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鈴木強君 私は、
日本社会党を代表して、ただいま議題となりました
昭和三十五年度予算三案に対し、絶対反対の
態度を明らかにして討論を行なわんとするものであります。
まず、私は、予算編成に際し醜態を天下に暴露した
政府と自民党の
態度について、厳重な警告を与え、
国民の名において大いなる反省を求めたいと思います。
本来、予算の編成権が
内閣にあることは、憲法上一点の疑いもないのであけます。もちろん政党
内閣である以上、
内閣の予算編成に
与党がある
程度関与し、その基本
方針を盛り込むことは許さるべきでありましょう。しかし、それは、あくまでも
内閣の編成権を侵してはならず、むしろ、
政府各省の
意見調整にあたり、政党は協力ないし助言する
程度にとどめるべきであります。しかるに、本予算編成と、大蔵省原案提示後の復活要求の過程において、自民党は圧力団体と派閥のつき上げに抗し切れず、執拗に予算増額を
政府に迫り、大蔵原案を取りくずすために死闘を展開したが、この間、
大蔵大臣と各省大臣との折衝が軽視されて、
大蔵大臣と
与党幹部との折衝に重点が置かれるという無統制ぶりを発揮して、
国民を憤激せしめたのであります。最終段階に至って、
大蔵大臣と各省大臣の折衝に、
与党の政調会長、副会長が監視役で立ち会ったという事実は、
岸内閣と自民党の無軌道ぶりと変態性をまざまざと示したものであり、いかなる逃げ口上をもって弁解しても、予算編成権が逆転しており、憲法の規定に照らして、とうてい容認しがたい悪らつなる違法行為と言わなければなりません。
しかも、このような保守党政治の乱脈に際して、岸首相のとった
態度は非難をされなければなりません。すなわち、首相は党の総裁でもあり、かかる事態を収拾する最高責任者でありながら、確固たる信念と
態度を持って混乱に対処したとは言えません。財政法第二十七条によれば、「
内閣は、毎会計年度の予算を、前年度の十二月中に、
国会に
提出するのを常例とする。」と明定されておりますが、本年度予算案がまた前年同様、
政府与党の泥試合によって予算編成が長引き、一月二十九日、一ヵ月もおくれて
国会に
提出されたことは、
政府の怠慢であり、財政法違反と言わなければなりません。
岸総理はいかなる責任をお感じでありましょうか。私はここに、九千万
国民とともに、おごそかに岸首相と自民党の責任を追及し、再びかくのごとき醜態を起こさざるよう警告と反省を求めておく次第であります。
次に、私は、本予算編成の基本
方針の中に隠されている
国民欺瞞のおそるべき思想のあることについて言及したいと思います。
政府は本予算の基本
方針として、
国民生活の安定を第一義に
考えたと言い、
日本の現状に即した健全予算であると盛んに宣伝をしておるのでありますが、本予算案の内容をしさいに
検討してみまするときに、これは
国民を欺瞞した悪らつなインチキ宣伝であることがはっきりとわかるのであります。
今や、世界の情勢は、東西両巨頭の会談を契機として、緊張緩和、雪解け、軍縮、平和共存の方向に強く進みつつあることは、周知の事実であります。今から十五年前、無謀なる軍閥政治によって不幸なる敗戦を喫した
わが国の進むべき道は、平和憲法にのっとり、一切の軍備を放棄して、文化国家、平和国家建設にあると信ずるのであります。従って、
わが国の
外交路線は、東にも西にも偏せざる中道、中立
外交でなければなりません。しかるに、
岸内閣とその
与党自民党は、中立
外交はまさに容共政策であり、平和を乱すものであるかのごとくきめつけ、特に
昭和三十二年
岸総理の渡米以来、日米新時代来たるの合言葉のもとに、極端な向米一辺倒の
外交方針をとっているのであります。このため、隣邦
中国を初め、共産圏陣営との間には、一部を除き、戦後今日までの長きにわたり、正常完全なる国交回復を見ることができないことは、
日本民族の不幸、これに過ぐるものはないと言わなければなりません。しかも、前にも述べましたような現今の平和共存、平和
外交、雪解けの方向に邁進しつつある国際情勢と世論に逆行して、日米軍事同盟たる安保改定を強引に調印し、今
国会にその批准を求め、
与党の多数を頼んで一挙に可決せんとしているのであります。新安保
条約によって憲法に違反する自衛隊戦力の増強を義務づけられ、さなきだに苦しい
国民生活はますます加重され、極東の平和と安全という美名のもとに国際紛争に巻き込まれ、戦争の片棒をかつがされることになることは必至であります。私は、自衛権の名のもとに戦力を増強し、すでに
わが国は皇軍時代の戦力を上回る強大な武力を保持しておりながら、これを戦力でないと言って
国民をごまかし、世界
各国と比べて軍事費は少ないと宣伝をして
国民をまどわし、国力と国情に見合って自衛力を増大すると
国民に偽って、憲法に明らかに違反する再軍備政策を強行しつつあることは、われわれの断じて容認することのできないものであります。わが党は、現在の
岸内閣の自衛隊は、平和憲法にまっこうから違反するものであることを、再びここに明確にし、かかる自衛隊は、即時解散するよう、強く要求する次第であります。
三十五年度予算の基本的性格は、以上申し述べましたように、
現実の国際情勢を無視して、新安保
条約調印、日米軍事ブロック化の裏づけとなる防衛費の充実と、これに伴う
国内体制を固めるための治安
対策費の増額と、組織化
対策費の新設等、軍国主義化へ大きなステップを切った予算と言わなければなりません。しかるに
政府は、この重大問題にはできる限り触れず、逆に、昨年伊勢湾台風等発生し、当然見るべき災害復旧予算の増額や、すでに計画
実施中の治山治水事業費等をことさらにアピールして、民生安定予算とか、治山治水予算とか、から宣伝をしていることはナンセンスと言わなければなりません。
次に、具体的に反対理由をあげて討論を進めたいと思います。
反対理由の第一は、三千億に上る租税の自然増収がありながら、減税が見送られ、逆に増税されているということであります。本予算の編成にあたり、
国民の重大関心事は、
政府がいかに減税を
実施するかにあったと思うのでありますが、増税に悩む
国民にとっては、まさに当然のことでありましょう。しかるに、
政府は租税の自然増収を二千百五十三億円と見込み、
政府発表の
国民所得の増加と、経済成長率七%から見ても、非常に内輪に見積っており、実際には三千億円を上回る自然増収が可能であることは間違いのないところでありますが、この点については、高木公述人も強く指摘しておったところであります。以上の
通り、
昭和三十五年度においては、少なくとも一千億円の減税は、四月一日より
実施できるにもかかわらず、
国民をごまかして、切実なる減税要求を見送ってしまったことは、自民党の公約違反ででもあり、何といっても許せないことであります。本予算の歳入のほとんどを占める税収入を見るに、国税が一兆五千四十八億一百万円、地方税が六千三百七十九億一千八百万円で、総額は二兆一千四百二十七億一千九百万円の巨額に達しております。ちなみに、
国民一人当たりの税負担額が幾らになるかといえば、国税で一万六千十八円、地方税で六千七百九十二円、合計二万二千八百十円となっております。これを昨年に比べて見ますると、大体三千三百円の負担増となり、減税どころか、逆に増税となっております。
国民所得に対する税負担率は、昨年度の一九・九%から二〇・六%と増加しており、戦前の
昭和九年ないし十一年の負担率平均一四・六%から見ても、相当の負担増となっているのであって、重税に苦しむ
国民の姿がはっきりと浮き彫りされておるのであります。しかも、われわれを驚かせるのは租税特別
措置法によって大企業、大金持に対しては、年間一千二百億円の減免税を行なっていることであります。わが党は、かくのごとき
国民を泣かせ苦しめる重税政策に対しては、絶対反対し、一千億円の減税を四月一日より
実施するよう、強く要求するものであります。
反対理由の第二は、憲法違反の自衛隊費を増額計上したことであります。安保改定に伴って日米の軍事協力体制が強化され、
わが国が自衛戦力の増強を迫られることは火を見るよりも明らかであります。このため
政府は、安保改定を裏づける第一次防衛力整備計画の完成と、第二次防衛計画の採用、すなわち、全
国民に多大の疑惑を与えている新戦闘機ロッキードの生産、自衛隊のミサイル装備代等による防衛費の増額を本予算に計上しておりますが、新安保
条約批准と時を同じくして審議される三十五年度予算で軍事費が独走している印象を与えることは、その安保体制を固める作戦上、はなはだしく不利であるということから、軍事費の急増が目立たないように工夫をこらし、
国民をごまかそうとしております。
政府は防衛費は横ばいと宣伝しておりますが、安保改定に伴い防衛分担金が廃止されるので、
昭和三十四年度の防衛庁費と、防衛分担金、施設提供費などを合算した防衛
関係費と、三十五年度の防衛庁費と施設提供費などの合計額は、なるほど十四億円の増額となっておりますが、防衛分担金相当額の百十一億円は、そっくりそのままふくれているので、合計百二十五億円の実質増となり、災害
対策、国土保全
対策が遅々として進まない中に、再軍備は例年並みのベースで予算が増額され、第一次防衛計画のみがほとんど完了することになっていることは、見のがすことのできない重大問題と言わなければなりません。しかもその上に、さらに巧妙なからくりがなされているのであります。すなわち、来年度から生産されるいわくつきの新戦闘機ロッキードF104—J二百機分の国庫債務負担行為六百九十八億円が別ワクとしてきめられており、これにすでにきまっている国庫債務負担行為二百三億円と、継続費に計上されている艦船建造費五十七億円を加えると、合計ほぼ一千億円に達する軍事費の増額が、形を変えて盛り込まれているのであり、
国民をあぜんとさせており、全くあきれてものが言えないのであります。国土の防衛は、憲法違反の自衛隊の増強によるにあらず、わが党は、ここに重ねて自衛隊を解体再編し、国土建設隊に切りかえ、年々再々国土を襲う暴風雨の災害から
国民を守るよう、政策の転換を強く要求するものであります。
反対理由の第三は、民主主義を踏み破る治安
対策の強化についてであります。
岸内閣は、安保体制強化のため、さきに警職法の改悪を企図したのでありますが、
国民の総抵抗にあって、その意図は挫折され、今日に至っております。しかしながら、
岸内閣の警職法改悪の非民主的弾圧
方針は、すきあらばと、そのチャンスをねらっているものと見なければなりません。特に新安保批准後の
国内体制強化のためには、労働運動を初め、一切の民主的運動に対し、かなり強腰で立ち向かって参り、言論、集会、結社の自由に対しての弾圧は、ますます激しさを加えて参りております。本予算案を見ると、かかる
立場に立って治安
対策費が、再軍備費の増加と相待って、予算全体の率をはるかに上回った急増を示しております。岸首相は、ポケット・マネーと世間から批判された自由裁量のきく財源を十億円持っていたというのでありますが、そのうちから三億円を治安
対策費に回し、これをめぐって警察庁、公安調査庁、
内閣調査室の三者がぶんどり合戦を演じたとも言われております。かくして
内閣調査室の情報収集調査費、広報世論調査費は、いずれも大幅に増額されて、前年度の三億三千万円から五億一千万円となり、警察庁の旧特高に類する集団不法行為取り締まり予算も、一億円増額され、十九億四千百万円となり、さらに反民主主義活動
対策、破壊活動調査、国際共産主義活動
対策と銘打ちた公安調査庁予算も、一億円増の六億三千万円となっております。また、警察官の三千人増員や、警察の機動力発揮と称してヘリコプターや七百十一台の車両の装備も、
実施されることになっております。この治安
対策費は、民主主義の弾圧費であり、全く無用のものでありますので、全額削除を要求いたします。
反対理由の第四は、特定政党の組織化を裏づけるがごとき予算がたっぷり組まれているという判断がなされることであります。某党組織の総点検と再整備を強調した、三十五年組織活動
方針によれば、「党の系統組織を通じて、政策を
国民に知らせ、地域社会に起きている経済的要求、政治的不満等を的確に党組織に吸収するための機構的運営が肝要である」と述べています。
この
方針に当てはまるがごとく、農政の面を見見ると、団体補助の中に、農業
会議へつけた部落団体長研修費七百四十万円、農業共済組合につけた共済連絡員費三千三百万円などが新規に計上されており、中小企業
関係を見ると、商工会に法人としての資格を与え、四億円の国庫補助を行なって、二千四百五十一人の経営指導員と四百九十人の専門指導員を常駐させようとしており、文教の面を見ると、研究費、集会費に集中する婦人学級
対策費は、六百六十万円から一躍八千三百万円に増額され、社会教育
関係団体補助費にしても、前年度比五倍の五千五百万円となっており、社会教育審議会が適当と折紙をつけたことにかこつけて、青年婦人団体等に対しては、これによって印刷、資料収集の便宜が一段とはかられることとなったのであります。こうした社会教育助成費の総額は、文部省
関係だけでも前年度比二倍の四億一千万円に達しております。大蔵省原案では、婦人学級費は前年度並み、社会教育助成費も前年度並みという
方針であったものが、文教政策の基本ともいうべきすし詰め教室の解消、教職員の待遇改善等、緊急を要するものはそっちのけにしておいて、政治折衝で婦人学級費が十二倍、社会教育助成費が二倍にふくれ上がったのは、奇々怪々と言わなければなりません。今直ちにこの問題を特定政党の組織化に結びつけることは、少しく酷かとも
考えるのでありますが、一歩運営を誤ると重大問題に発展するものでありますから、かくのごときものの予算増額には反対であります。
反対理由の第五は、生活保護費が少なく、また、石炭離職者
対策が不十分である点であります。本予算のうち、生活保護費の中の生活扶助料は、標準世帯では月額九千六百二十一円で、前年度に比べ二百七十五円の増加となってはおりますが、これでは、生かさぬよう、殺さぬようといった金額で、最低生活の保障はとうてい不可能であります。保護家庭は、ことしもまた暗い、そして希望の持てない生活を続けなければならないのであります。一方、不況にあえぐ石炭
産業の労務者とその家族に対する
対策は、最も緊急を要するもので、社会保障の面からも深刻な問題を投げかけています。しかし、今度の予算では、炭鉱離職者
対策費として二十五億円、対象人員七千五百人が計上されています。その反面、これまでの石炭企業整備事業団を合理化の集団に切りかえ、石炭企業合理化補助金二十億円を
政府出資とすることがきまっております。
わが党は、さきの臨時
国会において、早急にエネルギー資源総合
対策を樹立することの必要性を痛感し、再三再四、
政府に対し石炭
対策を追及したのでありますが、
池田通産大臣は、今通常
国会までには本格的な
対策を決定したい旨の
答弁をしておったのであります。しかるに
政府は、この根本的な石炭
対策に対しては、ことさら目をつぶり、離職者
対策一辺倒に出てきていることは、石炭不況を切り抜ける策は人員整理と首切りにあるときめてかかっている
政府の反動的な
態度をはっきりと示しているものだと思うのでありまして、われわれのきわめて不満とするところであります。三井鉱山がロック・アウトの高姿勢に出たことも、
政府の筋書きにのっとっているものと断ぜざるを得ません。かくのごとき
政府の政策の欠除が、今日大きな社会問題にまで発展した三池炭鉱争議の原因となっているのでありまして、遺憾しごとくと言わなければなりません。私はこの際、
政府が石炭
産業の根本的あり方について、一刻も早くその結論を出し、石炭
産業の労働者が安心して生活できるよう適切な
措置をすみやかに講ぜられ、事態の円満解決をはかられるよう強く強く要求するものであります。
反対理由の第六は、公共企業体職員と公務員給与のベース・アップ予算が組まれておらないことであります。国家公務員に対しては、
昭和二十九年以来ベース・アップが行なわれておらないのでありまして、まことに遺憾にたえません。民間賃金との格差はますます大きくなり、生活はかなり苦しくなっているのが実態であります。
昭和二十三年、国家公務員法の改悪によって、公企体の労働者と、国家公務員労働者は、団交権とスト権を奪い取られたのであります。当時
政府は、人事院を新設し、独立機関として公務員給与のあり方を決定することにしたのでありますが、今日まで人事院
勧告が完全に
実施されたことは、たった一度もなかったのであります。かくのごとき
実情から、人事院の存立価値が問題となり、人事院廃止の世論が出てきていることは御
承知の
通りであります。公企体職員や公務員は、目下三千五百円ないし七千円の賃金引き上げを要求しておりますので、これが実現のため予算化しなければならないのに、これをサボっていることは納得できません。わが党は直ちに給与改訂のための予算組みかえを
政府が行なうよう強力に要求する次第であります。
最後の反対理由は、地方財政についてであります。
政府は三十五年度の地方公共団体の自然増収を八百十億円と推定して、三十四年度の国税減税に基づく地方住民税の減収分百二十二億円に対し、特別交付金によってわずか三十億円を補てんしたのみであります。三十四年度の自然増収は、三百四億円と見積もられていたのに対し、それがいかに好況とはいえ、一挙に二七%もふえると見るのは過大でありましょう。それに三十五年度は、災害復旧等のため公共事業
関係費が二千七百六十七億円と前年度に比し五百五十七億円も激増しているために、これに伴う地方負担が増加して、地方財政は相当の困難が予想されることは、間違いのないところであります。私は、地方自治の発展は、もちろんそれぞれの自治体のより積極的な努力が必要であることは言うまでもありませんが、本予算のごとく思いやりのない不十分な
措置に対しては、絶対反対であります。
なお、財政投融資五千九百四十一億のうち、中小企業に対する融資は、わずかに六百五十三億で、総体の一〇・六%にすぎず、大資本偏重の投融資計画は、五九四一——ゴクヨイどころか、五九四一番——コクシイチバンと言わなければならず、われわれの賛成できるものではありません。
その他予算三案を通じて、急速に進展しつつある
貿易の
自由化に対する
対策は、何ら見るべきものはなく、また、文教、農山漁村、中小商工業、社会保障等々の政策面においても、幾多の問題点がありますが、時間の
関係上論及することができませんので省略をいたします。
ただ
一つ、
日本電信電話公社
関係予算案のうち、電話架設のための加入者負担金を現行最高九万三千四百円を一挙に最高十六万円に引き上げようとすることについては、公共性の見地よりして認めるわけには参りません。
政府の電気通信事業に対する建設資金調達の
措置が不十分であるため、かかる結果と招来していることは明らかでありますので、電話需要の激増しております現状にかんがみ、もっと積極的な
政府の資金援助を要望してやみません。
以上申し述べましたように、本予算三案に対し、私はここに重ねて断固反対の意を表明し、
政府は直ちに本予算案を撤回し、われわれの要求をいれて出直していただきたいことを要求して、反対討論を終わります。(拍手)
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