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政府委員(高橋通敏君)
条約につきまして補足説明を申し上げます。
条約は、
日米間の
相互協力及び
安全保障条約自体と、これに付属します五つの文書から成っております。五つの文書と申しますのは、事前協議に関する交換公文、吉田・アチソン交換公文の存続に関する交換公文、相互防衛援助
協定に関する交換公文、沖繩に関する合意
議事録、
日米安全保障協議
委員会の往復書簡、この五つでございます。このうちの初めの三点、すなわち事前協議、吉田・アチソン交換公文、相互防衛援助
協定に関するもの、この三点は本
条約とともに
国会の御
承認の対象として提出いたしておる次第でございます。他の二件、すなわち沖繩と
日米安全保障協議
委員会設置に関する件は、行政権の範囲内の事項について規定したものでございます
関係上、
国会の御
承認の対象とはせず、参考文書として御提出申し上げている次第でございます。
本
条約でございますが、本
条約は、前文と十カ条から成っている次第でございます。前文は五項目から成っております。第一項は政治
関係、第二項は経済
関係、第三項は国連憲章の尊重と平和主義、第四項は自衛権について第五項は極東の平和安全に関する規定をいたしておる次第でございます。
第一項及び第二項につきましては、これは
日米両国が政治上及び経済上の広範にしてかつ恒久的な友好
協力の
関係の基礎の上に立つものであることを明らかにしている次第でございます。
第三項は、国連憲章の目的及び原則に対する信念がまず再確認されている次第でございます。国連憲章の目的と申しますのは、憲章第一条に規定されているところでございまして、次の四点でございます。すなわち、
国際の平和及び安全を維持すること。人民の同権及び自決の原則の尊重に基づく諸国問の友好
関係を発展させること。第三点といたしまして、経済、社会、文化、人道の諸方面における
国際協力を達成すること。第四点は、これらの目的の達成にあたって諸国の行動を調和するための中心となること。これが国連憲章の目的でございますが、この目的を再確認いたしますとともに、原則、すなわち国連憲章の第二条には、この原則についての規定がございます。すなわち第二条は、第一条のただいま申し上げました国連憲章の目的を達成するにあたって、国連及びその加盟国は、次の原則に従って行動しなければならない。その七項目の第一項は主権の平等。第二項といたしまして、憲章上の義務の誠実な履行。第三項として
国際紛争の平和的解決。第四項として
武力の使用の禁止。第五項として侵略者に対する援助の禁止。第六項として非加盟国もこれらの原則に従って行動することを確保すること。第七項といたしまして、国内事項に干渉しないこと。このような国連憲章の目的及び原則に対して、それらをここで再確認いたすとともに、さらに
両国が、すべての
国民及びすべての
政府とともに平和のうちに生きようとする願望についてここに再確認いたしている次第でございます。
第四項は、当然のことでございますが、
日米両国が
国際法上個別的または集団的自衛権を持つものであることを確認いたしておる次第でございます。
最後に第五項は、
両国が極東における
国際の平和及び安全の維持に共通の関心を持っていることを規定いたしてございます。
条約第一条でございますが、第一条の第一項の方は、紛争の平和的解決と、
武力の使用の禁止を規定いたしております。これは、先に掲げました国連憲章第二条に定められている七つの原則のうちの最も重要な原則でございます第三及び第四の原則を、ここに文面を変えることなくそのまま引きうつしました重要な原則でございますので、再確認いたした次第でございます。第二項は、平和維持機構としての
国際連合が強化されるよう
努力する趣旨をさらに確定している次第でございます。
第二条前段は、自由な諸制度を強化することによりまして、平和的かつ友好的な
国際関係の一そうの発展に貢献する旨の規定をいたしております。後段は、ただいまの前段が主として政治
関係のことを言っておりますのに対しまして、後段は経済
関係、すなわち締約国は、その
国際経済政策におけるくい違いを除くことに努め、また、
両国の問の経済的
協力を促進することをうたっている次第でございます。
次に第三条は、バンデンバーグ決議の趣旨にのっとったものでございますし、この同種の
条約にこれと似たような規定がございますが、本条は、これら一般的な型のものとははっきりと違った点が幾つかある次第でございます。その第一点は、「
憲法上の規定に従うことを条件として」という明確な留保がつけてある次第でございます。これはわが
憲法の第九条の規定を念頭に置いて入れられた文句でございます。また「締約国は、個別的に及び相互に
協力して、」——通常ここは「単独に及び共同して」となっておりますが、この場合、「個別的に及び相互に
協力して、」という文句に変えた次第でございます。また、「
武力攻撃に抵抗するそれぞれの能力」、これにつきましては、通常は「個別的の及び集団的の能力」というふうな書き方になっておりますが、これを「それぞれの能力」というふうに改めた次第でございます。これは共同とか集団的とかいう言葉になりますと、いかにも
日米両国が一体となって防衛能力を維持発展させるものであるというような印象を与えるというところから、はっきりとこのような文句にした次第でございます。
第四条は、協議条項でございます。本
条約の実施に関する協議と、
日本の安全または極東における
国際の平和及び安全に対する脅威が生じたときは、いずれか一方の締約国の要請に従って協議が行なわれる次第でございます。この
条約の実施につきましての協議は、随時行なわれるわけでございます。これはそれぞれの事項に応じて、適当なレベルで、適当な経路を通じて行なわれる。しかも
条約の実施について、一切の事項について協議をしなければならないというものではなく、必要があればその必要に応じて協議が随時行なわれる次第でございます。それで、
日本の安全または極東の平和及び安全に対する脅威が生じたときは、いずれか一方の要請において協議が行なわれます。
日本の安全が脅威されると申しますのは、申すまでもなく、
日本に対して直接の
武力の攻撃が行なわれる場合のみならず、いわゆる間接の侵略によって脅威を受けた場合、たび重なる領空侵犯が行なわれた場合、または空中における
武力攻撃の発生によって、間接に
日本の安全が脅やかされるというようないろいろな場合が
考えられます。極東における平和及び安全に対する脅威と申しますのも、申すまでもなく、そこに敵対行為が行なわれたりするその危険がある場合でございます。この協議条項に関連いたしまして、別に往復書簡によりまして、
日米安全保障協議
委員会の設置に関する書簡を往復した次第でございます。この書簡は、ただいま申し上げましたように、協議はそれぞれ適当な経路を通じて常時行なわれるわけでございます。
両国の
関係首脳者が随時一堂に会しまして、重要な問題について
意見を交換することは、
両国の
意思の疎通をはかる上においてもきわめて有益なことであるという
理由から、ここに協議
委員会を設けた次第でございます。この
委員会は、おもに安全保障に関する事項を取り扱うものでございますが、
日本側からは
外務大臣と防衛庁長官、米国側からは、駐
日米国大使と、顧問といたして太平洋軍司令官またはその代理者たる在
日米軍司令官が
出席する次第でございます。
次は、第五条の
武力攻撃でございますが、「
日本国の施政の下にある領域」と申しますのは、
法律上の観念でございまして、そのとき現在
日本の施政のもとにある領域でございます。従って北方領土及び南方諸島は現在はこれに入らない、ただし、これらの領土が
日本に返還される場合、当然
日本の施政のもとにある領域となり、第五条の適用があるわけでございます。「いずれか一方に対する
武力攻撃」と申しますのは、一国が他国に対する組織的、計画的な
武力の行使でございまして、憲章上明らかに違法とせられるところのものでございます。このような
武力攻撃のありました場合に、
日米両国が共通の危険に対処するように行動する次第でございます。
武力攻撃に対処する行動でございますから、
武力が主体となることは言うまでもないことと
考えます。この場合、自国の
憲法上の規定及び手続に従って対処されます。米国におきましては、
憲法上の規定及び手続と申しますのは、そのおもなるものは、米国
憲法第一条に、宣戦を行なう権限は連邦議会にありまするので、宣戦を行なうというような場合は、連邦議っ会がそれを行なうことになる次第でございます。しかし、
大統領は平時においても国の
最高指揮官でございます。これは米国
憲法第二条の規定でございますが、従いまして、この資格において、攻撃に対して兵を動かしてこれを排除することもできる次第でございます。わが国におきましては、申し上げるまでもなく
憲法第九条の規定を考慮に入れて規定した次第でございます。
で、
本件に関しましては、個別的または集団的自衛権の問題がございます。これにつきましては、
法律的な問題といたしまして、
武力の行使は憲章上禁止されている次第でございます。しかしながら
武力攻撃があった場合に、これに対処して
武力を行使するということは、やはり
武力の行使であり、それが憲章上禁止されているかどうかという問題になりまして、それが憲章上は禁止されていない、禁止されていないとすれば、どのような条文から禁止されていないか、その
武力の行使が適法であるかという問題として、自衛権——個別的または集団的自衛権というものが発生する次第でございます。憲章第五十一条の個別的または集団的自衛権に基づいてこの行動が適法化される、いわゆる違法性が阻却される次第でございます。
日本に対して
武力攻撃が行なわれました場合に、米国が対処する行動、これは集団的自衛権において合法化される次第でございます。それから在
日米軍に対する
武力攻撃が行なわれました場合は、それは当然
日本の主権に対する
武力攻撃でございますので、これに対処する
日本側の行動は、個別的自衛権によって合法化される、あえて集団的自衛権を援用してこれを合法化する必要はない、こういう次第でございます。第五条の後段は、国連憲章第五十一条の規定にのっとった次第ございまして、前記の
武力攻撃及びその結果としてとった措置は、
安保理事会に報告いたします。またその措置は、
安保理事会が
国際の平和及び安全を回復し及び維持するために必要な措置をとったときは、停止しなければならないのであります。
第六条は、
日本の安全に寄与すること、並びに極東における
国際の平和及び安全の維持に寄与するためという二つの目的に従いまして、米国に対しまして、
日本における
施設及び
区域の使用をこの目的に従って許可した次第でございます。
第六条の第二項は、このような
施設及び
区域の使用及び
合衆国軍隊の
地位につきましては、現在までは行政
協定がございますが、現在これにかわる別個の
協定、すなわち現在御
承認の対象となっております
地位協定及び合意される他の取りきめ、この合意される他の取りきめと申しますのは事前協議に関する交換公文でございますが、これらの取りきめによって規律さる。もちろんこの二つだけではございません。今後いろいろもし約定が行なわれるとすれば、それも当然含まれる次第でございます。
第七条は、国連憲章が引き続き優先するという規定でございます。
第八条は、批准が東京で行なわれること。
第九条は、従来の
安保条約は、新
安保条約の発効とともに効力を失う。これは当然の規定でございます。
第十条は期限、期限は十年で、十年たった後は一年の予告をもって廃棄できる。しかし、十年経過前といえども、
国際の平和及び安全の維持のための十分な定めをする国連の措置が効力を生じたと
両国が
考えたときには、効力を喪失する次第でございます。
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次は、
条約第六条の実施に関する交換公文でございますが、これは三つの重要な事項が事前協議の対象となっておる次第でございます。
その第一は、米軍の
日本国内の配置における重要な変更でございます。これはたとえば陸軍でございますれば、一個師団程度の兵力を新たに
日本に配置することでございます。次は同軍隊の装備における重要な変更、これは核
兵器、詳しく申しますれば、核弾頭、核専用の運搬手段、ミサイル基地の建設、この三点を
意味しております。それから戦闘作戦行動につきましては、その代表的なものといたしましては、戦闘任務を与えられました航空部隊、空艇部隊、上陸作戦部隊の発進基地として使用される場合を、これを事前協議の議題といたしておる次第でございます。
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次は、吉田・アチソン交換公文でございますが、この吉田・アチソン交換公文は、
現行安保条約の付属交換公文として取りかわされたものでございます。そうして朝鮮動乱に対する
国際連合の行動に対しまして、
日本が
協力すべきことを定めておる次第でございます。この交換公文は
安保条約の付属文書でございます
関係上、形式的には
安保条約と運命を共にすべきものでございます。すなわち、現在の
安保条約が効力を喪失すれば、当然吉田・アチソン交換公文も効力を喪失する次第でございますが、朝鮮動乱に対する国連の行動はまだ継続中でございますので、これを失効させるわけにはいかない次第でございます。そこで、第一項におきまして、この吉田・アチソン交換公文は、
日本国における国連の軍隊の
地位に関する
協定が効力を有する間、引き続き効力を有するということにした次第でございます。
第二点は、この国連軍は、現在の
安保条約及びそれのもとにおける行政
協定に従いまして、米国に供与された
施設及び
区域を使っていいということになっておりますが、この
安保条約と行政
協定は、新
安保条約と
地位協定に変わるわけでございますから、その手当をいたしている次第でございます。
それから第三点は、
日本における米軍は、国連の指揮のもとにありましても、その実体は米軍でございますので、当然
日米相互協力及び
安全保障条約によって行なわれる取りきめによって規律されるということでございますが、この点を念のためにここではっきりさせた次第でございます。で、
相互協力及び
安保条約に従って行なわれる取りきめといわれるものは、事前協議に関する交換公文も含まれることは申すまでもないことでございます。
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第四は、相互防衛援助
協定に関する了解に関する交換公文でございます。この相互防衛援助
協定におきましては、現在の
安保条約及び行政
協定を引用した部分がございます。従いまして、この引用した部分で新
安保条約及び
地位協定に該当する部分があれば、それを引用したものとして言及しているものとみなされるという了解を
政府は取りつけたわけでございます。これも当然の取りきめでございまして、いわば国内法における
法律の読みかえ規定と想定される次第でございます。
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それから第五は、南方諸島に関する合意
議事録でございますが、万一南方諸島が攻撃を受けたような場合、
日本政府といたしましては、島民の福祉のために米軍と
協力して最善を尽くすという決意を明らかにしておる次第でございます。これに対しまして米国は、
日本と直ちに協議すること、及び施政権者たる責任におきまして、米国が防衛及び島民の福祉のために最善を尽くすという決意を述べた次第でございます。
以上、補足説明を終わります。