○北村暢君 私は、
日本社会党を代表して主として内政問題について首相並びに
関係閣僚に対し
質問をいたします。
アメリカの
ドル防衛の
わが国に対する
影響の問題については、各議員の
質問のあったところでありますが、重ねてお伺いをいたしたいと思います。今年の年頭にあたって、あらゆる
経済関係の評論家は、一九六〇年は黄金の六〇年であり、史上空前の繁栄の年となるであろうと予言いたしました。しかし、現在この予言は全くはずれてしまったのであります。その現われは
アメリカの
ドルの危機であります。ここ数年来、
アメリカの金準備は急激に減少の一途をたどってきました。そしてついに本年十一月には最低安全線といわれる百八十億
ドルを割るに至ったのであります。この根本の原因は、
アメリカの過大な防衛支出、世界の至るところに基地を設けて米軍を駐留させていること、いわゆる自由主義
諸国に対中ソ戦略を維持させるために、過大な
軍事援助、
経済援助を支出していること等であるのであります。従って
アメリカがもしも真に
ドル危機を脱しようと思うならば、対中ソ敵視
政策をやめて、平和共存の原則を受け入れ、そして軍備縮小を断行する以外に方法はないのであります。ところが、
アメリカ政府は、依然として対中ソ戦略を固執しながら、そのワク内で
ドル防衛政策を講じようとしておるのであります。そのため、あるいは
アメリカ軍の駐留費を相手国に
負担させようとか、
後進国援助費用を
西欧諸国や
日本に
肩がわりさせようとか、あるいは
ICA資金の海外発注を取りやめて
アメリカ国内の業者に発注するとか、あるいは
アメリカと関連する
貿易物資の輸送を
アメリカ船にやらせようとか、そうした一連の
ドル節約の方法をとろうとしておるのであります。しかし、こうした姑息な方法をとっても、それによって
アメリカの金準備の減少を防ぎ得るかどうかは疑問であります。すでに国際的な
資本市場において
アメリカの
ドルの信用は完全に失墜し、
ドルを売って金にかえようとする
各国の傾向をとどめることはできません。こうして現在よりもさらに、
ドルの信用が下落する場合、
アメリカ政府としては、結局、
ドルの平価切り下げを行なうか、通貨の金準備率を引き下げるか、金の売却を停止するか、こうした最後の非常手段に訴えざるを付なくなるでありましょう。
〔
議長退席、副
議長着席〕
質問の第一点は、
アメリカ政府の
ドル節約
政策の
わが国経済に及ぼす
影響であります。すでに
アメリカのハーター国務長官は、
ICA資金の海外における買付を停止する
方針を明らかにいたしました。また、在
日米軍の支出も削減せられるでありましょう。こうしたことは、いわゆる特需収入の減少をもたらすでありましょう。また、過去の
ガリオア、
イロア資金の
返済が要求されることも必至でありましょう。さらに、
わが国の対
アメリカ通常
輸出も、
アメリカ側の規制
措置によって困難性を増し、その反面、
日本に対する
輸入自由化の
圧力は、一そう
強化せられるものと想像されます。こうしたことは、
わが国の
国際収支に直ちに響いてくることは明らかであります。この面から、早くも
政府の
所得倍増計画は破綻に瀕していると断ぜざるを得ません。
政府は高度
経済成長政策を修正する
意思はないか、お尋ねをいたします。
第二点は、危機
打開についてであります。
日本としてこの危機を回避するためには、
貿易の対米依存度をもっと低下させ、対共産圏
貿易の比重を増大させることが最も有効な方法でありま参す。すでに、今年三月の
日ソ貿易協定の締結以来、
わが国の対ソ
輸出は優に一億
ドルを上回ろうとしております。今後も
ソ連のシベリア開発の発展に伴ってきわめて大きな
可能性をはらんでおります。
中国貿易においても、
日本政府さえ一歩踏み切るならば、日中
政府間
貿易協定締結によって、
日中貿易額を飛躍的に
拡大すべき条件は成熟しております。
関係業界においてもこれを望む声が急速に高まっている
現状でありますが、池田首札は対共市田
貿易打開の方向に踏み切る決意がおありになるかどうか、
責任ある
答弁を承りたいと存じます。
次に、公務員給与の問題についてお尋ねいたします。第一は、従来人事院の勧告は、実施の時期を明示していなかったために、公務員の給与は常に民間給与より二年おくれとなっていたのであります。この弊害を除去するために、今回の勧告は、特に五月一日から実施されることが適当と考えると、実施の時期を明示しているのであります。また、給与担当
大臣は、人事院勧告が実施の時期を明らかにするならば、その
通り実施したいと
答弁しております。
政府は二言目には、
政府は勧告を尊重するから、公務員も法律を守ってもらいたいと要請してきましたが、今回は
政府みずからが勧告を無視し、十月一日実施を強行しようとしていることは、まことに遺憾であります。このことは、公務員が
政府に対し不信の念を抱く結果ともなっているのであります。首相並びに給与担当
大臣は、この際、勧告
通り五月一日から実施すべきであると思うが、所信を承りたいと思います。第二は、給与体系が上に厚く下に薄いことについてであります。平均二千六百八十円のベース・アップとなっているが、内容的には最低がわずか一〇%の六百円の引き上げに対し、最高が三〇%の二万三千八百円の引き上げで、その格差は莫大であります。また、特別職に至ってはさらにひどく、
大臣は六四%の七万円、
総理大臣は六七%の十万円の上昇であります。首相は前臨時
国会において、しばしば、所得
倍増とは、上の方は二、三割にとどめ、下の方は三倍、四倍に上げて均衡をとることであると、もっともらしく
答弁されておりますが、あれは
選挙用の
答弁であったのでありましょうか。それとも、このような公務員の給与の上厚下薄の実情は御存じなかったのでしょうか。この上厚下薄は、理論的根拠もなく、人事院みずからも、中堅以下を引き上げればよりよい体系になったろうと
答弁しているのであります。中堅層以下の職員にとっては、生活改善はおろか、消費物価の値上がりによって実質賃金は逆に切り下げとなり、大きな不満を呼んでいるのが実情であります。
政府は理論的にも実態的にも立証されている公務員給与の上厚下薄の不合理をすみやかに是正すべきであるが、首相並びに給与担当
大臣の所信を承わりたいと思います。第三に、年末手当の問題でありますが、人事院は現在の年末手当の官民の差〇・二九カ月分を、理論的根拠がないにもかかわらず〇・一カ月分の引き上げにとどめ、以下を無視したことは、全く不合理であります。さらに、一民間の職員と公務員を比較するならば、当然二・五ヵ月分以上を支給すべきであることは明らかでありまするが、首相並びに給与担当
大臣の所信を承っておきたいと思います。
次に、病院ストの問題についてお尋ねをいたします。今重大化しております病院ストは、最低賃金制の実施、一律三千円のベース・アップ、定員増加などを要求する
経済闘争であると同時に、前近代的労務管理の改善を求める一種の人権闘争であります。賃金について一例をあげると、日赤の場合、看護婦の初任給は大学卒業
程度にもかかわらず九千四百円の低さで、十年間たってもわずかに一万四千七百円にしかならないのであります。他の民間病院ではこれより低いところは幾らでもあります。また、労働条件は建物や施設の近代的であるのとは対照的に劣悪であります。特に看護婦は、看護婦兼事務員兼雑役婦兼技術師兼薬局員として、全く人間を無視した労働条件に甘んじているのが多いのであります。病院経営者が、「忍従は天使の美徳なり」として、すべてをナイチンゲール精神で合理化してきたところに、今日の病院ストをこじらせている根源があると言わなければなりません。しかしながら、人命に
関係する仕事の性質上、これ以上病院ストを放置することは許されません。労働
大臣は、三池争議では敏腕を発揮して高く評価され、再任されたようでありますが、今次病院ストにはいかなる特効薬をお持ちになるかをお伺いいたしたいのであります。また、労働基準監督行政上手落ちがなかったかをお尋ねいたしたいと存じます。
今次病院ストは、純然たる労働問題であることは、前に述べた
通りでありますが、医療保険行政に関連することも否定できない事実であります。すなわち、わが党が多年の要求にもかかわらず、保険医療
制度の改善をサボってきた厚生行政の失敗であり、
政府の
責任であります。わが党は、早急に保険診療を
中心とする医療保険
制度を改善するとともに、結核及び精神病の費用の全額と各種健康保険の一部の国庫
負担を増額すべきであると考えるが、首相並びに厚相の
見解と
対策をお尋ねいたしたいと思います。
次に、厚生白書に対する
政府の態度を伺っておきたいと思います。白書は、社会保障最優先を主張し、
経済の高度
成長の背後には
国民所得の格差の
拡大するおそれがあることを指摘し、さらに
所得倍増計画の十年間の社会保障費一兆五千億円
程度では、
日本を名実ともに福祉国家とするにはほど遠いとしているのであります。池田首相は、白書の趣旨実現のために、就任当初の
方針に立ち返り、社会保障を最優先とすべきであると思うが、首相の鮮明な態度の表明を求めます。
次に、
農業問題についてお尋ねいたします。
その第一は、年率九%の
経済成長率と、
農業に対する
影響についてであります。首相は新
政策決定の際、それまで
所得倍増計画の立案のために採用してきました年率七・二%の
経済成長率を、向こう三ヵ年間、年率九%にすることに急に変更いたしました。御存じの
通り、
成長率七・二%の内訳は、第一次
産業二・八%、第二次
産業九%、第三次
産業八・三%、運輸その他八・八%で、その平均全
産業が七・二%となり、
産業別ウエイトを考慮して七・八%としているのであります。池田首相は、この七・二%を九%とされたのでありますから、その場合の
産業別の
成長率はどのようになっているかについて、まずお尋ねをいたしたいと思います。この点は、前臨時
国会で問題になり、ついに明らかにされなかったことでありますから、具体的に
お答えいただきたいと思います。しかしながら、本日もまた明快な
お答えがいただけないのでないかというような気がいたします。それは、池田首相の
経済の根本理念であります高度
経済成長理論の弱点を暴露する結果になることを首相みずからが知っているからにほかなりません。首相は、過去の実績から
相当な安全率を見て九%を出しているから、心配はないと申されておりますけれ
ども、全
産業が比例して
成長率が高くなれば、首相のおっしゃる
通りになるのでありまするが、実際にはそうはいかないのであります。すなわち、第一次
産業は、首相の言われる過去の実績からしても、二・八%以上を見込むことはまず不可能であります。第三次
産業も大したことはない。第二次
産業がひとり十数。パーセントの飛躍的発展を遂げることは疑う余地がないのであります。従って
産業間の二重構造がいよいよ激化することは明白であります。この場合、生産面のギャップを所得の面で無理に均衡をとろうといたしますというと、結果的に首相の言われるように、農民六割の首切りでもしない限り、数字が合わなくなってくるのであります。従って農民六割削減論は、もともと
農業の側から計算されたものではなく、大
資本のための高度
成長の要求から出たものであって、財界のチャンピオンとして登場した池田首相が、大
資本、大企業を優先し、
農業軽視の本質を暴露したと言わなければなりません。農民を不安と混乱に陥れた
責任は重大であり、首相の反省を求める次第であります。
第二は、農民六割削減論についてさらにお尋ねいたします。現在
農業人口を千五百万人として、首相の言われるように十カ年間に四割に減らすとすれば、年々九十万人ずつ九百万人を他
産業に移動せしめ、農村には六百万人しか残らないことになります。しかるに
所得倍増計画によりますれば、
農業人口は現在の約三割減の」千万人ないし
一千百万人にしか減少しないと見ております。また
農業基本問題
調査会の答申案では、さらに減少率は低く、千百五十万人が残ることになっているのであります。また、戦後最高の
成長率を示しました三十四
年度でさえ、年に三十三万人しか減少しなかったのであります。以上のごとく、それぞれの
調査並びに実績から判断いたしましても、農民六割削減論は机上の空論と言わなければなりません。これが農民の首切りでなくて何でありましょうか。もし、首相の言われる六割削減が実現するとするならば、どんなことになるでしょう。
農業から他
産業べ人口が移動する場合、その要求は男子労働者であり、青年層に集中することが予想せられますので、
農業人口の過半数は女でありますから、農村には戦時中と同様、老人と女と子供しか残らないことになります。従って
農業労働力の質的量的低下は避けられず、
農業の近代化、合理化どころではなく、
日本の
農業の破壊であります。首相はこの際、一切の行きがかりを捨てて農民六割削減論を撤回する
意思はないかどうか、お尋ねをいたします。
第三に、兼業農家離農
対策についてお尋ねいたします。私は農民六割削減論の撤回を要求いたしましたが、決して現在のままの零細農の温存を考えているものでもなければ、占い農本主義を主張しているものでもありません。
経済の高度
成長がおのずから雇用を
拡大し、地域間、階層間、
産業間の格差も自然に解消し、所得が
倍増するという、手放しの楽観主義に
反対しているのであります。首相の言われる農民六割削減論は論外でありますけれ
ども、
所得倍増計画の三割の減少すら、なかなか困難であると考えるのであります。本年二月現在で行なわれた世界
農業センサスの速報によれば、
昭和二十五年から三十四年までの十年間に、農家人口の減少は約一〇%の三百五十二万人であるが、老人、婦人が逆に増加しており、戸数の減少は約二・五%の十六万戸にすぎない、兼業戸数は逆にわずかながら増加の傾向を示しているのであります。この農家戸数の減少しないことが、今後の農政上の重大問題であります。現在、六百万農家は、専業農家二百一万戸、第一種兼業農家二百二十万戸、第二種兼業農家百六十五万となっていますが、首相は、
農業を従とする五反以下の第二種兼業農家は実態的に農民ではないと、きめつけて、事足れりとしているようでありますが、それだけでは問題の解決にはならないのであります。この兼業農家が完全に農地を手放すことが必要なので罵ります。そうでない限り、
日本農業の欠点である零細性を克服することに役立たないからであります。しかるに、現実は首相の思惑とは逆な方向に進んでいるのであります。すなわち、社会保障、技術養成、住宅等の諸問題、あるいは二重構造、低賃金、職場の不安定等の悪条件が根強く残っているために、農民は完全に転業に踏み切れず、容易に農地を手放そうとしないのであります。ここでも
日本経済の二重構造をすみやかに解消することが前提条件であることを知らねばなりません。兼業農家の離農
対策の成否は、直ちに構造
政策の実現に
影響する重大問題でありますが、首相並びに農相はいかなる
具体策をお待ちになるか、お伺いいたしたいと思うわけでございます。
第四は、
貿易の
自由化と
農業の
関係についてお尋ねいたします。
貿易、為替の
自由化の進展に伴い、逐次農産物にもその
影響が現われ参りました。すなわち、大豆の問題がいまだ完全に解決していないうちに、突如として砂糖の
自由化の
方針を決定したようであります。これと密接な
関係にあるテンサイ糖、結晶プドウ糖に与える
影響は甚大なものがあると思うが、
政府はこれに対する
具体策をお持ちになるかどうか。農相並びに通産
大臣にお尋ねいたしたいのであります。また、
政府は肥料二法により、
国内の農民には一かます七百八十九円の高い硫安を売り、台湾、南朝鮮等へは五百五十円の安い値段で
輸出をしてきたことは御
承知の
通りであります。これら出血
輸出が累積いたしまして最近では、ついに
輸出会社の赤字は百十五億円に達したのであります。これらの
措置をめぐり、問題は
政治的にも複雑化して参りまして本
年度の肥料価格はいまだに決定していないのが実情であります。これに加えて、
米国の
ドル防衛対策の一環として
ICAの資金による域外買付けの停止の問題が起こり、硫安工業界は深刻な
影響を受けて混乱をまぬがれません。これらの事態は、従来の
政府の肥料行政の失敗であって、直接消費者の農民にその犠牲を負わせるべきものでは断じてありません。
政府はこの困難な肥料問題に対し、いかなる
対策をお持ちになるのか、お尋ねいたします。
最後に、
所得倍増計画と
農業基本法案との関連についてお尋ねいたします。
政府の
所得倍増計画の中の農林
政策は、基本問題
調査会の趣旨を取り入れた、いわば
農業革命ともいうべき画期的
政策転換を含むものであることは、今さら言うまでもありません。しかるに、
所得倍増計画の中の農林
関係の施策はきわめて不十分であり、
農業軽視の傾向が露骨に現われているのであります。一例をあげますならば、十年間の
農業関係の行政投資額は一兆円で、行政投資総額十六兆円に対する比率は五・六%で、戦後最低の三十四
年度の七・四%をはるかに下回わるものであります。このような状態では
政府自民党の
農業政策はまず財政面からくずれ、全国農民の
期待に沿うことはできないものと考えるので、あります。
農業構造
政策の実現のためにも思い切つた財政投融資がなされなければ、
農業の近代化も合理化も画餅に帰することは明らかであります。
所得倍増計画の最終決定は、主として
農業関係の不備のために遅延しているようでありますが、この計画が確立しない場合、当沿
公約の
農業基本法の提出にも支障をきたすと考えるのでありますけれ
ども、池田首相並びに農相の所信を承って、おきたいと思います。
以上をもって私の
質問を終わらせていただきます。(
拍手)
〔
国務大臣池田勇人君
登壇、
拍手〕