですけれども制度的な取り上げ方をされたということには敬意を表する次第であります。そしてまた、租税特別措置法や、あるいはまた間接税の問題に深く入り込んだ検討が十分できていなかったということの自己批判を今されたわけでありますけれども、この点も私どもも全く同じような見方を実はいたしているわけであります。そこで、租税特別措置法関係と、それから先ほど国民所得税負担との割合について二〇%という一応の限定をされたという、その関連でございますが、私どもは、あくまで租税特別措置法というのは税の体系を全体的に乱すものだということ、さらにまた負担公平の原則に明らかに反するものだということ、そういうような点から、ぜひこういったような仕組みはなくすることが相当だ、これはどうしても残さなければいけないという部分もないではないと思いますけれども、しかし原則としてこういうものはなくすべきだというふうに考えております。ところが、一方におきまして、二〇%という線を税制調査会がお出しになっているわけですね。私ども自然増収そのものについて減税を行なっていくというのは当然だと思うのです。しかしながら、租税特別措置法というようなものも、二〇%という線が一たんきめられてしまえば、これで租税特別措置法をなくしていけばこれは増税になるわけですね。そういうことになりますと、一つそこに二〇%という数字の矛盾が起きるのではないかと思いますが、その点どういうふうにお考えになりますか。
  6. 中山伊知郎

    中山参考人 ただいまの御質問は、二〇%という線で増税になるというふうにおっしゃったのですが、実はそうではなくて、もし私の理解が正しければ、二〇%という線の中におさまる限りでは、租税特別措置法はいつまでも生き残るのではないかという御質問ですね。そういう点につきましては、私は、二〇%にとらわれないで、租税特別措置法というのは、それ自体として検討すべきものだと思います。ただ一つだけ、これは決して反対を申し上げるのではないのでございますけれども、申し上げたいのは、いかなる国の税制においても、一つ租税特別措置法がない税制というものはございません。それだけを申し上げておきます。
  7. 安井吉典

    安井(吉)委員 私の今のお話の申し上げ方から言いましても、全然要らないという意味で申し上げておるわけでは決してないので、千四百億をこえておりますが、実際はおそらく二千億近くもあるのではないかというようなことが考えられるわけでありますが、そういうようなものが中小法人と大法人とのバランスをくずしている、あるいはまた個人所得者とのバランスをくずしている、そういうところに問題があるわけです。しかし、今のお話の中から、その二〇%という考え方は租税特別措置法を長く温存しておくのだというふうな考え方とは違うので、それとは別ワクだということをはっきり伺いましたので、それは一応理解ができたわけでありますが、私どもも、租税特別措置法とういのは、税制上の措置ではあるけれども、一種の補助金である。ですから、そういうような考え方からすれば、二〇%の今の税制調査会のお出しになった線とは刑に考える、それは当然ではないかということを考えまして、その点私どもと同じ考え方のお答えをいただいたわけでありますが、そこで、さっきもガソリン税の問題について、これも十分に検討が行き届いていなかったというふうに言われておるわけでありますが、お出しになりました答申のこの表現の中にも、気をつけて読んでみましたら、たとえば十九ページの「揮発油税等の増徴の問題」というところでお書きになっておられる中に、「若干の増税の余地があると考えられるが、その増徴の問題は、この税の性格にかえりみ、新道路整備五カ年計画との関連において決定すべきである。」こういうふうに表現されておるわけです。しかし、これは一方で二〇%という国民負担に対する制限を一つお出しになっておられるので、そういうようなことからすれば、これは、もう少し税制調査会としても、このガソリン税の増徴というものが、これは特に運輸交通の問題だけではなしに、具体的な中小企業者やあるいは個人所得の中にガソリンの税負担がずいぶんしみ込んでいるわけです。そういうものが全体的に上がってくるということは、国民生活全体への影響が非常に大きいですから、やはりこの際もこの中に、揮発油税等につきましても、もう少し税制調査会として何もかも新道路五カ年計画の関連においてきめなさい——これは目的税であることは確かです。しかしながら、ある種の制限をこの際やはりお考えになったり、少なくともここで表現されるべきではなかったか、そういうような気がするのですが、いかがですか。
  8. 中山伊知郎

    中山参考人 その点は、ただいまの御質問の通りの審議がわれわれの調査会の中で行なわれたことを、私は率直に認めたいと思います。ただ、その場合に、なぜこういう結論になったかという点では、私はまだ不十分だと思いますけれども、しかし、物価との関係その他の問題については、相当の考慮が払われております。第一、それは、ただいままでの検討の結果は、たとえばガソリン、石油を主として輸入しております点で日本によく似ておりますイギリスの場合、この場合の税率に比べますと、日本税率はまだ安い。これが一つ。それから、もう一つ物価関係から申しますと、却売物価、小売物価に対する影響率は〇・〇〇以下の単位、つまり千分の一のオーダーで初めて響いていることになりまして、必ずしもこれが一般的な物価というものに大きな影響を及ぼすものでないということだけは、これも間接影響その他を考えていきますと相当問題が残ると思いますので、私は不十分と申しましたけれども、一応の検討はいたしました。このような二つ観点と、それから目的税、この目的税というのも非常にむずかしい問題なんですけれども、この場合道路建設という非常に重要な目的から考えて、もし今まで申しました二つの条件との照らし合わせでこれをお考え下さるならば、われわれとしては了承することを認めましょう、これが私ども答申の趣旨でございました。そのことをお答え申し上げます。
  9. 安井吉典

    安井(吉)委員 一方において、二〇%という税負担の制限といいますか、そういったような数字をお出しになっておられないで、ただ目的税なら幾らでもいいというふうな——幾らで もいいというのは語弊があるかもしれませんけれども、目的税という趣旨のものであれば、あまり高くなければいいじゃないかというふうな言い方も、一方二〇%という出し方がなければいいと思うのです。しかし、一方にそれをお出しになっておって、こちらの方ではただ目的税だったらというふうなおっしゃり方では、何かちょっと納得がいかないような気がするものですから、実はお尋ねしたわけでありますが、この点、これからの御検討の段階でも、二〇%というその数字がいろいろな場合になってきそうな気がするものですから、いろいろ御検討一つお願い申し上げたいのであります。  時間の制限があるそうですからもう一点だけ伺って私の質問は終わりたいと思いますが、これまで税制調査会は、この大蔵委員会でも、この税はどうするのだと言ったら、これは税制調査会答申を待っています、地方税の問題をお尋ねしても、これは当面はこれでいくのだけれども税制調査会の御検討を待ってからと、政府の隠れみのといいますか、魚をつかまえに行ったら、さっと逃げてどこかへ隠れていく。それは地方税という魚も国税という魚も、みんな税制調査会が逃げ込むところになってきているわけです。それだけに、私どもも、この税制調査会のこれからの作業——これからのと言うよりも、現在の作業の中に、今度の答申の中ではもっと画期的な第三次シャウプ勧告的なものまでいくのかというような期待も実はあったわけでありますが、それは裏切られたといったような気がするわけで、単に現状維持ムードといいますか、そういったようなもののただよった答申の姿で今回だけは一応終わっているわけであります。しかし、先ほどのお話の中でも、これからあとの作業で一つ根本的な対策を打ち立てるのだというふうなお話を伺っており、今後に私どもも期待をしなければならないわけであります。  ところで、私は、国税の問題、地方税の問題、その他いろいろいじくりまわしておりますうちに感じますことは、特に地方税なんかは、その分野でいろいろ調整をとっても、もう何もかも行き詰まってしまうという感じです。きょうは永田さんや菊田さんが見えているから、あとでおそらく入場税の問題も出るでしょう。それから、いまだに地方税はきまりません。遊興飲食税の問題で、政府の中でいまだにごたごたされているようであります。あるいはまた、電気ガス税なんというものも、いつも紛争の種です。そういったような、いわば半端の税金だけが地方税の方に寄せられていて、紛争の種や、しかもそれが常にあっちへぶつかりこっちへぶつかるといったような性格のものだけが押しつけられていて、しかも国税地方税との間には一つのシャッターを置くのだというような方針が出されておりましても、一方法人税の大幅な減税措置はそのまま地方税に持ち込まれている。しかし、個人に対するほんのささやかな減税は、これは全然地方税の方に持っていっていないですね。そういったような仕組みからいいましても、最後のつじつまは地方税で合わせというような今までの仕組みではないかと思うのです。だから、私は、こういうふうな国税地方税のそれぞれが一つのワクを持って、そのワクの中で問題を解決しようとしても、これはだめだと思うのです。もうこの際は地方税国税も全部その戸を取っ払ってしまって、あらゆる税を一つの部屋の中にばっとばらまいて、これは国税がいい、これは地方税がいいと、たとえば法人税は全部国税にして、所得税は全部地方税にするとか、あるいはまたスエーデンの地方所得税ですか、ああいったような方式もあると思います。何か根本的な、建物を全部ほぐして、再建築をし直す、こういう作業がこの際必要ではないかと思うわけです。ところが、現在、国の税制は大蔵省で、地方税制は自治省で、それぞれが垣根を守って、その中でお互いにけんかをしている限りには、これは解決の方法がないと思う。そういうような意味で、これはやはり税制調査会が、ほんとうにそれぞれのひもがつかないで、独自の立場で、全体的に大きく問題を見直すという立場で当たっていただかなければならぬ問題であろうと思います。こういうような点につきまして、これからの作業の中に税源配分という問題も含まれておるようにも伺うわけでありますが、どういうようなお気持でお当たりになろうということなのか、この点一つお聞かせいただきたいと思います。
  10. 中山伊知郎

    中山参考人 将来の仕事のことでございますので、私確実にこういうふうにしてやりますというお答えができないのは残念でございますけれども、特に先ほどの私自身の発言に関連してお答えを申し上げますと、税負担の公平という、われわれにとりまして税制上では最大の問題に取り組むためには、ただいまおっしゃいましたように、地方税国税との間のバランスというのが一つの大きな問題になると思います。実は、私は、ここで最初に税負担の公平の問題を、第一には国税関係、第二には地方税関係、そうして第三には国税地方税関係を通じてのバランスの問題、この三つに分けてお答えができれば非常にうれしいと思って準備をしたのでありますけれども、多少こじつけますとできるのでありますが、しかし、それは、今のところでは、先ほど申しましたような所得税関係に関するような形では申し上げる段階にいっておりません。しかし、方向といたしましては、地方税国税を通じてのバランス考えませんと、税体系としては筋の通ったものにならないということは、もうおっしゃる通りなのであります。われわれの中でもずいぶん極端な議論が出ております。全部間接税一本にしてしまって、所得税は来年から廃止するというような案もどうだ——フルシチョフじゃありませんけれども、そういうようなこともやろうと思えば、流通税一本でできるのでありますから、そういうようなことを考えるのでありますけれども、これはやはり歴史的な沿革、それから日本の経済状態その他を考えませんと、そう極端な議論一本にいくわけには参りません。二〇%というワクも、実はすっきりした国民所得との関係だけででき上がっているということでなく、今までのいろんなものを含んだ税制をいわば前提にして、経験的に、と先ほど申しましたが、経験的に出てきたものの最もリーズナブルなものをつかまえたということでありまして、決して十分じゃございません。検討の余地はありますけれども、何かそういう目安でもないと、私は現在の税制改革一つの支点がないのじゃないか。これが、消極的に申しますれば、私どもの唯一の立場だと言っていいと思います。ただいま御意見にございましたように、根本の問題がたくさん残っておりますし、もしわれわれの調査会が、そのような意味で隔れみのということをおっしゃいましたが、そうでなしに、ほんとうの意味でたよりにされておりますことを聞きますのは、大へんに心強いことであります。私は、その意味で、大いに委員諸君と一緒に努力いたしたいと思います。
  11. 安井吉典

    安井(吉)委員 ほんとうにそういう気持で、あまり弱気を出されないで、シャウプのようなつもりでやるくらいのお気持でないと、今の調査会はおっしゃる通り確かに逃げ道です。それだけです。そうして、大蔵省の方、自治省の方でつまらぬけんかをして、ようやくまとめた段取りが税制調査会というところでオーソライズされた形で出てくる。そんなところが今の落ちじゃないかと思う。それじゃいけないと思う。ただ手直し、手直しもいいと思いますけれども、手直ししておるうちに、それだけでは基本的な根本的な改革なんというものはできなくなる。そういうような点を十分に——会長さんお一人のお気持でどうというわけじゃないと思いますけれども、お進みをいただきたいと思います。  最後に、お酒の税金、あるいはまたまたたばこの専売益金、これも税金みたいなものですが、そういうものまで多少タッチされるというお気持があるかどうか、これを一つお聞きします。
  12. 中山伊知郎

    中山参考人 先ほど申し上げました間接税の問題にこれから重点を移して参りますということを申しました場合に、その間接税の大体半分くらいは酒とたばこでございますので、当然それには触れるつもりで、ございます。
  13. 足立篤郎

    足立委員長 山中貞則君。——まことに恐縮ですが、質疑の通告者がだんだんふえて参りましたので、簡潔に一つ御質問を願います。
  14. 山中貞則

    ○山中(貞)委員 自民党の山中でございます。私は、委員長の指示を忠実に守りまして、一点にしぼってお伺いしておきたいと思います。それは、今後税制調査会はまだ引き続き御労苦を願いまして、私どもの税体系について抜本的な御検討を加えていただく重要な職責にあられますので、この際税制調査会の良心についてお尋ねをしておきたいと思います。  それは、項目としては租税特別措置の問題でありますが、その中で、たまたま銀行預金利子課税の問題については割り切れなかったという点を一応あげられました。私は、そのお言葉は、一番割り切れなかったものとしてあげられるのに適切なものであろうと思って拝聴いたしておりましたが、さらにこの問題を、一年やむを得ず適用期限を延長したということを言われました。しかし、これは、原則の課税率二〇%のものが、三十四年度から中間税率の一〇%に半分復活をいたして今日に及んでおるものでありますし、ことしの三月末をもってこれは切れる期限の延長であったはずであります。それをなお一年延長するということについては、相当な根拠がなければならないと私は思います。ただ貯蓄の奨励に資するためにという目的だけでは、銀行に対して、しかも相当長期に、相当な金額を今預金できて、原則税率二〇%を割って一〇%の優遇税率でもって預金できる人たちは、国民の中のごくわずかの恵まれた階層の人たちであると私は判断するからであります。従って、それらの人たちが過去貯蓄の奨励で果たした国家に対する貢献は認めるとしても、税制について、あるいは国民の負担について、これほどきびしく検討されておる現在に至って、なおそれらの人たちに対して中間税率一〇%が今後も一年間延期されなければならなかったということは、私は何としても釈然とできないのであります。この点についての御見解を承っておきたいと思います。
  15. 中山伊知郎

    中山参考人 ただいまの御見解につきましては、これは、私、会長と申しますよりも、個人といたしましては全く同感なんでありまして、従いまして申し上げることはございません。しかし、調査会結論はこれにあるのでございますから、その方を正式のものとしてお受け取りを願いたいので、私は個人といたしましては、ただいまの御発言と全く同感であるということだけを申し上げておきます。
  16. 山中貞則

    ○山中(貞)委員 ではいよいよその良心の問題に入って参りますが、先ほど一年延長せざるを得なかった最大の理由を、近く予定されておる確定的な予測事項としての金利引き下げ等を前提にして、急激なるショックを与えることについて配慮されたように聞きました。辛うじて配慮し得る点があるとすれば、私はその点であろうと思います。ただし、同じ貯蓄奨励の項目の中の租税特別措置の中で、国民貯蓄組合という名称のもとに、三十万円を限度として免税が行なわれております。これは、御承知の通り、戦時中昭和十七年、国民の貯蓄奨励に資するために、この組合制度が設立された中に、組合員としての加入をすれば、三十万円を限度として、国家に対する貯蓄奨励に果たした者として免税になったいわくつきのものでありますが、今日これが戦後十数年を経過して果たしておる役割は何か。一言にしていえば、明らかにこれは大口の脱税であります。現在銀行に預金を吸収いたしておりまする諸種の手段の中で、七八%に及ぶと推察されますものは、いわゆる大部分はこの三十万円の免税制度の網をくぐって、完全に脱税行為もって行なわれておるものであるという厳然たる事実を私は指摘したいのであります。しかも、一昨年から、私どもに相談することなく、大蔵省において、一方的に、社債も三十万円限度までは免税をこれにつけ加えまして、さらに悪の花を咲かせることに大蔵省は協力をいたしました。従いまして、現在テレビ等において、テレビのスポットの広告などでは、明らかにわれわれを愚弄するかのように、三十万円までは社債も利子は課税されませんから、もよりの証券会社においでになれば、その手続はすぐにもとれますということをしつこく毎日やっております。このことは、一方において国民の預金あるいは自分たちのたくわえを預けるという方式において、どういう分野の上にこれが現われてきておるかと、いろいろと私は検討いたしてみるのでありますが、一般の国民の零細なる貯金は、ことに末端においては、こういう恩典を利用するような貯金は全くなされておらないで、ほとんど郵貯その他の最も身近なものに、これは減税制度があるから、免税であるからということと関係なしに、零細な預金をいたしております。こういう制度承知して、そういうテレビ等の広告につられて持っていく人々は、明らかに大口の人々である。  私はここであえてはっきり名前は申しませんが、私の承りました範囲の話で、日本の農政の権威者である人で、たまたま名前のうしろに一という数字のつく人でありますが、その人が、二百万ほど臨時の収入があったので、銀行に持っていった。ところが、銀行の窓口でちゃんと七まで名前を入れて通帳をこしらえてくれた。いわゆる何々一から何々七まで、一、二、三、四、五、六、七までの名前の通帳ができたわけです。窓口でちゃんと七つに分けてくれて、これで税金はかかりませんと言った。その人は非常に良心的な学者でありますから、こういうことが残されていていいものだろうかということを疑問の言葉として吐かれたことを私は聞きました。まさにその通り、良心的な人はかような疑問を持つでございましょう。しかし、一般の人たちにすれば、少なくともそういう免税の三十万円限度をこえて幾日にも分けるというようなことはほとんど、不可能な一般大衆から見れば、一部の人たちのみが、この特別の恩典制度をくぐって、幾日にも分けて、税務署にわからないように架空の名前にして預金をしているという脱税の現実を、何としても見のがすことはできないと思いますが、さすがに調査会におかれましても、いささか良心に恥ずるところがあったと見えて、乱用防止について政府及び金融機関において適切な措置を講ずるという表現をとらざるを得なかったようであります。しかし、金融機関において適切な措置を講ずるという言葉はどのようにナンセンスなものであるかおわかりと思う。たとえば、どろぼうが、警察官に対して、私は盗みをしないように一つ適切な措置を講じたいと思うと言い、そういうふうに措置させると言ったって、だれが見たって、どろぼうの適切な措置といえば、おまわりさんに見つからないようにしようというくらいのことであります。その証拠には、大蔵省が恥ずかしくなって、これを答申から削除されて、法律でも国会で作られたらかなわぬからというので、抜き打ちに関係銀行を、名簿があるかどうか、脱税に利用されていないかどうか調べて、形の上で、若干スタイルだけ整えてやってみせたようでありますが、これも一回限りで、もうやりはしません。しかも、銀行だって、適切な措置を講ぜよと言われれば、はあ、そうでございますかと言うだけでありましょうし、私は、ここらに税制調査会の良心のかげりを明らかに指摘したいと思いますが、今後一年間さらに御検討願って、私どもが貴重な資料として国税の上に反映させますについて、ぜひとも——このほかにも、社債に対する利子の一〇%の課税の問題とかまだいろいろとありますが、要は同じように良心の問題でありますから、おまかせするについて、この点をとくに私は承っておきたいと思います。
  17. 中山伊知郎

    中山参考人 私は、個人的な見解を先ほど申し上げて、それ以上のお答えを控えるつもりでございましたが、ただいまのお話で、たびたび調査会の良心という言葉を使われましたので、調査会の他の委員のために私も少し申さなければならないと思いますので、ごくわずかのことを申し上げます。  ただいまの、預金利子特別措置に関する問題につきましては、おそらく調査会の非常にたくさんの時間と労力をかけて、あらゆる方面の意見を聴取いたしました。その意見の基本的なものはこの報告書の中にございますので、一つごらんを願いたいと思います。  まず第一の点は、貯蓄奨励というものを全部やめていいか。その点につきましては、私は、日本の過去の歴史から見ましても、それから世界の他の国の例を見ましても、貯蓄奨励に何もしないというわけにいかない。やはりある措置が必要であるということを私どもは認めざるを得ません。これは基本的なところであります。ただ問題は、今御指摘になりましたように、先ほどの国民貯蓄組合のことをおっしゃっておるのでございますが、国民貯蓄組合というものを作って、しかもその多くのものがいわゆる俗称窓口組合でございまして、今あげられました例は、これは二百万円を預けられる方が、そういう個人の名前をずっと並べることによって、いきなり組合員になるわけであります。貯蓄組合の組合員でなければそのような恩典は受けられないわけでありますから、窓口でいきなり組合員ができる、こういう形の奨励策があっていいか悪いかということなんでございます。実は私は、あるときに、それじゃもう少し同じ奨励をするのなら、五十万円とか百万円とかあの金額を上げたらどうかということを申し上げましたところが、そんなことをすればますます今おっしゃいましたような悪を助長するだけではないか、こういう反論が出て、私の考え方はつぶれたのでございますけれども、私は生来性善説でございまして、やはりそういう制度をうんと持っていけば、私は、銀行の方でもあるいはお客さんの方でも、むちゃくちゃをしないで、もっとよく制度を運用することができるのじゃないかと思っておりますけれども、遺憾ながら世の中は性善説とは反対のようでありまして、その点はなはだ遺憾に思っております。しかし、今御指摘にありましたように、窓口組合の問題はもとよりのこと、一〇%の利子問題につきましても、ただいまおっしゃったような議論がこの調査会の内部にも非常にたくさん出ていることは、これはもう御承知の通りだと思います。  そこで、なぜそれにもかかわらず一年延期になったか。これは、良心の問題と申しますよりも、一つは銀行の方面で今預金の収集に非常に困っている状態にある。それは何もわれわれがそれをカバーしなければならぬ義務はありませんけれども、しかし、日本全体の立場から見ますと、大きな資金のもとになる預金というのがどの程度そういうことで影響されるかということを考えざるを得ません。これは決して私は銀行保護じゃございませんけれども、しかし銀行面を敵視する必要はない。私はそういう意味で公平な立場に立っておるつもりですが、そういう点で考えている。それから、もう一つは、あの当時にはっきりしておりました金利引下げの動向、この二つの面から攻められて参りますと、私はもうあの時期に非常にはっきり傾向が現われましたように、日本の預金が一割、二割というふうに減ってくることになるのじゃないか。その点につきましてはわれわれとしても顧慮せざるを得ない。そこで、延ばした理由は、いろいろな議論があったから、それに負けて延ばしたというのではなくて、しばらく日本の金利の最も動据期にあるここ一年間を見ようじゃないか、そうしてその上で措置をきめようじゃないか、これが正直なところ委員会全体としての結論であったと思います。その中に結着をつけるべきものである。つけなかったのは少し良心的に麻痺しているのじゃないかというおしかりを受けることは、ある程度覚悟しなければならないかもしれませんが、われわれの気持といたしましては、決してそうではなくて、そのような意味で一年間見よう。これはただ延ばすのじゃなくて、特に金利動向におけるおそらく戦後最大の動揺期、その時期を少し実績的に見ようじゃないかということでございましたので、その点を御了承を願えればしあわせだと存じます。
  18. 山中貞則

    ○山中(貞)委員 金利引き下げの動向にこの租税特別措置法をある程度考慮しなければならないとすれば、要綱でいうと、前段の中間税率一〇%はなお一年残すということで終わりであるべきであって、税制のあるべき姿からいうと、国民貯蓄組合の三十万円免除の実際行なわれている状況の悪弊というものを除くということは、これは明らかに良心の問題であろうと思うのです。従って、私としては、この「政府及び金融機関において適切な措置を講ずる。」というのは、どういう程度の適切な措置というのを、裏面に具体的なものとして持っておられたかどうかを最後にお聞きいたしますが、もしかりに一番最初に適切な措置調査をするとすれば、明らかにそういう貯蓄組合が設立されており、そして明らかにそれらの人たちは実名で三十万円以内においてその組合に所属を現実にしておるのかどうか、その点を銀行調査しただけで、銀行は大恐慌を来たしまして、それは収拾つかざる混乱が起こるだろうと思う。その点を適切な措置をやらない限りは、ほかにどんなことを——届出制とかなんとか言ってみたって、それは、さっき言ったように、どろぼうに道徳を説くようなもので、隔靴掻痒を免れるものではありません。従って、最後に、適切な措置とはどのようなことを考えてこういう表現をされたか、具体的にお願いしたいと思います。
  19. 中山伊知郎

    中山参考人 ただいまの御質問の一部はこの答申案の中に出ておりますが、それは税務署に届出の義務を課するということでございます。この点は、ただいま御指摘になりましたように、確かに大混乱を生ずると思います。そこで、われわれの考えておりましたのは、そこまでいくまでに、せめて一つこういうことをしようじゃないか。それは預金者の数以上の口数を制限してもらいたい。預金者の数が大体きまっているわけでございますね。それ以上にそこに国民貯蓄組合の組合員数があるようなことが今まで平然として行なわれておったのでございますから、それだけは今度は銀行の方で自粛してもらいたい。それを大ざっぱに、あなたのところの口数は預金者の数より多いじゃないかというような勧告ができるようになりますれば、今おっしゃいましたところの完全な監視にはならないかもしれませんが、ある程度のワクとしての監視はできるのじゃないか。もしそれでもだめならば、最初に戻りまして税務署への届出の義務を銀行に課したらどうか。そこまでは考えております。
  20. 足立篤郎

    足立委員長 辻原弘市君。
  21. 辻原弘市

    ○辻原委員 時間が制限されておりますので、要約して問題点のみをお尋ねいたしたいと思います。  最初に、調査会答申に対する基本的な態度についてのお話がございました。その中で、法人税の問題についてのあり方に関する御意見を承りたいと思います。今日本の産業構造の二重性ということがやかましくいわれているのであります。考えてみると、税制による二重構造ということが、これまたその内面的な要素として、きわめて大きな部分を占めていることも考えるのであります。先ほど話の出た租税特別措置の問題等をひっくるめて、中小法人と大法人との間における取り扱いというものは、今回の答申案においても基本的にこれはただされておりません。このことは先ほどお話をいただきましたので、調査会としても不十分であったということをお認めになっておられるようでありまするが、問題は、やはり今回のごとくわずか三点程度の、あるいは特別措置を含める四カ項目程度法人税の取り扱いについては、基本的にこの問題をただしていくということにはきわめて不十分であると考えます。従って、税制のとり方について、今わが国の法人税の性格というものは、二百万以下五%の差をつけているという点においては若干あるのでございますけれども、総体としていえば、これは所得に対する比例制を採用している。そこに税制自体が結果的には大法人利益するという、そういう結論を導くことになる。従って、私どもは、常に、その点から少なくともグループによる段階的な減免措置というものを考える必要があるというので、今回のわれわれの修正案におきましても、四つのグループによって法人税を区分けをいたしております。ところが、そういう基本的問題については、税制調査会のこの答申案にも、また従来のお話等を承ってみましても、全然触れられておらないように思います。私は、端的に申しまするが、今のこの税制の二重性、二重構造的な性格を脱却するために、なぜもう少し基本的に強い累進課税方式を採用せられておらないのか。所得税においてはこのことは考慮せられておるが、法人税については何らこれを考慮せられておらない。この点について、中山さん個人、あるいは税制調査会としても、どのようにお考えになっておられるか、また将来検討されるようなお気持がおありになりまするかどうか、最初に伺っておきたいと思います。
  22. 中山伊知郎

    中山参考人 ただいまの御質問は、基本的には、法人が実在するものであるか、それとも通り抜けの擬制であるかという根本問題に触れて参ります。そこで、各国の税制の経過から大ざっぱにお答えをいたしますと、ある程度中間的な立場法人に対しては認めておるというのが結論であります。従って所得税とは別に、先ほど説明いたしましたように、所得税には非常に累進的な格差がございますけれども法人税には比例的な一応の率がきめられているというのが実情でございます。これを根本的に個人と同じように累進税率に持っていくというのには、先ほど申しましたように、法人実在説、擬制説というものに立ち入って割り切らなければならない。この割り切ることはおそらくできません。これは、現在、どの国の法制におきましても、また税制におきましても割り切ってはおりませんので、ある程度擬制説をとりながら、ある点では実在的なものを認めていくいとうのが、日本でも、あるいは英米でも、ドイツでも、同じような状態だと存じます。  そこで、この税制調査会の問題としては、第一に、現在のところ所得税との関連において法人税を軽減する必要ありゃいなや、こういう問題を検討しました。それには、現在のところ、特に所得税に対して法人税を軽減する理由はないという一応の結論を得ました。そうなりますと、残った法人税について何をするか。これは、先ほど申しましたように、基本原則に帰りまして、負担の公平というのを考えるはかにはないじゃないか。そこで、負担の公平を考える一番大もとの考え方は、ただいま御主張になりました法人所得についても累進税率をとるということでございましょう。しかし、それが先ほどの根本原理の検討からいたしましてむずかしいといたしますと、現在あるところの、たとえば同族法人の問題とか、その他二百万円以下のところにどういうような優遇措置をとるのか、あるいは専従者控除を認めるとか、こういうことをやってみるよりしょうがないのじゃないだろうか。そこで、税制調査会答申といたしましては、そのような点についての具体策を呈示して、そして一応中小法人と大法人との現在におけるアンバランスの少なくとも一部を埋めよう、こういうことになったわけでございます。その点でまだ埋め方が十分ではない、まだ検討すべき余地があると言われることは、私、その通り承認いたしますので、今後検討いたしたいと思いますが、ただいままでの経過はそのようなことでございます。
  23. 辻原弘市

    ○辻原委員 お話はよくわかりました。私が申し上げるのは、今会長がお話しになった、わが国の税制の中で、実在説をとるか擬制説をとるかということについては、全くほとんど考慮されない。擬制説をとっておるということから、そこにほとんど累進的な方法が考慮されず、これが大法人中小法人の間における格差を生じている一つの大きな原因になっているんじゃないかということを申し上げたのであります。将来御検討を願いたいと思います。  次の問題は、先刻若干触れられましたが、いわゆる勤労所得税の中における勤労所得と、それからいわゆる資産所得とのバランスであります。われわれが常に個々人の税を見て参ります場合に、よく所得税法人税等との、あるいは勤労所得とそれから個人企業との税の比較を一般的に言うのでありますが、問題は、それよりもむしろ所得税の中における資産所得と勤労所得とのバランスというものが、今日非常に大きくなっているのじゃないか。それはいろいろな種類がありまするから、時間の関係で逐一実情を私どもから申し上げるわけには参りませんけれども、一般的に言って何とかこれは手がつかないものかどうかということについて、今後、もちろん現在調査会の中においても検討せられている問題もありますが、しかしまだ検討せられていない問題等もあります。たとえば山林所得に対する問題とか、そういった点についてはまだ根本的に触れられておりません。こういう点を将来どういうふうに御検討されるか、税の公平負担という問題から一つ意見を承りたいと思います。
  24. 中山伊知郎

    中山参考人 ただいまの問題につきましては、一部はすでにこの調査会答申案に出ておりますので、あとでごらんを願いたいと思います。特に資産所得者の問題につきまして問題になりました一番大きな問題は、実は譲渡所得課税問題ということでございます。この点は、第一には把握の困難ということと、それから従来の税制の沿革という点から、現在まだ結論までには至っておりませんが、その譲渡所得をどうするかという問題を、公債償還の差益問題その他と一緒にして目下検討中でございますので、いずれ近くその結論を得たいと思っております。
  25. 辻原弘市

    ○辻原委員 あと簡単に二点だけ伺います。  次の問題は、調査会結論を出されて政府は簡単にそれを葬り去ったという問題になっておる公社債の償還差益の問題であります。これは、調査会としても、当然の措置として、利子課税に含めるという結論を出された。聞くところによると、政府も大蔵当局も、これは当然そうあるべきだということで、原案にはそれを盛った。ところが、どこでどうなったのか、私はこの席上では申し上げませんけれども、いつの間にやらそれがもとへ復活してしまって、一カ年これが伸ばされておる。これは、先ほど山中委員が触れられた貯蓄に対する問題と同じように、私はやはり今の公社債市場あるいは金融市場等との問題の関連もあろうかと思いますけれども、まことにふに落ちかねる問題であります。従って、結論を出されてその結論に従わなかったという意味において、どういう御見解を会長はお待ちになりますか。
  26. 中山伊知郎

    中山参考人 そういう小さい点になりますと——小さいと申しますか、私は正確に申しますが、税率改正というような問題に比べますと、いささか小さいと申してもいいような問題でございますけれども、そのような問題になりますと、私どもも、御質問者と同じように、まだふに落ちない点がございます。そうして、この問題は、先ほど御質問がございました利子所得課税特別措置とある意味で関連する問題でございまして、そういうもやもやとした一連の問題が今後一年間という余裕でございますが、その一年間も実はもうすでに三、四カ月経過いたしまして、残りは半年ぐらいの間に結論を出すことになりますので、伸ばしたことだけにあまりこだわられないで、一ついい結論が出るようにお助けを願いたいと思います。
  27. 辻原弘市

    ○辻原委員 利子所得に対する課税の問題、また償還差益の取り扱いの問題等、いずれも私は今の証券市場等との密接な関連を持っておると思います。その間に、税制を扱う立場からいきますれば、非常にもやっとしたものを感ずるという意味で申し上げたのであります。まことにわれわれとしてはふに落ちかねる。まあその意味で会長も合点がいかぬというお話でありますから、これ以上会長に申し上げる問題ではないと私は思いますから、やめますけれども、どうか一つ、先ほどからも御意見がありましたように、大体やりやすいところは調査会はさっと出すが、やりにくいところは——今小さい問題という表現がありましたが、そういう言葉のあれは別といたしまして、立てた筋については決然として調査会がその実行を政府に迫るという態度がなければ、調査会は、政府の、あるいは極端にいえば大蔵省のかくれみのだというような批判は免れまいと私は思う。従って、案として権威を持って示されたものは、あくまで政府に実行を迫る、こういう態度をお示しを願いたいということを、この問題について申し上げておきたいと思います。  それから、最後に一点。それは今回の答申案には全然触れられておりません。間接税につきましては、先ほどもお答えがありましたので、お尋ねはいたしませんけれどもあとでわれわれも各界の意見を承りたいと思っております。入場税の問題であります。調査会は、これらの答申を作るにあたっては、常に税負担の公平ということを建前とされておるということの御説明が先ほどありました。税負担の公正という立場からいきますと、むしろ、直接税の問題よりは、間接税、あるいは地方税、ないしは入場税といったような大衆負担的性格を持つものについて、全体の構想の上から鋭いメスをふるうということが、最も税負担の公正をはかる近道だろうと私は考えております。そういう意味で、間接税も見送られた、それから入場税については一指も触れられておらぬということはいかがなものか、そこに多少不審の念を抱くものであります。従って、入場税に対する問題の取り扱いを調査会または会長個人としてはどういうふうにお考えになっておるか、この点を最後に承りまして、私の質問を終わります。
  28. 中山伊知郎

    中山参考人 間接税一般の問題につきましては、先ほど御説明申し上げましたように、調査会としては当然取り上げるべき問題であったのでございますけれども、そのことも承知しております。しかし、現実に所得税関係の問題が中心になりましたので、第一段として所得税中心答申をいたしたということでございます。今後の検討一つごらん願いたいと思います。  入場税の問題につきましては、若干この中に議論がございます。しかし、地方税全体の問題がやや審議がおくれましたのが一つと、それから、もう一つ、入場税以外の地方税関係が、特に所得割とかあるいは事業税とか、これもまた大きい小さいと言うとしかられますが、やや大きいような問題がございましたので、入場税の問題につきましては、調査会としては未検討で、十分な審議を尽くしておりませんということを申し上げます。
  29. 足立篤郎

    足立委員長 堀昌雄君。
  30. 堀昌雄

    ○堀委員 私は、今までおっしゃった中で、三点ばかりお伺いをしておきたいと思います。  第一は、負担公平化ということが税制の一番中心だとおっしゃるのであります。私、このたびの予算委員会におきまして、この問題には触れたのでありますけれども、国民の負担公平化考える場合には、その実態が明らかになっておらなければ、どうして公平化をはかることができるか、私はこういうふうに思います。ところが、現在日本所得階層を分析するところの資料というものは、大体農民については農家経済調査というのがございます。主税局に求めまして、税金に対する、要するに上の方だけの所得階層の数の数字はございます。あるいは総理府が持っておりますところの資料しかないわけでございます。この三本を並べてみますと、いずれも合いません。所得階層の分布の割合は著しくずれておのであります。もう一つありますのは、厚生行政基礎調査、これだけが日本所得階層の分析をし得る資料のすべてでありますが、いずれも相当大きな食い違いを生ずるのが実情でございます。そういうような非常に基礎的な資料があいまいの中で、はたしてほんとうに公平な課税間接税その他一般を通じてできるかどうか、私は非常に大きな疑問を今持っております。  その次の問題は、さっきも出て参りましたけれども、山中さんの触れられた利子課税その他の問題について見まして、私はこの問題も大蔵委員会で取り上げたわけでありますが、そのときに調べてみますと、預貯金に関する調査というものは、総理府がやっておりますところの預貯金動向調査と、日銀のやっておりますものと、二つしか実はございません。その内容も、きわめて対象範囲は狭く、あるいは統計としての検討にたえられないような資料しかないのが現状でございます。そうすると、現在の国民の預貯金のあり方、それは階層別にはどういう格好になっておるかということもきわめて把握が不十分でありますから、その点で、郵便貯金の今度の金利引き下げについて、私は反対をいたしたわけでありますけれども、要するに零細なものも高額なものも形式的な処理をされるということでは、これは一律に下げるということが公平な負担ではないのでありますから、その点の配慮が、実態が正確につかめないといううらみはありますが、大体の動向はわかっておるにもかかわらず、政策的には一律に不公平に処理が行なわれるということが現実に行なわれておる点は、調査との関連においても、政策的にも問題がある。  第一点は、そういうことを含めてちょっと具体的に申し上げますと、特に今後の問題で一つ検討を願いたいのは、砂糖消費税及び関税の問題でございます。現在、この砂糖消費税、関税を含めますと、負担割合は四六・二%に達しておるのでございまして、これは物品税の奢侈品と見られるところの高級毛皮製品、十万円の毛皮のコートでも一六・七%の物品税しかかかっておりません。そういうような観点から見ると、砂糖消費税というような国民大衆の生活にきわめて密接な関係のあるものが、関税と砂糖消費税を合わせてこういうことになっておるという点は、国民の負担としてはたして公平であるかどうか。これは私非常に重要な問題になると思います。そういうような点を含めまして、入場税も同様でございます。入場税は現在二三・一%と一六・七%くらいの二本立になっておりますが、二三・七%の課税のある物品税というのはほとんどございません。今の最高の部分ですら一六・七%、一番高いのが輸入自動車で三五・四%というのがございます。この輸入自動車が買える人たちと一般の映画なんかを見る人たちの状態を見ると、きわめてバランスに欠けておるのではないか、このように私は思います。そういう点、ともかくやはり負担公平化ということを考えていただくということが私も税制の基本であると思いますので、そういうこまかい実態調査ができていない地点で今後調査を進められるという点について、どのようにお考えになっておるか。
  31. 中山伊知郎

    中山参考人 ただいま全体として申されました所得統計、貯蓄統計その他の十分でないという点についての御指摘は、まことにごもっともでございます。私ども常にそのような経済調査をいたしております者から見ましても、そういう点については全く同じ感じを持っておりますので、これは一つ政府の方でも、これは大体民間統計ではございますけれども、官庁統計が基礎になりますので、一つ統計の整備にはもう少し力を入れていただきたいということを、よそながらここでお願いを申し上げておきたいと思います。  その中心の問題でございます所得統計につきましては、私どもも厚生行政の方から実は少し頼まれまして、三つの統計を調べてみますと、モードがみんな違ったところにございます。三つの山ができまして、どれをとっていいかわからないというようなことで、これをとればこうなるというような条件付で答申をしたことを思い出すのでございますが、ただいまの税制上、税負担の公平という点から見ましても、根本的にはそのような資料を待って検討すべき問題が残っておると思います。ただ私がここで申し上げましたのは、現在の納税の中に直接税、間接税、それから法人税所得税、こういうものがございます。その中での税制公平化というのをねらっておりますので、税負担者以外の、納税者以外のものについての公平というものも考えて参りますと、問題がもっと広くなり、もっと重要な問題が残ることを私は率直に承認申し上げます。  それから、第二に、そのように問題を限定いたしましても、なおかつそのその中に小額のものとそれから大きなものとに同じ率を課することがどうか、これは間接税負担不公平の最大の原因だと思うのでございますが、先ほどもちょっと申しましたように、もし、間接税あるいは物品税にいたしましても、累進税というようなものがとれますならば、若干はその点の是正ができると思いますけれども、そういう工夫ができない以上は、やはり不公平がそのままに残って、場合によっては逆進的な意味で不公平を増進するような危険のあることも私は承認しております。その点につきましては、これからの物品税その他間接税一般を考慮していく場合に、十分注意して取り扱っていきたいと存じます。
  32. 堀昌雄

    ○堀委員 先ほど山中さんは角度を調査会の良心という角度でお伺いになったのですが、私は調査会答申をこまかく拝見をいたしまして、その中には私どもが全く同感だと思うことがたくさんにございました。特に中山先生のようないわゆる公益代表と申しますか、中間的な立場にいらっしゃる方の御意見も、利子所得その他の問題については、個人的にはこうだということを承って非常に心強く思いますが、しかし、結果がああいうことに出るというのは、調査会の構成メンバーのその構成のところに私はちょっと問題があるのではないか、こういうふうな感じが強くいたしておるわけでございます。と申しますのは、租税特別措置がはずされてくる経緯を見ておりますと、たとえば生活協同組合のような特別措置は、金額もわずかでございますから、その行なわれておる意図もわれわれとしては了承できる部分でございます。そういうものは比較的早く除かれます。農業協同組合の分も除かれました。しかし、だれが見ても当然除かなければならぬものすらも除かれないということが調査会結論として出るということは、良心の問題ではなくて、構成上の問題がある。これが私は一番大きな問題だと考えておるわけであります。  そこで、私は、この際、これは政府にも聞いておいていただきたいことは、少なくとも中山先生がお考えになるようなことすらも、調査会全体の結論では認められないような調査会というものは、私は国民のためにならないと思うのです。だから、そういう意味で、学識経験者のウエートをふやして、そういうほんとうの国民的立場に立って税制調査会が行なわれるのでなければ、さっきいろいろ議論が出ましたような疑惑、良心があるのかないのか、隠れみのか逃げ道かということは、これは私は除かれないのではないか、このように考えておりますので、その点は一体中山先生はどのように感じていらっしゃるか、一つ承りたいと思います。
  33. 中山伊知郎

    中山参考人 ただいまの問題は、私は会長としてはちょっとお答えを申し上げかねます。
  34. 堀昌雄

    ○堀委員 個人でけっこうであります。
  35. 中山伊知郎

    中山参考人 個人もここでは遠慮いたします。
  36. 堀昌雄

    ○堀委員 無理に伺うわけには参りませんが、しかし、ここでおっしゃっていただかなくても、どうか一つ政府及び大蔵当局に対しては私どもの意のあるところを伝えて、国民のだれもが納得のできる税制調査会の構成を推進していただくことが、私は会長としての中山先生として当然やっていただかなければならない国民に対する責任ではないか、こういうふうに感じますので、この点はそのようにお願いをいたしておきます。  最後に伺っておきたいことは、やはり地方税その他の問題を見ておりまして、所得階層の分析をしてみますと、今の農家経済調査では非常に農民所得が高く出ておりますが、しかし、他の税金の統計や厚生行政基礎調査等から見ますと、私は相当低いものがあると思うのでございます。この部分はよくわかりません。しかし、その中で秘めておりますのは、所得税が非常にウエートが低くなっておりますが、実は地方税のウエートが非常に高くなっておるのが現状でございます。最近の所得倍増その他で国民の所得が伸びていく中で、伸びる部分は非常によろしいのでありますが、伸びない農民所得その他については、支出を減らしてやるということによって、これを埋め合わせるべきではないかというふうに考えて参りますと、固定資産税のようなものが、一般的な土地というようなことではなくて、さらにこまかいそういう政府的な配慮もあってしかるべきではないか、こういうふうに感じておりますので、今後の地方税その他を御検討になるに際しては、所得倍増その他の国民の所得の動向との関係において、そういう租税負担というものも考えられることが、やはり私は公平化の原則にかなうものではないかと思いますが、そのような点はいかがでございましょうか。
  37. 中山伊知郎

    中山参考人 ただいまの御意見は私もその通りだと思いますので、その線に沿って検討いたしたいと思います。
  38. 堀昌雄

    ○堀委員 終わります。
  39. 足立篤郎

  40. 平岡忠次郎

    ○平岡委員 ただいま堀さんも触れられましたが、税負担公平化政府の機関ないし諮問検関等で論ぜられる場合には、わきから見ていますと、広く国民の視野に立たず、ともすれば現保守党政府のうしろだてとなっている。スポンサー筋に対する政治配慮に堕してしまって、国民に対する生活配慮を欠いているのではないか、かような感じをいなみ得ないのであります。先ほど来論じられておるところの利子所得特例の不当にいたしましても、中山さんのおっしゃられる、大義名分の立つ国際金利へのさや寄せのタイミングからこのことをするのだというような高尚なことでなしに、むしろ銀行に対する一大敵国をなしておるところの証券業界等の均衡論からこれが行なわれておる、かように私どもは思うのであります。このことを具体的に申しますと、利子所得の特例に劣らざる不公平な特別措置が配当所得においてもございます。源泉徴収の軽減措置がこれであります。これは毎回適用期限が延長されまして、ひんしゅくを買っておるものでございます。今回の改正配当控除率が二〇%から一五%に引き下げられまして、現行の非課税限度百六十五万円は手直しされましたが、まだ依然として標準家族で百三十三万円までの非課税となっておるのであります。額に汗する勤労所得は非課税限度が三十九万円であるのに対しまして、座して食う不労所得の配当所得で首三十三万円までが非課税のまま放置されておるという事実、このことに対しまして、これは具体的な例を申し上げたのですが、どういうお考えでございましょうか。
  41. 中山伊知郎

    中山参考人 ただいまの配当控除の二〇%を一五%にするという案は、他方企業課税の方の増資奨励と申しますか、内部的な資本蓄積の奨励に当てるために、配当に充てる利益の分についてはこれを全部非課税とするのではありませんけれども、現行の税率をうんと、一〇%以上下げて、三八%から二〇%という税率にするということと対応しておりますので、この両者を通じて考えなければなりません。ということは、実は法人がはたして実在のものであるか擬制のものであるかということと関連するのでございまして、シャウプ勧告におきましては完全なる法人擬制説をとりましたので、従って受取配当の段階でそれを免除するという形のものをとったのでありますけれども、実は法人擬制説は日本税制の場合には完全には貫かれておりません。一部は実在説の面があり、他面に擬制説の面がございますので、その二つの配慮からこの配当控除という問題が出て参りますので、単にこの免税になるはずの金額を数えて勤労所得とその他の財産所得との間の相違というふうに考えることは不当であると私は考えます。  それから、勤労者も、依然として現在の勤労者の大部分は——大部分というのは少し言い過ぎでありましょうが、先ほどの調査によりますと、大体サラリーマンの約三割に及ぶ者が株式を所有しておるというような状態になりますと、広い意味の勤労者の相当の部分の者もまたこの配当控除というものを受けている事実を認めざるを得ません。ですから、そのような意味で、個人所得と財産所得というものの関連を、今の二〇%から一五%へという勧告の線にございます配当控除の低減という問題にいきなり結びつけることは、私は少し議論が急になるのではないかと存じます。
  42. 平岡忠次郎

    ○平岡委員 われわれが政府に質問いたしますと、やはりみんなそのように答えます。ですから、良識を持って構成されておるとされる税調それ自身も、実は政府のしつらえた土俵の中で論議をしておるという感じをいなみ得ません。こうしたことは、はなはだ失礼な言い分でありますが、国民が税調に期待しているだけに、政府のこの影響から抜け出す気がまえで大いに租税問題の改善に取り組んでいただきたいという、私の気持から申し上げたわけであります。  それから、時間的制約がございますから、私は今回の減税から一つも恩恵を受けない広い層のあることを指摘しまして、間接税の問題に対しまして税調が真剣に取り組んでいただきたい、このことを申し上げたいのであります。今回の政府所得税減税のらち外に置かれておりまする広範な低所得階層に対しまして、税制上の救済策は、間接税に手を染めるよりほかないことは、御察知の通りと存ずるのであります。昨年の十月の国勢調査によりますと、一応所得を得る能力のある有業人口は四千三百十九万人とされております。うち、所得税を納税しているのは二七・三%であります。世帯単位で見ても、有業世帯に対する納税世帯の割合はわずか三六・二%にすぎません。自余の六三・八%は、所得税を納めることすらできない、その日暮らしに追われている人たちであります。社会保障の拡充と間接税減税が強調されなければならぬゆえんだと思うのであります。社会保障のことはさておきまして、税制上は、生活必需品の砂糖や大衆酒やたばこなどの間接税減税が急務なるゆえんと存じます。酒やたばこというものは、程度が過ぎれば害があることは申すまでもございませんが、低所得者層ではこの出費が家計を圧迫して、子供の学校の費用や衣料費を削っている場合が非常に多いのであります。間接税一般が本来逆進性向があるのですが、特にわが国において、酒、たばこ、砂糖等の大衆生活に密接した品目にものすごい高率課税々課しているため、高度の逆進性が露呈されていることを私どもは指摘しないわけには参りません。先ほど堀さんも言われましたが、毛皮とかそういうものに対する物品税比率からいいまして、砂糖あるいはたばこあるいは酒につきましては、少ないものでも四〇%、大体六、七〇%が税金になっています。こういう高度の間接税というものは、これはどうも世界にもあまり類例がないように思いまして、この点にメスを入れていただかないことには、大衆のための減税はあり得ないわけであります。この間接税の問題に税調は徹底的にメスを入れていただきたい。このことを強く要望したいのであります。お心がまえのほどを一つお聞かせいただきたいと存じます。
  43. 中山伊知郎

    中山参考人 間接税の問題につきましては、たびたび申し上げましたものですから、繰り返して申し上げることを差し控えたいと思います。ただ、現在の日本間接税比率が世界の他の国に比べて非常に高いようにおっしゃいますが、その点ははっきり数字を申し上げておきたいと思います。イギリスは今三七%、それから西ドイツが四四・七%、それからフランスは六一・二%、これが間接税比率でございまして、一番低いのは申すまでもなくアメリカの二三・四%であります。ですから、こういう数字から見ますと、単に間接税比率の高さということで間接税が高いんだというふうにきめてしまうわけには参らないと私は思うのです。問題はむしろその中身でございます。今酒、たばこの例をおっしゃいましたが、そのような、嗜好品であるけれども、一種の必需品的な性格を帯びておるような、そういうものにおもにウエートを置いて間接税がかかっている場合に、その内容をどうするかということの方が私は基本的な問題のように思いますし、逆進性と今おっしゃいましたが、その言葉が適用される分野もそういう点にあるのではないかと思います。そういうような点につきましては、内容的な検討をこれから間接税については特に中心を置いて考えていきたいということをお答え申し上げます。
  44. 平岡忠次郎

    ○平岡委員 私の申し上げたのもそのことなんです。要するに、直接税と間接税との税金の中に占める割合ということではなしに、大衆に密着している酒、たばこ、砂糖等に対して、日本の場合ものすごい税率を課しておりまして、これが低所得層を収奪しているわけですから、租税特別措置法に斧鉞を加えるという一つの大きな課題と同様に、この問題につきまして徹底的にメスを入れていただきたい。このことを申し上げまして、私の質問を終わります。
  45. 足立篤郎

    足立委員長 この際ちょっと申し上げますが、税制調査会長の参考人としての御出席で、質問者が殺到いたしまして、まだ四人残しております。それぞれ特色のある御質問と思いますので、尊重いたしたいと思いますが、まことに申し上げかねますが、他の参考人にもお待ちを願って大へん御迷惑をかけているわけでございますので、どうか一つ結論的な御質問で一問ずつにお願いを申し上げたいと思います。お願いいたします。  横山利秋君。
  46. 横山利秋

    ○横山委員 委員長の趣旨を尊重いたしまして、一言だけお伺いします。  租税法定主義といいますが、中山さんも実情をおわかりのことだと思うのですが、この原則は貫いておらないのであります。結局、納税者立場から見ると、法律がどう変わっても、実際は税務署の査定なり何なりによって、法律改正の直接効果が及んでいない、そういう判断が非常にびまんしているわけであります。税制改正をおやりになったあとの検分をどういうふうになさっておられるのであろうかということを、私はときどき痛感することがございます。私が基本的に私見として考えておりますことは、戦後の混乱期はともあれ、今日の状態におきましては、税制改正と同時に、どうしても執行面について思い切った考えを持たなければいかぬのじゃないか。要約いたしますと、権力的な——元来権力的なものでありますけれども、権力的なものを少しずつでも減らして、合理主義と民主的な徴税機構、制度、運用に変えなければいかぬのではないか。どんなにあなたが税制改正をなさっても、くつ々隔てて足をかいているようなお気持はないであろうか。そういうこと々私は痛感するわけです。本委員会は、税制改正をやりながら、一面において税制及びその執行の委員会を設立いたしまして、現在その執行面についての問題を探求しておるわけであります。もちろんこのことは税制改正をしながら解決しなければならぬ問題があります。たとえば、今問題になっております国税通則法なんかそれであります。しかし、どうも税制調査会の雲行きを見ておりますと、国税通則法のようなものは、何か法律がいろいろややこしいから、一つにしようというような程度でお考えになっておるのではないかと見られる節がある。ですから、これは意見でありますけれども税制改正にあたって、執行面について、もっと思い切った考え方、重点の置き方をなさる必要があるのではないか。たとえば、普遍的な問題を見ますと、今本委員会が問題にしておりますのは、質問検査権の問題があります。質問検査権とはどのようなリミットであるべきか、どこに限界があるべきであるか、運用はどうなっておるか、これ一つ考えるだけで、納税者にとっては非常に変革がありますし、民主的な徴税制度ができるわけであります。時間が短いので、私の言う意味がよくおわかりかどうかわかりませんけれども、単なる税法改正だけでは国民の納得は今日得られない。徴税機構、その執行の運用面について、調査会は相当の比重を持っていいのではないか。具体的な例は枚挙にいとまがありませんけれども、私の言う意味はおわかりだと思いますから、一つその点についての御見解を承りたいと思います。
  47. 中山伊知郎

    中山参考人 ただいまの点は非常に重要な点でございまして、御承知のように、この税制調査会では、特別の部会を設けまして、これはおもに法律の委員の方々がその小委員をされておりますが、租税通則法を中心に、特に税制あるいは税の徴収にまで至る手続の簡素化という問題に重点をしぼって研究をしております。この問題は、税制調査会立場といたしましては、実は御質問の趣旨とは反対になると思いますけれども、脱税の問題ですね。税把握所得把握の困難を民主的な方法でどうして克服するかという問題との関連で、実は相当ウエートを置いて考えております。今おっしゃった趣旨は、そうではなくて、税把握を正確にせよというようなことではなくて、そもそも徴税の仕方とか何かで、法定主義というものをあまり上にかざして、そうしてむしろ民主主義の原則に逆行するようなことをやっているのじゃないか、そういう点はもっと気をつけなければならぬという意味なんじゃないかと思いましたが、そういう点を含めて、実は税制調査会としては、脱税の防止と申しますか、それはやっぱり公平化の一番大きな原則だものですから、そういう点との関連と、現在の煩雑化、これは実は徴税の事務の方からいいましても非常にむずかしい問題がございますので、それを簡素化して、そしてもっと単純明白なシステムにこれを持っていこうという点で、研究は続けております。おそらく次の報告書にはそれが大きく正面に出てくることと思います。
  48. 横山利秋

    ○横山委員 私の言っているのは、あなたがおっしゃったような意味ではありません。脱税の捕捉をすることも、もちろん私はその質問の中に入れておるのでありますが、その捕捉の仕方、調査の仕方、一般調査のあり方についても、逐次権力的なものから合理的な民主的なものに切りかえていかなければならぬ。それから、租税法定主義を貫けという意味で言っておるのであります。現在は法定主義でなくして通達主義で、法律ではきめても、実際の運用の面に当たっては通達主義がとられておる。その意味では、中山さんのおっしゃるように簡素化して、そうしてわかりやすくして、租税法定主義を貫け——そのためには、法律上は、租税特別措置法なんかもほんとうにぶった切ってしまわなければいけないと思うのでありますが、そういう意味で私は言っているのです。それから、国税通則法の改正重点を置いてもらいたいと言いますのも、何か法律がいろいろあるから共通にするということでなくして、今私が言ったような意味重点に入れて通則法を作るべぎだ、こう言うのであります。
  49. 中山伊知郎

    中山参考人 お答えしなくてもよろしゅうございましょうか。
  50. 足立篤郎

    足立委員長 いいそうです。  広瀬秀吉君。
  51. 広瀬秀吉

    ○広瀬(秀)委員 中山先生は、だいぶ長時間にわたってお疲れのようでありますので、私は、一つだけと申しますか、関連して、内容的には二つになると思いますが、伺います。  秘税特別措置法の関係で、これは税制調査会でもかなり詳細に分析をされ、検討をなさったことを拝見しておるわけでありますが、特に企業における非課税準備金引当金あるいは各種免税所得、こういうものが特別措置によって非常に大きな留保金額になって、実質的にはこれを基本として働いてきた。そういうようなことから、資本市場を通ずる正常な資本の調達といいますか、そういうものを非常におくらせる一つの大きな原因をなしはしなかったか。そういうようなことも、今日計数的に申しましても、非課税積立金の累積は二十七年以降三十五年度で一兆一千二百四十五億になり、また、免税所得がやはり三十五年度までに三千五百億、大体一兆五千億からに上っているわけであります。これだけ課税を免除されて、それが自己資本としての働きをするということになれば、これは大へんな数字だろうと思います。こういうことで、企業の増資というような正常なルートを通じての資本調達ということを非常に怠らせて、経済の正常な発展というようなことを税制面から大きくゆがめてきて、しかも、企業の、特に大法人関係などがこの恩典に大部分浴するわけでありますが、そういうようなことが、自己努力というようなものに欠けて、何かしら税制の面、すなわち財政面で政府の力によって保護される、それに非常になれ過ぎてしまっておって、みずからの企業努力によって資本蓄積を正常なルートではかっていくという傾向が非常に薄らいできておる。こういうことは、今日の、株が非常に不足をして、株が異常なまでに高騰したということとも関連があるのではないか、こういうように見られるわけでありますけれども、そういう点についての先生の御見解はいかがでありましょうか。これが一つであります。  それから、もう二つついでにお伺いしたいのでありますが、一般的に大企業本位だということがいわれるわけでありますし、また新規重要物産などに対する免税制度というようなものは、ほとんど一〇〇%と言っていいほどこれは大企業向けのものであるわけであります。これは、いろいろとこまかい数字は、税制調費会でも相当こまかく分析されておりまするので、申し上げませんけれども、非常に大企業中心になっている。昭和三十五年度でも一千四百七億、こういう形になっているわけですが、そのまた地方税のはね返りなどがおそらくその半分くらいあった。合計すれば二千二百億ぐらいにはなるだろうと推定されるわけであります。そのうち、資本金一千万円以上を大企業、それ以下を小企業。税制調査会では五千万円以上でデータを出しておられますが、私どもの常識では、資本金一千万円以上というようなことで今日言っているわけでありますが、そういうところに線を引いたとすれば、一千四百七億。三十五年度の平年度ベース一千四百七億の減収というものが、いわゆる大企業というものにそのうちどのくらいのパーセントで恩恵を浴せしめているか、これはもちろん概算でけっこうでありますが、一つその点もお伺いいたしたいと思います。  以上二点だけ伺います。
  52. 中山伊知郎

    中山参考人 ただいま、租税特別措置のうち、特に貸し倒れ準備金以下諸準備積立金の運用について、またそれに関する税制についての御質問がございましたが、これは、 おっしゃる通り、そういう名目のもとに不当に金を積み上げて、そうして税金をのがれて、本来ならばもっとコストのかかった内部留保をすべきものを、非常に安易な道でやることはよくない、その通りだと思うのであります。それで、今までの税制におきましては、あるいはその積立金額の限度を資本金を中心にして制限するというような、若干の考慮はしておったのでありますが、それではどうも足りないというので、今度は、資本金などを取っ払いまして、むしろ実質的に必要な積立金は認める、 しかし累積したものは上の年度からだんだん取りくずしていけというような原則を立てておりますので、これを数字的に具体化することはわれわれ調査会ではまだやっておりませんが、もしこれがほんとうに具体化された場合には、相当の実効を期待し得るのではないかと私は思っております。  なお、それでも足りない場合は、その他の措置を講じなければならぬと思いますが、ただ一般的に、すべての資本蓄積を株式市場を通じてやれというふうに命令でき、あるいは指導していくわけにはいかないのじゃなかろうか。たとえば、アメリカの資本蓄積を見ておりますと、ほとんど内部留保でやっている。八五%までは内部留保でもって増資に当たるものをやっておりますが、それを、日本の場合には、株式でやり、あるいは銀行の借入金でやっているというのが現状であります。これをどのように指導していくかということは非常に重要な問題だと思いますが、とにかく貸し倒れ準備金以下の準備積立金については、この原則は、私は、これからの方針として健全なものであろうかと考えております。  それから、第二の点、租税特別措置でもって税収が減少する約千四百億のうちで、大法人のものがどのくらいあるかという御質問でございますが、正確には私どもも計算しておりません。先ほど申しましたように、私のお答えの中ですでに申しました点は、約百八十億に上る今度の特別措置改正による増収分というのが、ほとんど全部これは大法人のものでございますということは申し上げられます。千四百億のおそらく半分以上、あるいは八割近くが大法人のものだと思います。思いますが、その中に千万円以下とかあるいは五千万円以下のものがどのくらい占めているかは、私は今数字を持っておりませんので、必要があればあとからお答え申し上げます。
  53. 足立篤郎

    足立委員長 有馬輝武君。
  54. 有馬輝武

    ○有馬(輝)委員 私は、税負担率の問題について一言お伺いしたいと存じます。本日のお話の中にもありましたように、消極的な意味での減税の結果が二〇・五%になった。それにしましても、アメリカの二八%なりイギリスの三二%といったものに比べまして、ただ率だけではなくて、実際には非常に負担になっておるという点も明確に御指摘になっておりますし、そういった面で、積極的な面も今後取り上げていただけるという、だんだんのお話があったわけであります。それと同時に、先生が一月の初めの朝日新聞に書いていらっしゃったのでありますが、大体わが国では、明治以来政府依存の態度というものが非常に残っておるのじゃないか、それと、いま一つは、政府の仕事の内容が非常に豊富になってきた、この二つの点に問題があるということが書いてあり、勢いこの政府依存の態度というものを、民間自身についても相当創意工夫をこらして考えなくちゃならぬと同時に、やはり行政の内容、財政支出の検討をやるべきではないかというような形で、問題を提起していらっしゃいます。まあこの点につきましては、これは税調の仕事のカテゴリーを出るものでありますから、当然触れていらしゃらないものでありますが、しかしながら、一応二〇・五%というめどをつけられる過程におきましては、一方で減税の具体的な面について検討を続けていただくと同時に、やはり今御指摘になった行政の内容あるいは財政支出の面で、相当こういう点を頭の中では考え、これに照応しながら仕事を進めていただいたと思うのでありますが、この際その行政の内容なり財政支出の面で検討すべき点、たとえば財政投融資が七千億をこえておるが妥当であるかいなか、こういう点についてお考えがありましたならば——もしここでは税調の会長としてしかものが言えないとなれば別でありますけれども、許せるならばこの第二の面について、重立ったことだけでけっこうでありますから、お話をいただければ、このように考えるわけであります。
  55. 中山伊知郎

    中山参考人 ただいまの御質問、非常に広範な問題でございまして、資格云々は別といたしまして、私短い時間にお答えができるかどうか、はなはだ心もとないのでございます。理想的に申しますならば、有能な、そしていい仕事をしてくれる政府というのを一方に持って、しかもそのコストが安いというのが国民の願いであることは、申すまでもございません。そこで、現在の減税問題のもとは、非常に常識的に申しますと、戦前には全体の公務員級の人の数が大体百万人はなかったと思うのでありますが、戦後の今日では三百六十万人くらいなんですね。それは政府の仕事を反映して人がふえているわけなので、そういうことに対するばく然たる高い政府という感覚がやはり残っているのではなかろうか。私は、その意味で、行政面では内容の点で非常に努力をされて、高い政府ではないのだ、たくさんの人間はかかえているけれども戦前から比べると三倍もの人間にはなっているけれども、それだけの仕事をしているのだという実績を政府の方でお示しになることが、やはり必要なのではないかと思うのであります。それにもかかわらず、なぜ二〇%というような問題を考えたか。もし内容という点から申しますと、二〇%なんというワクは実は第二義的のものであります。たとえば、これがもうほんとうの福祉国家になって、どんどん社会保障費を出すのだということになりますれば、イギリスの二八%というのは、そういう社会保障費が相当の率を占めておるのでありますが、もしそれを国民がみんな納得するなら、私は、二〇%が二五%になっても二八%になっても、ちっとも差しつかえないと思うのであります。だから、問題は、そういう支出経費の内容と効率という点に重点があって、このパーセンテージ自体は第二義的のものでありますが、なぜ、税制調査会が、こんなワクを自分で設けて、苦しみながらそれを守っていかなければならないのかと申しますと、何かのそういうワクがございませんと、実はきめ手がないのであります。何か議論をしていく、あるいはものを考えていく土台がないのであります。その土台としては、経験的に、あまり大きな今までの経験との差のないところで、しかもこれ以上ふやすとこのワクを破る危険がありますよ、しょっちゅう皆さんからそういう注意を受けるんですよというような意味で、一種の警戒的の線をそこに引いた。この意味で二〇%を評価していただければ、調査会としては大へんしあわせだと思います。
  56. 足立篤郎

    足立委員長 春日一幸君。
  57. 春日一幸

    ○春日委員 私は、この零細事業者の零細所得のうち、明らかにそれが勤労の対価として発生したと思われる所得分に対しては、何らかの基礎控除をしなければならないと考えておるのでございます。この問題は広く論じられ、また業界からも零細業者からも強い要望のあるところでありますが、この点について会長の御所見を伺いたいと思います。  現在、課税の対象は、大きく分類いたしまして、財産所得、勤労所得、それからもう一つは勤労所得と財産所得の合算所得の三つに大区分をすることができると思うのであります。財産所得に対してはそれぞれの基礎控除があり、勤労所得に対しては基礎控除があり、さらに給与控除がございます。ところが、第三番目の合算所得と思われるものにつきましては、基礎控除はありますけれども、その合算されておりますところの一部の、勤労の対価として発生したと見られるところの所得に対しては、何らの基礎控除がなされておりません。この勤労事業者、働いて商売をやっておる八百屋さん、とうふ屋さん、自転車の修繕屋さん、大工さんたちは当然でありますが、そういう諸君の所得は、これは給与所得ではないけれども、明らかに勤労所得である。勤労所得でありますならば、その所得を得るに必要な経費というものは当然あるのでありますから、その経費を見るために、本人に対して何らかの基礎控除があってしかるべきであると思うのであります。なるほど今回八万円でありますか、専従者控除制度が見られましたけれども、それは経営者以外の専従者に対する控除でありまして、本人には何らその要求は満たされてはいないのでございます。こういうような点から考えますと、もう一つ御理解を願っておきたいことは、この給与所得者に対する給与控除が見られておりますのは、これはその把握が百パーセント行なわれておりますからそれに見合う措置という点も考えられるでありましょうが、税調において特に御認識をいただいておきたいことは、それらの給与所得者とこれら零細なる所得者との生活態様が何であるかという点でございます。八百屋さんは車を引いて、とうふ屋さんはらっぱを吹いて、牛乳屋さんは自転車の上に牛乳をつけて走り回っておる。全く給与所得者と同様に、その生活態様は余裕のない、ぎりぎりのありさまを示されておるのであります。すなわち、把握というものが十分に行なわれるにしろ行なわれないにしろ、把握以前の問題がその生活の実態として現われていると思うのでございます。その点から考えますると、私は、現在の課税標準が現実に三つに区分されており、勤労の対価として発生したものに対しては給与控除があるのだから、その概念とその政策的な必要を満たすことのためには、第三番目の合算所得、零細事業者と言いましょうか、勤労事業者と言いましょうか、その勤労事業者の勤労の対価として発生した所得分に対しては、これをやはりその所得を得るに必要なる経費として何らかの特別勤労控除というような名前によって減税措置を講ずべきではないか、こういうふうにわれわれは考えておるのでありまするし、零細事業者たちの要望も強くそこにあるのでございます。会長の御所見はいかがでございましょうか。
  58. 中山伊知郎

    中山参考人 ただいまの零細所得者とおっしゃいました概念が非常にむずかしいのですが、つまりこういうふうに考えられましょうか。独立自営業者、こういう意味じゃないかと思うのであります。独立自営業者ということになりますと、これは普通の所得税法によって基礎控除を受けられるという点以外に、さらにその本人の勤労所得に対してある手当をすることが必要かどうか、非常に私むずかしい問題になるのじゃないかと思います。と申しますのは、今御指摘になりましたお話の中にございました専従者控除というので、大体零細経営者というのはある程度公平化で救済されているという言葉を使うと悪いかもしれませんが、ある程度措置が行なわれているわけでございます。それは人を使っている場合ですね、家族のも。ところが、自分一人で、独身ということを考えなければなりません。独身でそういう人がどのくらい一体あるかということはわかりませんし、非常にとらえにくいと思のでございます。しかし、数多いでしょうか、その今のお話がよくわからないのですが……。
  59. 春日一幸

    ○春日委員 それは専門的に広く論じてみたいところでありますが、本日は時間がありませんので要約をいたしまするけれども、今度の専従者控除が新しく創設されたことの意義は、やはりそのような事業者の事業場において働く者、家族従業員あるいはその他の用員に対する専従者控除として、給与に見合うものとしての措置が、法人成りのものとして見合わせるための一歩を踏み切ったものと思うのでありますが、それはちょうどこの給与所得者が家族構成——おやじさんが給与を取るために、奥さんが弁当を作ったりいろいろやりましょう。また体面を保つことのためにもいろいろありましょう。その零細事業者たち、大工だとかとび、左官、自転車屋、うどん屋、時計の修繕屋、いろいろございます。そういうような家族としてのその事業に参画する者については、今回専従者控除が創設されました。ところが、本人、御主人その人については何もないわけです。一方給与所得者については、御本人について基礎控除のほかに、そういう勤労控除というものが、四十万円までは二割、八万円というのがありますね。八万円のほかに今度一万円できたわけです。ですから、給与所得者に対しては、基礎控除九万円のほかに最高限度八万円があって、今度一万円あるわけですね。ところが、この勤労事業者、その零細事業者に対しては基礎控除があるだけなんですね。そういうわけですから、特別勤労控除と申しましょうか、そういう働いて所得を得るためには、腹が減ったら食わねばならぬ、朝早く起きればそれだけ暖をとらねばならぬ、うどん屋さんが十二時までかかってかまを洗えば夜食を食べねばならぬ、そういう所得を得るために必要な経費というものは、実際は伴わざるを得ないわけですね。そういうようなものを何も見ていないということは、片手落ちではないか。給与所得者については給与控除がありますから、従って同じように働いてもうけている人々には、同じような見方をして、経費を見てやる必要があるのではないか、こういう点でございます。
  60. 中山伊知郎

    中山参考人 そういう議論は実は出たことは出たのです。それは同じ働く人ですから、御主人公もそういう控除を創設したらどうかという議論は出ました。ただ実際問題としては、どれだけそういう人の中で税金を払っているだろうかという問題になりますと、今おっしゃったようなカテゴリーの人で税金を払っている人というのは、実際非常に少ないのじゃなかろうかというようなことですね。
  61. 春日一幸

    ○春日委員 それは全然違うのですよ。私が申し上げるのは、零細事業者の所得というものは、これはまさしく商売の所得とおやじと家族との働いた所得とを合算したものが零細所得なんですね。ですから、みんなそういうような納税義務を発生しておる諸君を対象として、私は論じておるわけですね。そうすると、現実に事業の所得プラス勤労の所得、それぞれが零細事業者の所得になっておる。だが、働いた分の所得に対しては、何ら所得を得るに必要な経費としての基礎控除的な概念における減税措置が講じられていない。これは現租税制度における一つの盲点とされておったのではないかとすら、私はこれを指摘しておるのでございます。でありますから、所得の中のたとえば百万円以下の所得を零細所得とみなして、そしてその中の下積み何十万円かを勤労の対価として発生した所得とみなして、そしてそれを特別勤労所得と定義して、それに対して何らかの減免措置を講じたら、論理は合ってくるのではないか、こういうことでございます。
  62. 中山伊知郎

    中山参考人 ようやく問題が——私少し誤解しておりまして恐縮でございました。よくわかりました。その問題につきましては、ただいまおっしゃいました家族の専従者控除を創設するという問題を議論しました場合に、御主人公をどうするかということについて議論いたしました。そこで、結論だけを申しますが、基礎控除の中にはそういうものも含まれているのだから、それでいいんじゃなかろうかというのが最後の結論でございます。そのいきさつはこの中に少し出ておりますから、私読み上げるのも恐縮ですから、一つあとでごらん願えれば幸いだと思います。
  63. 足立篤郎

    足立委員長 これにて中山参考人に対する質疑は終了いたします。  中山参考人には、御多用中のところ、長時間にわたり御出席をいただきまして御意見をお述べいただき、本委員会の審査に寄与されましたこと、まことにありがとうございました。厚く御礼申し上げます。     —————————————
  64. 足立篤郎

    足立委員長 次に、入場税等に関する問題について、大映株式会社社長永田雅一君及び東宝株式会社常務取締役菊田藪男君のお二人より御意見を聴取することといたします。  参考人には、御多用中のところ御出席をいただきましたところ、御承知の通りの事情で大へんお待たせをいたしまして、申しわけございませんでした。まず参考人より御意見を述べていただきまして、その後に質疑を行なうことといたします。  では、永田参考人にお願いいたします。
  65. 永田雅一

    永田参考人 ただいま税制調査会の会長である中山先生から拝聴いたしておりますると、今回の減税はもっぱら直接税にしぼられて、遺憾ながら間接税検討の時間がなかったというように拝聴いたし、まことに残念でございます。ただいま参考人として呼ばれましたことは入場税問題に関連して呼ばれたことと思いますので、私は、入場税問題について、もっぱら自分の職務が映画関係でございますから、映画関係重点を置いて御説明さしていただきたいと思います。  現在、世界的傾向でございますが、娯楽文化は、テレビの出現によりまして、その恩恵を受ける形勢が全く一変いたしました。すなわち娯楽の要素が変わってしまったのであります。映画、演劇はもちろん、あらゆる芸術、スポーツその他の娯楽が、各家庭並びに酒場、喫茶店で、テレビのチャンネルを一つひねれば、いかなる娯楽にも接することができる。特に最近一週間ほどの、テレビ番組が娯楽番組といたしまして提供いたしておりますのを調査いたしてみますと、劇映画が一週間に七十八本、そのうち外国映画は五十八本で、邦画が二十本です。テレビ・ドラマが九十九本、劇場中継が十四本、これに相撲、野球、この娯楽が無料で鑑賞されておるわけであります。今申し上げましたように、好みのチャンネルを回すたびごとに、税金を支払うことがなくてけっこう楽しんでおる。にもかかわらず、アウトサイダーにおります私どもの方の映画常設館は、わざわざ観客人は歩いて来るか乗りもので来るか、若干の交通費をかけて各興行場に来るわけであります。はたして興行場の前まで行って見られるか見られないかはわからぬ。さらに、入口で見られたとしても、入場税というものが各個人に課せられておるわけであります。  そこで、一体入場税というものはいつごろ創設されたのか。私の記憶では、昭和十五年、すなわち戦前、当時国をあげて国内は臨戦体制だ、かように記憶いたしておるのであります。その際、当時軍官が協力いたしましてあらゆる国民に圧迫をした。そのときに、第一この臨戦体制において娯楽場に行くというようなひまのあるやつは少しいじめなければいかぬじゃないかということから、入場税というものは課せられたのであります。でありますから、終戦後当然こういうような悪税は撤廃されるものだと信じておったところが、何となし、関係者は、これを取るのには便利がいいということで取っているのじゃなかろうかと思うのであります。私自身は少なくともこの入場税というものの性格が娯楽税なのか、奢侈税なのか全くその点はっきりしない。しいて申し上げるならば、ただいま申し上げたように、何となしに取りやすいから取っておこうじゃないかということで、存続されておるように思うのであります。全く、今申し上げました通り、テレビの出現によって娯楽が一変してしまって、相変わらず興行場においては入場税というものが課せられておる。  一体、私どもの方の事業といいましょうか、産業といいましょうか、どういうしかけになっておるかといいますと、全国の四六時中やっておる映画常設館が、私ども調査では六千五百三十館ございます。その六千五百三十館の映画館を通じて、入場料を支払って見にくる観客動員は、ここ五、六年の統計をとってみますと、最高昭和三十三年で十一億二千七百万人の観客動員をいたしたのであります。昨年は——きょうから申しますと一昨年、三十四年度は十億八千八百万人も動員いたしまして、おそらく昨年度は十億三千万人を観客動員いたしたのではなかろうかと想像されるのであります。ところが、この六千五百三十館の映画館を通じて、国民一人頭が最低十回から十二回鑑賞しておる。まことに数という点におきましてはジャーナリスティックでございますが、この支払われるところの入場料金というのは、入場税を控除いたしますと、ここ二、三年の統計をとりますと、わずかに七百十億から七百三十億くらいの映画興行総収入なのであります。従いまして、わが国の映画産業というものは、その興行収入においてまかなわれておる。その興行収入が何とわずかに七百十億から七百三十億であります。この金額は、あるデパート、具体的に言うならば、三越と高島屋の年間の売り上げに匹敵するのであります。いかに産業という点から言うならば貧弱なものであるか、はたしてこれが産業という言葉が使われ得るかどうか、疑問に思うのであります。しかして、私ども、映画入場税というものを控除いたしますと、七百十億から七百三十億で、昨年の入場税の収入は、おそらく百七十億内外あったのではなかろうかと推算されるのであります。そのうちの常に映画は八六%ございまして、その他のいわゆる娯楽の入場税が一四%という比率になっておるのであります。  ところが、ここで特に皆さんに知っておいていただきたいことは、どうしてそんなに興行収入が少ないのかと申しますと、皆さんは中央におられて、中央すなわち都会の入場料金というものを対象に御批判になっておられますが、平均いたしますと、入場税を控除いたしましてわずかに一人頭一昨年は六十二円強であります。これが二本立の映画を常識にしておるのですから、一本が三十一円ということになる。昨年が辛うじて七十一円になったわけであります。これでもなおかつ二本立が常識でございますから、一時間半内外の娯楽を提供いたしまして、三十五円ないし三十六円。六千五百三十館のうち、驚くなかれ、恥ずかしいことでありますが、三本立をやっておるところの映画館が三千館ある。三本立を上映いたしますと五時間半から六時間、交通の発達いしました今日、少なくとも羽田からアメリカに行く時間の間見せておる、こういうことになる。(笑声)この点は、私ども業者は十二分に反省しなければならぬ。そういう映画館ほど、いわゆる衛生の環境の設備の悪いところであります。そうして五時間半ないし六時間も閉じ込めておる。ところが、今申しました通り、各家庭、バーまたは喫茶店で、寝ころんでチャンネル一つひねれば何だって出てきてしまう。そういう際にこういう状態をやっておるということは、私ども業者として大いに反省しなければならぬ点は多々ございまして、今反省期に入りつつございます。  ところが、戦前のすべての物価指数の一、二の例をあげてみますと、戦前は映画は平均いたしますと最低三十銭から四十銭でございました。そのときには大衆に最も密接な関係のある銭湯すなわち入浴は五銭でございました。理髪すなわち散髪が一回二十五銭、当時さくらというたばこがございましてチェリーと名前がつきましたが、これが十銭であります。ビールが、そのときはまだ配給ということはありませんが、私どもでは二十五銭で買えた。その比率からいきますと、きょう入浴の銭湯が十七円、散髪屋さんの組合は最低百八十円をダンピングすることをやめよう、百八十円が最低で大体二百円から二百三十円であります。にもかかわらず、映画は七十一円、今申しました通り二本立が常識でございまするから、三十五、六円で見せておる。どうして、そういうような映画界が、また映画入場料金が低料金かと申しますると、隘路はこの入場税にある。何とならば、入場税というと、形式の上においては大衆課税のごとく見えておるのでありますが、実際においては業者の出血なんです。だから、皆さん方並びに皆さんの御家庭の方々が興行場に行かれるときに、いわゆる入場料金は幾らで入場税が幾ら払ったとはおっしゃらぬだろうと思う。すなわち、映画を見てきた、演劇を見てきた、スポーツを見てきた、幾らだ、百円だ、百五十円だ、二百円だとおっしゃると思う。その通念というものは、大衆は、何か議論が出て、こういう問題が出てくると、入場税というのは、ほほうおれたちが払っているのかと思うが、日常においてはそういうことは念頭にない。結論においては業者の出血なんであります。でありまして、しかも平均すれば入場税は二割強になっておりまするが、今日税制改正されて一割、二割、三割になっておりまして、スライディング・システムになっておりまするから、どうしても入場料金を上げることは必然的に入場税を上げるということになる。でありまするから、昨年は、一番いい例を申し上げますると、観客動員は四、五千万人ずつここ二、三年減ってきておる。減ってきておるけれども、入場税はアップしておるということは、裏から見れば、やはり適正な映画入場料金を取ろうと思うたびごとに、まず税金が上がっていくという形になるわけです。そういうわけでございまして、きょう映画産業は少なくともこの入場税というものは撤廃していただきたい。また撤廃すべきものである。ただ何となしに便利がいいから取っておるというようなことは、文化国家としては言えない。  そこで、世界的な傾向でございまするので、私ども映画製作者が世界の連盟を作っておりまして、先ほどウィーンで決議をいたしまして、それぞれの加盟各国会員は自国の政府に啓蒙して、これの撤廃運動をしようじゃないかということになりまして、一昨年の暮れから運動いたしましたる結果、アメリカは一ドルまでの入場料金においてはノー・タックス、一ドル出たものに対して五%かけるわけでありまするから、かりに一ドル、五十セントといたしますると七セントかかる。英国は昨年の四月から完全に撤廃いたしました。フランス、イタリアにおきましては、本質的においては撤廃であって、形式の上においては、政府の名において平均二割取ってやろう、取っておいて、その金は政府の歳入に入れずして、映画開発基金ということにおいて、別途会計において映画館の新設、修繕、またその国のPRになる優秀な映画であったり、またりっぱなオペラがあるということならば、入場税というものの形式で取ったものを、国の歳入にせずに、別途会計をもちまして、そうして業者に還元してやっている。補助してやっている。保護してやっている。こういうように、少なくともきょう文化国家と名のつくところの国々においては、撤廃もしくは撤廃にひとしい減税を行なっていただいておるわけであります。そうして、われわれが連盟の会議に参りますと、一体日本はどうなんだ、今のこの悪税はそのままになっているじゃないかと言って、私どもは、連盟に参りますると、かなり会員各国の他の国からやっつけられておるというのが実情なんであります。でありまするから、どうか、理解ある皆さんにおかれましては、入場税というものの性格からいきまして、あいまいもこであり、しかも戦争のときにひま人をいじめてやるつもりでかけてやろうじゃないかと言われたものが今なお残っておる。こういうばかばかしいことはないのでありまするから、すみやかに私どもはこの入場税というものを撤廃していただいて、しかしてハンディキャップなく堂々とテレビはテレビ、家庭娯楽、われわれは大衆娯楽として、映画を通じて、思想の上において、道徳の上において、教育の上において、優秀なるところの作品を作っていく。今のこういう状態では優秀作品は作っていけない。優秀作品が作っていけないから、粗製乱造の数を作っていかなければならぬ。二本立、三本立になる。こういうばかげたことをいたしておりましたならば、思想の上においては頽廃いたしましょうし、道徳も頽廃いたしましょう。健全なるところの映画産業が発達してこそ、私は国の文化人というものができるのだと思って、うぬぼれを持っております。  どうか映画産業に立ち戻るよう、その隘路は入場税でございまするので、どうかすみやかにこの入場税を撤廃していただきたい。長時間中山先生もおられて、いよいよ私がしゃべろうと思ったときにお帰りになって、まことに残念なんで、ところが、さっきも、速記録にございましょうが、辛うじて直接税であって間接税までにいけなかったことを遺憾の意を表すということを言っておられたから、良心に誓って間接税を取り上げられて、間接税を取り上げれば入場税を取り上げていただけるだろう、こういう希望的観測を持って私は拝聴いたしておりました。どうか皆さんにおかれましては入場税を撤廃し、すみやかに政府当局にこれをやっていただくように御助力のほどをお願い申し上げて、一応参考人として申し上げる次第であります。
  66. 足立篤郎

    足立委員長 次に、菊田参考人にお願いいたします。
  67. 菊田数男

    ○菊田参考人 私は、大体演劇とか、それからそれに人形劇を含むもの、それから音楽、オペラなどを含むもの、バレーなどを含むもの、それから舞踊、能楽などというものの関係のことを申し上げたいと思います。  今申しましたそういう種類のいろいろなジャンルのものが大へん困っておりますということは、映画の方と同じでございます・そうして、やはりテレビが出ましたために大へん困っている。さっき永田さんもおっしゃいましたけれども、家の中で寝ころがってチャンネルを回しますと、幾つも幾つもいろいろなものが出て参ります。つまり茶の問に寝ていて、その茶の間の中に劇場が五つも六つもあるのと同じことなんだと思います。そういうもののために演劇その他のものは非常に困って参りました。ことに私の関係しております東宝の方の演劇など、松竹さんの場合も同じでございます。これは、今までは演劇というものは大体成り立たないものなんだということでございます。これは、なまの人間が舞台に出ているために、いろいろな経費もかかりますし、それからいろいろなトラブルも出て参ります。しかも映画は、全国で何百館、何千館というところで、一本作ればそれを上映するわけであります。その映画が何千館というところで上映されても、なおかつ引き合わないような状態になってきている。そうしますと、演劇の場合にはどこか一軒の劇場でしかできないということでございます。映画が何千館かやる中で、演劇はやはりその映画と同じに近いほどの費用をかけて、しかもたった一軒の小屋でそれを消化していかなくちゃならないという、そういう事情がございますので、現在では、演劇をやっています会社がもし映画をやっていましたならば、その映画の収入に寄生して演劇というものは存続してきたのでございます。そういうことではいけないのでございますけれども、やはり演劇というものの本質がそういうふうなものでございますので、自然に映画に寄生してきたのでございますけれども、その映画自体が、今永田さんがおっしゃいましたように、かなり曲がって参りました。曲がってきますと、演劇のめんどうまでは見ていられないということなんでございます。一つの会社で両方やっていますならば、映画の方で繁盛していますならば、片方の演劇を抱き上げて、そうして何とかして温存していくということもできるのでございますが、映画がそういう状態になって参りましたならば、全然そういうこともできないというふうな状態が参っておるわけでございます。  まあ、テレビが盛んになり、映画、演劇がだめになって、そうしてテレビは便利であるから——私は、作者でございますので、作者の立場からもものを申しますけれども、テレビに出ているものは、映画、演劇よりもはるかにすぐれているとは決して申されないと思います。これは私作者の良心からはっきり言えると思いますが、しかし、便利だという点でテレビがまさっている。便利なものと不便なものとの優勝劣敗でございますね、そういうものが、どうせ便利なものの方がいいのだから、不便なものはほっておいてもいいのじゃないかということで、それが許されるのでしたら、現状のままでも仕方がないと思うのでございますけれども、やはり演劇その他のもの大体わが国の芸能というものは、能から発しまして演劇になり、それが人形劇となり、また舞踊となり、また映画となり、テレビとなって、順に末端に及んできたわけでございます。そうなりますと、最後の末端のものだけが生きて、最初の根源が滅びてしまう。そういうことはゆゆしいことだと私は思っております。その末端も最後まで生き残れるかどうか。もしも末端があきられてしまった場合、あとはもう機械と電気しか残らないのだというふうに私は考えております。  それからバレーとか、その他海外からきたものもございます。このバレーとか、オペラとか、海外の演劇とかいうものも、ギリシャのころから始まったもので、根源はやはり、原始的な演劇ということにあるわけでございます。そういうふうに演劇というものがどんなに文化国家として大切なものであるかと申しますと、戦争中には演劇というものがじゃま者扱いにされ、映画というものもじゃま者扱いにされた。ことに演劇などは、昭和十九年二月二十九日でございましたが、高級劇場閉鎖という法令か何かが出まして、料理屋さんと同じように扱われて閉鎖されました。それは、演劇などというものは、税金をかけた上に、要らないからというので閉鎖されたのでございます。私は、興行師でなく作者でございますから、そのときはちょうど舞台げいこをやっていましたけれども、舞台げいこの道具をこわして泣きました。それほど演劇は侮辱されるものであるかということで泣いたわけでございます。にもかかわらず、それから戦争が激しくなりまして、人心がすさんで参りました。そうしたら、演劇をもう一ぺんあけてくれと情報局さんがおっしゃったので、私は、人心がすさんではならないと思いまして、やむを得ず再び演劇をあけました。それは昭和二十年ごろでございます。二十年に入りましてから、何とか一つ人心の荒廃を救ってくれと情報局さんがおっしゃいましたので、私は再び筆をとりました。そのころは劇場が閉鎖されておりまして、ゴム風船の変な気球を作ったりしておりましたので、その劇場は使えません。それで映画館を利用しまして、そこで再び演劇をあけました。ところが、そういう娯楽ものに飢えていたお客様が雲集しまして、渋谷の東横劇場でやったのですが、そのときは東横劇場から忠犬ハチ公の前あたりまで人々が並んで、芝居の幕のあくのを待っておるというような状態でございました。そうしましたら、これまた情報局さん勝手なもので、あまりにみんなが喜び過ぎるから、もう少し辛いものにしてくれと言うので、またそれを辛いものにしましたけれども、やはりそういうものを見たいためであるかどうか、お客様は幕があいて終わりまでぎっしり一ぱいになりました。それは、私たちがもうかったということでなく、演劇とか舞踊とか、そういうふうな芸能というものが、どんなに人の心に役に立つかということなんだと思うのでございます。  それで、永田さんもおっしゃったように、今でも、その当時の扱いと同じような、もうやめろと言わんばかりの税金をかけられているわけであります。戦前の例を申し上げますと、戦前の芝居は丸の内の有楽座で入場料が二円でございました。そして無税であったのでございますが、それに、昭和十四年だったと思いますが、一割の税金がかかりまして、その後ずっとそのままきたのでございます。また歌舞伎座は五円ないし八円ぐらいでございました。現在の入場料を申し上げますと、有楽座と同程度の劇場である芸術座の入場料が五百五十円でございます。それから歌舞伎座がおおむね千円、豪華メンバーの場合は千三百円か四百円ぐらいになっております。芸術座の料金が戦前の二百七十倍ばかり、歌舞伎座の料金は大体二百倍ないし二百五十倍になっております。さっき永田さんが銭湯の料金をおあげになったので、私ちょっとてれるのですが、銭湯の料金の値上がりよりも率が悪いのであります。しかも率が悪くて、その中に三割の入場税が入っておる。三割の入場税を含めて、銭湯の値上がりの率よりも悪い状態で今演劇をやっております。いかに演劇ができないかということでございます。それで、成り立つためには入場料をもっと上げればいいじゃないかという議論もおありかと思いますけれども、入場料を上げるということは、結局それでなくてさえ決して安くない芝居の入場料を高くして、大衆に負担をかけることになるのだと思います。同時にまた、経営の仕方が下手じゃないのかとおっしゃる方もあるかもしれません。しかし、わが国の芸能が全世界のほかの国に比較してどんなにすぐれたものであるかということは、映画とかその他のものが外国に出ました場合に、外国のいろいろな世界的な賞をもらっております。賞をもらったことがいいか悪いかということは別としましても、とにかく戦後の国家の方針というものが高度の文化国家建設にあるということなんでございますけれども、その文化国家で芸能というものがそういう扱いを受けていいかどうかということを、私よく考えるので、ございます。  大へん私事でおそれ入りますけれども、ここで私どもの例を申し上げて、皆さんの御参考にしたいと思います。私事でございます方が差しさわりがございませんので、私事を申し上げるわけでございますけれども、私の作りました作品で「がめつい奴」というのがございます。がめついやつという言葉が新聞や雑誌によく出ておりますが、あれは昔からあった言葉ではございません。私が作った言葉でございます。その作りました言葉が世上にいろいろ広まりまして、日常語として使われていますということは、これは芝居の題名でございますので、その芝居がいかに多くの人に見られたかということでございます。その芝居がいかに世間にいろいろな影響を与えたかということでもあるのだと思います。その「がめつい奴」をやった劇場は芸術座でございますが、その芸術座で「がめつい奴」を——私は興行師兼「がめつい奴」の作者でございますので、そこで十カ月間「がめつい奴」を連続公演いたしました。十カ月問一つの芝居を同じ劇場で問を置かずにやったということは、日本では初めての記録で最高記録でございます。そして、世界の例を取り上げましても、ブロードウェーあたりでやっておりますのは、やはり二年、三年というのもございますけれども、半年ぐらいでつぶれてしまうのもある。あるいは三日間でつぶれてしまうのもあります。その中におきまして、世界的水準をいく芝居であると思います。これはおもしろいということでもあるし、また同時にいい芝居だ——私が申し上げるのも恐縮でございますけれども、いい芝居だということにもなるのだと思います。この芝居をやった芸術座——これも、あとのことを申し上げたいので、やむを得ず自画自讃いたしますけれども、この芝居をやりました芸術座の成績をちょっと申し上げますと、十カ月間の観客動員数が二十万二千人でございます。ところが、それによります十カ月間の興行収入は七千万円でございます。下は非常に少ない半端がございますので切り捨ててございますが、七千万円でございます。それに対しましての十カ月間の仕込み費、つまり元手でございますが、その元手が七千百万円でございます。つまり七千万円収入がございまして、仕込み費は七千百万円かけているということでございます。ということは、十カ月間大奮闘して働いて大評判を得まして、題名の言葉が世間にはやるほどになりまして、マイナス百万円でございます。つまり欠損百万円、それに対して国庫に納めました入場税は千八百九十二万五千八百九十三円でございます。いずれにしましても、仕込みの七千百万円よりは収入の方が少ないということでございます。支出の方が七千百万円だったということでございます。これがわが国におきましての古今未曽有の当たりを見せました「がめつい奴」の総決算の数字なんでございます。  なぜそんなふうになったかと申しますと、私は興行師兼作者でございますので、当公演の最後の日——われわれの言葉で言う千秋楽の日に、出演者を全部集めまして、十カ月間努力してくれたということに対して演技賞をやったり、ある者には努力賞をやったり、あるいはある者には皆勤賞、精勤賞をやりまして、百万円を損しながらとおっしゃるかもわかりませんが、十カ月間毎日々々舞台の上で取つ組み合いのけんかをしたり、夫婦げんかをしたり、またそう年もとっていない女優が、くさればばあの姿になって腰を曲げて歩いているということは、大へんな努力でございます。その努力に対して何か報いてやりたいと思ったので、私はそういうものを出したのでございますが、その費用をどこから出したかと申しますと、興行収入以外のつまり雑収入でございます。これによって芝居というものはどうにか成り立っているのでございますけれども、その雑収入というのは、食堂でお客さんがお弁当を食べる、その上がりの歩合金を劇場は幾らかもらえるのでございます。その歩合金の上がりと、売店がございますが、その売店の歩合金がございます。その他のもの、そういうふうなものが十カ月間で総計二百五十万円あった。それを合算しますと——私いつかどなたかに申し上げたことがございますが、「がめつい奴」が十カ月間あれだけ大当たりを見せて、やっと百五十万円の黒字になったということでございます。その黒字のうちから、演技賞を出したり、その他のことで支出をいたしたり、パーティをやったりして、ねぎらってやったわけでございます。なぜそんなに当たりながらもうからないのか。ばかな仕込みをして、ばかな払い方をしておるのじゃないかとおっしゃる方もいられるかもわかりません。私は興行主でございますけれども、作家でございますので、大へん数字は弱いのです。ここでも数字をあまり申し上げませんけれども、ばかなことをやったのじゃないかとおっしゃられる方もいらっしゃるかもわかりませんが、それに対してお答えは、芸術座という劇場は、今や芸術的な意欲を満足させるための劇場であるという意味で、商業演劇の俳優たちの一種のメッカとなっております。そこで、俳優たちは、芸術座に出られるのなら、ほかの劇場の何分の一かでもかまわないと申してくれますので、大体よその劇場あるいは映画の出演料の三分の一ないしは半分の出演料で俳優たちは出てくれたわけでございます。私自身のことを申し上げますけれども、私の脚本料は、作家としての公定相場で、脚本一本が六十万円ないし八十万円でございます。念のために申し上げておきますが、アメリカの名の売れた作家の脚本料というものは、日本風にしますと、一本が大体数千万円になります。それで二、三年は楽に食っていられるということです。それが、日本では、六十万円か——私などは最高でございますけれども、八十万円くらいでございます。私が「がめつい奴」の作品の報酬として得た金は、十カ月間の総計で百十万円でございます。自分がやっています劇場で自分の脚本をやりますので、興行主の私が作者の私を値切りまして、百十万円に値切って、そしてロング・ランをやらしたわけでございますが、成功させようとしてやったわけでございます。しかし、その百十万円の中から宣伝費はございません。小さい劇場でございますので、そのために百十万円のうちからまた五十万円削りまして、プライベートで五十万円の宣伝費を使っております。結局残るところ六十万円取ったわけでございますが、その六十万円取った私に対しまして、おそらくことしの三月総合所得税が六五%ということになっております。そういう状態でございます。こういうふうなことをしなければ芝居はやっていかれないということでございます。手を食い足を食って、やっと芝居をやり続けているということでございます。にもかかわらず、百五十万円もうかって、そして千九百万円近い税金を取られているということでございます。そのバランスというもののあほらしさといいますか、ときどきほんとうに芝居をやめてしまいたくなってしまうのでございます。  その私に対しまして、去る三月八日、文部省から、昭和三十五年度に「がめつい奴」をやり、また現在やっております「がしんたれ」をやったという功績で、芸術選奨、文部大臣賞を与えてやるという御発表がございました。私うれしくてほんとうに涙が出ましたけれども、大臣賞が残って損害が残るのでございます。しかし、賞は、よい仕事をしたからというごほうびなんでございます。ですから、大蔵委員の皆さま、いい仕事をわわれは幾らでもやっていきたいと思います。そうしてやれる自信もございますから、入場税というものを、こういうあほらしいものはどうかやめていただきたい。そうしましたならば、世界に向かいまして、日本がいかにりっぱな文化国家であるかということも言えると思うのでございます。よその例も今永田さんがおっしゃいましたが、英国ではすでに一九六〇年の四月に入場税は撤廃されております。アメリカは演劇に対する入場税は六・五%であります。日本は三〇%、そうしてまた西ドイツ、それからイタリアでは、国家が演劇に対しては保護政策をとりまして、入場税なるものは取らないで、しかも補助金をくれております。しかし私は政府から補助金などはもらいたくないと思います。補助金をもらうことによっていろいろ指図されることはきらいでございます。しかし、入場税を撤廃していただいて、無税にしていただいて、そうして私たちはほんとうにりっぱな仕事をやっていきたいと思います。ということを皆様に申し上げて終ります。(拍手)     —————————————
  68. 足立篤郎

    足立委員長 続いて質疑を行ないます。  この際委員長から委員の各位にお願い申し上げますが、大へん時間が経過いたしましたので、恐縮ですが、両参考人に対してそれぞれ一名ずつ代表質問をお願いするということで、御了承いただきたいと思います。  田原春次君。
  69. 田原春次

    ○田原委員 映画、演劇入場税の実情に関しまして、永田大映社長、それから菊田東宝重役から非常に有益な実際のお話を伺ったわけです。永田さんのお話の中には、むろんところどころらっぱらしきものも多少は聞こえましたけれども、しかしこれは長年の経験からであると思います。私は二十二万何千人の「がめつい奴」のお客の中の二人分、二度行ったのでございますから、入っているわけで、私も税金を納めたのでございます。そこで、時間の関係がありますが、入場税に対する質問の前に、一つ永田さんにお尋ねしておきたいことがあります。  それは、永田さんもたしか映会協会の会長か何かやっておられるので、その資格で申し上げますが、外国映画の輸入の問題でございます。これは、私どもの知っておるところでは、アメリカの映画が全体の八割くらい、百数十本入っているというように聞いております。この際、映画事業の健全な経営の意味から、すべての外国映画と日本の映画とのバーター制度を申し出てはどうかと思うのです。たとえば、アメリカから一本入れた場合には必ず日本の映画を買わなければならぬというふうにしてはどうか。輸入だけしておいて、しかも非常に名作もありますけれども、変な駄作も多くて、ピストル・ギャングのようなものが多くて、かえってよくないように思います。また、日本映画で海外に行っているのは、ハワイ、北米、南米等の主として日本人の一、二世相手のものが多い。純然たる外国人に見せるものは「羅生門」その他ごく少数だと思います。そこで、この際一対一のバーターにすれば、すでに日本でもりっぱな映画を作れますし、また今まで非常に輸入が制限されておりましたソ連の映画であるとか、ポーランド、チェコスロバキア等の映画が、一対一であれば相当入ってくると思います。これは共産主義の国だからいやだというけれども、そういう国の映画こそよく見て判断したらいいと思いますので、こういう日本映画界の興隆の一策として、全外国映画とのバーター制度をお考えになってはどうかということを、最初に御質問申し上げます。
  70. 永田雅一

    永田参考人 今田原さんから御質問ございました外国映画の輸入は、年間ここ二年ばかりは、総量で二百本入っております。その二百本の外国映画のうち、百本から百十本程度がアメリカ映画でありまして、あとの百本はヨーロッパを中心としたその他の各国から入っておりまして、本数からいきますと、二百本のうちの五〇%強がアメリカ映画で、五〇%弱がヨーロッパを中心としたその他の国々の外国映画が輸入されておる、こういうわけでございます。御存じの通りバーターでやっておりまするのは、ソビエト・ロシヤは国が経営いたしておりまする関係上、ソ連とアメリカともやはりバーターでやっております。また日本も、たとえばソ連が五本日本映画を買うから、お前の方は五本といかなくてもいいから、せめて三本買えというふうにして、いわゆるバーター的性格で日本も現在ソ連の映画を買っております。でありますから、ただいまの時間では、田原さんから御質問のありましたソ連対たとえばそれ以外の国とは、国営しているところはバーター・システムをとっておりますが、いわゆるコマーシャルで純然たる民間人がやっておるものは、要するに本数の問題でなくて、内容なり、またコマーシャルということになりましたならば、金もうけを主に考えますから、どうしてももうかる写真を輸入したい、こういう関係になって参りますから、きょうただいまの実情では、バーターというものは、国営でやっている国とではできますけれども、民間人がコマーシャル本位にやっているときには、ちょっとむずかしいのではなかろうか、こう思うのであります。  それから、さらに申し上げたいことは、最近日本はここ十年間で、輸出が五万ドルでございましたものが、昨年建三百万ドルをようやく突破いたしまして、本年は四百五十万ドル輸出ができるのじゃなかろうかと思います。御存じの通り映画の場合はロイアリティでございます。輸出の総額の一〇%くらいがフィルム材料費でございまして、九〇%がロイアリティで入りますから、全部が実際の収入になるわけであります。ところが、今田原さんのおっしゃったように、現状の映画界は、ハワイであるとか、南米であるとか、そういうような外国におる日本人相手の映画を出して辛うじて年間五万ドルであったものが、わずか十年足らずで四百五十万ドルまで参りました。この勢いでいけば、一九六五年までには完全に一千万ドルの日本映画の輸出ができるという確信を持っておるのであります。そして、そういう状態のときに、他面テレビの進出が非常な問題になって参りました関係から、今足踏みしておるということは偽らざる実情である、こういうことでございます血
  71. 田原春次

    ○田原委員 次は、私の意見であります。入場税の撤廃に関しまして、この実現策として、少し冗談めいて恐縮ですけれども、私はこういうことを考える。それは、永田社長も自由民主党の熱心な支持者であり、全部の映画館六千五百三十館の館主もほとんど自民党の支持者だと思います。非常にいい政策もありますから、それはけっこうでありますが、今度の問題に限っては、映画館主は、永田さんを筆頭といたしまして、自由民主党脱党というくらいな気持で強く要望してもらえば、入場税の撤廃に近いような結果がくることを私は確信しております。御返事は要りませんが、どうかお考えになりまして、実行策を練っていただきたいと思います。それから、菊田さんには、「がしんたれ」の次くらいは「入場税と自民党」という一幕くらいを作って協力を受ける。そういうことで、一般の入場者が、なるほどそれはわかる、わずか百五、六十億のことだから、これは一つ千億減税の中でやろうじゃないかという決意ができましたならば、私ども社会党はいつでもお手伝いをいたしたいと思います。意見を申し上げて私の質問を終わります。
  72. 足立篤郎

  73. 佐藤觀次郎

    ○佐藤(觀)委員 私も実は中山会長にもう少しおってくれということを言ったのでありますが、都合があって帰ってしまわれましたが、税制調査会答申によるということがいつも大蔵関係の言うところであります。私は映画も演劇も好きでありますが、今の状態だと結局チャンバラ映画と不良映画だけ残るんじゃないかというような傾向が著しくて、最近は映画に行くひまもありませんが、今非常に悪い傾向が出てきたということは、先ほど永田さんや菊田さんがおっしゃった通りだと思うのです。そこで、この際方法として何とか世論の支持というものが非常に必要たということで、先ほど永田さんの説明のあったように、観客は映画館で三割からの負担をしておるというようなことはおそらく知らないだろうと思うのです。そこで、映画館を持っておられる関係で、そういう方法で何か世論的な体系を作ることが必要じゃないか。先ほども委員が言ったように、税制調査会の中に映画、演劇に対して理解のある人が一人もおらぬということが大きな原因だと思うのです。同時に税制調査会の中にも良心のある人もあると思いますから、これは十分に働きかけをしていただきたいと思います。そこで、今の映画が不振だということは、テレビに押される結果だということは、事実でありますが、テレビに押されておるということだけでなくて、税金さえなければ映画産業はうまく成り立っていくのかどうか。これは菊田さんにもお願いしたいと思いますが、そういう点について、税金さえなくなれば実際今の映画がテレビに押されないでいけるかどうかということを、この際伺っておきたいと思います。
  74. 永田雅一

    永田参考人 実は佐藤さんの御質問のうちの前者の方は、三月一日を期しまして、各映画館、あらゆる映画館以外の興業所に全部入場税撤廃のPRをいたしまして、同時にパンフレット等も大衆に渡しておりまして、この三月じゅうは入場税撤廃のPRをやっておりますので、ある程度大衆の方に認識していただけるだろうと思うのです。  後者の場合でありますが、テレビの著しき進出によって映画が圧迫されておるということは事実でありますが、必ずしも全部がテレビというわけではありません。その他の娯楽が普及してきたわけなのでありますが、いわゆる入場税という隘路がございますので、この入場税というものを撤廃していただけば、われわれはもっと合理的なるところの経営方針が立てられ、少なくとも合理的なるところの興行形態が行なわれる。そうすれば、従ってわが映画産業は、百七十億の入場税のうち八五、六%は映画が占めている領分でございますので、それを撤廃していただけば百二十三億です。わずか五二、三十億で現在の映画産業の様相を一変してしまう。おそらく優秀映画を作ると私は思います。今の場合では、業者の反省も必要でありますし、認識不足でありますが、質よりも量で戦っているというのがきょうの現状でございます。きょう日本映画は、まことに恥ずかしいのでありますが、いい悪いは別としまして、年間五百本から五百五十本作っておる。さらにプラス外国映画は今申し上げました通り二百本きておる。合わせて年間七百五、六十本の映画が六千五百の常設館を通じて上映されておる。日本の能力、才能から参りましても、金と設備があったらとれるものではなくて、創作的な仕事でありますから、それだけの才能がございません。脚本がございません。きょう世界一流の核兵器を所有しておる偉大なる国であるアメリカ、ソ連、英国、フランス、イタリア、ドイツ、この強力なる国五、六カ国全部が寄りましても、年間四、五百本内外しかとっていないものを、日本は五百五十本とっている。しかも、一年三百六十五日、映画を見なければ死ぬという極端なファンがあっても、日に二本ずつ見てもなお余る、こういうことなんです。そういうばかげたことをやっているのは、才能が貧弱でありますから、率直にいえば映っているというだけなんです。フィルムがよごれているというだけです。でありますから、そういう状態下におればテレビにどうしても食われるのです。数で勝負すればテレビの圧迫が解消されるという基本的な認識が間違っておる。ところが、そういうことをいろいろせんじ詰めて参りますと、日本映画産業はわずか百億内外の出入り勘定によって健全な映画産業になり得る。それはいろいろございましょうが、主たるものとして入場税をぜひ撤廃していただきたい。一つ一つ隘路を片づけていただきたい。同時に、大蔵委員の方々に申し上げたいことは、今日われわれいわゆるマスコミにおる者の中には、相当良心を持っている者もおります。だから、優秀な映画を作れば、その国の思想、道徳の上においてやはり優秀な文化人ができると思う。でありますから、隘路はいろいろありましょうが、主たる隘路は入場税でございますので、ぜひこれを御理解、御協力願って、立法府である国会においては、政府の啓蒙をしていただいて撤廃していただきたい。繰り返しお願いいたします。
  75. 佐藤觀次郎

    ○佐藤(觀)委員 菊田さんにお伺いしますが、昨年からうちの横山君を通じて演劇界から非常に強い要望があって、入場税の撤廃の問題についてはいろいろわが党においても考えている。国家としては、一方において国立劇場を三十五、六億かけて作ろうと言っているときに、今あなたがおっしゃったように、あれくらいがめつい、そして人気を持ったものが赤字になっておるというのは、非常に矛盾しておると思うのです。そこで、これはむずかしい問題があると思うのですが、たとえば歌舞伎座なんかに行っておられるような人の階級というものに全然入場税を課さないというのは問題があると思うのですが、一般に俳優座とか芸術座とかいう良心的な演劇をやるような人にとっては、入場税はいろいろな点で非常に不便をかけておると思うのです。そういう点について、あなたのお考えは、たとえば歌舞伎座のような、最近あなたのところでもいい俳優を入れていろいろ新しい運動をやっておられますが、私たちは、二百円から三百円くらいの程度ならば、映画というのは、御承知のように何といっても青年の金のない人が見るのでありますが、歌舞伎座のような場合は、私たちは理解がありますけれども物品税のかかっている現在において、簡単にただでしょうということは、いろいろ言いにくい点がありますけれども、その点についてどういうようにお考えになっているのか、この点をちょっとお伺いいたしておきます。
  76. 菊田数男

    ○菊田参考人 今の歌舞伎座あたりに行く観客には、入場税を取ってもいいんじゃないかという仰せでございます。そして、新劇など安い金を払って見に行く人たちには、税を撤廃した方がいいんじゃないかという仰せでございます。ところが、新劇などは、入場料は安いのでございますけれども、これは俳優が出演料を取らないで出ているのでございます。芝居が好きであるために、生きている限りは芝居をやりたいという気持から新劇の舞台に出ておりますので、彼らは出演料を取っておりません。何で生きているかといいますと、それは映画の出演でございます。映画に出演しまして、映画から出演料をもらう。たとえば五十方円の金をもらうといたしますと、大体四割から五割くらいを劇団に納入しているのです。そして映画に出られない人の生活を保障してやって、残りの金を自分たちが取る。そういう工合にしまして、多いところは新劇団は六割でございます。六割を劇団に納入して、そしてほかの食えない役者の生活を見てやっている。相互扶助をやりながら舞台をやっているということでございます。そのために、今度は、たとえば新劇の人たちはテレビにもたくさん出ます。テレビに出た出演料のやはり六割ないし四割を劇団に納入してやっている。そういうふうないわゆる学究的な劇団でございますから、商業映画にはなかなか出られない。それで劇団をやる金をためようというような考え方もあるのだと思いますけれども、そういうふうにして出ておりますので、入場料が安いということであります。しかし、それをいつまでも続けているということは、つまり舞台で活躍することが本来の姿であるにもかかわらず、こう言いますと永田さんの方もちょっとお困りかと思いますけれども、その役者が映画に出てかせいでいるということは、舞台の姿が悪くなるということでございます。過労になりまして、舞台の演技が悪くなる。やはり舞台の役者は、あくまでも舞台で食って、舞台でりっぱなものを見せてもらうということで、やってもらいたいと思うのでございます。そういたしますと、自然に新劇などの入場料なども、実際いいますと、もう少し高くしないと新劇もやっていけないんじゃないかということでございます。それを値段を上げないでいきますには、税を撤廃する。そうすれば、現在の入場料で若干、つまり三割だけ浮いてきて、それが俳優の方にいくかもしれない。あるいは衣装なども自分の衣装を持ってきてやっておりますが、これも、自分の衣装でなく、衣装屋から借りた思うような理想的な衣装をつけて出られるようになるかもしれない。そういうようないい状態になってくるのであります。そういうふうがことがございますので、たとえば歌舞伎座あたりの公演なんかも、これはそれだけの金をかけているので、やむを得ずそういう高い入場料なんでございますけれども、それを見にいく人たちが高い入場料を払ってもいい人であるか、どうかといいますと、案外お金持ちは芝居を見にいきません。それはほかに娯楽があるからだと思うのです。これはどういう娯楽か私はちょっと存じませんけれども、あると思うのです。ほんとうに芝居を見にくる人は、たとえば千円あるいは千四百円を払うかもしれませんけれども、これはたとえばどっかに奉公していて、そして三月目に芝居を見ようというので、毎月三、四百円ずつ貯金をして見に来る人もあろうかと思います。そういう意味で、つまり昔の言葉でいう特権階級が歌舞伎を見ているわけではなく、ほんとうに歌舞伎を好きな人が見ている。それから、もう一つ私が印したいことは、歌舞伎とかそういうものが成り立っていくために、団体を集めて、それをお客にしてやっているのでございます。この団体というものは、芝居を見たくない人に商品を売ったり何かして、それが抽せん券で歌舞伎座の切符が当たると見に来る。われわれの立場からいいますと、これは歌舞伎座さんの人がもしいればちょっと工合が悪いのでありますが、実際そういう人たちには芝居を見てもらいたくない、ほんとうに芝居を見たい人に見てもらいたいと思うのです。そういう意味で千四百円というのは高いかもしれませんけれども、これはそれだけ費用がかかって、それだけ取らなければ成り立たないということで、それだけの入場料を取られてしまう。実際に芝居を見にいく人は、金のある人でなく、あまりないにもかかわらず、つまりそういうぜいたくなものが見たいという人でございます。また、私事を申し上げますと、私子供のとき十二才から十八才まででっちをしておりました。月給が五十銭のときに、芝居が好きで二十銭の劇場へ見にいきました。それから月給が三円になりましたら四十銭のところへ参りました。子供でございますから、半額でございます。西洋映画の高い映画館で特等八十銭でございます。一番よく見られるので、特等で見たいのであります。小人の入場料金四十銭を払って、私は無理をしてそういうものを見て育って参りましたけれども、そういうお客さんが今でも世間に一ぱいいると思うのでございます。そういう意味で、歌舞伎座なんかも同じように撤廃していただければ、ほんとうに芝居の好きな人が喜ぶのではないかというふうに考えるのでございます。
  77. 佐藤觀次郎

    ○佐藤(觀)委員 もう一点、いろいろお話を聞いてみるとごもっともなことで、ただに越したことはないし、われわれもあなた方と同じような意見ですけれども、なかなか大蔵省は財布のひもがかたくて、うしろに並んでおられますが、なかなかうんと言わない。  永田さんにもう一点伺いたいんですが、現在莫大な自然増収がありながら、わずか百億か百五十億くらいの入場税で映画が非常に制約を受けている。同時に、このころ私たち映画を見ないという理由は、やはりテレビを見る関係上見ないというのもありますが、何かそういうテレビに近づくような方法はないか。アメリカも、十年ばかり前に行ったときに、やはりテレビに困ったが、シネマスコープのおかげでどうにか盛り返したという話声開いております。テレビに負けないような方法でやるのには、やはり今の税金を無税にするということ以外に方法はないかどうか、この際一言だけ参考のために伺っておきたい。
  78. 永田雅一

    永田参考人 テレビの圧迫というものを少しでも少なくするということについては、本質的には作品をよくするより仕方がないと思う。たとえば、これも参考ですが、アメリカは、一億六千五百万人の人口に対して、映画館が二万六千館ございました。テレビの進出が激しくて六千館閉館いたしまして、一万館になった。テレビのあるときとないときと比較して、四〇%が食い入られた。それが、一昨年あたりから、シネマスコープからトッドAO、テクニラマ、こういういわゆる七十ミリ映画というものをどんどん出して参りまして、スケールの大きいもので打ち勝って参りまして、ようやく四〇%まで食い入られたものが二〇%までカムバックして参りまして、その当時は五、六百本とっていたものが、アメリカは今百五、六十本よりとっておりません。一つの例を申し上げますと、メトロ・ゴールドウィン・メーヤーという会社が「ベン・ハー」を一昨年とりました。この製作費は、プロダクション・コストといって直接撮影費で、これが千五百万ドルでこしらえました。日本では五十四億。そうして、二年間世界でのフィルム、宣伝費、配給経費をかけますと、二千五百万ドルかかる。あわせてショーウインドーにかざりました商品は四千万ドル。メトロ・ゴールドウィン・メーヤーの会長は私の友だちでございますので、聞きましたところが、六十年前には映画はないのです。六十年来、貨幣価値が違いますけれども、「風とともに去りぬ」というのが四千万ドル回収しました。これがレコードだった。それをパラマウントという会社が「十戒」という映画を作りまして四千六百万ドルで、六百万ドル、レコードを更新した。せめてメトロがこのくらいの程度のを作れればいいと思っておりましたが、驚くなかれ二年間で世界各国から九千万ドル配給収入を回収したのです。これが今レコードです。そうすると四千万ドル、エキスペンスを払って、残り六千万ドルでメトロ・ゴールドウィンが七年間要するに遊んでいける。そのことは私は事実だと思うのです。何となれば、東京で一カ所、大阪で一カ所、これはちょうど今月で一年です。そして名古屋、福岡でちょうど今月で六カ月、四館でロング・ランをいたしまして、四館のメトロ・ゴールドウィンの配給収入は、私想像ですがおそらく九億入ると思います。おおむね二百七十万ドル、その一本のピクチュアで、わずか四カ所で、これはゼネラル封切りで、日本で将来やればさらに五、六億、そうするとこの一本で十五億というものを日本のマーケットから吸い上げられる。そのことは完全に四百万ドルであります。  これは一つの例でありますけれども、少なくともテレビなんというのは、十四インチくらいのところでただ映像されておるのですから、写っていればいい。映画というものは、商業性、技術性、芸術性が三位一体となって映画の娯楽がある。ただ単に写っているというわけにいかぬ。だから、優秀な映画を作るという態勢を整えるのには、今佐藤さんの貰った通り、いわゆる健全経営——マス・コミというようなものは、金もうけをする手段にマス・コミをやる人は私はどうかと思います。金もうけをする手段に新聞をやったり映画をやったり雑誌をやるということは、私は罪悪だと思う。ただし、企業ですから、これは私個人考えですが、企業ですから赤字を出してはいけないけれども、必要以上にもうける必要はない。もう少しマス・コミの事業というものは責任と良心を持ってやらなければならぬと思う。そこで、そういう良心のある企業家なり良心のある制作スタッフが今日のごとく量で戦おうというような態勢では、どこまでいったってテレビというものに打ち勝てない。それにはまず一つ一つ入場税というものをなくしてもらって、それだけのものが要するに潤ってくれは——私は、今回、自分でこういう席上で宣伝する必要はありませんが、私も七十二ミリで日本で初めて仏陀、釈迦というものを今インドで準備中で、制作スタッフがインドに行っております。これで世界を相手にしてやろう。「ベン・八一」と「十戒」を向こうに回してやろう。これが当たることによって、同業者が、やっぱりいいものをとれば当たるのだと思うことを、身をもって実践しなければならぬ。そのことと、私は何でもかんでも自由主義をはき違えてはいかぬと思う。少なくとも今日厚生省が——環境衛生設備ということは、日本の国民の体力ということを考えれば——今佐藤さんが御質問になったから私は申し上げるのだが、野放図に、家庭へ来ればテレビを見ている、映画館で四時間も五時間も興行しておると、私はおそらく十年たったら日本中が全部めがねをかけると思う。(笑声)ものを見ながら——相撲とか野球の場合は、人と話をして気が散って、見ているものはエネルギーは消耗しないが、暗くなって一つのスクリーンに集中したときのエネルギーの消耗、疲労度というものは大へんなものです。これはお医者さんに聞いてもらえばわかる。そういうことは厚生省がやる。だから、厚生省がもう少し国民の健康、体力ということを考えれば、もうちょっと映画の興行者のあり方と国民の体力を保持するということから考えれば名案が出るのではなかろうか、かように思います。
  79. 足立篤郎

    足立委員長 本日は、時間の関係上質問を制限いたしましたので、意を尽くせなかったと存じます。この際、委員長から一言参考人に御要望申し上げたいと存じますが、ただいま御開陳のありました入場税に関する御意見につきましては、その理由もよくわかりますので、私ども委員全員、今後協力いたしまして、御期待に沿うよう努力いたしたいと存じますが、その反面におきまして、永田参考人みずからおっしゃっていらっしゃった通り、最近の映画の中にはきわめて粗製乱造のものが目立つように存じます。ことに私先日偶然の機会に映画館でちらっと見まして、実は憤慨をする前にあきれ返ったわけであります。たとえば、題名はよく覚えておりませんが、あした殺してやるとか、あるいは兵六先生とかいうようなものが堂々と上映されているわけであります。時代の変遷とは申しながら、あまりに社会道義の上から言ってひど過ぎると思うのであります。ただいまお話のありました通り、どうかまじめな御努力によって映画倫理を確立されて、新時代的なりっぱなものを作っていただきたい。これにこたえて私どもも入場税の面では努力をいたしたいと考えておる次第でございます。(拍手)  この際委員長より一言ごあいさつを申し上げます。  両参考人には、御多用中のところ長時間にわたり御出席いただき、御意見をお述べいただきましたことは、まことにありがとうございました。ことに大へんお待たせをいたしまして、まことに申しわけない次第で、重ねておわびを申し上げます。  次回は明十六日午前十時より理事会、十時三十分より委員会を開会することとし、本日はこれにて散会いたします。    午後一時四十六分散会