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加藤説明員
ニトログリコール中毒につきましては、新しい
職業病でございまして、従来
わが国においては見られなかった現象であります。最近というか、
昭和三十二、三年ごろから、ダイナマイトを製造いたしまする場合におきまして
ニトログリコールを使用するようになって、だんだんその使用量が高まって参ったというような
事情であることは事実であります。従って従来ニトログリセリンにおきますものは蒸発が非常に少ないために、ガスとして吸入することがあまりなかったので、そういう
症状は見られなかったのであります。
ニトログリコールにおきましては、ガスになりますのがニトログリセリンに比べまして数倍、あるいは数十倍に及びますので、そういう点、ガス吸入が多かったということになったものだと思います。先ほどお話のありましたようないろいろな
症状でございますが、まず、初めにおきましては、頭痛とかあるいは目まいとか嘔吐とか、さらに腹痛を覚えたり胸しぼりを感じたりしますが、重症になりますと、主として狭心症様の
症状が
発作的に起こって参ります。あるいはまた手足がしびれる場合もあるのでございます。従いまして、そういう問題が最近になりましてからようやく明らかになったのでございます。その間におきまして、こういう疾病が存在するということはあまりはっきりしなかったのでございます。三十三年におきまして北海道において基準局から一応調べたことがございますが、そのときには何らの
症状も見られませんでした。これはまた同時に会社の事業が始まったばかりでございましたので、そういうものが見られなかったというのでございますので、そのままにして捨ててあったということでございまして、この問題のきっかけになりましたものは、
昭和三十五年の九月下旬におきまして、宮崎局の旭化成におきまして発生いたしました
ニトログリコール中毒でございます。その速報を受けましたので、直ちに、その
ニトログリコールを使います事業場の調査をいたしたわけでございますが、現在
ニトログリコールを使用いたしております事業場は、これはダイナマイトの製造のために使っております三社四工場でございまして、そのほかのところは使っていないのでございます。この三社四工場についての調査をすることが必要であるということになったわけでございます。従いまして、同九月になりまして
ニトログリコールを取り扱います事業場を管轄いたしております四局に対しまして、
ニトログリコール中毒の現状の調査を指示いたしたわけでございます。そして、早急にこの問題の手を打たなければなりませんので、十月の七日になりましてから、
ニトログリコールの
中毒予防に関する通牒を出しまして、その
ニトログリコールのガスの発生いたします
作業について、健康
診断をやるとか、測定をやるとか、保護具を使うとか、あるいは環境
改善に対する考え方を明らかにするというようなやり方で、その指示をいたしたわけでございます。それから十月の七日と十二日になりまして、その一番近いところであります愛知の
日本油脂武豊工場に、衛生研究所と
労働衛生課との共同で実態調査をいたしまして、その
作業工程あるいはそれに従事いたしております方々の実態とか、あるいは一部血圧の調査とかあるいは血液の調査、尿の調査というようなことをやって参ったのでございます。しかし、この疾病につきまして客観的な証明というようなものについては、医学的な面におきましては、なかなかこれといってつかみどころのない非常に特徴の少ない疾病でございます。そういう点で、
診断なるものにつきましては従来苦労していたと思いますし、またその点について今後研究が必要だろうというようなことが出ました。特に血圧につきましては、若年者に対します血圧と高年者に対します血圧の上昇というものはあまり著明に現われていない。すなわち、年令によります血圧上昇というものがある正常人につきましては存在するわけでございますが、この場合におきましては、血圧が降下するというような作用がございますので、高年者に対し、まず血圧の上昇というものがないという特徴がつかめたのでございます。同時に、各国におきます
ニトログリコール中毒というようなものを調査いたしましたところ、各国におきましても同様の
症状を呈するものが過去にあったという例がございますし、先ほど御指摘になりましたように、その先の転帰をとるような場合におきましては、月曜日になくなるという特徴がございますので、そういう点は、各国にあります
ニトログリコールの
中毒と
わが国において見られました
ニトログリコールの中庭と全く同じような形をとっているということが明らかになりました。なお、西太平洋地域の合同専門家の会合、ゼミナールがございましたときにも、
日本にこういう
症状の者があるということを発表いたしましたら、そういうことにつきまして、
外国にも同じようなことがあるのだということで、大体各国において
ニトログリコールの問題点としてそういうものが存在するということが明らかになって参ってきておるのでございます。
十一月の三十日になりましてから、中央
労働基準審議会におきまして
ニトログリコールについて検討をすることが決定いたしました。その後十二月八日になりまして、
ニトログリコールの
中毒対策のための中央
労働基準審議会の衛生部会が開催され、その後十二月十五日に第二回の専門
委員会が開かれ、そして、火薬方面の方あるいは施設
改善の仕事をやっている方、あるいは医学君というような方にお集まり願いまして、専門
委員会を開いて参っております。そして、さらに、十二月二十日には
労働基準審議会の衛生部会を開催いたしております。二十二日には中央
労働基準審議会を開きまして、十二月二十八日に最後の衛生部会を開きまして、
ニトログリコールの予防に関します緊急措置の建議に対します答えといたしまして、緊急措置を作りたわけでございます。それには
ニトログリコールの配合率、火薬製造の面からいたしまして、あるいは冬季におきます凍結の問題というようなことを考えまして、火薬学者の御意見といたしまして、四〇%というところの一つの数字が出ましたので、その四〇先以下になるようにするということをいたしました。
それから、健康
診断の項目を示しまして、どういう検査項目を用いていくことが適当であるかということでございます。たとえば血圧をはかるとか、尿の量を測定するとか、あるいは尿の蛋白を見るとか、赤血球あるいは白血球の検査並びに血色素の調査あるいは心電図をとって心臓の異常
状態を発見するとか、そういうような検査項目を作成いたしまして、それに従って検査をすること。それから環境
改善につきましては、各
作業別の換気に局所排風機を用いるとか、あるいは排風機を用いるとか、あるいは防毒マスクによります保護具を使うとか、そういうような
作業の問題を取り上げまして、それについてそのことを考えるようにする。さらに保護具の使用につきましてもその問題を考えていく。と同時に、測定についても、まだはっきりいたしておらない点がありましたが、一応、われわれとしても使用できる方法でありますグリース試薬法を用いまして、ニトロ基の訓育をいたしていくということでございまして、その
中毒の原因になっておりますニトロ基の問題が大きく取り上げられましたので、そのような方法をとるということをいたしております。これらによって、三月末日までにそれらの事柄についての緊急
対策を完了するように、それから健康
診断をする、あるいは測定をするということを命じて参ったわけでございます。そして、十二月二十八日にそのことを通牒いたしまして、一月早々からその事柄について各社ともにやっていただく。やってもらうと同時に、基準局から監督官が出向きましてその実施状況を調査するということにいたして参っております。
その結果、全体といたしましてはこちらの指示の通りに努力いたして参っておりまして、健康
診断測定あるいは環境の
改善等につきましても、こちらの指示通りにやって、三月末日までにほとんど完了いたしております。ただ、一部において、新しい機械を購入しなければならぬところについては多少のおくれがあるということもございますが、そういう点で完了が待たれておるわけでございます。
そして、さらにこちらといたしまして考えて参りますことは、今後におきまして緊急
対策よりもさらに恒久
対策と申しましょうか、もっと恒久的な面につきましてやらなければなりませんので、その間において専門委員の方に各工場を全部回ってもらって、実際に測定し、あるいは患者のいろいろな問題についてお聞きをし、それから換気とかあるいは防毒マスク、そういうような保護具、環境
改善につきましての実際面に合うものをどうするかということを検討いたして参っておるわけであります。従ってそれらの方々の調査をいたしましたものを取りまとめまして、二月の二十四日に第一回の打ち合わせ、その後数回にわたりまして打ち合わせをいたしまして、現在のところさらに恒久的な施策といたしまして緊急
対策でやりましたものを手直しをしたものについて大体の成案ができておりますので、今月の二十四日でございますか、今月の衛生部会あるいは
基準審議会の方にかけて最後の決定を見ていきたいと考えておる次第でございます。