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参考人(藤本武君) 私、藤本武でございます。本職は労働科学研究所というところにおりますのですが、明治大学の方の講師もしておりまして、
賃金問題について勉強をしておりますので、
公務員の
給与につきまして若干感じておるところを申し上げたいと思います。
公務員の
給与が低いということがよく言われるのでございますが、いろいろな
意味合いで検討する必要があると思います。
第一に、私がまずいと思っておりますのは、
人事院の
勧告が出ましていつでも約一年おくれて、つまりデータが発表されてから一年おくれて実施されるということ、それはっまり
人事院勧告を実施しないということにひとしいのじゃないかというふうに私感ずるわけでございます。最近の統計を見ましても、去年の三、四月ごろから数パーセント
賃金がもう上昇しておりますし、物価も現在ではおそらく二%くらい
政府の統計でも上昇しておるのではないかと思いますが、そういうように元になりました
勧告が現実からずれてしまって実施になる、こういうことが続いていきますと、いつでも
公務員の
給与が実質的に
人事院勧告より低い、こういうことになるのじゃないかと思います。その点が第一点でまずいと思います。
それから第二点は、
人事院の
勧告も若干低めにしたいというような意向が、中ににじみ出ておるような感じがいたすのでありますが、去年の
勧告を見ましても五%に満たないからということで、事実三%くらい
民間給与より低いというような実情が出ておるのでございますが、全体としての改訂はしない。まあ中だるみといいますか、中堅
職員についてのみ
勧告が出た。そういうようにいたしますと、たとえば年間に物価だとか、
民間の
給与が数パーセント上るので、またその分で三%ほどプラスされてしまう。その分だけ
一般より低いというようなことが起こってくる、こういう点も非常にまずいと思っております。
それから労働
組合の方からいろいろ反駁が出たり、あるいは
人事院の方で回答が出たりしておりますのですが、そういう
内容をいろいろ考えてみますと、どうもデータというものの取扱いが使用者側、つまり国家側と
組合の側でいろいろめんどうな論争点になっているということがわかるのでありますが、これは外国でもございまして、フランスあたりでもデータというものにつきましては、どういう過程で作成したかということでもめるのでございます。で両者が
一緒になって
調査をするということも
一つの手でございますけれ
ども、実際に末端まで両方の代表者が行って
調査をするということは、事実上不可能なんであります。そういうことから考えますと、やはりデータできれいに割り切ったものを出すということは非常に困難じゃないか。むしろ、
人事院というようなものはもうやめちゃって、団体交渉権というものを完全に認めるというような形の方が、かえってさばさばするのじゃないかというように私は個人的には考えております。
それから先ほ
どもある方から
民間給与に比べて低いという御説明があったわけでございますが、これは
民間給与というものを一体どういうところに置くかということでもって考え方も違ってくるわけでございます。で、おそらく
人事院勧告の基礎になっておりますのは、五十人以上というような
企業を主としておとりになっているのでございますが、日本は非常にまずいことには
一般的な
賃金というものは実はないといってもいい。つまり外国でありますと、労働
組合が非常に発達しておりますし、しかも、
一つの産業ごとに統一的な団体交渉を行ないまして、大体
一つの産業でございますと、
企業の
規模間の
較差というものが非常に少ない。スエーデンのごときは、大
企業と零細
企業の間でわずか一〇%ぐらいな
賃金の
較差しかございませんので、賃率はつまり基本給でいいますとほとんど同じ、こういうような国さえもあるのでありますが、ところが、日本の場合は
企業ごとにみな違っている。産業ごとにも違っている。それでありますから、
一般的な
賃金というものに合わせるのだといいましても、実は合わせようがないというのが実情なんです。漫然と
平均賃金をとるということも
一つの手のように考えられますが、事実そういう
賃金構造を持っております場合は、単純な
平均をとることは、あまり実際は
意味がないのであります。それではどういうところに合わせるかということになりますと、これはいろいろ議論の分かれるところだと思いますけれ
ども、私は国家
企業といえば、
企業ではございませんですが非常に大きな組織である、といいますとやはり大
企業というものに主として、これは主としてと申し上げたいのですが、それに合わせてやはり
賃金というものを考えていくということにならざるを得ないのじゃなかろうかと思います。特に私が強調したいのは、実は労働市場の
関係でございますが、これは皆さんも御存じのことと思いますが、たとえば大学を出た人を考えてみますと、どこへ行くかという場合には、
国家公務員になるかあるいは大
企業へ行くかというそういう選び方をするわけであります。零細
企業まで行こうというつもりで大学を出た人は一人もおらぬ。それでありますから、行こうとする人が選びます場合には、大
企業か
国家公務員という形で選ぶ。そうしますとそごのところで、先ほ
どもどなたかお話がございましたが、実際
賃金統計を見てみますと、
初任給に数千円の違いがございます。そうしますと、結局
国家公務員にならずに大
企業の方へ行ってしまう。実は私、学術会議の方から頼まれまして、私が所属しております社会政策学会で科学者
生活実態調査委員会というものを組織いたしまして科学者の
実態を
調査したわけでございますが、それは学術会議から科学者
生活白書というような名前で数十ページの
パンフレットが発表されておりますので、御審議の過程でもそれを御利用していただきたいと存じますが、その中で国立大学のいろいろな先生がおっしゃっておる問題の最大のものは、もう今助手が
学校に残ってくれないということでございます。つまりかすしか助手として残ってくれない。そうでなければ、特別に家の事情がよくって、低い助手の
給料でもいいからがまんする、こういう特殊な人しか残らない。非常に困ったという訴えが自由欄にたくさん記入してございます。そういうことを見ますと、
国家公務員に来る人は優秀な人が来ないということになりまして、今後の国家の立場から見ますと、非常に重要問題じゃなかろうかと思います。そういう点でぜひこの問題を慎重に御審議いただきたいと思うのでございます。
それから第三点に、
生活水準の方から見てみますと、私、
生活費の問題でいろいろ
調査しました結果の一部でございますが、この最低
生活費どれくらいありますれば、大体健康で文化的といいますか、それの最低限度の
生活ができるかというようなものといたしまして、
東京では、ちょっとめんどうになりますけれ
ども、成人男子一人当たりといいますか、厳密にいいますと消費単位当たりと言うのでございますが、現在では八千五百円ぐらい必要だということになっておりますが、この
水準を
東京の官公の
職員の方で満たしておるのが大体六〇%くらいでございまして、四〇%ぐらいの方は満たしておりません。それから労務者に所属する方を取り上げてみますと、満たしておる方は四〇%ぐらいで、六〇%ぐらいは満たしておりません。しかしこれは
東京といいますと、
比較的
給料の高い地域でございます。で、これからあとは推定でございますが、おそらく全国で見ますと、官公
職員の方の五〇%はおそらく最低
生活費を満たしていないのじゃないかと思っております。それから労務者の方になりますと、七〇%はおそらくそれを下回っておるのじゃないか、まあこういうような実情でございます。むろん、この日本の労働者の中でも
相当最低
生活費に満たない方は非常に多いのでございます。ですから、日本全体の
賃金の低いということもむろん言い得るのでございますが、官公
職員というような地位の方があまりにも
賃金が低いと、汚職だとかそういう忌まわしい事件を起こしやすい、必ず起こすという
意味じゃございませんですが、起こしやすいということも一方で考えるべき事項じゃなかろうかと思います。
それから次は第二の問題で、
賃金水準全体の問題じゃございませんですが、
一般論として申し上げますと、地域差が大き過ぎるというように私は思っております。総理府の地域差
物価指数を見ましても、大体地方都市は
東京に比べまして九二、三%ということになっておりますが、それからいなかの方へ行きますと、あるいは米ぐらいは安いかもしれませんが、
被服費だとかそういったものは高くなるので、私は最低限度地域差は一〇%
程度じゃなかろうかと思うのであります。そういう点から見ますと、現在は二〇%プラスという形になっておると記憶しておりますが、そういたしますと、一六%余りの地域差になっております。非常に地域差が大きい。外国ではこんな大きな地域差は認めていない。しかもフランスのごときは年々この地域差を縮小しておりまして、終戦直後は二五%ぐらいな地域差だったのですが、現在は八%に縮めておる。遠からずこれをゼロにしよう、こういうふうな方向が出ておりますが、そういう点から見ますと、日本の地域差はどうも大き過ぎるのじゃなかろうかというように思っております。事実大
企業を見ますと、最大のところでも一〇%に満たない
程度でありまして、
企業によりますと、地域差の全然ないところもございます、これは日本の場合ですね。そういう点から、
一つ地域差の問題を
相当御考慮いただく必要があるのじゃないか
それからもう
一つ、地方自治体の
給与が非常に低過ぎるということに気がついております。特に村なんかに行きますと、どうもとてつもない低い
給与にぶち当たることがありますが、その点から見ますと、
国家公務員の方がまだいいと、そういう問題と、これはいろいろむずかしい地方財政の問題なんかも関連いたすと思いますけれ
ども、この問題をやはり
相当御考慮いただかないと、村の中に残っておる
地方公務員なんかがかすっぽの人しか残らぬ、こういうようなことになってまずいのじゃなかろうかと思います。
それからもう
一つは、
一般に
職務門の
賃金較差が諸外国に比べて大きいように感じております。これはILOの資料で前に発表になりましたのですが、まあ一番下の給仕さん
程度のところから、気象台長でございましたか、ちょっとはっきり記憶しておりませんが、その辺の間の
較差は、先進諸国、ヨーロッパとかアメリカあたりになりますと、四、五倍というような
較差のところが多いのでございますが、まあ日本はたしか八倍くらいあったと思います。で、そういうような地域差がまあ諸外国に比べますと非常に大きいので、やはりこの問題も
公務員の
給与をお考えになる点では、やはり外国の
事例なんかも御参照いただきまして御検討いただくといいんじゃなかろうか、こういうように感じます。
以上私の感じておりますことを申し上げました。(拍手)