○村上
説明員 最初に、私の昨日の
説明に少し誤解を持っておられるようなんですが、私は、差し上げた資料から九%の成長が可能であり、それ以外の成長はあり得ないということを申し上げたのじゃありません。従来の日本の経済の非常に高い成長の基盤になる体質というものはいろいろございます。その中で生産函数を規定するいろんな労働力とかあるいは輸入力あるいは設備能力というふうなものを御
説明申し上げて、この従来の高い成長を維持した供給サイドの要件の中で、今後直ちにそうした要件が消滅するだろうという事情は
考えられない。そうすれば、従来の成長率が実績九・三%という場合に、それが不可能であるという証明はつかないじゃないか。従って私は九%という成長率が夢物語ではないということを御
説明申し上げたにすぎないのであります。将来の成長率を何%とずばりと予想することは非常にむずかしい問題でございまして、非常に高い成長ならばそれは不可能だということは言えるかもしれません。非常に低過ぎる成長率ならば、そんなに落ちることはあるまいということは言えましょうけれ
ども、その幅のある可能性の中でどの成長率を政策の目標として掲げるかということは、やはり主観的な価値判断の問題になるということをまず申し上げたいのであります。
それから、いろいろこまかい御
質問をなされましたが、たまたま下村理論の弁護をさせられるような立場になりましたけれ
ども、私自身何も下村理論を信奉しておるわけではありません。また差し上げました資料は必ずしも下村理論が根拠になっておるものでもございませんが、小さな
質問について私いささか技術的なお答えを申し上げますと、従来特需の
関係が国際収支の黒字の大きな割合を占めておりましたことは確かでございます。しかし、最近の
傾向を見ておりますと、たとえば三十三年度の五億五千万ドルというのは特需の五億三千万ドルですかを上回っております。ちょっと今正確にあれを記憶しておりませんが、この輸出の今後の伸びというものが期待できるならば、特需によらなくても、特需が減少した場合においても、国際収支において九%の成長を妨げるような要因にはなるまい、こう
考えるのであります。
それからまた、将来の輸入力の問題とかいろんな短期の世界経済のふれというふうなものが一体どう影響するのだということをおっしゃる。最近のアメリカ経済の動向に
関連しまして、もしアメリカの経済が後退するならば、現在三割を占めておる日本の輸出貿易が非常に困りはせぬかという
お話でございます。私が申し上げておるのは、今後の三年なら三年というサイクル全体の平均的な性向を申し上げておるのでありまして、その間において起伏があるということはやむを得ない。ただ、平均的に見れば
——一時的な国際収支の赤字があったら、直ちにそれでもって成長がストップするかというと、そういうことはあり得ない。そうした長期の平均的なあれから見れば、少なくとも従来の実績から徴して、今後対外的均衡を破るほどの成長率と言うわけにはいかぬだろうということを申し上げたいのであります。
それから、輸入依存度の問題で、私の差し上げましたGNP対為替ベースの輸入額に対する比率の輸入依存度に対して、通関ベースでとるとだいぶ違うではないかという
お話でございます。通関ベースの輸入依存度もございますけれ
ども、これもそう大きなふれはございません。確かにおっしゃるように、前回のサイクルの底と山と今回のサイクルの山というふうなものを比べてみますと、山同士では少し上がっておる。底同士でも少し上がっておる。従って、今後の輸入依存度が上がるのではないかというお説をなさいましたが、そういう学者もおられます。ただこの輸入通関額をとります輸入依存度というものは、たとえば運賃が上がりました際には、輸入物資の中では相当量を日本の船で運んでおりますから、そういう意味から言うと、必ずしも通関額の方が、輸入依存度というか、国際収支の輸入力というものを規定する場合の分析法として正しいかどうかということは疑問であります。それは、運賃が上がりましても、日本の船で運んでおりますのは外貨に
関係がないからであります。
先ほどの問題に帰りますけれ
ども、一体今後の輸入依存度が上がるか下がるかという問題は非常にむずかしい問題で、学界にもいろいろ議論があることは御存じの
通りでありますけれ
ども、私はそう輸入依存度が上がるというふうな
傾向は見られないのではないかと思う。と申しますのは、これを戦前の日本の輸入依存度と最近の輸入依存度と比べてみますと、戦前の二二%くらいに比べて、最近はこの通関額でとりましても一四、五%に落ちておりますが、その大きな理由は、
一つは日本の産業構造が変わっておるということであります。と申しますことは、重化学工業というような非常に加工度の高い産業分野が割合として非常に占めてきた。たとえばこの重化学工業で、ことに金属、機械類の戦前の輸入依存度を見ますと一六%になっておると思いますが、最近では六%というふうに下がっております。そうしたことから申しますと、今後の日本経済の構造変化がますます重化学工業というふうな高度の産構造になっていくことを
考えますと、その面からは下がるということも言えるかと思うのであります。また食糧の輸入な
ども戦前に比べて非常に減っております。あるいは繊維といういうふうな輸入依存度の高い産業の割合が、重化学工業化とともに逆に減ってくるということも言えるでありましょう。これらはすべて今後の輸入依存度が下がっていくだろうという
一つの類推の根拠になっておるわけであります。しかし、
先ほども
説明申し上げましたように、製品輸入の問題がどうだろうかということもあるだろうと思います。製品輸入の輸入依存度が輸出の自由化ということによって今後ある
程度上がるだろうということは言えるかと思いますけれ
ども、
先ほど申し上げた下がるだろうという要素と相殺した場合に、非常に製品輸入の
関係で輸入依存度が上昇するだろうということは、私は言えないのではないかという気がするので、
先ほど申し上げたような輸出量その他から見て、今後の輸入力は九%を阻害するものではないということを申し上げたのであります。ただ、西独とかイタリアの輸入依存度の上昇を引き合いに出されまして、今後の日本の自由化に伴う将来の動向を推察されるようなお言葉があったのでありますが、私は西独とかイタリアと日本とは少し違うと思う。と申しますのは、西独、イタリアはすでに完全雇用に達しておりまして、今後何でもかでも自分のところで作るというわけにいかない経済であります。その場合においてはできるだけ自分の得意なものに特化するという
傾向が顕著に現われるわけでありまして、その場合に、特化したものをたくさん輸出して、自分のところでこれ以上できないものを輸入するというふうなところから、輸入依存度が上がるのは当然でありますし、地縁的にもほかに密接な
関係がある共同市場というものを
考えます場合に、そうした
傾向が日本においても当てはまるということは言えないのではないか、こう
考えるのであります。
それから、設備能力の問題に
関連して、貯蓄の将来の動向ということをおっしゃったのでありますが、これは、
先ほどお聞きになった三十二年でありますか、二八%、これはたしか一九五一年から一九五七年までの平均だったと思いますが、その後の情勢を見ましても、たとえば昨年三十四年度は三四%というふうに非常に高い貯蓄率を示しておるわけでありまして、今後これが下がるとしましても、三〇%の境界を前後する
程度だろうと私は思うのであります。三〇%前後の貯蓄が可能であれば、今後九%の成長率を達成することも決して不可能ではないということを答弁として申し上げたいと思うのであります。
いろいろお聞きになりましたので、漏れておるところがあろうかと思うのでありますが、以上のことから私に対する
質問は十分でありましょうか。それならばこれで終わります。