○
説明員(
内海巌君) ただいま御
指摘がございましたように、ニュージーランドにおきまして二十五カ国及び南太平洋
委員会ユネスコ本部の
関係者四十名が出席いたしまして問題を討議いたしました。何分、長期にわたるセミナーでございまして、分科会が十三設置されまして、多面的な問題が討議されたのでございますが、これを要約いたしまして、主要な問題は大体六つにわたるかと
考えます。第一は、
教科書その他の学校向けの出版物の生産、供給組織に関する問題、第二は、東西
文化価値の相互理解増進のための
教育内容の検討について、第三は、補助的な読みものについての
資料交換、第四は、視聴覚教材の相互交換とその問題点、第五、
資料、翻訳の問題、第六、国際的センターの問題・大体以上六つが討議された主要な問題であろうかと
考えております。
最初に、
教科書その他の学校向け出版物の生産、供給組織に関する問題点について要点を申し上げます。このセミナーの開始前に参加各国から予備的
資料といたしまして、それぞれの国の
教科書その他の学校向け出版物の生産組織を
説明するレポートを提出しておいたのであります。これをもとにいたしまして総会において論ぜられたのでございますが、日本といたしましては、現行の日本の
教科書制度の概要をあらかじめ送付しておいたわけでありまして、これに対する補足
説明といたしまして、日本の
教科書制度の歴史的概観ということを申したのであります。明治五年の学制
制定以来の
状況を概説したのでありますが、日本の
教科書制度は、東南アジアの新しい独立国にとりましては、重要な参考
資料となったということが、後刻、参加者から個別的に
お話がございました。これにあわせて、ただいま御
指摘がございましたように、国際
教育情報センターからもいろいろと御
意見を承つておりましたので、諸外国の
教科書に現われた日本に関する記述の誤りがどのような原因によって発生していると
考えるか、また、それを除去するための対策を立てるべきであるという問題について主張したのであります。その根本は、要するに東南アジアの諸国に例をとつてみますというと、これらの国の
教科書の
内容で日本に関する記述を見ますというと、直接、日本から
資料を取り寄せていることが非常にまれでございまして、かつての植民地時代の統治国、たとえばラオス、カンボジアという国は、フランス本国の
教科書の中に出ている日本の記述をさらに自国語に翻訳して書いているという、そういう経路が非常に多いことがわかったのであります。そこで、
関係当事国相互の直接
資料交換の重要性を
指摘したわけでございますが、この問題は国連において採択されまして、これに対する対策が考慮せられているわけで、このことは
資料センターの問題にあわせて申し上げたいと思います。なお、
教科書出版の現状から申しますというと、東南アジア諸国においては、非常に
教科書の生産それ自体に困難を感じている事情が多々報告されたのでありまして、これに対しては、ユネスコ本部及び加盟国のうち、
教科書生産についてはすでに十分の経験を持っている国々から経済的及び技術的援助を行なうべきである、これに対する具体的な方法がユネスコにおいて考究さるべきであることが論ぜられたのであります。
第二は、東西
文化価値の相互理解増進のための
教育内容の検討でございますが、これは主として社会科ないし歴史、地理の
教科書内容についての問題が論議されたのであります。
一般に各国の
教科書が外国の事情を
説明する場合には、
教科書という
性格上、十分の紙面をとることができませんので、勢い記述は単純化せられ、
一般化せられる傾向を持っております。この際に、著書の主観によってその単純化、
一般化の
方向が決定されるという
一つの難点を持っておるわけであります。そこで、これに対する基本的対策としては、相手国から自国を紹介する場合に重要と
考えられる問題点を指示するという、こういう
方向が今後相互的にとられる必要がある。そのためにも
資料の相互交換の重要性が論ぜられたわけであります。さらに、
関係国相互の間において
教科書の共同研究を促進する。で、これによって
関係国相互が互いに
教科書の
内容を検討し、その問題点を交換することによって相互の誤解を除いていくというのが
一つの方法であります。しかし、多面的に多数の国が同時にこの
資料交換を行なう際には、とうてい直接交渉では間に合いませんので、あらためて国際的なセンターを設置する必要があるということが議論されたのであります。これも後にまとめて申し上げます。
第三には、補助的な読みものについての
資料交換でありますが、
教科書の
内容は、それぞれの国の
教育方針によってその基本的な
立場が
規定されます
関係上、むやみに他国の
教科書の
教育内容に積極的な
意見を述べることは内政干渉のおそれもあるということから、
教科書問題については全体としては非常に慎重な態度をとつているのであります。従いまして、この欠陥を補うものとしては、青少年向きの課外の読みものを重視する必要がある。この方面の
資料を今後積極的に交換することによって、
教科書では十分達成されない誤解の除去をはかつていくことが目下の急務であるということが論ぜられました。そのために、セミナーとしては、八才から十五才までの青少年に対する読みもの記述の
内容基準を設定したのであります。今後、各国は、外国向けの
資料を作成する場合には、この共通の
内容基準を根拠といたしまして、英文またはフランス文によって
資料を執筆する。また、
関係国から自国の
内容を紹介する
資料を要求された場合には、この要求に基づいて、それぞれ他国向けの英文または仏文の
資料を直ちに供給し得るような準備を各国は整えておくべきであるということも論ぜられたのであります。これに関連いたしまして、日本ユネスコ国内
委員会が一九五八年から五九年にかけまして、ユネスコ本部の
要請によりまして、世界の青少年のための、十二才から十五才までの青少年向きの英文の
資料を作成いたしまして、これを日本から参加各国に
説明したわけであります。ユネスコ本部は、あらかじめこの
内容を検討しておりましたが、これが非常にすぐれたものであるとして、このセミナーのパイロット・プロジェクトとして推奨されたのであります。その結果、セミナーの結論といたしまして、日本から提供いたしました
資料は、
関係各国が自国の青少年の日本に関する読みもの
資料として、今後何らかの方法でこれを印刷して国内に配布する、また、参加各国はこの日本の
資料の作成方法を参考にして、今後、同種類のものを作成するということが決議として取り上げられたわけであります。
第四に、このセミナーでは出版物の解釈を広範にいたしまして、視聴覚教材に関連してもこれを取り上げたわけでありますが、そのうちで今後の東南アジアを中心にして
考えました場合には、掛図であるとか、テープレコーダー、フイルム・スクリップの重要性が再確認されたわけであります。しかし、これには郵送料の問題、あるいは輸入税の問題が関連しておりますので、これを国際的に解決する方法を検討することがユネスコ本部に
要請されたわけであります。
第五に、以上申しましたように、青少年向けの読みものを提供することが現下の急務でありますが、それにはすぐれた翻訳という技術を必要とするということが議論になったわけであります。そこで、今後はこの翻訳の専門家を国際的な機関において養成すること、また、この翻訳家の地位、待遇を各国は十分考慮して、ユネスコの希望を達成し得るように考慮することが論ぜられたのであります。
最後に、国際的センターの問題でありますが、ソ連からは国際的な規模におけるセンターの設置が提案されたのであります。しかし、現状から申しますというと、一挙に大規模のものを設定することは非常に困難が予想されますので、さしあたっては
地域的なセンターを考慮していくべきである、しかも
最初の
仕事としては、主として八才から十五才までの青少年向けの読みもの
資料を整備し、各国の要求に応じてこれを配布できるような、そういう
地域的なセンターをまず
考え、この
事業が軌道に乗
つた暁において視聴覚教材の交換に手を着けるべきであるということが
考えられておるわけであります。このセンターの設置位置につきましては、いろいろの議論がございまして結論には到達いたしておりませんけれども、アジアにおいて日本が非常に重視されていたことは、セミナーの空気を通じて推察できたところであります。
大体以上が概要であります。