○鈴木強君 私は
日本社会党を代表して、ただいま
議題となりました
昭和三十五
年度予算補正二案に対し、
反対討論を行なわんとするものであります。
今回の
一般会計予算補正による歳入歳出の追加額は、それぞれ千五百十四億円となっておりますが、これは池田内閣成立後初の
予算補正でありまして、見方によっては、
追加予算というよりも、むしろ
昭和三十六
年度予算に直結した池田内閣の新
予算であるということができましょう。従いまして、私はこの際、具体的に
反対理由を申し述べる前に、池田内閣の新政策の矛盾点についてまず論及しておきたいと思います。
池田総理は、就任以来きわめて低姿勢を装っておられますが、これが本物の低姿勢であるかどうか、国民は大いに迷っているのであります。池田さん、あなたが内閣を成立された直後のある新聞のUSO放送欄に、「白飯たらふく食わしてくれよ所得二倍は次の次」、こういう一句が掲載されておったのをごらんになられましたか。貧乏人は麦を食え、中小企業が二つや三つ倒れても仕方がない。かつてあなたが政治家としてあるまじき言辞を弄したことに対する報いの一句であり、国民感情の率直な表われであったと思います。どうぞこの一句を金言と思われ、反省すべき点は率直に反省されて、あなたが真の民主総理として、日本国民の平和としあわせのために最善を尽くされるよう、希望してやみません。
さて私は第一に、池田内閣の外交政策について触れたいと思います。先般の総選挙にあたって、総理は力の外交を力説されましたが、今日、力の外交ほど危険千万なものはありません。すなわち、力によって均衡を保とうとすることは、逆に力の均衡を破れたときは平和が乱され、悲惨な戦争への道を選ぶことになるのは理の当然といえましょう。わが国が求める平和外交路線は、かくのごとき力の外交であっては断じてなりません。それよりも、力の均衡がとれるとか、とれないとかいうことよりも、いかにしたら日本の平和と世界の平和を確立し、持続せしむるかに思いをいたし、そのために国論を統一し、その上に立って堂々と世界に向かって日本の立場を訴えるべきだと信じます。池田総理は、わが
日本社会党の中立外交政策を幻想であると一笑に付されておられますが、これは大きな誤りであります。私は、総理がとりつかれている海のかなたの亡霊から一日も早くのがれ、日本国の総理に立ち返って、力強く中立外交を推進されるよう強く要求いたすものであります。
第二は、池田内閣の高唱した所得倍増計画についてであります。首相の演説によりますと、日本経済は異常な発展成長の時期を迎えたのだということであり、短期間に国民所得は倍になり、この高度成長の過程で所得格差や二重構造が解消されることになっております。この通り事が運びますれば、池田首相は大首相ということになりましょうが、冷厳なる内外の事実は、首相の構想が現実に照らして危険な経済政策であることを証する警戒信号がすでに幾つか現われております。その最大なる警戒信号は、米国経済の景気下降と、ドル防衛のためにとられている諸政策の影響であります。池田首相の高度成長論は、周知の通り、世界経済が安定的成長を遂げること、日本貿易は世界経済の伸びの二倍以上の速度で伸びる力があること、輸入は総生産の九%以下に押えられると、こういうようなきわめて安易な前提の上に立てられているのであります。しかるに米経済は本年夏以来明白に後退を示し、鉄鋼操業度は五〇%以下、失業者は二百数十万人、明年春にかけて失業者が五百万人をこえるであろうとは、権威ある筋が証言しているところであります。しかるに、この深刻なる
事態を首相は故意に過小視せんとしております。
予算委員会においても、米経済は、ちっと、かぜを引いた程度だとか、ケネディが年率五%成長を政策に掲げているから、春から先は景気が戻るとか言っておられますが、ケネディ政権は、景気振興とドル防衛という相矛盾する政策の調整に苦しみ、今度の不況は相当長引くものと
考えるし、これが直接間接日本の輸出輸入両面に及ばす影響は大きくなるものと思われるのであります。もしルーズベルトの故事にならって、ケネディがドルを犠牲にして五%成長政策に乗り出すようなことになれば、世界経済に及ぼす影響は言い尽くしがたいものがあるでありましょう。ケネディが五%成長と言っているから大丈夫という首相の認識は楽観論に過ぎると言わなければなりません。
なお、これに関連して
政府に警告しておきたいことは、日本の外貨準備のあり方であります。
政府発表によれば、十七億六千万ドルの外貨のうち、金保有高は二億四千万ドルにすぎず、残る大半がドル預金、ドル証券の形で保有されているのであります。諸外国の事例は、比較的金保有率の低いカナダ、西独でも四〇%をこえ、他はいずれも八〇ないし九〇%を金で持っております。今日のごとくドル不安の高まりつつある際に、大切な通貨信用の基礎である外貨準備をわが国のようにドル一辺倒にしている国はどこにあるでしょうか。これというのも池田内閣の対米一辺倒がしからしめたもので、すみやかに是正されなければなりません。
アイク政権が打ち出すドル防衛
措置に対し、
政府は初めから大したこともあるまいと、たかをくくっておりますが、今や米
政府の打つ冷厳なる対日
措置に対し、慎重に対処すべきときであることを知らなければなりません。吉田内閣、岸内閣以来の日米安保体制は、経済的には、対米貿易依存、特需依存、米国資本の導入ということでありました。しかるに、今や米国はドル防衛のため日本を突き放そうとしているのではないでしょうか。この場合わが国としてとるべきドル防衛
措置に対する対策はどうあるべきか。それは世界の各市場に対する輸出の強化であります。なかんずく市場の開発と拡大をはかり、中国、ソ連、北鮮などの共産圏貿易をも促進すべきであることは、今や経済政策の常識であり、国民の世論というべきでありましょう。池田首相は、総選挙の前とあとにおけるこの重大な国際経済情勢の変化の意味を十分理解された上で経済政策を進めないと、他日重大な混乱を来たすおそれがあるということを申し上げておきます。
首相は高度成長を説き、三カ年、年率九%は大丈夫だと言ったり、あるいは倍増計画という言葉を使用いたしますが、その
内容とするところは具体的に何も示されておらないのであります。何年間で所得が倍になるのか。三カ年九%案は三十八年以降どうなるのでございましょうか。池田内閣は半年にもなるのでありますが、最大の公約である所得倍増計画を閣議決定すらしておりません。しかも正式に内閣が諮問して立案を命じた経済
審議会が十カ年倍増計画の案を正式に答申して、すでに月余となるのでありますが、この案が平均七・二%という低い成長率となっているため、首相のお気に召さないのでしょうか。それで
審議会の答申はたな上げしておいて、特別案のいわゆる下村構想に沿った三カ年計画を立案させようとしているのではないでしょうか。総選挙中あれほど倍増々々と宣伝しておられて、今日になってその具体的構想がない、これから作らせるというのでは、国民を愚弄するもはなはだしいといわなければなりません。池田総理の所得倍増計画はまさに夢まぼろしであることを指摘しておく次第であります。どうぞ、これも必要でありましょうが、今高騰を続けつつある物価の抑制策でも真剣に
考えてみて下さい。その方が国民は大へん喜びます。(
拍手)
時間の
関係上、以上をもって池田新政策に対する批判を終わり、次に、具体的に
予算補正に対する
反対理由を申し述べることにいたします。
その第一は、補正
財源と減税
措置についてであります。
政府は補正
財源として千五百七十二億円の租税の自然増収を計上し、それより
所得税減税分五十八億円を引いた千五百十四億円を計上しておりますが、周知の通り、
昭和三十五
年度当初
予算において二千百五十四億円という税の自然増収を見込んだのでありますが、伊勢湾台風の
災害復旧費、治山治水事業の緊急実施のため減税はできないと
説明されたのであります。しかるにどうでございましょうか。こつ然として千五百億円の自然増収を出して参り、
政府が
予算委員会に提出した資料によっても、今回歳入補正を行なわなかった揮発油税、これで八十億円、専売収入で五十億円の余裕
財源がまだあることが明らかにされており、このほか補正された各税目につき私が詳細に検討してみました結論としては、今回補正増のほか最低六百億円以上の自然増収が出ることは確実だと思います。従って、当初からの対三十四
年度当初比租税等の自然増収額は実に四千四百億円に上るわけであります。佐藤前大蔵大臣が本
年度は減税ができぬと口実にされた伊勢湾台風復旧費は、高潮対策や緊急治山治水事業を含めて約七百億円でありまして、本
年度予算外の自然増収額は実にその三倍であります。
そこで私は、なぜそのような歳入
予算の誤算が生じたかを問題にせざるを得ません。
政府は、それはまず
予算編成後、日本経済の発展が意外に大きかったせいに帰するかもしれません。私もかかる要素があることは認めますが、本年三月十五日
予算委員会で高木慶大教授が、あの時点において、かつ
政府の経済予測に基づいて、三十五
年度の租税自然増収は二千百億円でなく、三千数百億円に達するであろうことを確言され、減税は三十六
年度にできるとかできないという論議でなしに、三十五
年度でやるべきであると公述されたことを想起するのであります。私は納税国民の名において、このようなずさんな歳入の見通しをやった
政府当局を信用することはできません。今回の補正における歳入の見積もりも国民を愚弄するものだと言いたいのであります。この問題は本
年度の税収が幾らになるかの当て事ではないのであります。わが党はこの事実に基づき、
政府の減税計画の根本的修正を要求するものであります。
政府は今回の補正と関連して、明年一月以降の
所得税の
臨時特例法案を提出したのでありますが、これはとりもなおさず
昭和三十六
年度のいわゆる千億減税の
国会承認を求めているものであります。ところで、この減税案の骨子となっている税制調査会の答申の、本
年度四千四百億円からの自然増収のあることを、大蔵
当局より示された上で策定したものでありましょうか。税制調査会の基本的態度は、国民の租
税負担は、国税、
地方税を合わせ当初
予算の二〇・五%より二〇%にまで引き下ぐべきだというのであります。本
年度の国税の自然増収等を四千四百億円とし、
地方税の自然増収も五、六百億円とするならば、国民の租
税負担率は逆に対国民所得で二二%に達するかと思います。そうなりますと、税制調査会の減税答申は全く
考え直さなければなりません。
さらに調査会の減税案ですら過大であるとしてこれを削減縮小した
政府原案は全く不当であります。私は、国民の租
税負担の程度、従来の減税の経緯からして、要請さるべき減税の
内容は、決して
所得税や法人税の軽減にとどめるべきではなく、これまで直接税軽減の犠牲となった各種消費税、流通税等、間接税の軽減を断行すべき時期にきていると確信するものであります。さらに減税の均衡というか、納税力なき階層への減税という意味で、生活保護費、医療扶助、児童保護、母子手当、失業給付、社会保障費の
引き上げが当然考慮されねばならぬと信じます。
次に、歳出面について申し上げます。今回の補正は、
財政法の
規定します
補正予算提出の要件をかなりはずれた
経費を含んでおります。歳出の
内容を分解すれば大体四つの
部分からなっておりますが、第一の
予算作成後に新たに発生した必要
経費、第二の国の義務費、
負担金の
不足に基づくものは、これは問題はありません。問題があるのは、第三の
財源の余裕と見合って計上されている
経費と、第四の補正
財源の構成いかんによって動く
地方交付税交付金であります。この第三に属するものが補正額千五百十四億円の約半分と見られるのでありますが、その中には、
中学校校舎増設費のような、本来は当初
予算のときから想定されていた
経費が要求されており、また過
年度災害の補正増、伊勢湾高潮対策費の増加等も、本来は当初
予算編成方針の欠陥に基づくものでありまして、そのとき勝負の
政府の無為無策をまざまざと示しており、
財政法違反と言わなければなりません。
以上の観点に立って、さらに費目別に
反対理由を述べたいと思います。
その第一は公務員
給与改善費でありますが、御
承知の通り、公務員
諸君は、現在不当にも
団体交渉権、ストライキ権を奪われておりまして、人事院勧告はスト権にかわる唯一無二のものとなっております。しかるに制度発足以来今日まで人事院勧告が完全に実施されたことはほとんどなく、われわれの大いに不満としておったところであります。
政府は口には人事院勧告の尊重を唱えながら、六年ぶりにやっと出された今回の勧告についても、これが完全実施をサボつたことは断じて許すことのできないところであります。これでは労使間の正常化は望めず、わが国行政水準の
引き上げと円満なる運営は期待できません。まことに遺憾のきわみと言わなければなりません。
政府は
財源がないと言っておりますが、すでに指摘をいたしましたように、本
年度内においてなお余裕
財源を温存しておきながら、賃金
引き上げの実施期日を一方的に十月一日よりとしたのでありますが、なぜ勧告通り五月一日より実施しないのか、理解に苦しみ、何としても納得できないところであります。わが党は、五月一日の実施をここに強く要求するものであります。また、
給与引き上げの
内容を見まするときに、
引き上げ率平均一二・四%はあまりにも少なく、さらに最低最高の倍率は、はなはだしく格差が大きく、
国会の修正によって、最低八百円が九百円に
引き上げられたものの、課長補佐級の一五%、課長級の二一%、局長級の三一%、総理大臣の十万円七〇%の
引き上げ率に比して、問題にならないのでありまして、公正妥当のものとは言えません。下級者の
引き上げ率はわずか一一%で、物価事情、社会事情を無視した、あまりにも低過ぎるものでありますから、私は、下級者の
引き上げ率の手直しを強く要求し、その
財源は十分あることを指摘するものであります。また、今回の
給与改定の
予算では、公企体
関係職員の
給与改善費を全然見ておらないのでありますが、これら
職員の
給与水準は、その特性が無視されて、今日まで一般職の公務員とほぼ同等に置かれておりますことは遺憾であります。しかるところ、さきに平均わずか四%、八百円余の仲裁裁定がなされたことに籍目し、一般職の公務員より有利になっているという
理由から、現実には今回の公務員一二・四%の
引き上げによって明らかに不利となり、低位に置かれていることを無視して、何らの
予算措置も行なわなかったことは、はなはだ不満であります。公企体
職員は、おそらく実力をもって待遇上の不均衡を是正させるでありましょうが、その際無用の紛争を来たすとすれば、その責任はあげて
政府にあることを警告しておきます。
第二は、社会保障費の追加についてであります。これは
総額百一億円でありますが、その九九%までが前
年度の
不足精算金、
給与改定に伴う当然増でありまして、低所得者のための
費用は、失対労務者の年末手当一億一千三百万円、生活保護家庭及び保護児童の年末手当八千五百万円、合計一億九千八百万円にすぎぬという驚くべきものであります。生活扶助者百四十五万人、保護児童七十三万人、失対労務者二十万人に対するものでは、一人当たりわずか平均八十数円にしかなりません。池田内閣は発足当時、社会保障優先を唱え、
明年度予算では一千億円を社会保障費の
増額に向けるなどの構想もあったようであります。その後、日を追うて社会保障優先の声は細くなり、三本の柱のうち、最も影の薄い柱になろうとしております。これではわが国の社会保障の水準はどうなっていくか、国民とともに憂えるものであります。厚生白書に指摘するごとく、企画庁案の倍増計画が完全に実現されたとしても、
昭和四十五
年度に至りまして、振りかえ支出の水準は現在の西欧の最低水準に達せず、社会保障に関するILO条約を批准し得るためには、
昭和四十五
年度に予想される一兆五千億円にさらに五千億円を追加しなければならぬとされているのであります。いな、そのような遠い先のことはともかく、現行の生活保護水準の非人間的低劣性、特に結核入院者に与えられる保護水準は、日本国憲法第二十五条に反するという浅沼判決に見られるごとく、まことに血も涙もない、冷酷無慈悲なものであり、全国民はあぜんとしているのであります。現行基準によりますと、一年間に一足のたび、一枚のパンツ、二年に一着のはだ着等々というのが、結核公費入院者に許される保護水準なのであります。このような状態が現に日本国じゆうに存在しており、被保護者、ボーダー・ラインの家庭を含めれば、二千万人を下らないと見られております。これら気の毒な国民の救済は焦眉の急務であり、わが党は、生活保護基準の抜本的
引き上げを行なって、政治がこの人たちの上にあたたかい手を差し伸べるよう強く要求するものであります。
その他、産業投資特別会計への繰入金百四十五億円、
災害関係費等についても多くの
意見がありますが、時間の都合で省略をいたします。
以上述べて参りましたように、本
予算補正はきわめて不十分かつお粗末なものであります。従いまして、わが党は衆議院段階において二千四百五十億に上る組みかえ案を提出し、
給与改定の五月一日実施、上厚下薄の抜本的
改定、年末手当〇・五カ月分の
増額、石炭産業合理化に伴う炭鉱離職者対策、アメリカのドル防衛に伴う駐留軍離職者の就労対策、生活保護基準の
引き上げ、中小企業への年末金融の大幅
増額等々を強く要求したのでありますが、自民党と
政府は数の力をもって、天の声、地の叫びであるわが党の要求を否決してしまったことは、まことに遺憾にたえません。本院は衆議院における愚を再び繰り返すことなく、満場の
諸君のわが党の要求に対する御
賛成を強く期待し、私の
反対討論を終わります。(
拍手)
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