○小林英三君 ただいま議題となりました
昭和三十五年度
一般会計
予算、
昭和三十五年度特別会計
予算及び
昭和三十五年度
政府関係機関
予算の、
予算委員会における審査の経過並びに結果を御報告申し上げます。
昭和三十五年度
予算は、最近におきまするわが国経済の順調な発展と、貿易為替の自由化推進の必要とにかんがみまして、財政面から景気に刺激を与えることを避け、経済の安定的成長を持続することを基本方針といたしまして、大体次のように編成されているのでございます。
すなわち、まず第一には、健全財政を堅持する建前からいたしまして、公債発行等の
財源によることなく、
一般会計
予算については租税その他の普通歳入によって支弁し得る範囲にとどめるとともに、財政投融資につきましても、通常の原資によるほか、民間
資金の活用はこれを適当な規模にとどめることといたしておるのでございます。第二には、昨年発生いたしました大災害の実情に顧み、当面緊急に
措置すべき災害の復旧に万全を期することはもちろん、将来再びかような災害を招くことのないよう、抜本的な国土保全
対策を樹立することに最大の重点を置いているのでございます。
かくて
昭和三十五年度
予算の規模は、
一般会計におきまして一兆五千六百九十六億円余でありまして、前年度当初
予算に比し、千五百四億円の増加となっておりますが、
国民所得に対する割合といたしましては、前年度の一五・九%に対し一五%と、やや低下を示しております。また財政投融資計画におきましては、総額五千九百四十一億円でありまして、前年度の当初計画に比し七百四十三億円の増加となっておるのでございます。
以上のような規模を持った
昭和三十五年度
予算の
内容をきわめて重点的に御
説明申し上げます。
まず歳入面におきまする租税及び印紙収入は一兆三千三百六十六億円でありまして、前年度当初
予算に比し二千百五十四億円の増加となっております。このうち二千九十六億円は自然増収でありまして、残りの五十八億円が原重油などに対する関税の暫定減免
措置の改定または廃止による増徴分となっているわけであります。なお、
昭和三十五年度には、前年度に比し、
財源といたしまして使用し得る過去の剰余金等が八百五十八億円に上る減少を見ましたので、災害復旧、国土保全等
の重要経費を確保し、しかも、なおかつ、財政の健全性を堅持するため、減税の実施はこれを見送ることとし、引き続き税制
調査会において検討を続けることといたしております。
次に、歳出でありまするが、伊勢湾台風等、大災害の経験にかんがみまして、三十五年度
予算におきましては、災害復旧、国土保全に最重点を置いておりますことは、すでに申し上げた
通りでございます。すなわち、災害復旧につきましては五百八十一億円を計上し、所定の年度割に従い災害復旧の進捗をはかるほか、災害を未然に防止いたし、国土を保全するために、新たに治山治水の長期計画を樹立し、今後十カ年間に、治水事業につきましては九千二百億円、治山事業につきましては千三百億円、合計一兆五百億円に上る事業を遂行することとし、また、これらの事業を円滑に推進するため、新たに治水特別会計及び国有林野事業特別会計治山勘定を
設置することとしておるのであります。これら特別会計に対する繰り入れを含め、
一般会計の治山治水
対策費は総額六百三億円と、前年度当初
予算に比しまして二百億円の増加となっております。
このほか、道路、港湾等を初め、農業基盤の整備等につきましても、それぞれ
予算額の増加を行なっており、
公共事業
関係費全体といたしましては、総額二千八百八十九億円に上り、前年度当初
予算に比べますると五百六十六億円の増加と相なっておるのでございます。
次に、
社会保障関係費でありまするが、まず
国民年金につきましては、前年度に支給を開始いたしました無拠出の
福祉年金の支給の平年度化及び三十六年度から実施予定の拠出制年金の準備に必要な
予算措置を行ない、また、
国民皆
保険計画につきましては、予定の
通り三十五年度末におきましてこれを達成するよう、所要の
予算措置を講じておるのでございます。さらに生活保護費、児童保護、その他社会
福祉費、失業
対策費、結核
対策費等におきましても、
施策の充実をはかるため、それぞれ経費を増額いたしており、
社会保障関係費全体といたしましては、総額千八百十七億円に上り、前年度当初
予算に比べますると三百三十八億円の増加となっておるのであります。
防衛
関係費につきましては、わが国自衛態勢整備のため、防衛庁経費が前年度当初
予算に比し百二十五億円増の千四百八十五億円となっておるのでありますが、他方、新安保条約の締結に伴う防衛分担金の皆減等によりまして百十六億円を減少いたしておりまするので、防衛
関係費全体といたしましては千五百四十五億円と、前年度当初
予算に比しまして九億円の微増にとどまっているのであります。(「微増とは何だ」と呼ぶ者あり)
地方財政
関係費といたしましては、三十五年度の所得税、法人税及び酒税収入見込額の二八・五%に相当する地方交付税交付金二千八百三十五億円のほか、今回新たに右三税の〇・三%に相当する臨時地方特別交付金三十億円が計上されております。この特別交付金は、
昭和三十四年度におきまして実施した国税の減税に伴い住民税が減税となりまするので、地方財政の現況にかんがみ、この減収額を考慮いたしまして、当分の間、これを交付することとしたものであります。なお、地方財政につきましては、地方起債ワクの大幅拡大並びに特別会計にかかる直轄事業分担金の現金納付化、すなわち、いわゆる交付公債制度廃止等の
措置がとられておるのであります。
貿易振興及び経済協力費につきましては、従来からの諸
施策の拡充に必要な経費を増額しておりますほか、日本輸出入銀行に置かれている東南アジア開発協力基金を振りかえ充当いたしまして、今回新たに特殊法人たる海外経済協力基金を設け、東南アジアに対する経済協力の一そうの進展をはかることといたし、また、低開発地域の経済開発を促進する
目的をもちまして新設を予定されておりまするところのいわゆる第二世銀への加入をも予定いたしまして、必要な
予算措置が講ぜられておるのであります。
このほか、中小企業
対策費、農林漁業、文教及び科学技術、住宅及び環境衛生等に関しましても、それぞれ必要な経費の増額、が行なわれておりまするが、特に不振産業の
対策といたしまして石炭業につきましては、その体質改善のための合理化
対策と離職者援護の
措置が講ぜられ、海運業につきましては、計画造船に関する市中融資につき利子補給を復活する
予算措置がなされておるのであります。
以上、主として
一般会計について申し上げたのでありますが、特別会計は、治水特別会計が新設されましたのに対し、これに吸収されることとなる多
目的ダム建設工事特別会計及び工事の完了による臨時受託調達特別会計の廃止があり、差引一つを減少することとなっておるのであります。
また、
政府関係機関といたしましては、医療金融
公庫の新設によりまして、その数を一つ増加することとなっております。
これら
予算三案は、一月二十九日
国会に
提出せられ、
予算委員会におきましては、二月四日佐藤大蔵大臣から
提案理由の
説明を聴取いたし、三月三日、
衆議院よりの送付を待ちまして翌四日から本審査に入りました。自来、
委員会を開くこと十七回、その間、二日間にわたりまして公聴会を、また、四日間にわたりまして分科会を開くなど、慎重に審議を重ねた次第であります。
申すまでもなく、
予算委員会におきまする
質疑は、
政府の施政全般を通じ、きわめて広範多岐にわたったのでございまするが、以下、そのうち若干のものにつきまして簡単に要旨を御報告いたしたいと存じます。
まず、
予算の性格につきまして、「
政府は財政面から経済に刺激を与えないということを基本方針としていると言うが、三十五年度の経済成長率六・六%に対し、国の
予算は二%の伸び、財政投融資は一四・三%の伸び地方財政は一五・六%の伸びというように、財政規模が相当大幅に拡大しており、はたして
政府の方針
通りになっているかどうか疑問である。かりにこの程度の財政規模は過大でないとしても、少しも減税を行なわず、歳入の限度一ぱいに歳出を膨張せしめたことは、後年度における経費の著しい当然増を必至ならしめ、財政の弾力性を失わしめるものではないか。ことに防衛庁には九百億円以上の国庫債務負担行為が計上されており、今後防衛費の増大が著しく他の経費を圧迫するようになるのではないか。また、
政府は今後減税に努めるとは言っておるが、三十六年度に必ず減税すると確約できるか。」などの
質疑がありました。これに対しまして、佐藤大蔵大臣から、「
昭和三十五年度
予算が健全財政の建前を堅持していることは言うまでもなく、地方財政についても同一の方針によっているのであり、国の財政と地方財政の純計の
国民所得に対する割合を見ても、三十四年度の二四・二%に対し、三十五年度は二三%に低下しており、健全かつ適正な規模を保っている。財政投融資についても通常の原資と適当な規模の民間
資金でまかなっており、これを弾力的に運用することによって経済の安定成長を期し得ると思う。防衛
関係費は三十五年度において
予算総額の九・八%を占めているにすぎないが、今後とも民生安定に重きを置き、防衛費が他の経費を圧迫しないよう十分留意するつもりである。三十五年度に減税が行なえないことはまことに残念であるが、現在の経済好況がこのまま持続すれば、三十六年度においても相当の自然増収を期待できるし、国費全般にわたる節約等をもあわせ
考え、税制
調査会の
結論とも相待って、三十六年度にはぜひとも減税を実施したい
考えである。」との
答弁がありました。
防衛問題につきましては、「わが国は、新安保条約により、相互防衛並びに防衛力増強の義務を負うことになると思うが、これは
憲法違反ではないか。また、もし
政府の言うように、防衛力についてわが国が自主的に
決定するというのであれば、防衛力の漸減もまた可能ということになり、その場合には条約違反となるのではないか。」との
質疑があり、岸
内閣総理大臣から、「新安保条約第五条の相互防衛は、日本領土内の米軍が武力攻撃を受けた場合、それは日本そのものに対する侵犯にほかならないものであるから、それに対して日本が個別的自衛権を発動するという
内容のものであって、
憲法の
規定に違反するものではない。また新安保条約第三条は、従来日本がとってきている国力、国情に応じて防衛力を漸増するという基本方針に対して、何ら実質的に新たな義務を加重するものではない。日本が自分の国をみずから防衛するという
考え方を捨ててしまわない限り、そのときどきの国際情勢や国力、国情により、現実の防衛費や人数等が動くことがあっても、条約第三条の
規定と直接の
関係はない。」との
答弁がありました。また、「
政府は武力攻撃に対処する行動には外交交渉等は含まないと言っているが、この場合、武力行使以外には、その他の方法で平和的に解決する余地は全くないものであるかどうか。また竹島はわが国の領土でありながら韓国によって不法に占拠されているが、かりにこの条約が発効した際にはどうなるのであるか。また、将来竹島問題と同様の事件が発生した場合には、第五条が発動されるのであるかどうか。」との
質疑に対しまして、岸
内閣総理大臣、藤山外務大臣及び赤城防衛庁
長官から、「第五条に言う武力攻撃は、国連憲章第五十一条の武力攻撃であるから、当然武力をもってそれを排除するとともに、直ちに国連安保理事会に報告することとなる。それ以外の広義の武力攻撃の場合におきましては、第四条の協議によって対処するわけで、むろん外交交渉の余地があり、あとう限り平和的に解決すべきは当然である。竹島問題はすでに八年以前に起こった問題であり、日本は終始一貫外交交渉によって平和的にこれを解決しようと努力しているものであって、第五条に該当する問題ではない。しかしながら、将来竹島と同じように日本の領土が外国の侵略を受けた場合においては、当然第五条が発動される。」との
答弁がありました。
国民所得倍増計画につきましては、「
昭和三十五年度
予算には、所得倍増計画は何ら織り込まれていないではないか。普通の長期経済計画と区別して、特に所得倍増計画と銘を打つ以上、単純に十年たてば
国民所得が倍になるというだけで、
国民経済の構造的変化を
意図しなければ、それは単なる
選挙用のキャッチ・フレーズにすぎないではないか。現状のまま
国民所得を倍増すれば、貧富の差、所得の格差はますます増大すると思うが、これはどうするつもりであるか。また、農家や公務員の所得はどうなるのであるか。」などの
質疑に対しまして、
関係各閣僚から、「
国民所得倍増計画は、ただいま経済
審議会に諮問中で、まだ
結論を得ていないので、三十五年度
予算に所得倍増計画を織り込んだとは言いかねる点もあるが、しかし、所得倍増の基本的な
考え方に沿い、その基礎条件を整備するよう
予算を編成したつもりである。経済の成熟に伴い、高い成長率を維持していくことがますます困難となるので、十年間に
国民所得を倍増することだけでも必ずしも容易ではないが、同時に、
内容的には各種の所得格差をなくする工夫をしなければならない。地域的な格差に対しては、いわゆる後進地域の開発をはかる必要があるが、後進地域は農業を主としているので、農業と他の産業との格差を解消していくことが最も肝要である。農業基盤を強化し、その
生産性を高めると同時に、その過剰
労働力を他の産業に吸収していけば、農家一人
当たりの所得についても倍増は必ずしも不可能ではない。また公務員の給与については、民間給与との比較に基づく人事院勧告を
政府が尊重するという方針に変わりはない。しかし所得倍増計画そのものは、目下せっかく審議中の段階であって、六月ごろまでに正式に
決定いたしたい。」との
答弁がありました。貿易・為替の自由化につきましては、「自由化によって、わが国の経済、産業はきわめて重大な影響を受けることとなるが、これに対してどのように対処するのであるか、なかんずく最も深刻な打撃を受ける中小企業や農業についての
対策はどうであるか。貿易自由化で国内の後進産業の保護育成は関税だけに頼らなければならなくなるが、関税
政策をどうするつもりであるか。自由化実施の具体的な段取りはどうであるか。またわが国の外貨準備がどれくらいになればIMFから貿易
制限の撤廃を勧告されることになるのか。」などの
質疑に対しまして
関係各閣僚から「貿易・為替の自由化は世界経済の大勢であって、ことに貿易に依存する程度の多いわが国としましては、貿易・為替が自由になることが経済発展の上から望ましい。自由化の影響は、大企業よりも資本的技術的に脆弱な中小企業に大きいので、中小企業自体の
近代化や組織化を促進するとともに、商工会法あるいは中小企業業種別振興臨時
措置・法等、新規の
施策により、中小企業へのしわ寄せをできるだけ緩和するようにいたしたい。農産物の自由化については、各国とも慎重な態度をとっており、わが国としてもその実施には特に慎重でなければならぬと
考えている。米麦と酪農製品については自由化しない。また砂糖についてもただいまのところ自由化する
考えはない。関税改正については、自由化に備えて関税の適正化をはかるため、さしあたり関税率
審議会に関税率の全面的検討をやらせる
考えである。いナれにしても貿易・為替の自由化についての総合的なスヶジユールは五月中に作成する方針である。なおIMF規約第八条国になるかならないかの点であるが、外貨準備について格別の基準はなく、外貨手持のほか各国の国情も考慮せられるのであり、わが国が今直ちに第八条国になるような勧告を受けることはないと思う。」との
答弁がありました。
災害復旧と国土保全につきましては、「昨年の伊勢湾台風等災害の復旧事業は順調に行なわれているかどうか。さらに、
昭和三十五年度は災害復旧事業の最盛期に当たるが、はたして円滑に行なわれるように
措置されているかどうか。また
政府はこのような災害を未然に防止するための抜本的な国土保全
対策を推進するといっているが、二十八年の大災害直後の膨大な治山治水基本
対策がそのまま立ち消えとなった実例もあり、今度は、はたして完遂する自信があるかどうか、また治山治水について建設省では治水特別会計を新設し、補助事業まで一括して遂行するのに、
農林省では国有林野事業特別会計の中に治山勘定を設けただけで、しかもその勘定に国有林の治山事業を含めていないのはどういうわけであるか。治山事業一体化の
趣旨から国有林も含めるのが
効果的ではないか。また治山治水計画等で激増した
公共事業を地方
団体がはたして消化できるか。」などの
質疑に対し、村上建設大臣から、「三十四年に発生した災害の復旧事業は順調に進んでおり、三十四年度末における進捗率は二七・四%であり、三十五年度の
予算措置により、同年度末には六七・一%の進捗率を達成できる。
昭和二十八年、治山治水
対策協議会で
決定された基本
対策要綱は、はかばかしく実施されていないので、あらためて
昭和三十五年度を初年度とする長期計画を策定することといたした。しかも、これは従来の
関係各省の申し合わせ程度のものではなく、治山治水緊急
措置法により、閣議で
決定されるものであって、財政上の裏づけもあるので、この計画は完全に実行できるものと確信している。」との
答弁がありました。また、福田
農林大臣からは、「国有林野事業特別会計に事業勘定と治山勘定とを設けたのは、国有林と民有林とは、そのやり方が基本的に違うので、これを区分すると同時に、一つの特別会計内に置くことによって、彼此融通の便宜もあるので、このようにしたのである。」との
答弁がありました。また、石原自治庁
長官からは、「
公共事業の地方負担については、地方財政計画に盛り込んであるが、貧弱
団体の中には、
現行の負担率では消化に困難を感ずる一向きもあるので、交付税等の傾斜的
配分などにより
措置する
考えである。」との
答弁がございました。
以上のほか、新安保条約に関連しての極東の範囲並びに事前協議、日中
関係の打開、北方領土、日ソ漁業交渉、フィリピン賠償及び経済協力、ILO条約の批准、三井三池炭鉱争議等の諸問題につきましても、活発なる
質疑が行なわれたのでございまするが詳細は
会議録によって御
承知を願いたいと存じます。
かくて、本日をもちまして
質疑を終了し、討論に入りましたところ、
日本社会党を代表いたしまして鈴木
委員が
反対、自由民主党を代表して小柳
委員が
賛成、
民主社会党を代表して松浦
委員が
反対、参議院同志会を代表して森
委員が
賛成、日本共産党を代表して岩間
委員が
反対の旨、それぞれ述べられました。
討論を終局し、採決の結果、
予算委員会に付託されました
昭和三十五年度
予算三案は、いずれも多数をもって原案の
通り可決すべきものと
決定した次第でございます。
以上御報告申し上げます。(
拍手)
〔相澤重明君発言の許可を求む〕