○
国務大臣(
佐藤榮作君)
政府の決意のほど、いろいろ聞かれるようでございますが、そこで一昨年来の経過をやっぱり、少し長くなりますが、もう一度振り返ってみたいと思います。
今御
指摘になりますように、
影響度が非常に大きいと。たとえば、その
一つの例をとってみましても、
原綿、
原毛等の
自由化をやる、こういった場合に、
繊維関係も、
原綿、
原毛を使っておるだけならよろしゅうございますが、直ちに化繊は一体どうなるのか、パルプはどうなるのか、硫黄はどうなるのか。パルプの
自由化をはからなければ、化繊
関係は困る。しかし、今の
日本のパルプ産美は
自由化可能なりや、こういう問題になってくる。そんなもの
自由化されたら、
日本のパルプ
産業はみなつぶれてしまう、こういうことで、これはすぐ足踏みをするというか、ブレーキの方の問題があるわけです。あるいはまた、その糸を作っておる方の紡績、十大紡初め新々紡
程度のものなら、
自由化に対処するだけの資力があるか知らないが、今度は製品を扱う方は一体どうなるか。幸いにして糸安の製品高で推移してくれれば、いわゆる中小企業は主として織物の方をやっておりますから、その方には比較的楽だと言えますが、とにかく中小企業が、
繊維関係の方はそうはいかないだろう。ことに新しい技術を導入する、中小企業がこれから技術を導入して拡大していくという場合に、技術導入は中小企業の手にはなかなかおえない。大企業でやる。そうすると、せっかく
国内の中小企業をこれから拡大していこうというのに、技術導入の結果非常な
影響を受けて中小企業はつぶれてしまうんじゃないか、こういうような議論もある。その
自由化の
影響度の大きいことは、非常に広範であり複雑なんです。
そこで、この
自由化を進めることについては、一部非常に憶病な面もある。なるべくそういうことはやらないでくれ、言いかえますならば、今の制度は非常に温室育ちというか、これだけめんどう見てくれる、そうして
経済の
事情によって
為替の方で
制限してくれれば非常に楽だ、こういうような話になってなかなか、
自由化の抽象的議論には賛成されても現実はなかなか踏み切らない、いわゆる卵が先か鶏が先かという問題で、しょっちゅう議論している。これが昨年中における大きな争いであったと思います。これはもう
木村さんはその方の
専門家だから、そういう
事情のあったことはよく把握されておるに違いないと思います。
で、また
自由化を進める方の一番強い点は、必ず言っていることは、原材料も、安いものがあればとにかく原材料を持ってくればいいじゃないか。そうしてその原材料の安いものをどんどん入れる、進んだ技術があればそれを取り入れて、そうして拡大
方向へ役立たせればいいじゃないか。
自由化をやらないばかりに、原材料も安く入れたものが
国内ではみんなプレミアムつけてやられておるじゃないか、
大豆しかり、あるいは
原毛だってそうだ、そういうプレミアムというものは一体どうなるのか、だれが利益を取るか、こんなのも
自由化しないからなんだ、こういう話です。あるいはまた、
自由化をしないと、こちらから出ている品物が必ず、報復
関税とまではいかぬでも、対抗
関税を課せられる、これでは
産業の拡大に役立たないじゃないか、こういう
意味で非常に強い主張が出てくる。
そこで、
政府は、一体、卵が先なのか鶏が先なのか、そんな議論をいつまでしておってもしようがないじゃないか、とにかく
政府が踏み切って
方向を示すことが先なんだ。そこで、
準備がなるほど不十分だ。不十分だが、とにかく大よそこの
程度の
期間、半年なり一年なり、一年数ヵ月先の
目標を立てれば、
財界も必ずそれに協力できるんじゃないか。それは、もしも
日本が
自由化に踏み切らなかった場合に、一体どういう処置を受けるだろうか、そのことを考えると非常な危険がある。今のような
国際経済で推移していくなら、これは
国内産業としては非常に楽なんだから、このままの方が楽だが、もしも
自由化に踏み切らない場合に、その大勢に押し流されたときに一体どうなるのか。
日本経済の孤立化ということが考えられる、そういうものを考えざるを得なくなる。それではいかぬ。孤立化はもう絶対に避けなければならない。そこで、われわれも意を決して
自由化の
方向へとにかく踏み切る、それで
一つ財界にも決意していただきたい、こういうのが昨年の暮れの
政府の
態度でございます。
そこで、今言われますように、
自由化に踏み切ったというが、内容がないじゃないか、こういう点を今
木村さんからいろいろ御
指摘を受けておる。その
通りでありますと申し上げるのが、現段階であります。
そこで、
政府は、そういう
意味で、まず
政府の思想統一をする、こういう
意味から、三十五年度の予算を編成する場合に、やはり編成の基本
方針には
自由化の
方向へ行くんだということが
一つの前提になって、予算の編成の柱の
一つにしたつもりでございます。
自民党自身の内部におきましても、そういう
意味では相当の賛成をいただいておる。そこで、おそまきではありますが、ことしの一月十二日に
政府自身は
自由化に対する
態度をはっきりさした。それが、先ほど申し上げますように、対
ドル地域に対する十
品目の
自由化の
方向、さらにまた
コーヒー豆やその他について三百五十一
品目ばかり、これを四月以降に、これはまだ発表しておらないのもございますが、比較的軽微なものをFAからAAにするということですでに発表した。また、一部のものはグローバル化するということ、それからその他の処置についてはいかに処理するか、
国会が済んだ後にさらに相談していこうという一応の段取りをきめておるわけです。
そこで、さしあたっての問題として、
政府は予算の面では一体どうなったのか。ただいま申し上げるような
自由化の基礎的な問題としての予算は、財政投融資と予算とあわせて一応考慮しておる。ことに新年度になります外貨予算等については、
自由化を予想いたしまして、一応、今の替為管理の間ではあるが、予算は相当たっぷりつけておこう、そうして将来
自由化された場合にも、あまり市場に混乱を来たさないようにしようということで、外貨予算の計画も上期予算を一応作ったわけであります。今後の問題としていろいろのことを考えていかなければなりませんが、基本的にはただいま申しますような
考え方。
そこで、ただいま
河野君の話が出て、
河野君の
考え方も
一つのやっぱり卓見じゃないかと言われる。なるほど、
欧州の
コモン・マーケットの姿を見ますと、自由
貿易市場といいましたか、あの方との
関係から見ると、これは
競争の立場にある。しかしながら、
コモン・マーケット内部に
おいてある
程度の国際分業が進みつつあることは、その事態は承認せざるを得ない。それをもっと拡大していきたいというのが、
コモン・マーケットの
考え方のようであります。また、最近アデナウアー総理が参りましての話等を通じて見ましても、もちろんあれだけでじっとしている考えは毛頭ない、
世銀、第二
世銀の構想については積極的な協力の意図を持っておる、こういう
意味で、私
どもの
考え方とも実はこの点は一緒のように思う。
もう
一つは、
世銀やあるいは
IMFが、先ほど、
ブロック化でなしに、その協調の面を非常に強く主張しておるということを申しましたが、これはまあいろいろな言い方があると思いますが、それはお前の
考え方甘いと言われるかわかりませんが、少なくとも第二次大戦は
経済ブロック化が大きな戦争誘発の原因だったということ、こういうことまで
指摘して私は差しつかえないんじゃないか、間違いないんじゃないか。今世界の平和を確保しようという面から見ると、
経済の
ブロック化ということは、これは非常に警戒しなければならないことだ、かように私
どもは考えております。そういう
意味で、まず昨年の
IMF総会等に
おいても、そういう
意味の発言を私自身もいたして参ったつもりでございますが、これはあすこに集まっている連中の
考え方も、そういう
ブロック化、あるいは強い者勝ちというこの
考え方には、お互いに自粛自制しようという気持のあることは見のがせない事実だ。そこで、第二
世銀のような
考え方が出てくると思う。
政治的な
関係から、あるいは
わが国産業自身のことを考えて参りました場合に、非常に極端な、突き進んだ
自由化に耐え得ないことは、今の
状況から見ると、私
どももその事実を認めます。ことに農産物、農業
関係、あるいは中小企業の面では、それは強いものもありますが、いろいろ考えさせられるものがある。そういうようなことを考えてくると、いわゆる
自由化だといって、米だろうが何だろうが、安いものがあれはどこからでも買ってこいという議論には、どうしても賛成しかねる。これは
自由化をいたしました
欧州共同市場内でも、農産物市場についての
自由化は最後まで残ってきたものなんです。あるいは酪農製品等についても、幾ら他の
ガット加盟国等から要望をされても、これは簡単にそういうものを
自由化するということはなかなかない。もしもそれを
自由化するなら、
国内の所得なり、あるいは
産業育成のために、特別な助成
保護政策をとる、とらざるを得ない、こういうことに、みなどこの国でもやってきているのです。
河野君の、一部の見方として
自由化々々々言っているけれ
ども、それは強い者の勝手な言い分なんだ、そんなものについていけば大
へんひどい目にあう。——これは、
対策の面から、もちろん私
ども注意しなければならないことだと思います。がしかし、少なくとも大勢自身は
自由化の
方向へ強く行っていることなんです。これだけは間違いない。もしもこれを無視し、そうして今のままで続けてやっていき得る、こういう自信を持つ人があるなら、これは別でございますが、これは私は絶対にないと思う。それこそ
反対にひどい目にあっちまうというのが、今の
状況だと思います。
今の
貿易の
関係等から見ましても、ただいま
木村さんが
関税政策に触れられましたが、現にもう対米
貿易でも、
日本商品がたくさん行くといえば、
日本商品に対して数量
制限をしたり、あるいは特別な
関税措置をとろうという動きが、
アメリカ自身にもあるのですから、一国の
産業を拡大していくというか、保護すること、これはもちろんだが、同時に、
国際経済協力といいますか、そういう面からはやはり
自由化の
方向へ行くということにならざるを得ない。私は、
河野君の
考え方を別に批判するつもりはございません。ただ注意を喚起される
意味に
おいての話としては、これはもちろんそういう点は
対策の面から考えべきことだと思います。
河野君自身は、むしろ過去に
おいては非常な自由主義者で、かつて
農林大臣時分には、米だって
外国から買ったらいいじゃないかとまで言って、これはどういう環境のもとで言われたかわかりませんが、新潟でそういう話をされたというので、当時私
どももいろいろ党内で論議したことまであるけれ
ども、
実情等から見ると、今はそういうものじゃない、こういうように私は思います。
だから、その
準備ができるというか、
国内産業を強化する、こういう
意味で過去努力してき、今日それが強化される。ただいま申したような弱い面については、どうしても保護していかなければならない。今
大豆についての問題が残っておりますのも、
大豆については、これはもう
アメリカの
大豆と、
日本の
大豆と比べれば、品質も問題にならない。用途にもよりますが、これは非常に品質も違っている。製油——油をとるのには、これはもう絶対に
アメリカの
大豆でなければ、
日本の
大豆じゃだめだ。値段も、これは非常に
日本の
大豆は高い。しかし、今まで
為替管理をやっている姿から見れば、
大豆はどうなるか、いろんな批評が出ておりますが、私
どもがよく聞くところでは、小さな製油業者、——油をとっておる業者などは、正直に
大豆を輸入して油をとるよりも、その
大豆をプレミアムつきで売った方がよほど楽だと言っておる。大体トン当たり一万円オーバーするか前後くらいのプレミアムがついているのじゃないか。そういうことを考えてみますと、
自由化の弊というのはそこらにある。しかし、こんなものを簡単に
自由化したら、一体
日本の国産
大豆、農家収入がどうなるのか。この農家に対して特別に
大豆の価格を支持価格として維持してやって、農家の収入の確保をはからなければならない。ことに、
大豆については非常に苦しい思いをしたことがございます。かつて、この前の神武景気の際ですが、
大豆の
自由化をはかるということで、そうして
関税を一〇%課す、そうして
大豆の
品種改良その他を
指導する、こういうことで、あれは一割
関税を課した。ところが、その後国際収支か非常に悪くなったということで
自由化を取りやめたということで、大蔵省としては、
関税を一〇%とっているという
状況にはなっておりますが、この
自由化は取りやめた。一ぺん決定したことであります。
ただいま、
自民党内は
自由化については非常におくれているのじゃないか、こういう
お話でございますが、私は必ずしもさようには考えておりません。
自民党自身も
自由化については積極的にいろいろ相談を進めておりますし、基本的に
自由化するという、もしも
自由化しないときにはとんでもないことになるということで、いろいろ考えておられるようであります。ただ、
主食だとか、あるいは最近ようやく採算点に上がったとみられる酪農製品については、これを
自由化することは非常に危険だ、これについての
対策は十分考えろというのが強い、要望だと思う。そういう点も今後ほぐしていくことになるだろう。従って、十ヵ年計画による
自由化というような
お話、あるいは千数百億に上る保護資金を出せというような話は、まだ具体的になっておるとは思いません。
政府にいたしましても、ただいまから十ヵ年計画を立てるということは、私は
自由化の
方向としては望ましいことじゃないのじゃないか、実はかように考えております。今やるような方法、いわゆる対
ドル地域に対する十
品目なり、また一月十二日に予定いたしました
自由化の
品目の追加なり、あるいはグローバル化の
品目の追加、こういうようなことがまず行なわれるべきじゃないか。比較的そういうことは五月末の
政府の
会議に
おいては取り上げて
実施に移していける、かように実は思っております。今一番問題になりますのは、何と申しましても、銑鉄の方も原料炭等の
関係があり、これも考究しなければならない問題があると思いますが、銑鉄より以上に
大豆の扱い方が一番の問題だ。
大豆は、御
承知のように、ことしの
大豆といえば十月まで大体収穫が終わり、市場に出回るということで、ことしの
大豆についてはあまり
影響のない時期というので、一応十月を予定したわけでありますが、もしもこれをやるとすれば、どうしても特別な
関税措置をとるか、あるいは
関税措置をとった上で、しかも
国内の農村の収入確保の道を講じなければならない。そういうことになると、場合によれば予算措置を必要とする。場合によればではない、必ず予算措置を必要とするということになりますが、そうすると、やはり
国会の
審議をいただかなければならぬ。この
国会中にそれではそういうものを出す考えがあるかというと、ただいま——
農林大臣もきょうソ連に出かけるばかりであります。
農林大臣の不在中にこの重要な問題が
結論が出るとは考えられない。そういうことを考えて参りますと、
大豆についての
自由化は非常に困難な
状況になるということを私
ども考えるわけでございます。
ただいま言われますような諸点について考えていきます場合に、とにかく
方向を踏み出さないことには、今の温室
経済というか、非常に働きいい
状態から出ていくことはまず困難だ。しかし、出ていかなければ一体どうなるのか。いよいよふやけてしまうのじゃないか。おふろからいつまでも出てこないで、ふやけてしまう。それじゃ困るから、出ていくという
方針だけはきめる。出ていっても、かぜをひかないようにしようというのが今の
考え方であります。そこで、
貿易そのものについてのAAに取り上げる
品目の追加な
ども、そういう
意味で拡大して参りますし、上期の外貨予算でもそういうものを一応想定して外貨予算を作っております。なお、FAのもの等についても、今後
自由化の
方向に行くのに差しつかえないように、一応相当たっぷり実は予算は見たつもりであります。ただ、予算はたっぷりつけてありましても、
国内の
実情等からその予算を使わないということになると、今の
自由化方向に支障を来たすじゃないか、実はかように考えるわけであります。
ところで、
貿易の問題は別として、そのうらはらをなす
為替の面でございますが、
為替の
自由化についても、
方針は一応すでにきめて、一部
実施したものがある。しかし、
実施はしたものの、項目としてはいかにももっともらしく聞こえますが、
程度は非常に低いものであります。たとえば、
為替集中制の
緩和ということを申しましても、ただ単に一旬の
期間を延ばした、わずか十日延ばしただけであり、あるいは交互計算についても、これを利用できる
範囲を拡大するという
方針はきめましたが、これは支店があることが前提で、これまたよく
実情を見てやっておりますから、支店その他がそう簡単に進出ができるという
状況でもございません。まだまだ
程度の非常に低いもので項目は取り上げた。また、
経営取引の一面にいたしましても、非居住者円勘定の設定という問題がございますが、これは取り上げるということは申し上げておりますが、まだまだ具体的にはその内容は決定されておらないという
状況であります。これが一部決定をいたしますれば、さらに
自由化の
方向に強く踏み出したということになるだろうと思います。あるいはまた、
国内の株式取得、あるいは社債の取得等について、またその取得したものの
送金、あるいは配当
送金等についての
緩和方法をまず採用することにいたしましたが、これは、ただ
政府が関与しないというだけで、日銀自身がそういうものを取り扱っておる。たとえば在来の株式の取得については五%までということを言っていたのを、今度一〇%、在来五%と八%という二つがありましたが、今度それを一〇%と一五%ということにするとか、あるいは社債の方は一口一万
ドルというようなことで、一応項目としては取り上げておりますが、金額の自由な
範囲は非常にまだ
制限されておる、こういう
実情でございます。そういう
方向で順次拡大していく。ケース・バイ・ケースでやっていくということであります。
それで、もう
一つ今の
お話の中にありましたので私
どもが今後取り上げていかなければならない重要点は、
関税政策の面でありますが、
関税の問題も、この前予算
委員会等でお尋ねを受け、お答えをいたしましたように、今度は
関税品目も全面的に改正していく、ブラッセル方式を採用しようということで今検討を始めましたし、また
関税率そのものについても全面的に
一つ検討を加えていく。そのためには、
関税率
審議会を
中心にして、そして常任
委員会制度で十分検討していきたい、かように実は考えておる次第でございます。
お話のように、非常にむずかしい問題であることは私
どももよく
承知いたしております。軽率なことはするつもりは毛頭ございません。