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1960-06-10 第34回国会 参議院 日米安全保障条約等特別委員会 第5号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十五年六月十日(金曜日)    午前十一時二十九分開会   —————————————   委員の異動 本日委員永野護君辞任につき、その補 欠として井川伊平君を議長において指 名した。   —————————————  出席者は左の通り。    委員長     草葉 隆圓君    理事            井上 清一君            西田 信一君            増原 恵吉君            吉武 恵市君    委員            青木 一男君            青柳 秀夫君            井川 伊平君            鹿島守之助君            木内 四郎君            木村篤太郎君            後藤 義隆君            笹森 順造君            杉原 荒太君            鈴木 恭一君            苫米地英俊君            永野  護君            鍋島 直紹君            野村吉三郎君            堀木 鎌三君   国務大臣    内閣総理大臣  岸  信介君    法 務 大 臣 井野 碩哉君    外 務 大 臣 藤山愛一郎君    大 蔵 大 臣 佐藤 榮作君    厚 生 大 臣 渡邊 良夫君    農 林 大 臣 福田 赳夫君    通商産業大臣  池田 勇人君    運 輸 大 臣 楢橋  渡君    郵 政 大 臣 植竹 春彦君    労 働 大 臣 松野 頼三君    建 設 大 臣 村上  勇君    国 務 大 臣 赤城 宗徳君    国 務 大 臣 石原幹市郎君    国 務 大 臣 菅野和太郎君    国 務 大 臣 益谷 秀次君   政府委員    法制局長官   林  修三君    法制局第一部長 山内 一夫君    防衛政務次官  小幡 治和君    防衛庁防衛局長 加藤 陽三君    調達庁長官   丸山  佶君    外務大臣官房審    議官      下田 武三君    外務省アメリカ    局長      森  治樹君    外務省経済局長 牛場 信彦君    外務省条約局長 高橋 通敏君   事務局側    常任委員会専門    員       渡辺 信雄君   —————————————   本日の会議に付した案件日本国アメリカ合衆国との間の相  互協力及び安全保障条約締結につ  いて承認を求めるの件(内閣提出、  衆議院送付) ○日本国アメリカ合衆国との間の相  互協力及び安全保障条約第六条に基  づく施設及び区域並びに日本国にお  ける合衆国軍隊地位に関する協定  の締結について承認を求めるの件  (内閣提出衆議院送付) ○日本国アメリカ合衆国との間の相  互協力及び安全保障条約等締結に  伴う関係法令整理に関する法律案  (内閣提出衆議院送付)   —————————————
  2. 草葉隆圓

    委員長草葉隆圓君) ただいまから日米安全保障条約等特別委員会を開会いたします。  日本国アメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約締結について承認を求めるの件、日本国アメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊地位に関する協定締結について承認を求めるの件、日本国アメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約等締結に伴う関係法令整理に関する法律案、以上衆議院送付の三案件を一括して議題といたします。  前回に引き続き質疑を続行いたします。これより通告順により質疑を許します。永野護君。
  3. 永野護

    永野護君 私は、日本国民生活に最も重大な影響を与えるであろうと思われまする新安保条約の第二条の意義と、この条約ができましたいきさつ及びこの二条を将来どういうふうに具体的に運営していかれるかという方針を総理大臣に伺いたいのでありますが、この問題に入ります前に、私はぜひとも日本国民とともによく了承しておかなければならないのは、日本経済実態いかんという問題であります。と申しまするのは、この安保条約締結に関しまして賛否いろいろ議論がありますけれども、その中に日本経済実態とあまりに遊離した議論が非常に多いからであります。現在の日本国民生活は、敗戦後の生活といたしましては、古今東西類例を見ないぐらい恵まれたる環境にあるのであります。従いまして、この今の日本国民生活日本実力相当生活をしておるという観点から出発いたしますと、この安保条約意義につきましてもいろいろな議論が成り立ち得るのでありますけれども日本経済の本質を十分に考えてみますると、そういう議論をする余裕のない日本経済実態であると私は考えるからであります。  そこで、その総理質問に入ります前に、企画庁長官に伺いたいのでありますが、日本経済は、はたしてこの日本に残されたる四つの小さな島の生産物で九千万人の人間を養い得るかどうかということを、一切の理論抜きにして、あるいは世界観の問題を抜きにして、数字を示していただきたいのであります。一体日本経済実態はどうかという問題をお聞きいたしますためには、どうしても、現在の日本実情ばかりでなくて、さかのぼって、この徳川三百年の封建時代のいわゆる鎖国経済のときにさかのぼった説明を受けませんと、ともすると誤解が生じやすいのであります。と申しまするのは、徳川三百年の間、日本はどこの国のお世話にもならないで、いわゆる武陵桃源の夢を安らかにむさぼり得たために、日本人ほんとうに切実に日本資源不足を感ずる度合いが非常に薄かったのであります。しかし、この徳川三百年の間、日本人がどこの国の世話にもならないで生き得られたという裏には、いわゆる封建政治封建経済でありまして、人民には何の自由もなく、職業選択の自由もなけらねば移動の自由もなく、個人の私生活に徹底した政府の関与ができまして、非常に徹底した人口制限政策生活水準抑圧政策があったからこそ、あの三百年の間の武陵桃源の夢が続き得たのであります。ところが、明治時代になりますると、この人口制限政策生活水準抑圧政策という二本の柱がくずれまして、資本主義経済に移りますと、自由を基礎にしたいわゆる民主主義政治になりましたので、徳川幕府の三百年の間のその夢を繰り返すことはできなくなったのであります。そこで、明治政府になりましたら、この標語が富国、強兵という二つの目標にしぼられまして、私ども子供時分に富国強兵ということを絶えず言い聞かされて参ったのであります。そうして強兵政策がある程度の火を結びますると、まずその強兵の結果得た武力によって軍旗を押し立てて海外に出まして、その軍旗のあとに経済人がついて参りまして、日本経済権益を広げることによって、絶えざる生活水準向上人口の増殖に基づく衣食住に必要とする物資総量供給して参ったのであります。それで大戦前には、やや自給自足経済を営み得たのでありますが、ただどうにもならなかったのは石油問題であったのであります。アメリカが石油を日本に自由に供給してくれましたならば、あるいは第二次世界大戦というものは起こらなくても済んだかと思う程度に、ある程度の自給自足経済ができておったのであります。ところが、今度戦争に入りまして、戦時中の経済はもちろんでありますけれども、戦後になりますると、その様相が全く変わりまして、われわれの父祖が明治維新以来粒々辛苦して拡大してくれました私ども経済権益は、一転して徳川幕府のときに残されましたる四つの島の生産力に頼って生きなければならないような状態が一瞬にして起こったのであります。今から考えますると、世界的の宝庫でありました満州を失い、台湾を失い、朝鮮を失い、千島を失い、樺太を失いまして、そして、そこに九千万……戦前から見ますると、内地の人口は六百何十万という消費人口だけがふえたという痛ましい現実がわれわれの前に残されたのであります。私は昭和二十年の終戦の詔勅を拝承しましたときに、率直に申しまして、ほっと一息をつくとともに、次の瞬間には、これは大へんなことになった、日本国民は半分ぐらい餓死しなければならないような状態が起こりはしないかと心配いたしたのであります。それは終戦後に残された日本生産力というものは、徳川三百年の間三千万以上の人間を養い得たことはただの一回もなかったからであります。三千万以下の人口にこれを押さえまして、そうしてその生活水準を非常に低いところに押さえて、それで辛うじて衣食住に必要とする物資供給して参ったのでありますけれども終戦まで向上を続けた日本経済生活水準と、九千万の人間が必要とする物資総量は、とうてい日本に残されたる四つの島の生産力では供給ができないということを実感しておるからであります。ところが、現実の問題として、餓死者が出るどころか、戦前よりもむしろ恵まれたる生活を継続し得たのであります。これはまさに世紀の奇跡と言わなければならぬと思うのであります。古今東西に、いくさに負けて、そうしていくさ前よりもいい生活ができたという例は、ただ一つも実例がないのであります。ところが、これは非常な奇跡として日本国民は恵まれた立場にあるのでありますけれども、危険なのは、その奇跡の上にあぐらをかいて、安座して、そうしてこれを既成事実として何らのこれに対する反省をすることなく、その明日の生活を設計するところに、その危険があると思うのであります。  そこで、私は、これから菅野長官に対しまして、明治時代徳川時分はもちろんのこと、その時分のことを根掘り葉掘り聞きませんけれども、少なくも、日本の領土の四五%を失い、生産施設の四一%半を失ってぼう然自失しておりました昭和二十年以来の日本が、一体どうして生きてきたか。生き得ないと数字上どうしても思える日本が、単に餓死者がないばかりか、戦前よりもむしろ恵まれた生活をなし得たのは、一体どういうわけかということを、理論を加えないで数字についての御説明を願いたいのであります。日本人がどうして寒さ暑さに適応する衣料を十分に供給し得たか。腹の減らないように、腹一ぱい飯が食えたか。りっぱなああいうビルを初め、たくさんの住宅はどうして建ったか。建つはずがないじゃないかと一応思えるのでありますから、私は、その参考といたしまして、日本人衣食住に今の生活水準を維持して、衣食住に必要とする物資総量一体どのくらいあるのか。そうして、それに対して衣食住に必要とする物資の総生産量はどのくらいあるのか。これがバランスが合っておればもう問題はないのであります。そのバランスが合わないとすれば、それは一体どうして過去十五年間日本は生きてくることができたかということを伺いたいのであります。
  4. 菅野和太郎

    国務大臣菅野和太郎君) 終戦後、日本経済がこのように躍進してきたということについてのお話、お尋ねがあったように思うのでございますが、終戦後、このように日本経済発展したその根本の理由といたしましては、結局、私は人の問題だと考えておりますが、やはり日本人経済力の点において優秀な素質を持っておったということ、これが原因だと思いますが、その日本人が優秀であったがために、今日、生産技術というものが非常に向上してきて、そのおかげで生産力が増してきた、こういうことが言えると思いますが、しかし、それよりも府にわれわれが忘れてはならないことは、終戦後におけるアメリカの対日援助であったと思うのであります。アメリカがわれわれ日本人の必要とする生活必需品を送ってきたり、あるいは日本産業の必要とするところの原料を貸して、送ってきたりなどしたことが、そもそもの原因だと思うのでありまして、一例を申し上げますれば、終戦後、日本産業がいち早く復興したのは、私は日本紡績業だと思うのであります。この紡績業がいち早く復興したために、従って、これに関連して、いろいろの産業が私は勃興してきたと思うのでありますが、その紡績業を始めるについては、その原料である綿を買う資力はもちろん日本にはありません。幸い、アメリカがその綿花を貸してくれたというところに、日本紡績業がまた再活動をしてきたのであります。そういう点において、アメリカ日本に対する対日援助ということは、これは、われわれ決して忘れてはならないことだと思うのであります。  そこで、現在、一体、この日本人生活衣食住についてどうなっておるかというお話があったと思うのでありますが、昭和三十四年度について、九千万の国民がその生活のために支払った金額は大体六兆六千七百五十億円と計算されておるのでありまして、一人当たり七万二千円ということに相なっておるのであります。この消費水準は、先ほどお話がありましたが、戦前昭和九年から十一年に比べますと、三二%高い水準と相なっておるのであります。現在も毎年この消費水準は伸びておりまするし、また、今、私の方で国民所得倍増長期経済計画を立てておりますが、十年後においてはおよそ二倍の消費水準になるのじゃないか、あるいは、二十年後においては三倍の消費水準になるのじゃないかというような計算をいたしておるのであります。そこで、このような消費需要に対しまして、米麦などはもちろん国内供給力では絶対に不足いたしておりますから、その不足分輸入いたしておるのであります。そのほか、原綿とか原毛などの多くの原材料輸入いたしておるのでありまして、結局、わが国九千万の国民生活するがためには、相当海外からの輸入に待たなければならないという情勢になっております。しからば、国民生活需要に対してどれだけのものが輸入されておるかと申しますと、パーセンテージから申しますと、大体九%であります。これを金額で申し上げますと、十六億ドルであります。その十六億ドルの中で、消費財として輸入しておるのが五億ドルでありまして、原材料として輸入いたしておるのが十一億ドルということになっておるのであります。こういうような多額輸入をしなければならぬという経済事情でありますからして、従って、その輸入をまかなうためには、どうしても輸出を奨励しなければならぬということが、日本経済実情なのでありまして、幸い、昨年来輸出が非常に増加いたしまして、国際収支が毎月黒字を呈したということは、すなわち、それだけ日本輸出能力が伸びてきたということであるし、従って、また、それだけ輸入能力も伸びてきたということに相なっておると思うのであります。  なお、今後、しからば、日本経済がどのように発展するかということにつきましては、国内生産がどのように伸びるかということをまず考えなければならないと思うのでありまして、国内生産がいかに伸びるかということは、これは生産技術がいかに伸びるかということに帰着するのでありまして、その点においては、今度の予算におきましても、科学技術の奨励ということに重点を置きまして、その科学技術の発達によって生産技術向上をはかり、それによって生産向上を来たしたい、こう考えております。それから、もう一つ考えられることは、貿易・為替の自由化によりまして、世界経済交流というものが盛んになる。従いまして、それによって日本の今後における輸出輸入の状況が変わってくると思うのであります。この将来における世界経済交流がどのように進展するかということによって今後の見通しを立てなければならない、こう考えております。でありますからして、国民所得倍増長期経済計画は、自民党の政調会で作りました案によりますと、大体十年後には二十二兆四千万円ということになっておりますが、そのうち輸入も大体七十億ないし八十億ドルの輸入をしなければならぬ、輸出も大体七十五億から八十五億ドルの輸出をしなければならぬという計算をいたしておるのでありまして、まあそのような多額輸出入をすることによって日本経済をまかなっていきたい、こう考えておる次第であります。
  5. 永野護

    永野護君 日本餓死者が出るべきはずであるのに出ないで済んで、逆に戦前よりもいい生活をなし得たことは、アメリカ援助によるところが多いという今のお話でございましたが、参考に、しからばどのくらいの金額アメリカから援助を受けたか。一番最初ガリオアイロア、その後、毎年毎年特需という形その他いろいろの形でアメリカから日本に持って来ましたドルは、総計どのくらいになっておりますか。それを伺っておきたいと思います。
  6. 佐藤榮作

    国務大臣佐藤榮作君) お答えいたします。  ガリオアイロア金額につきましては、ただいままだ正確な数字が出ておりません。ことに当初参りましたものはアメリカ軍関係で経理しておりますので、日本政府がタッチしておらないということもございますから、総額はわからないのでございますが、ただいままで言われておりますものは二十億ドルということが言われておるわけであります。  なお、経済の面についていろいろの御意見がございましたが、ただいままで戦後わが国産業技術導入をした件数は全体で千二十三件、そのうち六百七十件はアメリカであります。また世銀その他民間資金等資金の形で入り、外国が債権を持っておるその総額は七億四千万ドル近くになっておると思います。このうちからアメリカ民間資金そのものとして入っておりますものは、四億三千万ドル、従いまして世銀等を除きますと、外国から入って来た資金のうちの八九%はアメリカ民間から入っておるということであります。また株式投資実情は今日まで約一億ドルと言われておりますが、そのうち七、八割はアメリカ資本と、こういうことに考えております。
  7. 永野護

    永野護君 ほとんど大部分がアメリカ援助によって、先ほど申しますような日本国民生活を維持し得たというふうに了承して差しつかえないだろうと思います。  しからば、これは過去そういうアメリカ援助によって来たのでありますが、現在日本は、かりにアメリカ援助が全然なくなったと仮定すると、日本経済はどういうふうな現象を起こすと経企長官はお考えになりますか。
  8. 菅野和太郎

    国務大臣菅野和太郎君) 輸出について申しますと、大体、全体の輸出に対してアメリカ輸出が三割であります。輸入について申しますと、やはり三割弱であります。でありますからして、貿易関係においてはアメリカの占める重要性が三割ということになっております。もしかりに、全然アメリカとの経済交流を断つとすれば、それだけ日本経済が三割——三割というわけにも参りませんが、まあそれがいろいろ波及すると思いますけれども貿易面においては三割減少するということになりますからして、日本経済にとっては非常な打撃になると考えておる次第であります。
  9. 永野護

    永野護君 これが全く何も話のなかった場合に、この安保条約というものが新しくできなかったのならば、まあ今のままでいいという、今のままでとどまり得るということが想定できますけれども、事ここまできて、これでかりにこの安保条約が否決されて、そうしてアメリカ日本を自分の身内と思わないような気持になったといたしまして、自然アメリカの少なくも好意を期待はできない、こういうことになりますと、一割足らなくても、足りない場合にはそれが十割に影響を起こして参ります。ことに経済現象は将来を割引きますから、かりにアメリカと一切経済断行をしたという臨時ニュースが飛びましたら、私はその瞬間に、今百花繚乱のような形の各デパートにあるたくさんの商品は一瞬にして姿を消して、またこの間のような石けん一つに涙を流してもらい、一握りの砂糖に手を今わせて拝むような経済現象が起きる、私はそう判断しているのであります。で、この事実は、数字的に実は私、多少の調べを持っておりますので申し上げ得るのでありますが、あまりくだくだしくなりますから数字は省きますが、非常に大きな影響が起きてくると私は思うのであります。そこで、軽々しくアメリカとの経済断交というような言葉を、アメリカ全部帰ってくれ、われわれは中共、ソ連に頼れば生きられる、あるいは中立主義というようなことを軽々しく口にすることはできない。それを言うためには、よほど数字の根拠のある対案を持たなくして言うべき言葉ではないと私は確信いたすのであります。今の長官のお言葉アメリカを離れての日本、今の生活はないということがわかれば、それで一応私のその点に関する質問は了承いたします。  そこで、どこかの国の援助がなければ日本の国は生きられない、そういう国情であるということを、総理はきっと十分に認識されておったと思います。従って、今度の安保条約のときに今まではなかった第二条というものを入れて、この問題の安心して経済が自立ができる方向に進み得るように努力をされた結果が、この第二条だろうと思うのでありますが、総理大臣に御所見をお伺いいたします。
  10. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 安保体制のねらいは、しばしば申し上げておりますように、日本が他から侵略されない、国民が平和のうちにそれぞれの生活を営んでいって、そうして経済の復興なり国民生活向上なりを期していく、いわゆる繁栄を期していくという考えから、この安保条約安保体制というものが考えられるのであります。一たび他から侵略され、そうして戦争に巻き込まれるというようなことがあれば、すべてのこのわれわれの願望はこれでくずされる。従って、ただ単にこういうものが、何か戦争だけに関する、侵略だけに関する条約というようなものではなくして、ほんとうに平和なそうして豊かな生活をする。文化の面においても経済の面においても、われわれの生活向上していくということが私は安保体制基礎でなければならぬ。また、そういうことについてほんとう両国が信頼し、協力していくのにふさわしい相手とのみこういう条約は成り立つものだと思います。先ほどからいろいろ日本経済の問題、国民生活の問題に関しての御質問ですが、戦後のあのみじめなことから、この短い期間の間にこれだけ回復したということについて、また将来われわれが願っておるような国民生活向上せしめるという目標国民所得を倍増するような発展をしていくためには、この資源の少ない、しかも人口の多い日本経済というものを、どういうふうに持っていくかといえば、私は、過去のわれわれの経験から見ても、また経済実態から見ましても、日本経済の実質を検討してみましても、日米経済協力というもの、また日米協力して他の低開発国経済を開発する、各面において一そう緊密な協力関係に置くことが、国民の平和を守ると同時に、その国民生活を豊かにし、安保条約の真の目的を達するゆえんである、かように考えまして従来こうした条約上の取りきめなくしても、日米間においてすでに先ほどお話のように、日本経済に対するアメリカ援助協力というものがあったのを、そう有効適切ならしめるために、本条約に定めたのでございます。
  11. 永野護

    永野護君 大体総理の御説明に私も同感なのでありますが、まだニュアンスには違いがあるような感じがいたしておるのでありまして、もっと豊かな生活をするというような余裕のある問題ではなくて、もっと切実な、アメリカを離れたら日本は現在のではない、もっともっとひどい生活になるというふうに、非常にこの点をきびしく私どもには身に感ずるのであります。  そこで、今のような御趣意のほどはわかりましたが、しからば、この第二条を読んでみましても、またこの前文を読んでみましても、その文句は非常に抽象的であります。最初前文の方にも「両国の間の一層緊密な経済的協力を促進し、並びにそれぞれの国における経済的安定及び福祉条件を助長することを希望し、」と書いてありますが、非常に抽象的な文句であります。また二条に入りましても、「平和的かつ友好的な国際関係の一層の発展に貢献する。」、経済的「安定及び福祉条件を助長することによって」云々と、こう書いてありまして、その「両国経済的協力を促進する。」という、このさわりの文句が、具体的には何らの示唆が与えられておらないのであります。そこで私はこの抽象的のこの文句をどうして具体化するように総理はお考えになっておりますかということを伺いたいのであります。
  12. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 経済協力に関する条約の規定は、御指摘のように非常に抽象的になっております。私はアメリカとの済経協力という面を考えてみますると、日米相互の間の経済交流の問題が第一に考えられます。先ほどから言われております貿易の問題、外資の導入、資本交流の問題、あるいは技術の交流の問題、これらについて、従来も行なわれておりましたが、今後一そうこれを積極化していくのにはどうしなければならぬか。また貿易の問題も、昨年は御承知の通り非常に改善されましたが、こういうふうに急激に日本輸出が伸びることによって、アメリカにおきましてもいろいろな摩擦を生じておる面もあるようであります。こういうことを未然に防ぎながら、安定した基礎のもとに常に輸出入とも上昇していくためにはどうしなければならぬかという問題がある。次には、直接に日米の関係ではなくして、対国際的と申しますかの問題があると思います。たとえばそれの一つの大きな現われは、ヨーロッパ共同市場に対して日米がどういう考えでもって臨んでいくか。日米ともに共通の利害を持っておることもあるし、また多少歴史的、地理的、また経済的の意味からいっても違うこともありますけれども、しかし大きな観点から見るというと、共通した私は基盤を持っておると思います。これがどういうふうにしてヨーロッパの共同市場と協力をし、摩擦をせずに世界全体の経済発展せしめるかというふうな問題に関する日米協力の問題がございます。さらにまた、今問題になっておる低開発地域に対する経済の開発ということは、世界、特に自由主義国だけではなしに、共産国も興味を持っており、非常に関心が深い問題であります。われわれとしてこれに対して技術、資本の面においてさらに有効な協力を進めていかなければならぬが、これらのことをどういうふうに日米において協力をしていくかという問題、これらの問題を通じまして、あるいは国際会議であるとかあるいは従来の正式の外交ルートを通じて、一そう緊密にしていくことはこれはもちろんであります。しかしさらに、このアメリカ経済の実体を動かしておるものは自由経済でございますから、いわゆる言葉は適当であるかどうか知りませんが、アメリカ経済界とか財界というものと、日本もやはり自由経済でありますから、また日本経済あるいは財界との間における緊密な関係を結んでいくことが私は必要である。現にそういう点については足立日商会頭を中心として日本の側においてもいろいろな考えが進められており、アメリカ側もこれに対応していろいろなことが進められておりまして、この秋には向うから相当有力な人を招いて、これらのことについて話し合うというようなことを実現する運びになっております。そうしたいわゆる政府の従来の関係における外交的なレベルにおける活動を一そう有効にすると同時に、また民間におけるそうした関係を一そう緊密にすることによって、以上申し上げました各般の経済協力を進めていくことが必要である、かように考えております。
  13. 永野護

    永野護君 時間の関係もございますから、逆に、私はこうしたらいいと思うのだけれども、それに対して総理の御所見はどうかというふうな質問の仕方をさしていただきます。  私はこの日米の間の新しい条約は、軍事問題に重点を置き過ぎる、実際上われわれの国民生活にまっこうから影響のあるのは経済問題だと私はそう考えておるのであります。昨日以来の質問応答を通じて見ましても、軍事的のこの条約の実際の効力を発効するのは、あってはならず、またなかなか実際はない、こう考えておるのであります。今の武群の発達の上から見ますると、かりにこの条約があっても、ほんとう戦争が始まったならば、この条約に基づくアメリカ援助を得ましても、おそらくそれはザッツ・オールになるような気がするのであります。従いまして、そういうことはあってはならぬ。しかしながら、経済的の提携の問題は、今日ただいまから幾らでもアメリカ協力をし、その実効を日本が享受し得るケースが非常に多いのであります。そこで私は、最初の軍事の方に合同委員会を作って、どういうふうな援助を具体的に相互にしようというようなことを研究される機関ができておるのでありますから、それよりもっと実際上効果の多い経済面の提携を、どうして具体化しようじゃないかという両国の機関をお作りになって、この経済委員会と軍事委員会の二本の柱でこの安保条約を運営される必要があり、またいろんな世間の思惑に対しましても、それができておれば、安保条約即軍事同盟というような非難を緩和することもできるであろうと私は考えるのであります。  そこで私は、今度の全権の中に実業界における最も練達堪能な藤山外務大臣が加わられ、さらに現役の足立商工会議所会頭が加わりましたので、必ずや今度の安保条約を調印されるときには、この経済委員会の構成をお作りになって、具体的に日米間の経済提携は、どこにどういう形でできるかということを研究する機関をお作りになって、結論的にこういうことをやるというようなことまでまとめてお帰りになるという期待にいたしておりませんでしたけれども、どうすることがいいかということを研究する機関くらいは作っていただけるものと期待しておったのであります。遺憾ながら今日まで政府間のそういう経済問題に関する合同委員会はなかなかむずかしいというふうに承っておりまして、せめて民間ベースでというようなお話が進んでおるとのことでありますが、これは国と国との約束で、国と国とがどうして提携していこうかということを研究する機関を作ることは、民間の問題ではなくて国と国とでやるべきことがたくさんある。もちろん民間にもあります。ありますけれども、それは国と国とで約束する大きなワクの中で個々に具体的な運営を、これは民間の両方の委員で研究するということが適当であるかもしれません。しかし軍事委員会に匹敵する国と国との責任者が出て話し合う一つ経済的の相談の広場を作ることは、この安保条約に画龍点睛の意義を与えるためにぜひ必要だと、私はこう考えるのであります。  そこで、結果においてはそれは今できておりませんのですけれども、今申し上げるような観点から、私はそれを期待しておったのであります。そこでこの問題について、一面において政治的感覚を十分お持ちでありながら、同時に実業界の最長老であり、経験豊富な藤山外務大臣が、この問題についてどういう努力をされ、今日どういう現状になっておるかということを承りたいのであります。
  14. 藤山愛一郎

    国務大臣藤山愛一郎君) 今回の条約締結にあたりまして、お話のように、われわれとしては、総理先ほど申されましたこの安保条約基礎条件としての大きな柱であります社会的、経済的な両国の関係を打ち立てるという条項を、NATO、SEATOその他に照らし合わせましても作業することが適当であると思いまして、その点について交渉の過程で妥結を見たわけでございます。しこうして、これが実際的な具現のための問題として今御指摘のような経済委員会等の問題もございます。大体この条約を作りますときに、多数国間の条約でございますと、原則として多数国の合意を要する問題でございますから、従って、個々の折衝を多数国間にいたしますことは、なかなか意志疎通の上で十分でない。従って、経済委員会なり、あるいはNATOでやっておりますような、理事会において経済問題を取り上げるという形がとられておりますけれども、二国間の場合には、平常の外交ルートをもって絶えず緊密な連絡をいたして参るのでありますから、特に経済問題等につきまして、時々刻々に情勢の動いております問題を扱いますために、必ずしも常設委員会を作る必要もない、むしろ敏速に外交ルートを通じて話し合う方が適当でないかという考え方を一面では持ったわけであります。しかしながら、今御指摘のありましたように、何か日米両国経済首脳者、あるいは外交の首脳者が時々会合をいたしまして、そうして話し合いをするということも、さらに一そう有益であることは、これは申すまでもないことでありますので、今日までの経過においては、われわれ条約作成の上において、右申し上げましたようなことで、条約作成と同時に何かそういうものを考慮はいたさなかったのでありますが、そういう点についてわれわれも今後御指摘のありましたようなことを十分考慮しながらとの安保条約の運営に当たって参りたい、こう存じております。
  15. 永野護

    永野護君 先ほど申しますように、今日の日本は、安保条約承認してもいい、しなくてもいい、自由に考えたらいいのだというような日本経済の実質ではないと私は判断しておるのでありますが、しかし日本も独立国である以上、一日も早くそういう考えが自由にできるような立場になりたいということは衷心念願しておるのであります。つまり経済的に自立して、そして日本がソ連側に付こうとアメリカ側に付こうと、あるいは全くどこの世話にもならぬ、中立の政策をとろうと自由に考え得る実力を、一日も早く持ちたい。私は先ほどお話のありましたように、国内の所得倍増計画、日本国民生活をもっと自由にしようというような目標もまことにけっこうでありますけれども、具体的にいえば、日本経済をどこの国のお世話にもならない、国として自立のできる経済を一日も早く作りたい、こう考えておるのであります。それまでは隠忍自重いたしまして、どうしても心ならずもどこかの国のお世話にならなければならぬ。たとえが卑近で非常に失礼でありますが、非常に優秀な子供——これは大学を出ればりっぱな大金持ちにもなり、あるいは隆々たる位置にもつき得る人でありましても、子供で、まだ小学校に通うようなときに、将来非常に伸びる素質のある子供だからといって、今すぐその重任をそれに背負わせることはできない。先ほど菅野長官も言われましたように、私も同感で、日本民族の本質には非常な期待を持っております。必ずや、人様のお情けにたよらなければ生きていけないというそんないくじのない国民ではないと考えておりますけれども、しかし、その間にタイミングの問題のあることだけは、いかんともしがたいと思うのであります。私どもは、よくアメリカのいろんな雑誌や新聞、あるいは議会の論議の中に、日本人アメリカの納税者の負担において飯を食っておきながら、何んてなまいきなことを言うというような記事を見ますときには、ほんとうに憤慨するのであります。一日も早くそんなことを言われないように、りっぱに日本国民の自力で食っていける時代を念願しておりますけれども、それまでは、そのある一定の期間までは、どうしてもアメリカの力を借りて、そういう時期が一日も早くくるようにしなければならぬ、こういうこと、これが同時にアメリカの利益だと思うのであります。すなわち、アメリカの納税者の負担が少しもなくなって、そうしてアメリカにそういう親近感を待つ国が東洋にできるということは、これはアメリカの利益になると思うのでありますから、そういうことを、どうしたならば日本が一日も早くアメリカの世話にならなくて自立ができるという方途を、具体的に研究する委員会があってもいいじゃないか。私は、こういう経済委員会でも作ると、すぐ関税率の問題や割当の問題なんかで何か文句を言ってくるであろうというようなことをアメリカ人が心配するのは、これはとんでもないこと、そんなことを考えておるのではございません。日本経済自立のためにやることは、アメリカとの今の貿易の割当とか関税の問題とかを抜きにしてもたくさんあります。先ほど総理も言われましたけれども、東南アジアとか、あるいはアフリカ、まあAA地域、さらに南米におきましても、たくさんの仕事が今、日本にきております。日本の優秀なる技術と、それらの土地の天然物、これはそろっておるのでありますけれども、残念ながら資金が足りない。これをアメリカの力によって、その資金と技術と物資と、この三位一体の運営ができましたならば、日本経済の将来というものは実に明かるい期待が持ち得ると思うのであります。私は東南アジア各地を歩きましていつも感ずることでありますけれども、今までの日本の東南アジア経済政策が、すぐそこから何か持ってくるものがないと、経営の価値がない、あそこには一体何があるか、何を持ってこれるのだということで、その先方の価値判断をしておったのでありますけれども、それは非常な近視眼的な方法であって、まずその国を金持ちにすることによって、そしてその国の生活水準向上することによって生ずる購買力を日本の商品の市場にする以外に、安定した輸出振興策というものはないと、私は現地についていろいろ見聞きしまして、そういうふうな確信を持っておるのであります。で、現地を金持ちにするためには、今申しましたように、日本の技術で応援することはもちろんでありますけれども、その資金アメリカ資金にたよる。ことにこれらの地方においては、白人種に長いこといじめられておりましたために、アメリカ資金を直接に借りますと、また再びあの奴隷生活に戻る何かのそれが結びつきになりはしないかということを、日本人には想像もつかぬぐらいおそれております。私はかつて東南アジアの向うの有力者に会ったときに、金が非常になくて、のどから手が出るほど金がほしいときに、アメリカがポイント・フォアの資金を国会で議決して出してやろう、無償で出してやろうというようなことができましたので、なぜ飛びついてあれを借りないのかと申しましたときに、お前はあの小さな三つの子供にその前で土下座をさされたような、あの苦しい体験を持たぬから、すぐそんなことを言うのだ、あの苦しい生活体験を思い出すと、再びああいう目にあうかもしらぬという懸念のあるものは、どんなにのどがかわいても手が出ないのだ、お前はその苦しみを知らないからだと、その土地の財政当局に言われたことがあるのであります。ああそんなものかなと、今さらのごとく感じたのであります。従いまして、これらの資金も、日本というルートを通りますると、非常に受け取りやすいのであります。ことに、いろいろなことは申しますけれども、少数のいろいろな例外がありますけれども、大多数は、この東南アジア一帯の新しい独立国は、今日自分たちが独立し得たのは日本の尊い犠牲のおかげだということは、十二分に了承いたしております。従いまして、日本の技術や日本資金援助を受けますときには、今申しましたような奴隷生活の再現に結びつくというような懸念はほとんどないと言ってもいいのでありますから、アメリカが直接に出ていくよりは、日本というワン・クッションを通っていく方がアメリカのためにもいいと思うのであります。そういう意味におきまして、単にアメリカ国内産業に関する影響のある点ばかりでなくて、広く世界資源開発のために、今申しましたようなアメリカ日本との協力考える余地がある。それを具体的に考える機関が何かあってもいいのじゃないか。もちろん外交ルートの道は開けております。けれども、何と申しましても外交官はいわゆる専門の領域がございまするので、そのいう経済に限られましたことを専門に研究するというような時間もありませんし、また知識、経験にも乏しいところがありますから、そういう経済問題を中心にして研究する委員会をぜひ作っていただきたいということを念願いたすものでございます。これは私の希望を申し述べておきます。  で、きわめて小さいことでありますけれども、立ちましたついでに一つ伺っておきたいのは、第二条に、「締約国は、その国際経済政策におけるくい違いを除くことに努め」と書いてありますが、この条文をお作りになりますときに、日本経済政策と、アメリカ経済政策との間に、どういう食い違いがあるというふうに認識せられて、この条文ができたのかということを、ちょっと参考に伺っておきたいと思います。
  16. 藤山愛一郎

    国務大臣藤山愛一郎君) 日米安保条約におきます国際経済の第二条の「くい違い」ということは、文章自体は、同種のNATOに大体これはならったわけでございますが、しかし、NATOにおきましても日米間におきましても、その基本の経済政策というものは自由主義にあるということは、これはもう根底において同じでございますから、その意味におけるいわゆる食い違いというものは、これはないわけでございますが、しかし同時に、自由主義経済を採用しております場合には、その国の置かれております立地条件なり、資源状態なり、あるいは経済発展の段階なり、そうしたいろいろな観点から見て、おのずから経済政策に段階もあり、あるいはその時期等について、諸般の考え方の違いが出てくるのではないかと思います。そういうものに関しまして、十分な調整をとることが必要であろうと思うのでありまして、アメリカがヨーロッパの先進国と結んでおりますこの種条約経済条項の中には、この問題が入っておるのでございまして、日本もそれにならったと申すとおかしいのでありますが、SEATOでありますとか、あるいは米台条約等にはこういう表現はございません。日本もどうやら国際経済の中に立ち得る立場に立ってきておりますので、私どもはその立場の意味から申しましてもこういう字句をとることが適当である、こう考えておるわけでございます。
  17. 永野護

    永野護君 私の質問と申しますか、希望と申しますかは、大体以上で尽きたのでありますが、繰り返して申しますけれども日本の一日も早き自主独立に進むべき道を考えるために、ぜひ日米協力したそういう経済目的を達成するための委員会を作ることに、この上ともの御努力をしていただきたいことを繰り返して申します。私は、私自身の経験といろんな計画から見まして、このAA地域における資源開発をすることによって、現在アメリカから受けておりますような援助は受けなくても成り立つような経済の達成には、やはりどうしても十年かかる、こう考えておるのであります。たまたまこの条約が十年ということになっておりますので、その意味におきまして、私はこの十年ぐらいはぜひ引き続きめんどうを見てもらいたいと、こう考えておるのでありまして、この十年の期間の問題が長いとか短いとかいう議論がありますが、私は経済面から見ましても、この十年はぜひ必要だと、こう考えておるのであります。  それからもう一つ、これも非常な老婆心でありますけれども、中立論を言う人に私会っていろいろ聞いているうちに、二つの違ったグループがあると思うのであります。一つは、今の現実日本経済生活が非常に恵まれておるのに目がくらんで、日本はやっていけるんだ、やっていけるんであるから、まあなるたけあぶない橋を渡らぬ方がいいというような意味における中立論と、もう一つは、日本がやっていけないということは十二分に承知をしておるのであります。どこかの世話にならなければ日本は生きていけないということは知りつつ、なお中立論を言ってアメリカは帰ってもらってくれというのは、取りもなおさずアメリカから切り離しますと、日本経済は立ち行かぬという現実が出て参りますから、そうしますと、本音を吐いて、それでは一つソ連と結ぼうじゃないか、中共とどうとかという、その切り札を出す前提としての中立論とがあることを痛感いたしておるのであります。従いまして、どちらにいたしましてもこの中立論というものぐらい危険なものはないと、こう私は考えておるのであります。  以上、はなはだまとまらぬ話でございましたけれども、これをもちまして終わります。
  18. 草葉隆圓

    委員長草葉隆圓君) ちょっと速記をとめて。    〔速記中止〕
  19. 草葉隆圓

    委員長草葉隆圓君) 速記を始めて。  それではこれにて午後一時三十分まで休憩いたします。    午後零時三十三分休憩    —————・—————    午後二時八分開会
  20. 草葉隆圓

    委員長草葉隆圓君) 休憩前に引き続き、委員会を再開いたします。  ただいま委員の異動がございました。永野護君が委員を辞任され、その補欠として井川伊平君が選任されました。   —————————————
  21. 草葉隆圓

    委員長草葉隆圓君) 日米安全保障条約関係三案件質疑を続行いたします。鹿島守之助君。
  22. 鹿島守之助

    鹿島守之助君 私は、新安保条約にはぜひとも経済援助並びに協力に関する規定を挿入してもらいたいことを、機会あるごとに、岸総理大臣、藤山外務大臣、自民党の幹部、財界要路の各位に要望していた次第でありますが、今回これが実現せられたことを衷心より喜ぶものであります。ところが、衆議院審議の過程においては、ほとんど経済問題について十分満足な審議が行なわれなかったばかりでなく、また新聞、雑誌、放送、世論等も、はなはだしくこれを軽視するように見受けられますが、まことに遺憾に考えておるものであります。実際この条約が批准せられ、成立した暁には、真に国民生活を保障し、富の程度を絶えず向上せしめ、社会福祉を増進せしめるものはこの経済規定であるとかたく信ずるものであります。さらにまた、最近ソ連のフルシチョフが平和共存と競争の新しい政策を打ち出して以来、この経済問題は国際政局の上において非常な重要性を帯びてきたのであります。アイゼンハワー大統領のごときも、その重要性を感知することのおそかったことを後悔しておるのであります。すなわち、すでに二年前、アイゼンハワー大統領は、その年頭一般教書において、軍事的抑制力を論じた後に、続いて、われわれに向かって、すでに開始されておる別種の戦争、すなわち共産帝国主義者が自由諸国に対して開始した巨大な経済攻勢について、次のように真剣な意見を述べております。「共産帝国主義政権は、最近ようやく、直接武力に頼って拡張しようとする企てで大きな挫折をなめてきた。その結果、彼らは政治的支配の前提として、特に新しく開発途上にある諸国の経済的浸透に大いに力を集中し始めた。この非軍事的な活動を過小評価するならば、それはわれわれの軍事力にかかわらず、自由世界を打ち負かすことができるであろう。われわれのうちの多くのものがこのことを認めず、あるいは認めようとしないこと、それ自体のゆえに、この危険はいよいよもって強まっている。最初の人工衛星の打ち上げが世界に与えた心理的衝撃を、われわれの大多数が予期していなかったことは認めなければならない。ソビエトの経済攻勢の持つはるかに重大な衝撃を予想しないがために、いま一つの分野で同じあやまちを犯さないことにしよう。」また、それとほぼ同じころ、ニクソン副大統領も、国防における非軍事的要素の重要性について、次のように指摘しております。「共産主義が過去において成果をおさめてきた非軍事的領域での脅威にわれわれが対処できなければ、世界最強の軍事力をもってしても米国の自由は救えないであろう。そして、もしわれわれ米国民世界の対立に対して近視眼的見解をとり、対外援助を縮小し、互恵貿易をかたわにし、かつ宣伝企画を怠るならば、われわれが、ミサイルや潜水艦や航空機のために使う膨大な金はどぶに捨てるようなものであると、私は諸君に申し上げたい。さらにまた、英国においても、決して経済問題の重要性を看過していないのであります。たとえばイギリスのソ連通ハリー・ウェルトンは、その近著「第三次世界大戦」において、「新なる戦場は貿易産業」という副題が示しておる通り、フルシチョフの新しい経済宣戦を重視しておるのであります。ソ連の真の意図を正しく把握し、国際共産主義のストと破壊活動使嗾の実態と、その貿易攻勢のからくりを、おそきに失しないうちに的確に認識することの必要を強調しております。彼の見解では、第三次大戦は二つの経済制度をめぐってすでに始まっておるのであり、貿易産業が戦いの場となっておる。この戦いに破れるならば、イギリスなどの貿易国は直ちに経済的破滅の運命をたどることになると申しております。しかるに、日本においては日本の平和並びに安全を確保する上において、経済問題の重要性があまり感じられていないことは、はなはだしい認識不足と思うのであります。かような見地から、新安保条約前文、第二条並びに岸・アイゼンハワー共同声明に関し、主として経済問題並びにその運用について若干の質疑をいたしたいと存ずるのであります。  午前中、永野委員からこの経済問題について質疑が行なわれましたが、それは主として国内問題としての経済問題でございますが、私の質疑は、主として国際経済の観点から、国際競争力の観点からお伺いする次第でございますから、主として藤山外務大臣から伺いたい。それで足らぬ分は通産大臣その他の方から承ることができれば幸いと思います。  まず第一に、日本国経済協力を規定しておる新安保条約第二条は、NATO北大西洋条約第二条、SEATOすなわち東南アジア集団防衛条約第三条、アメリカ合衆国と中華民国との間の共同防衛条約第三条と全く同趣旨の規定のごとく認められますが、これら諸条約との間に何らかの相違点がありますか。あれば承りたい。
  23. 藤山愛一郎

    国務大臣藤山愛一郎君) 今回の安保条約におきます経済条項と同種のものがありますのは、御指摘になりましたように、北大西洋条約の第二条、それからSEATOの第三条、今お話のありましたような米華条約の第三条でございまして、大体SEATOと安保条約との間ではほとんど同じ表現が用いられておりますが、SEATOの第三条には技術援助について言及をいたしておりますし、また、米華条約におきましては国際経済の食い違いがないということについての規定がございません。これはそれぞれ日米関係が、NATO諸国の関係と同じく、いずれも政治的にまた産業的に発達した国家間の関係であるということに基づくわけでありまして、われわれもそういう意味においてこれらの取り扱いをいたしたのでございまして、経済問題に例をとって考えてみますれば、経済援助の問題よりは、むしろ経済協力の問題が中心的なものとして考えられておるのがそういう意味における相違だと思うのであります。
  24. 鹿島守之助

    鹿島守之助君 次にNATO、SEATO並びに米華条約経済条項が実際いかように運営されておるのか、伺いたいと思います。
  25. 藤山愛一郎

    国務大臣藤山愛一郎君) NATO条約の発効の当初におきましては、御承知の通り軍事機構の整備等が問題になっておりましたので、あまり経済条項の活用ということは関係いたしておりませんが、軍事機構の整備に伴いまして、一九五一年の九月にオタワで開催されました第七回の理事会において、広範な大西洋共同体内の協力強化についての検討が行なわれたわけであります。その結果、いわゆるオタワ宣言が発表されたのでありまして、ベルギー、カナダ、イタリア、オランダ、ノルウエー五カ国代表よりなる閣僚級の委員会が、NATOの理事会に対しまして、その実施について、経済上の実施についていろいろ勧告をいたしております。経済的な、金融的かつ社会的協力を緊密化することが書かれておるのでありまして、同委員会の報告の中では、貿易発展自由化、OEECとの協力関係の強化等が特に強調されております。その後、一九五六年五月のパリ会議におきましても、再び大西洋共同体の共通利益の増進という課題が取り上げられておるのでありまして、経済問題の政治的な面について定期的な検討を行なうこと、NATO締約国間における国際経済政策の食い違いの除去に努めること等が合意されております。さらに広く条約第二条のもとにおける非軍事的協力一般について検討をいたし、報告すべき閣僚委員会の設立がございまして、イタリア、ノルウエー、カナダ三カ国によって構成され、同年の十二月のパリ会議にその報告書が提出されております。その報告書の次第を申し上げますと、健全かつ発展する経済を建設するための国際的かつ個別的な行動、貿易支払い及び労働力、長期資本の移動についての可能な限り最大の自由、後進国経済援助等が特に必要と認められるということでございました。なお昨年の十二月のNATO総会におきまして、主として今後の情勢から、経済問題がNATO理事会の相当な大きな議題になったことは御承知の通りでありまして、その結果が後進国援助問題というのに発展しつつあることは御承知の通りだと思うのであります。  なお、SEATOにおける経済協力問題はNATOの場合と異なりまして、主として後進国に対する経済援助の問題が中心となっており、アメリカ経済援助は特にSEATO加盟国に対するものとは限らないものでございますけれども、SEATOのワク内でもできるだけのことを考えていく、またオーストラリアは独自にSEATOのワク内で現に援助を行なっておるのでございます。一九五九年八月バンコックにSEATOの技術専門学校が開設されまして、米英仏合同の援助のもとで今日経営をされております。条約機構としては、SEATOの理事会のもとに経済問題について諮問に応じます経済専門委員会が現に置かれておるわけであります。  栄華条約につきましては、特に運用の点で見るべきものは今日までは外部からはわからないのでございます。
  26. 鹿島守之助

    鹿島守之助君 次に、新安保条約第二条とMSA協定との関係を伺いたい。新安保条約第二条は非軍事的援助だろうと思います。MSA協定は軍事援助でありますが、NATO、SEATOみなその中にMSAと同種の規定が入っておりまするが、これはどういう関係でなぜMSA規定を新安保条約に入れなかったかということを伺いたいと思います。
  27. 藤山愛一郎

    国務大臣藤山愛一郎君) 特別にMSA協定と今度の第二条との関連はございません。従って、今回の場合におきましても、MSA協定—の安保条約に言及いたしておりまする字句に対する読みかえの規定を置くことにいたしただけでありまして、MSA協定の運用と平和的な経済協力の基盤を築きます問題とは同一視しない方が適当だと思います。
  28. 鹿島守之助

    鹿島守之助君 次に、日米間の経済的協力は現在どういう実情にありますか。これは非常に限りもない大きな問題になりますが、ごく簡単に大きな線だけ一つ承ってけっこうですが。
  29. 藤山愛一郎

    国務大臣藤山愛一郎君) 日米間における経済協力の問題と申しますか、あるいは経済の問題については、先ほど総理も答弁されたように、二国間の問題と、それから二国が他の地域に対する協力の問題、経済開発の問題と、二つあると思います。  二国間の問題につきましては、貿易関係を主としてその国内におきます諸般の事情を勘案して、それから来る両国間におけるそのいろいろな紛争の是正をいたしますと同時に、貿易拡大に向かっての方向に対する施策を進め、話し合いをすることによって協力の実をあげていきたいと、こういうことで努めておるわけであります。  東南アジアその他低開発国に対しまする経済援助の問題は、日米両国が深く関心を持っておる問題でございまして、これらの問題につきましては、両国が緊密な連絡をしながら問題の進展をはかっていくことが必要であることは、これは申すまでもございません。ただ日本経済力の回復というものも今日まで逐次充実はしてきましたけれども、過去の段階においては必ずしも十分でなかった点がございますので、そういうことに日本自体が強力に進める程度が、まあ今後は強くなって参りますけれども、今日まで必ずしも日本国内の経済事情のためにそう活発ではございませんから、日米間における協力体制というものも必ずしもそう活発に動いてきたとは申せないと思います。が、しかし、日本経済の充実してきました今日、積極的に、特に先ほど御指摘のありましたようないわゆる軍事上の冷戦にかわります経済上の争い、競争と申しますか、敵国からの攻勢に対するわれわれの方の動きも活発にしていかなければなりません関係上、日米のこの面における協力というものは非常に重要なことだと思います。むろん過去におきまして、アメリカ経済援助等に対する東南アジア方面の何かひもつきというような印象もございますし、あるいは日本経済的の東南アジアにおける活動がいろいろ若干過去の基盤の上から誤解されるような傾きもあったと思いまするが、今日ではそれからの問題も払拭しつつありますので、両者が協力してやって参ることが必要だと思います。先般も申し上げましたように、インドの鉄鉱石等に対する経済協力、ああいう形のものはアメリカ政府においても非常に心強くかつ希望をいたしておるわけであります。日本が将来そういう問題についてアメリカと緊密な連絡をとりながら活動し得る分野は非常に多いと思います。その他コロンボ計画とか、あるいはそういう国際取りきめによるワク内においての活動は一そう緊密にやって参らなければならぬと思います。なお日米経済協力関係の大きな筋といたしまして、昨年来問題になってきておりますいわゆるヨーロッパの共同市場、あるいはそれに対するアウター・セブンの問題等も直接的に関連いたしまして、またそれらの経済圏のような形における将来の発展というものが自由貿易の上に影響を与えて、域外地域に対する影響というものに対しては日米相互において共通の関心を持っておりまするので、これらに対しての共同行動というものがとられ得る手段があるわけでありますから、そういう点については、やはり将来大西洋経済の問題を扱います何らかのそのような会議なり協約なりができるような場合には、日本としてもそういうところに参加し得るような状態アメリカ協力等を求めますことは必要なことであろうと、こう考えております。
  30. 鹿島守之助

    鹿島守之助君 次に、日米両国間の経済委員会の設置は米国側の消極的な態度によりまして困難な由に承っておりますが、その理由を承りたいのでありますが、アメリカとカナダとの間に経済閣僚委員会が設けられておるように、同種類のものが設けられるべきものであろうと期待するものでありますが、御所見を伺いたいと思います。
  31. 藤山愛一郎

    国務大臣藤山愛一郎君) この二国間の経済協力の問題というのは、今日まで各国間における状況を見ましても、大きく通常外交ルートをもって話し合いをいたしており、また問題の解決をはかっておるのであります。御指摘のように、アメリカにおきましてカナダとの間に経済問題に関する閣僚級の委員会もございます。これはカナダとアメリカとの地域を接した関係に基づきます資本流入その他それに伴ういろいろな特殊の問題があるわけでありまして、それらのものを解決するためにそうした委員会がありますけれども、多くの場合において、多数国間の条約、NATOでありますとかあるいはSEATOでありますとか、そういうものには経済委員会等のものが付設されておりますけれども、二国間のものにはないのであります。しかし、午前中の永野委員の強い御希望もございましたが、日米協力という問題を進めて参りますためには、経済協力関係がもっと強力になって参りますことが必要でございまして、それは通常外交ルートではなく、何かそういう種類の常設的なものでなくとも、あるいは経済閣僚レベルの懇談をいたしますことは非常に適当なことであろうと思うのであります。われわれもそういう点を考えて、今後外交運営の上においても十分考慮しなければならない、こう思っております。
  32. 鹿島守之助

    鹿島守之助君 日本日米間の経済協力だけで満足せず、さらに、カナダ、中南米、東南アジア、濠州、ニュージーランド等、広く太平洋諸国間の経済協力を促進する必要があると思います。かくして太平洋共同市場の実現を理想としてはいかがなものでありましょうか。日本はすでに明治四十一年米国と締結した高平ルート協定において、「太平洋における通商貿易の自由なる発達を期すること」という一項がその劈頭にあります。この理想の実現に邁進せねばならないと思います。しかし、今日ヨーロッパ共同市場が急速に発展しつつあるのにかんがみまして、また大西洋共同体というような観念も、コモン・マーケットと一緒に強く主張されておりますという事態にかんがみまして、単に太平洋における通商貿易の自由発達だけに満足することなく、さらに進んで太平洋の共同市場——コモン・マーケットを実現する意向はありませんか。この点、できれば総理大臣、外務大臣、通産大臣、経済企画庁長官から、これは私の理想でございますので、所見を伺えれば幸いでございます。
  33. 藤山愛一郎

    国務大臣藤山愛一郎君) 太平洋を取り巻いております国が、何か太平洋というものを一つの媒体として協力関係を作る、特に経済的な協力関係を作るということは、一応これはわれわれも理想として考えられるところでございますけれども、現在の段階において直ちにそういうことが実現可能であるか、いわゆるヨーロッパ共同市場みたいなような意味においての共同市場的なものができ得るかというと、それについては相当まだそれらの基礎条件というものは十分満たされておらぬのではないかと思うのであります。濠州、ニュージーランドは、御承知の通り英連邦の一つでございまして、英連邦の経済的な問題としての将来の関係は相当変化をいたしていくことかと思いますけれども、現状においては、必ずしもそれが自由な立場に立って太平洋の諸国と果してどの程度結びつき得るのか。またアメリカと中南米との関係等を考えてみましても、それらの関係において、現状において直ちに何かヨーロッパ共同体のような形におけるものが考えられるとは、私ども外交をあずかっております者として、必ずしもそういう条件が熟しておるとは思っておりません。ただ、そうした若干事情の違いました国々は、ヨーロッパ共同市場のような形ではなしに、何かの経済上の、一つの太平洋というものを媒体とした話し合いをするし、あるいはそれらの諸般の違った経済条件のもとにおいて、それを円滑に理解を深めるための形においてのいわゆる問題の扱い方としてならば、あるいは現状においてもそういうことが可能であろうかと思います。これらの問題については、非常に大きな現在の基礎的な各国の立場というものを考慮いたしませんと、いたずらに提唱いたしましても、必ずしも実現可能だとは思いませんが、今申し上げましたような意味において、われわれも考慮していく余地があるのではないかと、こう存じております。
  34. 岸信介

    国務大臣岸信介君) ただいま外務大臣が基礎的な考え方を申し述べましたが、私も大体外務大臣と同様な考えを持っております。ヨーロッパ共同体のできました歴史的な、あるいは政治的経済的の基礎条件と同様なものが、太平洋を中心としての諸国の間に、やはり同様な歴史的、政治的あるいは経済的事情が、直ちに存在するとはまだ言えないと思います。しかしながら太平洋を取り巻いている国々が、今中共を除いては、この自由主義の陣営に立っておって、政治的な基礎を同じくいたしておりますし、また最近においては、お互いの経済支流もだんだん盛んになってきております。また日本として東南アジア諸地域の経済開発や、あるいは中南米等との低開発国経済の開発、その国民生活水準を高めるというようなことに対しては、非常に強い関心を持っており、また工業的な先進国であるアメリカ、カナダ等も同じような考え方を持っておるということをみますと、いわゆるヨーロッパ共同体というような形に、今日の状態で直ちに持っていくということは、非常に困難であると私は思いますけれども、何らかの意味において、太平洋を取り巻くこれらの国々が、経済的の従来持っている関係、またそれがだんだんと深まりつつある関係というものを、一層有機的に強力化すという方向に向かってわれわれが努力し、そのための適当な国際的な会議とか、あるいはお互いの意見の交換というようなことを、今後やはり取り上げて、日本としても進んで行くべきものであろう。しかし直ちに共同体というようなことに結びつけて考えることは、現在の状態においては、私はまだ基礎条件が整っておらない。かように考えております。
  35. 池田勇人

    国務大臣(池田勇人君) お答え申し上げます。最近ヨーロッパ経済共同体ができましてから、自由貿易連合、あるいはまたごく最近に中南米の経済協力というようなことが言われております。私は、このヨーロッパ経済共同体と自由貿易連合の差があるのはどこにあるのかと申しますと、やはりヨーロッパ経済六カ国のごとく経済力が非常に均等だ、大体似ている、それから政治的に非常に今後つながらなければならぬというシューマンの思想があるのですが、しかし経済共同体ほど自由貿易連合がいかないということは、経済的に相当の差がある。だから私は、東南アジアあるいは太平洋の経済共同体と、こう言われますけれども、共同体となるのにはおのずからそこに経済力が大体似ていることが必要である。だから理想はコモン・マーケットというところまでいかなければならない。それにはまず後進国開発、コロンボ・プランによりまするか、あるいは第二世銀によりまするか、あるいは今度のOECDのあの思想でいきますか、こういうことで後進国が相当の経済力を持つことが前提だと思います。各国と共同して、そういうことをやると同時に、日本は特殊な関係にありますから、もし日本がもっと資本を持ったとすれば、日本独自でもそういうことをやっていくべきじゃないか。私は日本経済力が、明治から大正、昭和にかけまして、日本の開発だけではあり余り、朝鮮、台湾、満州に相当の投資を毎年いたしております。またまた昭和五、六年などは東南アジアへの投資も、昭和十二、三年ごろは一年に当時の金で一、二億円投資しておったと思います。だから日本経済力をふやしていく上において、日本独自でもっと東南アジアを開発していく、あるいは円為替の導入だとかあるいはライス・バンク——東南アジアの米の不足の所へ、日本が何とかこれに仲介に立って、あり余った米を日本の倉に入れるよりも、ビルマ米をインドへ持っていくあるいはタイ米をインドネシアへ持っていって、その間日本の資本でつなぎ合わせる、こういうような日本独自で相当の開発をして、しかる後に、各国が大体同じ歩調で行ける程度になってコモン・マーケットになるのじゃないかと思います。従いまして、理想はそうでございますが、現実的には、各国と共同して後進国の開発をし、そうしてまた、日本アメリカと提携して、アメリカの資本によっての東南アジア開発、こういうことが前提だと私ども考えておるのであります。
  36. 菅野和太郎

    国務大臣菅野和太郎君) 太平洋共同市場の問題につきましては、総理初め両大臣から詳細にお話がありましたし、私も大体同じ意見であります。現在のところは太平洋共同市場を作るのには少し時期が早いのではないか、まず日本といたしましては、貿易、為替の自由化を実現して、その上でまたこの共同市場の問題を考えても決しておそくはないじゃないか、こう考えておる次第であります。
  37. 鹿島守之助

    鹿島守之助君 今日核兵器の時代あるいは宇宙時代におきまして、日本が主権国家としてやっていくのには、自主独立、自給自足という観念は、一般的に世界的に時代おくれでございます。どうしても日本一国だけでなしに、もっと経済を広域経済でやっていかなければならぬ。そこで前の外務大臣岡崎勝男氏が、日本の外交の過去、現在、将来という論文を発表されておりますが、将来の外交として、AAグループのコモン・マーケットのような構想をやっていく、一つぐらい日本人は大きな夢を持たなければ……。AAグループ共同経済よりも、まだ私は太平洋共同経済、コモン・マーケットの方がはるかに現実的だと思うのでありますが、藤山外務大臣から、これに対してAAグループの共同経済か、それとも太平洋コモン・マーケットかどちらがプラクティカルであるか、現実的であるか、御所見を一つ伺いたいと思います。
  38. 藤山愛一郎

    国務大臣藤山愛一郎君) 御承知のようにAAグループ、いわゆる東南アジア各国、中近東の国、またアフリカの新興国、そういうものがAAグループとして入っておると思います。これらの国の経済状態というものは、ある意味からいえば似通ったところが多いということは、これは言えると思うのであります。その意味におきまして、経済発展の段階からいたしましても、あるいは経済運営の将来の問題としての進路というものについても、ある何と申しますか、第一次産品、いわゆる農業生産品から工業生産品に移るという過程を見ましても相似点があると思います。ただ、その意味においてはAAグループの経済的な相似というものは、これは考えられるわけでございますけれども、しかし何と申しましても、まだ現在のような経済発展段階におきまして、しかも同じような第一次産品をもって、いわゆる言葉をかえて申せば、植民地経済の域を脱していない所が共同して同じような商品な扱っていくという場合における相剋摩擦というものもある、あるいは相剋摩擦があるからこそ、そういう共同体を作って何か調節をするということが必要である場合もあろうと思いますけれども、その意味においては、いわゆる欧州経済共同体とは若干本質において違ったものができ上がらなければならぬと思っております。そういう点から申しますと、太平洋における国々、太平洋を取り巻く国々と申しても、インドネシアでありますとかフィリピンでありますとか、国は違いますが、濠州、ニュージーランドあるいは南米、アメリカ日本を加えますと、ある意味においては工業化が若干進んでいるというふうにも考えられるわけでありまして、何らかそこに相似点が見出せないわけではございませんけれども、しかし、先ほど申し上げましたように、これらの国における基本的な経済の立場というものは変わっておるわけでありまして、そこいらにおいてすぐにどちらが作りやすいかという問題になると、非常にむずかしい問題だと思うのでありまして、今にわかに、正直に申して私もそれに対して判定をつけるだけの能力は持っていないのでございます。
  39. 鹿島守之助

    鹿島守之助君 次に岸・アイゼンハワー共同声明によりますと、岸総理大臣は、「日米が相互に関心を有する経済問題に関し継続的に協議することの重要性を強調し、大統領も全く同感である旨を述べた。」と記載せられてありますが、それはいかなる経済問題であるか、具体的に承りたいのでございますが、この太平洋コモン・マーケットのような問題は、常時継続的に一つ協議が願いたいと思うのでございますが、御所見を伺いたいと思います。
  40. 岸信介

    国務大臣岸信介君) アイゼンハワー大統領と私との会談において、またその会談の経過につきまして共同声明が出されたわけでございます。今御指摘のありました点において、私の特に強調いたしましたのは、両国が共通の関心を持っておる経済の問題と、継続的に協議をしていくという二つの問題に重点を置いて話をし、また、その結論を共同声明に出したわけであります。そこで、日米が共同の関心を持っておるこの経済問題ということは、午前中に永野委員にもお答えを申し上げましたが、大きく分けて、私は日米両国が利害関係を緊密に持っておるこの両国間の経済交流の問題あるいはそれをさらにくだいて言えば、貿易の問題、資本交流の問題、技術交流の問題等があげられると思いますが、こういう問題と、さらに国際的な問題として特に低開発地域におけるところの経済開発というもの、これらの地域における国民生活水準を高めていくようなことは、これらの地域におる人々の福祉であり、また両国のマーケットとして将来に期待する意味からいっても必要であると同時に、これが開発され経済生活が安定することが世界の平和の上においても大きな意義を持つものであるから、この点に関しては特に両国は、従来もある程度の東南アジア方面について協力してやったことはあるけれども、さらにこれを一そう有効化すように、また具体的に進めるように考えなければならぬ。こういうことはただ単に、プリンシプルとして考えるだけではなくして、具体的なプロジェクトなりあるいは具体的な計画を進めることを考えていく必要がある。ただ問題が起こったときにそれを取り上げて、両国の間の、あるいは外交ルートを通じて話をするとか、あるいは何か具体的な問題ができたときに、関係の間においてただ話し合うということではなしに、そういう共通の問題に関して日米両国の間において継続的に話し合いをし、協議をするようなことが望ましい、いわば一つ考え方がアメリカに起こってくれば、これを日本側においてその考え方について事前に話し合って一つの方法をきめるとか、あるいは具体的の計画をきめるとか……。ただ計画が具体的になったときに、たまたま話をするというだけでは不十分だという意味のことを実は申し述べたのでございます。従って、午前中にも永野委員の御希望もあり、また鹿島委員からも、日米における経済委員会というような構想についてのお考えが出てくるわけであります。ただその当時において、具体的に委員会を作るとか、どういう構成で何するかということについては、なお両国において十分検討する必要がある。少なくとも継続的に協議のできるような態勢をとる必要があるという意味で、実はこの二点を強調してアイゼンハワー大統領に私から意見を開陳したのに対して、アイゼンハワー大統領は全く同感だ、これは両国で十分一つ今後検討しようじゃないかということが、この共同声明の真意でございます。
  41. 鹿島守之助

    鹿島守之助君 共同声明にある低開発国諸国とはどんな国をさすのでありますか。東南アジアが入ることは間違いありませんが、中南米、これも入るでございましょうか。
  42. 藤山愛一郎

    国務大臣藤山愛一郎君) 一般的に通俗的に申しますと、いわゆる第一次産品である農業をもって経済を立てておる国というのが一般概念だと思いますが、しかし、豪州のような農業を主体とした国が低開発国だとは言えないわけであります。従って、低開発国というものの定義はむずかしいのでございますが、国連におきましては、低開発国というものを、国民一人年間百五十ドル以下の所得の国を低開国といたしております。その基準によりますと、日本を除くアジア全部、イスラエル及び南ア連邦を除く中近東、アフリカの全部、それから中南米諸国の大部分、欧州の一部がそういう意味においては低開発国であります。世界人口の三分の二を占めておる国連ではそうなっております。
  43. 鹿島守之助

    鹿島守之助君 ブラジルは入りますか。
  44. 藤山愛一郎

    国務大臣藤山愛一郎君) 入ると思います。
  45. 鹿島守之助

    鹿島守之助君 低開発国援助は、世界の最大の関心事でありますが、これが国際政局に及ぼす影響も重大でありますが、日本の低開発国に対します援助の範囲、方針、程度等、わかっておれば伺いたいと思います。
  46. 藤山愛一郎

    国務大臣藤山愛一郎君) 御承知のように、まず一般的に言えば低開発国というのは、農業を主体として工業生産力の乏しい国といわれるのでございます。従って、工業を樹立し、そうして日常の消費物資というようなものを工業的に生産するということに、力を尽くしていくという関係になってくると思います。そういう観点から見ますると、技術協力というものが一つの大きな線になってくる。技術協力の中には、純粋の技術の協力及び経営に対する協力ということが言えると思うのであります。同時に、低開発国経済の発達段階がまだ十分でございませんから、従って民間資本というもの、あるいは国家全体としての資本というものも欠除しているという関係がございますので、従って、そういう面を補って参りますために、いわゆる海外投資と申しますか、そういう面が強調されてくると思います。同時に信用の供与ということもあるわけでございまして、そういうような面が、いわゆる協力として大きく浮び上がってくる線だと考えます。
  47. 鹿島守之助

    鹿島守之助君 次に共同声明は、「大統領が特に日本国民が自由アジアの経済的発達にますます大きな役割を果たしつつあることに言及した。」とあるが、これの大いなる障害は通商条約の未締結並びにその不備であります。これら諸国との間に、早急に通商条約締結する積極的な熱意と用意がございますか。この点は特に私の関係する会社がビルマで、過去五年間にわたってあの賠償の第一号のバルーチャンの発電の工事をいたしました。五年間にわたりまして、ビルマが官民とも非常に協力してくれますし、何一つトラブルというものはなしに、非常に円満にいったのでございますが、工事が済みましたらもうその翌日から帰ってほしい。居住権がないのだからというわけで今まで五年間せっかく親しく、かつまたいろんな取引、友好関係があるのに、通商条約がないために、向こうも、残っていろいろな事業もあるからやってもらいたいと希望し、こちらもそう思っても、それができないような状態。低開発国援助と申しましても、今のような状態だというと、賠償の支払義務がなくなったら、それでおしまいとなるのではないかという憂いもあると思うのでありまして、この点、通商条約を、東南アジア諸国を通ずる条約締結していただくということが急務、特にこの安保条約が通り次第、一つ外務大臣総力をあげてこの問題の解決をお願いしたいと思うのですが、御意見を伺いたい。
  48. 藤山愛一郎

    国務大臣藤山愛一郎君) 通商航海条約締結いたしますことは、これはわが国経済協力をいたす上におきましても、あるいは貿易の振興をはかります上におきましても、ぜひとも条約上の根拠をもちまして、そうして両国の間にそれぞれ道を開いて参らなければならぬのでありまして、われわれといたしましても、それに向かって今日まで努力をいたしてきております。ただ、東南アジアの諸国は、御承知のように、独立後日も浅いわけでございます。通商航海条約はその内容が非常に多岐にわたっているのでありまして、特に国内法との関係も非常に複雑なものがたくさんございます。従って、独立の日が浅くて、経験の少ない東南アジアの各国の政府としては、これらの関係を調整し、あるいは誤解なく運用して締結をして参るのには、相当の時間がかかるのでありまして、今日までそういう点について努力をいたしてきておりますけれども、まだはかばかしくいかないことは残念に思っております。しかし、はかばかしくいかないと申しましても、逐次われわれの努力の成果が実りつつあるのでありまして、タイとはすでに戦前の通商航海条約を復活いたしております。インド及びマラヤとの間には、実質的に通商航海条約と同一内容の通商協定締結をいたしました。またインドネシア、中華民国はそれぞれ平和条約の中に、通商航海条約に関する規定を設けているのであります。現在フィリピンと通商航海条約をようやく締結する交渉の段取りになりまして、現在東京にミッションが来ておりますことは御承知の通りだと思います。また近くパキスタンとの間にも、この交渉を開始することにいたしておりますので、われわれといたしましては、今後とも通商航海条約締結につきましては努力をし、各国との間にそれぞれ円満に締結できますように進めて参りたい、こう存じております。
  49. 鹿島守之助

    鹿島守之助君 参議院の質疑の段階におきましては、この安保条約はもう成立することにきまっているのでありまして、かれこれこの内容を審議することも重要ではございますけれども、この条約が成立した暁、その運用によりましてこの条約の価値が非常に変わってくるのじゃなかろうか。それで、この運用の問題につきまして三つほどの問題について希望を申し述べたいと思うのです。これは総理大臣また外務大臣からお答えが願えれば幸いだと思うのです。  一つは、現行の安保条約は、朝鮮事変による恐怖と衝撃から生まれたのでありますが、安保体制国民から広く愛せられ、また長く生きていくためには、積極的な経済並びに政治的協力の実践が必要だと思うのであります。従って、日米安保条約は、単なる軍事条約でなく、軍事、経済、文化の全面にわたる最高の政治条約として長期的かつ全般的な視野から運営せられたい。  こういう希望であります。これは、NATOにおきましても大体こういう趣旨で運用されておるのであります。最近NATOにおける非軍事的協力に関する三人委員会の報告が発表されております。これは、イタリーのマルティーノ、ノルウエーのランゲ、カナダのピアソンの三人委員会の報告でございますが、それの十五項には、NATOの運用についてこういうことが書いてあります。「NATOの設立当初より、防衛的協力が第一の、かつ最大の緊急要請事項である。しかし、それだけでは十分でないことが認識せられた。またNATO条約調印以来、安全が今日軍事事項以上のものであることが次第に認識されてきた。政治的協議及び経済的協力の強化、資源発展、教育の進歩並びに民衆の理解、すべてこれらは、軍艦の製造あるいは軍隊の装備と同様、またはそれ以上に一国の安全の保護または同盟のために重要なものである」。それから、三十六項には、「北大西洋条約創設者の予見したように、政治的及び経済的並びに軍事的な国家間相互依存の発展は、国際的団結及び協力に関する漸増的措置を要求する。若干の国家は、事態が好転する場合には、一定の政治的及び経済的独立を享受できる。いかなる強国も、国家的行動のみによってその安全及び福祉を保証することはできない。」こういうふうに、NATOは高度の政治条約として運用されておるので、この新安保条約も、そういう見地から運用されることがよろしいのじゃないかと思うのですが、御所見を承りたい。
  50. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 御指摘になりましたように、この新安保条約の第二条、政治経済に関する条項というものは、私は非常に新しい条約意義の上から見て重要な役割をこれはしなければならぬ規定であると思います。従って、今運営の面においての御意見でありましたが、軍事的な見地における防衛的な協力は、そういう実態が生じた場合において発動するということでございますし、そういう事態が起こるということは、私ども実は、この安保体制が厳然として存しておるならば、そういうことも未然に防止するという意味において、この条約意義があると思う。ところが二条の規定は、われわれが両国の間の緊密な関係、また経済的な発展の上からいい、国民福祉の上からいって、常時両国にとって発動し、また運営していかなければならない規定であると思うのであります。  今、NATOに関しての非軍事的協力委員会におけるところの条項等の意義、宣言等につきまして御指摘になりましたが、私は、新安条約の運営の上から見まして、経済協力に関する問題や、政治的、社会的の面におけるところの両国の緊密な協力関係というものは、最も重点を置いて常時運営していかなければならない、かように考えております。
  51. 鹿島守之助

    鹿島守之助君 第二希望は、新安保条約と抵触せざる範囲内において、自由主義諸国はもとより、中立諸国並びに中ソその他共産圏諸国との間にも友好和親の政策を推進せられたい。わが安全保障体制は、新安保条約のみに依存し、それに満足することなく、広くわが国や共産圏諸国がその決議に参加せるバンドン平和十原則の精神に基づき、極東の全面和平の実現を期せられたい。  これをちょっと説明させていただきたいのですが、私は過去に学者といたしまして、同盟協商制度を約十年も研究したものでございますが、同盟協商制度の立て方に二種類あります。ビスマークの同盟協商政策は、御承知のように、ドイツ・オーストリア・イタリー三国同盟を中枢といたしまして、それだけで満足することなく、露国との間に再保険条約というものを結んでおり、さらにイギリスとの間に地中海協定というものを結んでおりまして、多元的な同盟協商制度であります。しかし、ビスマークが失脚いたしまして、あとカイザーの時代になりましてから、これを一元化いたしました。あまりにビスマークの制度が複雑過ぎる、ビスマークのようなああいう天才は、玉を三つも四つも上げて操ることができるが、われわれはそんな器用なことはできない。というので、ロシアとの間の再保険条約を切ってしまった。それで、あとのビュロー、宰相になったビュローにしても、一九一四年の大戦に突入したベエトマン・ホルウェヒにいたしましても、一本やりのこの同盟制度というものが戦争原因だと私は思う。日本の小村、桂、伊藤公、こういう明治末期の大政治家の同盟協商政策も、日英同盟だけでなしに、ロシアとの間に日露協商を結んでおります。三回の日英同盟、と五回の日露協商、この上に日本の安全保障制度ができておりますが、これを補強するものとして、日米協商、日仏協商、こういうふうな多元的同盟協商、この制度の方が、平和を確保する上において、一元的よりもはるかに多元的の力が過去の歴史において実績が上がっておる。この安保条約も、岸総理も言われておられるように、これはスタートであってゴールではないと言われておりますので、これからいろいろな御考慮があることとは思いますが、ここに申しましたように、これと抵触せざる範囲において、自由諸国はもとよりのこと、中立諸国、共産圏との間におきましても、友好和親の政策を進めていただくことに、この新安保条約とバンドン決議の平和十原則というものは矛盾するものではありませんので、これを一つ巧みに、ビスマークのごとく器用に運用願いまして、日本の平和、世界平和の実現に邁進していただきたい。そういう念願でございます。
  52. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 日本の外交方針の基本が平和主義であり、平和外交を基調とすべきものであることは言うを待ちません。また日本のこの立場として、自由主義の国、民主主義の立場を堅持するということも、私は立国の基本として動かすべからざるものだと思います。しかし今日、東西両陣営が立国の基本の考え方を異にいたしておりますが、しからば東西両陣営の間においては、一切の交通であるとか、あるいは経済交流であるとか、その他親心友好の関係が途絶されるものであるかといえば、そうじゃない。この安保条約が今おあげになりましたバンドンの平和十原則と何ら違反する、抵触するものでもないし、また日ソの間の共同声明とも何ら抵触するものではございません。私どもは一方において日本の立場、日本の平和と安全、繁栄をはかる道としてこの安保条約締結して、そして進んでいくが、同時に立国の基礎を異にしており、考え方を異にしておる国々との間におきましても、十分の理解とお互いの立場を尊重し合い、侵さず協力していくこと、そして友好関係を進めていくという外交を進めていかなければならぬことは当然であると思います。あるいは日ソの間においても、今申しました共同宣言と今度の条約は何ら矛盾するものでもないし、われわれはさらに共同宣言に基づいて日ソの間の貿易協定によって貿易の拡大も考えておりますし、またいろいろな、両国の間の交通を盛んにすることによって両国の理解とお互いの信頼またはお互いの間の友好関係を進めていくという考え方に立っていろんな外交政策を進めておることも御承知の通りであります。決して一元的にこの安保体制だけでもって日本の外交政策が尽きるという問題ではない。十分に立場だけは明らかにし、その立場に基づいて共産主義の国々との間におきましても、友好親善の関係を進めるということはきわめて必要なことである。今後のわれわれとしては、もちろんそういうことを従来も考えておりますが、今後も考えていかなきゃならぬ、かように考えております。
  53. 鹿島守之助

    鹿島守之助君 もう一つ希皇を申し述べさしていただきます。局地的戦争が全面戦争に拡大する原因は同盟協商制度に基づくものであるが、新安保条約はわが平和憲法の範囲内の制度であり、現に防衛的なる性格にかんがみまして、わが国は特別の利害関係を有せない地域において発生することある紛争に直接間接に巻き込まれないような格段の御配慮を願いたいと存じます。衆議院の審議の段階におきましては、ほとんど金門馬祖の問題に終始したようでございますが、世界における戦争の起因点は金門、馬祖には限らない。ベルリン問題しかり、中近東問題しかり、日本はいずれもこうした問題で紛争に巻き込まれないように注意しなければならないと考えるのでございますが、第一次世界大戦におきましてもその原因は、元来セルビアに起こった問題で、それをドイツの宰相ベエマン・ホルウェヒはオーストリアとセルビアだけの問題に局限したいと思いましたが、どうしてもロシヤが承知しない。ロシヤが承知しないとどうしてもドイツとロシヤの戦争になる。そうすると露仏同盟の関係でフランスが、英仏協商の関係でこれまた英国が立つ。英国が立つと日英同盟の関係で日本もまた巻き込まれる、こういうことになりました。算二次戦争におきましても、これも日本は三国同盟の関係から、これに巻き込む同盟協商制度というものがそういう危険がある。そこで、この安保条約もそういう一地域に起こった紛争のために日本が巻き込まれないような十分の御配慮を願いたい。今日国際連合もありますし、戦前とは事情が違いますが、この点の格段の御注意を願いたいと思います。御所見を承ります。
  54. 岸信介

    国務大臣岸信介君) いわゆる第二次世界大戦前と後の国際関係、いわゆる武力行使という問題については、実は根本的に考え方が違ってきておると思います。国際連合の憲章がその点を明らかにいたしておりまして、この安保条約もあくまでも防衛的なものであり、国連憲章五十一条によって、他から武力攻撃を加えられない限り発動すべきものでないことは、これは言うを待たないのであります。私は過去のいろいろな同盟であるとか、協商であるとかいう関係から、いろいろな問題を戦争を拡大していった歴史については鹿島委員が御研究になり、また今お話の通りでございますが、今日の国際関係において、また新しい安保条約において、また現行の安保条約もそうでありますが、これらのものというものは純然たる防衛的のものであります。防衛的のものであるということは、抽象的に防衛的なものであり、平和的なものであるということでなくして、現実に他から国連憲章の五十一条によるような武力攻撃が加えられたということに対して、これを個別的自衛権あるいは集団的な自衛権で排除すべきととであり、そのための武力行使である。直ちに国連に対してこれに対する通告をして、国連として適当な措置をとるまでの臨時的な措置として認められておるという建前で貫くことによって、私どもはこの戦争に巻き込まれるということについて、日本に何ら関係のない、また日本に対して直接武力行使は行なわれておらないというような場合において、この条約の義務として、過去において同盟条約等の関係において立たなければならなかったという事情とは全然これは違っておると思います。しかし国際の関係についてはいろいろな条約がどうなっておるか、あるいは国連憲章の上においてどういうふうになっておるから理論的にこうだというだけではなくて、実際問題として、この精神を体して、また安保条約の真の意義を十分に体して運営されていくべきことは当然であります。こういう意味において日本に武力攻撃を加えられておるということもない、また日本に関係ない戦争に巻き込まれるというようなことは、絶対になからしめるということに運営上におきましても、特にわれわれとしては十分の意を用いていく考えでございます。
  55. 鹿島守之助

    鹿島守之助君 最後に、わが外交の新路線について一言希望を申し述べたいと思います。  今日核兵器の時代でもあるし、また宇宙時代に即応するような外交が必要じゃないか、一九五七年の後半、ソ連が二つの人工衛星を打ち上げ、いわゆる宇宙時代に入ってきたのです。紛争が起こりますと、単に地上だけでなしに、地上数千マイルにも及ぶであろうということは軍事科学の専門家の言うところであります。どうしてもわれわれは宇宙時代ということを考慮しなければならない時代であります。それで、ソ連が自己の人工衛星を打ち上げた直後、アイゼンハワー大統領と打ち合わせのために米国へ急行しましたマクミラン英国首相は、帰国するや直ちに英国会におきまして、「私は何ら遅疑逡巡することなく、今の歴史の真の転換期であると信じておる。ロシア及びソビエト共産主義の脅威が今日ほど大であったことは今までになかったし、これに対して各国の団結する必要が今日ほど切迫しておることもなかったと私は信ずるからである。」、こう声明しました。「米国人は自国のような大国も同盟国と一緒でなければ、もはやその生存を確保できず、ましてその擁護する理想を持ちこたえることはできないと信じている。」とマクミランは報告をしているのであります。かくして打ち出された政策の結論は、米国及び自由主義各国の努力を強化、調整することであり、今や自主独立、自給自足という考え方は時代おくれであること、自由世界の国々は真の協力、すなわち力を合わせて多くの分野における任務を分担することによってのみ進歩と安全を見出し得ることを確信したのであります。  それで、新安保条約成立後次に打ち出さるべき政策は、日米間に、さらに運んでは自由主義諸国間に、経済、化学、技術、文化等のあらゆる分野において、その協力が具体的に実現せらるべきことでありましょう。かくしてのみ初めてわが安全と進歩が確保できると信じます。この新安保条約には午前中永野委員も申されたように、経済協力につきましても、中ソ同盟条約五条のごときは、もう端的にあらゆる手段でソ連と中共は経済協力援助する、こう直接に言っておりますが、この新安保条約二条は非常に婉曲に言っているので、これは運営で十分補えると思いますが、科学技術、今日の国家として科学技術の進歩ということは絶対必要でありますが、そういう点にはほとんど触れておりませんが、これは運用、あるいはあとで追加して補うことができると思いまするので、早急にこういう経済、科学、それから宣伝、情報、こうした非軍事的要素におきまして強力な手を打っていただきたい。それと同時に中立諸国はもとより、共産圏諸国に対しても、日ソ共同宣言、バンドン会議決議の平和十原則に基づいて友好和親の政策を推進することが、わが外交の新路線であると信ずるのでございますが、御所見を伺えれば幸いであります。
  56. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 日米の間の新安保条約の第二条の精神については、先ほど来お答えを申し上げておるのでありまして、さらに日本は自由主義国の立場を堅持するということを立国の基本としている、従ってその思想を同じくする国々、自由主義国との間において、あらゆる面において一そう強力な交流をし、協力を進めていくということか必要であることは御指摘の通りであります。また日米の間において経済協力を進めるという上において、この科学技術の進歩した時代において、科学技術の方面における協力について具体的な協定を作ったらどうだという御意見も昨日あったわけでありますが、こういう点についても政府としても十分考究をして参り、科学技術の面における交流を一そう盛んにして、これの向上発達に資していかなければならぬ、かように考えております。同時に先ほども申し上げましたように、われわれはあくまでも平和外交が日本外交の基本でありますから、そういう立場を堅持し、そういう思想を同じくする国々との間に一そうの提携を強化すると同時に、立国の考え方が違っている、また外交方針の基本の違っている国々との間におきましても、平和外交推進の大基本原則からみて、友好親善を進めていくということは、日本の外交の基本でなければならぬ。それには、先ほど申し上げましたように、お互いがお互いの立場を十分に理解し、尊重し、そのことに関して、いわゆる相侵し合わないというこの基本の原則をお互いに十分に認識し、実践することが私は平和を推進し、友好関係を増進するところの基礎である、かように思っております。
  57. 鹿島守之助

    鹿島守之助君 どうもありがとうございました。これをもちまして私の質問を終わります。   —————————————
  58. 草葉隆圓

  59. 野村吉三郎

    野村吉三郎君 すでに同僚の各位から質問せられまして、私は多少重複しまして、二番せんじのところが多々あると思いまして、御迷惑でもあると察しますが、しばらくがまんを願いたい。  私は防衛に関して一般的に必要なる事項四問題を選びましてお尋ねしたいのであります。私は、この国の安全、治安というような問題に非常に関心を持っておりまして、日本にも思想の対立がありますし、こいねがわくは、思想の三十八度線ができないことを熱望している次第でありますが、最近はむしろそういう方面に向こうように思って、非常に憂慮にたえないのであります。この懸隔は同じ日本人だからして、これはどうしても埋めなければならぬと思いますが、それには時日を要するであろうと思います。そういうよりな観点に立ちまして、次の四つについてお尋ねしたいのであります。  最初総理大臣にお尋ねしたいのであります。これは、いずれも精神的の面になりますが、国の安全というのは、どうしても私は精神が統一しておらなければならぬというような観点でお尋ねをするのでございますが、最近の歴史の教訓によれば、日米安保のような安保条約あらば、まず戦争は起こらない。平和を保ち得る。しかも日本の自由と民主主義は守られる。これと反対に安保条約のようなものがなければ戦争の危険が多くなり、その上間接侵略も起こるし、平和革命も起こり得るというふうに私は思っているのであります。これは、政府の方でもそうお感じになっておって、始終そういう意味で発表されておるように思っております。それを実例をもって申せば、八年前日本は平和条約を結んだ、同時に安保条約も結んだ。安保のおかげで、当時わずか七万五千の警察予備隊を建設中であって、自衛力はまことに貧弱なりしにかかわらず、日本では隣りに起こった朝鮮戦争のような戦争も起こらなかった。これに反して韓国では、その少し前に米軍が急遽撤退をしたので、北鮮からして少数の精鋭数師団に侵入せられて、たちまち釜山附近まで席巻された。私らは、その当時アメリカ軍がひいたらあぶないんじゃないかというようなことを軍事的に見ておりまして、まあアメリカ人なんかにもそういうことを言うてみたのですが、存外、楽観的でありました。私の友人の、師団長をやった人で、ロシヤの武官をしていたものが、スターリンの観兵式に行ったら、朝鮮人の中隊か大隊があった、そのうちの一兵に聞いてみるというと、共産主義になるのかと聞いたら、いや士官になるのだ、こっちへ来たら士官になれるから来たと、日本語で答えたということを聞いておりまして、北鮮には精鋭の師団があった、南鮮には警察の予備隊と言うたら失礼かもしれませんけれども、警察じみた軍隊であったということで、直ちにやられてしまった。それで、そういう事例を見ても、日本安保条約のおかげでそういうふうなことは日本になかったというふうに思っております。日本は平和で経済戦前以上に回復し、自由と民主主義、これもまあマッカーサーに言わせればまだ十二才、それから七年ほどになりますから十八、九才ですが、かなり成長した、こう私は思っております。歴史的に見ても安保の成立は賢明であった、新安保はただ在来のものに修正を加えただけである、要するに、日本の進歩に伴い、在来の不備の点に、不平等の点等を修正して、そうして十年の期限にしたというものであります。その目的は従来通り、ただ自国のみを守る、よその国を攻めるなんということは絶対に考えておらない、夢にも考えておらない。また、極東において、日本に近火があった場合に関心をもって、延焼をせざるように、利害関係がありますことは当然であります、しかしながら、日本はそういう場合には出兵はしない、在日米軍が日本におりますが、それは日本だけにおって、アメリカの兵隊がここから外へ出て行くなというのは無理な注文でありましょう。それだからしてアメリカの兵隊はある程度動くというとになっております。それで、相互協議にはこれらの点についていろいろ話し合うのでありましょうが、外相、大使、それからまあ軍司令官ですかの最高会議のほかに、今度はだんだん専門家の幕僚会議もできる、下級の会議もできるのだということは、もうほとんど確実になっておるというふうに聞いておりますからして、これらのものがこの常設機関になって、絶えず話し合っておれば、双方協議をしていろいろやることが割合に円満にいくのじゃないかというふうに考えております。日本人は何人も戦争はまっぴらだと考えており、軍閥というものは昔の夢であったと私は思っております。ただ、安保プラスわが自衛力によって戦争発生を抑える力、抑制力、ディタレントというものができる、元来、日本人は一般に徳義を重んじ、正しい道を進んで諸産業を開発し、文化を向上し、生活水準を高めんとしておるのでありまして、この際他より脅威せられては国の独立、個人の自由というものが得られないのですからてし、それによってそういう自由、民主主義は失われることになるのでありますから、他より侵略されざるよう、脅迫されざるよう望んでおる次第であります。この希望を達成するのには、現状の世界においては、防波堤として自分の国情の許す自衛力を持つとともに、その自衛力はまた世界的に見て弱小であるから、自由国たる米国と安保条約を結んで防波堤を補強する、あるいは安全を確保するというのは、これは無理のないことだと思います。日本は他国の脅威になるとか、あるいは他国の内政に干渉するというようなことは、いろいろ他国からして批評もありますけれども、しかし、一九五六年、鳩山総理が調印した日ソ共同宣言には、相互に個別的また集団的自衛の固有の権利を持っておるということを確認しておるのであります。そのときすでに安保条約があったのであります。なおまた同宣言は、経済的、政治的、思想的のいかなる理由を問わず、直接、間接に他国の国内事項に干渉しないという確約をしておるのであります。こういう次第でありますからして、日本安全保障条約により自国を守る足元を固めて、世界のあらゆる国と仲よくやっていこうというのでありまして、そうして決してこれは間違った政策ではない、正しい政策だと私は信じて疑わぬのであります。政府は、わが国民のこの平和の熱意、わが国民の真実の姿を国の内外に対して局知せしむるのにもっともっと骨を折ったらどうかと思うのです。私は国内に対しては精神統一と申しましたが、精神動員というものは必要だと思います。今日は国を愛し国を守らなければならぬということは大体心得ておるのじゃないかと思いますが、自衛力がなかったらいくさが起こらないのだ、兵隊さんや水兵さんかなければもう天下泰平なんだという考えは相当識者の間にもあるのじゃないかと思うのです。こういうところがちょっとわれわれとしては養うべき現象じゃないかというふうに感ずるのであります。  そこで、こういう点については、共産主義の国は非常に力を注いでおって、憲法にもそういうことははっきり書いておるし、この間、ロシアから帰ってきた人の話を聞くというと、学校なんかでもそういう問題については非常に教育を厳格にやっておる、先生と生徒との間は非常に規律厳正である、礼儀を正しくしてやっておるということを聞きましたのですが、日本の方は必ずしもそうはいっておらぬように思うのであります。こういう点を直そうと思ったならば、自由諸国では、今シヴィル・ディフェンス——民防というものを盛んにやっておる、アメリカでも非常に盛んにやっておりますが、日本ではそういうことを一向着手しておらないという関係でありまして、国民の国の安全ということに対する知識が非常に欠除しておるんじゃないかというふうに私は考えるのであります。これは将来にとっても考えなければならぬ問題じゃないか。軍備がなければ、兵隊、水兵がなければもう天下泰平だと言っておるような考えは、これはどうしても、何か教育して直さなければならないのじゃないかというふうに思うのです。ただし、平和を維持するためにはそれではいかぬのじゃないかというふうに思っておる。これを放擲していくわけにはいかぬのじゃないかと思っております。また、外国に対してもいろいろ日本を中傷してくる国があるのですが、もっと広報機関が活発に動かなければいかぬのじゃないかというふうに私は感じております。これは外国にはプロパンタ・ミニスターとか、最近プレセス・セクレタリーというものがあって相当の機関を持って、そうして国の内外に対して、そういうときに善処しております。日本の方はそういうところで、まあ非常に機関も少ない、予算もないでしょうが、私は最近の議会のいろいろの動きに対しての説明が、政府が後手々々と出、一週間前に出たらもっと効果があるのに、もっと早く国民の了解をかち得たのにと思うのが非常にたくさんあるのです。そこで、安保の問題も、そういう点において、この場合ばかりじゃなく、この安保体制で十年間いくのですからして、この方面に対して十分力を注いで、そうして国民に十分納得せしめるという努力が必要じゃないかというふうに感ずるのであります。私は、きょうは答弁としてお願いするのは、ここへ請願あるいは陳情に何万人して来る。あれがみな、その安保の内容をわかって、安保が国のために反対だと思ってやってくるのか、ずいぶん疑わしいと思うのであります。それで、ただいま総理大臣をわずらわし御答弁を願うのは、そういう方々あるいは労働者の方では安保反対なんてやっておるのですが、私らは、労働者諸君の内容いかんによっては自分で首をくくるような、自分の立場が安保を失ってやったら非常に困るような人もその中に参加しておって、事態をわからぬのじゃないか。国民が主権者である今日、そういうこと言うたら失礼かもしれませんですが、総理大臣から、なるべく明瞭で簡単で、そういう人にもわかるようなお答えを願えたらけっこうだと思います。私は、内外に対する日本説明がすこぶるもの足らぬ。国内の精神教育というのですか、精神統一というのですか、国を愛し国を守るということは、これはもう当然のことでありますし、そういう点において国民が十分に統一されなければならぬというふうに思っておりますので、若い青年少女にわかるように一つ説明を願います。
  60. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 国の重要政策について、国の内外に十分これを理解徹底せしむるように宣伝啓蒙、いわゆるPRをしなければならぬ、これは民主政治のもとにおいては特にその点が強く要望されることは当然であります。従来そういう点について、政府の施策について不十分であったという点は、私自身も十分に反省をいたしておりますし、またそのことは十分考えなければならぬことであると思っております。安保条約の問題につきましても、十分国民にこれが真に徹底し、正当な理解、また判断の上に立って、賛成とか反対とかされておるのではなくて、ある一部の人々の宣伝なり、それは誤解に基づくものもありますし、あるいはそれよりもさらに進んで、故意に国民の認識を誤らせ、そうして安保条約に反対せしむるような逆宣伝も非常に盛んに行なわれておるときでありまして、そういうことがこの安保条約の真の理解を妨げているという事実についても、私も十分にそういうことも認識をいたしておりますし、これに対して正しい認識を与えていかなければならないという点については、常々考えておることであります。  そもそも、言うまでもなく、一国の平和と安全をはかること、これを確保するということは、どの国民もみな考えておる問題でございます。だから、侵略をされて、戦争に巻き込まれて、そうして平和な生活が侵され、自分たちの生活が乱される、非常な犠牲を払わなければならぬというような事態を起こすまいということは、これは国民のひとしく望んでおることであり、政府もまたその考えに立って、いかにして日本の平和と安全、それによって国民の各自がそれぞれの仕事に精を出して、そして国の繁栄をはかっていくかこいう点につきましては、政府が最も責任をもって考えていかなければならぬ問題であり、また考えておることであります。安保条約というものは、私は、現在ある安保条約もそうでありますし、今度改めようとする安保条約もそうでありますが、これによって戦争をなくし、われわれが非常にきらいな、またどんなことがあっても巻きこまれてはならない戦争というものを防止する手段として、何が一番有効なのか、全然無防備で、あるいは無防備中立というようなことが一番日本の安全であるのか、あるいは革命思想を持っている共産主義者の言うような道を歩んでいくことが、これがほんとう国民の念願しておる平和と安全を来たす道であるかどうかということを、十分に考えなければならぬ。私は、この国に対する正しい愛国心というものはいつの世においても必要であり、またそれが国の安全を守っていく基礎であり、また国の繁栄をもたらす原軸力になると思います。日本人日本人の意識に立って正しく祖国を愛していく、この国を他から侵略されたり、われわれの平和な生活を乱されないように、われわれ自身、国民自身が、一人々々が、愛する国のためにこれの平和を守っていくという心がまえがなければならぬと思うのであります。  この意味において、今野村委員お話のように、そういう見地に立って考えれば、精神上の問題であり、また思想が分裂して、思想的に三十八度線が作られておるような日本の現状というものについては非常に遺憾であり、私はこれは、しかしながら、国民の若い人々ももちろんのこと、年をとった人も、あるいは職業のいかんを問わず、お互いにこの愛する国、この国が戦争に巻き込まれないように、また他から侵略されないように、またお互いが自由で、言論の自由を持ち、政治の自由を持ち、職業の自由を持ち、あらゆる点において自由に、そうして自分たちの考えが、選挙を通じ自分たちの政治的な意見が発表される、こういう制度が確保される。また、実際現在確保まれておるのでありますが、そういう前提が何によってできているかといえば、他から侵略をされない、されておらない。どうしてそれではよそから侵略をされておらないのかというならば、私は、現下の世界の情勢から見るというと、かりに中立政策をとっておる国におきましても、日本の予算の数倍、あるいは三倍、五倍というような非常な大きな軍備費を使って、自分の軍備を拡大拡張して、そうして国を守っている。中立国といえども、中立政策をとっておる国といえども、そういう情勢であります。また、お互いがこの兵器の発達した今日の状況、または大きな国が持っている巨大な防衛力というもの、武力というものを考えてみるというと、なかなか一国だけで絶対に安全だとは考えられないのであります。ここで、そういう立場から、自分の足らざる防衛力というものを、他の同じ理想を持ち、同じ考えを持ち、同じく信頼できるような国々との間に集団的な安全保障体制を作って、そうして平和な生活を営んでいき、戦争を防止するということが、世界現実であると思います。  過去八年間、日本が東洋の一角において、また自衛力はきわめて貧弱なるものであったにもかかわらず、平和のうちに国民がこれだけの経済発展をたしてきたということは、要するに、私は、現行安保体制があったためによそから侵略をされず、戦争に巻き込まあることがなかった結果であると言わなければならぬと思います。新しい安保条約も、現在の安保条約も、根本においては変わっておりません。ただ、現在の安保条約は、いろいろな点において日本が独立国としてふさわしい形になっておらない。アメリカの一方的であり、アメリカに全部おぶさって、日本の自主的な意見をちっとも述べることのできない、対等性のない不平等な条約でございますから、これを平等な関係に直し、日本が独立国としてふさわしい発言権を持つような安保条約に改めるというだけでありまして、根本は、あくまでも戦争をなくし、きらいな戦争に再び巻き込まれることがないようにするために、われわれは、一方において自衛隊を持っておると同時に、この自衛隊の力だけでは足りないから、これを補う意味における安保体制ができておるわけでありまして、これに反対しておる人々の言い分というものは、私は、もしもそれらの人々の言うことを聞いたならば、日本が共産主義の国になり、共産主義の鉄の統制のもとに、人間の自由が奪われたような生活をするということに甘んずるか、あるいはこの世界の大勢から見て、東西両陣営の勢力が、力のバランスによって現実に平和が保たれ、戦争が防止されておる。そのバランスをこわすことによって戦争の危険を増し、日本が再び私どもが心から避けようとしておる戦争に巻き込まれるような事態が、かえってそれによって引き起こされる。これが国際の現実であるということを思うときに、私は、国民が正しく新安保条約の内容なり、精神なり、その本旨なりを理解して、悪意ある宣伝に迷わされることなく、安心して安保条約に賛成されることを、心から願っておるものでありまして、こういう点が十分に国民に徹底するように、今からでもわれわれは決して怠ってはならぬと思います。国会の審議を通じて国民の前に明らかにすると同時に、また、あらゆる面においてこれを周知徹底せしめるように今後も努力していかなければならぬ、かように考えております。
  61. 野村吉三郎

    野村吉三郎君 外務大臣にお尋ねを申し上げます。中立政策、これもまあここでしばしば繰り返されているのでありますが、日本の安全問題と関連して、これをオミットするわけにいきませんですから。  私は、日本がずいぶん大きな理想を持っておって、世界三十億の人間は、祖国を異にしても、四海兄弟である。そうして終戦のときの御詔勅には「万世ノ為ニ太平洋ヲ開カムト欲ス」というて御詔勅が出ておるようなくらいでありまして、国民はそういう考えでおると思います。ただ、無法の者があるならば、国連の警察軍でも用意しておいて、これによって秩序を保ちたいのでありますが、しかし、現状は、残念ながらそこまで進歩しておらない。現に自由国家群と共産同家群とは相対立しておって、平和維持のために、たとえばヨーロッパにおいてはNATOとワルシャワ同盟が対峙しておる、そうして武力の均衡によって平和を保っておる。東洋においては、ソ中同盟のごとき対日本同盟が生まれたのであります。日米安保条約も、その当時生まれたのだと思います。それで平和を保っておるという実情であります。  世界には中立国もあり、わが国にも中立論者があることは明らかでありますが、歴史は、私は中立の頼むに足らざることを教えておる。日本が終戦前に、日ソ間に不可侵中立条約が存在して、友好関係にあるがゆえに、ソ連に仲介を頼んで平和を回復せんと試みておったが、ソ連は、意外にも、突如開戦を宣告し、ソ連軍がたちまち満州に来襲し、朝鮮、樺太、千島を数日にして占領した。休戦後には、北海道の釧路・留萠線以東をソ連軍が占領せんと欲したのでありますが、この分割占領だけは、米ソ両国の意見が対立して実行されなかったということは、日本人がよく知っておるところであります。その他、たとえばベルギー、自国の中立は各国で保障されておったにかかわらず、二度の大戦で、いつも中立を侵されておるという先例もあります。スイッツルは中立を守り得たが、これは同国に対して各国の保障があるし、地理的に優位におるし、同国は挙国皆兵で、兵力は十分持っておるので、四辺の守りはかたい。そうだからして、大軍をもってしてもこれを抜くことが容易でない、得失償わない。これを断念した。ヒトラーをもってしても断念しております。すなわち、力をもって中立を守り、また守らんとしておって、中立なるがゆえに国連へはいりおらぬ。日本においては、現在も大戦時と同じく、中立によっては、とうてい安全を保ちがたい。志を同じゅうする自由主義の国と安全保障条約を結び、国を守り、自由主義を守ることは、きわめて無理ないことと思います。もしこれをやめて、一部の人が主張するごとく中立主義をとれば、日本は好むと好まざるとにかかわらず、漸次共産圏に引き入れられてしまうことは明らかであります。これは外相はどうお考えになるか。もう、今総理大臣もこの点にお触れになったし、外相も同じお考えだと思いますが、まあここへ陳情に来るいろいろの若い人、あるいは労働組合の方々によくわかるように、一つ簡単に御説明を願いたいんです。
  62. 藤山愛一郎

    国務大臣藤山愛一郎君) 今日の世界の対立というものは、共産陣営と自由主義陣営との対立でありまして、これは思想的に見ましても、私は唯物論と唯心論との間の中立という思想はあり得ないと思うのでありまして、これを哲学的な、あるいは社会的な観点から見ましても、その中間の思想というものがない。その裏づけをもって二つの主義が対立いたしておる。その対立が政治的な、あるいは軍事的な現われとなってきておりますので、どちらかいずれかの一方をとることは、私はこれはその国の方針としてとらなければならず、とるべきが正しい道だと思っております。  また、政治的な中立という問題、あるいは国際間の中における軍事的なと申しますか、防衛的な意味における中立という問題は、ただいま野村委員の御指摘になりましたように、諸般の情勢が整っておらなければ、あるいは政治的にも軍事的にも、中立ということは私は非常に困難だと思います。御指摘のありましたように、ベルギーの永世中立というものが二度の大戦によって侵されたということは、ドイツとイギリスとの谷間にあったベルギーのごとき、あるいはオランダのごとき国が、いかに中立を叫びましても、一朝事ありますときには、その工業力なり、あるいは経済力なり、あるいはその戦争遂行の方便のためにじゅうりんされてしまいますことは、これは明らかなことでございます。そういう観点から考えますと、スイスのような国が今日中立を保ち得たということは、ヨーロッパ各国の力の均衡の事情もございますけれども、やはり地理的条件というものが大きな力であったと思います。日本の太平洋の先端における島嶼というものが、今日両陣営の政治的あるいは経済的、すべての軍事的な意味における谷間であるということは、これは申すまでもないのでありまして、その立場が、何か世界の大きな紛乱が起こりますときには、必ず一朝にしていずれかの陣営から破られてしまう。従って、その間に中立を保持するということは非常に困難であって、従って、いずれか一方の陣営、自分の主義とする一方の陣営の中においてお互いに守り合っていかなければならぬと思うのであります。過去におきまする中立、いわゆる永世中立国が、スイスを除き、すべて解消して自分の欲する陣営の中にとけ込んだのでありますが、ただ、今回の大戦を契機としてオーストリアだけが中立を新たにしたわけでありますが、これはあの十年にわたります四カ国の占領から脱却するためのやむを得ざる手段であったと思うのでありまして、悲痛なオーストリア首相のラープの演説を私はウィーンで聞いたことがございますが、一日も早く占領から脱却するという一つの方便であったと思います。そういう意味におきまして、私どもは今日あらゆる観点から見ましても、日本中立主義というものを取り得る立場にはないと思います。しかしながら、いずれの陣営に属するにいたしましても、他の陣営と平和裏に話し合いをいたしますことは一向に差しつかえないし、また、お互いに平和共存の目的を達することは可能でございます。また、同じ陣営に属していましても、意見の違いがある場合には、率直にお互いに意見の交換をして検討し合いますことも当然でございます。そういう意味においては中立主義をとりませんでも、世界の平和と安全とに対して率直、忌憚ない意見を申し述べて、そして世界に訴えることも、私は十分できると思っております。でありますから、日本の外交の担任者として、私は今日いわれております中立主義をとることは決して適当でない、こういうふうに確信を持っております。
  63. 野村吉三郎

    野村吉三郎君 防衛庁長官にお尋ねするのでありますが、これはきのう大体お述べになったと思うのですが、なおそれに補足して、日本の国のとるべき道は自由でなければならぬと思いますが、潜水艦だとかあるいはパラトループだとか、そういうのが日本人も隣近所にあることを知らなければならぬと思いますが、そこは防衛庁長官の御判断でその点は深く申しません。日本国民は自国を守るだけで、他国を侵すということは絶対に考えてはならない。しかし、日本の周囲には大きな兵力がある。ごく近いところに大きな兵力がある。そうして潜水艦もあればパラトループ、飛行機で運ぶ兵器もある。それが日本に対してあたかも高気圧となって万が一の場合、日本に対して暴風を起こし得ることもあるであろうから、いわゆるある程度のバランスというか、力の均衡を持っていかなければならぬ、気圧の大差によって暴風が起こらぬよう、自国の安全を守らなければならぬ、これが日米安全保障条約の意味でありまして、その実績は顕著であって、日本世界に比類なきほどの僅少なる自衛権、承知しておるところには国民総所得の百分の一・六ぐらいである。おそらく世界各国の最低に位しておると思います。これによってこの間に日本が大いに経済の復興をやったということも考えられます。そうしてこれらの経済生活水準向上を保っておるとも思います。そうしてこの安保条約プラス自衛力によって特に不安を感ずることなく安全を保ち、文化に貢献し得たと思います。これは世界の驚くところでありますことは、皆さん御承知の通りであります。安保の重要さを正しく了解するために、日本では自衛力がなくて、軍艦もなく、水兵もなければ、すなわち安全であると思っている者も相当あるのでありますからして、わが国の周囲にある各国の兵力の配備、これは直ちに日本に向っているとは思わぬですが、これは国民一般もある程度は承知しておらなければならぬと思うのでありますが、機微なる点もありますから、防衛庁長官の御裁量で適当に御説明を願いたいと存じます。
  64. 赤城宗徳

    国務大臣(赤城宗徳君) 私から自衛隊のあり方等を申し上げるのは、何か口はばったいことと思いますが、今のお話のように、一般の人にも知ってもらいたい、こういう意味でお答えいたします。  お話の防衛に対する考え方は、全くお説の通りと思います。そこで私はやはり個人でもそうでありますが、自分を守る意思といいますか、侵されればこれを排除するという、抵抗するという意思を失っては、これは生存を放棄するものだと、個人でもそう思います。やっぱり国家といたしましても、一つ戦争は暴力でありまして、その暴力を排除する暴力を受けた、侵略を受けたら、これを排除するという意思を国家として放棄するということでありますならば、やはり国としての存立を放棄するということだろうと思うのでありますので、これは自衛の権利というものは、固有の個人でも国家でも権利だと思います。しかし、その権利がただ抵抗する意思ということだけであってはならないので、それを現わさなければならぬ、顕現しなければならない、その現われが私は自衛隊であると、こういうふうに考えます。ところが今お話のように、その国々によって必ずしも抵抗を排除するだけの、侵略を排除するだけの力を持っておるとは限りません。そういうことで、やはり個人でも抵抗の意思を持っておっても、やはり警察力とか法秩序によってその安全を守ると同時に、世界的に見ましても、国際的に見ましても、国際連合というような組織によって安全を守るということでありますけれども、今の国際連合が必ずしもその安全を守るだけの機構あるいは力を持っておらない。こういうところからやはり個別的あるいは集団的自衛権によって、共同防衛によっておのおの自分の国の安全を守っていこう、こういうことだと思います。ところで、そういう関係になっておりますが、今先ほどからお話がありましたように、これはやはり軍備というものが、私はかつては確かに相手国まで占領してというような形であったかと思います。しかし、最近の私は各国の、ことに自由主義国家群の軍事力というものは、これは戦争をしかけるとか、侵略するということでなくて、やはり戦争を抑制するという——戦争をしかける、戦争をするということでなくて、戦争がないように、あるいは戦争を抑制しようという力になってきておる、これが現実だろうと私も考えます。ところが、前々お話がありましたが、理想的にはこういう軍備などがなくて、平和と安全が保てるのが、これが理想かもしれませんが、現実におきましては、東西両陣営の力の均衡といいますか、この力によりましても、特に核兵器とか、あるいはミサイルとか、この力の均衡が平和を保っておる、こういうふうに考えまするというと、私はこの集団共同防衛という世界の現段階は、やはりこれはお互いに力を合わして戦争を抑制するという体制である、こういうふうに考えます。しかし、戦争を抑制するのには、やはり現実の問題としては力の均衡がなければ戦争を抑制するという現実面の働きはなし得ない、こういうふうに考えます。そこで、やはり日本安全保障条約というものも、決して戦争のためのものであるということでなくて、やはり自由国家群の立場に立っておる日本といたしましては、世界戦争抑制力の一半を、大なり小なり、大国は大国なり、何も日本を卑下するわけではありませんが、極力国情に応じた、日本の場合といたしまして、その戦争抑制力の一半をになう、協力する、こういう形で、日本の近辺における極地的な紛争あるいは戦争というものの抑制力の一半をにない、日本の平和と安全を守っていく、こういうのが私は安全保障条約の底を貫いておる考え方だ、こういうふうに考えます。そういう点から考えまして、日本のしからば自衛力というものが、この抑制力として、日本の自衛隊だけでその機能が全うせられるかどうかということを考えまするというと、これは日本国内の問題等につきましては、これはやっていけますけれども、抑制力としてやはりアメリカとの協力というものを必要とする、こういうふうに考えるわけであります。  しからば今の本問題でありまする日本をめぐる各国の兵力の配備状況、こういうものはどうなっておるか、こういうことでございます。共産関係から申し上げますならば、共産国の全体の兵力は昨日ちょっと申し上げましたが、極東のソ連軍がどれくらいあるかということでありますが、これは御承知のように、兵力等につきましては、各国とも相当秘密に属しておりますので、私の方では諸情報及び諸資料によって申し上げるのでございまするけれども、陸上戦力につきましては、師団といたしましては三十五個師団以下だと思いますが、人員にいたしましては約四十五万の陸上兵力を、陸軍としてソ連の極東で持っております。海軍——海上戦力といたしましては、巡洋艦六隻とか、駆逐艦四十隻でありますが、特に潜水艦は百十隻程度持っておると思いますが、約六百隻、トン数にいたしまして約五十万トンを持っておるのであります。それから中共でありますが、これは陸上が非常に多うございまして、約百六十個師団、人員にいたしまして約二百五十万人、これは保安の部隊も含んでおります。海軍といたしましては、船では約二百五十隻、トン数にいたしまして約十五万トンであります。潜水艦は約二十隻を持っております。空軍といたしましては約三千機であります。先ほど極東ソ連の空軍を漏らしましたが、極東のソ連空軍は約四千二百機であります。中兵は三千機であります。北鮮の方は陸軍が十八個師団、五個旅団、約五十四万人で、これは保安隊を含んでおります。海軍は約百隻で一万七千トン、空軍が約八百五十機、こういうふうになっております。極東における米軍でありますが、これは地上軍といたしまして約三個師団、人員といたしまてし約九万人であります。これは御承知の海兵隊を含んでおります。海軍といたしましては、御承知の第七艦隊が、百二十五隻の船で、トン数といたしましては五十万トン、空母は四隻を持っていると思います。この第七艦隊の存在等も、私はこれが攻撃力というよりも、先ほど申し上げました戦争のあるいは紛争の抑制力に非常な力を持っていると思いますが、これは御承知のように、一つにまとまって動いているわけではありませんで、機動的に動いているものであります。空軍といたしましては約千六百機。それから国府を申し上げますと、陸軍が二十四個師団で、四十二万五千人、海軍が百八十一隻、十二万トン、空軍が約五百機。韓国は陸軍が十九個師団で六十万人であります。海軍といたしましては七十隻、三万八千トン、空軍といたしましては約二百機であります。  こういうような状況にありますので、先ほどから野村さんからもお話があり、外務大臣からもお話がありましたが、中立というものが、日本の立場としてできるかできないか。私は中立ができるかできないかということは、大体三つの条件があると思います。第一は、中立をしようというときに、自分の国を守るという意思を放棄している国が中立などは守れない。すなわち中立を守るには、その自分の国を守るというような気魄と、それを具現しておって、侵された場合には、それに抵抗して、反撃を加えるという自衛隊といいますか、そういうものを持っておらなければ、これは中立というものは守れないし、中立になるべきものじゃない。  第二は、やはり中立を守るというのには、その国の周辺において、その中立を保障する国が、必ず中立を保障するということでなければならない。ところが、日本を取り巻くあるいは米、ソ、中共等の日本との不可侵条約というようなことをいいますけれども、それが日本の中立を保障するかしないかということを考えまするならば、これはほんとうの現状においては、机上の空論に近いものだと私は考えます。  第三には、中立を守らせる、守るというのには、その国が中立を守る価値がないか、それだけのりっぱなものがないか、あるいは地理的な状況でそれを守り得るかどうかという状況にあるかどうかでございます。  そういう点から考えますならば、日本生産力、工業力、日本の労働人口日本人の頭脳、こういう尊いものを、これを中立のままで、この日本の近辺を取り巻く強力な国が保障するかしないかということになると、私はそういう保障はあり得ないと、そういう点から考えましても、私は日本の中立ということは、中立の名において、米国との間をさいて、左の方へ流していく、流されるというような結果に陥るのじゃないか、こういうふうに考えております。
  65. 野村吉三郎

    野村吉三郎君 経企庁長官質問いたしたいと存じます。先ほど同僚の永野委員からも質問されましたが、日本の安全を保つために、この日本人生活を守るということが非常に大事なことであると思いますが、割合にこれは閑却されているのじゃないかと思いますので、重複の点もありますが、お尋ねするのであります。  もしも日本が直ちに、私は共産主義にみななろうと思っているとは思いませんが、安保条約に反対して、そうして孤立して容共的の態度になり、だんだん向こうへ引き入れられるということになれば、今日世界の現状では、まあだんだん国家至上主義、トータリタリアニズムになるのだと思うのであります。その場合に、日本国民九千万人はいかなる生活水準になるか、これはこまかいことは伺うわけでないのです。大体のところでけっこうであります。私は、これはアメリカの大使なんかをやっておる間にも体験したことでありますが、戦前日本の大陸政策が英、米、仏の政策と相入れず、そうして政策が違ってくるというと、貿易が制約せられるのであります。そのときは、戦前日本が台湾、朝鮮、樺太を持っておるし、新秩序——ニュー・オーダーといいまして、各方両から物資を入手し得た。ある程度の自給自足も可能であった。しかし、今日もし日本が自由国家群との、英、米、カナダその他の国との政策の対立によってこの安保条約を破棄して、そういう国の政策と相対立して、だんだん共産圏の方へ行くということになると、貿易はだんだん不如意になるということも、これはもう必然だと思います。今の六、七十億米ドルの貿易というものは私は大きな貿易であって、日本国民生産のおそらくは四分の一か三割くらいに当たるのじゃないかと思います。この貿易はだんだん減退するに相違ない。そうすれば、原料、食糧が不足し、工場は仕事がなくなり、五百万トンを持っておる船舶は輸送する荷物がなくなる、食糧は不足してくる、失業者が多数出るということも予測し得るのであります。で、この日米太平洋戦争の前に、アメリカ、カナダ、自由諸国——英、仏あたりもそうですが、だんだん貿易は制約されたのです。最後に、これは戦争の始まった年の七月の末ですが、経済断交して油が来なくなった。それが私は戦争の大いなる原因になったのだと信じております。これは帰って来て当時の当局者から聞いても、デスペレートに日本がそれでなって、そうして戦争に突入した。みんなそういう考えであったかどうか知らぬが、軍部の者の一部の者からそう聞いておるのであります。で、今は貿易国民生活のために非常に重要なる部分を占めておって、生命線であろうと思うのであります。で、もしこれがなくなった場合に、日本安保条約をやめて中立的態度をとり、だんだん共産圏に引きずり入れられていった場合に、はたしてこの自由諸国との貿易にかわるものが共産圏でどのくらいできるのか、率直に大要をお話し願いたいのです。私は自分が大観して、日本国民は生存上どうしても自由圏にとどまらなければならぬ。若干の自衛力とそれにプラス安保条約によって国を守るのが一番いい。この用意があれば戦争をしかけてくる国はまずなかろう、日本がよその国に対しては絶対に政策の具として戦争をやらないと誓っておるのでありますから、戦争をしかけることは絶対になし、ただ守るだけである。米国もまた、私は、アメリカは開戦するのは議会の権限に属しておりますし、他国に対して戦争をしかける国ではないというふうに、自衛だけの国であると信じておるものであります。この点、日本貿易を失うような外交政策をとり、そういうことになったら国民生活がどういう影響を受けるかということに、一向無関心でおるように私は思うのであります。ここらあたりに行列して来る人も、そんなことを考えているかと思うのですが、まあ一つ経企庁長官から大ざっぱに、ここらあたりに来る請願、陳情者、反対しておる労働組合の方方、それの人方にわかるように、まあ簡単でけっこうですから、一つ……。
  66. 菅野和太郎

    国務大臣菅野和太郎君) 先ほど永野委員に対してもお答えしたことでありますが、戦後日本経済がこのように発展しましたにつきましては、自由主義国家群との経済協力、ことにアメリカの対日経済援助ということが大きな原因になっておるのであります。昭和三十四年度につきまして見ましても、日本人の日常生活のうちの約一割は輸入品でありまして、その輸入品の大部分は自由主義国家群から来ておるのであります。でありますからして、かりに自由主義国家群との経済協力をなくして、共産圏と経済協力するということにいたしましても、これほどのわれわれの生活に必要な物資を共産圏から輸入ができるかどうかということについては、これは私たち非常に疑問に思っております。従いまして、お話のように、もしも共産主義国と経済協力をするということになれば、立ちどころにわれわれの生活が一割減縮しなければならぬということになるのでありますが、生活自体はそうであるかもしれませんが、それに関連してわれわれの経済全体に及ぼす影響はもう莫大なものであると思います。今日の日本産業活動というものは、自由主義国家群との経済協力のもとにでき上がっております。従いまして、自由主義国家群との経済協力を断つということになりますと、今までのこの築き上げた産業活動というものが根本的に破壊されるということになりますからして、日本全体にとっては経済の大破壊になるということを、非常にわれわれは心配いたすのであります。でありますからして、せっかく自由主義国家群との経済協力のもとに発展しましたこの日本経済を、今後ますます発展さすがためには、自由主義国家群との経済協力をますます盛んにし、ことに日米との経済協力を一そう盛んにすることが日本経済発展せしめるゆえんであるというように考えますので、今度の日米安保条約などは、極力われわれといたしましては、これを実現に努力いたしたいと、こう存じておる次第であります。
  67. 野村吉三郎

    野村吉三郎君 今日までの総理大臣初め各大臣の御説明はよく了解いたしております。今日、自民だけで審議のやむなきに至ったことは、他会派が不参加なるがゆえでありまして、残念であり、議会は戦後最大の難局にあるのかとも思います。まあその原因考えてみると、どうしても自民、社会両党のイデオロギーが原因でないかと思うのであります。自民、社会両党は、英米の両党のように、政治外交の大本が一致しておって、ただタクチックス━━実行上の手段方法において論議するというのと違って、なかなか共通の広場で話しにくいのでないかと、まあ自分も考えております。しかし、同じ日本人でありますし、同じ日本丸に乗っておるので、かすに時をもってすれば、国の安全、国民福祉の要求するところに帰一するのじゃなかろうかというふうに思うのであります。議会内のみならず、院外においては、まあ昔は軍閥といわれた時代でも、軍人とか軍隊は政治運動を禁じられておったのであります。私は今日の自衛隊もまたそういうふうになっておると思います。ところが、何百万の労働組合の諸君は、幹部のさしがねで公々然と法律の精神に逆らって政治闘争に参加しておる。ところが、これを制止するのに困難なるような模様に見える。これは一そう社会の混乱を増してまことに容易ならざる事態じゃなかろうかと思うのであります。しかし、まあ比較すればきりがないので、日本国民は国を愛し、同胞でありますからして、やがては何か時をかせば日の丸のもとに一本になるのだと私は信じております。それにはどうしても国民各階層が尽力せねばならぬ。われわれも全国民を代表する議員になっておるがゆえに——憲法ではそう書いております。われわれはどうしてもそうであるからして、誠意一貫自己の良心を守り、全国民を代表する位置にあるのですからして、国民全体と協力することはもちろんであります。九千万人を乗せておる日本丸は今荒天航海中であると私は思います。総理大臣初め政府責任者は、どうかかじを正しくとって、暗礁に乗り上げんで安全に乗り切られることをほんとうに祈ってやまないのです。  私は元の総理大臣の鈴木貫太郎という人をよく知っておって尊敬しておるのでありますが、あの人は終戦を決定したおりに陸海の高級将校、あるいは元帥、大将あたりの人も多数、それからして閣僚の一大臣も、それから若干の文官の諸君も自決する者を出したと思います。鈴木氏自身は、いわゆる志士と称する者に襲われて、間髪を入れずして死を免れた。家は焼かれたのですけれども。氏は総理の義務を果たしたと信じて世を去ったと思っております。そのうち国民がだんだん冷静を取り戻して、鈴木元総理はよくやってくれたと感謝しておるように思うのでありますが、今はいろいろの動きがあるけれども、その間には感情に動いておる者もあるように思うのです。荒天航海中でありますし、私はどうか安全にかじをとって目的に到達することを祈ってやまぬのです。議員の一人としても誠意自己の義務を尽くすつもりで決意いたしております。これで私の時間を終わります。
  68. 草葉隆圓

    委員長草葉隆圓君) それでは本日はこの程度とし、明十一日午前十時から、日米安全保障条約関係三法案についての質疑を続行いたします。  本日はこれにて散会いたします。    午後四時三十四分散会