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池田(勇)
国務大臣 世界の
経済の変革、ことに各国の通貨の価値その他の問題につきまして、今から三十年足らず前のあのケインズの学説が出まして、よほど変わって参ったのでございまするが、三十年後の今においてこのドルの問題が起こって、私はちょっと名前を忘れましたが、画期的な金融、為替の変革が起こるんだと唱える学者がおるのであります。そういう一部の学者、それに
相当共鳴しておる実際家もおるようでございますが、私は、このIMF
中心に別の通貨というものをこしらえるというふうなことは、これはまだやはり学者の議論じゃないか、こういうふうに
考えます。今度のドル問題の経過を
考えますると、今から四、五年くらい前までは、アメリカがドルを持ち過ぎておる、西ヨーロッパあるいはアジア等ドル不足で困っておるから、何かこれを
解消して、アメリカに金が集まらないようにすべきじゃないか、こういうことを西ヨーロッパでも言っておりますし、われわれもそう言っておった。まあ共同市場、貿易連合の発生以来それが成功いたしまして、そうしてアメリカからの金の流出が見られ、またわが国におきましても、ドル準備が
相当多くなった。その原因は、やはりアメリカの何といいますか、
お話しになりました労働
事情その他によって、いわゆるクリーピング・インフレーションがずっと続いておった。それで、このクリーピング・インフレーションも、一九五六年、五七年ぐらいまでは、アメリカの輸出入の関係を見ますと、五六年はやはり七十億ドル、五七年は八十億ドル近い輸出超過、だから六十億
程度の軍事援助、
経済援助をやりましても、なお金がアメリカに集まるという状況でございましたが、五八年からはその七、八十億の輸出超過が五十億くらいになりました。五九年には、去年は輸出超過が二十億、だから六十億の
経済援助、軍事援助で、そこで三十億前後の赤字が二年出てくるようになった。今年におきましても、その傾向があるのであって、これは私は、われわれが念願しておったアメリカヘの金の集中ということを排除して、西欧も日本も金を持とう、こういう念願が達せられて、アメリカの金が西ヨーロッパ、日本へきたという状態なのであります。われわれとしては、自由国家群、ことに世界
経済の安定的
発展をはかっていく上におきましてはドル価値の維持の問題は、アメリカ人のみならず、西ヨーロッパもわれわれも、自由諸国全体の問題でございます。従いまして、私は先の新聞記者会見におきましても、その
意味のことを話し、ドルの価格維持はアメリカのことばかりでなしに、ヨーロッパ、われわれのことである。だから、この維持に対して協力しよう、こう私は答えておったのでございます。
今回のドル問題に対しまする三つの点、私はあなたと全く同感です。第一は、アメリカの輸出入の関係がそうなりましたから、輸出を伸ばさなければならない、そのためにはやはり為替管理をやめ、自由貿易に立っていかなければならない。しかし、この自由貿易主義と申しましても、もうすでに御
承知のごとく、西欧におきましては、もうドルに対しましては九十数パーセントまで自由化をしております。自由化をしていないのは日本、私はこの情勢を察知しておりましたから、昨年来、自由主義に日本が移りかわらなければいけない、自由貿易で立っていかなければ日本の
経済の伸展、貿易の
発展は行き詰まるぞという
考え方で自由貿易、自由化ということを唱え出しておるのであります。日本はおくれておりまするが、この問題につきましては、私は、ドル防衛の問題のあるなしにかかわらず、日本としてやらなければならぬという決意をいたしておるのであります。しかしドル防衛があったからといって、むちゃくちゃに進める、急がねばならぬという
考え方が強化されたわけではございません。だから、第一の自由化という問題につきましては、これはわれわれには
相当のことでございますが、全体としてあまり大きい問題ではございません。第二の、
経済援助あるいは軍事援助につきまして、アメリカが、とにかく西ヨーロッパが持てる国になったのだから、低開発国への開発の肩がわりをしてくれなければならない、私は当然なことだと思います。また西ドイツは持ちすぎるほど持っていると申しますか、イタリーなんかも
相当持っているのだから、これはやはりお互いにドルを防衛する
立場から
考えていくべきじゃないか。われわれといたしましても、単にドルを蓄積するのが本願じゃないのでございますから、東南アジア開発、その他低開発国には今までよりも一そうの決意を新たにして出ていくべきだと私は
考えております。また軍事援助につきましても、たとえば西欧諸国につきましては、アメリカは軍事援助を少し減らすか、肩がわりというふうなことも言っておるようでございます。これはなかなかむずかしいと思うのです。これはアメリカ自体の問題、相手のあることでございますから、この点は今後各国がどう出るか、低開発国に対する開発、これは大いに肩がわりしていくことがわれわれとしての務めじゃないか。
第三の問題の、ICAとかあるいはアメリカ軍の経費を減らす、これはやむを得ざることでございます。しかし、この問題につきまして、日本に一番こたえるのはICAの問題、これは全体の二割以上日本は持っておるわけでございますが、この問題につきましては、たびたび申し上げておるように、一億一、二千万ドル、これがどういうような減り方になるか、これはまだわかりません。全部減るように新聞にも出ておりますし、あるいはいろいろなことがありますが、しかし問題は、せんだって新聞によりますると、値段が高くてもアメリカのものを
経済援助で持っていくのだ、こういうことを言っておりますが、たとえば肥料の問題にいたしましても、これは肥料会社に非常に影響がある。今、肥料が大体外国への輸出は七、八千万ドルと思っておる。そのうちICAによる輸出が二千七、八百万ドルと思います。これだけ減るか減らぬかという問題であります。これは主として朝鮮、台湾、一部ベトナムでございます。朝鮮の方に今度はアメリカが硫安を持っていくか、あるいは尿素を持っていくかということになると、アメリカの肥料の製造能力がこれを肩がわりするだけ製造能力があるか、あったにしても、設備を拡張して日本の肥料のかわりにアメリカが肥料を
生産するかどうかという問題、そしてまた日本ほど朝鮮に安く売れるかという問題、フレートの問題等々がございます。また季節的な関係もあります。今十二月から一月に対して要る肥料が今すぐアメリカに間に合うかというようないろいろな問題がございまして、ICAの一億一千万ドル、二千万ドルにつきましても、なかなか今のところ計算ができませんか、四十億ドルの輸出だから、これは大した問題じゃない、こういう
考え方もありますが、これは
一つ大きな問題としてその
内容と時期を検討しなければいけません。それからICA以外のいわゆる軍需関係で円セールの問題は二億ドルばかりでございます。二億ドルばかりでございまするが、今日本に駐留しておるアメリカ軍人が五万人でございます。家族が五万五千、これがどれだけ減るか、大体一人の消費を千ドルと計算いたしまして、大体その五万五千のうちどれだけ減るかでございますが、私の計算では大体六、七千万ドルくらいの減りようじゃないか、ICAが全部減りましても二億ドル足らずじゃないか、こういう計算をいたしております。
それからアメリカ軍のいわゆる円の預け勘定、この分がどれだけ減るかということでございますが、これは私はあまり大して減らぬのじゃないか、軍人あるいは軍の設備がある以上はそう減ることはない。私の計算では大体何ぼいっても二、三年後に二億ドルくらいじゃないかという
考え方を持っております。
そういたしますると、過去の例で申しますると、一番特需の多かったのは
昭和二十六年と二十七年、このころは八億ドルくらい特需があった。そして日本の輸出は十一億ドル、十一億ドルに対して特需が八億ドルあった。今は四十億の輸出に対して特需全体が四億七、八千万ドル、それが二億ドル減る、まあ五%足らずということになると、前の朝鮮事変前後のピークからだんだん下がっていったときの様子から見ると、十一億ドルの輸出能力のときに八億ドルあった。四十億ドルのときにこれが二億ドルくらいになる。こういうことを
考えてみると
——それは心配する人もありましょう。われわれも心配いたしまするが、この
程度というものはおわかりいただけると思うのであります。それから一ぺんに二億ドル減るわけじゃございません。たとえば昨年中アメリカに対しての輸出は、御
承知の
通り一昨年に対しまして三億数千万ドル
——四億ドルふえておる、アメリカに対する輸出だけでも。本年はあまりふえておりませんが、今年に入りましてヨーロッパに対する輸出は四、五割ふえておる。こういうことを
考えてみるならば、二、三年後に二億ドル減るとした場合において、われわれはこれは踏み越え得ない難関かどうかということを
考えますと、私が本
会議で言っておるように、二億ドル
程度のものは大体踏み越え得るのじゃないか、日本の貿易の伸長から申しましても、世界貿易の毎年のふえ率は四%ないし五%、しかし昨年の日本の輸出入のふえ率というものは二〇%をこえております。世界の貿易におきまして日本の輸出の伸び方というものは各国の四倍ある。大体倍ぐらいのものは続け得るのじゃないか、すなわち前年に対して一割ぐらいの輸出の増は今までの
実績からいって期待し得る。そうすると、四億ドルふえるということになれば、来年は二億みな減るわけじゃないのでございます。これは私は自分に問い自分に答えるという中山先生のあの論文も読みましたが、大体問い、答え得ると
考えます。日本の国際収支の問題は、正確に申しますと通常取引において一億数千万ドルの黒字でございますが、日本に対する信用は非常に高まってきて、御
承知の
通りユーロー・マネーも今二億ドルをこえている。こういうふうな状態でありまして、日本の外貨
事情というものは世界の一流とは申しませんが、中以上になっております。たとえば四十二、三億の輸入に対しまして十七億六千万ドル、あるいは今年末にはユーザンスの期間を延ばしましたから、大蔵省あるいは通産省、企画庁の方では、今年度は二十億になるだろうと見ております。そうしますと四十億余りの輸入に対して二十億の外貨を持っているという国は、イギリスは輸入額に対して二五%、フランスより上でございますが、ドイツ、イタリア、日本くらいじゃありますまいか。こういうふうな状況を
考えてみますと、繰り返して申しますが、私は自分に問い、自分で答え得る。だからこの問題について、ICAは日本に非常に重要でございますが、各国におきまして日本ぐらい大へんだ、大へんだと言う国はあまりないと私は思います。
やり方につきましても、あるいはアメリカの
やり方が少しきつ過ぎるとかいう議論がございますが、アメリカの身になってみると、上手下手は別問題といたしまして、当然のとるべき処置であります。そしてドルを
中心として立っておる国々は、このドル防衛に対して協力すべきであり、また日本も協力するだけの力があるかというと、協力するだけの力がある。そして日本はこういうことを
考えながら輸出の振興をやり、世界の信用を高め、そして円に対する東南アジア諸国の信用を高め、ドル、ポンド、円というふうなことでやっていくことがわれわれの進むべき道じゃないか。こういう
機会は
一つのいい試練としてこれをうまく乗り切っていこうというのが私の
考え方なのであります。時間の関係で十分申し上げられませんが、具体的にお聞き下さればまたお答えいたします。