運営者 Bitlet 姉妹サービス
使い方 FAQ このサイトについて | login

1960-12-14 第37回国会 衆議院 予算委員会 第3号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十五年十二月十四日(水曜日)     午前十時三十七分開議  出席委員    委員長 船田  中君    理事 愛知 揆一君 理事 青木  正君    理事 重政 誠之君 理事 野田 卯一君    理事 保科善四郎君 理事 井手 以誠君    理事 田中織之進君 理事 横路 節雄君       相川 勝六君    赤城 宗徳君       赤澤 正道君    稻葉  修君       臼井 莊一君    小川 半次君       上林山榮吉君    菅野和太郎君       北澤 直吉君    櫻内 義雄君       園田  直君    田中伊三次君       竹山祐太郎君    床次 徳二君       中曽根康弘君    中野 四郎君       羽田武嗣郎君    橋本 龍伍君       早川  崇君    前田 正男君       松浦周太郎君    松野 頼三者       松本 俊一君    三浦 一雄君       山崎  巖君    有馬 輝武君       淡谷 悠藏君    岡  良一君       川俣 清音君    木原津與志君       北山 愛郎君    小松  幹君       河野  密君    楯 兼次郎君       辻原 弘市君    堂森 芳夫君       野原  覺君    受田 新吉君  出席国務大臣         内閣総理大臣  池田 勇人君         法 務 大 臣 植木庚子郎君         外 務 大 臣 小坂善太郎君         大 蔵 大 臣 水田三喜男君         文 部 大 臣 荒木萬壽男君         厚 生 大 臣 古井 喜實君         農 林 大 臣 周東 英雄君         通商産業大臣  椎名悦三郎君         運 輸 大 臣 木暮武太夫君         郵 政 大 臣 小金 義照君         労 働 大 臣 石田 博英君         建 設 大 臣 中村 梅吉君         自 治 大 臣 安井  謙君         国 務 大 臣 小澤佐重喜君         国 務 大 臣 西村 直己君         国 務 大 臣 迫水 久常君         国 務 大 臣 池田正之輔君  出席政府委員         内閣官房長官  大平 正芳君         法制局長官   林  修三君         総理府総務長官 藤枝 泉介君         外務事務官         (国際連合局         長)      鶴岡 千仭君         大蔵事務官         (主計局長)  石原 周夫君  委員外出席者         専  門  員 岡林 清英君     ————————————— 十二月十四日  委員竹山祐太郎君及び島上善五郎君辞任につき、  その補欠として菅野和太郎君及び有馬輝武君が  議長の指名で委員に選任された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  昭和三十五年度一般会計予算補正(第1号)  昭和三十五年度特別会計予算補正(特第1号)      ————◇—————
  2. 船田中

    船田委員長 これより会議を開きます。  昭和三十五年度一般会計予算補正(第1号)、同じく昭和三十五年度特別会計予算補正(特第1号)、以上両案も一括して議題といたします。  これより質疑に入ります。愛知揆一君
  3. 愛知揆一

    愛知委員 私は自由民主党を代表いたしまして、当面の重要問題につきまして質疑を行ないたいと存じます。  今回の総選挙におきまして、最大の争点となりましたのは経済政策でございます。この経済政策につきましては、国民も深い関心を持ったと思われるのでありますが、私は、池田内閣経済成長政策をいわゆる新政策中心といたしましたのは、国民経済発展とそれによる国民生活向上ということがまず第一に民心を安定させ、従ってそれによって国民文化と道義を高めることになる。そうして正しい民主政治を確立し、またそれによって国際信用を高める前提となる。こういう点から、経済成長政策というものが新政策中心にされたものである、かように理解するわけでございます。また同時にこのことは、現実的な経済問題について野党と真剣な論議を重ねるということが、いわゆる共通の広場を国会に作り上げることになりまして、国会の正常な運営、国政の円滑なる運営ということについても非常にこれは有効なやり方である、私はかように考えて喜びとしておるところでございますが、それだけにこの経済政策の問題については、今後におきましても真剣にかつ具体的に取り組んで、こうした総選挙に臨まれた池田総理としての態度を、十分に伸ばしていっていただきたい。さような意味合いから申しましても、この予算委員会を通じまして、総理信念とされておりますることをできるだけ具体的にまた親切に、くろうとだけがわかるというようなことではなくて、しろうとの一般大衆にも、ほんとうの総理のお考えというものが十分に理解できるように、言葉を惜しまずに、できるだけ行き届いた御説明をお願いをいたしたい。そうしてこの審議を通じまして、その意図というものが国民大衆立場において理解ができ、そして協力が求められるようにしていただきたいものである、かように考えるわけでございます。そういう前提で以下若干の問題について質問を申し上げたいと思うわけでございますが、まず今私が申しましたこの前提について総理の御意見をお伺いいたしたいと思います。
  4. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 愛知委員のお言葉通り考えております。私はやはり議会として最も重要な問題の一つは、日本の経済、国力をどう持っていくかということが一つの大きい問題でございます。しこうしてこれが真剣に論議されることが、やはり国民納得を得、経済発展を促す原動力だと考えておるのであります。
  5. 愛知揆一

    愛知委員 ところで、今の池田総理のお考えなりあるいは信念なりに対しまして、従来総選挙を通じましていろいろとお話しになりましたことについて、中には理解が足りない点もあるように思われます。また中には悪意の逆宣伝によりまして、一部の国民の中にはいわゆる経済成長政策に対して相当疑惑を抱いておる向きもあるということも、これは事実否定ができないことであると思うのでございます。先ほど来申しますように、私は経済成長政策というもので、池田内閣としても、また自由民主党といたしましても最大公約でありますがゆえに、国民疑惑を起こさせないように具体的な構想というものをこの際より一そう明らかにいたしたい、かように考えまして、まず第一に新しいこれからの経済計画策定について御質問をいたしたいと思うのであります。  御承知のように、去る十一月一日に経済審議会から答申されました国民所得倍増計画がございます。この計画は、前内閣時代諮問に応じまして、一年間にわたって各界権威者を集めて検討立案されたものでありまして、まず第一に新しいこれからの経済計画策定についてご質問をいたしたいと思うのであります。  御承知のように、去る十一月一日に経済審議会から答申されました国民所得倍増計画がございます。この計画は、前内閣時代諮問に応じまして、一年間にわたって角界の権威者を集めて検討立案されたものでありまして、その内容については大いに傾聴すべきものもあり、また尊敬すべきものであると考えるわけでございます。ところがこれをしさいに通覧いたしますと、今回の総選挙において、池田総理あるいはわが党が国民に訴えました公約としての経済成長政策構想から見ますと、やや消極的である。あるいはまたもっと率直に申し上げますならば、あまりにも手がた過ぎるという感じがするのであります。これをやや具体的に申しますならば、まず第一に経済成長率についての問題でございます。昭和三十一年度から三十三年度までの平均基準にして経済成長率を取り上げておるわけでありますが、今申しました平均基準にして経済成長率は七・八%という率をはじき出しておるのでありまして、十年後の目標年次において二十六兆円という国民の総生産は、三十五年度の国民総生産の当初見込み——これは三十三年度の価格で十三兆円となっておりますが、これを基準といたしますと、七・二%の成長率になるのでございます。ところが三十五年度の国民総生産は当初の見込みをすでに相当に上回っておるのでありまして、十四兆円をこすものと見られておるわけでございます。そこでこの実績を基礎として計算いたしますと、七・八%どころではなくて七・二%よりも低い成長率になる。ところが総選挙を通じまして総理の御説明になりましたところ、またわが党が公約いたしましたところは、今後三年間は毎年九%の成長率ということに相なっておりますことは、世間周知の事実でございます。この成長率の勘定の仕方を一つ取り上げてみましても、先ほど申しましたように、われわれの考え方、あるいはこれは池田総理のお考えになった考え方から見ると、あまりにも消極的である、あるいはあまりにも手がた過ぎる、こういう感じがするわけでございますが、まずこの点についていかなるお考えであるか、お確かめ申し上げたいと思います。
  6. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 お話の十年間所得倍増につきましての諮問岸内閣のときに出しまして、各界の権威ある人から答申をいただいたのでございます。十年間倍増ということにつきましての御研究を願ったのでございます。しこうしてこの答申は、各権威者が十年間倍増というので各般の見地から一応お作りになったものでございます。愛知委員承知通り昭和三十年でございましたか、経済計画を作りました。それからまた二回目に三十二年に作ったと思います。しかしこれらの計画は、御承知通り一、二年にしてつぶれたと申しますか、その計画通りいっていないのであります。よほどテンポが早く進んでおる実績があるのであります。この答申は、所得倍増計画についてこういう点を考え、こういうふうな方法でいこうという一つ指針に私はしたいと思うのであります。この通りをやっていこうという気持はございません。この答申一つ指針として、これを具体的にわれわれはどう持っていこうかということを検討しようとしておるのであります。従いまして、あれは十年間倍増ということになっております。私は十年以内に倍増したい、こういうことでございますから、愛知さんと私は同じ考えのようでございますので、少し消極的だという点も私はあり得ると思う。従いまして、私はあの指針を一応の参考といたしまして、今度具体的に十年以内に倍増をするのにはどういう方面にどういう考えでいったらいいか、どこに重点を置くべきか、また十年以内にするために、また事情の変化によって、どういうふうにあの方針を変えていったらいか、こういうことを検討していきたいと思っておるのであります。この九%というのは年平均九%で、三十一年度も三十七年度も三十八年度も九%にくぎづけするという考えは持っておりません。だから三年間で大体本年の当初見込みの十三兆六千億が十七兆幾らになる、こういう考えでいっておるのであります。御承知通り昭和三十四年は予想外に一七・七%の上昇を示しております。今年も実質一〇%をこえる成長率でございます。私は三十六年度におきましても大体予定の九%程度はいくのじゃないか。しかし出入りのあることは前もって御了承願いたいと考えておるのであります。以上のような状態で、一つ指針でございまして、これによりまして、具体的に経済事情、そのときの情勢に合うような施策を講じていきたい、こう考えております。
  7. 愛知揆一

    愛知委員 その次に、やはりこの経済審議会答申総理のお考えの間に若干のそごがあるのではなかろうかという問題があるのであります。これは今回の総理所信表明演説の中にも取り上げられておることでもあり、また、たまたま実は昨年の十月に、自由民主党といたしましては倍増計画構想というものを策定をいたしたわけでございますが、その策定をされました倍増計画構想の中では、何よりもまず第一の基本的なかまえ方として農業と非農業との間、大企業中小企業との間、それから地域相互間に存在するところの生活上及び所得上の格差是正に努めるということが、まず第一の考え方基本として取り上げられておるわけでございます。この格差是正によって、国民経済国民生活均衡ある発展が期せられる、これがこの倍増計画の一番の基本構想になっておるわけでございます。そうしてこの考え方は、たまたま総理の今回の所信表明の御演説の中にも非常にはっきりと出ておるのであります。この点は私も意を強うするわけでございますが、これをもっと率直に申しますと、実は今後十年間のわが国の経済の動向を考えますのに、国際的にあるいは国内的によほどの大動乱でもない限り、またそういうことはあろうとも思わないわけでありますが、そういうことがない限りにおいて、国民の総生産あるいは総所得が十年間に倍になる、あるいは国民平均所得が倍になるということは、これは言葉が足りないかもしれませんが、当然これはできることである。しかし問題は、いわゆる均衡のある発展を期することが大事なことであって、これが私は政治の課題であると思うのであります。ところがこういうふうな考え方に対しまして、この経済審議会国民所得倍増計画の中には、この最初の目次だけを見ましても、そういう点ははっきり現われておりません。それからこの前提となる考え方基本的の態度の中にも、この点がどうもぼやけているような感じがするわけでございますが、先ほど総理の御答弁で明らかでありますように、この審議会計画そのものはあくまで参考指針である、政府としては別個にこれを参考にして倍増計画策定をされるということでございますから、この点を追及するわけではございませんが、しかし私がここに明確にしておきたいと思いまするのは、今の倍増計画というものの取り上げ方基本的な態度、いわゆる格差なき倍増均衡ある倍増、この点が非常に重大な点であるということについての総理のお考えというものをいま一度ここで明確にしていただきたいと思います。
  8. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 お話通りでございまして、私は数百名の権威ある方方がお作りになりましたこの案を批評する意味ではございませんが、私の気がはっきり載っていないことは御指摘通りでございます。私は倍増ということは、これは格差解消への有力な手段考えておりまして、倍増するということは格差を少なくしていこうということの一つ手段と申しますか、こういうふうに考えておるのであります。従いまして、案そのものを見ますと倍増ということについてのいろいろな研究でございまして、政治的にこれをどうやっていこうかというところが少し欠けているような気がいたすのであります。しかし私は倍増計画についての指針を聞いただけでありまして、政治的にこれをどういうふうにやっていくかということは、これは政府のやることでございます。その点はここではっきり申し上げておきまするが、今ある所得格差をできるだけ少なくするための倍増ということは常に頭に入れていることをはっきり申し上げたいと思います。
  9. 愛知揆一

    愛知委員 そこで、所得格差是正の問題に入りたいと思うのでありますが、私はかねがね池田総理お話になっている通りだと思うのでありまして、経済というものはできるだけ伸ばすことによっていろいろの所得の不均衡是正されるものである、こういう確信に立ちたいと私は思うのであります。すなわち、経済が拡大すれば、弱い中小企業もだんだんに中堅的な企業に成長する機会が多くなる、農林漁業に過剰な人口がありとすれば、その過剰な人口も他の産業に移動することができて、経営が楽になるという考えができると思います。また経済発展すれば財政が充実する、その財政予算を通して農林漁業中小企業振興策を拡充することができるし、あるいはまた後進地域のいわゆる東北とか北陸とか南九州とかいうような地方の開発もできる、あるいはまた社会保障の充実もこれによって伸ばすことができる、経済成長のいわば理屈というものはそういうものであるに違いない、こういう私も確信に立つのであります。従いまして、社会党がよく言われるように、経済成長発展があればそれは不可避的に所得格差が拡大するというような議論は誤りである、私はこういうふうに考えるのであります。しかしこれはただいま申しましたように、経済成長論のいわば理屈であり、理論の構成、組み立てがそうであると私は言うのでありまして、しからばこの所得格差というものについて具体的に先ほど前提として申し上げましたように、一般国民大衆がいろいろの仕事に従事しておる、あるいはいろいろの環境におる、あるいはいろいろの地方に居住しておる、その国民の一人一人の立場に立ってみて、なるほどこうなれば経済成長になってわれわれの所得格差なく伸びていくのだ、こういうふうにみんなが理解を強め、そしてそこから自信を持って前進ができるというようにしていくのが政治であると思いまするので、そこでこの格差解消ということについてこれからどういうふうなやり方をやっていくかということが私どもの当面の問題である、かように考えるわけであります。  そこで、最も問題になりますのは、先ほども申しましたが、まず第一が農業とその他の産業との間における所得格差是正ということを第一に私は取り上げてみたいと思うのであります。申すまでもなく、農業土地によって制約されておりますから、工業生産のように増産するということはその性質上不可能な問題であると思いまするし、また生産性向上にも限度があると思うのであります。従って農業就業者の一人当たり所得を他産業並み向上させるのには、可能な限り、従来もやっておりますような、たとえば土地の改良とか耕地の拡張であるとか、あるいはまた災害の予防であるとか、そういうことをはかることはもちろんでありまするが、それとともに従来農業に就業しておったような人たちであっても、他に適当なよりよき働き場所があります場合には、そこに移動して働けるようにしてやるということが必要なことでもありますし、またその前に現在の農家につきましても、それぞれの農家が安心して働けるようないろいろの施策を同時に従来にも増していろいろと工夫をこらしていくということが、私は必要であると思うのであります。同時にまたもちろんのことでありますが、一農家当たり経営規模を拡大する、企業としてこれが成り立っていくようにするということも、もちろんこれは考えていかなければならない問題であると思うのであります。  ところでこういったことをいろいろと考えてみまする場合に、何としても農村地帯にできるだけ工場を誘致する、またそれを可能にするような施策というものが絶対に必要なことは、言うまでもないところでございます。これは問題が非常に多岐にわたるわけでございますが、今申しましたいろいろの問題の中で——これも経済審議会答申を引っぱり出すことは恐縮でありますけれども、このような政策、このような取り上げ方についても実は審議会答申は非常に不十分である。特に私は具体的な一つの問題を例にあげたいのでありますが、農業に対する行政投資というものが十年間に一兆円というように計算されておるのでございますが、これなどは他の行政投資との比較においても決して妥当なものではない、これは非常に低過ぎる。たとえば同じこの案の中で他の例を見ますると、道路投資については四兆九千億円、港湾に対しましては五千三百億円というような一、二の例を取り上げてみても、そのような数字があがっておるのに対しまして、これは非常に過小ではないか。そうすると、こういうようなところが取り上げられて、いろいろと農家に対する不安、あるいは農業政策に対して池田総理初め現内閣の配慮が非常に乏しいのではないかということの一つの具体的な例にこれはよく取り上げられる問題になるわけでございます。これらの点についてまず総理のお考えを総括的にお伺いいたしたいと思います。
  10. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 終戦後におきまして、ことに昭和二十四年からは米価を急速に毎年どんどん上げて参りました。従いまして農家所得増加というものは他産業に対してそうひけをとらなかった。しかるところ昭和二十九年、三十年ごろから米価は一応上がり方が少なくなった、ほとんど横ばい。片一方第二次、第三次産業は、非常な所得増加になりまして、格差が出てきたのでございます。これをやはり直していこうというのが私の考えでございます。先ほど申し上げましたごとく所得倍増計画案というものは、倍増ということを主にいたしまして、その間の重点的と申しまするか政治的にどう配慮すべきかという点は、私はお話通りにある程度欠けているのじゃないかと思います。従いまして、先ほど申し上げましたごとく格差を減少しつつ倍増計画をやろうという場合におきましては、あの案通りにいかないことは当然でございます。私は十分実情を勘案しながら施策を進めていきたいと思います。
  11. 愛知揆一

    愛知委員 ただいまお伺いいたしました中で、たとえば農業に対する行政投資が十年間に一兆円を計上されておるというようなこの具体的な問題について、農林大臣はいかにお考えでしょうか。
  12. 周東英雄

    周東国務大臣 お話の点、所得倍増計画に対する審議会答申内容でございますが、これは御指摘のように一応の答申案として政府参考資料として持っておりますが、これに基づいてさらに政府考えとしては新しく考え方が織り込まれるものと考えております。従って、もし私ども考え方といたしまして、農業所得生産を上げるという立場からいたしまして、現在見込まれておりまする一兆円が正しいか正しくないかということは目下検討いたしております。より必要であると考えれば、これは政府としは増加すべきものであると考えますし、ただ申し上げておきたいことは、所得倍増に関しては単に公共施設の問題だけでは解決しないと思います。大きな問題としては新しい農業、新しい農村の行き方として、現在までの作物というものがそのままであっていいのかどうかということが、再検討さるべき時期に参っておると思います。そういう意味からいたしますと、それらに伴うて行なうべき施策に伴う政府の補助その他が必要になって参ります。私どもはそういうものを別に用意しておりまするので、それらはあわせて考えていきたい、かように思っております。
  13. 愛知揆一

    愛知委員 次に同じく農業問題でございますが、現在最も論議を招いておりまするのは、農業就業構造の問題であると思います。この点についてはすでに本会議等におきましても、あるいはまた総選挙前の国会におきましても、若干の論議が行なわれておったのでありますが、私は先ほど前提に申し上げましたように、なお一そうこういう今日の話題になっておりますることについては、その考え方や、あるいは説明の仕方というものをできるだけ親切に、また考え方の道程と申しますか、プロセス、あるいはこれに関連する今後の対策というようなものについて、農家人たちにもわかりやすく納得ができるような御説明を、この際お願いいたしたいと思うのであります。この問題は、ほかでもございません、昨日の本会議でも総理からかなり明確な御意見の発表があったわけでございますが、世間ではいまだに池田総理農業就業者の数を十年後には現在の四割程度になることができるというように御発言になったと理解をされております。それが、専門的に見まするならば、たとえば第二種兼業農家就業者は含まないものであるというようなことを初めとして、いろいろの説明がその後も加えられておりまするが、それにもかかわらず今なお逆宣伝の材料に利用されておる、あるいはまた農民の間に無用の不安を与えておるというのが事実なのでございまして、この問題につきまして、ただいま申しましたように、この機会におきましてできるだけ詳細に御説明をお願いし、そして農家に対しても安心を与えていただきたい、かように考えるわけであります。
  14. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 手っとり早く申しますと、御承知通り農業所得と非農業所得は一対二くらいと言われております。非農業所得に対しまして農業所得は半分とかあるいはそれ以下ということを言われている。十年後の状況を見ますると、もし倍になった場合におきましてはどこが一番ふえるかと申しますと、第二次産業、第三次産業が一番ふえます。そうすると格差を少なくするということになりますと、農業所得は倍以上にしなければならぬ、こういうことに相なるわけでございます。倍以上にするときに農業自体でどのくらいふえるかと申しますと、私の見通しでは、相当努力いたしましても五割ふえることはなかなかむずかしいのじゃないか。他の第二次、第三次産業は私は二倍半から三倍くらいになるのじゃないか、こう考えて見ますと、意欲的にと申しまするか、農業人口というものは半分あるいはそれ以下にならないと他との権衡がとれない、これは非常に率直に常識的な考えなのであります。他面今の農業の状況を見ますると、六百万戸と申しましても、農業専業は二百万戸あるいは二百十万戸と言われております。そして第一種兼業、すなわち農業所得が非農業よりも多い、いわゆる主として農業所得の第一種兼業農家というものは二百一、三十万戸といわれております。そして残りの百六、七十万戸というものは第二種兼業、農家とは申しましても、もう農家所得よりも他の所得が多い。私はこれは今後数年間において第二種兼業、いわゆる非農業所得の方が農業所得よりも多い農家がだんだんふえていくのじゃないか、こうなって、十年後におきまして第二種兼業というものはどうなってくるかということを考えますと、これはすでに農家じゃないんじゃないかという感じがするのでございます。こういう両面から考えて参りまして、数の問題にとらわれることなく農業というものは自然にそうなっていくのが所得格差をなくするもとなんです。私は意欲的にもそうするようにしなければならぬ、だから第二種兼業を多くする、そこで愛知さんのお話にもありましたように、第二種兼業にするのには、その土地を売り払って出る人もありましょうし、あるいはまたその土地におりながら他の非農業所得を得るようにしなければならぬ、それが今の工場の分散と申しますか、農業自体の方にも、いわゆる農業以外の所得の源泉を政府政治的に持っていくようにしていくべきである、こういう考えで言っておるのです。農業の行くべき道ということは他の産業発展につれまして、それに応じて農業がりっぱな企業として成り立つような施策を講じなければならぬ。農業というものは前から国のもとといわれておりますが、これをつちかうことが政治的に一番重要なことであります。りっぱな農業を打ち立てていく、そうするためには、土地の集中もありましょうし、あるいは農業法人、あるいは共同作業、いろいろな点がありましょう。もちろん土地改良とか、いろいろな今までの施策を推し進めていくことは当然でございますが、新しい観点に立って、りっぱな企業としての農業を打ち立てることが必要である。そうやっていきますと、自然にそれは半分とかあるいは四割とか、いろいろな見通しがありましょうが、それは今後の成り行きで、政府施策がいかによくいくかによっても変わることでございます。私は、こういう意味から他の所得がうんとふえるときに、農業を今のままにしてはおけない。しかも農業は第二種兼業がふえつつあるこの状況が、十年後におきましては第二種兼業はどれだけになったか、またそしてその所得の割合がどうなったかというときには、これはもうすでに農家ではなくなるという情勢がくるのじゃないか、またそうすることが所得倍増、しかも格差を少なくするための倍増というところから当然の帰結であると私は考えておるのであります。
  15. 愛知揆一

    愛知委員 私は先ほど申しましたように、この問題をあえて数字の上にとらわれて、人口がどういうふうな構成になるかというようなことを、この際いろいろとあげつらうよりは、むしろただいまも総理お話になりましたように、農業農業として意欲的に企業としてりっぱに成り立っていくようなりっぱな農業を作り上げる、これが農業基本法を制定されんとする精神であると思いますが、まずこれを一つ十分にりっぱなものに作り上げる、それから他面において九%の経済成長率ができ上がるような総合的な立地計画をもとにしたいろいろの計画が伸びていく、そうしてその方から需要される労働力等との関連におきまして、従来農家立場にあり、農業に従事しておった人も、なるほどこれならば農業以外のところで十分自分も働いていける、そうして従来のような農業に依存していたよりは新しいその職場においてより多くの所得がとれ、それでりっぱになれるのだという確信のもとにおいて現実に移り得るような状態を早く作っていく、その上で十年たってから今日の状態を振り返ってみて、あの昭和三十五年の十二月十四日の予算委員会ではこういう論議もあったけれども、今からそれを振り返ってみればこういう差になったのだ、こういうふうに理解することが、物事がよりよく国民的にも大衆的にも理解されることではなかろうか、これは非常に常識的な言い方でありますが、そういうふうに私は考えるのでありまして、そういう点から私は次の問題に入りたいと思うのでございます。  これは地域格差の問題と切り離すことのできない問題でございます。というのは、地域格差是正の根本策というものは、いわゆる後進地域に可能な限り産業を分散することではないかと思うのであります。そのことが今も申しましたように農業と非農業とのいろいろの連関の問題を解明していく大きな手段であると私は思うのであります。ことに工業の地方分散ということは、もっともっと政府としても本腰を入れてお考えになってしかるべき問題ではなかろうかと思うのでございます。もちろん先ほどもちょっと触れましたように、総理のお考えになっておるところの所得倍増計画、あるいは経済政策の根本のかまえ方というものは、いわゆる社会党流の、重要な生産手段を国営にするとか、国管にするとかいうようなそういうやり方ではないわけでございます。考え方を整理をし、そうしてその考え方が、自然になだらかに国民の自主的な判断と努力によって効果が上がるような基礎を財政的、経済的に作っていくというのが、われわれの根本的な考え方だと思います。しかしそれにしても、地方に工業を分散させるという条件を整えるためには、たとえば道路とか水資源とか港湾とか住宅とか、そういうものの整備が財政的、政策的に絶対に必要なことは申すまでもございません。あるいは技能者の訓練というようなことが必要であることも申すまでもないわけでございますが、さらに私はこの際一段と考え方を進めまして、これは一つの私の私見にすぎませんけれども、たとえば後進地域における工業振興のための法律というような立法措置をお考えになることが私は必要ではなかろうかと思います。もちろんこの立法に際しましては、総合的な国土開発計画あるいは地域的な地方の開発計画というようながっちりした計画が基礎になければならぬことは申すまでもありませんけれども、やはりどうしても立法が必要ではなかろうか。たとえばこれにはどこどこの地方をもって後進地域にするかというような問題もございますが、常識的にいえば、たとえば東北とか北陸とか南九州とかいうようなところが考えられるかと思います。そういったところに工場を分散する、あるいは誘致するというようなことのためには、現在までも地方的には相当の努力が傾けられております。たとえば各県が条例を作りまして固定資産税その他の減免というようなこともやっておるわけでございますが、たとえばこれに一歩を進めて、政府としても固定資産税や不動産取得税や事業税やといったようなものが軽減されました場合に、これを当該県の立場におきまして、その軽減された額を基準財政需要として算入する、つまり国がそれだけの穴を埋めてやるというようなことであるとか、あるいはそうした県が工業の振興のために一定の起債をしたいという場合に起債の特例を設ける、そうして工場用地の確保等の資金のためにこれを充当するといったようなことについて、法的に奨励の方策を講ずることはいかがと考えるわけでありますが、さらにまた一歩を進めて考えますならば、国の税制自身の面におきましても、後進地域における工場新設による所得については、たとえば一定期間法人税の軽減の措置を講ずるというようなことまで一歩進んではいかがであるかというような考えを私は持つのでございます。すでに、たとえば現在行なわれておりまする法律におきましても、東北開発促進法においては、御案内のように重要事業について国庫負担の二割アップということが法制できまっておる。これのごときはたとえば基本的な公共事業等についていわゆる地方の負担を軽減するということが法律上すでにきめられて実行に移っておるわけであります。こういうことを単に従来できておる法律だけにとどめませんで、一般的に財政上あるいは税制上あるいは起債というような金融面におきまして、こういった立法的な措置をお考えになるということが、私はどうもこの池田総理の御構想を地について実現していくためには必要な措置ではなかろうかと思います。これは従来のオーソドックスの財政やり方あるいはその他の考え方から言いますと、なかなか踏み切りのつかぬものであるかと思いますが、十年所得倍増、ことに後進地域との間の地域格差是正する、そしてここに地方的な工場を振興して余剰労働力を吸収して所得増加させるというような大きな構想から見ますと、その辺から意欲的な政策政府においても展開されることが必要であるかと私は思いますが、このこまかいいろいろの具体的な、今数個の例をあげました、それらの点について、こまかい点はともかくといたしまして、私は立地計画に基づくこうした立法が必要であるというこの私の意見に対しまして、総理から一つ御所見をお伺いいたしたい。ここに積極的な意欲を総理みずから御開陳あらんことを私は切望するわけであります。
  16. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 産業地方分散と申しますと、あるのを分けるように聞こえますが、そうでなしに、今度ふえる産業、工場を地方に持っていくということは先ほど申し上げた通りでございます。従来わが国におきましても、たとえば電力の安いところ、福島県の郡山とかあるいは富山県等におきましては、動力が安いというので自然に工場が設けられたのであります。また労働問題にいたしましても都会地よりも安い。こういうところで産業地方分散ということが経済的に行なわれておりましたが、今はそれがよほどなくなってきた。そういう好条件が地方になくなってきたから、これをやはり政府の手でいろいろ考えなければならぬというので、北海道開発法とかを初めといたしまして各地に地方振興の法律が出てきておるのであります。しかしこれをもってしてはなお足りません。お話所得倍増計画案にいたしましても、太平洋地域のベルト地帯とか、あるいは現存の地帯をふやすというようなことにとどまっておりますが、私はそれでは今の格差の縮小するということに沿わないので、お話のような強力な手段をとらなければから念仏に終わるのではないかと私は思っております。イギリスにおきましては、以前に工場法を設けましてそういうことを意図しておったようでございます。私は地方分散につきましてのあなたの今の施策、たとえば地方税におきまして固定資産の軽減とか、あるいは基準財政需要にそれを入れるとか、あるいは国税におきましてもたとえば重要物産の免税措置を産業においてとるがごとく、こういう地方についての工場につきましては所得税を軽減するとか、特に重要なことは償却をうんと縮める。こういうふうにしてあらゆる面から税制において考えると同時に、金融におきましても、たとえば開発銀行からの貸付金利を軽くするとか、いろいろな方法で、あまりオーソドックスな考え方から出てこない今のお話のような点につきまして私はやっていきたい、こういう考えを持っておるのであります。これは経済的に申しますとなかなか困難であります。たとえば石油精製工場を設けますときには、電力——火力発電をどうするかとか、あるいは石油化学を一緒にしなければいかぬ、こういうところで、新しいところへ非常な大工場を設けるということは、経済的になかなか困難な点が多いようでございますが、それを政治的に財政的に金融的に見る措置を講じなければ、私の念願しておる、何と申しますか、農村の振興あるいは今の農民の方あるいは今後農家に生まれてくる二男、三男坊の方々のいい就職場所が手近に得られないことになる。私はオーソドックス的な考え方を変えまして、画期的な措置をとっていく所存でおるのであります。
  17. 愛知揆一

    愛知委員 総理のオーソドックスな従来の考え方にとらわれずに画期的な努力をしていくつもりであるというお言葉は私も敬意を表しますが、同時にそのお言葉が現実に関係の各省その他にも徹底いたしまして、今のお言葉通り、すみやかにこれがいろいろの措置の上に現われることを私は特にお願いをいたしておきたいのであります。なおただいまのお言葉の中に、ベルト地帯の構想のことがちょっと出たわけでございますが、実はこの点も、先ほど問題にいたしました審議会答申との間に私ども考えが食い違っておるところでありまして、後進地帯の開発は、ベルト地帯の開発が済んでから、その後の、つまり十年の計画が済んだその後に積極的に取り上げるというような考え方審議会答申では出ておったのでありますが、それでは総理のおっしゃるような農村問題との関連において問題を解決することにはならない。少なくともなりにくいという点をここには指摘いたしまして、ただいまの総理の御答弁通りに、後進地域に対する施策が伸びることを私は期待をいたしまして、この点についての質疑は一応この程度にいたしておきます。  さらにその次の格差の問題は、大企業中小企業との関係の問題でございます。この点につきましては、特にるる申し上げる必要もないのでございますが、一言にして申しまするならば、最近のわが国の経済が示した異常な成長の過程を顧みて見ますると、大企業は非常に高い投資水準を続けておる。欧米の先進国の先鋭企業にもまさるような近代設備をなし遂げております。そうしてたとえば重化学工業は急速に進展して産業構造がいわゆる高度化したわけでございます。ところが総体的におくれた生産設備あるいは安い労働力で形成されておる中小零細企業との間には、それだけに二重構造的な様相がきわめて顕著になってきたというのが偽らざる今日の実情であるわけでございます。従って、私はこうしたこの最近における二重構造が顕著になった点を可及的に解消するという立場から、中小企業対策については、従来のように、ただ一般的な金融を円滑にするとか、あるいは税において若干の軽減をするとかいうような、この中小企業全般についてまあこれならばというようなふうなところではなくて、各業態別にいわゆるきめのこまかい対策を法律的にも行政的にもぜひとっていく必要があるということを私は指摘しておきたいと思うのでございます。ことにまた、大企業が今後ますます発展する、そうして相当の高賃金でそこにおいて雇用が増大してくる。これに対して反射的に中小の企業はその面からも人を得ることが困難になってくる。また、人を得るためには高賃金にしなければならない。それがまたそれらの生産や商いの上のコストに響いてくる。そこに目をつけたいろいろの政治的、社会的な運動の芽ばえやいろいろのトラブルが起ってくる。こういう点についてもあわせて総合的な立場からのきめのこまかい対策というものを一つぜひ心がけていただかなければならないと思います。これらの点については関係するところが各省多岐にわたりまして、各大臣からそれぞれ御所見を伺いたいところでありますが、時間の関係もございまするので、総体的な考え方について総理の御所見を今日は伺うにとどめたいと思いますが、どうか今申しましたような点についての総理の率直なお考えと御決意のほどを一つお漏らし願いたいと思います。
  18. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 規模別の所得格差の問題につきましては、愛知委員お話しの通りでございます。中小企業対策といたしましては、今まで法律的に金融的にいろいろ手をつくしております。ことに商工会法の制定を見ましてからもう外国のそれにまさるとも劣らない程度施策はいたしておるのでございまするが、何分にも中途半端と申しまするか、金融の面にいたしましても、あるいは税制の面にいたしましても、きめのこまかいところを大胆にやる点がまだ十分でございません。私は先ほど農業について申しましたと同じような考え方で、たとえば中小企業の近代化資金にいたしましても、また金融の面につきましても、あるいは税制の面で、ことに問題の償却の点につきましても、あるいは事業所得の問題につきましても、いろいろ今度中小企業のための特別の考え方をもっと強く進めていって、そして格差解消に努めたい、こういう考えでおるのであります。
  19. 愛知揆一

    愛知委員 これらの問題については、先ほど申しましたようにさらにいろいろとお尋ねをいたしたいのでありますが、時間の制約がございますから一応この程度にとどめまして、次の問題に入りたいと思います。  次の問題と申しまするのは、いわゆるドルの防衛の問題についてでございます。この問題につきましても、一応本会議その他におきまして質疑応答はあったわけでございますが、本日は私は冒頭に申し上げましたように、できるだけ詳細に具体的に政府考え方、あるいは見通し、あるいはそれらに基づくところの対策というようなものについて、やはりくろうとだけが知っておればいい、しろうとは黙っておれというようなことではなくて、国民大衆とともに自分の問題としてわかるように、また納得のできるように、この問題についての解説と、それからこれに対処する国民としての態度というものをお互いに真剣に考えて参りたいということを前提にして、以下数点をお伺いいたしたいと思うのでございます。  この問題について、実は十二月十一日の朝日新聞の日曜論壇で中山伊知郎氏の所見が発表されておりまして、私はこれに非常に興味と同感を覚えたわけでございます。その中にこういうことが書いてございます。たとえば特需がなくなるとしても、あるいはまた対米輸出が減退するにしても、それはヨーロッパ向けに輸出をすればいいじゃないか、いろいろ方策はある、こういうふうな考え方もあるいはあるであろう。しかしそれはともかくとして、極端な場合だけを積み重ねて考えることはよくない。つまりあまりにも問題を重視し過ぎて、こうなったらどうなる、こうなったらどうなると、極端な場合だけを積み重ねて考えることはよくないが、反面において、極端な予想される場合におきましてもやれるという覚悟と用意とが必要である。そういう意味において、事態をよりよく分析し、あらゆる場合に対処する覚悟と用意とがほしいという趣旨がございますが、私は今の政府に望みたいのはこの言葉であり、態度であると思うのでございます。つまり事態をよりよく掌握し、そうしてこれをできるだけ言葉を惜しまずに説明をし、国民納得を求めることが必要であると思います。同時に、中山氏はこういうこともその中で言っておられます。少なくともドルで困るのは米国だけではない、自由世界全般である。危機に処する各国の態度は当然に自国本位ではなく、協力主義的でなければならない。そうしてまたこうもいっております。そうした協力関係を持つべく日本の経済は十分な用意を持っているか、みずから問い、みずから答えることが今日の急務である。私はこの通りだと思うのです。そこで私はみずから問い、みずから答えるという意味において、この問題について若干の御質問をいたしたいと思うのであります。  まず第一に、これは事実のことでございますから、ここにあえて申し上げる必要もございませんが、十一月十六日のアイゼンハワーのディレクティブで、国際収支改善の一連の緊急措置を指定したわけでございます。これは前から当然予想されたことであるといってもいいかと思いますが、アメリカの全保有高が百八十億ドルを割ったことを機会として、ドルに対する信頼を維持することによって、従来アメリカが果たしてきた自由世界での責任と地位を持続しようとするのが、この根本の考え方ではないかと思います。そしてその重点を分析すれば、こういうことになるかと思います。まず一つは、自由化促進等によって米国自体の輸出を増大するということ。それから一つには、先進工業諸国による後進国の経済援助等を肩がわりをするということであるかと思います。それからその一つは、特需の域外調達の削減と軍人家族の引き揚げ等による対外支出の軽減ということにあると思います。そしてこれと同時に、アメリカ自体の長期の対策として、たとえば米国の輸出の問題にしてみるならば、相手国に対しまして関税とか貿易制限とかいうものの除去ということを要請することになろうかと思われます。また国際金融の面におきましては、いろいろの点においてすでに西欧諸国にも手を打っておるようでありますが、経済協力への支援を要請するということになろうかと思います。またアメリカ自体の国内対策とすれば、インフレの対策、あるいは労使問題の解決というようなことも、この長期対策の中には上げられておるようでございますが、さらにこのディレクティブによって、十二月十五日を期限にして、アメリカの関係各省に対して、具体的な細目が立案され、そしてこれがホワイト・ハウスに報告されることを期待しておるわけでございますから、今後におきましてもこの十五日を契期にしていろいろとこまかい指令が出てくることが予想されるわけでございます。従って今政府にいろいろのこまかい点について、これはどうだとお尋ねしても、答えられない点もあることは、これは事の性質上当然だと思います。しかし、十二月五日にハーター長官から国際協力長官に対して発出された指示だけ見てみましても、ICA資金による物資調達を秩序よく停止することということが示されておるわけで、これと先ほどの大統領のディレクティブの、私は勝手に三つの点にしぼってみたのでありますが、今まで明らかにせられたことだけでも、私は、やはり相当の日本に対する影響というものがあることは否定できないと思うのでございます。そうしてこれらに対しまして、たとえばICA資金による調達については秩序よく停止することと書かれてある、それから例外措置も若干は認めてあるというようなことではあるけれども、例外措置は多くなりそうなんだから安心だとか、あるいは部品の発注というようなものも認められるはずだから安心だというような、安易なサイドだけをこの際誇張せずに、先ほど私は中山氏の所説を引用いたしましたように、極端な場合だけを考える必要もないけれども考え得るいろいろの場合を想定して、それでも日本の経済はこうやっていけばいけるのだというふうに、態度としてこまかく、何べんも申しますようでありますが、わかりやすく、一つ政府態度というものを国民に対して御表明願いたいと思うのでございます。  そこで、前置きは長くなりましたが、まず総体的に、これらの措置に対してどれだけの具体的な影響が考えられるかということを、これは通産大臣からでも、あるいは事務当局からでもけっこうでございますが、一応御説明をお願いして、それからさらに質疑を進めることにいたしたいと思います。
  20. 椎名悦三郎

    ○椎名国務大臣 ハーター長官の趣旨は、おそらく既契約の分については、これは破棄しないというようなふうに解釈されるわけでございます。でありますから、もし既契約を尊重して、それ以後の調達ということになりますと、影響の現われるのは三十六年度の後半ということになるようであります。  それから特需関係、これもいろいろ研究してみたのでありますが、さしあたり一億ドルないし一億二千万ドルというものが、三十六年度から三十七年度にかけて影響が現われてくるのではないか、かように考えております。
  21. 愛知揆一

    愛知委員 どうもそれだけのお答えではまことに納得ができないのであります。いま少しくいろいろの項目について、先ほど前提で詳しく申し上げましたような角度からお答えを願いたいと思うのでありますが、しかし野党とのお約束の時間もあるようでございますから、私は、この問題だけでこまかく時間をとられることがまことに残念でございますから、これは別の機会にさらにいろいろと詳細に伺いたいと思います。  しかし、本質的な問題については総理にぜひ一つ意見の御開陳を願いたいと思うのでありますが、まず私は、これは日本の総理大臣に伺うのは非常に的違いかと思いますが、先ほども申しましたように、このドルの問題はアメリカだけの問題じゃない、自由主義国全体の問題であるし、そうしてまた、この問題についてはわがこととして、みずから問い、みずから答えるような必要の問題であると思う観点から、あえて伺いたいのでありますが、一体アメリカの経済が今後どういうふうになっていくのであろうか。これを端的に申しますと、今回のドル防衛の措置というようなものは、単純なセッションといいますか、波として、あるいは好景気、不景気というような、普通によく起こり得るところの景気、不景気の波というような意味における一つの後退なのでありましょうか、それとも、これはもう少し根本的な、アメリカ経済としての構造的な変動というようなものを意味するものでありましょうか。このあとの点については、評論家や経済学者の中にもいろいろの見方があるようでありますが、中には、たとえば欧州共同体等の非常な成長発展によりまして、アメリカの経済自体の中にも構造的な変化や見通しが予想される、今度の措置も、その根本的な変革に対処する一つ前提としての対策ではないかという見方もあるようでございます。それからまたもう一つの大きな見方としては、アメリカの世界政策、いろいろの防衛政策あるいは対外援助政策というようなものをも含めての世界政策的な変容、変貌というようなものも予想され、あるいはその一環ではなかろうかというような点をいろいろと問題にしている向きもあるようでございますが、やはりこのアメリカの全体の見通しについてある程度の見通しを持ちませんと、こちらとしてのみずからの答えというものは出にくいんじゃなかろうか。これはあとで私は、アメリカの世界政策というような点についても若干お尋ねをいたしたいのでございますが、まず今は、ドルの問題に関連いたしまして、この点についてもし総理に何らかのお考えがございますれば伺っておきたいのであります。
  22. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 世界の経済の変革、ことに各国の通貨の価値その他の問題につきまして、今から三十年足らず前のあのケインズの学説が出まして、よほど変わって参ったのでございまするが、三十年後の今においてこのドルの問題が起こって、私はちょっと名前を忘れましたが、画期的な金融、為替の変革が起こるんだと唱える学者がおるのであります。そういう一部の学者、それに相当共鳴しておる実際家もおるようでございますが、私は、このIMF中心に別の通貨というものをこしらえるというふうなことは、これはまだやはり学者の議論じゃないか、こういうふうに考えます。今度のドル問題の経過を考えますると、今から四、五年くらい前までは、アメリカがドルを持ち過ぎておる、西ヨーロッパあるいはアジア等ドル不足で困っておるから、何かこれを解消して、アメリカに金が集まらないようにすべきじゃないか、こういうことを西ヨーロッパでも言っておりますし、われわれもそう言っておった。まあ共同市場、貿易連合の発生以来それが成功いたしまして、そうしてアメリカからの金の流出が見られ、またわが国におきましても、ドル準備が相当多くなった。その原因は、やはりアメリカの何といいますか、お話しになりました労働事情その他によって、いわゆるクリーピング・インフレーションがずっと続いておった。それで、このクリーピング・インフレーションも、一九五六年、五七年ぐらいまでは、アメリカの輸出入の関係を見ますと、五六年はやはり七十億ドル、五七年は八十億ドル近い輸出超過、だから六十億程度の軍事援助、経済援助をやりましても、なお金がアメリカに集まるという状況でございましたが、五八年からはその七、八十億の輸出超過が五十億くらいになりました。五九年には、去年は輸出超過が二十億、だから六十億の経済援助、軍事援助で、そこで三十億前後の赤字が二年出てくるようになった。今年におきましても、その傾向があるのであって、これは私は、われわれが念願しておったアメリカヘの金の集中ということを排除して、西欧も日本も金を持とう、こういう念願が達せられて、アメリカの金が西ヨーロッパ、日本へきたという状態なのであります。われわれとしては、自由国家群、ことに世界経済の安定的発展をはかっていく上におきましてはドル価値の維持の問題は、アメリカ人のみならず、西ヨーロッパもわれわれも、自由諸国全体の問題でございます。従いまして、私は先の新聞記者会見におきましても、その意味のことを話し、ドルの価格維持はアメリカのことばかりでなしに、ヨーロッパ、われわれのことである。だから、この維持に対して協力しよう、こう私は答えておったのでございます。  今回のドル問題に対しまする三つの点、私はあなたと全く同感です。第一は、アメリカの輸出入の関係がそうなりましたから、輸出を伸ばさなければならない、そのためにはやはり為替管理をやめ、自由貿易に立っていかなければならない。しかし、この自由貿易主義と申しましても、もうすでに御承知のごとく、西欧におきましては、もうドルに対しましては九十数パーセントまで自由化をしております。自由化をしていないのは日本、私はこの情勢を察知しておりましたから、昨年来、自由主義に日本が移りかわらなければいけない、自由貿易で立っていかなければ日本の経済の伸展、貿易の発展は行き詰まるぞという考え方で自由貿易、自由化ということを唱え出しておるのであります。日本はおくれておりまするが、この問題につきましては、私は、ドル防衛の問題のあるなしにかかわらず、日本としてやらなければならぬという決意をいたしておるのであります。しかしドル防衛があったからといって、むちゃくちゃに進める、急がねばならぬという考え方が強化されたわけではございません。だから、第一の自由化という問題につきましては、これはわれわれには相当のことでございますが、全体としてあまり大きい問題ではございません。第二の、経済援助あるいは軍事援助につきまして、アメリカが、とにかく西ヨーロッパが持てる国になったのだから、低開発国への開発の肩がわりをしてくれなければならない、私は当然なことだと思います。また西ドイツは持ちすぎるほど持っていると申しますか、イタリーなんかも相当持っているのだから、これはやはりお互いにドルを防衛する立場から考えていくべきじゃないか。われわれといたしましても、単にドルを蓄積するのが本願じゃないのでございますから、東南アジア開発、その他低開発国には今までよりも一そうの決意を新たにして出ていくべきだと私は考えております。また軍事援助につきましても、たとえば西欧諸国につきましては、アメリカは軍事援助を少し減らすか、肩がわりというふうなことも言っておるようでございます。これはなかなかむずかしいと思うのです。これはアメリカ自体の問題、相手のあることでございますから、この点は今後各国がどう出るか、低開発国に対する開発、これは大いに肩がわりしていくことがわれわれとしての務めじゃないか。  第三の問題の、ICAとかあるいはアメリカ軍の経費を減らす、これはやむを得ざることでございます。しかし、この問題につきまして、日本に一番こたえるのはICAの問題、これは全体の二割以上日本は持っておるわけでございますが、この問題につきましては、たびたび申し上げておるように、一億一、二千万ドル、これがどういうような減り方になるか、これはまだわかりません。全部減るように新聞にも出ておりますし、あるいはいろいろなことがありますが、しかし問題は、せんだって新聞によりますると、値段が高くてもアメリカのものを経済援助で持っていくのだ、こういうことを言っておりますが、たとえば肥料の問題にいたしましても、これは肥料会社に非常に影響がある。今、肥料が大体外国への輸出は七、八千万ドルと思っておる。そのうちICAによる輸出が二千七、八百万ドルと思います。これだけ減るか減らぬかという問題であります。これは主として朝鮮、台湾、一部ベトナムでございます。朝鮮の方に今度はアメリカが硫安を持っていくか、あるいは尿素を持っていくかということになると、アメリカの肥料の製造能力がこれを肩がわりするだけ製造能力があるか、あったにしても、設備を拡張して日本の肥料のかわりにアメリカが肥料を生産するかどうかという問題、そしてまた日本ほど朝鮮に安く売れるかという問題、フレートの問題等々がございます。また季節的な関係もあります。今十二月から一月に対して要る肥料が今すぐアメリカに間に合うかというようないろいろな問題がございまして、ICAの一億一千万ドル、二千万ドルにつきましても、なかなか今のところ計算ができませんか、四十億ドルの輸出だから、これは大した問題じゃない、こういう考え方もありますが、これは一つ大きな問題としてその内容と時期を検討しなければいけません。それからICA以外のいわゆる軍需関係で円セールの問題は二億ドルばかりでございます。二億ドルばかりでございまするが、今日本に駐留しておるアメリカ軍人が五万人でございます。家族が五万五千、これがどれだけ減るか、大体一人の消費を千ドルと計算いたしまして、大体その五万五千のうちどれだけ減るかでございますが、私の計算では大体六、七千万ドルくらいの減りようじゃないか、ICAが全部減りましても二億ドル足らずじゃないか、こういう計算をいたしております。  それからアメリカ軍のいわゆる円の預け勘定、この分がどれだけ減るかということでございますが、これは私はあまり大して減らぬのじゃないか、軍人あるいは軍の設備がある以上はそう減ることはない。私の計算では大体何ぼいっても二、三年後に二億ドルくらいじゃないかという考え方を持っております。  そういたしますると、過去の例で申しますると、一番特需の多かったのは昭和二十六年と二十七年、このころは八億ドルくらい特需があった。そして日本の輸出は十一億ドル、十一億ドルに対して特需が八億ドルあった。今は四十億の輸出に対して特需全体が四億七、八千万ドル、それが二億ドル減る、まあ五%足らずということになると、前の朝鮮事変前後のピークからだんだん下がっていったときの様子から見ると、十一億ドルの輸出能力のときに八億ドルあった。四十億ドルのときにこれが二億ドルくらいになる。こういうことを考えてみると——それは心配する人もありましょう。われわれも心配いたしまするが、この程度というものはおわかりいただけると思うのであります。それから一ぺんに二億ドル減るわけじゃございません。たとえば昨年中アメリカに対しての輸出は、御承知通り一昨年に対しまして三億数千万ドル——四億ドルふえておる、アメリカに対する輸出だけでも。本年はあまりふえておりませんが、今年に入りましてヨーロッパに対する輸出は四、五割ふえておる。こういうことを考えてみるならば、二、三年後に二億ドル減るとした場合において、われわれはこれは踏み越え得ない難関かどうかということを考えますと、私が本会議で言っておるように、二億ドル程度のものは大体踏み越え得るのじゃないか、日本の貿易の伸長から申しましても、世界貿易の毎年のふえ率は四%ないし五%、しかし昨年の日本の輸出入のふえ率というものは二〇%をこえております。世界の貿易におきまして日本の輸出の伸び方というものは各国の四倍ある。大体倍ぐらいのものは続け得るのじゃないか、すなわち前年に対して一割ぐらいの輸出の増は今までの実績からいって期待し得る。そうすると、四億ドルふえるということになれば、来年は二億みな減るわけじゃないのでございます。これは私は自分に問い自分に答えるという中山先生のあの論文も読みましたが、大体問い、答え得ると考えます。日本の国際収支の問題は、正確に申しますと通常取引において一億数千万ドルの黒字でございますが、日本に対する信用は非常に高まってきて、御承知通りユーロー・マネーも今二億ドルをこえている。こういうふうな状態でありまして、日本の外貨事情というものは世界の一流とは申しませんが、中以上になっております。たとえば四十二、三億の輸入に対しまして十七億六千万ドル、あるいは今年末にはユーザンスの期間を延ばしましたから、大蔵省あるいは通産省、企画庁の方では、今年度は二十億になるだろうと見ております。そうしますと四十億余りの輸入に対して二十億の外貨を持っているという国は、イギリスは輸入額に対して二五%、フランスより上でございますが、ドイツ、イタリア、日本くらいじゃありますまいか。こういうふうな状況を考えてみますと、繰り返して申しますが、私は自分に問い、自分で答え得る。だからこの問題について、ICAは日本に非常に重要でございますが、各国におきまして日本ぐらい大へんだ、大へんだと言う国はあまりないと私は思います。やり方につきましても、あるいはアメリカのやり方が少しきつ過ぎるとかいう議論がございますが、アメリカの身になってみると、上手下手は別問題といたしまして、当然のとるべき処置であります。そしてドルを中心として立っておる国々は、このドル防衛に対して協力すべきであり、また日本も協力するだけの力があるかというと、協力するだけの力がある。そして日本はこういうことを考えながら輸出の振興をやり、世界の信用を高め、そして円に対する東南アジア諸国の信用を高め、ドル、ポンド、円というふうなことでやっていくことがわれわれの進むべき道じゃないか。こういう機会一つのいい試練としてこれをうまく乗り切っていこうというのが私の考え方なのであります。時間の関係で十分申し上げられませんが、具体的にお聞き下さればまたお答えいたします。
  23. 愛知揆一

    愛知委員 総理の非常に自信満々でかつまた詳細な御答弁でありましたが、私は先ほど申し上げましたように、さらに今後もいろいろな具体的なアメリカ側の措置の展開もあることと思いますし、また先ほどの通産大臣の御答弁のような程度では、政府の本問題に対する取り組み方が非常に甘いと私は思いますので、なお一段と真剣にお取り組みになっていただきたいと私は思います。  そこでこの問題についての最後のお尋ねとして端的に総理に伺いたいのでありますが、かねがねわが国としては外資の導入という点について非常に熱心にやって参ったわけでございますが、今後における外資導入という問題についてのお考えを伺いたいということが一つでございます。  それから第二に、これも多年の懸案でございますが、ガリオア、イロアの問題について最近における何らかの交渉がございますか。またそれのあるなしにかかわらず、今後の御態度というものを承りたいと思います。  それからいま一つは、ただいまもお話がございましたが、低開発国に対する援助の日本への肩がわりの問題で、たとえば海外経済協力基金の出資を増額するというようなこともあるかと思いまするが、さらにそれ以外に、たとえば第一にお尋ねいたしましたガリオア問題等とも関連いたしまして、低開発国援助の日本のこれからの考え方。  さらにもう一つ、時間の関係もございますからこれも端的に伺いますが、今後の日本の防衛計画というようなものについて、今回のアメリカのドル防衛措置との関連で何らか変化が予想されますか。あるいはそれらの点についてお考えがあれば承りたいと思います。  以上四つの点につきまして総理からお答えを願いたい。
  24. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 先ほどお答えするのをちょっと忘れておりましたけれども、各国の、ことに西欧諸国のドル防衛についての協力でございまするが、低開発国のみがまだきまっておりません。ドイツは相当真剣に考えております。ドル防衛の問題といたしましては金利の問題がある。イギリスはこのドルの状況を見まして、十月二十七日に中央銀行の金利を六%から五・五%に下げた。またフランスも四%から三・五%に下げておる。ドイツは十一月に五%から四%に一%下げた。イギリスは八日に五分五厘から五分に再度下げております。この下げた理由を聞きましても、これは下げるような状況じゃないのだけれども、今度金利政策を弾力的にやっていこうと表明しておりまするが、アメリかの金利とヨーロッパの金利との差をここである程度是正して、ドル防衛に協力する態度でこういう措置をとったと私は考えております。私は日本の金利については申し上げませんが、とにかく西欧諸国はこういうふうに協力関係になっておる。私は、こういうのはやはり他山の石としてわれわれが外交あるいは経済政策考えなければならぬ問題だと思っております。  次に外資の問題です。アメリカからドルの流出があるからこれをとめるのじゃないかという考え方を持っておる人もありますが、私の聞くところでは、そこまでいってはいないのじゃないか。これは専門家から申しますと、たとえばフォードの会社がイギリスにおける自動車製造会社の株を過半数くらい持っておったけれども、今度全株を引き受ける。そういうことになると、三億ドルくらい出ていく。こういうようなものにつきましてそれが行なわれておることを見ますと、外資の導入に対してどれだけの影響があるかということはまだ即断できない。願わくはあまり影響のないことを私は願いたい。しかし、アメリカ側の導入がいかなければ、われわれとしても今度はヨーロッパ諸国からの導入を考えるべき事態にきておるのじゃないか。しかし私は御質問について答えるのは、日本の外資導入について大した影響はないのではないか。今のイギリスの例等を見ましてそう考えております。  それからガリオアにつきましては、どちらかの本会議でお答えしたように、私は以前から債務と心得ております。総理大臣に直接のお話はまだございません、今後の問題として検討いたしたいと思います。  それから低開発国への出資、これは私はせんだってもフィリピンとの通商航海条約を締結し、また昨日もパキスタンの大統領に、パキスタンの経済五カ年計画に対して日本の援助をほしい、こういう申し出がありましたから、それならばパキスタンと早く通商航海条約を結びましょう。日本人が自由に出入りできないし、行ったって短日月しか滞在できないというのでは経済交流もできないから、早く通商航海条約を結びましょう。また先般インドネシアの大統領が来ましたときも、私は、通商航海条約を結ぶことが日本が低開発国に対して力を入れるもとなんだから、この通商航海条約を結ぶべく話をいたしまして、賛成を得まして、近日中条約を結べることと思いますが、私は、低開発国に対する援助はドル防衛があるなしにかかわらず、われわれはできるだけやっていくことが日本の東南アジアにおける立場から申しまして、日本自体を伸ばしていく上におきましても非常に必要なことでございます。従いまして、御審議を願っております輸出入銀行に対する出資も、やはり低開発国、中南米に対しましての経済援助ということが加わっておるのであります。そうしてまた御審議願っております五十億の開発基金につきましても、わが国の事情が許すならば、これをできるだけふやしていきたいという気持を持っております。しかし、何分にも相手のあることであります。また日本もお話しの通り外資を導入しておるような状況でありますから、その点の関係をはかりながら私はできる限り低開発国への協力を進めていきたいと考えております。  なお、ドル防衛につきまして防衛計画という問題、防衛計画というのはアメリカの軍事援助による日本の防衛の問題と思いますが、私は、アメリカの軍事援助は先ほど申しましたごとくそう大して影響はないのじゃないか。しかし、技術的にいろいろな変化もありますので、一がいには申せませんが、日本の防衛に対しましてのアメリカの物的援助の問題につきましては、われわれは今まで通り行くことを望んでおるのでございます。また日本自体の防衛計画につきましては、ドル防衛の問題とは別個の問題でございます。これは十分国情に沿った計画を立てたいと思っております。
  25. 愛知揆一

    愛知委員 それでは次の問題に入りまして財政予算の問題について一、二お尋ねをいたしたいと思います。  その一つは、今回の補正予算の問題でございます。今回の補正予算一般会計千五百十四億円というような相当大きな規模の補正予算でございまして、これはわが国の経済の予想以上の繁栄の結果であるということも言えるわけでありますから、一面においては喜ぶべきことであるということもできると思います。ところがその伸び方の問題なんでありますが、そもそもこの三十四年度の見込みが当初過小であった。その過小であった見込みに対して、成長率を六・六%というようなところに見積もったところに一つの根拠が、こういうような自然増収が出てきたところの根拠でもあるし、同時に私は、千五百十四億円というような程度のものではないのじゃないかと思うのです。これは私は歳入見積もりの具体的な各税目の見積もりについてまだ十分詳細に研究をしておりませんので、各税目にわたって個々に質疑を申し上げるだけの用意はございませんが、全体の観測として、私はこの程度のものじゃないと思うのであります。もし私の感じのようにこの程度のものでないという場合におきまして、さらに増収が確実になると見込まれる場合には、当然私は第二次の補正予算が組まれるものかと思うのであります。まず私は、その自然増収が見積もり過小ではないか、この点と、それからもしこれが過小であって、さらに増収が予想される場合には、第二次補正予算を組まれる用意があるのかどうかということを、大蔵大臣からお答え願いたいと思います。
  26. 水田三喜男

    ○水田国務大臣 この三十五年度の税収の見込みが過小であったということは、今御指摘通り三十四年度から五年度への経済の伸び率を非常に過小に見たためでございまして、想像以上に本年度の経済が順調に拡大しておりましたために自然増収が多くなったのでございますが、私どもは、従来の課税状況、収入実績というようなものを十分に見て検討して、現在判明している資料のもとではこれくらいに見積もるのが確実な見積もりだという考えで大体今のところは千六百五十億円前後の増収を見たわけでございます。そのうちでガソリン税の八十億円は今度の補正の中に入れておりませんし、それからきのう御説明しましたように、一月から減税をする五十八億円分も歳入に立てておりませんので、それらを差し引いて千五百十四億円、ここらが今見込み得る確実な見込みであると思っております。従って、今のところ第二次の補正予算というようなものは考えておりません。
  27. 愛知揆一

    愛知委員 水田大蔵大臣のお立場として、今第二次補正予算を出しますということも言いにくかろうかと思いますが、私は、これはもちろん愛知個人の見通しでございますが、増収は必ずこれより多かろうかと思います。そうしてその場合には、そのときの状況において第二次補正予算を組まれることと思います。そういう前提でお聞き取りを願いたいと思いますが、私は、そういった場合におきましては、インベントリーと申しますか、そういうものに組み込んでおかれて、予算の弾力的な運営、あらゆる情勢に対処し得るような心づもりでやられることが望ましいのではないかと思うのであります。実を申しますと、補正予算のただいま審議されておりまする中で、たとえば産投への繰り入れが、やはり私見でございますが、少なかったのではなかろうか、そういうこととも考え合わせまして、もしそういう場合には、今申しましたような考えでやっていただくことが望ましいかと、私、私見として思いますが、一つ私の意見に対しまして、水田さんの御意見を承りたいと思います。
  28. 水田三喜男

    ○水田国務大臣 今申しましたように、現在見込まれる確実なところは、千六百五十億円前後の自然増だということでございますが、これにはまだ不確実な要素を今後持っておりまして、九月期の決算法人の申告納付状況とか、あるいは年末賞与の支給状況がどうなるか、年末年始における酒類の消費状況がどうなるか、あるいは申告所得税の確定申告状況がどうなるかということによって、今の見通しが今後どう狂っていくかわからないという要素を持っておりますが、大体私どもはそう大きい予想の狂いはないだろうと今思っております。ただ、そういう不確定要素を持っておりますので、私ども見込み違いでまた自然増がもう少しふえるという事態があるかもしれませんし、そういうことを仮定した御質問であると思うのでございますが、私どもも、今度の補正予算において産投会計への繰り入れをもう少し多くしたかったということもございますので、そういう場合に愛知さんのようなお考えで対処するということについては、私ども賛成でございます。
  29. 愛知揆一

    愛知委員 引き続きましてこの予算の問題でございますが、実はこの千五百億円にしても、あるいはそれ以上にいたしましても、これは近来にない非常に大規模な補正予算でございます。従ってこうした場合には、補正予算を提案されるというよりは、むしろ来年度予算ともあわせて、いわゆる十五カ月予算というような、全体を通じての財政計画というものが、本来ならばここに提示されてしかるべきじゃなかったかと私は考えるのであります。これは総選挙の直後でもございますし、また国際的その他にもいろいろと新しく考えなければならない要素もある状態でありますから、あえて十五カ月予算ということに固執するというわけではないのでありますけれども、私は本来そう考えるべきものであると思うがゆえに、大よそ三十六年度予算の編成についてはどういう構想でお考えになっておるかということぐらいは、政府としてもこの際意見の開陳があってしかるべきじゃなかろうかと思うのであります。特に総選挙を通じまして減税、公共投資、社会保障、三大柱の公約を一方においてしておるわけでございますから、それとの関連におきましても、三十六年度の予算の編成の方針というものを大よその構想としてはどう考えておるかということについて政府のお考えを伺いたい。これはできれば総理から大体のお考えを伺いたいと存じます。
  30. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 大蔵大臣が答えるべきところでございますが、特に御指名がございましたので、私の見通しを申し上げますが、今年補正予算を加えまして一兆七千数百億。今大蔵大臣が答えましたように、法人の大部分を占める九月期決算の状況、そして給与の増額による年末の賞与、また一般経済界の好況による賞与等々を見ないと、三十六年度の税収入というものがつかめません。これは状況によって非常にふえる部面もありましょうし、そうふえないのもあると思いますが、これを見てから大体租税収入を考えて、そして切り盛りをすべきであると思います。しかし、今までの状況を見ますと、三十六年度の収入は、私はある程度ふえるのじゃないか。すなわち、この九月、十月ごろは今年の自然増収はガソリン税を入れて千二、三百億、来年度は二千二、三百億、こう言っておりましたが、今言ったように今年度の収入もガソリン税を入れて千六百何十億、こうなって参りますと、三十六年度の収入増加金額は三千億円をこえるのじゃないか、こうなって参ります。しかし三千億円としますと、交付税を差っ引いたり、あるいは前年度剰余金等々をやりますと、社会保障あるいは経済基盤強化の方へ持っていく金が少なくなる。平年度千一、二百億円になりますか、今度所得税を一月からあれいたしますから、三十六年度はほとんど平年度近くなりますから、千億円程度の減を引きますと、公共投資あるいは社会保障が思うように出ないのじゃないか。しかし少なくとも私が九月ごろ申しました社会保障制度に対して力を入れる、この分につきましては、今の増加所得の分が減税を押えておりますから、私は九月に考えておった社会保障制度の金額は相当ふえてくると思います。御承知通り税制調査会からの減税案につきまして、七十万円以上の税率を動かさぬことにいたしました関係上、七、八十億税制調査会の減税案よりも少なくなっておる。少なくともこの七、八十億というものは、政府が減税分をふやさぬようにしたために、社会保障の方に向ける金が、九月ごろに予定しておった分よりもふえるのじゃないか、こういう関係で、一部で社会保障制度が後退したんだといわれますけれども、平年度千億円以上という減税の分が、規模がふえましたから税率をそのままにすると、千億円の減税というものは、経済基盤がふえましたから千五百億円になります。それをずっと押えて、第一にそれを社会保障に向けよう、こういうのでいっておるのであって、初め考えたよりも経済基盤が非常にふえたために、社会保障に関する予算相当ふえる、前よりもふえる、また前よりもふやそうということで減税を押えてきたのであります。これはどうも皆さんによくおわかりにならぬで、池田は後退した、後退したと言いますが、これは愛知さんにはよくわかっていただけると思います。  そういう関係で、私は三千億円をこえる——これは大蔵大臣に対して申しわけないのですが、御指名がありましたから、三千億円をこえると見ております。どのくらいこえるかは、今の九月の決算、三十六年度の経済事情を見なければわかりませんが、三千億円をこえる、そうして交付税とかあるいは国債償還等々を引き、減税を引いてみると、おのずから出てくる。三千億円をこえれば、減税分はきまっておりますし、交付税もぴしゃっとはじき出せますから、あと公共投資と社会保障にどれだけ力を入れるか、社会保障は当初の私の組閣のときよりもよほどふえるということを申し上げ得ると思います。
  31. 愛知揆一

    愛知委員 そこで予算の問題の最後として簡単にこの点だけ伺いたいと思いますが、それは公務員の給与の問題に関連いたしまして、行政の簡素化の問題と公務員の服務の問題でございます。  まず第一に、今回の給与の改定については、今回の給与改定の案それだけを取り上げて、いわゆる上に厚く下に薄いというようなことを言う人がありますが、この点については、私は昨日の総理の本会議での御答弁も承りましたが、その御答弁、たとえば民間その他とのバランスというようなことももちろんございますが、私は、これは人事院の勧告というものそれ自体を、数年にわたって何回かの勧告というものを通じて見ました場合には、今回のこの政府の案というものが、決して上に厚く下に薄いのではなくて、総体を通じて見てきわめて均衡のとれたものである、そしてこういう改善案が提示されたことは非常にけっこうなことだと思うのであります。その点に私は全然賛成なのでありますが、それにしても今度はまた一般世間から見ますと、何か公務員だけ一二・四%というような相当大幅な給与の引き上げがあった。ところが国民の側から見て、はたして公務員というものが規律の正しい公僕としてりっぱに信頼を寄せ得るような働きをしているかどうかというような点が、素朴な国民の常識としての問題になる点であると思うのであります。そこで私は、公務員が真に国民の信頼を受けるに足るような公僕としての責任を果たし得るような制度と申しますか、運営と申しますか、そういう点についてこの際政府としてはきちっとした態度で対処していただきたいということが一つでございます。  それからいま一つの問題は、現在の行政は申すまでもなくきわめて複雑きわまりない。そういう点から行政組織の簡素化ということがやはり世論になっておりますことは、今さら申し上げるまでもないと思いますが、この公務員の服務の規律という問題、それから行政の簡素化ということについて、総理としてのお考えが承りたいと思います。
  32. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 人事院の勧告の一二・四%は、私は適当なものとしてこれを受け入れることにいたしたのでございます。これだけ上がって参りますと、人事院の言っておられるように、民間とのベースも合ってくる。この機会に、やはり公務員が国民の公僕として事務能率をあげる、またわれわれとしても事務の簡素化をはかり、ほんとうにりっぱな行政機構を確立いたしたい。こういう意味におきましてさきに閣議決定をいたしましてこれを通達いたしておるのでございます。なお、人員増加についても極力これを押えまして、事務の簡素化をまずやって、そうして公務員の方々に能率を上げてもらって、りっぱな行政をやるよう努めておる次第でございます。
  33. 愛知揆一

    愛知委員 時間がちょうど協定の時間に近づきましたので、私は自余の質問を省略いたしまして、最後に外交の問題について一、二お尋ねをいたして本日の質問を終わらせていただきたいと思いますが、それは実は昨日の夕刊でも報道せられておりますように、アメリカのケネディ政権の新しい外交布陣がきまりました。ラスク氏の国務長官を初めその他の主要な外交の責任者の新しい布陣がきまったわけでございます。それに関連して、昨日の夕刊におきましては、ずいぶん日本側でも大きくこれらの点について報道や論評が加えられております。これに関連して、私最後に政府の御意見を伺っておきたいと思うのであります。  ここに読み上げるまでもございませんが、それらの昨日の夕刊に報道せられたところで見ますると、十二日のAPパームビーチ発では「ケネディ米次期大統領は十二日、次期国務長官らの人選を明らかにするとともに、次のような声明を発表した。」声明を発表したという報道があるわけでございます。その声明として報道せられておりますものは「次期国務長官のラスク氏は新政権に同氏が外交問題の分野で有能さを持ち込むことになろう。」こうケネディ氏が言っておる。そしてさらに続いてケネディ氏はこう言っておる。「新政権の外交政策については、単なる反共政策ではなく、自由のための外交政策一般にみなされることを希望する。」これは訳文でございますから文章がどうもはっきりいたしませんが、新政権の外交政策については、単なる反共政策ではない、自由のための外交政策一般にみなされるような政策を立案するであろうと、こういう趣旨であろうかと思われるわけでございます、ちょうどあたかも一昨十二日に、池田総理はその所信表明演説におかれまして「国際情勢の推移に対応しつつ、弾力性のある心がまえで自主的かつ慎重な施策を講じて参る所存であります。」こう言っておられるわけでございます。これを見る国民立場から申しますると、ケネディ政権においても何らか外交政策というものが相当大きく転換するのではなかろうか。日本の池田総理はたまたま時期を同じうして、弾力性のある心がまえで云々ということを言っておられる。そこで日本としても、一番大切な日本としての対米政策、日米の外交基本路線というものについて何らかの新しい展開があるのではなかろうかと、これは素朴な一般国民の感覚から申しましても、何らかそれにある人は期待を持つでございましょう。ある人はそれに対して何らかの心配も持つかもしれません。これもまた先ほどのドル防衛問題と同じように、これから政権を担当する向こうさんであり、また正式ないろいろの外交政策が表明されたわけでもございませんこの段階で、軽々に日本の総理大臣としていろいろのコメントをなさるということは、事柄の性質上からいっても私はできにくいことかとも思いますけれども、私は一般の常識的な国民の感覚からいって、こういうふうな新聞報道等がただいま出ておるこの現状におきまして、総理のお考えというものを、私は国民の一人として伺いたいという気がするわけでございます。なおまた、これは私の意見でございますが、一部には、それには社会党を含めての私の感じでございますが、何かケネディ政権という民主党政府が出現すれば、日本の従来の外交などはすっかり変わってしまうんだぞというようなことを事あれかしに期待をして宣伝をしておられる人もあるようであります。私は幸いにしてラスク氏のような、池田総理を初めわれわれ日本にも非常になじみの深い、日本の事情もよくわかっておる人が、ここに国務長官として登場したことは、非常な安定感と信頼感を持つわけでございますが、これは私一個の感じでございますが、そういったようないろいろの感じを私も持ちますが、さきに申しましたように、一人の国民として、こういうアメリカ政権の交代、特に外交布陣がきまったこの時期において、総理は特に何らかの御感想なりあるいは何らかの政見というものをお持ちになるのは当然かとも思いまするので、お差しつかえない範囲で総理の御所見を伺って、私の本日の質問を終わりたいと思います。
  34. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 ディーン・ラスク氏が国務長官になられたようでございます。私は多年おつき合いをいたしておりますので、ラスク氏の考え方の一端は存じ上げておるつもりでございます。また、チェスター・ボールズ氏の国務長官は、この方の今までのアメリカの極東外交につきましても、ある程度は存じ上げておるのであります。私は愛知さんと同じように原文を見ませんから、気持はよくわかりませんが、アメリカにおいてもいろいろの議論はございます。日本においてあるがごとく、まあそれほどではございません。しかし、アメリカの外交が今後どうなるかということにつきましては、私はまだ結論は出せない。しかし、外交というものは御承知通り世界の情勢、またわれわれとしては自由国家群の責任ある一員として、自由国家群の責任のある方々の考え方等を参考にして、弾力性のある考え方で慎重にやっていかなければならぬ、その通りでございまして、その所信表明に変わりはございません。それから共和党政権がかわって民主党政権になったと申しましても、御承知通り民主党政権のときにもダレスがやっておりました。そうしてその下には民主党系のディーン・ラスク氏が極東担当でずっとやっておったわけでございます。私は、大した変化はないと思います。少なくともディーン・ラスク氏とか、あるいはチェスター・ボールズ氏は、極東のことにつきましてはアメリカにおける一流の精通者でございます。誤りがない結論を出すと思っております。かてて加えて片一方の方で、たとえば昨日なんか、イギリスの議会におきましては、イギリス政府が中共問題の国連における討議の態度につきまして決議案があったようでございます。これはやはり保守党は中共を承認しておりながら、かつ国連ではああいう態度をとっておることにつきましてイギリスでも相当議論がある。二百七十対百七十というので投票で結論を出したようでございます。またその国会におきまするイギリスの外務大臣の言明におきましても、モスクワにおけるあの声明は、われわれ西ヨーロッパが団結しているということがあの声明になったのだ、こう言っておりますし、またつけ加えて、ソ連と話をする場合におきましては、西ヨーロッパ側の力がソ連よりも上であるということをソ連が知らなければなかなか話し合いはできないというようなことを、八日か九日の日に言っておるようであります。なかなか錯綜しておりますので、直ちに政権がかわったからというので、私はこちらで結論を出すのは早いので、世界の情勢を見ながら私は慎重に、しかも弾力性のある自主的態度で進んでいきたいと考えております。
  35. 船田中

    船田委員長 午後一時三十分より再開することとし、この際暫時休憩いたします。     午後零時三十九分休憩      ————◇—————     午後一時四十七分開議
  36. 船田中

    船田委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  質疑を続行いたします。河野密君。
  37. 河野密

    ○河野(密)委員 私は日本社会党を代表いたしまして、政府に対し所信をただしたいと思うのであります。この国会の焦点と申しましょうか、課題と申しまするのはたくさんあると思いますが、その一つずつを承ろうとはいたしません。時間の制約がありますので、私は中心をしぼってお尋ねをしたいと思うのであります。この国会の課題は、この総選挙以来争われている問題に対してまだ結末がついておらない問題に対する論議を重ねるのが任務であると存じまするので、この点にしぼって御質問を申し上げたいと思うのであります。  第一に外交の問題でありますが、外交の焦点といたしまして、これからの日本の外交の方針をどういうところにきめていくかということが一番大きな問題であろうと存じます。先日の池田総理所信表明を拝聴いたしましても、その中に、外交が国の運命にかかわるところである、こういうことが述べてあります。全くその通りであると思うのでありまして、外交政策いかんによりましては国の運命の左右されることは御承知通りであります。従いまして私といたしましてはまず第一にその点を御質問申し上げたいと思うのであります。  池田内閣が発足いたしましてから今日まですでに四カ月有余になっておりまするが、この間に、発足した当時と比べまして世界の情勢は非常に大きく変わっておると思うのであります。まずアメリカにおきましても大統領がアイゼンハワーよりケネディに移ることになりました。ソ連を中心として共産党の首脳の会議が開かれまして、非常に長い時間をかけた結果として共同コミュニケが発表になっておる。さらに朝鮮と申しますか、韓国の政変以来引き続きまして、世界の諸国に連鎖反応であるかのごとく政変が相続いておりまして、この問題もまだ解決をいたしておらない状態であります。こういうような世界が非常にあわただしい情勢の中にあるときにおいて、これからの日本の外交の方針をどこにきめるかということはきわめて重大な問題であろうと存じます。  そこで私は池田総理にまずお尋ねするのでありまするが、池田総理は過般の総選挙の際にも、またあらゆる機会において、しばしばこういうことを申しておるのであります。中立政策あるいは中立主義というものは幻想であるのだ、これによって日本の安全を守ることはできないのだ、こういうことをたびたび申しております。私は、池田総理が中立政策は幻想である、中立主義によって日本の安全を守ることはできないのだ、こう言われる論拠をお示し願いたいと思う。何によってそういう断定を下されるのであるか、これを一つお示しを願いたいと思います。
  38. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 さきの国会におきまして、私の施政演説で一、二、三と三つに分けて申し上げた通りでございます。極東における日本の立場、しかも世界全体が力の均衡によって平和が保たれておるといわれるこの現状におきまして、わが国はやはりアメリカと条約を結んで日本の安全、独立をはかることが、極東におけるわが国の置かれた立場から当然の帰結である。また日本の国力から申しましても、政治的、経済的、いろいろな点から申しましても、日本がどちらにつくかということは力の均衡に非常な影響がある。もう一つは、日本の今後の経済発展からいって、どれが一番最初にしなくてはいかぬ、どれが一番重要な問題かということになりますと、やっぱり自由国家群との提携にある、こう考えていきますると、日本は中立であるわけにいかない。自由国家群と提携をし、そうしてアメリカの力をかりて日本の安全と独立をはかることが必要である。しかも中立によって日本の独立と安全が保障されるという論拠はない。私は過去の実績から申しましても、今のやり方でいくことが日本の安全と独立に必要な措置である。ただし、国際連合がほんとうにもっと強力になって、世界の平和と、かつまた日本の独立と安全を保障してくれるまでは、この態度で進む、こう申し上げておるのであります。
  39. 河野密

    ○河野(密)委員 力の均衡が世界の大勢である、こういう考え方でございますが、この力の均衡といういわゆるダレス外交の伝統というものは、私は最近における世界の情勢の中で著しい変化を加えてきておる、国際連合の舞台におきましても、非常に大きな変化をしておると思うのでありますが、依然として力の均衡のみが世界の平和を維持するところの土台である、こういうように池田総理はお考えでありますか。
  40. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 私は今なおそういう考えを持っております。私のみならず、四、五日前のイギリスの国会におきましてイギリスの外務大臣ヒューム氏は、今回のモスクワにおけるああいう平和共存の結論が出たということは、西欧諸国が一貫して強い防衛体制をとっておる結果だ、こういうことを国会で三、四日前に言っております。私はこういうところから申しましても、私と同じ考え方の人が多いと考えます。
  41. 河野密

    ○河野(密)委員 私はそこでお尋ねしますが、私たちは中立政策を主張いたしておりますが、われわれの考えている中立政策というのは、現在世界が二つの陣営に分かれておるということ自身に問題があるのであって、その二つの陣営のどちらかのお先棒を務めるということが日本の安全を保障する道じゃない、われわれは二つの陣営のいずれにも属しないという立場をとる、二つの陣営のいずれをも敵としない、いずれの陣営とも友好関係を結ぶという考え方がわれわれの中立政策基本的な考え方でありますが、こういう考え方の一体どこが幻想でありますか、どこが現実離れしておると言われるのでありますか。
  42. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 先ほど申し上げた通りでございます。またお話にもありましごとくに、世界が二つの陣営に分かれておるということそれ自体が力の均衡から来ておることでございます。こういう場合におきまして、日本のように政治的にも地理的にも経済的にも非常な力を持っている国が中立でおるということはあり得ないことだと私は考えております。理想としてはそういうことは考えられるかもわかりません。これは国際連合がほんとうに世界の平和を確保するまではやむを得ざる現実の姿だと私は考えておるのであります。
  43. 河野密

    ○河野(密)委員 池田総理のお考えによりますと、外交もこれから弾力性のある外交を展開しなければならない、こういう御趣旨でありますが、今のお話でありますると、二つの陣営に分かれて一つの陣営にたよらなければならないという考え方は、これはもう現実である。そうするならば、その間に何らの弾力性のある考え方というものは入る余地がないと思うのですが、弾力性のある考え方というのは一体何をさしますか。
  44. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 そういうふうにお考えになるのはどうか。現実はこうでございまするが、世界の情勢は時々変わって参っております。またこの情勢に対しまするいろいろな考え方も変化しつつある。私は、ほんとうに世界が一丸となって、平和な世界を築き上げるように努力しなければならない、だからこの現実を世界の平和に持っていくように、そうしてそれがどういうふうな方向に行ったならばいいかという点を考えながら、情勢の変化につきまして弾力的に自主的に考えていこうというのであります。これから一歩も進まないというのではございません。
  45. 河野密

    ○河野(密)委員 私たちの考えるところによりますると、中立政策というのは、これは話し合いの政策であります。東西両陣営の二つの間で話し合いができないのだ、力の均衡によって平和を保つのだ、そういう考え方をやめて、両方の話し合いによって問題を解決していこう、こういう考え方だと私は思うのであります。現在、戦争の種は世界の至るところにころがっておりまするが、その戦争の種を一つずつなくしていこうというのが、これが中立政策であると思います。そういう中立政策が幻想であるとか、中立政策が日本の安全を守ることができないのだということは、私は不思議だと思うのでありますが、それはどういうわけで幻想なのでありますか。戦争の火の種を消していこうという政策というものがどうして幻想なのでありますか。
  46. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 河野さんのおっしゃるように、われわれが、世界の各地に起こり得べき戦争の火の種を消そうということは、あなたと同じ考え方であります。そのためにはどっちの陣営にもついてはできないと、こうお考えになることはいかがなものか。私は自由国家群とともに、この戦争の火の起こることをとめようそのとめようとする努力が中立主義というならば、われわれも中立主義かもわかりません。しかし私は、日本はどういうところの態度をとるかということになりますると、先ほど来申し上げましたように、自由国家群と一体となって、そうして世界の平和を守っていこう、こういうのであります。
  47. 河野密

    ○河野(密)委員 池田さんの言われるところによると、戦争の火の種を消すのが中立主義であるならばわれわれも中立主義かもしれぬ、これはまあほんとうにそう考えておるかどうかは存じませんが、そういう御答弁でありますから私は一つ伺いますが、本年の九月の三十日に、国連の総会にいわゆる五カ国の決議案なるものが提出されました。この五カ国の決議案は、アメリカ大統領とソ連首相に対して、第一の緊急措置として最近中断された接触を再開するよう要請するのがこの五カ国決議案の趣旨であります。私は戦争の火の種を消すためには、これは最も妥当なる政策であると存ずるものであります。これに対しましてオーストラリアの修正案が出ました。日本はノルウエー、アルゼンチンと三国でもって決議案を出した。その決議案は、総会は未解決なる諸問題の解決策を見出すために、諸外国の代表が、最高水準で、早期に、また実のある交渉ができるような環境の収善を実現するため、国連の内外であらゆる努力が払われるよう希望を表明すると何だかわからないような決議でありますが、こういうアメリカ大統領がソ連首相とのこの接触を求めるという決議案に対して、いわば水をさすような決議案を出したわけであります。これはもちろん撤回されました。五カ国の決議案に対しましては、これは、いろいろな決議がございましたが、とにかく三十七票対三十六票棄権二十二票ということで、これは可決されたのでありますが、一体日本の政府代表はこの決議案に対して賛成をしたのですか、反対をしたのですか。どういう態度をとったのですか。一体こういう修正案というものは池田内閣の趣旨に基づいて出したのでありますか。
  48. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 国連会議の経緯につきましては、外務大臣よりお答えいたします。
  49. 小坂善太郎

    ○小坂国務大臣 ただいまお尋ねの点でございますが、このたびの国連は、非常にその過程において険しい東西の対立を見たことは御承知通りでございまして、ただいまお話のようないわゆる中立五カ国案というものが提案せられたのであります。しかし、この環境の中において米ソの首脳が直ちに会えということだけでは、これはどうも事態の解決を促進せざるのみならず、その言われた当時国においてもこれに賛同することはできないという雰囲気でございました。これは御承知のように、アメリカのアイゼンハワー大統領もこれを拒否しましたし、フルシチョフ・ソ連首相もこれに対して拒否をいたしたのでありますが、そうした環境のもとにおいてこういう案を出すということは、国連が本来平和に向っての話し合いを進める機関として、この場合においてはなはだふさわしくないのではないかというようなことで、われわれとしてはそれをさらに緩和するということを考えるのが適当と考えたのであります。一方、ただいまお話のよりに、オーストラリアによるところの修正案も出たのでありまするが、今もお話し申し上げたように、この両案ともとうてい三分の二を得て可決されるという雰囲気ではなかったのであります。そこでボランド議長に対して、自分はこういう案を考えているということを国連の代表部が申したところが、それが一部に誤り伝えられまして、日本があたかもノルウエーその他と共同提案をするというようなことになっておったのでございますが、事実はそれと違うのでございまして、こういう案も考えているという程度のものであったようでございます。そこで、あの五カ国案に対するところの採決が御承知通り否決せられましたので、非常に雰囲気が白けてしまった。そこで、今さらまた別の日本を中心としたところの三カ国案というものを出しても意味がないのではないかということで、日本もあえてこれを提案しないということにいたしたというふうに私は報告を受けております。しかし、この案自体はただいまお読み上げになりましように、われわれとしては、ああいう雰囲気の中においては、いきなりぬっと二人が会えという案を出すよりも、会えるような雰囲気を作って話し合いを進めさせたいということでございましたから、この案の妥当性というものはひとしく認識せられまして、その後において同様の趣旨の案がインドを中心として提案せられ、それが採択を見たことは御承知通りでございます。従いまして、われわれとしては、国連本来の行き方に非常にふさわしい案を考えて、それを案として提案し、しかもそれを採択することはいたさなかったのでありますけれども、非常に大きくこの日本の努力というものが国連内外において評価せられた、かように考えておる次第でございます。  なお、事のついでに申し上げますと、中立政策ということをおっしゃいますが、中立ということは政策として成り立つものかどうか。中立をしたような雰囲気をかもしたいということはあるかもしれません。中立というものは本来ネガティブなものでございまして、消極的な意味を持つものでございまして、それをもって世界じゅうを平和にするというようなことは、政策としては希望と現実とを混淆した問題でございまして、政策としてはとり得ないことであると思うのであります。
  50. 河野密

    ○河野(密)委員 中立が消極的だというようなことは、われわれ全く小坂君と見解を異にいたしますが、今申し上げましたように、中立五カ国が中心になって、たといアメリカのアイゼンハワーがいやだと言おうと、ソ連のフルシチョフが時期尚早だと言おうと、とにかく国連を舞台として世界の正義に訴えて是を信ずるところはこれを貫く、こういう態度、これが中立のあれで、決して消極的でもなければ受け車でも何んでもない。これこそまさに新しい中立政策だと私は思うのであります。  もう一つ伺いますが、この五カ国案が出た際に、インドのネール首相が奔走いたしまして、AA諸国四十四カ国を呼んで、そうしてこの案に賛成するように求めたはずであります。日本もそれに呼ばれたはずでありますが、日本は出席をいたしましたか。出席をしてどういう態度をとったのですか。
  51. 小坂善太郎

    ○小坂国務大臣 御承知と思いますが、国連の中におきまして、いわゆるAAグループが常に集まっていろいろな相談をしているということは、これは通常のことになっておるわけであります。そこで、そのAAグループが集まっておりますところヘクリシュナ・メノン国防相がネール総理を誘導いたしまして見えられた。ネールさんから今お話のような案を出すが一つ賛同してくれ、それではこれで失礼ということで案をそのまま見せて、これは一字一句訂正できぬものである、かようなことを言って立ち去られたふうに私は報告を受けております。日本はもちろんいたしております。
  52. 河野密

    ○河野(密)委員 態度はどういうのですか。それに賛成したのですか反対したのですか。
  53. 小坂善太郎

    ○小坂国務大臣 日本のとった態度について御質問でございますか。——日本はその案を聞きまして、そうして代表部として相談をいたしたわけでございます。この態度は、各国もそれでいいとか悪いとかいうことでなくて、一応その案を持ち帰って相談をし、本国に請訓をするというのが通常のことになっております。(「最終的の問題は」と呼ぶ者あり)最終的の問題は、御承知のように、われわれとしては別個の案を考えていく方があの場の空気から考えて、しかもほんとうに国連というものを世界平和を盛り立てるための強力な機関にするために適当であろうということを思いましたのでありますから、いわゆる日本その他三カ国案というものを、われわれとしてはこういう案を持つぞというとを申し上げまして、AA諸国の方にもその話をいたしております。
  54. 河野密

    ○河野(密)委員 私の聞いたところによりますと、このネール首相の勧誘に応じて日本、ノルウエー、アルゼンチン三国が初めは共同の歩調をとるというあれであったのでありますが、ノルウエーはインドの勧告に応じて、この日本との共同歩調をやめたということであります。これはいかがでありますか。同時に、さっき申し上げましたこの五カ国決議案に対して、賛成三十七、反対三十六、それから棄権二十二、日本はこのどの部類に入っておりますか。これを一つ……。
  55. 小坂善太郎

    ○小坂国務大臣 今も申し上げたように、案を、自分の方はこれを出す、一字一句訂正も許さずという考えであるということでありますから、それにつきまして、われわれとしてはあの場の空気からして、国連というものはもっと話し合いの機関なのだから、そして世界平和を維持するための唯一最高の機関である、十分その機能と目的に合うように話し合いのできる雰囲気を作って、そしてその目的を達成するという方がいいんじゃないか、この案がベターと考えるということでいったわけでございまするから、もちろんわれわれの独自の判断におきまして、この問題については反対をいたしたわけでございます。
  56. 河野密

    ○河野(密)委員 私は、日本政府が、ことに池田内閣、自民党の政府が、口を開けば国連中心主義ということを言っておりまするが、それにもかかわらず、日本の国連外交というものは全くなっていないと思うのであります。一体どこを中心にして国連外交を展開しておるか、その国連外交の正体がわからないと私は思うのでありますが、事のついでにお尋ねいたします。最近の国連における幾つかの問題がございますが、ことに大きな問題でありました中共の加盟の問題、あるいは社会経済理事会の投票の問題、おるいは安保非常任理事国の選挙の問題等、これは一つ次々にお尋ねしますから、お答え願いたいと思うのであります。  中共承認の問題について、日本政府はこれはどういう表決に加わったのでありますか。これをはっきりしていただきたい。
  57. 小坂善太郎

    ○小坂国務大臣 まず最初に日本の風連外交がなっておらぬ、一体何を中心にしておるかというお話ですから、(「弁解は要らぬ」と呼ぶ者あり)弁解ではございませんで、私ども考えるところをお聞き取りいただきたいと思います。  私は国連というものを強化する、かような方針でいっております。国連中心ということは、世界を維持する唯一最高の機関としての国連を名実ともにその実を備えしむるためにこれを強化していくという考えであります。従って、あくまで筋を通していく、かようなことをわれわれは考えておるわけであります。ただ単に、(「実績は」と呼ぶ者あり)ただ単に付和雷同するというような態度ではなくて、自分の考えるところを通していく、かような態度であります。  なお実績というお話でございまするが、これは副議長選挙をごらんになりましても、日本は最高位をもって当選いたしました。また、先般行なわれました国際司法裁判所の裁判官の選挙におきましても、御承知のように、日本の出しました田中候補は、米ソに次いで第三番目に当選をいたしております。従いまして、日本に対する国連の信用がはなはだ失墜しているということは、私にとりましては受け取れないお言葉と存ずるのであります。単に(河野(密)委員「国内で」と呼ぶ)それは御批評は自由でございますが、国内で失墜しているというのはあなた方がおっしゃることで、私は、あなた方にはわれわれの言い分を十分聞いていただいて、その上で御批判を願いたいと思っておるのでございます。  なお御質問にお答えいたしまするが、中共加盟の問題とおっしゃいましたが、加盟の問題ではございませんで代表権の問題でございます。そこで、その代表権の問題は、中共の代表権を議題にするかどうか、こういうことでございます。私ども考え方は、こういう問題は、実は何票と何票で何票多かったから、それでやるというような、そうした力関係を反映しないで、実際無理のない形でもって全体が承認していくということが、私は大きな国際問題を解決するにふさわしい行き方だと考えておるのであります。従いまして、この代表権の問題に対しては時期尚早として反対投票いたしました。  この点は御理解を願いたいのは、イギリス等においては、すでに御承知のように中共を承認しておるのです。しかしそのイギリスにおいても、この問題については私どもと同じような意見をとって反対投票しておることも、御参考までに申し上げておきます。
  58. 河野密

    ○河野(密)委員 ではそのあとの問題にお答え願いたいのですが、安全保障理事会の非常任国に日本はどこを投票したのですか。それから社会経済理事国の投票には、どこの国を投票したですか。
  59. 小坂善太郎

    ○小坂国務大臣 国連局長からお答え申し上げます。
  60. 鶴岡千仭

    ○鶴岡政府委員 非常任理事国は、日本の投票したのは、中近東の統一代表としてアラビア連合、それからヨーロッパの統一代表はポルトガル、それから南米の統一代表として出て参りましたチリ、この三カ国であります。  それから経済社会理事会の方は、南米においてはエルサルバドル、それから中近東におきましてエチオピア、ジョルダン、それから極東においては中国であります。それからヨーロッパにおきましてはベルギーであります。この五カ国であります。
  61. 河野密

    ○河野(密)委員 そこで外務大臣にお尋ねしますが、社会経済理事国として、日本はベルギーと台湾国府に投票した、これは当選したでしょうか。
  62. 小坂善太郎

    ○小坂国務大臣 これは、河野委員にはすでに御承知のことだと思います。(発言する者あり)両方とも当選も落選もまだ確定しておりませんで、さらにこれを検討するということになっております。
  63. 河野密

    ○河野(密)委員 私はそこで池田総理並びに小坂外務大臣に尋ねたいと思うのですが、中共の加盟問題というのは言葉が悪いかもしらぬが、代表権の論議の問題については、これは反対投票する。社会経済理事会の理事国の選挙においては国府を投票する。しかもその国府は落選確実というふうに聞いておりまするが、そういうような状態が、一体日本の外交方針として、これは今池田総理のいう外交のやり方として妥当なやり方であるかどうか。事は国連という舞台でありますけれども、多くの人は知らないかもしれないが、世界の有識者はみんな知っておることなんです。そういうことが非常な影響を持つそういうところにおいて行なわれているそういうことに対して、一体その外交政策というものは、これは池田内閣の外交政策としてよろしいのか、外交政策基本として考えてよろしいか、私はこれをお尋ねしたいのです。
  64. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 中共の代表権問題につきましては、私は反対することが当然だと考えております。なお、こまかい委員会の問題につきましては、これはいろいろなかけ引きと申しますか、今までのなにがあると思いますから、この点につきましては外務大臣よりお答えさせたいと思います。
  65. 小坂善太郎

    ○小坂国務大臣 私は御非難の点はまことに了承しかねるのでございます。従来国連におきましていろいろな慣行もございますし、日本としては、われわれもまた援助させておる場合もございますし、いろいろな投票の話し合い等もございますので、それに従って、この時点においてこれが一番よいという方法をとっておるわけでございます。御承知のように、台湾政権の場合は、これは従来安保常任理事国であったわけです。それを従来の慣例に従って推しておるわけで、日本があらためて態度を変えたなら別でございますが、現在微妙な段階におきましては、これはもう従来通りいくのが少しも追随でもない、不見識でもない。かえってそういうようなことを、妙なことをする方が非常に危険な場合が多い、かように御了承願っておきたいと思います。
  66. 河野密

    ○河野(密)委員 安保理事会の常任理事国である国府が、その社会経済理事国の選挙において敗れるというような情勢が生まれてきたということ、こういうこと自体を、これは私たちはもっと外交の面において考えなければならぬ。従来の伝統だけをそのまま追っていってよろしいというならば、これはだれでもできることなんですが、そこに池田内閣の外交政策の大いなる盲点がある、こう私は思うから御質問したのであります。  そこでこの点については、また時間がありましたらお尋ねすることといたしまして、次に池田内閣の外交方針の基本といたしまして、前国会では、自由民主主義の基本立場を堅持するとともに、共産圏とも友好的関係の増進に努めると、こういう表現を使っておられたのであります。十二日、つい一昨日行なわれました所信表明では、これを世界を三つのあれに分けて、アメリカを中心とする自由諸国全体、これとは協力関係を結ぶ、AAグループ並びに中南米諸国、これは経済交流を強めていく、共産圏の諸国に対しては、内政不干渉のもとに友好関係の増進に努めるんだ、こういう三つに区別して態度を示しておるのであります。この前の、自由民主主義の基本立場を堅持するとともに、共産圏とも友好的関係の増進に努めるという基本的な外交方針の立場と、この世界を三つのグループに分けて、これに対する態度を表明された今度の所信の表明と、一体これは同じであるか、違うか、これはどういう考慮によってこういう態度をとられたのか、これを承りたい。
  67. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 私の気持は根本的には変わらない。自由主義諸国と協力する、そして共産主義の国々とは、相互の立場を尊重し、内政不干渉の立場で緊密を加えていく、この考えに違いはございませんが、私は特にAAグループ、中南米諸国——低開発国といったら語弊があるかもしれませんが、中南米の方は相当開発したところがございますが、協力というところに加うるに、AA諸国並びに中南米の諸国に対しては経済的にもっと協力を進めていく、経済的協力というのを加えたのでございます。
  68. 河野密

    ○河野(密)委員 このAAグループそれから中南米諸国というのは、大体において先ほど申し上げたような国連における活動等を通じて、次第に東西両陣営の間における調停役というか、そういうものの橋渡しというものを努めるように努力をしておる国々であると見るのでありますが、これを区別したというのは、口では中立政策は幻想だとか中立政策によってはどうとか言われるけれども、現実の問題として、池田内閣も外交の根本問題としてはそういうように区別をして考えなければならない世界の情勢になってきたのではないか、これはどうでございますか。
  69. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 AAグループが国連中心に話し合いをしていこうというそのきずなになろうという努力は私は認めております。われわれもそれに変わりはございません。しかし日本の今置かれた立場につきまして、私はどうも河野さんの中立主義というのがまだはっきりわからないのですが、中立主義というのが、どっちにもつかず、日本の安全と独立を守る一つの措置もせずに、まる裸でぶらぶらしているのだという中立主義は幻想だ、こういうことなのでございまして、日本が国連に入っていって、AAグループその他の国々と国連を強力にしようという気持は、AAグループもわれわれも同じでございます。
  70. 河野密

    ○河野(密)委員 中立主義というものがわからないで、理解ができないで、それで批評されるというのは少し僣越だと思うのであります。そこで、政府が言う自由国家全体というのは、自由国家というのは一体どういう国々をさすのでありますか。
  71. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 自由国家諸国と申しますのは、自由民主主義の立場に立って、お互いの人格の尊厳を尊重して、そしてその政府に対しましても自由に発言し得る、こういう政治体制を自由国家といっております。
  72. 河野密

    ○河野(密)委員 それでは一つ個別的にお尋ねしますが、台湾、国府は、自由民主主義をとっている自由国家でございますか。
  73. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 私はそう考えております。
  74. 河野密

    ○河野(密)委員 念を押しますが、ほんとうにそう考えておられるのですか。
  75. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 私は自由主義国家の一つ考えております。
  76. 河野密

    ○河野(密)委員 そこで私はちょっとお尋ねしたいのですが、これは政府が出しておるあれでありますから、政府あるいは内閣調査室の委託のあれでありますから——カリフォルニア大学教授のスカラピーノ、これは私も個人的には知っておりますが、ロバート・スカラピーノが台湾政策はどうあるべきかというのを出しておる。この中には、アメリカ人でありますけれども、台湾は自由民主主義じゃないのだ、だからこの台湾を支持するということ自身がアメリカにとって非常にマイナスになるのだということを書いております。そしてこれは今問題となっておるのでありますが、一体池田総理はいかなることによって台湾が自由民主主義の国であるというふうに断定なさるのでありますか。
  77. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 その国々によりまして、自由主義のもとにおきましてもいろいろの点はございましょう。しかし私は基本の問題を言っておるのであります。しかもまたアメリカの一学者か評論家か存じませんが、その人が台湾をどうだということによって、私はその人の考え方を批評する気持はございません。
  78. 河野密

    ○河野(密)委員 これは台湾の何を批評するかというと、台湾においてはやはり自由がない、政党の自由も許されておらない、こういう点を書いて、それを自由民主主義なりとして支持することは、アメリカにとって非常にマイナスになるじゃないか、アメリカの基本的なイデオロギーの問題としてマイナスになるじゃないかという議論なのであります。私は池田総理が、冒頭に私が質問いたしましたように、自由民主主義に立脚してこの立場をとる国々をわれわれは自由主義諸国家と考えるのだ、こういうならば、その考え方に基づいて自由民主主義の国でなければならないはずだ。ところが実際においてはそうではない。自由民主主義をとっておらない。そういう国を自由国家群という中に数えておる。私はそういうところに現在の政府の表現にもあいまいなところがあるし、考え方にもすこぶるあいまいな点があるし、問題の解決にならないと思うのであります。その点を一つ明確にもう一ぺん所信を明らかにしておいてもらいたいと思います。
  79. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 先ほど申し上げた通りに、国々によって自由の認められておる程度の差はございましょうが、基本的に人間の自由と尊厳を信条としている、そういう国を自由主義国家といっておる。しかもこの台湾が自由主義国家のうちであるということは、私は世界の定評だと考えております。
  80. 河野密

    ○河野(密)委員 次にお尋ねしますが、共産圏との相互の理解と友好関係を増進するという方針を立てておられますが、内政不干渉のもとに友好関係を増進する、こういうふうにいっておるのでありますが、まずこれを具体的にどういうふうにお進めになるか、一つずつ聞いていきたいと思っております。  第一に、日ソの平和条約の締結に対してどういうふうにお考えになっておるか。これは総理からお答えを願いたい。自由民主党では選挙の前に、もし北方の領土、この問題が明らかになるならば、解決できるというめどがつくならば、ソ連と平和条約を締結することにやぶさかでないということを声明いたしておりますが、これはほんとうにその通りおやりになるつもりでありますか。これを具体的にどういうふうに交渉を進められておるか、一つ明らかにしていただきたい。
  81. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 自由民主党政策として発表しておりまする通りでございます。われわれはソ連ともあの共同宣言だけでなしに、平和条約を結びたいという気持はいたしております。問題は北方領土の問題でございますので、ただいまのところ平和条約を結ぶことは具体的になかなか困難だと思っております。ことに本年の一月に安保条約の問題が起こりまして、われわれは共同宣言で平和条約が成立するときには当然歯舞、色丹は返るということを考えておったのでございますが、御承知通り日本に外国の軍事基地がある間は返さないという、共同宣言と違ったことを声明するに至りましては、私はわれわれの念願する平和条約というのはなかなか進みにくいのではないかという気持を今持っております。しかし平和条約を結ぶことにつきましての念願は変わっておりません。
  82. 河野密

    ○河野(密)委員 念願は念願として、具体的には交渉を進めておられるのでありますか。そういう交渉の機会を作るというような努力をしておるのでありますか。
  83. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 先ほど申し上げたような状況でございまして、私は交渉にはまだ入っていないと思います。外務大臣から御答弁をいたします。
  84. 小坂善太郎

    ○小坂国務大臣 ただいま総理大臣からお答えの通りでございまして、まだ領土問題につきましてまことに見解が異なっておりますので、ただいまのところはそうしたことを始める時期には適当でないというふうに判断せざるを得ないのでございます。
  85. 河野密

    ○河野(密)委員 次に、共産圏で国交を回復しておる国が数カ国ございますが、共産圏であって国交を回復してない国がまだたくさん残っておるわけであります。この共産圏における諸国と、どういう標準でもって国交を回復し、ある国とは国交を回復しないというのでありますか。今後具体的にどういうふうに共産圏外交を進められるかこれを承りたい。
  86. 小坂善太郎

    ○小坂国務大臣 現に日米安保体制のもとにおきまして、ソ連、チェコ、ポーランド、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリアというような国と国交を回復して今日に至っております。御承知のように先般ブルガリアとの間には通商協定ができまして、先方は商務官を置きたいというふうに、非常に喜んでおります。なお、ルーマニアにつきましては、現在インドネシアとこちらの大使が共管になっておるのでありますが、ぜひ自分の方は東京に大使を置きたいから、日本の方もルーマニアに大使館を設置してもらいたいということを強く希望いたしております。  今国交のない国というのはそう幾つもないのでありまして、アルバニアと外蒙でございます。このアルバニアにつきましては、わが国はアルバニアと政治面、経済面における関係はほとんどないのでございまして、またアルバニアの側から国交回復という意思も特に表明せられておりませんので、今のところはこの国交回復についての予定は持っておりません。それから外蒙でございますが、外蒙は一九二一年七月、蒙古人民政府の成立とともに独立を宣言いたしたのでありますが、現在まで外蒙が外交関係を樹立した国は、ユーゴを含む共産圏の全部と、それからインド、ビルマ、インドネシア、ギニア、カンボジアの五カ国になっております。わが国は、外蒙の独立宣言以来今日まで何の交渉も持っておりませんが、一九四一年に日ソの中立条約の付属声明書で、外蒙の領土保全を尊重する旨を約束いたしております。なお、国民政府は一九四六年に外蒙を承認したのでありますが、一九四五年の中ソ同盟条約の廃棄宣言を一九五三年に行なったのに伴いまして、外蒙の独立承認を取り消したような関係になっております。今、国として関係のないものはこの二カ国でございます。
  87. 河野密

    ○河野(密)委員 共産圏外交の焦点は、私は対中国問題であると思うのであります。総理にお尋ねしますが、中国との国交調整について政府はどういうふうに考えておられるのでありますか。中国との国交調整をする上においての日本側から見ての最大の障害というものは、一体どういう点にあるのでしょうか。
  88. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 先ほど来申し上げておりますように、国連における空気その他を考えて、そうして情勢の変化とともに弾力的に、しかも慎重に考えていかなければならぬと私は思います。
  89. 河野密

    ○河野(密)委員 日本から見て、中国との国交を調整する上において最大の障害と思われるものは、具体的に何でしょうか。こういうのです。
  90. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 国連全体におきまする空気でございます。
  91. 河野密

    ○河野(密)委員 国連全体の空気だとおっしゃいますが、国連においては、御承知のように今度の中共の代表権の問題について、反対が四十二カ国、賛成が三十四カ国、棄権が二十二カ国というような数字が出ておりますが、そういうように非常に情勢は変わりつつあると思うのですが、そういう国連の情勢が変われば日本としては当然中共との国交調整に乗り出していくのだ、積極的な方針をとるのだ、こういうお考えですか。
  92. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 御承知通り、今国連は相当多数の新加盟国が入って参りまして、いろいろ情勢は変わってきております。ことに午前も申し上げましたごとく、イギリスにおきましては、この問題が相当議論になりまして、きのうだったか、おとといだったか、下院での表決があったようでございます。イギリスは、私の知るところでは、中共を承認はいたしておりますが、代表権の問題につきましてまだ踏み切っておりません。だから私が申し上げますように、国連の強化ということが日本の外交の根本でございます。国連の空気と言うのが悪ければ、国連の情勢、各国の考え方を見ながら、しかも日本の立場といたしましては、そういう情勢を見ながら自主的に弾力性のある心がまえで進んでいきたい、こういうように考えております。
  93. 河野密

    ○河野(密)委員 中国の代表権の問題がありましたそのあとで、たしか小坂君だったと思いますが、日本は世界の情勢についていくのだ、こういう先走ったことはやらないのだというような声明をしておったように思うのでありますが、今のお話を聞きますと、何か日本はもう国際情勢というか、アメリカを中心とする考え方に追従していくのだ、そういうこと以外にないように思うのでありますが実際に日本から見て、何が中国との国交調整をする上の一番の支障になると考えるかということを私は端的に答えていただきたい。政府はたびたびの所信表明の中に、内政不干渉の前提のもとにとか、条件とかいうようなことを言っておりますが、何か内政不干渉をうたわなければならないような具体的な事実があるか、あったのか、そういうことはどういう考慮のもとにこういうことを入れておるのでありますか。
  94. 小坂善太郎

    ○小坂国務大臣 私の名前が出ましたから私から便宜お答え申し上げます。  私は国際の問題、外交の問題というものは、現実を無視しては非常に危険であるという考えを持っております。すなわち自分自身が判断することはもちろん必要でございます。しかし、いろいろないきさつもあり、国としていろいろ関係もあるのでありますから、他の国とも相談し合いながら外交を進めていくということは常道でございまして、決して追随という意味ではないということをまず申し上げなければならぬと思います。もちろんイギリスとアメリカが相談し、ドイツとフランスも相談し、それぞれ国が相談しながらいろいろ国際間の問題を打開していくわけであります。私は、総理大臣の演説にもありましたように、世界の情勢というものは、いろいろな曲折を経ながらも、人類の英知、そうして平和を願う諸国民の気持によって、だんだん統一されていく、一つのものに固まって、平和へ平和へといく、かような考え方を根本に持っております。  中国に対する態度の問題も、私はそうした観点から問題をつかみとるべきものでありまして、ここに積極的にどうこうと、この問題だけを取り上げていくということは当たらないと思う。  それから内政不干渉の問題は御承知のように国連憲章五十一条に書いてあります。相互に内政不干渉、相互の立場尊重——国連の大原則でございますから、そうした原則をうたっているということであります。特に具体的にそういう問題があるかということでございますが、これははなはだ微妙な問題でございまして、お互いがその問題については考えていくべきことだと思います。
  95. 河野密

    ○河野(密)委員 説明は承りましたが、一体具体的にどうなさろうとするのでありますか。この問題については今政府考えておる具体的な政策一つ承りたいと思います。
  96. 小坂善太郎

    ○小坂国務大臣 私は、一つの国際間の問題を日本政府がどうすると今ここで言い切っても全く意味のないことであるのみならず、むしろ日本だけが決意すればすべての問題が解決するというような考え方は、かつてその道を歩んで非常に失敗した外交上の苦い経験を日本は持っておると思うのでありまして、こういう点は重々お互いに慎重に考えながら、しかも問題の本質を見きわめまして十分慎重にしかも弾力的に解決して参りたいと思います。
  97. 河野密

    ○河野(密)委員 池田内閣として対中共政策をどう考えておるかということをお尋ねしておるのです。これは総理大臣に承りたいと思いますが、どういうことをお考えになっておるのか。たとえばまず貿易の再開をするのだとかあるいは政府間協定をやるのだとかいうようなことを考えておられるならば、それを一つ率直に表明していただきたい、こう思うのです。
  98. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 日本の外交方針につきましては、所信表明並びにこの前の国会で申し上げた通りでございます。ただいまの段階においてあれ以上具体的なことを申し上げることはいかかかと思います。繰り返して申し上げまするなら、世界の平和に貢献する、しかも国連中心に世界の平和を打ち立てていくことを眼目としております。そしてわれわれとしては、日本国民の利益と福祉増進、これも考えなければなりません。こういう二つの柱を頭に入れまして、そして各国と協調を重ね、日本のためになるように、世界の平和に貢献し得るようにわれわれは弾力性ある心がまえで慎重にやっていこうとしておるのであります。  御質問の、中共の貿易拡大につきましては、私は前からこれを念願しておるのであります。何と申しますか積み重ね方式と申しますか、民間におきまして貿易がどんどん進んでいき、そうして世界の情勢の変化を見ながらこれをだんだん拡大していくということがただいまの私の方針でございます。
  99. 河野密

    ○河野(密)委員 民間の貿易が進むことを望んでおると申しますが、これは単に民間にまかしておいて、いつかはなるだろうとか、自然にまかしておいてできるものではないのでありまして、そこに政府一つの指導があり、政府の方針としての大局的な態度というものが必要だと思うのでありますが、それらについてどういうふうな方針を持っておられるのか、こういうことを私は承っておるのであります。重ねて御答弁願います。
  100. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 具体的な問題になりますと、事務当局のあれでございますが、今までは物々交換的なものでございます。しかしこれを決済をうまくやっていこうとか、あるいはいろいろな具体的の問題はございましょうが、私はそういう問題につきまして、関係各省で検討を進めることを慫慂いたしたいと思います。
  101. 河野密

    ○河野(密)委員 事務当局のようなこまかいことでなく、日中貿易について政府としてはそういうものをエンカレッジしていくつもりだとか、あるいはそういうことについては政府として必要があるとするならばこれこれの処置をとりたいつもりだとか、そういう点を明確にしてもらいたいと思うのです。抽象的なことか事務のことかということでなく、この間のことが聞きたいのです。
  102. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 エンカレッジしていくということはたびたび答えた通りでございます。しこうして事務的のこととエンカレッジする間のことが抜けておるとおっしゃいますが、これは事務的のことで相当重要なことがあるのでございます。私はエンカレッジしていく上におきましていろいろな推進方策を考えます、こう申し上げておるのであります。
  103. 河野密

    ○河野(密)委員 そうすれば具体的に、かりに政府の代表ということでなくとも、政府が了解をしておるような人を通じて、そういうような日中関係の経済提携を推進するというような方向には政府は今度は踏み切っていくつもりでありますか。
  104. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 御承知通り、ずっと以前から財界の人は、私はたびたび行っておると思っております。昭和三十年の一月に村田省蔵さんがおいでになりまして以来、だんだん積み重ね式にずっと拡大していったのであります。一時これがとまりましたが、私は単に政治的でなしに、両国間の貿易増進ということにつきましては、どういう人をどうするとは申しませんが、先ほどお答えしたような方針で進んでいきたいと思うのであります。
  105. 河野密

    ○河野(密)委員 次に、私は共産圏の問題と関連いたしまして、先日発表になりました共産圏の首脳会議の共同コミュニケについて、少しくお尋ねをしたいと思うのでありますが、この共同コミュニケについてまず池田総理はどういうふうにお考えになっておるかということを承りたいのであります。先日、本会議におきまして総理は、これを平和共存というのは階級闘争の手段だと解釈しておる、こういうふうにお答えになっておりますが、この共産圏の首脳部の会議の結果発表になりました共同コミュニケというものをどういうふうに見ておられるか、これによって共産圏の動向というものをどういうふうに判断しようとしておられるのか、それを承りたい。
  106. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 私は、共同声明を全文読んだわけではございません。外務省からの報告を聞きましたり、あるいは新聞を抜き読みした程度で、ただいまのところ私が受け取っております気持は——あれは相当長くかかりました。しかも今回はいわゆる自由国家のうちの共産主議の方も相当参加せられました。そして議題の主たる点は、戦争を避け得るか避け得ないかという、巷間伝うるソ連と中共との考え方の問題が相当議論になったと思います。一応は、従来の一九五七年のフルシチョフの平和共存ということが再確認せられたのであります。しかし再確認せられて、そうしてそれならば雪解けのことになるかと申しますると、この平和共存というのは、社会主義と資本主義との階級闘争の一つの形態だということも載っておりますし、アメリカの帝国主義は世界人類の敵であるということも載っておるのであります。この見方につきましては、私はいろいろあると思いまするが、平和共存が確認せられたということは一つの新しい事実だと思います。そうしてこの声明に対しまして、私は昨日も読んだのでございますが、先ほど申し上げましたようにイギリスのヒューム外務大臣は、こういう平和共存の声明がなされたことは西欧諸国の防衛が一貫して貫かれた結果である、こう言っております。なおまた、われわれは、われわれ西欧諸国の軍備がソ連よりも上である、その軍備がソ連圏よりも上であるということをソ連その他の東欧諸国が認むるにあらざれば、平和についての話し合いをすることはむだであるといいますか、早過ぎる、こういうふうなことを四、五日前にイギリスの外務大臣が言っております。だから、平和共存が再確認せられたということは、一つの事実でございます。しかし、まだ底に流れるものは、前とあまり変わらないような情勢ではないか。また片一方、西欧の代表と言ってはなんでありますが、イギリスの外務大臣は、今申し上げましたように、われわれの力が共産圏よりも上であるということを共産圏の人が認むるにあらざれば、なかなか平和への話し合いはむずかしい。こういうことを考えまして、私は冷たい戦争がなくなることを衷心より願っておりますが、今度の八十一カ国の方々のお集まりになりましたあの共同声明では、今直ちに雪解けが近寄ったと見ることはいかがなものかと思っております。
  107. 河野密

    ○河野(密)委員 池田総理は、率直に全文を読んだわけじゃないというのですが、これはお読みになってもなかなかおわかりにならないと思うのであります。少なくともこの共産圏の首脳部の会議の共同コミュニケというものは、非常に重要なものだと私は思うのであります。これはいろいろに解釈される面が確かにあります。しかし、その解釈される面につきまして、今お話がありましたように、平和共存というか、戦争は避くべきものであるし、避け得られるのだ、こういうことをこれだけの人々が集まって確認した事実は、私は世界的に見て非常に大きなあれだと思うのです。ただそれが東西両陣営の防衛力の比較からきたものだとか、そういうような考え方は、私は非常に危険な考え方ではないかと思うのでありますが、この戦争が避け得られるのだ、また避けなければならないのだ、そうして避けることができるのだということを確認したというこの考え方の上に立って、私たちはこれからの世界の情勢というものを見ていかなければならないのではないか、ここに重大な問題があると思うのであります。その中にはむろんいろいろとジグザグがあります。いろいろな面から見られる面がありますが、その点がきわめて重要な問題であろう。この点を中心として、これからどういうふうに世界の情勢が展開していくかということを、私たちはこれからの国際情勢の中で考えていかなければならないと思うのであります。その意味からいって、私は、先ほど来申し上げましたように、日ソの交渉とか、あるいは日中関係の国交の打開の問題とか、そういう問題も、これは新しい光の中で政府考え直すべき状態に達しておるのじゃないか、こういうことを一つ申し上げたいのであります。  次に世界の情勢を判断する尺度と申しますか、かぎと申しますか、これについて政府考え方というものが、さっき牽強付会的に台湾は自由民主主義の国だとか、いろいろのことを言われまするが、この現在の世界の情勢を——そして幾本かの理念が通っておると思うのでありますが、私は大体この理念が民主主義対反民主主義の問題、それから大国主義対民族主義の問題、それから議会制民主主義と人民民主主義の問題、国連主義と地域的集団安全保障主義の問題、こういうものが世界の動きの中に線として通っておると思うのでありますが、これらについて政府の根本的な考え方というものを明らかにしないと——たとえば植民地主義対反植民地主義の問題について、日本の政府としては、あるいは日本の国としては、どういう基本的な考え方に立つのだというような点を明らかにしていかなければならぬ。あるいは大国主義対民族主義の問題が至るところに起こっておるが、こういう問題についてどういう考え方に立つのだということを明らかにしなければ、日本の外交というものはバック・ボーンが通っておらない。いつでも世界の大勢によって、空気によって動いていこうというような結果になると思うのですが、これらの点について一体どういうふうに考えておるか、これを一つはっきりとお答え願いたいと思うのであります。
  108. 小坂善太郎

    ○小坂国務大臣 ただいまおあげになりました幾つかの分類は、どうも私にとりましては——少し私ども考え方を申し上げさせていただきたいように思うのであります。すなわち植民地主義対反植民地主義というお話がございましたが、今日どこの国でも植民地主義なんというものは放棄すべきものだということには、私に言わせれば異議はないのであります。ただこの段階において、無条件に直ちに独立させても、その国に独立を備えるにふさわしい要件が整わないときにおいてこれをいたしますると、かえって混乱の原因になる、かように考えて、適当な時期にと考えている国とあるのだろうと思うのであります。すなわち、理想主義と現実主義といいますか、そういうような分類の方がふさわしいかと思うのでありますし、また地域安全保障主義と国連主義とおっしゃいましたけれども、今日国連に加盟しておるものは、いずれも国連中心考えておると思うのであります。しかしながら、国連に加盟しておりながら、やはり地域安全保障を結んでいる国が幾つかあることは御承知通りでありまして、蛇足かもしれませんが、一例をあげてみますると、北大西洋条約、NATOの関係がございますし、それからアメリカ、ニュージーランド、オーストラリア、いわゆるアンザスの関係がございます。それからSEATO、それから全米相互条約、中央条約、それから米・フィリピン相互条約、米韓防衛条約、米華相互防衛条約、それからワルシャワ条約、ソ連中央友好同盟、ソ連と中共友好同盟、そのほかソ連を除く東欧諸国の間に二国援助の条約といたしましては、チェコとポーランドの間、アルバニア、ブルガリア間、ブルガリア、ルーマニア間、ハンガリー、ルーマニア間、ブルガリア、ポーランド間、ハンガリー、ブルガリア間、チェコ、ルーマニア間、ルーマニア、ポーランド間、チェコ、ハンガリー間、いろいろございまして、それぞれ国連中心主義であるけれども、国連の機能がまだ世界平和を完全に達成するに至っていないのだから、その間の完補として二国間の条約を結んでいる。こういう国は、自由陣営であろうと共産陣営であろうと、両方にあるのでありまして、そうした分類というものは私は不適当だと思うのであります。要するに、われわれの考え方としては、総理からお答えがありましたように、世界平和を擁護する、そのためには国連を強化していく、そうして日本の国民の利益を内容として、その利益、福祉を増進するために平和な外交を展開していこう、こういうことに尽きると考えます。
  109. 河野密

    ○河野(密)委員 私は、一番中心の問題は、平和を維持し、それから国連を強化していくというためには、これは国連憲章でも認めているように、国連憲章の五十一条によるところの地域的な集団安全保障というものは、これは望ましいものは例外として認めるということなんでありますから、そういう例外がたくさんあるということをあげて、あたかも自分の論拠にするというような態度でなく、そういうものはだんだんとなくしていって、そうして国連中心、ほんとうに国連中心主義というならば、国連中心になるように、国連がその機能を発揮し得るようにしていくということが、私はやるべきことだと思うのですが、一番われわれとして考えなければならぬことは、いろいろに言われまするけれども、問題は要するに、自由主義の国というものの中に入る。中に入るばかりじゃなく、そうじゃなく、軍事的にこれと結びついて、軍事同盟を結ぶということによって、ほかの国との国交を回復しようとしても非常に無理がある。そこに問題の焦点があるとはお考えにならないか。私は、その点を一つ政府としては大いに考えてほしいと思います。
  110. 小坂善太郎

    ○小坂国務大臣 国連の完補として二国間の条約がある、あるいは数カ国間の条約がある。これは例外とおっしゃるなら例外かもしれませんが、ただいま読み上げましたように、ほとんど全部の国がそれをやっておるのであります。問題は、日本が先んじてそれをやめるかどうかという問題だろうと思います。それがあなたのおっしゃる中立主義というのかもしれませんけれども、私は、先ほど申し上げたように、中立政策というものは一体何をさすのか。いろいろの中立という考え方には、感情的な中立もございましょうし、あるいは一つの戦術、戦略としての中立もあろうかと思います。いろいろな中立の具体的な形態になりますと、千差万態であろうかと思うのでありますから、どうかお互いに国の問題、外交の問題を考えます場合に、だれしも、あなたも私も、その願いにおいては、究極において一致しておると思いますので、どうか一つ具体的に、できるだけ現実に即して御判断を願いたいと思います。植民地主義の問題につきましても、先ほど申し上げましたように、コンゴの問題などというのは、これはまことに植民地を解放するということはふさわしい問題でありますが、現実の問題としてみると、あれだけの事態が起きておるわけでございますから、そういう点を十分に御考慮をお願いいたしたいと思う次第であります。
  111. 河野密

    ○河野(密)委員 まだいろいろお尋ねしたいことがありますが、外交の問題につきましては、また同僚からお尋ねをすると思いますから、それに譲らしていただきたいと思います。  今度は経済の問題について少しくお尋ねしたいと思います。経済の問題で、先ほど冒頭に申し上げましたように、一番大きな問題は、何と申しましてもドル防衛の問題でございます。これは午前中、同僚の愛知君から詳しい御質問がございましたから、重複することは避けまして要点だけをお尋ねしたいと思います。  池田総理は、このドル防衛の問題が日本の経済に及ぼす影響というものについては、非常に楽観的に考えておるようであります。このドル防衛の問題は、外交上の問題にも関係いたしまするし、日本の経済政策基本にも関係するのでありまするが、アメリカのドル防衛の施策の影響が、単に特需の減少を見るという、四十億に及ぶ日本の貿易の中の一億あるいは一億二千万ドル程度の減少でもって済むかのような、そういう考え方というものは、非常に安易であろうと私は思うのであります。この政策によって、池田内閣考えておるといわれる経済成長政策というものに対して、手直しとかあるいは構想を練り直すとか、そういうような関係がはたして要らないものであろうかどうか、この点を私はお尋ねをいたしたいのであります。私の理解するところによると、この経済成長政策の根本をなしておるものは貿易であると思うのでありまして、貿易がはたして伸びるか伸びないかということが、経済成長政策の根幹であると私は考えるのであります。大体昭和三十五年度、ことしは去年に比べて貿易が約三億九千万ドル伸びる、来年度は三億七千万ドル伸びる、再来年度は四億一千万ドル、大てい一〇%ぐらいずつ日本の貿易が伸びるということが前提になって所得倍増計画というものが成り立っておる。こういうふうに私は考えるのでありますが、このアメリカのドル防衛政策の結果として、日本の貿易の前途には、単なる特需が減るというだけの問題で影響が済むとお考えになっておるのかどうか。どれだけの影響があると考えておるのであるか。もしこの貿易の面において重圧が及ぶとするならば、この所得倍増計画というものもその面から考え直すべきものではないか、こう思うのでありますが、この点をお尋ねしたいと思います。
  112. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 経済の成長、所得倍増の最も根本問題というのは、私はこう考えております。経済の成長ということは、外から持ってくるものじゃない。これはやはり国民の決意と行動によってでき上がることでございます。私は、この決意と行動によって創造されるそのいわゆる創造力、ポテンシャル・エナージーというものを政治家は、政治をする人は、この創造力を刺激して強化する。そうしてその強化されたものを、自由な姿においてこれがどんどん伸びていくような環境を作ること、環境を作り出して方向づけること、これが問題、経済の成長、十カ年で倍増成るか成らぬかということは国民の決意と行動力であります。それを政治をうまくしてその決意と行動力、ポテンシャル・エナージーを力強くして自由に国民が創意をこらしていくような雰囲気を作ることがもとなんです。私は過去の実績から申しまして、日本国民の英知と勤勉さ、そしてこの労働力をもってすれば私はできると確信して、そうしていろいろな施策をやろうといたしておるのであります。問題は、国民のポテンシャル・エナージーをいかに強くして、それを自由に発揮し得るような雰囲気を政治家が作るかどうか、これがもとでございますので、私はそういう考え方で進んでいきたいと思っておるのであります。  そうして、今の起こりましたドル防衛の問題については、けさほど来詳しく申し上げたのでありまして、河野委員がおいでになったかどうか知りませんが、このドル防衛の問題というものはもう数年間前から起こることなんです。われわれもドルが防衛せられるような事態になるまで、われわれの外貨収入が伸びることを念願し、そしてまたそういうこともあろうかと思って、貿易自由化も私は唱えておった次第でございます。従いましてこの影響といたしまして、ICAの一億一「三千万ドルで済むとか、あるいは日本に駐留される軍人の家族の人がどれだけ帰るかというだけの問題じゃない。これはその一部でございます。私は日本の輸出、ことにアメリカが今度やろうとする貿易の推進、そうしてアメリカとの貿易上の競争力、こういうことも考えなければならぬのでございまして、単に一億ドルとか、一億七、八千万ドルとかいう問題と思っておりません。世界の経済にアメリカが役割をになっておった低開発国につきましても、われわれが西欧諸国とともに肩がわりということはもちろん大きゅうございますが、できるだけのことをやっていこう、こういうことでございまして、所信表明にも申し上げましたごとく一つの試練でございます。われわれの越えなければならぬ試練であります。だから、この試練を越えていくだけの努力をしなければならぬ、またそれだけの力がある。決して私は手放しで楽観しておるわけじゃない。これはいたずらにこれを悲観して、そして十年計画を変えろとかいうふうに周章ろうばいすべきでなしに、私は自信を持って国民の創造力を伸ばし、そしてこの試練を越えるだけの自信がある。  それから貿易の問題につきましては、御承知通り世界の貿易というものは、大体年に今までの平均は六%近く、まあ五%前後の上昇があるように、これは過去の実績が示しておる。日本の貿易は、国民の努力によりまして、あるいは三億ドルふえた、四億ドルふえた、昨年は一昨年に比べまして輸出は二割方ふえた。しかし、今年におきましても相当、一割以上ふえている。これは世界の平均——去年は四倍、ことしは二倍以上になっている。私は四億程度の輸出の増加は、日本の経済力が合理化し、近代化されていけば、大体いけるんじゃないか、過去の実績を見ましてそのくらいいけるんじゃないか、こう考えておるのであります。
  113. 河野密

    ○河野(密)委員 このドル防衛の問題について、十二月八日にマッカーサー・アメリカ大使は声明を発表されまして、こういうことを言っておるのであります。一九六〇年の六月三十日までの一カ年間に、ICAとして一億一千五百八十万ドルあった。今度なくなるのはこれだけであって、そのほかに対米輸出は十二億ドルあり、軍人並びにICAの支出総額は五億ドルになる、だから十七億ドルは日本から来年度もアメリカは買い付けるんだから、そう騒ぐ必要はないんだ、こういうようなことを声明をいたしております。これがアメリカの側の公式的な発表であると思うのでありますが、このドル防衛政策につきまして、アメリカ側から日本政府に対して今までどう言ってきておるか、何らかの交渉があるかないか、あるならばある、ないならばないと、一つはっきりとお答え願いたい。
  114. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 ドル防衛につきましては、大統領の宣言、また先般ハーターの声明等ございまして、正式に日本にこうやる、ああやるという特定の交渉はないと考えております。またワシントンの大使館が国務省に行きましていろいろ聞いておるようでございまするが、御承知通り、十二月十五日まではICAも何も出ておりませんで、いろいろ想像が加わっておるのでございまするが、駐日の米大使が声明をしたということは、私は詳しくは読んでおりませんが、今のお話のようでございましたら、少し誤解があるのではないかと思います。ICA一億一、二千万ドルの問題は、これは一番大きく来る問題でございます。それから大体特需が四億八千万ドル、年によっては四億九千万、五億になることもありますが、五、六年前の半分余りであります。このうちICAの一億一千万ドルがどうなるかという問題がございます。これは少なくとも三十五年度においては影響がございません。三十六年度でどうなるかということはございます。別に円セールの問題、これがございます。これは先ほど申し上げましたが、大体アメリカの軍人が五万人、家族がそれに匹敵するだけおります。それがどれだけ帰るかによりまして、大体一人の消費が千ドルくらいの平均になっております。何人減るかによってこれがあれするのでありますから、ICAが減るだけでなしに、この円セールの問題のところも減って参りましょう。それから今度の円セールも二億ドルばかりでございますが、一億五、六千万ドルの軍の備品、その他の買い入れの金額、これは私は駐留軍がずっと依然としておればあまり減らないんじゃないかと思います。それから一部沖縄への工事関係、これがどの程度になるか、これも私はあまり減らぬのではないか、こういうふうに考えますると、今の四億数千万ドルがそのままに残るということは、先ほど申し上げましたように考えてはおりません。私の想像では、ICAが全部減って、そうして相当の軍人の家族が帰られて、まあ二億ドル足らずじゃないかというふうに考えております。御承知通り、アメリカ貿易は従来ずっと片貿易であったのが、昨年は一昨年に比べまして五割ふえました。四億ドル近く一年にアメリカの輸出貿易はふえたのであります。こういうことを考えますると、今後のアメリカの景気がどうなるかということが大きい問題でございまして、私はそういう意味において、お話のように決して楽観はしていないのでございます。いろいろな点を考慮して、きょうも午前中ございましたが、外資の導入についての影響はどうだとか、株式取得の問題はどうだとか、あるいはアメリカ全体として世界各国への金の貸付についてのは考えどうだとかということも研究しておりまするが、外資導入方面につきましての影響はあまりない。ただアメリカの短期資金の減少は、ヨーロッパ諸国の金利高ということがいわれております。イギリスは十月、十二月の二回にわたって一%下げております。ドイツも十一月に金利を下げましたし、フランスも金利を下げる。こういってヨーロッパ諸国はこれに対しまして協力体制をずっとっとておるのであります。私は、ICAなんかの問題で日本の次に一番大きいのはドイツでございますが、ドイツなんかにおきましても、電報は来ておりませんが、そうびくびくしておるのじゃないと思っております。で、繰り返して申し上げまするように、各般の起こり得べきことを考えまして、そうしてまた全体としての措置、ことに今度は具体的の問題になりますと、ICAで一番大きい買付でございます肥料あるいは機械、ことに自動車の問題等々考えて参りますと、特定の産業の特定の会社には相当影響が出てくるかとも思いますが、これは克服し得ることであって、そしてこのICAその他につきましても、外交交渉によりまして、急激な変化の起こらぬように私は努めていきたいと考えております。
  115. 河野密

    ○河野(密)委員 アメリカの方から何にも話がないのですか。
  116. 小坂善太郎

    ○小坂国務大臣 ただいま総理からお答えのようなことでございまして、実は明日になるわけですが、明日までにそのハーター・ディレクティブのことについて、各長官からハーターの方に報告書が集まることになっております。その結果を見なければ何も申し上げられません。ただ、今総理のお答えの中にもありましたように、在米大使館において結論を出したという話でございますが、私ども新聞でこれを見まして、さっそく問い合わせておるのでございますが、少しどうも事実と違うところがあるようでございます。いずれわかりましたらまた……。
  117. 河野密

    ○河野(密)委員 マッカーサー大使が小坂氏を訪問して、その点についての了承を求めたということはないのですか。
  118. 小坂善太郎

    ○小坂国務大臣 マッカーサー大使の来訪を受けまして、この点について日本で非常にセンシティブに受け取っているようだけれども、たとえばICAが一夜にしてゼロになるということはないのだから、ディレクティブにあるようにすでに発注し契約済のものについては取り消さぬということもあるようだけれども、この点について了解してもらいたいというような話もありまして、私の方から若干要望申し上げたこともございました。この席で申し上げるほど重要な事項はございません。と申しますのは、先ほど言ったように、すべて明日になってみないとどの程度になるかわからぬわけでございます。ただいまのところは何とも申し上げられません。
  119. 河野密

    ○河野(密)委員 このドル防衛についての直接の影響がどう現われるかということよりも、われわれが一番関心を持つのは、政府のいわゆる経済施策というものに対してこれがどういう関係を持つかということでございますが、政府は自分の経済施策というものについては実はアドバルーンを上げただけであって、一向その内容を明らかにしておらないのであります。池田内閣所得倍増論とか池田内閣のどうとかいうことだけは聞きますけれども内閣自体がまだ所得倍増についての閣議決定とか、そういうものをしたことはないわけでありまして、われわれはただ自民党の選挙政策であるとか、あるいは新聞等に現われておるものを相手にして議論をしておるわけであります。一体池田内閣は、この所得倍増の具体的の計画をいつ内閣の方針として明らかにするのか、具体的に内容はどういう過程を通って明らかにするのか、これを承りたいと思います。
  120. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 先ほど申し上げましたように、私の政治の理想といたしまして、国民のポテンシャル・エナージーを力強く伸ばしていく。そして自由な姿で伸ばしていく。それじゃどのくらい伸びるかということになると、過去の実績からいうと、うまくいけば十年以内で倍になるのではないか。そこで前の岸内閣のときに、それでは十年で倍になるときには、今度は算術的にはこの十年、七・二%で倍にしたときに経済がどうなるか、どういうところにどういう力を入れていかなければいかぬかという、いわゆる所得倍増計画案というものを諮問したわけでございます。せんだってその諮問案が出てきたのであります。私は今朝申し上げましたごとく、この倍増計画案はあくまで一つ指針であって、われわれの参考になるものである。これを土台にいたしまして、今度政府として考え方を盛っていこうということでございます。(河野(密)委員「だからその政府考え方をいつ明らかにする」と呼ぶ)そこで政府考え方をどうするか、何分にも過去の実例から申しまして、昭和三十年あるいは三十二年に経済五カ年計画というものを作りましたが、もう一、二年でその通りにならないのです。ですから私はそういう十年以内の倍増というものを持っておりまするが、そういう大きなものでなく、とりあえず三年間というものをどうしていくかということで、三年間は年平均九%ぐらいにしていきたい。それならば、三十六年度を三十五年度に比べて九%ぐらいにするのにはどういう施策をしたらいいか。それで三十六年度の予算をどうするか。それと同時に三十七年、三十八年をやる。そして三十五年度が十三兆六千億、三十八年度は十七兆六千億、こういう目標だから三年間で具体的の案をこしらえようというのが今立案中であるのであります。
  121. 河野密

    ○河野(密)委員 その池田内閣の方針というものは、今立案中である、これは国民が聞いたらおそらくびっくりすることだろうと思うのでありまして、今まででも自民党の新政策というものは、あたかも池田内閣政策であるかのように国民は受け取っておるし、所得倍増計画ということで新聞、ラジオ等をにぎわしているものは、みな池田内閣できめてしまったことであるかのように国民は受け取っておるのでありますが、われわれは、国民のポテンシャル・エナージーを言われるけれども池田内閣のポテンシャル・エナージーもまだ知っていないわけであります。実際、そういう意味では、明らかにいつ具体化するかということは国民が首を長くして待っているだろうと思うのでありますが、その具体的な問題として現われてくるのは昭和三十六年度の予算であります。そこで私はこの三十六年度の予算にしぼってお尋ねをいたしたいと思うのでありますが、昭和三十六年度の予算の規模というものは、一体どのくらいに考えておるのか。その三十六年度の予算、新しい池田内閣構想をもって組まれるという予算の規模はどのくらいに考えておるのか、そしていわゆる新政策を盛る予算としてどのくらいのものを考えておるのか、これを一つ明確にしていただきたい。
  122. 水田三喜男

    ○水田国務大臣 三十六年度の日本の経済は、今の予想ではやはり着実に拡大するというふうに考えておりますので、それをもとにして考えますと、三十五年度の当初予算に比べて少なくとも三千億円以上の増収があるだろうという一応の目標のもとに、減税等いわゆる三本の柱に予算強化をするという方向で姿は考えておりますが、まだ、御承知のように、政府予算の編成方針をきめるためには、今政調、企画庁等で作業しておりますが、来年度の経済見通しと、同時にそれに対する経済運営基本態度というものをはっきりさせてから、その上に予算編成方針をきめる。この編成方針に沿って私どもが作業をするということになっておりますので、今概略の全貌は描いておりましても、来年度の規模がこうなるだろう、そして政策経費をこれくらいは計上できるはずだというようなこまかい御説明をするところまでまだ行っておりません。
  123. 河野密

    ○河野(密)委員 来年度の予算を組むのに際しては、自然増収がどのくらいあるかということが、これのかぎであると思うのであります。大体自然増収は、けさほど池田総理から三千億程度あるであろう、こういうことであったわけでありますが、今水田君からも三千億程度自然増収があるものとして予算を組むということでありますが、かりに三千億といたしますれば、一兆九千億程度予算になるわけでございます。この間の新聞によりますと、水田君は一兆八千五百億程度予算規模というものを考えておる、一応のめどとしておるということで、大体その程度のことであろうと思うのであります。そこで自然増収をどの程度に見積もるかということによって問題が非常に重要な問題になるわけでありますが、三千億とかりにいたしますれば、その三千億というものが減税と公共投資と社会保障、この三本の柱に割り振るという構想なのか、三千億かりにあった場合において、御承知のように予算の当然増というものがありますが、その当然増というものは一体どのくらいに見積もられるのか、既定の経費というようなものは大幅に削っていって、この当然増をできるだけ縮めるというつもりなのか。私たちのきわめてずさんな推定によれば、来年度における自然増収というものは、三千億というのは少しく少ないのであって、三千五百億、もっとあるんじゃないかというふうに考えられるのです。それにしても予算の当然増というのが少なくとも千七百億あるいはもっとふえるかもしれないが、その程度にある。そうするとあとの公共投資、減税、社会保障というこの三本の柱をどういうふうに盛っていくかという問題になるわけでありますが、これらの点についてはどういうふうにお考えになっておりますか。
  124. 水田三喜男

    ○水田国務大臣 今申しましたように、まだ政府予算編成方針がきまっておりませんので、ここでどういう形になるかということを申すのは早いのでございますが、私どははその三本の柱以外に文教政策がやはり重要であると考えておりますので、こういうものにも相当予算を計上したいと考えておりますし、そういうものをあんばいいたしましても、大体この三本の柱には今までの予算と違って、ある程度画期的に増額できる予算編成ができるんじゃないか、今のところはそういう見通しを持っております。
  125. 河野密

    ○河野(密)委員 私が申し上げました当然増千七百億くらいを見積って、しかもその上にこれは減税として、政府は大体千億とも言い、千二百億とも言っておりますが、その程度のものを考えて、公共投資も、これは政府考えておる考え方に従えば、一番力を入れなければならない点でありますが、これも相当にふやして、財源をかりに三千五百億としましても、一体三千五百億の自然増収でまかなえるかという問題があるわけであります。これは一体どういうふうにお考えになりますか。
  126. 水田三喜男

    ○水田国務大臣 歳入の増は、けさもお話ししましたように、まだ不確定な要素をたくさん持っておりますので、この確実な見込みは今のところまだ早いという問題と、減税も平年度千億以上の減税をやるということでございますが、これは平年度でございますので、初年度はそれより若干減ると思いますし、さらに特別措置をなくすることによって期待される増収というようなものは、千億以上の減税というときに見ておりませんから、そういう財源も予想せられますし、いろいろ勘案してみますと、相当政策費を盛った予算編成が私はできると思っております。
  127. 河野密

    ○河野(密)委員 そこで私は池田総理にお尋ねしたいのですが、私の見るところによれば、公共投資と減税とそれから社会保障、この三つの柱とおっしゃいますけれども経済成長基本方針からいたしますと、政府考えている、あるいは池田総理考えていると言ってもいいと思いますが、その経済成長政策から見まするならば、この三つのものはお互いに矛盾する要素があります。その矛盾する要素を三つに盛って、経済成長基準とするところの経済政策をお立てになる。そこに私は大へんな矛盾があると思うのであります。私は、この三つのものを一つ予算の中で消化するということは絶対にできない、できるとするならば、それはどこかに必ずひずみが出てくる、こう思うのでありますが、これはいかがですか。
  128. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 私は減税と社会保障制度の拡充強化、そうして公共投資というようなものは矛盾するものでなしに、お互いに関連して進んでいく問題だと考えておるのであります。減税をするということは、国民の労働意欲を起こします。そうしてそれが再投資に向かう一つのあれになり、また経済成長一つの役割をしておりまする消費の増加ということにも相なってくるのであります。社会保障も、一般大衆の非常につつましい生活をできるだけ伸ばしていくということは、経済成長の一因にもなるのでございます。社会保障制度の拡充、減税実施ということが公共投資を促すことにも相なる。これは関連した施策と思っておるのであります。私は矛盾したと考えておりません。  従いまして、先ほどもお答えしたのでございまするが、当初は自然増収千二百億、そうして来年度二千三百億、こういうときに減税案を千億以上としております。私は大蔵大臣にお願いしまして、経済の規模が大きくなってくる、そうすると、税率とかいろいろな控除関係を先にきめてしまうと、千億の減税が千五百億になる、そういうことのないように、一つ千億以上という程度でとめてくれ、そうしてふえた経済基盤の強化は、第一に社会保障制度、そうして公共投資に行こう、こういうので、よく新聞では社会保障制度は後退したというのでございまするが、私の気持では、社会保障をうんと伸ばそうというので、減税を千億以上、千一、二百億の平年度でとめておるというのも、社会保障へたくさん持っていこうという気持であるのでございます。経済の拡大成長ということは、減税し、貯蓄を奨励し、経済基盤を強化し、そうして所得がふえた収入の増を社会保障に持っていく、こういうふうなかね合いの問題でございまして、決して矛盾した措置ではないと私は考えておるのであります。
  129. 河野密

    ○河野(密)委員 それは頭の中で池田さんがお考えになって矛盾しないと言われるけれども、当局である水田君はもうよくわかっておる。すぐ矛盾していることがわかると思うのであります。たとえて言うならば、もし経済成長中心にして減税を考えるというならば、今水田君が例におあげになった租税の臨時措置法とか、特例とか、そういうものをやめるということはなしに、そういうものは残しておけ、こういう要求になると思うのであります。これは当然この税を減免する方面においても、たとえば貯蓄性向のもっと高い方面の税をむしろやめるべきだ、少なくすべきだ、あるいは生産拡充に向いていく方面の税を安くすべきだ、こういうような要求になってすぐ現われてくると思うのであります。それは一般の家族、配遇者控除を新たに設けて、そうしていわゆる勤労階層の税を安くするのだ、こういうこととは、減税の面を一つとっても必ずしも一致しないと私は思うのであります。そういうことがおわかりにならぬはずはない。十分おわかりになっても、ことさらにごまかしていらっしゃるのだと私は思うけれども、そういう公共投資に現われておる経済成長の要求にこたえようという、成長一本やりでいこうという考え方と、それから減税と社会保障をやっていこうという考え方というものは明らかに矛盾があるのです。矛盾でないとおっしゃるならば、私は例をあげて言いますが、どうですか。私は矛盾だと思う。
  130. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 租税特別措置は全部やめるとは私は聞いておりません。ある程度これを適正化するということでございます。私は、減税、社会保障ということは生産拡大への一つの方便だと思う。過去のあれから申しましても、どんどん減税いたしまして、そうして所得がふえてくる。そうして収入も多くなる。減税いたします。片一方で社会保障をします。そうして大衆の購買力をふやしていくところに政治の目的があり、経済の成長があるのであります。だから、成長してでき上がった効果というものを減税に回し、社会保障制度を拡充して、そうしてでき上がったものを外国へ輸出すると同時に国内消費に向ける。そして減税したものがまた再生産のもとになる、こういう考え方でいっておりまして、私はそういうことを固く信じておるのであります。
  131. 河野密

    ○河野(密)委員 そういうことを強弁なさっても、どうもわれわれには信じられないのでありますが、一つ私の申し上げることを聞いていただいて御判断を願いたいと思うのです。池田さんがここでいろいろお述べになりました経済理論というのは、これは大へん失礼な言い方をするかもしれないが、一つお許し願いたいと思うのですけれども池田さんのお考えになった理論とは私は思わないのでありまして、これは先生がいる。弟子は師の半減に足らずというのですが、先生の方のいうことを聞けばよくわかるのであります。世間でいういわゆる下村理論というものを私は考えてみますと、その下村理論というものはどういうのかと申しますと、経済の根源というものは成長にあるのだ、成長一つ本やりの理論であります。すべてのものは成長にある、これによってすべては解決するという考え方であります。これは非常に割り切ったもので、今池田さんがポテンシャル・エナージーと言われた、そのポテンシャル・エナージーということを盛んに便っておるのでありますが、その国民の持っておる経済成長力についての判断を前提として、その成長力の限界まで経済成長を実現する、これが政府政策であるべきだ、これが下村理論というものの根源であります。これに対して完全雇用であるとか、福祉国家であるといったような一般的なスローガンは、経済成長を促進することによって実現する。二重構造の問題も、成長の過程の中で発展的に解決していこうという考え方である。こう言っております。これなんであります。成長は何によって行なわれるかというと、近代工業を突破口として行なわれるが、これを推進する力は民間設備投資である。成長率と民間設備投資との間には、常に一定の比率がある、こう言う。その設備投資が上がっていく限りにおいては成長というものはできていくんだ、こう言うのであります。そこでやかましい物価の問題についてどういう解明をしておるかと申しますと、設備投資というものと、国民総生産というものの増加とりの間には比率があるのです。その比率が一よりも小さいときには物価が下がる。一よりも大きくなったときには物価が上がる。昭和三十五年度は設備投資が二兆である。その国民総生産増加が一兆二、三千億円であるから、この比率は〇・六であるからして物価というものは上がらないのだ、こういうことなのであります。これと同じように、輸入というものも同じような計数で割り切っておるのであります。さらに、物価の問題についても、こういうことを言っておる。消費物価、サービス料金は上がるべきである。上げるのが当然である。経済成長理論というのは元来かくのごときものであって、これを減税、社会保障などというものとからませることに問題があるのであります。きわめてドライに割り切っておるのであります。ところが池田さんは政治家で、しかも政党の総裁で、政党をひきいている。選挙ともなれば、いろいろそちらにも都合のいいこと、こちらにも都合のいいことを言わなければならぬ。先生はこう教えておるけれども、生徒の方はよそ見をしながらいろんなことを考えておる。それだから矛盾をして、どこからもほめられるものができない。こういう結果になっておるのが私は実際の実情だと思うのです。昭和三十六年度の予算において、この公共投資と減税と社会保障の三つが公約通りに盛られたならば、私はお目にかかりたいと思う実際できるかできないか、これを明確に一つお答え願いたい。
  132. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 だれが先生か、だれが弟子か、それはお互いの考え方です。私の考え方は、過去十年間、日本の経済の歩んできた道をずっとたどっていきまして、そうして考え出したことであるのであります。もちろん大蔵省におりますときに下村も使っておりました。しかしいろいろな理論はございましょうが、私の考え方は私の体験から来ていることであります。しこうして減税と公共事業と社会保障、この三つが守れるか。守ります。それで御質問の点に反問しては恐縮ですが、守りますが、あなたの守る守らぬという限度はどうお考えになっておるのでありましょうか。たとえば私はここで申し上げるのですが、ある方々と三人で、新聞記者会見で話しておりました。そのどきに減税を千億あまりやるなら、社会保障制度は千五百億ぐらいやるべきではないか、こういうお話でございましたが、それは無理です。なぜ無理かと申しますると、今から十年くらい前は、社会保障制度は三百億程度でございました。本年度の予算で千八百億。千五百億を十年間でやってきたわけです。それを一年で千五百億にしろ、こういうことでした。これは無理です、こういったら、千億はどうだ。そういういうものではございません。減税は、中央、地方合わせて二兆円のうち千億円の減税です。社会保障制度は十年間かかって千五百億円、それを一ぺんに千五百億とか千億というものではない。これは末広がりに出てくるものでございますから、今まで社会保障制度の拡充をやったという昭和三十四年、三十三年等々の実績に比べれば、これは相当ふえます。それで、私はその金額は申し上げられませんが、千五百億とか千億というのは無理でございます、こう答えておったのでございます。公共投資もどうするか、これも千億をやらなければつじつまが合わぬのだ、公約を実行しないのだ、こうおっしゃられては、それは御無理でございます。柱というのは金額ではございません。政治施策においてどこに重点を置いたかということが大事であります。だから中央、地方を通じて二兆円の税収に対しまして千億あまり、すなわち、何と申しますか、五、六%やる、それなら社会保障制度を千八百億を五、六%ほど動かす、こういうものではございません。その点を、反問ということはございませんが、あなたのお気持を今聞いておかぬと、答弁によって、これはだめだ、公約違反だと言われては困ります。初めから私は千億円減税いたしますから社会保障制度も千億円やりますとは言っておりません。公共投資を千億やるとも言っておりません。これははっきり申し上げておきます。三つの柱は重大な施策であります、こういうことでございますが、金額は同じとは言っていないことをはっきり申し上げます。
  133. 河野密

    ○河野(密)委員 予算に組まないで、柱だ、柱だ、そんな柱は何の役にも立たない。それこそ蚊柱か何かで架空のものでございますから、そういう政策として、柱として掲げる以上は、これを実際の予算の上に幾ら組むか、予算を計上して初めてこれが柱になるわけで、とにかくやります、社会保障をやりますというかけ声だけが柱になるわけではない。公共投資をやりますというかけ声だけが柱になるわけではない。減税をやりますといっても、減税を現にやらないなら、これは柱でも板でも何でもないではありませんか。こういうことで実際においてそれをやるというのが予算の上に現われて初めて言えることです。だから池田内閣は現在まで何にもしておらない。ただ宣伝をやっただけであって、実際において今まで何にもしておらぬじゃないか。それを具体的にどういうふうに表わしていかれるか。私たちの考えを言えと言うならばはっきり申し上げます。われわれは、社会保障については、少なくとも千億を下らざる社会保障を行なうべきである。現在が千八百三十億ですか、十数億でありましたか、とにかくそういう数字でありますが、少なくともこれを千億は社会保障。現在国民経済がこれだけ上昇して景気がいいといわれているときにおいては、少なくとも生活保護を受ける保護費であるとか、あるいは国民健康保険の医療費に対する国庫補助であるとか、そういうようなものはみんな政府がもっと考えるべきだ、これを計算していけば、少なくとも千億になるじゃないか、まず社会保障、これを千億やれ、社会保障というならばそのくらいのことをやらなければだめじゃないか、こういうのがわれわれの考え方であります。そういう点で、ただ社会保障をやります、あるいは予算は別でありますが、社会保障は柱です、政治の柱ですと言うのは、これは単なるかけ声ですよ。選挙のときにはそれで票がとれるかもしれないけれども、それは政治にはならぬです。そこにわれわれは池田内閣に対する危惧の念を持っておる。国民全体が一時の池田内閣に対するブーム——と言っては語弊がありますかもしらぬが、非常な期待というようなものが、今全くしりつぼまりにつぼまってきたというのは、全くかけ声だけじゃないか、実際において予算の上に表われてこないじゃないか、こういうところにあると思うのです。これは水田君の責任でもあるけれども昭和三十六年度の予算構想ぐらいを発表して、社会保障は少なくとも千億やります、減税は千億必ず実行いたしますというようなことを掲げてこそ、初めて池田内閣施策であると言うことができると思うのですが、それをやらずに、三本の柱はわれわれは堅持していますと、単なるから証文だけをもらって国民は喜ぶわけはないと私は思うのです。
  134. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 実際予算を組む場合におきまして、過去の実績を見ていただきたいと思います。私は、最近におきましては、千億減税、千億施策をやります。そうして減税にいたしましても、昭和二十五年、二十六年、二十七年、二十八年におきましては、大体千億円以上毎年やって参りました。そして今回は千億円にとどめております。その当時における社会保障制度の拡充費と比較——減税は昔ずっとやっておる。今度減税を——大体入ってくる金がわかっておりますから、その金の中で社会保障にどれだけを持っていって減税には千億でとどめた。公共事業等をごらんになれば、河野さんは予算通でございますから、いかに池田内閣が画期的の社会保障制度の拡充に金を出したかということは、三十六年度の予算でごらんいただきたいと思います。これは金額の問題じゃございません。もちろん金額をふやすことはふやしますが、今までにないような画期的な増額をいたします。これは私の公約でございます。
  135. 河野密

    ○河野(密)委員 私は、実際数字が上がらないで、公約とか、そういうあれは意味がないことだと思います。そういうことでなく、今池田さんは一千億減税、千億施策ということを言われましたが、千億積極政策、千億減税と言われたあのときに、第一この考え方は矛盾じゃないかと、本会議で一番先に指摘したのは私じゃなかったかと思うのですが、それがしんをなしたというのでありましょうか、その結果は私が指摘した通りになりました。私は決してそういうことが来ることを望まないのでありますけれども、私はただ言葉だけの、かけ声だけの政治というものはおやめになっていただきたい。政治というものは予算であり、数字でありますから、数字の伴わないところの政治というものは架空である、こう思うのであります。この意味におきまして、池田内閣があれだけ国民の間に公約なすった三本の柱、三本の柱という、その三本の柱が単なるかけ声に終わることなしに、実際において現実にこれが現われてくるようにしていただかなければならないと思います。これと同じことは、所得格差の問題にでも言えると思うのです。所得格差の問題について、午前中に愛知君から御質問がありましたから、私は繰り返すことをいたしませんが、所得格差の問題についても、下村君の理論によりますれば、こういう問題はもう論ずることはないんだ、経済が成長していけば、成長の中でそれは解決するんだという意味でありまして、成長一点張りの議論であります。その成長一点張りの議論では政治にならぬところに政治の妙味があると私は思うのでありまして、そこにわれわれがここで三十六年度の予算を問題にする理由があると思います。その意味におきまして、三十六年度の予算に対する性格、規模、そういうものをすみやかに一つ明らかにしていただきたいということを要望いたしまして、私の質問を終わりたいと思います。
  136. 船田中

    船田委員長 明日午前十時より開会することとし、本日はこれにて散会いたします。     午後三時五十七分散会