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田口参考人 第二回目の口頭弁論の期日がさらに参りました。その期日までの間に、
上野氏はさらに私の事務所に見えました。そしていわく、
法務省の方が、もしこれが
交換できるならばあっせんの労をとってもよいというような意向である。相手は何と言っても信頼できる
法務省の方々が言われることであるがゆえに、
自分は紳士的に考えて、そうすればかえって好意を持ってくれるだろうと、かように私は信じておる。おそらく間違いがないと思うから、どないぞして取り下げて、
交換してやってもらいたいという、こういう申し出であったのです。しかしながら、私は、
弁護士といたしまして、また良島氏の
代理人といたしまして、さような根拠薄弱なことのみによりまして、直ちに
上野氏の言を信じまして、この
仮処分を取り下げるということは、どうしてもできない。そこで
上野氏にその点を、そんな頼りないことでは困るじゃないかということで、私は詰問いたしました。
上野氏が今言われたその程度では、私は断じて取り下げに応ずるわけにいかない、かように申したのであります。そのときに
上野氏は、私に耳打ちをせられた。その意味は、実はこれは固く禁じられておるのだ。がしかし、
土地が
交換になれば、
上野氏にその
土地を、
自分に
延原氏から譲渡するように必ずするという約束をしておる。だから、決して間違いないから取り下げてくれ、こういう申し出がありました。そこで私は、さように固い約束が成立しておるのならば、法廷和解をしたらどうか。その法廷和解は、すなわち
延原氏と
上野氏との法廷和解、またはそこに良島を加えた法廷和解を主張したのであります。そうすれば、
法務省が口外をするなと禁じられておるその点も、
法務省の名前を出さずして事が済む。そうしてこちらの方の
依頼の目的も達し得る。こう思いましたので、その法廷和解を私は進言いたしたのです。ところが、これに対しまして
上野氏は、そういうふうにしますると、事がさらにめんどうになるおそれがある。だから、おそらく間違いないと思うから、どないぞしてそんなことをしないで取り下げてもらえぬか、こういう申し出であったのであります。しかしながら、法廷和解をせず、何らの将来に対する根拠もないことにつきまして、受任者といたしまして、かような軽率な行ないはとるべからざるものである、こう確信いたしましたので、私はこれに同意を与えなかった。さればといって、内容が非常に変遷してきた事実を認めた。そうなりますと、私は、法廷に出て相手方を
向こうに回して大いに議論を戦わしていいのか悪いのか、わからなくなってきた。もし、その後に和解をするというようなことになると仮定いたしますならば、法廷で口角あわを飛ばすというようなことになりますと、ここに感情の問題も起こりましょう。できるべきものがかえってできない事件がたくさんあるのであります。これは
自分の他の事件における経験上、申し上げて差しつかえない。かように思いましたので、私は出てよいのか悪いのか、事の判断に迷った。そこで、私は依然といたしまして、
上野氏の目的も達し得るし、さらに将来もしも間違っても差しつかえないようにするにはどうすればよいかということを考えました結果、これは
自分は法廷に出ないのが一番よい、こう考えまして、本案にも出ない、
仮処分異議にも出なかったのであります。そういたしますると、呼び出しが二回もあったにかかわらず、私の方は
仮処分異議に対して出廷しない。これがために、懈怠の結果、
裁判所はその判決によりまして、
仮処分取り消しの判決があったのであります。決して任意に取り下げたのではない。しかし、私の考えは、
仮処分は判決によって取り消されたといえ
ども、さらに新事実が現われるならば、さらにまた
仮処分をすることは可能である。ゆえに取り下げをすれば、かえってそこに示談をしたとか、あるいはまたいろんな相手方から
事情をさしはさまれる危険もある。こういうような観点から、私は出廷せずして、ついに判決をもって
仮処分取り消しになったのであります。こういう
事情でありますので、もちろん本案訴訟にも出廷しない。従って、本案訴訟は、これも期日の懈怠によりまして、休止満了というので終わっておるのであります。