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帆足委員 砂糖の
輸入八千万ドルに対しまして
輸出わずか四百万ドルであった、私はこの数字のあまり極端なのに実は驚く次第でございます。もちろん
キューバとの
関係は砂糖が中心にならねばなりませんし、また
日本の砂糖メーカー諸君の御努力や要望を十分理解して、その上に貿易
政策を立てねばならぬことも申すまでもないのですけれども、しかし貿易というものはただ
輸入だけにあるのでなくて、
輸入と同時にまた
輸出も
考えねばならぬ。従いまして、私は
輸出の振興策に対する努力が、当時としてはやむを得ない事情であったにしろ、まことにこれは不十分なものであったということを痛感いたす次第でございます。ましてや、
日本の国際収支にとって八千万ドルというドルを、購買力を、むざむざかわりに買ってもらうものなしに従来使っていたということは、必ずしもそれが
キューバの
利益のためであったかというと、今伺ってみれば、それは
アメリカの消費、
アメリカとの間の特恵関税を強制されて、
キューバの
民族産業も苦しみ、
日本の
輸出もともに苦しんでいる。だとするならば、このたび
アメリカの満州国たる不名誉な
地位から
キューバが
独立いたしました。そして
植民地が
独立するということは、もはや、
日本政府が最も尊重しているところの国際連合において、若干の棄権した国はありますけれども、満場一致
植民地解放決議を国際連合は昨年の秋しているのでございますから、
キューバが
独立することによって自国の
民族産業を養成し、そして今度は
日本からも相当のものを
輸入し得る自主性を持ったということは、私は
日本の
通商政策にとって非常に有利なる条件ができたと思う。しかも国際場裏においては、多少は他国を追い越してまで競争するくらいの迫力が必要でありますけれども、この問題については別に他国を押しのけるという問題よりも、まず自分が八千万ドル
輸入していたそのワク内においてでも、相当
輸出を伸長し得る。どこの国にも恨まれず、干渉せず、過去の
利益を侵害することなくして、自分の力を使い得るという問題でありまするから、私はこれは
日本の
輸出振興にとって絶好のチャンスであり、外貨節約にとっても非常によいチャンスである。もちろん
キューバ国としては創立早々のことでございますから、
日本からもらったドルの全部を
日本のみに使うということは困難な事情もありましょうけれども、しかし幸いにして
日本の産業というのは非常にバラエティがありまして、薬であれ、化学工業であれ、医療器械であれ、工作
機械であれ、トラックであれ、バスであれ、オート三輪であれ、
キューバの
民族が自立するために必要な商品というものは、良品にして廉価なるものが全部できるわけでありまするから、私はそのことを
キューバ政府がよく理解せられるならば、ごくわずかの分量だけをドルとして融通性のあるものとして確保しておいて、大部分のものは、それでは
日本から買おうという
関係を作るということは、これは客観的に見て、私は努力次第で可能性のあることである。
外務省の事務当局もこの点に思いをいたされて非常な努力をいたされまして、初年度において
日本の
輸出をまず倍の目標にされたという御努力のほどに私は非常に敬意を表しており、またこのことを理解しつつあるところの
キューバ当局の理解に対しても、私はこの際敬意を表する次第でございます。
しからば第二には、
アメリカが三百万トンないし四百万トン買っていた砂糖が一挙にストップしてしまった。他国のことを批評することはどうかと思いますけれども、言論は自由でありますから、美人は美人と批評し、それからぶ男はぶ男と批評したところで、それは言われた方が怒るのは度量が狭い証拠である。言論の自由は特に胃の障害などにはこれは非常に良薬でもございますから、健康上の見地からかんがみて申しますと、一体
アメリカは
——アルゼンチンでもメキシコでも、それからもうアルジェリアですらが天下の大勢として
植民地支配を脱却しておる。そのときにその産業はその
民族からわずかの公債でもって接収される。これは時移り星変わるのであって、ちょうど
日本の農地改革みたいなものでありますから、こういうような
植民地の
独立に興奮するとしたら、その興奮神経というものは前時代的神経であって、近代的センスとは私は言えないのじゃないか。従いましてこういうことのために興奮して
アメリカが
キューバと国交を断絶したということは、これは行き過ぎでなかったか。
植民地政策についてはもと七つの海を支配していた英国が狡猾といえば狡猾、聰明といえば聰明でしょうけれども、分かれたかつての属領諸国に対しても、前はめかけにしていたかもしれないけれども、今はガール・フレンドとして比較的よい
関係を結んでおる。
インドなどでは、ネール首相は数年も監獄に入れられ、聖雄と言われるガンジー氏は、
日本でよく不逞鮮人と言ったように不逞
インド人とまで言われている。その
インド人に
独立を与えてしかもその後
インドと英国との
関係はまあまあ親戚づき合いをしておる。過去の因縁は悪因縁であったけれども、今後はよい友だちになろうというようなふうに言っておるし、ドゴールすらが今そのために悩んでおる、こういうときに自由の女神をもって国是とする
アメリカが、興奮してしまって全面的断交になってしまったということは、私はこれは愚かなことであって、
ケネディ大統領もこの跡始末にはさぞかし御苦労なさっておられるであろうと推察するのですが、この御苦労にまた泥を塗るような
政策を
アメリカが続けることは、私は非常に残念なことである、遺憾なことであると観察しておる次第でございます。しかしそれは他国のことでございますが、そうこうしているうちに、全部その砂糖の注文を中国と英国にとられてしまった。
アメリカのある新聞を見ますると、なに中国が百万トンも砂糖を買うと約束したところで、いつまでも砂糖をなめられるはずのものでなしと言いますけれども、御承知のように中国には六億の人口がありまして、中国における砂糖の産額というのはあまり多くないわけです。従って今後年々百万トンの砂糖を買いまして、そうしてキビだんごや中国特産の豆でおいしいみつ豆でも作ることになれば、百姓たちは非常に喜んで、
キューバからの砂糖の
輸入をむしろ今後とも歓迎するであろう。一度なめた砂糖の味はなかなか忘れがたいものであって、接吻の味のごときものであります。従いまして中国、ソ連の援助は一年きりのものであるから、やがて
キューバが頭を下げてくるだろうなぞという一部の甘い観測は、それこそ私は少し甘過ぎる観測であるまいかと思います。このように
考えてみますると、やはり
アメリカが砂糖の断交をしたことをもってカストロ政権がこれで致命傷を受けて、そうして政界不安を来たしそうして新政権がつぶれるなどという見通しは、それは少し甘過ぎる見通しであるまいか。どこの政権を見ましても、まず
革命後十年くらいはいろいろ問題があります。今日はスピードの早い時代でありまするから、一年が十年の早さで進んでおります。明治御一新のあと西南戦争が起こったのが明治十年ですけれども、十年は今では一年ないし二年のスピードでありまするから、おそらくことし一ぱいくらいが
キューバにとっては一番苦しい年であろう。しかし青年はすべて向学心に燃えておりまするから、私はことしの暮れから来年にかけては接収した工場をマスターすることを
キューバの青年たちは大体体得するのではあるまいか。
アメリカの社会評論家の、先ほど名をあげましたスウィージー並びにヒューバーマンの報告を見ましても、若い
キューバが今非常に苦しい
状況におることを私も認める。しかしそのためにこの若い政権がくずれるという
一般に流布されておる伝説については、私は否定的見解をとる。何となれば青年たちは成長し、自覚した
民族の力というものはやはり着実に成長する性質を持っておるからであります。こう書いておりますけれども、この著名なる
アメリカの社会評論家の意見は、私は大いにこれは傾聴すべき意見があるということを痛感いたします。そういう観点から見ますると、
アメリカとしては私は損なことをしたものである。ああまで
キューバを怒らせずに、
財産は、管理について技術を若い
キューバの幹部に修得させながら徐々にこれを譲って、そうして適切なる公債をもらって、償還してもらうというような方針をとった方がよかったのに、ちょっとまずいことをした。まあ、
日本のまずい
外交をさておいてよその国の
外交の批評をすることもなんですけれども、私は非常にこれは残念である。いわんや
アメリカのこのしくじり
外交を根拠にして、
キューバの新政権はちょっと育つまいというような観測を立てることは、私は間違っておるのではあるまいか、こう観測いたしております。
そのような観点から、
キューバの現状を見ますと、なるほど今日の
状況におきましては、数百の工場を接収いたしまして、新幹部の養成はまだ緒についたばかりでありますし、
アメリカのすぐれた技術者たちは国に帰るし、また若干の経営幹部たちは、従来の高い生活水準や、
アメリカナイズされた思想に幻惑されておる
人たちは、あるいは中南米に、あるいは
アメリカに逃避した。その数も相当おびただしいものに及んでおるということも伺っておりますけれども、しかしやがて半年たち、一年たてば安定の方向に向かうのであるまいか。従いまして、ここ当分の間は
キューバから砂糖を買いますことについて、
日本の砂糖の
輸入業者並びに砂糖のメーカーさんたちはいろいろの御苦労があると思います。たとえば規格の不統一、品質に保証なきこと、船積み、受け渡しの不正確なること、事務における多少の混乱や不安のあること、そういう問題がありますから、私営商社としての
キューバとの取引が今年度停滞の
状況にあることは、大いに了察し得るのでありますけれども、しかし大局を
考えて、
国家百年の計をもって
考えるならば、そういうときにこそ、
キューバと
日本との相互間の理解を深めまして、一方わが国の側から申しますならば、
日本の砂糖業並びに製糖業並びにあらゆる分野において優良品を作り得る工業の
状況、
日本の
輸出能力を
キューバの政府に送り返してもらう。他方において
日本のメーカー並びに貿易業者の
キューバに対するいろいろな希望を正確に
キューバ側に理解してもらいまして、こちらのピッチャーに対して、
キューバ側はキャッチャーとして大いに至急訓練し、もっと仕事を系統的組織化してもらう。こういうことに対して、やはり行政当局もあっせんをし、民間の業界や政治家たちも党派を離れた立場からあっせんして、貿易が早く軌道に乗るような方向に協力することが、私は必要なことであるまいかと思うのでございます。
そこでお尋ねいたしたいのですけれども、ことしはそういう一時的混乱のあとを受けまして、
キューバから買います砂糖が、せっかく
条約では三、四十万トンを目標になさったということでございますけれども、一向実績が上がっておりませんように承っておりますけれども、
通商条約における一応の努力目標に対しまして、昨年及びことしの砂糖の
輸入の実績並びにすでに契約した見通し及び
輸出の実績及び見通しは、この
通商条約の条文に照らして現状はどういうことになっておって、どこに困難な点があるかということをお伺いしておきたいと思います。