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1960-02-18 第34回国会 衆議院 予算委員会公聴会 第2号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十五年二月十八日(木曜日)     午前十時二十五分開議  出席委員    委員長 小川 半次君    理事 上林山榮吉君 理事 北澤 直吉君    理事 西村 直己君 理事 野田 卯一君    理事 八木 一郎君 理事 井手 以誠君    理事 田中織之進君 理事 今澄  勇君       青木  正君    井出一太郎君       岡本  茂君    加藤 精三君       川崎 秀二君    小坂善太郎君       櫻内 義雄君    田中伊三次君       床次 徳二君    古井 喜實君       保利  茂君    松浦周太郎君       水田三喜男君    山口六郎次君       山崎  巖君  早稻田柳右エ門君       足鹿  覺君    淡谷 悠藏君       岡  良一君    木原津與志君       北山 愛郎君    河野  密君       島上善五郎君    滝井 義高君       楯 兼次郎君    辻原 弘市君       堂森 芳夫君    中村 英男君       永井勝次郎君    横路 節雄君       門司  亮君  出席政府委員         行政管理政務次         官       新井 京太君         自治政務次官  丹羽喬四郎君         防衛政務次官  小幡 治和君         法務政務次官  中村 寅太君         外務政務次官  小林 絹治君         大蔵政務次官  奧村又十郎君         厚生政務次官  内藤  隆君         運輸政務次官  前田  郁君         労働政務次官  赤澤 正道君  出席公述人         全国銀行協会連         合会会長日本勧         業銀行頭取   堀  武芳君         武蔵大学教授  佐藤  進君         経済評論家   大島 堅造君         評  論  家 林  克也君  委員外出席者         専  門  員 岡林 清英君     ————————————— 二月十八日  委員河野密君及び楯兼次郎辞任につき、その  補欠として足鹿覺君及び中村英男君が議長の指  名で委員に選任された。 同日  委員中村英男辞任につき、その補欠として楯  兼次郎君が議長の指名で委員に選任された。     ————————————— 本日の公聴会意見を聞いた案件  昭和三十五年度一般会計予算  昭和三十五年度特別会計予算  昭和三十五年度政府関係機関予算      ————◇—————
  2. 小川半次

    小川委員長 これより会議を開きます。  昭和三十五年度一般会計予算、同特別会計予算、同政府関係機関予算について公聴会を続行いたします。  この際御出席公述人各位にごあいさつを申し上げます。本日は御多忙のところ、貴重なお時間をさいて御出席いただきましてまことにありがとうございます。委員長といたしまして厚く御礼申し上げます。  申すまでもなく、本公聴会を開きますのは、目下本委員会において審議中の昭和三十五年度予算につきまして、広く学識経験者たる各位の御意見をお聞きいたしまして、本予算審査を一そう権威あらしめようとするものであります。各位の忌憚ない御意見を承ることができますれば、本委員会の今後の審査に多大の参考になるものと存ずる次第であります。  議事は堀さん、佐藤さんの順で御一名ずつ順次御意見開陳を願いました後、順次質疑を済ませていくことにいたしたいと存じます。公述人各位の御意見を述べられる時間は、議事の都合上約三十分程度にお願いいたしたいと存じます。  なお念のため申し上げますが、衆議院規則の定めるところによりまして、発言の際は委員長の許可を得ることになっております。また発言内容意見を聞こうとする案件の範囲を越えてはならないことになっております。なお委員公述人質疑することができますが、公述人委員に対して質疑することができませんから、さよう御了承いただきたいと存じます。  それでは、まず全国銀行協会連合会会長日本勧業銀行頭取堀武芳君に意見開陳をお願いいたします。
  3. 堀武芳

    堀公述人 私、全国銀行協会会長を勤めております勧業銀行の堀でございます。本席は、予算案に対しまして私見を申し述べる機会を与えられましたことを、はなはだ光栄に存じます。  まず三十五年度予算前提となる経済動向について申し上げたいと存じます。  大蔵大臣財政演説によりますと、「内外の経済情勢考えますれば、昭和三十五年のわが国経済の前途には明るいものがあると言えるのであります。この順調な経済発展を長期にわたり着実に持続していくことが、わが国経済課題であると存ずるのであります。」と、このように申しておられますが、私ども金融界といたしましても、この点につきましては全く同感でございまして、本年の経済がそのようになることを心から期待いたすものでございます。  昨年下期に入りまして、物価の値上がり、資金需要の旺盛、通貨増加が目立ってきたといったような、経済情勢にかなり警戒を要するような様相を呈してきたのでありましたが、十二月の公定歩合引き上げ以後は、物価が大体横ばいになりました。また通貨も順調に還流を見るようになりました。一応落ちついて参りまして、経済は目下のところまず安定した基調を維持しているようでございます。もっとも一面手放しで楽観できない点も二、三見受けられるのでございます。  その一つといたしましては企業設備投資意欲が引き続き旺盛であるということでございます。この企業設備投資意欲が高まってきたことの背景といたしましては、経済実態面活動が盛んになってきているために、設備稼働率が上昇して参りました。また企業収益の向上が著しくなって参りました。そういった事情があると存じます。現に生産は前年度を約三割近く上昇しております。また貨物の輸送なども同じく一、二割見当上回っておるようであります。また企業収益も前年度に対しまして四、五割もふえているように見られるのでございます。このような経済環境一般の好転に加えまして、さらに最近は各業界におきまして、貿易為替自由化に備えて、国際競争力強化するために、いわゆる合理化投資をなるべく早くやろうといったような傾向もありまして、投資活動はそのような関係で依然旺盛であるようでございます。  第二に、設備投資増加生産活動活発化貿易自由化等に伴いまして、在庫投資もまた次第に積極化してきたようでございます。  さらに第三としまして、資金需要が依然旺盛であるという点でございます。全国銀行貸し出し増加額をとってみますと、昨年の四月から十二月、すなわち本年度の実績を見ますと、十二月までで八千二百二十億円となっておりまして、去年の同期の六千六百四十二億円に対しまして、二三八%上回っておるのでございます。それもこれは各銀行ができるだけ貸し出し抑制に努めまして、この程度におさまっておるのでございまして、資金需要は非常に旺盛なのでございます。  第四としまして、国際収支の面でございますが、輸出入信用状の方では、大体黒字が維持されておりますが、最近は信用状なしの輸入がだんだんとふえてきました。これはかなりあります。また季節的な輸入期を控えておるというような点もありまして、今後の国際収支はそう手放しで楽観することができないのではないかと考えるのでございます。このような状態でございます。  もちろん金融界といたしましては、景気行き過ぎ金融面でできるだけ防止するために、当局の方針にも従って融資の調整にせっかく努力はいたしておるのでありますが、ただいま申しましたように、その背後にある民間投資の今後の成り行きや、あるいは国際収支動向などについて、依然注目すべきものがあると考える次第でございます。従いまして、現在は物価国際収支が表面的に落ちついているからと申しましても、これでもはや景気行き過ぎのおそれが全くなくなったということは言い切れないと考えるのでございます。  この点につきましては、政府の「昭和三十五年度予算の説明」の中にも、「当面の経済動向設備投資意欲等を中心としてなお根強い拡大の基調にあるが、わが国経済はその内部にややもすれば行き過ぎとなる要因を包蔵しており」云々と指摘しておられます。また今後の財政金融政策方向につきましても、「健全財政を堅持して、財政面から景気に刺激を与えることを避け、通貨価値の維持と国際収支の安定をはかり、経済安定的成長を持続することを基本とすべきである。」こういうように言っておられますが、それはまことにその通りであると存じます。  以上のような前提のもとに三十五年度予算並びに財政投融資計画について所感一端を申し述べたいと存じます。  まず第一に、予算案の全体の規模と性格についてでございますが、三十五年度予算及び財政投融資計画を通じまして、公債の発行並びに既往の蓄積資金の取りくずしということが回避できましたということは、健全財政を維持する上からも、また今まで申したような微妙な経済情勢にかんがみましても、私どもとして満腔の賛意を表するものでございます。さらに一般会計予算規模国民所得の一五%に抑えられたということは、まずまず経済成長に見合ったものということができます。景気に対して中立的なものと申して差しつかえないと存ずるのでございます。  このように三十五年度一般会計予算の一兆五千六百九十六億円の規模は大体妥当なものと申されるのでございますが、しかし三十四年度の第二次、第三次補正予算支出が今後散布されることを考えあわせてみますと、これ以上にこの規模が拡大するということのないように十分御配慮願いたいと存じます。  また三十五年度経済は前申しました通り、まだ景気行き過ぎのおそれが全然ないということは言えないのでございますし、さらに貿易為替自由化に伴いまして、あるいは予想外の変動に対処しなければならないおそれもあるかと考えられます。従いまして予算財政投融資計画の実行にあたりましては、経済情勢をにらみ合せて、財政支出投融資景気安定的成長を持続していくように十分弾力的に運営を行なっていただきたいと思うのでございます。  第二に、一般会計内容について申し上げますと、まず歳入は、現在のような経済情勢が、先ほどの大蔵大臣演説のように引き続き今年度も続いていくということを前提といたします限り、その歳入の確保にはさして困難はないと考えるのでございます。  次に歳出面におきましても、施策重点を治山、治水並びに災害対策に合わせるべく努力しておられるということ、また石炭海運などの不況産業への対策も織り込まれたということ、並びに産業基盤強化に配慮されているというようなこと、これらのことはまことに時宜に適した措置考えるのでございます。  しかしながらこれらの重点施策以外の歳出につきましては、この際なお一層の節約をはかられて、これによって財源が捻出されて、これをもって減税並びに貿易為替自由化対策に振り向けられるべきでなかったかと欲を言えば考えるのでございます。  本年度経済におきまして最大の課題一つは何と申しましても貿易為替自由化対策であると考えるのでございます。この点につきましては、大蔵大臣財政演説の中でも、「企業においては、あくまで自主責任体制に徹して、過当な競争を自粛し、慎重な投資態度を持するとともに、長期的な観点に立って、体質改善資本構成の是正、経営の健全化等にたゆまざる努力を傾注せられたいのであります。」と、こういうように要求しておられますが、これはまことにごもっともなことと考えます。  ただこれらのことは、企業はむろん十分努力いたしますが、しかし企業努力だけで十二分に実現できるものではないと考えるのでございまして、この点今回の予算を拝見いたしますと、財源の調達上非常に困難があったこととは存じますが、貿易振興関係予算については各省要求額のほぼ三分の一見当に圧縮されておりますし、また企業自己資本充実、すなわち体質改善に資するような格別の措置予算面ではとられていないように見えるのでございます。これはやはり既定経費の節減などによって、少なくとも輸出振興のための積極的な措置と、さらには企業体質改善を可能にするための税制上の措置、たとえて申せば、固定資産耐用年数の短縮とか、そういうようなものでございますが、そういった点に特段の配慮が加えられてよかったのではないかと、そういうように考える次第でございます。  第三に、財政投融資計画についてでございますが、総体の規模といたしまましては、一般会計と同様に景気を刺激するほどのものでないと思われるのでございます。もっとも、初めに申したように運用面では今後の景気情勢をよく考え運用していただきたいと思いますが、規模としては景気を刺激するほどのものではないと考えるのでございます。また原資面におきましても、主として年度内の経常的原資によってまかなわれるという形になっておりますことは妥当な措置考えます。  ただそのうち民間資金活用の比重が高まっているという点には、多少問題があるように考えるのでございます。すなわち民間資金活用額は、三十三年度は四百二十三億円でありましたが、三十四年度には補正以後の予算で九百二十八億円と前年度の二倍以上に達したのでございます。さらに三十五年度には、一部借りかえの分は含んではおりますというものの、さらに三十四年度を上回りまして千百十五億円に及んでおります。これは非常に大きな増加と思われます。もちろんこれが消化に対しましては、その用途用途でございますし、われわれ金融界としては、すでに去る一月二十六日の金融機関資金審議会でも当局から協力要請がありまして、金融界としても十分協力するということをお約束申し上げたところでございますので、その膨張した金額に対しましても、むろん消化には十分努力するつもりでありますが、しかし最近の起債市場情勢で判断しますと、その消化には相当の努力を必要とするような実情でございます。  さらに三十五年度の今後の金融基調考えますと、財政の対民間収支の払い超規模は前年度を下回っていることはほぼ確実と見られておるようでありますし、産業界資金需要民間投資貿易自由化等に伴いまして、今後一段と強まってくることが予想されますので、かりに預金がある程度伸びたといたしましても、金融基調は引き続いて引き締まりぎみに推移していくものと思われるのでございます。  このような情勢でございますので、銀行といたしましてはさらに預金の吸収に一段の努力を尽くしますとともに、貸し出し調整にも努めまして、政府民間資金活用にできるだけの協力をする所存ではございますが、あるいは情勢推移いかんによりましては、その消化に相当困難を感ずるようなおそれもありますということを申し添えておきたいと存じます。当局におかれましても、財政投融資計画、特に民間資金活用実施につきましては、市中金融実情に即した弾力的な運用をいたされるように要望する次第でございます。  なお、財政投融資民間に対しての資金供給のうち、産業基盤強化として、交通あるいは通信関係に多額の資金を充てようということや、あるいは政府関係中小企業金融機関に対する供給額がふえたということはまことにけっこうなことと存じますが、それと同時に、今後の為替貿易自由化に備えまして、一種の緩衝帯として動きますように、政府関係金融機関のそれぞれに対する資金供給ワクを弾力的にしまして、各機関相互に融通せしめ得る方法をとる、一方の方では予定より進まない、一方では予定以上に金が要る、そういったような場合に、相互に相融通し得るようなことにしまして、いつでも必要な分野に必要な資金が回せるよう運用資金融通性を持たせておくことが望ましいのでないかと考えるのでございます。  以上をもちまして、予算に対する私見を申し述べたのでございますが、これと最も関係のあります為替貿易自由化につきまして所見を述べたらいかがかと思うのでありますが、よろしゅうございますか。
  4. 小川半次

    小川委員長 どうぞ。
  5. 堀武芳

    堀公述人 それでは貿易為替自由化につきまして、金融界としての所感一端を申し述べます。  貿易為替自由化は、申すまでもなく、世界の大勢でございますばかりでなく、資金や技術などの導入を通じて、日本経済発展にも寄与するものでございますし、日本経済世界経済の中に伍していくだけの実力を備えるための機会でもございますので、基本的にはその必要なことは十分に認められますし、その実現を私どもも希望するものでございますが、反面産業界ばかりでなく、金融界も直接、間接に大きな影響を受けるということは避けられないと考えるのでございます。全国銀行協会といたしましても、その対策につきましては目下種々検討中でございまして、具体的な点についてはまだただいま申し上げる時期に達しておりませんですが、ただ基本的な問題について二、三申したいと存じます。  第一は、貿易為替自由化のテンポについてでございます。自由化方策実施につきましては、海外関係諸国からなるべく早くやってもらいたいといったような要請もあることでもございましょうし、わが国だけの一方的な事情できめかねるという点もむろんあるだろうと思いますが、一面国内の諸般の事情を十分に考慮して、慎重に取り運んでもらいたいと考えるものでございます。影響の大きい産業に対しては十分配慮せられるべきことはむろんでありますし、またわが国国際収支が従来たびたび危機に頻しまして、いわゆる安定性に乏しいということを考えてみますと、外貨準備も現在よりなお今後できるだけ充実しておきたいと考える次第でございます。  第二に、為替自由化によってもし外国から安定した外資が入って参りますれば、これまでのように国内における資金需給の不均衡がそれだけ是正されることでもありまして、好ましい面もございます。しかし、わが国金融市場海外金融市場と直結することでありますから、それだけ当然資金の移動が大きくなりまして、現在のようなわが国金融市場にとっては、重大な影響をこうむることもあるわけでございます。従いまして、われわれとしましては、この際資金蓄積にできるだけ努力をいたしまして、そしてわが国金融市場をできる限り強化しておきたい、そういうように考えるのでございます。  第三は金利についてでございますが、金利は本来資金需要供給の実勢に応じて動くものでありますが、自由化の進展に伴いまして、金利自体弾力性の回復していくことが必要になります。これによって金利市場調節機能を回復することになってくると思うのでありますが、為替自由化資本取引自由化によりまして、外国資金わが国金融市場に入るようになりますと、国内金利水準国際金利水準にさや寄せしていくということは当然のことであろうと存じます。また私ども銀行といたしましても、金融政策上短期的には金利上がり下がりのあるのは当然でございますが、長期的に見まして、なるべく国際水準わが国金利が近づいていくように、金利引き下げへの努力を進めていかなければならないと存ずるのでございます。  第四に、資金蓄積重要性が一段と必要になってくるということでございます。この点につきましては、今も申したのでございますが、外国資金が入ってきたり、あるいはまた入ったのが出ていったりします。そういうことによって、わが国金融市場が大きく動揺されないようにするためにも、また、わが国銀行外国銀行との競争に対抗し得る実力を持つためにも、この際資本蓄積の増強が一そう必要となってくるわけでございます。何を申しましても、資金量を十分持たなければ、金融界の力が増強されないわけでございまして、こういう点から考えますと、預貯金利子課税に関する特別措置、これは現在実行されておりまして、一応の期限が三十五年度末に到来することになっておりますが、今後貿易為替自由化体制の整備という観点からしまして、一般企業に対する体質改善への税制上の措置をなされると同時に、この預貯金利子課税に対する特別措置の存続をはかっていくというように、新たな観点から貯蓄奨励策を講ずるようにいたしてもらいたいとお願いする次第でございます。  以上、貿易為替自由化金融界への影響並びにそれに対する私どもの心がまえの二、三を申し述べたのでございますが、帰するところは、わが国通貨、円の価値をあくまでも安定確保するということに全力を尽すことであると思うのでございます。  はなはだ粗末な意見でございましたが、御清聴を感謝いたします。(拍手)
  6. 小川半次

    小川委員長 ただいまの堀公述人の御発言に対しまして、御質疑がありますればこれを許します。横路節雄君。
  7. 横路節雄

    横路委員 堀さんにお尋ねをしたいのですが、先ほど為替貿易自由化に伴って、金利の問題についてお話がございました。実は私も今度の、先ほど御指摘のございました予算の中で、たとえば海運界世界海運界圧迫をされてどうしても金利が高くて太刀打ちができないというので、また造船の利子補給が復活をしたわけです。それから先ほど石炭についても御指摘がございましたが、開銀の利子の九分のうち、二分五厘についてこれも負担するようになったわけです。そういう意味で、私はこの為替貿易自由化日本経済体質改善ということになれば、当然先ほどお話のように、企業について一番大きな圧迫をしている日本の高い金利を、先ほどお話がありましたように国際的に見てそれにさや寄せしていかなければならぬ。当然金利を下げていかなければならぬのではないか。そういう点で私ども政府貿易為替自由化について、いろいろ言ってはいるけれども、しかし体質改善という意味で、その一つの大きな基本的な問題である金利の問題については、基本的に検討していないのではないか。たとえば公定歩合引き上げ、また何かうわさによれば引き上げをするというのですが、こういうことは私は逆ではないかと思うのです。先ほど堀さんから、もちろん金融界としても景気行き過ぎを抑制しなければならぬのだというお話がありましたけれども、しかし為替貿易自由化という点からいけば、これはただ単に海運界とか石炭界というばかりでなしに、根本的に体質改善という意味金利を下げていかなければならぬのではないか。そういう意味で私は公定歩合引き上げだ、またそれを引き上げるかもしれないというやり方は、この為替貿易自由化方向とは逆ではないか、こういうように実は考えておりまして、先ほどお話を聞いて、堀さんがそういうようなお考えであるということについて、非常に敬意を表するのですが、なおこの問題について政府は根本的にどうも考えていないのではないか。ただ海運界不況だから手を入れる、石炭界不況だから手を入れるということだけであって、根本的な体質改善方向には向いていないのではないか、こういうふうに思いましたので、もう一度、その点一体金融界としては公定歩合引き上げその他というものについて、どういうようにお考えになられているのか、一つ意見を承りたいと思います。
  8. 堀武芳

    堀公述人 ただいま御質問がございましたが、私もさっき申し上げましたときに、短期的には金融政策上やはり金利上がり下がりは当然ある、長期的に見て国際水準にさや寄せしていくように努力したいということを申し上げましたのですが、ただいまの御質問は、金融政策としましてそのときの情勢によってあるいは金利は上げなければならぬ場合がある、あるいは下げていかなければならぬ場合があるという問題と、それから全体の金利水準として長期的に金利を下げていくという問題と、これは二つに分かれるわけなのでございます。従いまして、短期的に金融政策金利が上がったからといって、金利引き下げ努力政府考えてないのだということに簡単には参りかねると思うのです。ちょうど去年の九月以降のときのように、このままほうっておけば過熱してくるおそれがある。国際収支がまた前のようなことになるおそれがある。そういったような場合は、むろん金利競争力というような点も考えなければなりませんが、しかし、それよりもより重大な問題としましては、やはり金融を引き締めて、行き過ぎを押えなければならない。そのままほうっておくことはできない。そのときの金融政策としてはやはり上げなければならぬということが当然出てくるわけだと思います。現に十二月に引き上げを断行しまして、あとはさっきも申しましたように、その後は物価関係とが通貨の還流とかそういう面から見ましても一応落ちついてきております。これはやはり金利引き上げたということがその政策の目的を達しているということを申せるのだと思います。そういったそのときそのときの金融政策というものにはやはり金利がそれによって上げ下げされる。むろん金利だけではなくて、金融を調節するためにはほかにも準備預金制度もあり、あるいはまた公開市場政策というものもありますけれども、何といいましても、ほかの国でも見られますように、金利政策が一番金融政策としてはよく活用されているわけです。そういうことがあるのと、長期的に金利をできるだけ下げていくように努力していくということは、決して矛盾しているわけではないと存ずるのでございます。長期的に見たらやはり政府もそうでしょうし、われわれとしましてもできるだけ金利を下げていくようにしたいというつもりでおるわけでございます。
  9. 横路節雄

    横路委員 堀さんにもう一つだけお尋ねしたいのですが、たとえば為替貿易自由化で非常に影響を受けるのは、どれも影響を受けましょうが、農産物が一番影響を受けてくるのではないか。そういう意味で、現在の農林漁業金融公庫の長期資金は相当金利は低いものでありますけれども、しかしなおこれが貿易自由化方向に行った場合には、なお一そうこの金利を下げ、長期の低利資金にしていかなければならないのではないか、開発銀行資金にしてもそうだというように考えるのですが、この点はどうですか。
  10. 堀武芳

    堀公述人 おっしゃる通り、長期資金、ことにそうした第一次産業への資金は、できるだけ低いに越したことはないと思います。しかしやはり資金コストそのものとの関係もございましょうから、現在としましては、相当われわれは勉強している金利ではないかと考える次第でございます。
  11. 小川半次

  12. 小坂善太郎

    ○小坂委員 簡単に堀さんにお伺いしたいと思いますが、日本金利が高いので、為替自由化されますと、いわゆる短期の資金外国から相当いい市場だということで入りはしないかというふうに思うのでございます。ちょうど地方銀行がコール・マネーを出しますように、外国の短期資金日本金融市場に入るということになるのではないかと思うのでございますが、そういう点についての見通し、あるいはそういうものをあなた方非常にお好みになる情勢になるのかどうかという点について、伺わしていただきたいと思います。
  13. 堀武芳

    堀公述人 日本金利が高うございますから、おっしゃるように外国から見ますと相当有利な市場と思われるわけでございます。しかし、率直に申して、まだ日本の円というものは、国際的に見まして、あまりそれほど通用しておるわけではございません。ロンドンだとかニューヨークあたりのような市場ですと、金利がよければポンドでもドルにでもすぐいきますけれども日本の円に対して金利が高いからといって、そのまますぐうんと入ってくるというようには考えられないのではないかと思うのでございます。やはり日本金融市場そのものに対してどの程度評価するかというような点もございます。ですから私の方としましては、短期資金はある程度は入りましょうが、そう急に非常に入ってくるというようには考えておりません。長期のものについて、むろん社債とかなんとかの問題がありますけれども、短期の資金についてはそんなにたくさん入ってくるというようには考えておりません。またあまり短期の資金が急に入ってきまして、それが急にまた引き揚げられるというようなこともむろん考えなければならない。そうしますと、さっき申したように、日本金融市場がそれに十分にこなし得るようなふうにやはり強化していくということも考えなければならぬ問題であります。まあそういうように考える次第であります。
  14. 小坂善太郎

    ○小坂委員 もう一つお伺いさしていただきたいと思います。それは先ほど横路さんが言われたことと関連いたしますが、日本金利政策というものが景気変動に非常に大きな役割を占めておりますが、これは結局日本企業体質というものが、自己資本と他人資本との割合で他人資本に依存する割合が大きいからであることは、もう申すまでもない。戦前はその比率が大体二対一になっておったのですが、現在はその逆でございますね。他人資本が自己資本一に対して二になっておる。これを直さないと金利を低下するといっても、どうしても需給の関係から、なかなかそう簡単にいかぬと思う。これについて今回税制の点で減税を見送ったという点は遺憾なことだと、私ども事情やむを得なかったとはいえ、そう思っておるのであります。こういう点について金融界とされて、税制改正についてはどういう点を変えたら、自己資本の充実が最も容易になるかというふうにお考えかという点をお漏らしを願いたい。
  15. 堀武芳

    堀公述人 ただいまの問題につきましては、銀行協会としてなお目下検討中でございますので、私の私見としての考えでございますが、やはり自己資本は、おっしゃる通り非常に足りませんので、その充実する策としましては、増資をやるということ、増資をできるだけ推進させるということ、それからやはり内部留保をできるだけ充実させる、この二つに帰してくるのだと思う。内部留保につきましては、戦後いろいろと特別措置を講ぜられまして、たとえば特殊の機械については償却を最初のうちに、早く多くできるようにするといったよううな特別措置も講ぜられて、現在もかなり考慮はされておるわけでございますが、しかし全体としましては、やはりさっき申したように、耐用年数をもっと短縮して、そして償却を多くさす、そういう措置が最も望ましいのではないかと考えます。それから増資につきましてはしばしば問題になりますことは、金利より配当の方が非常に負担が高いという点でございます。これは借入金の場合と資本の場合の本質的な違いが当然起こるわけでございますから、これを同日に論ずること自体が無理だと思うのでございますが、しかしできますれば、やはり現在の税負担がもう少し軽くなるような措置を講じてもらったらどうかと思います。これは全くいろいろと難点もあり、問題もあるのでございます。たとえば同じ利益でも、資本金に対する比率のいかんによって税金をかげんする。戦前超過所得税というようなものもございましたが、ああいうふうに資本が大きければ、同じ一千万円の利益でも税金は軽くなる、資本が小さくて一千万円の利益を上げた場合は税金が高いといったようなことも——むろんこれにはいろいろ欠点もございますけれども、そういう制度なども取り入れられてはどうかと考えるわけでございます。
  16. 小川半次

    小川委員長 他に御質疑がなければ、堀公述人に対する質疑は終了いたしました。  堀公述人には、御多用中のところ御出席をわずらわし、貴重な御意見の御開陳をいただきましたことを委員長より厚く御礼申し上げます。     …………………………………
  17. 小川半次

    小川委員長 次に武蔵大学教授佐藤進君に御意見開陳をお願いいたします。
  18. 佐藤進

    佐藤公述人 佐藤であります。昭和三十五年度予算について、財政ないし財政政策一般を中心として意見を述べるのが私に与えられた課題であります。  初めに、本年度予算ほど世評のきびしかった予算はまれであったということを申し上げたい。これはおもに予算の編成過程に関する批判でありますが、この予算編成の問題を最初に取り上げ、続いて本論といたしまして、三つの点、つまり本年度予算における財政景気政策的な視点の後退の問題、次に所得倍増計画政府経済計画この関係の問題、最後に貿易為替自由化財政政策という問題について考えを述べてみたいと思います。いずれも予算の個々の細目に立ち入ったものではありません。日本財政の現状の性格、将来といった一般論であることを初めにお断わりしておきたいと思います。  まず予算編成が例年になくおくれたことにつきまして、特に大蔵省原案の決定から政府案の決定に至るまで、年を越しての舞台裏での交渉が行なわれたことにつきまして、いろいろ世間の批評がありました。政府案決定前後の新聞は、それぞれ、たとえば「醜態を露呈した予算編成」(朝日新聞一月十四日号)とか、「派閥のつかみ合い」(毎日新聞一月十三日号)、「不明朗な分どり合戦」(日本経済新聞一月十四日号)とか、口をそろえて悪口を述べております。新聞のいうところによりますと、予算復活交渉の背景には、それぞれの圧力団体といいますか、プレッシャー・グループというものがありまして、農林団体、地方六団体、海運業界、石炭業界、医師会などがそれであるとしております。そして、それぞれの圧力団体はまたそれぞれ特定の議員と結びついて政府影響を及ぼしたのだと言っております。事実大蔵省原案から政府案までに復活されたもの、たとえば農林関係費六十億、特別地方交付金の三十億、石炭対策費の二十七億、海運利子補給十億、また財政投融資計画におきます医療金融公庫の三十億などは、その復活成立のいきさつから見まして、いろいろ問題を残すものと言えましょう。  これが予算編成過程の不明朗さにつきましての批評の第一点としますと、第二点は、以上の復活要求経費を、予算規模を全体として変えずにのんだという財政の手品あるいは魔術にあります。大蔵省原案から復活された経費は総額で三百億円に達するといわれていますが、これが予備費の二十億、雑件費から五十三億、賠償関係費六十一億、国債費二十億等の経費の切り詰めあるいは見積もりがえその他によってまかなわれ、残りが昭和三十四年度補正予算に組み入れることによって処理されたとのことであります。これは最初からいわば不当な見積もりを作っていたということになると同時に、三十四年度の税の自然増収を食いつぶし、三十六年度の余裕財源、剰余金収入をなくすものとしてやはり問題の多い処置であります。  要するに、予算編成過程を通じてきわめて不明朗な措置がとられたこと、健全中立財政を金科玉条として組まれた大蔵省原案がじりじり後退して、いわば八方破れの予算となったことは否定できないと思われます。  ここで真剣に考えなければならないことは、予算編成権がどこにあるかという問題であります。内閣と政党の関係が現状のごとくでありますと、予算編成に伴う国民の疑惑は今後も決して解消されないでありましょう。今後の問題としましてこの際申し上げたいのは、予算編成方針の作成に当たって、党と内閣が単なる作文でない具体的事項についての真剣な討議を行なうべきこと、その後においてなお問題が起こりましたら、これはあるいは疑問があるかとも思われますが、議会の審議過程で国会の修正権を生かして予算を修正すべきことであり、時間切れをねらった予算のぶんどり等は厳に自戒していただきたいことであります。  本論の初めとしまして、本年度予算は、従来の政府景気政策的財政政策の方針からの大きな後退を意味するということ、また本年度予算によって財政景気政策に対する余地がいよいよ制限されてきたということを申し上げたいと思います。  まず本年度予算については、それが景気刺激的なものか、なお中立性の建前を大きくくずしてはいないものと見てよいかという問題があります。これについては、健全財政の原則が骨抜きになったとか、放漫財政であり、インフレ財政の芽ばえを含むものであるとかいう声が高いのでありますが、ここのところは何とも言えないとしか申せません。ただ、一般会計歳出規模一兆五千六百九十六億円で、前年度当初予算に比して千五百四億円の増、補正二号後の予算に比して七百十五億円増、財政投融資五千九百四十一億円で、三十四年度計画に比して七百四十三億円増、また大蔵省原案に比して百五十二億円増というのは、伊勢湾台風に伴う補正予算第二号、ここで一般会計では六百十四億円、ほかに財政投融資で五百億円もふえており、これによる財政規模の膨張に続くものでありまして、現在の物価騰貴傾向とも関連して、少なくとも心理的に刺激要因となり得ると思えるのであります。  しかし、ここでより明確に指摘しなければならないのは、景気政策に対する政府の態度であります。日本はここ数年の間で、昭和二十九年、昭和三十三年と二度も不況を経験してきましたが、財政政策もこの苦い経験を生かし、不況の予防政策的役割については、最近とみに認識を深めてきたかのように思われたのであります。この点は最も理論的な政府経済政策的見解を表わすものとしてのここ数年の経済白書、年次経済報告をひも解いてみても明らかで、たとえば昭和三十二年度経済白書には、財政は好況期には政府投資を縮小し、または民間投資への助成措置を削減することによって景気の過熱を抑制し、不況期には政府投資を拡大し、または民間投資への助成措置を高めることによって景気の回復をはかるなど、景気の波を平準化しつつ経済の健全な発達を可能にするための大きな手段と役割を持っていると述べられており、こうした考え一つのよりどころとして、昭和三十三年度には四百三十六億円に上るたな上げ資金の形成を見たのでありました。もちろん景気政策的財政政策、いわゆるフィジカルポリシーは単なる蓄積基金の形成とその放出だけを武器とするものではありませんが、好況期には収入を高め、これを不況期の財源とするという基本的考え方は、わが国財政当局者にも十分自覚せられた思想と思っていたのであります。ところが、今回の予算措置を見ると、こうした基本線からの逆行、後退がはっきり見取られるのであります。昨年度の好況の結果としての自然増収は災害予算で食われ、また三十五年度に見積もられる二千百億円に上る自然増収を減税にも使わず——減税に充てるというのは、将来の税源を養うという意味があると思いますが、全部残りなく経費として使い切るという行き方に問題があると思います。この点は目下アメリカの国会で審議中の一九六一年度連邦予算とも関連して学び直してもよい点と考えます。なお、景気政策の余地がますます狭まったことについて一言したいと思います。経費支出の一般的傾向として注目しなければならないのは、自然増的ないしは義務的、既定的経費の増大であります。地方交付金とか義務教育費、社会保障関係費等は人口の増加その他で当然ふえていくべきもの、また道路、港湾整備費、今年度の治山治水事業費、防衛費等、それぞれの長期計画の推進の関係からこれまた当然ふえる経費が目立っております。予算の形式としては継続費、国庫債務負担行為の増大も目立っておりますが、こうなると、経費支出の先約ないし先取りがあまり多くて、政府はもはや政策を打ち出す余地がなくなる、いわばゆとりの全然ない予算といった現状がここから生まれていると思えるのであります。  なお、三十五年度予算の経費支出の一般的性格というものについて、土木予算土建屋予算ということがいわれております。軍事費、特に防衛庁費の増額を除きますと、いわゆる公共事業費の伸びが目立つことは確かであります。これは治水治山、道路、港湾等の修築事業を言うわけで、最近では産業投資に対して行政投資とか、産業基盤強化とかいっております。こうした方向政府投資を進めていこうとするのは、確かに悪いことではない。もっともこうした投資は購買力の造出効果を持つので、景気の過熱に及ぼす懸念がないとは言えませんが、しかし、現在の制度のもとでは、この産業基盤強化というのが、内容的に見ますと、選挙基盤の強化になっているという心配がないわけではありません。土木請負業者や建築業者と政党の間に利権取引が行なわれる条件が確かに存在するのであります。会計検査院の三十三年度の決算検査報告にも、不正事項の多くが工事の請負、発注にからまるものとされております。  次に、政府経済計画と本年度予算関係について述べたいと思います。  御承知のように、岸首相は、昨年参議院選挙戦の当時、所得倍増十カ年計画というものを国民に公約いたしました。そして、当時自由民主党の政調会が中心となって、昨年十月国民所得倍増の構想を発表しました。これは今後十カ年の間に国民所得を二倍弱にするというのでありますが、総平均で二倍弱にするというのであって、国民の諸階層にある所得の格差がどうなるか、各産業部門でどういう振り合いがとられるのかという点には触れませんでした。農業と工業では発展のテンポが違う。工業が九・一%に対して農業は二・五%で、平均七・二%の成長率ということであります。これが政府与党内部の反対を呼んで、所得倍増の政府構想は発表が見合わされたのであります。そのほかにも輸出の伸びをどうやって達成するのかとか、輸出以外の国民総需要がどう配分されるのかという問題がありましたが、略します。  一つの重要な批判は、財政計画がないということでありまして、財政規模がどの程度になるか、財政消費と財政投資の割合はどうなるかといった裏づけがない限り、いわば資金の裏づけを欠いた机上の計画になります。このように不十分で、いつ計画ができるかわからないのでありますが、十二月十八日閣議決定の予算編成方針や、大蔵大臣経済企画庁長官の先日の財政演説経済演説にもこれがはっきりとうたわれております。目下作成中のその計画をのぞきますと、政府経済計画として現在進行中ないし実行中のものには昭和三十二年末作成の新長期経済計画があり、その後の経済の推移を見ますと、一般に計画の趨勢を上回っているといわれておりますが、財政計画についてはそういうことは言えないようであります。たとえば計画は、国民所得に対する租税負担の割合を三十一年度の一九・五%から三十七年度には一八%まで軽減できる見込みであるといっておりますが、租税負担は昭和三十五年度には本年度の一九・九%に比べ二〇・五%とかなり増大を見込まれております。これは文字通り計画の趨勢を上回っていることになり、つまり租税負担を低下せしめる予定が、むしろ引き上げることになっており、納税者の立場からは望ましいことではありません。財政の今後のあり方という点では経済計画とマッチした財政計画の立案が必要であり、ここには少なくとも財政規模をどうするか、ここで特に軍事費の割合が問題になると思います。また、中央政府、地方政府財政の比率をどうするか、あるいはどうなるか、財源としてどういう財源が期待できるか、公債か租税か、租税の中では直接税か間接税か、こういった基本線が明確な根拠に基づいて明らかにされねばなりません。そうでなければ産業基盤の充実とが、科学技術の振興、社会保障の充実、貿易振興、農業基盤の整備、中小企業振興等のうたい文句を並べても、何ら裏づけのないものとなります。こういう点から見て、特に本年度予算は、その場限りの場当たり予算的な色彩が濃いと言えます。  最後に、これも何人かの人によって言われてきたことだと思われますが、今後数年間の日本経済の死命を制するものともいうべき貿易為替自由化問題と財政との関係があります。貿易為替自由化企業の集中をもたらす一方、中小企業者に大きな危機をもたらすだろうことが一般に信じられております。商社や銀行に及ぼす影響についても、大企業が有利な立場に立つことは明らかで、これらはいろいろの方面から論じられておりますが、ここで問題としたいのは財政面との関係であります。かつて昭和初年、金解禁がなされたとき、緊縮財政が並行的措置として強力に実行されましたが、こうした措置が現在も少なくとも心がまえとして必要なのではないかと思われるのであります。もちろん当時とは条件も違います。財政面から講ずべき措置も当然当時とは違ったものになると考えられましょうが、大蔵大臣の言う弾力的な金融政策実施財政金融を通じての適切な調整などは、意味するところが不明であります。先ほど申し述べたように、今後予想される経済変動に耐えるためには、少なくとも財政面からの並行的な準備が必要であり、収入の増加を一方でははかると同時に、経費の削減に努力すべきであると思われます。しかも、この際の政策の重点は社会政策面に置くべきであると考えます。  最後に、これも財政政策上の問題とつながりを持つと思われますが、為替自由化の問題は、一方、では外資導入が急速になるという形で現われてくると思います。現在でも、最近とみに米系資本の流入が活発化しております。株式の取得、技術提携、出資、融資、外債応募のような形であります。こうした流れについて気づくことは、外国からの資金導入にばかり熱心で、その支払いについて心配していないように思われることであります。この点について本年初め、日銀為替監理局長か政策委員会で外資導入の実績と海外投資の実情に触れ、為替収支面では明年度つまり昭和三十六年度が油断できないと言っております。つまり昭和三十六年度には満期となる過去の外債の償還だけで八千八百万ドルに達し、また海外投資で将来約束されたものが六億ドル余りに上るので、貿易自由化のテンポいかんでは、輸入の激増も予想されるだけに、今後の国際収支は全くもって楽観できないとしております。ついでに申し上げますと、外債償還が次に固まって現われるのは昭和三十八年度でありまして、債務返済に伴う外貨流出はこの両年度にかなりの重みを持つと思われますが、ちょうどこのころが貿易自由化のフルに展開するときであります。また戦後の景気循環はこの数年来約四十カ月週期で展開しているといわれますが、三十二年春の国債収支の危機から数え、再びこうした危機がめぐってくるのも遠くないことが警戒されなければなりません。  いずれにいたしましても、国民は行き先のわからない船に乗せられたようなものでありまして、この点本年度予算審議過程を通じ、国民の不安を取り除くための確固たる方針が打ち出されていくことを切望する次第であります。(拍手)
  19. 小川半次

    小川委員長 ただいまの佐藤公述人の御発言に対しまして、御質疑があればこれを許します。上林山榮吉君。
  20. 上林山榮吉

    ○上林山委員 ただいま佐藤公述人の公述を承りましたが、一、二不明瞭に聞こえた点がございますので伺っておきたいと思います。  現在は、国民の世論を背景にして政党ができて、その政党が内閣を担当しておるいわゆる政党内閣であるということは御承知の通りでございます。そこで区々たる圧力団体とかあるいはあとからの復活要求がどうであったとかいうような点については、新聞やその他でいろいろ批評を受けておりますから、こういう点は是正できる点は是正しなければならぬと思いますけれども、いわゆる本筋は、予算の編成権は言うまでもなく政党出身の大蔵大臣にあるわけであります。そこで、国民の世論を背景にしてできておるいわゆる政党内閣は、これはスマートにお互い交渉をして、そうして予算の立案をするということは、これは当然やらなければならぬ問題だと思うのです。私はこの問題を強調しようと思ってこれを言ったんじゃないんですが、そこであなたが具体的にお示しになりましたそういうような経路を経てこういうものが復活をした、これはいいことじゃないと言う、それは経路の問題だけをお取り扱いになったと善意に解釈しておるのですけれども、具体的には、たとえば農林予算が六十億ふえた、これは農村の生産性向上のための土地改良などを含んだ予算なんですね、これは御賛成であるかどうか。あるいは、いわゆる国税の所得税を減税したために住民税が百二十二億いわゆる赤字になったといって、地方団体では困っておる団体も相当多いわけなんですね。そこで地方団体の要望をいれて、政党が仲介に立って、同時に政府がこれを認めたということは、地方の立場から考えると、これはわれわれ適正だと考えたんですが、この内容もやはり御非難になるというわけでございましょうかという点  さらに海運なりあるいは石炭なりの基礎産業の動力になるような大事な問題、これがいわゆる不況にあるということは御承知の通りですが、これはわれわれも、利子補給一本やりとかいうような考え方は、これはいけないと考えております。考えておりますが、日本のいわゆる海運なり、石炭なり、こうしたものが不況にあるときに、産業の基盤になる大事な問題なんです。これはいわゆる雇用の問題にも、あるいは国民生活の問題にも関係してくるわけですが、こういうものは全然いけない、あるいはこういうことをやるよりも、こういうような政策をとった方がよかろうというようなことがあれば、一つお示しいただけば幸いだと思います。  それから、イデオロギーが違えばこれは別でございますが、われわれは福祉国家を作っていかなければならぬ、こういうので、あるいは国民年金制度なり……。(発言する者あり)静かに聞きたまえ、都合の悪いことは……。だから、そこであるいは国民健康保険制度、こうしたようなものは、これは救貧制度じゃなくて防貧制度、いわゆる福祉政策、福祉国家へのこれか明るい大きな基盤なんですよ。こういうもの、たとえば国民皆保険というようなものをやっていく上については、中堅層以下のいわゆる有能なる医師諸君、こういう人たちはそれぞれの設備をしようとしても、自分の力では設立できない状態にあることは、お調べになればすぐわかります。いわゆる中堅以上の医者にはこれは必要じゃないと私は思う。中堅以下の有能なる若き医者の方々には、国民健康保険制度、いわゆる福祉国家への一歩、二歩を進めていくこの制度を生かす上において、医療金庫というものが、これはその手続はあとから入ったという点はあっても、私はそういう経路よりも、この予算の実質が、いわゆる国民の福祉、あるいは国民の生活向上に非常にいい結果を及ぼすんだということを重点考えた方がいいんじゃないか、こういうように考えますが、まずこの点を最初に伺いたいと思います。
  21. 佐藤進

    佐藤公述人 初め予算の編成の問題、これがどういう形でなさるべきかという問題に関連して、個々の費目についてどう考えるかという御質問でありますが、初めに申し上げましたように、私の意見の発表は、基本的な日本財政の現状の性格ないし将来と一般論でありまして、予算の個々の細目には立ち入ったものでありません。この点は初めにお断わり申し上げた通りであります。個々の内容についても、農林関係費、地方交付金の問題、海運、それぞれの問題、やはり私の知り得る限りではいろいろ納得できない点もある。農業基盤の整備費というような費目でかなり多くの費目が出されておりますが、これは復活交渉でいわばぶんどったものだというようなことで、農林省の方ではむしろこういう費目が非常にふえたのであわてているというようなことさえ書いてある。海運利子の問題につきましては、スエズ運河ブームで好況になったために、海運はもう利子の補給などは要らないという態度を見せたかと思うと、今度はまた条件が悪くなったから補給をしてくれという非常に御都合主義的な要求を出してくるのを政府がすぐ受け取っている、こういうふうに感ずるので、やはり個々の点についても大きな問題があるように思う。ただし、その個々の問題につきましては、なお具体的な資料につきましてお教えいただければありがたいと思います。  それから第二の予算ないし財政政策の方向、福祉国家ということでやっていかれる、その御趣旨には全く賛成であります。なお私の意見の公述で主として申し上げました予算の編成過程の問題でもう一度確かめておきたいのは、政党内閣であるから、その代表者である大蔵大臣予算の編成権を持つ、また概してヨーロッパにおきましても、他の国にしましても行政府予算編成権を持つ、これははっきりした事実であると思います。しかし、その政党内閣である政党とそれから内閣との意見の食い違いというのがこの非常に短い期間に集中的に現われて、いわばぶんどり競争ということになっている。これは非常におかしなことで、やはりもう少し前に編成方針をはっきり打ち合わせて、大きな政策についてはっきり打ち合わせれば、それでもうあとの調整はこれは最も適任であるからというので行政府が子算の編成権を持っているだけだと思うのですが、そういう点についてはある程度まかせる。なおほんとうに問題が起こったら、予算の増額修正権という問題があります。予算の増額修正はできるのじゃないか。少なくとも、いわば国民の目を離れたところでいろいろ交渉するということでなくて、国会で堂々とその問題について、少数のたとえば政党、与党の内部でいろいろなグループがあるとすれば、五十人以上であればそういう予算の修正を発案することもできるわけですから、そういう形で公然と争っていただければそういう疑惑はなくなるんじゃないか。結局いろいろ見てみますと、予算の編成は政府がやると言っていながら、一方では党の力が非常に多いために、今度の予算案というものはだれが一体ほんとうに責任を持って作ったのか。大蔵大臣の方じゃ、ある意味で自分の当初の案が非常に後退したということでありますし、党が作ったのか、内閣が作ったか、そういう点についても、いわば責任をだれに負わしたらいいのか。こういう問題についていろいろ疑問がある。そういう疑問を一掃していただきたい。そのためにいろいろ真剣な討議をしていただきたい、こういうふうに申し上げたわけであります。
  22. 上林山榮吉

    ○上林山委員 予算の編成権が大蔵大臣にあり、政府にあることは御承知の通りです。どういう経路があっても、最終的にはそこに責任がいくものだと、われわれは政党人としても了解をし、国会議員としても了解をしておるわけです。ただそこで、具体的に私が二、三の点をお尋ねしたのですが、あなたは具体的に予算をごらんになってただいまの御公述をいただいたものと私どもは理解して、そして質問をしているわけなんです。そういう点から考えて、たとえば中立予算であるとか、あるいは健全予算である。あるいはインフレ予算とも言える。しかし、それであるようでないような、どちらかということははっきり言えない。こういう結びをされたわけなんですね。政府は中立健全なる均衡予算であると言っておったが、後退したようだ、こういうふうに言われておきながら、あとではどちらとも言えない予算だ。ことにインフレの問題については、これはインフレになるおそれがある予算だとも言えるが、必ずしもそうは言えない、こういうふうにおっしゃっているのですが、私はこのことについて決してあなたとここで論争する考えは全然ございませんから、気楽な気持でお答えいただけばそれでけっこうなんです。  そこで、そういうようないろいろな問題を説明する材料として公共事業の問題をお取り扱いになったようですが、公共事業は、これは御承知の通り、治山治水の十カ年計画を立てまして、ことしの予算は五百九十二億円、道路は、これも年次計画を立てて八百九十億円、それから港湾の問題も計画を立ててやっておるのですが、二百三億円、それから農業基盤の整備費、いわゆる生産向上のための整備費ですが、これが三百八十九億円、それから伊勢湾台風を含むいわゆる災害復旧、これが五百八十億円なんです。去年に比べて三百四十二億円ふえた。こういうことを見て、一部の人たちが土建予算である、こういう国民の反感を買うようなことが世の中で一部行なわれているわけです。これは一から十までそうでないとは私どもも言いませんけれども、しかしながら私どもは今言ったようなこういう大事な問題はやらなければならない。(「与党がそんなことを言っちゃいかぬ」と呼ぶ者あり)そういう意味じゃないのです。私の言うのは、これは土建予算というものじゃない。公共事業というものは国民の生活にこういうふうにいい影響を持っておるのだ。世間で一部、土建予算だと言っている、そういう声を聞かぬでもないかと言うのですよ。その声を聞かぬでもないということは、そういう連中がいるというだけです。私はこれを承認しているのではないのですよ。ただ私どもは、今言うように、積極的に国民生活に影響を及ぼしているのだ、土建予算などという、国民に反感を与えるような言葉で表現するのは不適当だと思っているが、あなたはどうお考えになっているかという点です。これをはっきり言ってもらいたい。こういうことはあと回しにしてよろしい、もっとほかの方に予算を回したらいいだろうというふうにお考えになっているか、この点なんです。
  23. 佐藤進

    佐藤公述人 新しく出された問題は二つあるようでありまして、一番初めに、今度の予算規模から見て、それが健全財政の線を守ったものか、インフレの萌芽を持つものなのか、そういう問題について……。
  24. 小川半次

    小川委員長 もう一つ中立かということを言っておりますから……。
  25. 佐藤進

    佐藤公述人 中立財政健全財政と同じ意味だと思いまして省略させていただいたわけでありますが、中立予算景気に対して中立である、その問題については何とも申せませんと言ったわけであります。それは数量的に財政経済に対する、特に景気に対する影響というものは計算できない。そういう意味でどの程度多くなったからどの程度インフレが出てきた、そういう形でははっきり確認できない。しかしいろいろ心配な点はある。その一つは、やはり何といっても心理的な影響である。政府の方でも、規模をふやして、特に緊縮をやるという心構えを示さないと、やはりそういう形での過剰投資なりあるいは積極的な設備投資の拡大をやるというようなこと、それからいろいろ物価の値上がりなどがある、たとえば電気、ガス、交通料金などがだんだん上がっていくのじゃないか、そういう心配を国民は持っておる。そういう心配に対して、政府の方としてはここで、非常に重要ないわば日本経済の曲がりかどに来ているような時期だから、ほんとうに中立財政なら中立財政を守る、そのためには財政規模をいわば緊縮する、そういう態度をはっきり示せば、それによってある線がはっきり貫かれると思うのですが、今度の場合には、最初に立てた案というものに対して約三百億円も膨張してしまっておる、補正予算というものが二次、三次と続いておる、そういういわば国民のマインドに与える影響というものが一つの心配の材料になる、こういうふうに申し上げたわけであります。  それから公共事業費の問題で、土建屋予算あるいは土木予算——土木予算ということは別に特にそれを非難した、国民に悪い印象、影響を及ぼす言葉だとは思えないのですが、土建屋予算というのが特にそういう悪い印象を与えるかどうか。御心配のような点があるとすれば、それはこういう意味なんだということを同時に言わなければいけない。やはり用語としましては、公共事業はむしろ私どもとしましては、産業投資に対して行政投資、この行政投資が非常にふえてくるということがどういう意味を持っておるかというようなふうに考えていきたいと思っております。こういう道路、港湾、治山治水、こういう事業の一つの特徴は、これは一般に産業基盤強化といわれておる事業もそうですけれども生産物を生み出すに非常に長く時間がかかるもの、あるいはまた生産物を生み出すことのないそういう事業が多い。そうすると、購買力だけ大きくなって、生産物がそれに伴って出ない公共事業をどんどんやっていくということは、そのねらいはいいし、それはやはり国民の福祉になる。そういうものが非常に多いと思いますが、その経済的な効果を十分考えておやりにならないと……。やはりここで公共事業の政治的な性格だけじゃなく、経済的な景気に及ぼす影響というような面でも、もう少し考えていきたい。用語としましては、私どもとしましては、公共事業ないし行政投資、そういうことでそういうことの効果を考えてみたい、そう思っておる次第であります。
  26. 上林山榮吉

    ○上林山委員 時間の関係もありますから、これ以上は論争——論争する意思は全然ないのでありますが、これ以上お尋ねするのもどうかと思いますので、やめますけれども、ただ要望として、私どもは、予算書をよくごらんいただいて、数字も検討いただいて、そしてあなた独特の立場からこれを批判していただく、こういう気持で公述願ったと思いまして、ああいう質問も継続したわけでございましたが、その辺のところはどうぞ一つお含みの上で、今後また機会を与えていただきたいと思います。
  27. 小川半次

  28. 永井勝次郎

    ○永井委員 ただいま大へん適切な御意見をいただきまして、非常に参考になりましたことを、厚くお礼を申し上げる次第でございます。  それにつきまして、ニ、三お尋ねをいたしたいと思います。ただいま上林山委員から、いろいろ具体的な内容お話もあったわけでありますが、先生は、具体的な問題ではなくて、基本的な問題についての分析がなされたわけであります。そこでお伺いいたしたいことは、予算全体の規模の中で、農業関係、あるいは中小企業関係、あるいは教育予算、それから社会保障制度、こういったものの配分と、防衛関係であるとかあるいは公共事業というものの内容としての道路、港湾といったような土建予算というものの配分が、大体先進国の実例から見て、日本はどんな位置にあるのか。前年度予算に比べますと、予算が伸びた縮んだということがありますけれども、もっと基本的に、予算全体の規模の配分の上における比率に照らしまして、日本予算というものがどういう地位にあるだろうかということについて、御意見が伺えればしあわせだと思います。
  29. 佐藤進

    佐藤公述人 予算の全体の構成という問題でありますが、いろいろ問題がありまして、一つはやはり今後の——現在もそうでありますが、軍事費関係支出というものが、今後どういうふうになるかということです。来年以降国庫債務の負担行為のようなものが非常に多いのでありますが、狭義の軍事費、つまり防衛庁費、そういうもののほかに、旧軍人恩給費だとか、賠償費だとか、戦争に伴う跡始末の費用、こういうものを含めるというと、予算の全体の中で、広義の防衛関係、軍事費で一七・八%の比率がすでに確定されておる。しかも、固有の中央政府予算の中で、最も大きな費目を占めますのは、たとえば文教費とかそれから地方財政費、これはもちろんでありますが、これはすべて地方に行くもの。文教関係費の中でも、義務教育費の国庫負担金は地方に行く。それから公共事業の中でも、いわゆる国庫支出金という形で、かなりの額のものが一般会計から地方へ行く。地方団体が実際使っている費用として向かっておる。そういう関係から、国の事業としてやはり軍事費と、広い意味での社会保障費というのが非常に大きい。これはやはり先進国の財政の、一般的性格にだんだん近づいてきておる、こういうふうに考えます。たとえば、西ドイツにおいて一番大きい費用は社会保障関係費で、四〇%ないしそれ以上というものが社会保障で支出されている。やはり社会保障費というのは、先ほど自由民主党の上林山さんがおっしゃったように、福祉国家を作るというねらいは確かにあると思いますが、一方では、やはり社会保障をはっきり確立しておくことは、景気政策との関係においてもかなり重要である。不景気になっても、それだけ購買力が減らない、そういうことのためにも社会保障というものは大いに拡大しておく必要がある。  なお軍事費の点に関しては、こういうふうに軍事費の一般的比重というものは、単に一般会計予算書の分類で比重をはじき出すだけではなくて、実際国が担当している費用の中で、軍事費がどれくらい占めているか、そういう比重を計算されると、かなり大きな比重が出てくる。軍事費につきましては、これはやはり少なければ少ないほどいいじゃないか。日本経済が現在まで復興してきた一つの理由は、軍事費支出というものが少なかったからである、そういうのも一理だと思います。  全体の構造につきましては、個々の項目、費目をいじくるということは、私の公述には出ていなかったので、一般的なお答えになったと思いますが、以上であります。
  30. 永井勝次郎

    ○永井委員 次に、世の中がよくなりますためには、一人々々の人間がよくならなければ、世の中はよくならない。そうしますと、やはり世の中をよくし、民族を引き上げて参ります基本は教育にあるのじゃないか、教育関係予算をもっとつぎ込まなければならぬではないか、こう思うのです。それから、日本産業的にももっと近代化していきますためには、試験研究調査というものが土台になって、その上に科学的な基盤を確立していくことが重要ではないか、そういう関係予算が非常に少ないではないか、こう思うのであります。一つ一つの問題を取り上げて申しますと時間がかかりますから申し上げませんが、たとえば、本年度予算に現われた畜産費は、予算の上では一切がっさいひっくるめて三十六億くらいあります。しかし、その中の十六億というのが、牛乳を学校の子供に飲ませるための補助金である。あるいは大豆の問題、これを自由化して、国際市場で戦うというようなときに、これから大豆を試験研究するのだ、その試験研究の予算がどのくらい計上されておるかというと、わずか七百万円だ。あるいは小麦についてもっと対策を立てなければいかぬ、その試験研究費が一千万円足らずだ。こういうように、ただ項目はちょっとあるのですけれども、中身はこんな貧弱なものだ。こういうようなことを考えますと、これからほんとうに日本民族を引き上げていく、産業のもっと国際的な競争力のある土台を築き上げていくという上においては非常に不十分な予算ではないかと思うのでありますが、この点についての御所見をお伺いいたします。
  31. 佐藤進

    佐藤公述人 文教関係の費用あるいは科学振興の費用がどれくらいになるか、またそれが多いか少ないか、そういうことでありますが、文教関係の費用は全体の予算の中で一一%、一二%くらいを占めておる。若干年々改善されてきたとは思いますが、この点につきましては、確かに科学技術振興、それから教育に対する国家の義務というものは非常に重要でありますから、それはいわば多ければ多いほどいい。しかし、個々の点につきましてはそれ以上お答えできないのであります。
  32. 小川半次

    小川委員長 早稲田柳右工門君。
  33. 早稻田柳右エ門

    ○早稻田委員 時間がありませんので、重要なところを二点お尋ねしたいと思います。  一つは減税の問題でございますが、先ほどお話のうちにもありましたが、政府は明年度は減税をやる。しかし、今年は災害関係で巨額の歳出を余儀なくされたからできない。減税の方法については、税制審議会でいろいろ審議してやる、こう言っておるわけでありますが、先ほどお説のありましたように、貿易自由化に伴う企業課税、それから所得倍増計画の進展に伴う税法の改正ということは考えなければならぬと思うのですが、税制がこのままでは不均衡、不合理なものになることは言を待ちません。それにつきまして、先生のこうした税制改正に関するお考えがもしあるならば、この際伺っておきたいと思います。  それからもう一点は、これも先ほど御指摘のありました毎年地方財政の問題で予算編成に当たって最後までごたごたいたします。これについてはいろいろ議論はありますけれども、大蔵当局考え方、自治庁当局考え方が非常に違っておる。実態認識が違っておると私どもは思っておるわけです。しかし、地方財政計画は今年度一兆五千三百何億になっておりますか、国全体の財政からいって、大きな比重を持っておる。これは根本的に是正をしておかなければならぬ問題だと思う。こういう問題についてもし御研究が願えておりましたら、先生の御高見を伺っておきたいと思います。
  34. 佐藤進

    佐藤公述人 いずれの点もいわば私の公述の範囲から離れる点で詳しい御返事ができないので、ごく大ざっぱに考え方を申し上げます。  初めの減税の問題は、ある程度繰り返しになるかと思いますが、好況の時期に収入を高めるために減税をやらないでそれをむしろためて、たとえば三十三年度行なわれたような剰余金、蓄積資金の形成というような形で税源をためておく。減税は今度の予算で全然ない。初めて十年ぶりの予算だということですが、減税は別にそれをやる必要があるかどうか。どちらもこれは両面の効果がありますから、減税をやらないで蓄積をやるというのと、それから減税をして、それでまたたとえば増税が必要になったときに、その税率を復活するという形でとる、そういう二つの考え方があります。少なくともここで言いたいことは、細部的な税制改正というものを今までシャウプ勧告以来数年間毎年やってきたわけでありますけれども、そういう意味での局部的税制改正に基づく減税というものはこの際むしろやめた方がいい。税制調査会で現在進行中の討議の内容を十分検討してはおりませんけれども、その答申を待って一挙に大改正をやる。そこで減税を当然考える。税制調査会はたしか三年の調査期間ということで、そういう意味においてほんとうに根本的な討議をやるということでありますから、三十六年度も別にそういう形での先約ということをしなくとも済む問題ではないか。特に今度の税制調査会の一つの問題として取り上げられておる配当課税の問題とか二重課税の問題、それから配当免税の問題とか増資配当の免税を早くやるとかいう形で問題が取り上げられておるのですけれども、その理由として企業体質改善、自己資本の増大のため、こういうことを言っておりますが、何か非常に大企業ないし企業資本の立場にだけ立ってものを考えてやっておるという気がする。やはり本論で申し上げましたように、自由化になる、またあるいは不況が三年たってやってくるというようなことで、一番被害を受けるのは中小企業や労働者、そういう人たちでありますから、むしろ社会政策的な観点に立っての税制の配慮、減税も大企業に対して行なうのではなくて、むしろほんとうにそれを必要としておる広い層に及ぼした方がかえっていいのじゃないか。特に景気対策との関係において一番めんどうなのは、租税特別措置というのが非常にたくさんある。千億あるいはもっとそれ以上の特別措置があるといわれておりますが、これがやはり日本の累進所得税制度を非常にまぎらわしくしておる。累進所得税をはっきり立てると、これが一つの自動的な安定装置になって景気の平準化に役立つ、そういう議論は正しいと思うのですが、それはやはり税法がはっきり高額所得には高率累進という制度をとって初めて可能なわけです。そういう制度が、特別措置によって、外見的な公平も失われている。これはやはりむしろ特別措置を早くやめる、そういうふうに考えた方がいいのじゃないかと思います。  時間がありませんので、地方財政の方はこれは私の専門外でありますが、この数年来地方財政の状況は改善されたとはいっても、それからまた今回の予算で地方債の規模が拡大されたとか交付税は打ち切られたとか、そういう点は何らかのプラスになるさしあたっての点と思いますが、やはり大きく申し上げまして、戦前と戦後の地方財政の違いというものは、戦前は地方財政は国の財政の半分くらいの規模であった。それが戦後は倍、ほぼ中央財政に匹敵する、あるいはそれより大きい額になる。これは戦後の財政民主化、地方自治のための地方の固有経費の増大、地方の政府の人件費、こういうものを中心にして次第に経費が増大しておる。それともう一つは、政府の委託事業関係の費用、こういうものに伴う共同の支出というものの分担が非常にふえておる。そういう過程を通して、今度の折衝の過程でもよく現われているのでありますけれども、地方財政は国の監督のもとにますます従えられてきつつある。国の地方に対する監督権がますます強化されるというような、事実上そういうことになっておるので、やはりこれは大きな観点から、地方自治の危機という問題としてとらえていかなければいけないと思います。ごく一般的なお答えでありますが……。
  35. 小川半次

    小川委員長 他に御質疑がなければ、佐藤公述人に対する質疑は終了いたしました。  佐藤公述人には、御多用中のところ長時間にわたり御出席をわずらわしまして、貴重なる御意見の御開陳をいただきまして、委員長より厚く御礼申し上げます。  この際、午後一時まで休憩いたします。     午後零時二十二分休憩      ————◇—————     午後一時三十五分開議
  36. 小川半次

    小川委員長 休憩前に引き続き、公聴会を続行いたします。  この際、御出席公述人各位にごあいさつを申し上げます。本日は御多忙のところ貴重なお時間をさいて御出席いただきましてまことにありがとうございます。委員長といたしまして厚くお礼を申し上げます。  申すまでもなく、本公聴会を開きますのは、目下本委員会において審査中の昭和三十五年度予算につきまして広く学識経験者たる各位の御意見をお聞きいたしまして、本予算審査を一そう権威あらしめようとするものであります。各位の忌憚ない御意見を承ることができますれば、本委員会の今後の審査に多大の参考になるものと存ずる次第であります。  議事は大島さん、林さんの順序で御一名ずつ順次御意見開陳を願いました後、順次その質疑を済ませていくことにいたしたいと存じます。公述人各位の御意見を述べられる時間は、議事の都合上約三十分程度にお願いいたしたいと存じます。  なお、念のため申し上げますが、衆議院規則の定めるところによりまして、発言の際は委員長の許可を得ることになっております。また発言内容意見を聞こうとする案件の範囲を越えてはならないことになっております。なお、委員公述人質疑することができますが、公述人委員に対して質疑することができませんから、さよう御了承いただきたいと存じます。  それではまず経済評論家大島堅造君に御意見開陳をお願いいたします。
  37. 大島堅造

    ○大島公述人 与えられた時間の範囲におきまして、当委員会からお指図を受けました世界経済観点から目下御審議にかかる予算を見て参る、こういうことでありますからそのお指図に従いましてしばらく御清聴をしていただきたいと思います。  皆さんも御承知の通り世界景気は一昨年の下半期から好転をして参りまして昨年一カ年これが続いた。そうして今後もまた続く模様でありますが、ことしの上半期あたりまでであろう、下半期は少し問題がある、こういうような見方が世界のおもな国の専門家において一致しておるようであります。こういう背景を持ちまして、どこの国でもそれを予算の編成に考慮を加えまして、だんだんとできた予算が発表になり議会の審議にかかっておる状況であります。最近の予算の編成の方向を見ますというと、インフレを防ぐ、健全通貨の線を万難を排して維持する、こういうことが大きな目標になりまして、そのもとに予算を編成するというのが一つの大きな流れになっております。私もそのやり方は非常にけっこうなことだと思っておりまして、予算の方からインフレが起こってだんだん物価が上がってくるということになりますと、国民は生計費が非常に上がって苦しくなりますし、国家の予算もそのまま実行できないということになりますから、やはり予算の編成の上においては、健全通貨の線を守る、インフレを起こさない、こういう方針でいくのが当然だと考えております。現在大国の予算のうちで、すでに発表になって議会の審議にかかっておるものは、アメリカがごらんの通り先月発表になりまして、目下議会の審議にかかっております。それから西ドイツも昨年の十一月に閣議で決定しまして、それが議会に提出されて、今委員会の手で審議を受けておるようであります。それからフランスもやはり昨年の十一月に予算が決定しまして、これは議会をもうすでに大多数でパスしております。上下両院とも可決されました。そういうわけで、まだ出ない大国の予算は、四月に出るイギリスの予算だけでありますが、これも今のイギリスの世論から見ますと、景気が非常にいいものでありますから、それが行き過ぎてはいけない、こういうので、大体緊縮予算にいくんじゃないかというふうに言われております。  そこで、各国の予算はそれぞれ国情がありますから、それをすぐ日本予算の編成に参考にするというわけにはいきません。たとえばアメリカのように国防を中心にした予算、総歳出の五七・一%を国防費に向ける、こういう予算もありまするし、あるいはイギリスのように国防と社会福祉とを両方ちょうど対等に扱いまして、金額もほとんど同じでありますが、こういうやり方をしている国もあります。それから新しい西ドイツの予算のように、社会福祉費を非常にたくさんことしからとりまして、国防費を第二順位に置く、こういうことをやっている国もあります。しかしながら、先ほど申しましたような大きな原則というものはどこの国でも守っているということは、われわれははっきりとつかんでおるわけであります。  そこで、世界の大国の予算編成の方針が、今申しました通りインフレを防止するということ、通貨の健全性を維持する、こういうことに目標を置いておりますから、やはりこの世界の大勢に合わせて、それを尺度としまして、ただいま日本の議会でも論議されておる新年度予算をわれわれは見るということが適当ではないか、こう考えております。  そこで、日本の今度の予算がはたして日本経済に妥当であるかどうかということをわれわれが見る上におきましては、日本ばかりではありません。どこの国でもそうでありますけれども、国民総生産に対してどれだけ予算がそれを取り上げるか、どれだけそれを消費するかというそのパーセンテージがやはり一つの指標になるわけであります。その意味におきまして今回の日本予算を見ますと、中央政府予算と地方政府予算と、両方で歳出が三兆一千七十二億ということになっております。これを経済企画庁の調べました国民総生産に比較してみますと、二四・四%に当たります。ずいぶん大きな割合になるわけでありまして、客観的に見ますと、少し荷が重過ぎるんじゃないか。しかし日本の特殊の事情考えれば、これまたやむを得ないということも言えるかもしれません。  それから、アメリカの、最近に発表になりまして現在審議されておる予算を見ますと、歳出が七百八十億ドル余りでありまして、結局国民総生産の二〇%に当たります。もっともこれはアメリカの連邦政府予算でありまして、州、市その他の地方団体の予算を入れますというと、大体五百億ドルほどふえることになります。日本では中央政府予算と地方政府予算とがとんとんでありますけれども、アメリカの方は地方予算は中央政府予算よりずっと落ちております。     〔委員長退席、野田(卯)委員長代   理着席〕 そういうものを入れますというとこれがまたふえて参ります。また日本の中央政府予算だけを国民総生産に当てて参りますというと、今の半分の大体一二%強というところになります。そう考えますというと、アメリカよりも割合は、中央政府に関する限りにおいては、国民総生産に対しては数字は低いということが言えるわけであります。  それから西ドイツを見ますというと、これは中央、地方みんな入っておりますが、現に出ておる予算によりますというと、大体一七・七%出ることになっておりまして、割合が非常に低いということがわかるわけであります。こういうわけでありますから、どうしても予算をもっと膨張させたい、拡大させたいという念願があるので、それが今回の予算の編成に実現されたわけであります。  イギリスの予算は四月にならないとわかりませんし、またイギリスの経済白書が出るのは三月の末でありますから、国民総生産に対する予算の割合というものが計算ができません。しかしながらイギリスは伝統的に一番国民総生産の多くを予算にとる、こういうことになっておりまして、財政学の方から申しますと、国民総生産あるいは国民所得といってもいいかもしれません、それの大体二五%まで税にとっても国家の経済に害はない、二五%以上になるとインフレを起こし、国家の経済を混乱に導く、こういうことをオックスフォード大学の有名なコーリン・クラーク教授は言っております。その説にイギリスの予算を照らし合わせますというと、ひどいときには四〇%くらいになっておりました。最近ではだいぶ減って三〇%そこそこになっておりますけれども、それでも今のコーリン・クラークの理論よりもまだオーバーをしておる、こういう状況であります。そういうわけで各国さまざまの予算の編成の仕方をやっておる、こういうわけであります。  それで、アメリカの予算が一番今の筋を通した点において、われわれに参考になるのでありますけれども、ごらんの通り、アメリカは建国以来の好景気に恵まれておるのであります。ことし一ぱいは大丈夫だろう。中には下半期はまだどうなるかわからぬと言う人もありますけれども、大体において六〇年の好景気というものはもう動かないだろう、こういうことを申しております。そういう点についてはもう大統領も財界、学界ともにみな意見が一致しております。そういう際でありますから、どうしても予算の膨張ということは国民の希望に従って避けられないのでありますけれども、しかしながら、今年の提出された六一年度予算を見ますと、この好景気歳入が前年度よりも五十四億ドルもふえる、自然増収が五十四億ドルになっております。それに対して、歳出は少しふやして十四億ドル、こういう程度でありまして、緊縮財政と申しましても、ずいぶん手きびしい予算の編成のやり方じゃないか。その結果四十二億ドルの黒字を出しまして、その黒字を減税に向けるかあるいは公債の償還に向けるかというところでありますが、アイゼンハワー大統領はそれを公債の償還に充てて、減税の方は先になってやるということになっております。アイゼンハワー大統領の任期中には、もう減税というものはないとわれわれは見ております。そういうわけでありまして、非常に手きびしい予算を組んだ。これがいろいろ問題になっておりまして、議会でも、野党の民主党側では、こういう景気のいいときに、国民総生産が四%、四%半と一カ年にふえておりますときに、ちょっとぐらいインフレになってもかまわぬから、もう少し財政を膨張さしたらどうか、こういう意見があります。これに対して政府の共和党の方では、あくまでもドルの健全化を守る、こういう線でこういう予算を出したわけであります。アメリカの新聞や雑誌の批評によりますと、いろいろ意見もありますけれども、結局、今度の予算案で、ガソリン税を上げるとか郵税を上げるとかいうことは、これは事によると議会で問題を起こして否決されるかもしらぬ、しかしながら大筋はおそらく動かないであろう、このままパスするだろうというふうにいわれております。  これが健全財政の一番の代表でありまして、次に西ドイツの予算を見ますと、これはだいぶ問題があるわけであります。西ドイツはごらんの通り、前の大蔵大臣のシェーファー博士のときには非常にきびしい予算を編成しまして、そうして景気がよくなって、自然増収が非常にふえる、それをみなカン詰にして、マーケットに出さないというので、金融界からも財界からもかなり非難がありました。今の新しい大蔵大臣のエッツェル博士は少しやり方が違いまして、ドイツは長年ひどい耐乏生活を国民にしいた、食うか食わずというような悲惨な状況を長く続けさした、ドイツの実力はできたんだから、そういつまでも窮屈にする必要はなかろう、少し手をゆるめてやろう、こういうような考えが手伝ったのではないかと思います。ことしの予算は、初めの要求は非常に大きかったのをだんだんと削っていきまして、結局大蔵省がそれをまとめて議会に出した総歳出というのは、四百一億六千四百万マルクであります。日本に換算すると、三兆四千百三十八億円でありますから、ざっと日本歳出の倍、こういうところであります。それに対して歳入は、もちろん景気が非常にいいものでありますから、膨張して自然増収が非常にふえてきておりますけれども、三百六十八億七千万マルクであります。結局この予算の上の赤字は二十一億五千六百万マルク出るわけであります。ざっと千八百億円ほどの赤字が出る。この赤字はどうしても公債を発行して資金を調達しなければならない、こういうことになりまして、現に第一回の公債を昨年の十一月五日に三億マルク発行しました。それからことしになって、一月にたしか五億マルクしたはずであります。全部でざっと三十億マルクは公債を発行して支弁をする、こういうことになったわけであります。  それで歳出内容を見ますと、さっきも申しました通り、社会福祉費というものを非常にふやしまして、それが四百一億マルクのうちで百三十四億八千四百万マルク、全体の歳出の三三・六%を占めておる。それに次ぐ費目は国防費でありまして、これは百七億二千万マルクで二六・七%を占めておるのであります。長年戦後ドイツの予算を注意をしてきた私にとっては、この国防予算がずっとトップにおったのが第二位になったということは、ことしの予算が初めてであります。  社会福祉の部面でどういうところに力を入れてふやしたかと申しますと、社会保険の政府の負担を非常に多くして、それで六十一億マルクほどを出しておる。その次は戦争による戦没者の遺族の救済とか、戦傷者の救済とか、そういうものでありまして、それには四十一億マルクほど出しておる。こういうわけで、みな使途はけっこうな使途だと思っております。  そういうわけで、結局三十億マルクの赤字が出た。それでこれに対して、こういう予算の編成の方法ではドイツのマルクの価値を下落に導くんじゃないか、通貨安定性がくずれるんじゃないかということからして、きびしい批判が学界にも財界にもありまして、ことに昨年の十一月二十日に、ドイツの中央銀行であるブンデスバンクの理事会と申しますか、厳重に言いますと日本銀行の政策委員会に該当するのでありますが、その内容は必ずしも同じではありません。ここで決議をしまして発表したのであります。その内容はどうかと申しますと、最近中央政府ばかりでなく地方政府でも、非常に予算を膨張させる傾向がある、その結果赤字公債を発行する、その赤字公債は資本市場で消化しなければならないのでありますけれども、資本市場には、ドイツの景気がいいために、投資のために増資株であるとか、あるいは社債であるとかいうものが非常にたくさん出ている状況なのである、そういうところへもっていって政府の公債が三十億マルクも出る、地方債を合わせると、はるかにそれよりも多い数字になる、それでは通貨価値の維持を責任としておるところの中央銀行としては非常に心配せざるを得ないんだ。で、どうしても歳出が必要であるというならば増税をしたらどうか、あるいは増税ができないならば、歳出の不急不要の部門を削ったらどうか、赤字公債を出すということはやめてもらいたい、通貨価値の維持の立場からこれを言うのだということを述べております。やはりそれがだいぶ政府の方にも響いておりまして、エッツェル蔵相なんかも、やはりできるだけ詰める方針だと言っておりますが、現在ではやはり公債の発行を続けておる、こういう状況であります。で、アメリカと比べてドイツはちょっと軌道はずれの予算の編成をしましたけれども、これはドイツの国情から見てやむを得ないものではないか、こういうふうに考えております。  こういう世界予算編成の大きな流れと、それからアメリカ、西ドイツの実例を見て、日本の新しい予算を見るときに、全体としては、一般会計においては歳入歳出が公債によらないでバランスしておりますからして、これは非常にいい、世界の大きな流れに沿うた健全予算であると言っても間違いない、こう思います。全体として歳出が多少ふえた、一般会計では、一一・一%ふえておりまして、前年度補正を入れても、なお四・八%ふえておるということでありますが、やはり一国の国民経済というものは成長する、昨年は一四%の成長をして、ことしはそれがずっと落ちて七%台になった、こういうことでありますが、国民経済が膨張するんだから、予算も自然それに従ってある程度膨張するということは、これはやむを得ない。人口もふえますし、いろいろ設備も必要とする。ことに昨年の伊勢湾の台風という不幸な問題が起こりまして、そのあとの災害復興策というようなものが臨時に入っておりますから、これはいたし方がないと考えております。  ただその内容を見ますというと、多少やはり問題になる点があると思います。  まず第一に、文教費の方でありますけれども日本の技術関係政府歳出というものが、今の程度でいいかどうかということが、一つの問題になります。どこの国でも、この技術については非常に力を入れて、そうして外国に負けないようにする。こういう意味におきまして、今の本年度予算に盛られた数字というものは、どうも少し足りないのじゃないかというような気がいたすのであります。  それから第二は、貿易関係の、貿易振興の方の援助でありまして、申すまでもなく、日本経済というものは輸出貿易発展の上に立っておる。イギリスも西ドイツもそうでありますけれども日本は特にそういう状況にあるわけであります。従って、何とかして輸出貿易をもっともっとふやさなければいけない。六〇年度は幾らになるか、ある程度増加は望まれますけれども、大体三十五億ドル程度ではないか、こう考えております。ところが、一時だいぶ経済があぶなくなってきたフランスにおいても、五十億ドル以上の輸出をする。西ドイツは約百億ドルの輸出をしておる。イギリスも大体それに近い輸出をしている。こういう状況で、これらの国の好景気というものは、今の輸出の発展によってささえられている。こういう状況でありますからして、これがやはり日本経済の生命線だということを考えますならば、やはりこれももう少しふやす必要があるんじゃないか、こういうふうに考える次第であります。アメリカではごらんの通り民間の会社がそれぞれ莫大な金を研究費に出しておりまして、政府としては別にやっておりますけれども、そうその援助をする必要はないわけであります。しかしながら、それでも政府の方を合わせると、合計百億ドルくらい一カ年に研究費に出しておる、技術の研究に使っておる、こういう状況であります。この辺もやはり多少問題になるのじゃないかと考える次第であります。  それから財政投融資の方でありますが、むしろ問題はこちらの方にあるのではないか。これも増加をした、大体一四%程度ふえておりますが、これはいいとしまして、そのうちの千百十五億円というものは、これは借入金で、公募債で調達するということになっております。金額としては非常に大きな金額ではない、どこまでも預金資金を中心とした資金をもって投融資をやる、こういうのでありますから、健全財政の方には大して影響はないのでありますけれども日本景気が非常に高まってきつつある、こういう際に、募債をしてまでも財政投融資をふやす必要があるかどうか、こういうことが一つの問題になると思うのであります。そしてこの募債をやることによって、日本の資本市場はごらんの通り非常に窮屈になっておりまして、市中銀行も、非常に好ましからぬことでありますけれども日本銀行から二千億円、三千億円という金を借りて、そしてそれをまた一部は投資にも使っておる、こういうので、非常に銀行のやり方としては軌道に合わないやり方であります。  そういうわけであるから、そういう資本の需要というものは資本市場で調達させる、日本銀行の貸付に待たないようにするというのが、これがインフレを押える重要な手段でありますけれども、金額はそう大きくないとはいいながら、千百十五億円を資本市場で公募するということは、インフレを結局においては起こすことになりはしないか、こういう問題が一つ起こります。  それから第二は、それによって赤字公債までも出して、そうして市場から資金を調達して、それを財政投融資に使うということで、今すでにだんだんと行き過ぎになる心配のある日本景気を一そう刺激するようになりはしないかという問題が、第二に起こるわけであります。  第三は、大体今非常に金融が締まっておることはごらんの通りであります。ことしは払い超が、昨年と比べて三十五年度は少ないのでありますからして、一そうこの金融は締まってくる、そこへもっていって資本市場に、千百十五億円とはいいながら、これを負担させるということは、金融を一そう締める原因になりはしないか、これが第三の問題であります。  こういうような問題はもう少し様子を見ないとわかりませんけれども健全財政をやって、そしてインフレを押える、こういう建前から申しますと、少し問題として批判されることになる、こういうふうに考える次第であります。  結論といたしましては、今度の一般会計予算健全財政と見ることはできると私は信じております。ただ問題があるとすれば、財政投融資の方にあるのでありますが、これは当局の運営よろしきを得れば、実害がなくてうまく経過することができるのじゃないか、こういうふうに考えておる次第であります。  時間が参りましたからこれで失礼します。
  38. 野田卯一

    ○野田(卯)委員長代理 ただいまの大島公述人の御発言に対しまして御質疑があればこれを許します。辻原君。
  39. 辻原弘市

    ○辻原委員 一言だけ大島さんにお伺いをしたいのでありますが、それは先ほども貿易の問題について御意見をお聞きいたしたのでありますが、今度の予算編成とそれからわが国経済並びにそれに関連する国際的な経済の背景、その中で行なわれる自由化の問題で、一体今後日本経済が、またそれに伴って日本産業全般がどういう形に移行していくのか、はたしてこの自由化の波を乗り切っていけるかどうかということを非常に懸念をいたしておるわけであります。しばしば政府に対してもそれについての自信のほどをわれわれも聞いておるわけですけれども、いまだに確たる政府のこれに対する具体的な確信というものをわれわれに与えていないわけであります。そういう意味でこの機会に私承りたいのは、今後の日本貿易がかなり先行きが懸念されておる。場合によれば下半期あるいは来年、さ来年等、午前中の公述人の方からもいわゆる外債等の利払い並びに元利払いの関連等からかなり保有外貨というものが窮屈になるんではないか、こういう御意見もあったのですが、そういういろいろな要素を取りまぜて考えてみた場合に、今は非常に好調に推移しておりますけれども、必ずしも将来これに対する見通しとしては楽観を許さないものがある。そうした場合に一体わが国経済に見合う外貨の保有というものは、はたして最低限度どの程度を持たなければならぬものか。これについて外国の例を見ますと、たとえばイタリアにおいて自由化に踏み切った場合はイタリアの外貨にして当時約三十億ドル、それをわが国に当てはめて見ますと二十億程度だといわれておりますが、現在わが国の外貨保有はそれにも満たない十三億ドル強程度の外貨、しかも先行きが懸念される状態の中で、はたしてこの自由化という問題を乗り切っていけるかどうか非常にわれわれとしては疑問が深いわけです。それらの点について諸外国等のいろいろな例もあると思いますので、そういった点からわが国における外貨保有というものは経済に見合ってはたしてどの程度のものを必要とするかという点についての御意見を承ることができましたら、私にお教え願いたいと思います。     〔野田(卯)委員長代理退席、委員   長着席〕
  40. 大島堅造

    ○大島公述人 今の問題でありますね、自由化という最近の問題に結びつけて、日本の保有金外貨がどの程度であれば安心ができるのか、こういう御質問でありますが、外国の例を見ますというと、日本のような十三億幾らというようなわずかな金外貨を持っておる国は少ないのでありまして、ベルギー、オランダというような国でもやはり十四億、十七億ドルというような何を持っております。人口が日本の十分の一くらいでそういう程度の外貨を持っておる。西ドイツはこれは別でありまして、最近だいぶ減らしましたけれども、なおやはり五十億ドル程度は持っておる。イギリスは三十億ドルを割りましたけれども、二十七、八億ドルを持っている、こういうわけで、日本の手持ちの外貨というものは日本経済の全貌から見るというと非常に不十分である、こういうふうに考えるわけであります。私もいろいろの機会において、それを申しましたが、最低十五億ドルはどうしてもなくちゃいけない。欲をいえば二十億ドルは持たなくちゃいけない、こういうことを言ったのでありますが、今でもその信念は変わりません。ヨーロッパの慣行に従いますというと手持外貨というものは輸入の何カ月分を決済することができるか、こういう計算の方法を立てております。一番よけいなのはスイスでありまして、これは一年以上も平気で輸出をもっともしなくも決済ができる二十億ドルほど持っております。それからしてその次は西ドイツでありまして、これも大体十カ月程度輸入の決済の力のある金外貨を持っている。こういうわけであります。日本輸入が割合に少なくて三十数億ドルでありますからして、十三億ドルをそれにぶつけますというと、大体五カ月分くらいの輸入の決済をすることができる、こういうのでありますけれども、さっき御質問にあります通り貿易自由化でもして、綿花とか、羊毛というものが非常に大量に入ってくる、こういう主要原料が大量に入ってくるということになるというと、かなりやはり注意しなければならないと思っております。そういうわけでありますから、これは自由化をした以上は、政府の方で、あるいは業者の方でそれが日本の手持ち外貨の大きなロスに終わらないように気を配ってもらいたい。お互いで激しい競争をしてたくさん輸入するというようなことでは、大事な外貨がじきになくなってしまいます。この点が非常に大きな問題になるのじゃないか。ただ通貨自由化にしてもそうでありまして、これは一そうゆっくりやってもらいたいのでありますが、国際協定によりますというと、ガットがその一つの例でありますけれども貿易自由化し、通貨自由化をやって、そうして対外収支勘定が赤字になってくる。それがために国内経済の均齊が破れる、こういうことが起こった場合においては、今の自由化を一時的にやめてもいい、あるいはその程度を減らしてもいい、こういうような規定があります。イギリスも、フランスも前にそれを利用したことがあるくらいであります。それからもう一つは、ごらんの通り昨年九月の国際通貨基金と世界銀行の年次総会で、通貨基金の方もそうでありますけれども、資本金を五〇%ふやしました。日本は従来から低かったものでありますからニ億五千万ドルから五億ドルになって、大国の次くらいのところまで出資をしたわけであります。これがありますから、日本に限らずどこの国でも貿易自由化通貨自由化をやって、そうしてそれがために為替相場の維持ができない、対外収支の決済に困難を感ずるという場合においては、日本はきれいに返して一文も借金がありませんので、大手を振って借り入れを申し込むことができる、こういうことになっておりますからして、それがいよいよ困った場合にはわれわれに非常に役をする。全然そういうものがないということになるというと、これはうっかりやれませんけれども、そこで対外収支関係一つの困難を脱離する道が開かれていると言っていいと思います。それで貿易自由化でありますけれども、これはやってみないとほんとうにわかりません。かなり重大な問題でありまして、私は一番困るのは中小関係の方々が一番困るのじゃないかと考えております。日本では貿易におきましても雑貨というものが非常に重大でありまして、これが輸出の一つのバック・ボーンになっておるくらいでありますから、これはやはり特に政府の方で資金のめんどうを見まして、そして新しい能率のいい設備に切りかえるようにすることが肝心じゃないか。今までアメリカから要請されまして、ドル物資の自由化もやり、それからほかの一般の自由化もやった実例はイギリスとフランスと二つあります。イギリスの場合におきましては、ほとんどこの二月の一日からドル物資も一〇〇%に近い自由化を実行しております。イギリスの方でいったところを見ますと、大体それをやることによって一カ年千八百万ポンド程度輸入がふえるにすぎないのだ、ほかのものはアメリカのコストの高いものが入ってきても、イギリスのマーケットでだれも買うものがない、こういっております。どういうものが入ってくるかというと、これはイギリスに全然できない薬品類などがアメリカにありますが、そういうものであるとか、あるいは婦人の既製服がファッションの関係で婦人に非常に好かれておるからそういうものが入ってくる、こういう程度だからちっとも心配する必要はない、こういうふうにイギリスはたかをくくっております。それからフランスはどうかというと、やはり自動車などが入ってくるということが問題になっております。前に非常に入っておりました。ところが最近のフランスの雑誌などを見ますと、ちっとも心配する必要はない、こういっております。なぜかと申しますと、たとえばフランスのおもな輸出産業である自動車とか、機械とか、エレクトロニクスとか、そういうものの産業はアメリカの援助で最新式の生産設備を持っておる、アメリカと決して遜色ないような程度のものを持っておる、それであるからしてコストは設備の方からいえばちっとも変わらない、そこへもっていってフランスの賃金はアメリカの賃金の三分の一だ、ここに競争力の源泉があるのだ、今後もフランスの作った自動車とがいろいろなものはアメリカへどんどんと出る、これに反してアメリカのものは入ってきてもマーケットがフランスの国内にはないから、高くてだれも買わないから大丈夫だ、こういってたかをくくっております。だからこれらから見ますと、やはりやってみないとほんとうの予想はわからない。だけれども日本の場合におきましては、戦後ずいぶん経済が無理をしております。だから、ふたをあけて大へんだというのでせっかく自由化したものを途中でやめるとかいうようなことがあっては、はなはだ国家の面目に関する問題でありますから、やはり日本実情とにらみ合って日本でできないものは仕方がないのでありますが、国内でもできるものという場合においては、できるだけそれをゆっくりとやってもらいたいというのが私の希望であります。それで同時に、これをやりますと、金融の力のある大企業はどうしてもその力でよけい輸入する。お互いに競争するというようなことはないと思いますけれども競争をして入り用でないものまでも輸入するというようなことのないように、企業方面の自制を私は希望するわけであります。それについては統制になってはいけませんけれども政府民間とよく協力をして、それが過度によけいなものを入れて在外通貨の危機を招くというようなことのないように希望するわけであります。
  41. 辻原弘市

    ○辻原委員 非常に具体的なお話を承って、先生の御意見はかなりよくわかったわけであります。そこで、自由化一つのめどとして、政府の方ではおおむね三年ということを言っているわけですが、今のお話によりますと、かなり慎重にやらなければならぬということと、それから、自由化をやる品目等についてはやはり日本国内産業との見合いにおいてやる必要がある、こういうお話でございました。アメリカを見ても、農産物等においては、これは自由化を必ずしもやっておらない。そういう点からいけば、特にわが国における農業というようなことを考えれば、短期の間にそこまで自由化に踏み切っていくということは大きな影響を与える、そういう見方をわれわれもしている。先生のお考えとして、今ほんとうに日本経済の実勢力というものと見合ってこれをやっていくには、どのくらいの年月をかければよいかというような点についてお話を承ることができたらと思います。  それからもう一つは、これは私のみならず一般の経済学者の間にも、わが国が今自由化に踏み切るにはいろいろな難点があるが、そのうちの一つに数えられるものは日本貿易の構造ではないか。これをヨーロッパ等に比較してみると、輸出率というものが日本の場合には非常に劣っておる。いわゆる極東地域に対する輸出の率は三〇%弱であるに対して、遠いヨーロッパ地域に対しては一〇〇%以上こえている。それは西ヨーロッパ等のあれから見ると逆な形になっているということをよくわれわれも聞くわけでありますが、そういう点についてどういう見方をされているか。また先ほどお述べになりました日本の今後の輸出伸張ということを考えればそこらあたりにも問題があり、貿易構造また輸出率の是正というようなことと相当真剣に取り組んでいかなくちゃならぬ段階ではないかと思うのですが、それについて簡単に御意見を承っておきたいと思います。
  42. 大島堅造

    ○大島公述人 今の第一の問題でありますけれども、フランスでは二カ年というふうに期限を切っております。その二カ年は最長であって、それに至るまでに完全な自由化をやるということを言っております。日本は大体三年というふうにわれわれは聞かされておりますけれども、そうきちっと期限を限ってやるということは問題であって、もっと早くても国内産業影響がなくて済むかもしれませんし、あるいは三年じゃまだいけないということになるかもしれませんから、そこはあんまり窮屈にきちっと期限をきめると、それが国際的な一つの約束みたいになってしまって、その場にいって困るというようなこともないとは限りません。だからして、きちっと期限をきめるのであれば、日本の特殊の立場を考慮してできるだけ長くその期間を置くというふうにするのがいいんじゃないか、こういうふうに考えております。  第二の問題の貿易構造の問題でありますけれども、これはお説の通り日本の将来の大きなマーケットになる東南アジアとか中近東とかいう方面に対しては割合に輸出が伸びない、ヨーロッパとかアメリカとかポンド地域とか、そういうところには割合に伸びている、こういうわけでありますが、ドイツがそれと同じ経験をやりました。ついこの間までは西ドイツは全体の七〇%を西ヨーロッパの諸国に出しておった、それで構造上非常に心配だ、こういうので、ごらんの通りアデナウアー首相がトルコに出かけていって貿易の方の話をする。それから日本にも参りましたエアハルトが何べんも南米あたりを飛び回って販路を広げようとしている。実に席のあたたまるひまもないというのが今のエアハルト経済相の実情であると思います。そういうわけでありまして、ドイツはそれを一生懸命訂正をしようとしているわけであります。それでコモン・マーケットが昨年の一月一日からほんとうに動き出し、関税をお互いの間でテン・パーセント下げることになったものでありますから、コモン・マーケットの間のドイツのマーケットはほかの国に譲って、自分はそのワクの外に出て、そうして、貿易の構造の一方に偏したことを訂正するし、それから同時にもっともっと輸出貿易を拡大しよう。ヨーロッパに限っておったのでは限度があるから、どうしても十分に伸びない。こういう意味でそういう計画をとっております。それが商社側に聞きますと、いろいろ実際になって現われて、国際入札などにそれがはっきり出てきているということを聞きました。インドのソーダの肥料の入札の場合などもそうであって、ドイツが代表して非常に安い札を入れて自分がみなとってしまう。ほかのコモン・マーケットの諸国もやはり同じ札を入れる。こういうようなわけで、それがだんだん外に現われてきておるのが実情なんだ、こう思っております。日本もやはりクレジットを与えなければ物が売れないというのでは困りますから、売った以上は金をちゃんと払ってもらう。そういう意味においては、私も、以前銀行におった経験でも、やはりドル地域とポンド地域は絶対に間違いがありません。売れば、よほどひどいのにひっかからない限り必ず金は私は払ってくれます。ところが新しく日本の市場になる東南アジアが中近東とかアフリカとかいうところは、その通りいかないところがかなりありますから、それも考えなくてはいけない。そうかといって、あまり消極的になると、ヨーロッパの方からどんどん入ってきていますから、向こうに自分の玄関先のマーケットまでもとられてしまうということになって、いろいろのむずかしい問題がこれから貿易政策の上で起こってくるのではないか、こういうふうに考えておるわけであります。
  43. 小川半次

    小川委員長 他に御質疑がなければ、大島公述人に対する質疑は終了いたしました。  大島公述人には御多用中のところ御出席をわずらわし、貴重なる御意見の御開陳をいただきましたことを、委員長より厚く御礼申し上げます。     …………………………………
  44. 小川半次

    小川委員長 次に評論家林克也君に御意見開陳をお願いいたします。
  45. 林克也

    ○林公述人 ただいまの国際的な軍事問題について、今度の防衛予算と関連して申し上げたいと思います。これは私ずっと研究しておりました問題でありますから、私見が多いかと思いますが、全部具体的な問題で申し上げようと思います。  まずこの問題を考えますためには、一九四九年のアメリカの相互防衛援助法第四百五条あるいは五一年に改定されました相互安全保障法の五百二十九条、その項目を頭に入れて軍事問題を考えないといけないわけであります。  その要点はどういうことかと申しますと、まず第一番にMSA協定によりまして軍備をいたしました国は、アメリカの防衛上の利害に反するようなことができない。それはアメリカの防衛に関係しなければいけないという条文が規定されております。このことは今日の日本の防衛問題を考えますにあたって、これがほんとに日本だけの自衛の問題であるかどうかということを考える場合に、非常に重大なポイントになるかと思います。  そこで現在の軍事体制というものを一括して申し上げますと、これはアメリカでも問題になりましたが、ダレス構想の世界戦略が完成した年、これが一九六〇年だということを申しておりますが、その状況は大体どういうことかと申しますと、ヨーロッパではNATOが完成している。それから中近東の中央軍事条約ではCENTOが成立している。東南アジアではSEATO条約機構が完成している。南太平洋においてはANZUS条約が成立している。今回の日本の安保条約の成立をもちまして、この極東のNEATO、東北軍事機構が一応完成した。これがアメリカの評価でございます。  まず、幾つかの問題がございますが、最初に今日日本の防衛問題の基本になっております性格について考える場合に忘れてはならないのは、一九五七年九月十六日のフォーリン・アフェアーズの創刊三十周年記念号に載りました、なくなられたダレス国務長官の論文があります。これを読みますと、ダレスさんは非常に重要なことを言っておるのですが、その中で日本とドイツの核武装をするということ、これが一つ、それから日本とドイツを社会主義圏の東西を梗塞する前衛戦線としなければならないということを書いておりましたあとで、日本の核武装というものが、日本の国民の心理状態その他に対して深刻な影響あることはわかっているけれども、おそらくこれはやがて可能になるだろうというようなことを書かれております。これはかなり長文の論文でありますが、今日日本の防衛の構造を見ますと、この構造がだんだんと実現してくるという感じを私は痛切に感じております。これが九月十六日号に載りましたが、九月二十二日、国務省のスポークスマンから出されました声明には、大体この日本の核武装というものは、一、二年のうちに実現するだろうと当時発表されております。そこで日独の核武装という形、これはすでにドイツでは一九五八年二月、国会が核武装に踏み切りました。日本では皆様の御努力によってまだそのような形が出ておりませんけれども、そういった形の中で一体いかなることが極東に起こるかということが、軍事問題を考えます場合の一つのポイントになります。  これは簡単に申し上げますと、アメリカの極東の配備状態が、一九五七年七月一日から全く一変いたしました。極東戦略はアメリカ本土から出ますと、それがハワイの太平洋司令部に統轄される。ハワイの太平洋司令部から沖縄に出まして、この沖縄を極東の作戦中枢機関としております。日本と韓国と台湾、これは沖縄を取り巻く外郭攻防路線といいますか、外郭防御線の形を構成しております。簡単な表現法を使いますと、現代の軍事科学というものは三つの特質からなっている。それはエレクトロニクス——電子工学とミサイル、これは大陸間弾道弾まで一括したミサイル、それから原水爆の破壊、この三つによって構成された、ハワイを中心とする遠隔制御の作戦構造だということが言えるわけであります。  まずことしの防衛予算を拝見いたしますと、一般は千五百四十五億という数字は、皆様の方が専門でいらっしゃいますから省略いたしますが、そのほかに国庫の債務負担行為によりますものや、あるいは軍人恩給等も含めますと、狭い範囲でも総計二千五百二十八億円という金額になります。そしてこれが総予算の中の二二・四%を占めてきたということは、今日日本の防衛予算が国民の生活にとって決して安易なものでなくなったことを意味していると思います。  そこでこのような予算に裏づけられました軍事的な内容の、日本の自衛隊の装備に関する一部を考えますと、まずはっきり出て参りましたのはミサイル装備化の問題であります。たとえば空軍におきましては、サイドワインダーがすでに注文されて、しかも現物が日本に入ってきたし、またF104が配備されるようになりますと、ミサイル装備の戦闘機部隊というものが日本の上空で配備につくということになります。それから海軍の方は、これは一つ問題がございますが、一九五八年の二月、アメリカの海軍作戦部長のバーク大将が日本にやって参りまして、当時外人記者団と面会しました。そのときに日本の海上自衛隊の任務は何かというインタビューに対しまして、はっきりと答えましたのは、日本の海上自衛隊の任務は、ソビエト、中国の潜水艦を極東地域において封鎖、撃滅するための対潜部隊であるということを言っております。その後バーク大将のいろいろ公表しました資料を見ましても、日本の自衛隊は今回の予算をもちまして、三隊からなる護衛艦隊を作ります。それにまた航空集群という言葉を使っておりますが、八戸と徳島と鹿屋の対潜警戒部隊、これはP2Vを中心とする部隊、こういった海上艦艇と対潜哨戒機を中心として、日本海あるいはシナ海、そしてマリアナ方面に通ずる海上補給の潜水艦遮断作戦に対応する体制をとってきております。  ここで思い出しますのは、ダレス国務長官となくなられた重光外務大臣が安保問題で交渉いたしたことがございますが、何とか不平等的な条件を考慮してほしいということを重光さんが言われたときに、ダレスさんが、ハワイまでとは言わない、せめてマリアナまで日本が防衛できるならということを言っておりますが、まさにそのような潜水艦対策というものが今月出てきている。そして新しい警備艦の中では誘導弾ターターの発注が、すでに四十二発の要請がなされているという形で出てきております。それから陸軍におきましては、これもまた新聞などで一部報道されておりますが、北海道の第七混成団、あれがここ数年間に、ペントミックスという原子戦部隊に改編される。そのために、すでにアメリカが一九五五年の十一月以来持ち込みました原子砲、これは二百三ミリの火砲でありますが、それが二十四門北海道にある。それからまたオネスト・ジョン、これはコンクリートを詰めていると申しますが、実戦の場合には当然核兵器になるわけでありますが、そういったオネスト・ジョン部隊、これらが北海道ですでに日本に供与されている。そしてまたナイキ・アジャックスを装備いたしますために、特に二百七十人前後の自衛隊の士官あるいは下士がアメリカに今派遣されていることは御存じの通りであります。ここで問題になりますのは、かつて韓国、台湾、そういった国々に配備されました共用兵器、つまり一般火薬を使用いたします兵器、弾薬類、あるいは核兵器を装てんする、どちらにも使えるという意味で共用兵器といわれております。それらの種類の兵器がすでに日本に配備されており、これが自衛隊の主力火器になりつつあるということであります。こういった形の中で幾つかの問題が出て参りますが、ここでどうしても、アメリカの戦略がどういう形態をたどって今日日本のそのような強化を必要とするかという問題に入ってみたいと思います。  まず第一番に考えないといけませんことは、朝鮮戦争以後、アメリカの極東戦略というものは根本的な変化をしておりますが、その一例として申し上げますと、朝鮮戦争以前までは、アメリカでは空軍が一番優先的な態度をとっておりました。御存じの通りに一九四七年三月十二日、当時トルーマン大統領のソビエト封じ込め政策が採用されました。これは国策でありまして、その国策を軍事的な手段として遂行していく戦略、これをわれわれは全面戦略と申しておりますが、その全面戦略が採用されたわけであります。その全面戦略を採用するにあたりまして、アメリカの方は、二つの点に立って対ソ優位という判断を当時持っておりました。その一つは、ソビエトは少なくとも十五年は核兵器を持てないという前提であり、もう一つは、核兵器を持てないだけでなく、それを運ぶ長距離爆撃機は長期間にわたって生産し得ないであろう。そのような条件の中で、アメリカは核兵器を持ち、そしてこれを運ぶ長距離爆撃機を保有する場合に、いかなる事態が生じてもソビエトに対して全面的に優位を保ち得る、こういう想定が地球戦略、グローバル・ストラテジーとかあるいはトータル・ストラテジーと呼ばれる体制であります。そのために、御存じの通りに、バンデンバーグ決議案が採用されると同時に、北大西洋軍が創設される。そういう形の中で、当時東ヨーロッパでは人民民主主義革命が進行するという状況の中で、初めて原爆搭載機のB29が八台ヨーロッパに派遣されました。これが一九四六年の六月であります。そしてパトロールという名称のもとに、原爆攻撃隊が常時戦闘配備につく形ができたのですが、これが先ほど申し上げました全面戦略の採用によりまして、社会主義圏を取り巻く地域に西欧側の戦略空軍の陣地が配備されました。これは大体百五十九カ所とか、百六十一カ所とかの大きな戦略空軍の基地でありますが、これがソビエトをぐるっと包囲する形で、いつでもソビエトに対して原爆奇襲攻撃の形をとる。こういう体制で、アメリカは自己の優位というものを当時主張したわけであります。  これがくずれました第一の段階というのは一九四九年九月の二十三日、ソビエトが初めて原子爆弾の保有を公表する。それから二十一日には、中国の人民民主主義共和国が成立する。さらにまた、その同じ年の十一月七日、ソビエトの革命記念日におきまして、ソビエト最高会議がこういう声明をいたしました。それは、もし原子戦争が起こって、アメリカの長距離爆撃機がソビエト圏に対して原爆攻撃を行なうような場合が生じたら、ソビエトの長距離爆撃機は直ちに報復爆撃をアメリカ本土に行なう、こういうことを声明したわけであります。  ここでもって一つの戦略段階の転換が起こります。一方だけが原水爆を持ち、それを運ぶ輸送機を持っておったという状態、これは一方的優位の体制でありますが、相手がそのようなものを持つとなりますと、これを撃った方は必ず報復されるという状態が出て参ります。ここで初めて、相互同じような状態で戦略を反省しなければならないという形が出て参ります。このとき、この問題を解決いたしましたのが、かつて日本の第五空軍の司令官をしておりまして、朝鮮戦争にも出撃したことがありますホワイトヘッド中将でありますが、そのホワイトヘッド中将がアメリカに帰りまして、一九五一年から五四年にわたって、アメリカ本土防衛というものを徹底的に研究いたしました。その結論を向こうの資料で読みますと、こうなっております。  アメリカの爆撃機隊がソビエトに侵入した場合——これは当時ミグ戦闘機が出現いたしまして、アメリカが社会主義圏を取り巻く百五十九カ所ないしは百六十三カ所の戦略基地から一せいに飛び上がりましても、当時配備されました原爆攻撃隊千五百機をもってしては、ソビエト本土の攻撃は不可能である。何となれば、一万六千機のミグ戦闘機が常時配備されておって、とうてい一対一〇の中では、爆撃機はジェット戦闘機に対抗し得ないという結論が出ました。その出発点というものは朝鮮戦争で出てきたわけでありますが、ホワイトヘッド中将はそれをいみじくも感知いたしまして、アメリカの戦略空軍の対ソ攻撃は不利という結論を出した。  一方、アメリカ本土が原爆攻撃を受けた場合どうなるかということを、当時ホワイトヘッド中将は、空軍をニつに分けて、みずからソビエト攻撃機隊指揮官という想定で、アメリカ本土原爆攻撃の演習を実施した判定が出ております。それによりますと、アメリカの国防状態はパーフェクト・ストリップ、つまり完全無防備の状態だという言葉で表現いたしました。これは、アメリカの国防戦略として歴史的な由来があるのであります。つまりアメリカの戦略というものは、一七七六年独立戦争のとき、アメリカ本土を戦場とした。次いで一八六五年南北戦争のときに、アメリカ本土で戦かった。しかしそれ以後は、アメリカ本土が戦場になったことがない。しかも北極海、太平洋、大西洋あるいは南米等を控えまして、アメリカ本土が攻撃される可能性というものがありませんので、そこに勢い、アメリカ本土の防衛というものはコースト・ガード的な、沿岸警備隊的な形に置きかえられました。由来アメリカは、一八九八年から行動を始めまして、ハワイあるいはフィリピン、それから西インド諸島、こういった国々を領有化いたしまして以来、アメリカ本土で戦闘を行なうという考えは全然なくなっており、そのために本土防衛の考え方は失われました。そうして今日まで来たわけでありますが、双方が原水爆と長距離爆撃隊を持った場合、アメリカ本土といえども、完全な攻撃を受ける可能性というものを認知したわけであります。当時この状況をオッペンハイマー教授がいみじくも表現いたしましたのは、びんの中の二匹のサソリというたとえ方でありますが、これはアメリカの国防状態から出てきた言葉であります。  たとえば、その一例といたしまして、一九五四年六月十四日に、アメリカでアラスカからカリブ海に及びます防空演習を行ないましたが、そのときの想定によりますと、四百機のソビエト爆撃機隊がアメリカ本土に侵入したという想定で、その三〇%しか撃滅できない。従って残り七〇%、二百七十五台前後がアメリカ本土に対して数千発の原爆攻撃が可能である、こういう演習の結果が出ました。それがアメリカ本土三千万ないし九千万の死傷という問題であります。この数字は、御存じの通り、昨年原子力委員会で初めて公表されたわけであります。  そういう中でアメリカの原爆独占という形での全面戦略の体制がこわれましたときに、これの指導をいたしてアメリカの戦略を立て直したのが、一九五三年以来昨年の六月までアメリカの統合参謀本部議長をしておったラドフォード大将であります。このいきさつは省略いたしますが、簡単に申し上げますと、五二年の十二月の二日から五日の間、新しいアメリカの世界戦略並びに極東戦略は東京において決定されております。これは、当時アイゼンハワー大統領が当選いたしまして、新しい施政のために朝鮮戦争を視察いたしました帰り、東京におきまして、在日陸海空三軍司令官を呼びまして今後の軍事対策を聞いたわけでありますが、そのとき、ラドフォードが、長年研究のラドフォード構想、後にラドフォード・ドクトリンとか、ラドフォード・ストラテジーとかいわれますが、それを初めて明らかにしたわけであります。これが非常に重要視されまして、ダレスさんか国務長官になると同時に、ラドフォード大将はアイゼンハワーの指名によって統合参謀本部議長に就任いたしました。  その要点はどういうことかと申しますと、これまでのアメリカの対ソ一辺倒の原子戦略を直ちに放棄しなければならない、これがラドフォードの主張であります。すなわち同対の力を持って互いに戦った場合、アメリカもまた原子戦争によって自滅的被害を受ける。そのような形の戦争はもはや戦争ではなくて、アメリカの自殺である。これは排除すべきだ。そこで初めてアメリカの空軍万能主義が断ち切られるわけであります。  次にラドフォードが出しました問題は、これは非常に重要であります。これまでソビエトのみを社会主義の主目標としてきた。すでにソビエトは建国以来四十年近く、その力は非常に強力である。これを撃滅することは不可能である。むしろ問題なのは中国の社会主義革命の成功であり、その社会主義の建設である。従って、中国の社会主義建設が進行いたしますと、東ヨーロッパ、ソビエト、中国というふうに社会主義の大きな路線ができますから、これを何とか阻止しなければならない。その中でどういう方法をとるかという点でラドフォードはこういう問題を出しております。それは、中国の社会主義そのものを撃滅することは、朝鮮戦争の結果から見て、もはや不可能の段階である。要は中国の社会主義の建設を阻止することにある。こういう考えがラドフォードの考えでありまして、その中国の社会主義建設の阻止のためにいかにすべきかというところで、初めてラドフォードの原爆機動艦隊の案が生まれ、そして中国戦略というものが決定されてきたわけであります。  それを簡単に申し上げますと、まず第一番に、中国本土沿岸で小型原爆を使用するという前提が出ております。次に、これを原爆機動艦隊で使って、いざというときは局地的な原子戦争を行なう、こういう形と同時に、日本から沖縄へという戦略構想の変化が出てきております。この問題は、中国の沿岸で絶えず軍事的紛争を継続する、長期にわたって継続する、そして中国を経済封鎖もしくはあらゆる意味での遮断を行なうということを決定したわけでありますが、このラドフォードの提案がアイゼンハワーに出されましたのは十二月二日から五日の間であります。これが実施されまして第七艦隊というものが朝鮮戦争と同時に創設されたのでありますけれども、ラドフォードが統幕議長になると同時に、大型空母による第七艦隊の編成というものが着手されました。  その後幾つかの問題がありましたが、ここで若干申し上げたいことは一九五五年の四月でありますが、アメリカのミラー海軍大佐が国会の要求によりまして極東戦略の調査に従事いたし、その結論が出たわけであります。それによりますと、もはや日本は極東戦略の中心ではないということが、ミラー報告の一番ポイントになっております。つまりそれまでは、トルーマン時代、空軍優先主義の時代の全面戦略の中におきまして、極東の戦略というものはどういう形かと申しますと、アリューシャンから日本列島、それから韓国、台湾、フィリピン、これをアチソン・ラインという言葉で、当時国務長官アチソンが命名いたしましたが、それを貫く縦線の中にアメリカの戦略路線がある。これの作戦中枢が御存じの通りに極東軍総司令部でありまして、この極東軍総司令官の下に陸海空三軍の部隊が配置されておったわけであります。その中で特に主力でありましたのは千歳、三沢、横田、板付、それから沖縄は単なる防衛部隊の戦闘機の基地にすぎず、そうして次のコースはフィリピンのクービー基地あるいはクラーク・フィールドの空軍基地、こういうところに結ばれておりました。韓国の方にもあまり重要な空軍基地はなかったわけでありますが、ミラー報告の結果どういう形が出たかと申しますと、もはや日本という国を極東の作戦中枢にしてはならない。それは沖縄一点が極東の作戦中枢の基本であるということを出したわけであります。  このことはニューヨーク・タイムズのハンソン・ボールドウィンが解説しておりますが、それによりますと、ハンソン・ボールドウィンが軍の意向として申し述べましたことは、もし沖縄に中距離弾道弾の陣地のようなものが作れるならば三つの効果があるということを言っております。まず第一番に、中距離弾道弾の完成、その沖縄配備によって、ソビエトそれから中国に対し、ミサイル攻撃という軍事的威圧をかけることができる。第二点は、日本、韓国その他台湾、フィリピン、こういった同盟諸国が西欧陣営から離脱することを防ぐ効果がある。第三点は、中国の革命がその他東南アジアに波及しないような政治的効果がある。この三つが沖縄の意味だということを彼は言ったわけてあります。  このことが具体的に進行いたしました形は省略いたしますが、その中で周辺戦略と結びつけまして考えますと、ラドフォードの中国の社会主義建設阻止という戦略と沖縄とが結びつきまして、それが実現いたして参りましたのが、さっきちょっと申し上げた一九五七年七月一日のアメリカ極東戦略の根本修正になります、それによりますと、アメリカ本土からハワイに来る、ハワイから沖縄に対して指令が出る。今考えますために、こういうふうにお考えになるとよろしいかと思いますが、日本と韓国と台湾を結びますと、ちょうど三角形になる。その三角形の底辺のまん中にありますのが沖縄基地という形になります。この沖縄基地が、ミサイル装備の陣地として、あるいは戦略空軍の前進基地としてアジアの中心基地になった場合に、日本と韓国を結ぶ路線は、社会主義圏に対しまして沖縄の右翼側面防御の配備になります。韓国、台湾を結びます線は、中国本土に対しまして沖縄を左翼でもって防衛する後方路線になる、こういう形が出て参ります。  そこで、アメリカが一九五五年から五七年の間にいたしましたことは、日本が極東の作戦基地でないということを具体的に明らかにしたわけであります。五七年の七月一日、極東軍総司令部が廃止されまして、在日米軍が撤退いたしましたのは、アメリカ軍が極東戦略においてまさに新しい段階に対応するためでありまして、この中で出て参りましたのは、日本の第一線基地化ということになります。つまり極東軍総司令部がありまして、あそこで最高司令官が指揮をとるという形をとりまても、ミサイルがすでに実現が近いという状況の中では、まず、戦争になりますと、最高司令官からまっ先に蒸発する可能性がありますから、この最高司令官はハワイに去る、そして沖縄を中心とした三角路線の中で対抗していく、こういう形になったわけであります。  そこで問題は、従来の安保条約と今度の安保条約との関係のことに触れるわけでありますが、簡単に申し上げますと、これは日本でどのように前安保条約を解釈いたしましても、向こうの方ではっきりとした軍事的な安保条約の解釈を出しております。その一例を申し上げますと、前の安保条約の特質は、アメリカ軍の作戦上どう解釈しているかといいますと、日本そのものがアメリカ陸海空三軍の作戦基地である。そこには三軍の兵力かあり、施設があり、器材がある。これはアメリカの極東戦略の中心基地として守らなければならないということであります。  第二点は、日本が東洋における唯一の戦略工業の中枢地である。従って戦略補給の見地からこの日本の工業力を確保しなければならぬ。これが日本を守るという言葉の第二点であります。さらにまたこの工業要員あるいは戦略要員を保持するために、日本の労働力を確保しなければならない。あるいは再編成しなければならない。これが第三の日本防衛の意味だというふうにいっておりますが、まさにこの戦略の見地からいいますと、われわれとしては、日本を守るという言葉はうれしいのでありますが、やはり軍事問題というものは非常にドライな問題でありますから、あらゆる角度から分折しました場合、アメリカのこの説明が一番納得いくわけであります。  問題は今度の安保条約になって参りますが、今度の安保条約のことを一々条文に触れることは省略いたしまして、結論だけ申し上げますとこういう、ことになります。  たとえば過日首相が説明されました、日本と韓国との直接の関係はないということを言われましたが、これはわれわれもそうは問題にしておりません。むしろ大事な点はどういうことかといいますと、アメリカ本国からハワイ、ハワイから沖縄へと参ります。その沖縄から作戦指令が出されまして、その場合日米安保条約によって日本とアメリカの関係でこの部隊が動く。それからアメリカと韓国の米韓協定によって韓国の軍隊が動く、あるいはアメリカと台湾の相互援助条約で台湾が動くという形になりました場合、これは日本と他の三国との間が、どうでありましょうとも、これは一種の遠隔制御の形で沖縄に対する攻防路線という形が成立いたします。アメリカの実例を申し上げますと、一九五五年十二月に原子砲を六門入れました。以後ずっと拡張していると思います。これは水上艦艇の沖縄に対する攻撃に備える要塞砲の効果をねらっております。それから現在八カ所のナイキ・アジャックス及びハーキュリーズの陣地があります。一陣地は四門の発射機を持っておりますから、合計三十二基の発射陣地がある。この陣地は主として三十キロから八十キロ前方の原水爆攻撃隊、これは爆撃機を想定いたしまして、それらの爆撃機が沖縄に対して反撃あるいは奇襲に移る場合に、これを前方において核弾頭で一挙撃滅する、こういう形のナイキ・アジャックスあるいはナイキ・ハーキュリーズの陣地であります。これも局地防衛にすぎません。その上に重要なのは沖縄に侵入する敵の勢力というものを事前に封鎖する、これが過日の日韓共同演習でも出ておりますが、日本と韓国はソ連圏に対する側面防御の体制をとらされている。それから韓国と台湾はその左翼側面防御の形をとる、こういう形になって参ります。  その場合にここで考えなければいけませんのは、日本の自衛隊の戦闘機が日本の上空に上がって日本本土を守るという問題の場合ですが、これは技術的な問題と同時に実態というものの違いで考えてきたいと思います。まず実態の場合、日本の自衛隊が日本の上空にありまして日本を守ろうという形をとりましても、そのときに極東戦略がどういうふうに動くかという条件を考えますと、まず第七艦隊があります。第七艦隊が今日満載八万トンの空母を持っている、この中には百二十機前後の飛行機が積まれております。特にそのうち四十機前後は原水爆の爆撃機及び戦闘爆撃機を搭載しております。これらは直接日本海とかシナ海に出ていくものではありませんで、日本列島線からフィリピンまでの後方太平洋上に待機いたします。ここから長距離攻撃を行なう場合に、日本本土の上空に配備されます日本の自衛隊の戦闘機はまさに日本土空の配備についておりますが、それは第七艦隊からいいますと前方の遮蔽幕の効果をする。あるいは今度の予算で出て参りましたが、アメリカのミサイル潜水艦が実戦配備の形になりますと、これらはポラリスというような水中ミサイルをやはり太平洋上の後方から撃つことによって、日本の戦闘機はこの前衛防空という役割、こういう形になって参ります。  ここでいろいろ考えなければいけない問題がございますが、特に私痛切に感じますのは、たとえば、一九四五年の敗戦のとき、天皇陛下が、本土を戦場にしないということでああいう異例の措置をとられたわけでありますが、その内容の評価は今別といたしまして、ただ今日非常に心配なのは、局地戦争という形で日本本土が戦争になるという条件を想定した今日の自衛隊の軍備が、はたしてミサイルとエレクトニクスそれから核兵器の中で可能かどうかという根本問題です。一つの例を申し上げますと、一九五四年の五月にインドシナ戦争がございましたとき、日本の横須賀からフィリピン・シーという三万トン空母が原爆攻撃隊を載せてあのインドシナに出撃いたしました。また一九五四年九月十二日には、四万五千トンの空母ミッドウェーが原爆攻撃隊を搭載いたしましてシナ海に配備されましたときには、この日原子爆弾を搭載した艦上攻撃隊が甲板上に配備され、そしてあのときにそれが使われなかったというのは、まさにアイゼンハワーの判断によって急に作戦が中止になりましたために、ラドフォードその他の主張というものが中止になりまして、中国に対する原子攻撃というのは中止されたわけであります。  当時向こうの発表の内容を調べますと、あのときに中国本土に対する原子攻撃に反対いたしましたのは二人きりであります。それはべデル・スミス元駐ソ大使、それからリッジウェイ元国連軍最高司令官、リッジウェイはどういうことを言ったかというと、朝鮮戦争の例からかんがみて、中国に対する原子攻撃は全面的な世界戦争を誘発する。この場合にアメリカ陸軍は対ソ戦並びに対中国の地上戦闘を完遂する可能性を持たないということをはっきり断言いたしました。これはわれわれとしても今後のために大いに学ぶべき点があるかと思います。もう一つは、ベデル・スミスは中国に対する原子攻撃は必ずソビエトのアメリカに対する報復をもたらすという点で反対いたしました。国家安全保障会議構成員十二人のうち反対二人きりでありましたが、アイゼンハワーがこの裁決をよくいたしましたことは、当時のためによかったと思っております。  それからまた、これは一九五八年の場合でありますが、四月の七日に沖縄で緊急の原子戦闘演習が行なわれております。このときの演習のことが後にわかりましたが、この演習の中で行なわれましたことはどういうことかというと、レバノンにおいて突然戦闘が起こる場合を想定し、それが今度さらに極東に波及した、そういう形で金門、馬祖——これは八月から十月にかけて行なわれました金門、馬祖の戦闘状況を想定した演習が、すでに四月七日にあそこで三十時間原子戦演習として行なわれたことであります。  こういうような状況の中で一九五七年八月一十七日、ソビエトのICBMの完成ということが出て参りました。どういう根本的な軍事革命があったかと申しますと、これは至って簡単であります。私すでに一九五五年に、あと四、五年たったら爆撃隊は古くなるということを分析してそれを書いたことがございますが、このミサイルの発達によりまして、特にICBM、IRBMの完成によりまして、今までの地上戦闘、海上戦闘の様相というものが一変したわけであります。  簡単な数字で申し上げますと、原子戦地上部隊、これはたとえばベントミックスのような部隊は、地上を作戦速度で進行いたしましてもせいぜい一時間五キロから十キロ前後であります。これに対しましてICBMは四千倍のスピードで地上千キロないし千三百キロの高度を音の早さの二十倍ないし二十三倍のスピードで通過して原水爆を爆発させる。あるいは原水爆の機動艦隊が作戦行動に移りましても、この艦隊の戦闘速力で行動した場合、ミサイルはその四百倍のスピードで作戦任務を完成してしまう。さらに空軍が超音速の爆撃機に原水爆を載せまして攻撃に入りましても、大陸間弾道弾はその二十倍ないし二十三倍のスピードで目的地を粉砕してしまうということであります。  こういう状況の中でアメリカの極東戦略が根本的に変わりました。その変わったのが今度のアメリカの軍事予算の中に出て参りました。それは詳述を省略いたしますが、総計四百九億ドルに上ります予算の中で、今までは陸海空軍の、陸軍は問題になりませんが、特に海空の飛行機に大部分集中されておりましたのが、ことしから変わりまして、六対四の割合で、まだ決定的とは言えませんが、ミサイル全軍配備に切りかえられたということであります。この内容を簡単に申し上げますと、もうすでにその基地の建設費までがアメリカでは公表されておりますが、大陸間弾道弾アトラスの陣地、これは十発装備の部隊が九個中隊、合計九十発、それからタイタンという大陸間弾道弾、これは十発装備の十一個部隊ができまして、合計二十個部隊の二百発というものがアメリカ本土に——これは地名は今省略いたしますが、建設されるわけであります。これは一九六〇年から六三年にかけて作業を行なう。  さらに今までのようなヨーロッパとか極東とかそういった社会主義圏を取り巻く地域に対しまして、九カ所の中距離弾道弾陣地の予算が成立いたしました。ただし、日本の沖縄に関する予算はことしは延期になりましたので、これは明年ないし明後年になるかと思いますが、はっきりいたしましたのは、イギリスに中距離弾道弾の陣地四カ所、それからアラスカに一カ所、カリフォルニアに一カ所、ギリシャに一カ所、イタリアに一カ所、トルコに一カ所、こういうような中距離弾道弾の陣地ができた。  その中でどういうことを意味しているのかということはこうなります。それは社会主義圏の強力なミサイル戦略に対して、前方にやはり中距離弾道弾のミサイル陣地を作ることによって、相手の対米攻撃能力というものを分散、吸収させる。それからもう一つは、アメリカ本土に大陸間弾道弾の陣地を作って、ソビエトに対して対抗的な勢威というものを持たなければならない。こういう形になりますと、今までのような軍事的な関係というものがどうして根本的に考えさせられてくるわけであります。そのことは昨年の一月二日アイゼンハワーが年頭教書の中で触れ、さらに四月九日の国会教書の中で触れておりますことは、もはや従来の陸海空三軍という編成は軍事的任務を達成しなくなる、これが第一であります。それからさらに戦争というものが政治あるいは経済の目的を解決する手段にならなくなる。さらにこのような軍事的な問題というものを、はたして今までのような作戦士官にまかしておいていいかどうか、もはや政治というものが軍事を完全にコントロールしなければならない時代が来た。このような時代が来た根本原因は、これは三つしかない。それはミサイルとエレクトロニクスとそして核兵器である、こういうことを申しました。そうして陸海空三軍の編成がえというような問題を出してきたわけであります。  今日ではそういった体制に切りかえが行なわれまして、アメリカの予算がその内容の第一歩を裏づけまして、一九六〇年から六三年にかけまして、アメリカは全面的なミサイル戦略に切りかえていく。そのような中で、沖縄というものは極東戦略の中心として直接これをアメリカが防衛するという形はとらないで、それは相互援助条約によりまして日、韓、台、そして南方牽制部隊として東南アジア条約機構、それから北海道におります直轄部隊はハワイでありまして、決して日本の在日米軍は管轄しておりません。そういった形でコントロールするという形になって参りました。  この点だいぶ今日の軍事問題というものは十分考えなければならない点がたくさんあると思います。時間がございませんので、これで省略いたします。(拍手)
  46. 小川半次

    小川委員長 ただいまの林公述人の御発言に対しまして御質疑があれば、これを許します。横路節雄君。
  47. 横路節雄

    横路委員 林さんにお尋ねをしますが、実はここの予算委員会で先般新しい安保条約について議論をしましたときに、事前協議のことが問題になった。そのときに、藤山外務大臣から、大陸間弾道弾の基地並びに中距離弾道弾の基地を作るという場合には、事前協議の対象になる、しかし短距離弾道弾の基地を作るというときにはそれは事前協議の対象にはならない、こういう答弁をされたわけです。今私がお聞きしたいのは、そのことに関連して、アメリカが日本に対して大陸間弾道弾の基地を作ったり、中距離弾逆弾の基地を作るというようなことは、今林さんの言われたアメリカの極東戦略の立場からいって絶対あり得ないのではないか。それよりはかえって短距離弾道弾の基地というものが作られてくるのではないか。そうして先ほどあなたからお話のように、潜水艦等に載せたいわゆる核兵器をもって——日本の上空は自衛隊の戦闘機で防御している。それは何といいますか、暗幕のような格好になる。いわゆるアメリカの潜水艦部隊による核兵器によって背後から相当距離を持つもので向こうに攻撃をする。何かそういうようなお話であったように思うのですが、特にお聞きしたいのは、事前協議の対象にはなるという大陸間弾道弾の基地、これは地下に対して持たなければなりません。中距離弾道弾の基地も事前協議の対象になるというが、アメリカはそういうものを作る意思は全くないと私は思う。それよりは対象にならないと現にここで答弁している短距離弾道弾の基地、地下その他の施設の方がはるかに重要な意味を持つのじゃないかというように、実は私そのとき考えておりましたものですから、これは藤山外務大臣から答弁がありましたので、それでちょうど今あなたが極東戦略についてのアメリカ側の立場をお述べになりましたので、一つあなたの御見解をお聞かせいただきたいと思います。
  48. 林克也

    ○林公述人 アメリカの今までの公表資料ですと、日本、韓国に中距離弾道弾もしくは大陸間弾道弾は置かないということを言っております。これは戦略分析からいいましても、中距離弾道弾、大陸間弾道弾を置きますのには、前衛部隊というものがない位置に置いては非常に不利でありますから、当然置かないだろうと思います。ただし、その場合に第七艦隊の艦載機が空中発射のミサイル、これは中距離弾道弾と同じような水爆弾頭を装備できる条件、あるいは水中潜水艦ミサイル発射管のポラリス、そういったものが使われる条件、これも大体推力のいかんで、射距離で違って参りますが、標準水爆は搭載できます。それからまた沖縄には置かないと言ってはおりません。これは予算関係で延期になっている。そういう点で、問題点として事前協議の対象になるようなものが日本になくても、アメリカの方ではちっとも困らないのであります。  いま一つは、現在はグアム島とマリアナ、あそこに戦略第三航空師団、これがありますが、あそこにおりますB47水爆攻撃隊あるいはB52水爆攻撃隊、これは今単なる水爆投下機ではなくなりまして、ラスカルというような種類の水爆弾頭装備の、射距離がせいぜい百キロから百六十キロ、これは将来近いうちに三百二十キロ前後に延長させるといって今技術開発をやっておりますが、そういう空中母機からミサイルを発射するという形をとりますから、日本と韓国には置く必要がないというのは当然だと思います。またある意味では、ざっくばらんに申し上げますと、日本から中国もしくはソビエトにミサイル攻撃を沿岸に対して行なうような場合には、大陸間弾道弾、中距離弾道弾は不要です。短距離弾道弾SRBMで有効な射程があります。
  49. 横路節雄

    横路委員 そこで林さんにお尋ねしたいのですが、この間の外務大臣の答弁で、今の短距離弾道弾基地ですね。地下その他に対する装備、これは事前協議の対象にならないという答弁をしております。核兵器を持ってくる持ってこないは事前協議の対象になりますが、その陣地の構築はならないのだ、私は端的にそういうふうに解釈しているのですが、これはやはり今あなたのお話で、将来アメリカとしては日本に対しては短距離弾道弾の基地を作るというように考えらるべきものでしょうかどうでしょうか、この点お聞かせ願いたい。
  50. 林克也

    ○林公述人 私は、今のところアメリカは日本に短距離弾道弾の陣地を作るような計画はないと思っています。それは今申し上げたような他の兵器あるいはシステムでやれますから、その点はまだ具体化していないと思っています。また、そういう動きも出ておりません。ただここで問題になりますのは、自衛隊が今度四、五年分うちに考慮しておりますボマークというようなもの、あれは大体今射程が四、五百キロということになっておりますが、原子弾頭装備用になっております。これはもう少しロケットの力を、たとえば技術導入してそれを改良していくという場合には、かなりの、つまり千キロ前後の射程を持ったものは、日本でもやがて、条件にもよりますが、開発し得る可能性があるかと思いますが、その場合は、日本でやるような条件になると思います。
  51. 横路節雄

    横路委員 林さん、実はここでこの間私が総理にお尋ねをしましたら、こういうことを言っているのです。憲法では戦力は禁止されているわけです。しかし自衛権発動のための、自衛のための最小限の自衛力というものは、これは憲法で禁止されていない。だんだん聞いていきましたら、その戦力と自衛のための最小限度の自衛力というものには限界がないのだということになっちゃう。そうして最後には、現在は持つ意思はないけれども、しかし憲法上の解釈からいけば、小型の核兵器を持っても憲法違反でない、こういう答弁をされた。そこで今私はあなたにお尋ねしたいのは、一体自衛隊の核武装というものは、今の日本の自衛隊というものは、アメリカと関係なしに、日本だけを守る自衛隊であればそういうことはないかもしれませんが、極東戦略の中における日本の自衛隊であることは明らかであります。先ほどあなたから御指摘のように、一九四九年の相互防衛援助法、一九五一年の相互安全保障法では、明らかにその主要の目的はアメリカ合衆国の国家的な利益、安全保障、しかも終了の規定は、もしもアメリカ合衆国の利益並びに安全保障に役立たない場合はそれを打ち切るとなっておる。そのための軍事顧問団が派遣されているわけですね。だから日本の自衛隊というのは、日本の自衛隊独自ではなくて、アメリカの極東戦略の一環として日本の自衛隊があるのですから、そういう意味でどうもこの間から私は総理にだんだんその点を心配で聞いていきますと、戦力と自衛のための最小限度の自衛力との間には限界がないのだ、従って、今の憲法でも、いわゆる自衛のためであるならば、核兵器を持つことは必ずしも憲法違反だとは言えない、しかし今は持つ意思はありませんと。うしろの方だけはくっつけていますが、そういうことをお話しされている。それで、あなたは専門家でいらっしゃいますので、そういう自衛隊の核武装というものについて、一つどういうような御見解を持たれているのか。ここ一、二年の間にはないのだ、しかし三、四年の間にはくるのではないかということを私は心配しているわけです。将来とも永久にないという保証は、この間の総理の答弁で、なくなったわけです。その点どんなものでしょう。
  52. 林克也

    ○林公述人 実はこの五、六年の間にずっと書いてきました幾つかの論文の中で、その問題を私は繰り返し主張してきたわけであります。先ほどダレス国務長官の論文を引用しましたのもその点でありまして、これは向こうではそういうことを言っておるわけであります。その場合に、実はこの問題考えたのですが、この間の砂川判決の例を考えましても、憲法第九条は駐留米軍を規制しない、平和のための米軍の出動は憲法違反でないというようなことが、あの中で言われたわけであります。これは非常に重要なんですが、要するに、米軍が抱束されないということが、あの中で一方でははっきりしている。片方では、拘束されるという場合に、これは言葉の解釈ではなくて、アメリカ軍、つまり現代の軍事科学という見地から、原子戦部隊が何をするかということを考えました場合に、私は、残念ながら、政治上の交渉なり何かでは、作戦行動を規制できないということは事実だということを確信しています。それは今までレバノンの作戦でも、北大西洋の条件の中でも、そうでありました。極東の、さっき例を幾らか申し上げましたが、その場合でも、事実であります。前にこういうことを書いておきましたが、それはアメリカ軍が核兵器を持ち込んでいるか持ち込んでいないのか、それを日本側が内容を明らかにするようなことを要求するということは、安保条約と行政協定からいって不可能である。それからまた秘密保護法等からして、日本がそれを要求することは不可能である。それはおそららくアメリカの主権に対する侵犯という形で拒否されるだろうということを言いましたら、これは去年でありましたか、一昨年でしたか、藤山さんがそういういうようなことをやはり答えられておりましたが、そういう点からいいますと、聞いても、アメリカが合意しなければどうにもならぬというのが結論であります。  先ほどの一番ポイントになります点、自衛隊の核武装の点でありますが、これは今までのところ、たとえば一昨年の九月から十月に北海道で演習が行なわれました。このとき、アメリカからNANA通信社のレーホークという記者が来まして、自衛隊の演習を見学しております。そのとき、NANA通信社の人が三沢におりますアメリカの三十九戦闘爆撃連隊の指揮官に話を聞きましたら、われわれは対ソ攻撃演習のために来ているのだ、今日の自衛隊は小型原爆の沿海州に対する奇襲攻撃の訓練をやっているということを言っているわけであります。これは日本の自衛隊の諸君はおそらく知らない場合があり得ると思う。しかし、その技術指導、つまり軍事技術上の指導をやっておるアメリカの方では、そういうことを考えているということは、実はアメリカのレーホーク記者の報道によってわかったわけです。それからまた今日CBR作戦、ケミストリーとバイオロジーとそれからラジエーション、つまり化学兵器、毒ガス、細菌兵器とそれから放射能兵器というような取り扱いをやっているというようなことを、やはりレーホークが指摘しております。それからこれは世田谷に自衛隊の技研がございますが、名前をちょっと忘れたのですが、やはり放射能戦闘の条件を専門にやっておる旧軍人の人、技術系のことをやっている人がおります。たとえば今度できました甲型警備艦では対放射能戦闘の施設というものがある。それからまたすでにシンチレーション・カウンター、あるいはガイガー・カウンターを使いました夜戦における放射能検知装置、これは技研では開発してすでに試作品を部隊に渡して、そうしてやっておる。またそういったときのアイソトープはアメリカから購入しておりますが、ただ防衛庁ではその数量を明らかにしていない。これは私たち知りたいと思っておりますが、いろいろに準備をしてそれをやっておるということは思います。ただ、今の自衛隊が全面的な核戦闘を想定できるような条件にあるかどうかというと、これはおそらく自衛隊の方でも自信がないと思います。
  53. 横路節雄

    横路委員 林さんにお尋ねしますが、今あなたもお話しなさいました現在のアメリカ軍が核兵器を持っているかどうか、核武装をしているかどうかということについては、現に総理もここで安保条約並びに行政協定その他一切の取りきめ等について、ない。だから第七艦隊がいかように核武装をしていようと、それについてもちろん査察することはできない。ただ持っていないであろうと信じておるということだけなんです。今私はあなたのお話を聞いていて、いわゆる長距離弾道弾の基地は作らぬ、中距離弾道弾の基地は作らぬ、まあ短距離弾道弾についてはまだその段階ではないのじゃないかと思う。それは第七艦隊がすでに核装備をしておる。艦上攻撃機その他で相手方に攻撃を加えることができる。原水爆のいわゆる攻撃ができるから、従ってこれで日本に対しては短距離弾道弾の基地は作らぬでいいだろう、こういうように考えられているようですが、ただ私ども心配なのは、これはいずれまた安保の問題で論議せねばならぬのですが、第七艦隊が核装備をしているということについては、今現に何ら査察することはできないわけですね。今度の新しい合衆国の軍隊の地位に関する協定では、それを自動的にそのまま受け継いでおるわけです。そうすると、核装備が第七艦隊にそのまま受け継いでいかれるわけですね。この点については、あなたはその間をどういうようにお考えになっていますか。私たちは、今第七艦隊は核装備しているんじゃないか、それを査察することはできないんじゃないか、協定も明文化も何もないじゃないか。そうすると今度はそれは合衆国の軍隊の地位に関する協定ではそのまま受け継がれる、自動的に核装備されることになるのじゃないか、事前協議の対象にも何もならぬじゃないか、こういうような私ども考えなんですが、この点どうですか、お伺いいたしたいと思います。
  54. 林克也

    ○林公述人 これはニクソン副大統領が一九五五年の三月二十七日号のニューズ・ウィーク誌にはっきりと書いております。それによりますと、アメリカの陸海空三軍は部隊編成が全部改編された。その結果どういうことになったかというと、陸海空三軍の主力火器はすべて核兵器である。これは大体太平洋部隊といいましても、陸海空軍のうちその八割が極東に配備されております。ですから大体八割の核火力を持った部隊が極東に絶えず移動しておるというふうに考えていいと思います。  それから第七艦隊の核装備の問題に対しては、現在のハワイの太平洋統一司令部の司令官であるフェルト大将が、去年の四月、五月、七月というふうに繰り返して声明しておりますが、それによりますと、すべて核装備されている。これははっきりと太平洋司令官が証明しております。それから現に日本にアメリカが持ち込んでいる核兵器としては、ナイキであるとか、あるいはレギュラス、これは誘導弾でして、ミサイルとちょっと種類が違います。それらははっきりと核装備している。たとえばアメリカの八万トン空母、これは六万五千トンが基準排水量ですが、これに積んでおります核攻撃隊の種類と数量を申し上げますと、A3Dの2型という小型水爆装備の艦上攻撃機が十二機一隊、それからFJ4Bというこれは小型の原爆を使います戦闘爆撃機、これが二隊二十四機、AD6、これはプロペラ機で古いのでありますが、対潜爆雷というような、原子弾頭を使った爆雷、そういうものを装備するようなものが一隊十二機、これだけあります。一昨年金門、馬祖のとき私調べましたが、当時これは空母サラトガ、ミッドウェー等のほか、攻撃空母が全部で七隻集まりましたが、そのとき約二百機の核攻撃能力を搭載していたわけであります。私、推定いたしましてその当時「世界」という雑誌に書きましたが、アメリカの方の資料でも、第七艦隊、金門、馬祖に出動している部隊の八割は核兵力であるということを書いてありました。
  55. 小川半次

    小川委員長 門司君。
  56. 門司亮

    ○門司委員 林さんに一つだけ聞いておきたいのですが、今までのお話をずっと伺っておりますと、結局現在の時点では、日本の自衛隊も核武装をしないであろうというようなお話ですが、どうもお話内容をずっと検討して参りますと、そう遠くないうちに、核武装しないようなものは、国防のためであろうと何のためであろうと、戦争には役立たないというような結論にたりはしないかと考えられるのでございます。現在の時点では核武装はしない、あるいは持ち込まないということを盛んに政府は言っておりますが、ここ数年の間には、いやがおうでもそういう装備をしなければ、実際の戦闘部隊として役に立たないという結論にどうもなりそうに拝聴したのですが、その点はどうでございましょうか。
  57. 林克也

    ○林公述人 大へん深刻な問題でして、先ほどから私は具体的なことで責任を持ってお答えしたわけであります。自衛隊が核装備するかしないかは日本の今後の重大な政治問題だと思います。ただ、そういう準備的な過程があるということは、具体的な事実で指摘できるわけであります。さてその場合に、核装備しないと役に立たない軍隊だと、こうは言いますが、核装備した軍隊が、日本の本土防衛ということで、その防衛用の核兵器を使用した場合には、これはその放射能の灰を受けるのは防衛されたわれわれ国民であるという意味において、それは同時に自滅であるということも私は考えております。はたしてこの核兵器装備が今日重要な問題かどうかというのは非常に深刻な問題であります。  御参考に申し上げますと、一昨年の三月にイギリスでもって、これは空軍参謀総長、陸軍参謀総長、海軍参謀総長、それからその他国防関係の要職の人たちが集まりまして、アンソニー・バザードなどが中心になりまして、プライベートにイギリスの原子戦略の研究をやっております。その結果は、ドイツの核武装がきまりましたあとの討論なんですが、ドイツの核武装はイギリスにとって前方防衛である。しかしその前方防衛が発動される場合には、北大西洋条約機構にあるイギリスは、瞬間的に報復のミサイル核攻撃を受けるだろう。従って、そのような場合には、核兵器とミサイルの結合に対してイギリス本土というものは何ら防御は不可能である、もはや戦争を勝敗で考える時代ではなくて、民族の生か死で考えなくてはならない、そうすると勝敗はもはや問題ではなく、国民と国土の保全が根本問題だ、こういうことを言っております。今度のイギリスの国防白書を見ましても、核兵器にたよっていくことは、非常に危険であるということがはっきりと出てきております。急に解決は困難だろうと思いますが、ともかくこの四、五年のうちに、たとえばさっき申し上げたアメリカのミサイル装備化ということも、よく考えてみますと、アメリカ全土がハリネズミのようにミサイル化になっている、ソビエトでもそういうものがある。そういうものをお互いに持っていて、何か政治上、民族上の問題、経済上の問題で紛争が起こっている、じゃ、これを使って、お前言うことを聞かないかとやった場合には、両方が同じような条件になってきた場合、決して問題の解決になりません。もはや四、五年のうちにミサイル、核兵器、そういったものは終局的な一つの段階がくると思っております。
  58. 門司亮

    ○門司委員 もう一つだけ聞いておきたいと思いますが、それは今のお話のようなことで、一応、抽象的という言葉を使えば少し悪うございますけれども、想定としてそういうことが言えるかもしれない。しかし、今度の場合は、さっき横路君からも聞きましたように、短距離のものは事前協議の対象にならないということ、それからもう一つは、先ほどのお話を伺っておりましても大体想定ができますように、日本の自衛隊のアメリカの軍隊に対する役割が、前衛的の役割であるということだけが考えられるということになりますと、私は、やはりアメリカは日本民族のことを考えるよりも、むしろアメリカ民族のことを考えて、日本にそういうものを持ち込む危険性が非常に多くなってくるというふうに考えざるを得ないのですが、そういうことが考えられますか。
  59. 林克也

    ○林公述人 大へん深刻な問題なんですけれども、由来、戦略の基本というものは、戦闘が始まった場合、相手の攻撃力をまっこうから受けるのはばかであります。その戦力を分散させ、そうして、油断させてたたくというのが兵法の原則であります。従って、日本がミサイル装備するような条件、そういう可能なり危険性、そのときには当然日本が十分な核報復能力を吸収する方が、一方の戦略行動にとっては非常に有利になります。これはたとえば太平洋戦争でも、がんばれ、がんばれといって硫黄島やガダルカナルや何かでたくさんの日本の人を殺しましたのは、なるべく東京への距離が遠いほどいいと思ったからやったわけで、戦略というものは常にドライだということでその問題のお答えになると思います。
  60. 小川半次

    小川委員長 田中織之進君。
  61. 田中織之進

    ○田中(織)委員 林さんに三点ほどお伺いしたいのですが、今度の日米安保条約によりまして、不幸にして日本または極東の平和と安全が脅威を受けて軍事行動が起こった場合に、在日米軍と自衛隊との間の共同作戦ということが、戦略上、戦術上からも当然起こり得ると思うのですが、この点について私は委員会で伺っても、政府側の答弁がなかなか明確にならないのであります。たとえば、在日米軍の基地が攻撃された場合には、当然在日米軍と自衛隊との共同作戦というものが具体的に問題になる場合だとしろうと風に考えるのですが、政府側の質問に対する答えでは、アメリカの日本にある基地を攻撃されるということは、すでに日本の領海、領空を飛んで、日本そのものに攻撃が加えられたことになるのであるから、これは当然憲法上認められた自衛隊の自衛権に基づく行動として、この在日米軍基地に対する攻撃を排除するところの行動があり得るのだということで、この場合にも駐留米軍と自衛隊との共同作戦という点がなかなか明確に出てこないのです。林さんは軍事科学の研究家として、こういう場合は明らかに共同作戦ということになるのではないかと思うのですが、それ以外の場合にも、安保条約のような非常に広い範囲の条約の場合には、具体的に幾つかこういうことが起こり得ると思うのですが、どういうようにお考えになっておるか、御説明していただきたいと思うのです。
  62. 林克也

    ○林公述人 この間アメリカの国防総省から出た資料でありますが、作戦行動の場合、事前協議の対象になってない。これは非常に重要なことでありますが、アメリカの方ではっきりさしたわけであります。それからもう一つ日本においてそういったいろいろな条件で戦闘が始まった場合を想定しますと、指揮権がどこにあるかといいますと、相互援助法によりまして、アメリカが指揮権をとります。当然日本はその指揮下に入るわけであります。ただ、日本の中からアメリカ軍がいなくなっても、その指揮というものはやはりアメリカ軍がとる、こういう形になると思います。
  63. 田中織之進

    ○田中(織)委員 それでは、次の質問に関連して、そういたしますと、最後の林さんのお答えの中にありましたアメリカ軍がいなくとも日本の自衛隊が当然アメリカ軍の指揮下に入るということ、これはしろうと風に言えば、従って自衛隊とアメリカ軍との共同作戦ということに理解していいのでしょうか。
  64. 林克也

    ○林公述人 それは共同作戦になります。
  65. 田中織之進

    ○田中(織)委員 それから、在日米軍が日本から離れた場合におきましても、そういうことから出発した戦闘行為等における指揮権が、相互援助条約の関係から見て当然アメリカ軍に帰属するだろうという統帥上の問題が明らかにされたのですが、もう一つその点に関連して伺いたいのは、先ほど林さんが米韓、米華、米比条約等の関係から、勢いNEATOのような体制が今度の日米安保条約によって完成されるのだ、こういうお話がありました。その場合、今日本の自衛隊との関係においても言われたのでありますが、米韓、米華、米比条約との関係で、韓国の軍隊あるいは台湾にある中華民国の軍隊、フィリピンの軍隊、こういうようなものと日本の自衛隊とが、もちろん日本の領土外への自衛隊の出動ということは憲法上禁ぜられておるわけなんですけれども、実質的にはやはりアメリカ軍というものの統帥と申しますか、作戦指導を通じてこれらが実質的に結びつけられる結果になると思うのですが、その点の林さんの御見解を重ねて伺っておきたいと思います。
  66. 林克也

    ○林公述人 一つ具体的な例でお答えしますと、一九五六年の十一月一日スエズ作戦が始まりましたときに、在日米軍に対して、アメリカ本土から極東米軍の全軍出動配備が命令されました。このときに、四日になりましてから、当時小牧の第五空軍司令官キューター大将が航空自衛隊に出動命令を出しております。これを受けましたのがたしか佐薙当時の空幕長と源田空将だったと思います。大事なのは、このときこれらの指揮官が防衛庁長官に報告することもなく、また日米委員会にかけることもなく、国防会議にかけることもなく、当時浜松の第二航空団から六機のF86Fが上がったことがあります。これを私たち知りまして、すぐ新聞社などに連絡をとって、そのとき新聞記者がすぐ防衛庁へかけつけましたときに、防衛庁長官が、おれの知らぬそんなことをするわけがないと言われたことがあります。こういう一つのケースがありますから、これはいろいろな意味考えなければいけないと思います。  もう一つは、当時スエズ作戦のとき、日本の自衛隊が飛び上がりましたけれども、やはり同じように韓国の空軍も戦闘配備といいますか、それに準じた行動をとりました。その韓国空軍が横田や板付の飛行場におりたことは、当時その土地の人が目撃しております。ですから、こういうことは、実際問題として、戦闘状態を仮定してものを考えるという場合には、非常にむずかしいのであります。そういうことは幾らも起こり得る、当然起こらなければ、作戦はやっていけないのが、これはあらゆる戦闘の形態を見てもそうであります。
  67. 田中織之進

    ○田中(織)委員 もう一問伺いたい。これはきわめてしろうとらしい質問でお笑いになるかもしれませんが、事前協議の問題に関連をして、この委員会で辻原委員から質問をしたのに対して、藤山外務大臣が、いわゆる在日米軍が沖縄を飛び石として海外、中国大陸なりあるいは台湾海峡なりへ出動するというような場合においては、日本の領土外へ、沖縄を飛び石として出るというような場合には、中継ぎ地として出るというような場合には、事前協議の対象にならないのだ、日本の基地を離れれば、これはもう在日米軍ではなくなるのだという、きわめて常識的な答弁かもしれませんけれども、答弁をしているのです。これは今度の安保条約における大きな抜け道だ、抜け穴だともわれわれは考えるのですけれども、アメリカの極東戦略からした場合に、在日米軍の出動範囲というようなものが大体予定されるものかどうかということが一点。  それから、今の場合のように、かりに中国大陸なり台湾海峡へ沖縄の基地から飛び立った飛行機、あるいは日本の基地から飛び立った飛行機、あるいは台湾の本土から飛び出した飛行機というようなものは、現実には私は区別がつかないものだと思うのでありますけれども、そういう意味で、勢い在日米軍の基地に対する報復爆撃等の攻撃が加えられる場合も考えなければならぬと思うのです。こういう点は軍事科学の上から何か区別ができるものなのか、あるいはそういう場合に、軍事科学と密接な関係を持ちますけれども、戦時国際法なんかの関係で、それはかつては日本の基地にいたものかもしれないけれども、もう沖縄なら沖縄というところに向いて移動した後であれば、もと日本の基地におった米軍だということからくるところの報復爆撃等の危険を免れることがはたして可能なのかどうか、きわめてしろうと的な質問なんですが、できれば御解明をしていただきたいと思います。
  68. 林克也

    ○林公述人 それは至って簡単なことでありまして、所属と所轄と指揮系統というものは、軍隊ではいつもきちっときまっております。ですから、軍隊が作戦上あるいは訓練上その他の必要があって移動した場合でも、その所属基地というものが一たん指揮系統、所轄としてきまっている以上は、それは他から何と言おうと、その地域が指定の区域になります。具体的な例を申し上げますと、在日米軍がハワイへ行きましょうとも、あるいはヨーロッパに参りましょうとも、それは作戦上の行動任務であって、所属が違うということでは全然ありません。やはり在日米軍がただいまヨーロッパ出張中というような形になります。もっと詳しい例をあげますと、レバノン戦闘のときに、ボンにおりましたアメリカの核部隊二十四師団がオネスト・ジョンその他を持ちましてレバノンのベイルートに出ましたが、そのときは在独米軍第二十四師団がレバノンに戦闘、こうなります。従って、所轄基地、指揮権はやはり在独米軍ということになります。それと同じであります。
  69. 田中織之進

    ○田中(織)委員 もう一問。先ほど林さんが述べられた点でありますけれども、作戦行動の場合は事前協議の対象にならないというアメリカ側の意見発表というのですか、これは国務省のものですか。先ほど述べられた点は、どういう根拠に基づいてお述べになったのか、もう一度はっきりさせていただきたいと思います。
  70. 林克也

    ○林公述人 これは国防総省の声明であります。と申しますのは、そういうふうにならないのは、あれは事前協議の問題としましては、交換文書でありまして、条文としてきちっとあれされておりませんから……。それが一つの理由。それから、作戦上の規制というものがあの安保条約の中に入っておりませんから、そういう意味で拘束されないということをアメリカの国防総省が声明しております。
  71. 小川半次

    小川委員長 西村直己君。
  72. 西村直己

    ○西村(直)委員 公述人にちょっとお伺いしてみたいのですが、だいぶアメリカの極東戦略について具体的事例で責任を持ってというお言葉で御説明をいただきまして参考になりましたが、実はわれわれ一つ考えますのは、中ソ友好同盟条約というものがありますね。これに基づいて、日本国またはそれに同盟する国の侵略という言葉を使って今日厳然とその条約が存在している。その場合に、防衛問題で公述をいただいたものですから、おそらく極東戦略——アメリカは世界の平和を守る極東戦略を立てる、同時に中ソ友好同盟条約の目標も世界平和の目的であると思う以上、対アメリカあるいは侵略仮想敵を持っておられる中ソはそれぞれの国でありますから、それがまた同時に極東戦略というものを持っておられる、それに対して一つ開陳がいただければけっこうだと私は思うのでございますが、それにお触れにならなかったのは、何か特別なお立場でお触れにならなかったのでしょうか、そこらを明らかにしていただきたいと思います。
  73. 林克也

    ○林公述人 実はそういう御質問も十分あると思いまして、資料は十分用意してあるのでありますが、問題は原子戦略ですと、これはソビエトの原子戦略あるいはアメリカの原子戦略、イギリスの原子戦略、いろいろ経過と変化があります。その中で考えなくちゃいけませんが、これはもし時間がございましたら、岩波の中でソビエトの原子戦略について私は詳しく書いたことがございますから、一度ごらんになっていただきたいと思います。これはアメリカで当時非常に注目してくれまして、大使館から手紙などいただいて、びっくりしたことがあります。問題は、アメリカの方でもはっきりそういう意味では自信を持っておるのは、ソビエトと中国が守勢作戦をとっておるということ、これは戦略上からいいますと、包囲しておるのはいわゆる外線作戦という形で、ソビエト、中国は内線作戦という非常に不利な状況にある。こういうことは当然西村さんのことですから、よく御存じのことだと思います。  それから、中ソ友好条約の問題ですが、この問題をやっておりますと、これはもとより西村さんの方が御専門でいらっしゃるように、あの条約、この条約といったら最後にはらちがあかないので、こういうことは、国会の皆さんが早く解決していただくように私は希望しておきます。
  74. 小川半次

    小川委員長 他に御質疑がなければ、林公述人に対する質疑は終了いたしました。  林公述人には、御多用中のところ御出席をわずらわし、貴重なる御意見の御開陳をいただきましたことを委員長より厚く御礼申し上げます。  以上をもちまして、公聴会議事は終了いたしました。  次会は、明十九日午前十時より開会することとし、本日は、これにて散会いたします。     午後三時五十三分散会