○北村暢君 私は
日本社会党を代表してただいま
議題となりました二
法律案について、岸総理並びに
関係閣僚に対し若干の
質問をいたします。
農業法人化の問題は、三年前、果樹農業地帯等において、農家の所得税負担の軽減と農業経営の合理化、
近代化をはかる
目的をもって、農民の
企業的意欲と創意によって発生した問題である。しかるに、当時、税務当局は農民の要求を全く無視してすでに設立登記の認められている農業法人に対してさえ、実質課税の
原則を振り回し、これを否認する態度をとったのである。また、
農林当局は、農業法人は自作農主義をとっている
現行農地法の建前から直ちに認めがたい、との見解を明らかにした。わが党は、このような
政府の無責任な態度を追及し、すみやかに解決することを要求して
政府を鞭撻してきたのであるが、この間、
衆議院農林水産委員会は、昨年三月二十七日、すみやかに農業法人
制度の法的
措置を講じ、これが育成を期すること、すみやかに農家の家族
労働報酬を経費として算入するよう税制
改正の
措置を検討すること、等の決議が行なわれたのである。その後すでに一年余を経過した今日、法人化に対する農民の要望はさらに高まり、放置できない
情勢に追い込まれ、ようやく日陰者の農業法人を法的に認知するために、今回の
農地法並びに
農業協同組合法の一部
改正案が
提出されたのである。
〔
議長退席、副
議長着席]
この
改正案は、農業法人を認めるための必要最小限の
改正にとどまる暫定的
措置のように受け取れるのであるが、農業法人問題は、戦後の農地
制度の根幹をなす自作農主義に重大なる
影響を及ぼすとともに、農業
生産性の向上と農家所得の増大から見て
最大の難関である経営の零細性を克服し、農業
生産構造の改善、ひいては農家の家族
制度の封建性打破にまで及ぶ、農業の基本
政策に関連する問題である。
まず、
行政の
最高責任者である岸総理に対し、農政の基本的問題についてお尋ねします。
戦後における
日本農業は、農地改革の成果の上に、農業
生産面においても、技術面においても、かなり目ざましい
発展を遂げ、五年連続の豊作をもたらし、
国民経済の復興と
発展とに寄与したが、反面、
日本経済の二重
構造的ひずみの
拡大が見られ、
経済の基本的な矛盾が
激化するに至った。特に
農林水産業はひずみの最たるもので、
わが国人口の四割を占める農民の所得は、
国民総所得のわずかに二割にすぎないほどの立ちおくれを示している。そして、その開差が漸次
拡大の傾向を示しているところに
日本農業の
体質改善が叫ばれるゆえんがある。かかる農民を窮乏に陥れた事態は、過去十数年間にわたって政権を壟断してきた保守党
内閣が、独占
資本に奉仕し、再軍備
政策を強行し、そのしわ寄せを
生産農民にもたらした当然の結果であって、その責任は重大である。今日、混迷せる、そのつど農政の転換を叫び、
日本農業の安定的
発展のために、農業
基本法制定を要求して立ち上がった農民運動は、日を追って
激化しつつある。岸総理はこの現状をいかに判断しておられるか、
所信を承りたい。
その第二は、農民所得の位置づけの問題である。去る十日答申された農業基本問題調査会の案によれば、農業部門の二人ないし三人の
労働単位を完全に就業せしめる規模のいわゆる自立経営農家と、都市を除いた町村地域の勤労家計とを比較基準としているが、自立経営農家の所得は現在の農家の平均所得よりはるかに高いものであり、また町村地域の勤労家計は農業低所得水準の
影響を最も多く受けており、農業とともに
経済の二重
構造の底辺をなしている部分である。従ってへ町村地域の勤労家計と平均より高い自立経営農家の所得とを均衡させるということは、農業の低所得と停滞を永久化することを意味する。当然、都市
勤労者の所得と均衡させるべきである。そうでなければ
経済の二重
構造解消の方向には向かわないと信ずるが、総理の考え方をお伺いいたしたい。
第三は、農業の
拡大生産の問題である。答申案によれば、
貿易自由化の受け入れを前提として、成長財である畜産物、果実、テンサイ等に
生産の重点を置き、他の農産物については、増産よりも、
生産性の向上、コストの低下、作付転換等を行なおうとしている。農産物の需給
関係を考慮した
計画生産には反対するものではないが、従来の未利用地開発の
政策が放棄され、わずかに潰廃地を補う程度の耕地の造成しか考えていない。すなわち、
日本の農業
生産の総ワクを縮小再
生産に追い込もうとする方向である。私は、真に農業の
発展を願うならば、まず、
日本農業の存立の基盤をゆるがす
貿易自由化に反対し、国土の高度利用の
立場から数百町歩の未利用地を大胆に開発し、勤労大衆の生活水準の向上による農産物消費の飛躍的
拡大と相待って農業の
拡大再
生産の方向をとる以外に一方法はないと思うが、総理の見解を承りたい。
第四は、今次農業法人問題とも直接
関係を持つ、
日本農業の
最大のガンである零細過小農の克服の問題である。答申案によれば、一農家の経営面積一・五町歩以上の自立経営農家を基礎として育成し、兼業農家や零細農は他
産業に吸収することによって解決しようとしている。すなわち、現在の農業就業人口約一千五百万人を十年後には一千二百五十万人にへ二十年後には八百五十万人程度に減少することを想定している。もちろん、農業過剰
労働力を全部農業で吸収することは困難であると考えるが、現在十万人の炭鉱離職者対策に手を焼いている現状で、毎年平均三十二万人の農業離職者を二十年間にわたって第二次
産業、第三次
産業に吸収する自信がおありになるかどうか。戦前長きにわたって農業就業人口が一千四百万人の水準で固定化したことから判断して、現在の減少傾向がそのまま二十年間継続すると推測することは、あまりにも他力本願の危険な見通しではないかと思うがどうか。私は、このようなやり方は、現在進行しつつある階層分化の法則に便乗した、弱肉強食の原理によって劣弱者を淘汰しようとする無責任きわまる態度であると思う。さらに、これらの零細農の
犠牲によって作り上げられた自立経営農家が、十分安定農家たり得るかといえば、すでに述べたごとく、依然として二重
構造の底辺の域を脱することができないとするなら、疑問を持たざるを得ないのであります。
愛媛県下の立間地区の例によれば、農家戸数三百六十戸、耕地面積四百町歩、うち果樹園三百町歩二戸平均一町一反のこの地区は、耕作規模に恵まれ、果樹農業として進んだ地区である。この立間地区が、昨年、地区の全農家で四十一の有限会社を設立し、経営共同体の強固な基盤の上に活発な営農活動を実施し、農業経営の過剰投資及び過剰
労働力の合理化、階層分化の防止、所得の向上等、数々の好結果をあげたことが報告されているのである。立間地区の例が示すように、農業の経営並びに技術の進歩は、必然的に経営規模の
拡大を必要とし、その方法として、経営の共同化が絶対の要件であることを農民の自主的創意によって実証したのである。答申案によれば、
構造政策の重点は、あくまでも自立経営農家の育成にあって、将来二十年くらいの間は、これにかわる経営形態は現われないだろうと判断している。協業組織または協業経営の農業共同化の方向については、望ましいという程度で、農協が自主的に取り上げることを期待し、積極的な育成は考えていない。会社形態の農業法人には多く期待できないとしている。このような考え方が今次の法律
改正に対しても大きく反映している。朝日新聞は、四月二十六日付の社説で、「自然発生的に作られた農業法人という私生児に、いやいやながら認知を与えるという態度で、農業
政策として、共同化法人を積極的に推進してゆくといった態度ではない」と指摘しているが、全くその
通りである。零細農克服の問題は、農業就業人口の自然減少による他力本願的危険な方法に重点を置くのではなく、農業共同化に対する農民の創意を尊重し、これを国の責任において積極的に
保護育成すべきであると思うが、総理の決意のほどを承りたい。
次に、法案の具体的問題について
関係閣僚に対して伺います。
その第一は、農業法人問題発生の直接
原因となった農家に対する課税についてである。さきに述べた
衆議院農林水産委員会の決議による税制
改正の
措置について、検討の結果はどうなっているか。所得税法を
改正して、あらゆる農家の家族専従者控除を認める意思はないか。佐藤大蔵大臣に伺います。第二は、会社法人と特殊法人の
関係についてお尋ねします。
改正案は、会社法人と特殊法人の農業
生産協同組合と両者対等に使用貸借による権利及び賃借権の取得を認め、その許可基準については、自作農主義をくずさないため、厳格な
制限を加えている。しかしながら、今回の農業法人化の旨的は、農業経営の共同化によって、経営規模を
拡大し、
生産性の向上をはかり、農家の所得の増大と家族
制度の改革にまで及ぼそうとするにある。従って、純然たる農業
政策上の観点から実施するのであるから、当然、特殊法人の農業
生産協同組合に限って諸権利の取得を認め、
農地法の
制限をある程度緩和すべきである。この
生産組合に対しては、共同事業及び施設の助成、融資、税制上の特典、各種社会保険の適用等、積極的に
保護育成の
措置を講ずべきである。もし会社法人を認めるとしても、それは会社法人によるより方法がなく、やむを得ず発生した現存する会社法人に対して暫定的に認め、すみやかに
生産組合に改組するようにすべきであると考える。
政府が会社法人と特定法人とを対等に取り扱わなければならなかった
理由は何か。また、農業
生産協同組合に重点を置き、その
発展のために積極的に
保護育成する意思はないか。今後の方針を承りたい。
第三は、法人に対し取得を認める権利は、使購貸借による権利及び賃借権となっているが、創設地等は最初より
生産組合がみずから所有することが有利である場合等も考えられるので、
生産組合に対しては自作農の延長とみなし、特別に農地の所有権まで認める道を開いておくべきであると思うが、所見を承りたい。
第四は、法人の事業が農業及びこれに付帯する事業に限られているが、農業に付帯する事業とはいかなるものを考えているか。農協の事業のうちの施設事業のほとんどが法人の農業に付帯量る事業に該当するのでぽないかと思うがどうか。また、この
法律案では、
生産組合は総合農協の組合員と同格であるが、農協の全構成員が幾つかの
生産組合によって占められる場合や、農協の構成員と
生産組合の構成員と全く一致する場合もあり得ると思う。鑑産組合が
発展する場合、事業面においても組織面においても輻湊し、農協組織の改変が考えられるが、
政府は農協の組織問題について検討したか。方針を承りたい。
最後に、
農地法第八十条の
改正によって、開拓地の不用地等の旧地主べの売り払い対象の
拡大をはかり、さらに現在の不用地八万町歩に加え、政令
改正により十六万町歩の不用地の増加を
計画中のようであるが、このことは、今後の有畜農業の飛躍的
発展に伴い、従来の開拓適地基準を緩和しても未利用地の開発を実施しなければならないことと矛盾しないのか。未墾地取得のいよいよ困難になっているとき、一たん取得した未墾地は軽々に返還処理すべきでない。これをあえて
拡大しようとすることは、不用地返還に便乗した旧地主の圧力に屈したのではないかと疑われてもやむを得ないと思うが、菅野
農林大臣代理の
所信を承りたい。
以上をもって私の
質問を終わります。(
拍手)
〔
国務大臣岸信介君
登壇、
拍手〕