○
国務大臣(迫水久常君) 池田
内閣の
政策の大綱につきましては、すでに池田総理大臣がお述べになりました。私はこれに関連して、
わが国の
経済に関する若干の
政府の考え方を申し上げまして、
国民各位の御
理解と御
協力を得たいと存じます。
わが国経済が、ここ数年来、まことに目ざましい
成長を遂げて参りまして、昨
昭和三十四年度の
成長率は一七%にも達し、引き続いて本年においても
成長率一〇%をこえる見込みであるほど順調に
経済が
成長しつつありますことは、すでに御
承知の通りでございます。これは、生産が順調に伸びている一面、これに対応する需要の面においても、
産業の
合理化、
近代化のための
設備投資が活発に行なわれましたこと、
輸出が大いに
伸張しましたこと、個人消費支出も個人可処分
所得の上昇によって著しく
増加いたしましたことによって、生産と需要とが
均衡し得たことによるものでございます。その結果、卸売
物価は安定し、外貨
準備高も今や十六億ドルをこえることになりまして、
わが国経済は著しく安定し、
充実して参ったのであります。
このような落ちついた
経済の
拡大基調は、今後も引き続き
維持し得るものと考えられますので、この
経済拡大を安定的に
確保いたしますため、
政府におきましては、
国民所得倍増計画と名をつけまして、
国民総生産を実質額において倍増するについてとるべきもろもろの方策を策定しつつあるのであります。この計画は、現在、
経済審議会におきまして、今後およそ十年間に
国民総生産を倍増することを目標といたしまして作成中でありまして、近く答申がある予定になっております。倍増をかりに十年間で達成するといたしますれば、
年平均の
成長率は七・二%となるのでありますが、最近の
経済の推移から見ましてここ当分は
相当高い
成長を期待し得るものと思われるのであります。従って、
政府は、少なくとも
昭和三十六年度以降三カ年間においては、平均年九%の
経済成長は可能であると考えまして、これを
政策実施上の目標とすることにいたしたのであります。
従来の
経済運営の態度を反省してみますと、
わが国経済の体質が弱く、底が浅いという面が強調されたあまり、とかく
経済の
成長を控え目に見て参りました。そのため、勢い
財源の見積り等も控え目になりまして、
政府の
施策もおのずから制約を受けざるを得なかったのであります。これがため、
政府の諸
施策が、結果から見まして
国民経済の現実の
動きに必ずしも即応しない面も見受けられたのであります。よって、
政府におきましては、民間部門の
経済の
動きと
政府の
施策とが歩調の合ったものにするために、実勢と認められる目標を設定することにしたのであります。従って、この九%の
成長率を目標として設定しました意味は、池田総理大臣も申されました通り、
わが国経済を引っぱって、無理にでもこの程度の
成長を遂げしめようという
趣旨ではなくて、この程度の
成長率を見込むことが、
政府の
施策と
経済の
動きとの間に大きな食い違いを生ぜしめないために必要であるということにあるのであります。
世上、この九%の
成長率を見込むことが無理ではないかという議論を往々にして聞くのでありますが、これに対しましては、まず、過去五カ年間の
成長率が平均九%以上に達している事実に着目をするとともに、以上述にべるような
わが国経済の根強い
成長要因を十分考えてみる必要があると思います。なお、日本
社会党及び民主
社会党におかれましても、目標を達するための手段は異なるようでありますけれども、ほぼ同程度の
成長を見込んでおられるのでありまして、まことに意を強うするものであります。(
拍手)
わが国経済の今後の
成長要因を考えるにあたって、まず
世界経済の
動向を考えてみますと、
米国における景気の見通しなどから、世間では、その先行きを心配する見方もあります。しかし
米国については、工業生産は停滞しておりますが、これは主として在庫調整に触るものでありまして、最終需要は、個人消費も
政府支出も減少することなく、また、
財政・金融面からも、てこ入れがなされておりますので、私は、
米国景気の先行きについては悲観的な見方をする必要はないと考えておるのであります。また、西ヨーロツパ
諸国の
経済も、全般的には先行きが悪くなると判断すべき要素は特に認められません。このような実情から、私は、
世界経済の先行きについて心配する必要はないと思いますが、たといそのような徴候が現われましても、最近では、各国とも
政府、民間を通じて景気の変動を回避し得る体制が漸次整えられつつありますので、
世界経済の
動向については、総じてこれを不安視する必要はないものと考えております。
一方、
わが国の
経済は、ここ数年の
成長によりまして、その体質は大いに
改善せられ、底は深くなって参りました。これは、
国民の勤勉と新しい
技術を消化するすぐれた
能力がその
基本になっておるわけでありますが、
企業設備の
近代化、
合理化がまことに驚異的な速度で進行いたしたことによるのであります。このため、いわゆる生産性の
向上は目ざましいものがあるのでありまして、
貿易の
自由化にも耐え得るよう、国際競争力は逐次強化せられつつあります。この傾向はまず大
企業に始まったのでありますが、今後、
政府の
施策と相待って、
中小企業の
分野にも浸透いたし、
経済の各部門に行きわたることは間違いありません。
このように、
わが国経済の力は、今後の
発展に対応し得るよう、生産の面においては質的にも量的にも著しく
拡大されつつあるのでありまして、むしろ問題は、これに対応する需要の側にあるのであります。需要の項目は、申すまでもなく、
公共投資を中心とする
財政支出、民間
設備投資、個人消費、
輸出などでありますが、その各項目について検討してみたいと思います。
まず
公共投資でありますが、
公共投資は、率直に申しまして従来おくれがちでありました。このことは識者の認めるところであり、また、われわれも身近にこれを感じているのでありますが、今後は、
公共投資は
経済の
成長におくれないよう、むしろこれに先行するような心がまえで
拡充するようにいたしたいと思うのであります。なお、
公共投資は最も必要な部門から重点的に実施し、効率的な運用をはかる必要のあることはもちろんでありますが、その目的は、すべての
産業活動の
基礎となるべき
産業基盤の
整備とあわせて、
国民生活向上のための
生活環境の
改善にあるのであります。従って、
公共投資が大
企業など一部の
産業に特に有利になるのではないか見る見解は、全く当を得ておりません。
次に民間
設備投資については、最近における急速な伸び率が、今後においてもそのままの勢いで継続するとは当然考えられませんが、日進月歩する
技術の進歩に伴って、今後ともその額は
相当な額に達するものと思われます。
設備投資は、現在においてもすでに過剰あるいは重複の
状態にあって、その傾向は今後一そう増大するのではないかと心配する向きもありますが、私は、
わが国の
企業家並びに金融当局者は、きわめて高い
良識を持っていると信じますがゆえに、シカを追う者山を見ずといった愚かなことは、決してしないことを信ずるのであります。
国民所得倍増計画は、この場合の道しるべとしての役目も果たすことと思いますし、
国民所得倍増計画策定の意義はこの点にもあるのでございます。
今後需要の側において最も重視しなければならないものは、総需要の半ば以上を占める個人消費であります。
経済の
成長に伴いまして
雇用は着実に増大し、それによって個人消費が増大することは当然でありますが、同時に、
所得倍増の過程におきまして、
経済の
成長に照応して、賃金、給料等の
労働の対価が次第に上昇していくことが予想せられるのであります。このことは、
政府としても好ましいことと考えております。しかして今後さらに行なわれるであろうと考えられる
減税並びに計画的に
拡大せらるべき
社会保障も、この個人消費の
増加のためにきわめて大きな
役割をすることと思います。このような個人消費の着実な伸びは、とりもなおさず
国民生活内容が質も量も
充実向上することを意味するものでありまして、わが池田
内閣が目標としている
福祉国家完成の
基本的方針にも沿うものであります。
次に
輸出の
伸張であります。今後の
経済の
拡大に伴って、原材料、燃料及び
国民生活の
向上のための消費物資の輸入が
増加することは当然予想されるところであります。従って、これに見合うように
輸出をふやしていくことは必要欠くべからざることでありますが、このことは、同時に
経済成長のための需要の要因として重要なのであります。
輸出増進の
基本は、もちろん
わが国産業の国際競争力の強化にあるのでありますから、各
企業が、
さきに述べた
労働対価の上昇を生産性の
向上によって吸収するよう
努力することが絶対必要でありますが、
輸出品を、付加価値の小さいものから、より大きいものに転換するよう努めることも肝要であります。
政府においても、
経済外交の
推進、低
開発国に対する
経済協力、金融の円滑化、
企業の体質
改善等のための租税
政策など、各般の適切な
措置を講じまして
世界の各
地域に対して
輸出の
増進をはかりたいと思います。
貿易の
自由化も、この意味からぜひ
促進しなければならないと考えます。このように、
政府と民間が一体となって
努力するならば、
世界経済の
動向の変化に対処しながら、今後引き続き必要な
輸出を
確保することができると信じます。
以上述べましたところによって明らかなごとく、将来需要と
供給とは十分に
均衡を保ち、
わが国経済は円滑に
成長していくものと考えるのであります。これがためには、もちろん
政府の
施策のよろしきを得ることが肝要でありますが、以下、今後における
経済運営の
基本的問題について若干申し上げたいと存じます。
第一は、
産業構造の
高度化の
推進であります。高度の
経済成長を達成するためには、個々の
企業の生産性を上げると同時に、
産業構造の比重を生産性の低い部門から高い部門に移す必要があります。すなわち、第二次
産業及び第三次
産業を中心として
経済の
発展を考えなければならないのであります。中でも重工業及び化学工業を重点とし、ことに、
雇用吸収力が高く、付加価値も大きく、将来
輸出産業として最も期待される機械工業を重視すべきであると考えております。もちろんこれは、第一次
産業を軽視する意味では決してないのでありまして、たとえば
農業についても、その
所得の
向上をはかるため、
農業経営の
近代化を積極的に
推進する必要があるのでありまして、この点については、すでに池田総理大臣からお話があったのであります。
第二は、全国総合
開発の
推進であります。
わが国において
産業の発達が
地域によって著しく異なっており、一部の地帯ではすでに工業が飽和
状態に達しておりながら、他面、低
開発地域も存在することは御
承知の通りであります。従って資源、土地、人口、
産業関連施設など、
産業の
基礎条件を考えながら
産業の分散をはからなければ、今後の
産業の円滑なる
発展はとうてい期せられないと思うのであります。よって総合的な観点から全国
開発計画の樹立に努め、低
開発地域の
開発を
促進せんとするものであります。
第三は、
所得格差の是正であります。
所得格差は、
地域間、
産業間及び階層間に見られるのでありますが、
地域間の
所得格差については、ただいま述べました全国総合
開発の
促進によってこれを縮小しようと思います。
産業間の
所得格差のおもな問題は、第一次
産業と他の
産業との間並びに大
企業と
中小企業との間の問題であります。前者についてはすでに述べましたが、
中小企業に対しては、
特段にきめこまかく意を用いる方針であります。すなわち、
中小企業の
協調体制を整え、金融
政策並びに
財政及び租税上の
措置をおもなる手段としてその
近代化、
合理化を
促進し、生産性を
向上し、もって中堅
産業として
わが国経済の
成長の重要な部分を担当せしめんとするものであります。なお、
労働条件の
改善、
社会保障の計画的
拡充が、階層間の
所得格差の是正に重大なる
役割をするものであることをここに申し上げておきたいと思います。
第四は、
科学技術の
振興と人的
能力の
向上であります。
わが国産業の生産性
向上も、また国際競争力の強化も、結局においては、
科学技術の
振興と人的
能力の
向上が最大の要件であることは申すまでもありません。西ドイツにおいては、
労働力の不足のために
経済の
成長が鈍化してきたといわれておりますが、
わが国においても、長い間には
労働人口の
増加が鈍化いたし、その不足が予想せられるとともに、今後における
産業高度化の進展を考えますときは、人の質の
向上は真剣に考えていかなければなりません。従って
技術系統の学校や
研究施設の
拡充、
技能者養成のための画期的な
施策を講ぜんとするものであります。
第五は、
消費者の
立場に立った
行政の
推進と
物価の安定であります。戦後、
わが国経済は、長らく需要が
供給を上回る
状態にありましたので、
経済政策は、
供給力を増大することを重点として
運営されてきたのでありますが、前に述べました通り、今後は需要の面を重視しなければならないのであります。ことに、その場合、個人消費が重要な項目となるのでありますが、
経済成長を円滑に達成し、同時に
国民生活の内容
充実をはかるためには、
消費者の
立場に立った
行政を
推進することの必要性を痛感いたすものでございます。今後の
経済は、申さば買手市場でありますから、おのずから
消費者の
立場は有利になるわけではありますが、
消費者の利益の擁護等について一そうの
施策を講じなければならないと思います。
この場合、最も重要な問題は
物価であります。現在、
経済の
高度成長を
推進する場合には、
物価が上昇するのではないかという心配をされている向きもありますから、少しくこの点について申し述べたいと思います。
インフレ的な
物価の上昇は、申すまでもなく、需要が
供給を超過する場合に起こるのでありますが、現在の
わが国経済の実勢から見まして、局部的または一時的の場合を除いて、総体的には、需要が
供給を超過する危険はまず全くないと申してよいと思います。従って、
インフレ的な
物価の上昇は起こり得ないのであります。問題は、局部的または一時的の需給
関係の変化に基づく
物価の上昇並びに
労働対価の上昇を生産性の
向上によって補い切れない部門における
物価の上昇であります。最近世上関心の的である
消費者物価の上昇は、主としてこの種のものでありまして、局部的または一時的要因によるものにつきましては、
わが国は
相当額の外貨を保有しておりますから、機動的な輸入などによって需要
供給の
関係の調整をはかることが可能でありまして、現にそのような
措置によって大部分
解決の方向に向かいつつあるのでございます。また、業者間申し合わせ等によって独占価格的なものが形成されるおそれのあるものにつきましては、独占禁止法などによって厳重に監督いたしておりますし、また、
政府が直接関与し得る公共料金については、この際努めて値上がりを抑制する方針であります。なお私は、
消費者物価について将来最も重要視すべきは、居住費の
関係であると考えますから、この点については十分対策を講ずるようにしたいと思っております。
概括的に申しますれば、
消費者物価は今後若干ずつ上昇する傾向を持つものと思われます。それは、価格構成の内容において
労働対価の占める部分が多いものもありますし、また、物資
自身の質が高級化したため価格の上昇するものもあるからであります。なお、
生活内容の
向上に伴って、より高級なものを消費するために家計費が
増加したのを、それを
消費者としては
物価の上昇だと勘違いしている場合もあるように思います。
政府としては、今後
消費者の
立場に立って、
消費者物価の
動向については、こまかい関心を持って、十分に総合的に対策を講ずる
所存であります。総体的に見て、個人の収入の
増加は、はるかにより高い割合をもって進行いたしますから、今後
国民生活は、実質的に着々
充実向上していくものと申して決して過言ではないのであります。
政府は、以上述べましたところに基づき、今後慎重に
経済運営の方策を進めたいと考えております。しかし、
経済は生きものでありますので、
経済成長の過程において、時々の変動は当然ございましょう。従って、常時
経済の
動きを見つめながら、景気の変動をできるだけ回避する
措置を講じつつ、民間部門の創造
能力と
活動力が十分発揮されるよう適切な誘導を行ないまして、
経済成長の目的を達成したいと思います。私は、将来の
国民生活の内容が、衣食住についても、また
文化生活についても、いかに
充実し、
高度化するかということを考えますとき、輝かしい希望の湧くのを禁じ得ません。
国民各位におかれても、希望と自信を持って邁進せられんことを切望してやまない次第でございます。(
拍手)