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稲岡参考人 今回
政府におかれましては、最近のわが国の
工業拡大並びに
工場の急激な新増設の
動向に対しまして、あくまでも
適地適産の原則に基づいて
工場の
合理的立地を推進するために
工場立地の
調査等に関する
法律の一部を
改正する
法律案を提案されたのであります。
さて、この
改正法律案につきまして、その
改正の
主眼とするところを概括的に推測いたしますと、従来としてもすでに法の示す
趣旨に基づきまして、
全国にわたる
工場適地の
調査、
必要資料の収集、提示、あるいは
企業者に対しての
種々の
助言等も行なわれて、
工場の合理的な
適正配置についての努力はされて参ったのでありますが、しかしそれは単に
助言、
指導等の域にとどまりまして、それ以上の
積極的措置には進み得なかったのが
実情でございます。
それを今回の
改正案によりまして、あるいは
調査の
範囲を拡大し、あるいは従来の
助言の上にさらに加えて
事前届出とか
勧告、
報告等の一連の
措置をとることによって、
工場立地の
適正化実現の方向に、さらに一段の前進をはかられているのでありまして、今日
特定の
地域に対する
工場の
過度集中が問題となりましたり、あるいは無
計画な
工場配置に対して警告がなされつつあるこの情勢に対処するには、まことに時宜を得た適切な
措置であろうと存ずるわけであります。
次に、本
改正法律案の
改正の
主要点、二、三に触れて一応の
意見を申し述べたいと存じます。
その第一といたしましては、本
改正案におきましては、従来の
工場適地等の
調査の上に、さらに
工場立地の
動向の
調査が新たに加えられました。その
調査官が相当細密に行なわれることになっておりますとともに、それが第四条に
規定されているところの「
工場立地に関し
事業者の
判断の
基準となるべき
事項の公表」の
資料ともなって、
事業者に対する啓発、
誘導の道が相当大きく広められることになっておりますし、さらに第五条に
規定する「
工場立地に関する
助言」をさらに一段と意義づけ、力づける契機ともなっているのでありまして、これはまことに適切な
措置であると存じております。
私
どもの
加古川市における例によって申し上げますと、
昭和三十五年当初から今日までに約一カ年の間に新しく
誘致あるいは増設いたしました
大小工場が合わせて二十一に上っておりますが、さらに現在
用地折衝中のものが数件ございます。さらにまた
希望申し出のものが十数件を数えております。これらの
誘致折衝の過程におきまして強く感じましたことは、
工場立地に関する適正な
調査が非常に不十分であることと、従ってまた
事業者の
判断の
基準が、きわめて不明確であることが多いということであります。たとえば
用地確保にあたりまして、
用地の価格の高低のみが強く問題視されます割に、その業態に適した
要件を具備したところの
用地の
選択というふうなことに、案外意を用いられないという事例が多く見受けられるのであります。今次の
法律の
改正によりまして、これが適正に運用される場合は、これらの誤りが著しく是正されることになるのではないかということが期待されるわけでございます。
第二といたしましては、第六条に
規定されておる
工場設置前における
事前届出の点であります。これは申すまでもなく、
現下経済機構のもとにおきまして、
事業者の設置せんとする
工場について、
場所の
選択あるいは時期の決定、
規模の
大小等に至るまで、他からこれを規制するがごときことは、当を得た
措置ではなくて、できる限り当事者の
自主性を尊重すべきは申すまでもありません。しかし中には、現在の
工場新設ブームに動かされて、今直ちに
新設あるいは拡張の見込みも
計画もなくして、ただ一応
用地だけを確保しておきたいなど
考えるものもないわけではありません。あるいは地価の
値上がり等を見越して、必要以上の面積を買収しておきたいと
考えるものもあるわけであります。しかしかかることは、
立地の
適正化を阻害すること人なるものでありまして、このような不当な行為を
事前に排除して、
適正立地の
実現を期するためにも、この
事前届出の
措置は必要なことと存ずるわけであります。
ただしかし、
加古川市の実例をとって申し上げますと、
改正法律案に
規定されておりますところの、敷地九千平方メートル以上の
規模の
工場は、現在私
どもの方で
誘致決定いたしておりますところの二十一件のうち、十四件を占めておるわけであります。すなわち
新設工場の大部分がおおむね
規定の
特定工場の部類に入ることになっておるわけであります。従ってそれらがみな所定の
届出を了し、
調査を完了するためには、
全国的に
考慮した場合には相当の時日を要したり、あるいは著しく
処理が遅延して、
立地上
種々の支障を生じはしないかということを憂えておる次第でございます。そのようなことによりまして、有意義な
規定が形式化し終わることのないよう、むしろ
事前届出によって
立地措置が促進されることが望ましいのでありまして、これは運用上十分の留意を願いたいと思う次第でございます。
次に第三といたしましては、第九条に
規定しております
勧告の点であります。第六条第一項の
届出に基づきまして、その事情が著しく適正を欠くと認められた場合は、
工場設置の
場所に関し必要な
事項について
勧告することとなっておるのでありまして、この点は
改正法律案の最も顕著な
一つの
改正点でもあるわけであります。すなわち従来の単なる
助言や
指導の
立場を一歩進めて、強い
意思表示をすることとなっておるわけでありますが、これについては違反に対する罰則もなく、従って
強制力は薄いわけでありますが、
現下経済機構下におきまして、各
事業体の
自由性を
考慮した場合は、まずこの
程度にとどまることもやむを得ないかとも
考えるのであります。ただ一例として、ある
新設の
工場が
立地上
必須要件として予定しておる
地域に、他の
工場との
競合関係が生ずるに至ったような場合、これが
解決措置は、実際上なかなか容易のことではないのであります。かかる場合の
勧告については、相当の強さを必要とするわけであります。従ってこの
勧告が常に厳正にして、しかも的確に行なわれて、あくまでも
改正法の
趣旨を確保するよう念願してやみません。
以上、
改正法の要点二、三について一応の
愚見を申し述べ、かつその
改正法案について一応
賛意を表するものでありますが、さらにこの際多少本旨から離れるかとも存じますが、関連的に御
考慮を願いたい一、二の
事項について申し述べさせていただきます。
今回のこの
改正法案は、要するに
工場が
特定地域に
過度集中することを防止することを
主眼としたものでありまして、いわば
工業地帯開発ということについては、きわめて消極的な
立場に立っておるものと思うのであります。私
どもの
関係しております
加古川市を含む
播磨地域におきましては、
昭和三十二年に
工業地帯としての
指定を受けまして以来、何とかして
計画性の高い節度のある新しい
工業地帯としての
開発を期して、相携えて努力しているのでありますが、今日においてある
程度の目標をつかむことができたかという感がいたしております。しかし真の
工業地帯としての実態は、ほとんど今後のことに属しておるのでございます。さような最も苦しい
開墾期をようやく
通り越して、重要な
播種期あるいは
発芽期を迎えたこの
播磨工業地帯をも、この
法律に基づく
特定地域への
工場集中回避という施策の余波のもとに、今後の
発芽成長が中絶のうき目を見るような事態に立ち至らぬよう、くれぐれも御
考慮をいただきたいということでございます。ことに
工場立地の
適正化と申しましても、その関連するところはきわめて
広範多岐にわたりまして、道路問題、港湾問題、住宅問題、用水問題、
下水排水の問題、学校問題、農地転用問題、あるいは
農業者の転業の問題、
地帯整備や、
都市改造の
問題等、あらゆる
地域的、社会的、文化的な問題が山積しておりまして、しかも多くは
事前にか、あるいはまた
立地に並行して
処理解決しなければならない
実情であります。さらにそれに伴う財政的な
苦悩は容易ならぬものがあるのでありまして、現在私
どももその
苦悩をつぶさになめつつある
実情であります。従って今後さらに引き続き
工業立地あるいは
地帯開発等に関連して制定される
法律、政令について、あるいはまた
行政措置等に際しまして、さきにあげた幾多の
関係事項について
関係方面において十分に御調整をはかっていただきまして、しかもでき得る限り総合的な、関連的な姿において一体的に御
処理をいただきたい旨をお願い申し上げ、この
法案につきましては
賛意を表しまして、私の
愚見を終わらせていただきたい、かように思います。