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1961-03-17 第38回国会 衆議院 外務委員会 第9号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十六年三月十七日(金曜日)     午前十時四十七分開議  出席委員    委員長 堀内 一雄君    理事 北澤 直吉君 理事 竹内 俊吉君    理事 野田 武夫君 理事 福田 篤泰君    理事 森下 國雄君 理事 岡田 春夫君    理事 戸叶 里子君 理事 松本 七郎君       愛知 揆一君    小泉 純也君       正示啓次郎君    床次 徳二君       前尾繁三郎君    松本 俊一君       黒田 寿男君    田原 春次君       帆足  計君    穗積 七郎君       森島 守人君    川上 貫一君  出席国務大臣         外 務 大 臣 小坂善太郎君  出席政府委員         外務政務次官  津島 文治君         外務事務官         (アジア局長) 伊關佑二郎君         外務事務官         (アメリカ局         長)      安藤 吉光君         外務事務官         (条約局長)  中川  融君         外務事務官         (国際連合局         長)      鶴岡 千仭君         外務事務官         (移住局長)  高木 廣一君  委員外出席者         農林事務官         (振興局拓植課         長)      三善 信二君         専  門  員 佐藤 敏人君     ――――――――――――― 三月十七日  委員稻村隆一君辞任につき、その補欠として田  原春次君が議長指名委員に選任された。 同 日  委員田原春次辞任につき、その補欠として稻  村隆一君が議長指名委員に選任された。     ――――――――――――― 三月十四日  通商に関する日本国キューバ共和国との間の  協定締結について承認を求めるの件(条約第  一二号)  日本国フィリピン共和国との間の友好通商航  海条約締結について承認を求めるの件(条約  第一三号) は本委員会に付託された。     ――――――――――――― 三月十四日  日中政府間の貿易協定等締結促進に関する陳情  書(第四八三  号)  米国のシップ、アメリカン運動に関する陳情書  (第五五一号)  日朝会談反対等に関する陳情書  (第五六四号) は本委員会に参考送付された。     ――――――――――――― 本日の会議に付した案件  移住及び植民に関する日本国ブラジル合衆国  との間の協定締結について承認を求めるの件  (条約第三号)  国際情勢に関する件      ――――◇―――――
  2. 堀内一雄

    堀内委員長 これより会議を開きます。  この際議事進行に関して森島守人君より発言を求められておりますので、これを許します。  森島守人君。
  3. 森島守人

    森島委員 三月一日の当委員会における議事録に関しましてお尋ねをしたいと思います。  三月一日の議事録を拝見しますと、私が池田首相の言に言及しまして、「たとえば中立政策をとっておる国が一がいに——国と断定したり、」というところがございますが、この点から——という二字を私に了解なく削除してございますが、この点は委員長において御了解を与えられたものかと存じますが、いかがでございますか。委員長に御所見を伺いたい。
  4. 堀内一雄

    堀内委員長 ただいまの御質問に関しましては、——の二字は本会議において総理が訂正しておりますので、速記の慣例によってかようにいたしたものと考えますが、なおよく調べてみます。
  5. 森島守人

    森島委員 当日の私の発言は、池田首相の直接の発言じゃないのです。私が批判的に引用しただけであって、私自体発言です。私は私自体発言委員長了解なくあるいは事務局において勝手に改ざんするということは許すべきものじゃないと思う。私は事務局の方からはっきりした慣例があれば事例を示して私の納得いくだけの御説明を求めたいと思います。ただいま御説明ができぬということならば、あとでもけっこうでございます。この問題は小さな問題のようであって非常に大きな問題である。発言者の私の了解なしに勝手に改ざんすることは、今後いかなる問題についても事務局で勝手に改ざんすることができるというふうな先例を開くと思うので、私はあえてこの点を問題にしたわけなんです。後日、事務局の方の御説明を聞いた上で、さらに発言を継続したいと思います。
  6. 堀内一雄

    堀内委員長 取り調べましてさらに回答することにいたします。
  7. 岡田春夫

    岡田(春)委員 関連委員長は、そういうことを直すことについて何か事前了解がありましたかということを森島君は聞いている。それはどうなんですか。了解はあったのですか。
  8. 堀内一雄

    堀内委員長 了解はありません。
  9. 岡田春夫

    岡田(春)委員 ありませんね。それならそれでいいんです。
  10. 森島守人

    森島委員 時間がありますので、ついでに資料要求をいたしたいと思います。  先日の、私と外務大臣中川条約局長との質疑応答においては、政府側はいいかげんなその場限りの答弁をやっていることが非常に多い。これははっきり議事録に出ておりますが、私は事実を明らかにする意味におきまして、資料要求をしたいと思います。  第一に、フィリピンとビルマとインドネシア、これを私一括して言った点に不明確な点もあったと思いますが、個々の国についていつ貿易協定ができたかという時日、日付、それからいつ在外事務所が置かれたかということ、これらの国に対する承認政府事前に与えておるというのはいつ与えておるのかということと、第四には、これらの国との国交回復の時期に関する資料を一括してなるべく早く提出願いたいのです。委員長においてしかるべくお取り計らいを願いたいと思います。
  11. 堀内一雄

    堀内委員長 承知いたしました。     —————————————
  12. 堀内一雄

    堀内委員長 国際情勢に関する件について調査を進めます。  質疑の通告がありますので順次これを許します。松本七郎君。
  13. 松本七郎

    松本(七)委員 外務大臣にいろいろお伺いしたいことがあるのでございますが、まず最初に、昨年の終わりに、ソ連から文化協定に対する申し入れ、提案がございましたね。その提案内容がわれわれには明らかになっておらないのですが、御説明いただきたいと思います。ソ連側提案……。   〔委員長退席竹内委員長代理着席
  14. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 今主管の者がおりませんので、私からごく概要を申し上げたいと思います。  これは文化協定でありますから、たとえば教授の交換であるとか、映画、演劇であるとか、あるいは図書であるとか、そういうものを相互交換しようというわけですが、それを事項別に限って一年間にどのくらいどういうことにしようかというふうな分類ができたように承知しておるのであります。それに対して、これは相互主義で両方同様なことをする、こういうことになると考えております。
  15. 松本七郎

    松本(七)委員 そうすると、日本側から出した回答というか、公的な刊行物交換、それから映画、学者、あの三項目の回答が出たのは、ソ連提案に対して、対応したものとして出されたのですか。
  16. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 そうでございます。ただこちらとしては、やはり予算範囲というものがございまして、これがその金額による制約を受けるものでありますから、こちらのでき得る範囲というふうに考えましてそういう提案をしております。
  17. 松本七郎

    松本(七)委員 そうすると、いつごろ協定に到達する見込みでしょうか。
  18. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 これはこちらからそういうふうに申し出ましたのでありますが、先方からまだ反応がございません。従ってその時期についてはまだ申し上げることはできません。
  19. 松本七郎

    松本(七)委員 そうすると、先方提案と、それから日本側の案というもの全部を至急私どもにお示し願えますか。
  20. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 従来のやり方から見まして、一般的なものをまとめて申し上げるようにしたらいかがかと思います。細目の具体的なことは交渉過程でありますから遠慮さしていただきたいと思います。
  21. 松本七郎

    松本(七)委員 向こう提案についてはこちらに資料としては出せないというのですか、どの程度のもの……。
  22. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 一般的に従来の外交慣習から見て適当と思われる程度のものを提出さしていただきたいと思います。
  23. 松本七郎

    松本(七)委員 向こう提案に対しての回答として日本の案が出されたのであれば、それを判断するのに当然向こうの出されたものをわれわれも見なければ判断のしょうがない。だから交渉中といっても、当然秘密にすべき性質のものじゃないでしょう。アメリカソ連で結んでおる文化協定に近いようなものであるということもすでに新聞には報道されておるのですから、公表しても何ら差しつかえないものだと思うのですが、どうでしょうか。
  24. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 大体それが話がまとまりましたら、そういうことを内容をあげて国会に御説明して御審議を願う、そして御賛成をいただくというのが従来の外交上の方式でございますから、それを特に破ることはこの際いかがなものでございましょうか、私はそれは感心いたさないのであります。
  25. 松本七郎

    松本(七)委員 特に秘密を要するような事項ならともかくも、そうじゃない文化協定のようなものは、なるべく向こうの希望した提案全部を国民の前にやはり明らかにして、そうしてこれこれしかじか、予算の関係はこうなるがゆえにこの程度のものしか日本には応じられないという説明をしていただかないと、民間の文化協力協定もできているようなときに、外務省としてはいかがな事情でああいう狭い範囲のものにしたか、われわれにはさっぱりわからないわけです。だから国会審議のためにも、もう少し親切な資料の提供を、一つ外務大臣、新しい例を開くくらいのつもりでやってもらいたい。いかがでしょう。
  26. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 別に差しつかえないとおっしゃいますが、一体どこまでが差しつかえないかという判断は非常にむずかしい問題だと思いますし、外交に関する限り政府が責任を持って交渉をいたすわけでございますから、その過程を一々御報告することは、そういう例を開いて参りますと外交の根本に触れることになりまするので、事柄のいかんにかかわらず、従来の方式通りいたしまして、そして御審議を願う段階があるわけでございますから、その際に十分御審議を願いたいと思います。
  27. 岡田春夫

    岡田(春)委員 関連。前にもそういうものを出している例はたくさんあるのですよ。しかも特に秘密を要するような条約交渉以前の原案というのならば、これはまた別ですけれども、大体基本の筋なんかわかっているようなことをことさら隠されるというのは、小坂さんになってから秘密外交をやるつもりかどうか知らぬが、そういうことはどうなんですか。小坂さん、今までは、相手国と相談の上で、出せるものならば出しましょうというくらいの答弁はしているのに、今度は出しませんというようなことを言っているのは、何か特別に隠さなくちゃならないのですか。一つこの際、小坂さん、あなたも若い外務大臣で張り切っているし、われわれも激励をするわけですから、相手の国でもいいと言うならお出しになったらいいじゃないですか。何もそんなに秘密に隠す必要もないじゃないですか。
  28. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 これはどうも、事柄の問題によるとおっしゃいますけれども、そういうものじゃないと思います。これは外交交渉建前の問題でありまして、別に私になってから秘密外交をやっているわけじゃないので、従来からの当然の慣例であろうと思います。この建前はやはり外交交渉一つ建前として持っていかなければならぬことだと思います。
  29. 松本七郎

    松本(七)委員 それから、最近は自民党でも中国問題で非常に討議を重ねておられるようですが、私どもの知る限りでは、アメリカにおいても中国問題についてはかなりいろいろな動きが活発化しておるように思うのです。特に国連における代表権の問題については、アメリカがどういう態度に出てくるか、一説には二つ中国台湾固定化に非常に強く出てくるだろうともいわれておるし、それから、上院などのそういう空気にもかかわらず、一部では台湾の否認というか、中華人民共和国一つ中国で進めという意見さえぽつぽつ出ておるように聞いておるわけです。マクミランもやってくる、あるいは総理大臣アメリカに行かれるというようなときに、一体日本政府としてはどのような基本方針、またいつごろにその態度をきめていくのか、これは私は非常に重要になってくると思うのです。私どもが大づかみに見るところでは、外務省のいろいろ中国を研究しておる連中としては、専門家の間では、むしろ一部には二つ中国という程度のことがすでに前向きだという意見もあるように聞いておりますけれどもアメリカのこの微妙な動きに、やはり日本としてももう少し前向きの姿勢で指導権を握るべきであるという意見もぽつぽつ出てくるのではないか。そういう中で一番おくれているのは、私はむしろ自民党の中で、アメリカでいえば国会上院などの空気が非常におくれているのじゃないか。そういうときに、実際に担当しておる日本政府なんかの動きは、むしろ二つ中国論からさらに進んだ方向に行く可能性さえ少しずつ出てくるのではないかという見通しもあるわけです。一体外務大臣として、この重要な問題についてどのような意見を持っておられるのか。池田総理はむしろ外交にうといといわれておるくらいですから、この大事な問題を前にしてアメリカに行かれるについては、外務大臣の任務というのは非常に大きくなると思うのです。アメリカ意見なり態度を見て、その話し合いの後に日本態度決定されるのか。それとも首相の渡米される前に日本としての態度をある程度煮詰めていかれる御方針なのか、その間のところを外務大臣としてのお考えを少し伺っておきたい。   〔竹内委員長代理退席委員長着席
  30. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 アメリカにおきましていろいろな議論があるということもそうであります。イギリスにおいてもあるということもそうであります。ただ、今お述べになりましたアメリカ国内世論というものの中に、全然お触れになりませんでしたが、一方にはマッコーマック院内総務という人のテレビ対談では、国連脱退まで言っているようなのもあるのであります。いろいろ議論があるでございましょう。そこでわれわれでございますが、われわれの方も、自民党の方ともいろいろ御相談しながらこの問題を注意深く検討していくという態度をとって検討はいたしております。しかしここでいろいろと申し上げることにはまだ段階が熟していないかと思いますが、基本的にはわれわれが自由主義陣営の国なんだ、共産陣営の国じゃない、そういう立場と、それからわれわれはアジアの国である、こういう立場が必要だと思っております。そこでそういう立場からこの問題を見ていく。中共側のいろいろなお考えもありましょうが、また日本としての考えもある、こういうことが非常に必要だと思います。やはりわれわれは、日本の平和と安全と日本国民利益、極東の平和と安全、そうして世界の平和と繁栄、こういう三つの問題からこの問題はやはりやる必要があると思っております。
  31. 松本七郎

    松本(七)委員 そこで日本態度をきめる時期が、こういうふうに動きが激しくなって参りますと、非常に問題だと思うのです。アメリカにもいろいろな意見がある。今言われるような意見も含めていろんな意見がある中で、日本としては、総理アメリカに行ってアメリカの意向も十分確かめてから日本態度をきめたいという御方針なのか、あるいはマクミランも来ることだし、その前に日本態度をきめる、あるいはマクミランとの会談を通じて日本態度をきめて、それをもって、基本的な態度をもってアメリカに乗り込むのか、そこでずいぶん私は違うと思うのです、今後の世界情勢なり日本のこれに対処する方針をわれわれが判断する場合において、何も基本的な態度をきめずにばく然とアメリカに行って話し合うのと、その前に一応の方針決定して乗り込むのとではかなりいろいろな点に違いが出てくると思いますので、この点を聞いておるわけです。
  32. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 先ほど申し上げたように、われわれはアジアの国なんでありまして、われわれ自身の問題としてアジアの問題というものはだれよりも身近な問題であるわけです。従って、われわれ自身立場からこの問題を判断して方向を打ち出していくということが必要でありますけれども、しかしわれわれが態度をきめればそれでいいというものではないのでありまして、この問題に関心を持つ各国との間に十分意見を調整しながら進んでいくということは、国際社会の一員として尊敬をかち得る立場から当然のことであろうと思いまして、そういうふうに考えたらいかがかと思っております。やはり国際問題の把握の仕方あるいはその解決という点では、むしろ解決ということより、まず第一にいかにこれを把握していくか、そしてわれわれの立場とそれをどう調整していくかということなのでありますから、何かいきなりこの問題は黒いか白いかというふうなことよりも、こういうふうにすればこういうリパーカッションがある、一方においてこういう利益があるというような諸種の問題を勘案して、慎重に態度をきめていくのが必要でありまして、いつきめるとかあるいはそれをどういうふうにするのだということよりも、今申し上げたようなそういう総合的な判断の上に立って、そして一ぺんに解決する問題でない点もたくさんあるわけでございますから、そういう点をいろいろ順序立てて整理していくということが、やはり一つ日本考え方をきめるということの内容にもなろうと思うのであります。問題はあまり簡単に取り上げずに、複雑な国際問題として十分にこれを把握していく、ただしその態度は前向きである、こういうことでいったらいかがかと思います。
  33. 松本七郎

    松本(七)委員 そうすると、具体的に伺いますが、国連における中国代表権問題を議題にするかどうかということについての態度はどうですか。これもまだ全然未決定了解していいですか。
  34. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 この問題は、御承知のように一カ年間たな上げになっているわけでございまして、従ってその間に十分慎重に検討していくべき問題と思っております。
  35. 松本七郎

    松本(七)委員 だから、この次には日本はどういう態度で臨むかについては、まだ全然決定されておらないと了解してよろしいですか。
  36. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 これについては十分に慎重に、自分らはこう思った場合にはどうであるとか、こう思わなかった場合にはどうであるかということを検討すべき問題だと思うのです。ただまっしぐらに、おれはこれだときめることだけが問題の解決になるとは思いません。
  37. 松本七郎

    松本(七)委員 だから現在は未決定だと了解していいですかと聞いている。
  38. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 この問題については慎重に考慮をしている段階でございます。
  39. 松本七郎

    松本(七)委員 それから国連ではさらに朝鮮問題がいつごろ議題になるかということが、またわれわれの一つの関心事ですが、朝鮮統一に対しては日本政府としてはどういう態度で臨もうとしておるのですか。
  40. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 朝鮮問題を国連でいつ取り上げるかということについては、今のところまだ決定されておりません。この統一問題については、われわれはやはり国連監視下選挙という従来の行き方が民主主義的な行き方であろうと思っております。
  41. 松本七郎

    松本(七)委員 そうすると、この四月の国連では問題にならないというお見通しですか。秋の国連ではその可能性はどうでしょうか。
  42. 鶴岡千仭

    鶴岡政府委員 今大臣からきまっていないと申し上げた意味でございますが、今度の再開十五回総会に一応予定されてはおりますけれども、御承知のように今度の再開総会で何を議題にするかということについてまだ決定いたしておりませんわけで、朝鮮問題も出るか出ないか、出さない方がいいという意見があったり、一応出ている議題は全部やった方がいいという意見もあったりしまして、決定に至っておりませんということを申し上げたわけでございます。
  43. 松本七郎

    松本(七)委員 日本政府としては早く議題にすることを望ましいと考えられますか。大臣どうですか。
  44. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 それは諸般の事情がありますけれども、そうした考慮なしにすれば早い方がいいと思います。早く議題にすべきものであろうと思います。という意味は、当初から予定議題になっておりますから、予定議題は全部早くやった方がいい、こういう意味でよいと思います。
  45. 松本七郎

    松本(七)委員 社会党では、朝鮮統一をなるべく早く実現するという意味からも、従来しばしば外務委員会でもこれは述べたのですけれども、やはり南北代表部日本にも設置する方向に向かった方がいいだろうということは、もう以前から言っておったことなんですね。最近北朝鮮から例の国家連合呼びかけもなされておる。このことはちょうどわれわれの南北代表部を設置するという考えと軌を一にすると思うのですが、大臣は、この北朝鮮が先般呼びかけた国家連合、あるいはそれがもしできない場合には経済委員会とか民族委員会を持って南北の交流をはかろうという、そういう動きのある今日、依然国連監視による選挙というものが実現性があると考えておられますかどうですか。
  46. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 朝鮮につきましてはなはだ不幸なる事態は、韓国北鮮とがそれぞれかなり激しい感情を朝鮮事変以後残しておるということであろうと思います。北鮮の方は共産主義陣営であり韓国自由主義陣営であるということで、非常に問題がむずかしいだろうと思います。そういう事態の中において、そうしたものを越えて一つ民族として統合するという考え方から統一選挙をやるということは、これはむずかしい考えだと思いますけれども、やはりそのことを進めることは統一の上の一番の大道であるというふうに思います。
  47. 松本七郎

    松本(七)委員 そうすると、その選挙やり方なり統一方式はさておくとしても、国連でも朝鮮統一ということを一つ目標にしておるのですから、日本政府としても南北朝鮮統一ということを目標にして今後進むことには変わりはないのですか。
  48. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 その形が望ましいという考えにおいて考えております。
  49. 松本七郎

    松本(七)委員 最近の、二月二十八日の大邱におけるデモ、これは四万からのデモだと言われておるのですが、かなり最近の張勉内閣は不安定な様相を呈しておるようですが、政府の集められた情報なりその他に基づいて、南朝鮮全体についてどのような現状把握をされておるか。
  50. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 民主主義建前をとっております以上、デモは行なわれるわけでございます。ですから、そのデモそのものがあったからといって、直ちにそれがあったから大へんだという判断もいかがかと思いますが、共産主義の体制のもとにおいてはそういうことはないわけです。そこでいろいろな報道がなされておりますけれども張勉内閣はこれを乗り切ろう、経済的な貧困もございましょうし、何か経済をもっとぱっとしたものに展開したいというふうに考えて苦労しておられるのだと思いますけれども、またいろいろな党派によるところの政争もあるようでございますが、そうしたものを乗り越えて、何とか安定していきたいということで努力しておられるだろうと思っております。
  51. 松本七郎

    松本(七)委員 努力はしておっても、相当不安定な要素が強くなっておるということは、政府も理解されておるのですか。
  52. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 安定、不安定というのは、これは程度の問題でございまして、他国の政情について私がここで見解を述べることは不適当かと思います。
  53. 松本七郎

    松本(七)委員 そうすると、われわれの聞いているところでは、これは外務省あたりでも同じいろいろな情報をとっておられるのだから、同じ見解だろうと思うのですが、去年の李承晩の打倒された当時と、今日のデモの様子だとか種々の情勢考えると、かなり反米的な運動が一年前よりも強くなっておるように思うのですが、この点は大臣はどう見ておられますか。
  54. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 李承晩時代には言論とか集会その他の行動というものを非常にきびしく規制したというふうにわれわれ理解しておるのです。従って、そういう規制がはずされたあとには、いろいろな行動の自由からする集団示威というようなものもありましょうし、あるいはまたアメリカの政策に対する批判というようなものも自由になって行なわれるわけでございますから、その限りにおいてはいろいろな書物等にそういう言論が現われるということはあると思うのであります。それだからといって、どうこうという批判は私の立場からは差し控えたいと思います。
  55. 松本七郎

    松本(七)委員 批判じゃない、やはり見通しをはっきりしておかなければ日本にも重大な影響があるので、批判じゃない。われわれとしては、たとえばこのデモが激しくなってくる、この前の米韓経済協力協定のときにも、これに反対してあのような四万も動員されておるデモが起こるのですから、そうなると、今後この張勉内閣が安定して国内情勢がおさまるか、あるいはいよいよ不安定になってこういった動きが活発化するかによって、日本にも重大な影響が出てくるわけです。第一、アメリカの二個師団というものが朝鮮にはいるし、万一の場合には韓国人と米軍の衝突というようなこともあり得ると思うのです。一体そういうことは絶体ないという保証がありますか。どうです。
  56. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 他国の内政についていろいろな想定をしてその見通しがどうだということを私に聞かれるのは無理な話だと思いますが、私はさっき言うたように、これはいろいろな行動の自由からするところの動きというものはあると思うのです。それが民主主義建前なんです。しかし、それを乗り切っていくべく努力しておられるのであろうから、これは乗り切っていかれるであろうと思っておるわけです。
  57. 松本七郎

    松本(七)委員 人ごとじゃないですよ。あなた、日韓会談をやるのでしょう、日韓会談をやる目的は何ですか。
  58. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 日韓両国の国交を正常の道に乗せるということであります。従って、私どもは、松本さんがここで政権があぶなくなるのじゃないか、こういう趣旨で、私にそういう見通しでなくてどうしてやっているのだとお聞きになっておるから、あぶないんだろうと言わせようと思ってやっていらっしゃるのだろうと思いますが、私はそうは思いません。できるだけ努力してやっておられることなんだろうと思います。他国のそうした政権の見通し等について私がここでそういうことを言うことは差し控えなければならぬことだと思います。うまくいくべく努力しておられるのだろうし、うまくやっていくのでしょう、こういうわけであります。
  59. 松本七郎

    松本(七)委員 それは大臣の希望なり観測はどうであろうと、現にデモが起こっているのは事実なんですから、そういう今の国情を土台にしてわれわれは考えなければならぬ。現実の政治を進めていくのには……。今、日韓会談をやっておられる、その中では米韓経済協力協定をめぐって四万人からのデモが行なわれた。そうして食糧危機も四月にはますます激しくなって、それがどうなるかというような、いろいろな——NHKの報道一つ聞いたって、そういうことはどんどん言われてきているのですよ。国民はみなそれを心配しているのですから、そういう心配の中で、あなた、日韓会談をやろうと言われる以上は、当然そういうことを考慮して、そうしていかにしたらこれが成功するかということを考えなければ、ただ相手がけっこうよくやってくれるだろうでは済まないと思うのです。現実にやはり対処していくのですから……。現に日本韓国の関係では吉田・アチソン交換公文に関する交換公文というのが今度の新安保で生きることになっているのですから、そういう関係からすれば、もしも南朝鮮事態が急迫して韓国人と米軍とが衝突するようなことになったら、当然日本の運命にもかかわってくるでしょう。そうなりませんか。その点はどうですか。
  60. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 そのことよりも、そういうふうにならない事態日本としてできるだけ希望し、そういうふうにするように考えていくのが、私は政治だと思うのです。その意味において、韓国との国交というものを正常化して妙な事態にならないようにしていくことが必要である、こういうことを考えておるわけであります。これから日韓会談を始めるのじゃないかとおっしゃいますが、そうじゃない。日韓会談というのは現にやっておるのです。やっておるのですから、その間にいろいろ先方の話も聞いて、こちらの考えも十分言って、この話を慎重に進めて参ろうということで、現に交渉しているわけであります。
  61. 松本七郎

    松本(七)委員 国交正常化ということをしきりに言われるけれども、それでは、場合によっては懸案の解決は先に延ばしても、とにかく国交正常化だけはやろう、こういう方針ですか。
  62. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 これは事と次第によると思うのです。延ばす懸案の種類にもよりますし、一般的にいえば懸案を解決すべく交渉しているわけでありますから、その先の方は言わない方がよろしいと思います。
  63. 松本七郎

    松本(七)委員 国交正常化をやるといっても、今までのいわゆる日韓会談の経過からいえば、場合によっては、一切の懸案は解決しないでも、国交正常化だけはやるという意向は、日本政府に今まであったのでしょう。中川さんどうですか。今までの日韓会談の経過からいって、むずかしい財産請求権の問題だとか、あるいは李承晩ラインの問題だとか、こういうものまで含めて一切がっさい解決しなければ国交正常化はやらないという方針できたのか、あるいは国交正常化をとにかく急ぎたいという方針日本側はきたのか、今までの経過と、それから今回の韓国側のこれに対する態度と、日本政府交渉に臨む態度、そこらを聞いておきたい。
  64. 伊關佑二郎

    ○伊關政府委員 たしか第一回の日韓会談、昭和二十七年の二月でございましたか四月でございましたか、このときに、そういうふうな、まず基本関係を開いて、そして懸案の解決あとに延ばしてもいいじゃないかというような考え日本側から出ております。それは韓国側は賛成いたしませんで、その後消えております。今のところは、両方とも懸案を解決してからという考えに立ってやっております。
  65. 松本七郎

    松本(七)委員 そうすると、一切の懸案を解決するまでは国交正常化はしない、こういうふうに了解していいのですね。
  66. 伊關佑二郎

    ○伊關政府委員 そうでありませんで、一切の懸案を解決して国交正常化に持っていくのが望ましいという考えでやっておりますが、これをやっております過程において、あるいは変わることもあり得るかもしれぬと思います。
  67. 松本七郎

    松本(七)委員 そうなると、おそらく第一の基本関係等も、その交渉では懸案の重要な事項として含まっておるという了解のもとに、われわれは観察しなければならぬと思いますが、間違いありませんか。
  68. 伊關佑二郎

    ○伊關政府委員 基本関係はほかの懸案が解決しました上でやろうということになっております。ですから、全部の懸案が解決いたしますと基本関係もやるというふうな順序になります。
  69. 松本七郎

    松本(七)委員 そうすると、李ラインあるいは財産請求権、これらの解決の後に基本関係に移る、こういう順序ですか。
  70. 伊關佑二郎

    ○伊關政府委員 最後の調印をいたしますときは同時でございますけれども、話の順序は、諸求権とか法的地位とか漁業とか、これらについて大筋の話し合いがついてしまったその上で基本関係に入る、こういうふうに考えております。
  71. 松本七郎

    松本(七)委員 今のお話ですと、われわれの考えでは、韓国政府というものの国際的な地位がどういうものであるか、日本側としてどういうふうにこれを認めているのか、また韓国側がどのようなものとして日本に認めさせようとしておるのか、これについての合意が成立しないで、他の一切の懸案の解決ができるものだろうか、その点がはっきりしなければ、他の懸案の解決は私は不可能じゃないか、と思います。どうでしょうか。その韓国政府の国際法上の地位というものがはっきりしないで、そして他の懸案の解決をやろうといっても無理じゃないか。ですから、まず日本としては、この韓国政府の国際的な地位というものをどのように認めているか、韓国としては、日本政府に対してどのように認めさせようとしておるのか、この点を少しはっきりしていただきたい。
  72. 伊關佑二郎

    ○伊關政府委員 それは理論的にはおっしゃる通りでございまして、やはりいろいろな問題をやっております間にその問題は出て参ります。われわれとしましては、四八年のあの国連の決議に従ったものが韓国の地位である、こういうふうに考えております。請求権にいたしましても、韓国だけについて今議論をしているわけでありますが、やはり確かにそういう問題は交渉過程においておのずから出て参り、おのずから意見の一致が見られていく、こういうふうに考えております。
  73. 松本七郎

    松本(七)委員 今の御説明では四八年十二月十二日の決議によるものということですから、そうすると全朝鮮を代表する政府としてではなしに、ある部分における、つまり三十八度線以南における民意を代表する政府、こういうふうに理解していいのですね。
  74. 伊關佑二郎

    ○伊關政府委員 まあ非常にむずかしい点がございますが、現実的に見ればそうです。しかし一つの国家に一つ政府というふうな観点から見ますと、やはりある種の正統政府というような観念も出て参りますが、現実には三十八度線以南に限られております。ですから、あの決議がこの辺をぼやっと言っておりますから、あの決議を引用するのが一番いいだろう、こういうふうに考えております。
  75. 松本七郎

    松本(七)委員 今までの政府説明もそうなんです。唯一の合法政府といいながら、しかしそれでは全朝鮮を代表するかというと、いやそうではない、それは三十八度線以南の民意を代表する政府だ……。そこのところははっきりしておきたいと思う。間違いないですね。
  76. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 今までの答弁で何回も申し上げておりますが、その支配権は三十八度線から北に及んでないという事実を頭に入れて交渉しております。
  77. 松本七郎

    松本(七)委員 そうすると、南ベトナムの場合、あのときの御説明で、南ベトナム政府が全ベトナムを代表する、こう言われましたね。その南ベトナムは現実に全ベトナムを代表してない。北と南に分かれておる、支配権は北には及んでおらない。しかし南ベトナムの場合は、南ベトナム政府は全ベトナムを代表する。朝鮮の場合には、全朝鮮を代表する政府ではなくて、三十八度線以南に限られる、こういうことになるのはどういうわけでしょう。
  78. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 これは国としての成立の過程を見ていただけば、その差異が明瞭だと思いますが、条約的の法理解釈を中川条約局長からいたさせます。
  79. 中川融

    中川政府委員 ベトナムの場合は、御承知のように一九四八年の国連決議のようなものがございません。従ってベトナムは、初めからベトナム一国ということで、その正統政府がどちらであるかということで、北ベトナム政府ができた事実もございますし、南ベトナムの政府ができた事実もあるのでありまして、要するにおのおのの政府が全ベトナムを代表するということで初めから始まっておるわけでございます。一方韓国の方は、選挙が行なわれましたのが四八年でございまして、それが国連監視下に選挙が行なわれた、その選挙が三十八度線から南にしか実施できなかった、そういうふうなことから、国連自体で、三十八度線以南に有効に支配権を及ぼす唯一の合法政府ということを決議しておるのであります。従って韓国自体は、全朝鮮の正統政府であるというような主張はしておるでありましょう。しかし、世界各国——国連の各国は、国連決議の趣旨に従ったこれが政府であるというふうに初めから観念いたしておるのでありまして、その間、ベトナムと韓国とはおのずから地位が違っておると考える次第でございます。
  80. 松本七郎

    松本(七)委員 そうすると、ベトナムの場合は全ベトナムを代表するが、朝鮮の場合は比較的限定されたものだ、こういうことになるわけですね。そうすると、日華条約も、ある意味では、つまり条約適用地域では限定されているけれども、賠償問題などでは全中国を代表している、こういうふうに解釈されておりましたね、これは間違いないですね。
  81. 中川融

    中川政府委員 その通りに考えております。
  82. 松本七郎

    松本(七)委員 そうすると、この日華条約の場合よりも朝鮮の場合はより限定されている、こういうことになりますか。
  83. 中川融

    中川政府委員 そういうことになると思います。
  84. 松本七郎

    松本(七)委員 そうすると、今の御説明によると、いよいよ南朝鮮政府というものは地方政権というふうな性格を持ったものになります。そういう地方政権的な、非常に限定された政権と国交正常化することが一体どういう意味を持つか。さっきは統一ということを目途にするとは言われながら、これは口だけで、現実のそういう事態から考えて理論的に推していくと、これは結局今の分裂を固定化する役しか果たさないということになると思います。こういう限定された南の政権と国交正常化するということは、どうでしょう。
  85. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 統一が望ましいことは、だれもそう思うわけでありますが、それじゃ現実に統一がどういう形でできるか。われわれは、民主主義建前からすれば選挙だ、住民の意思によってどういう政権を統一する国のもとに作るべきかをきめることがいいのだと思う。ところが現実の問題としますと、韓国側は二千三百万人の人口、北鮮側は千百万人といわれておる。そうすると、地方政権とおっしゃいますけれども韓国の方が非常に大きな地域を占めておるわけです。そこで今までみたいにはっきり主義信条の違う体制のもとに両方があって、それで選挙をやったら、韓国側の投票の方が多いだろうと思われます。それじゃ一体どうして統一がすぐできないか、こういうことにもなるわけですが、なかなか統一というものは言うべくしてできないのじゃないかということにもなるわけです。そこで、わが国は韓国との間には事実上のいろいろな交流はあるわけでして、ことに最近韓国のいろいろな学生諸君だの運動の選手だのが来てやっておる。一般的にいえば通商関係もある。そういう関係をもっと軌道に乗せる必要があるじゃないか。しかも海はほんとうの共通の海を使っておって、そこに漁業の問題が非常に厄介な形で存在している。李承晩ラインというものもある。そういうものを解決して、何といっても近い国なんでありますから、その間の関係を正常化する、こういう意味における国交の調整ということは、正規の形でやるのがいいじゃないかと思われるのは、私は常識上当然だと思います。なればこそ、今までの政府も過去において四回も会談し、今度で五回目のわけでございます。これは日本国民としてとにかく至当であると考えて従来からもやっており、また今もやっておる、こういうことだとお考えを願いたい。
  86. 松本七郎

    松本(七)委員 今の北の事情なりあるいは南の事情からいっても、先ほど大臣の言われたような国連監視下選挙なんということはほとんど実現の見込みがない状態にだんだんなってきている。北の方からの呼びかけである完全な自由な選挙、あるいはそれができなければ国家連合でいこう、さらにそれが一挙に実現がむずかしければ、経済委員会なりあるいは民族委員会経済的な交流、文化の交流をやろうというようなこの呼びかけが非常に大きな反響を今南でも呼んでいるわけです。ですから今のような御趣旨で、今日、地方政権にひとしい南の政府と国交正常化をやろうといっても、私は南の韓国自身がそれを認めるかどうかさえ問題だろうと思います。そういう中で、正常化される場合の形式はどういうふうになるんですか。何か新たに条約でも結ぶということになりますか。
  87. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 韓国国民は、李承晩時代に特にそういうふうによけい感情をかきたてられた点もあったと思いますが、過去において日本によって非常に苦痛をなめさせられた、そういう感じを持っているわけです。それが最近非常に緩和の方向に向かってきた。いつまでもこういう気持でいたんではいけない、こういう気持に向かってきつつある。私どもはそうした感情を大事にして、やはり近い国の国民の感情というものをわれわれに親愛感を持たせるような方向にするということが必要だと思っているのです。そういう意味において韓国との関係をもっと正常なものにしていく、できることからまず始める、こういうことであるわけです。その場合の条約の形というのは、条約局長からまた専門的にお答えいたさせます。
  88. 中川融

    中川政府委員 今日韓交渉をやっておりますが、まだ実は条約の形あるいは協定の形というような格好で交渉しているのではないのでございまして、実質を交渉している段階でございます。その実質が形を結びました際にどんな形をとって参りますか、これはその後の問題になると思うのでありますが、あるいは一本の条約にいたしまして、その中にいろいろの事項を規定いたしますか、あるいは数個の条約ができますか、そこらあたりはまだ実は検討いたしていないのでございます。もっぱら実質問題を今やっておるところでございます。
  89. 松本七郎

    松本(七)委員 その可能性を聞いているのです。その内容にまでわたった御説明は無理かと思いますが、条約を新たに結んでやる場合、あるいは条約なしで大公使の交換というようなこともあるわけでしょう、そういうこともあり得るわけでしょう。
  90. 中川融

    中川政府委員 もちろん請求権の問題でありますとか、あるいは漁業の問題でありますとか、そういう問題については何らかの形の協定が要るわけでございます。国交正常化で大使を交換するということについてはたして条約が要るかどうか、それはまだ今後の交渉の様子を見てみないと何とも言えません。単に大使を交換するだけでありますれば、これは必ずしも別個の協定とか、条約が要らないとも言えるのでありまして、そこらは今後の交渉の様子によってきめていくことになろうと思います。
  91. 松本七郎

    松本(七)委員 それは、単なる大使の交換だけになるかどうかは今後の交渉によってきまるでしょうけれども、かりに大公使の交換だけになった場合、その場合は新たな法律、在外公館設置法の改正というような形で新たに出てきますか。
  92. 伊關佑二郎

    ○伊關政府委員 この点は設置法などでなくてもすでにいつでも開けるようになっております。在韓大使館というものはすでに外務省の設置法その他に入っています。
  93. 松本七郎

    松本(七)委員 それはいつの法律でそういうふうになっておりますか。
  94. 中川融

    中川政府委員 これは最初に在外公館設置法ができました際に、韓国大使館は当然設けられるものという前提のもとでありましょう、在韓国日本大使館というものがすでに入っておるのであります。しかしながらこれはもちろん実際にはまだ置けませんから、そのまま実施しないままに残っておるのでございますが、法律的には、必ずしも新しい条約とか法律とか要らない形になっておると思います。
  95. 松本七郎

    松本(七)委員 そうすると、それは最初の設置法のときですか、昭和二十七年……。
  96. 中川融

    中川政府委員 的確に覚えておりませんが、おそらく最初の設置法のときだったと思います。
  97. 松本七郎

    松本(七)委員 そうなると、これは交渉過程で、条約になるかあるいは単なる大使の交換になるか別として、大使の交換ということになった場合は、もう新たに国会にはからずに大使の交換ができるわけですね、政令だけで。
  98. 中川融

    中川政府委員 それは、大使の交換に関する限りはできると思います。しかしその時期は、おそらくそのほかのいろいろきめます事項、それと一緒の時期に大使の交換も行なわれることになると思いますので、ほかの実質問題についての協定なり条約なりの御審議を願いまして、国会の御承認を得た上で大使の交換ということになるのじゃないかと思います。従って、時期としてはそういうことになると思いますが、大使館の設置、それだけから申しますれば、特にあらためて国会の御承認はなくてできる形式になっておると思います。
  99. 松本七郎

    松本(七)委員 これは非常に重大な問題ですよ。大臣、これは一つよく考えていただきたいのですが、先ほどのアジア局長の御説明によっても、懸案の解決をして、そして国交正常化になるか、あるいはその交渉過程では、つまり大公使の交換だけで一応の国交正常化をするということも考えられる、それは今後の交渉によってだ、こういうわけですね。もしも交渉の結果、すべての懸案解決はなかなかむずかしい、しかしとにかく大公使の交換だけはやろう、こういう方針を今後政府がとった場合、在外公館設置法が昭和二十七年制定されたときに、すでに韓国には在外公館の設置ができることになっている、そういう今の御説明によりますと、国会審議をせずに大公使の交換というのはもうできる状態になっているわけですね。しかし先ほど申しますように、朝鮮の場合にはいろいろな複雑な問題がからんでおる、日本の今後の運命に重大な影響のある国交正常化なんですから、それは、政府はこれが非常に国民利益になるという考えを持っておられても、われわれ初め多くの国民がこれについては心配している。そういうときに、かりに二十七年の在外公館設置法にそれが含まっておって、もう政令だけでできるような状態になっておっても、それを実行するまでには、十分国会審議を経て、そして国民の世論を問うてこれを実行するということが非常に大事なことであると思いますので、一つはっきりこの点は大臣から約束しておいていただきたいと思います。
  100. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 今松本さんの御質問は、大使を置く場合に別に法律が要るかという御質問であったのでありますから、その問題は各省設置法ですでにきまっております、こういう答弁があったので、その答弁があったからといって、やみくもにぱっと政令でやってしまうんだろうという御心配は要らないだろうと思います。これは私どもは十分国民利益のためを思ってやっておることなのでありますから、よく御相談をしながらこの問題は片づけたいと思います。ただ、松本さんいろいろ御心配になっておられますけれども、私は、朝鮮統一というものはすぐできるんだから、そのあとに待て、こうおっしゃいますが、まず第一に、できるかどうかということの認識の問題、私ども判断ではなかなかできないだろうと思う。かりにできた場合、それじゃ今より非常に有利になるかどうかということも考えなければいけない、かれこれ考えて、私は今のような行き方が最も現実的であり、かつわれわれ国民利益にも合致し、また韓国国民利益にも合致する、こう考えてやっておることであるのであります。
  101. 松本七郎

    松本(七)委員 私が念を押したのは、設置法でもうすでにきまっておるということになれば、政府がずるくかまえれば、これは国会審議をしないでやれる建前になるわけでしょう。だから十分相談すると言われても、それはどこに相談するのか、国会審議を十分経てやるというはっきりした言明をいただかないと、相談するといっても自民党だけに相談するという手もある。ちゃんと国会審議を経ると言って下さい。
  102. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 国会というものは話し合いの場でありますし、わが内閣の方針としても重要問題はできるだけ御相談しよう、こういう建前でございますから、何かずるくかまえてどうこうという御心配がありますけれども、あまりそういうふうにお考えにならぬでいただいたらどうかと思います。
  103. 松本七郎

    松本(七)委員 言葉を濁す必要はないでしょう。これほど重要な問題ですから十分国会審議を経て実行する、こう言っていただけばいいのです。それは二十七年のときはおそらく外務委員会審議したものだそうですね。内閣に移ったのはその後だから。
  104. 中川融

    中川政府委員 設置法全体で外務委員会で御審議になったのだと考えております。
  105. 松本七郎

    松本(七)委員 それではさっき懸案のことを少し御説明あったのですが、日本としては大臣李承晩ラインを認める用意はあるのですか。
  106. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 今までも認めておりませんし、今後も認める意思は全くありません。
  107. 松本七郎

    松本(七)委員 そうすると、いわゆる韓国の対日請求権というものは認められるのですか。
  108. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 これは交渉の題目になっておるわけです。どのくらいのものがあるかということになるだろうと思います。
  109. 松本七郎

    松本(七)委員 そうすると、請求権は認めるが、どのくらいのものになるかが問題だと言われることは、いわゆる日本の請求権との相殺を主張する、こう理解していいですか。日本の請求権との相殺も認めないでまるまる韓国の請求権を認めるか、あるいはいわゆる相殺を主張して、その関連で認める程度の問題だ、こういうわけですか。
  110. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 一九五七年の十二月三十一日に出されておりまするいわゆるアメリカの解釈、これによりますと、日本の対韓請求権というものはサンフランシスコの講和条約第四条(b)項で放棄されておるというけれども、そうした放棄された事実を頭に入れて、今度取りきめをする場合に四条(a)項によってやっていく、こういうことになっておりますから、一種の相殺思想といいますか、そういうものが出ているわけです。われわれはそれにのっとっていくわけであります。
  111. 松本七郎

    松本(七)委員 相殺思相を主張される方針ですか。
  112. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 そうであります。
  113. 松本七郎

    松本(七)委員 そうすると、正式の国交ということはなかなかむずかしくなると思うのですが、その場合に正式国交がなくても南朝鮮との経済協力はやられるおつもりですか。
  114. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 今のところ考えておりません。
  115. 松本七郎

    松本(七)委員 そうすると今後はどうですか。やはり正式国交がなされなければ、経済協力もしないのか。
  116. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 今御承知のように韓国側が国交正常化の後でなければ経済協力の問題は考えない、こういうことを言っているわけですね。民議院の決議とかなんとかいうのでそうなっているわけです。ですから私ども考えてない。
  117. 松本七郎

    松本(七)委員 いやいや日本のことを聞いているのです。
  118. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 われわれは考えておりません。
  119. 松本七郎

    松本(七)委員 正式国交しなければ経済協力はやらない、こうですか。
  120. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 ですから今申し上げますように、先方がそう言っておるものを何もやる必要はない。向こうがいやだと言っておるものを考える必要はないわけですね。ですから考えてないのです。
  121. 松本七郎

    松本(七)委員 そうすると向こうが、今大臣の言われるように正式国交以前の経済協力はしないと言っておる限りは、日本もそれを主張する意向はないということですね。
  122. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 そういうことです。
  123. 松本七郎

    松本(七)委員 李ラインもやはり向こうはあくまで主張するでしょう。それはどうですか。
  124. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 これは交渉過程でないとわかりません。しかしあくまで主張するかどうか、これはそういう建前はあるでしょうけれども、ものを合理的に判断するという建前を張勉政府がとっておられますから、この問題については十分話し合うことができる、かように思っております。
  125. 松本七郎

    松本(七)委員 韓国張勉政府側はどうなんですか。国交正常化については今までと態度が違ってきておるでしょう。
  126. 伊關佑二郎

    ○伊關政府委員 今までと違うとおっしゃるのは、李承晩政権時代と違うという意味かどうか存じませんが、懸案解決の上での全面的な国交回復ということが理想的な形ということではその通りであります。
  127. 松本七郎

    松本(七)委員 それから漁業問題については実質的な討議に入る方針ですか。
  128. 伊關佑二郎

    ○伊關政府委員 今週から実質的な討議に入っております。漁業に関する資源論に入っております。
  129. 松本七郎

    松本(七)委員 資源論というと、いわゆる技術的検討というやつですか。
  130. 伊關佑二郎

    ○伊關政府委員 私も専門家でございませんのでよくわかりませんが、漁業協定を結ぶときには大体資源論から入るのだというふうに聞いております。
  131. 松本七郎

    松本(七)委員 その場合韓国周辺の海域を対象とするのですか。
  132. 伊關佑二郎

    ○伊關政府委員 問題になっております水域が対象になるわけでありますけれども、魚は動きますので、どこまで動く魚を追っていくかというところがまず問題になると思います。
  133. 松本七郎

    松本(七)委員 そうすると技術的討議の内容はまだ全然きまってないのですか。
  134. 伊關佑二郎

    ○伊關政府委員 専門でございませんから私もあまりよく存じませんが、要するに資源論をやるということでやっておるわけであります。
  135. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 漁業の問題に対しては、今までの交渉では先方内容の討議に入るということを全然拒んだわけでありますが、今度は一つ内容の討議に入ろうということになってきたわけです。この窓口は水産庁でございますので、水産庁の方から向こう専門家と専門的な見地から話し合いに入っていくということになっております。私どもはそうした窓口を開いておるわけなんで、内容的な詳しい問題はよくわかりません。
  136. 松本七郎

    松本(七)委員 さっき出た相殺思想なんですが、三十二年十二月三十一日付のいわゆる合意議事録の中の請求権に関する部分についてというのは発表になったわけですが、これの全文はお出し願えないのですか。
  137. 中川融

    中川政府委員 合意議事録はその会談の際に双方の代表がどういうことを言ったか、そのうち将来に証拠に残しておく必要があるものを合意議事録にするわけでございまして、これは慣例といたしまして、やはり非公表のものでございます。しかしながらそのうちの今の請求権に関する分といいますか、財産請求権に関する分だけはアメリカの解釈とどうしても関係がありますので、アメリカの解釈を会談の中途ではございますが公表するということになりました関係上、その分だけは特にあわせて公表しようということでこの間双方で同意いたしまして、一緒に公表いたしたわけであります。従ってそれ以外の合意議事録につきましてはやはり日韓双方としては依然としてこれは非公表にしておく方が適当であるという考えに立ったわけでございまして、従ってこれは公表しないことになっております。それ以外の分は公表しないことになっております。
  138. 松本七郎

    松本(七)委員 それは両国の話し合いですか。
  139. 中川融

    中川政府委員 両政府間の話し合いでございます。
  140. 松本七郎

    松本(七)委員 それからこの前川上さんの質問に対する御答弁だったと思うんですが、請求権に関する日本の従来の主張を撤回する、アメリカ側の解釈が出てから日本の主張を撤回したわけでしょう。そうすると三十二年の十二月三十一日から日本の主張は変わった、こう解釈していいですね。その点ちょっと確認しておきたいと思います。
  141. 中川融

    中川政府委員 撤回いたしましたのは、三十二年の十二月三十一日でございますので、それから日本の解釈が公に変わったということがはっきりしたわけでございます。
  142. 松本七郎

    松本(七)委員 そうすると結局それ以後は日本側が一方的に請求権を放棄して、そうして韓国側の請求権だけが残るということを日本政府は同意した、こう理解していいですね。
  143. 中川融

    中川政府委員 その点が第一点でございますが、そのほかに、要するに日本側の請求権が放棄されたという事実は韓国側の請求権を交渉する際に考慮に入れるべきであるということが第二点としてあるわけでございまして、その両方について日本は同意したわけでございます。
  144. 松本七郎

    松本(七)委員 そうするとその次に問題になるのは、日本政府としてはさっき大臣がちょっと言われたようにどの程度韓国の請求権が消滅したとかあるいは満たされたと考えられるか、これは問題になるわけですね。
  145. 中川融

    中川政府委員 そういうことでございます。
  146. 松本七郎

    松本(七)委員 だからどの程度で満たされるものと考えるんですか。
  147. 中川融

    中川政府委員 その点をこれから交渉できめようというわけでございます。
  148. 松本七郎

    松本(七)委員 そうするとまだ全然めどがつかない……。
  149. 中川融

    中川政府委員 これから交渉するわけでございます。
  150. 松本七郎

    松本(七)委員 これはいつですか、だいぶ前ですね、中川さんが書いておられるのは。例の久保田発言のとき久保田発言が一九五三年の十月二十一日ですね。この決裂した日韓会談の様子が翌年の一九五四年の初めに出たんです。これは「世界動き」特集号ですね。中川さん、あれを見られたでしょう。
  151. 中川融

    中川政府委員 特に記憶しておりません。どういうことが出ておりましたか……。
  152. 松本七郎

    松本(七)委員 それにこういうことが書いてあるんです。この会談は約二週間続いた。この決裂したときの会談は……。韓国側の主張は、従来の通り日本側が明治四十三年韓国を併合し、自来三十六年間占領を続け、韓国を奴隷にした、まあそういう観念で出発しているということが解説されているわけですよね。そうしてここから一切の議論を引き出す態度であった。これには中川さんもちゃんとそれを書いておられる。たとえば財産請求権の問題に関して日本側が戦前韓国にあった日本の公有財産は平和条約によって韓国がこれを取得することは認めるが、日本国民が持っていた私有財産、カッコして終戦時の価格で約百二十億円ないし百四十億円、金額が出ているんですよ、に対しては請求権を有すると主張するのに対し、これは日本側がそういう額をあげて主張したのですね、に対して韓国側は日本人は在外私有財産に対しても一切の請求権を認められないのであるとして抗弁した。そうして、続いて財産請求権の問題は、日本における韓国人の財産九十億円ないし百二十億円に関する請求権だけに関して考えられる、韓国側が主張した。こうして両方の主張は金額をあげてなされたように書いてあるのですね。そういう事実はあるのですか。
  153. 中川融

    中川政府委員 会談過程におきまして金額が正確に言及されたということはないと考えます。従って日本韓国における財産が百四十億ですか、百八十億ですか、そのころの価格であったということも、それは日本側のその当時の推算ではないかと思います。また韓国側が日本に対し百二十億ですか、そこでいわれておる、それを主張したということも、それは非公式の推算ではないかと思います。会談録を見ましても、特に金額が双方の代表から言及されたということはない模様でございます。
  154. 松本七郎

    松本(七)委員 続いてこの米国の解釈なるもの、見解、三十二年十二月三十一日に示された米政府見解というのは、平和条約締結当時は日本は全然それは知らなかったわけですか、どうですか。
  155. 中川融

    中川政府委員 一番最初のアメリカの解釈のいわば中核をなすクォーテーションで引用してある部分、これが韓国側に提示をされましたのが、平和条約が発効した日かその次の日でございます。従ってそのときに韓国側に知らされたわけでありますが、同じ年の五月十五日だったかと思いますが、在ワシントン日本大使館にもその写しをアメリカ側から送ってきておるわけであります。このときはすでに第一回会談は終わったあとでございまして、従って第一回会談中は、日本政府アメリカ側の解釈なるものをはっきりは知っていなかったわけでございます。
  156. 松本七郎

    松本(七)委員 そうすると、平和条約当時は依然としてこのような、そのあとわかったアメリカの解釈というものは、国際法違反だという考えであったと理解していいわけですね。
  157. 中川融

    中川政府委員 第一回の会談でわが方から主張した通りの解釈をとっていたわけでございます。
  158. 松本七郎

    松本(七)委員 第一に問題になりますのは、その平和条約の当時は、それがわかっていなかった。それから日本側の解釈もまたアメリカ見解とは違った解釈を持っておった、こういうことになると、その後解釈を変えるについて日米間だけでこれは解釈を変えていいものかどうか、平和条約というのは日米間の条約じゃないのだから、はたして日米間だけで、つまりそういった米国だけの解釈によってこれをやることが正しいのかどうかという問題があると思う。その他の連合国の意見を一体聴取したことがあるのかどうか、その点はどうでしょうか。
  159. 中川融

    中川政府委員 本件につきましては、このアメリカの解釈ということは、もちろん向こう側から知らしてきたわけでございまして、五七年になりましてまたそれを敷衍いたしまして、さらに知らしてきたわけでございます。アメリカの解釈はそれではっきりわかっておるわけでありますが、それではほかの連合各国の意見を聞いたかどうかというお尋ねでございますが、これは特に聞いておりません。というのは、日本政府が解釈を変えました理由は、アメリカの解釈といわれるものが、それが条約のすなおな解釈である、それが適当である、それの方がむしろ初め日本側がやっておりました解釈よりも適当である、と考えましたから変えたのでございまして、特に連合各国がみなその解釈をとっているから日本もそれに従ったのだということではないわけでございます。条約の解釈は、それぞれ当該国がこれをなし得るわけでございまして、従って、特にこの条約に参加いたしました連合各国の意見を聞きまして、その過半数がこういう解釈だからというわけで何も解釈を変える必要はありません。また解釈について疑義があれば、最後には国際司法裁判所に訴える道も開かれておるのでございまして、むしろ日本政府が自発的にアメリカの解釈が適当であるというふうに考えまして、これを採用したわけでございます。
  160. 松本七郎

    松本(七)委員 解釈は独自にできるとしても、そうするとその次に起こる問題は、三十二年に解釈を変更したことによって、解釈の変更だけで国の財産あるいは私有財産を放棄することが一体できるのかどうか。その法的根拠はいかがですか。
  161. 中川融

    中川政府委員 解釈の変更と申しますけれども、最初からそういうふうに解釈すべきであったということでございまして、その政府の解釈を変えたから、それによって放棄されたのだという法律論にはならないのでございまして、要するに、最初からそういう意味の条項であったということになるわけでございます。従って平和条約発効と同時に在韓日本財産は権利をすべて持ち去られたというふうに解釈するわけでございます。
  162. 松本七郎

    松本(七)委員 それはちょっとおかしいじゃないですか。あなたは最初からそうすべきだったと言っても、最初は全然違う解釈が政府の正式の解釈として出されておるのです。その解釈に基づいて国会承認しているわけでしょう。
  163. 中川融

    中川政府委員 国会で御審議のありました際の議事録を詳細に私も調べてみたのでございますが、この四条(b)項につきましては、明確な発言政府当局からも特になされておりません。また御質問もないのでございますが、その当時の政府当局のこの条項についての説明は、これは新しく実は最後の草案が示された以後に入った条項であって、十分これについての連合国側、起草者側の解釈を聞くいとまもなかった。またあのときの状況を振り返ってみますと、結局条約は草案の段階で非常に関係各国と協議して、アメリカ、イギリス両国が起草にあたりまして協議したのでございますが、サンフランシスコに会議が開かれましてからは、各国の意見というものをそれぞれ各国代表が演説する、それが一応終わりますと、そこで調印ということになったわけでございまして、その会議の席上であらためてこれの修正を申し出るとか、そういうような形の会議ではなかったのでございます。四条(b)項というものはむしろ最後の段階において入ったということで、日本代表団としても、はっきりその解釈について、いわば公定解釈というようなものについてアメリカ側と打ち合わせたという記録がないのでございます。それで国会における御審議におきましても、むしろそういう趣旨の説明政府当局からありました。しかしここに書いてあることは、日本の財産はこれでなくなったものである、しかしながらその事実は韓国との請求権問題の協定をする際に考慮に入れるということになるであろう、こういうような説明をその当時政府委員からいたしております。従って、そういう趣旨で国会は通った、国会の御承認を得たものであると思うのでありまして、政府側のそのときの答弁を見てみますと、今のアメリカの解釈とそう違ったものでもないようでございます。むしろ、わが方が日韓会談において当初から正規な法理論を展開いたしまして、請求権というものは依然として日本に残るのだということを主張いたしましたのは、むしろ交渉の最初の過程におきまして、初めから日本が全然日本財産はないのだ、こういうような主張をいたしますと、これはほんとうなら韓国から請求権の膨大な要求がありましても断われるものも断われなくなるといういろいろな事情考慮いたしまして、いわば交渉技術という点も考えに入れましてこういう主張をしたとも見られるのでありまして、交渉がだんだん進みますと同時に、わが代表団といたしましても、やはりよりすなおな、より適当な解釈に変える必要を認めまして変えた次第でございます。初め調印し、国会の御承認を得ましたときの解釈と違った解釈を特に政府が三年前からとったということでは必ずしもないと思うのでございます。これは日韓交渉という交渉を片方にやっておりました関係上、このような過程になったわけであります。
  164. 松本七郎

    松本(七)委員 いろいろ交渉過程で戦術上だとかその他の理由から解釈を変えるのだという、その経過は別として、いやしくも私有財産なり国の財産についての取り扱いがこれで変わるわけですね。あなたの書いておられるシリーズによっても、最初の解釈は、「日本側は、サンフランシスコ条約第四条(b)項で、日本が認めた米軍の処置は、占領軍としての米軍が戦時国際法で合法的に行いうる限度の処置であって、私有財産を没収するようなことは、戦時国際法において認められないところであるから、サンフランシスコ条約で認めた限度には入らないと主張した。又、いわゆる「取得命令」それ自体も必ずしも日本財産を完全に没収したものと解すべきでなく、戦時国際法で認められた限度内の敵国私有財産管理の処置と見るべきであり、従って原権利者の補償請求権は依然残っていると解釈すべきであると主張した。」こういうふうになっているのです。そうすると、日本国民の私有財産の補償は、今度は日本国政府に対しては依然としてこれは要求できるということになりますか。憲法二十九条や八十三条の関係になってくると思うんですがね。
  165. 中川融

    中川政府委員 その点は、平和条約十四条(b)項あるいは十六条によりまして、在外日本私有財産があるいは連合国あるいは国際赤十字に引き渡されております。その処置と同じことになると思うのでございまして、平和条約によりましていわば所有権が持ち去られた在外日本財産というものに対する措置と同じことになると思います。
  166. 松本七郎

    松本(七)委員 在外日本財産と言われるけれども朝鮮の場合は日本の法秩序の中にあったのですね。だから、その点は普通の在外財産とは法律的には違うと思うんですが、どうなんでしょうか。
  167. 中川融

    中川政府委員 日本の法秩序のもとにあったと申されますが、たとえば関東州租借地も日本の法的秩序のもとにあったわけでございますが、ここの財産もやはり同じようなことになると思います。戦争まであるいは終戦まで日本の法的秩序のもとにあったかどうかは別といたしまして、平和条約によっていわばきれいさっぱりと、そういうものが要するに日本の手から離れることになったのでございます。従って、日本の法的秩序のもとにあったかどうかということにおいて特にその点の差異は出てこないように思います。
  168. 戸叶里子

    戸叶委員 関連して、今松本委員の質問を伺っておりますと、中川局長は、日本アメリカ韓国にある日本の財産を勝手に所有してしまっても、それは戦時国際法上違反でないというような考え方を最初から持っていたかのような発言をされておるのでございますけれども、そういうふうな態度で私は最初から臨まれたのではないというふうに考えます。なぜならば、この間木原さんが予算委員会で質問されたときに、小坂外務大臣の御答弁を速記で読みますと、こう書いてあります。「これは御承知のように一九四五年に軍令によりまして、韓国にありましたわが方の財産については取得し所有するということに、米軍がいたしておるわけであります。四八年にこれが韓国へ引き渡されておるのであります。一九五一年に平和条約ができまして、その四条(b)項におきまして、引き渡されておるという現状を認めたのであります。そこで一九五二年に日韓の交渉が最初に行なわれましたときに、ただいま木原さんが言われたような趣旨をもって、わが方から、占領軍は戦時国際公法に認めたことしか行なえないのであるから、これは私有財産には及ばない、従って四五年の軍令においては、これは管理したにすぎないから、管理権の移転というものはあったけれども、それを認めたにすぎないのだという主張をした」が、これがもとになって韓国を刺激して先方が激高して、そしてこの交渉を断わったんだ。それからアメリカ見解というものが出てきて、そして日本アメリカ見解が正しいのだというふうに見直したということを答弁されております。こういうふうにこの答弁を見ましても、アメリカ韓国にあった日本の私有財産まで全部没収してしまうというその権利というものは、国際法上認められないという考え方日本は初め立っていたはずです。それがこのアメリカ見解というものに日本が服従したということになるのではないか。これはすなわち国際法上の考え方というものを、このときから日本が曲げて考えてきたとしか私たちは考えられないのでございますが、この点はいかがでございますか。
  169. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 一九五二年の最初の交渉のときに、さような主張をわれわれがしたことは、今お読み上げになった速記録の通りでありますが、そういう主張をこっちがして、そして韓国側との間に全く意見が対立して膠着している。そこで米軍解釈というものが出て、これは五七年に出たわけではなくて、その前から出ておって、結局五七年になって双方が中に立った米軍の解釈というものを認めたわけなんです。アメリカの解釈にわれわれは屈従したのではなくて、両方意見が全く相反しておるので、こういう解釈でどう思う、これはもっともですということで両方合意したわけなのです。その中には先ほどから申し上げておるように、日本が私有財産を放棄したという事実を、今度は四条(a)項の特別取りきめの際に考慮するのだ、こういう相殺思想において認めたわけなのです。確かに占領軍が軍令によって私有財産を取得し所有するということは、それをまた没収を認めるということは、ハーグの陸戦法規の四十六条を越える措置だと思います。しかしこの越える措置というものは、やはり戦争の規模がいろいろ変わり、五十年前のハーグの陸戦法規ができた当時といろいろ状況が変わっておるのだから、そのもとにおいて新たなる解釈というものが出てくることは、これは国際法というのは御承知のように慣習法のような、慣習の積み重ね的なものが国際法の一つの基礎になっておるわけですから、そういう意味においてわれわれはそれを認めた、こういうことであるのであります。
  170. 戸叶里子

    戸叶委員 関連ですからこれ以上追及しませんが、それではこういうふうに占領軍がどこかの国へ行って私有財産を没収して、そうして勝手にそれをすることができるというようなことが国際法上許されると、これからの国際法はそういうふうに解釈するのだと、こういうふうにお考えになるのでしょうか。そしてまた世界各国ともそういう解釈のもとにあるのかどうか、この点も伺いたいと思います。
  171. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 この韓国財産に関する問題は四条でございますけれども、そのほかにもさっき話が出ましたように、十四条(b)とかあるいは十六条においては、ことに中立国にある財産まで国際赤十字に出しておるわけです。ドイツの場合においてもこれは同様なことが行なわれておるのであって、やはりこうしたことが一つの先例になっていくということになろうかと思います。
  172. 戸叶里子

    戸叶委員 これは先例になって、そして戦前の国際法上から見たこういう問題に対する解釈が戦後は変わった、こういうふうに理解するわけでございます。
  173. 中川融

    中川政府委員 国際慣習法が今度の戦争以後に変わったというのは行き過ぎだと思います。そこまでまだ慣習が確立したわけではございませんが、そういう事例が相当出てきておるということは事実でございます。
  174. 戸叶里子

    戸叶委員 この問題は非常に重大な問題ですから、この次の機会にもう少し深くやってみたいと思います。
  175. 松本七郎

    松本(七)委員 最後に相殺思想についてですが、これは外務省見解と言われている。だれが言われたか知らないけれども、他の機会で述べられているところと一致するところを見るとおそらく中川さんではないかと思うのですがね。例の外務省が日韓請求権に関する文書を公表したときの外務省見解として、どの程度まで相殺されるかが問題だ。しかしこれは機械的に財産権の大小を比較して突き詰めたものではない、こういうことが言われているのです。そうすると何で一体はかるのですか。この相殺の定義といいますか……。
  176. 中川融

    中川政府委員 これは何ではかるかということは非常にむずかしいことでございまして、はかるものさしというものがきまっていないわけでございます。これを考慮に入れるということだけはさまっているわけでございますが、どの程度考慮に入れるかということは、アメリカの解釈でも、要するに的確な材料を持ち合わせていないからこれは日韓双方の話し合いできめるべき問題であるということを言っておるのでございまして、それをこれからの会談できめるわけでございますが、ものさしがございませんので、これは非常に困難な交渉になろうかと思いますけれども、その点は今後双方の交渉でお互いの意見の開陳によってそこで打開をはかるということになろうと思います。
  177. 松本七郎

    松本(七)委員 そうすると、ものさしがなくてこれはなかなか困難だということはわかるのですが、少なくとも朝鮮内に置いてきた日本の資産が総額どのくらいあるか、日本側としてはどの程度考えておられるのですか。
  178. 伊關佑二郎

    ○伊關政府委員 完全なものかどうかわかりませんが、日本に引き揚げてきた人たちからの報告を徴しまして、大蔵省でそういう資料を持っております。私はそれが当時の金額で幾らかということは覚えておりませんが、大蔵省で資料は集められるだけ集めております。
  179. 松本七郎

    松本(七)委員 それは出していただけるのですか。
  180. 伊關佑二郎

    ○伊關政府委員 大蔵省とも相談いたしまして出します。
  181. 松本七郎

    松本(七)委員 しかし軍令三十三号によって接収した財産は、これは韓国に引き渡したわけでしょう。韓国に引き渡したという証拠は何でしょうか。
  182. 伊關佑二郎

    ○伊關政府委員 四八年九月何日でございましたか、アメリカ韓国の間の財政並びに財産に関する取りきめというものがございます。これによって渡しております。
  183. 森島守人

    森島委員 関連して。先ほど在外公館設置法で自由に韓国大使が任命できるというふうな御発言があり、小坂さんからは御相談をするというふうな御発言がありましたが、これは国内的な措置と対外的な措置とを混淆しているからこういうことになるのではないか。少なくとも韓国との間には、私は外交使節の交換とか国交の回復とかあるいはその他実質上国交開始に至る諸条項を含んだ条約等ができるものと思う。これらのものを基礎として大使が任命されるということで、国会に対してはぜひとも審議が必要だと思うのですが、これに対するはっきりしたお答えを外務大臣から伺っておきたい。
  184. 中川融

    中川政府委員 条約的な見地の分を私からまず最初に御説明したいと思います。  基本関係についての条約を日韓間で作る必要ありやいなやという問題は、実は非常に大きな問題でございまして、ただいま森島委員御指摘のように、作る方が自然であるという考えもあるわけでございます。われわれ初めはそういう考えでいたのでございますが、この際日韓間に基本的なことをきめる条約を作る方が、大きな政治的な意味ではたして適当であるかどうかという別な見地もございます。従って、そこらのことは今後の様子を見た上で、いわば弾力的にきめていく方がいいんじゃなかろうか。従って、もしそういう基本条約ができないという場合がかりにありとすれば、その際大使の交換だけということであれば、形式的には今の設置法だけでそれでもできるということもあり得るということを申し上げた次第でございます。
  185. 森島守人

    森島委員 先日の御説明によりますと、私ここに速記録を持っておりますが、日本政府に対する準外交機関として設置をされたのだ、こういうような御説明があって、やはり両国政府間に相互承認なり何らかの法的な措置がとられなければ、そのまま在外公館設置法だけで任命するということは私は不可能だと思う。その点対外的な関係と国内的な関係とを混淆しておるんじゃないかと私は思っておるのです。この点をもう一度はっきりしていただきたい。
  186. 中川融

    中川政府委員 もちろん日韓間に大使館をお互いに設置するということをきめます際には、両国政府間の合意が必要でございます。しかし、その合意は従来のほかの国の例に見ましても、必ずしも国会にお出しして御承認を求めるような格好での条約とかなんとかいうことではなくて、あるいは文書の交換とかその程度のものでやられることがむしろ多いんじゃないかと思います。従って、合意は必要でありますけれども、特に条約というような形はとらなくてもよろしいということを申し上げた次第でございます。
  187. 堀内一雄

    堀内委員長 川上貫一君。
  188. 川上貫一

    ○川上委員 私は前会の質問が残っておりますし、また、きょう松本委員の御質疑に対する政府の御答弁の中には、片言隻語ではありましたけれども、大へんな重要な問題を含んでおると私は思います。この点についてはきょうは時間がありませんから私の質問は留保させていただいて、次の国際情勢に関する質疑の場合に適当な時間を与えていただくように、これをお願いして終わります。
  189. 堀内一雄

    堀内委員長 承知しました。
  190. 戸叶里子

    戸叶委員 議事進行について。よんどころない用事で帰られた黒田委員、それから岡田委員その他の委員の希望でございますが、次の国際情勢審議のときには、やはりこの日韓問題についてさらに質疑を続けたいのですから、たとえば大蔵省の関係の方なりそうした質問に答えられる人を十分そろえておいていただきたい、こういうことでございましたので、委員長からそのことをお計らい願いたいと思います。
  191. 堀内一雄

    堀内委員長 承知しました。      ————◇—————
  192. 堀内一雄

    堀内委員長 次に、移住及び植民に関する日本国ブラジル合衆国との間の協定締結について承認を求めるの件を議題といたし、質疑を行ないます。戸叶里子君。
  193. 戸叶里子

    戸叶委員 二、三事務局の方に伺いたいと思います。  まず第一点は、この協定ができることによって従来の移住業務とどういうふうな実体的な変革が予想されているか、この点を伺いたいと思います。
  194. 高木廣一

    ○高木政府委員 現在の移住機構を変えないで、現在の移住機構のままでやっていく方針でございます。
  195. 戸叶里子

    戸叶委員 そうではなくて、この移住協定ができることになって、移住業務の関係で何か画期的な変革なりあるいはこういうふうな点で変わってくるというような変化は見られるかということを伺っているのです。
  196. 高木廣一

    ○高木政府委員 相当変わって参ります。ブラジルに対します移住につきましては、この協定の第一条にもいっておりますように、両国政府がこれを規制し、組織化し、指導していくというのが根本的な方針になっております。そういう意味におきまして、移住者の選考につきましては単に日本政府だけじゃなくて、ブラジル政府も非常な関心を持ちまして、最終決定権はブラジルが持つ。これは従来もブラジルの領事館で査証という面で行なっていたのでありますが、これが表面に出てきまして、ブラジル政府の関心が出てきたわけでございます。われわれもその意味におきましてこの協定の精神が、移住に適した人が選出されねばならないという点を一そう徹底していくという点で、まず第一の変化が現われてくると思います。  それから第二の点といたしましては、送出から移住地に定着いたしますまでの間、両国政府の責任のもとに置かれる。先方の港へ着くまでは日本政府及びその指定団体がめんどうを見る。これは実は日本側といたしましては現在の制度がすでにそういうふうになっております。これが協定上の義務として日本政府の責任が明らかになっておるわけでございます。それから着きましてからは、まず移住者の携行荷物は無税通関の待遇を与えられます。これもブラジルの国内法としては一部無税通関の扱いも受けていたのでありますが、先方の法制上はっきりしない点もございまして、日本側としては協定立場からこれを強く要求するということもできなかったので、いろいろトラブルがございましたが、今度の協定で法律上の権利として先方にこの無税通関を徹底してやってもらうということができるわけでございます。それから移住地に入りましてからの定着についての各種の援助措置も、ブラジル側としては先方経済開発に必要な計画移住については政府が援助する方針でおるわけでございますが、これは協定上の義務となりまして、日本側からも積極的に先方の援助を実施することを要請することができます。また協定上の権利として、日本の海外協会連合会あるいは移住振興会社というような団体が積極的に移住者援護の措置を講ずることも認める。それから自由移住者につきましても、従来はブラジルの公正証書による非常に厳格な契約でないといけなかったのですが、今度の協定が発効いたしまして、立会人二人おればそれで簡単な形式で呼び寄せができるというような点も認められております。それからもう一つ、この協定で規定されております日伯両国の混合委員会がブラジルに設けられ、その事務局が首府に置かれる。そしてこれによってこの協定の精神を機動的に有効に促進する対策が講じられまして、この点従来よりもはるかに活発な移住促進施策ができるのじゃないか、こういうふうに思っております。
  197. 戸叶里子

    戸叶委員 今のお話の中にも出てきましたこの条約の中でいう自由移住というのはどういう意味ですか。呼び寄せによるもの以外に自由移住者に該当するものがあるかどうか、これをお伺いいたします。
  198. 高木廣一

    ○高木政府委員 自由移住と申しておりますのはブラジル側の観念でございます。ブラジルでは自由移住と計画移住に分けまして、計画移住はブラジル側の経済開発に必要な移住計画がございまして、これに乗っている移住者が計画移住。今度の場合は、日伯両国混合委員会で協議して作った計画に乗る移住者が全部計画移住。それ以外の、つまり両国政府の意図と関係なく、自分の個人的な発見のみで行く人、こういうふうに先方の法律には書いてありますが、これはブラジルでは、各国の移住者は、過去五十年間に入国した者の身分まで認める、いわゆる身分制限法というものがございまして、日本の場合は三千人認められておるのですが、このワク内で、雇用契約による呼び寄せの形で行く移住者が自由移住でございます。実はこれ以外に、身分制限は全然関係がないのですが、近親呼び寄せというのがございます。これは今度の協定では全然表面に出ていないので、当然人道上の義務として、ブラジル側でも大体二等親までの親戚の呼び寄せば、そういうワクの制限なく入れておるのでございます。
  199. 戸叶里子

    戸叶委員 五条に立会人とか公証人ということが書かれてありますけれども、立会人、公証人の資格、それからその国籍の規定について伺っておきます。
  200. 高木廣一

    ○高木政府委員 これは何らの制限もございません。
  201. 戸叶里子

    戸叶委員 計画移住という形態は日本人の移住者にだけ適用されているのでしょうか。ほかの国の移住者にもこういう方法が適用されているかどうか。
  202. 高木廣一

    ○高木政府委員 ほかの国も適用されておるのであります。これはブラジル側の法制できまっておるのですが、今度の協定日本に認められ、日本に続いてイタリア、スペインも認められております。
  203. 戸叶里子

    戸叶委員 第十三条は、日本国の権限のある当局が九条にいうところの計画移住者の募集を行なうことになっているわけでごさいますが、この九条の(a)、(b)の農業関係については、従来所管争いの種になっている。外務省、農林というような対立が見られるのでありますけれども、(c)、(d)項の技術者となると、今度はさらに、外務、通産との対立にもなるのではないかということを私たちは懸念するわけでございます。そこで(c)、(d)はどういう中間機関がこの実質の業務を担当するのか、その点を伺いたいと思います。農業関係の海外協会連合会以外に何かこの機関でも設立するようなお考えがあるのかどうか、この点を伺っておきます。
  204. 高木廣一

    ○高木政府委員 これは昭和二十九年の閣議決定で、移住業務の実施については、海外協会連合会、地方海外協会が国内、国外を一元的に行なうことになっておりまして、農業関係につきましてもこれらがやり、技術関係についてもこれらがやる。ただ農業関係の場合には、農業関係の団体の協力があり、技術関係の場合には、農業以外の雇用の場合には、労働省及び職安の協力があり、それ以上の技術の場合には、商工会議所とか通産省とかいうところに連絡するのでありますが、ここでいう指定された団体というのは、われわれといたしましては、外務省が主務官庁でありまして、その下で海外協会連合会、地方海外協会が一元的に行なうという趣旨でやっております。現行のままであります。
  205. 戸叶里子

    戸叶委員 この条文で同化という言葉があるわけでありますが、どういう意味で同化ということをお使いになっているか、説明をしていただきたいと思います。ブラジル人らしくなれということか、それとも日本人であってもブラジル人としてあれ、どういうような意味で使っておられるか、この点を伺いたい。
  206. 高木廣一

    ○高木政府委員 ブラジル語でインテグラシオンということをいっておりまして、これは日本語で同化とも訳しますしあるいは融和とも訳しているのでありますが、自分のいいものを持ちながら相手の中に溶け込んでいくというような意味であります。日本のいいものを失って向こう一色になるという考えではありません。日本性をなくしてブラジル性だけになるということではなくて、日本のいいところを残しながらブラジルに同化していくという考えであります。
  207. 戸叶里子

    戸叶委員 二十七条では、強制送還が行なわれるとは規定しておりませんけれども、同条に該当する者の居住権がどうなるのか、伺いたいと思います。もし送還されるような場合、本人に旅費がないときには一体どうなるんでしょうか。たとえば十五回の国会で、この委員会を通過した、国の援助等を必要とする帰国者に関する領事官の職務等に関する法律によって旅費等の貸付を行なうようなことが規定されておりますが、そういうものがこの場合に適用されるかどうか、この点を伺いたいと思います。
  208. 高木廣一

    ○高木政府委員 この二十七条は送還と関係ございません。三十六条の規定は、実は交渉の経緯では、ブラジル側には強制送還という考えがあったわけであります。これはわれわれが強く反対いたしまして、ことに移住は両国の協力体制である、お互いに利益を得るのだということで、向こうの一方的な都合で帰ることはできないと強力に反対いたしまして、むしろ援助規定に変わったわけであります。従ってあそこへ移住した人が、いろいろのことがございますが、あそこにとどまるのが原則でございます。それで困難があればいろいろブラジル側の社会援助その他の措置が講じられるわけであります。あそこの環境にとどまることがどうしてもできない場合にどうするかということを相談するのがこの三十六条の規定で、日本側といたしましては、憲法の規定がございまして、本人がいやだというものを強制送還する権限は日本政府にはないのであります。それからもう一つ予算の関係がございまして、たとい本人が帰りたいといっても、国援法の援助の予算が十分でないときには政府としてできない、こういう情勢考慮して、先方と相談して援助の措置を講ずる、そしてどうしても帰した方がいいし、本人も帰りたい、日本政府もその予算があるという場合には都合がよいとして帰す、こういうのがこの三十六条の規定でございます。これはこのあとでできましたイタリア及びスペインとの協定も同じことを規定しておりますが、趣旨はそういうふうに最初の交渉のときとは変わって、援助ということにいたしたわけであります。
  209. 戸叶里子

    戸叶委員 それでは、その場合にどうしても旅費がないときには十五国会決定されたあの法律が適用されるわけでございますか。
  210. 高木廣一

    ○高木政府委員 本人が旅費がなくても、国援法の援助の予算外務省にありますときはいたします。ないときは翌年度に回すということになるわけでございます。
  211. 戸叶里子

    戸叶委員 この中のグアタパル農地に対して全拓連と海外移住振興会社とが非常に紛争をしたというようなことは有名な話でございますけれども、それはその後どういうふうな形でおさまったかを伺いたいと思います。外務省の方が何かその融資について融資してはいけないというようなことを入れて拒否させたというようなことも言われておりますし、いろいろ世間に伝えられているわけでございますけれども、この紛争というものがどういうふうな結末になったかを伺いたいと思います。
  212. 高木廣一

    ○高木政府委員 これはわれわれは紛争とは全然考えておらないわけでございます。これは最初はブラジルにコチア産業組合という有力な産業組合がございます。これと日本の全拓連とがタイ・アップいたしまして、日本の農協とブラジルの農協とタイ・アップして移住者を送ろう、そしてあそこに移住地を作ろうというのが考えで、移住会社に、当時送金の関係もございまして、この土地を買います場合に立てかえてもらって買った。もちろん手付金を出し三年で全部返済する、つまり全拓連が自分でやるということでスタートしたものでございます。それで現在もまだその態勢にあるのでありますが、昨年の初めごろ調査の結果、工事費が相当かかるということで移住会社に融資を求めてきましたので、融資について担保その他の点を考慮して保証その他を取って必要な金を貸すということにしておりましたところが、一昨年の一月二十九日にブラジルの移植民院の決議が出ました。ブラジルの移植民法第五十条に、「植民地においては分割農地の最低三〇%はブラジル人である小作人に譲渡または売却しなければならない。残余の土地はその他の国籍の者に対し公平に分配されるが、一国籍者に対しては最高二五%とする」という規定がありまして、これはいわゆる同化の思想でございますが、これがさらに厳格に実施されるということになりましたので、コチア産業組合でもどうも自分の力だけではいけなくなりまして、現地で移植民会社を設立しております移住振興会社の子会社の名義を使って、ブラジル政府の許可をとってやるというふうにしてほしいという話が出てきましたので、金だけ貸すことでございませんで、移住会社の責任もございます。入国許可の取りつけの問題とか、こういうものをあわせて検討するということで、昨年の九月に外務、農林両事務次官がこの問題の善後策を申し合わせまして、そのラインで今やっておるのでございます。最近の情勢では頭からこの法律の規定を破って七割まで入れてくれ、二割五分以上入れてくれということは、これはまだ移住協定も発効しておらない関係上むずかしいが、具体的な造成計画を出して申請するならば割合にブラジル政府の許可もむずかしくないんじゃないかというような情報が入っております。ただ、御承知の通り、ブラジルのジャニオ・クアドロス新政権ができまして、つい二、三日前ですが、新しい為替の措置も講じられまして、今ブラジルでは非常な為替の下落になりまして、今まで一ドルが百八十クルゼイロぐらいでございましたのが、現在では二百五十クルゼイロになり、そういう点で非常な経済混乱にあるのですが、そういう動揺が参りましたのと、もう一つは全拓連とコチアの話し合いがまだ十分いっておりませんので、この方も進めておりますが、そういう点を考慮した上で、本問題のできるだけ合理的な解決をはかりたい。実はこれは全拓連という民間団体のやったことでございますけれども移住に関することであり、移住の士気にも影響しますので、外務省としても何とかこれを早く合理的に進めたいというふうに考えております。それから同時に、同じようなケースがほかにもございます。たとえば、和歌山県で和歌山不動産というのをブラジルでやっておりますが、これなんかもグアタパラのように補助をしてほしいという話もあり、あるいは岐阜県で岐阜村というのを、これもブラジルでやっております。こういう問題とも関連しますので、われわれとしましては、移住政策全体に大きな支障を加えないように、しかも有効な解決方法をしたいと思って、せっかく努力しておる次第でございます。
  213. 戸叶里子

    戸叶委員 グアタパラ農地が一つのいい例でございますけれども、どうも移住関係では外務省と農林省がよくトラブルを起こすとか、意見が合わないとか、いろいろな問題があるわけで、そのこと自体が移民政策の進展ということを妨げる一つの理由にもなるのではないかと私は思いますので、そういう点をよく考えて、そしてその調整を十分にとっていっていただきたい。その業務の分担というようなものをお互いに明確にしながら、連携をとって前進させていってもらいたい、こういうことを要望いたします。
  214. 堀内一雄

    堀内委員長 他に御質疑はございませんか。——質疑がなければ、これにて本件に関する質疑は終了いたしました。     —————————————
  215. 堀内一雄

    堀内委員長 これより討論に入ります。田原春次君。
  216. 田原春次

    田原委員 日本とブラジルとの間における、長い間要望されておりました移住協定ができまして、現地に在留の日系人並びに今後海外に移住しようとする国民の間にも非常な満足の状態でございますので、私どももこの条約成立までの間におけるブラジル側の御好意並びにその折衝に当たりました日本の出先の当局の努力に対しては、これを多とするものであります。  ただし、この条約が発効しました後において、日本国内においては、従来の移民募集方法あるいは移住後における資金の融資のやり方、これらについて、私どもは必ずしも満足しておりませんので、この機会に次の要望決議を出して、同僚各議員の御賛成を得たいと思っておるわけでございます。  まず要望決議の案文を読み上げます。   政府は本協定発効後において国内の諸態勢を整備し次の諸点に留意し、もって大量移住の促進に努力するよう強く要望する。  一、国内における海外移住の啓蒙宣伝を強化拡大すること。  二、海外移住後における独立営農資金、漁民自営資金、中小企業者の設備及び運転資金等の融資手続に関し、その簡素化をはかるとともに、これら中小業者への援助を強化すること。  三、移住行政に関する基本的な法制を樹立すること。  簡単に各項目について私ども見解を申し上げたいと思います。  従来国内における海外移住に関する啓蒙宣伝はまことに微力でございます。従って当然海外に行きそうな人までも海外、特に中南米各国に対する知識は不足でございますので、どうしてもこれは絶えざる努力をして日本民族の海外移住の決意を早め、移住の早期の実現をはかりたいと思います。そのためにはたとえば全国の高等学校、特に農業高校内には海外移住事情というような科目を設置するよう文部省その他と協議をしてもらいたい。また必要とあれば海外移住読本のごときものを編さんしてこれを頒布してもらいたいと思うのであります。  次は移住募集に関しまして民間の業者がありますが、これらの業者に対しては積極的にむしろこれを活用して、そうして募集上の協力をさせることによって予定通りの募集人員に達するようにするように要望したいと思います。  第三は、次は、たとえばテレビ、ラジオ、新聞雑誌、ニュース映画等の活用あるいは婦人会、青年団、部落会等の活用にいま一段の努力をすることによって海外事情の普及に努めてもらいたい。  第二点の海外移住後の独立営農資金等の援助の問題でありますが、日本政府の資金を預かっております日本海外移住振興株式会社が、数年前からブラジルの各地に事業を進めておりますけれども、大部分は独立営農資金等に回りますが、一部これらに対する貸付よりも大企業へ貸しておるような傾向がある、こういうことで在留移民から非常な不満が投書その他陳情等もきておることは、同僚委員の御承知のところと思います。元来この会社設立の趣旨はちょうど日本において零細事業家に対する国民金融公庫あるいは中小企業金融公庫があるごとく、その意味考えますならば農漁民、中小企業者等への融資をまず先行すべきものである。大企業への投融資は日本政府の投融資、特に輸出入銀行その他の制度があることでありますから、海外移住振興会社の主たる努力は中小企業者へ向くべきものであると考えますので、今後政府においてもそういう方面への指導を強化されまして、多数の在留民が満足するような資金の融資をしていただきたい、これが第二の要望であります。  第三点は、移民行政に関しまして基本的な法制がまだできておりません。なるほど移民保護法というものが言葉としては残っておりまするが、明治二十九年の制定であり、当時の内務省のむしろ警察的取り締まり方針で立法されたものでありますので、それさえもすでに死文化しておる今日でありますから、基本的な法制の樹立を望ましいと思っております。先ほど戸叶委員からも指摘されましたように各省間における調整等もこの基本法によっておのずからできるのではないか。外務、農林、労働、建設、大蔵各省間においては単にまだ連絡会議程度でありまして、法制化しておりませんので、今回の移住協定締結を機といたしまして大量海外移住のために以上三点の早急なる実現方をわれわれは要望いたしまして、この協定に賛成したいと思うわけであります。(拍手)
  217. 堀内一雄

    堀内委員長 これにて討論は終局いたしました。  移住及び植民に関する日本国ブラジル合衆国との間の協定締結について承認を求めるの件、本件を承認すべきものと議決するに御異議はありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  218. 堀内一雄

    堀内委員長 御異議なしと認めます。よって本件は承認すべきものと決しました。  なお、ただいまの討論中田原君より本件に関し要望決議が提出されましたので、本決議について採決いたします。  田原君より提出されました要望決議を可決するに御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  219. 堀内一雄

    堀内委員長 御異議なしと認めます。よって本決議は可決いたしました。  なお本件に関する報告書の作成につきましては委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  220. 堀内一雄

    堀内委員長 御異議なければさよう決定いたします。  本日はこれにて散会いたします。    午後一時七分散会      ————◇—————