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春日委員 私は、
山際総裁に対しまして、
公定歩合がこのほど相次いで一厘ずつ二回
引き下げられたことについて、お伺いをいたしたいと思います。
ただいまのお話によりますと、総裁は、この
引き下げは、
金融を
緩和することのためでもなく、また
景気を刺激するというような
目的も考えていない、ただ単に国際
経済の
動向に見合わせるためにこのことをやったたのだが、さて
経済界の受け入ればすなおにそっと受け入れられたものと見なされておるようでございます。かくのごとくに述べられたのでありますが、私はここで若干不安なしとはいたしさないのでございます。ここ数カ年間の
わが国の
経済の
動向と、それから
日銀のとっておられます
公定歩合の上下を通じての
金利政策、これの及ぼす影響、その足取りをたどってみますと、これは今
山際総裁が述べられたような形をとってはおりません。原因と結果とがさまざまに作用しいたまして、はからざる結果を招いて参っておるのでございます。と申しますのは、
昭和三十一年に初めて神武
景気というような言葉ができましたが、その当時
設備投資が過大に行なわれまして、そうしてこのような状態が続くならば必ず外貨の危機を招来するであろう。ちょうど
景気が上昇の一途をたどっておりましたそのさなかにおいて、たしか当時
日銀の調査局長であられました関根君から、いわゆる関根報告というのが出されておりました。そのときは、これはすべからく
公定歩合を引き上げて、そうして
金融を引き締めるにあらざれば、国内において消費を刺激して、そのために輸入の増大を余儀なくして、手持ち外貨の大消耗を来たすであろう。このことは円価価というものを危うくするので、これは、ただいま申されております
通り、
日銀としては、円価値の安定という
至上命令からするならば、この際
公定歩合を引き上げなければならぬ、こういう強い
要請が、たしか
昭和三十一年の夏ごろでありましたか、述べられておったと思うのであります。ところが、当時
政府はそれに対して反対の
意見を述べておりました。私は、
経済企画庁の
景気観測、
日銀調査局の
景気観測、さまざま見ておりまするけれども、結果的には
日銀の
景気観測があやまつところ非常に少なかったと見ておるのであります。そこで関根報告で
公定歩合を引き上げろと警鐘乱打しておった形でございますが、
政府はあえてそのことをなさなかった。そういたしますと、当時外貨の保有がたしか十二億ドルちょっと上にあったと思うでありますが、それが
設備投資、それから消費等を通じましてみるみる減って参りまして、やがて十億ドル台を割り、九億ドルにかれこれ参りましたときに、初めて、時の池田大蔵大臣でありましたか、
昭和三十二年の二月でありましたかに、
公定歩合を一厘引き上げました。それでも効果が現われないというので、五月になって二厘引き上げをいたしました。そして、いわゆる
設備投資の抑制、それから輸入
金融の抑制、そんなようなこともいろいろやりまして、それでも追っつかないというので、その年の予算で議決されておりました財政投融資までも、これは千数百億でありましたか、大なたをふるって実行を見合わせて、外貨の減損を防止することのために非常の
措置をとったと思うのであります。私は、今考えますとき、あの神武
景気のときに、
わが国の
経済がさまざま試練を受けたと思うのでありますが、
昭和三十五年から今にかけて、今やこれが岩戸
景気といわれております。ことしはこれがさらに上回って高天原
景気といわれておるのでありますが、私は前年の轍を踏んではならないと思うのであります。
昭和三十二年の神武
景気から、いきなり、これは
横山君が発明した言葉でありましたが、仁徳不
景気に直線落下いたしまして、それからしばらくなべ底
景気が続いて、国会においてはなべ底論議がかれこれ一年も続いたということは当然総裁御
承知の
通りであろうと思うのであります。そして、今
金子さんの御報告の中にもありましたが、
銀行の
貸し出しが現実に急増いたしておる。それが
設備投資を
中心としながら、それに対するさまざまな原材料をまかなうことのために、さらに随伴いたしまして、運転
資金の融資もこれまた激発をいたしておる
状況であるといわれておるのであります。しこうして、もう一つの要素は、本
年度の積極予算、かれこれ七千億になんなんとするところの財政投融資、こういうものを通じて大きな消粍があろうと思うのでございます。これは限界輸入性向が本日の時点でどの程度のパーセントテージを占めておりますか、
日銀では当然御計算になっておるでありましょうが、いずれにしても、こういうものと、それから膨大な財政投融資が、市中
銀行からのこれまた
設備投資を誘発するでありましょう。このことから来たるところの外貨消粍というものを一体どのように計算をされておるのであろうか。本
年度から少なくとも来
年度にかけまして、
為替・
貿易の
自由化によりまして、それを大胆にやってのけようと
わが国が
政策として決定いたしておりまする限りにおいては、輸入超過のことがあってもよろしいという腹がまえの上で、この方式に踏み切っておると思うのであります。
そういたしますると、私が今申し上げたいことは、集約いたしますると、片方においては積極予算、積極財政投融資、それに随伴するところの、現実にその徴候を現わしておるところの過大なる
設備投資、
銀行貸し出しの急増、これがあり、片方には
為替・
貿易の
自由化に伴うところの外貨の減損を見越していかなければならない。そういうようなものをにらみ合わせまするとき、かつてわれわれがやったことは、すなわちあなた方がやられたことは、
昭和三十二年にはこのような時点において何をやったか。
日本銀行は、
公定歩合を引き上げることによって、
景気の引き締めをやった。すなわち、とにもかくにも輸入を抑制したり、物資の消粍を来たさないことのために、さまざまな
経済活動を抑制いたしました。ところが、現在あなたの方がおやりになったことは、まるっきりそれとは逆であって、これは
金融を緩慢にする意図でもないし、
景気を刺激する意図でもないとは言うてはおられまするけれども、現実に
公定歩合が
引き下げられれば、伝えるところによりますと、この四月からは
預金金利も下がってくるのでありましょう。貸出
金利もそれぞれどんどん下げられつつあるようでありますが、これは
景気を刺激せざるを得ない。
設備投資を刺激せざるを得ない。消費ブームはさらに高まってくると私は思うのです。だから、かつてやったことと今回やったこととが、同じような
経済背景の中において全然逆のことをやられて、なおかつ
日本銀行に課せられておる
至上命令である円価値の確保、この使命をはたして全うできるかどうか。私はこの点若干の危惧の念を抱かざるを得ないのでございます。従いまして、この際総裁からお伺いをいたしたいことは、あのときはああなったのだが、このときはそういう心配の要素が絶無である、こういうことを、われわれがよく納得できるように、一つごうんちくを御披瀝願いたいと思います。