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山本(勝)
分科員 私は簡単に
お尋ね申しますが、
一つ大臣、よく耳に入れておいてもらいたい。これは、ふだんほかでも話す機会があるようなものですけれ
ども、そうではないので、ぜひともしっかり耳に入れて、記憶してもらいたいことだけを
一つ申し上げるわけであります。ほかの局の方も、よく聞いておいてもらいたいのです。
ポイントは、こういうことです。実は私は、先般第三
分科会で
企画庁の長官にも申し上げたけれ
ども、まだどうもぴんとこないので、あらためて
大蔵大臣に申し上げるわけですが、御案内の
通り、日本では
国民年金制度というものが出発いたしまして、ただいまのところは無拠出でありますけれ
ども、やがて拠出制が実施されるわけであります。これは
大臣、
答弁などは要らぬのですから、
一つよく聞いておいてもらいたい。今問題になっておるのは、郵政省の方で、簡易保険の限度額を、二十五万を三十万にしてもらいたい、三十二年に十五万から二十万になり、三十三年に二十万から二十五万に上がったのですが、また今度三十万に上げられる。審議会は、五十万に上げろというのを遠慮して、三十万に上げろ、こういうことで、われわれの財政部会では反対した。郵政部会は強く主張して、決議をしてきておるような、こういう問題に当面しておるわけです。この
国民年金制度が、よかれあしかれ出発した前提は、
通貨価値というものは変わらないという前提の上に立っておるのだと思う。また零細な簡易保険で長期の資金を集めるということも、
通貨価値は変わらない、金の値打は変わらないという前提の上に、
国民から
政府は集めておるのだと思う。ところが、ここでぜひ聞いておいていただきたいのは、
経済企画庁が出しました来
年度、三十五
年度の経済の
見通しを見ましても、卸売物価、小売物価は一・一%上がる見込みだということは、
通貨価値が一・一%下がる
見通しだということです。その前の三十四
年度は、三十三
年度に比較してみますと、卸売物価においては二%幾ら、小売物価は一・三%上がったという。こういうことでありますが、今どうも
一般の
考え方の中に、
通貨価値安定は必要だということはみんな言います。これは言葉の上でも、また文字の上でも言いますけれ
ども、その
通貨価値の安定に対する気持が非常にルーズであって、急激に上がってはいかぬけれ
ども、まあ一%や一・五%くらいの物価水準の上がることなら、これは各国に比べても決して高い物価の上がりようじゃない。だから、それくらいなら横ばいだという
考え方がある。現に
企画庁の説明を聞いても、今のように年々一%ないし二%、朝鮮事変のときなどは、もっとはるかに上がりましたけれ
ども、それくらいの上がり方の説明には、これは横ばいだという。だから心配は要らない、まだ外国に比べればいい方だという感覚であります。これは
予算編成当時、
大蔵省は、
大臣初め必死になって
通貨の安定のために努力されたことは、私も
承知しております。
承知しておりますが、周囲の情勢がそういう情勢でありますから、よほどの決意と、それから何らかのことで機構を持たなければ、忍び寄るインフレーションというものは防げないという
見通しであります。つまり急激なるインフレは問題になりませんけれ
ども、徐々にずっと、だんだん上がっていくという物価水準の上がり方、
通貨価値の減少、これは世界各国がそうであるために、日本もこれは防げない。もちろん、急激な上がり方でないですから、これを俗にいうインフレと言うべきか、言うべからざるか、これは私は問題だと思います。いわゆるインフレとして問題にする必要はないと思いますけれ
ども、少なくとも一方で、われわれが三十年、四十年という長期にわたって、一度に払うわけではありませんけれ
ども、その前々から零細な金を
政府が集めておって、そうして一方で、同じ
政府が、わずかくらいの上がり方は仕方がないのだし、かえっていいところもあるのだという人もあります。
国民所得がふえていく、
国民総
生産がふえていく。景気がよければそれでいいのだ。その面から言えばプラスの面もありましょうけれ
ども、私は、こまかいことは申しませんが、簡易保険やあるいは
国民年金を
考えなくても、貨幣経済において、貨幣の価値が、
国民の知らぬ間に下がっていくというようなことは、これは脊髄が腐ったようなものだということをたびたび申し上げて、もっと厳粛に
通貨価値の維持に本腰を入れてもらいたい。かつて
予算委員会で、私は
通貨憲章というような、憲法に準ずべきような
通貨憲章でも作って、そうしてその
通貨価値の安定というものに本腰を入れる必要はないかということまで申し上げたことを、今日まで一貫して繰り返しておるわけであります。油断をしておりますと、忍び寄るインフレが進んでいく。それで
所得倍増論も、御
承知の
通り、十年間に倍にするためには、一年に七・二%の
所得増があれば、十年間では二倍になる。一年に一割ずつ増さなくても、前の年に比べて七・二%増していけば、十年で倍になる。ですから、一年で、前年に比べて一・二%とか、一・三%ずつ上がっていくというようなことを平気で見のがしておりますと、五割の
通貨価値の減少を来たすのに、決して五年かかるわけじゃありません。おそらく二十年か二十五年くらいで、計算を置いて見ないとわかりませんけれ
ども、三割、四割という
通貨価値の下落を来たす。そういうことを
国民にはっきりさらけ出せば、おそらく
国民は、そんなに三割も四割も下がってから受け取るようなのなら、入らないと言うだろうと思うのです。ですから、どうしてもその
国民年金を、よかれあしかれ実施する、あるいはこの簡易保険の零細な金を集める制度を続けていく限りは、その点だけから
考えても、私は、
通貨価値の安定というものを真剣に
内閣全体で
考えてほしい。ところが、先ほど申しましたように、どうも
一般に、急激なインフレは困るけれ
ども徐々にわずかずつ上がっていくのは差しつかえないという
考え方があります。ことにケインズが非常に流行しておるために、少しずつ上がっていくのがいいんだという
考えすら、一部には
学者の中にもあるわけです。それで心配をするわけなんですが、今度貿易・為替の自由化というものが当面の問題となってきました。この貿易・為替の自由化が物価水準にどう影響するだろうかということも、そういう
意味で、私は
通貨価値ということを重視する点から
考えてみるのであります。これは貿易がふえ、安いものが入ってもくるから、物価は下がるのだというような
考え方も一方では立ちますけれ
ども、しかし私は、日本の情勢で輸出するものは、品物が出ていって金が入ってくるのだから、輸出がふえれば、どちらかと言えば、物価を上げる要因になる。輸入がふえてくれば、安い品物が入ってくるのですから、普通ほっておけば、物価は下がる要因になるわけなんです。ところが、やはり入ってきた場合に、いろいろな打撃を受けたところでは、救済費が出るのじゃないか。また救済しろという声は、猛然と起こってくるのじゃないか。失業者が出てきた、それ救わなきゃならぬ。
相当大きな事業ですと、大量に失業が出てくる、これも何とかせにやならぬ、あれもせにゃならぬ、これもせにゃならぬ、そこに救済費というものが出て参りますと、せっかく安い品物が入ってきても、その入ってくる輸入の方は物価を下げる要因にならなくて、出る方だけは、むしろ物価が上がる要因になるということになって、物価水準が上がるというようなおそれも起こってきはしないかということを心配するわけであります。ですから、その点も、決して私は、政治的にすべて打撃をほっておけというわけじゃありません。それはどうしてもほっておけない事態もありましょうけれ
ども、安易に救済に出ますと、そういう結果を引き起こすと思うのです。ことにインフレで物価が上がるのは、非常に簡単に上がってくる。
通貨価値が下がるのも簡単に下がりますが、
通貨価値が上がるのは非常にむずかしい。これは
数字で言ってもわかりますが、百円のものが倍に上がるのは——二百円に上がれば、まあ倍になるわけです。一〇〇%上がれば倍になるわけですが、下がる方は、一〇〇%下がったらゼロになるわけです。物価がゼロになるということはあり得ない。ですから、物価が五〇%下がったときには半分になって、そうして一〇〇%上がったときは倍になる。だから、倍と半分というものは両方対応しておるようですけれ
ども、実際は、一〇〇%上がったのと一〇〇%下がったのが対応するのじゃなくて、五〇%下がる場合と一〇〇%上がる場合がコレスポンドしておる。対応しておるわけです。一〇〇%上がることは容易に上がりますが、一〇〇%下がってゼロになるということはないことだし、また、あってはならぬ。だから、下げるということは非常な弊害も持ってきますから、従って、上がらぬように努力しておかぬと、上がったらなかなか下げられない。下げたらまた非常な弊害を持ってきます。ところが、上がる要因の方は非常に多いものですから、非常に努力しておっても徐々に上がっていって、何か朝鮮事変かあるいは戦争でもあれば、一挙に上がる。ずっと忍び寄ってといいますけれ
ども、それは一年に一%ずつ進んでいけば、三十年たてば四割とか、四割五分で済みましょうけれ
ども、その間に何かあるとぱっと上がって、なかなか下がらないし、下げれば経済界に非常な打撃を与えますから、下げられないということを
考えると、上げないということの非常な苦心をしてもらわぬといかぬ。それで下がるのを好む
一つの要因をはらんでいくのは、借金を奨励することです。借金をしておる人が、あるいは滞納をしておる人が、その借金の重みを解決するものはインフレだ。これはもう日本の農村の問題でも、
大臣も御
承知の
通り、シナ事変前に各農村は借金でどうにもならなかった。その借金がどこから出てきたかというと、すべて低利資金で出てきた。代議士諸君が、低利資金を出すことをきめておいては、地方に行って、低利資金は安いのだから借りろ借りろと言って勧めて借りた。ところが、なかなか農家は払えない。それがたまりたまってきて、どうにもならなかったのが、戦争後のインフレで一挙に片づいた、こういうことがあります。ですから、私は選挙区でも、借金をしたいと言えば、なるべくするな、もうよくよくの場合か、あるいははっきり計算が出る場合以外には——同じ苦しむのならば借金しないで苦しめ、借金して苦しむよりも、借金しないで苦しむ方がなんぼ楽かしれない、こういうことを、ことに農家の諸君には勧めておるのですが、政策が、
一般に借金をさすこと、農家にまで借金をさすことがどうも受けがいいと見えて、借金をさすことを言いますが、結局借金をしたが払えない、そして借金だけが残る、それがだんだんたまっていきます。もうどの農村も借金という戦前のような状況になったり、あるいは中小企業にしても、借金の利子の払いに追われてくるようになりますと、これはどうしてもインフレで解決する以外に、もう解決できないような事態が起こってくる。金の値打を安くインフレでやってもらって、ちょっと米一俵も売れば、それで借金が何十万でも払えるインフレでもあればいい、そういうことになりますから、非常にイージーにインフレになる。インフレになる要因というものが、だんだん重なって、作り上げていっておるといってもいいかと思います。ですから、
大臣に私は、インフレ、
通貨価値安定のために
大蔵省の中に
一つ部局でも作って、
通貨価値安定をはかるために専門に
考えて、なぜ
通貨が下がるかという原因を、みんなの知能をしぼって、どういうふうにしたらこれが防げるかということを、うんと力こぶを入れて
考えてほしいわけですが、この点について、
大臣の決意を聞いてみたいと思うのです。