○
野口参考人 私は
日本炭鉱労働組合の副
委員長の
野口一馬であります。
指名により現在
審議中の
石炭関係諸
法案についての私
どもの
考え方を申し述べます。
炭労としては、これまでもこの種の
機会に幾たびか繰り返し、繰り返し主張して参りました
ように、現在の
政府並びに
石炭経営者の進めておる、進歩性のない
炭鉱合理化政策につきまして、反対の立場に立っております。その理由といたしましては、この
ようなやり方では
労働者に対してきわめて苛酷な犠牲を負わせるのみであって、
石炭産業の危機は何ら克服されないばかりか、逆に衰退させるということでありました。その後二年間にわたる
合理化の経過を見ますと、私
どもの見解がいかに正しかったかということが事実として明らかになっております。すなわちこの間、二百に及ぶ
炭鉱が休
閉山のやむなきに至っております。
大手炭鉱を初めほとんどの
炭鉱において、相次いで大量の首切りが強行され、
石炭産業を追われた
労働者の数は、すでに六万三千人に達しております。これらの
労働者は、その大部分が失業保険が切れてもなおかつ再就職の
機会を見出すことができないまま、飢餓寸前の生活を送っております。
炭鉱離職者援護法は何の実効も上げていないといっても過言ではありません。死の町、飢餓の谷といわれた
炭鉱地帯の窮状は、何ら打開されていないのであります。一方、残った
労働者はどんな状態に置かれておるでありましょうか。人員不足のまま過酷な労働強化による増産
体制がとられております。設備の近代化に真剣に取り組もうとしない経営者のもとで、年間五千四百万トンの出炭が六万人余の
労働者が減少した現在なお維持されているのであります。一人一カ月当たり出炭高は、十五トンから二十トン以上に飛躍的に上昇いたしました。これはまさに労働強化の結果であります。先般相次いで惹起した豊州、上清、大辻などの各
炭鉱における重大災害ほど
炭鉱における労働強化、経営者の設備の怠慢を雄弁に物語るものはありません。ここで私
どもの最大関心事である災害について特に申し上げますと、
炭鉱における災害率は他
産業の三倍から四倍という高率にあり、毎日二、三人が死亡し、二百人が負傷するというありさまであります。特に問題なのは、合理下の名のもとで災害が漸次増加の一途をたどっている事実であります。昭和三十四年に五百七十八人であった死亡災害が、三十五年には六百十七人に増加いたしております。
炭鉱労働者の絶対数は大幅に減少しているのでありますから、率としてこのことを
考えてみますると、いかに災害率が高まっておるかということが明らかであります。
もう
一つの問題は、大幅賃下げが次々になされていることであります。三十八年まで千二百円のコスト・ダウンの主要な手段として、残った
炭鉱労働者は一人当たり月額五千円から七千円の賃下げを押しつけられております。杵島
炭鉱のごときは実は一万円の賃下げを
提案、経営の怠慢を隠蔽し
ようとしております。
大手十四社中十社がこの
ような悪質な手段をとっており、
石炭産業では、池田内閣の
経済成長を基調とした所得倍増政策に、まさに逆行するムードが横行しつつあるのであります。このことについて特に
委員各位の注意を促したいと思うところであります。また第二会社化、租鉱権
炭鉱の新設、系列
中小鉱の造成など低賃金労働だけを
目的とする
中小炭鉱が、片方でつぶすそばから次々と作り出されておるわけであります。
以上、申し述べて参りました
ように、飢餓、低賃金、労働強化、災害と私たち
炭鉱労働者は言うに言われぬ辛惨をなめ続けておるわけであります。最近の相次ぐ
合理化についての争議は、この
ように追い詰められた私
どもの必死の抵抗であります。この
ような犠牲が強要されるならば、私たちは組織の総力をあげて抵抗せざるを得ませんし、絶対反対せざるを得ないわけであります。
では、どの
ようにして一体
石炭産業の危機は克服されたでありましょうか。将来の新しい展望を見出したといえるのでありましょうか。断じてそうではありません。
事態は逆であります。
石炭産業の矛盾は、一そう積み重ねられたにすぎないといわざるを得ません。首切り、賃下げ、労働強化に狂奔する
炭鉱経営者は、技術の近代化に対して全くといってよいほど熱意を持っておりません。私
どもの指摘している総合的な
エネルギー計画と
石炭産業の安定操業計画の樹立、技術の近代化、
鉱区の整理統合、
離職者の生活保障、
競合エネルギー対策、流通機構の
整備などの諸
施策について見るべき努力は、何ら払われていない状態であります。
以上、
炭鉱合理化が何をもたらしたかについて、私
どもの
考え方を申し述べたわけであります。
では本論に入りまして、本日私に
意見を求められております諸
法案について、ただいまから見解を述べることといたします。
これら諸
法案中、
内閣提出にかかわる
合理化法の一部
改正、
産炭地域振興法案、
鉱害復旧法の一部
改正は、いずれも今の
石炭政策の路線に沿って出されているものであり、その限りにおいて私
どもといたしましては絶対にこれを容認することができません。
次に、
社会党提出にかかわる
石炭鉱業安定法案並びに
産炭地域振興法案につきましては、私
どもの見解並びに要求とほぼ合致する内容を持っておりますので、賛成であるということを、まず冒頭に明らかにしておきたいと思うのであります。
以下、その理由について、これまで申し述べて参りましたことと若干重複いたす面もあるかと存じますが、具体的な問題に触れながら申し上げて参りたいと思います。
第一に、総合
エネルギー計画並びに
石炭産業の安定操業計画の樹立についてであります。
政府、
炭鉱経営者は、今後の国内炭
生産規模を五千五百万トンに押えるという基本計画を立て、所得倍増計画の中においても、あるいは十年後においても、とにかく何が何でも五千五百万トンに押えるという立場をとっております。そして
エネルギー総
需要の伸びは、
重油を中心とする輸入
燃料に依存してまかなっていこうというのであります。私
どもは一国の
産業の基礎である
エネルギー源を輸入に待つという政策について、根本的な
検討を要求いたします。
わが国の
石炭は、今日の出炭ペースで進んでも、なお百年以上の確定炭量を埋蔵しておるといわれております。
国際収支に
弾力性が少ない
わが国においては、まず
国内資源の完全利用が前提であり、安いからということだけで国外に
エネルギー源を求めるということは、根本的な誤りと言わなければなりません。しかも現在
石炭需要は旺盛をきわめ、年間六千万トンに達しております。そのため
生産が追いつかず、
石炭不足の様相を呈しておるのであります。今の縮少もしくは横ばいという
政府並びに
炭鉱経営者の将来計画は、すでにそごを来たしていることを指摘しなければなりません。また私たちが主張する近代化による拡大
生産が可能であり、かつ正しい政策であることも明らかであります。この面からも私
どもは、
社会党の
安定法案が指向しておりますところの
国内資源の積極的利用の立場と、
石炭の拡大
生産を前提とした安定操業計画の樹立を支持するものであります。
第二に、技術の近代化についてでありますが、この点についてはまず
政府、
炭鉱経営者の熱意のない態度について猛省を促したいと思います。わずかな
資金融通による細々とした今の近代化計画では、
炭鉱の若返りは不可能でありましょう。特に問題としてあげなければならないのは、現在
石炭各社が年間六十億円に近い
資金を社外に投資している事実であります。この額は国家
資金の投入額を上回っております。せっかく
政府が金を注ぎ込んでも、何のことはない、
石炭企業をパイプとして、
石炭産業以外の部門に流れてしまっているわけであります。私
どもは
石炭会社が観光事業を始めた、不動
産業を始めた、はなはだしきは石油精製事業に乗り出したなどという事実を知っております。また昨年秋の北炭三山の分離に見られた
ように、設備投資ができないから、第二会社に落とすという
ようなことが、どんどん行なわれ
ようとしております。設備投資を行なわずしてどうして
炭鉱の近代化ができましょうか。技術のおくれた、低賃金のみを武器とする劣悪
炭鉱が、当然の
炭鉱経営の認識をもって
大手を振って横行し
ようとしております。一体これで
石炭産業が
合理化されたと言えるでありましょうか。まさに非
合理化といわなければなりません。現在の
合理化政策はこの
ようなことを黙認しているばかりか、助長しているとさえ言えるのであります。私
どもは安定法にあります
ように、必要な
企業に対しては国家
資金を思い切って投入するとともに、これが正しく近代化に使われ、他に流用されることがない
ように、厳重な監視のもとに抜本的な
炭鉱技術の近代化をはかる必要があると
考えております。
第三は、
鉱区の問題であります。現在の
日本の
鉱区は
大手十二社が全体の八八%を所有しており、そのうち巨大三社が全体の四五%を占めるという
ように、私
企業の独占所有となっております。これがため、たとえば縦坑を一本掘ればいいのに二本掘るとか、優良炭層が取り残されるとか、むだな二重投資が行なわれ、資源の完全利用ができなかったり、いろいろな面からコスト高の原因となっております。コスト
引き下げのためには
生産体制の集約化、
鉱区の総合的、計画的
開発がきわめて重要な意義を持っております。従ってその障害となっておる
鉱区の私的独占を排除し、整理統合を断行し、
炭鉱を適正規模に再編成するとともに、休眠
鉱区の解放が緊急な課題であります。フランスの
石炭産業も戦後、今日の
日本と同じ
ような窮状に追い込まれて参りました。その中で
鉱区の独占を排除するとともに、総合的
開発によって将来の展望を得ることが可能になったのであります。
政府はこの問題について
企業間の自主的
調整に待つとの方針でありますが、
鉱区独占の上にあぐらをかき、うまい汁を吸ってきた
石炭大
企業にまかせておいたのでは、百年河清を待つ
ようなものであります。法の強制力による以外にこのことは達成不可能であると
考えます。この点について私
どもは
安定法案に盛られた内容を支持するものであります。
第四に、労働不安の除去についてであります。初めに触れました
ように、
炭鉱を追われた者も残った者も過酷な犠牲をしいられております。私たちはこの
ようなやり方には人間として生きる権利を守るために抵抗せざるを得ないということを明確にしておきます。特に
離職者対策については全く何の保障もないと同然であります。イギリス、フランス、西ドイツ等の西欧諸国におきましては、完全な社会保障が確立されておるということが、
合理化審議会中立
委員の土屋清、
稲葉秀三氏らの帰朝報告によって明らかにされております。いかなる理由があろうとも、人間の生きる権利を踏みにじることは許されません。私
どもは完全なる
離職者対策の確立をこの際強く要請いたすものであります。
第五に、
競合エネルギーに対する
対策であります。現在
重油等を中心にした
政府のとっておるやり方は、全く無計画なもので、容認していること自体に誤りがあります。西ドイツにおきましては高率の関税をかけ、それを
炭鉱の近代化と
離職者の救済費に充てておる
ようであります。
日本においては関税はきわめて低率であり、しかもそれは特に
炭鉱合理化に使われるということにはなっておりません。西ドイツのとっている
ような一石三鳥ともいうべき
施策を
参考に、
日本でも確固たる
競合エネルギー対策を樹立すべきであります。
第六に、流通機構の
整備について申し上げます。
石炭合理化審議会で私たちは流通機構の一元化を強く主張して参りました。千二百円のコスト・ダウンは流通機構の一元化をはかることにり大半以上
引き下げることが可能であるという見解を持っております。また皆さん方も御存じの
ように、販売関係におきましては、各社が大都市、中都市までほとんど
炭価の秘密性の上に立った競争を行なって、そして
需要供給の状態を見て故意に
炭価をつり上げておる事情等がございます。現在東京で家庭
燃料用炭のトン当たりの
価格を調査いたして参りますと、
委員各位は御存じでありましょうが、実に一万三千円もしておるという事実があります。山元では四千円そこそこの
石炭を掘って出しておるのにどうしてこんなに高くなるかということについて、いかに流通機構の中において、
炭鉱で働いておる
労働者の苦労を認識せずして暴利をむさぼっておるか。複雑多岐にわたる流通機構を十分
検討していただきたいと思うのであります。外国においても流通機構の一元化を、フランス中心にして
価格の公表
制度を持って、そして
国民に納得のいく
価格で家庭用炭の販売等を中心になってやっておることを認識していただきたいと思うのであります。われわれは今後
石炭を安く掘ろうという努力を行なって参ります。その成果が流通機構の中で十分認識されて消化をされない限り、
石炭産業に対する
国民の認識が誤りの方向をたどるであろうということも明らかであります。こういう
観点に立って、新
需要の開拓とともに、
石炭合理化審議会の
審議の過程と現在の状況等を十分
参考にされて、本
委員会において深く掘り下げていただきたいと思うのであります。
第七に、
産炭地の
振興についてであります。
政府の
産炭地振興法は予算の裏づけを持っていません。これから調査をしていくということで、三千万円の調査費のみが計上されております。筑豊地帯を初め
産炭地域の窮状は、今に始まったことではありません。社会問題となってからすでに十年間の歳月が流れております。あすではおそ過ぎるということであります。おそくとも、緊急にこの問題に取り組まなければならないときに、私
どもは特に
政府の怠慢を非難せざるを得ないとともに、現在の政策に心から憤りを感じておるものであります。
また
政府は
産炭地を
考える場合、行政区画を単位として
考えるということの
ようでありますが、
経済生活の単位は必ずしもそれと一致しておるものではありません。隣接
地域についても何ら考慮されてないことを問題点として指摘したいと思うのであります。また
産業地域のすべてが
対象でなく、一部特に貧困な
地域に限定されていることも問題であります。
政府提出の
産炭地域振興法は、全く出まかせであると言わざるを得ません。
以上、幾つかの問題点について
考え方を述べて参りました。結論的に申し上げますれば、何よりも現在の
合理化政策の基本を改めることが先決であります。先ごろILOの
石炭委員会におきまして各国代表より、
日本の
ように予算
措置はしても、具体的な計画の裏づけのないものでは実質的な
効果を上げることはあり得ないということを強く指摘されておるわけであります。私
どもも同感であります。それと、現在の政策を
考えてみますると、それは政治的ではないと断言せざるを得ません。少なくとも今次国会においては、
政府から当面の危機突破
対策について、具体的な
提案がされるものと期待しておりました。しかしこれまで何ら新しい
提案もなく、私
どもは全く失望せざるを得ないのであります。私
どもといたしましては、今回
社会党が
提案いたしました
安定法案が当面の危機突破並びに将来の
石炭産業発展の方向を計画的に示すものとして、ぜひとも今国会において超党派的な立場で、
委員各位が成立に努力されんことを強く要請いたすのであります。
なお最後に、
炭鉱労働者並びに
炭鉱地域の窮状を思うや一刻の猶予も許されない状態にあることを特につけ加えまして、私の公述を終わります。舌足らずの点、その他の点につきましては質疑応答の中でお答えすることにいたしまして、皆様方の長時間の御清聴、ありがとうございました。
以上をもって終わります。(拍手)