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国務大臣(
福田赳夫君) 私は
経済的に見ましても、社会的、政治的に見ましても、これは
農業というものは大へん重要な地位にあるというふうな
考え方を持っておるわけです。
所得の問題は、事おのずから直接
経済問題でございますので、
経済的な角度から見ますと、日本の全体の
経済の中におきまして、日本の
農業というものがどういう立場にあるかということを考えてみれば、食糧も一ころは五億ドルも輸入しておったわけでございますが、今日それが大へん減少しておるにいたしましても、まあ四年前の
昭和三十一年の米の作況というようなことを考えますると、米だけでも大へんな輸入をしなければならぬというような
状態に相なるわけでございまして、日本の
経済を今後発展させていくもとになる国際収支という面から考えますると、この
農業の
生産というものはきわめて大事な地位にあるというふうな考えを持っておるわけであります。それから日本全体の
経済構造から考えてみましても、農村が安定するということは地方都市が安定することであり、地方都市が安定し、また農村が安定するということに相なりますれば、それに物を供給する国の大
事業が安定する、
経済安定
政策の
基本をなすものは、農家、
農業の安定にある、かような
考え方を私はとるべきである、そういう観念を持っておるわけでございます。まあ一方においてそういう
考え方をとっており、また、とるべきであるというふうな
考え方をとると同時に、今当面する
農業の、また農家の悩みというもの、これを直視してみますれば、いろいろの問題がありまするが、大きく言うと、私はこの科学技術の世の中におきまして、
農業というものが科学技術をフルに受け入れがたい
性格を持っている。ことに日本の
農業というものは零細
農業であるという点から、その
傾向をさらに激しくしているのだという点から、
生産の効率、
生産性において他の
産業にだんだんと劣る
状況がここに出てきていると、かように考えるわけでございます。ただ日本の
農業につきましては、私はそういう非常にむずかしい
事態には当面しておりまするが、しかし、意気阻喪し、
農業の前途をあきらめてしまうという必要はない。農家は思いを新たにして立ち上がるべきときに今や来ている、かように考える次第でございまして、この悩みを解決するという方法といたしましては、これは農家自体だけでは解決できない、日本
経済全体の中でこれを解決していかなければならない、こういうふうに申し上げておるわけでございます。そのゆえんは、農家の
所得を維持し発展させるというためには、どうしてもこれは農家の
生産を高め、また同時に、
生産効率を高めるということをさらにしなければならぬが、日本の
農業というものは古来そう大きな変革がないのです、実は。今後新しい部面というものが日本の農家の将来にはいろいろと待ち受けておる。酪農しかりです、また果樹しかり、いろいろな面におきましてこれから育てていけばいいという面も多々あるわけでございます。まあ一戸当たりの農家の
生産を高め、
生産性を向上するという
政策をとる余地というものがずいぶんあると同時に、日本の工業方面の実力というものは最近めきめきと発展をしてきております。で、これに要するところの雇用、
需要ですね、これもずいぶんあるわけでございますから、労働
生産性が、
農業における労働の
生産性が高まり、よって生ずる過剰労働というもの、これは当然生じてきます。これを受け入れて、また鉱工業の方で活躍させ得る素地というものを持っておる。そういうようなことを考えますると、これは長期の、たとえば十年計画というようなことを考えながら日本の
経済を発展させ、その発展の中に日本の農家の余剰労働力というものが活躍できるという受け入れ態勢というものを組織的、計画的に実践していく可能性というものがあるわけでありますから、それを
一つ総合的な計画のもとにここでやっていくべきじゃないかというようなことから、
経済二倍拡大長期計画というものを
政府の方では今
検討中なんです。やはり日本
経済全体が
伸びるということに一方においては取り組みながら、一方においては、それをよりどころといたしまして
農業の
所得を向上し、そしてその較差の解消ということを実現していくということかと、かように考えておるわけです。それで、過去の趨勢を見ましても、まあ農家の比較的安定しております三十一年から三十四年の趨勢を見ましても、
農業の総
生産、これは四・三%ずつの年率をもってふえております。ところが、この間に農村から都市への労働力の移動が行われておるわけでございまするから、一戸当たりの
所得増加率は五%をこえる五・三というような比率になるわけであります。五・三の比率というのはこれは非常に高い比率でございます。今後のことを展望してみますると、今申し上げましたような四・三というような年率が総
生産の面におきまして確保できるかどうか、これはなかなか、いろいろ議論のあるところでございまして、あるいは人によりましては二・五%くらいではないかというように低目の説をなす人もあります。あるいは、まあ三%なり三・五%くらいいけるのじゃないかというような見方をする人もあります。しかし、日本
経済がどんどん拡大されるとそれに要する労働
需要、そういうようなことを考えますると、今後引き続いて農村から都市への労働移動というものは、これは私どもは相当大幅に行なわれるというふうに見ておるのでございまして、まあ今後におきましても、ただいま申し上げましたような一戸当たりの農家の
所得ですね、問題はそこにあると思うのですから、一戸当たりの農家の
所得はそういうふうに向上するというふうに考えております。他面、それじゃ鉱工業の方はどうなるかという問題でございまするが、鉱工業の方につきましては五・三よりははるかに高い総
生産が上がるわけです。しかし、
農業労働もそこに加えていく結果、二
月当たりの
所得としますると、大体農家の
所得と同じような点に下がってくるという
傾向を持つわけでございます。そういう大体のことを見当といたしながら、ただいま農工間の較差を解消するということが着実に実現するような
施策を
検討中でありますから、かように御了承を願います。