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政府委員(
竹内壽平君)
不動産に対する
不法侵害の
事態は、
終戦後
権利関係の混乱しておりました時代、しかも、住むに家なく、
従前所有の
目的で賃借しておりました
土地、その
建物が消滅いたしましたために、
臨時措置法等によりましてその
土地を使用することができることには相なりましたが、なかなか
建築資材等が乏しいといったようないろいろな
事情もありました上に、外地から帰って参ります者、あるいは兵籍から免除されてそれぞれその
居住地に帰って参りました者、こういったような戦後のいろいろな
事情のもとに、やむなく公園とかあるいは
学校跡とかあるいは空地になっております所に
住宅を建てて使用するというようなことも起ごつたのでございますが、これらの中には、もちろん承諾を得、あるいはその勧奨に基づいてできたものも多数あるわけでございますが、中にはこのような
混乱期に乗じまして、勝手に
他人の
土地に家を建てるというようなことが、特に
罹災地におきましてははなはだしく行なわれたようでございましてこれらの
不法占拠の問題が、
終戦後数年を経ましてようやく
権利関係の
明確化が一段と
国民の間に強く要望されるようになりますとともに、
各地においてこれの取り扱いが問題となって参りました。特に
罹災都市におきましては、多くの
都市計画な
ども実施されるに際しまして、これらの
不法占拠が問題となって参りまして、ことに、最近におきましては
土地の価格の非常な暴騰と相待ちまして、一そうこういう傾向は助長されてきたと思うのでございますが、かようにして漫然と行なわれて参りましたこの
不法侵害が、
権利者にとりましては、今日まで許されております
方法は、これを
民事訴訟に訴えて
権利を確保するということになるほかないのでございまするが、この
民事訴訟もなかなか
権利者の希望するように迅速に判決を得ることがむずかしいのでありましてこういうことからいたしまして、やはりこの
不動産にも、一定の限度のものでありますが、このような
不法占拠の
状態につきましては
刑罰をもって臨んでほしいという強い声が
各地から起こって参りました。お
手元にも資料として差し上げてあるわけでございまするが、最近、
法務省におきまして、
各地の
罹災都市について
実情を
調査いたしましたところが、相当過去におきまして多くの
不法侵雷の
実態をつかむことができたのでございます。しかし、それにいたしましても、これはまあ
終戦直後の出来事であって、その後、だんだん
民事訴訟の
進行等に伴って逐次改善されていくのではないかという
考え方も実は一方においてあったのでございまするが、なお、私
どもの
手元において
調査し得る限りの
方法をく尽して、検察庁その他につきましては
不動産の
不法侵害に関連していろいろな
犯罪が起こっておるということも確かめられたのでございましてそれらを見ますると、はなはだしいのは殺人までも起こっておるといったようなことが明らかになって参りましたのみならず、最近におきましても、火災その他あるいは
風水害等によりまして一時監視の口が離れるというようなことになりますると、
不法侵害をする者がなお跡を断たないという
状況であることも明らかになって参りました。
そこで
刑事立法としてこれを
刑罰的に
保護していくということもどうしても必要ではないかというふうに考えまして、実はここ三、四年来、鋭意、
実態の
調査とその
法文化につきまして
研究を重ねてきたのでございまするが、一応、このような
実態でありまするので、
不動産に対する
占有の
侵害に対しましても何らかの手を打つということで、その
刑罰類型につきましてもいろいろ
研究をいたしたのでございまするが、先ほ
ども趣旨説明で御
説明申し上げましたように、これには
二つの
考え方があるように思うのでございます。その
一つは、今回
政府提案としてただいま御
説明した
不動産侵奪という
類型。これはまあ
窃盗と同じ
考え方に立つものでございまするが、もう
一つは、この
不法占拠そのものを罰するという
考え方でございます。この
二つの
考え方に対しまして、
実態は
不法占拠なんだから、
不法占拠そのものをずばりと罰するということが
実情に合うんではないかという御議論も相当各方面にあることは、私
どもも
承知いたしております。ところが、この
不法占拠と申しますのは、
法律的に見ますると、
一つの
占拠されておる
状態を罰するのでございまして、その
占拠の着手のときには、
住居侵入のようなことも伴って、ある期間継続して
占拠の
状態があるということになるわけでございまして、こういうふうにいたしますと、一体、
保護しようとするのは
財産権の
保護であるのか、
一つの
不法侵入のようなものを
保護しようとするのであるかという、その
保護法益という点につきましてもすこぶる明確を欠くのでありますし、なお、この
状態を罰するということになりますと、これは
刑法の方から申しますれば、いわゆる
継続犯というふうに見られるのでございまして、そうなりますると、ただいま御
審議を経て
成立いたしました場合に、それは将来に向かって
効果を発するというのが
刑罰法の大
原則であります。
刑罰規定の不
遡及の
原則と申しますのはそれでございまするが、
継続犯ということになりますると、不
遡及の
原則にもかかわらず、過去の
不法占拠の
事態についても、現に
犯罪があるということになりますので、
解釈上、過去のものにまでさかのぼって
適用を見るという結果になるわけでございます。のみならず、
不動産関係の
権利関係というものは複雑でございますが、
賃借権が消滅した場合には、これは
民法上違法なる
占有になりますことはもとより申すまでもないところでございまするが、その違法であるか違法でないかの
争いのある
状態につきまして、そのような
争いのある
不動産の
占有状態をも
不法占拠で
処罰されるといったようなことにもなるおそれがありますし、そうなりますると、
刑罰規定によって
民事の
法律関係に不当に介入するような悪い
影響を与えるようなおそれもないとは言えないのでございます。
立法政策的に考えてみましても、不
遡及の
原則に反するような結果を生ずることは適当でないのでありますから、右のような
不法占拠そのものを
処罰するという
類型をとらないで、ここに提示いたしましたような、
不動産侵奪―積極的に
他人の
権利者の
占有を、
所持を排除して
自己の
支配に移すという、
窃盗と同じ
類型の形で、
対象がただし
不動産と動産の違いであるというにすぎないと、こういう
類型の
不動産侵奪というものを立案いたしたのでございます。これによりまして、今申しましたように、過去に
不法占拠の
状態になっておりますものにさかのぼって、本罪が
適用されることはないということがはっきりいたします。それから、
不動産侵奪という
類型をとりますれば、
窃盗と同じになり、その
犯罪は
即時犯というふうに解されますので、将来に向かってのみ
適用を見ることはもちろんでございます。それから
賃借権の消滅した後になお引き続いて
占有しておるというような場合には、これはまあ
民事訴訟の
対象にはなりまするが、積極的に
他人の
所持を侵すという
関係ではございませんので、
不動産侵奪罪にはならないというようなことで、その間の
法律関係は明確になるばかりでなく、
民事訴訟にも不当な
影響力を与えないというような点からいたしまして、世したくさんあります
不法占拠の中で最も悪質と思われまする事案のみがその
対象になるという
意味におきまして取り締まり上は、若干手ぬるいという御批判もあろうかとは存じますが、立法技術的に見まして、あるいは
立法政策的に見まして、このような
改正をいたしますのが最も適当であるというふうに考えた次第でございます。
申すまでもなく、
刑法にこのような
規定を設けますことは、
刑法が持っております
一般他戒的な
意味、こういう
効果は十分これから期待され得るのでありまして、
不法占拠何ものぞというような、堂々たる
法蔑視の風潮に対しまして、やはり
刑法の中にこの
規定を設けることによりまして、将来に向かって大いに
一般他戒の
効果を発揮するもの、かように期待いたしているのでございます。
大体御質問の御
趣旨にお答え申し上げたつもりでございます。