○西尾末廣君 私は、民主
社会党を代表して
政府の
施政方針演説に対し、池田総理大臣に
質疑を試みんとするものであります。
これに先だって、過日日比谷公会堂における三党首立合
演説会において
演説中、凶刃に倒れた盟友、
社会党委員長
淺沼稻次郎君のみたまに対し、深甚なる哀悼の意をささげたいと思うのであります。(
拍手)
一切の
暴力に反対して、民主主義と議会
政治を守ることを党是とするわが民社党員は、安保採決以来の
わが国民主主義の危機が今回のテロによって一そう高まったことを深く憂慮しつつ、一そうの
決意を固めて議会制民主主義を守り抜くことを、ここに
淺沼稻次郎君のみたまにお誓い申し上げる次第であります。(
拍手)
さて、私が総理にお伺いいたしたい第一の問題は、議会制民主主義のあわ方についてであります。
わが民主
社会党は、
わが国の民主主義と議会
政治がいまだ未成熟であることを深く憂え、
わが国の最大の
政治課題は議会制民主主義の
確立であるとして、立党以来、このため、終始一貫、
努力を続けてきたのであります。しかるに、去る第三十四通常
国会においては、安保条約問題をめぐって、
わが国政治史上未曽有の混乱を来たし、ために、内には
政治の空白と
社会不安を引き起こし、外には、
わが国の国際
信用を一挙に喪失させたのであります。このことは、議会人全体、もちろん、われわれも含めての責任として深く反省せねばならないと存ずるのであります。(
拍手)
思うに、
民主政治とは、
国民のために
国民とともに
政治することであります。しかるに、自民党は、安保問題に対する
国民の疑惑を解明しようとせず、また、日とともに盛り上がる安保反対の
国民の声に耳を傾けず、院内においては十分なる討論を行なわしめず、警察官に守られながら、一党独裁の単独採決の暴挙をあえてしたのであります。(
拍手)かかる行為は、言うまでもなく、旧憲法時代の権力支配の
政治方式でありまして、断じて
民主政治とはいえないのであります。(
拍手)他方、
社会党は、目的のためには手段を選ばぬとの建前から、言論の府である院内において、あたかもストライキのすわり込みのごとき実力行使をあえてし、また、臨時大会を開いて、
民主政治における最高の地位たる議員の
職責を放棄するところの総辞職を満場一致で決定し、院外大衆行動の先頭に立って、共産党や全学連と提携して政権打倒をはからんとするに至ったのであります。これは、議会
政治を軽視し、大衆行動を重視するものであって、議会制民主主義にはなはだしく背反するものであることは、きわめて明白であります。(
拍手)
わが民社党は、五月十九日のあの大混乱の際にも、これが収拾の方法を清瀬
議長に申し入れたのでありますが、
議長の拒否にあって、ついに混乱の防止ができなかったのは、まことに残念であります。さらに、わが党は、かかる議会
政治の醜態は議会制民主主義の危機であると深刻に考えたがゆえに、今後絶対にこのような単独採決をしないこと、並びに、今後絶対に院内において実力行使をしないことなどを内容とする三党申し合わせによる自粛決議案を提案したのであったが、自民、
社会両党とも、言を左右にして賛成しなかった。このことは、自民、
社会両党とも、今後においても相手方の出方によっては単独採決または実力行使をあえてすることを留保したことになるのではないかと思うのであります。(
拍手)
かくて、
政党も議員も何ら反省するという実を示さなかったのでありまして、民主主義の殿堂であるべき
国会みずからが非民主的行動によってその
権威を失墜するに至ったことは、
暴力横行の風潮を作り出したものといわねばなりません。(
拍手)すなわち、五月十九日の議会混乱以後、左翼の大衆団体による集団的な実力行動と右翼団体の個人的暴行並びにテロが連鎖反応的に行なわれたのであります。今回の淺沼委員長遭難事件は、かかる背景のもとに起こったのであって、決して単独かつ孤立した突発事件ではなく、安保騒動以来、河上丈太郎君、岸前総理と相次いだ遭難と一連の
関係に立つものであります。
以上のことを
前提として、池田総理にお尋ねいたしたい第一点は、まず、今回の事件の直接の背景であるテロ行為をいかに評価し、これにいかに対処せんとするのでありますか。総理は、その
施政方針の中で、一切の
暴力を排除する
決意であると述べておられるが、今回の事件の根の深さについて、はたして十分なる認識をお持ちでありましょうかどうか、疑いなきを得ないのであります。われわれのごとく、戦前から無産運動、
社会運動に挺身し、弾圧やテロのあらしをくぐり抜けて生き延びてきた者からすれば、今回の右翼テロ事件が、あの悪夢のような、戦前の
わが国特有の暗殺風潮の復活であることを、真にはだ身にひしひしと感じ、その凶悪性と戦い、あくまでテロの絶滅を期する
決意であります。(
拍手)
わが民社党は、その綱領が示しますように、個人の尊厳が重んぜられ、人格の自由な
発展ができるような
社会を
建設しようとするものであります。従って、
暴力と独裁には断固反対し、なかんずく、右翼のテロは、
政治以前の問題として、無
条件に排撃するものであります。また、歴史的にも、現代的にも、右翼
暴力団は常に保守党との間につながりのあったことは、周知の事実であります。(
拍手)総理は、自民党の総裁として、保守党の名誉のためにも、また、総理として、アイク訪日阻止事件に次いで起こった第二の
わが国の対外
信用の失墜を回復するためにも、この際、抜本塞源的に右翼テロを根絶する一大英断に出るべきであると思うのでありますが、総理の御
所信を伺いたいと思うのであります。(
拍手)
第二点は、右翼テロに対する徹底的な対策と
所要の治安対策は最小限度の
措置として当然であるが、しかし、この際、それにとどまらず、民主主義と議会
政治に反し、これに挑戦する一切の
暴力は、左翼の集団的な実力行使であろうと、右翼の個人的テロたるとを問わず、これを一切排斥することが特に必要だと思うのであります。(
拍手)
しかして、これがための第一の要件として、まずもって各
政党が
国会の
運営において民主主義に反する行動を再びなさない旨をここに誓うことが絶対に必要だと確信するものであります。(
拍手)その意味で総理にお尋ねいたしたいことは、与党であり、第一党である自民党みずからが
民主政治に徹すること、すなわち、まず隗より始めよとの言葉の通りに、自民党は今後絶対に単独採決などという暴挙はあえてしないことをこの際言明すべきであると思うが、御答弁を願いたいと思うのであります。(
拍手)
第二に
質疑を試みたいのは、
外交問題についてであります。
今日、日本を取り巻く
世界の情勢は、一方に
米ソの深刻な
対立があるとともに、
アフリカ、ラテン・アメリカにおける
独立運動と強烈なる
民族主義の台頭があり、これと相並行して、
世界貿易の
自由化の問題がひしひしと
わが国に迫っておるのであります。かくのごとく、国際
政治において、また、
国際経済において、激しい
対立と競争の中で、
わが国の運命を誤りなく導き、かつ
発展の方向に
推進することは、われわれ
政治家に課せられた、きわめて重大なる使命であります。
わが国は、地理的にも
経済的にも両
陣営の中間にあるから、
米ソの冷戦激化のあおりを受け、大きく左右に動揺するであろうことを、われわれは今より憂慮するものであります。しかるに、自民党は、無気力にも対米追随となり、一方、
社会党は、反米親ソのにせ中立
政策をとっており、かかる情勢は、
わが国論を
東西に二分することとなるのであります。安保条約をめぐる両党の先鋭なる
対立も、実にここに問題の
原因があったのであります。この国論分裂の危機を取り除き、
わが国の平和と
民族の統一を守るためには、
国家の安全と
外交問題については、なし得る限り与・野党の間に見解の接近と一致が望ましいのであります。もちろん、超党派
外交は
政府・与党の創意と責任において行なわれるべき性質のものであります。しかるに、いまだかつてかかることは、長い間の自民党の
政府においてはやらなかったのであります。もっぱら秘密
外交に終始したのであります。
この際、わが党はどういう考え方を持っておるかということを申し上げますならば、われわれは、野党もまた、
国家の統治については責任を持つべきであると信じておるのであります。また、
外交や安全の
基本問題については、いやしくも党利党略の具に供しないとの建前をとっておるのであります。(
拍手)従って、
政府・与党が誠心誠意を持って野党に諮るならば、われわれもまた
建設的な態度でこれを迎え、対処する心がまえをここに表明するものであります。(
拍手)首相は、この問題につきまして
外交懇談会を考えておるようでありまするが、単に
外交懇談会だけではなく、三党間においても何らかの意見の交換をするような工夫をすべきではないかと思うのてありますが、以上の私の所論につきまして、総理のお考えを伺いたいと思うのであります。(
拍手)
外交問題に関する第二の質問は、
国連外交についてであります。
東西両
陣営の
対立激化と、新
独立国家群の新
加盟とによりまして、
国連外交の重要性はいよいよ増大してきたのであります。それゆえに、今次
国連総会には、アイゼンハワー、フルシチョフ並びにマクミラン、ネールなど、その他多くの首相や元首が参加して、
世界平和と自国の利益のために懸命の
努力を尽くしておるのであります。しかるに、
わが国からは小坂外相が冒頭
演説の際にわずかに出席したにとどまりまして、
わが国独自の自主性ある
外交活動をほとんど
展開しなかったのであります。(
拍手)これでは、自民党のうたい文句でありますところの
国連中心
外交の名に反するとともに、池田
内閣の自主性なきアメリカ追随
外交の正体を露呈したものであります。(
拍手)この点に対する総理の弁明を承りたいと思うのであります。
外交問題に関する第三の質問は、新安保条約についてであります。
新安保条約は、岸
内閣の非民主的にして強引なやり方によって、大多数
国民の懐疑と反対の中に、強行的に成立せしめられたものであります。これでは日米間の永続的な友好と
協力に支障を来たすであろうということは、アメリカの一部の識者も認めておるところであります。
政府は、この際、過去の行きがかりにとらわれず、少なくも極東への出撃のための駐留の禁止、第五条共同防衛条約の廃止、事前協議における拒否権や条約期限短縮の問題などについて
米国と再交渉し、再改定に努めるべきであると思うが、
所信を伺いたいと思うのであります。(
拍手)
さらに、再改定を待つまでもなく、新条約の実施にあたっては、日本
国内における
措置として、事前協議については、
政府は必ず
国会に諮り、その同意のもとに行なうよう慣習を
確立すべきであると思うが、いかがでありましょうか、この点についても御説明を願いたいと思うのであります。(
拍手)
外交問題に関する第四の質問は、共産圏
外交についてであります。
日米新安保条約の成立に伴って、
わが国の対共産圏
外交が一そう重要になったことは、多言を要さないところであります。わが党は、アメリカ帝国主義戦争勢力であり、ソ連、中共は
社会主義平和勢力であるなどという、中ソに迎合する
外交方針には全く反対であります。(
拍手)あくまでも、
わが国の自立
独立の
立場に立ち、アメリカとの
協力を続けながら、なおかつ中ソとの
外交関係を
改善したいと考えるものであります。それには、まず
国連における中国代表権はこれを中共
政府に認めるとともに、台湾問題は
国連の場において
解決するのが正しいと考えておるのでありますが、これに対する
政府の考え方をお伺いいたしたいのであります。(
拍手)
また、総理は、共産圏からも畏敬される
外交ということをしばしば
発言されておるのでありますが、その内容は少しもわからないのでありまするから、この際明らかにしていただきたいと思うのであります。(
拍手)
さらに、総理の
演説全体を伺いますると、岸
内閣の
外交方針をそのまま踏襲しただけでありまして、何らの新味もないのであります。この際、もっと前向きの姿で、以上私が申し上げましたことにつきまして十分に考慮を払っていただきたいと思うのであります。
質問の第三は、
経済政策についてであります。
池田総理は
所得倍増論を提唱されましたが、しかし、重要なことは、
所得倍増ではなくて、
国民の実質的
生活の安定と
向上であります。(
拍手)しかるに、
政府は、
国民に耳ざわりのよい倍増論は提案したが、
物価は、どの程度に、そして、いかにして押えるか、また、景気の
発展上昇に伴って、十年後には
物価はどの程度上がって、収入とのバランスがいかにとられるかという
物価政策を、どこにも示していないのであります。しかも、最近、
物価は著しく上がりぎみでありましてわれわれの日常
生活におきましても、本年八月現在では、前年同期に比較いたしまして四・八%上がっており、おそらく、その後の騰貴を入れまするならば、およそ六%近く上昇しておると見なければならないのであります。この勢いで進みまするならば、
所得の
増加はあっても
国民生活の
向上は期待できないと思うのでありますが、この点について
所信を承りたいと思うのであります。(
拍手)
池田
内閣の新
政策についての第二の問題点は、
経済の
高度成長が、それ自体で、おのずから
わが国経済の二重構造や
社会のゆがんだ面を是正していくかのような、安易な楽観論に終始しておるということであります。すなわち、池田新
政策のように、大
企業を中心とする近代
産業の活発化によって年九%程度の
経済成長を
実現していけば、自然と
中小企業や
農業にも潤いが及び、
雇用も
増加し、失業も少なくなるというような手放しの楽観は許されないのであります。(
拍手)いな、大
企業と
中小企業との
格差、工業と
農業との
所得の
格差はかえって
拡大し、低
所得階級は、
物価高とも相待って、一そう苦しむ結果になるであろう、とわれわれは心配するものであります。(
拍手)われわれ
国民の望んでいるのは、大資本、大
企業中心の
成長発展ではなくして、
中小企業の
近代化と
農業の
近代化、並びに、一千百万人に及ぶところの低
所得階層の中産階級への引き上げを含んだところの
均衡ある
経済発展と
経済二重構造の
解消であります。(
拍手)
公共投資につきましても、その中の
相当重要な部分は、これを
中小企業及び
農林漁業の
近代化に使用すべきであって、大
企業偏重は断じて排さなければなりません。
総理は、
農業人口を十年後には四割に減らすと言われましたが、問題は、農村人口が離農、脱農で減ずるという
経済現象が中心ではなくて、農村人口あるいは
農業人口を合理的に減らして他
産業に吸収するにはいかなる
政策を用意するか、また、残った人口で適正
規模の近代的な
農業を
経営せしめるにはいかなる
政策が必要であるかであります。特に、農村人口または
農業人口が減っても、老人と婦女子だけで低能率な
農業を続けるのでは、何ら
農業を含めた
均衡ある
経済の
発展とはならないのであります。(
拍手)以上の諸点につきまして、総理の率直なる見解を伺いたいと思うのであります。
さらに、池田新
政策について総理にたださんとする点は、
わが国人口九千三百万人のうち、実に一千百万人の低額
所得者の保護をどうするかの問題であります。池田総理が組閣早々提示された
社会保障、
減税、
公共投資の三本建の
政策は、一応好評でありました。しかるに、時日が経過するに従いまして、これが逆転して、
公共投資がクローズ・アップされ、
社会保障は影の薄い存在となってしまったのであります。そもそも、
社会保障とは何ぞや。池田
内閣は、これを
政治の愛情なりとしばしば言っておられますが、これは語るに落ちた池田
内閣の性格の暴露であります。
社会保障とは、支配者が被支配者に対する、富者が貧者に対するれんびんの情によって与えるものではなくして、憲法第二十五条の、
国民は健康にして
文化的な
生活を営む権利があるとの精神に従って、
政治家の常に心しなければならない
国家の義務であります。(
拍手)この
根本的な考え方につきまして総理はいかに考えておるか、もしこれに御同感でありまするならば、最初に言明したところに立ち返られて、まず何よりも先に
社会保障に重点を置くべきであると思うが、いかがでありましょうか。
次の質問は、労使
関係の
改善についてであります。
高度の
経済成長を期待するためには、
技術の革新と
労働生産性の
向上が必須の
条件であります。しかるに、
わが国の労使
関係の中には、三井三池の争議に代表されたように、きわめて
対立的、破壊的なものがあるのであります。私は、労使双方に対し、日本の平和と
繁栄のために再び三池を繰り返すな、と強く叫びたいのであります。(
拍手)
政府はこの労使問題についていかにお考えになっているか、お尋ねいたしたい。
また、
中小企業並びに零細
企業におけるところの
労働賃金並びに就労
条件は、大
企業に比較して、はなはだしく低い。これもまた高率
経済成長のための重大なる障害でありますが、これをいかなる方法によって是正し、
解決しようとするのでありますか、この点も御答弁をわずらわしたいと思うのであります。(
拍手)
以上をもちまして私の質問を終わるのでありますが、総理の答弁を求めるにあたりまして、私の考え方を一そう了解していただくために、これをいま一度要約いたしてみますると、まず第一に、
わが国の
政治の最大の課題であり、かつ
政策以前の重大なる問題は、民主主義と議会
政治の
確立であります。これがためには、まず
政党が民主主義に徹し、無
条件に一切の
暴力の行使と
暴力による威嚇をやめることを天下に声明することから始めなければならぬと思うのであります。(
拍手)
第二は、
外交と国の安全との
基本的な問題につきましては、これを党利党略の具に供してはならない、
政府のイニシアチブによる超党派的一致が望ましいが、その
前提として、まず自民、
社会両党が、それぞれ
米ソの国際的な
対立を
わが国に持ち込まないとの反省が必要であります。(
拍手)
第三に、池田新
政策は、高度
経済成長による
所得倍増をうたい文句としているが、実は、
物価騰貴によって
国民の
生活を実質的に低下せしめ、いたずらに大
企業のみ
高度成長の恩沢を受け、
中小企業との
格差はますます
拡大するのを放任する無責任なる
政策であり、
中小企業や
農林漁業に対する育成と体質
改善を具体的に用意していないところの弱肉強食の冷酷なる政法の姿であります。(
拍手)わが党の
経済八カ年計画は、これに反し、人間の自由を尊重しつつ、
経済に計画性を導入し、
社会主義的手法によって
完全雇用の達成、
社会保障の
充実、
所得の引き上げと均等化を
実現せんとするものである。すなわち、上を押え、下を引き上げて、全
国民を中産階級化し、
経済の二重構造を
解消せんとするのがねらいでありますがゆえに、わが党は、
経済、
社会の体質
改善と
国民生活の平準化が目的であり、高度
経済成長率の
維持はその手段にしかすぎないのであります。かかる意味におきまして、われわれは、池田
内閣の新
政策とは明確に対決するものであります。しかも、他面、このような
根本的な
社会の改革は、これを自由の制限や
暴力革命などによらず、議会を通じて民主的、平和的に
実現せんとするところに、わが党の特色があるのであります。(
拍手)
以上をもって私の質問を終わります。(
拍手)
〔
国務大臣池田勇人君
登壇〕