○米田勲君 私は、本
委員会で
審議をいたして参りました
国会の
審議権の
確保のための
秩序保持に関する
法律案に対し、日本社会党を代表して強く反対をいたします。
本法案は、一見、何人も首肯させるような名称こそ用いておりますけれ
ども、その正体は、
本法条文でも明らかなように、
憲法に保障せられている国民の基本的な権利、すなわち表現の自由並びに請願権に対して、新たなる
警察権力をもって強い
規制を加えようとする、きわめて反動的な性格を持つ
法案なのであります。しかるに、
提案者は、
本法案は単に
議長要請権をうたったものであって、決して国民の権利に対して新たなる制約を加えたり、
警察官に対し現行法のワクを越えて新たな
権限を与えようとするものでもありませんと、極力、
本法案の正体を隠蔽するがごとき
答弁を繰り返していたのにかかわらず、連合審査第三品目に至り、突然この前言を翻し始め、再び本
委員会の
審議に返されてから、重要な
答弁の食い違いを鋭く追及され、ついに三月四日に至り、これまでの
答弁を訂正し、陳謝するに及び、
法案の反動的な正体が浮き彫りにされるに至ったのであります。
本法案には、
審議の過程でも強く指摘いたしましたように、条文形式の上でも幾つかの欠陥や不備があるにもかかわらず、
提案者たちは何ら自主的に
修正しようとする真摯な態度も見られず、ただただ党利党略にとらわれて、正しい主張を黙殺して強行通過させようとしているが、こんなことでは
参議院の知性を疑われるのではないかと危惧するものであります。しかし、ここでは、先刻、椿
委員からの
発言もありましたので、条文形式上の不備を再び指摘することは割愛いたします。
さて、
本法案の致命的な欠陥の
一つは、
立法原則を無視していることであります。それは、国権の最高機関である
立法府において新たに作られようとするこの
法律案が、下級機関の定めた
東京都公安条例を基礎とし、その法的効力の大部分を条例に依存しているということであります。だから、かりに
東京都公安条例が改廃されると、
本法の法的効力はそれにつれてほとんど効力を失ったり、あるいは拡大もしくは縮小せざるを得ない変形的な、不安定な性格を持っているのであります。このような構造と形式の
法律は全く前例がないことでもわかるように、
立法原則にもとるものであると言わなければならない。そればかりでなく、その基礎となり、法的効力をもっぱら依存している
都公安条例が、最近相次いで違憲判決を受けているということは重大な問題であります。
提案者は、われわれの追及に対して、新潟県
公安条例が最高裁で合憲判決を受けたことをもって、
都公安条例もまた最終的には最高裁で合憲判決を受けるであろうとの予想に立っているようではありますが、新潟県
公安条例の合憲性承認のため、最高裁は、その判決文の中で、二つの原則を定立しております。すなわち、
憲法に保障する表現の自由を
公安条例が原則的に認めているか、それとも一般的
許可制によって抑制しているかどうか、また、
規制基準が一般的抽象的か、それとも明白かつ現在の危険の原則に立って
規制を限定しているかいなかによって、合憲かどうかが分かれることを明らかにしておりますが、都条例は、その判決の中に示された原則に反しているとして、地裁の違憲判決が相次いで出されているのであります。かかる問題の部
公安条例を、まだ最高裁の違憲判決が出ていないのであるから有効であると称して、四月中旬に予想される最高裁の最終判決を待つことなく、これを基礎とし、これに依存して
本法案を
立法化するばかりでなく、
都公安条例よりもそう違憲の
条件を増大していると思われる条文を持つ
本法案を
立法化しようとすることは、はなはだしく慎重さを欠くばかりでなく、合理性にも乏しく、さらに、合憲性についての重大な疑義を持つものであると、言わなければなりません。
次に、条文の主要な点について、重大な欠陥と反動性を指摘いたしますと、
まず、第一条、第二条を通じて
国会議事堂周辺の静穏を保つということが、
国会議員の
登院と
国会の
審議権の公正な
行使を
確保するということとともに並列して、
本法の
目的それ自体になっていることは、第三条以下の条文と相対照するとき、重大な
憲法上の疑義があります。
国会周辺の静穏を保つという
目的を達成するために、第三条に示す
国会周辺の公道地域における
集団示威運動、陳情、請願等の行動が、事実問題としては著しく
規制もしくは禁止することのできる法的根拠を
本法によって与えようとしています。しかし、
憲法に保障されている国民の権利としての表現の自由や請願権などに対して
規制をすることの許されるのは、明白にしてかつ現在の危険の原則が適合する
条件の兵備される場合にのみ限られることは、言うまでもありません。しかるに、
国会周辺の静穏を保つということで、
国会周辺の公道における表現の自由、すなわち、集会、言論、
集団行進、
集団示威運動などや
国会に対する国民の請願権が、明白かつ現在の危険の原則の充足を何ら考慮することなく一般的にこれを
規制もしくは禁止することは、明らかに違憲と言わなければなりません。
また、第四条一項に基づく
両院議長の
都公安委員会に対する
要請、すなわち、
集団示威運動等の
許可の
取り消し、
条件の
変更は、表現の自由に対する
規制、禁止を明らかに意図した
要請であります。しかるに、
要請が発せられる時点においては、まだ
集団示威運動が行なわれる数日以前で、何人といえ
ども国会議員の
登院と
国会の
審議権の公正な
行使に著しい影響を与えるかいなかの
判断を正確になし得るものではありません。かりに
判断をいたしたとしても、それは、あくまでも推測であり、
一つの想定にすぎません。かかる推測や想定は、もちろん明白かつ現在の危険の原刑を充たす要件は全く兵備されておらないのであります。従って、表現の自由を
規制できる
条件はないということであります。それなのに、国民の基本的な権利である
集団示威運動などに対し
規制を加え禁止をする
要請を発することは、
憲法上許されないことであります。かかる
憲法上疑義のある
要請を
議長になさしめようとする
本法案は、不当であり、かつ、不法であると言わなければなりません。
次に、第四条二項は、
両院議長が
警視総監に、
集団示威運動等に対し、
警告、
制止の
要請ができることを
規定しているが、条文の「
国会議員の
登院と
国会の
審議権の公正な
行使が著しく阻害され、」は、川口に阻害の事実が発生しているから、
集団示威運動といえ
ども制止の
要請がなされることは当然であり、
制止の
警察権発動は違法ではないと思います。しかし、その後段に併記されている一又は阻害されるおそれがあると認められる場合の
条件設定は、
規制基準が全く一般的抽象的に拡大されております。かかる拡大された
規制基準で、表現の自由、
集団示威運動等に対し、流血の惨事を惹起することも容易に予想できる状態をも顧みず、
制止の
要請が行なわれ、それが第五条二項と州結んで
制止の
警察権発動を法的に根拠づけるということは、
憲法上の問題からいっても、現行警職法の
建前からいっても、市大な疑義のあることはきわめて明瞭であります。一昨年の改正警職
法案審議をめぐって、国民世論が激しく批判と反対を浴びせたのも、
警察権発動の
条件を緩和することは、国民の権利に対する大きな脅威であったからであります。しかるに、
本法案の第五条二項のごとく、現行警職法のワクを越えて
警告制止の
警察権の発動を許す法的根拠を与えていることは、表現の自由、請願権の
行使に対する市大な圧迫であり、
憲法に違反する
立法と言わねばなりません。かくては、
民主政治の逆行であり、ファシズム、暗黒政治への道に通ずるものであることに思いをいたし、あくまでもわれわれは反対しなければなりません。
また、第六条の陳情、請願が集団的であり、示威的であることを
理由にして、すべて
集団示威運動とみなして
規制、禁止の
対象とされることは、国民の政治に対する関心と要求の道を封殺しようとするものであり、第七条、第八条の条文が、特に
集団示威運動を敵視し、他の法における刑罰とのバランスを破って、これに重い罰を加えようとしていることも、
本法に一貫して流れている特権意識、反動性、非民主性を露骨に見ることができます。特に、働く階層の国民は、現在の政治に対して幾多の不平不満や願望を持っておるのであります。これを端的に表現する有力な手段として
集団示威運動や請願行動に訴えるのは当然のことでありまして、
憲法もまたこれを最大限に保障しているとこるであります。しかるに、政府や保守党の諸君は、かかる
集団示威運動や請願運動は有形無形の圧力を加えるものとして一不法視し、これを排除しようとしていることは、きわめて遺憾であります。すべての国民に愛情の目をもってその幸福を願う政治を目ざすというのであるならば、働く階層の国民の政治に対する願望や要求を端的に表現される
集団示威運動や請願運動にも、むしろ積極的に耳を傾ける態度であるべきで、かかる違憲の悪法をもってこれを封殺しようとすることは、権力支配の政治を強化しようとするものであると断ぜざるを得ないのであります。かかる悪
法案に対し、われわれは良識ある国民とともに強く反対をし、長く抵抗の闘いを続けて、国民の基本的権利を防衛し、真の
民主政治を実現させなければならないと、新たな決意をここに固めるものであります。
以上、主張を明らかにして反対討論を終わります。(拍手)