○西村関一君 私は、ただいま
趣旨説明のございました
農地法の一部を
改正する
法律案及び
農業協同組合法の一部を
改正する
法律案につきまして、
日本社会党を代表して、
政府当局に若干の質問を試みようとするものであります。(
拍手)
この
改正二
法案の背景となっているものは、ただいまの
趣旨説明にもありましたように、農業法人化への農民の強い自主的な要求そのものであることは、申すまでもありません。それは、依然として低い所得水準にある農民が、価格問題とか、補助金要求とか、いわば現在の農業構造のもとで陳情運動を重ねてきた従来の状態から新しく目ざめて、法人化への動きを通して
日本農業の体質改善を要求する前向きのかまえとなってきたということ、そして、小農的農業構造の上にあぐらをかいてきた農政当局に対し、その反省を求め、農政転換のとびらを開いたという点で、歴史的に高く評価されてよいと思われるのであります。(
拍手)
政府は、当初、このような農民の強い法人化への動きに対してきわめて消極的であるばかりか、むしろ、これを押えようとさえしていたのであります。(
拍手)このとき、昨
昭和三十四年三月二十八日の本院農林水産委員会において、
全会一致をもって農業法人育成に関する決議を行なったのであります。自来、われわれは、千六百万農民とともに、農業法人の法制化と、これにつながる農政の根本問題の解決をはかられるよう、機会あるごとに
政府に強く要望して参ったのであります。しかるに、その後一カ年余りも
経過した今日、ようやく出されてきたのがこの
法律の
改正案でありまして、私は、これを拝見いたしまして、率直に申し上げて、その期待の大きかっただけに、大いなる失望を感ぜざるを得ないのであります。(
拍手)
以下、順を追うてお尋ねいたします。
まず最初に、岸
内閣総理大臣にお尋ねいたします。
あなたは
内閣の最高
責任者として、
日本の農政に対し、どのようなお考えをお持ちでございますか。あなたは、多分、これからの私の質問に対して、いずれ農林漁業基本問題調査会の答申を待って結論を出したいとお答えになるでしょう。それはそれとして、今のこの時点において、総理御自身、他産業または国際農業との関連において、
日本の農政をどういう方向に持っていこうとお考えでございますか。
日本農業は、農民の創意工夫と異常な勤勉とによって、戦後、著しい生産力の
発展を遂げて参りました。米作は五年続きの豊作、年収八千万石は平年作だとさえいわれるようになりました。しかし、このような数字上の
発展と農民の実生活とは必ずしも一致していません。ごく一部の富農層を除けば、一般農家は依然として低所得にあえいでいます。畑作農家や開拓農家のごときは、豊作の恩恵にさえ浴さないで、今なお日の当たらない場所に置き去りにされております。総理は、かかる
日本農村の停滞、
日本農業の
発展を阻害している諸原因を、どのようにお考えですか。また、これらの諸原因を取り除いて、
わが国農業の伸展と農家
経済の振興をはかるために、どのような展望を、そして、抱負経綸をお持ちになっていらっしゃいますか。
本
法案は、自然発生的に作られてきた全国各地の農業法人に対して、しぶしぶ一応の認知を与えたようなものである。朝日新聞も指摘いたしておりましたように、いわば、いやいやながら私生子を認知せざるを得ない状態になったという印象を受けるのであります。法人設立への道を開いたという意味では一歩前進だと言えましょうが、農業の共同化、法人化を積極的に推進していこうとする農民の意欲をかき立てる何らの政策も熱意も見出せません。ましてや、
日本農業の特質である経営構造の小農形態に対して、根本的な対策が少しも打ち出されていません。これらの点、総理はどのようにお考えになっていますか。丁寧に、具体的にお答え願いとうございます。
次に、農林大臣代理菅野国務大臣にお伺いいたします。
この
改正案は、
農地法の建前にあまりこまかくこだわり過ぎて、将来の農業
発展なり経営規模の拡大をむしろ制約するのではないかと思われるような、めんどうな
規定がつけ加えられております。農地改革において
農地法の果たしてきた役割の大きかったことは言うまでもありませんが、今日の段階においては、農業の
発展、農民所得の向上をはかるために、
現行農地法の
所有耕地三町歩の原則的制限のワクがそのままに残されていてよろしいとお考えになりますか。これでは、
わが国農政の悩みである小農の問題は解決しないし、
政府の言われる、経営規模を拡大するために、現在の農業就業人口一千六百万人を一千百五十万人に減らそうという政策とも矛盾をいたします。依然として小農維持政策の中で問題を処理しようとする弥縫策と思われますが、いかがでしょうか。農業基本法の先例としてよく引き合いに出される農業法を制定いたしました西ドイツにおいては、すでに二十ヘクタール以下の小農は農業外へ整理して、農業経営を構造転換しようとしているのに比べて、その経営の
内容が違うとはいえ、あまりにもその開きが大き過ぎると思いますが、どうでしょうか。
次に、
政府の農業基本問題調査会の合同小委員会が取りまとめた農業の基本問題と基本対策によれば、さきにも触れましたように、今後十年間に農業従事者を千百五十万人に減らす、すなわち、年平均約四十万人の働き手を毎年農業外に排出していくということになっています。これは、貿易自由化を前提としつつ、会社法人によって農地を一部の富農の手へ集中し、零細農を切り捨てていく構想につながるものであると考えられますが、いかがでしょうか。また、現在、農業外の第二次、第三次産業部門でも
失業者の処理がつかず、ことに、あれだけの社会問題を引き起こしておる炭鉱離職者の新規就職のめどもつかず、何の保障もできないような現自民党
政府が、この上年四十万人も農業部門からはじき出されるところの農民に、一体どのような新しい仕事を与える見通しを持っておられますか、総理並びに農林大臣の
責任ある御答弁をお伺いいたしたい。
次に、農業法人は組合法人の形を原則とすべきであると思いますが、
政府案が会社法人を認めておることは、農民の一部を土地資本を
所有するところの資本主義的農業企業者へ、他の農民を土地資本から分離された農業労働者に分解させることになりはしないでしょうか。現在できておる法人の多くは会社法人の形式のものであり、これを法人として認めることは賛成でありますが、将来の
発展の方向としては、これを漸次組合法人の形へと切りかえていくように指導しなければならぬと思いますが、
政府の御見解を承りたい。
次に、
政府案では、生産農業協同組合、あるいは会社組織による農業法人を、総合農協の準
組合員とすることとしておりますが、今後の農業政策の共同化、近代化の前進を展望するならば、これらを正
組合員とすることができるとすべきではないでしょうか。将来の農業経営は、何らかの形において農業生産組合に共同化され、そして、総合農協は規模を拡大して、原則として農業生産組合をその
組合員とするという姿が、
日本農業の真の近代化への道であると思われますが、この点について、
政府はどうお考えになっていらっしゃいますか。
次に、
政府案では、法人は農地の
所有権を取得できないこととしています。確かに、会社法人方式を前提として法人の農地
所有権の取得を認めるならば、農民の土地からの分離を促進することとなります。従って、問題があります。そこで、会社法人でなく、組合法人という建前で、そうして、真に自作農の
発展形態としての農業生産協同組合へ、農民が農地
所有権まで出資できるようにすべきではないでしょうか。すでに、現実に、農民の間から、農地
所有権まで出資し合って合理的な共同経営をやろうとする意欲が各所に現われてきておることを、
政府はどう見ておられるのでありますか。
次に、農業法人問題の前提として、農産物に関係する貿易自由化は今にわかに行なわないことを強く要求いたします。農産物の貿易自由化が行なわれたならば、現在の
日本の農産物で、外国農業と太刀打ちできるものが、一部の果樹作物を除いて、何一つでもありますか。もしも農産物輸入の自由化が進められるならば、現在の零細な過小農経営はもとより、法人化された農業経営といえども、その存立の
基礎を失い、農村は破産と失業の大混乱に陥ることを憂うるものであります。(
拍手)この点、農林大臣及び池田通産大臣の御見解を承りたい。
次に、貿易・為替の自由化をやる前に、西ドイツのごとく、農業への財政金融
措置を大幅に拡大して、思い切った農政の大転換をやらなければならぬと考えます。適切な財政金融
措置の裏づけなしに、ただ法人化の形式的法制化をしても、農業経営の
発展はあり得ないと考えます。(
拍手)この点について、予算並びに財政投融資等の面で積極的な
措置をとるべきであると思いますが、大蔵大臣がおいでになりませんから、総理並びに農林大臣の御信念を承りたいと存じます。
最後に、農地改革が、多年社会的にも
経済的にも圧迫され搾取されてきた小作農の人間解放であったとするならば、この運動は、今日もなお続いておるものと見るべきでありましょう。この意味から、農民の手足を縛るような
法律体系やその他の施策は追放されなければなりません。あらゆる助成政策は、農民を
政治権力やボス支配のもとに従属させることであってはなりません。個々の農民の人間的向上、農業の長期的
発展を目的として、農民みずからの意欲を援助するものでなければなりません。農業法人化をめぐるこの法制的改革は、それ自体、そのような
日本農政の
自己改革、その根本的な
自己変革の発端として重視していきたいという希望
意見をつけ加えまして、私の質問を終わります。(
拍手)
〔国務大臣岸信介君
登壇〕