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国務大臣(
小坂善太郎君) 第三十六回
臨時国会の開会に際しまして、
外交方針に関する
政府の
所信を明らかにいたします。
私は、今回コンゴー問題に関する
国連緊急特別総会及び第十五回
国連通常総会に出席いたしまして、
わが国の
国連外交に関する
基本方針について
所信を明らかにいたしまするとともに、多くの国々の代表とも
会談いたし、短時日ではありまするが、
国連の実際の動きを体験いたしました。
この体験から得ました私の結論は、
アフリカの多数の新
独立国の加盟を契機といたしまして、
国連が今や重要なる時期に際会しているということであります。そもそも、これら新
加盟国を含みまして、
発展途上にありまする
諸国の真の願望は、
東西両陣営の
対立関係にわずらわされることなく、自由と平和のうちにその
独立の実をあげ、もって
国民生活の
繁栄と幸福を期することにあると信ずるものでありまするが、これらの
諸国は、このような
民族的願望の達成にあたって、
国連の役割に期待するところきわめて大であると考えるのであります。従いまして、すべての
国連加盟国は、
国連が
世界の
平和維持の機構としてますますその権威を高め、かつ、その機能を強化して、
国連本来の使命を達成し得るよう着実かつ建設的な支持と協力を与えなければならないのであります。私は、今次
国連総会におきまして、
わが国がこのような考えで
国連の事業に参加するものであることを明らかにいたしまして、その立場から、
アフリカ問題、
国際緊張緩和の問題、軍縮問題、特に核実験中止問題及び
大気圏外の
平和利用等についての
所信を述べたのであります。特に、
緊張緩和につきましては、今次総会が非難と宣伝の場に堕することなく、建設的な討議の場として役立ち、それによって
東西交渉のために友好的な雰囲気を醸成すべきことを強調いたしたのであります。
しかるに、今次
国連総会におきましては、
東西巨頭会談の流会後、再び激化いたしました
東西対立の
情勢を反映いたしまして、新
加盟国をめぐって、自己の勢力の拡張をはかるために、本来
国連が国際的な協調の場であるにもかかわりませず、扇動と非難の舞台と化するがごとき、
国連憲章の精神に沿わざる言動の見られましたことは、まことに遺憾とするところであります。
過去におきましても、
国連は幾多の試練に際会いたしましたが、そのつど
世界の公正な世論の支持のもとにこの試練に耐え抜いて、着実な
発展を続けて参ったのであります。私は、今次
国連総会における表面的な動きにもかかわりませず、結局は健全なる良識が矯激な言動を押え、
国連が
平和維持機構として、より有効な、より大きな役割を果たし得るようになることを期待いたしておるものでございます。
わが国といたしましては、このため、
国連の
政治、
経済、
社会の各分野におきまする具体的な活動に対しまして、人と資金を通じ、応分な、かつ、実質的な寄与を行なって参る
所存でございます。これはまた、すべての
国連加盟国が平和のために当然負うべき義務であると信ずるのであります。
私は、
国連総会出席の
機会に、ワシントン及びオタワを訪れまして、アメリカ及びカナダの両国の首脳と親しく
会談をいたしました。これらの
会談におきましては、
世界の
情勢その他共通の
関心事項について忌憚のない意見の交換を行ない、今後の
外交施策上まことに有益であったのであります。特に、ハーター国務長官との
会談におきましては、わが
政府の今後に処する
所信と
決意とを披瀝いたしまして
わが国に対する理解の増進と信用の回復に貢献し得たと考えております。
政府といたしましては、今後、
安全保障の分野においてのみならず、その基礎をなす
政治、
経済、文化、科学等、あらゆる分野におきまして、
日米両国の協力
関係をますます緊密ならしめて参る
所存であります。
さらに、主要西欧
諸国との
関係におきましても、
政治的信条を同じうする自由主義陣営の一員といたしまして、
わが国とこれら
諸国との友好協力
関係の促進をはかるべきことは言うまでもありません。特に、近年西欧
諸国が相互の緊密な協力のもとに、
世界政治上きわめて重要な役割を果たしておりますことは、皆様御承知の通りでありますが、
わが国といたしましては、これら
諸国との提携をますます強化いたしまして、
政治、
経済、文化の面におきまして緊密な協力を進め、相ともに
世界の平和と
繁栄のために
努力して参りたい
所存であります。しかして、その意味におきましても、かねてからの懸案でありましたイギリスの
わが国に対する戦前請求権の問題が今般無事円満なる解決を見るに至りましたことは、今後の日英
友好関係の促進上きわめて意義の深いものであると存ずるのであります。
戦後、
わが国は、わが憲法の理念にのっとりまして、
政治信条を同じうする
自由国家群と緊密に協力しつつ、
わが国の平和と安全を確保し、
経済の飛躍的
発展と一般
国民の福祉の
向上に大きな成果をおさめて参ったのであります。このような成果は、自由
世界の一員といたしましての
わが国の基本的な立場に負うところがきわめて大きいのであります。最近、
わが国の一部におきましては、
東西冷戦から逃避し、両陣営のいずれにもくみしないという、いわゆる中立
政策論や、
わが国を非武装化して永久中立の立場をとるべし等の論が行なわれているのであります。このような議論も、同じく平和を希求する気持から出ているものが多いとは思われるのでありまするが、遺憾ながら、これらの主張は、
東西両陣営の
対立関係を如実に反映し、
政治的にも軍事的にもまことに不安定な極東に位する
わが国の国際環境からいたしまして、
わが国には中立
維持の基礎条件が存しないという客観的事実に対する認識を欠くものと存ずるのであります。また同時に、
わが国の平和と安全と
繁栄を可能ならしめている基盤をくつがえすおそれがあるものと存ずるのであります。特に、狭い国土に九千万人の人口を擁しつつ、高度の、
経済的な、また文化的な水準を
維持し、さらに、これを
向上せしめていかなければならない
わが国にとりましては、自由
世界との緊密な協力こそが絶対に必要なのであります。最近
わが国に対しまして、国外からも中立
政策をとるよう執拗な圧迫が加えられておりまするが、これらの動きが最も警戒すべきものであることは、過去におきまして、中立条約が方的に破棄されたにがい経験や、あるいは共産主義陣営内におきまして
中立主義が全く認められていないという事実からしても明白なことであると思うのであります。(
拍手)
しかしながら、このような自由主義国家としての
わが国の基本的な立場は、
わが国と
政治的な理念や
社会的な体制を異にする
諸国との
友好関係を
維持し、その増進をはかることと、決して矛盾するものではありません。
政府といたしましては、
わが国の基本的な立場はあくまでもこれを堅持しつつ、
平和外交の本旨にのっとりまして、相互の立場を尊重し、しかも、相互に
内政不干渉であるという原則のもとに、今後ともこれらの
諸国との間の
友好関係の
維持増進に努める方針であります。特に
中国大陸との
関係につきましては、まず
貿易その他の交流を通じまして逐次両者の
関係が改善されますることは、もとより歓迎するところであります。
わが国がアジアの一国といたしまして、アジア
諸国との友好善隣
関係に特に留意いたさねばならないことは申すまでもありません。
わが国といたしましては、これらの友邦との協力
関係をさらに進め、その信頼をかち得るとともに、民族の
繁栄と福祉を求めんとするアジア
諸国の正当なる声は、これを広く
国際社会に反映せしむるように
努力いたしたい
所存であります。
韓国に新
政府が成立いたしましたる
機会に、私は去る九月六日、韓国を訪問いたしまして、新
政府樹立に対する日本
国民の慶祝の気持を伝えまするとともに、新
政府の指導者と親しく意見の交換をいたしました。また、久しく中絶しておりました
日韓全面会談の
予備会談を今月末から開くことにつきましても意見の一致をみ、このようにして長い間閉ざされておった日韓友好のとびらが漸次開かれて参りまする機運になって参りましたことは、御同慶の至りであります。日韓両国の懸案解決への道は必ずしもたんたんたるものではないと思いまするが、今回こそは双方が親善と互譲の精神をもって交渉に当たり、すみやかに円満解決に達し得るように強く希望をいたしている次第であります。また、
政治問題の解決と並んで、両国の
経済交流を促進いたしますることは、両国
国民双方にとりまして多くの利益をもたらすものでありまするから、
政府といたしましてはこの方面にもできるだけ
努力したい
所存であります。
近年、
アフリカ諸国が相次いで
独立を達成いたしましたが、これら
諸国の動向が
世界平和の将来に影響するところはきわめて大であります。これらの
新興諸国が今後
国際社会の責任のある一員として
世界の平和と
繁栄に貢献するためには、
政治的、
経済的、
社会的にその基盤をすみやかに確立することが必要であります。
わが国といたしましては、
わが国が近代国家として
成長し来たった経験と知識を活用いたしまして、これら
諸国に対しましてあとう限りの協力をなすべきものと考えているのであります。
中南米
諸国との
関係につきましては、これらの
諸国には現在わが同胞及び日系人約五十万人余が在住いたしておりまして、
産業の各分野におきまして活発に活動いたし、これら
諸国の
経済発展に大きな寄与をされておりますることは、すでに御承知の通りであります。
政府といたしましては、単に農業
関係の労働力を送り出すということではなくして、
技術及び
経済企業協力と一体となった移住
政策を推進いたしまして、これら
諸国との
政治的
経済的
関係の緊密化に資したいと考えておるのであります。
次に
経済外交の問題につきまして一言申し上げます。
わが国の輸出が昨年三十四億六千万ドルに達しまして、前の年に比べまして二割増加し、本年に入りましても上半期の実績は十八億五千万ドルに達しまして、前の年の同じ期に比べまして、やはり二割方増加しており、下半期も同様に順調に推移するものと見込まれておりまして、
国民生活の前途はまことに明るいのであります。ただここで
わが国の
貿易の相手方について検討してみる必要がございます。昨年におきましても、輸出入ともその約三分の一はアメリカ及びカナダとの間のものでありまして、しかも昨年
わが国の輸出が一昨年に比して二割方増加いたしましたのも、この両国に対する輸出の伸びに負うところが非常に大きかったのであります。しかしながら、このアメリカ及びカナダの市場に集中して輸出を伸ばしますることは、
相手国におきましても輸入制限運動その他望ましくない動きを激化するおそれがあるのでありまするから、今後はこの両国に対しましては特に
秩序ある輸出に心がけねばならぬと存じます。
他方、ヨーロッパの最近の
経済発展はまことに目ざましいものがありまして、これに伴いまして、
わが国のヨーロッパに対する輸出も、本年上半期におきまして前年に比べまして五・〇%方増加をいたしておりまして、この市場は
わが国にとって今後ますます有望になるのではないかと存ぜられるのであります。ただヨーロッパにおきましては、最近共同市場や自由
貿易連合といった形で
経済統合が非常に進んでおりまするが、
わが国といたしましては、これらの
経済統合を形成する
諸国が域外の第三国に対してもできるだけ自由な
貿易政策をとることを強く希望いたしたいのであります。またヨーロッパ
諸国と
わが国との通商
関係は現在必ずしも正常なものとは言いがたいのでありまして、これらの
諸国は種々の理由をあげて、
わが国からの輸入に対しまして差別的な制限を加えておる実情であります。いわゆるガット三十五条援用の問題も、これらのヨーロッパ
諸国の日本に対する差別待遇の一つの現われであります。
このような
情勢にかんがみまして、
政府といたしましては、今後このヨーロッパ
諸国の
経済統合の動きを十分注視するとともに、現実の通商
関係の改善のために大いに
努力して参りたいと思うのであります。すでに今年七月署名をみましたイギリスとの
貿易取りきめにおきましても、
わが国に対する差別待遇をできる限り撤廃するように
努力いたしたのでありまするが、さらにこれと並行いたしまして、数年来の懸案でありまする日英通商航海条約の締結につきまして目下鋭意
努力を進めておるのであります。また最近ベネルックス三国、すなわちベルギー、オランダ、ルクセンブルグとの間に通商協定を締結いたしましたる結果、欧州共同市場を形成しておりますいわゆるインナー・シックスのうち、これらの三国との通商
関係も大いに改善されることが期待されるのであります。さらにこれを契機といたしまして、フランスあるいはイタリアとの間の通商
関係についても改善をはかりたいと目下鋭意折衝中であります。また、オーストラリアとの通商協定も、過去三カ年の実績はきわめて満足すべきものがあったのでありますが、さらにこれを改定して、でき得れば同国がガット三十五条援用撤回をいたしまするよう、その方向で目下同国
政府と交渉中でございます。
ここで特に申し上げたいのは、
わが国がアメリカ、カナダ、オーストラリアやヨーロッパ
諸国といった
先進国との
貿易の拡大をはかりますためには、
わが国の側においても
自由化を大いに促進する必要があるということであります。さらに、
自由化は
わが国経済の国際的競争力を強め、また
消費者たる
国民大衆の利益にもなることを指摘いたしたいのであります。
次に、
わが国の
貿易の相手方といたしまして、開発途上にある
諸国の占める比重は非常に大きいのでありまして、昨年の実績を見ますると、アジア、
アフリカ、中近東及び中南米向けの輸出は
わが国の総輸出の半ばを占めておりまして、これらの
諸国との
経済関係の増進は一日もゆるがせにすることはできないのであります。このためにはまず
わが国との通商
関係を安定した基礎の上に置くことが何よりも必要でありまして、
政府といたしましては、これらの国との通商航海条約の締結に大いに
努力して参りたい
所存であります。すでに本年八月マラヤとの間に通商航海条約とほぼ同様の内容を持つ通商協定が発効いたしまして、これに伴って同国は
わが国に対するガット三十五条の援用を撤回いたしたのであります。また、現に
政府はフィリピンとの間に通商航海条約の締結を交渉中であり、さらに近くインドネシアとの間にも通商航海条約締結交渉を開始することに双方の合意をみております。
しかしながら、これら
諸国との
経済関係の緊密化をはかりますためには、単に通商
関係の改善のみでは足らないのでありまして、どうしてもこれらの国に対して
経済的、
技術的な援助を行なう必要があるのであります。
わが国といたしましては、すでに
世界銀行の増資に応じ、さらに国際開発協会いわゆる第二世銀に対しましても近く加入の上、出資を行なう予定でありまする等、
国際機関を通ずる
経済技術援助につきましてはできる限り協力して参ったのでありますが、さらに二国間の
経済技術援助につきましても、総額十億ドルに上る賠償を誠実に実施して
相手国の
経済開発に協力しており、またコロンボ・プラン等を通ずる
技術協力をも行なっております。ただ最近の傾向といたしましては、
わが国も加入しております開発援助グループいわゆるDAGやインド及びパキスタン債権
国会議におきまする討議等からもうかがえますように、
わが国が機械輸出等のために行なっております短期及び中期の輸出信用だけでは、
国際収支の慢性的な赤字に悩んでおりますこれらの
諸国の
経済発展にとりましては十分でないのでありまして今後は、開発途上にある
諸国、特に東南アジアの
諸国に対する
経済協力を推進する見地に立ちまして輸銀資金の積極的な活用や、前
国会から御審議を願っております海外
経済協力基金の利用等の方法によりまして、できるだけ長期の資金援助をこれらの
諸国にも与えるよう
努力する必要があると信ずるものであります。また、最近
世界の各方面におきまして、
技術援助が
経済援助の効果的利用に寄与するところきわめて大であるという認識が高まっております。
わが国といたしましては、この
技術援助の面におきましても今後さらに積極的に貢献して参りたいと思うのであります。この点に関連いたしまして、
わが国は、かねてから
国連が行なっております開発及び
技術援助のための特別基金に対しまして、来年度におきましては画期的に拠出金を増額する
所存であります。また、コロンボ・プランの総会が今月末から東京において開催されることはまことに意義深いところでありまして、この
機会に、
国民各位が
経済技術援助につきましてさらにその関心を深められんことを切に希望する次第であります。なお、従来
わが国は、開発途上にある
諸国に対し、農業
技術援助及び医療援助につきましても協力して参りましたが、これについてもさらに協力を進めたいと思う次第であります。
以上、当面の
外交に関しまして
政府の
所信を述べたのでありまするが、このような
わが国外交の基調にありまするものは、自由と平和のうちに
国民生活の
繁栄を確保するとともに、
世界の平和と人類の福祉に貢献せんとする日本
国民の誠実な念願であるのであります。大戦の惨禍を深刻に反省し、原爆を体験した唯一の
国民といたしまして、日本
国民の平和に対する熱意は
世界のいずれの
国民にも劣るものではありません。私は、この日本
国民の平和に対する念願を常に念頭に置きまして、複雑な
国際情勢に対し、誠実にしかも弾力性のある態度をもって対処して参りたいと思うのであります。平和は単なる美名にとどまってはならないのであります。真に日本
国民の平和と安全を確保し、一そうの
繁栄をはかるためには、現実を無視した空虚な宣伝に惑わされることなく、常に冷厳なる
国際情勢の現実に即しまして、地道に、しかも自主的に、平和と
繁栄を確保する道を探求していくべきであると考えるのであります。(
拍手)
私は、わが
外交の運用にあたりまして、以上のごとき心がまえをもって対処して参りたいと思いまするが、およそ一国の
外交が自主的かつ強力に展開されまするためには、
国民各位の十分な御理解と積極的な支持が不可欠の要件と思うのであります。
国民から遊離いたしました
外交からは実効ある
外交施策の展開は望むべくもありません。私は、
わが国外交の
運営にあたりまして、現実の正しい認識の上に立った
国民各位の良識を十分に反映して参りたい
所存でございます。切に
国民各位の御支援を仰ぐ次第であります。(
拍手)