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1960-04-07 第34回国会 参議院 法務委員会 第13号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十五年四月七日(木曜日)    午前十時五十三分開会   —————————————  出席者は左の通り。    委員長     大川 光三君    理事            井川 伊平君            後藤 義隆君            高田なほ子君    委員           大野木秀次郎君            津島 壽一君            林田 正治君            千葉  信君            市川 房枝君            辻  武寿君   政府委員    警察庁保安局長 木村 行藏君    法務省刑事局長 竹内 壽平君    法務省矯正局長 渡部 善信君   事務局側    常任委員会専門    員       西村 高兄君   説明員    法務省刑事局青    少年課長    長島  敦君    厚生省社会局生    活課長     中村 一成君    労働省婦人少年    局婦人課長   高橋 展子君   —————————————   本日の会議に付した案件刑法の一部を改正する法律案(内閣  送付、予備審査) ○検察及び裁判運営等に関する調査  (売春対策に関する件)   —————————————
  2. 大川光三

    委員長大川光三君) ただいまから法務委員会を開会いたします。  刑法の一部を改正する法律案を議題に供します。  御質疑のある方は御発言を願います。
  3. 井川伊平

    井川伊平君 不動産侵奪罪関係でお伺いするわけでありますが、現在の不動産不法占拠実情につきまして、その代表的な形態はどういうものであるかということを、一応先にお伺いいたしたいと思います。
  4. 竹内壽平

    政府委員竹内壽平君) 不動産の、不法占拠実情といたしましては、前回もちょつと申し上げたところでございますが、最も多いものは土地に対するものでございましてこれを大きく類別いたしますると、三種類あろうかと存じます。その第一数型は、罹災その他特別の事由によりまして、小学校の校庭などに一時的に収容された者が、そこにバラックなどを建設して、そのまま居すわって移転しないもの、こういう形で不法占拠がなされておるものでございます。それから第二数型といたしましては、借地権または地上権によって家屋を築造してここに居住している者が、借地権等の消滅または契約期限の満了によって明け渡しを求められ、訴訟によって敗訴になったにもかかわらず、なおかつこれを明け渡さずに強引に占拠を続けておるもの、こういう類型でございます。それから第三の類型といたしましては、駅前その他商業などを営む上に有利なあき地を見つけまして、何らの権原もなしに、ひそかに建物を建ててこれを占拠し、土地所有者など正当な権原を有する者の請求があっても、なおかつ占有を継続して明け渡し請求に応じない、こういう種類の類型でございます。本法が必要だとされますのは、この第三の類型に属するものに対してでございます。
  5. 井川伊平

    井川伊平君 そうしますと、今申されました第一、第二両類型のものは、今回の法の改正によりましては、別に何らの取り調べ等対象にはならないで済むということになるわけですね。そして、それは何らかの方法で解決するというお見込みがあるわけでございよしょうか、そうした点についての御意見を承りたいと思います。
  6. 竹内壽平

    政府委員竹内壽平君) 第一の類型にあげましたものは、これはまあ過去の終戦直後の状況から発したものが多いのでございまして、この種の案件は今も存在しておると思うのでございますが、これは厚生福祉の事業といたしまして、あるいは国または地方公共団体において適当な住宅を提供する、その他いろいろな行政の施策と相待って解決をしていくべきものが多いかと存じます。  第二の問題も、すでに係争にはなっておりましても、借地権または地上権といったような権利関係が存在するものでございまして、このような問題を後になって刑法的に規制をいたしますことは、これまた適当でないのでございます。  それから第三の類型に当たりますものが、それではすべて本法適用を見るかと申しますと、これも趣旨説明の際に申しましたように、過去に起こったこの種の不法占拠に対しましては、不遡及原則によりまして、過去のものにまでさかのぼって本法適用するということは、これまた立法政策上適当でございませんので、将来に向かって第三の類型に属するような事犯に対しまして本法適用をするというふうに解しております。
  7. 井川伊平

    井川伊平君 第一類型にいたしましても、第二類型にいたしましても、過去の事実であります場合については、それは御意見通り、よくのみ込めるわけでございますが、過去の事実でない、将来の事実として、第一の類型、第二の類型もあり得る。たとえば、将来罹災の問題も生じましょうし、現在は賃借権なり地上権があっても、将来それが消滅して、その場合においてのいろいろ苦情等考えられますから、過去の事実であるという事柄によりまして第一類型、第二類型問題外に置くということの理由説明に私はならぬように思う。それはやはり、過去の事実ないし将来の事実の第一類型、第一類型をどういうふうに見るか、犯罪成立するけれども情状からそういうものは取り扱わないようにしてほしいというのか、あるいはそういうものは絶対に犯罪にはならない趣旨であるか、その点を明白に願いたいと思う。
  8. 竹内壽平

    政府委員竹内壽平君) 第二類型の場合におきましては、将来におきましても、不動産侵奪構成要件に該当しない場合が多いのでございまして、犯罪成立を見る場合は稀有であろうと思いますが、第一類型のものにつきましては、動機はともかくといたしまして、事情によりましては、不動産侵奪に該当する場合があるわけでございます。このような、特に公有の土地に対する不法侵奪になるわけでございまして、もとより悪質なものにつきましては、不動産侵奪罪適用して処理しなければならぬと思いますけれども、このような案件につきましては、先ほど申したような事情が多いと思いますので、できるだけ他の方法、たとえば行代執行法等によって区切りをつけていくといったようなことも、行政庁としては当然とるべき措置であろうと存じますし、それを強行いたします場合も、受け入れ態勢を整えてやるといったような行政的な配慮が必要であろうかと存じます。
  9. 井川伊平

    井川伊平君 そうしますと、先ほど申されました土地侵奪についての第一類型、第二類型のものは過去の事実であるばかりでなく、将来の事実といたしましても、本法対象にはならぬという、こういう御趣旨ですね。簡単に承ります。
  10. 竹内壽平

    政府委員竹内壽平君) 対象にしないというのではなくて第二類型犯罪成立しない場合が多いと思います。  それから第一類型の方につきましては、犯罪成立する場合もありますが、場合によっては侵奪罪適用しなければならない事例もあろうかと思いますが、事柄性質上、今申しましたように、行政庁行政措置に負うべきところが多いんじゃなかろうかという趣旨で申し上げたわけでございます。
  11. 井川伊平

    井川伊平君 この第一類型の方につきましては、犯罪になる場合と、ならぬ場合があるというのはどういうような相違になりますか。情状の点について起訴するとか、せぬとかというような取り扱いは、それはいろいろ行なわれるだろうと存じますけれども罹災等によって校庭とか公園というような所を使う場合、犯罪になる場合と、ならぬ場合とがあるというその区別を明白に承りたい。
  12. 竹内壽平

    政府委員竹内壽平君) 罹災その他特別の事由によって校庭その他を使う場合には、事柄性質上、一種の緊急避難的な行為と見られる場合もありましょう。まあ全然管理者の承諾がないとしましても、今申しましたように、緊急避難的な行為と見られる場合もありましょうし、多くの場合には、長期間ではないにいたしましても、一時的に許諾を受けておるというふうに見られる場合が多かろうと存じます。そのような場合には侵奪ということに当たらないわけでございまして、犯罪成立を見ないことは当然でございますが、今緊急避難的な行為であって一種の使用的な占拠であるか、あるいは本法に言う侵奪に該当するかというようなことになりますると、犯罪の成否の問題として申し上げておるわけでございますが、成立する場合もあるし、成立しない場合もある。かりに成立いたします場合にも、さらに諸般の事情考えて処理しなければならぬ事例が多かろうと存じます。
  13. 井川伊平

    井川伊平君 次に別の問題について、不動産侵奪の違反の行為は一般的にいわれる自然犯に属するものであるかあるいは法定犯的な性格を有するものと認むべきか、この点について御見解を承ります。
  14. 竹内壽平

    政府委員竹内壽平君) 不動産侵奪罪は、いわゆる法定犯というのではなくて、私どもの理解しますところでは、自然犯であるという考えでございます。
  15. 井川伊平

    井川伊平君 自然犯的な性格のものであるといたしますれば、戦前、戦後を通じまして、今日までこの種の犯罪を放置しておいたという理由はどこにあるのかという問題であります。あるいはこの措置をとることが非常な困難であったとすれば、どういうふうに、どういう点が困難であったか。また今まで放置してありましたものを、今日におきましてこれを取り上げて法の一部を改正しなければならぬという特別な、過去の事実と違った急場な事情の生じたその内容はどういうものであるか承りたい。
  16. 竹内壽平

    政府委員竹内壽平君) 自然犯考えておりますけれども自然犯的なものであっても、構成要件犯罪類型として刑法規定してない場合に処罰できないことは申すまでもないところでございますが、しからば、なぜ過去五十年間にこの種のものを処罰する必要がなかったのか、あるいはあったにかかわらず規定を設けなかったかという御質疑に対しまして、私どもは、大体次のように考えておるわけでございます。今日私どもが目に触れますような不動産侵奪行為は、戦後の申さば特殊な現象として現われてきたものでありまして、戦前にはあまりなかったのではないかという考えでございます。このことは、戦前におきましても、不動産窃盗ということで、学者の間に、少数ながらも牧野英一博士を中心として主観主義刑法を唱える学者の中に議論があったのでございますが、その論議の際に設例としてあげておりますものを見ますると、土地の境界をずらして隣地を取り込む、こういうのが不動産窃盗の適例であるというふうに述べておるのでございましてこのような事例学者考えてそういう議論をしておったように見られるのでございますが、戦後の不動産不法占拠の実態は、先ほど申しましたように、この隣地土地を取り込む場というのもその例でございますけれども、多くは勝手に空地に乗り込んでいって家を建ててしまって動かない、こういう形の占拠の仕方でございまして、戦前学者が想像しておりましたような類型不動産窃盗とはすこぶる形の違ったものになっておるのでございます。この戦後新しい形態不動産侵奪に対しまして、前回委員会でもちょっと申し上げたつもりでございますが、これは一時的な現象だというふうに見られるか、なお今日もこういう状態が続いて、これは放置できないかという認識でございますが、私どもは、単なる戦後の一時的な現象で、だんだんよくなってもとへ戻るんだというふうな考えではなくて、やはり今日もそういう事態が、頻発はいたさないにしても、決して少なくないという、こういう認識に立ちましてしからばこれに対して法的手当を加えていかなければならぬという考えで、この立法をいたすようになったわけでございまして、自然犯でありますけれども、なお、そういうような事情から、立法が今日におくれてきておるというふうに私ども考えておるのでございます。
  17. 井川伊平

    井川伊平君 別のことでありますが、ただいまのお話にありました不動産窃盗の問題、これはお説にもあったように、判例は、その不動産窃盗罪消極解釈をしておるし、学説は積極と消極に分かれておるし、また裁判検察の実務につきましては、消極説をとっておりますことは言うまでもありませんが、政府としては、今日どういうふうな御見解をお持ちなんですか。やはり不動産窃盗は成り立たないという考えですか、成り立つという考えでありますか。この御見解を承りたいと思います。
  18. 竹内壽平

    政府委員竹内壽平君) その点につきましては、側々の学問的な見解は別といたしまして、政府考えとしましては、いわゆる刑法二百三十五条の「他人財物搾取シ…」という中には、不動産は含まれないという解釈でございまして、今そういう解釈をきめたのではなく、過去五十年間そういう解釈に立っておったというふうに考えておる次第であります。
  19. 井川伊平

    井川伊平君 そうしますと、今日においてもやはり政府としましては不動産窃盗罪成立しないのだという御見解なんですね。
  20. 竹内壽平

    政府委員竹内壽平君) その通りでございます。
  21. 井川伊平

    井川伊平君 そうしますと、多少の疑問が生じますのでお伺いいたしますが、なぜ成立しないかというこの点について承るわけでありますが、この刑法二百三十五条の窃盗罪規定に、この犯罪成立するためには、物を人の気のつかないうちに、ひそかに、所有権占有——他人占有を排除して自己支配下に移す——その行為がひそかに行なわれるということ。あるいは物の置いてある場所移転するということが必要である。こういうことであるとすれば、不動産については不動産場所移転ということも困難でありましょうし、大きいものでありますから、ひそかにこれを奪うというようなことも困難だろうと存じますが、もし刑法二百三十五条にいう「窃取」という言葉のうちに、場所的な移転の必要もない、また、ひそかに、こっそりとやらなければならぬということも必要がない、単に他人占有を排除して自己支配下に移すだけで足りるのだ、こういうような見解を取るとすれば、不動産についても窃取は成り立つと思いますが、不動産について窃取は成り立たないのだという根拠があるとすれば、今申しましたひそかにであるとか場所移転であるとか、あるいはその他にいろいろありましょうが、そういう点について、こういうわけだから成り立たないと思うのだというその御見解を承りたい。かように存じます。
  22. 竹内壽平

    政府委員竹内壽平君) 私ども考えといたしましては、刑法二百三十五条の構成要件としまして、他人財物それから窃取、このことでございますが、この財物につきましては、従来の解釈といたしまして、動産も不動産も含まれるという解釈になっておるのでございまして、この点については、私どもも疑問を持っておりませんが、ただ「窃取」という構成要件の仕方、これはきわめて抽象的に書いてありますので、今御指摘のように窃という字はひそかにという字であるので、ひそかに取るというような、ひそかにということも含まれておるかどうか。取るとは単に権利の上で観念的に権利を取得することも入るかというような点は、いろいろ議論の存するところでございますが、この解釈としまして、ひそかにということは、前の判例等には、窃盗一つの重要な構成要件、ひそかに他人が知らないでいる間にひそかに取るというところが窃盗の重要な部分だという判例も実はあるわけでありますが、学者の説はそうではなくて、ひそかにということは窃盗場罪の根本的な問題じゃなくてやはり仰せのように所持を奪うということが窃盗の根本であるが、同時に、単に所持を奪うだけじゃなくて、奪われる対象になりますものが場所を移すということが、取るという概念から出てきますことで、場所を移して自分の支配の中に入れる、こういうことがこの「窃取」という観念である。従いまして場所を移すことのできない不動産につきましては、「窃取」というその「取」に該当するような行為を実現することができないという意味におきまして、不動産は、財物という解釈では、不動産も入るのでございますけれども、二百二十五条の「窃取」という構成要件の限定を受けます関係で、二百二十五条に言う財物の中には、不動産は含まれないという解釈になっているわけでございます。従って、不動産窃盗的な形態でこれを処罰しようという場合には、二百三十五条ではまかなえない。これに同じような、場所を移さなくても所持を奪うということを現わすような用語で犯罪類型を定めるほかは方法がないというふうに考えるわけでございます。
  23. 井川伊平

    井川伊平君 そうすると、なんですか、不動産窃盗か成り立たないのは、ひそかにという観念が伴わない。不動産窃盗を認めようとすれば、ひそかにという観念が伴わない。それから窃取したものの場所移転するという、そういう考え方が出てこない、だから二百三十五条には含むべきでない、こういうような御見解なんですね。
  24. 竹内壽平

    政府委員竹内壽平君) ひそかにということは要件でございませんで、場所を移すということが窃取には必要である。しかし場所を移すことのできない不動産については、窃取という観念を入れることができないということでございます。
  25. 井川伊平

    井川伊平君 一応あなたの御見解として承っておきましょう。  次には、また別なことでございますが、今次の改正は、他人不動産不正使用を防止することを目的とするものと解釈されますが、不正使用は本来行為継続性を本旨とするものである、この点から考えますれば、継続犯として構成されるべきであったと解釈されますが、今回の改正は、どういうわけで即時犯として構成されるという御見解をおとりになったのでありますか
  26. 竹内壽平

    政府委員竹内壽平君) 即時犯という考え方をとりましたのは、これも前回委員会で私るる申し上げたところでございますが、第一には、今回は刑法の一部改正でございまして、関係の条文につきましては、過去五十年間学説の発展もございますし、幾多判例を積み重ねておりますので、これらの判例学説のほとんど確立した解釈というものに、立法的に大きな疑問が生ずるようなことが起こらないように立法をいたしたいという考、えが一つでございます。しかし、これは第一の目的ではございませんので、最も大事なことは、刑罰法令の不遡及原則を貴いていくということでございます。刑罰法令は申すまでもなく将来に向かって罰すべきものでありましてそういう法律ができる以前の行為にさかのぼって適用を見るような立法形式は、立法政策上も立法技術上も適当でない、こういう考え一つ持っております。かような第二の理由でございますが、さらには、今仰せのように不正に使用するということになりますと、不法占拠という形で犯罪類型をとらえなけれ麺ならぬわけでございますが、不法占ざ拠という形にいたしますと、仰せのように、継続犯的なものになるわけでございますが、しかも継続犯的なものになるというだけではございませんで、幾多法律上の疑問がそこへ出てくるわけです。その一つは、不法侵入との関係はどういうことになるであろうかということ、それから、もしそういうふうになって参りますると、民法との関係におきまして、不法占有しているという状態は、賃借権期限が満了した場合、あるいは契約が解除された場合等におきまして、すぐ不法占有しているという状態がそこに出てくるわけですが、こういう場合には、民法民事訴訟によりまして占有の回復をはからなければならぬわけでございますが、それが同じ行為が同時に犯罪になるということになりますると、ここに刑事民事との関係におきまして、こんがらがったものが出てくる、そういうおそれもあるわけでございまして、法執行者のいろいろな考え方も考慮いたしますると、そういうようなむずかしい法律問題がまずあるというようなことは、取り締まりの実効をおさめて参りまする上からも適当でございません。で、事柄窃盗類型犯罪であるということになりますれば、これは学説判例もきまっておりますし、法を執行しますものも窃盗と同じように考えていくということで、この点は多くの指示をするまでもなく、割合にはっきりしていることでございまして、法律適用上も疑義を生ずる余地がないというようなことをいろいろ考えました末に、窃盗的な類型不動産侵奪というものを考えたわけでございます。
  27. 井川伊平

    井川伊平君 ただいまのお話にありましたように、継続犯というような見解をとると、過去にできた事実が現在も継続しているというようなわけで犯罪成立するというようなことは、罰則規定遡及の問題にかかってくるからおもしろくないというお話趣旨のようでございましたが、その御心配は、何か立法上特別の考え方で、その弊は防ぐことができるのではないか、こう考えることが一つと、従って、もし救われるものであるといたしますれば、罰則規定遡及のおそれはないということになるわけでありますから、これを即事犯にするところの根拠にはならないように考えられますが、いかがであるか。  もう一点。これを即事犯、こういうような見解をとりますと、建物侵奪罪住居侵入、こういう犯罪との場合の区別が、境がはっきりつかない、どちらかわからないというような不明確さを生ずるおそれがあるのではないか。二点につきましてお伺いします。
  28. 竹内壽平

    政府委員竹内壽平君) 立法技術的に、継続犯という類型をとりましても、過去にさかのぼらせないでやるという方法があるかないかという点につきましては、これは私、立法技術的には不可能ではないと思うのでございます。それはよく承知をいたしました上で、あえて即事犯的な類型をとったというふうに御理解を願いたいわけでございます。  第二の点でございますが、いわゆる不法侵入というようなものと区別がつきにくくなってくるということを申しましたのでございますが、もう少しこれを法律的に申しますと、一体この不法占拠という類型犯罪は、財産犯罪であるのか、どういう犯罪なんだ、不法侵入という言葉は、住居の平穏を保護するというふうにいわれている、住居並びにそういったような状態の平穏を維持するということを目的とする、つまり保護法益というものは、そういう平穏ということを一応対象にしているのでございますが、不法占拠というのは、その平穏を保護しようとするものであるのであるか、これはやはり所有権賃借権地上権といったような、もっと突っ込めば所有権に結局はなると思いますが、そういうものの侵害、つまり財産権侵害に対して、これを保護しようとする規定と見るかというようなことによりまして、その体系的位置も異なってくるわけでございます。私どもとしましては、やはりこの不法占拠は、一番突き詰めていきますと、やはりこの財産権保護するというのが目的であるのじゃないかというふうに考えるわけです。なるほど状態、形の上からいいますと、不法占拠されておるというところが困るので、盗まれてしまったというようなことじゃなしに——現象的には見えるのでございますが、それを突き詰めて参りますと、やはり財産権侵害に対する保護を求めておるというのが、この秘の不法占拠に対する保護足らないところを補ってほしいという声の中は、やはり財産権に対する侵害だという考えに立っているように思うのでございましてまあそういう点からいたしますると、保護法益が何であるかということを明確にいたしますためには、不法占拠の形をとらないで、不法侵奪のいわゆる侵奪罪という形をとった方が、その点も法律観念として明確になるのじゃないかと考えます。
  29. 井川伊平

    井川伊平君 ただいまの後半のお答えは、住居侵入不動産侵奪罪とが法益が違うということであり、そうしてその法益が違うということが、事実不動産に対してある行為が行なわれた場合に、これがどの法益侵害されているかという問題は、結局は範囲の問題になってしまうのではないかと存じますが、さようですか。
  30. 竹内壽平

    政府委員竹内壽平君) 仰せのように理解することができると思います。要するに、範囲といたしまして不動産侵奪の場合には、不法領得意思が必要だということになりますし、ただいまの住層侵入の場合には、そのような意思は必要としないわけでございます。
  31. 井川伊平

    井川伊平君 次に別の問題をお伺いいたします。次にお伺いいたしますのは、結局、侵奪ということの意味についてだんだんと伺うことになるわけでございますが、当局の御説明によりますると、侵奪というのは、不法領得意思をもって不動産に対する他人占有を排除し、これを自己支配下に移すことである、実質的には窃盗における窃取と同じ意味であるとされているが、侵奪窃取が本質的に同一の意味の内容のものであるとすれば、侵奪という新しい用語を用いたとしても、実質的には不動産について侵奪罪成立を認める結果となり、不動産には本来窃盗罪成立しないという考えとの間に矛盾を来たすように一応私は考えて参りましたが、これは先ほどの御説明によりまして、物を取るというのは、その物の場所的の移転を必要とするという御見解をとっておられる、それだからして、不動産には、家でも土地でも場所変動がない、だから成立しない、こういうように承ったと存じますが、そう解釈してよろしゅうございますね。
  32. 竹内壽平

    政府委員竹内壽平君) その通りでございます。
  33. 井川伊平

    井川伊平君 この不動産侵奪と、それから二百三十五条の「窃取」との、この両者が、今申したような趣旨において異なるものであるということになりますと、その異なる点については、先ほど申されました場所的の移転が一方不動産ではできないし、他のものにはできるのだということだけでございますか。また、それ以外に何らかの意味がございますか。それだけならそれだけでよろしいのであります。承っておきます。
  34. 竹内壽平

    政府委員竹内壽平君) それだけでございます。
  35. 井川伊平

    井川伊平君 次に別のことをお伺いしますが、従来不動産に関する争い、すなわち妨害、排除、原状回復、それから損害賠償等については、民事訴訟によって解決すべきものとして、捜査当局においては、民事不介入の観念に基づき、刑事事件としての取り扱いに消極的であり、また起訴に至らない事例が多かったのではないかと考えられますが、その間の実情を簡単に御説明願いたいと存じます。
  36. 竹内壽平

    政府委員竹内壽平君) 民事事件には不介入という捜査当局の考え方について御指摘がございましたが、単なる民事事件であって犯罪にならないものにつきまして、みだりに嫌疑をかけて犯罪の捜査に籍口したような捜査活動をなすべきものではございませんので、特にこの不介入原則というようなものでそういう形になっておるものではないのでございます。しかしながら、犯罪になりますものは、従来といえども捜査当局はこれに関与しております。なるほど不動産侵奪罪という罪がございませんので、不動産侵奪罪として処理することはもとより不可能でございまするが、その前提となっております住居侵入あるいはその住居侵入に際しましてもし当事者間で暴行ざたがありました場合には、暴行脅迫あるいは暴力行為等処罰に関する法律あるいは器物損壊といったようなそれぞれの刑罰法令に照らしまして処理をいたしておるわけでございます。今御質問の点につきましては、単なる民事事件であって犯罪にならないものにつきましては、もとよりなすべきものではありませんし、やってもおりませんが、その前提となるいろいろな行為が、他の刑罰法令に触れます場合には、従来といえどもその処理をいたしておるのが現状でございます。
  37. 井川伊平

    井川伊平君 二百三十六条の強盗に関しまする規定の第二項の規定、これに基づきまして、先般の御説明によりますと、不動産についての強盗罪は成り立つのだ、それは第二項の方に関して成り立つのだという御見解でありましたが、今日までの実際実務として、起訴をされ、公判で有罪の判決を受けるといったような事柄につきましては、二百三十六条の二項は不動産につきましても適用されておったのですか。また適用された例は非常に多いんですか。
  38. 竹内壽平

    政府委員竹内壽平君) 二百三十六条二項につきましては、今御指摘のように私どもは解しておりますし、学者もその点につきましては、過去におきましても何ら異論がないところでございます。しからば、そのような事案について、実務の上において起訴しあるいは裁判を受けた例があるかという点につきましては、遺憾ながら私どもその実例に接しておらないのでございまして実は、先般も綿密をきわめたものではございませんが、一応今の点につきまして各検察庁から意見を徴してみたのでございますが、法律解釈につきましては、私どもと同じ考えを持っておるのでありますけれども、強盗罪ということになりますと、短期刑が五年ということでございまして、非常に重い刑に当たりますので、いろいろな刑事政策的な考慮から、強盗罪を適用しないで処理をしておる。もしあるとすれば、そういう処理をした方がいいと思うという意見を述べておった庁が多数の庁でございますが、中には、不動産窃盗成立しないという考えでありますので、不動産強盗も成立しないというような法律解釈をとっておって、そういう事案がかりに発生したとしても、そういう意味におきまして二百三十六条二項を適用をするという処理をしなかったであろうという意見を寄せた庁もあるわけでございますが、実例としましては、各庁とも報告をされておらないのでございます。
  39. 井川伊平

    井川伊平君 二百三十六条の二項について不動産の強盗という点が実際問題としては取り扱われなかったというこの事実は、不動産窃盗が成り立たない、不動産窃盗は無罪であるから、それで不動産窃盗と見られるべきようなことの民事事件の場合には、刑事事件として介入しない、こういうことに扱ってきたのであるということになろうかと存じますが、してみますると、強盗の場合のこの規定との関係におきまして、やはり何か不動産窃盗というものについては、特別の考え——今あなたが申されること以外に、何か考えがあって、それが二百三十六条の二項の規定の方にも、学説としては、あるいは今日普通考えれば当然適用されるべき規定であるけれども、それが適用して事件ができ上がらなかったのだということになりはしませんか。いかがでしょうか。聞き方がずいぶんまずい聞き方で、意味がわからなかったかもしれませんが、二百三十五条の窃取という事柄のうちに、不動産を含まないのだということから、そういうようなお考えと、二百三十六条の二項との間に特別の関係があるのではないかという趣旨です。今までの御説明で、何だかそこにちょっと物足らぬ点を感ずるから、お伺いするわけです。
  40. 竹内壽平

    政府委員竹内壽平君) 仰せのように検察実務といたしましては、一部の検察官は確かに御指摘のような考えを持っておる者があるようでございます。そのことは先ほど申し上げた通りでございますが、しかし、大部分の検察官は、解釈論としましては二百三十五条の中に不動産は入らない。従ってそれと同じ類型規定してあります第三百三十六条一項の強盗にならないことは、これは異論のないところでございますけれども、第二項の方は規定の仕方も非常に広くなっておりましてこういう二項に該当する不動産の強盗というものは、これは解釈上も従来もそういう場合があればその適用をして支障ないという考えを持っておるのが多いのでございます。ただ、なぜそれではそのような想像されます事例に対して、二百三十六条二項を適用しないのかということにつきましては、まあ実例をあまり報告されておりませんので、はっきり申し上げかねるのでございますけれども、刑が非常に重いわけでございまして、刑事政策的な考慮から、何も強盗で処理をしなくても、科刑の上においては、他のいわゆる脅迫罪あるいは暴行罪あるいは傷害罪、あるいは暴力行為等処罰二関スル法律等の適用によって十分科刑の目的を果たすというようなことから、あえてそういうものを二百三十六条にまで持っていく考えはないのだというような意見が多いわけでございます。ただ、しかしながら現実にそういう強盗なら二項強盗に当たるような事例がないのかといいますと、私は絶無ではないような気がいたすわけでございます。現に東京で死刑の判決を受けておる事例などを、老婆殺しの事件などを見ましても、犯人が一人老婆がおります家に強盗に入りまして、老婆を殺してしまって、その家に居すわってしまった。老婆がひとり者だということがわかったものですから、家財道具をどんどん売り払って二カ月くらいたつうちにほとんど売るべき家財道具もない。そこで文書を偽造しまして、家を第三者に売ってしまったという事例があるわけであります。これは人を殺すばかりではなく家から財物から皆取ってしまったわけでございますから、まさしくこれは動産につきましては、二百三十六条一項の強盗になりますし、不動産につきましては、二項強盗になる、老婆を殺した点につきましては、強盗殺人になるというようにも考えられるのでございますが、事案をよく見ますと、どろぼうに入った犯人は、初めからおばあさんがひとり者で、その家が所有物であってというようなことで、つまり、不動産を強盗しょうという考えはどうも初めはなかったようでございまして、後になって、要するに、事実上占拠してしまってから、他にこれを売却して逃げてしまおうという考えを起こしたというのが、証拠上はっきりしておるわけでります。従いまして、検察官は家を売った点につきましては、詐欺で起訴をいたしておるのでございます。こういうような事例は、見ようによりましては、今の第二項強盗に当たる事例に近いという感じを持つのでございますけれども、具体的事例としてそういう事例もあることを披露します。
  41. 井川伊平

    井川伊平君 民事事件との関係について、もう一点だけお伺いしておきたいと存じますが、今回の刑法改正によりまして、民事事件と刑事事件が交錯するような場合が非常にたくさん生じてくるのではないかと、かように考えるものであります。一例をあげますれば、甲が乙の請負師に頼みまして家を建てた。そうして代金はもらわなかったが、代金を後刻くれるというようなお話があって家を引き渡してしまった。ところが、金を払うということが、全然詐欺の意思に基づいてやったものであるというような場合に、請負師はその家を取り戻そうとする。元の注文者の甲はその家を手放すまいとするというようなことで、どちらが犯罪になるかわけがわからぬような、民事事件と錯綜した非常なごたごたしたような事件が生じやすくなると思いますが、こういう点について何かお考えありませんか。
  42. 竹内壽平

    政府委員竹内壽平君) 仰せのように、民刑の二つの法律体系が相交錯してくると申しますか、並行して存在すると申しますか、そういう状態が想像されるわけでございますが、しかし、考え方としましては、民事系統の救済手段というものは、一切この法律によって何ら一指も染めていないわけでございます。従って、従来民事訴訟として権利の救済を求め得る場合は、全部その道は残されておる、残されておるというか、当然なことでございますが、全部あるわけでございます。そのほかに、不動産につきましては、まあ窃盗的なやり方で不動産不法占拠したものについては、これは刑罰で処罰するということを、刑罰体系の中にそういう犯罪類型を設けることによりまして、保護を厚くするというだけにとどまるのでございまして、なるほど事実問題としては、両者が相交錯したような形で現われて参りますけれども、処理の点に至りましては、相互に権制し合うとかあるいはそのために民事訴訟を推進することがやりにくくなったとか、民事訴訟が妨害を受けるとかいったようなことは、絶対起こらないと思うのでございます。むしろ、まだ御質疑がございませんが、二百六十二条の二の、境界を不明にする罪を設けることなどは、まさしく民事訴訟において、境界か争いになってくるような場合に、一方において、こういう規定で境界というものが刑事的にも保護されておるということになって参りますると、民事訴訟の認否その促進等に貢献をすることがございましても、決して法律関係に紛更を生ずるというようなことにはならないというふうに考えておるわけでございます。
  43. 井川伊平

    井川伊平君 民事事件との関係について、もう一つ伺っておきますが、民事上の所有権移転等の対抗要件というような問題が、不動産侵奪罪性質について、いろいろ関係してくる場合があるのではないかと存じますが、こういう点につきまして、特段の御考慮が払われているかどうか。たとえば、不動産の二重売買のような場合でございますが、先に金も払い、引き渡しを受けた、移転登記だけを受けてなかった。ところが、登記は受けていないけれども、引き渡しを受けて事実上その土地を自分が占有しておる。その上に建物を建てようとするというような場合がありますね。ところが、そういう事情土地のもとの所有者が、もちろん自分のやったことでありますから知っておりまして第三者に二重にして売ってやって、そうしてあとから買った方の人に所有権移転されたといったような場合に、先の買取人は対抗要件がないために、自分のものにならなかった。そういうような場合が生じてくると存じますが、対抗要件との関係所有権移転等の対抗要件との関係において、本罪の性質につき、特段に御考慮になっている事実がありましたら承りたいと存じます。
  44. 竹内壽平

    政府委員竹内壽平君) 対抗要件の点は、本条とは一応関係がないわけでございます。すべて、刑法保護しようとしておりますのは、事実上の所持でございます。従って、事実上の所持所持として保護していこうというのが、刑罰で保護しようとする考え方でございます。今御指摘の対抗要件の点は、一応関係はないわけでございますが、今設例として仰せになりましたような、登記の対抗要件を備えた第二の買取人が、自分のものだからと言って入っていくという場合には、いわゆる刑法でいえば犯罪意思、犯意を持っていないわけですね。そういう意味におきまして、かりに第二の権利者が自分の土地だと思って、向こうにいる者こそそれこそけしからぬというつもりで入って行って、何らかの処置をしたというような場合に、入って行ったやつが不法侵奪になるのではないか、本法のいわゆる不法侵奪になるのではないかという疑念が起こってくるわけでございますが、形の上はそういうふうに見える場合があると思いますけれども、対抗要件を備えておるために自分のものだ、第三者に対抗できる権利を持っておるのだというふうに信じてやった行為でございますから、そういう場合には犯意がないといえる、犯罪にはならない、こういうことに処理されるわけでございます。
  45. 井川伊平

    井川伊平君 そうしますと、今の設例について、もう一ぺん承りたいのですが、最初に買い取つた人ですね、この人はその後、他の者が所有権移転の登記をして、二重売買の第二次に買い受けた者があるということを知りながら、第一次の買取人が一応土地を引き渡しを受けておるものだから、その後に建物を建てるというような方法で新たなる土地の使用方法を開始いたしましても、犯罪にはならぬわけですか。
  46. 竹内壽平

    政府委員竹内壽平君) 御質問の趣旨を私が取り違えておりましたらば、また重ねて御質疑を願いたいと思いますが、第二の対抗要件を持っておる者が、その土地あき地になっておるといたしまして、第一の買取人が、まだ登記はしてないけれども、自分はまさしく買い受けたものであるという意味で、そこへ建物を建てようとしたら、第二の権利者、登記を持った人がすでにその土地占拠しておるという場合に、第一の人が、これはもう自分が命を払って受取証も持っておるがということで入って行って、家を建ててしまったという場合には、ごたごたしてくるわけでございますが、第一の人も、ここに、法律的に申しますと、自救行為と申しますか、正当防衛というようなことが一応考えられますが、それとして処理できるものはそれとして、それとして処理できない場合に、第一の人は、この不動産侵奪につきましては、やはり犯意がないということになると思います。しかし、お互いに権利者だという二人が同じ場所について建物を建てる建てぬの争いになるわけでございますので、そこにあるいは暴力ざたが起こってくれば、これは暴力犯罪として処理しますことは当然でございます。ただ、もう一つ御注意を願いたいのは、二百四十二条の規定でございます。「自己財物ト雅モ他人占有二属シ又ハ公務所ノ命二因リ他人ノ看守シタルモノナルトキハ本章ノ罪二付テハ他人財物ト看做ス」という規定がございましてこれは、不動産につきましてもこの規定適用するように、今度所定の改正をすることになっております。従いまして自分の物でありましても、他人占拠しておる、そこへ行って取ってしまうということになりますと、この二百四十二条の解釈の問題としてその関係は処理していかなければならぬわけでございます。私はそういうふうに考えておるわけでございます。
  47. 井川伊平

    井川伊平君 私の質問が急所をはずれておるのかもしれませんが、もう少し具体的に申しますと、こう申したわけです。一定の不動産建物の建ってない不動産を賢い受けて金を払った、占有権の移転も受けてしまった、そして家を建てないままで占有しておった。所有権も移っておるのですが、とにかく占有しておった。ところが、その後に同じ土地を所有者がほかの人に売った、その方へ所有権移転の登記をしてしまった。この所有権移転登記をしてしまった事実を知りながら、最初に買った人が、今度は今までの土地利用方法とは別に、新たな建築をするのだという、変わった用法によってこの土地を使用する場合に、本罪が成立しないかと、こうお伺いしたわけです。ちょっとお答えがずれておるようであります。占有は継続しているのですが、その使用の用途が変わっておる。
  48. 竹内壽平

    政府委員竹内壽平君) 最初に、登記を持っておらない、代金を払って事実上引き渡しを受けた第一の買受人でございますが、その者が、その土地の上に使用方法の変わった——前は砂利置場として使っておったのを、今度は家を建てたという場合に、その家を建てたという行為不法侵奪になるかどうかということにつきましては、これは消極でございまして、犯意はございません。
  49. 大川光三

    委員長大川光三君) ちょっと関連して私から伺っておきたいのですが、先ほど引用されました二百四十二条の点は、真正な所有者の意思に基づいて占有が人に移っておるというような場合に適用されるのと、違いますか。どうも先ほどの御説明、ちょっとわかりにくいのですが、もう少し詳しく御説明いただきたいと思います。
  50. 竹内壽平

    政府委員竹内壽平君) ただいまの御指摘の点でございますが、この点なかなかデリケートでございますので、やや詳しく御説明を申し上げたいと思います。  自分の不動産でありましても、正当な権原によって他人占有する場合に、これを不法に自分の現実的な支配の中に取り込みます場合、これはまあ二百四十二条によって不動産侵奪罪が一応成立するという考えでございますが、この場合に問題となりますのは、不法侵奪された不動産、あるいは賃借権が消滅したにかかわらず依然として賃借入が占拠しておる不動産を、自力によって取り戻す場合でございます。この点は、理論的には窃盗の場合と同じでございまして、結局二百四十二条に定める「他人占有」の解釈の問題になると思います。その点は、今委員長の御指摘のように、ここにいう「他人占有」と申しますのは、正当な権原に基づく適法な占有を言うのであって、不法占有を含まないないことを、原則といたしておるのでございます。ところが、そうは言いながらも、しかも、民法上は適法でない占有であっても、場合によっては第二百四十二条によって保護される場合があるという態度にだんだん判例が変わってきておるのでございます。そこがデリケートな関係があると申し上げるゆえんでございます。たとえば、最近の判例でございますが、担保に供した年金証書を欺罔手段を、弄して取り戻した場合につきまして、かつてこの犯罪につきましては、詐欺罪の成立を否定しておるわけでございます。これは大正七年九月二十五日の大審院判例にそういうふうになっております。ところが、最近に至りまして、これを変更いたしましてたとえ当該債権者の担保権が無効であっても、詐欺罪の成立を積極的に認めておるのが、昭和十四年八月三十八日の最高裁の判例で出ておりましてこの判例を見ますと、前の大正七年の判例はこれによって変更されたのだというふうに申しておるのであります。この辺の事情は、学者も非常に注意しておるところでございますが、たとえこの所有者が無権利者から不動産を取り戻す場合でありましても、社会通念上無権利者の占有を一応尊重するのが相当であるというふうに考えられるような事態のもとにおきましては、その取り戻し行為がやはり不動産侵奪罪になることもあるというふうに解せられるのでございますが、不動産の所有者が不法侵奪された不動産を取り戻す場合には、一応この自救行為というものが考えられるわけでございますが、この自救行為として、法律に固有の権利として認められる場合を除きましては、その侵奪を受けた、不法占拠された直後にやるという場合には一種の自救行為、それから少し離れましても、それに接近した時期にやります場合には、おそらくそれは不動産侵奪罪は否定されると思うのでございます。しかし、その他の罪に触れる行為があれば別でございまするが、自救行為としてではなくて、一種の自分のものを自分が持ってくるという意味において、否定されると思いますが、その不法占拠が長年月にわたって——民法規定によれば、二十年間占拠しておれば所有権を取得するという時効取得の規定もあるわけでございまして、五年なり十年なりその不法状態を所有者が黙認しておるというような形が社会通念上認められます場合には、今この法律ができたから一つ取り戻してやれというようなことで、所有者が取り戻しにがかったというようなことになりますと、やはり自己のものといえどもというこの二百四十三条の規定によりまして、不動産侵奪罪を積極的に解しなければならぬようなここになるのじゃないか。要は、その辺の社会通念によって決するという考え方と、判例が若干変わりつつあるというようなところも考慮に入れましてお答えを申し上げるほかないと思います。
  51. 後藤義隆

    ○後藤義隆君 ちょっと簡単にお聞きしますが、占有を離れておる不動産ですね、占有者がない不動産を、侵奪とい言葉がそのときに当たらないかもしらんが、とにかく無断でそこへ行ってそれを占有しても、これには全然当たらないですね、この法律には違反しないですね。
  52. 竹内壽平

    政府委員竹内壽平君) ただいまの御質疑でございますが、動産につきましては占有を離れたいわゆる占有離脱物というものが考えられるのでございますが、不動産につきましては管理が不完全であるとかあるいは監視が不完全であって、あたかも占有を離れたもののごとく外見上見える場合がございましても、それはその管理なり監視がきわめて不完全な状態であるというのであって占有を離脱しておる不動産ということは、ちょっと私ども考えられないわけでございまして、いかに不完全でございましょうとも、そういう不動産、たとえば所有者も行ってみたこともないというような土地が山の中にあるといたしましても、だからといってその土地占有を離れておる土地だとは考えられないので、やはりそれは所有者の占有にあるというふうに見るべきであろうと思います。従って、そこへ勝手にその土地侵奪したと見られるような何らかの行為があって、事実上そこを取ってしまったという形になっておりますれば、やはり不動産侵奪と認めていかなければならぬというふうに考えます。
  53. 後藤義隆

    ○後藤義隆君 今のお話は通常の場合ですが、占有というのは実際上にそれを支配するかしないかということが占有であって、たとえば甲の所有であったものが、その相続人の乙が何十年も長い間外国に行っていて、相続したけれども法律上の相続にはなったけれども、しかし全然そこの山などは行ってみたこともない。自分の山があるかどうかもそれも知らないという、事実上占有しておらない例がたくさんあると思うのですが、山などは。そういう場合に、一体、本条によって処罰することになるのですか、しないことになるのですか。
  54. 竹内壽平

    政府委員竹内壽平君) それは処罰することになると思います。なるほど仰せのように行ってみたこともないような山などもあると思いますが、それはきわめて不完全な管理であるというだけであって、占有そのものが失われるものではないと思います。
  55. 大川光三

    委員長大川光三君) ほかに御発言もなければ、本件に対する本日の質疑はこの程度にとどめたいと存じます。
  56. 大川光三

    委員長大川光三君) 次に、検察及び裁判運営等に関する調査の一環といたしまして、売春対策に関する件について調査を行ないたいと存じます。御質疑のある方は御発言を願います。なお、本日は当局からは渡部矯正局長、長島青少年課長、中村生活課長、高橋婦人課長、木村保安局長が出席されております。
  57. 高田なほ子

    高田なほ子君 きょうは法務省関係、厚生省関係、労働省関係というふうに売春防止法の実施に伴ってそれぞれ関係のある各省の皆さんのお見えをいただきましたので、大まかな問題を先にお尋ねしていきたいと思います。  売春防止法が実施になって今年は第三年目に進もうとしているわけですが、どうも四百年の歴史を持つ売春を断ち切って、売春防止法が実施されてからまだ第三年目であるというのに、昨年には売春対策審議会さえも政府側としてはこれを廃止しようとするような危機に直面いたしているような気がします。また予算面から見ましても、売春対策に関する厚生省の予算、それから労働省の予算、法務省の人権関係なり婦人補導関係の予算あるいは最高裁判関係の売春関係裁判官、それから婦人補導の巡視旅費その他印刷費、家庭局関係いずれも売春対策の予算が大なたを振るわれているわけであります。これはまことに私ども奇怪至極のことでありますが、どうも政府考え方としては、この売春防止法が三年で、はや実施され尽くして次第々々に予算を削っていってもいいじゃないかというように考えているのではないかと、予算面から見ると、私ども考えられます。しかし最近の傾向としては、この売春防止法が実施されてから、売春地図が非常に変更を来たしているのではないか、つまり言うところのもぐり売春が、大都市とかあるいは温泉、観光地、それから自衛隊のある所、それから駐留軍の基地、そういう所にもぐり売春の傾向が集中的に現われている。売春地図が、実施前より異なった形態にびまんしているように私ども考えられます。そこで、ただいまお三方から現状の売春地図の傾向がどういうふうに変わってきているか、実際行政面に当たっている厚生、労働、法務それぞれの関係の方々から、この点についてそれぞれの分野から現状を御説明いただきたいと思います。この現状に加えて——少し質問が抽象的であるようでありますが、さらに性病の問題です。性病は性病予防法という法律に基づいて行政措置が講ぜられているようでありますが、これもまた予算面から見ると後退しているように思われますが、これと売春地図に関連した性病の問題を一つ……。内容が少し広いようでございますけれども、どちらからでもけっこうでありますから、御説明いただきたい。
  58. 渡部善信

    政府委員(渡部善信君) 実はちょっと一番最後の方から口を切ったような形になるのではなかろうかと思いますが、御指名がございましたので、私らの所管の立場から御説明申し上げます。  法務省の矯正局の所管いたしておりますのは、売春防止法によりまして検挙せられました婦人のうち、裁判所において補導処分に処せられた者を婦人補導院に収容して、その更生補導をはかるということが私らの仕事になっておるのでございます。ただいま高田委員より法務省の三十五年度の予算、ことに補導関係の予算が減っておるのではないか、これはその対策上後退してきておるのではないかという御質問がございましたが、なるほど仰せのごとく、三十四年度と三十五年度の予算を比較いたしますると、補導院の予算が多少減っておるのでございます。これは三十四年度におきまして全国に設けることになりました三カ所の婦人補導院の設備の費用、初度設備等の費用が、三十四年度には置かれておったのでございますが、三十五年度には、この初度設備の必要がなくなりましたので、その費用が削られておるのでございます。従いまして現実に補導院で補導処分を実施する上におきましては、この予算は決して前年度よりも後退はいたしていないのでございます。ただ、ただいま高田委員仰せのごとく、売春婦というものがいろいろ形の変わった関係になって参っておると任ずるのでございまして、決して現在の売春婦が減っておるとは思わないのでございますが、それならば、この補導院を今後どんどんふやしていかなければならぬのじゃなかろうかということも一応考えられるのでございますけれども、実は補導院の本格的な補導処分を実施して参りますのは本年度からでございまして、今までは補導院も仮性居で一応の暫定的な措置としてやって参ったのでございます。それは補導院の設備を整えることがなかなか一朝にはできない関係から、婦人刑務所の一角に婦人補導院を置いて、曲りなりに処置をとってきたのでございまして、それが三十四年度に、東京の婦人補導院もできまして、最後に残されました福岡の婦人補導院も三十五年の五月には発足することになっておるのでございます。従いまして、この三十五年度で全国に設けられます東京、大阪、福岡の三つの補導院が本格的な活動を実施することに相なったのでございます。従いまして、この三つの補導院の実績を見た上で今後の対策を立てようというのが政府の方針でございますので、いま暫くこの三つの補導院の実施の状況を見ました上でその対策を立てようということで、従来通りの規模で三十五年度はこの補導処分を実施することに相なった次第でございます。かようなところから、この補導処分を従来よりもさらに拡充強化していくというところにまでは参っていないのでございまして、その点、悪しからず御了承のほどをお願い申し上げたいと存ずる次第でございます。  そこで、婦人補導院の現状でございますが、ただいま申し上げますごとく、福岡の方は、いまだに現在でも麓にございます女子の刑務所の一部で、分院の形で目下実施しております。そんな関係からここでの収容者が非常に少ないのでございますが、現在東京の婦人補導院には、三月十五日現在でございますが、七十六名の収容者を持っております。大阪は七十一名、それから福岡の方は三十三名、合計いたしまして百八十名の収容者を目下補導中でございます。  この状況をかいつまんで申し上げますと、ただいま仰せのごとく、昭和三十三年五月十五日からこれは出発いたしておりますが、本年の三月十五日まで全部ひっくるめますと、四百四十七名の対象者を収容して補導いたしたわけでございます。  この状況をさらに詳しく申し上げますと、三十四年度に調べたものをこまかくいろいろと分類いたしておるのでございますが、三十四年度に婦人補導院に入りました二百八十四名につきまして統計をとった数字を申し上げて、状況を御説明申し上げたいと存ずるのでございます。この二百八十四名の収容者の中で、再び、二度目に入って参りました者が四十三名、三度目に入って参りました者が一名、その他は初めて入った者でございます。三十三年からこの三十五年までの間でございますが、約ニカ年足らずの期間でございますけれども、すでに二回、三回の再収容を出したということは、まことにわれわれの補導の至らなかった結果ではなかろうかと思って、いろいろとその原因等も調査もし、また対策も講じておる次第でございます。しかしながら、この売春婦の中で補導処分を受けまする人たちを見ますると、なかなかむずかしい対象者ばかりでございまして、現在も補導院ではその補導に非常な苦労をいたしておるのでございます。  これらの婦人たちの年令層を見て参りますと、大体三十四才未満の者が約七六%でございます、なおそのほか非常に高年令の者もおるのでございまして、五十才を超した者が五名、四十五才から四十九才の者が十二名、四十才から四十四才の者が二十三名、一十五才から三十九才までの者が三十八名、こういうふうに相当年令の高い者も入っておるのでございます。これらの人たちの学歴等を見ましても、まことに知識の乏しい人たちが入っておるのでございまして、小学校卒業いたしましたまでの教育程度の者が百四十九名で、全体の五一・五%、約半数ちょっとの者が小学校きりしか出てない。それ以下の教育程度のものにとどまっておるのでございます。しかもその知能指数を見ますると、六九以下の知能指数を持った者が百六十四名、全体の五七・七%を占めておるのでございます。その精神状態を見ますると、まず正常と認められまする者が八十三名で、大体二九・二%、約三割の者が正常な精神状態でございますが、それから準正常と認められる、まあまあというところの者が、八十四名、これが全体の一九%に当たっておるのでございます。それ以外の者は、何らかの意味で精神に障害のある者でございまして、その中には精神病質の傾向のある者が十七名で、六%、精神病質の者が四名で、一・四%、精神病と認められる者が正名で、一・八%、精神薄弱と認められます者が百一十名で四二・三%、それにテスト不能の者が一名というような状況でございましてなかなか精神状況の面から申しましても、その処遇が困難な著たちが多いのでございます。  ただいま高田委員より仰せになりました性病の関係でございますが、性病を持っておる者も相当参っておるのでございますが、性病に限らず、その他の疾患を持った者も相当入ってきておるのでございます。何ら病気を全然持たないという者は、二百八十四名のうち七十二名にすぎないのでありまして、その他の者は何らかの意味での病気を持った者たちでございます。このうち性病を持った者は百二十六名、約四四%に当たる者が梅毒、淋病、その他の性病を持った者でございます。これらを収容いたしまして補導いたすのでございますが、この補導は、御承知のごとく婦人補導院法にも書いてありますごとく、これらに対しまして生活の指導をいたしますのと、職業の補導をいたしますのと、それから、ただいま申しましたような身体の障害に対します医療を施していく、この三つの方面からこれらを指導して参っておるのでございます。この収容期間が、いろいろな関係から補導期間は六ヵ月ということに相なっております。この期間の間にこれらの処置をとるのでございますが、ただいま申し上げました病気の点から申し上げますと、この期間の間に、昨年度に退院いたしました者が全部で百五十九名でございます。この百五十九名の者の入院時と退院時との比較をして考えますると、性病関係では、性病関係の者が百五十九名の中で七十六名が性病を持った者でございますが、そのうち六十七名、八八%は完全になおりまして出院いたしておりますが、九名の者が完全な治癒とまでは参らずに、その後の治療を、要する状態のままで退院いたしておるのでございます。しかしながら、これは決して未治癒と申しましても、梅毒の者はなかなかむづかしいのでございまして、臨床的にはすでに症状は消えておるのでございます。しかしながら念のために治療を継続しなければなないという程度でございまして、これは一応は症状がない者でございますので、感染等の危険はなくなって、出しておるのでございます。その他の疾病は期間等の関係からなかなか困難でございますが、百二十名がその他の疾患を持った者でございますが、八十六名、七一%に当たります者が完全に治癒して出ております。三十四名の者が肺結核その他のなかなかなおらないものがございますので、この二八%に当たる者は今後の治療を要する状態のままで退院をいたしておるのでございます。ただ入院中はこれらの者に職業補導をいたしておりますが、これは和裁、洋裁あるいは編みものその他の職業補導をいたしまして、一応勤労の意欲を持たせまして本院の出院をさしておるのでございます。なお、六カ月間では自分が一人手で行くだけの職を覚えさすことはなかなか困難でございまして、引き続き婦人寮その他にお世話を願っておる者もおるのでございます。  で退院いたしました者の予後の関係でございますが、ただいま申し上げますごとく、二度目、三度目に入って参った者もおりますが、全体的にこれをつかむのはなかなか困難でございまして、概括的に申し上げまして、われわれの見たところでは大体、五割は生活が出院後も安定している状況でございます。これは結婚、その他家族に引き取られまして、十分安定した生活に入っておる者が五割でございます。それから一割ないし二割の者がただいま申しましたごとく婦人補導院に再入院いたしましたり、あるいは売春をいたしまして刑務所に参りました者もおります。こういう者が全体の約一割ないし二割の者がさような再転落の者でございます。それからその間の者はちょっとつかめない数字でございますが、これはつかめないから、すべて間違いを起こしておるということも言えないと思うのでございまして、この点はさらに詳細に調査をいたさなければならないのでございますが、大体の婦人補導院を出ました成績は、ただいま申し上げたような次第でございます。
  59. 大川光三

    委員長大川光三君) 次に、厚生省の中村生活課長にお願いいたします。
  60. 中村一成

    説明員(中村一成君) 厚生省といたしましては、売春防止法の関係では、御案内の通り法律の第四章に「保護更生」という規定がございまして、この関係の仕事を担当いたしております。第四章は、売春防止法が三年ほど前に施行に相なりました当初から施行と相なっておりまするので、それで厚生省の関係では、この四月をもちまして満三年を迎えておるわけでございます。それで昭和三十五年度といたしましては、関係の予算二億四千九百九十八万一千円をもちまして、ほとんど大部分が都道府県に対しますところの補助金でございますが、その予算をもちましてこれに当たります。それから地方の都道府県におきますところの組織といたしましては、法律規定のございますところの婦人相談所、婦人相談員及び婦人保護施設がそれぞれこの三年の間に整備をいたしまして、それで三十五年度といたしましては、婦人相談所につきましては、都道府県の数だけでございますので、四十六の相談所。それから婦人相談員につきましては、現在四百五十六名全国におりますが、四百五十六名の婦人相談員。それから婦人保護施設の方は、施設数で六十三施設、これに収容できますところの余力は二千五百三十六名でございますが、それだけの定数をもちましてこの仕事に日夜当たっておるわけでございます。それで、そのほかに都道府県といたしましては、都道府県内の各種のいわゆる官民のお互いの連絡のために売春対策本部というのが、都道府県知事を本部長といたしますところの本部が設けられてございまして、これは法律上の機関ではございませんけれども行政指導として設けられておるのでございます。その対策本部というのがございまして、ここでたとえば取り締まりの御当局であるとかあるいは公衆衛生局であるとか、その他の諸機関との連絡を持ちつつこの問題に対して対処するという態勢に相なっておるわけでございます。  しからば、一体最近におきますところの実績はどうであるかということにつきまして簡単に一応申し上げましてもし御質問がございましたら詳しく申し上げたいと思います。昭和三十四年度の数字といたしましては、昨年の四月からことしの一月までの十カ月間の数字がわかっておるわけでございますけれども、この私の持っております数字の関係で、昨年の十二月まで九カ月間の数字をとりあえず申し上げますというと、この九カ月間に婦人相談所におきまして取り扱いましたところの相談件数と申しますのが一万二千二百三件でございます。これはその前の昭和三十三年度におきまして一万五千二百七十七件でございますから、それよりは減っておるようでございますけれども、これは御案内の通り九カ月間の統計でございますので、この四月までの間におきまして、三十三年度と同じほぼ一万五千件内外の相談を受け付けることに相なろうかと思います。それから婦人相談員につきましては、この九カ月間におきまして一万六千六百四十二件を受け付けております。これは三十三年度一年間におきまして一万八千三百四件でありますが、ほぼ十二カ月にしますというと、この程度に相なろうかと思われます。それから婦人保護施設につきまして、ただいま一月の末に在所いたしますところの者が千三百九十四名でございます。それだけが相談所に——ども言葉を使いますと、ちょうど月末でそれだけ在所しておるということでございます。それでこれを参考までに取り締まり当局におきましてお扱いになりましたところの女子の数、これから見ますというと、大体年間に一万四千件内外の数字を取り扱っておられるようでございまして、私どもの方の婦人相談所または婦人相談員が取り扱いましたところの数字も大体それに近い数字が取り扱われておるようでございます。もっとも、その要保護女子につきまして、全部それがオーバー・ラップするというわけじゃございませんけれども、そのうちの何割かが両方のお世話になっておるわけでございますけれども、大体数といたしましてはそういうことになっております。  それから私どもの三年間の経過によりまして問題点となっていますことを申し上げますというと、私どもの方の保護施設に収容しておりますところの女子、あるいは婦人相談員、婦人相談所に参りますところの要保護女子というものにつきまして、非常に精薄の者が多いということでございます。ただいま法務省の方からも補導院につきましてそのようなお話でございましたが、私どもの方の関係で申しましても、保護施設に入っておりますところの女子のうち、三七%あたりが、IQが、知能指数が七〇以下の者でございまして、非常に精薄な者が多い。また精神障害者もあるわけでございますが、これらの結局私どもの方の手にかかって参りますのがほんとうに何と申しますか、戦い破れたと申しますか、何ともならなくなってやって来るという方々ばかりでございまして、この方々を保護することはともかくとしまして、その更生につきましては非常に問題があるわけでございまして、それで実はその保護施設と申しますのは、保護施設の中におきましてはほんとうの精薄の施設である。しかもどうしてもそういうふうでございますので焦げつかざるを得ない。私どもの最初の計算では大体六カ月を単位といたしまして回転ができるのじゃないだろうか、こういうような考えでおったのでございますけれども、一方においては逃げ出すために非常に回転が早く、一方におきましては焦げつくということで、平均の在所期間は九カ月ぐらいになっておりますけれども、なかなかいわゆる私ども考えておるような累計的な更生というものの計数が非常にむずかしいということでございまして、これに対しまして私どもの方といたしましても、そういう現状に対しましては、それに即応した案をとらなくてはならないというふうにただいま研究いたしておるところでございます。  それからもう一つは、保護更生の制度と申しますのは、いわゆる強制力を持たない仕事でございますので、従って簡単に申し上げまして、保護施設に入っても逃げ出す者を押えつけておくということはできないという、一般にこの更生関係の仕事というのはそういう仕事でございますけれども、ほんとうにその間におきまして第一線の職員は非常に苦労いたしております。しかしながら私どもとしまして、この保護更生に関しまして制度を変えるということはできませんので、現在の制度のもとにおきまして、どういうふうにして実効を上げるかということにりきまして非常に苦労をいたしております。その点が問題点の第二でございます。さらに第三番目は、これは問題点と申しますか、私の方は三十五年度におきまして特に心がけたいと思っておりますことは、この三年間の実績があるわけでございますから、この三年間に取り扱いましたところのケースというものをしさいに振り返って検討いたしまして、そうして今後これから長く続くところの婦人の保護更生行政に関する参考とし、かつまた担当している職員の訓練を十分にいたしたい、このことに非常に努力をいたしたいと思いましてただいまこの三年間の中で、特に二十四年度一年間につきまして詳細な調査をいたしておりますので、いずれそういう結果等まとまりましたら御報告を申し上げたいと思っております。
  61. 高田なほ子

    高田なほ子君 ただいまお二人から説明いただいたのですが、失礼な話ですけれども、ここは皆さんベテランで、大体現状とか、そういうものはほぼキャッチしているわけなんです。私の質問の要点は、三十五年度の売春対策予算というものが非常に減ってきている、前年度から比べて減ってきている。しかし現状はもぐり売春というような形、それから集中的に地域的に特殊な傾向が現われているのではないか。だから減った予算でもってそういう特殊な事情に対してどういうふうにしようと考えるかという質問なんです。ですから、現状の御説明は大体いろいろ資料をちょうだいしておりますから、大体皆さんつかんでいきますから、私の質問に的確にお答えいただくように言っていただきたいわけです。またあとそれぞれ御質問もあると思いますけれども、そういう意味で一つお願いしたい。
  62. 大川光三

    委員長大川光三君) それでは、次に労働省の高橋婦人課長さんにお願いをいたします。  今お聞きのように質問の要点は、いわゆる最近の売春地図はどう変わっているか、それに対する対策はどうあるべきかということ等でありまするから、そういう意味でのお話をいただきたいと思います。
  63. 高橋展子

    説明員(高橋展子君) 労働省の立場といたしましては、御存じのことでございましょうけれども、売春防止法そのものの施行を担当する責任はないわけでございますが、婦人問題の観点から、あるいはまた労働対策という、労働行政という観点から、売春防止法の成立以前からこの問題につきましてはその解決に努力を払って参りましたし、また成立後、施行後も大きな努力を払って参ってきております。で、具体的には婦人少年局で所管いたしております分野といたしまして転落をした婦人あるいは転落のおそれのある婦人に対する保護、更生の一環といたしまして、相談指導業務というものをいたしております。これは婦人少年局の出先が各都道府県にございます。その婦人少年室で担当して行なっております。専門の婦人問題相談員を置きましてさらにまた婦人少年室の仕事を援助する協助員組織を通じまして転落防止のための努力をいたしております。それからまた調査活動を行ないまして、売春問題の根源になる要因、あるいは新しい動きなどを把握することに努めております。また啓蒙活動を実施いたしまして、特に売春問題の根強い要因となっております日本の社会の通念、世論というものの啓発ということに努力を払っております。  また婦人少年局と別に職業安定局の方におきまして、その職業校定行政の一環といたしまして、更生した婦人のための就職助成という分野を担当されまして、職業安定所を通じましての職業紹介、職業指導等の線に乗せているわけでございます。あるいはまた売春行為を誘発するおそれの多いところの悪質な職業の紹介、周旋ということに対する規制、この面も職業安定局が努力をしている点でございます。  で、予算の件でございますけれども、ただいま申し上げましたような各般の所管事項を実施して参りますための予算が年々計上されているわけでございますが、本年度の予算につきましては、昨年度と比較いたしまして増減がございませんのです。で、節約分を除きまして全く昨年度と同じ予算でございます。で、これで十分と考えるわけではございませんが、そういうような状況でございます。  それから売春の地図ということでございまして、これは私ども婦人少年局の方では、今から二年ほど前までは毎年定期的にいわゆる売春婦の数というものを、全国的な数字を把握してそれを編集して前年度との比較、推移等を分析するような努力をいたしておりました。それによりまして売春地図の変更なども比較的にとりやすかったと思いますが、一昨年全面施行になりましたあとは、まあ売春婦という数をとらえるということは形式論といたしましてもできないことでございますので、この統計をとることをやめております。従いまして、全国的に売春地図というものをお示しできるような材料はないわけでございますが、ただ私ども行政を通じまして把握しておりますことの片りんを少しそれではお聞き願いたいと思います。  先ほど申し上げました婦人少年室で扱っております相談業務というものがございます。これはすでに転落されて更生を望む婦人のかけ込み訴えとして当初発引いたしました業務でございますが、このかけ込み訴え、あるいはまた一度更生してさらにもう一度転落の危機があるから救いを求める、あるいはまたいまだ転落はしておりませんが、そのおそれがあるということから本人あるいは第三者が婦人少年室に相談に参る、その件数になるかと思います。これは厚生省担当の婦人相談所その他の機関とも連絡をとりながらいたしていることでございますが、この相談件数といいますものが年間を通じまして三十三年度でございますが、約五千四百件を数えているわけでございますが、この中にはいわゆる婦人問題というもの、婦人問題の相談も多少含まれていることを御承知願いたいと思います。この相談に来る件数あるいは受理件数と申しますか、これの増減の傾向を見ますと、大体売春防止法の全面施行、一昨年の四月でございますが、その前後が非常に大きなピークがございまして、その全面施行を機といたしまして何とか身の振り方をという動きが非常にあったと思いますが、その後は漸減しつつあるように私どもは見ております。で、三十四年度つまり今年の三月末日までの統計がまだできておりませんので、その比較ができないで申しわけございませんが、各月の傾向を見ておりますと、ごくなだらかな傾斜ではございますけれども、漸減しておるように見受けております。  それからまた、この室の相談業務で扱いました方々の更生後の経過がどのようなものであるかということを御参考に申し上げたいと思います。これは相談を受け付けましたあと一定期間を置きましてその方たちの、更生の状況を調査したものでございまして統計的な意味合いとしてはかなり限定されたものとしてお聞きいただいた方がいいかと思いますが、一番多く見受けられましたのは、結婚をしておるという状況でございました。で、調査対象になりました方たちの約四割が結婚生活という形でもって更生生活をしていたわけでございます。で、それに続きまして就職、職業を持つことによって更生をしていたということでございます。現在のその更生している生活に満足を持っているかどうかという点につきましては、約七割の婦女は現在の生活を満足をもって眺めているという結果でございました。残りの三割は不満を非常に表明したわけでございます。その不満の最も大きな理由は経済生活の不安定といところにあったようでございました。また現在のその更生した生活の状態にたどりつくまでに幾つかの生活の変化があるようでございます。つまり相談業務といたしまして処理して、たとえば就職させるという、そこで更生の措置か一応終了するわけでございますが、その後そこに定着しませんで、しばしば動いて、たとえば職場をしばしば変わるというふうなことも多かったようでございまして、最初の更生措置でそのまま定着している者は約四割というようなことでございます。多い場合は七回もその後の生活が変わって現在に至っている、そのような数字が出ておりまして、更生後の生活が容易ならぬものであることを示しているようでございました。  それから、今のは相談対象となった婦女を通して見た一種の地図でございますけれども、そのほか私どもといたしましては、各婦人少年室を通じて情報の収集を行なって、売春問題というものの推移を把握するように努力いたしておりますが、特に先ほど申しました啓蒙業務の一環といたしまして、毎年売春防止特別活動というのを全国的にいたします。三十四年も十二月から一月にかけて全国的に行ないましてその際関係各機関、あるいは民間団体、あるいはこれら関係の婦人たちとの会合その他を通じまして、動いております売春問題の把握をするようにいたしております。その活動の結果をただいま取りまとめ中でございまして、閥もなく御発表できるかと思いますが、現在は全国的な動きとして申し上げられないのは残念でございますが、ただ京都と広島での活動につきましては、特に婦人少年室が行ないます行事に本省も参加いたしましてまたさらに売春問題、売春対策審議会の萱原会、長にもお出ましを願いましてその広島、京都の売春問題の実態の御視察などもお願いいたしまして、また売春対策推進の問題点の把握もかなり行なわれました。その際明らかにされました売春対策推進上の問題点につきましては、これを取りまとめまして先般売春対策審議会の方に御報告申し上げたところでございます。内容につきましては、省かせていただきますが、そのような活動を通じまして、私どもは統計的にははなはだむずかしいわけでございますが、生きた問題としてその実態の把握に努力いたして参ったつもりでございます。
  64. 大川光三

    委員長大川光三君) ありがとうございました。  次に警察庁の木村保安局長から、特にもぐり売春の現状及び対策等についてのお話を伺いたいと思います。
  65. 木村行藏

    政府委員(木村行藏君) もぐり売春と申しましても、大体警察が取り締まりをやっております売春全体がもぐりと、言えるのでありまして、定義はむずかしいものですから、もし委員長のお許しをいただければ、先ほど高田先生から御質問ありました非常に大きな問題と思いますのですが、売春の地図の変化について、もぐりとも関連しますけれども、お答えしてよろしいかどうか。
  66. 大川光三

    委員長大川光三君) では、それをお願いいたします。
  67. 木村行藏

    政府委員(木村行藏君) 先ほどのお尋ねの点に関しまして、警察が取り締まりをいたしました概況から、売春地図の変化といいますか、多少の傾向を推定申し上げて、推定いたしましたものを御報告申し上げたいと思います。三十四年中における警察が検挙いたしました数が、全国の検挙件数といたしまして二万二千九百五十四件、検挙人員は二万百六十七名でございます。これを売春防止法の全面施行、すなわち刑事罰の施行に至りました全面施行からの一カ年間の検挙状況、すなわち三十三年の四月から三十四年の三月までの間の一カ年との対比を申し上げたいと思います。若干数カ月オーバーラップしております点がありますので、対比としては必ずしも前年ということの言葉に正確にマッチしないかと思いますけれども、便宜上一応おおむね前年との比較を申し上げながら御説明申し上げたいと思います。  ただいま申し上げた件数及び人員は、前年の件数が二万二千八十三件であります。従いまして、検挙の数は八百七十一件の増でありまして、約四%の検挙件数が増になっております。それから人員におきましては、前年が二万二百十六名でありますので、四十九名の減になっております。件数が多くなっておりますにもかかわらず検挙人員が減っておりまするのは、一面非常に売春事犯が悪質になりまして、なかなか共犯者を捜査の上からくずしていく、それを十分に取り締まっていくという点について非常にむずかしい点もありますし、そういう点からいたしまして若干検挙には相当の時間を要しますし、まあそういう点で人員は減っております。しかし、実態としては非常に悪質になっているということを逆に申せるのではないかと思います。  それから三十四年中における全国の検挙総数を六大都市の関係において申しますと、六大都市は検挙総数において一万四千五百六十七件、検挙人員におきまして一万三千七百八十四名でございます。従いまして、先ほど申し上げました全国の検挙総数の中で六大都市の占めている率は、件数で六三%、人員で六八%でありますので、やはり売春地図の上におきましては、大都市というものが相当売春の問題においては注目されるべき地帯であるということは依然として申せると思います。  それから罪種別に申し上げますと、件数は若干ふえ、それから人員は若干減っておりますけれども、非常に自立ってふえておりますのは、第五条違反の勧誘の事犯であります。いわゆる街娼の横行といいまするか、街娼が非常に目立ってきているという点でありまして、第五条違反による勧誘事犯が一万四千二百十七件であります。人員におきまして一万四千百四十九名であります。従いまして、前年の一万一千九百八十件に比較いたしまして約一九%の件数の増であります。二割近くふえておりますので、非常なふえ方ではないかと思います。それから人員におきましても、前年は一万一千九百四十一名でありましたので、それに比較しましてやはり一九%近くの増でありまして、街娼の目立ちというものが言えるのではないかと思います。しかも、その街娼がやはり大都市にも目立っておりますけれども、逐次中小都市あるいは温泉地、観光地帯などにもふえているということが百言えると思います。それからその勧誘事犯の売春関係事犯の全体に占めている割合を申し上げますと、件数では六二%、人員では七〇%でありますので、やはりこの街娼というものが非常に顕著であるということが全体として誓えますし、それがひいては一般の善良な風俗に非常に影響が大きいということが言えるのではないかと思います。  それから先ほど高田委員からも御指摘がありましたけれども、最近旅館や料理店あるいは芸妓置屋などの接客業者、お客さんを相手にする業者による売春事犯が非常にふえております。また非常に、巧妙になって悪質になっておりますが、大体売春をさせる業あるいは場所を提供して売春をさせるというような、いわゆる売春助長事犯の被疑者の総数が六千十一名でありました。昭和三十四年は六千十一名でありましたが、そのうちでただいま申し上げた旅館や料理店、芸妓置屋等の接客業者による売春事犯が二千八百六十六名であります。ほぼ半数に近い状況でありまして、こういう点からいいますと、だんだんと集娼地域がおおむね解消しつつあるにかわって、いわゆる赤線にかわって観光地あるいは温泉地あるいは中小都市へというふうに、この地図が変化していっているのではないかというふうに、取り締まりの実数から考えられるのであります。  それからただいまのと関連しますのでありますけれども、一部の大都市における元集娼地業者の違反が、数においては必ずしもふえておりませんけれども、非常に根強く、非常に好妙になっておる。検挙の違反の実態からいたしまして、それがはっきり言えるのであります。ことに暴力団の関係、すなわち悪質な暴力団が背後にあってそれがひもになって計画的にいろいろ売春をやらしている、街娼の背後にそういうひもがついておるということが相当言えるのではないかと思います。従いまして、旧集娼地域なり、あるいは大都市においても、やはり全体としては下火になっておりましても、非常に根強く、潜在性があるということが言えるのでありまして、これらに対しましては、われわれ警察といたしましても、内偵とあるいは資料の固めに非常な苦労をいたしておりまして、できるだけこの悪質な根強い違反に対しては、取り締まりを強化して参りたい、こういうふうに申し上げることができると思います。  で、ちなみに暴力団の関係を若干申し上げますと、昭和三十一年十二月現在で、売春に介入している博徒、テキ屋、愚連隊などの、いわゆる広い意味の暴力団関係の数が、昭和三十三年の十二月現在で元赤線地域に二百九十三名、それから元青線地域に三百十八名、その他の地域に二百七十一名で、合計八百八十二名でございましたが、その後非常に変化しまして、昭和三十四年三月末現在、昨年の三月末現在で、大阪府の管内で六百十五名、神奈川県管内で百十八名、福岡県管内で六十六名、兵庫県で六十名、その他の地域で百八十一名でありまして、全国的に千四十一名、数においても非常にふえておりますし、大都市の方が目立って著しくふえておるということが言えるのでありまして、(高田なほ子君「御発言中ですが、東京が抜けておりますが」と述ぶ)東京に関しましては、博徒あるいはテキ屋、愚連隊のような形でまとまった背後というものが今統計には出ておりません。しかし全然ないとは申しかねると思うのでありますけれども…。それから最近の一つの特例といたしまして、人身売買の関係から、全体の数は必ずしもふえておりませんが、しかし地方によっては非常に人身売買の違反事犯が目立ってふえておる地域がありまして、これも広い意味の売春関係の地域の地図の変化の一つと申せるのではないかと思うのであります。たとえば不況にあえいでおりますところの福岡地方におきましては、昭和三十四年、昨年中の福岡県で取り締まりをいたしました、いわゆる広い意味の人身売買事犯、刑法、職業安定法、児童福祉法、労働基準法、こういう関係の諸法規に基づきまして取り締まりをいたしました数が、検挙件数において七十九件、それから検挙人員におきまして百三名、これを前年に比較しますと、前年は件数において六十三件、それから人員におきまして六十二名でありますので、件数において三割強ふえております。それから人員において七割以上にふえておりまして、やはり経済関係とからんでの広い意味の売春というものが考えられるわけであります。  大体以上のような関係で、通観的に見ますと、大都市はもちろんのこと、中小都市、あるいは観光地、温泉地などにおける、悪質なひもが背後にあって、街娼が相当目に余るものがあるということが申せるのではないかと思いまして、私たちの方におきましては、非常に苦労いたしておりますけれども、できるだけ、悪質なものに対しましては、専従警察官の教養なり、あるいはたびたびブロック会議などもいたしまして連絡を密にし、特にいろいろ目立っておるところに対しましては、具体的にそれぞれの県本部の課長なり、あるいは具体的に署に対しまして指導いたしまして取り締まりの強化をいたしておるような状況であります。
  68. 高田なほ子

    高田なほ子君 長島青少年課長さんはおられますね。せっかく初めからおいでになっておりましたから、伺いますが、御指名がなかったので、私の方から特に質問事項を限って、法務省関係の中に保護関係費として、千七百五十四万八千円という予算が組めて、前年度から比べるとかなりふえております。これは青少年、風紀、検察全額の数字であると思いますが、この予算の面から推して何かあなたの方から売春関係についてお話いただきたいのです。
  69. 長島敦

    説明員(長島敦君) ただいまの御指摘の通り、予算は青少年問題と売春と、両方一本で入りましたので、区別が困難でございますが、予算的には金額には影響ございませんでしたが、本省の刑事局の中の参事官の一名を青少年課長に振りかえることが認められまして、この青少年課におきまして、青少年犯罪の予防面のほかに、売春と麻薬関係と、これだけを所管することになって参ったわけでございます。検察庁の関係におきましては、検察庁におきまして従来更生保護相談室がございますが、こういうものと、それから少年、あるいは準少年などを扱っておる部屋があるわけでございます。こういうのを一体にいたしましてもっと強化していくための経費が多少認められたということが入っております。そのほかには本省に緊急立法関係といたしまして売春関係も含まれておったと思いますが、そういった各種の立法の検討のための資料等の費用が多少入っておるわけであります。それから青少年につきましてあるいは売春につきましても、身上調査記録というのを検察庁で作っておりまして、これが非常に実態の究明に役立っておるわけでありますが、そういう調査カードとか、調査記録の作成費が相当に入ったわけでありまして、さようなところがおもなる増額の理由になっておるわけであります。以上、予算の説明でございます。
  70. 高田なほ子

    高田なほ子君 だいぶ、ごしゃごしゃと仕事があなたの方にふえてきておりますが、まあ総合的なお仕事をなさるようですけれども、今までこういうお仕事に携わっていらっしゃったのじゃないかと思いますが、何かお仕事をなさる上について、注文なり隘路というものがあれば、ここはつるし上げる席じゃないのですから、一つ遠慮なくいろいろの点をおっしゃっていただきたいのですがね。
  71. 長島敦

    説明員(長島敦君) 大へんありがたいお言葉をいただきましてありがとうございます。  先ほど申し上げましたように、まず第一番に因っておりますのが、実は人員の問題でございまして、せっかく青少年課が発足したのでございますけれども、課長の定員ができただけでございまして、局内で人をやりくりいたしまして、実際は全員五名で今発足したわけでございます。私どもといたしましては、今一番最初に考えておりますことは、青少年問題にいたしましても、売春の問題にいたしましても、実態をもっと深く掘り下げてきわめたいという気持を持っておりまして、各種の調査カードなどをこれから綿密にあらゆる角度から分析したいというふうに思っておるわけでございます。そういったことをいたしまするにつきましても、非常に今第一に悩んでおる問題は、人員の問題でございます。なお申し上げたいこともいろいろございますが、一応。
  72. 市川房枝

    ○市川房枝君 今売春問題を担当しておられます方々からお話を伺いましたのですが、そのお話と関連して、少しお伺いしたいと思っております。  婦人補導院の問題につきまして、局長さんにお伺いしたいのですが、さっきの御報告ばかりでなく、前から私ども伺っておったのですが、補導院に収容しております婦人たちの半数が精薄なんです。非常に知能が低いのだという事実ですね。しかも、それ六カ月間だけで社会へまた出されておる。実際問題としてはもう少し短いでしょうね。はたしてこれで補導院の目的が果されるか。結果として五〇%くらいは普通の生活に復帰しておるように報告を伺ったのですが、補導院というところは何だか精薄を入れておくところみたいになっておりますが、一体そういうあり方で目的を達せられるのですかどうですか、御意見を伺いたい。
  73. 渡部善信

    政府委員(渡部善信君) ただいま市川委員仰せのごとく、精薄の者が非常に多く入っておるのでございます。これは売春婦全体にもさような傾向が私はあるのじゃなかろうかと考えるのでございまして厚生省の保護施設の状況も大体同じような傾向を持っておるように伺うのでございます。これを六カ月の間ではたしてどの程度まで補導ができるかということでございます。なるほど、かような人たちを六カ月の間に補導をして成果を上げていくということは非常にむずかしいのでございますが、この六カ月の期間を定められるにつきましては、いろいろいきさつがございまして、この点はなかなかむずかしい問題がはらんでおると思うのでございます。で、あの法律制定の際にも、本来のこの補導というものの成果を上げる意味から申しますれば、六カ月は足らない、もっと一年も必要じゃなかろうか、あるいはこの期間を定めること自体が無理じゃなかろうかというようないろいろ御意見が出たわけでございます。しかしながら、この売春婦に対しまする刑事罰が六カ月というところから考えまして、やはり補導処分とは申しながら、婦人たちを独制力をもちまして一走の場所に自由を拘束いたす施設でございます。そういうような関係から、やはりこの刑罰の期間との比較からいたしまして、六カ月の範囲にとどめざるを得ないのしゃないかというところから六カ月の期間ということに相なった次第でございます。従いましてわれわれといたしましては、この六カ月の期間を最も有効に成果を上げるにはいかようにしたらいいかということにいろいろ悩みを打ちながらも、最高の効果を上げるべく努力をいたしておる次第でございます。入っておる者の気持ちからいたしますと、やはり社会に帰っていくのが非常な魅力でございまして、六カ月と申しましても、われわれの方で仮退院の制度もあるのでございますが、仮退院の制度に乗るか乗らないかということは非常な入っておる君たちの大きな関心事でございます。少しでも早く出ますと、自分よりもなぜ早く出たのだろうかというようなことからいろいろ問題を起こす者もあるのでございます。さような事態から、われわれとしては本人たちを何とかして更生をさせてやりたいという気持ちで一生懸命やっておりますけれども、受ける身になってみますと、やはり自由を拘束される、一つの負担になっておりますので、その辺に非常に微妙な問題が伏在いたしておると思うのでございます。
  74. 市川房枝

    ○市川房枝君 行政当局としては、今のようなお考えより以外にしょうがないだろうと思うのですが、今のような実態ならば、非常に御努力をなすっても、あるいは期間が六ヵ月になった経過も私ども承知しておりますが、かりにこれを延ばしたとしても、ちょっと目的を達することはなかなか困難なので、補導院そのもののあり方をもう一ぺん再検討する必要があるのじゃないかという実は私は考えを持たせられているので、ちょっと伺ったわけでございます。
  75. 高田なほ子

    高田なほ子君 ちょっとそれに関連して。  昭和三十三年の三月十七日に婦人補導院法案に対する附帯決議というのが出されておるわけですね。これは結論としては、「婦人補導院法の運用にあたり、徒らに自由を拘束することのないよう特に留意し、具体的運用において、その実を挙げ得ない場合は可及的速やかにその改正案を提出し得るよう検討すべきである。」、こういうわけで、何か改正案のようなものは検討されておりますか。いろいろ御苦心のお話のほどは伺ったのですけれども、具体的に何かありますか。
  76. 渡部善信

    政府委員(渡部善信君) ただいま申し上げましたごとく、まだ事例といたしましては、補導いたしまして、今実施中のものを含めまして四百四十七名でございます。従いましてかようなところから、直ちに現在の制度自体欠陥があるのじゃないかということにまで結論するにまだ早いのじゃなかろうか。もう少し状況をしさいに検討いたしまして、その上で出すべきじゃなかろうかというふうに考えておる次第でございます。本格的な補導院法の発足は、全体といたしましては、まだ福岡の婦人補導院はことしの五月にこれから発屈する状況でございまして、婦人補導院の本格的な働きはこれからというふうに私らは考えておりますので、今までのところで結論を出すのは早いように考えておる次第でございます。
  77. 高田なほ子

    高田なほ子君 それじゃもう一点伺いますが、これは厚生省の方にも関係するわけですが、今度婦人相談所の員数・定員、これを削りましたね。で、予算の算定の基準は、婦人相談所員の員数が基礎になってはじかれているようですが、それで全般的にさっと予算が削られたのじゃないかと思いますが、この相談所員を減らしたということと、それから補導院のこのあり方というものと何か関連性があるのじゃないかという気もするのですが、これはどういうわけで削ったのか。その削った結果、どういうように補導院の行政に響いているものか。何か関係のないものか、その点。
  78. 中村一成

    説明員(中村一成君) まず、私の方から申し上げますというと、厚生省から申し上げますと、補導院の方も、私の方の予算案がきまりますときのいきさつとしては、補導院の予算とは関係なくやっております。それで予算が減ったのではないかという御質問でございますが、御承知の通り、厚生省の関係では一千五百八十四万円ほど減少いたしておりますが、その減少いたしておりますのは、あるいは資料をお持ちかと思いますけれども、婦人相談所の職員の経費と、それから婦人相談員の経費と、それから婦人相談所におきまして一時保護をいたしますときの経費、これが減っておりまして、あとはそれに伴ないまして整理とか節約をしておるものでございます。それから婦人相談所の職員をなぜ削っておるかと申しますと、これは婦人相談所の三十四年度におきますところの予算が三百十一、名の予算が認められております。ところで、現在府県の相談所におりますところの職員が二百五十名でありまして、それで予算の定員からいいました場合に、非常に少ないわけでございます。それで三十五年度におきましては、二百八十四名の予算を組まれておりますので、現在員からいたしまして、現在員が三百五十名でございますから、あと三十四名は増員できるということになりますので、もちろん十分ではございませんが、さしあたってこのために、たとえばその職員を首切りをするとか、配置がえをするという必要はもちろんないわけでございます。  その次の、婦人相談員の方でございますが、この方は四百六十八名三十四年度に予算がございまして、それが四百四十五名に査定になっておりまして、これは班員が四百五十六名おりますので、これからいきますと、十一名ほど人員整理をしなければならぬということになりますけれども、しかしながら、私どもの方といたしましては、実はそういう整理をしないで、現員をそのまま抱え込みましてそうして運営をやっていくつもりでおります。これがなげ、それじゃ減らしたのだろうかということにつきましては、これは大蔵当局との折衝の際の打ちあけた話になるわけでございますけれども、現在までにおきまして、このほかのいろいろな制度の相談員、こういうようなたぐいのものと比べますと、相談員が一人当たり扱いますところの人数が非常に少ないというようなことが、これがこういうような査定をいたしました場合の一番大きな問題となったわけでございます。しかしながら、私どもといたしましては、現在おりますところの職員の方々は皆相当なれた方々でございますので、この方々につきましては減らさないで、全体のやりくりでやっていこうと思っております。  それからその次の一時保護費の方は、相談所の一時保護費が減っておりますけれども、これも現在の実数からいたしまして、支障なく今のところはやれると、こういうふうに考えております。
  79. 市川房枝

    ○市川房枝君 今の課長さんの御説明に関連するのですが、厚生省の予算が減った、それは今お話のように婦人相談員の定員が減らされ、婦人相談所の定員が減らされ、それから今の一時保護所あるいは保護施設の定員といいますか、実際の予算の上の定員が減らされた、こういうことなんだと了解しておりますが、これはお話のように、実際人数が、件数が少ないのだ、収容人員が少ないのだということで、削られてきているように了解しておりますが、そういうことになりますと、これから先、また減るということになりますと、だんだんこれは減らされていく心配があるのですが、一体それでいいのかどうか。ことに保護施設は、さっきお話のときに、定員が千三百九十四名なんだけれども、実際に収容されているのは半分くらいなんですね。そういう状態であるようなんですけれども、地方によっては、せっかくの施設があいていて困るから、何とかほかに転用したいというような意見も起こっているように聞いておりますけれども、せっかく売春をやめた人たち、あるいはそういった低落しないような施設として国も国費を出し、地方庁も出してせっかく作ったのが利用されていないというか、それはなかなか原因がいろいろあろうと思いますけれども、しかし、こういう状態が続いては非常に残念だと思うのですが、厚生省当局としては、そういう現実の事態に対して考えをお持ちになっているかどうか、それを伺いたい。
  80. 中村一成

    説明員(中村一成君) ただいま御指摘を受けましたように、予算が減少しておるところの理由といたしまして、現実の実績というものが大きな原因となっているわけでございますが、しからば、現在おそらく御質問の趣旨としましては、この問題につきましては、世間でいろいろと現実に問題があるのだけれども、たとえば保護施設があいているというようなことでは一体どうであろうかという御質問であろうかと思われます。先ほど警察庁からのお話がございましたように、私どもの方の仕事の実績を通じてもわかりますことは、保護更生の面から見ましても、この問題が大都市のやはり問題として大きく移ってきておる。それで、農村関係の府県におきましては、非常に要保護女子の数も減ってきておるわけでありましてこれは私どもは現実それが事実であろうと思われまして、非常にこの問題に対しますところの取り締まりも厳重に行なわれておりますし、そういうところにおきまして農村関係の府県におきましては、今後厳密な意味におきますところの売春防止法の要保護女子、これは減ってくるであろう、これは事実であると思われます。一方、大都市におきましては、減少しないどころか、少しずつふえてきておることは私どもの方の業績から見まして、あるいは喜ぶべきことか、あるいは悲しむべきことかわからないわけでございますけれども、ふえてきておるわけでございます。それで、今ここで私どもといたしましては、全体といたしまして、予算の面におきましてそういう減少はいたしておりますけれども、今後そのような事態に即応いたしまして、府県間におきますところの予算の配分であるとか、職員の配置であるとか、そういう点につきまして的確な措置をとることによりまして、予算が減ったために直ちに支障を来たすということはあるいはなかろうかと思います。一方、また私どもとしまして、先ほどもちょっと申し上げましたけれども、事態が、扱いますところの要保護女子が非常に精神障害者であるとか、精薄の者が非常にふえてきておる、こういう事態に即応いたしまして、それに対するところの即応する予算を、実は今後としてはほしいと思っております。どうしても定着する人々につきましては、現在の保護施設では十分ではございませんので、その方面につきまして、今後努力しなくちゃいかぬのじゃないかと思っております。  それからまた、本年度の予算で新たに実は認められたものといたしましては、婦人相談所の医療関係の予算が新規に認められたわけでございまして、これは私どもとしましては、実は喜んでおるわけでございまして、金額といたしましては二百六十七万九千円で、額といたしましては十分ではございませんけれども、一応全国の婦人相談所におきまして、ある程度の医療を行なうことができる、さらに明年以降におきましては、保護施設におきましても相当程度の医療が行なえます。もちろんこれは、入院治療というような高度のものではございませんけれども、ある程度の医療が行なわれるような予算をお願いいたしたいと、こう考えておるわけでございまして、そういうわけで私どもとしましては、努力をいたしまして、予算が減少したことによりまして仕事ができない、第一線が困るということのないように努力いたしたいと考えております。
  81. 市川房枝

    ○市川房枝君 厚生省関係の問題についてなお伺いたいことはありますけれども、あまり時間がおそくなりますから、次に警察の方に伺いたいのですが、三月二十七日の毎日新聞の朝刊に、「困った”制服の売春“」として「ふえるのに野放し」と、こういう新聞の記事が出ております。これは中学生を含めての少女が売春をやっておる。少年がボン引きをやっておるというようなことが出ているのですが、そのおしまいに、これは警視庁の渡辺防犯部長のお話としてこういうことがちょっと出ているのです。「売春防止法は単純売春を罰しない建前なので」、おとなの売春婦さえ以前のようにぴしぴし逮捕できない。「中学生が売春行為をしていたからといって強く取締まることはとてもできない。原因は複雑な社会環境にあり警察当局の手におえない問題だ。」とある。まあその原因は複雑な社会問題という、ここは私はそれを認めるのですけれども、しかし警察の手におえない、強く取り締まることはとてもできないといいますが、そうすると結局まあ見出しにあるように、こういう問題について警察は野放しといいますか、あまりタッチしておいでにならないということになりましょうか。
  82. 木村行藏

    政府委員(木村行藏君) まことに不勉強で、その記事を私読んでおりませんので、具体的に明確な答弁を申し上げることはできませんが、警察といたしましては、もちろん全体の政府の施策といたしましては、むしろ売春をやられる婦女子の方が被害者でありますから、国の施策としてはその保護更生といいますか、これにほんとうに力を入れていただく。で、警察だけが取り締まりが独走するということは必ずしも全体の政策としては正しいとは思えない。従いまして、警察といたしましては、県の売春防止対策本部あたりでは盛んに関係向きに対しましてその点を強く、まあ取り締まりの体験からいたしましても要望いたしております。  それからお示しの点について、法に触れる場合は当然もう取り締まりをいたし、検挙もいたしますけれども、ただ、単純にお互いに合意でまあそういう行為をいたし、それに対して対償をもらっておる。報酬をもらっておったという程度の、いわゆる単純売春は現在刑罰の裏づけがございませんので、警察としては取り締まりができない、そういうことではないかと思いますけれども
  83. 市川房枝

    ○市川房枝君 まあ児童である場合は、これは児童福祉法で児童に淫行をさせるものは罰せられることになっておるのですけれども、今お話のように合意の上ということになれば、まあかまわないといいますか、ということになるのかもしれませんが、これは一般の青少年問題と関連してきて、私はまあ法がなから、しょうがない、あるいは警察だけ独走できないということも一応の言いわけにはなりますけれども、しかしこれは非常に重大な問題だと思うのですが、これを何とかできないものかどうかという点を一つ考えをいただきたいと思うわけですが、それに関連して、売界防止法ではお話通りに単純売春は罰していない。東京都において売春防止法が実施される前にはいわゆる条例でもって単純売春も罰しておりましたね。それから相手の男と言いますか、その相手も罰すことになっておったわけですが、それが防止法の実施によってかえってできなくなった、緩和されたと、こういうことになるのですが、この事態は警察が売春問題の取り締まりの場合に、今の渡辺防犯部長のお言葉にもありますように、非常にこの問題の取り締まりに困難を来たしているということが言えますかどうですか。というか、別な言葉で言えば、やはりある程度単純売春も罰するというか、それも考えなければ売春問題の解決はできないと、こういうことにもなりましょうか。
  84. 木村行藏

    政府委員(木村行藏君) 二つお答え申し上げたいと思いますが、先ほどの問題に関連しまして、いわゆる青少年問題の非行問題としての補導の関係においては、これはほんとうに積極的にいろいろ早期にそういう非行性のある者については、なるべく程度の低いうちに早期に発見いたしましてしかもそれを科学的にその危険性の判定をいたしまして、関係方面に密接に連絡をいたして、早目に治療するというような補導なり非行対策は当然とらなければいかぬと思いますので、補足して申し上げたいと思います。  それからただいまの単純売春の処罰の問題でありますが、実際に警察がいろいろ行なう、現行の売春防止法に基づくあるいは勧誘事犯なり、あるいは場所提供なり、あるいは困惑売春なり、管理売春なり、いろいろ売春助長事犯の関係におきまして取り調べをし、捜査をして事件を検察庁に送るというような体験からいたしまして、大体それだけには終わらないで、どうしてもそれと関連のある売春行為自体を裏づけなければいけません。それが捜査の対象になりますので、従いまして、単純売春行為を処罰の対象にすることのいかんを問わず、やはり当然捜査の対象になりますので、単純売春行為を刑罰の対象にしていただいても結果において私は同じだと思いますので、捜査の苦労はどちらも同じで、従いまして、別な観点から単純売春の刑罰の可否というものを論じなければいかぬかと思うのであります。
  85. 高田なほ子

    高田なほ子君 関連して。今の渡辺部長さんの言い分も法律的な言い分として受け取られるようですが、児童福祉司というものがあるわけですね。制服の子供だと十八才に満たない子供でしょう。それを児童福祉司に連絡をするくらいの役目は警察としてもできるのじゃないでしょうか。法律的に処置がないというのじゃなくて、順良な風俗を乱すおそれがあるものであり、かつその相手の男が十八才でなくて、もっとおとなであったような場合に、たまには刑法だって適用する場合もあり得るだろうと思う。警察は児童福祉法によって児童相談所に連絡をして、そういう者の一時保護を依頼するというようなことは現行の警察の権限だってやろうと思えばできるのじゃないのですか。野放しにしておくという手はないのじゃないのですか。
  86. 木村行藏

    政府委員(木村行藏君) お説の通り現行法でもできますので、それは当然やるべきことではないかと思いますけれども、また少年法の関係犯罪を犯すおそれのある少年が、性格なり環境上そういうおそれがあるという場合には虞犯少年としていろいろ少年法に基づいて処置しなければいけませんので、警察が第一線で一番それに直接かつ数多くタッチしており、また早目にタッチしておりますので、その少年法に基づいても当然連絡なり、あるいは送致といいますか、やるべきであり、またかりにそういう法に基づかない場合でも、できるだけ事実行為としては、やはり非行防止のためには積極的にいろいろ手を打つべきではないかと私は思います。従いまして、警視庁の防犯部長の談話の内者について、私は正確に信憑性というか、内容は知りませんので、面接お答えは申しにくいと思いますけれども、以上のようないきさつでございます。
  87. 高田なほ子

    高田なほ子君 談話の内容をごらんになっていらっしゃらないからお答えできないという点ごもっともだと思いますが、しかし、おおむね手のつけようがないという考え方をお持ちになっているとしたならば、これは問題だろうと思うのです。ですから、この点については、現行法でもただいまの御説明のように積極的に手を打つというような意思があればそれはできるので、当然やはり当局としても新聞あたりが指摘しているようなことについては、積極的にやはり手をお打ちになるようにしていただきたいと思いますが、この点はできませんか。
  88. 木村行藏

    政府委員(木村行藏君) 今ここで読んでみますと、原因は複雑な社会環境にあり、警察当局の手に負えない問題だということは、これは善意に解釈すれば、まあ売春問題の根が非常に深い、また関係するところが非常に多くて広いということで、警察だけの取り締まりでは簡単に片づかないということを言っているのではないかと思います。しかし、それが売春取り締まりなり、少年の非行問題に対して冷たく、消極的であってはならないと私は思います。やはり先生のおっしゃるように非常な意欲を持って、またいろいろ工夫をして積極的に手を打つべきだと私は言明できると思います。
  89. 市川房枝

    ○市川房枝君 もう一つ、警察並びに法務省の局長さんに伺いたいのですが、さっき御説明の中でひもの問題といいますか、暴力団の問題がありましたが、何だか東京は暴力団との関係の調査がないみたいなことをさっきおっしゃいましたけれども、東京こそ調査があってしかるべきじゃないかと思うのです。それはどうも少しおかしいのですけれども、どういうわけですか。まず第一にそれを伺いたい。
  90. 木村行藏

    政府委員(木村行藏君) 先ほど申し上げた暴力団関係者の資料は、実は警察庁の刑事局の捜査課の資料に基づいて一応組織的に、また継続的にというような意味においてのまとまった団体としてのものが売春に関連している。それが東京には比較的ほかの都市よりは少ないということで、その他の中に入れてありまして、これは若干大阪や神戸とは違うようであります。
  91. 市川房枝

    ○市川房枝君 東京がほかの都市より少ないというのはちょっと納得がいかないのですが、実は三月二日の毎日新聞の社説で、「売春婦をヒモから救え」、と暴力団のことが書いてある。四月六日のには、「女の血を吸う暴力」ということが実は書いてあるのです。そしてお終いにいって、四月六日の新聞では、「ヒモや暴力団に支配されているかぎり、保護施設をどれだけふやしても、女たちは救われな。売春防止法はザル法に終る。女を食いものにするダニに、遠慮なんかする必要はない。取締りをゆるめたら、ますますつけ上がり、のさばるだけだ。思い切って取締れ。そして、ダニを根絶せよ。」というような強い言葉を使ってあるのですが、四月四日の日経新聞では、「さっぱり減らぬ売春」という題目で、「防止法施行まる二年」ということで書いておりますが、その中で、警視庁の売春対策本部の談として、こういうことを書いておるのです。「警視庁売春対策本部では「ヒモを罰する法律がないかぎり売春はますます常習者が潜行し、解決しにくい」として早急に法律改正するよう売春対策審議会に働きかけているが、」というふうに書いて売春と暴力団——ひもとの結びつきを非常に問題にしておるわけなんですが、今の警視庁自身ですら「ヒモを罰する法律がないかぎり」と、こういうふうにおっしゃって希望しておられるように出ておるのですが、今の売春防止法ではひもは一体罰しておるのか。まあ、今の法律でも罰せられると法務当局はいつかおっしゃったことがありますが、一体そういうひもに翻する者をどのくらい罰しておるのか。さっきの犯罪の報告では、ちょっとそれは出てきていないみたいですが、どうなんですか。そういうひもをはっきりと罰する規定法律の中に入れる必要をお認めになるのかどうか、それを警察と両方から伺いたいと思います。
  92. 竹内壽平

    政府委員竹内壽平君) ひもの問題でございますが、売春防止法の規定の中に、ひもを罰する規定があるかないかという点につきましては、私どもは部分的ではありますけれども、たとえば八条のようなもの、あるいは七条のようなものなどは、ひもに関連した規定でございまして、全然ないというわけじゃございません。しかしこれで十分かと申しますと、だんだん御指摘がありますように十分とも思われないのでございまして私ども考えを率直に申し上げますと、刑綱法規の改正ということになりますと、施行後二年程度ですぐ変えるということは、やはり私どもとしては慎重でなければならぬとは思いますが、先ほど来お話がありましたように、売春の地図と申しますか、売春の形態も一応売春防止法によりまして、過去のものは葬り去られて新しい形態の売春も出て参りました。ことに五条違反の罪などを見ますると、過去の売春婦は一応世の中から去って、新しい売春婦が出てきたように思いますし、また管理売春の規定などの適用状況を見ましても、一応昔の赤線、青線と言われたものはつぶれたが、今度は違った形の管理売春が出てくる、こういうことになりました今日におきましては、私どもそんなにちゅうちょしておるわけではございません。まだこれから法務大臣にも御相談申し上げて処理をしなければなりませんが、事務当局の考えといたしましては、青少年課も発足いたしまして、この機会に本格的な——今まで比較法学的な研究はずっとやって参りましたが、これから実態の調査もいたしまして、予算にも売春防止法の一部改正という緊急な問題だということで、わずかながら予算もいただいておりますので、できれば次の国会あたりを目途といたしまして、今のひもの問題、管理売春の問題等の法律の整備というものを考えたいと事務当局といたしましては考えておるような状況でございます。
  93. 市川房枝

    ○市川房枝君 今事務当局としての御意見として、次の国会にひもの処罰についての法の改正を考慮しておるのだというお言葉を伺ってそれを一つぜひお考えをいただきたいと思うのですが、ひもの問題は、まあそれは今申し上げた新聞なんかにも出ておりまするけれども、一番私は憎むべきものだと思います。そのひもの解釈も、私去年イギリスへ参りまして、イギリスの新しくできた売春禁止法といいますか、私娼の禁止法の中で、道路取締法という名目なんですが、その中で特にひもの問題だけははっきり出しておりまして、売春からの収入で生活しておる者は七年以下の懲役に処す、こうはっきり出ているのです。その場合、収入で生活しているという場合に、これはイギリスの担当のお役人の方に私は伺いましてそれは夫でも処制するのだ、こういう意見でございまして、日本でもそういう場合があるので、その場合は、夫が病気の場合はかわいそうじゃないかという意見がありますけれども、それは私はその場合は別に生活保護とか、あるいは医療保護とかというような通でもってするべきであってかりにも売春の収入で生活を許すということはできない。そういうふうにやかましく規定していいんじゃないか。インドの売春禁止法にもちょっとひものことが、はっきり禁止のことが出ております。これもはっきり見てきたのですが、これは一つどうぞそうお願いをしたいと思っております。  なお、私として伺いたい点がありますけれども、時間がだいぶ過ぎましたので、きょうは一応この程度にして、また別の機会にしたいと思います。
  94. 大川光三

    委員長大川光三君) ちょっと速記とめて。    [速記中止〕
  95. 大川光三

    委員長大川光三君) それでは速記をお願いします。ほかに御発言もなければ、本件に関する本日の調査は、この程度にとどめたいと存じます。
  96. 高田なほ子

    高田なほ子君 ちょっと要望がございます。きょうは午後二時まで、お昼も食べないで、基本的人権を害したような形で質問をさせていただきまして、いろいろありがとうございました。委員長におかれましては、こういうふうに各関係省がお集まりいただくということは、なかなか大へんなことだと思いますが、私どもは、きょうは一応全貌を伺ったり、問題点などを把握したわけですが、もう一ぺん機会を一つお作りいただいてこのような陣容をお揃えいただいて、さらに質問の機会が得られるようにお取り計らいいただきたいと思いますが、よろしくお願いしたいと思います。
  97. 大川光三

    委員長大川光三君) 承知いたしました。  なお、本日の調査に関しまして、各当局より御出席の上、御熱心なる意見の開陳を得ましたことは、委員会としても感謝のほかありません。ただいま高田委員御要望の通り、さらにこの種調査を行ないたいと存じますから、今後といえどもそう御協力を賜わりますよう、この機会にお願いを申しておきます。  以上をもって、本日の審査は終了いたしました。次の委員会は四月十二日、午前十時に開会いたします。  本日は、これをもって散会いたします。    午後一時五十八分散会